説明

積層セラミック電子部品用ペースト

【課題】乾燥性、バインダー樹脂の溶解性に優れるとともに、シートアタックの発生を抑制できる積層セラミック電子部品用ペーストを提供する。更に、該積層セラミック電子部品用ペーストを用いた積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】セラミックグリーンシート上に塗工、乾燥することによって使用される積層セラミック電子部品用ペーストであって、ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤及び無機粉末を含有し、前記有機溶剤は、ブチレングリコールジアセテートを含有する積層セラミック電子部品用ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥性、バインダー樹脂の溶解性に優れるとともに、シートアタックの発生を抑制できる積層セラミック電子部品用ペーストに関する。更に、本発明は、該積層セラミック電子部品用ペーストを用いた積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂は、強靭性、造膜性、顔料等の無機粉体や有機粉体の分散性、塗布面への接着性等に優れていることから、種々の用途に利用されている。
具体的なポリビニルアセタール樹脂の用途としては、例えば、コンデンサ、バリスタ、インダクタ、圧電素子、サーミスタ等が知られており、なかでも、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックバリスタ、積層セラミックインダクタ、積層セラミックLC部品、多層セラミック基板等の積層セラミック電子部品の材料として多く用いられている。
【0003】
このような積層セラミック電子部品は、一般に次のような工程を経て製造されている。
まず、ポリビニルブチラール樹脂等の有機バインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に可塑剤、分散剤等を添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミル等により均一に混合し、脱泡後に一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。このスラリー組成物をドクターブレード、リバースロールコーター等を用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム又はSUSプレート等の支持体面に流延成形する。これを加熱等により、溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0004】
次に、得られたセラミックグリーンシート上に、パラジウム、銀、ニッケル等の導電材を含有する電極層用ペーストや、電極層により生じる段差を吸収するための段差吸収用セラミックペーストを所定パターンで印刷する。得られた印刷後のセラミックグリーンシートを複数枚積み重ねて積層し、プレス切断工程を経てセラミックグリーンチップを得る。そして、得られたセラミックグリーンチップ中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を形成する工程を経て積層セラミック電子部品を製造する。
【0005】
一方で、積層セラミック電子部品には、近年更なる小型化、大容量化が求められており、セラミックグリーンシートについても、より一層の多層化、薄膜化が検討されている。
しかしながら、近年の積層セラミックコンデンサの薄層化に伴い、電極層用ペーストや段差吸収用セラミックペーストを印刷する工程において、電極層用ペーストや段差吸収用セラミックペーストに含まれる溶剤によって、セラミックグリーンシートが侵食される、いわゆるシートアタックという現象が発生していた。シートアタックが発生すると、セラミックグリーンシートの厚みが薄くなったり、セラミックグリーンシートが破れてしまったりする等の問題が発生していた。
【0006】
このようなシートアタックの問題を解決する手段として、例えば、特許文献1及び特許文献2には、ペーストに使用する有機溶剤としてジヒドロターピニルアセテートや、ジヒドロターピニルアセテートと炭化水素の混合物を用いる方法が記載されている。しかしながら、有機溶剤としてジヒドロターピニルアセテートを使用すると、乾燥時の揮発性が低くなるため、80℃以下の比較的低温で短時間の乾燥処理では、有機溶剤が残存してシートアタックが発生するという問題があった。また、ジヒドロターピニルアセテートと炭化水素との混合物を用いる場合は、乾燥時の揮発性が高くなるものの、室温での揮発性が高くなるため、ペーストを長時間使用する際に組成比が安定しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2976268号公報
【特許文献2】特開2005−026217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、乾燥性、バインダー樹脂の溶解性に優れるとともに、シートアタックの発生を抑制できる積層セラミック電子部品用ペーストを提供することを目的とする。更に、本発明は、該積層セラミック電子部品用ペーストを用いた積層セラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、セラミックグリーンシート上に塗工、乾燥することによって使用される積層セラミック電子部品用ペーストであって、ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤及び無機粉末を含有し、前記有機溶剤は、ブチレングリコールジアセテートを含有する積層セラミック電子部品用ペーストである。
