説明

積層フィルム及びその製造方法

【課題】ナーリング工程を施すことなく、巻取り時の横ズレ及び巻締まり防止や、巻取り時にフィルムの裏面と膜面との間に隙間を確保し、フィルムが巻取られる際に、巻取り時のフィルムの裏面と膜面との過度な接触や密着、塵埃により、膜面やフィルムに傷やシワなどのダメージが与えられてしまったり、フィルムの円周上に黒い帯が視認されたりすることなく、また巻き取り時の張力を低くすることもなく、巻取ることができる積層フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】表面張力や表面エネルギー及び乾燥工程を制御することで、塗布膜の生成条件を制御することで、積層フィルムの中央部より1μm以上高い第一及び第二突条対を幅方向側端部の両端付近にそれぞれ形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄い透明の積層フィルムは近年、自動車及び建材の窓用遮熱部材の光学反射部材、液晶ディスプレイの偏光板の保護膜、位相差板等の光学補償フィルム、プラスチック基板、写真用支持体、あるいは動画用セルや光学フィルタ、さらにはOHPフィルムなどの光学材料として需要が増大している。
【0003】
このような積層フィルムは、支持体となる例えばセルローストリアセテート(TAC)などの透明な基材フィルムに成膜をすることによって得られる。主な成膜方法として、スパッタリングやプラズマCVDなどの真空成膜法や、金属や高分子などの主成分に溶剤や各種の添加剤を加えた溶液を塗布し乾燥して成膜する塗布成膜法などが知られている。これらの成膜法によって、効率よく、高い生産性を確保して成膜を行うために、長尺な基材フィルムに連続的に成膜することが行われている。
【0004】
特に最近、環境・エネルギーへの関心の高まりから省エネルギーに関する工業製品へのニーズは高く、その一つとして住宅及び自動車等の窓ガラスの遮熱、つまり日光による熱負荷を減少させるのに有効な、ガラス及びフィルムが求められている。このようなガラス及びフィルムは、太陽光スペクトルにおける可視光領域の太陽光線を透過し、赤外領域の太陽光線の透過を防ぐ特性が要求される。
【0005】
このような遮熱用のガラス及びフィルムの特性を得る方法として、コレステリック液晶層を利用する方法が知られている。例えば、近赤外〜赤外域にて機能する同一回転方向の円偏光を与えるコレステリック液晶層を、λ/2板の両面に形成する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0006】
特にこのような積層フィルムを製造する上で、成膜方法を実施する設備として、長尺な基材(フィルム)をロール状に巻回してなる供給ロールと、成膜済の基材をロール状に巻回する巻取りロールと、を用いる。いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)の成膜装置が知られている。このロール・ツー・ロールの成膜装置は、真空成膜法や塗布成膜法による成膜室に、供給ロールから巻取りロールまで長尺な基材を挿通し、供給ロールからの基材の送出しと巻取りロールによる成膜済基材の巻取りとを同期して行いつつ、成膜室において、搬送される基材に連続的に成膜を行う。
【0007】
このように成膜したフィルムが巻取られる際に、巻取り時のフィルムの裏面と膜面との過度な接触や密着、塵埃により、膜面やフィルムに傷やシワなどのダメージが与えられてしまったり、フィルムの円周上に黒い帯が視認されたりという問題があった。また一方で、問題が起こらないように巻き取り時の張力を低くして巻き取る場合には、フィルム同士の保持が弱く横ズレが生じ、製品として問題となる場合があった。
【0008】
このような現象を回避するため、連続的に搬送されるプラスチックフィルムをロール上に巻取る際、ナーリングと呼ばれるエンボス加工によりフィルムの両端部に微小凸部を付与して、巻取り時の横ズレ及び巻締まり防止や、巻取り時にフィルムの裏面と膜面との間に隙間を確保することで接触や密着による問題の発生を低減させることが知られている(特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4109914号
【特許文献2】特許第3226190号
【特許文献3】特開2002−211803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記効果を得るためには、ナーリングにより形成された凸部の高さは、塗布膜の膜厚よりも大きくする必要がある。しかし、ナーリングにより形成できる凸部の高さは、基材の厚みや剛性などに影響し限界があることから、膜厚がナーリングの凸部よりも大きい場合には上記効果が得られないという問題点がある。また、形成された凸部は、巻取り後の圧力で変形することが多く、高さにバラつきが生じて上記効果が得られないという問題点もある。さらに、ナーリングを形成するには新たに工程が増えることから、生産性の低下や製造コストの増加という問題点もある。
【0011】
発明者の鋭意検討の結果、塗布成膜法を用いた場合において、基材及び塗布液にある一定の条件下において、両端部に突条が形成されることがわかった。また、この突条は条件の設定により制御できることがわかった。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、この突条を制御することで、ナーリング工程を施すことなく、巻取り時の横ズレ及び巻締まり防止や、巻取り時にフィルムの裏面と膜面との間に隙間を確保し、フィルムが巻取られる際に、巻取り時のフィルムの裏面と膜面との過度な接触や密着、塵埃により、膜面やフィルムに傷やシワなどのダメージが与えられてしまったり、フィルムの円周上に黒い帯が視認されたりすることなく、また巻き取り時の張力を低くすることもなく、巻取ることができる積層フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の積層フィルムは、ウェブ状の第一基材と、第一基材上に第一塗布液を塗布して設けられた第一塗布膜と、第一塗布膜を有する第二基材上に第二塗布液を塗布して設けられた第二塗布膜と、を備えた積層フィルムであって、第一及び第二塗布膜は積層フィルムの中央部より1μm以上高い第一及び第二突条対が幅方向側端部の両端付近にそれぞれ形成され、第一突条対が第二突条対よりも前記積層フィルムの側端側に配置されることを特徴とする。
