説明

積層セラミック電子部品

【課題】帯電防止性、剥離性および靭性に優れた、塩基性セラミック含有のセラミックグリーンシートを提供する。
【解決手段】積層セラミックコンデンサ1のセラミック層5を形成するために用いられるセラミックグリーンシートであって、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表わされるカチオン基を含むカチオン化合物を含有する。
【化1】


R1、R5、R6、R9およびR10は炭素数1〜4のアルキル基、R2、R3、R4、R7、R8およびR11は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基(水酸基を有することもある。)をそれぞれ示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミックグリーンシートおよびそれを用いて製造される積層セラミック電子部品に関するもので、特に、塩基性セラミック材料を含有するセラミックグリーンシートのハンドリング性を向上させるための改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品を製造するにあたっては、セラミックスラリーをキャリアフィルム上でシート状に成形してセラミックグリーンシートを得た後、キャリアフィルムからセラミックグリーンシートを剥離したり、セラミックグリーンシート上に導体パターンを印刷したり、複数のセラミックグリーンシートを積層したりするといった、セラミックグリーンシートをハンドリングするいくつかの工程が実施される。
【0003】
上述したセラミックグリーンシートを得るためのセラミックスラリーとして、たとえば、塩基性セラミック材料と高分子分散剤と非水系溶媒とバインダとを含むものがある。このような組成のセラミックスラリーから得られるセラミックグリーンシートにおいては、成形時等の異物付着防止の観点から帯電防止性が要求される。
【0004】
上述の帯電防止性に着目した技術として、たとえば特開2002−321981号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1では、アミジニウムカチオンを構成成分とする有機塩酸を含む帯電防止性を備えた分散剤を用いてセラミック材料が分散された、セラミックスラリーが開示されている。
【0005】
他方、電子機器の小型化、高性能化が進むに従って、そこに用いられる積層セラミック電子部品についても小型化、高性能化が求められており、それに応じるため、積層セラミック電子部品の製造に用いるセラミックグリーンシートの薄膜化やセラミックグリーンシートに含まれるセラミック材料の小粒径化が進められている。
【0006】
しかしながら、セラミック材料の小粒径化やセラミックグリーンシートの薄膜化は、セラミックグリーンシートの強度の低下をもたらし、そのため、たとえば、キャリアフィルムからの剥離が困難になり、セラミックグリーンシートをキャリアフィルムから剥離しようとすると破損しやすい、といったハンドリングに際しての問題を引き起こす。セラミックグリーンシートの剥離性はセラミックグリーンシートの帯電性と強く関連しているものと考えられるが、前述した特許文献1には、セラミックグリーンシートの剥離性に関する記載、さらには強度の向上に関する記載はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−321981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明の目的は、ハンドリング性に優れたセラミックグリーンシートを提供しようとすることである。
【0009】
この発明の他の目的は、上述したセラミックグリーンシートを用いて製造される積層セラミック電子部品を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、塩基性セラミック材料と、分散剤と、非水系溶媒と、バインダとを含有する、セラミックグリーンシートにまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、含窒素複素芳香族第4級アンモニウムカチオン基を含むカチオン化合物をさらに含有することを特徴としている。
【0011】
上記含窒素複素芳香族第4級アンモニウムカチオン基は、好ましくは、下記一般式(1)で表わされるカチオン基、下記一般式(2)で表わされるカチオン基および下記一般式(3)で表わされるカチオン基からなる群より選ばれる少なくとも1種のカチオン基である。
【0012】
【化1】

【0013】
ただし、式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2、R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、アルキル基は水酸基を有していてもよい。
【0014】
式(2)中、R5およびR6は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のアルキル基を示し、R7およびR8は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、アルキル基は水酸基を有していてもよい。
【0015】
式(3)中、R9およびR10は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のアルキル基を示し、R11は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、アルキル基は水酸基を有していてもよい。
【0016】
上記カチオン化合物は、アニオン化合物との塩として含有されてもよい。この場合、アニオン化合物として、好ましくは、アルキル硫酸および脂肪族カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の酸が用いられる。
【0017】
この発明は、また、この発明に係る上述のセラミックグリーンシートを用いて製造された積層セラミック電子部品にも向けられる。より詳細には、この発明に係る積層セラミック電子部品は、上述したセラミックグリーンシートをキャリアフィルム上で成形する工程と、キャリアフィルムからセラミックグリーンシートを剥離する工程と、複数のセラミックグリーンシートを積層することによって、グリーン積層体を得る工程と、グリーン積層体を焼成する工程とを実施することによって得られた、積層セラミック電子部品である。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、帯電防止性、剥離性および靭性に優れた、塩基性セラミック含有のセラミックグリーンシートが得られる。
【0019】
また、この発明に係るセラミックグリーンシートによれば、上記のように、帯電防止性に優れているので、印刷機や積層機などが有する搬送設備で搬送する際にも摩擦帯電量を低下させることができる。したがって、搬送経路への帯電付着を抑制できるため、搬送スピードを上げることが可能となり、これを用いての積層セラミック電子部品の生産性を向上させることができる。
【0020】
