説明

積層フィルムおよび成型体

【課題】低環境負荷で、塗液調合後も長時間の塗工が可能で生産性、コスト面で有利であり、成型追従性に優れ、かつ傷回復性の良好な成型用途に適合する積層フィルムを提供することにある。
【解決手段】基材フィルムの少なくとも片側に、A層を有する積層フィルムであって、
該A層が、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、を有し、
該A層が、1ppm以上350ppm以下のアルミニウムを含有することを特徴とする積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型材料として成型追従性、耐傷性に優れ、かつ生産性、コスト面で有利な積層フィルムに関し、加飾成型用として好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
加飾成型などの成型材料は、成型時の傷防止や成型後の物品使用過程での傷を防止するために表面硬度化層が設けられる。しかしながら表面硬度化層は、成型に追従する伸びが不足するため、成型時にクラックが発生したり、極端な場合にはフィルムが破断したり、表面硬度化層が剥離したりするために、一般的には成型後に表面硬度化層を形成したり、セミ硬化状態で成型した後、加熱や活性線照射などで完全硬化させるなどの手段が適用されている。しかしながら成型後の物品は3次元に加工されているため、後加工で表面硬度化層を設けるのは非常に困難であり、またセミ硬化状態で成型する場合には、成型条件によっては金型の汚れを誘発する場合がある。そのため、成型に追従する耐擦傷性材料が嘱望され、近年硬度アップによる傷防止から軽度の傷を自己修復する「自己治癒材料」(特許文献1)が注目されている。自己治癒材料は、自身の弾性回復範囲の変形を自己修復できるもので、特許文献1〜2によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−137780公報
【特許文献2】特開平4−18412公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1や2に記載の自己治癒材料では、硬化触媒としてジブチルスズラウレート等のスズ系触媒が用いられており、これにはトリブチルスズが混在している。このトリブチルスズは、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に特定化学物質として指定されており、そのため、可能な限りトリブチルスズの含有量を減らすことが望まれる。環境ホルモンとしての作用も認められている物質であり、これを含有することは好ましくなく、生産した製品が販売停止になる可能性もある。
【0005】
また、自己治癒材料を形成するために用いる組成物中にジブチルスズラウレートを用いることで、該組成物の硬化が進行し、該組成物(塗液)のポットライフが短くなり、自己治癒材料(製品)に欠点や塗工スジが生じるという問題もあり、この問題を解決してポットライフを長くすることが望まれる。
【0006】
つまり本発明の目的は、上記課題を解決し、低環境負荷で、塗液調合後も長時間の塗工が可能で生産性、コスト面で有利な自己治癒層を積層した積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下の発明に至ったものである。
【0008】
すなわち、基材フィルムの少なくとも片側に、A層を有する積層フィルムであって、
該A層が、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、を有し、
該A層が、1ppm以上350ppm以下のアルミニウムを含有することを特徴とする積層フィルムをその骨子とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層フィルムは、擦り傷などの補修機能(自己治癒性)を有し、かつ環境低負荷であり、生産性、コスト面に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の積層フィルムは、基材フィルムの少なくとも片側に、A層を有する積層フィルムであって、
該A層が、以下の(1)から(3)の全てを有することが必要である。
(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント
(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント
(3)ウレタン結合
さらに、該A層が1ppm以上350ppm以下のアルミニウムを含有することが必要である。また、基材フィルムはポリエステル基材フィルムであることが好ましく、積層構成のポリエステル基材フィルムであることがさらに好ましい。
【0011】
以下、本発明の各構成について説明する。
【0012】
<基材フィルム>
本発明において基材フィルムを構成する樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、ホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。より好ましくは、成形性が良好であるため、熱可塑性樹脂である。また、各樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
【0013】
熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリプロピレンテレフタレート・ポリブチルサクシネート・ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂などを用いることができる。しかし一方で、本発明の積層フィルムを成形材料に用いるためには、基材フィルム自体が成型性に耐え得るだけの延伸性と追従性を備える樹脂であることが好ましい。このような観点と、さらに強度・耐熱性・透明性の観点から、基材フィルムを構成する樹脂としては、特にポリエステル樹脂であることがより好ましい。
【0014】
また基材フィルムは、単層構成の基材フィルムや積層構成の基材フィルムのいずれも適用することが可能である。
【0015】
<ポリエステル基材フィルム>
本発明におけるポリエステル基材フィルム(基材フィルムを構成する樹脂がポリエステル樹脂を主成分として含む場合、該基材フィルムをポリエステル基材フィルムという。なお、ポリエステル樹脂を主成分として含むとは、基材フィルムの全成分100質量%において、50質量%以上100質量%以下がポリエステル樹脂である態様を意味する。)のポリエステルとは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、酸成分及びそのエステルとジオール成分の重縮合によって得られる。具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを挙げることができる。またこれらに酸成分やジオール成分として他のジカルボン酸およびそのエステルやジオール成分を共重合したものであっても良い。これらの中で透明性、寸法安定性、耐熱性などの点でポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが特に好ましい。用いるポリエステルの極限粘度(JIS K7367(2000)に従って25℃のo−クロロフェノール中で測定)は0.4〜1.2dl/gが好ましく、0.5〜0.8dl/gが特に好ましい。該ポリエステルには必要に応じて各種添加剤、例えば有機、無機の粒子、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候性賦与剤、顔料、染料などの着色剤、耐電防止剤、核剤などが添加されていても良い。ポリエステル基材フィルムは、未延伸(未配向)フィルム、一軸延伸(一軸配向)フィルム、二軸延伸(二軸配向)フィルムのいずれも使用しうるが、寸法安定性や耐熱性に優れる二軸延伸フィルムを用いるのが好ましい。二軸延伸フィルムは高度に結晶配向されたものが好ましく、二軸配向とは広角X線回折で二軸配向パターンを示すものをいう。ポリエステル基材フィルムは単層構成であっても積層構成であっても良い。
【0016】
またポリエステル基材フィルムが積層構成の場合には、ポリエステル樹脂Cを主成分として含む層(C層)とポリエステル樹脂Dを主成分として含む層(D層)とを、交互にそれぞれ50層以上有する多層積層構成のポリエステル基材フィルムとすることにより、干渉色ないし更には金属調色を有するために好ましい。より好ましくは、200層以上である。積層数の上限値としては特に限定するものではないが、装置の大型化や層数が多くなりすぎることによる積層精度の低下に伴う波長選択性の低下を考慮すると、1500層以下であることが好ましい。なお、ポリエステル樹脂Cを主成分として含む層とは、当該層の全成分100質量%において、ポリエステル樹脂Cを50質量%以上100質量%以下含む態様を意味する。同様に、ポリエステル樹脂Dを主成分として含む層とは、当該層の全成分100質量%において、ポリエステル樹脂Dを50質量%以上100質量%以下含む態様を意味する。
【0017】
またポリエステル基材フィルムは、内部に微細な空洞を有するポリエステルフィルムであっても良い。
【0018】
<A層およびその原料>
本発明の積層フィルムは、前述の基材フィルムの少なくとも片側にA層を有することが重要である。本発明において、A層は、少なくとも(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、の全てを有することが必要である。
【0019】
かかる成分をA層が有することにより、A層に自己治癒性を付与することができる。より詳しくは、A層表面に傷が付されたとしても、数秒の短時間で傷を消滅させる(自己治癒させる)ことができる。
【0020】
以下、A層に含まれる成分について、詳説する。
【0021】
<(ポリ)カプロラクトンセグメント>
本発明では、A層が(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントを有することが重要である。A層が(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントを有することで、A層に弾性回復性(自己治癒性)を賦与することができる。
【0022】
なお本発明において(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントとは、化学式1で示されるセグメントを指す。