【0014】
第一及び第二塗布液は、高分子液晶化合物,フッ素系配向制御剤,及び溶剤を有することが望ましい。また、第一及び第二塗布膜は、その表面から深さ500nmまでの表層に総フッ素含有量の90%以上のフッ素が偏析していることが望ましい。
【0015】
第一及び第二突条対の高さの差が3μm以下であることが望ましい。また、第一及び第二突条対の間隔が1mm以上であることが望ましい。また、第一及び第二塗布膜の膜厚は、1μm以上であることが望ましい。また、第一及び第二塗布膜は、コレステリック相を示すことが望ましい。
【0016】
また、第一及び第二基材の表面エネルギーが40mN/m以下であることが望ましい。また、第一又は第二塗布液の表面張力が20mN/m以上40mN/m以下であることが望ましい。また、第一及び第二塗布膜は、溶剤揮発後の粘度が0.5Pa・s以下であることが望ましい。
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の積層フィルムの製造方法は、ウェブ状の第一基材上の第一塗布領域に第一塗布液を塗布して第一湿潤膜を得る第一塗布工程と、第一湿潤膜から溶剤を蒸発させ第一乾燥膜を得る第一乾燥工程と、第一乾燥膜を硬化させ第一塗布膜を得る第一硬化工程と、第二基材上の第一塗布領域よりも内側の第二塗布領域に第二塗布液を塗布して第二湿潤膜を得る第二塗布工程と、第二湿潤膜から溶剤を蒸発させ第二乾燥膜を得る第二乾燥工程と、第二乾燥膜を硬化させ第二塗布膜を得る第二硬化工程と、を有し、第一及び第二基材の表面エネルギーが40mN/m以下であり、第一又は第二塗布液の表面張力が20mN/m以上40mN/m以下であることを特徴とする。
【0018】
第一及び第二塗布液は、高分子液晶化合物,フッ素系配向制御剤,及び溶剤を有し、第一乾燥工程と第一硬化工程の間に第一配向工程と、第二乾燥工程と第二硬化工程の間に第二配向工程と、を有することが望ましい。また、第一及び第二塗布膜は、コレステリック相を示すことが望ましい。また、第一及び第二塗布液の溶剤揮発後の粘度が0.5Pa・s以下であることが望ましい。
【0019】
第一塗布領域の端部と第二塗布領域の端部との間隔が1mm以上であることが望ましい。また、第一及び第二塗布膜の膜厚は、1μm以上であることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の積層フィルムは、突条対がフィルムの幅方向側端部の両端付近にそれぞれ形成されているため、ナーリング工程を施すことなく、巻取り時の横ズレ及び巻締まり防止や、巻取り時にフィルムの裏面と膜面との間に隙間を確保することができるため、フィルムが巻取られる際に、巻取り時のフィルムの裏面と膜面との過度な接触や密着、塵埃により、膜面やフィルムに傷やシワなどのダメージが与えられてしまったり、フィルムの円周上に黒い帯が視認されたりすることなく、また巻き取り時の張力を低くすることもなく、巻取ることができる。
【0021】
本発明の積層フィルムの製造方法は、突条対をフィルムの幅方向側端部の両端付近にそれぞれ形成するため、ナーリング工程を施すことなく、巻取り時の横ズレ及び巻締まり防止や、巻取り時にフィルムの裏面と膜面との間に隙間を確保することができるため、フィルムが巻取られる際に、巻取り時のフィルムの裏面と膜面との過度な接触や密着、塵埃により、膜面やフィルムに傷やシワなどのダメージが与えられてしまったり、フィルムの円周上に黒い帯が視認されたりすることなく、また巻き取り時の張力を低くすることもなく、巻取ることが可能な、積層フィルムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る積層フィルムを説明する概略図である。
【図2】本発明の積層フィルム製造装置の概略を示す平面図である。
【図3】本発明の塗布工程に用いた塗布装置を示す概略図である。
【図4】本発明の塗布工程に用いた塗布ヘッドを示す概略図である。
【図5】本発明の乾燥工程に用いた乾燥装置を示す概略図である。(A)はフィルムの幅方向に垂直な断面における断面図、(B)は(A)のB−B´における断面図である。
【図6】本発明の配向工程に用いた加熱装置を示す概略図である。(A)はフィルムの幅方向に垂直な断面における断面図、(B)は(A)のC−C´における断面図である。
【図7】本発明の硬化工程に用いたUV照射装置の概略図である。(A)はフィルムの幅方向に垂直な断面における断面図、(B)は(A)のD−D´における断面図である。
【図8】条件1における、塗布液が塗布膜となるまでの形状変化を説明する概略図である。
【図9】条件2における、塗布液が塗布膜となるまでの形状変化を説明する概略図である。
【図10】条件3における、塗布液が塗布膜となるまでの形状変化を説明する概略図である。
【図11】突条対が形成される条件をマップ上に示した概略図である。
【図12】本発明における積層フィルムの第二塗布膜の表面をESCAにより深さ方向にフッ素を分析した結果を示すグラフである。
【図13】本発明における積層フィルムの第一,第二塗布層及び基材フィルムの表面形状を膜厚計を用いて測定したプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(積層フィルム)