なお、特に、剥離性の観点からは、上記一般式(2)で表わされるカチオン基を含むカチオン化合物および上記一般式(3)で表わされるカチオン基を含むカチオン化合物を用いることがより好ましく、特に、靭性の観点からは、上記一般式(3)で表わされるカチオン基を含むカチオン化合物を用いることがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明に係るセラミックグリーンシートを用いて製造される積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照して、この発明に係るセラミックグリーンシートを用いて製造される積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1について説明する。
【0023】
積層セラミックコンデンサ1は、積層構造の部品本体2を備えている。部品本体2は、積層された複数のセラミック層5と、セラミック層5間の界面に沿って形成された複数の層状の内部電極3および4とを備えている。内部電極3と内部電極4とは、積層方向に見て交互に配置される。
【0024】
部品本体2の一方および他方端面6および7には、それぞれ、複数の内部電極3および複数の内部電極4の各端部が露出している。これら端面6および7上には、内部電極3の各端部および内部電極4の各端部を、それぞれ、互いに電気的に接続するように、外部電極8および9が形成されている。
【0025】
積層セラミックコンデンサ1を製造するため、まず、セラミックスラリーが用意され、セラミックスラリーがキャリアフィルム上でシート状に成形されることによって、セラミックグリーンシートが得られる。次いで、セラミックグリーンシート上に内部電極3および4となるべき導体膜がたとえば導電性ペーストの印刷によって形成される。次に、キャリアフィルムからセラミックグリーンシートが剥離されるとともに、複数のセラミックグリーンシートが積層され、それによって、前述した部品本体2となるべきグリーン積層体が得られる。次に、グリーン積層体が、必要に応じて所定の寸法にカットされ、その後、焼成される。これによって、部品本体2が得られる。次に、部品本体2上に外部電極8および9が形成されることによって、積層セラミックコンデンサ1が完成される。
【0026】
上述した積層セラミックコンデンサ1の製造方法において、セラミック層5がこの発明に係るセラミックグリーンシートによって与えられる。セラミックグリーンシートは、
A.塩基性セラミック材料と、
B.カチオン化合物と、
C.分散剤と、
D.非水系溶媒と、
E.バインダと
を含有する。
【0027】
セラミックグリーンシートを成形するために用意されるセラミックスラリーは、たとえば、上記分散剤、塩基性セラミック材料および非水系溶媒を混合する工程を含む製造方法によって製造することができる。この混合工程では、たとえば、分散剤、塩基性セラミック材料および非水系溶媒を、ジルコニアビーズ等とともに混合する工程が実施される。その後、カチオン化合物およびバインダを含む残りの成分を含有させて、セラミックスラリーを得ることができる。
【0028】
以下、上記セラミックグリーンシートの含有成分A〜Eの各々について詳述する。
【0029】
[A.塩基性セラミック材料]
一般に、セラミック材料の表面は、酸点および塩基点の両方を持っている。塩基性セラミック材料の場合には、塩基量が酸量よりも大きな値を持っている。非水系溶媒中におけるセラミック材料の酸および塩基の強度は、たとえば逆滴定法によって求めることができる。
【0030】
塩基性セラミック材料となる無機化合物には、たとえば、金属酸化物、金属炭酸塩、複合酸化物などがある。具体的には、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの金属炭酸塩、ならびに、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの複合酸化物等が挙げられる。
【0031】
得ようとする積層セラミック電子部品が積層セラミックコンデンサの場合には、塩基性セラミック材料として、たとえばチタン酸バリウム系セラミック材料のような誘電体セラミック材料が用いられる。積層セラミック電子部品は、その他、インダクタ、サーミスタ、圧電部品などであってもよい。したがって、積層セラミック電子部品の機能に応じて、塩基性セラミック材料としては、誘電体セラミック材料の他、磁性体セラミック材料、半導体セラミック材料、圧電体セラミック材料などが用いられ得る。
【0032】
[B.カチオン化合物]
カチオン化合物として、含窒素複素芳香族第4級アンモニウムカチオン基を含むカチオン化合物が用いられる。
【0033】
好ましくは、下記一般式(1)で表わされるカチオン基、下記一般式(2)で表わされるカチオン基および下記一般式(3)で表わされるカチオン基からなる群より選ばれる少なくとも1種のカチオン基を含むカチオン化合物が用いられる。
【0034】
【化2】

【0035】
一般式(1)で表わされるカチオン基において、R1は、炭素数1〜4のアルキル基であるが、特に、セラミックグリーンシートの帯電防止性、剥離性および靭性向上の観点から、メチル基またはエチル基であることが好ましく、エチル基であることがより好ましい。
【0036】
また、R2、R3、およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基(アルキル基は水酸基を有していてもよい。)である。たとえばR2について、より具体的に示すと、R2は、−H、−CH、−C、−C、−C、−CHOH、−COH、−COH、および−COHのいずれであってもよい。特に、上記と同様の帯電防止性等の観点から、R2、R3、およびR4は、水素原子または炭素数1〜2のアルキル基(アルキル基は水酸基を有していてもよい。)であることが好ましく、水素原子、メチル基またはヒドロキシメチル基であることがより好ましい。
【0037】
一般式(2)で表わされるカチオン基において、R5およびR6は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のアルキル基である。特に、セラミックグリーンシートの帯電防止性、剥離性および靭性向上の観点から、R5およびR6の少なくともいずれか一方がメチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0038】
また、R7およびR8は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基(アルキル基は水酸基を有していてもよい。)である。特に、上記と同様の帯電防止性等の観点から、R7およびR8は、水素原子または炭素数1〜2のアルキル基(アルキル基は水酸基を有していてもよい。)であることが好ましく、水素原子、メチル基またはヒドロキシメチル基であることがより好ましい。
【0039】
一般式(3)で表わされるカチオン基において、R9およびR10は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のアルキル基である。特に、セラミックグリーンシートの帯電防止性、剥離性および靭性向上の観点から、R9およびR10は、メチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0040】