以下、本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、バインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を含有し、かつ、有機溶剤としてブチレングリコールジアセテートを含有する積層セラミック電子部品用ペーストは、バインダー樹脂の溶解性及び乾燥性を向上させることができ、無機粉末を均一に分散させ、印刷特性に優れることを見出した。加えて、シートアタックの発生を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の積層セラミック電子部品用ペーストは、ポリビニルアセタール樹脂を含有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、セラミックグリーンシート等との接着性に優れることから、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストを用いることでデラミネーションを効果的に防止することができる。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アルデヒドによりポリビニルアルコールをアセタール化することで得られるポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。
【0012】
上記ポリビニルアルコールは、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステルの重合体をケン化することで得られるポリビニルアルコールであることが好ましい。上記ビニルエステルは、経済的にみると、酢酸ビニルであることがより好ましい。
【0013】
上記ポリビニルアルコールはまた、上記ビニルエステルとα−オレフィンとの共重合体をケン化することで得られるポリビニルアルコールであることが好ましい。上記α−オレフィンを用いることで、得られるポリビニルアセタール樹脂の水素結合力が低下し、その結果、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストの粘度の経時安定性又は印刷性を向上させることができる。上記α−オレフィンとして、例えば、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレンが挙げられる。なかでも、エチレンが好ましい。
また、上記ポリビニルアルコールとして、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、上記ビニルエステルとエチレンとを共重合し、その後、ケン化することで得られる末端変性ポリビニルアルコールを用いてもよい。
【0014】
上記ポリビニルアルコールを共重合する際、上記α−オレフィンの含有量は、好ましい下限が1モル%、好ましい上限が20モル%である。上記α−オレフィンの含有量が1モル%未満であると、α−オレフィンを添加する効果を得ることができないことがある。上記α−オレフィンの含有量が20モル%を超えると、得られるポリビニルアルコールの水への溶解性が低下するためにアセタール化反応を行うことが困難になったり、得られるポリビニルアセタール樹脂の疎水性が強くなりすぎ、有機溶剤に対する溶解性が低下したりすることがある。
【0015】
上記ポリビニルアルコールはまた、本発明の効果を損なわない範囲で、上記ビニルエステル及び上記α−オレフィンに加えて、その他のエチレン性不飽和単量体を共重合することで得られるポリビニルアルコールであってもよい。
上記その他のエチレン性不飽和単量体として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フマル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0016】
上記ポリビニルアルコールを共重合する際、上記その他のエチレン性不飽和単量体の含有量は、好ましい下限が1モル%、好ましい上限が30モル%である。上記その他のエチレン性不飽和単量体の含有量が1モル%未満であると、その他のエチレン性不飽和単量体を添加する効果を得ることができないことがある。上記その他のエチレン性不飽和単量体の含有量が30モル%を超えると、得られるポリビニルアセタール樹脂の接着性、塗膜強度、熱分解性等の性質が低下することがある。
【0017】
上記ポリビニルアルコールは、ケン化度の好ましい下限が80モル%である。上記ケン化度が80モル%未満であると、得られるポリビニルアルコールの水への溶解性が低下するためにアセタール化反応を行うことが困難になることがあり、また、上記ポリビニルアルコールの水酸基量が少ないとアセタール化反応自体の進行が困難になることがある。
【0018】
上記ポリビニルアルコールは、重合度の好ましい下限が300、好ましい上限が3500である。上記重合度が300未満であると、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストの粘度が低すぎて塗工性が低下することがある。上記重合度が3500を超えると、得られるポリビニルアルコールの水への溶解性が低下したり、水溶液の粘度が高くなったりして、アセタール化反応を行うことが困難になることがある。また、上記重合度が3500を超えると、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストの粘度が高すぎて塗工性が低下することがある。
なお、本明細書中、合成前の原料であるポリビニルアルコールの重合度をポリビニルアセタール樹脂の重合度とし、合成前の原料として2種以上のポリビニルアルコールを混合して用いる場合には、用いるポリビニルアルコールの重合度の平均をポリビニルアセタール樹脂の重合度とする。
【0019】
上記アルデヒドは特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシアルデヒド、m−ヒドロキシアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピオンアルデヒドが挙げられる。なかでも、アセトアルデヒド及び/又はブチルアルデヒドが好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上のアルデヒドを併用してもよい。
