説明

積層ポリエステルフィルム

【課題】 透明性および滑り性が良好で、ハードコート層等の各種の表面機能層との密着性に優れ、例えば、タッチパネル等の透明電極用のフィルム部材等、滑り性、透明性が求められる用途に好適に利用することのできる積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 実質的に粒子を含有しないポリエステルフィルムの少なくとも片面に、粒子と2種類以上の架橋剤を含有する塗布液から形成された塗布層を有し、塗布層中の粒子の平均粒径が塗布層の厚みよりも大きいことを特徴とする積層ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムに関するものであり、例えば、タッチパネル等の透明電極用のフィルム部材等、滑り性、透明性が求められる用途に好適な積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステルフィルムは、各種のディスプレイ用の部材に用いられ、タッチパネル等の透明電極用のフィルムの基材としても用いられている。これら用途では、見た目が重視されることもあり、基材フィルムには優れた透明性、視認性が要求される。また、これらフィルムには後加工として、カール防止や傷つき防止、表面硬度等の性能を向上させるために、ハードコート加工されることが多く、その後加工を考慮し、取り扱いが容易で傷が付きにくい基材フィルムであることが求められている。
【0003】
通常、易滑性や巻き取り性、耐ブロッキング性などといったフィルムのハンドリング性を得るために基材フィルム中に粒子を含有させ、表面に凹凸を形成することが一般に行われている。しかしながら、基材フィルム中に粒子を含有させることは、一般に粒子とポリエステルフィルムの屈折率差が大きいことや、フィルム延伸時に粒子周囲に形成されるボイドに起因して、フィルムの透明性を低下させる傾向にある。
【0004】
フィルムの透明性を向上させるためには基材フィルム中の粒子を減らすか、添加しない手法があるが、その場合、ポリエステルフィルム自体の製造工程中やポリエステルフィルムを基材として用いる加工工程中で、滑り性が悪いために表面に傷が入り易くなる問題が生じる。
【0005】
フィルムの透明性の低下を抑え、滑り性を付与する方法として、フィルム中に多孔質球状シリカを含有させる方法がある(特許文献1)。多孔質球状シリカを用いた場合、ポリエステルとの親和性が高まり、ボイドの発生が抑えられることによって透明性が保たれる。しかしながら、フィルムの滑り性を十分に付与することが可能となる粒径の粒子を加えた場合や、粒子量を加えた場合、ディスプレイ用の部材としては不十分な透明性となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−343352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、透明性および滑り性が良好で、ハードコート層等の各種の表面機能層との密着性に優れた積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構成からなる積層ポリエステルフィルムを用いれば、上述の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、実質的に粒子を含有しないポリエステルフィルムの少なくとも片面に、粒子と2種類以上の架橋剤を含有する塗布液から形成された塗布層を有し、塗布層中の粒子の平均粒径が塗布層の厚みよりも大きいことを特徴とする積層ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層ポリエステルフィルムによれば、種々の表面機能層との密着性、透明性、滑り性に優れ、後加工のハンドリングの際も滑り性が良いために傷が入りにくい基材フィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムは単層構成であっても多層構成であってもよく、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0012】
本発明において使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
【0013】
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。この中でも特にフィルムの輝度が高くなるという観点から、チタン化合物であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、ポリエステルフィルム中に実質的に粒子を含有しないことを必須の要件とするものである。
【0015】
前記の「実質的に粒子を含有しない」とは、例えば無機粒子の場合、蛍光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは40ppm以下となる含有量を意味する。これは積極的に粒子を基材フィルム中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分や、原料樹脂あるいはフィルムの製造工程におけるラインや装置に付着した汚れが剥離して、フィルム中に混入する場合があるためである。
【0016】
本発明のポリエステルフィルム中にはフィルムの耐候性の向上、タッチパネル等に用いられる液晶ディスプレイの液晶等の劣化防止のために、紫外線吸収剤を含有させることも可能である。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する化合物で、ポリエステルフィルムの製造工程で付加される熱に耐えうるものであれば特に限定されない。
【0017】
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤があるが、透明性の観点からは有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などが挙げられる。耐久性の観点からは環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系がより好ましい。また、紫外線吸収剤を2種類以上併用して用いることも可能である。
