説明

積層シート

【課題】 耐熱性、吸水性が改善されつつも、容易に製造し得る積層シートの提供を課題としている。
【解決手段】 複数のシート材が樹脂組成物により貼り合わされてなる積層シートであって、前記樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂と分子内にエポキシ基を有するエポキシ基含有フェノキシ樹脂からなり、前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂が30〜50質量%含有されているポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする積層シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のシート材が樹脂組成物により貼り合わされてなる積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のシート材が積層された積層シートが種々の用途に用いられている。このような、積層シートは、異なる材質のシート材を積層することでそれぞれの層の材料特性を積層シートとしての特性に活用することができ、特許文献1には、耐熱性に優れたシート材と絶縁性に優れたシート材とを積層してモーターの相間絶縁紙に用いることが記載されている。
【0003】
また、このような、積層シートにおいては、複数のシート材を貼り合わせるために、通常、樹脂組成物が用いられる。したがって、この樹脂組成物にも、積層シートの使用目的に応じた特性が要望される。
さらには、樹脂組成物の厚さ精度も積層シートの特性に影響することから、この貼り合わせにおいては、例えば、T−ダイのような均一な厚さで樹脂組成物の押し出しが行われたりしている。
【0004】
ところで、ポリアミド樹脂は、主鎖のアミド基において水素結合を形成し易く、該水素結合により分子間力が高く、結晶性を示しやすいことが知られている。このポリアミド樹脂は、このように結晶性を示しやすいことから、他の樹脂に比べ耐熱性、耐加水分解性などにおいて優れ、高い力学的強度を有している。
特に、主鎖に芳香環を有する芳香族ポリアミドは、脂肪族化合物が用いられた脂肪族ポリアミドに比べて、主鎖に剛直な芳香環を有するため、高い耐熱性を有し、吸水性も低くすることができる。そのため、芳香族ポリアミドは、高い耐熱性や、低い吸水性が求められるような用途において、それらの特性を改善させる目的で広く用いられている。
【0005】
しかし、この芳香族ポリアミドを前述のシート材を貼り合わせるための樹脂組成物に用いようとすると、芳香族ポリアミドは、前述のごとく主鎖に剛直な芳香環を有しているため、脂肪族系の樹脂に比べて溶融状態における分子同士の絡み合いが少なくなる。したがって、芳香族ポリアミドが用いられた樹脂組成物は、融点よりも高い温度域では、流れ性が高くなりすぎてT−ダイなどでの押し出し加工に適したMFRが30以下の適度な流れ性とならずシート材上に押し出しを実施することが困難である。
【0006】
このことに対し、押し出し温度を融点近傍にまで下げて押し出し加工することも考え得るが、一般的にポリアミド樹脂は、結晶性を示しやすいため融点近傍における相変化が他の樹脂に比べて急峻である。しかも芳香族ポリアミド樹脂の場合には、前述のような理由から融点以上の流れ性が脂肪族ポリアミド樹脂に比べても高く、融点近傍における流れ性の変化も急峻である。そのため、温度を下げて押し出し加工を行った場合には、押し出し機の僅かな温度変化によっても流れ性が大きく変化し、吐出量が変動してしまうことから、均一の厚さで押し出すことが困難となる。したがって、積層シートの厚み精度を維持するためには、精密な温度制御を行うこととなるが、加工温度を精密に維持することは実質困難である。
すなわち、従来、複数のシート材が樹脂組成物により貼り合わされてなる積層シートにおいては、シート材を貼り合わせる樹脂組成物として芳香族ポリアミドが用いられ、耐熱性、吸湿性が改善されつつ、容易に製造し得るものを得ることが困難であるという問題を有している。
【0007】
【特許文献1】特開平9−23601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐熱性、吸水性が改善されつつも、容易に製造し得る積層シートの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、芳香族ポリアミド樹脂に、エポキシ基含有フェノキシ樹脂を配合することで、得られるポリアミド樹脂組成物の溶融状態での流れ性を改善し得ることを見出し本発明の完成に到ったのである。
