説明

積層フィルム

【課題】 ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層、アンカーコート剤層、ポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層(A)が積層されてなる層構成を有する積層フィルムにおいて、包装袋として使用するときに、耐圧強度が大きく、湿度により影響を受けることのない高度のガスバリア性を維持する積層フィルムを提供する。
【解決手段】 ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層の少なくとも片面にアンカーコート剤層を介してポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層(A)が積層されてなる層構成を有する積層フィルムからなり、該ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層と該アンカーコート剤層の間の接着強度が100gf/15mm以上であることを特徴とする積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂フィルム層の少なくとも片面にアンカーコート剤層を介してポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層を有する積層フィルムに関する。より詳しくは、該ポリプロピレン系樹脂フィルム層と該アンカーコート剤層の間の接着強度を改善し、フィルムを製袋したときの耐圧性が改善されたポリプロピレン系樹脂フィルム層、アンカーコート剤層、ポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層が積層されてなる層構成を有する積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂からなるフィルムを含む積層フィルムは、従来種々の材質のフィルムと組み合わせて用いられている。その中で、ガスバリア性を有するフィルムと組み合わせたガスバリア性積層フィルムは、酸素との接触を嫌う食品、或いは物品の包装に用いられる。ガスバリア性を有するフィルムとしては、ガスバリア性の湿度依存性がないこと、ガスバリア性に優れていること、人体及び環境に問題を生じないこと等を考慮して選択される。ポリオレフィンの中でポリプロピレン系樹脂からなる層を含むガスバリア性積層フィルムを特定用途、例えば、袋状に成形し、つゆ、たれ、味噌、トマトビューレ、あんこ、わさび、からし、飲料等の液状流動製品、或いはウィンナー、ハム、ナゲット、スナック等の固形物のガスパック包装に用いた場合に、破袋が発生し包装製品を汚染したり、製品歩留りの低下を来す問題を惹起することがある。これらの問題を回避する提案がなされている。
【0003】
特許文献1では、最外層を形成する基材フィルムの内面にアンカーコート剤層または接着剤層を介して中間層を構成する樹脂フィルムを積層し、更に、その内面に最内層を構成する樹脂フィルムを積層してなり、中間層を構成する樹脂が、直鎖状低密度ポリエチレン(a)と必要に応じて配合される高圧法低密度ポリエチレン(b)からなり、(a):(b)の重量比が100〜20:0〜80であり、最内層を構成する樹脂フィルムが、メタロセン触媒を使用して得られた低密度ポリエチレン樹脂フィルム又は当該フィルムを一層以上含む優れた耐圧強度を有する多層フィルムを提案している。ここで、最外層を構成する基材フィルムとしては、ポリプロピレン(PP)、ナイロン(NY)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられ、二軸延伸されたNY、PETまたはEVOHフィルム、特には二軸延伸されたNYフィルムが好適に使用されることが記載されている。
しかしながら、ポリプロピレン系樹脂フィルムを含むガスバリア性積層フィルムを用い製袋した包装体で優れた耐圧強度と高度なガスバリア性兼ね備えた積層フィルムの出現は現在に至っても待望されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−20364号公報(請求項1及び段落0010)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層、アンカーコート剤層、ポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層(A)が積層されてなる層構成を有する積層フィルムにおいて、包装袋として使用するときに、耐圧強度が大きく、湿度により影響を受けることのない高度のガスバリア性を維持する積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、表記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層の少なくとも片面にアンカーコート剤層を介してポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層(A)が積層されてなる積層フィルムにおいて、充填試験で破袋を生じる積層フィルムを観察すると、該ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層と該アンカーコート剤層の間に破壊が発生し、これが袋の破袋を誘導していることが分かった。そして、基材フィルム層とアンカーコート剤層の間の接着強度が特定値以上である積層フィルムがかかる課題を解決することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の第1は、ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層の少なくとも片面にアンカーコート剤層を介してポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層(A)が積層されてなる層構成を有する積層フィルムからなり、該ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層と該アンカーコート剤層の間の接着強度が100gf/15mm以上である積層フィルムを提供する。
本発明の第2は、ガスバリア層(A)の基材フィルム層とは反対側の面にヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層を配した前記発明の積層フィルムを提供する。
本発明の第3は、アンカーコート剤がポリエステル系ポリウレタンである前記第1又は第2の発明の積層フィルムを提供する。
本発明の第4は、ガスバリア層(A)がポリカルボン酸系重合体からなる層(a)と多価金属化合物からなる層(b)とが隣接する層構成を少なくとも1単位有する前記第1〜第3のいずれかの発明の積層フィルムを提供する。
