説明

積層フィルム及び積層粘着フィルム

【課題】 光触媒層を有し、かつ該光触媒層の表面の耐傷付性に優れる積層フィルムの提供。
【解決手段】 合成樹脂製フィルムの片面側に、光触媒活性を有する酸化物半導体微粒子及び、メタクリル酸メチルに由来する構造単位とメタクリル酸ブチルに由来する構造単位を有するアクリル系共重合体を含有する光触媒層を有する積層フィルムであって、該光触媒層の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以下で、かつ十点平均粗さRzが1.0μm以下である積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒活性を有する積層フィルムに関し、更に詳しくは、光触媒活性を有する層(光触媒層)表面の耐スクラッチ性等の耐傷付き性に優れる積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒活性を有する材料(以下、単に光触媒と称すことがある。)は、そのバンドギャップ以上のエネルギーの光を照射すると、励起されて伝導帯に電子が生じ、かつ価電子帯に正孔が生じる。そして、生成した電子は表面酸素を還元してスーパーオキサイドアニオン(・O2-)を生成させると共に、正孔は表面水酸基を酸化して水酸ラジカル(・OH)を生成し、これらの反応性活性酸素種が強い酸化分解機能を発揮し、光触媒の表面に付着している有機物質を高効率で分解することが知られている。このような光触媒の機能を応用して、例えば脱臭、防汚、抗菌、殺菌、さらには廃水中や廃ガス中の環境汚染上の問題となっている各種物質の分解・除去等が検討されている。
【0003】
また、光触媒のもう1つの機能として、該光触媒が光励起されると、例えば国際特許公開96/29375号公報に開示されているように、光触媒表面は、水との接触角が10度以下となる超親水化を発現することも知られている。
このような光触媒技術は、年々注目を集めるようになっており、現在では、建物外壁、病院内壁、壁紙(特許文献1)、鏡、窓ガラス、衛生陶器、包丁、まな板、高速道路の防音壁やトンネル内照明、街路灯、道路標識、自動車のボディーコート、自動車サイドミラー、等の用途で各社により検討されており、一部実用化もされてきている。
【0004】
光触媒活性を有する材料としては、半導体的特性を有する種々の化合物、例えば二酸化チタン、酸化鉄、酸化タングステン、酸化亜鉛等の金属酸化物、硫化カドミウムや硫化亜鉛等の金属硫化物等が知られているが、これらの中で、二酸化チタン、特にアナターゼ型二酸化チタンは実用的な光触媒として有用である。この二酸化チタンは、太陽光等の日常光に含まれる紫外線領域の特定波長の光を吸収することによって優れた光触媒活性を示す。
また、最近では、可視光でも光触媒活性を発現する材料も開発されている。
このように、光触媒活性を有する化合物を含有する層を最表層に形成させて、各種機能を発現させる検討が種々なされているが、これらの光触媒活性を有する化合物を含有する層は、耐スクラッチ性が悪いといった欠点があり、物理的な負荷のかからない用途では問題無いが、例えば、壁紙や窓ガラス用フィルムといった用途では、傷付きや光触媒性微粒子の脱離等が問題となっており、その改良が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−35198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光触媒活性を有し、かつ耐傷付き性に優れるフィルムの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨とするところは、(1)合成樹脂製フィルムの片面側に、光触媒活性を有する酸化物半導体微粒子及び、メタクリル酸メチルに由来する構造単位とメタクリル酸ブチルに由来する構造単位を有するアクリル系共重合体を含有する光触媒層を有する積層フィルムであって、該光触媒層の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以下で、かつ十点平均粗さRzが1.0μm以下である積層フィルム、(2)光触媒活性を有する酸化物半導体微粒子の平均粒子径が3〜300nmである(1)に記載の積層フィルム、(3)光触媒層が、光触媒活性を有する酸化物半導体微粒子20〜70重量%、アクリル系共重合体30〜80重量%を含有する(1)または(2)に記載の積層フィルム、(4)合成樹脂製フィルムと光触媒層との間に、有機−無機複合樹脂を主成分とする層を有する(1)〜(3)のいずれかに記載の積層フィルム、(5)有機−無機複合樹脂が、オルガノポリシロキサンとシリル基含有ビニル系重合体とを反応させて得られる重合体である(4)に記載の積層フィルム、(6)アクリル系共重合体が、メタクリル酸メチル5〜50重量%、メタクリル酸ブチル40〜90重量%、及びこれらと共重合可能な単量体0〜40重量%を重合して得られる共重合体である(1)〜(5)のいずれかに記載の積層フィルム、(7)合成樹脂製フィルムが、ポリオレフィン系樹脂製を50〜100重量%含有する(1)〜(6)のいずれかに記載の積層フィルム及び(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の積層フィルムの合成樹脂製フィルム側表面に粘着剤層を形成してなる粘着フィルムに存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層フィルムは、光触媒活性を有し、かつ光触媒層の表面の耐傷付性に優れるため、壁紙を始めとし、表示用のフィルムや装飾フィルム等各種フィルム用途に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の詳細を説明する。
本発明の積層体は、合成樹脂製フィルムの片面に、光触媒活性を有する酸化物半導体微粒子、及び、メタクリル酸メチルに由来する構造単位とメタクリル酸ブチルに由来する構造単位を構造単位として有するアクリル系共重合体を含有する光触媒層を有している。
