説明

積層フィルム及びそれを用いたゴム成形体

【課題】 本発明は、ゴムとの接着性に優れた積層フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 フッ素系樹脂フィルムの一方の面に、加熱圧着手段によりゴム基材と接着させるための接着層を有する積層フィルムであって、該接着層は、有機珪素化合物を含む蒸着用ガス組成物を用いて、プラズマ気相化学蒸着法により前記フッ素系樹脂フィルム上に形成した蒸着膜であることを特徴とする積層フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム及びそれを用いたゴム成形体に関し、より詳細には、ゴムの滑り性を向上させるために、すなわち、摺動抵抗を小さくするために、または、耐溶剤性を向上させるために、ゴム基材上にラミネートするための、フッ素系樹脂フィルムからなる積層フィルム、及びそれを用いたゴム成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
注射器の滑栓や医薬バイアルの栓等の種々のゴム製品は、その滑り性や耐溶剤性を向上させるために、ゴム基材の表面を適当な樹脂フィルムで被覆することが知られている。このような樹脂フィルムとしては、ゴム基材との接着性が高まるように、プラズマエッチング処理、スパッタエッチング処理または化学処理等で表面改質されたフッ素系樹脂フィルムがある(特許文献1、2)。
【0003】
しかし、フッ素系樹脂フィルムの表面をエッチングしても、ゴム基材との接着性の向上は不十分であることから、より強力な接着性を示すフィルムが望まれている。また、化学処理による改質は、フィルムの着色が起こるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−129015号公報
【特許文献2】特開2002−177390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決して、ゴムとの接着性に優れた積層フィルム、並びにそれを用いたゴム成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々研究の結果、フッ素系樹脂フィルムの一方の面に、加熱圧着手段によりゴム基材を接着させるための接着層を有する積層フィルムであって、該接着層は、有機珪素化合物を含む蒸着用ガス組成物を用いて、プラズマ気相化学蒸着法(以下「プラズマCVD法」ということがある)により前記フッ素系樹脂フィルム上に形成した蒸着膜であることを特徴とする積層フィルムが、上記の目的を達成することを見出した。
【0007】
そして、本発明は、以下の点を特徴とする。
1.フッ素系樹脂フィルムの一方の面に、加熱圧着手段によりゴム基材を接着させるための接着層を有する積層フィルムであって、該接着層は、有機珪素化合物を含む蒸着用ガス組成物を用いて、プラズマCVD法により前記フッ素系樹脂フィルム上に形成した蒸着膜であることを特徴とする、積層フィルム。
2.上記1に記載の積層フィルムとゴム基材とからなるゴム成形体であって、加硫成形したゴム基材を、該積層フィルムの接着層の面と重ね合せ、加熱圧着してなることを特徴とする、ゴム成形体。
3.上記1に記載の積層フィルムとゴム基材とからなるゴム成形体であって、未加硫または半加硫のゴム基材を、該積層フィルムの接着層の面と重ね合せ、加硫成形及び加熱圧着してなることを特徴とする、ゴム成形体。
4.ゴム成形体が注射器用滑栓であることを特徴とする、上記2または3に記載のゴム成形体。
5.ゴム成形体が医薬バイアル用栓であることを特徴とする、上記2または3に記載のゴム成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層フィルムは、ゴム基材との接着面として、有機珪素化合物を含む蒸着用ガス組成物(以下、「原料ガス」ということがある)を用いて、プラズマCVD法により前記フッ素系樹脂フィルム上に形成した蒸着膜を有する。
【0009】
この蒸着膜は、フッ素系樹脂フィルム上に、プラズマ化した原料ガスを薄膜状に形成してなるものであり、主に炭素、珪素及び酸素からなる、緻密で可撓性に富む連続蒸着薄膜である。
【0010】
このような炭素を含む蒸着膜で、フッ素系樹脂フィルムの表面を隙間なく被覆することにより、ゴム基材との接着を阻害するフッ素原子が表面に露出せず、代わりに、高い接着性を示す炭素原子が露出することとなるため、本発明の積層フィルムは、ゴム基材と高い接着性を示す。
【0011】