【0020】
上記アルデヒドとして、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとの混合物を用いる場合、これらの混合比は、5:95〜75:25であることが好ましい。
上記範囲内とすることで、ブチレングリコールジアセテートへの溶解性がより高くなり、貯蔵安定性が高くなる。
【0021】
上記ポリビニルアセタール樹脂の製造方法は特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアルコールを温水に溶解し、酸触媒存在下で、所望のアセタール化度となるようにアルデヒドを添加して反応させた後、生成物を中和、水洗及び乾燥する方法が挙げられる。
上記酸触媒は特に限定されず、有機酸であってもよく、無機酸であってもよい。上記酸触媒として、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸が挙げられる。また、中和に用いるアルカリは特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムが挙げられる。
【0022】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度の好ましい下限が60モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール化度が60モル%未満であると、得られるポリビニルアセタール樹脂の水素結合力が強くなりすぎ、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストが充分な印刷性を有することができないことがある。上記アセタール化度が80モル%を超えるポリビニルアセタール樹脂は、一般に、工業的に製造が困難である。なお、P.J.Floryの理論計算によると、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の好ましい上限は、81.6モル%である(J.Am.Chem.Soc.61,1518(1939)参照)。
【0023】
上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量の好ましい上限は24モル%である。上記水酸基量が24モル%を超えると、有機溶剤への溶解性が低下してしまうことがある。上記水酸基量のより好ましい上限は23モル%である。なお、上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量の好ましい下限は特に限定されないが、水酸基量が20モル%を下回るポリビニルアセタール樹脂は、一般に、工業的に製造が困難である。
【0024】
本発明の積層セラミック電子部品用ペーストにおいて、上記ポリビニルアセタール樹脂は、無機粉末100重量部に対して含有量の好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量が1重量部未満であると、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストの分散安定性が低下したり、塗工、乾燥後の塗膜の強度又は接着性が低下したりすることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量が20重量部を超えると、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストの脱脂性が低下したり、得られる焼成体の導電層の密度が低下して充分な電気特性が得られなかったりすることがある。
【0025】
本発明の積層セラミック電子部品用ペーストは、有機溶剤としてブチレングリコールジアセテートを含有する。
元来、ポリビニルアセタール樹脂は、エタノールとトルエンとの混合溶剤に対する溶解性が比較的高いことが知られている。しかし、このような揮発性の高い溶剤を含有する導電ペーストは、作製時又は塗工時に乾燥しやすく、特にスクリーン印刷のように一つのスクリーン製版を介して多数の基板に連続して塗工するような場合には、スクリーン製版のメッシュに目詰まりが生じやすくなるという問題がある。また、ジヒドロターピニルアセテートを用いた場合は、乾燥時の揮発性が低くなるため、80℃以下の比較的低温で短時間の乾燥処理では、有機溶剤が残存してシートアタックが発生するという問題があった。
本発明の積層セラミック電子部品用ペーストでは、ブチレングリコールジアセテートを含有する有機溶剤を用いることにより、乾燥性を適度なものとしつつ、ポリビニルアセタール樹脂の溶解性を向上させることが可能となり、シートアタックの発生も防止できることから、従来の有機溶剤を使用する場合に問題となっていた乾燥性、樹脂溶解性及びシートアタックの問題を同時に解決した。
【0026】
上記ブチレングリコールジアセテートとしては、1,3−ブチレングリコールジアセテート、1,4−ブチレングリコールジアセテートが用いられ、コストの面から特に1,3−ブチレングリコールジアセテートが好ましい。
【0027】
本発明の積層セラミック電子部品用ペーストにおいて、ブチレングリコールジアセテートの含有量は、好ましい下限が7重量%、好ましい上限が80重量%である。上記ブチレングリコールジアセテートの含有量が7重量%未満であると、上記ペーストを塗工することが難しくなる。上記ブチレングリコールジアセテートの含有量が80重量%を超えると、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストの粘度が低すぎて印刷性が低下することがある。
【0028】
上記無機粉末としては特に限定されず、例えば、金属粉体、導電粉末、セラミック粉末、ガラス粉末等が挙げられる。
【0029】
上記無機粉末として導電粉末を用いる場合、導電ペーストとして使用することができる。