【0023】
A層が(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントを有するためには、A層を形成するために用いる組成物が、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントを含有する樹脂を含むことで可能となる。A層を形成するために用いる組成物が、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントを含有する樹脂を含む場合には、かかる(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントを含有する樹脂は、少なくとも1以上の水酸基(ヒドロキシル基)を有することが好ましい。水酸基は、(ポリ)カプロラクトンセグメントを含有する樹脂の末端にあることが好ましい。
【0024】
【化1】

【0025】
A層を形成するために用いる組成物に好適な、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントを含有する樹脂としては、特に、2〜3官能の水酸基を有する(ポリ)カプロラクトン、具体的には(ポリ)カプロラクトンジオール(化学式2)、(ポリ)カプロラクトントリオール(化学式3)やラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(化学式4)などのラジカル重合性(ポリ)カプロラクトンを用いることができる。
【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
また、本発明において、A層を形成するために用いる組成物中の、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントを含有する樹脂は、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント以外に、他のセグメントやモノマーが含有(共重合)されていても良い。たとえば、後述する(2)ポリジメチルシロキサンセグメントやポリシロキサンセグメントが含有(共重合)されていても良い。つまり、A層を形成するために用いる組成物には、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントと(2)ポリジメチルシロキサンセグメントの共重合体、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントと(2)ポリシロキサンセグメントとの共重合体、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントと(2)ポリジメチルシロキサンセグメントと(2)ポリシロキサンセグメントとの共重合体などを用いることが可能であり、このような組成物を用いて得られるA層は、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントと(2)ポリジメチルシロキサンセグメント及び/又はポリシロキサンセグメントを有することが可能となる。
【0030】
また、本発明において、A層を形成するために用いる組成物中の、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントを含有する樹脂中の、(ポリ)カプロラクトンセグメントの重量平均分子量は500〜2500であることが好ましく、より好ましい重量平均分子量は1000〜1500で、自己治癒性の効果がより発現し、また耐傷性も向上する。つまりA層中の(1)(ポリ)カプロラクトンセグメントの重量平均分子量は、500〜2500であることが好ましく、より好ましくは1000〜1500である。
【0031】
本発明において重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)によって測定される。測定に使用するGPC装置は、東ソー社製HPLC8120シリーズ、カラムはTSKgel superHM−H H4000/H3000/H2000(7.8mm径、150mm×3)、溶離液THF(テトラヒドロフラン)、流量1ml/分、試料濃度0.1%、注入量20μL、検出器RI、測定温度40℃、測定前処理は試料をTHFに溶解後0.45μmのフィルターで無機の添加剤を除去した樹脂成分について測定する。40℃のヒートチャンバー中でカラムを安定させ、この温度におけるカラムに、溶媒としてTHFを毎分1mlの流速で流し、樹脂成分の濃度として0.05〜0.6重量%に調製した樹脂のTHF試料溶液を50〜200μl注入して測定する。試料の重量平均分子量測定に当たっては、試料の有する分子量分布を、数種の単分散ポリスチレン標準試料により、作成された検量線の対数値とカウント数との関係から算出する。
【0032】
<ポリシロキサンセグメント>
本発明では、A層が(2)ポリシロキサンセグメント及び/又はポリジメチルシロキサンセグメントを有することが重要である。
【0033】
なお本発明において(2)のポリシロキサンセグメントとは、以下の化学式5で示されるセグメントを指す。
【0034】
A層が(2)ポリシロキサンセグメント及び/又はポリジメチルシロキサンセグメントを有するためには、A層を形成するために用いる組成物が、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂を含むことで可能となる。
【0035】
【化5】

【0036】
本発明において、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂とは、かかる化学式5で示されるセグメントを含有する樹脂を言う。
【0037】
本発明では、加水分解性シリル基を含有するシラン化合物の部分加水分解物、オルガノシリカゾルまたは該オルガノシリカゾルにラジカル重合体を有する加水分解性シラン化合物を付加させた塗料組成物,詳細にはテトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルアルキルジアルコキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシランなどの加水分解性シリル基を有するシラン化合物の完全もしくは部分加水分解物や有機溶媒に分散させたオルガノシリカゾル、さらには該オルガノシリカゾルの表面に加水分解性シリル基の加水分解シラン化合物を付加させたものなどを、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂として用いることができる。
【0038】
また、本発明において、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂は、ポリシロキサンセグメント以外に、他のセグメント等が含有(共重合)されていても良い。たとえば、前述した(ポリ)カプロラクトンセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメントを有するモノマー成分が含有(共重合)されていても良い。
【0039】
また本発明においては、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂として、A層の強靱性を向上させる意味で、イソシアネート基と反応する水酸基を有するモノマー等が共重合されていることが好ましい。ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂が水酸基を有する共重合体であることで、該水酸基を有するポリシロキサンセグメントを含有する樹脂とイソシアネート基を含有する化合物とを含む組成物を用いてA層を形成すると、効率的にA層が(2)ポリシロキサンセグメントと(3)ウレタン結合とを有する態様とすることができる。
【0040】
<ポリジメチルシロキサンセグメント>
前述の通り本発明では、A層が(2)ポリシロキサンセグメント及び/又はポリジメチルシロキサンセグメントを有することが重要である。
【0041】
なお本発明において、(2)のポリジメチルシロキサンセグメントとは、化学式6で示されるセグメントを指す。
【0042】
A層が(2)ポリシロキサンセグメント及び/又はポリジメチルシロキサンセグメントを有するためには、A層を形成するために用いる組成物が、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂を含むことで可能である。
【0043】
【化6】

【0044】
A層が、かかるポリジメチルシロキサンセグメントを有すると、ポリジメチルシロキサンセグメントがA層の表面に配位することとなる。ポリジメチルシロキサンセグメントがA層の表面に配位することにより、A層表面の潤滑性が向上し、摩擦抵抗を低減することができる(すなわち、傷付き性を抑制することができる)。
【0045】
本発明において、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂とは、かかる化学式6で示されるセグメントを含有する樹脂を言う。
【0046】
また、本発明において、A層を形成するために用いる組成物として、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂を使用する場合は、ポリジメチルシロキサンセグメント以外に、他のセグメント等が含有(共重合)されていても良い。たとえば、前述した(ポリ)カプロラクトンセグメントやポリシロキサンセグメントが含有(共重合)されていても良い。
【0047】
また本発明においては、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂としては、ポリジメチルシロキサンセグメントにビニルモノマーが共重合された共重合体を用いることが好ましい。
【0048】
また、A層の強靱性を向上させる意味で、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂は、イソシアネート基と反応する水酸基を有するモノマー等が共重合されていることも好ましい。ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂が水酸基を有する共重合体であることで、該水酸基を有するポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂とイソシアネート基を含有する化合物とを含む組成物を用いてA層を形成すると、効率的にA層が(2)ポリジメチルシロキサンセグメントと(3)ウレタン結合とを有する態様とすることができる。