図1に示すように、積層フィルム2は、基材フィルム10に第一塗布層11と第二塗布層12と第三塗布層13とを形成した構造を有しており、積層フィルム2の幅方向側端部の両端付近に第一突条対16及び第二突条対17を有している。本発明における積層フィルム2は、図1の例のみに限らず、幅方向側端部の両端付近に第一突条対16及び第二突条対17を有していればどのような形態であってもかまわない。
【0024】
第一突条対16を形成する要因となる塗布層を第一塗布膜、第二突条対17を形成する要因となる塗布層を第二塗布膜、とここでは呼ぶこととする。第一塗布膜の原料となる塗布液を第一塗布液、第二塗布膜の原料となる塗布液を第二塗布液、とし、第一塗布液を塗布する前の基材を第一基材、第二塗布液を塗布する前の基材を第二基材、とする。
【0025】
図1(A−1),(A−2),(A−3)においては、それぞれ第一塗布層11と第二塗布層12とが第一及び第二塗布膜である。また、図1(B−1),(B−2),(B−3)においては、それぞれ第一塗布層11と第三塗布層13とが第一及び第二塗布膜である。また、図1(C−1),(C−2),(C−3),(C−4),(C−5),(C−6)においては、それぞれ第二塗布層12と第三塗布層13とが第一及び第二塗布膜である。積層フィルム2は、その幅方向側端部の両端付近に第一突条対16及び第二突条対17を有していればよく、いかなる他の塗布層及び他の成膜手段による成膜層が別途形成されていても構わない。
【0026】
図1に示す積層フィルム2は、その幅方向側端部の両端付近にある第一突条対16及び第二突条対17が、積層フィルム2の中央付近の高さより少なくとも1μm以上高いことを特徴としている。また、第一突条対16と第二突条対17との高さの差は1μm以下であることが望ましく、第一突条対16と第二突条対17との間隔が1mm以上であることが望ましい。
【0027】
以後、基材フィルム10に表面エネルギーが40mN/mであるTACを用いた実施形態について説明するため、第一塗布層11には突条対は形成されない。そのため、以後、図1(C−1)の積層フィルム2について発明を実施するための形態を記載するが、図1の(C−1)以外の積層フィルム2について発明については、適宜設計変更を加えることで実施が可能である。この場合においては、第一塗布層11は突条対を持たない層であり、第二塗布層12が第一突条対16を形成する要因となる塗布層を第一塗布膜であり、第三塗布層13が第二突条対17を形成する要因となる塗布層を第二塗布膜である。また、基材フィルム10に第一塗布層11を塗布したものは第一基材11Aである。
【0028】
(積層フィルム製造装置)
図2に示すように、積層フィルム製造装置20は、成膜装置22A,22B,22Cを有している。成膜装置22A,22B,22Cはそれぞれ、高分子液晶化合物,フッ素系配向制御剤,及び溶剤を含有する塗布液を基材に塗布して湿潤層を形成する塗布装置24A,24B,24Cと、湿潤層から溶剤を蒸発させて乾燥層を形成する乾燥装置26A,26B,26Cと、乾燥層において高分子液晶化合物を配向させて配向層を形成する加熱装置28A,28B,28Cと、配向層にUVを照射して硬化させ塗布層を形成するUV照射装置30A,30B,30Cと、を備えている。
【0029】
この積層フィルム製造装置20は、ロール・ツー・ロールによって塗布により成膜する装置で、帯状の基材フィルム10は供給軸32に供給ロール34として装填され、帯状方向に搬送されつつ塗布により成膜される。成膜された積層フィルム2が巻取り軸36に巻取りロール38として巻取られる。また、フィルムが成膜装置22A,22B,22Cを安定して通過できるように、搬送ローラ40が適宜設けられている。
【0030】
図3,図4に示すように、塗布装置24Bは、第一塗布液を第一基材11Aに塗布し第一湿潤層12Aを形成する塗布ヘッド42と、塗布液を塗布ヘッド42に供給する塗布液供給タンク44と、塗布ヘッド42と塗布液供給タンク44とを接続する塗布液供給ライン46と、を有する。塗布ヘッド42には、塗布液供給ライン46より塗布液を供給する塗布用供給口42Aと、塗布液を満遍なく基材に塗布する隘路な流路である塗布スリット42Bと、塗布用供給口42Aより供給された塗布液を塗布スリット42Bへ供給する前に一時的に貯蔵する塗布用ポケット42Cと、が設けられている。塗布スリット42Bは基材の経路側を向いて基材に近い位置に設置される。塗布装置24A,24Cも塗布装置24Bと同様であるため、説明を省略する。
【0031】
図5(A)(B)に示すように、乾燥装置26Bは、第一基材11Aと第一湿潤層12Aからなる第一湿潤フィルム12Bの経路と、第一湿潤フィルム12Bの第一塗布液を塗布した側に熱風を当てる熱風装置48とが設置されており、下部に溶剤を回収する溶剤回収装置50が備え付けられている。また、乾燥装置26B内には温度や湿度などの環境を調節する調節器(図示なし)が備え付けられており、第一湿潤層を乾燥させて第一巻早々を形成するのに最適な環境に調節されている。乾燥装置26Bから、第一乾燥フィルム12Cが送り出される。乾燥装置26A,26Cも乾燥装置26Bと同様であるため、説明を省略する。
【0032】
図6(A)(B)に示すように、加熱装置28Bは、第一乾燥フィルム12Cの経路と、第一乾燥フィルム12Cを厚さ方向から加熱するヒータ52が設置されている。また、加熱装置28B内には温度や湿度などの環境を調節する調節器(図示なし)が備え付けられており、第一乾燥層において高分子液晶化合物を配向させて第一配向層を形成するのに最適な環境に調節されている。加熱装置28Bから、第一配向フィルム12Dが送り出される。加熱装置28A,28Cも加熱装置28Bと同様であるため、説明を省略する。
【0033】
図7(A)(B)に示すように、UV照射装置30Bは、第一配向フィルム12Dの経路と、第一配向フィルム12Dの第一塗布液を塗布した側にUVを照射するUV照射ランプ54が設置されている。また、UV照射装置30B内には温度や湿度などの環境を調節する調節器(図示なし)が備え付けられており、第一配向層を硬化させ第一塗布膜を形成するのに最適な環境に調節されている。加熱装置28Bから、第一硬化フィルム12Eが送り出される。UV照射装置30A,30CもUV照射装置30Bと同様であるため、説明を省略する。