【0010】
該合成樹脂製フィルムを構成する樹脂としては、例えばポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレンやABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂及びこれらの混合物等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテート等のセルロース系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化エチレン−プロピレン共重合体、フッ化エチレン−エチレン共重合体等のフッ素系樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。更にポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体、エチレンを主成分とするエチレンと共重合可能な他の単量体との共重合体(低密度ポリエチレン(LDPE)、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセン系触媒を用いて重合して得られたエチレン−α−オレフィン共重合体(メタロセン系ポリエチレン)等)及びこれらの混合物等が例示できる。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンの共重合体、リアクター型のポリプロピレン系熱可塑性エラストマー及びこれらの混合物等が例示できる。前記プロピレンの共重合体としてはプロピレンとエチレンまたは他のα−オレフィンとのランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)、またはブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、ゴム成分を含むブロック共重合体あるいはグラフト共重合体等が挙げられる。前記プロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとしては、炭素原子数が4〜12のものが好ましく、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、1−デセン等が挙げられ、その1種または2種以上の混合物が用いられる。通常、α−オレフィンの混合割合はプロピレンに対して1〜10重量%程度である。
【0011】
該フィルム中の合成樹脂の量は50〜100重量%であるのが好ましい。
【0012】
また、該合成樹脂製フィルムには、フィルム劣化の防止目的で、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤を添加することが好ましく、更に、必要に応じ、酸化防止剤、充填剤、顔料、耐水化剤、分散剤、消泡剤等を配合することができる。
紫外線吸収剤としては、2−(2'−ヒドロキシ−3'ラウリル−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、メチル−3−[3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコールの縮合物及びヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール誘導体等が挙げられる。
ヒンダードアミン系光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物及びリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]等が挙げられる。
【0013】
紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤の配合量は各々単独または併用した場合でも、フィルムの樹脂成分100重量部に対し0.1〜10重量部の範囲とすることが好ましい。
合成樹脂製フィルムの製造方法としては、Tダイ押出し成形法、インフレーション成形法及びカレンダー成形法等の従来既知の方法より、樹脂の物性を考慮して適宜選定すればよく、特に限定されない。
合成樹脂製フィルムの厚さは、その用途により異なるが、通常20〜300μmであるのが好ましい。
【0014】
更に合成樹脂製フィルムは、該フィルムに積層する他の層との密着性を向上させる為に、予め該フィルム表面に易接着処理を施してもよい。
易接着処理としては、公知のコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理または火炎処理等の方法が挙げられる。
【0015】
光触媒層中の光触媒活性を有する酸化物半導体微粒子(以下、「光触媒活性微粒子」と記す)としては、特に制限はなく、従来公知のもの、例えば二酸化チタン、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸バリウム(BaTi49)、チタン酸ナトリウム(Na2Ti613)、二酸化ジルコニウム、α−Fe23、酸化タングステン、K4Nb617、Rb4Nb617、K2Rb2Nb617、硫化カドミウム、硫化亜鉛等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、二酸化チタン、特にアナターゼ型二酸化チタンは実用的な光触媒活性材料として有用である。この二酸化チタンは、太陽光等の日常光に含まれる紫外線領域の特定波長の光を吸収することによって優れた光触媒活性を示す。光触媒活性微粒子の平均粒子径は、3〜300nmが好ましく、特に好ましくは5〜100nmである。平均粒子径が3nmより小さいと塗布液とした場合の保存安定性が悪くなり、また、300nmより大きいと耐傷付き性が低下する傾向となるので好ましくない。なお、平均粒子径は例えばレーザー回析法により求めることができる。
【0016】
