説明

積層不織布およびその製造方法

【課題】比較的低い伸長率で伸ばしたときに高い寸法安定性を示し、張力を縦方向に加えながら、連続加工するのに適している積層不織布を提供する。
【解決手段】繊維長0.5〜20mmの繊維から成る短繊維層を搬送ベルトの上に載せ、短繊維層の表面に熱可塑性エラストマーを含んでなる繊維を例えばメルトブローン法により集積して、当該繊維が溶融または軟化している間に、短繊維層に接触させることにより、短繊維層と熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を接着して、熱可塑性エラストマー繊維を含む不織布と短繊維層とが一体化した積層不織布を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性を有する積層不織布に関し、より詳細には、熱可塑性エラストマーから成る伸縮性を有する不織布と、短繊維層とから成る、積層不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーから成る不織布は、伸縮性を必要とする種々の用途で使用されている。熱可塑性エラストマーから成る不織布は、最終製品に優れた伸縮特性を付与する。エラストマー不織布はそれ単独で使用するほか、ほかの繊維層(例えば不織布またはウェブ)に積層されて使用されることもある。そのようなエラストマー不織布の加工に際しては、エラストマー不織布を引っ張り気味にする、即ち、縦方向(機械方向)に張力をかける必要がある。そのような張力は、連続製造中に、エラストマー不織布がたるまないようにするために必要とされる。具体的には、エラストマー不織布に他の繊維層を積層する場合、およびエラストマー不織布に、何らかの後処理(例えば処理剤の付与)を施す場合に、縦方向に張力をかけて、連続加工が実施される。
【0003】
しかし、エラストマー不織布を縦方向に引っ張ると、容易に伸びて、変形し、細長くなる、即ち、横方向の寸法(幅)の減少(幅入り)が生じやすい傾向にある。これは、エラストマー不織布の寸法安定性が低いことに起因する。加工中にエラストマー不織布の幅が減少すると、所望の幅の最終製品が得られない等の不都合がある。この幅の減少は、エラストマー不織布の目付が小さいほど、顕著に生じる。
【0004】
加工中のエラストマー不織布の幅の減少を抑制する一つの手法として、エラストマー不織布と他の不織布とを積層させることが知られている(特許文献1)。特許文献1は、少なくとも1層の横伸長性スパンボンド不織布と、少なくとも1層の伸縮性メルトブローン不織布とからなり、スパンボンド不織布が特定のプロピレン系重合体とエチレン系重合体とから成る、不織布積層体を開示している。同文献の0038には、メルトブローン不織布とスパンボンド不織布の接合方法として、1)メルトブローン法によって形成される繊維をスパンボンド不織布の上に直接堆積させた後、融着させる方法、2)加熱加圧により融着させる方法、3)接着剤によって接着する方法が挙げられている。
また、特許文献2〜5にも、メルトブローン不織布と他の不織布とを積層した積層不織布が開示されている。このうち、特許文献4および5は、メルトブローン不織布が熱可塑性エラストマーから成るものを開示している。
【特許文献1】特開平11−158766号公報
【特許文献2】特開平6−299452号公報
【特許文献3】特開平6−341046号公報
【特許文献4】特開平11−61622号公報
【特許文献5】特開2003−53894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の不織布積層体は、スパンボンド不織布層とメルトブローン不織布層とからなり、同文献の実施例によれば、横方向(CD方向)の伸長特性は、伸長率が大きいほど、伸長時荷重の大きいようなものとなる。この構成においては、例えば、目付の小さいエラストマー不織布を使用する場合に、エラストマー不織布が有する特性が十分に発揮されないことがある。エラストマー不織布は目付が小さい程、比較的広い範囲の伸長率で引っ張ったときに、小さな力で伸長可能であるとともに、回復性を示す。しかし、そのようなエラストマー不織布にスパンボンド不織布を積層すると、伸長率を高くして引っ張ったときに、相当の力を要し、僅かな力で伸長可能なものとならない。これは、スパンボンド不織布の強度が大きいことによる。即ち、強度の大きいスパンボンド不織布が、積層体全体の機械的特性を支配するため、エラストマー不織布の特性は、得られる不織布積層体において発揮されにくい。