また、R11は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基(アルキル基は水酸基を有していてもよい。)であるが、特に、上記と同様の帯電防止性等の観点から、R11は、水素原子または炭素数1〜2のアルキル基(アルキル基は水酸基を有していてもよい。)であることが好ましく、水素原子、メチル基またはヒドロキシメチル基がより好ましい。
【0041】
一般式(1)、(2)または(3)で表わされるカチオン基の好ましい具体例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、2−ヒドロキシエチル−1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1,2,4−トリメチルピラゾリウム、1−エチル−3−メチルビリジニウムおよび1−エチル−3−ヒドロキシメチルビリジニウムが挙げられる。これらの中でも、特に、セラミックグリーンシートの帯電防止性、剥離性および靭性向上の観点から、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムおよび1−ブチル3−メチルイミダゾリウムがより好ましい。
【0042】
また、セラミックグリーンシートの帯電防止性、剥離性および靭性向上の観点からは、一般式(2)および(3)で表わされるカチオン基が好ましく、一般式(3)で表わされるカチオン基がより好ましい。
【0043】
カチオン基の分子量は、上記帯電防止性、剥離性および靭性向上の観点から、300以下、200以下、150以下、120以下、というように、より低くなる方がより好ましい。
【0044】
セラミックグリーンシートにおいて、カチオン化合物は、一態様として、前述のカチオン基その物が含有されてもよいが、その他の態様において、アニオン化合物との塩として含有されてもよい。なお、用いられるアニオン化合物としては、セラミックグリーンシートの帯電防止性、剥離性および靭性向上の観点から、ならびに電気特性の低下やさびの発生原因となり得るハロゲン化合物を含まないことから、有機アニオン化合物であることが好ましい。
【0045】
有機アニオン化合物としては、たとえば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ウンデカン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、イソカプロン酸、エチル酪酸、メチル吉草酸、イソカプリル酸、プロピル吉草酸、エチルカプロン酸、アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、イソクロトン酸、3−ブテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプチン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、オレイン酸、3−メチルクロトン酸などの飽和または不飽和の脂肪族カルボン酸、トルイル酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、イソプロピル安息香酸、ブチル安息香酸、イソブチル安息香酸、sec−ブチル安息香酸、tert−ブチル安息香酸、レゾルシン安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸などの芳香族カルボン酸、メチルシュウ酸、エチルシュウ酸などのアルキルシュウ酸、メチルスルホン酸、エチルスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、アルキル(炭素数8〜24)ベンゼンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフトールスルホン酸、スチレンスルホン酸などのスルホン酸ならびにメチル硫酸、エチル硫酸、ヒドロキシエチル硫酸などのアルキル硫酸およびヒドロキシアルキル硫酸等のアニオン化合物が挙げられる。これらの中でもセラミックグリーンシートの帯電防止性、剥離性および靭性向上の観点から、アルキルシュウ酸、アルキル硫酸および脂肪族カルボン酸が好ましく、メチル硫酸、エチル硫酸および酢酸がより好ましい。
【0046】
セラミックグリーンシート中のカチオン化合物の含有量は、帯電防止性、剥離性および靭性向上の観点から、塩基性セラミック材料100重量部に対して、0.05重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましい。他方、後述するポリビニルアセタール樹脂のようなバインダの可塑性の増加を抑制してセラミック成形品の強度を維持する観点から、カチオン化合物の含有量は、塩基性セラミック材料100重量部に対して、2重量部以下が好ましく、1.5重量部以下がより好ましい。
【0047】
よって、セラミックグリーンシート中のカチオン化合物の含有量は、塩基性セラミック材料100重量部に対して、0.05〜2重量部が好ましく、0.1〜1.5重量部がより好ましく、0.15〜1重量部が最も好ましい。
【0048】
さらに、セラミックグリーンシート中のカチオン化合物の含有量は、帯電防止性、剥離性および靭性向上の観点から、後述するバインダとしてのポリビニルアセタール樹脂1.0重量部に対し、0.01重量部以上、0.02重量部以上、0.03重量部以上、0.04重量部以上、というように、より多くなる方がより好ましい。他方、可塑性の増加を抑制してセラミック成形品の強度を維持する観点から、カチオン化合物の含有量は、バインダとしてのポリビニルアセタール樹脂1.0重量部に対し、0.2重量部以下が好ましく、0.15重量部以下がより好ましく、0.1重量部以下が最も好ましい。
【0049】
よって、セラミックグリーンシート中のカチオン化合物の含有量は、バインダとしてのポリビニルアセタール樹脂1.0重量部に対し、0.01〜0.2重量部、0.02〜0.2重量部、0.03〜0.15重量部、0.04〜0.1重量部の順でより好ましい。
【0050】
[C.分散剤]
分散剤としては、たとえば、カチオン性分散剤、ノニオン性分散剤、アニオン性分散剤が挙げられる。
【0051】
この発明に係るセラミックグリーンシートで用いられる分散剤の1つの態様としては、非水系溶剤に可溶なビニル共重合体である。このようなビニル共重合体としては、(メタ)アクリル酸エステル等を主成分とするラジカル性不飽和単量体のビニル共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクルート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクルート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、ならびに、ポリオキシアルキレン基を有する、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートが挙げられ、1種または2種以上が用いられる。
【0052】
このような1種または2種以上の(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の酸性モノマーと共重合させることで、アニオン性分散剤が得られる。市販品として、日油社製のマリアリムAKM−0531、マリアリムAWS−0851、マリアリムAAB−0851、マリアリムAFB−1521がある。