本発明の第5は、ガスバリア層(A)がポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とを含む混合物からなる前記第1〜第3のいずれかの発明の積層フィルムを提供する。
本発明の第6は、最内層同士をヒートシールして袋にしたときの耐圧強度が100kgf/袋以上である前記第2〜第5のいずれかの発明の積層フィルムを提供する。
本発明の第7は、非加熱ガスパック用である前記第1〜第6のいずれかの発明の積層フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層とポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層(A)が積層されたガスバリア性が湿度に依存することなく、且つ袋に成形したときに高い耐圧強度を維持できる積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の積層フィルムに用いるポリプロピレン系樹脂の基材フィルムとしては、プロピレンの単独重合体、プロピレン(優位量)とエチレンの共重合体、プロピレンとブテンの共重合体、プロピレンとペンテンの共重合体を挙げることができる。積層フィルムに用いるポリプロピレン系樹脂フィルムは、延伸であっても、未延伸であっても差し支えない。これらのうち、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)が剛性の観点から好ましく用いられる。ポリプロピレン系樹脂の基材フィルムの厚さは、特に制限されるものではないが、機械適性の観点から、好ましくは10〜100μmである。更に好ましくは10〜80μm、特に好ましくは15〜40μmである。
【0010】
ポリプロピレン系樹脂の基材フィルムとポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層(A)を接着するアンカーコート剤としては、基材フィルムとガスバリア層(A)の間の接着強度、実質的には、基材フィルム層とアンカーコート剤層が100gf/15mm以上、好ましくは100〜1000gf/15mm、更に好ましくは120〜1000gf/15mm、特に好ましくは200〜1000gf/15mmになるようなアンカーコート剤であれば特に制限はない。好ましいアンカーコート剤としては、ポリエステル系ポリウレタンのアンカーコート剤(東洋モートン(株)製、接着剤としてTM−585N、硬化剤としてCAT−10L、溶剤として酢酸エチル、トルエン)を挙げることができる。
【0011】
本発明に係わるポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層(A)は、例えば、ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物を原料とするフィルムからなる。ここで、「ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物を原料とするフィルム」とは、(1)ポリカルボン酸系重合体からなる層(a)と多価金属化合物からなる層(b)とが隣接する層構成を少なくとも1単位有するフィルムと、(2)ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とを含む混合物から形成されたフィルムの両方を含めた意味で用いられる。ここで、ポリカルボン酸系重合体からなる層(a)と多価金属化合物からなる層(b)とが隣接する層構成をとる場合、ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層のアンカーコート剤層に積層する層(a)、層(b)の順序は、ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層とアンカーコート剤層の間の接着強度が100gf/15mm以上である限り、特に制限されない。基材フィルムに塗工されたアンカーコート剤層に層(b)を塗工し、乾燥後、層(a)を塗工してもよいし、アンカーコート剤層に層(a)を塗工し、乾燥後、層(b)を塗工してもよい。しかし、ポリプロピレン系樹脂の基材フィルムとアンカーコート剤層の間の接着強度を充分に確保する観点からは、基材フィルム層/アンカーコート剤層/層(a)/層(b)の層順が好ましい。
【0012】
ポリカルボン酸系重合体は、既存のポリカルボン酸系重合体を用いることができるが、既存のポリカルボン酸系重合体とは、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体の総称である。具体的には、重合性単量体として、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸を用いた単独重合体、単量体成分として、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなり、それらの少なくとも2種の共重合体、またα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体、さらにアルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチンなどの分子内にカルボキシ基を有する酸性多糖類を例示することができる。これらのポリカルボン酸系重合体は、それぞれ単独で、または少なくとも2種のポリカルボン酸系重合体を混合して用いることができる。
【0013】
ここでα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等が代表的なものである。またそれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、スチレン等が代表的なものである。ポリカルボン酸系重合体がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸と酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類との共重合体の場合には、さらにケン化することにより、飽和カルボン酸ビニルエステル部分をビニルアルコールに変換して使用することができる。
【0014】