【0006】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、単独では連続加工が困難である、伸縮性に富むエラストマー不織布を、連続加工の容易なものとし、かつ、最終的に得られる製品において、その特性が十分に発揮される、積層不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を含む伸縮性不織布(以下、「エラストマー不織布」とも呼ぶ)の少なくとも一方の表面に、繊維長0.5〜20mmの繊維から成る短繊維層が積層されてなり、かつ伸縮性不織布と短繊維層とが、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維により接着されている、積層不織布を提供する。この積層不織布は、短繊維層がエラストマー不織布の寸法安定性を、ある程度高くして、エラストマー不織布が連続加工中に伸びて幅入りが生じることを防止する。さらに、この積層不織布は、短繊維層が破断する強度よりも高い強度で引っ張ると、エラストマー不織布の特性によって、全体の特性が支配されるので、最終製品においてエラストマー不織布の特性を十分に利用することができる。
【0008】
本発明の積層不織布において、短繊維層の目付は、5〜50g/mであることが好ましい。短繊維層の目付がこの範囲内にあると、エラストマー不織布の寸法安定性が向上され、かつ、エラストマー不織布の特性によって、全体の特性が支配された積層不織布が得られやすい。
【0009】
本発明の積層不織布において、エラストマー不織布は、好ましくはメルトブローン不織布である。メルトブローン不織布は、比較的小さい目付で提供されることが多く、また、その伸縮特性を最終製品において利用することが望まれることによる。
【0010】
本発明の積層不織布において、短繊維層は、パルプ繊維から成る湿式抄紙不織布であることが好ましい。パルプ繊維から成る湿式抄紙不織布は、引張強度が比較的小さいため、積層不織布を引っ張ったときに、比較的小さい力で破断して、破断後は、積層不織布の引っ張り特性への寄与が小さくなる、又は無くなる。よって、最終的に得られる製品において、エラストマー不織布の伸縮特性を有効に利用しやすい。
【0011】
本発明の積層不織布において、短繊維層とエラストマー不織布とは、水流交絡処理により、それらを構成する繊維が交絡して、両者が一体化されていることが好ましい。そのような積層不織布は、全体としてエラストマー不織布の伸縮特性を維持しながら、柔らかい風合いを有し、また、ケバが押さえられ、良好な肌触りを与える。さらに、そのような積層不織布は、短繊維層とエラストマー不織布との間の剥離強力が高いものであり、また、工程性がよくなり、取り扱い性が向上する。
【0012】
本発明はまた、上記積層不織布の製造方法を提供する。本発明の製造方法は、短繊維層の一方の表面に、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を集積して不織布を形成するとともに、集積した溶融または軟化している熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維によって、短繊維層と、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を含む伸縮性不織布とを接着させることを含む。この製造方法によれば、積層不織布を引っ張ったときに、短繊維層が比較的小さい力で切断するような接着強度で、エラストマー不織布と短繊維層とを一体化させることができるので、エラストマー不織布の特性を良好に利用できる不織布が得られる。
【0013】
本発明の製造方法においては、熱可塑性エラストマーを含んで成る樹脂をメルトブローン法により繊維化して不織布を形成することが好ましい。この方法によれば、エラストマー不織布が、メルトブローン不織布である積層不織布を容易に得ることができる。
【0014】
本発明の製造方法はまた、エラストマー不織布と短繊維層を接着した後、さらに水流交絡処理を実施することを含んでよい。水流交絡処理を施すことにより、得られる不織布の風合いが柔らかくなり、ケバが押さえられ、肌触りが良くなる。また、エラストマー不織布と短繊維層との間の剥離強力が高くなり、さらに、積層不織布の工程性がよくなり、取り扱い性が向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の積層不織布は、伸長しやすいエラストマー不織布を、適度な接着強力でもって短繊維層に積層して一体化したものである。よって、この積層不織布に力を加えると、比較的小さい力で短繊維層が破断されて、それよりも大きい力を加えるときは、エラストマー不織布の挙動が積層不織布を支配し、比較的小さい力で伸ばすことが可能となる。また、エラストマー不織布は一般にタック性(粘着性)を有し、人体への直接的な適用が望ましくないこともあるが、一方の表面に短繊維層を配することにより、その表面の状態が変わるので、人体へ直接適用することも可能となる。さらに、エラストマー不織布のタック性は、エラストマー不織布を連続加工のために巻き取った形態とした後、繰り出すときに、破れの原因となることもあるが、短繊維層が少なくとも一方の表面に配されると、短繊維層が剥離紙のごとく機能して、繰り出しをスムーズにする。