【0034】
(塗布液)
本発明において、第一塗布層11〜第三塗布層13を形成する塗布液には、いずれも1種類以上の重合性液晶化合物、配向制御剤、重合開始剤、キラル剤、溶媒を有する。それぞれ、以下に示すような化合物を用いることが可能である。
【0035】
本発明において、重合性液晶化合物には、棒状ネマティック液晶化合物などのような棒状の硬化性コレステリック液晶化合物が用いられる。例えば、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が用いられる。
【0036】
また、重合性基をコレステリック液晶化合物に導入することで得られる重合性コレステリック液晶化合物を用いることもできる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、及びアジリジニル基が含まれ、その中でも不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基が特に好ましい。重合性コレステリック液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個である。重合性コレステリック液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、及び特開2001−328973号公報などに記載の化合物が含まれ、2種類以上の重合性コレステリック液晶化合物を併用してもかまわない。
【0037】
これらの重合性液晶化合物のコレステリック相になる温度範囲は、20℃〜150℃である。そのため、乾燥装置26A,26B,26Cにおける温度が、このコレステリック相になる温度の上限を超えない範囲で、熱風装置48などの条件を設定することができる。本実施形態においては、加熱工程における温度を85度に設定した。
【0038】
本発明において、配向制御剤には、特開2005−099248号公報の段落0016〜段落0050に記載されているような化合物などが用いられる。例えば、化1に記載の化合物が用いられる。なお、これらの化合物に制限されるものではなく、また、これらと同様の機能を有する化合物を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもかまわない。
【0039】
【化1】

【0040】
本発明において、紫外線照射により重合反応を進行させる態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。例えば、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が用いられる。なお、これらの化合物に制限されるものではなく、また、これらと同様の機能を有する化合物を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもかまわない。
【0041】
本発明において、キラル剤には、特開2002−179668号公報の段落0057〜段落0096に記載されているような水平配向剤が用いられる。例えば、化2に記載の化合物が用いられる。なお、これらの化合物に制限されるものではなく、また、これらと同様の機能を有する化合物を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもかまわない。
【0042】
【化2】

【0043】
本発明において、溶媒には特に制限はなく、硬化性コレステリック液晶化合物を溶解させる公知の溶剤を用いることができる。例えば、ケトン類(アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などが用いられる。なお、これらの化合物に制限されるものではなく、また、これらと同様の機能を有する化合物を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもかまわない。
【0044】
(突条対形成メカニズム)
以下に、第一基材11A上に第一湿潤層12Aを塗布する際の第一湿潤層12Aの形状の形成メカニズムについて説明する。第一湿潤層12Aの形状は、式1で表現されるエネルギーEが最小となるように定められる。なお、単位面積当たりの第一基材11Aと大気との界面エネルギーを第一基材11Aの表面エネルギーと称し、単位面積当たりの第一湿潤層12Aと大気との界面エネルギーを第一湿潤層12Aの表面張力と称する。また、表面エネルギー及び表面張力という言葉は、これらと同様に定義する。
【0045】
【数1】

【0046】
式1の第1項と第2項は、それぞれ第一基材11Aと大気,第一基材11Aと第一湿潤層12Aの間における界面エネルギー量を示しており、式1の第3項と第4項は、それぞれ第一湿潤層12Aと大気の間における界面エネルギーと第一湿潤層12Aの重力位置エネルギーを示している。式1より、系を決定する因子は3つの界面エネルギーと重力位置エネルギーと、により構成されているといえる。
【0047】
第一基材11Aと大気が触れる面積と、第一基材11Aと第一湿潤層12Aが触れる面積と、の合計は第一湿潤層12Aの形状に依存せず一定値であるため、式2が成立する。
【0048】
【数2】

【0049】
これより、エネルギーEは次のように二つに分けて式3,式4として考えることが可能となる。
【0050】
【数3】

【0051】
式2を考慮すれば、式3については大きくは濡れ角の要素などが第一湿潤層12Aの形状の決定に寄与することがわかる。これより、以下では濡れ角が90度より大きい系をA、90度の系をB、90度より小さい系をCとして場合分けする。
【0052】