また、この蒸着膜は、フッ素系樹脂フィルムと界面化学結合を形成して極めて強固に接着しているため、層間剥離が生じにくい。
【0012】
さらに、本発明のプラズマCVD法による蒸着によれば、基材フィルム(フッ素系樹脂フィルム)の着色を防ぐことができる。また、接着層を、効率よく短時間で形成することができるため、本発明の積層フィルムは生産性に優れるという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の積層フィルムの層構成についてその一例を示す概略的断面図である。
【図2】本発明のゴム成形体の層構成についてその一例を示す概略的断面図である。
【図3】プラズマCVD装置についてその一例の概要を示す概略的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について以下に詳しく説明する。
なお、本発明において使用される樹脂名は、業界において慣用されるものが用いられる。また、本発明において、密度はJIS K7112に準拠して測定した。
【0015】
<I> 本発明の積層フィルム及びゴム成形体の層構成
図1及び図2は、本発明の積層フィルム及びゴム成形体のそれぞれの層構成について、一例を示す概略的断面図である。
【0016】
図1に示されるように、本発明の積層フィルムは、フッ素系樹脂フィルム10と、その一方の面に、有機珪素化合物を蒸着モノマー材料として、プラズマCVD法で成膜した珪素酸化物の蒸着膜からなる接着層20とを有する。
【0017】
また、図2に示されるように、本発明の積層フィルムからなるゴム成形体は、フッ素系樹脂フィルム10、接着層20、及び接着層20上に加熱圧着により積層されるゴム基材30からなる構成を基本とする。
【0018】
重要なことは、フッ素系樹脂フィルム10とゴム基材30との間に、プラズマCVD法により有機珪素化合物から形成された珪素酸化物の蒸着膜を接着層として介在させることにより、これらの接着性が大幅に改善されることである。
【0019】
<II> フッ素系樹脂フィルム
本発明の積層フィルムを構成する基材フィルムとしては、低い摺動抵抗性、すなわち良好な表面滑性、及び種々の薬品との低反応性を示すことから、フッ素系樹脂フィルムが使用される。
【0020】
フッ素系樹脂フィルムは、積層フィルムの用途に適した表面滑性、低反応性、及びその他の種々の性質を示すものであって、且つ、プラズマCVD法の蒸着条件に耐え得る任意のものを使用することができる。
【0021】
このようなフッ素系樹脂フィルムとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体からなるペルフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとヘキサフルオロプロピレンコポリマー(EPE)、テトラフルオロエチレンとエチレン又はプロピレンとのコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、エチレンとクロロトリフルオロエチレンとのコポリマー(ECTFE)、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)、又はフッ化ビニル系樹脂(PVF)等のフッ素系樹脂の1種又はそれ以上からなるフィルムを使用することができる。
【0022】
なお、本発明においては、注射器の滑栓や医薬バイアルの栓等の医療用品用途で用いる場合は、特に、フッ化ビニル系樹脂(PVF)、又は、テトラフルオロエチレンとエチレン又はプロピレンとのコポリマー(ETFE)からなるフッ素系樹脂フィルムが、優れた摺動性、種々の薬品や溶剤との低反応性、耐熱性、耐久性及び蒸着膜との接着性等の観点から好ましいものである。
【0023】
本発明において、上記フッ素系樹脂フィルムは、各用途に適した表面滑性及び低反応性を有するものであれば、いかなる製法によるものであってもよく、例えば、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法等の成膜化法を用いて成膜化する方法、あるいは、2種以上のフッ素系樹脂を使用して多層共押し出し成膜化する方法、さらには、2種以上のフッ素系樹脂を使用し、成膜化する前に混合して成膜化する方法等により製造し、さらに、要すれば、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して1軸又は2軸方向に延伸してなるフィルムを使用することができる。
【0024】