【0053】
また、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、2−エチル−5−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、2−メチル−N−ビニルイミダゾール等の塩基性モノマーを共重合させることで、カチオン性分散剤が得られ、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクルート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクルート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の中性官能基を有するモノマーを共重合させることで、ノニオン性分散剤が得られる。市販品として、アイエスピージャパン社製のアンタロンV−216(ビニルピロリドン/ヘキサデセンコポリマー)、アンタロンV−220(ビニルピロリドン/エイコセンコポリマー)がある。
【0054】
分散剤は、上記ビニル共重合体に限定されず、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリエステル系などの分散剤も使用することができる。たとえば、以下に例示するような市販品がある。
【0055】
ビックケミー社製の「DISPERBYK-130」、「DISPERBYK-161」、「DISPERBYK-162」、「DISPERBYK-163」、「DISPERBYK-170」、「DISPERBYK-171」、「DISPERBYK-174」、「DISPERBYK-180」、「DISPERBYK-182」、「DISPERBYK-183」、「DISPERBYK-184」、「DISPERBYK-185」、「DISPERBYK-2000」、「DISPERBYK-2001」、「DISPERBYK-2020」、「DISPERBYK-2050」、「DISPERBYK-2070」、「DISPERBYK-2096」、「DISPERBYK-2150」、BASF社製の「EFKA1503」、「EFKA4010」、「EFKA4020」、「EFKA4300」、「EFKA4330」、「EFKA4340」、「EFKA4520」、「EFKA4530」、「EFKA5054」、「EFKA7411」、「EFKA7422」、「EFKA7431」、「EFKA7441」、「EFKA7461」、「EFKA7496」、「EFKA7497」、ルブリゾール社製の「ソルスパース3000」、「ソルスパース9000」、「ソルスパース13240」、「ソルスパース13650」、「ソルスパース13940」、「ソルスパース17000」、「ソルスパース18000」、「ソルスパース20000」、「ソルスパース21000」、「ソルスパース20000」、「ソルスパース24000」、「ソルスパース26000」、「ソルスパース27000」、「ソルスパース28000」、「ソルスパース32000」、「ソルスパース36000」、「ソルスパース37000」、「ソルスパース38000」、「ソルスパース41000」、「ソルスパース42000」、「ソルスパース43000」、「ソルスパース46000」、「ソルスパース54000」、「ソルスパース71000」、味の素ファインテクノ社製のアジスパー「PB-711」、「アジスパーPB-821」、「アジスパーPB-822」、「アジスパーPB-814」、「アジスパーPB-824」などを用いることが可能である。
【0056】
セラミックグリーンシート中の分散剤の含有量は、塩基性セラミック材料の比表面積によって最適な範囲が異なり、標準的な含有量は、比表面積[単位m/g]を5で割った値で求められる。
【0057】
たとえば、塩基性セラミック材料としてチタン酸バリウムを用いる場合は、チタン酸バリウム100重量部に対する分散剤の標準的な含有量は、粒径200nm(比表面積5m/g)であれば、1重量部、粒径100nm(比表面積10m/g)であれば、2重量部、粒径50nm(比表面積20m/g)であれば、4重量部となる。
【0058】
塩基性セラミック材料の比表面積が5m/gであれば、分散剤の含有量は、塩基性セラミック材料の分散性の観点から、塩基性セラミック材料100重量部に対して、0.3重量部以上が好ましく、0.4重量部以上がより好ましく、他方、過剰な分散剤によるセラミックグリーンシートの剥離性低下を抑制する観点から、塩基性セラミック材料100重量部に対して、1.5重量部以下が好ましく、1.2重量部以下がより好ましい。
【0059】
塩基性セラミック材料の比表面積が10m/gであれば、分散剤の含有量は、塩基性セラミック材料の分散性の観点から、塩基性セラミック材料100重量部に対して、0.6重量部以上が好ましく、0.8重量部以上がより好ましく、他方、過剰な分散剤によるセラミックグリーンシートの剥離性低下を抑制する観点から、塩基性セラミック材料100重量部に対して、3重量部以下が好ましく、2.4重量部以下がより好ましい。
【0060】
塩基性セラミック材料の比表面積が20m/gであれば、分散剤の含有量は、塩基性セラミック材料の分散性の観点から、塩基性セラミック材料100重量部に対して、1.2重量部以上が好ましく、1.6重量部以上がより好ましく、他方、過剰な分散剤によるセラミックグリーンシートの剥離性低下を抑制する観点から、塩基性セラミック材料100重量部に対して、6重量部以下が好ましく、4.8重量部以下がより好ましい。
【0061】
[D.非水系溶媒]
非水系溶媒としては、非水系(有機溶剤)であれば特に限定されない。
【0062】
非水系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノール、sec−ブタノール、n−オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、ベンジルアルコール、ターピネオール、ブチルカルビトール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、ブチルカルビトールアセテート等のエステル類、エチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ナフサ、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、トルエン、キシレン、ピリジン等の芳香族類が挙げられる。
【0063】
なお、後述するバインダとしてのポリビニルアセタール樹脂の溶解性の観点から、非水系溶媒としては、特に、アルコール類、セロソルブ類、または、それらと他の溶剤との混合物を用いることが好ましい。
【0064】
[E.バインダ]
バインダとして、ポリビニルアセタール樹脂が有利に用いられる。
【0065】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアセタール化して得られる。アセタール化の方法は、特に限定されるものではなく、たとえば、ポリビニルアルコールを温水に溶解し、このポリビニルアルコール水溶液を所定温度に保持し、アルデヒドおよび酸触媒を加え、撹拌しながらアセタール化反応を進行させ、次いで、反応温度を上げて熟成し、反応を完結させた後、中和、洗浄、乾燥を行なう方法が挙げられる。
