説明

積層位相差フィルム及び立体画像表示システム

【課題】クロストーク及び色味ずれを抑制しうる積層位相差フィルムを提供する。
【解決手段】1/2波長板と1/4波長板とを備え、ディスプレイ装置に設けた場合に、面内方向であってディスプレイ装置の第一の偏光板の透過軸に垂直な基準方向と1/2波長板の遅相軸とがなす角度θa、並びに、基準方向と1/4波長板の遅相軸とがなす角度θbが、式1)及び式2)の関係を満たす。
式1) 2θa−140°≦θb≦2θa−130°
式2) 100°≦θa≦105°

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層位相差フィルム及び立体画像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
立体画像(3次元画像)を表示しうる立体画像表示システムにおける表示方式のうち、代表的な方式の一つに、パッシブ方式と呼ばれる方式がある。パッシブ方式の立体画像表示システムでは、通常、ディスプレイ装置の同一画面内に左眼用画像と右眼用画像とを表示させ、これらの画像を専用の偏光メガネを用いて左右の目それぞれに振り分けるようにしている(特許文献1、2等参照)。
【0003】
また、特許文献3及び4のような技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−170557号公報
【特許文献2】特開2002−196281号公報
【特許文献3】特開平10−68816号公報
【特許文献4】特開2010−72666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パッシブ方式の立体画像表示システムでは、左眼用の画像及び右眼用の画像のそれぞれを、異なる偏光状態で表示させることが求められる。そのような表示を達成するため、パッシブ方式の立体画像表示システムでは、ディスプレイ装置に、2種類以上の異なる位相差(レターデーション)を有する複数種類の領域からなるパターンを有する位相差フィルムが設けられることがある。
【0006】
ところが、一般に位相差フィルムは波長分散性を有するので、当該位相差フィルムを透過する光に発現する位相差Reの大きさは波長により異なる。そのため、立体画像表示システムにおいては、クロストークが生じたり、左眼用画像と右眼用画像とで色味が異なったりすることがあった。ここでクロストークとは、左眼用画像が右眼で視認されたり、右眼用画像が左眼で視認されたりする現象を意味する。また、以下の説明において、左眼用画像と右眼用画像とで色味が異なる現象を「色味ずれ」ということがある。
【0007】
クロストークは、位相差フィルムの波長分散性のために、画像を表示する偏光の偏光状態が波長によって異なることによって、偏光メガネによって遮断されるべき偏光の一部が偏光メガネを透過することにより生じるものと考えられる。また、色味ずれは、同様に位相差フィルムの波長分散性のために、画像を表示する偏光の偏光状態が波長によって異なることにより、偏光メガネを透過するべき偏光の一部が偏光メガネで遮断されることにより生じるものと考えられる。したがって、クロストーク及び色味ずれを抑制するためには、偏光メガネの構成に応じて光学系を制御することが求められる。
【0008】
図11は、参考形態に係る立体画像表示システム20を分解した様子を模式的に示す図である。図11の図中右側に示すように、この参考形態の偏光メガネ200は、左眼用位相差フィルム211及び左眼用偏光板212を備える左眼用レンズ210と、右眼用位相差フィルム221及び右眼用偏光板222を備える右眼用レンズ220とを備える。左眼用偏光板212及び右眼用偏光板222はいずれも直線偏光板である。使用時には、通常、左眼用偏光板212の透過軸A212及び右眼用偏光板222の透過軸A222は、水平方向に平行となるようになっている。また、左眼用位相差フィルム211及び右眼用位相差フィルム221は、いずれも1/4波長板である。使用時には、左眼用位相差フィルム211の遅相軸A211は、水平方向に対して+135°の角度をなすようになっている。また、右眼用位相差フィルム221の遅相軸A221は、水平方向に対して+45°の角度をなすようになっている。
【0009】
前記参考形態で示したタイプの偏光メガネは、近年、広く流通している。そこで、このタイプの偏光メガネを使用した場合に、クロストーク及び色味ずれを改善できる技術の開発が強く求められている。
【0010】
本発明は上述した課題に鑑みて創案されたもので、クロストーク及び色味ずれを抑制しうる積層位相差フィルム及び立体画像表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述した課題を解決するべく鋭意検討した結果、左眼用レンズを透過する光と右眼用レンズを透過する光の一方が、他方に比べて大きく位相差フィルムの波長分散性の影響を受けることを見出した。このように波長分散性の影響が一方に偏ることが、クロストーク及び色味ずれの原因の一つと考えられる。そこで、本発明者は、位相差フィルムの波長分散性を制御して、左眼用レンズを透過する光と右眼用レンズを透過する光の両方が、位相差フィルムの波長分散性の影響を同じ程度に受けるようにすることにより、クロストーク及び色味ずれを抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔11〕の通りである。
【0012】
〔1〕 第一の偏光板を備えて前記第一の偏光板を透過した光により画像を表示しうるディスプレイ装置に設けられる積層位相差フィルムであって、
前記積層位相差フィルムが1/2波長板と1/4波長板とを備え、