【0018】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の紫外線吸収剤以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0019】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10〜300μm、好ましくは25〜250μmの範囲である。
【0020】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。すなわち、先に述べたポリエステル原料を使用し、乾燥したペレットを単軸押出機を用い、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法や液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0021】
また、本発明においては積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0022】
次に本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。製膜と同時に塗布が可能であるため、製造が安価に対応可能であることから、インラインコーティングが好ましく用いられる。
【0023】
インラインコーティングについては、以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては、特に縦延伸が終了した横延伸前にコーティング処理を施すことができる。インラインコーティングによりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、製膜と同時に塗布が可能になると共に、延伸後のポリエステルフィルムの熱処理工程で、塗布層を高温で処理することができるため、塗布層上に形成され得る各種の表面機能層との密着性や耐湿熱性等の性能を向上させることができる。また、延伸前にコーティングを行う場合は、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。すなわち、インラインコーティング、特に延伸前のコーティングにより、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造することができる。
【0024】
本発明においては、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、粒子と2種類以上の架橋剤を含有する塗布液から形成された塗布層を有し、塗布層中の粒子の平均粒径が塗布層の厚みよりも大きいことを必須の要件とするものである。
【0025】
本発明のフィルムの塗布層はフィルム表面の滑り性を高め、フィルムのハンドリング性を向上させる設計で、かつハードコート層等の表面機能層との密着性を向上させるために設けられるものである。
【0026】
本発明のフィルムの塗布層中に含有する粒子はフィルム表面の滑り性を向上するために使用するものである。粒子の具体例としてはシリカ、カオリナイト、タルク、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、ゼオライト、アルミナ、硫酸バリウム、カーボンブラック、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、二酸化チタン、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の無機粒子、アクリルあるいはメタアクリル系、塩化ビニル系、酢酸ビニル系、ナイロン、スチレン/アクリル系、スチレン/ブタジエン系、ポリスチレン/アクリル系、ポリスチレン/イソプレン系、メチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート系、メラミン系、ポリカーボネート系、尿素系、エポキシ系、ウレタン系、フェノール系、ジアリルフタレート系、ポリエステル系等の有機粒子が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも透明性および傷つき防止の観点からシリカが好ましい。
【0027】
用いられる粒子の粒径は、塗布層の厚みにも依存するため、一概には言えないが、当該粒子を含有する塗布層の厚みよりも大きい範囲であり、好ましくは0.03〜1.0μm、さらに好ましくは0.03〜0.5μm、特に好ましくは0.06〜0.2μmの範囲である。粒子の粒径が1.0μmよりも大きい場合、フィルムの透明性が大きく悪化する場合がある。
【0028】
本発明においては、塗布層を形成させるための塗布液に2種類以上の架橋剤を含有するものであるが、これらは塗布層上に設けられるハードコート層等の表面機能層との密着性を向上させることができる。1種類の架橋剤でも密着性を向上させることができることを見いだしたが、2種類以上の架橋剤を併用することにより、さらに密着性を向上させることができ、特に湿熱処理後の密着性を改善できることを見いだした。
【0029】
本発明のフィルムの塗布層の形成に使用する架橋剤とは、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。これら架橋剤の中でも密着性が良好であるという観点において、特にオキサゾリン化合物あるいはエポキシ化合物を使用することが好ましく、さらに好ましくはオキサゾリン化合物とエポキシ化合物を併用することである。
【0030】
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の含ハロゲンα,β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、等のα,β−不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
【0031】
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えば、エピクロロヒドリンとエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0032】