また、光触媒活性微粒子は、その性能を損なわない範囲で、表面をシリカやアパタイトで処理したものを用いることもできる。また、光触媒活性微粒子とシリカを併用してもよい。
更に、光触媒層には、光触媒活性を促進させる目的で、光触媒微粒子と共に、所望により従来公知の光触媒促進剤を含有させることができる。この光触媒促進剤としては、例えば白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等の白金族金属が好ましく挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この光触媒促進剤の添加量は、光触媒活性の点から、通常、光触媒活性微粒子と光触媒促進剤との合計重量中、1〜20重量%の範囲であるのが好ましい。
【0017】
光触媒層に使用されるアクリル系共重合体は、メタクリル酸メチル由来の構造単位とメタクリル酸ブチル由来の構造単位を構造単位として有する、特に主な構造単位として有するアクリル系共重合体がよく、中でも、メタクリル酸メチル5〜50重量%、メタクリル酸ブチル40〜90重量%、及びこれらと共重合可能な単量体0〜40重量%を反応させて得られるものが好ましい。メタクリル酸メチルが5重量%未満、あるいは、メタクリル酸ブチルが90重量%を超えると光触媒層の耐傷付き性が低下する傾向となる。また、メタクリル酸メチルが50重量%を超えたり、メタクリル酸ブチルが40重量%未満になると、光触媒層が脆くなる傾向となる。
メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルと共重合可能な単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸(←実施例に記載があったので追記しました)、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸ブチル以外のメタクリル酸アルキルエステル、ブタジエン、イソプレン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、N−シクロヘキシルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−オルソクロロフェニルマレイミド等の不飽和単量体や、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルマレエート、アリルフマレート、ジアリルフマレート、トリアリルシアヌレート等の官能基含有単量体等が挙げられる。これらは単独または併用して用いることができる。
【0018】
光触媒層の光触媒活性微粒子とアクリル系共重合体の含有量は、光触媒活性微粒子20〜70重量%、アクリル系共重合体樹脂30〜80重量%であるのが好ましく、光触媒活性微粒子の量が20重量%未満だと脱臭、抗菌、防汚といった光触媒機能が充分でない恐れがあり、また70重量%を超えると耐傷付き性が低下する傾向となる。
光触媒層の平均厚さは、0.1〜5μm、好ましくは0.2〜1μmである。0.1μmより薄いと十分な光触媒機能が得られにくくなり、また、5μmを超えても光触媒機能はほとんど向上しない。
合成樹脂製フィルムへの光触媒層の形成は、例えば、上記光触媒活性微粒子、アクリル系共重合体、及び必要に応じその他の各成分を混合した組成物をイソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、水等公知の溶剤に分散し、更に必要に応じ上記溶媒を用いて適当な濃度に調製し、合成樹脂製フィルムに、バーコート、ナイフコート、ロールコート、ダイコートまたはグラビアロールコート等の公知の方法で塗工し、次いで熱風乾燥機等を用いて、通常50〜200℃で数秒間〜数分加熱して乾燥させることにより行えばよい。
また、光触媒活性微粒子は、粉末状態で混合することも可能であるが、スラリー状、あるいはゾル状に調製してから混合するのが好ましく、必要な性状や物性等が満たされていれば、市販の二酸化チタンスラリーやゾルを使用しても良い。
【0019】
本発明の積層フィルムは、光触媒層表面のJIS B 601に規定された算術平均粗さRaが0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下で、かつ十点平均粗さRzが1.0μm以下、好ましくは0.8μm以下である。Ra、Rzが上記範囲を超えると、光触媒層の耐傷付き性が著しく低下する傾向となる。また、特に制限はないが、通常、Raの下限は0.01μm程度、Rzの下限は0.05μm程度である。
【0020】
更に、本発明の積層フィルムは、積層フィルムの耐久性を向上させたり、光触媒層の合成樹脂製フィルムとの密着性を向上させる目的で、光触媒層と合成樹脂製フィルムの間に、有機−無機複合樹脂(ポリマー)を主成分とする層を形成するのが好ましい。有機−無機複合樹脂は該層中50〜100重量%であるのが好ましい。
有機−無機複合樹脂としては、オルガノアルコキシシランの加水分解物またはその部分縮合物であるオルガノポリシロキサンと、水酸基または加水分解性基と結合したケイ素原子を有するシリル基を重合体中に少なくとも1個有するシリル基含有ビニル系重合体とを反応させて得られるハイブリッドポリマー等があげられる。
【0021】
オルガノアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ノルマルプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これら、オルガノアルコキシシランは、1種単独でも2種以上でも使用することができる。
【0022】
また、オルガノアルコキシシランの加水分解物および/またはその部分縮合物であるオルガノポリシロキサンの製造法は既に公知であり、多くの方法が提案されており、例えば、特公昭52−39691に開示される方法によって実施することができる。すなわち、その方法は前記オルガノアルコキシシランに所定量の水を加え、加熱することにより、加水分解、縮合を行わせる工程からなっている。