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、複数のシート材が樹脂組成物により貼り合わされてなる積層シートであって、前記樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂と分子内にエポキシ基を有するエポキシ基含有フェノキシ樹脂とからなり、前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂が30〜50質量%含有されているポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする積層シートを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シート材を貼り合わせる樹脂組成物に芳香族ポリアミドが用いられているため積層シートの耐熱性、吸水性が改善され得る。また、樹脂組成物が芳香族ポリアミド樹脂と分子内にエポキシ基を有するエポキシ基含有フェノキシ樹脂からなり、前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂が30〜50質量%含有されているポリアミド樹脂組成物であることから、前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂芳香族ポリアミドの融点よりも高い温度での樹脂組成物の流れ性が高くなりすぎることを抑制し得る。したがって、樹脂組成物の厚み精度を維持するための精密な温度制御を行う必要性を低減させ得る。すなわち、積層シートを容易に製造し得るものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について、自動車用モーターなどに用いられる絶縁紙用の積層シートを例に図1を参照しつつ説明する。
前記積層シート3は、芳香族ポリアミド樹脂にエポキシ基含有フェノキシ樹脂が配合された芳香族ポリアミド樹脂組成物1で2枚の全芳香族ポリアミド紙2が貼り合わされている。
【0012】
前記芳香族ポリアミド樹脂組成物1の芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、ジアミンとジカルボン酸との脱水縮合により重合され、且つ、ジアミン、ジカルボン酸の何れかに芳香族系のものが用いられた芳香族ポリアミドを用いることができる。
前記ジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、芳香族ジアミンなどを用いることができ、脂肪族ジアミンあるいは脂環族ジアミンとしては、下記一般式(1)で表されるものを使用できる。なお、下記式中のR1は、Cn2n(n=6〜12)であらわされる脂肪族または脂環族のアルキルを示している。
2N−R1−NH2・・・(1)
このジアミンとしては、高温においても優れた特性を発揮させ得る点においてヘキサメチレンジアミン及び2−メチルペンタメチレンジアミンを混合して使用することが特に好ましい。
【0013】
また、芳香族ジアミンとしては、キシリレンジアミンなどを用いることができる。
【0014】
前記ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸などを用いることができ、脂肪族ジカルボン酸あるいは脂環族ジカルボン酸としては、下記一般式(2)で表されるものを使用できる。なお、下記式中のR2は、Cn2n(n=4〜25)であらわされる脂肪族または脂環族のアルキルを示している。
HOOC−R2−COOH・・・(2)
【0015】
また、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などを用いることができる。
この芳香族ジカルボン酸としては、高温においても優れた特性を発揮させ得る点においてテレフタル酸とイソフタル酸を混合して使用することが特に好ましい。
前記芳香族ポリアミド樹脂には、これらの、ジアミンとジカルボン酸とを、それぞれ単独の種類のものが用いられていてもよく、それぞれ、複数の種類のものを組み合わせて用いられていてもよい。さらに、要すれば、ジアミンとジカルボン酸以外の成分が含まれていてもよい。
【0016】
前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂としては、下記一般式(3)で表されるものなどを使用することができる。なお、式(3)の例示におけるR3、R4は、末端基を表し、少なくとも一方には、エポキシ基が導入されている。

【0017】
なお、このエポキシ基含有フェノキシ樹脂としては、通常、重量平均分子量(Mw)が40000〜80000のものを用いることができ、該重量平均分子量(Mw)は、GPC法により、例えば、下記条件にて測定される。
標準試薬:TSK標準ポリスチレン(A−500、A−2500、F−1、F−4、
F−20、F−128;東ソー社製)
溶媒 :THF
カラム :GF−1G7B+GF−7MHQ(昭和電工社製)
【0018】
また、芳香族ポリアミド樹脂との良好なる相溶性を示し分散が容易となる点ならびにポリアミド樹脂組成物の流れ性をより効果的に抑制し得る点からにおいて重量平均分子量(Mw)は50000〜60000であることが好ましい。重量平均分子量が50000未満の場合は射出、押出し−Tダイ成形などにおける気泡の巻き込みが多くなり、良好な製品が得られないおそれを有し、60000を超える場合は、流れ性が不足して成形性が低下するおそれを有するためである。