【0016】
よって、本発明の積層不織布は、紙おむつ、生理用ナプキンおよびパンティーライナーのような、吸収体を内部に有している吸収物品を構成する伸縮性部材(例えばウエスト部材)、ワイパー、化粧用物品(例えば、クレンジングシート)、ならびに垢とり材等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態を以下に説明する。
本発明の不織布は、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を含む伸縮性不織布の少なくとも一方の表面に、短繊維層が積層されてなり、かつ伸縮性エラストマー不織布と短繊維層とが、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維で接着されている、積層不織布である。ここで、「表面」という用語は、不織布または層の主表面(厚さ方向と平行な表面)を指す。
【0018】
本発明においては、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を含む不織布を用いる。熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維は、熱可塑性エラストマーを、30質量%以上含む樹脂から成る繊維であり、好ましくは熱可塑性エラストマーを50重量%以上含み、より好ましくは熱可塑性エラストマーのみから成る繊維である。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマーおよびアミド系エラストマー等を挙げることができる。エラストマー不織布は、好ましくは、スチレン系エラストマーおよび/またはポリオレフィン系エラストマーを含む繊維から構成される。これらのエラストマーは成形性が良好であり、また、短繊維層と一体化させるときに、接着成分として良好に機能することによる。
【0019】
スチレン系エラストマーとしては、具体的には、特許文献1に記載されているもの、即ち、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・イソプレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびこれらの水素化物であるスチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いてよい。
【0020】
オレフィン系エラストマーとしては、具体的には、特許文献1に記載されているもの、即ち、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどのα−オレフィンのランダムまたはブロック共重合体で、結晶化度が50%未満の低結晶性または非晶性のもので、MFRが20〜100g/10分、好ましくは50〜80g/10分の範囲にあるものが挙げられる。具体的には、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1−ブテンランダム共重合体、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体などのα−オレフィンのランダム共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・1−ブテンランダムブロック共重合体、プロピレン・1−ブテンランダムブロック共重合体などのα−オレフィンのブロック共重合体が挙げられる。
【0021】
また、エラストマー不織布を構成する繊維が、エラストマー以外の樹脂を含む場合、その樹脂は、オレフィン系樹脂であることが好ましい。オレフィン系樹脂は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体である。これらの樹脂は成形性が良好であり、また、エラストマー不織布のタック性を低下させるという観点から良好に機能することによる。さらに、これらの樹脂は、エラストマー不織布を構成する繊維の融点を高くし、乾燥工程でエラストマー不織布が硬化されにくくする効果を発揮する。あるいは、オレフィン系樹脂以外の樹脂、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはアクリル系樹脂を、エラストマーとともに使用してよい。