【0049】
ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂が、かかるビニルモノマーとの共重合体の場合(ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂がビニルモノマーとの共重合体の場合、これは、ポリジメチルシロキサンセグメントとアクリルセグメントとを含有する樹脂であり、これを以後、ポリジメチルシロキサン系共重合体という)は、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体のいずれであっても良い。かかるポリジメチルシロキサン系共重合体は、リビング重合法、高分子開始剤法、高分子連鎖移動法などに製造することができるが、生産性を考慮すると高分子開始剤法、高分子連鎖移動法を用いるのが好ましい。
【0050】
高分子開始剤法を用いる場合には下記の化学式7で示される高分子アゾ系ラジカル重合開始剤を用いて他のビニルモノマーと共重合させることができる。またペルオキシモノマーと不飽和基を有するポリジメチルシロキサンとを低温で共重合させて過酸化物基を側鎖に導入したプレポリマーを合成し、該プレポリマーをビニルモノマーと共重合させる二段階の重合を行うこともできる。高分子連鎖移動法を用いる場合は例えば化学式8に示すようなシリコーンオイルにHS−CH2COOHやHS−CH2CH2COOH等を付加してSH基を有する化合物とした後、該SH基の連鎖移動を利用して該シリコーン化合物とビニルモノマーとを共重合させることでブロック共重合体を合成することができる。更にポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体を合成するには、例えば化学式9に示す化合物、すなわちポリジメチルシロキサンのメタクリルエステルなどとビニルモノマーを共重合させることにより容易にグラフト共重合体を得ることができる。
【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
【化9】

【0054】
ポリジメチルシロキサンとの共重合体に用いられるビニルモノマーとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート,n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジアセチトンアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコールなどを挙げることができる。
【0055】
また、かかるポリジメチルシロキサン系共重合体(ポリジメチルシロキサンセグメントとアクリルセグメントとを有する樹脂)は、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤などを単独もしくは混合溶媒中で溶液重合法によって製造されることが好ましい。
【0056】
必要に応じてベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチルニトリルなどの重合開始剤を併用する。重合反応は50〜150℃で3〜12時間行うのが好ましい。本発明におけるポリジメチルシロキサン系共重合体中のポリジメチルシロキサンセグメントの量は、A層の潤滑性や耐汚染性の点で、ポリジメチルシロキサン系共重合体の全成分100質量%において1〜30質量%であるのが好ましい。また該ポリジメチルシロキサンセグメントの重量平均分子量は1000〜30000程度とするのが好ましい。
【0057】
(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及びポリジメチルシロキサンセグメントを有する態様のA層を得るための組成物中の、ポリジメチルシロキサン系共重合体、(ポリ)カプロラクトン、およびポリシロキサンの反応は、上記ポリジメチルシロキサン系共重合体合成時に、適宜(ポリ)カプロラクトンセグメント及びポリシロキサンセグメントを添加して共重合することができる。
【0058】
本発明は、A層を形成するために用いる組成物中において、(ポリ)カプロラクトンセグメントが共重合される場合であっても、別途添加される場合であっても、A層を形成するために用いる組成物の全成分100質量%(組成物の全成分100質量%には、反応に関与しない溶媒は含まない。但し、液体成分であっても、反応に関与するモノマー成分は含む。)において(ポリ)カプロラクトンセグメントの量が5〜50質量%であるのが、傷修復性、耐汚染性の点で好ましい。つまりA層は、A層を構成する全成分100質量%において、(ポリ)カプロラクトンセグメントを5〜50質量%有する態様が好ましい。
【0059】
本発明は、A層を形成するために用いる組成物中において、ポリシロキサンセグメントが、共重合される場合であっても、別途添加される場合であっても、A層を構成するために用いる組成物の全成分100質量%(組成物の全成分100質量%には、反応に関与しない溶媒は含まない。但し、液体成分であっても、反応に関与するモノマー成分は含む。)においてポリシロキサンセグメントが1〜20質量%であるのが、傷修復性、耐汚染性、耐候性、耐熱性の点で好ましい。つまりA層は、A層を構成する全成分100質量%において、ポリシロキサンセグメントを1〜20質量%有する態様が好ましい。
【0060】
<ウレタン結合>
本発明では、A層が(3)ウレタン結合を有することが重要である。
【0061】
A層が(3)ウレタン結合を有するためには、A層を形成するために用いる組成物が、市販のウレタン変性樹脂を含むことで可能である。また、A層が(3)ウレタン結合を有するための別の方法としては、A層を形成するために用いる組成物を選択することで、A層を形成する際に、イソシアネート基と水酸基を反応させてウレタン結合を生成させる方法があり、こちらの方法がより好ましく用いられる。
【0062】
後者の方法によって、A層中にウレタン結合を含ませることにより、A層の強靱性を向上させると共に弾性回復性(自己治癒性)を助長することができる。また、前述したポリシロキサンセグメントを含有する樹脂やポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂が、水酸基を有する場合は、熱などによってこれら樹脂とイソシアネート基を有する化合物との間にウレタン結合を生成させることが可能であるので、A層を形成するために用いる組成物中に、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有するポリシロキサンセグメントを含有する樹脂や水酸基を有するポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂を含ませる方法は有用である。これにより、A層の強靱性および弾性回復性(自己治癒性)をさらに高めることができる。
【0063】
本発明において、(3)ウレタン結合を有するA層を形成するために用いる組成物中のイソシアネート基を含有する化合物とは、イソシアネート基を含有する樹脂や、イソシアネート基を含有するモノマーやオリゴマーを指し、例えば、メチレンビス−4−シクロヘキシルイソシアネート、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンイソシアネートのビューレット体などのポリイソシアネート、および上記イソシアネートのブロック体などを挙げることができる。
【0064】
本発明におけるA層は、前述の通り、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、を有することが重要であり、そのためには(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合がそれぞれ別の樹脂に存在する態様でも構わないし、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合が一つの樹脂に存在する態様でも構わない。
【0065】
好ましくは、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てを有する樹脂を、A層が含む態様である。また、A層が、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てを有する樹脂を主成分とすることがさらに好ましい。ここでいう主成分とは、A層を構成する全成分100質量%において、80質量%以上100質量%以下を占める成分を意味する。(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てが、高分子体である一つの樹脂の中に含まれることにより、A層はより強靱な層となるため好ましい。また、A層を構成する全成分100質量%において、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てを有する樹脂が、80質量%以上100質量%以下を占めることにより、自己治癒性が高まるため好ましい。
【0066】
A層は、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てを有することが重要であるが、A層におけるその他の成分としては、例えば耐熱剤、紫外線吸収剤、光安定剤、有機、無機の粒子、顔料、染料、離型剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0067】
(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てを有する樹脂は、例えば次のように製造することができる。つまり、水酸基を有するポリジメチルシロキサン系共重合体、(ポリ)カプロラクトン、イソシアネート基を含有する化合物の少なくとも3成分を含む組成物を、基材フィルム上に塗布して加熱により反応させることで、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てを有する樹脂を有するA層を得ることができる。
【0068】