【0019】
また、同じ配合量でポリアミド樹脂組成物の流れ性をより効果的に抑制し得る点、ならびに芳香族ポリアミドに混合されてポリアミド樹脂組成物の機械的特性を向上させ得る点から、エポキシ基含有フェノキシ樹脂としては、エポキシ当量が10000g/eq以上であることが好ましい。エポキシ当量が10000未満の場合は射出、押出し−Tダイ成形における気泡の巻き込みが多くなり、良好な製品が得られないおそれ、ならびに、引張強度に代表される機械的特性の向上が見込めないおそれを有するためである。
なお、前記エポキシ当量とはJIS K 7236により求められる値を意図している。
【0020】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物としては、このような芳香族ポリアミド樹脂とエポキシ基含有フェノキシ樹脂からなり、前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂が30〜50質量%含有されている。
ポリアミド樹脂組成物に配合されるエポキシ基含有フェノキシ樹脂の配合量がこのような範囲とされるのは、30質量%未満の場合には、ポリアミド樹脂組成物の流れ性を抑制する効果が得られず、50質量%を超えて配合した場合には、芳香族ポリアミド樹脂の優れた耐熱性、吸湿性などの特性が損なわれ、これらの改善効果を有するポリアミド樹脂組成物とすることができないためである。また、このような点に加えポリアミド樹脂組成物の伸びや引張り強さなどの物理特性を高め得るにおいて、エポキシ基含有フェノキシ樹脂の配合量は35質量%を超え45質量%以下であることが、さらに好ましい。
【0021】
また、ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損ねない範囲において、芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ基含有フェノキシ樹脂以外の樹脂を配合してもよい。
また、樹脂以外の成分として種々の添加剤が配合されていても良い。例えば、アルキルフェノール樹脂、アルキルフェノール−アセチレン樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、クマロン−インデン樹脂、テルペン樹脂、ロジンなどの粘着付与剤、ポリブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールAなどの臭素化合物、塩素化パラフィン、パークロロシクロデカンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステルなどのリン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水和金属化合物、または三酸化アンチモン、ホウ素化合物などの難燃剤、フェノール系、リン系、硫黄系の酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などの一般的なプラスチック用配合薬品や、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、酸化アルミ、酸化マグネシウム、窒化硼素、窒化珪素、窒化アルミニウムといった無機フィラーなどが挙げられる。また、特にナノメーターレベル粒径のモンモリロナイトもしくは0.6mmのケブラーを、ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して0.1〜5重量部入れることにより樹脂強度を、例えば、3倍以上に向上させることもできる。
さらに、トリアリルイソシアネート、テトラ−n−ブトキシチタン、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアネートの何れかをポリアミド樹脂組成物100重量部に対して0.1〜5重量部入れることにより樹脂強度を、例えば、3倍以上に向上させることもできる。なお、このトリアリルイソシアネートとしては、日本化成社から「TAIC」の商品名で市販のもの、テトラ−n−ブトキシチタンとしては、日本曹達社から「B−1」の商品名で市販のもの、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアネートとしては、日産化学社から商品名「TEPIC−G」で市販のものなどを例示できる。
【0022】
これらの配合物を用いてポリアミド樹脂組成物を得るには、ニーダー、加圧ニーダー、混練ロール、バンバリーミキサー、二軸押し出し機など一般的な混合手段を用いることができ、要すれば、ドライブレンドにより樹脂組成物を押し出し機のシリンダー内などで混合を行う方法を採用することもできる。
【0023】