【0066】
上記アセタール化反応に用いられるアルデヒドは、特に限定されるものではなく、たとえば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、n−ヘブチルアルデヒド、n−オクテルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、アミルアルデヒド、等の脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等の芳香族アルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。アルデヒドとしては、なかでも、アセタール化反応に優れ、かつ接着性等の優れた諸特性を付与し得るブチルアルデヒドおよびアセトアルデヒドが好ましく、ブチルアルデヒドがより好ましい。
【0067】
上記ポリビニルアルコールおよびポリビニルアセタール樹脂は、適宜製造したものであってもよいし、市販品であってもよい。市販品としては、たとえば、クラレポバールPVA-102、PVA-103、PVA-105、PVA-110、PVA-117、PVA-120、PVA-124、PVA-126、PVA-135、PVA−CSA、PVA−CST、PVA−HC(以上、クラレ社製商品名)、ゴーセノールNH-26、NH-20、NH-18、N-300、NM-14、NM-11、NL-05(以上、日本合成化学社製商品名)、デンカポバールK-24E、K-17C、K-17E、K-05(以上、電気化学工業社製商品名)等の完全けん化型ポリビニルアルコール;クラレポバールPVA-617、PVA-624、PVA-613、PVA-706、PVA-203、PVA-205、PVA-210、PVA-217、PVA-220、PVA-224、PVA-228、PVA-235、PVA-217E、PVA-217EE、PVA-220E、PVA-224E、PVA-403、PVA-405、PVA-420、PVA-420H、PVA-424H、L-8、L-9、L-9-78、L-10、PVA-505(以上、クラレ社製商品名)、ゴーセノールAH-26、AH-20、AH-17、A-300、C-500、P-610、AL-06、GH-23、GH-20、GH-17、GM-14、GM-14L、GL-05、GL-03、KH-20、KH-17、KM-11、KL-05、L-03、KP-08、KP-06、NK-05(以上、日本合成化学社製商品名)、デンカポバールH-24、H-17、H-12、B-33、B-24T、B-24、B-20、B-17R、B-17、B-05、B-04(以上、電気化学工業社製商品名)等の部分けん化型ポリビニルアルコール;ソアノールD2908、DT2903、DC3212、DC3203、E3808、ET3803、A4412、AT4406、AT4403(以上、日本合成化学社製商品名)等のポリビニルアルコールとエチレンの共重合体;エスレックB BL-1、BL-2、BL-2H、BL-S、BL-SH、BX-10、BX-L、BM-1、BM-2、BM-5、BM-S、BM-SH、BH-3、BH-S、BX-1、BX-3、BX-5等のポリビニルブチラール樹脂(以上、積水化学工業社製商品名)等が例示される。
【0068】
セラミックグリーンシート中におけるポリビニルアセタール樹脂の含有量は、セラミックグリーンシートの強度維持およびバインダ機能発揮の観点から、塩基性セラミック材料100重量部に対して、0.5重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましく、2重量部以上が最も好ましく、他方、スラリー組成物の粘度を低下させてシートを形成しやすくする観点から、塩基性セラミック材料100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、15重量部以下がより好ましく、12重量部以下が最も好ましい。
【0069】
よって、セラミックグリーンシート中におけるポリビニルアセタール樹脂の含有量は、塩基性セラミック材料100重量部に対して、0.5〜20重量部が好ましく、1〜15重量部がより好ましく、2〜12重量部が最も好ましい。
【0070】
以下、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0071】
[カチオン化合物および分散剤の準備]
1.カチオン化合物の準備
次のようなカチオン化合物A1〜A8を準備した。
【0072】
(カチオン化合物A1)
市販のシグマアルドリッチ社製の1−エチル−3−メチルイミダゾリウム エチルサルフェートを用いた。
【0073】
(カチオン化合物A2)
市販のシグマアルドリッチ社製の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを用いた。
【0074】
(カチオン化合物A3)
市販のシグマアルドリッチ社製の1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム エチルサルフェートを用いた。
【0075】
(カチオン化合物A4)
市販のシグマアルドリッチ社製の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム エチルサルフェートを用いた。
【0076】
(カチオン化合物A5)
市販のシグマアルドリッチ社製の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを用いた。
【0077】
(カチオン化合物A6)
市販のシグマアルドリッチ社製の1,2,4−トリメチルピラゾリウム メチルサルフェートを用いた。
【0078】
(カチオン化合物A7)
市販の東京化成社製の1−エチル−3−メチルビリジニウム エチルサルフェートを用いた。
【0079】
(カチオン化合物A8)
市販の東京化成社製の1−エチル−3−ヒドロキシメチルビリジニウム エチルサルフェートを用いた。
【0080】
(カチオン化合物A9)
市販のシグマアルドリッチ社製の1−メチルイミダゾリウム ハイドロジェンサルフェートを用いた。
【0081】
(カチオン化合物A10)
市販のシグマアルドリッチ社製のトリス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム メチルサルフェートを用いた。
【0082】
(カチオン化合物A11)
市販のシグマアルドリッチ社製のトリブチルメチルアンモニウム メチルサルフェートを用いた。
【0083】
(カチオン化合物A12)
市販のシグマアルドリッチ社製のオクチル−2−ヒドロキシエチルイミダゾリニウム エチルサルフェートを用いた。
【0084】
(カチオン化合物A13)
ラウリルアミンのエチレンオキシド2モル付加物を硫酸ジエチルと反応させることで合成した4級アンモニウム塩であるラウリルエチルビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム エチルサルフェートを用いた。
【0085】
なお、上記カチオン化合物A9〜A13は、前述の一般式(1)〜(3)で表わされるカチオン基を有するカチオン化合物のいずれにも該当しないか、R1〜R11が前述の条件を満足しないものである。
【0086】
2.分散剤の準備
次のような分散剤B1〜B7を準備した。