【0022】
エラストマー不織布を構成する繊維が、エラストマー以外の樹脂を含む場合、その割合は、70質量%以下であることが好ましい。エラストマー以外の樹脂の割合が70質量%を超えると、不織布において良好な伸縮特性を得られないことがある。エラストマー不織布を構成する繊維が2以上の樹脂で形成される場合、繊維は、複合形態であってよく、例えば、芯鞘型複合繊維、分割型複合繊維および海島型複合繊維であってよい。
【0023】
エラストマー不織布は、上記において説明した樹脂から成る繊維で構成される。エラストマー不織布の形態は特に限定されず、エアスルー不織布、熱接着不織布、水流交絡不織布、ニードルパンチ不織布、スパンボンド不織布、およびメルトブローン不織布のいずれであってよい。本発明において、エラストマー不織布は、好ましくはメルトブローン不織布およびスパンボンド不織布であり、より好ましくはメルトブローン不織布である。エラストマー不織布がスパンボンド不織布またはメルトブローン不織布であると、後述のように、不織布の製造と同時に短繊維層とエラストマー不織布との接着一体化を同時に実施でき、また、短繊維層と適度な接着強力で一体化し得る。
【0024】
エラストマー不織布がメルトブローン不織布である場合、その平均繊維径は、0.5〜15μm程度とすることが好ましく、0.5〜10μm程度とすることがより好ましい。繊維径を0.5μm以下とすることは困難であり、15μmを超えると、風合いが硬くなり、伸縮性が低下する場合がある。メルトブローン不織布は、通常の方法に従って製造することができる。後述するように、本発明の積層不織布は、短繊維層上に繊維を集積させる方法で、メルトブローン不織布の製造と、メルトブローン不織布と短繊維層との一体化とを同時に実施されて、得たものであることが好ましい。
【0025】
エラストマー不織布が、スパンボンド不織布である場合、その平均繊維径は7〜50μm程度とすることが好ましく、10〜25μm程度とすることがより好ましい。平均繊維径が50μmを超えると、風合いが硬くなり、伸縮性が低下する場合がある。後述するように、本発明の積層不織布は、短繊維層上に繊維を集積させる方法で、スパンボンド不織布の製造と、スパンボンド不織布と短繊維層との一体化とを同時に実施して得たものであることが好ましい。
【0026】
いずれの形態をとる場合も、エラストマー不織布の目付は、5〜50g/mであることが好ましく、5〜30g/mであることがより好ましい。エラストマー不織布の目付が5g/m未満であると、伸縮性が十分でない場合があり、50g/mを超えると、寸法安定性が高くなり、短繊維層と一体化させなくても、幅入り等の問題が生じにくいことによる。但し、タック性の問題は、いずれの目付のエラストマー不織布においても見られることから、タック性に起因する不都合を回避するという観点からは、ここで挙げた範囲外の目付のエラストマー不織布も、本発明において好ましく用いられる。
【0027】
次に短繊維層について説明する。短繊維層は、繊維長0.5〜20mmの短繊維から成る層である。短繊維の繊維長は、好ましくは、0.8〜10mmであり、より好ましくは1〜5mmである。短繊維層を構成する短繊維は、すべて同じ長さを有していてよく、あるいは異なる長さを有していてよい。
【0028】
短繊維層は、積層不織布の製造に際し(即ち、エラストマー不織布と一体化させる前に)、一般に、エアレイウェブまたは湿式不織布として提供される。湿式不織布には、後述するセルロース系短繊維および/またはパルプ繊維から成る、紙も含まれる。本発明において、短繊維層は、湿式不織布であることが好ましい。湿式不織布は、その構成繊維および繊維の交絡の度合いにもよるが、一体に保持された形態として、連続加工に供することができ、かつ伸度が小さいため、積層不織布とした後で、エラストマー不織布の特性を支配的にすることを容易にする。
【0029】
短繊維層を構成する繊維は、天然繊維、再生繊維、および合成繊維のいずれであってもよい。短繊維層は、1種類の短繊維から構成されてよく、あるいは2以上の異なる繊維から構成されてもよい。
本発明においては、短繊維層は、親水性を有する短繊維を含むことが好ましい。短繊維層を親水性の層とすることにより、積層不織布をさらに別の繊維層と複合させるときに、短繊維層が液体保持層となり、例えば、化粧料、洗剤、または薬品等を含浸させて使用するシートを与えることができる。親水性繊維は、短繊維層に好ましくは50質量%以上含まれ、より好ましくは70質量%以上含まれ、最も好ましくは100質量%を占める。
【0030】