そのため、濡れ角以外の他の第一湿潤層12Aの形状の要素に関しては、式4におけるE2について考慮すればいいことがわかる。そこで、以下の式5〜式7に示す条件に分けて、第一湿潤層12Aの形状の決定プロセスについて説明する。
【0053】
【数4】

【0054】
式5の条件下における第一湿潤層12Aの形状の決定プロセスを、図8を用いて説明する。式5の条件から、第一湿潤層12Aの塗布直後の形状は、第一湿潤層12Aと大気との界面エネルギーを最小にするように決定される。つまり、第一湿潤層12Aと大気との接触面積を最小にするように決定される。そのため、第一湿潤層12Aの塗布直後の形状は、それぞれ濡れ角が90度より大きい系,90度の系,90度より小さい系において、それぞれ図8(A−1),図8(B−1),図8(C−1)に示すようになる。
【0055】
第一湿潤層12Aの両端部が最も外気に触れている面積が大きいために効率よく溶剤が飛ばされるため、第一湿潤層12Aの両端部が乾燥しやすい。そのため、図8(A−1),図8(B−1),図8(C−1)のそれぞれにおいて、図8(A−2),図8(B−2),図8(C−2)のそれぞれに示すように、第一湿潤層12Aの両端部に第一初期乾燥領域12ASが形成される。
【0056】
第一初期乾燥領域12ASが形成されると、第一湿潤層12Aは、第一基材11Aだけでなく第一初期乾燥領域12ASに対しても適切な濡れ角を形成するように、なおかつ式1に示すエネルギーEが最小となるように、形状を変化させる可能性がある。しかし、式5の条件下によれば、第一湿潤層12Aと大気との接触面積を最小にするように決定されることから、図8(A−3),図8(B−3),図8(C−3)のそれぞれに示すように、実質的に第一湿潤層12Aの形状はほとんど変化しないことがわかる。つまり、式5の条件化においては、突条対は形成されないといえる。
【0057】
式6の条件下における第一湿潤層12Aの形状の決定プロセスを、図9を用いて説明する。式6の条件から、第一湿潤層12Aの塗布直後の形状は、第一湿潤層12Aの重力位置エネルギーを最小にするように決定される。そのため、第一湿潤層12Aの塗布直後の形状は、それぞれ濡れ角が90度より大きい系,90度の系,90度より小さい系において、それぞれ図9(A−1),図9(B−1),図9(C−1)に示すように、極端に濡れ広がった形状となる。
【0058】
第一湿潤層12Aの両端部が最も外気に触れている面積が大きいために効率よく溶剤が飛ばされるため、第一湿潤層12Aの両端部が乾燥しやすい。そのため、図9(A−1),図9(B−1),図9(C−1)のそれぞれにおいて、図9(A−2),図9(B−2),図9(C−2)のそれぞれに示すように、第一湿潤層12Aの両端部に第一初期乾燥領域12ASが形成される。
【0059】
第一初期乾燥領域12ASが形成されると、第一湿潤層12Aは、第一基材11Aだけでなく第一初期乾燥領域12ASに対しても適切な濡れ角を形成するように、なおかつ式1に示すエネルギーEが最小となるように、形状を変化させる可能性がある。しかし、式6の条件下によれば、第一湿潤層12Aの重力位置エネルギーを最小にするように決定されることから、図9(A−3),図9(B−3),図9(C−3)のそれぞれに示すように、実質的に第一湿潤層12Aの形状はほとんど変化しないことがわかる。つまり、式6の条件化においては、突条対は形成されないといえる。
【0060】
式7の条件下における第一湿潤層12Aの形状の決定プロセスを、図10を用いて説明する。式7の条件から、第一湿潤層12Aの塗布直後の形状は、第一湿潤層12Aと大気との接触面積を最小にしようとする傾向と、第一湿潤層12Aの重力位置エネルギーを最小にしようとする傾向と、のバランスによって、式1におけるエネルギーEを最小にするように決定される。そのため、第一湿潤層12Aの塗布直後の形状は、それぞれ濡れ角が90度より大きい系,90度の系,90度より小さい系において、それぞれ図10(A−1),図10(B−1),図10(C−1)に示すように、式5の条件と式6の条件の中間の形状となる。
【0061】
第一湿潤層12Aの両端部が最も外気に触れている面積が大きいために効率よく溶剤が飛ばされるため、第一湿潤層12Aの両端部が乾燥しやすい。そのため、図10(A−1),図10(B−1),図10(C−1)のそれぞれにおいて、図10(A−2),図10(B−2),図10(C−2)のそれぞれに示すように、第一湿潤層12Aの両端部に第一初期乾燥領域12ASが形成される。
【0062】
第一初期乾燥領域12ASが形成されると、第一湿潤層12Aは、第一基材11Aだけでなく第一初期乾燥領域12ASに対しても適切な濡れ角を形成するように、なおかつ式1に示すエネルギーEが最小となるように、形状を変化させる可能性がある。第一湿潤層12Aと第一初期乾燥領域12ASとの濡れ角は実質0度であることから、第一湿潤層12Aの重力位置エネルギーを最小にしようとする傾向と、のバランスによって式1におけるエネルギーEを最小にするような解が変化するため、図10(A−3),図10(B−3),図10(C−3)のそれぞれに示すように、第一湿潤層12Aの形状は第一初期乾燥領域12ASの影響を受けて変化する。この結果、突条対が形成される。つまり、式7の条件化においてのみ、突条対は形成されるといえる。特に、図10の(B−1),(B−2),(B−3)の条件が、突条対がほぼ垂直方向に発生する条件である。
【0063】
図11に示すように、本発明において高分子液晶化合物,フッ素系配向制御剤,及び溶剤を用いた系は、おおよそ領域58の条件を満たす。そのうち、おおよそ領域60の条件を満たすとき、つまり図10(B−1),(B−2),(B−3)の条件を満たすときが、突条対がほぼ垂直方向に発生する条件であり、本発明を実施する上で最も好ましい条件である。そのため、領域58内においては、できるだけ第一基材11Aの表面エネルギーを小さく設計することで矢印62に従って条件が移行し、突条対がほぼ垂直方向に発生しやすくなる。また、同様に、できるだけ第一湿潤層12Aの表面張力を大きく設計することで、矢印64に従って条件が移行し、突条対がほぼ垂直方向に発生しやすくなる。また、第一湿潤層12Aの膜厚を増加させることで、突条対の高さを高くすることができる。なお、第一基材11A上における第一湿潤層12Aに形状決定のメカニズムついてここでは説明したが、これに限ることなく、全ての基材上における湿潤層の形状決定に適用できる。