本発明において、フッ素系樹脂フィルムの膜厚としては、12〜300μmが望ましく、より好ましくは50〜150μmが望ましい。これより薄いと、製造及び取り扱いが困難になり、これより厚いと、ゴム上にラミネートした際に、ゴム弾性を損なうため好ましくない。また、厚くなるほど高価になるため、好ましくない。
【0025】
なお、上記膜厚は、例えば、(株)リガク製の蛍光X線分析装置(機種名、RIX2000型)を用いて、測定することができる。
【0026】
上記フッ素系樹脂の1種又はそれ以上を使用し、その成膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐光性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、その他等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、フッ素系樹脂全量に対して、減加剤等に応じて極く微量から数十%まで、その目的に応じて、任意に添加することができる。
【0027】
また、接着性を向上させるために、エポキシ系のシランカップリング剤を添加してもよく、フィルムのブロッキング等を防止するために、ブロッキング防止剤を添加してもよい。これらの添加量は、0.1重量%〜10重量%程度が好ましい。
【0028】
本発明において、上記フッ素系樹脂フィルムの表面は、蒸着膜との接着性等を向上させるために、必要に応じて、予め、所望の表面処理層を設けることができる。
表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理等の処理を用いることができる。
【0029】
接着性を改善する方法としてはさらに、例えば、フッ素系樹脂フィルムの表面に、予め、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層、接着剤層、あるいは、蒸着アンカーコート剤層等を任意に形成して、表面処理層とすることもできる。前処理のコート剤層としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体又は変性樹脂、セルロース系樹脂等をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を使用することができる。
【0030】
また、上記において、コート剤層の形成法としては、例えば、溶剤型、水性型、あるいは、エマルジョン型等のコート剤を使用し、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法等のコート法を用いてコートすることができ、そのコート時期としては、フィルムの成膜後、あるいは、2軸延伸処理後の後工程として、あるいは、成膜、あるいは、2軸延伸処理のインライン処理等で実施することができる。
【0031】
<III> 接着層
本発明の積層フィルムにおいて、加熱圧着手段によりゴム基材と接着させるための接着層は、表面にメチル(CH3)基及びエチル(C25)基の少なくとも一方が存在するように形成されたシリカ膜である。CH3基及びC25基の少なくとも一方を接着層の表面に形成することにより、ゴム基材との接着が良好となる。
【0032】
なお、この「表面にCH3基及びC25基の少なくとも一方が存在するように形成されたシリカ膜」は、蒸着材料としてSi原子に直接結合したメチル基を含む有機珪素化合物を使用し、これよりなる蒸着用モノマーガス、及び場合により酸素供給ガス、を含む蒸着用ガス組成物を用いて、CVD法により成膜する。
【0033】
また、CVD法には、熱CVD法や光CVDなどいくつかの方法があるが、低温成膜が可能で、基材フィルムの着色を生じにくいプラズマCVD法を採用することが好ましい。プラズマCVD法における成膜条件については後述する。
【0034】
表面に存在するCH3基及びC25基の量は、成膜時の蒸着用ガス組成物中の蒸着用モノマーガスと酸素供給ガスとの比を変化させることにより調製することができる。
【0035】
接着層の膜厚としては、5nm以上であることが好ましい。接着層の膜厚を5nmより薄くすると、接着層が連続膜として存在せず、基材のフッ素が表面に露出して、ゴムとの接着性が損なわれる。一方、膜厚を200nmより厚くすると、生産性の観点から好ましくない上、剛性が増して、クラック等が発生し易くなる。ゴム基材との良好な接着性のためには、膜厚を5〜200nm、好ましくは20〜100nm程度とするのが好ましい。
【0036】