また、ポリカルボン酸系重合体が、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸とその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体である場合には、得られるフィルムのガスバリア性、及び高温水蒸気や熱水に対する耐性の観点から、その共重合組成は、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体組成が60モル%以上であることが好ましい。より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%、即ち、ポリカルボン酸系重合体がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体であることが好ましい。さらにポリカルボン酸系重合体がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体の場合には、その好適な具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体の重合によって得られる重合体、及びそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体の重合によって得られる重合体、共重合体、及び/またはそれらの混合物を用いることができる。より好ましくは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びそれらの混合物を用いることができる。ポリカルボン酸系重合体がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体の重合体以外の例えば、酸性多糖類の場合には、アルギン酸を好ましく用いることができる。
【0015】
ポリカルボン酸系重合体の数平均分子量については、特に限定されないが、フィルム形成性の観点で2,000〜10,000,000の範囲であることが好ましく、さらには5,000〜1,000,000であることが好ましい。
本発明のフィルムを構成する重合体として、ポリカルボン酸系重合体以外にもフィルムのガスバリア性を損なわない範囲で他の重合体を混合して用いることが可能であるが、ポリカルボン酸系重合体のみを単独で用いることが好ましい。
【0016】
ガスバリア層(A)を構成するポリカルボン酸系重合体は、フィルムのガスバリア性の観点から、ポリカルボン酸系重合体単独のフィルム状成形物について、乾燥条件下(30℃、相対湿度0%)で測定した酸素透過係数が、好ましくは1000cm3(STP)・μm/(m2・day・MPa)以下、更に好ましくは500cm3(STP)・μm/(m2・day・MPa)以下であり、特に好ましくは100cm3(STP)・μm/(m2・day・MPa)以下のものを使用する。
【0017】
本発明で用いる多価金属化合物とは、金属イオンの価数が2以上の多価金属原子単体、及びその化合物である。多価金属の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属、アルミニウム等を挙げることができる。多価金属化合物の具体例としては、前記、多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、無機酸塩、その他、多価金属のアンモニウム錯体や多価金属の2〜4級アミン錯体とそれら錯体の炭酸塩や有機酸塩等が挙げられる。有機酸塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ステアリン酸塩、モノエチレン性不飽和カルボン酸塩等が挙げられる。無機酸塩としては、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等を挙げることができる。それ以外には多価金属のアルキルアルコキシド等を挙げることができる。
【0018】
これらの多価金属化合物はそれぞれ単独で、また少なくとも2種の多価金属化合物を混合して用いることができる。それらの中でも、本発明で用いる多価金属化合物としては、ガスバリア層(A)のガスバリア性、及び製造性の観点で2価の金属化合物が好ましく用いられる。更に好ましくは、アルカリ土類金属、及びコバルト、ニッケル、銅、亜鉛の酸化物、水酸化物、炭酸塩やコバルト、ニッケル、銅、亜鉛のアンモニウム錯体とその錯体の炭酸塩を用いることができる。最も好ましくは、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛の各酸化物、水酸化物、炭酸塩、及び銅もしくは亜鉛のアンモニウム錯体とその錯体の炭酸塩を用いることができる。
また、ガスバリア層(A)のガスバリア性を損なわない範囲で、一価の金属からなる金属化合物、例えばポリカルボン酸系重合体の一価金属塩を混合して、又は含まれたまま用いることができる。一価の金属化合物の好ましい添加量は、前記ガスバリア層(A)のガスバリア性、及び高温水蒸気や熱水に対する耐性の観点で、ポリカルボン酸系重合体の、カルボキシ基に対して、0.2化学当量以下である。一価の金属化合物は、部分的にポリカルボン酸系重合体の多価金属塩の分子中に含まれていてもよい。
【0019】
多価金属化合物の形態は、特別限定されない。しかし後述するように、ガスバリア層(A)中では、ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物の混合物の場合には、多価金属化合物の一部、または全部がポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基と塩を形成している。
従って、ガスバリア層(A)中にカルボン酸塩形成に関与しない多価金属化合物が存在する場合、または、フィルムがポリカルボン酸系重合体からなる層(a)と多価金属化合物からなる層(b)が隣接した層構成単位からなる場合には、フィルムの透明性の観点で多価金属化合物は、粒状で、その粒径が小さい方が好ましい。また、後述するガスバリア層(A)を作製するための塗工用混合物を調製する上でも、調製時の効率化、及びより均一なコーティング混合物を得る観点で多価金属化合物は粒状で、その粒径は小さい方が好ましい。多価金属化合物の平均粒径としては、好ましくは5μm以下、更に好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.1μm以下である。
【0020】
本発明に係わるガスバリア層(A)において、ポリカルボン酸系重合体の量に対する多価金属化合物の量は、ガスバリア層(A)のガスバリア性の観点で、ガスバリア層(A)がポリカルボン酸系重合体からなる層(a)と多価金属化合物からなる層(b)が隣接した層構成を少なくとも1単位有する場合は、互いに隣接する全ての層(a)及び層(b)の合計を基準として、それらの層中に含まれるカルボキシ基の合計(At)に対する多価金属化合物の合計(Bt)が0.2化学当量以上であること、即ち、それらの層中に含まれるカルボキシ基の合計(At)に対する多価金属化合物(B)の合計(Bt)の化学当量が0.2以上であることが好ましい。また、ガスバリア層(A)がポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とを含む混合物から形成された場合は、ポリカルボン酸系重合体の全てのカルボキシ基に対して、0.2化学当量以上の量の多価金属化合物を含むことが好ましい。多価金属化合物の量は、ガスバリア層(A)がポリカルボン酸系重合体からなる層(a)と多価金属化合物からなる層(b)が隣接した層構成を少なくとも1単位有する場合およびガスバリア層(A)がポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とを含む混合物から形成された場合の両方のフィルムについて、更に好ましくは0.5化学当量以上、上記観点に加え、フィルムの成形性や透明性の観点から、0.8化学当量以上、10化学当量以下、最も好ましくは、1化学当量以上5化学当量以下の範囲である。