上記導電粉末としては充分な導電性を示すものであれば特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅、これらの合金等からなる粉末が挙げられる。これらの導電粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記無機粉末としてセラミック粉末を用いる場合、セラミックペースト、特に段差吸収ペーストとして使用することができる。上記セラミック粉末としては特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等からなる粉末が挙げられる。なかでも、用いるセラミックグリーンシートに含有されるセラミック粉末と同一の成分からなることが好ましい。これらのセラミック粉末は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記無機粉末としてガラス粉末を用いる場合、ガラスペーストとして使用することができる。上記ガラス粉末としては特に限定されず、例えば、酸化鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素−酸化カルシウム系ガラス、酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素系ガラス、酸化鉛−酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素系ガラス等が挙げられる。これらのガラス粉末は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化アルミニウム等を併用してもよい。
【0032】
上記無機粉末として磁性粉末を用いる場合、磁性材料ペーストとして使用することができる。上記磁性粉末としては特に限定されず、例えば、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライト、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等のフェライト類、酸化クロム等の金属酸化物、コバルト等の金属磁性体、アモルファス磁性体等が挙げられる。これらの磁性粉末は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明の積層セラミック電子部品用ペーストにおいて、上記無機粉末の含有量は特に限定されず、用いる無機粉末の種類及び比重、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストの印刷方法等によって適宜調整されるが、好ましい下限が30重量%、好ましい上限が80重量%である。上記無機粉末の含有量が30重量%未満であると、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストの粘度が低いために印刷性が低下したり、有機成分が多いために焼成後の残留有機分が多くなったりすることがある。上記無機粉末の含有量が80重量%を超えると、無機粉末を分散させることが困難になることがある。
【0034】
更に、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストは、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。上記界面活性剤は特に限定されず、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0035】
本発明の積層セラミック電子部品用ペーストの粘度は特に限定されないが、20℃においてB型粘度計を用いプローブ回転数を5rpmに設定して測定したときの粘度は、好ましい下限が0.1Pa・s、好ましい上限が100Pa・sである。上記のように測定した粘度が0.1Pa・s未満であると、ダイコート印刷法等により塗工した後、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストが所定の形状を維持することが困難となることがある。上記のように測定した粘度が100Pa・sを超えると、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストの印刷性が低下することがある。
【0036】
本発明の積層セラミック電子部品用ペーストを製造する方法は特に限定されず、例えば、上記ポリアセタール樹脂、上記有機溶剤、上記無機粉末及び各種添加剤を、三本ロール、ビーズミル等を用いた従来公知の攪拌方法で混練する方法が挙げられる。
【0037】
本発明の積層セラミック電子部品用ペーストを塗工する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、ダイコート印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法が挙げられる。
【0038】
本発明の積層セラミック電子部品用ペーストをセラミックグリーンシート上に塗工、乾燥した後、得られた乾燥体を積層し、加熱圧着することにより得られた積層体を脱脂、焼成することによって、積層セラミック電子部品を好適に製造することができる。
このような積層セラミック電子部品もまた本発明の1つである。
【0039】
上記積層セラミック電子部品としては、例えば、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックバリスタ、積層セラミックインダクタ、積層セラミックLC部品、多層セラミック基板等が挙げられる。
上記積層セラミックコンデンサを製造する方法として、例えば、本発明の積層セラミック電子部品用ペーストをセラミックグリーンシート上に塗工したものを複数積み重ね、これを加熱及び圧着して積層体を得た後、脱脂処理を行い、次いで、焼成して得られた焼成体の端面に外部電極を形成する方法が挙げられる。
【0040】