なお、前記全芳香族ポリアミド紙(アラミド紙)としては、例えば、フェニレンジアミンとフタル酸との縮合重合物のごとく、アミド基以外がベンゼン環で構成された樹脂材料からなるアラミドファイブリッド及びまたはアラミド繊維を主たる構成材として形成されたシート状物を用いることができる。このアラミド紙としては、厚さが、50μm以上のものが機械特性や形態保持といった点において好適である。
50μmよりも厚さが薄い場合、機械特性が低下し、また形態保持や製造工程での搬送等取り扱いに問題を生じるおそれがある。
また、このアラミド紙の坪量は、5g/m2以上であることが機械特性や積層シートの製造工程におけるハンドリングの点から好適である。5g/m2より小さい坪量の場合、機械強度が不足するため積層シート製造工程での各種取り扱いで破断を引き起こすおそれを有する。
さらに、アラミド紙の密度は一定範囲の坪量と厚みより算出されるが、通常は0.1〜1.2g/cm3の範囲とされる。
なお、このアラミド紙には本発明の効果を損なわない範囲において第三の成分を加えることができ、このような第三成分としては、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエステル繊維、アリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などの有機繊維やガラス繊維、ロックウール、アスベスト、ボロン繊維、アルミナ繊維などの無機繊維を例示できる。
このようなアラミド紙としては、デュポン社より「ノーメックスペーパー」などの商品名で市販されているものや、このようなアラミド紙に特開2003−313770に記載の表面処理をさらに施したものを用いることができる。
【0024】
このような、全芳香族ポリアミド紙2とポリアミド樹脂組成物1とを用いてモーター用相間絶縁紙に用いる積層シート3を形成するには、例えば、図2に示すような装置を用いた製造方法を採用することができる。
すなわち、左右に離間し互いに平行な回転軸を有する2台の送り出し機11を備え、これらの送り出し機11の略中間上方に、下方に向け吐出口が配され、且つ、全芳香族ポリアミド紙2と略同幅の吐出口を有するT−ダイ押し出し機16が備えられ、前記送り出し機11の略中間下方に、それぞれの送り出し機から送り出された全芳香族ポリアミド紙2を前記T−ダイ押し出し機16から吐出されたポリアミド樹脂組成物1を介して重ね合わせて積層し得るように絞りロール14が備えられ、該絞りロール14通過後の積層シート3を巻き取る巻き取りロール15が備えられた装置を用いて、前記2台の送り出し機11に全芳香族ポリアミド紙ロール12を前後の位置が同一となるよう装着し、それぞれの全芳香族ポリアミド紙ロール12から送り出し機11を用いて、全芳香族ポリアミド紙2が絞りロール14の間を通過して巻き取りロール15に巻き取られるよう送り出しつつ、前記T−ダイ押し出し機16から融点以上、分解温度以下の溶融状態のポリアミド樹脂組成物を吐出する。この時、ポリアミド樹脂組成物として芳香族ポリアミド樹脂と分子内にエポキシ基を有するエポキシ基含有フェノキシ樹脂からなり、前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂が30〜50質量%含有されていることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が用いられることで、T−ダイから押し出されたポリアミド樹脂組成物の吐出量変動や溶融粘度不足による樹脂途切れが生じることなく、ポリアミド樹脂組成物を容易に均一厚さにすることができ、積層シート3の絶縁性のばらつきも抑制させることができる。
【0025】
なお、本実施形態においては、芳香族ポリアミド樹脂組成物により貼り合わされて、適度な剛性の積層シートとし得る点から、シート材に全芳香族ポリアミド紙を用いているが、本発明においては、全芳香族ポリアミドを紙として用いることに限定されるものではない。
また、シート材を貼り合わせる芳香族ポリアミド樹脂組成物よりも優れた耐熱性と低い吸水性を有し、芳香族ポリアミド樹脂組成物が積層シートの耐熱性、吸水性を改良することをより効果的なものとし得る点から、全芳香族ポリアミドが用いられたシート材を採用しているが、本発明においては、特にシート材を全芳香族ポリアミドに限定するものではない。
【0026】
また、本実施形態においては、耐熱性、耐加水分解性、常温時ならびに高温時の電気絶縁性、耐油性などに優れたものとすることができ自動車用モーターなどの絶縁紙に好適なものとし得ることから、2枚の全芳香族ポリアミド紙を芳香族ポリアミド樹脂組成物にて貼り合わせて形成された積層シートを例に説明したが本発明においては、積層シートとしての用途をモーター用相間絶縁紙に限定するものではない。
また、本発明においては、積層シートがさらに多層な積層構造を有するものであってもよい。
なお、前述のような点から、積層シートを自動車用モーターの絶縁紙に用いる場合には、全芳香族ポリアミド紙は、適度なコシを有する点から50〜250μmの厚さのものが好ましく、該全芳香族ポリアミド紙の貼り合わせに用いられるポリアミド樹脂組成物の厚さは、例えば、1〜400μmの厚さとすることができる。