本発明において、A層が、イソシアネート基を含有する化合物を含む組成物により形成されてなる層であり、該組成物は、組成物の全成分100質量%中(組成物の全成分100質量%には、反応に関与しない溶媒は含まない。但し、液体成分であっても、反応に関与するモノマー成分は含む。)にイソシアネート基を含有する化合物を11質量%以上22質量%以下含むことが好ましい。A層が、イソシアネート基を含有する化合物を含む組成物により形成されてなる層であり、該組成物は、組成物の全成分100質量%中にイソシアネート基を含有する化合物を11質量%以上22質量%以下含んでいると、A層のTgを−30〜0℃としやすいことから好ましい。
【0069】
本発明のA層は、(3)ウレタン結合を有することが重要なので、A層を形成するための組成物中には最終的に(3)ウレタン結合を形成可能な化合物を含むことが重要である。なお、このような(3)ウレタン結合を形成可能な化合物として、イソシアネート基を含有する化合物を含んだ組成物を用いて、A層を形成することが好ましい。なお、A層を形成するための組成物中には、アルコキシメチロールメラミンなどのメラミン架橋剤、3−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸などの酸無水物系架橋剤、ジエチルアミノプロピルアミンなどのアミン系架橋剤などの他の架橋剤を含むことにより、A層を形成する際に架橋反応を行うことも好ましい態様である。
【0070】
ここでいう架橋とは、イソシアネート基と水酸基によって、ウレタン結合を生じる反応であり、イソシアネート基を含有する化合物のイソシアネート官能基が2以上であれば、水酸基を有する化合物とより多く連結して、物性を向上させることから好ましい。
【0071】
本発明の積層フィルムは、A層が1ppm以上350ppm以下のアルミニウムを含有することが重要である。なお、A層が1ppm以上350ppm以下のアルミニウムを含有とは、アルミニウムの量を質量基準で求めた値である。そのため、A層を形成するための組成物中にイソシアネート基を含有する化合物及びアルミニウム系触媒を含有させて硬化させることで、A層中にウレタン結合を形成させることが好ましい。特にウレタン結合の形成反応を促進させるためにアルミニムアセチルアセトナートなどのアルミニウム系触媒を、A層に含有するアルミニウムの量が1ppm以上350ppm以下となるように、A層を形成するための組成物中に含有することが重要である。A層が1ppm以上350ppm以下のアルミニウムを含有することで、透過での測色値b*が−0.6以上0.6以下とすることができ、A層の外観を優れたものとすることが出来る。なお、A層を形成する為の組成物中に添加する触媒には、酸化チタンなどのチタン系触媒などの他の触媒を含むことも可能である。
【0072】
ここで、本発明の積層フィルムは、A層のスズの含有量が1ppm未満であることが好ましい。なお、A層のスズの含有量が1ppm未満であるとは、スズの量を質量基準で求めた値である。A層中のスズの含有量を1ppm未満とすることによって、本発明の積層フィルムが「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の特定化学物質に指定される物質を含まない、あるいは含まれることが懸念されない構成とすることができ、製品安全の観点から好ましい。また、このような構成にすることによって、A層を形成する組成物の、調合後の経時による粘度上昇を抑えられ(ポットライフを長くすることができ)、長時間の塗工が可能で生産性、コスト面において有利であり好ましい。
【0073】
A層中のスズの含有量は1ppm未満であることが好ましいが、より好ましくは0ppmである。
【0074】
なお、A層中のスズの含有量を1ppm未満に抑えるためには、当然のことながらスズ系の化合物の使用量を抑制することが重要である。そして、通常ウレタン結合の形成反応を促進させるためにスズ系触媒を使用することが知られているが、スズ系の触媒の使用量を減らし、アルミニウム系触媒の使用量を増やした組成物を用いて、A層のウレタン結合を形成することで、ウレタン結合を有するA層中のスズの含有量を1ppm未満に抑えることができる。A層中のスズの含有量を0ppmとするためには、ウレタン結合の形成反応を促進させるためにスズ系触媒を一切使用せず、アルミニウム系触媒を含んだ組成物を用いてA層を形成することにより可能である。
【0075】
<その他の成分>
本発明のA層は、上述した成分以外にもアクリルセグメント、ポリオレフィンセグメント、ポリエステルセグメントなどのその他の成分が含まれていても良い。
【0076】
ポリオレフィンセグメントは、ポリオレフィン系樹脂と同等の構造を有する炭素原子数が2〜20のオレフィンから導かれる繰返し単位からなる重合体である。
【0077】
アクリルセグメントは、アクリル単位を構成成分として含む重合体であり、アクリル単位を50mol%以上含むことが好ましい。好適例として、メタクリル酸メチル単位、アクリルメチル単位、アクリルエチル単位およびアクリルブチル単位を挙げることができる。
【0078】
ポリエステルセグメントのジオール成分としては、ブタンジオールおよび/またはヘキサンジオール以外に、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ダイマージオール、水添ダイマージオールを用いることができる。ポリエステルセグメントの酸成分としては、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などを用いることができ、これらの構成成分が複数含まれていてもよい。
【0079】
これらの中でも、特にA層がアクリルセグメントを有する態様が、耐薬品性、強靱性に優れたA層とすることができる点から好ましい。
【0080】
<A層の特性>
本発明の積層フィルムは、A層のガラス転移温度(Tg)が−30〜0℃であることが好ましい。A層のガラス転移温度(Tg)は、より好ましくは−15〜−8℃である。
【0081】
A層のTgが−30〜0℃の範囲を満たすことにより、自己治癒速度が大きく向上し、また、低温領域においても自己治癒性を維持したものが得られる。A層のガラス転移温度が0℃を超える場合は、雰囲気温度10℃以下という低温での自己治癒性が極端に遅くなる場合があり、また、A層のTgが−30℃未満では、すべり性が低下してロールでの巻き取り不良やブロッキング、更には成型時の金型との密着性が大きくなり成型不良などの問題が発生する場合がある。
【0082】
A層のTgを上述の−30〜0℃の範囲とするためには、本発明に必要な樹脂構成(つまり、A層が、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、を有する構成である。)をとることに加え、A層が、イソシアネート基を含有する化合物を含む組成物の架橋反応によって得られる層であり、該組成物の全成分100質量%中に上記イソシアネート基を含有する化合物を11〜22質量%とし、ウレタン結合の架橋密度を下げることにより好ましいTgとすることができる。
【0083】
A層のTgを上述の−30〜0℃の範囲とするための別の方法としては、A層が低Tg成分を有することが好ましい。特に好ましい態様としては、A層が低Tg成分のアクリルセグメントを有することである。低Tg成分のアクリルセグメントとは、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレートなどのモノマーの重合体で構成されるセグメントを意味する。A層中にこのような低Tg成分のアクリルセグメントの含有量を増やすことで、A層のTgを−30〜0℃の範囲に制御できるために好ましい。
【0084】
<積層フィルムの特性と製造方法>
本発明の積層フィルムは、80℃および150℃での最低破壊伸度が65%以上である場合、特に好ましい。また、80℃および150℃での最低破壊伸度を65%以上とすれば、それ以上の成型温度においても、十分な伸度を維持できることを発明者らは確認している。平均破壊伸度が65%未満の場合には、高度な成型(高倍率成型)や深絞り加工などの成型時にA層の破壊や剥離が生じたり、成型時の伸びが不均一になったり、部分的に著しい干渉縞が発生したりするので好ましくない。また、80℃および150℃での最低破壊伸度の上限値は大きいほど好ましいが、基材フィルムとの追従性の点から100%未満であることが好ましい。
【0085】
本発明の積層フィルムの平均破壊伸度を65%以上とするためには、本発明の積層フィルムのA層は、以下の(A)〜(C)の工程をその順に経て、製造することで達成することができる。
(A)積層工程:(ポリエステル基材フィルムなどの)基材フィルムの少なくとも片側に、(ポリ)カプロラクトンセグメントを含有する樹脂とイソシアネート基を含有する化合物から形成されてなる層(A層)を設ける(積層する)。
(B)加熱工程:150℃以上で1分間以上加熱する工程。
(C)エージング工程:20℃〜80℃で3日間以上加熱する工程。
以下、それぞれの工程について、詳細に説明する。
【0086】
(A)積層工程:
(ポリエステル基材フィルム)などの基材フィルムへのA層の積層手法は、特に限定されるものではないが、例えば、A層を形成する材料と、必要に応じて溶媒を含む塗液(A層を形成するために用いる組成物)を、(ポリエステル基材フィルム)などの基材フィルムの少なくとも片側に、塗布する手法を挙げることができる。また、塗布方法としては、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、リバースコート法、ナイフコート法、バーコート法など公知の塗布方法を適用することができる。
【0087】
A層の厚みは、厚いほど自己治癒効果が向上する一方で、伸びや耐化粧品性が悪化する傾向にあるため、使用用途や必要とされる性能を考慮する必要がある。本発明のA層は、厚みは特に限定されないが、本発明のA層の好ましい厚みは15〜19μmである。この範囲を満たす場合には、自己治癒性、伸び、耐化粧品性全てにおいて特に優れたものとすることができる。また、本発明の積層フィルムを成形する場合、成形によりA層の厚みは薄くなるため、成形倍率にあわせてA層の厚みを厚くしておくのが有効である。成型倍率1.1倍の成形において好ましいA層厚みは、16.5〜21μm、成型倍率1.6倍の成形において好ましいA層厚みは24〜30μmである。
【0088】
(B)加熱工程