有機−無機複合樹脂に用いられるシリル基含有ビニル系重合体は、主鎖が炭素骨格のビニル系重合体からなり、末端あるいは、側鎖に水酸基もしくは加水分解性基と結合したケイ素原子を有するシリル基を重合体中に少なくとも1個有するものが好ましい。該シリル基の多くは、一般式(1):−Si(R3−nで示される。一般式(1)中、Xは水酸基、アルコキシ基、アシロキシ基、アミノ基、フェノキシ基、アルキルスルフィド基等の加水分解性基、nは1〜3の正の整数である。ここでXのうちアルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられ、アシロキシ基としてはアセチル基、プロピオニル基等が挙げられ、アルキルスルフィド基としてはメチルスルフィド、エチルスルフィド基等を挙げることができるが、好ましいものとしては、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。
【0023】
また、Rとしては、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、アラルキル基を挙げることができる。
かかるシリル基含有ビニル系重合体は、例えば、一般式(2):R−Si(R3−n(式中、R、Xおよびnは前記一般式(1)と同様であり、Rは例えばビニル、2−プロペニル、3−アクリロキシプロピル、3−メタクリロキシプロピル、4−ビニルフェニル、2−(4−ビニル)フェニルエチル等の重合性2重結合を有する有機基である)で示されるシラン化合物とビニル系化合物と必要に応じこれらと共重合可能な化合物とをラジカル発生化合物の存在下、一般的な方法により共重合することにより製造することができる。ここでビニル系化合物としては前記一般式(2)のシラン化合物との付加体が得られる限りとくに制限を受けるものではなく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸および無水マレイン酸等の酸無水物、グリシジル(メタ)アクリレ−ト等のエポキシ化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレ−ト、アミノエチルビニルエ−テル等のアミノ化合物、(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、イタコン酸アミド、マレイン酸ジアミド等のアミド化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。また、これらと共重合可能な化合物としては、1,1,1−トリメチルアミンメタクリルイミド、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
【0024】
このようにして製造されるシリル基含有ビニル系重合体中の前記一般式(2)で表わされるシラン化合物に由来する構造単位の割合はSi元素換算で、通常、0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%であり、0.01重量%未満では密着性向上の効果は小さくなる傾向となり、また20重量%を超えると塗布液とした際の保存安定性が低下する場合があるので好ましくない。
ハイブリッドポリマーとしては、オルガノポリシロキサン30〜70重量%、シリル基含有ビニル系重合体70〜30重量%を反応させて得られるものが特に好ましく、オルガノポリシロキサンの量が30重量%未満、あるいは70重量%を超えると耐久性向上効果が小さくなる傾向となる。
有機−無機複合樹脂よりなる層の形成は、上記、光触媒層の形成と同様に、有機−無機複合樹脂を公知の有機溶剤に溶解、または分散させて、公知の塗工方法で塗布し、乾燥させればよい。
本発明の積層フィルムは、合成樹脂製フィルムの光触媒層を形成させる面と反対側の面に、必要に応じ粘着剤層を設けることができる。この粘着剤層を形成する粘着剤の種類は特に限定されるものではなく、例えば、天然ゴム系、合成ゴム系、アクリル系、ウレタン系、ビニルエーテル系、シリコーン系、アミド系及びスチレン系粘着剤、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー及びエチレン系不飽和カルボン酸やその無水物でグラフト変性された酸変性オレフィン樹脂等の各種粘着剤が好適に用いられ、また、その形態は、溶液型、エマルジョン型、ホットメルト型等いずれであってもよい。前記粘着剤層には、粘着特性の制御等を目的として必要に応じて、例えばα−ピネンやβ−ピネン重合体、ジテルペン重合体、α−ピネン・フェノール共重合体等のテルペン系樹脂、脂肪族系や芳香族系、脂肪族・芳香族共重合体系等の炭化水素系樹脂、その他ロジン系樹脂やクマロンインデン系樹脂、(アルキル)フェノール系樹脂やキシレン系樹脂等適当な粘着付与剤を配合できる。さらに、液状ポリマーやパラフィン系オイル等の軟化剤、充填剤、顔料、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤等、用途等に応じて必要な種々の添加剤が配合できる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施形態について実施例を用いて詳述するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(1)合成樹脂製フィルムの作成
(A)プロピレンランダム共重合体(グランドポリマー(株)製、グランドポリプロF327)100重量部、ヒンダードアミン系光安定剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、キマソーブ944)0.1重量部よりなる混合物を用いて、三菱重工(株)製押出成型機により、厚さ0.1mmのポリプロピレン系樹脂フィルムを作成した。
【0026】
(B)帝人デュポンフィルム株式会社製ポリエステルフィルム(テトロンHB、厚さ50μm)を合成樹脂製フィルムとして使用した。