上記セラミックグリーンシートに使用するポリビニルアセタール樹脂としては、水酸基量が28モル%以上のものを用いることが好ましい。
上記水酸基量が28モル%未満であると、上記セラミックグリーンシートの強度が低下するだけでなく、ブチレングリコールジアセテートへ一部溶解するようになるため、いわゆるシートアタック現象によるシート破れ等の不具合が発生する場合もある。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、乾燥性、バインダー樹脂の溶解性に優れるとともに、シートアタックの発生を抑制できる積層セラミック電子部品用ペーストを提供することができる。更に、本発明によれば、該積層セラミック電子部品用ペーストを用いた積層セラミック電子部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0043】
(実施例1)
(ペースト用ポリビニルアセタール樹脂の作製)
重合度1700、エチレン含有量10モル%、ケン化度88モル%の変性ポリビニルアルコール193gを純水2900gに加え、90℃の温度で約2時間攪拌することにより溶解した。得られた溶液を28℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸20gと、n−ブチルアルデヒドとアセトアルデヒドの重量比が2:1の混合物115gとを添加し、液温を20℃に下げてこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、5時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、変性ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d(ジメチルスルホキサイド)に溶解し、13C−NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いてアセタール化度を測定したところ、アセタール化度は67.4モル%であった。
【0044】
(セラミックグリーンシートの作製)
ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製、エスレックB 「BM−2」、重合度850、水酸基量30.0モル%)10重量部を、トルエン30重量部とエタノール15重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、可塑剤としてジブチルフタレート3重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(堺化学工業社製「BT−02(平均粒子径0.2μm)」)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。得られたセラミックスラリー組成物を、離形処理したポリエステル(PET)フィルム上にコーターを用いて乾燥後の厚みが約3μmとなるように塗工し、常温で1時間風乾した後、熱風乾燥機で80℃、3時間乾燥し、続けて120℃で2時間乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを得た。得られたセラミックグリーンシートの表面粗さを接触式表面粗さ計「サーフコム1400D」(東京精密社製)で測定したところ、最大高さRz(JIS B0601:2001)は0.35μmだった。
【0045】
(セラミックペーストの作製)
無機粉末としてチタン酸バリウム粉(堺化学工業社製「BT−02(平均粒子径0.2μm)」)100重量部、バインダー樹脂として得られた変性ポリビニルブチラール(重合度1700、エチレン含有量10モル%、ケン化度88モル%、水酸基量20.6モル%)6重量部、有機溶剤として1,3−ブチレングリコールジアセテート80重量部を添加し、三本ロールで混練することによりセラミックペーストを得た。
【0046】
(セラミックペーストの塗工)
得られたセラミックペーストを先に得られたセラミックグリーンシート2枚の上にスクリーン印刷法でそれぞれ1回ずつ塗布し、それぞれ90℃、20分及び60℃、10分乾燥することにより、セラミックペースト乾燥体1及び2を得た。なお、スクリーン版にはSUS400メッシュの版を用いた。得られたセラミックペースト層の厚みを接触式粗さ計で測定したところ、2μmであった。
【0047】
(実施例2)
ペースト用ポリビニルアセタール樹脂の作製に際し、n−ブチルアルデヒドとアセトアルデヒドの重量比が4:1の混合物112gを添加したこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。なお、得られたペースト用ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量は23.5モル%であった。
【0048】
(実施例3)
ペースト用溶剤として1,4−ブチレングリコールジアセテートを使用したこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0049】
(実施例4)
ペースト用ポリビニルアセタール樹脂の作製に際し、n−ブチルアルデヒドとアセトアルデヒドの重量比が2:1の混合物106gを添加したこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。なお、得られたペースト用ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量は25.6モル%であった。
【0050】
(比較例1)
セラミックペースト用有機溶剤としてジヒドロターピニルアセテートを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0051】
(比較例2)
セラミックペースト用有機溶剤としてジヒドロターピニルアセテート85重量%、ドデカン15重量%の混合溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0052】