【0087】
(分散剤B1)
市販のルブリゾール社製ソルスパース33000を用いた。
【0088】
(分散剤B2)
市販の味の素ファインテクノ社製アジスパーPB-821を用いた。
【0089】
(分散剤B3)
還流管、撹拌装置、温度計および窒素導入管を取り付けた、セパラブルフラスコに、メタクリル酸メチル(和光純薬工業社製):1.5g、メトキシポリエチレングリコール(23)メタクリレート(新中村化学社製:NK-エステル M-230G、エチレンオキサイドの平均付加モル数:23):5.5g、メタクリルアミド(和光純薬工業社製):3.0g、およびエタノール(和光純薬工業社製):12.25gを仕込み、窒素置換し、65℃に加熱した。
【0090】
槽内温度が65℃に到達後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製:V-65):0.3g、およびエタノール:2.5gの混合物を添加した。その後、メタクリル酸メチル:13.5g、メトキシポリエチレングリコール(23)メタクリレート:49.5g、メタクリルアミド:27.0g、エタノール:110.25g、およびV-65:2.7gの混合液を3時間かけて滴下した。
【0091】
65℃で3時間熟成した後、室温まで冷却した。濃度調整のためにエタノールを添加し、分散剤B3のエタノール溶液を得た。分散剤B3溶液の不揮発分は33.6重量%で、分散剤B3の重量平均分子量は44200であった。
【0092】
(分散剤B4)
市販のアイエスピージャパン社製のアンタロンV−216を用いた。
【0093】
(分散剤B5)
還流管、撹拌装置、温度計および窒素導入管を取り付けた、セパラブルフラスコに、メトキシポリエチレングリコール(23)メタクリレート(新中村化学社製:NK-エステル M-230G、エチレンオキサイドの平均付加モル数:23):8.5g、メタクリル酸(和光純薬工業社製):1.5g、エタノール(和光純薬工業社製):10g、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(和光純薬工業社製):0.1gを仕込み、窒素置換し、65℃に加熱した。
【0094】
槽内温度が65℃に到達後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製:V-65):0.3g、およびエタノール:2.5gの混合物を添加した。その後、メトキシポリエチレングリコール(23)メタクリレート:76.5g、メタクリル酸:13.5g、エタノール:90g、V-65:2.7g、および3−メルカプト−1,2−プロパンジオール:0.9gの混合液を3時間かけて滴下した。
【0095】
65℃で3時間熟成した後、室温まで冷却した。濃度調整のためにエタノールを添加し、分散剤B5のエタノール溶液を得た。分散剤B5溶液の不揮発分は53.2重量%で、分散剤B5の重量平均分子量は17400であった。
【0096】
(分散剤B6)
還流管、撹拌装置、温度計および窒素導入管を取り付けた、セパラブルフラスコに、メタクリル酸メチル(和光純薬工業社製):1.5g、メトキシポリエチレングリコール(23)メタクリレート(新中村化学社製:NK-エステルM-230G、エチレンオキサイドの平均付加モル数:23):7.0g、メタクリル酸(和光純薬工業社製):1.5g、エタノール(和光純薬工業社製):15g、および3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(和光純薬工業社製):0.3gを仕込み、窒素置換し、65℃に加熱した。
【0097】
槽内温度が65℃に到達後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製:V-65):0.3g、およびエタノール:2.5gの混合物を添加した。その後、メタクリル酸メチル:13.5g、メトキシポリエチレングリコール(23)メタクリレート:63.0g、メタクリル酸:13.5g、エタノール:135g、V-65:2.7g、および3−メルカプト−1,2−プロパンジオール:2.7gの混合液を3時間かけて滴下した。
【0098】
65℃で3時間熟成した後、室温まで冷却した。濃度調整のためにエタノールを添加し、分散剤B6のエタノール溶液を得た。分散剤B6溶液の不揮発分は52.0重量%で、分散剤B6の重量平均分子量は8300であった。
【0099】
(分散剤B7)
市販の日油社製のマリアリムAKM-0531を用いた。
【0100】
[実験例1]
1−1.試料の作製
実験例1では、以下の試料の作製にあたって、前述したカチオン化合物A1〜A13のうち、表1の「カチオン化合物」の欄に示すものを用いた。なお、表1の「カチオン化合物」の欄には、カチオン基の「分子量」も示されている。
【0101】
(実施例1)
チタン酸バリウム(BET比表面積より計算した平均粒径:50nm):100gと、分散剤B6:4.0g(有効分)とを、直径1mmのジルコニアビーズ:500gと一緒に500mLの容器に入れ、トルエン/エタノール=48/52(容積比)の混合溶媒を加え、チタン酸バリウムの固形分濃度が50重量%になるように調整し、卓上型ボールミルにて、96時間、分散処理を行なった。
【0102】
次いで、上記分散処理液に、ポリビニルブチラール樹脂:14.0g、ジオクチルフタレート:2.80g、カチオン化合物A1:1.0g、およびトルエン/エタノール=48/52(容積比)の混合溶媒を加えて、チタン酸バリウムの固形分濃度が35重量%になるように調整し、卓上型ボールミルにて、2時間混合した後、ジルコニアビーズを濾過で取り除き、セラミックスラリーを得た。
【0103】
次に、シリコーン処理されたキャリアフィルム上で、このセラミックスラリーをドクターブレード法により厚み1μmのシート状に成形して、セラミックグリーンシートを作製した。
【0104】
そして、上記セラミックグリーンシートを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0105】
(実施例2)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A2を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0106】
(実施例3)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A3を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0107】
(実施例4)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A4を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0108】
(実施例5)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A5を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0109】
(実施例6)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A6を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0110】