【0064】
次に、本発明の作用を説明する。図2に示すように、積層フィルム製造装置20において、供給軸32に装填された供給ロール34から供給された基材フィルム10に対し、成膜装置22A,22B,22Cにより、それぞれ第一塗布層11,第二塗布層12,第三塗布層13が順次形成され、成膜された積層フィルム2が巻取り軸36に巻取りロール38として巻取られる。以下、第一塗布膜である第二塗布層12の形成について詳しく記載するが、第一塗布層11及び第三塗布層13の形成についてもほぼ同等の工程によってなされるため、説明は省略する。
【0065】
図3,図4に示すように、塗布装置24Bにおいて、成膜装置22Aから供給された第一基材11Aに対し、塗布液供給タンク44から塗布液供給ライン46を経て塗布用供給口42Aから塗布ヘッド42に供給された第一塗布液が、塗布用ポケット42Cに一旦貯蔵され、塗布用スリットより塗布されることで、第一湿潤層12Aが形成される。
【0066】
図5に示すように、第一基材11A上に第一湿潤層12Aが塗布された第一湿潤フィルム12Bにおいて、乾燥装置26Bに備え付けられた熱風装置48より第一湿潤膜12Aに含有される溶剤が蒸発し、第一乾燥フィルム12Cを得る。同時にこの溶剤は吸着回収装置50によって回収され、再利用される。
【0067】
第一湿潤層12Aの両端部が最も外気に触れている面積が大きいために効率よく溶剤が飛ばされるため、第一湿潤層12Aの両端部が乾燥しやすい。そのため、式7の条件を満たすように第一基材11Aの表面エネルギー及び第一湿潤層12Aの表面張力を設計し、乾燥装置26Bの乾燥条件を調整することで、図10(B−3)に示すように本発明に係る積層フィルムに要求する第一突条対16を有する形状の第一乾燥層を有する第一乾燥フィルム12C得ることが可能である。
【0068】
高分子液晶化合物,フッ素系配向制御剤,及び溶剤を有する塗布液を用いる場合、基材の表面エネルギーが40mN/m以下であり、塗布液の表面張力が20mN/m以上40mN/m以下であるため、図10(B−1),(B−2),(B−3)の条件を満たす系となっている。そのため、突条対を有する塗布層を形成する場合、例えば本実施例では第二塗布層12及び第三塗布層13にはこのような条件で成膜を行い、突条対を有さない塗布層を形成する場合、例えば本実施例では第一塗布層11にはこれを満たさない条件で成膜を行う必要がある。
【0069】
また、高分子液晶化合物,フッ素系配向制御剤,及び溶剤を有する塗布液を用いる場合、フッ素系配向制御剤に用いられる有機化合物の方がフッ素を含有しない他の有機物よりも表面張力が低いことから、フッ素が表面付近に偏在する。このため、フッ素系配向制御剤を用いる場合には突条対の制御がしやすくなる。また、フッ素系有機物の方がフッ素を含有しない有機物よりも軟らかいため(例えば、ロックウェル硬さ試験をスケールRの試験条件で行った際、ポリ四フッ化エチレンが58程度、ポリフッ化エチレン・プロピレンが25程度であるのに対し、ポリプロピレンが90〜95程度である)、第一及び第二突条対16,17は基材フィルム10の裏側よりも少し軟らかい構造となる。このため、フィルムが巻取られる際に、巻取り時のフィルムの裏面と膜面との過度な接触や密着、塵埃により、膜面やフィルムに傷やシワなどのダメージが与えられてしまったり、フィルムの円周上に黒い帯が視認されたりすることなく、また巻き取り時の張力を低くすることもなく、巻取ることができる。
【0070】
図6に示すように、乾燥装置26Bを通過した第一乾燥フィルム12Cにおいて、加熱装置28Bに備え付けられたヒータ52により第一乾燥層に含有される高分子液晶化合物がコレステリック液晶層となるように配向される。加熱装置28Bはフィルム幅方向に温度差が発生しにくいように設計されているため、配向させるのに適している。この配向条件は、各材料に応じて、赤外領域の太陽光線の透過を防ぐ特性を有するコレステリック液晶層となるように調整されることで、所望の特性を有する第一配向層を有する第一配向フィルム12Dを得る。なお、塗布液に高分子液晶化合物を用いない場合は、加熱装置28Bによるこの配向工程は必要ない。
【0071】
また、塗布液の溶剤揮発後の粘度が0.5Pa・s以下であることが望ましい。この場合、加熱装置28Bにおける温度下で粘度が低下し、第一基材11Aに対して第一乾燥層が微妙に弾く様に流動し、突条対の高さが上昇する現象が起きるからである。
【0072】
図7に示すように、加熱装置28Bを通過した第一配向フィルム12Dにおいて、UV照射装置30Bによりフィルム上部よりUV照射が行われ、第一配向層が硬化し、第一基材11Aの上に第二塗布層12が形成される。これにより、第一硬化フィルム12Eを得る。
【0073】
第二塗布層11と同様にして、成膜装置22A,22Cにより第一塗布層11,第三塗布層13が形成される。第一塗布層11,第二塗布層12,第三塗布層13は、その厚さが1μm以上であることが望ましい。この場合、赤外領域の太陽光線の透過を防ぐ特性を有する。加えて、第一あるいは第二突条対の高さの差が3μm以下であり、それらの間隔が1mm以上であることが望ましい。これらの場合、第一あるいは第二突条対の形状が、巻取り時の横ズレ及び巻締まり防止や巻取り時にフィルムの裏面と膜面との間に隙間を確保できる形状となり、巻取り時のフィルムの裏面と膜面との接触や密着及びフィルムに付着した塵埃及び横ズレや巻締まりにより、膜面やフィルムに傷やシワなどのダメージが与えられてしまったり、フィルムの円周上に黒い帯が視認されたりすることがないように、フィルムを巻取ることが可能となる。