【0021】
ここで、ガスバリア層(A)が層(a)と層(b)が隣接した層構成をとる場合の「カルボキシ基の合計」、或いは、ポリカルボン酸系重合体、多価金属化合物を含む混合物からなるフィルムの場合の「全てのカルボキシ基」とは、反応に関与しなかったポリカルボン酸のカルボキシ基、及びポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とが反応して生成する(後述する)ポリカルボン酸の多価金属塩となるカルボキシ基を含めた意味で用いられている。これらのポリカルボン酸塩は、互いに隣接する層(a)、層(b)を一体としたフィルムの赤外線吸収スペクトルの測定により確認できる。ポリカルボン酸系重合体、多価金属化合物を含む混合物からなるフィルムについても、同様に、ポリカルボン酸のカルボキシ基、及びポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とが反応して生成するポリカルボン酸の多価金属塩となるカルボキシ基を含めた意味で用いられる。赤外線吸収スペクトルの測定により、ポリカルボン酸塩が生成していることが確認できる。
即ち、カルボン酸塩(-COO-)に帰属されるC=O伸縮振動は、1600cm-1〜1500cm-1の赤外光波数領域に1560cm-1付近に吸収極大を有する吸収ピークを与える。また、カルボキシ基(-COOH)に帰属されるC=O伸縮振動は、1800cm-1〜1600cm-1の赤外光波数領域に1700cm-1付近に吸収極大を有する吸収ピークを与える。
試料フィルムの赤外線吸収スペクトルを透過法、ATR法(減衰全反射法)、KBrペレット法、拡散反射法、光音響法(PAS法)等で測定できる。測定は、簡便性の観点から透過法、及びATR法が好ましい。
【0022】
ガスバリア層(A)を調製する際の好ましい実施態様として、ガスバリア層(A)をポリカルボン酸系重合体、多価金属化合物を含む混合物から調製する場合、ポリカルボン酸系重合体及び多価金属化合物の混合液に、揮発性塩基及び溶剤を加えた溶液又は分散液をコーティングして形成することもできる。この場合、ポリカルボン酸系重合体の全てのカルボキシ基に対して、0.2化学当量以上の量の多価金属化合物と1.0化学当量以上の揮発性塩基及び溶媒として、例えば水からなる混合物を基材フィルムのアンカーコート剤の面に塗工することにより形成することが好ましい。
【0023】
ここで揮発性塩基とは、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モルフォリン、エタノールアミンが挙げられる。ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物は水溶液中では、容易に反応し、不均一な沈殿を形成することがあるため、ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物と溶媒として水からなる均一な混合物を得るために、揮発性塩基を混合する。均一な混合物の分散液、または溶液を得るために必要な揮発性塩基の量はポリカルボン酸系重合体中のカルボキシ基に対して1化学当量以上が好ましい。しかし多価金属化合物がコバルト、ニッケル、銅、亜鉛の酸化物、水酸化物、炭酸塩であるような場合には、1化学当量以上の揮発性塩基を加えることにより、それら金属が揮発性塩基と錯体を形成し、ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物と揮発性塩基、及び溶媒として水からなる透明、均一な溶液が得られる。揮発性塩基の好適な添加量は、ポリカルボン酸系重合体中の全ての、カルボキシ基に対して、1.0化学当量以上、10化学当量以下であることが更に好ましい。揮発性塩基としては、アンモニアが好ましく用いられる。
【0024】
ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物と揮発性塩基、及び溶媒として水からなる混合物は、水にポリカルボン酸系重合体、多価金属化合物、及び揮発性塩基を順次溶解することにより調製できる。溶解させる順序は問わない。該混合物からなる塗工液中のポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物の含有量は、コーティング適性の観点で、0.1重量%〜50重量%の範囲であることが好ましい。またポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物、揮発性塩基及び溶媒以外にも、ガスバリア層(A)のガスバリア性を損なわない範囲で、他の重合体、水以外の溶媒、一価の金属化合物、柔軟剤、安定剤、アンチブロッキング剤、粘着剤、モンモリロナイトなどに代表される無機層状化合物等を適宜添加することができる。
【0025】
ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物と揮発性塩基、及び溶媒として水からなる混合物を基材フィルムのアンカーコート剤層に塗工、乾燥することによりガスバリア層(A)が得られる。基材フィルムのアンカーコート剤層上のポリカルボン酸系重合体、多価金属化合物と揮発性塩基からなるガスバリア層(A)中で、多価金属化合物は、粒子状、分子状、ポリカルボン酸系重合体との金属塩、及びポリカルボン酸との金属錯体塩として存在する。ここで金属錯体とは、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛と揮発性塩基との錯体を意味する。具体的な金属錯体としては、亜鉛や銅のテトラアンモニウム錯体を例示することができる。
【0026】
ガスバリア層(A)の基材フィルム層とは反対側の面に、接着剤層を介し、或いは接着剤層を介することなく、積層されるヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層に用いられる樹脂としては、ヒートシール性を有する樹脂であれば、特に制限はない。低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などのポリエチレン樹脂、ポリプロピレン(PP)、及びこれらの混合物、メタロセン触媒を使用して得られたエチレン共重合体、例えば、M−LLDPE、M−HDPE、M−VLDPE、メタロセン触媒を使用して得られたプロピレン共重合体、例えば、プロピレン・エチレン共重合体(M−PP−Et)、未延伸ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体等のポリオレフィン、ポリアクリロニトリル(PAN)、共重合ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)などを挙げることができる。これらの中、LLDPE、LDPE、HDPE、VLDPEは、ヒートシール強度の観点から好ましい。また、シールした端面部分からのガスの侵入を防止する点でPAN樹脂層、PVDC樹脂層をシール層として用いることが好ましい。シール層の厚さは、特に制限はないが、シール端面のガスバリア性の点で10〜100μm、更には10〜90μm、特に10〜70μmであることが好ましい。