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0033】
イソシアネート系化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネート等が例示される。また、これらイソシアネートのビュレット化物、イソシアヌレート化物、ウレトジオン化物、カルボジイミド変性体等の重合体や誘導体も挙げられる。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。上記イソシアネートの中でも、紫外線による黄変を避けるために、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネートまたは脂環族イソシアネートがより好ましい。
【0034】
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合、そのブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類、フェノール、クレゾール、エチルフェノールなどのフェノール系化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール、エタノールなどのアルコール系化合物、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物、ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミンなどのアミン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミドの酸アミド化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0035】
また、本発明におけるイソシアネート系化合物は単体で用いてもよいし、各種ポリマーとの混合物や結合物として用いてもよい。イソシアネート系化合物の分散性や架橋性を向上させるという意味において、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂との混合物や結合物を使用することが好ましい。
【0036】
カルボジイミド系化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、塗布層上に形成され得るハードコート層等の表面機能層との密着性の向上や、塗布層の耐湿熱性の向上のために用いられるものである。カルボジイミド系化合物は、分子内にカルボジイミド、あるいはカルボジイミド誘導体構造を1つ以上有する化合物であるが、より良好な密着性等のために、分子内に2つ以上有するポリカルボジイミド系化合物がより好ましい。
【0037】
カルボジイミド系化合物は従来公知の技術で合成することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0038】
さらに本発明の効果を消失させない範囲において、ポリカルボジイミド系化合物の水溶性や水分散性を向上するために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩、ヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加して用いてもよい。
【0039】
なお、これら架橋剤は、乾燥過程や、製膜過程において、反応させて塗布層の性能を向上させる設計で用いている。できあがった塗布層中には、これら架橋剤の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
【0040】
本発明の粒子を含有する塗布層の形成には、本発明の趣旨を損なわない範囲において、従来公知の各種の化合物を併用することが可能である。その中でも、粒子の脱落防止のために、各種のポリマーを使用することが望ましい。
【0041】
ポリマーの具体例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニル(ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。これらの中でもハードコート層等の表面機能層との密着性向上、塗布外観向上の観点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂を使用することが好ましい。
【0042】
ポリエステル樹脂とは、主な構成成分として例えば、下記のような多価カルボン酸および多価ヒドロキシ化合物からなるものが挙げられる。すなわち、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸および、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2−カリウムスルホテレフタル酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩およびそれらのエステル形成性誘導体などを用いることができ、多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオ−ル、2−メチル−1,5−ペンタンジオ−ル、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、p−キシリレングリコ−ル、ビスフェノ−ルA−エチレングリコ−ル付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、ポリテトラメチレングリコ−ル、ポリテトラメチレンオキシドグリコ−ル、ジメチロ−ルプロピオン酸、グリセリン、トリメチロ−ルプロパン、ジメチロ−ルエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロ−ルプロピオン酸カリウムなどを用いることができる。これらの化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステル樹脂を合成すればよい。
【0043】