本発明の積層フィルムにおいて、接着層の表面は、極性溶媒である水に対する接触角が35°〜85°、さらに好ましくは35°〜70°を示し、また、無極性溶媒であるジヨードメタンに対する接触角が10°〜70°、さらに好ましくは10°〜40°を示す。接触角が上記範囲よりも大きいと、表面のフッ素が接着を阻害し、良好な接着性が得られ
ない。なお、接触角は、JIS K 6768に準じて、θ/2法にて液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から求めることができる。本発明においては、協和界面科学(株)製の全自動接触角計Drop Master700により20℃、50%RHの条件下で測定された値である。
【0037】
本発明の接着層を成膜するためには、例えば、被蒸着フィルム(フッ素系樹脂フィルム)10を真空槽内に導入する。そして、真空槽内に、有機珪素化合物からなる蒸着用モノマーガスと、場合により酸素供給ガスとを含む蒸着用ガス組成物を一定割合で導入し、プラズマCVD法により表面上に接着層を形成する。
【0038】
接着層の形成に用いられる有機珪素化合物としては、シリコン(Si)原子に直接結合したCH3を含む有機珪素化合物、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、オクタメチリシクロテトラシロキサン、メチルシラン、ジメチルシラン、トエリメチルシラン、テトラメチルシラン、エチルシラン等が好ましく用いられる。
【0039】
他の有機珪素化合物としては、有機化合物であって常温で適当な蒸気圧を持ち、プラズマCVD法を実施することが可能な材料であればどのような材料でもよい。したがって、例えばC38基などの炭素数が3以上の官能基をもつ材料を用いてCH3基及びC25のいずれかを少なくとも含むシリカ膜(接着層)をプラズマCVD法により製造することも理論的には可能と考えられる。しかし、現実にはこれらの材料は蒸気圧が非常に低いため、シリカ膜の作成が困難である。
【0040】
本実施形態に係る接着層を形成する場合には、有機珪素化合物のうちでも特に、HMDSO、TMDSO、オクタメチルシクロテトラシロキサンを用いるのが好ましい。これらのシロキサン材料は、接着性を発現するCH3基が、結合が切れやすいSi−O結合やO−C結合を介してではなく、直接Si原子と結合しているため、膜中に安定して取り込まれやすくなるからである。
【0041】
本発明において、酸素供給ガスとしては、例えば酸素ガスが用いられる。酸素ガスの代わりに、オゾンガスや笑気ガス(N2Oガス)などを使用することも可能であるが、成膜効率やコストの面から、酸素ガスを用いるのが最も好ましい。
【0042】
また、蒸着用ガス組成物中に、蒸着用モノマーガスを効率よく真空槽中に導入するためのガス(キャリアガス)や、プラズマを発生させたりプラズマを増強させたりする目的のガスを増強して導入することも、必要に応じて行ってもよい。
【0043】
プラズマCVD法として最も一般的な方法は、平行平板電極間に13.56MHzの電界を印加する方式である。すなわち、真空槽内に蒸着用ガス組成物を導入することで一定圧力に維持し、真空槽内に設置した平板電極と該平板電極と平行に対向して設置したアース電極との間に13.56MHzのRF交流電圧を印加する。例えば、300Wの電力を投入することで、グロー放電プラズマを発生させ、そのプラズマ流を利用することで蒸着用ガス組成物を化学的に反応させることにより、シリカ膜からなる接着層が形成可能である。接着層を形成させるための被蒸着フィルム(フッ素系樹脂フィルム)は、通常、アース電極の表面に設置するが、RF電圧を印加する平板電極側に設置してもよい。
【0044】
本実施形態においては、13.56MHzのRF交流電圧を印加する代わりに、より低い周波数(40kHzや50kHzなど)を印加したり、より高い周波数(2.45GHzなど)を印加したりすることも可能である。また、直流電圧を印加してもよい。平板電極の代わりに、ガスの吹き出しによりプラズマ流を発生させるようなホローカソード電極を利用したり、外部コイルから誘導プラズマを発生させたりすることも可能である。磁界を用いたり、ECR共鳴現象(電場と磁場とを適切に調節することで、プラズマ中の電子をサイクロトロン共鳴させる現象)を用いたりして、プラズマ密度を高めたりすることも可能である。
【0045】