加熱を行うことにより、層中の溶媒が揮発するとともに、A層を形成するために用いる組成物中のイソシアネート基と、他のセグメントとの架橋反応を促進することができる。本発明では、加熱工程後、エージング工程前のA層中のイソシアネート基の残量が、加熱工程前のイソシアネート基の量に対して、10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは実質的に0%であることである。ここで、実質的に0%とは、赤外分光光度計分析を行ってもイソシアネート基が検出されないことを言う。A層中にイソシアネート基が多量に残存すると、その後のエージング工程において、A層中のイソシネート基が、空気中の水分と反応し、ウレア結合を形成し、エージング工程後のA層が硬質化してしまい、本発明の積層フィルムの平均破壊伸度が低下する原因となる。そのためにエージング工程前に、イソシアネート基の反応をできるだけ進行(より好ましくは完了)させておくことが望ましい。低温乾燥などにより、この反応が不十分である場合には、A層にタック性が残り、ロール状に巻き取った場合に反対面とのブロッキングが発生し、エージング後には剥離困難となる場合がある。そのためにシリコーンなどを塗布した離型フィルムをセパレーターとして導入する必要があり、コスト的に不利になる。
【0089】
A層を形成するために用いる組成物中のイソシアネート基を含有する化合物中のイソシアネート基と、他のセグメント中の水酸基との架橋反応を促進させるため、加熱工程における加熱温度は150℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃以上であり、さらに好ましくは170℃以上である。このように、加熱温度は高温であるほど好ましいが、(ポリエステル基材フィルム)などの基材フィルムの熱収縮によるしわの発生などを勘案するとその上限は180℃以下であることが好ましい。
【0090】
また、加熱時間は、1分間以上、好ましくは2分間以上、更に好ましくは3分間以上であることが好ましい。上限は特に定められるものではないが、生産性、基材フィルムの寸法安定性、透明性の維持の点で、5分間以下とすることが望ましい。具体的には、本発明では、加熱温度を150℃以上としかつ加熱時間を1〜5分間とすることが好ましい。より好ましくは、加熱温度を160℃以上としかつ加熱時間を1〜3分間とすることであり、さらに好ましくは加熱温度を170℃以上としかつ加熱時間を1〜2分間とすることである。
【0091】
加熱工程における加熱方法は特に限定されるものではないが、加熱効率の点から熱風で行うのが好ましく、公知の熱風乾燥機、または、ロール搬送やフローティングなどの連続搬送が可能な熱風炉などを適用できる。
【0092】
(C)エージング工程
(B)の加熱工程において、高温かつ短時間で加熱させた積層フィルムは、その後、加熱温度(エージング温度)を20〜80℃とし、かつ加熱時間(エージング時間)を3日間以上、好ましくは7日間以上、更に好ましくは20日間以上とする加熱処理(エージング処理)を経ることが好ましい。エージング処理により、ウレタン結合が増えるため、A層の平均破壊伸度が向上して、本発明の積層フィルムの平均破壊伸度を65%以上とすることができる。
【0093】
エージング工程における加熱温度(エージング)は20〜80℃であることが好ましく、より好ましくは40℃〜80℃であり、さらに好ましくは60℃〜80℃である。なお、60℃〜80℃でエージングする場合、エージング時間は3〜15日間とすることが好ましい。80℃を超える温度で長時間エージングすると積層フィルムの平面性が悪化する問題が生じるので好ましくない。エージング処理は、所定の温度設定が可能な恒温室で枚葉もしくはロールで処理することが好ましい。
【0094】
<用途>
本発明の積層フィルム等の積層フィルムの好ましい用途は成型分野、特にパソコンや携帯電話などの筐体に適用される加飾成型分野に好適であり、その成型方法は特に限定するものでは無く、種々の成型方法に適用することができる。具体的には本発明の積層フィルムは、射出成型、圧空成型、真空成型、熱成型、プレス成形などの成型方法を適用して、成型体とすることができる。中でも、成型時に80℃〜180℃に加温される用途に特に好適に適用することができる。
【0095】
また、成型用途に用いる場合、本発明の積層フィルムの成型倍率が、1.1〜1.6倍の範囲を有していることが好ましい。成型体は、折り曲げ部分や湾曲部分などが特に成型倍率が高くなりやすく、その部分の成型倍率が、上記の成型倍率を満たしておれば深絞りの成形にも対応できるため好ましい。成型倍率を1.6倍よりも大きくすると、自己治癒性を維持するためにA層の厚みをかなり厚くする必要があり、逆に密着性や塗工性などが悪化するため好ましくない。
【0096】
本発明の積層フィルムは、透過での測色値b*が−0.6以上0.6以下であることが好ましい。積層フィルムの透過での測色値b*を−0.6以上0.6以下とすることにより、A層の外観を優れたものとすることができ、結果として積層フィルムの外観を優れたものとすることができる。
【0097】
なお、積層フィルムの透過での測色値b*を−0.6以上0.6以下に制御するためには、A層中のアルミニウム量を1ppm以上350ppm以下に制御することにより可能である。
【実施例】
【0098】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における特性の測定方法および効果の評価方法は以下のとおりである。
【0099】
(1)A層の厚み
積層フィルムの超薄膜断面切片を切り出し、RuO染色あるいはOsO染色により、透過型電子顕微鏡(日立(株)製 H−7100FA)にて層厚みを測定した。測定は10サンプルの平均値とした。また、成型体の測定個所は、成型体の中心部分50mm四方を切り取り、その中の3箇所を測定した。
【0100】
(2)80℃および150℃における本発明の積層フィルムの最低破壊伸度
積層フィルムを10mm幅×200mm長に切り出し、長手方向にチャックで把持してインストロン型引っ張り試験機(インストロン社製超精密材料試験機MODEL5848)にて引っ張り速度100mm/分で伸長した。測定雰囲気温度を80℃とし、伸度5%単位でサンプルを採取した。採取したサンプルの薄膜断面を切り出し、「A層の厚み」測定と同様の方法で、観察するA層の厚みが、透過型電子顕微鏡の観察画面上において、30mm以上になるような倍率でA層を観察し、A層平均厚みの50%以上のクラック(亀裂)が発生している場合をクラック有り(A層の破壊有り)として、当該フィルムの破壊伸度(80℃−1回目)とした。同一の測定を計3回行い、破壊伸度(80℃−1回目)、破壊伸度(80℃−2回目)および破壊伸度(80℃−3回目)を得て、それらの最小値を80℃における最低破壊伸度とした。
【0101】
次いで、測定雰囲気温度を150℃とした以外は、測定雰囲気温度が80℃の場合と同様にして、150℃における最低破壊伸度を求めた。
【0102】
(3)タック性
加熱工程を経たA層の表面を、触指でタック性(粘着性)を観察し、以下の評価で判定した。○以上を良好とした。
○ :全く粘着しない(フィルムが指に付かない)。
△ :やや粘着する(やや粘着するがフィルムは指に付かない)。
× :粘着する(フィルムが指に付く)。
【0103】
(4)耐スチールウール性
2cm×2cmのスチールウール(#0000)を用い、この上に200gの荷重をかけて試料表面を擦り、傷が発生する時の往復回数を目視でカウントした。
◎:21回以上
○:10〜20回
△:5〜9回
×:2〜4回
××:1回
(5)密着性
JISK 5600(1999年制定)に準拠した碁盤目試験を行った。具体的にはA層面上に1mm間隔で縦横に11本の切れ目を入れ、1mm角の碁盤目を100個作った。この上にセロハンテープ(セキスイ製)を貼り付け、90度の角度で素早く剥がし、剥がれずに残った碁盤目の状態を目視観察し、下記の基準に則り密着性の評価を行った。
◎:剥離が殆ど認められず、密着性が非常に優れている
○:僅かに剥離が認められるが、密着性は良好である
△:やや剥離が認められるが、実用上問題がないレベル
×:剥離が目立ち実用上問題がある
(6)A層の自己治癒性
JIS K5600(1999年制定)に準じてHB鉛筆(“ユニ”三菱鉛筆製)を用い、750g/cm荷重でA層表面に傷を付けた後、サンプルの真上から以下のカメラ撮影条件で傷が見えなくなるまでの時間を回復時間とした。回復時間が速ければそれだけ自己治癒性が高いことを表す。測定は3回行い、その平均値を採った。また、測定は温調されているアクリルボックス内で行い、温度10℃、20℃の時で行った。また、成型体の測定個所は、成型体の中心部分50mm四方を切り取り、その中の3箇所を測定した。
【0104】
光源:LuminarAce LA−150UXのリングライトをカメラ先端に設置
カメラ:VW−6000(キーエンス株式会社)
sample rate:10pps
exposure time:20000μs
(7)A層のTg
示差熱量分析(DSC)を用い、JIS−K−7122(1987年)に従って測定・算出した。刃ナイフで削りだしたA層のサンプルを、アルミ製のパンに詰め、−100℃から100℃まで20℃/minで昇温した。
装置:セイコー電子工業(株)製”ロボットDSC−RDC220”
データ解析”ディスクセッションSSC/5200”
サンプル質量:5mg
(8)成型倍率
積層フィルムおよび成型体の断面を、ミクロトーム(日本ミクロトーム製、RMS−50)のダイヤモンドナイフにて切削し、白金で蒸着後、SEM(日立製)にて、成形前と成形後のA層の厚みを測定し、下記の式から成型倍率を求めた。測定個所は成型体の中心部分50mm四方を切り取り、その中の3箇所を測定して、平均した。
【0105】
A層の厚さ(成型前)/A層の厚さ(成型後)×100
(9)成型不良
成型後、A層の状態を目視観察し、下記の基準に則り評価を行った。また、観察部分は、成型体の中心部分50mm四方の中で行った。
○:クラックや剥離が発生せず、表面性に問題ない
△:クラックや剥離がわずかに見られる
×:クラックや剥離が生じて実用上問題がある
(10)耐化粧品性
市販品のトリ(カプリルーカプリン酸)グリセリン、2-エチルヘキサン酸セトステアリル、メチルポリシロキサン、及びミリスチン酸イソプロピルの等量混合液を、A層表面に塗り、60℃・95%の恒温恒湿オーブン内に3日間保存した。その後、常温下で1時間乾燥させた後に、表面をガーゼできれいに拭き取った。一日後に表面を観察して、下記の基準に則り判定を行った。また、成型体の測定個所は、成型体の中心部分50mm四方の中で行った。
○:白斑の発生なし、若しくはわずかに白斑発生するが拭き取ればきれいになる。
●:白斑が発生したが拭き取ればきれいになる。
△:白斑が発生し、拭き取っても一日後に再度発生する。
×:白斑が発生し、拭き取っても一日後および二日後に再度発生する。