アクリル樹脂とは、アクリル系、メタアクリル系のモノマーに代表されるような、炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーからなる重合体である。これらは、単独重合体あるいは共重合体いずれでも差し支えない。また、それら重合体と他のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン等)との共重合体も含まれる。例えば、ブロック共重合体、グラフト共重合体である。あるいは、ポリエステル溶液、またはポリエステル分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にポリウレタン溶液、ポリウレタン分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にして他のポリマー溶液、または分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマー混合物)も含まれる。また、接着性をより向上させるために、ヒドロキシル基を含有することも可能である。
【0044】
上記炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーとしては、特に限定はしないが、特に代表的な化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸のような各種カルボキシル基含有モノマー類、およびそれらの塩;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキルフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネートのような各種の水酸基含有モノマー類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのような各種の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドまたは(メタ)アクリロニトリル等のような種々の窒素含有化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンのような各種スチレン誘導体、プロピオン酸ビニルのような各種のビニルエステル類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のような種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビリデンのような各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエンのような各種共役ジエン類が挙げられる。
【0045】
ウレタン樹脂とは、ウレタン樹脂を分子内に有する高分子化合物のことである。通常ウレタン樹脂はポリオールとイソシアネートの反応により作成される。ポリオールとしては、ポリカーボネートポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられ、これらの化合物は単独で用いても、複数種用いてもよい。
【0046】
本発明のフィルムの塗布層の形成には、塗布面上にハードコート層等の種々の表面機能層が積層されたときの干渉ムラの低減のために、高屈折率材料を併用することが好ましい。
【0047】
一般的には、干渉ムラを軽減させるための塗布層の屈折率は、基材のポリエステルフィルムの屈折率とハードコート層の屈折率の相乗平均付近と考えられ、この辺りの屈折率に調整することが理想的である。ポリエステルフィルムの屈折率が高いため、一般的には塗布層の屈折率を高く設計する必要がある。
【0048】
高屈折率材料とは芳香族構造を含有する化合物や金属酸化物、金属キレート化合物、硫黄元素を含有する化合物、ハロゲン元素を含有する化合物などが挙げられる。これらの中でも塗布層形成の容易性や各種の性能の観点から芳香族構造を含有する化合物や金属酸化物が好適に用いられる。
【0049】
ポリエステルフィルム上への塗布性を考慮すると、芳香族構造を有する化合物は、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等のポリマーが好ましい。特に分子内にベンゼン環等の芳香族化合物を数多く含有させることができ、それにより屈折率を高くすることができるという観点から、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0050】
芳香族をポリエステル樹脂に組み込む方法としては、例えば、芳香族に置換基として水酸基を2つあるいはそれ以上導入してジオール成分あるいは多価水酸基成分とするか、あるいはカルボン酸基を2つあるいはそれ以上導入してジカルボン酸成分あるいは多価カルボン酸成分として作成する方法がある。
【0051】
また、芳香族構造を含有する化合物としては、ベンゼン環よりも、より効果的に高屈折率化が出来るという観点から、下記式1で例示されるような、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[a]フェナントレン、ピレン、ベンゾ[c]フェナントレン、ペリレン等の縮合多環式芳香族構造を分子内に有する化合物を用いることが好ましい。
【0052】
【化1】

【0053】
積層ポリエステルフィルム製造工程において、着色がしにくいという点で、塗布層の形成に使用する芳香族は、上記の縮合多環式芳香族化合物の中でも、ナフタレン構造を有する化合物が好ましい。また、塗布層上に形成される各種表面機能層との密着性や、透明性が良好であるという点で、ポリエステル構成成分としてナフタレン構造を組み込んだ樹脂が好適に用いられる。当該ナフタレン構造としては、代表的なものとして、1,5−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0054】
なお、芳香族構造を含有する化合物には、水酸基やカルボン酸基以外にも、硫黄元素を含有する置換基、フェニル基等の芳香族置換基、ハロゲン元素基等を導入することにより、屈折率の向上が期待でき、塗布性や密着性の観点から、アルキル基、エステル基、アミド基、スルホン酸基、カルボン酸基、水酸基等の置換基を導入してもよい。
【0055】