親水性を有する短繊維は、セルロース系短繊維であることがより好ましい。セルロース系繊維は、より具体的には、機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプ等のパルプ、ならびにビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維である。
【0031】
パルプ繊維は、針葉樹木材または広葉樹木材を用いて常套の方法で製造されたものを任意に使用できる。一般的に、パルプ繊維の繊度は、1.0〜4.0dtex程度、繊維長は0.8〜4.5mm程度であるが、この範囲外の繊度および/または繊維長を有するパルプ繊維を使用してもよい。パルプ繊維からなる短繊維層は、エアレイウェブまたは湿式不織布として提供され、あるいは綿状のパルプ(フラッフ(fluff)パルプ)としても提供され得る。前述のように、パルプ繊維を含む又はこれのみから成る湿式不織布には、紙が含まれる。パルプ繊維を含む又はこれのみから成る紙には、ティッシュ(ティッシュペーパーとも呼ばれる)が含まれる。パルプ繊維を含む短繊維層は、パルプ繊維のみから構成してよく、あるいは、パルプ繊維と他の繊維とから構成してよい。当該他の繊維は、パルプ以外のセルロース系短繊維(例えば、ビスコースレーヨンおよび溶剤紡糸セルロース繊維)または合成繊維(例えば、ポリプロピレン繊維およびポリエステル繊維)等であってよい。
【0032】
再生繊維を使用する場合、その繊度は、0.5〜6dtex程度であることが好ましく、0.5〜5dtex程度であることがより好ましい。再生繊維の繊度が小さすぎると、短繊維層が緻密になりすぎて、例えば、水流交絡処理により、エラストマー不織布と一体化させるときに、水が通りにくく、繊維ウェブが乱れて、得られる不織布の表面状態が悪くなることがある。再生繊維の繊度が大きすぎると、地合ムラが大きくなり、また、水流交絡処理により、エラストマー不織布と一体化させるときに、繊維同士の交絡が不十分となることがある。再生繊維を含む短繊維層は、好ましくは湿式不織布の形態で提供される。
【0033】
短繊維層は、セルロース系繊維以外の天然繊維または合成繊維で形成されてよい。天然繊維は、例えば、コットン、シルクおよび羊毛であり、合成繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、またはエチレン−プロピレン共重合体等から成るポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート等から成るポリエステル繊維、ナイロン6またはナイロン66等から成るポリアミド系繊維、ならびにアクリル系繊維等である。これらの繊維には、必要に応じて親水化処理を施してよい。
【0034】
短繊維層の目付は、最終的に得ようとする積層不織布の目付、および積層されるエラストマー不織布の目付等に応じて、適宜選択される。例えば、上述のようにエラストマー不織布の目付が、5〜50g/mである場合には、短繊維層の目付は、好ましくは、5〜50g/mであり、より好ましくは、5〜30g/mであり、さらに好ましくは、10〜20g/mである。短繊維層の目付が5g/m未満であると、短繊維層の強力が弱くなりすぎて、連続加工するときに加えられる張力で短繊維層が破断する場合があり、50g/mを超えると、積層不織布において、エラストマー不織布の伸縮特性が表れず、短繊維層の伸縮特性に支配される場合がある。
【0035】
本発明の積層不織布において、エラストマー不織布と短繊維層とは、エラストマー不織布を構成する繊維により接着されて一体化している。それにより、両者は、好ましくは3〜300mN/5cmの剥離強力で一体化され、より好ましくは3〜100mN/5cmの剥離強力で一体化され、最も好ましくは、3〜50mN/5cmの剥離強力で一体化されている。剥離強力が小さすぎると、積層不織布において両者の剥離が生じやすく、取扱い性が悪くなる。剥離強力が大きすぎると、積層不織布においてエラストマー不織布の伸縮特性を十分に得られないことがある。
【0036】
そのように両者を接着させるために、本発明の積層不織布は、短繊維層の上に、溶融した繊維を集積する方法でエラストマー不織布を製造することを含む方法で、好ましくは製造される。繊維の集積は、メルトブローン法またはスパンボンド法で実施することが好ましい。メルトブローン法またはスパンボンド法により、熱可塑性エラストマー繊維を短繊維層の上に集積すると、集積直後の繊維が溶融または軟化しているため、その後、冷却することにより、集積された熱可塑性エラストマー繊維と短繊維層の繊維とが接着されることとなる。繊維の集積は、通常採用されているメルトブローン法またはスパンボンド法で実施することができる。即ち、本発明の積層不織布は、繊維を集積する捕集ベルトの上に短繊維層を配置して、メルトブローン法またはスパンボンド法を実施することにより、製造することができる。必要に応じて、集積した後に、圧力を加えて、両者の接合の度合いをより高くしてよい。