(実施例7)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A7を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0111】
(実施例8)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A8を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0112】
(比較例1)
カチオン化合物を加えないことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0113】
(比較例2)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A9を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0114】
(比較例3)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A10を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0115】
(比較例4)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A11を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0116】
(比較例5)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A12を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0117】
(比較例6)
実施例1におけるカチオン化合物A1の代わりに、カチオン化合物A13を用いたことを除いて、実施例1の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0118】
1−2.評価
表1に示すように、上記積層セラミックコンデンサの作製過程で得られたセラミックグリーンシートについて、キャリアフィルムからの剥離時の剥離帯電量、剥離力、破断応力および伸びの測定を以下のように行なった。
【0119】
(剥離帯電量)
キャリアフィルムとともに、セラミックグリーンシートを短辺4cm、長辺10cmの寸法の試験片に裁断し、この試験片を、セラミックスラリー塗工面と反対側(フイルム側)を下にして、90度剥離試験用治具を装着した卓上型精密試験機(島津製作所社製:オートグラフAGS-X)の台座に両面粘着テープを用いて固定した。次に、試験片の短辺側の片端をキャリアフィルムから1cm剥離した後、クリップで挟み、クリップをロードセルに固定した。その後、ロードセルを1cm/秒の速度で上昇させて90度剥離を行ない、セラミックグリーンシートの剥離面側の帯電量(剥離帯電量)の最大値を、剥離面から3cmの距離に設置した静電気センサー(キーエンス社製:SK-200)にて測定した。
【0120】
この剥離帯電量の絶対値が小さいほど、帯電防止性が良好である。
【0121】
(剥離力)
上記の剥離帯電量の測定において、セラミックグリーンシートを1cm/秒の速度にて90度剥離する際、ロードセルにかかる荷重を測定した。具体的には、ロードセルが3cm上昇してから6cm上昇するまでの間にロードセルにかかる荷重の平均値を剥離力とした。
【0122】
この剥離力が小さいほど、剥離性が良好である。
【0123】
(破断応力および伸び)
セラミックグリーンシートをJIS K6251に規定されたダンベル状1号形に裁断した。セラミックグリーンシートをキャリアフィルムから剥離する前に、厚みを計測し、キャリアフィルム自身の厚みとの差分より、セラミックグリーンシートの厚みを求めた。次に、剥離したセラミックグリーンシートを卓上型精密試験機(島津製作所社製:オートグラフEZ-TEST)に装着されたロードセルに取り付け、6cm/分の試験速度で引っ張り、試験片の破断時の応力、および、破断歪(伸び)を測定した。
【0124】
破断応力が大きく、また、伸びが大きいほど、靭性が良好である。
【0125】
また、セラミックグリーンシートを用いて積層セラミックコンデンサを作製する過程において、印刷機および積層機の搬送設備での搬送時の帯電量を評価するため、以下のような方法で表1に示した搬送時帯電量を測定した。
【0126】
(搬送時帯電量)
幅100mmのキャリアフィルムとしてのPETフィルムにセラミックスラリーを塗工し、セラミックグリーンシートを成形した。そして、モーターを用いて一定速度でPETフィルムを繰り出し、巻き取りできる部分と、自由に回転できるローラーとで構成した搬送設備にセラミックグリーンシートを設置した。搬送設備内の、自由に回転できるローラーの間隔が30cm以上でかつ周囲30cm以内に導電体が存在しない箇所で、セラミックグリーンシート表面から3cmの距離に設置した静電気センサー(キーエンス社製:SK-200)にて搬送時に発生する帯電量を測定した。
【0127】
この搬送時帯電量の絶対値が小さいほど、帯電防止性が良好である。
【0128】
また、表1に示した積層セラミックコンデンサの初期ショート率を以下のような方法で測定した。
【0129】
(初期ショート率)
市販のLCRメーター(HP4284A)にて、1kHz、0.5Vの条件で、積層セラミックコンデンサの抵抗値を測定した。抵抗値が1000Ω以下をショート不良とし、評価母数に対するショート不良数の割合をショート率とした。
【0130】
【表1】

【0131】
実施例1〜8では、比較例1〜6と比較して、剥離帯電量が大幅に低減していて、帯電防止性が向上し、また、剥離力が小さく、剥離性に優れ、さらに、破断応力と伸びの測定値が大きく、靭性も向上していることがわかる。
【0132】
また、実施例1〜8によれば、比較例1〜6と比較して、搬送時帯電量が大幅に低減していることから、印刷機や積層機などが有する搬送設備で搬送する際に摩擦帯電量を著しく低下させることができ、そのため、搬送経路への帯電付着を抑制することができるため、搬送スピードを速くすることが可能となり、生産性の向上を図ることができる。
【0133】
実施例1〜5において用いたカチオン化合物A1〜A5は、一般式(3)で表わされるカチオン基を含むカチオン化合物であり、実施例6において用いたカチオン化合物A6は、一般式(2)で表わされるカチオン基を含むカチオン化合物であり、実施例7および8において用いたカチオン基を含むカチオン化合物A7およびA8は、一般式(1)で表わされるカチオン基を含むカチオン化合物である。これら実施例1〜8の間での比較から、剥離性の観点からは、一般式(2)および一般式(3)で表わされるカチオン基を含むカチオン化合物を用いた実施例1〜6がより好ましく、さらに靭性の観点からは、一般式(3)で表されるカチオン基を含むカチオン化合物を用いた実施例1〜5が最も好ましいという傾向が現れている。
【0134】
なお、比較例1、2および4〜6では、搬送時帯電量が大きく、そのため、セラミックグリーンシートの積層が困難であった。したがって、これら比較例1、2および4〜6では、初期ショート率を評価しなかった。
【0135】
[実験例2]