【0074】
このようにして得られた図1(C−1)に示すような積層フィルム2において、第二塗布膜13の表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis、X線光電子分光)によりアルゴンイオンで数nm/min.のエッチングレートで厚み方向の元素分析を行って算出を行ったところ、図12のようなフッ素の分析結果が得られた。図12に示すように、第二塗布膜13の表面から深さ500nmまでの表層に総フッ素含有量の90%以上のフッ素が偏析していることがわかった。また、同様の積層フィルム2において、突条対を有する端部の片側において、膜厚計を用いてその形状を測定したところ、図13に示すようなプロファイルが得られた。なお、第二塗布膜13に限らず、フッ素系配向制御剤を用いた全ての塗布層においてほぼ同様のフッ素の偏析の傾向が見られた。
【0075】
なお、本実施形態においては、第一塗布層11は突条対を持たない層であり、第二塗布層12が第一突条対16を形成する要因となる塗布層を第一塗布膜であり、第三塗布層13が第二突条対17を形成する要因となる塗布層を第二塗布膜であるとしたが、これに限ることはなく、第一塗布層11,第二塗布層12,第三塗布層13のうちいずれか二つの膜において突条対が形成されれば十分であり、その組み合わせは図1に示すようにいずれの組み合わせであっても構わない。ただし、第一塗布層11を第一塗布膜とする場合には、第一基材となる基材フィルム10の表面エネルギーが40mN/mよりも小さいものを選ぶ必要がある。
【0076】
また、第一塗布層11,第二塗布層12,第三塗布層13の塗布幅は、例えば図1(A−1)(B−1)(C−1)に示すように、塗布幅が大きい順に第一塗布層11,第二塗布層12,第三塗布層13となることが望ましい。この場合が、第一及び第二突条対の制御が容易になる場合だからである。
【0077】
本実施形態では、基材フィルム10と三層の塗布層11,12,13からなる形態について説明したが、本発明はこれに限ることなく、塗布層が二層のみであってもかまわないし、例えば突条対を形成しやすいように基材の表面エネルギーの条件を有利にするために塗布層を増やして合計の塗布層が四層以上としても、積層フィルム2が二つの突条対を幅方向側端部に有する構造であればかまわない。また、例えば塗布層を四層以上とするのと同等の目的で、基材フィルム10上や各塗布層上に、真空成膜プロセスなどで形成されるいかなる層を設けてもかまわない。また、本実施形態では、フィルムを遮熱用の積層フィルムとするため、以下の実施例に示すように右円偏光反射層を2層と左円偏向反射層を1層とを設けたが、反射特性向上を目的として塗布層を適宜追加してもかまわない。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の実施例を説明する。以下に実施例と比較例(なお比較例は公知技術というわけではない)を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0079】
本実施例及び本比較例は、さまざまな条件において、基材フィルム10上に、第一塗布層11,第二塗布層12,第三塗布層13を形成して積層フィルムを得、その積層フィルムを巻取り軸36で巻取り、その時の状況について以下の基準に従って評価したものである。
1.巻取り評価
○:巻取り形状変形なし
△:一部巻取り形状変形あり
×:全体的に巻取り形状変形あり
2.横ズレ評価
○:横ズレなし
△:一部横ズレあり
×:全体的に横ズレあり
【0080】
なお、実施例及び比較例において、基材フィルム10には厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、富士フイルム株式会社製)を用いた。また、全ての実施例及び比較例において、フィルムの搬送速度は10m/minとし、乾燥工程における乾燥時間は30秒間とし、加熱工程における加熱温度は85度とし加熱時間は4分間とした。また、UV照射工程では、装置内の雰囲気を窒素置換して酸素濃度を300ppmとし、温度を30℃に設定して、アイグラフィック製メタルハライドランプにて出力を調整して500mJ/cmでUV照射し、高分子液晶化合物の配向相を硬化させた。
【0081】
また、全ての塗布層に対して、高分子液晶化合物,フッ素系配向制御剤,及び溶剤を有する塗布液(A)及び塗布液(B)を用いた。塗布液(A)及び塗布液(B)の組成は、それぞれ表1及び表2に示す組成である。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
また、各塗布層の形成に用いた塗布液の組み合わせを、以下の表3に示す。表3には、各層の反射特性及び反射波長のピークも合わせて示した。
【0085】
【表3】

【0086】
本実施例の実施条件及び評価結果を表4に、本比較例の実施条件及び評価結果を表5に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
表4に示すように、高さが1μm以上で高さの差が3μm以下である第一及び第二突条対16,17を有する積層フィルム2については、巻取り評価と横ズレ評価の双方においてよい結果が得られた。一方、表5に示すように、高さが1μm以上の第一突条対のみ有する積層フィルムにおいては、巻取り評価と横ズレ評価の双方においてまずまずの結果が得られた。高さが1μm以上の突条対を有さない積層フィルムにおいては、巻取り評価においてまずまずの結果が、横ズレ評価においては悪い結果が得られた。
【0090】
これより、高さが1μm以上で高さの差が3μm以下である第一及び第二突条対16,17を有する積層フィルム2が、本課題を解決する発明であることがわかった。また、基材の表面エネルギーが40mN/m以下であり、塗布液の表面張力が20mN/m以上40mN/m以下である場合に突条対が形成されやすいこともわかった。