【0037】
より具体的には、メルトブローン法は、樹脂を溶融押出し、メルトブローン用の紡糸口金から紡糸された繊維を、高温高速の気体によって極細繊維流としてブローン紡糸し、捕集ベルトに載置された短繊維層上で捕集することにより実施できる。スパンボンド法は、押出機から樹脂を溶融押出しし、紡糸口金から樹脂を紡糸し、紡糸された繊維をエアサッカー等の気流牽引型の装置で引取り、気流とともに繊維を、捕集ベルトなどのウェブ捕集装置に載置された短繊維層上で捕集し、その後、必要に応じて、ウェブを、熱風吹き付け装置または加熱ロール等の加熱装置を用い、繊維同士を接着させることにより実施できる。
【0038】
あるいは、エラストマー不織布と短繊維層とは、別々に用意して、熱ロールまたは熱風吹き付け法等の熱処理により、接合させてもよい。その場合、エラストマー不織布と短繊維層との接合が強くなりすぎないように、熱処理の条件を適宜設定する必要がある。
【0039】
さらに、エラストマー不織布と短繊維層とを、エラストマー不織布の繊維で接着した後で、水流交絡処理を施してもよい。水流交絡処理を施すと、両者の接合強度が高くなる。水流交絡処理は、短繊維をエラストマー不織布を構成する繊維に絡み合わせるように、短繊維層の側から実施することが好ましい。水流交絡処理条件は、エラストマー不織布および短繊維層の目付および最終的に得られる積層不織布における両者の接合強度に応じて、適宜設定される。例えば、エラストマー不織布および短繊維層を合わせた目付が10〜100g/mである場合には、80〜100メッシュの平織の支持体の上にウェブを載せて、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧2MPa以上10MPa以下の水流を、短繊維層の側から1〜3回ずつ噴射することにより、水流交絡処理を実施してよい。
【0040】
本発明の積層不織布の目付は、用途等に応じて、エラストマー不織布および短繊維層の目付を選択することにより、決定され、例えば、10〜100g/mであることが好ましく、10〜60g/mであることがより好ましく、20〜40g/mであることがさらに好ましい。積層不織布の目付が小すぎると、エラストマー不織布および短繊維層の少なくとも一方にムラがあり、良好な伸縮特性を得にくい。積層不織布の目付が大きすぎると、コストが高くなり、経済的でない。また、目付が大きすぎると、水流交絡処理を施すときに、繊維が交絡しにくくなる場合がある。
【0041】
本発明の不織布は、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を含む伸縮性不織布の少なくとも一方の表面に、短繊維層が積層されてなり、かつ伸縮性不織布と短繊維層が一体化されている積層不織布であって、縦方向に伸長させたときに、伸長応力が最大となる伸長率が、3%〜30%の間にある、積層不織布として特定することも可能である。即ち、本発明の不織布は、機械方向で伸長させたときに、低い伸長率では、短繊維層の機械特性が支配的であり、高い伸長率では、伸縮性不織布の機械特性が支配的になる、不織布である。この不織布は、機械方向で伸長させたときに、応力が、低い伸長率では上昇していき、3〜30%の範囲内にある伸長率に達すると、短繊維層が破断して、応力が急激に低下する。その後は、伸縮性不織布の伸縮特性が支配的となって、伸長率を高くしても、低い応力を示す。
【0042】
本発明の積層不織布において、伸長応力が最大となる伸長率は、前述のとおり、3〜30%であり、好ましくは5〜20%、最も好ましくは8〜18%である。伸長応力が最大となる伸長率が3%以上であると、連続加工するときに加えられる張力で短繊維層が破断することがない。伸長応力が最大となる伸長率が30%以下であると、伸度を大きくしたときに、短繊維層が破断し、エラストマー不織布の伸縮特性が発現する。
【0043】
本発明の積層不織布において、機械方向に伸長させたときの最大の伸長応力(以下、この応力を「最大応力」とも呼ぶ)は、好ましくは1〜20N/5cmであり、より好ましくは1.5〜15N/5cmであり、最も好ましくは、2〜12N/5cmである。
最大応力が1N/5cmより小さいと、連続加工するときに加えられる張力で短繊維層が破断することがある。最大応力が20N/5cmを超えると、エラストマー不織布の伸縮特性が表れず、短繊維層の伸縮特性に支配されやすい。
【0044】
本発明の積層不織布は、二層構造のものである場合には、エラストマー不織布の高摩擦性およびタック性を利用して、ゴミ(例えば、ペットの毛)を絡め取るワイパーおよび垢取り材として使用することができる。