金属酸化物とは、主に塗布層の屈折率調整のために使用するものである。特に塗布層中に使用する樹脂の屈折率が低いために、高い屈折率を有する金属酸化物を使用することが好ましく、屈折率として1.7以上のものを使用することが好ましい。金属酸化物の具体例としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化亜鉛、アンチモンチンオキサイド、インジウムチンオキサイド等が挙げられ、これらを単独で使用しても良いし、2種類以上使用しても良い。これらの中でも酸化ジルコニウムや酸化チタンがより好適に用いられ、特に、耐候性の観点から酸化ジルコニウムがより好適に用いられる。
【0056】
金属酸化物は、使用形態によっては密着性が低下する懸念があるため、粒子の状態で使用することが好ましく、また、その平均粒径は透明性の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。
【0057】
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、塗布層には必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等が含有されてもよい。
【0058】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、塗布層の厚みよりも大きな粒径の粒子は、その粒径にもよるが、通常0.05〜10重量%の範囲、より好ましくは0.1〜7重量%の範囲、さらに好ましくは0.3〜5重量%の範囲である。0.05重量%よりも少ない場合は十分な滑り性の改善が得られず、10重量%よりも多い場合は透明性が悪化する場合がある。
【0059】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、2種類以上の架橋剤は、通常2〜80重量%の範囲、より好ましくは4〜60重量%の範囲、さらに好ましくは10〜50重量%の範囲である。これらの範囲より外れる場合は、ハードコート層等の表面機能層との密着性が低下する可能性が懸念される場合、塗布外観が悪化する場合、ハードコート層等の表面機能層形成後の干渉ムラにより、視認性が良くない場合がある。
【0060】
架橋剤としてオキサゾリン化合物を使用する場合、塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、オキサゾリン化合物の含有量は、好ましくは1〜50重量%以下の範囲、より好ましくは1〜40重量%、さらに好ましくは3〜30重量%の範囲である。これらの範囲より外れる場合は、ハードコート層等の表面機能層との密着性が低下する可能性が懸念される場合や、塗布外観が悪化する場合がある。
【0061】
架橋剤としてエポキシ化合物を使用する場合、塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、エポキシ化合物の含有量は、好ましくは1〜50重量%以下の範囲、より好ましくは1〜40重量%の範囲、さらに好ましくは3〜30重量%の範囲である。これらの範囲より外れる場合は、ハードコート層等の表面機能層との密着性が低下する可能性が懸念される場合や、塗布外観が悪化する場合がある。
【0062】
塗布層の形成に用いられるポリマーにポリエステル樹脂、もしくはアクリル樹脂、もしくはウレタン樹脂を使用する場合、塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、上記ポリマーの含有量は、好ましくは90重量%以下の範囲、より好ましくは5〜80重量%の範囲である。これらの範囲より外れる場合は、ハードコート層等の表面機能層との密着性が低下する可能性が懸念される場合や、粒子成分が少ないことにより、滑り性の確保が不十分な場合がある。
【0063】
塗布層の形成に用いられる成分として、縮合多環式芳香族構造を有する化合物を使用する場合、その化合物中で縮合多環式芳香族の占める割合は、好ましくは5〜80重量%の範囲であり、より好ましくは10〜60重量%の範囲である。また、塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分中の縮合多環式芳香族構造を有する化合物の含有量は、好ましくは80重量%以下の範囲、より好ましくは5〜70重量%の範囲、さらに好ましくは10〜60重量%の範囲である。これらの範囲で使用することにより、塗布層の屈折率の調整が容易となり、ハードコート層等の表面機能層を形成後の干渉ムラの軽減がしやすくなる。
なお、縮合多環式芳香族の割合は、例えば、適当な溶剤または温水で塗布層を溶解抽出し、クロマトグラフィーで分取し、NMRやIRで構造を解析、さらに熱分解GC−MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)や光学的な分析等で解析することにより求めることができる。
【0064】
塗布層を形成する成分として金属酸化物を用いる場合、塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、金属酸化物は、好ましくは70重量%以下の範囲、より好ましくは5〜50重量%の範囲、さらに好ましくは5〜40重量%の範囲、特に好ましくは8〜30重量%の範囲である。これらの範囲より外れる場合は、干渉ムラが軽減されない場合や、塗布層の透明性が悪化する場合がある。
【0065】
塗布層中の成分の分析は、例えば、TOF−SIMS、ESCA、蛍光X線等の分析によって行うことができる。
【0066】
インラインコーティングによって塗布層を設ける場合は、上述の一連の化合物を水溶液または水分散体として、固形分濃度が0.1〜50重量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は1種類のみでもよく、適宜、2種類以上を使用してもよい。
【0067】
本発明における積層ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルフィルム上に設けられる塗布層の膜厚は、通常0.01〜1.0μm、好ましくは0.02〜0.5μmの範囲である。膜厚が上記範囲より外れる場合は、表面機能層と十分な接着性が得られない可能性や、粒子の脱落が生じ、十分な滑り性の改善が得られない可能性がある。