【符号の説明】
【0091】
2 積層フィルム
10 基材フィルム
11 第一塗布層
11A 第一基材
12 第二塗布層
12A 第一湿潤層
12B 第一湿潤フィルム
12C 第一乾燥フィルム
12D 第一配向フィルム
12E 第一硬化フィルム
12AS 第一初期乾燥領域
13 第三塗布層
16 第一突条対
17 第二突条対
20 積層フィルム製造装置
22A,22B,22C 成膜装置
24A,24B,24C 塗布装置
26A,26B,26C 乾燥装置
28A,28B,28C 加熱装置
30A,30B,30C UV照射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ状の第一基材と、
前記第一基材上に第一塗布液を塗布して設けられた第一塗布膜と、
前記第一塗布膜を有する第二基材上に第二塗布液を塗布して設けられた第二塗布膜と、
を備えた積層フィルムであって、
前記第一及び第二塗布膜は前記積層フィルムの中央部より1μm以上高い第一及び第二突条対が幅方向側端部の両端付近にそれぞれ形成され、
前記第一突条対が前記第二突条対よりも前記積層フィルムの側端側に配置されることを特徴とする、積層フィルム。
【請求項2】
前記第一及び第二塗布液は、高分子液晶化合物,フッ素系配向制御剤,及び溶剤を有することを特徴とする、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記第一及び第二塗布膜は、その表面から深さ500nmまでの表層に総フッ素含有量の90%以上のフッ素が偏析していることを特徴とする、請求項2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記第一及び第二突条対の高さの差が3μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記第一及び第二突条対の間隔が1mm以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記第一及び第二塗布膜の膜厚は、1μm以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記第一及び第二塗布膜は、コレステリック相を示すことを特徴とする、請求項2〜6のいずれか一つに記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記第一及び第二基材の表面エネルギーが40mN/m以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記第一又は第二塗布液の表面張力が20mN/m以上40mN/m以下であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つに記載の積層フィルム。
【請求項10】
前記第一及び第二塗布液の溶剤揮発後の粘度が0.5Pa・s以下であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つに記載の積層フィルム。
【請求項11】
ウェブ状の第一基材上の第一塗布領域に第一塗布液を塗布して第一湿潤膜を得る第一塗布工程と、
前記第一湿潤膜から溶剤を蒸発させ第一乾燥膜を得る第一乾燥工程と、
前記第一乾燥膜を硬化させ第一塗布膜を得る第一硬化工程と、
前記第二基材上の前記第一塗布領域よりも内側の第二塗布領域に第二塗布液を塗布して第二湿潤膜を得る第二塗布工程と、
前記第二湿潤膜から溶剤を蒸発させ第二乾燥膜を得る第二乾燥工程と
前記第二乾燥膜を硬化させ第二塗布膜を得る第二硬化工程と、
を有し、
前記第一及び第二基材の表面エネルギーが40mN/m以下であり、
前記第一又は第二塗布液の表面張力が20mN/m以上40mN/m以下であることを特徴とする、積層フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記第一及び第二塗布液は、高分子液晶化合物,フッ素系配向制御剤,及び溶剤を有し、
前記第一乾燥工程と前記第一硬化工程の間に第一配向工程と、
前記第二乾燥工程と前記第二硬化工程の間に第二配向工程と、
を有することを特徴とする、請求項11に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記第一及び第二塗布膜は、コレステリック相を示すことを特徴とする、請求項12に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記第一及び第二塗布液の溶剤揮発後の粘度が0.5Pa・s以下であることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか一つに記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記第一塗布領域の端部と前記第二塗布領域の端部との間隔が1mm以上であることを特徴とする、請求項11〜14に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記第一及び第二塗布膜の膜厚は、1μm以上であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれか一つに記載の積層フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−107333(P2013−107333A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255142(P2011−255142)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】