【実施例】
【0027】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(配合)
まず、芳香族ポリアミド樹脂組成物を以下のとおり配合した。
(配合例1)
ポリアミド樹脂組成物として、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、テレフタル酸の3元重合された芳香族ポリアミド樹脂(デュポン社製「ザイテルHTN501」)と、重量平均分子量約52000の末端エポキシ化されたフェノキシ樹脂(エポキシ基含有フェノキシ樹脂)とをこのエポキシ基含有フェノキシ樹脂が35質量%となるよう配合し、融点以上、分解温度以下の設定の2軸押し出し機にて溶融混合しつつ、ストランド押し出しして、水冷してペレタイザーによりペレット加工を行ないポリアミド樹脂組成物を製造した。
【0028】
(配合例2)
エポキシ基含有フェノキシ樹脂の配合量を40質量%とした以外は、配合例1と同様にポリアミド樹脂組成物を製造した。
(配合例3)
エポキシ基含有フェノキシ樹脂の配合量を45質量%とした以外は、配合例1と同様にポリアミド樹脂組成物を製造した。
(配合例4)
エポキシ基含有フェノキシ樹脂に代えて、重量平均分子量約52000の通常のフェノキシ樹脂を用い配合量を30質量%としたこと以外は、実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を製造した。
(配合例5)
配合量を40質量%としたこと以外は、配合例4と同様にポリアミド樹脂組成物を製造した。
(配合例6)
配合量を50質量%としたこと以外は、配合例4と同様にポリアミド樹脂組成物を製造した。
(配合例7)
エポキシ基含有フェノキシ樹脂に代えて、エポキシ当量約2400のビスフェノールAタイプエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名「エピコート1009」)を配合した以外は実施例2と同様にポリアミド樹脂組成物を製造した。
(配合例8)
何も加えずに、芳香族ポリアミド樹脂単体を、配合例8とした。
【0029】
(芳香族ポリアミドの融点測定)
芳香族ポリアミドの融点をDSC法(使用機器:PERKIN ELMER社製「Pyris」)により測定した。より詳しくは、約5mgの試料と、リファレンスとして約5mgのアルミナとを窒素ガス雰囲気下で10℃/minの昇温速度で加熱しつつ吸熱量を観察し、相変化が生じる温度近傍での吸熱量が最大となる点を融点として測定した。その結果、実施例および比較例に用いた芳香族ポリアミド樹脂の融点は約300℃であることがわかった。
【0030】
(流れ性)
配合例2、5、7、8について流れ性の値が大きく変わらない領域として、融点測定により観測された融点より10℃以上高温で流れ性を測定した。より具体的には310、320の各温度でJIS K 7210によりメルトフローレート(MFR)の測定を行った。測定に際しては直径0.5mm、長さ8mmのオリフィスを直径9.5mmのシリンダーに取付け、前述の温度で20Nの荷重で測定を行った。
なお、参考として、樹脂分解のおそれがある330℃の温度でも同様にMFRの測定を行った。
判定は、フィルム成形など加熱溶融状態での樹脂加工において比較的流れ性の高い樹脂が要求される分野において一般に用いられる樹脂のMFR20以下を「◎」、20を超え30以下を「○」、30を大きく超える場合、及び極端に流れない場合を「×」として判定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
この表1から、芳香族ポリアミド樹脂に対し、エポキシ基含有フェノキシ樹脂が配合されている樹脂組成物を用いることで、積層シートが容易に製造し得るものとなることがわかる。
【0033】
また、配合例1乃至6および配合例8について、0.2〜0.5mm程度のフィルムを作成して、JIS C 2111に基づく引張試験(引張速度200mm/min、標線間100mm、チャック間100mm)を行い、引張り強さおよび、伸びを測定した値を表2に示す。
【0034】
【表2】

この表2から、配合例8(芳香族ポリアミド樹脂単体)に比べて、配合例1乃至3ではエポキシ基含有フェノキシ樹脂を増量させるに従い、引張り強さが向上しており、配合例2、3ではさらに伸びの向上も見られた。特に、エポキシ基含有フェノキシ樹脂を、35質量%を超え45質量%以下において優れた伸びを示すことがわかる。
それに対し、一般のフェノキシ樹脂(配合例4乃至6)では、引張り強さ、伸びの向上は、見られないこともわかる。
【0035】
さらに、以下の実施例、比較例の積層シートを製造して耐熱性・吸水性の評価を行った。
(実施例)
シート材として、厚さ50μmの全芳香族ポリアミド紙(デュポン社製、商品名「ノーメックスN415」)を用い、前述の配合例2のポリアミド樹脂組成物が200μmの厚さとなるよう積層シートを製造した。