【0045】
また、本発明の積層不織布は、短繊維層によってエラストマー不織布の寸法安定性が向上し、連続加工のために、張力が縦方向に加えられても、幅入りが生じにくいので、別の繊維層と一体化して別の積層不織布を製造するための材料として好ましく使用される。その場合、短繊維層が親水性繊維を含む場合には、当該別の積層不織布は、内部に親水性層(または吸水層)を有する構成とすることができる。本発明の不織布は、具体的には、例えば、対人および対物ワイパー、ならびにパップ材として使用することができる。
【実施例1】
【0046】
以下、本発明を実施例により説明する。
(実施例1)
短繊維層として、パルプ繊維から成る目付17g/mのティッシュ(ハビックス(株)製)を用意した。このティッシュを、メルトブローン装置の搬送ベルト上に載置して、連続的に供給しながら、ティッシュの表面に、熱可塑性エラストマー(スチレン系エラストマー 商品名:クレイトン1657G クレイトンポリマージャパン(株)製)60質量%とポリプロピレン樹脂40質量%とを混合した混合樹脂を、メルトブローン法により、ティッシュの上に10g/mの目付となるように集積して、エラストマー不織布と短繊維層とから成る積層不織布を得た。
【0047】
メルトブローン法による繊維の集積は下記の条件に従って実施した。
ポリマー溶融温度(℃) 290
ポリマー吐出量(g/分) 0.1
熱風温度(℃) 300
熱風風量(m/分) 2.7
熱風圧力(MPa) 0.47
オリフィス孔径(mm) 0.3
ノズル幅(mm) 800
ノズルピッチ(mm) 1
生産スピード(m/分) 10
【0048】
(実施例2)
熱可塑性エラストマー(スチレン系エラストマー 商品名:クレイトン1657G クレイトンポリマージャパン(株)製)のみを使用して、メルトブローン法により繊維を集積したこと以外は、実施例1の試料を作製するときに採用した手順と同様の手順に従って、積層不織布を得た。
【0049】
(実施例3)
実施例1で得た積層不織布に、ティッシュ側より、水流交絡処理を施した。水流交絡処理は、孔径0.13mmのオリフィスが、1mm間隔で設けられたノズルを用いて、積層不織布のティッシュ側表面に水圧2.0MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。次いで、積層不織布を、エアスルー熱処理機を用いて、100℃で乾燥させて、積層水流交絡不織布を得た。
【0050】
(実施例4)
実施例2で得た積層不織布に、ティッシュ側より、水流交絡処理を施した。水流交絡処理は、孔径0.13mmのオリフィスが、1mm間隔で設けられたノズルを用いて、積層不織布のティッシュ側表面に水圧2.0MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。次いで、積層不織布を、エアスルー熱処理機を用いて、100℃で乾燥させて、積層水流交絡不織布を得た。
【0051】
(比較例1)
実施例1の作製に使用した、エラストマー不織布について引張強力等を測定した。
【0052】
(比較例2)
短繊維層に代えて、目付15g/mのポリプロピレンから成るスパンボンド不織布(商品名ストラテック 出光ユニテック(株)製)を使用したこと以外は、実施例1の試料を作製するときに採用した手順と同様の手順に従って、積層不織布を得た。
【0053】
各実施例および比較例で得た、各試料の目付、厚さ、引張強力、伸度、ならびに3%、5%、10%、20%、30%および40%伸長応力を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0054】
各実施例および比較例において、厚さおよび引張強力等は次のようにして測定した。
[厚さ]
厚み測定機(商品名 THICKNESS GAUGE モデル CR−60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、試料1cmあたり2.94cNの荷重を加えた状態で測定した。
【0055】
[最大応力、伸長応力が最大となる伸度、各伸長モジュラス強度]