プラズマCVD法の成膜条件には、投入電力、ガス流量、成膜圧力、電極間距離、成膜時間等の様々なパラメータがあり、所望の接触角を示す蒸着膜が得られるように、これらのパラメータを適宜に調製することができる。特に、投入電力が大きいと、基材との反応が起こりやすくなるため、表面改質の効果が大きくなり、ゴム基材との接着性は高くなる。しかしながら、大き過ぎると、熱がかかってフッ素フィルムが変形したり、熱が不均一にかかることで蒸着膜にムラが生じたりするため、注意が必要である。本発明においては、20〜500W、より好適には50〜300Wの投入電力で、成膜を行うことが好ましい。
【0046】
本発明において、蒸着用モノマーガスと酸素供給ガスとの流量比を一定範囲に制御しながら、フッ素系樹脂フィルムの表面上に接着層をプラズマCVD法により形成する。接着層は、表面にCH3基及び/またはC25基を有しているため、加熱圧着ラミネートにより、ゴム基材と良好な接着性を示す。
【0047】
また、形成した接着層の表面を、再びプラズマCVD装置または任意のプラズマ処理装置中で、アルゴンンガスやヘリウムガス等の非反応性ガスを用いて、プラズマ処理に付してもよい。プラズマ処理により、接着層の表面を改質し、ゴム基材との接着性をさらに改良することができる。
【0048】
図3は本発明のプラズマCVD法において使用できるプラズマCVD装置の一例を示す図である。図3において、平行平板型プラズマCVD装置1は、チャンバー2、このチャンバー2内に対向するように配設された下部電極(アース電極)3、上部電極4を備え、チャンバー2内は真空ポンプ5により所望の真空度に設定できるようになっている。さらに、チャンバー2内の下部電極(アース電極)3の近傍には、蒸着用ガス組成物の供給ノズル6の開口部(ガス導入口)が位置しており、この供給ノズル6の他端は、チャンバー2外部に配設されている蒸着用ガス組成物供給装置7に接続されている。また、上部電極4は電源8に接続されてプラズマの発生を促進している。
【0049】
上述のようなプラズマCVD装置1の下部電極(アース電極)3上に被蒸着フィルムSを載置し、チャンバー2内を真空ポンプ5により減圧して、チャンバー真空度を0.1Pa以下にする。その後、蒸着用ガス組成物供給装置7から供給されるガス化された有機珪素化合物及び酸素供給ガスを混合し、これを供給ノズル6を介してチャンバー2中に導入して、チャンバー2内の圧力を2〜50Pa程度にする。
【0050】
一方、上部電極4には電源8から所定の高周波電圧が印加されているため、下部電極(アース電極)3と上部電極4との間で(チャンバー2内の供給ノズル6の開口部(ガス導入口)近傍で)グロー放電プラズマPが確立される。このグロー放電プラズマPによって、被蒸着フィルムS上に蒸着膜を形成する。
【0051】
なお、本発明の製造方法で使用するプラズマCVD法による成膜装置は、上述のバッチ式の平行平板型プラズマCVD装置に限定されるものではなく、例えば、チャンバー内で基材Sの原反をコーティングドラム上に搬送させながら蒸着膜を形成するロール成膜機等であってもよい。
【0052】
<IV> ゴム基材との加熱圧着
本発明の積層フィルムをゴム基材上にラミネートすることにより、ゴム基材の弾性を保持したまま、その表面の滑り性及び耐溶剤性を向上させることができる。
【0053】
ここで、本発明の積層フィルムの接着層の面をゴム基材と対向するように重ね合わせ、加熱圧着することにより、積層フィルムとゴム基材との極めて強固な接着が達成される。
【0054】
本発明において用いられるゴム基材としては、適用する用途に応じて任意のものを使用することができる。例えば、任意の合成ゴムや天然ゴムを主原料とし、これに必要に応じて任意の配合剤を混練して得られるゴム組成物を用い、公知の成形方法によって、シート状、ゴム栓状等の任意の形状に成形されたものが挙げられる。
【0055】
本発明において、ゴム基材の主原料となる合成ゴムとしては、例えば、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、ジビニルベンゼン共重合ブチルゴムなどのブチル系ゴム、イソプレンゴム、イソプレン−イソブチレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム等が挙げられる。
【0056】
特に、医療用ゴム成形体、例えば注射器用滑栓、医薬バイアル用栓、薬瓶の内蓋等のゴム成形体を製造する場合は、良好な気体不透過性、耐オゾン性、耐老化性、電気的性質、耐化学薬品性などを保持するとともに、優れた耐熱性及び金属との接着性を示すため、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムを好ましく使用することができる。
【0057】