(11)A層に含有するアルミニウム、スズの量
A層に含有するアルミニウム、スズの量の測定は、次の手順によって行なう。
(a) 使用するフラスコ及び硫酸5mlの質量をはかり、合計質量を記録する。(以下、秤量の際は1mgの桁まで正確にはかる。)
(b) A層を基材フィルムから剥離、もしくは剥離できない場合は刃ナイフで削りだした試料を0.5g秤量し、フラスコへはかり取る。
(c) フラスコに硫酸5mlと硝酸0.5〜1mlを加え、試料が乾固し白煙が生じるまで加熱する。
(d) 加熱を止め、硝酸を1分かけて少量(0.5ml程度)加え続ける。
(e) 再度、試料が乾固し白煙が生じるまで加熱する。
(f) 手順(d)、(e)を、溶液が無色または薄黄色を呈し、透明であり、浮遊物がない状態となるまで、少なくとも10回繰り返す。
(g) 試料が乾固し白煙が生じるまで加熱した後、加熱を止め10分間、常温にて放冷する。
(h) 過酸化水素を1分かけて3ml加える。
(i) 再度、試料が乾固し白煙が生じるまで加熱する。
(j) 常温にて3時間放冷した後、フラスコの質量をはかり、記録する。
(k) (a)と(j)の質量差を求め、この質量差に相当する質量の硫酸をフラスコに追加する。
(l) 20mlの超純水を5分かけて加え攪拌した後、室温まで冷却する。
(m) 得られた溶液を50ml遠沈管に超純水で洗い込み、50mlに定容し試料溶液とする。
【0106】
なお、硫酸、硝酸以外にも、ふっ化水素酸、過塩素酸を用いても良く、超純水以外にも希硝酸を用いても良い。上記手順によって得られた試料溶液について、ICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー製、SPS4000)にてA層中のアルミニウムの含有量を測定した。この測定を試料採取からの繰り返し数2で行ない、その平均値をA層中のアルミニウムの含有量とした。
【0107】
また、同様にしてA層中のスズの含有量も求めた。
(12)透過での測色値b*
積層フィルムを測色計(コニカミノルタセンシング製、CM3600d)の透過測定ユニットにセットし、透過モードにて3回測定し、そのb*の平均値を採った。なお、本発明の積層フィルムの片面にA層を有する場合は、A層を有する面側から測定光が入射するようにセットし、測定を行なう。
(13)組成物の初期粘度・経時粘度
原料の調合後、雰囲気温度25℃にて12時間密閉して放置した後、振動式粘度計(エー・アンド・デイ(株)製、SV−H)にて測定を行なった。
(14)組成物の経時塗工性
原料の調合後、雰囲気温度25℃にて12時間密閉して放置した後、厚み100μmのポリエステル基材フィルム(東レ(株)製 “ルミラー”U46)上に、エージング工程後のA層厚みが30μmとなるようにワイヤーバーを用いて塗布した。塗布後、160℃で2分間、熱風乾燥機で加熱した(加熱工程)。その後、20℃で14日間加熱(エージング)を行い(エージング工程)、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの表面を観察して、下記の基準に則り判定を行なった。
○:塗工表面が均一で、欠点やスジが無い。
△:塗工表面がわずかに乱れ、欠点またはスジがある。
×:塗工表面が乱れ、欠点およびスジがある。
(参考例1)原料Aの作成
<ポリシロキサンaの合成>
攪拌機、温度計、コンデンサ及び窒素ガス導入管を備えた500mlのフラスコにエタノール106質量部、メチルトリメトキシシラン270質量部、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン23質量部、脱イオン水100質量部、1質量%塩酸1質量部及びハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部を仕込み、80℃で3時間反応させ、ポリシロキサンaを合成した。これをメチルイソブチルケトンで50質量%に調整した。
<ポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体aの合成>
攪拌機、温度計、コンデンサおよび窒素ガス導入管を備えた500ml容量のフラスコに、トルエン50質量部、およびメチルイソブチルケトン50質量部、ポリジメチルシロキサン系高分子重合開始剤(和光純薬株式会社製 VPS−0501)20質量部、メタクリル酸メチル30質量部、メタクリル酸ブチル26質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート23質量部、メタクリル酸1質量部および1−チオグリセリン0.5質量部を仕込み、80℃で8時間反応させてポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体aを得た。得られたポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体aは、固形分濃度が50質量%であった。
【0108】
<原料Aの調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a75質量部、上記のポリシロキサンa10質量部および水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308 分子量850)15質量部を配合(混合)した原料A 100重量部に対し、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を15質量部、アルミニウムアセチルアセトナート(同仁化学研究所(株)製 A033)をA層形成後のアルミニウム含有量が200ppmとなるよう調整して添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料Aを作成した。
【0109】
[実施例1]
上記で作成した原料Aを、厚み100μmのポリエステル基材フィルム(東レ(株)製 “ルミラー”U46)上に、エージング工程後のA層厚みが30μmとなるようにワイヤーバーを用いて塗布した。塗布後、160℃で2分間、熱風乾燥機で加熱した(加熱工程)。その後、20℃で14日間加熱(エージング)を行い(エージング工程)、積層フィルムを得た。次に、この得られたフィルムの、A層を有さない側の面(積層フィルムの基材フィルム側の面)に、スクリーン印刷にて2液硬化型のインクを塗布し着色層を形成した後、バインダー層を形成した。つまり積層構成は、「バインダー層/着色層/ポリエステル基材フィルム/A層」である。印刷条件は以下の通り。
【0110】
<着色層>
インキ:帝国インキ製造株式会社製 IPX971(80質量%混合)
溶剤:帝国インキ製造株式会社製 F−003(10質量%希釈)
硬化剤:帝国インキ製造株式会社製 240硬化剤(10質量%混合)
スクリーンメッシュ:T−225(日本特殊織物製)
乾燥:80℃×10分(ボックス乾燥)
<バインダー層>
バインダー:帝国インキ製造株式会社製 IMB−003
スクリーンメッシュ:T−225(日本特殊織物製)
乾燥:90℃×60分(ボックス乾燥)
次に、この着色層およびバインダー層を形成したフィルムを、所定の寸法にカットし、平板の金型にセットして、以下の条件でインサート成形した。
型締圧力:60ton
金型温度:50℃
成形樹脂:住友ダウ株式会社製 PC/ABSアロイ SDポリカ IM6011
成形樹脂温度:260℃
成形品寸法(L×W×H):30×60×3mm
フィルム面の向き:A層面が金型と接する
得られた結果を表1に示す。
【0111】
得られたフィルムと成型体の評価結果を表1に示す。成形によってA層の厚みが薄くなっても優れた自己治癒性を示し、また、成形不良も見られなかった。
[実施例2〜3]
A層の厚みと成型倍率を変更した以外は、実施例1と同様にして積層フィルムと成型体を得た。得られた結果を表1に示す。成形によってA層の厚みが薄くなっても優れた自己治癒性を示し、また、成形不良も見られなかった。
[実施例4〜6]
原料A 100質量部に対し、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)の添加量を表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして積層フィルムと成型体を得た。得られた結果を表1に示す。成形によってA層の厚みが薄くなっても優れた自己治癒性を示し、また、成形不良も見られなかった。
[実施例7〜8]
添加するアルミニウムアセチルアセトナートの量を変更した以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。得られた結果を表1に示す。成形によってA層の厚みが薄くなっても優れた自己治癒性を示し、また、成形不良も見られなかった。
【0112】
[実施例9]
ポリエステル樹脂Aとして、固有粘度0.65、融点255℃のポリエチレンテレフタレート(以下、PETとも表す)[東レ製F20S]を用い、ポリエステル樹脂Bとして固有粘度0.72のポリエチレンテレフタレートの共重合体(シクロヘキサンジカルボン酸30mol%、スピログリコール成分20mol%共重合したPET)に酸化防止剤である“アデカスタブ”AS36[ADEKA製]を0.1重量%添加したものを用いた。これらポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bは、それぞれ乾燥した後、別々の押出機に供給した。
【0113】
ポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bは、それぞれ、押出機にて270℃の溶融状態とし、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて吐出比がポリエステル樹脂A/ポリエステル樹脂B=1.2/1になるように計量しながら、スリット数267個のスリット板1とスリット数269個のスリット板2とスリット数267個のスリット板3によってポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bを交互に積層し、フィードブロックにて合流させて、801層に積層された積層体とした。合流したポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bは、フィードブロック内にて各層の厚みが表面側から反対表面側に向かうにつれ徐々に厚くなるように変化させ、ポリエステル樹脂Aが400層、ポリエステル樹脂Bが401層からなる厚み方向に交互に積層された構造とした。また、隣接するA層とB層の層厚みはほぼ同じになるようにスリット形状を設計した。この設計では、350nm〜1200nmに反射帯域が存在するものとなる。このようにして得られた計801層からなる積層体を、マルチマニホールドダイに供給、さらにその表層に別の押出機から供給したポリエステル樹脂Aからなる層を形成し、シート状に成形した後、静電印加にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。なお、ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bが合流してからキャスティングドラム上で急冷固化されるまでの時間が約8分となるように流路形状および総吐出量を設定した。