(2)有機−無機複合樹脂層の形成
a)シリル基含有ビニル系重合体の合成
還流冷却器、攪拌機を備えた反応器に、メチルメタクリレート70重量部、n−ブチルアクリレート40重量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン20重量部、アクリル酸5重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート13重量部、1,1,1−トリメチルアミンメタクリルイミド1重量部、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1重量部、i−プロピルアルコール150重量部、メチルエチルケトン50重量部およびメタノール25重量部を加えて混合したのち、攪拌しながら80℃に加温し、この混合物にアゾビスイソバレロニトリル4重量部をキシレン10重量部に溶解した溶液を30分間かけて滴下したのち、80℃で5時間反応させて固形分濃度40重量%のシリル基含有ビニル系重合体溶液を得た。
b)有機−無機複合樹脂層用塗布液の調製
還流冷却器、撹拌機を備えた反応器に、メチルトリメトキシシラン70重量部、ジメチルジメトキシシラン30重量部、a)で得たシリル基含有ビニル系重合体100重量部、i−ブチルアルコール100重量部、エチレングリコールモノブチルエーテル75重量部、ジ−i−プロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム10重量部を加えよく攪拌したのち、攪拌下水30重量部を滴下し、60℃で4時間反応させた。次いで、アセチルアセトン10重量部添加した後、室温まで冷却し固形分濃度30重量%の組成物を得た。得られた組成物100重量部に、i−ブチルアルコール100重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100重量部を加えてよく混合したのち、ジオクチルスズジマレエートエステルのi−プロピルアルコール溶液(固形分15重量%)を10重量部添加し、よく攪拌し、有機−無機複合樹脂層用塗布液を得た。
c)有機−無機複合樹脂層の形成
b)で得られた塗布液を、(1)で得られた合成樹脂製フィルムの片面に、グラビアロールコーターで塗工後、80℃の熱風乾燥機内で1分間加熱乾燥させて塗膜層を形成した。なお、乾燥後の塗膜厚さは、1μmであった。