尚、前記のヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層は、実際にヒートシールの機能を奏する層の他に積層フィルムの内側に、接着性、及びコシ(弾力性)を維持するために、他の樹脂からなる層を積層した複層の構成であってもよい。例えば、ガスバリア層(A)に接着剤層を介し、或いは介することなしにLDPE層/VLDPE層をこの順序で積層する。この場合、実際にヒートシールの機能を奏するのはVLDPE層である。
【0027】
ガスバリア層(A)とヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層とは、必要に応じて接着剤を用いて接着される。接着剤は特に限定されないが、ドライラミネート用やアンカーコート用、プライマー用として用いられている溶媒に可溶なアルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などを例示することができる。ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層の厚さは、特に制限されないが、好ましくは10μm〜1mm、更に好ましくは30〜100μm、特に好ましくは40〜70μmである。
【0028】
本発明の積層フィルムの製造について作製例を説明する。
予め基材フィルムに、前記の条件を満たすアンカーコート剤を塗工乾燥しアンカーコート剤層を調製しておく。アンカーコート剤の量は乾燥重量0.01〜5g/m2、更には0.05〜0.2g/m2が好ましい。ポリカルボン酸系重合体、または多価金属化合物と溶媒からなる塗工液を基材フィルムのアンカーコート剤層上に塗工する場合には、ディッピング法やスプレー、及びコーター、印刷機を用いる。コーター、印刷機の種類、塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式などのグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、エアナイフコーター、デイップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を用いることができる。
【0029】
ポリカルボン酸系重合体と溶媒からなる溶液又は分散液、または多価金属化合物と溶媒からなる溶液又は分散液からなる基材フィルムのアンカーコート剤層上に塗工後、溶媒を蒸発、乾燥させる方法は特に限定されない。自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、前記コーター付属の乾燥機、例えばアーチドライアー、フローティングドライアー、ドラムドライアー、赤外線ドライアーなどを用いることができる。乾燥の条件は、基材フィルム及びアンカーコート剤層、及びポリカルボン酸系重合体からなる層(a)、多価金属化合物からなる層(b)が熱による損傷を受けない範囲で任意に選択できる。
【0030】
ポリカルボン酸系重合体と溶媒からなる溶液又は分散液、または多価金属化合物と溶媒からなる塗工液を基材フィルムのアンカーコート剤層上に塗工する順序は、限定されない。少なくとも1層の層(a)と少なくとも1層の層(b)が基材フィルム上に互いに隣接して形成されていればよいが、層(a)と層(b)の隣接した層構成単位を少なくとも1単位有する層構成であることが、ガスバリア性効果の発現の観点から好ましい。基材フィルム(支持体上)のアンカーコート剤層上に形成された層(a)、及び層(b)の厚さの合計は、特に限定されないが、0.001μmから1mmの範囲であることが好ましい、より好ましくは、0.01μm〜100μm、さらに好ましくは、0.1μm〜10μmの範囲である。また、塗工液中のポリカルボン酸系重合体、または多価金属化合物の含有量やそれぞれのコーティング液の塗布量を適宜調整することにより、層(a)と層(b)が隣接した層構成単位を少なくとも1単位有するガスバリア層(A)を得ることができる。互いに隣接する全ての層(a)及び層(b)の合計を基準として、それらの層中に含まれるカルボキシ基の合計(At)に対する多価金属化合物の合計(Bt)の関係は、既に説明した通りである。
【0031】
多価金属化合物と溶媒からなる塗工液は、多価金属化合物を溶媒に溶解、または分散させることにより調製することができる。ここで用いる溶媒は、多価金属化合物を均一に溶解、または分散できるものであれば特に限定はされない。溶媒の具体例としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル等を用いることができる。前記したように、ポリカルボン系重合体は、水溶液中では、容易に多価金属化合物と反応し、不均一な沈殿を生成することがある。従って、ポリカルボン酸系重合体からなる層(a)上に多価金属化合物と溶媒からなる塗工液を塗工するような場合には、溶媒が水であると塗工時にポリカルボン系重合体が多価金属化合物と反応し、不均一な沈殿を生成することがある。そこで溶媒は、水以外の非水系溶媒、または非水系溶媒と水との混合溶媒を用いることが好ましい。ここで非水系溶媒とは水以外の溶媒を意味する。
【0032】
多価金属化合物と溶媒からなる塗工液には、多価金属化合物と溶媒以外に、樹脂、分散剤、界面活性剤、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、アンチブロッキング剤、粘着剤等を適宜添加することができる。特に多価金属化合物の分散性、塗工性を向上させる目的で、用いた溶媒系に可溶な樹脂を混合して用いることが好ましい。樹脂の好適な例としては、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などの塗料用に用いる樹脂を挙げることができる。また、コーティング液中の多価金属化合物と樹脂の構成比は適宜選択可能であるが、コーティング液中の多価金属化合物、樹脂、その他の添加剤を含めた固形分の重量割合は、コーティング適性の観点から、1重量%〜50重量%の範囲であることが好ましい。樹脂を含有した多価金属化合物からなる層を便宜上、多価金属含有樹脂層と云う。
【0033】