【0114】
得られたキャストフィルムを、75℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長100mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、縦方向に3.0倍延伸し、その後一旦冷却した。次に、この一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、110℃の温度で横方向に3.3倍延伸した。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で235℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度にて幅方向に5%の弛緩処理を施し、その後、室温まで徐冷後、巻き取った。得られたフィルムの厚みは、100μmであった。得られた積層フィルムは、層間剥離がなく、優れた光沢調を有していた。この積層フィルムに実施例3と同様にしてA層を形成して、成型体を得た。得られた結果を表1に示す。得られたフィルムと成型体は優れた金属調の外観と自己治癒性を有していた。
【0115】
[実施例10]
ポリエステル樹脂Aとして、固有粘度0.65、融点255℃のPET[東レ製F20S]を用い、ポリエステル樹脂Cとして、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分が、グリコール成分に対して、33mol%共重合された共重合ポリエステル(イーストマン・ケミカル社製 EatsterPETG6763)と、ポリエステル樹脂Aとを質量比76:24で混合し、ベント式二軸押出機を用いて、280℃で溶融混練し、副生したジエチレングリコールが、樹脂中のグリコール成分に対して、2モル%共重合された、1,4−シクロヘキサンジメタノール25mol%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(ジエチレングリコール共重合率2モル%)を用いた。
【0116】
ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Cとを質量比70:30で混合し、真空乾燥機にて180℃4時間乾燥し、水分を十分に除去した後、単軸押出機に供給、275℃で溶融し、異物の除去、押出量の均整化を行った後、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ未延伸フィルムを得た。
【0117】
次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、予熱温度を9
0℃、延伸温度を95℃で長手方向に3.2倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属
ロールで冷却化した。
【0118】
次いでテンター式横延伸機にて予熱温度90℃、延伸温度100℃で幅方向に3.5倍
延伸し、そのままテンター内にて幅方向に4%のリラックスを掛けながら温度210℃で
5秒間の熱処理を行い、フィルム厚み188μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは、耐傷性がやや弱いものの透明性と成形性に非常に優れていた。このフィルムに実施例12と同様にしてA層を形成して、成型体を得た。得られた結果を表2に示す。得られたフィルムと成型体は、自己治癒性に優れていた。
[比較例1]
A層中に含有するアルミニウムの量を変更した以外は、実施例3と同様にして積層フィルムを得た。得られた結果を表1に示す。色目が黄色く、外観品位が悪かった。
[比較例2]
アルミニウムアセチルアセトナートを添加しない以外は、実施例3と同様にして積層フィルムを得た。得られた結果を表1に示す。タック性が残り、自己治癒性も悪くなった。
【0119】
(参考例2)原料Bの作成
<ポリシロキサンbの合成>
攪拌機、温度計、コンデンサおよび窒素ガス導入管を備えた500ml容量のフラスコにエタノール106質量部、テトラエトキシシラン320質量部、脱イオン水21質量部、および1質量%塩酸1質量部を仕込み、85℃で2時間保持した後、昇温しながらエタノールを回収し、180℃で3時間保持した。その後、冷却し、粘調なポリシロキサンaを得た。
【0120】
<ポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体bの合成>
上記のポリシロキサンaの合成と同様の装置を用い、トルエン50質量部、およびメチルイソブチルケトン50質量部、ポリジメチルシロキサン系高分子重合開始剤(和光純薬株式会社製 VPS−0501)20質量部、メタクリル酸メチル30質量部、メタクリル酸ブチル26質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート23質量部、メタクリル酸1質量部および1−チオグリセリン0.5質量部を仕込み、80℃で8時間反応させてポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体aを得た。得られたポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体aは、固形分濃度が50質量%であった。
【0121】
<原料Bの調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体b75質量部、上記のポリシロキサンb10質量部および水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)15質量部を配合(混合)した原料B100質量部に対し、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を15質量部、ジブチルスズラウレート(旭電化工業(株)製、BT−18)をA層形成後の含有量が200ppmとなるよう調整して添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料Bを作成した。
[比較例3〜5]
原料B 100質量部に対し、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)の添加量を表のように変更した以外は、実施例2と同様にして積層フィルムと成型体を得た。得られた結果を表に示す。A層の、特に低温における自己治癒性が低く、成形してA層厚みが薄くなるにつれ、自己治癒性はさらに悪化する傾向が見られた。また、比較例3は硬化が不十分であり、タック性、密着性、耐スチール性が悪く、実用に耐えないものであった。
(参考例3)原料Cの作成
<ポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体cの合成>
モノマー組成をメタクリル酸メチル20質量部、メタクリル酸ブチル26質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート23質量部、ポリシロキサンa10質量部、メタクリル酸1質量部および片末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製、X−22−174DX)20質量部とした以外、参考例2と同様の方法でポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体cを合成した。得られたグラフト共重合体cは、固形分50%であった。
【0122】
<原料Cの調合>
上記で得られたポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体d100 質量部に、架橋剤としてHMDIトリメチロールプロパンアダクト体(大日本インキ化学工業株式会社製、バーノックDN−950,固形分:75質量%)16質量部、ジブチルスズラウレート(旭電化工業(株)製、BT−18)をA層形成後の含有量が200ppmとなるよう調整して添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料Cを作成した。
[比較例6]
上記で作成した原料Cを、実施例2と同様にして積層フィルムと成型体を得た。結果を表に示す。
【0123】
(参考例4)原料Dの作成
<ポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体dの合成>
上記のポリシロキサンaの合成と同様の装置を用い、トルエン50質量部およびメチルイソブチルケトン50質量部を仕込み、80℃まで昇温した。別に、メタクリル酸メチル30質量部、メタクリル酸ブチル26質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート23質量部、メタクリル酸1質量部および片末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製,X−22−174DX)20質量部およびアゾビス−2−メチルブチロニトリル(日本ヒドラジン工業株式会社製,ABN−E)1質量部を混合し、この混合モノマーを上記トルエンおよびメチルイソブチルケトンの混合液に3時間かけて滴下した。その後6時間反応させて、ポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体dを得た。得られたグラフト共重合体dは、固形分50質量%であった。
【0124】
<原料Dの調合>