【0068】
本発明における積層ポリエステルフィルムにおいて、ハードコート層等の表面機能層の積層後の視認性を向上させる場合、塗布層の膜厚は好ましくは0.07〜0.15μm、さらに好ましくは0.08〜0.12μmの範囲である。膜厚が上記範囲より外れる場合は、表面機能層を積層後の干渉ムラにより、視認性が悪化する場合がある。
【0069】
本発明において、塗布層を設ける方法はリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【0070】
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の乾燥および硬化条件に関しては特に限定されるわけではなく、例えば、オフラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、80〜200℃で3〜40秒間、好ましくは100〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0071】
一方、インラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、70〜280℃で3〜200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0072】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0073】
本発明のポリエステルフィルムには、塗布層の上にハードコート層等の表面機能層を設けるのが一般的である。ハードコート層に使用される材料としては、特に限定されないが、例えば、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、テトラエトキシシラン等の反応性珪素化合物等の硬化物が挙げられる。これらのうち生産性及び硬度の両立の観点より、紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物の重合硬化物であることが特に好ましい。
【0074】
紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物としては特に限定されるものでない。例えば、公知の紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを一種類以上混合したもの、紫外線硬化性ハードコート材として市販されているもの、或いはこれら以外に本実施形態の目的を損なわない範囲において、その他の成分を更に添加したものを用いることができる。
【0075】
紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されるものではないが、例えばジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ) アクリレート、1,6−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ヘキサン等の多官能アルコールの(メタ)アクリル誘導体や、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、そしてポリウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0076】
紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物に含まれるその他の成分は特に限定されるものではない。例えば、無機又は有機の微粒子、重合開始剤、重合禁止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、分散剤、界面活性剤、光安定剤及びレベリング剤等が挙げられる。また、ウェットコーティング法において成膜後乾燥させる場合には、任意の量の溶媒を添加することができる。
【0077】
ハードコート層の形成方法は、有機材料を用いた場合にはロールコート法、ダイコート法等の一般的なウェットコート法が採用される。形成されたハードコート層には必要に応じて加熱や紫外線、電子線等の活性エネルギー線照射を施し、硬化反応を行うことができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法および評価方法は次のとおりである。
【0079】
(1)ポリエステルの極限粘度の測定方法
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0080】
(2)ポリエステルフィルムに含有する粒子の平均粒径の測定方法
ポリエステルフィルムの表面を、レーザ顕微鏡(オリンパス株式会社製 OSL−3000)を使用して観察し、粒子の長径と短径の平均値を粒径とし、粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
【0081】
(3)塗布層に含有する粒子の平均粒径の測定方法
TEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H−7650、加速電圧100V)を使用して塗布層を観察し、粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
【0082】
(4)塗布層の膜厚測定方法
塗布層の表面をRuOで染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuOで染色し、塗布層断面をTEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H−7650、加速電圧100V)を用いて測定した。
【0083】
(5)ヘーズの測定方法
スガ試験機株式会社製ヘーズメーターHZ−2を使用して、JIS K 7136で測定した。透明性を判断する場合、ヘーズの値は好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.3%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。
【0084】