【0036】
(比較例1)
配合例2のポリアミド樹脂組成物に代えて、配合例8(芳香族ポリアミド単体)を用いたこと以外は、実施例と同様に積層シートを製造した。
(比較例2)
配合例2のポリアミド樹脂組成物に代えて、配合例5(芳香族ポリアミド+一般フェノキシ樹脂)を用いたこと以外は、実施例と同様に積層シートを製造した。
(比較例3)
積層シートに代えて、厚さ250μmのポリエチレンナフタレートシート(以下「PEN」とも言う、帝人デュポンフイルム社製、商品名「テオネックス」)単体を比較例3とした。
【0037】
(耐熱性・吸水性評価)
実施例1、比較例1乃至2の積層シート、比較例3のPENシートを用いて、ESPEC社製の「EHS−411M」により150℃×0.48MPaのプレッシャークッカーテスト(以下「PCT」ともいう)を実施し、初期、100h、250h、500h後に200mm/minの速度で引張り試験を実施し、初期の引張り強度を100%とし、それぞれのPCT後の残率を求めた。また、体積抵抗率の変化ならびに絶縁破壊電圧の変化も測定した。結果を、図3a)〜c)に示す。
図3から、積層シートに芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いることで、耐熱性・吸水特性の改良がなされていることがわかる。また、このような積層シートが、自動車用などのモーター用絶縁紙として好適なるものであることがわかる。
【0038】
(耐熱性評価)
実施例1、比較例1、2の積層シートを用いて、180℃での加熱老化試験を行い、初期、100h、250h、500h後の引張り強さ、伸びを求め、初期の引張り強度を100%とし残率を計算した。結果を、図4a)、b)に示す。
図4から、積層シートに芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いることで、耐熱性に優れた積層シートが得られることがわかる。また、このような積層シートが、自動車用などのモーター用相間絶縁紙として好適なるものであることがわかる。
(耐熱性評価)
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】一実施形態の積層シートを示す概略断面図。
【図2】積層シートの製造方法を示す概略図。
【図3】a)PCTによる引張り強さ残率グラフ、b)PCTによる体積抵抗率変化グラフ、c)PCTによる絶縁破壊電圧変化グラフ。
【図4】a)180℃老化試験による引張り強さ残率グラフ、b)180℃老化試験による体積抵抗率変化グラフ。
【符号の説明】
【0040】
1:ポリアミド樹脂組成物、2:全芳香族ポリアミド紙、3:積層シート、16:T−ダイ押し出し機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシート材が樹脂組成物により貼り合わされてなる積層シートであって、
前記樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂と分子内にエポキシ基を有するエポキシ基含有フェノキシ樹脂とからなり、前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂が30〜50質量%含有されているポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする積層シート。
【請求項2】
前記シート材として、不織布が用いられている請求項1記載の積層シート。
【請求項3】
前記シート材として、紙が用いられている請求項1記載の積層シート。
【請求項4】
前記シート材として、全芳香族ポリアミドシートが用いられている請求項1記載の積層シート。
【請求項5】
前記全芳香族ポリアミドシートとして全芳香族ポリアミド紙が用いられている請求項4記載の積層シート。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかに記載の積層シートが用いられているモーター用絶縁シート。
【請求項7】
請求項2乃至5のいずれかに記載の積層シートが用いられているモーター用相間絶縁シート。
【請求項8】
請求項2乃至5のいずれかに記載の積層シートが用いられているトランス用絶縁シート。
【請求項9】
請求項2乃至5のいずれかに記載の積層シートが用いられているバスバー用絶縁シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−321183(P2006−321183A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148389(P2005−148389)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【出願人】(596001379)デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 (26)
【Fターム(参考)】