例えば、ゴム基材としてゴムシートを使用し、本発明の積層フィルムの接着層の面と重ね合わせ、加熱圧着することにより、片面の滑り性及び耐薬品性が向上された複合ゴムシートとすることができる。また、この複合ゴムシートを任意の形状に打ち抜いて、種々の加工品、例えば注射器用滑栓及び医薬バイアル用栓を製造することもできる。
【0058】
また、未加硫のゴムシートを、所望の形状に加硫成形し、得られた加硫成型品を、本発明の積層フィルムの接着層の面と重ね合わせ、加熱圧着ラミネートすることにより、本発明の積層フィルムで表面をラミネートされ、滑り性及び耐薬品性が向上されたゴム成形体を製造してもよい。
【0059】
さらに、ゴム基材として、未加硫のゴムシートを用いて、本発明の積層フィルムの接着層の面と重ね合わせ、任意の成形用金型内に配置し、所望の形状に加硫成形し、同時に加熱圧着ラミネートすることもできる。
【0060】
また、未加硫のゴムシートを、所望の形状に半加硫成形し、得られた半加硫成型品をゴム基材として、本発明の積層フィルムの接着層の面と重ね合わせ、残りの加硫成形を行うと同時に加熱圧着ラミネートを行ってもよい。なお、本発明において、加硫とは、硫黄による架橋、及び硫黄以外の架橋剤による架橋の両方を意味する。また、半加硫とは、ゴム組成物が完全に加硫する前に、加硫を一旦中止した状態をいう。加硫の程度は、当業者が適宜に設定することができる。
【0061】
ゴム成形体としては、上記複合ゴムシート、種々の医療用ゴム製品、例えば注射器用滑栓、医薬バイアル用栓が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
本発明の積層フィルムを有する注射器用滑栓及び医薬バイアル用栓は、優れた密封性を保持しながら、良好な滑り性及び耐薬品性を示す。
【0063】
本発明において、加硫成形、及び、積層フィルムとゴム基材との加熱圧着は、従来公知の方法によって行うことができる。また、その際の反応条件は、使用するゴム基材の種類や加硫状態、フッ素系樹脂フィルムの融点、厚さ等に応じて、当業者が適宜に設定することができるが、例えば、加硫成形したゴム基材と本発明の積層フィルムとをラミネートする場合は、温度150〜250℃、圧力0.1〜20Pa、時間10〜300秒で加熱圧着ラミネートを行うことができる。また、未加硫または半加硫のゴム基材と本発明の積層フィルムとをラミネートする場合は、温度150〜250℃、圧力0.1〜20Pa、時間10〜600秒で加熱成形及び加熱圧着ラミネートを行うことができる。
【0064】
本発明の積層フィルムとゴム基材とからなるゴム成形体、例えば複合ゴムシート、注射器用滑栓及び医薬バイアル用栓は、ゴム基材と積層フィルムとが強固に接着しているため、ゴム基材上から積層フィルムが剥がれて浮いたり、白化したりすることがない。
【実施例】
【0065】
次に本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
厚さ50μmのフッ素系樹脂フィルム(ETFE、旭硝子(株)製アフレックス(R)、表面無処理)を使用し、これを平行平板型プラズマCVD装置のチャンバー内の下部電極(アース電極)上に装着した。次に、プラズマCVD装置のチャンバー内を0.1Paに減圧した。次いで、有機珪素化合物としてHMDSOを準備し、これを流量制御しながら100℃に加熱した気化器によって気化して蒸着用モノマーガスとし、20sccm(気体状態)の流量でチャンバーに供給した。また、酸素ガスを50sccmの流量で、及びキャリアガスとしてアルゴンガスを10sccmの流量で、チャンバーに供給した。
【0066】
次に、100W、13.56MHzの電力を上部電極とアース電極の間に投入することによりプラズマを生成し、成膜時のチャンバー内の圧力を20Paに保って1分間の成膜を行った。尚、成膜時の基材は水冷して室温に保持した。この結果、フッ素系樹脂フィルム上に厚み約10nmの蒸着膜(接着層)を有する本発明の積層フィルムを得た。
得られた積層フィルムの接着層の面を、未加硫のゴムシート(エクソン化学(株)製エッソブチル、厚さ1mm)と重ね合せ、150℃で10秒間加熱することにより加硫及び加熱圧着ラミネートを行い、本発明の複合ゴムシートを得た。
【0067】
[実施例2]
実施例1と同様にして蒸着膜を形成後、アルゴンガスのみをチャンバーに供給し、30秒間のプラズマ処理を行い、本発明の積層フィルムを得た。次いで、得られた積層フィルムを用いて、実施例1と同様にして、本発明の複合ゴムシートを得た。
【0068】
[比較例1]