(6)粒子感の評価方法
フィルムを3波長光域型蛍光灯下で目視にて観察したときに、粒子感(フィルム中の粒子に起因する点々)が観察されずクリア感がある場合を○、粒子感があり、白っぽさが観察される場合を×とした。粒子感は○であることが好ましい。
【0085】
(7)動摩擦係数
幅10mm、長さ100mmの平滑なガラス板上にフィルムを貼り付け、その上に幅18mm、長さ120mmに切り出したフィルムを直径8mmの金属ピンに押し当て、金属ピンをガラス板の長手方向に、加重30g、40mm/分で滑らせて摩擦力を測定し、10mm滑らせた点での摩擦係数を動摩擦係数として評価した。動摩擦係数として0.8以上は滑り性が悪い場合があり、好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下である。また、値がμd>1.0となった場合は正確な値の判断が難しいため、×とした。なお、測定は、室温23±1℃ 、湿度50±0.5%RHの雰囲気下で行った。
【0086】
(8)ポリエステルフィルムにおける塗布層表面からの絶対反射率の評価方法
あらかじめ、ポリエステルフィルムの測定裏面に黒テープ(ニチバン株式会社製ビニールテープVT―50)を貼り、分光光度計(日本分光株式会社製 紫外可視分光光度計 V−570 および自動絶対反射率測定装置 ARM−500N)を使用して同期モード、入射角5°、N偏光、レスポンス Fast、データ取区間隔1.0nm、バンド幅10nm、走査速度1000m/分で塗布層面を波長範囲400〜800nmの絶対反射率を測定し、その極小値における波長(ボトム波長)と反射率を評価した。これらの範囲に反射率の極小値が無い場合はその値を導出していない。ハードコート層等の表面機能層を形成後に干渉ムラが発生することを抑制する場合、波長400〜800nmの範囲に極小値が1つ存在することが好ましく、波長500〜700nmの範囲に極小値が1つ存在することがより好ましい。また、その極小値の値が、4.0〜6.5%の範囲であることが好ましく、4.5〜6.2%の範囲であることがより好ましい。
【0087】
(9)干渉ムラの評価方法
ポリエステルフィルムの塗布層側に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート72重量部、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート18重量部、五酸化アンチモン10重量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャルティケミカル製)1重量部、メチルエチルケトン200重量部の混合塗液を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、紫外線を照射して硬化させハードコート層を形成した。得られたフィルムを3波長光域型蛍光灯下で目視にて、干渉ムラを観察し、干渉ムラが確認できないものを◎、薄くまばらな干渉ムラが確認されるものを○、薄いが線状の干渉ムラが確認できるものを△、明瞭な干渉ムラが確認されるものを×とした。
【0088】
(10)塗布層の密着性の評価方法
より厳しい密着性の評価を行うために、上記(9)の評価で使用したハードコート液から五酸化アンチモンを除いた材料で検討した。すなわち、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80重量部、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート20重量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャルティケミカル製)5重量部、メチルエチルケトン200重量部の混合塗液を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、紫外線を照射して硬化させハードコート層を形成した。得られたフィルムに対して、80℃、90%RHの環境下で100時間後、10×10のクロスカットをして、その上に18mm幅のテープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT−18)を貼り付け、180度の剥離角度で急激にはがした後の剥離面を観察し、剥離面積が3%未満ならば◎、3%以上10%未満なら○、10%以上50%未満なら△、50%以上ならば×とした。
【0089】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エチルアシッドフォスフェートを生成ポリエステルに対して30ppm、触媒として酢酸マグネシウム・四水和物を生成ポリエステルに対して100ppmを窒素雰囲気下、260℃でエステル化反応をさせた。引き続いて、テトラブチルチタネートを生成ポリエステルに対して50ppm添加し、2時間30分かけて280℃まで昇温すると共に、絶対圧力0.3kPaまで減圧し、さらに80分、溶融重縮合させ、極限粘度0.63のポリエステル(A)を得た。
【0090】
<ポリエステル(B)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、触媒として酢酸マグネシウム・四水和物を生成ポリエステルに対して900ppmを窒素雰囲気下、225℃でエステル化反応をさせた。引き続いて、正リン酸を生成ポリエステルに対して3500ppm、二酸化ゲルマニウムを生成ポリエステルに対して70ppm添加し、2時間30分かけて280℃まで昇温すると共に、絶対圧力0.4kPaまで減圧し、さらに85分、溶融重縮合させ、極限粘度0.64のポリエステル(B)を得た。
【0091】
<ポリエステル(C)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において、溶融重合前に平均粒径3.2μmのシリカ粒子を生成ポリエステルに対して0.5重量%添加する以外はポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(C)を得た。
【0092】
塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(化合物例)