ガスバリア層(A)がポリカルボン酸系重合体、多価金属化合物を含む混合物からなる場合は、好ましくはポリカルボン酸系重合体、多価金属化合物、揮発性塩基及び溶剤を含む混合物の溶液又は分散液を基材フィルムのアンカーコート剤層上にコーティングして形成する。また、他の実施態様として、ポリカルボン酸系重合体の全てのカルボキシ基に対して、0.2化学当量以上の量の多価金属化合物と1.0化学当量以上の揮発性塩基及び溶媒として、例えば水からなる混合物を基材フィルムのアンカーコート剤層上に塗工することによりガスバリア層(A)が形成される。
【0034】
ポリカルボン酸系重合体と、多価金属化合物、揮発性塩基、及び溶媒として水からなる混合物の塗工方法については、前記ガスバリア層(A)の説明によって示したポリカルボン酸系重合体と溶媒、または多価金属化合物と溶媒からなる塗工液の塗工方法が適用できる。
【0035】
ガスバリア層(A)の厚さは、特に限定されないが、フィルム形成時の成形性、フィルムのハンドリング性の観点で、0.001μmから1mmの範囲であることが好ましい、更に好ましくは、0.01μm〜100μm、最も好ましくは、0.1μm〜10μmの範囲である。
【0036】
このようにして、ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層の少なくとも片面にアンカーコート剤層を介してポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層(A)が積層された積層フィルムが形成される。次いで、ガスバリア層(A)の基材フィルム層とは反対側の面に、接着剤層を介し、或いは介することなしにヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層を積層する。ガスバリア層(A)への熱可塑性樹脂層の積層は、ドライラミネーション法、ルーダーラミネート法、ルーダーコート法、タンデムルーダーコート法、ノンソルラミネート法等により行うことができる。
【0037】
このようにして得られる本発明の積層フィルムは、ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層とアンカーコート剤層との接着強度が高いので、結果としてガスバリア層(A)と基材フィルム層とが強固に接着し、高湿度下においても酸素等のガスバリア性に優れ、且つ袋に成形したときに高い耐圧強度を示す積層フィルムとなる。積層フィルムの厚さは、特に限定されないがフィルム形成時の成形性、フィルムのハンドリング性の観点で、好ましくは20μm〜2mm、更に好ましくは40〜200μm、特に好ましくは45〜120μmである。この積層フィルムは、ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層とアンカーコート剤層の間の接着強度は、前記のように100gf/15mm以上であり、好ましくは100〜1000gf/15mm、更に好ましくは120〜1000gf/15mm、特に好ましくは200〜1000gf/15mmである。30℃、相対湿度80%における酸素透過度は、好ましくは1000cm3(STP)/(m2・day・MPa)以下、更に好ましくは100cm3(STP)/(m2・day・MPa)以下、特に好ましくは50cm3(STP)/(m2・day・MPa)以下のガスバリア性を有する。且つ、実施例で示した耐圧強度の測定条件により袋に成形したとき、好ましくは100kgf/袋以上、更に好ましくは120kgf/袋以上、特に好ましくは150kgf/袋以上の耐圧強度を与える。積層フィルムを構成するガスバリア層(A)のヤング率は、好ましくは1000〜80000MPa、更に好ましくは2000〜80000MPa、特に好ましくは3000〜10000MPaである。ここで、ガスバリア層(A)は、前記説明したように、(1)ポリカルボン酸系重合体からなる層(a)と多価金属化合物からなる層(b)とが重ね合わされた層構成を有するフィルムと、(2)ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とを含む混合物から形成されたフィルムの両方を含めた意味で用いている。
機械適性、及び流通時の耐ピンホール性の観点から、フィルムの硬さを評価するループスティフネス値がある。ループスティフネス値は特に限定されるものではないが、好ましくは2gf/20mm以下、更に好ましくは0.1〜1.1gf/20mm、特に好ましくは0.1〜0.8gf/20mmである。
【0038】
本発明の積層フィルムはピロー袋、ガゼットピロー袋、四方パウチ、三方パウチ、スパウト付きパウチ、スタンディングパウチ、チューブ、カップ蓋材、ボトルシール等に2次加工され、ウィンナー、ハム、スナック類、その他固形物のガスパック包装、及び飲料、味噌、トマトビューレ、あんこ、その他水煮等の液状物の包装に用いられる。
【0039】
(実施例)
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、本発明の評価のための測定は以下のように行った。
ヤング率
バリア層のヤング率は、万能材料試験装置(東洋ボールドウィン(株)製、テンシロンRTM−100型)を用い、23℃、相対湿度(RH)50%の条件下において、クロスヘッドスピードは10mm/分、試料長は100mm、試料巾は20mmとした。JIS K−7127に準拠した。
酸素ガス透過度
フィルムの酸素透過度は、酸素透過度測定装置(Modern Control社製、酸素透過度試験器、OXTRANTM2/20)を用いて、温度30℃、相対湿度(RH)80%の条件下で測定した。測定方法は、JIS K−7126、B法(等圧法)、及びASTM D3985−81に準拠した。測定値は、単位cm3(STP)/(m2・day・MPa)で表記した。ここで、(STP)は酸素ガスの体積を規定するための標準条件(0℃、1気圧)を意味する。
接着強度(剥離強度)
積層フィルムの剥離強度測定は、万能材料試験装置(東洋ボールドウィン(株)製、テンシロンRTM−100型)を用い、23℃、50%RHの条件下において行った。測定方法は、JIS Z−0238に準拠した。積層フィルムのポリプロピレン系樹脂基材フィルム層/アンカーコート剤層/ガスバリア層(A)の間のポリプロピレン系樹脂基材フィルム層とガスバリア層(A)の間の剥離強度を測定した。剥離は、総て基材フィルム層とアンカーコート剤層の間で発生するので、実質的には、ポリプロピレン系樹脂基材フィルム層とアンカーコート剤層間の接着強度を測定したことになる。クロスヘッドスピードは200mm/分とし、試験長は50mm、試料巾は15mmとした。単位は、gf/15mmである。
耐圧強度
耐圧強度の測定は、110×250mmのガゼットピロー袋を作製し、これに胴部の厚みが40mmになるように空気を入れシールした後、耐圧試験機(大成ラミック株式会社製、プレスチェッカー)を用いて測定した。耐圧強度は袋が破袋したときの荷重を記録した。