JIS L 1096 6.12.1 A法(ストリップ法に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、最大の伸長応力(最大応力)、伸長応力が最大となる伸度、各伸長率での伸長応力を測定した。引張試験は、不織布の縦方向と横方向について実施した。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1〜4の積層不織布はいずれも、縦方向において、表1に示す伸度(伸長応力が最大となる伸度に記載の伸度)で伸長させたときに最も高い伸長応力を示し、それよりも伸長率を高くすると、伸長応力が低下するものであった。また、実施例1および3は、伸長応力が最大になるまでの範囲では、比較例1(エラストマー不織布のみ)よりも明らかに高い伸長応力を有していた。これにより、実施例で作製した積層不織布は、10〜20%程度伸長させるときに、変形しにくく、良好な寸法安定性を示すことがわかった。即ち、実施例で作製した本発明の積層不織布は、連続加工するときに加えられる張力が、縦方向に20%程度まで伸長させる程度のものであるときには、伸びにくく、幅入りも生じにくいから、連続加工に適していた。同様の傾向は、伸長応力が最大となる伸長率が3%〜30%程度となるように作製した積層不織布について確認された。また、本発明の積層不織布は、伸長率を高くしても、伸長応力がそれほど高くならず、全体としてエラストマー不織布の性質を示していた。比較例2の積層不織布は、伸長応力がすべて比較例1のものより相当高く、また、伸長率が高いほど、伸長応力が高くなっており、エラストマー不織布の伸長特性が表れず、スパンボンド不織布の伸長特性に支配されているものであった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の積層不織布は、低い伸長率にて寸法安定性が良好であるとともに、全体としてエラストマー不織布の良好な伸縮特性を示すものであるから、他の繊維層と組み合わせて、伸縮性を有するための材料として使用するのに適しており、あるいはそれ自体、ワイパー等として使用するのに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を含む伸縮性不織布の少なくとも一方の表面に、繊維長0.5〜20mmの繊維から成る短繊維層が積層されてなり、かつ当該伸縮性不織布と当該短繊維層とが、当該熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維で接着されている、積層不織布。
【請求項2】
前記短繊維層の目付が、5〜50g/mである、請求項1に記載の積層不織布。
【請求項3】
前記伸縮性不織布がメルトブローン不織布である、請求項1または2に記載の積層不織布。
【請求項4】
前記短繊維層がパルプ繊維から成る湿式抄紙不織布である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層不織布。
【請求項5】
前記短繊維層を構成する繊維と前記伸縮性不織布を構成する繊維とが、水流交絡処理により互いに交絡している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層不織布。
【請求項6】
熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を含む伸縮性不織布の少なくとも一方の表面に、短繊維層が積層されてなり、かつ伸縮性不織布と短繊維層が一体化されている積層不織布であって、縦方向(機械方向)に伸長させたときに、伸長応力が最大となる伸長率が、3%〜30%の間にある、積層不織布。
【請求項7】
短繊維層の一方の表面に、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を集積して不織布を形成するとともに、集積した溶融または軟化している熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維によって、短繊維層と、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を含む不織布とを、接着させることを含む、積層不織布の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維をメルトブローン法により集積する、請求項7に記載の積層不織布の製造方法。
【請求項9】
前記短繊維層がパルプ繊維から成る湿式不織布である、請求項7または8に記載の積層不織布の製造方法。
【請求項10】
短繊維層と、熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維を含む不織布とを、接着させた後に、水流交絡処理を実施することを含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の積層不織布の製造方法。

【公開番号】特開2008−302619(P2008−302619A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152887(P2007−152887)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】