・粒子:(IA) 平均粒径0.07μmのシリカ粒子
・粒子:(IB) 平均粒径0.09μmのシリカ粒子
・粒子:(IC) 平均粒径0.15μmのシリカ粒子
・粒子:(ID) 平均粒径0.45μmのシリカ粒子
【0093】
・オキサゾリン化合物:(IIA)
オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリルポリマー エポクロスWS−500(株式会社日本触媒製、1−メトキシ−2−プロパノール溶剤約38重量%を含有するタイプ)
・オキサゾリン化合物:(IIB)
オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリルポリマー エポクロスWS−700(株式会社日本触媒製、VOCフリータイプ)
【0094】
・エポキシ化合物:(IIIA)ポリグリセロールポリグリシジルエーテルである、デナコールEX−521(ナガセケムテックス株式会社製)。
・エポキシ化合物:(IIIB)エポキシ樹脂である、デナコールEX−1410(ナガセケムテックス株式会社製)。
【0095】
・縮合多環式芳香族を有するポリエステル樹脂:(IVA)
下記組成で共重合したポリエステル樹脂の水分散体
モノマー組成:(酸成分)2,6−ナフタレンジカルボン酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸//(ジオール成分)エチレングリコール/ジエチレングリコール=92/8//80/20(mol%)
・ポリエステル樹脂:(IVB)
下記組成で共重合したポリエステル樹脂の水分散体
モノマー組成:(酸成分)テレフタル酸/イソフタル酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸//(ジオール成分)エチレングリコール/1,4−ブタンジオール/ジエチレングリコール=56/40/4//70/20/10(mol%)
・アクリル樹脂:(IVC)下記組成で重合したアクリル樹脂の水分散体
エチルアクリレート/n−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/N−メチロールアクリルアミド/アクリル酸=65/21/10/2/2(重量%)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)
・ウレタン樹脂(IVD)
カルボン酸水分散型ポリエステルポリウレタン樹脂である、ハイドランAP−40(DIC株式会社製)
【0096】
・ヘキサメトキシメチルメラミン(V)
【0097】
・金属酸化物:(VIA)平均粒径0.02μmの酸化ジルコニウム粒子
・金属酸化物:(VIB)平均粒径15nmの酸化チタン粒子
【0098】
実施例1:
ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ95%、5%、の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ95%、5%の割合で混合した混合原料を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=1:31:1の吐出量、表層厚さ3.8μm設計)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの両面に、下記表1に示す塗布液1を塗布し、テンターに導き、横方向に120℃で4.0倍延伸し、225℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、塗布層の膜厚(乾燥後)が0.10μmの塗布層を有する厚さ125μmのポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムを評価したところ、動摩擦係数が低く、滑り性、透明性は良好で、かつ、密着性、干渉ムラも良好であった。このフィルムの特性を下記表2に示す。
【0099】
実施例2〜21:
実施例1において、塗布剤組成を表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がったポリエステルフィルムは表2に示すとおり、滑り性および透明性は良好であり、密着性も良好なものであった。
【0100】
比較例1:
実施例1において、ポリエステル(A)、(B)、(C)をそれぞれ88%、5%、7%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とする以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところ、表2に示すとおり、ヘーズが高く、粒状感があり、透明性の低いフィルムであった。
【0101】
比較例2〜9:
実施例1において、表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところ、表2に示すとおり、動摩擦係数が高くて滑り性が悪いためにハンドリング性に劣る場合や、透明性が悪い場合、明瞭な干渉ムラが観察できる場合、密着性が劣る場合が見られた。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のフィルムは、例えば、タッチパネル等の透明電極用のフィルム部材等、透明性および滑り性が必要で、ハードコート層等の表面機能層との密着性および視認性を重視する用途に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に粒子を含有しないポリエステルフィルムの少なくとも片面に、粒子と2種類以上の架橋剤を含有する塗布液から形成された塗布層を有し、塗布層中の粒子の平均粒径が塗布層の厚みよりも大きいことを特徴とする積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2013−100498(P2013−100498A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−231261(P2012−231261)
【出願日】平成24年10月19日(2012.10.19)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】