ループスティフネス値
ループスティフネス値は、測定する試料を20×250mmに切り出し、ループスティフネス(東洋精機(株)製)を用い、23℃、50%RHの条件下において測定した。
【0040】
(実施例1)
下記構成の塗液1、2、及び3を調製又は準備した。塗液1は、基材とポリカルボン酸系重合体層との接着性を向上させるためのポリエステル系アンカーコート剤(AC1)塗液である。塗液2は、ポリカルボン酸系重合体(PAA1)層を形成するためのポリアクリル酸塗液、塗液3は、ポリカルボン酸系重合体層上に酸化亜鉛(ZnO)微粒子を配するための酸化亜鉛含有樹脂塗液である。

【0041】
2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP1)(二村化学(株)製、FOR,厚さ20μm、片面コロナ処理)を基材とし、上記の塗液1、2、3をこの順番でグラビアコーター機を用いて、塗工し、乾燥し、OPP1層/AC1層(0.3g/m2)/PAA1層(0.5g/m2)/酸化亜鉛含有樹脂層(酸化亜鉛として0.7g/m2)(以後、ZnO層と略称する)からなる積層体を得た。括弧内に各層の乾燥塗布量を示した。得られた積層体にヒートシール性を付与する目的で、酸化亜鉛含有樹脂塗工面にドライラミネート用ポリエステル系接着剤(AD1)(大日本インキ(株)製、ディックドライTMLX−747A)を介して、LLDPE1(東セロ(株)製、TUX−TCS、厚さ60μm)をドライラミネートし、層構成がOPP1層/AC1層/PAA1層/ZnO層/AD1層/LLDPE1のラミネートフィルムを得た。得られたラミネートフィルムのLLDPE面同士をインパルスシーラーで貼り合わせ製袋し、200gの水を充填し、サイズ25cm×15cmの水充填パウチを作製した。水充填パウチに対して、30℃に調整したオーブン中で24時間静置した後、水を取り出しパウチのラミネートフィルムを室温で、12時間乾燥し、酸素透過度を測定した。この水充填処理は、食品包装体において内容物が高含水食品である場合を想定したもので、以後、実施例及び比較例の酸素透過度は、水充填処理後測定したものである。また、処理前のフィルムを用いて基材フィルム層とアンカコート剤層間の接着強度、及び耐圧強度の測定を行った。
【0042】
(実施例2)
実施例1で用いたドライラミネート用ポリエステル系接着剤(AD1)層とLLDPE1層フィルムに換えて、酸化亜鉛含有樹脂層(ZnO層)の上に接着剤(AD1層)(大日本インキ(株)製、ディックドライLX−747A)を塗工後、タンデム押出コート機を用いて、厚さ20μmのLDPE1層及び厚さ25μmのVLDPE1(DOWケミカル社製、アフィニティーP1450)層からなるヒートシール層を形成した以外は、実施例1と同様にして、層構成がOPP1層/AC1層/PAA1層/ZnO層/AD1層/LDPE1層/VLDPE1層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
【0043】
(実施例3)
実施例2で用いたVLDPE1の厚さを20μmにした以外は、実施例2と同様にして、層構成がOPP1層/AC1層/PAA1層/ZnO層/AD1層/LDPE1層/VLDPE2層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
(実施例4)
実施例3の東亜合成製ポリアクリル酸アロンTMA−10Hに換えて、ポリアクリル酸(PAA2)(日本合性(株)製、ポリアクリル酸ジュリマーTM、AC−10SH、数平均分子量1,000,000、10重量%水溶液)を用いた以外は、実施例3と同様にして、層構成がOPP1層/AC1層/PAA2層(0.5g/m2)/ZnO層/AD1層/LDPE1層/VLDPE2層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
【0044】
(実施例5)
実施例3のポリアクリル酸アロンTMA−10Hに換えてポリマレイン酸(PMA)(POLYMER,INC.製、試薬、平均分子量5,000)を用いた以外は、実施例3と同様に塗工し、層構成がOPP1層/AC1層/PMA層(1.0g/m2)/ZnO層/AD1層/LDPE1層/VLDPE2層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
【0045】
(実施例6)
実施例3のポリアクリル酸アロンTMA−10Hに換えて、同ポリアクリル酸の水酸化ナトリウムによる部分中和物(中和度10%)(PAA1n)を用いた以外、実施例3と同様に塗工し、層構成が、OPP1層/AC1層/PAA1n層(0.5g/m2)/ZnO層/AD1層/LDPE1層/VLDPE2層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。ポリアクリル酸の部分中和物は、実施例1で調製したポリアクリル酸10重量%水溶液に対して、水酸化ナトリウムを添加溶解し調製した。水酸化ナトリウムは、ナトリウムイオン換算量がポリアクリル酸水溶液中のカルボキシ基のモル数に対して、10モル%になるように計算して添加した。
(実施例7)
実施例3の酸化亜鉛含有樹脂層に換えて、微粒子酸化マグネシウム(MgO)塗液からなる酸化マグネシウム(MgO)層を用いた以外は、実施例3と同様に塗工し、層構成が、OPP1層/AC1層/PAA1層/MgO層(0.7g/m2)/AD1層/LDPE1層/VLDPE2層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。した。酸化マグネシウム層は、和光純薬工業(株)製、試薬(平均粒径0.01μm)酸化マグネシウムをエタノール中に超音波ホモジナイザーを用いて分散させ、MgO含量10重量%の分散液を調製し、これを塗工乾燥して得た。
(実施例8)
実施例2で用いたVLDPE1層に換えて、LLDPE2層(厚さ25μm)を使用した以外は、実施例2と同様にして、層構成が、OPP1層/AC1層/PAA1層/ZnO層/AD1層/LDPE1層/LLDPE2層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
【0046】
(実施例9)
実施例1で用いたポリアクリル酸(東亞合成(株)製、アロンTMA−10H、数平均分子量200,000、25重量%水溶液)水溶液に対して、揮発性塩基としてアンモニア水(和光純薬工業(株)製、試薬アンモニア28重量%水溶液)酸化亜鉛(和光純薬工業(株)製、試薬)、蒸留水を下記組成で順次添加し超音波ホモジナイザーで混合し、塗工液を得た。揮発性塩基(アンモニア)による亜鉛の錯体形成性を利用し、酸化亜鉛は完全に溶解し、均一な透明溶液を得た。

【0047】