上記で得られたポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体d85質量部に、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、分子量850)15質量部を配合し、架橋剤としてHMDIトリメチロールプロパンアダクト体(大日本インキ化学工業株式会社製、バーノックDN−950,固形分:75質量%)13質量部、ジブチルスズラウレート(旭電化工業(株)製、BT−18)をA層形成後の含有量が200ppmとなるよう調整して添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料Dを作成した。
【0125】
[比較例7]
上記で作成した原料Dを、実施例2と同様にして積層フィルムと成型体を得た。結果を表1に示す。
【0126】
(参考例5)原料Eの作成
<ポリシロキサンeの合成>
攪拌機、温度計、コンデンサ及び窒素ガス導入管を備えた500mlのフラスコにエタノール106質量部、メチルトリメトキシシラン270質量部、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン23質量部、脱イオン水100質量部、1質量%塩酸1質量部及びハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部を仕込み、80℃で3時間反応させ、ポリシロキサンeを合成した。これをメチルイソブチルケトンで50質量%に調整した。
【0127】
<ポリジメチルシロキサン−ポリカプロラクトン系グラフト共重合体eの合成>
上記ポリシロキサンeの合成に用いた装置を用い、トルエン50質量部、酢酸イソブチル50質量部を仕込み、110℃まで昇温した。別にメタクリル酸メチル20質量部、カプロラクトンメタクリルエステル(ダイセル化学工業(株)製 プラクセルFM−5)32質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート17質量部、前記のポリシロキサンb10質量部、片末端メタクリル基ポリジメチルシロキサン(東亞合成化学工業(株)製 AK−32)20質量部、およびメタクリル酸1質量部、1,1−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル2質量部を混合し、この混合モノマーを上記のトルエン、酢酸ブチルの混合液に2時間かけて滴下した。その後、110℃で8時間反応させ、固形分濃度50質量%の水酸基を有するポリジメチルシロキサン−ポリカプロラクトン系グラフト共重合体eを得た。得られたブロック共重合体は、固形分50質量%であった。
【0128】
<原料Eの調合>
ポリジメチルシロキサン−ポリカプロラクトン系グラフト共重合体e100質量部に、架橋剤としてヘキサンメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)31質量部、ジブチルスズラウレート(旭電化工業(株)製、BT−18)をA層形成後の含有量が200ppmとなるよう調整して添加し、更にメチルエチルケトンを用いて固形分濃度40質量%に調整した原料Eを作成した。
【0129】
[比較例8]
上記で作成した原料Eを、実施例2と同様にして積層フィルムと成型体を得た。得られた結果を表1に示す。A層の、特に低温における自己治癒性が低く、成形してA層厚みが薄くなるにつれ、自己治癒性はさらに悪化する傾向が見られた。
【0130】
(参考例6)原料Fの作成
<ウレタンアクリレートfの合成>
上記ポリシロキサンbの合成に用いた装置を用い、トルエン57.7質量部、ステアリルアルコール(NAA46;日本油脂株式会社製)9.7質量部を仕込み40℃まで昇温した。その後ステアリルアルコールが完全に溶解したのを確認し、ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業株式会社製)25質量部を仕込み70℃まで昇温させた。同温度で30分反応後、ジブチルスズラウレートを0.02質量部仕込み同温度で3時間保持した。その後、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(プラクセルFA2D;ダイセル化学工業株式会社製)100質量部、ジブチルスズラウレート0.02部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.02質量部を仕込み、70℃で3時間保持して反応を終了し、トルエン77部を加え固形分50質量%のウレタンアクリレートfを得た。
【0131】
<原料Fの調合>
得られたウレタンアクリレートf100質量部にフタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート(M−5400;東亞合成株式会社製)20質量部、トルエン20部及び光開始剤(イルガキュア184;チバガイギー社製)3質量部を配合し、固形分50質量%の原料Fを作成した。
【0132】
[比較例9]
上記で作成した原料Fを、実施例2と同様にして積層フィルムと成型体を得た。ただし塗膜の乾燥条件は、60℃・1分間とし、乾燥後、高圧水銀ランプにて照射量300mJ/cmで硬化させた。得られた結果を表1に示す。A層は、耐スチールウール性に優れていたものの、自己治癒性が低く、成形により端部にクラックが発生した。
【0133】
(参考例7)原料Gの作成
<ウレタンアクリレートgの合成>
上記ポリシロキサンaの合成に用いた装置を用い、トリエチレンジイソシアネート誘導体〔武田薬品工業(株)製、商品名:タケネートD−212〕30質量部とポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート〔ダイセル化学工業製、プラクセルFA3〕70質量部とを反応させて得た。得られたブロック共重合体は、固形分50%であった。
【0134】
<ポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体gの合成>
上記のポリシロキサンaの合成と同様の装置を用い、ポリジメチルシロキサンマクロモノマー(チッソ製、FM0721)10質量部と、ブチルメタクリレート30質量部と、イソシアネートエチルメタクリレート(昭和電工製、カレンズMOI)15質量部部と、ペンタエリスリトールアクリレート〔東亞合成(株)製、商品名:アロニックスM305〕20質量部と、メチルメタクリレート25部とを反応させて得た。
【0135】
<原料Gの調合>
上記のウレタンアクリレートg72質量部と、ポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体g20質量部と、ポリオルガノシロキサン基含有共重合体(日本油脂製、モディパーFS710)5部と、光重合開始剤である1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン3質量部を配合し、固形分50質量%の原料Gを作成した。
【0136】
[比較例10]
上記で作成した原料Gを、実施例2と同様にして積層フィルムと成型体を得た。ただし塗膜の乾燥条件は、60℃・1分間とし、乾燥後、高圧水銀ランプにて照射量300mJ/cmで硬化させた。得られた結果を表1に示す。A層は、耐スチールウール性に優れていたものの、自己治癒性が低く、成形により端部にクラックが発生した。
[比較例11]
実施例1と同様の方法にて行なった。ただし、アルミニウムアセチルアセトナートの代わりに、ジブチルスズラウレートを用いている。結果を表1に示す。得られたフィルムは優れた自己治癒性を示し、また、成形不良も見られなかった。ただし、組成物の経時粘度が高い為、経時塗工性はやや悪い。
[比較例12]
実施例1と同様の条件にて行った。ただしA層は積層していない。結果を表1に示す。得られたフィルムは自己治癒性がなく、表面傷も非常に発生しやすかった。
【0137】
[比較例13]
実施例9と同様の条件にて行った。ただしA層は積層していない。結果を表1に示す。得られたフィルムは自己治癒性がなく、表面傷も非常に発生しやすかった。
【0138】
【表1−1】

【0139】
【表1−2】

【0140】
なお、表中の「組成物の質量部 a」とは、A層を形成するために用いる組成物の全量(溶媒以外)を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0141】
成型性と自己治癒性が同時に求められる用途、特に、加飾成型用フィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片側に、A層を有する積層フィルムであって、
該A層が、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、を有し、
該A層が、1ppm以上350ppm以下のアルミニウムを含有することを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記A層のスズの含有量が、1ppm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
透過での測色値b*が−0.6以上0.6以下である請求項1〜2のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項4】
A層のガラス転移点が−30〜0℃である請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記A層が、(1)(ポリ)カプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、を有する樹脂を主成分とすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記A層が、イソシアネート基を含有する化合物を含む組成物により形成されてなる層であり、
該組成物は、組成物の全成分100質量%中にイソシアネート基を含有する化合物を11質量%以上22質量%以下含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
A層の厚みが15〜19μmである請求項1〜6のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
80℃および150℃における最低破壊伸度が65%以上である請求項1〜7のいずれかに記載の積層フィルム。

【公開番号】特開2012−139951(P2012−139951A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−416(P2011−416)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】