(比較例3)
セラミックペースト用有機溶剤としてブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0053】
(比較例4)
セラミックペースト用有機溶剤としてテルピネオールを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0054】
(比較例5)
セラミックペースト用有機溶剤として1,1−エチレングリコールジアセテートを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0055】
(比較例6)
セラミックペースト用有機溶剤として1,2−エチレングリコールジアセテートを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0056】
(比較例7)
セラミックペースト用有機溶剤として1,3−プロピレングリコールジアセテートを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0057】
(比較例8)
セラミックペースト用有機溶剤として1,5−ペンチレングリコールジアセテートを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0058】
(比較例9)
セラミックペースト用有機溶剤として1,6−ヘキシレングリコールジアセテートを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0059】
(比較例10)
セラミックペースト用樹脂としてエチルセルロース(ダウケミカル社製STD−100)5重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でセラミックペースト乾燥体を得た。
【0060】
(評価)
実施例及び比較例で得られたセラミックペースト及びセラミックペースト乾燥体について以下の方法により、評価を行った。
【0061】
(1)シートアタック性
得られたセラミックペースト乾燥体1及び2の裏面(ポリエステルフィルム面)10箇所を金属顕微鏡(200倍)で観察し、セラミックグリーンシートのうち、セラミックペーストが塗工された部分に皺やクラックが発生しているか否かを確認した。
皺やクラック、樹脂膨潤による突起が見られたものを×、皺やクラック、樹脂膨潤による突起が見られなかったものを○とした。
【0062】
(2)室温揮発性
得られたセラミックペースト20±0.1gを内径7センチメートルのアルミ皿に乗せ、室温23℃、湿度50%に保たれた室内で蓋をせずに24時間保持した。24時間後に再び重量を測定し、セラミックペーストの重量減少率が2%以上だったものを×、2%未満だったものを○とした。
【0063】
(3)表面粗さ
得られたセラミックペースト乾燥体のうち、セラミックペースト塗工部の表面粗さ(最大高さRz)を接触式表面粗さ計「サーフコム1400D」(東京精密社製)で測定した。得られた最大高さRz(JIS B0601:2001)が2μm以上だったものを×、2μm未満だったものを○とした。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、乾燥性、バインダー樹脂の溶解性に優れるとともに、シートアタックの発生を抑制できる積層セラミック電子部品用ペーストを提供することができる。更に、本発明によれば、該積層セラミック電子部品用ペーストを用いた積層セラミック電子部品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックグリーンシート上に塗工、乾燥することによって使用される積層セラミック電子部品用ペーストであって、
ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤及び無機粉末を含有し、
前記有機溶剤は、ブチレングリコールジアセテートを含有する
ことを特徴とする積層セラミック電子部品用ペースト。
【請求項2】
ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が24モル%以下であることを特徴とする請求項1記載の積層セラミック電子部品用ペースト。
【請求項3】
ポリビニルアセタール樹脂が、エチレン含有量が1〜20モル%の変性ポリビニルアルコールをアセタール化してなる変性ポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の積層セラミック電子部品用ペースト。
【請求項4】
無機粉末は、セラミック粉末であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の積層セラミック電子部品用ペースト。
【請求項5】
無機粉末は、セラミックグリーンシートに含まれるセラミック粉末と同一であることを特徴とする請求項4記載の積層セラミック電子部品用ペースト。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の積層セラミック電子部品用ペーストをセラミックグリーンシート上に塗工、乾燥した後、得られた乾燥体を積層し、加熱圧着することにより得られた積層体を脱脂、焼成することによって製造されることを特徴とする積層セラミック電子部品。
【請求項7】
セラミックグリーンシートは、水酸基量が28モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂を含有することを特徴とする請求項6記載の積層セラミック電子部品。


【公開番号】特開2011−148649(P2011−148649A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10326(P2010−10326)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】