上記塗液構成中、アンモニアはPAA中のカルボキシ基に対して400モル%(4当量)、酸化亜鉛は50モル%(1当量)、PAA濃度は6.3重量%である。得られた塗液を実施例1で用いた塗液2及び塗液3に換えて、実施例1と同様な方法で塗工し、層構成がOPP層/AC1層(0.3g/m2)/PAA−亜鉛塩層(厚さ1μm)からなるラミネートフィルムを得た。ここで得られるラミネート中の亜鉛は、ポリアクリル酸の亜鉛塩、及びポリアクリル酸の亜鉛アンモニウム錯体塩の状態で存在するため、得られたラミネートを温度50℃、相対湿度(RH)20%に調整した恒温恒湿槽中に24時間静置することにより、ポリアクリル酸亜鉛アンモニウム錯体塩からポリアクリル酸亜鉛塩への転換を進めた。更に、実施例1と同様な方法を用いてドライラミネートを行いPAA−亜鉛塩塗工面にドライラミネート用ポリエステル系接着剤(AD1)(大日本インキ(株)製、ディックドライTMLX−747A)を介して、LLDPE1(東セロ(株)製、TUX−TCS、厚さ60μm)をドライラミネートし、層構成がOPP1層/AC1層/PAA−亜鉛塩層/AD1層/LLDPE1層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
【0048】
(実施例10)
実施例9と同様な方法で得られたラミネートOPP層/AC1層(0.3g/m2)/PAA−亜鉛塩層(厚さ1μm)に実施例2と同様な方法を用いヒートシール層を押出コートし、層構成が、OPP1層/AC1層(0.3g/m2)/PAA−亜鉛塩層(厚さ1μm)/AD1層/LDPE1層/VLDPE1層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
(実施例11)
実施例10で用いたVLDPE1層に換えて、LLDPE2層とした以外は実施例10と同様にして、層構成が、OPP1層/AC1層(0.3g/m2)/PAA−亜鉛塩層(厚さ1μm)/AD1層/LDPE1層/LLDPE2層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
【0049】
(比較例1)
実施例1の塗液1(AC1剤)に換えて、下記構成の通り調製した塗液4を用いた以外は、実施例1と同様に塗工し、層構成が、OPP1層/AC2層/PAA1層/ZnO層/AD1層/LLDPE1のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、評価を行った。

【0050】
(比較例2)
実施例8の塗液1(AC1)を塗液4(AC2)に換えた以外は、実施例8と同様にして、層構成が、OPP1層/AC2層/PAA1層/ZnO層/AD1層/LDPE1層/LLDPE2層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
【0051】
(比較例3)
OPP1を基材フィルムとし、この上に順に塗液4(AC2)、及び下記塗液5をグラビアコーター機を用いて、塗工し、乾燥することによりOPP1層/AC2層(0.3g/m2)/PVA層(1.8g/m2)からなる積層体を得た。括弧内に乾燥塗布量を示した。得られた積層体にヒートシール性を付与する目的で、PVA塗工面に対して、ドライラミネート用ポリエステル系接着剤(AD1)(大日本インキ(株)製、ディックドライTMLX−747A)を介して、LLDPE1(東セロ(株)製、TUX−TCS、厚さ60μm)をドライラミネートし、層構成がOPP1層/AC2層/PVA層/AD1層/LDPE1層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
塗液5は、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液であり、以下のように調製した。ポリビニルアルコール樹脂(クラレ(株)製、ポバール205)を80℃の温水に溶解させ、樹脂濃度15重量%の水溶液とした。
【0052】
(比較例4)
比較例3で用いたLDPE1に換えて、AD1層の上にLDPE1層/LLDPE2層を使用した以外、比較例3と同様に塗工し、層構成がOPP1層/AC2層/PVA層/AD1層/LDPE1層/LLDPE2層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
(比較例5)
OPP1のフィルムに接着剤AD1を介して、LLDPE1をドライラミネートして、層構成が、OPP1層/AD1層/LLDPE1層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
(比較例6)
塩化ビニリデンコートポリプロピレンフィルム(K−OP)(東洋紡(株)製、PVDCコート「ハーデン」N8100、厚さ25μm)基材に、ヒートシール性を付与する目的で、ドライラミネート用接着剤AD1を介してLLDPE1をドライラミネートして、層構成が、K−OP層/AD1層/LLDPE1層のラミネートフィルムを作製し、水充填処理、及び評価を行った。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層の少なくとも片面にアンカーコート剤層を介してポリカルボン酸系重合体を主体としてなるガスバリア層(A)が積層されてなる層構成を有する積層フィルムからなり、該ポリプロピレン系樹脂の基材フィルム層と該アンカーコート剤層の間の接着強度が100gf/15mm以上であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
ガスバリア層(A)の基材フィルム層とは反対側の面にヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層を配したこと特徴とする請求項1記載の積層フィルム。
【請求項3】
アンカーコート剤がポリエステル系ポリウレタンである請求項1又は2記載の積層フィルム。
【請求項4】
ガスバリア層(A)がポリカルボン酸系重合体からなる層(a)と多価金属化合物からなる層(b)とが隣接する層構成を少なくとも1単位有する請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
ガスバリア層(A)がポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とを含む混合物からなる請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
最内層同士をヒートシールして袋にしたときの耐圧強度が100kgf/袋以上であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
非加熱ガスパック用である請求項1〜6のいずれかに記載の積層フィルム。

【公開番号】特開2006−62258(P2006−62258A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249029(P2004−249029)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】