(3)光触媒層の形成
d)アクリル系共重合体の合成
水125重量部、過硫酸カリウム0.025重量部及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル誘導体1.0重量部を反応容器中に仕込み、窒素気流下に70℃に昇温した。これにメタクリル酸メチル27重量部、メタクリル酸ブチル70重量部、メタクリル酸4重量部を3時間で滴下し、乳化重合させ、滴下終了後更に3時間反応させ、樹脂固形分濃度45重量%の反応液(水性分散液)を得た。この反応液にアンモニア水を滴下し、PHを7.0に中和し、アクリル系共重合体を得た。
e)光触媒層の形成
d)で得られたアクリル系共重合体、光触媒及びイソプロピルアルコール等を用いて、表−1に記載の配合になるように混合した後、十分に撹拌し、光触媒含有塗布液を調整した。
得られた塗布液を、(1)で得られた合成樹脂フィルム上またはc)で得られた有機−無機複合樹脂層上にグラビアロールコーターで塗工後、80℃の熱風乾燥機内で1分間加熱乾燥させて光触媒層を形成し、積層フィルムを得た。なお、乾燥後の塗膜厚さは、0.5μmであった。

(4)積層フィルムの評価
f)積層フィルムの表面粗さの測定
(3)で得られた積層フィルムの光触媒層の表面粗さ(JIS B 0601に規定された算術平均粗さRa及び十点平均粗さRz)を、株式会社島津製作所製走査型プローブ顕微鏡(SPM−9500J3)を用いて求め、結果を表−2に記載した。

g)耐傷付き性
(3)で得られた積層フィルムの光触媒層の表面を、学振磨耗試験機を用い、以下の条件で摩擦して試験を実施し、試験後の状態を目視観察により以下の基準で評価し、結果を表−2に記載した。
【0027】
<試験条件> 摩擦子 : カナキン3号で被覆
荷重 : 500g
摩擦回数 : 1000往復

<評価基準>
◎ : 全く傷付きが見られない
○ : 極微小な傷付きが見られる
△ : 傷付きが見られる
× : 著しい傷付きが見られる

h)光触媒作用の評価
(3)で得られた積層フィルム、及び比較例3として光触媒層を形成していないフィルムのそれぞれの表面に、0.1重量%のメチレンブルー水溶液を、乾燥後の塗工量が約5mg/mになるようにバーコーターにより塗工し、熱風乾燥機にて乾燥した。得られたサンプルを1000LXの蛍光灯照射下に置き、経時による色の変化(光触媒活性作用による有機色素の分解、退色)を測定し、結果を表−2に記載した。
【0028】
なお、測色は、エックスライトMA68(エックスライト社製)にて行った。
【0029】
【表1】

(*1)TITALEX PC−8X:(株)クタニ製(アモルファスシリカ混合二酸化チタン水分散液、固形分20重量%)
(*2)PHOTOHAPPCAP L−20:太平化学産業(株)製(光触媒アパタイト含有水分散液、固形分20重量%)
(*3)NW−1:(株)ナノウェイブ製(アパタイト被覆型二酸化チタン水分散液、固形分20重量%)
【0030】
【表2】

(*4)メチレンブルーを塗布していない未処理フィルムとの色差を測定

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製フィルムの片面側に、光触媒活性を有する酸化物半導体微粒子及び、メタクリル酸メチルに由来する構造単位とメタクリル酸ブチルに由来する構造単位を有するアクリル系共重合体を含有する光触媒層を有する積層フィルムであって、該光触媒層の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以下で、かつ十点平均粗さRzが1.0μm以下である積層フィルム。
【請求項2】
光触媒活性を有する酸化物半導体微粒子の平均粒子径が3〜300nmである請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
光触媒層が、光触媒活性を有する酸化物半導体微粒子20〜70重量%、アクリル系共重合体30〜80重量%を含有する請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
合成樹脂製フィルムと光触媒層との間に、有機−無機複合樹脂を主成分とする層を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
有機−無機複合樹脂が、オルガノポリシロキサンとシリル基含有ビニル系重合体とを反応させて得られる重合体である請求項4に記載の積層フィルム。
【請求項6】
アクリル系共重合体が、メタクリル酸メチル5〜50重量%、メタクリル酸ブチル40〜90重量%、及びこれらと共重合可能な単量体0〜40重量%を重合して得られる共重合体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項7】
合成樹脂製フィルムが、ポリオレフィン系樹脂を50〜100重量%含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層フィルムの合成樹脂製フィルム側表面に粘着剤層を形成してなる粘着フィルム。

【公開番号】特開2007−313705(P2007−313705A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143895(P2006−143895)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000176774)三菱化学エムケーブイ株式会社 (29)
【Fターム(参考)】