実施例1で用いたものと同じフッ素系樹脂フィルムを使用し、その一方の面を未加硫のゴムシート(エクソン化学(株)製エッソブチル、厚さ1mm)と重ね合わせ、実施例1と同様にして複合ゴムシートを得た。
【0069】
[比較例2]
実施例1で用いたものと同じフッ素系樹脂フィルムを、プラズマ照射装置(ヤマト科学(株)製プラズマドライクリーナー PDC610/610G)に付し、窒素ガスを20sccmの流量でチャンバーに供給し、100W、13.56MHzの電力を電極間に印加することによりプラズマを生成し、チャンバー内の圧力を20Paに保って1分間のプラズマ処理を行った。この結果、片面にプラズマ処理を行ったフッ素系樹脂フィルムを得た。
得られたフィルムのプラズマ処理面を、未加硫のゴムシート(エクソン化学(株)製エッソブチル、厚さ1mm)と重ね合せ、実施例1と同様にして複合ゴムシートを得た。
【0070】
[接着性の評価]
(1)実施例1〜2で得られた積層フィルム、及び比較例1〜2で用いたフィルムについて、表面の接着性を評価するために、水の接触角及びジヨードメタンの接触角を、接触角試験機(協和界面科学(株)全自動接触角計Drop Master700)を用いて、20℃、50%RHの条件下で測定した。
【0071】
(2)実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた複合ゴムシートについて、フィルムとゴム基材との接着性を調べるために、JISK 6404−5に準じて、剥離試験を行った。具体的には、各複合ゴムシートから15mm巾に切り出した試験片を用いて、これらを人の手で剥離角180°で引張り、剥離を試みた。
【0072】
結果を以下の表1に示す。
剥離試験結果については、引張りにより試験片が伸び、その後破断するまでフィルムとゴム基材とが剥離しなかったものを○、試験片が伸び、破断する前にフィルムとゴム基材とが剥離したものを△、試験片が伸びる前にフィルムとゴム基材とが剥離したものを×とした。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例1〜2の積層フィルムは、水の接触角及びジヨードメタンの接触角共に低い値を示し、ゴム基材との良好な接着性を示すものであった。また、これらの積層フィルムを用いた複合ゴムシートにおいて、積層フィルムとゴム基材とは強固な接着を示した。
【0075】
これに対し、比較例1〜2のフィルムは、水の接触角及びジヨードメタンの接触角共に高い値を示した。また、これらのフィルムを用いた複合ゴムシートにおいて、フィルムとゴム基材との接着は弱く、ゴム基材からフィルムが剥離した。
【符号の説明】
【0076】
1 プラズマCVD装置
2 チャンバー
3 下部電極
4 上部電極
5 真空ポンプ
6 供給ノズル
7 蒸着用ガス組成物供給装置
8 電源
S 被蒸着フィルム
P グロー放電プラズマ
10 フッ素系樹脂フィルム
20 接着層
30 ゴム基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂フィルムの一方の面に、加熱圧着手段によりゴム基材を接着させるための接着層を有する積層フィルムであって、
該接着層は、有機珪素化合物を含む蒸着用ガス組成物を用いて、プラズマ気相化学蒸着法により前記フッ素系樹脂フィルム上に形成した蒸着膜であることを特徴とする、積層フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の積層フィルムとゴム基材とからなるゴム成形体であって、
加硫成形したゴム基材を、該積層フィルムの接着層の面と重ね合せ、加熱圧着してなることを特徴とする、ゴム成形体。
【請求項3】
請求項1に記載の積層フィルムとゴム基材とからなるゴム成形体であって、
未加硫または半加硫のゴム基材を、該積層フィルムの接着層の面と重ね合せ、加硫成形及び加熱圧着してなることを特徴とする、ゴム成形体。
【請求項4】
ゴム成形体が注射器用滑栓であることを特徴とする、請求項2または3に記載のゴム成形体。
【請求項5】
ゴム成形体が医薬バイアル用栓であることを特徴とする、請求項2または3に記載のゴム成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−107961(P2013−107961A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252906(P2011−252906)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】