2−1.試料の作製
実験例2では、以下の試料の作製にあたって、表2に示すように、カチオン化合物については、カチオン化合物A1をすべての試料において共通に用いながら、分散剤については、前述した分散剤B1〜B7のうち、表1の「分散剤」の欄に示すものを用いた。なお、表1の「分散剤」の欄には、分散剤の「イオン性」、およびわかっているものについて「分子量」も示されている。
【0136】
(実施例9)
チタン酸バリウム(BET比表面積より計算した平均粒径:50nm):20gと、分散剤B1:0.8g(有効分)とを、直径1mmのジルコニアビーズ:50gと一緒に100mLの容器に入れ、トルエン/エタノール=48/52(容積比)の混合溶媒を加え、チタン酸バリウムの固形分濃度が50重量%になるように調整し、卓上型ボールミルにて、96時間、分散処理を行なった。
【0137】
次いで、上記分散処理液に、ポリビニルブチラール樹脂:1.6g、ジオクチルフタレート:0.32g、カチオン化合物A1:0.16g、およびトルエン/エタノール=48/52(容積比)の混合溶媒を加えて、チタン酸バリウムの固形分濃度が35重量%になるように調整し、卓上型ボールミルにて、2時間混合した後、ジルコニアビーズを濾過で取り除き、セラミックスラリーを得た。
【0138】
次に、シリコーン処理されたキャリアフィルム上で、このセラミックスラリーをドクターブレード法により厚み1μmのシート状に成形して、セラミックグリーンシートを作製した。
【0139】
そして、上記セラミックグリーンシートを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0140】
(実施例10)
実施例9における分散剤B1の代わりに、分散剤B2を用いたことを除いて、実施例9の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0141】
(実施例11)
実施例9における分散剤B1の代わりに、分散剤B3を用いたことを除いて、実施例9の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0142】
(実施例12)
実施例9における分散剤B1の代わりに、分散剤B4を用いたことを除いて、実施例9の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0143】
(実施例13)
実施例9における分散剤B1の代わりに、分散剤B5を用いたことを除いて、実施例9の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0144】
(実施例14)
実施例9における分散剤B1の代わりに、分散剤B6を用いたことを除いて、実施例9の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0145】
(実施例15)
実施例9における分散剤B1の代わりに、分散剤B7を用いたことを除いて、実施例9の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0146】
(比較例7)
分散剤を加えないことを除いて、実施例9の場合と同様にして、セラミックグリーンシートを作製し、それを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0147】
2−2.評価
表2に示すように、上記積層セラミックコンデンサの作製過程で得られたセラミックグリーンシートについて、キャリアフィルムからの剥離時の剥離帯電量および剥離力の測定、セラミックグリーンシートの搬送時の帯電量を評価するため、搬送時帯電量の測定、ならびに、積層セラミックコンデンサの初期ショート率の測定を、実験例1の場合と同様の方法で行なった。
【0148】
【表2】

【0149】
実施例9〜15では、カチオン性、ノニオン性およびアニオン性のいずれかの分散剤を用いているが、分散剤を用いない比較例7の場合と比べて、剥離帯電量、剥離力および搬送時帯電量がすべて低減しており、帯電防止性、剥離性、ならびに印刷機や積層機の搬送設備での搬送時の帯電付着防止性に優れることがわかる。
【0150】
なお、比較例7では、搬送時帯電量が大きく、そのため、セラミックグリーンシートの積層が困難であった。したがって、比較例7では、初期ショート率を評価しなかった。
【符号の説明】
【0151】
1 積層セラミックコンデンサ
2 部品本体
5 セラミック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性セラミック材料と、
含窒素複素芳香族第4級アンモニウムカチオン基を含むカチオン化合物と、
分散剤と、
非水系溶媒と、
バインダと
を含有する、セラミックグリーンシート。
【請求項2】
前記カチオン基が、下記一般式(1)で表わされるカチオン基、下記一般式(2)で表わされるカチオン基および下記一般式(3)で表わされるカチオン基からなる群より選ばれる少なくとも1種のカチオン基である、請求項1に記載のセラミックグリーンシート。
【化1】

ただし、式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2、R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、アルキル基は水酸基を有していてもよい。
式(2)中、R5およびR6は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のアルキル基を示し、R7およびR8は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、アルキル基は水酸基を有していてもよい。
式(3)中、R9およびR10は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のアルキル基を示し、R11は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、アルキル基は水酸基を有していてもよい。
【請求項3】
前記カチオン化合物は、アニオン化合物との塩として含有され、前記アニオン化合物が、アルキル硫酸および脂肪族カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸である、請求項1または2に記載のセラミックグリーンシート。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のセラミックグリーンシートをキャリアフィルム上で成形する工程と、前記キャリアフィルムから前記セラミックグリーンシートを剥離する工程と、複数の前記セラミックグリーンシートを積層することによって、グリーン積層体を得る工程と、前記グリーン積層体を焼成する工程とを実施することによって得られた、積層セラミック電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2013−56783(P2013−56783A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194467(P2011−194467)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】