前記ディスプレイ装置に前記積層位相差フィルムを設けた場合に、面内方向であって前記第一の偏光板の透過軸に垂直な基準方向に対して前記1/2波長板の遅相軸がなす角度θa、並びに、前記基準方向に対して前記1/4波長板の遅相軸がなす角度θbが、式1)及び式2)の関係を満たす、積層位相差フィルム。
式1) 2θa−140°≦θb≦2θa−130°
式2) 100°≦θa≦105°
〔2〕 前記1/2波長板及び前記1/4波長板が延伸フィルムである、前記の積層位相差フィルム。
〔3〕 前記積層位相差フィルムの1/2波長板および1/4波長板が同じ材質からなる、前記の積層位相差フィルム。
〔4〕 前記1/2波長板及び前記1/4波長板がシクロオレフィンポリマーを含んでなる、前記の積層位相差フィルム。
〔5〕 ディスプレイ装置と、偏光メガネとを備える立体画像表示システムであって、
前記ディスプレイ装置は、第一の偏光板を備えて前記第一の偏光板を透過した光により左眼用画像及び右眼用画像を表示しうる画像表示パネルと、前記の積層位相差フィルムと、第二の位相差フィルムとをこの順に備え、
前記第二の位相差フィルムは、位相差を有し前記左眼用画像及び右眼用画像の一方を表示する光を透過させうる第一領域と、位相差を有さず前記左眼用画像及び右眼用画像の他方を表示する光を透過させうる第二領域とを有し、
前記偏光メガネは、前記左眼用画像を表示する光を透過させ前記右眼用画像を表示する光を遮断しうる左眼用部材と、前記左眼用画像を表示する光を遮断し前記右眼用画像を表示する光を透過させうる右眼用部材とを備え、
前記左眼用部材は、左眼用位相差フィルムと左眼用偏光板とを備え、
前記右眼用部材は、右眼用位相差フィルムと右眼用偏光板とを備える、立体画像表示システム。
〔6〕 前記第一領域が、略1/2波長の位相差を有する、前記の立体画像表示システム。
〔7〕 前記積層位相差フィルムの1/2波長板及び第二の位相差フィルムの第一領域の位相差が240nm〜280nmであり、
前記積層位相差フィルムの1/4波長板、前記左眼用部材の左眼用位相差フィルム、及び、前記右眼用部材の右眼用位相差フィルムの位相差が120nm〜140nmである、前記の立体画像表示システム。
〔8〕 前記第二の位相差フィルムの第一領域の遅相軸が前記基準方向と平行である、前記の立体画像表示システム。
〔9〕 前記第一の偏光板の透過軸と、前記左眼用偏光板の透過軸及び右眼用偏光板の透過軸とが垂直である、前記の立体画像表示システム。
〔10〕 前記第二の位相差フィルムの前記積層位相差フィルムとは反対側、前記左眼用位相差フィルムの前記左眼用偏光板とは反対側、及び、前記右眼用位相差フィルムの前記右眼用偏光板とは反対側に、光学部材を備える、前記の立体画像表示システム。
〔11〕 前記左眼用位相差フィルムの遅相軸と前記右眼用位相差フィルムの遅相軸とが垂直である、前記の立体画像表示システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る積層位相差フィルム及び立体画像表示システムによれば、クロストーク及び色味ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図4】図4は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムにおいて、1/2波長板を透過するときの、画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図5】図5は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムにおいて、1/4波長板を透過するときの、画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図6】図6は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムにおいて、パターン位相差フィルムの第一領域を透過するときの、画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図7】図7は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムにおいて、左眼用位相差フィルムを透過するときの、左眼用画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図8】図8は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムにおいて、左眼用位相差フィルムを透過するときの、右眼用画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図9】図9は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムにおいて、右眼用位相差フィルムを透過するときの、右眼用画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図10】図10は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムにおいて、右眼用位相差フィルムを透過するときの、左眼用画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図11】図11は、参考形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図12】図12は、参考形態に係る立体画像表示システムにおいて、1/4波長板を透過するときの、画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図13】図13は、参考形態に係る立体画像表示システムにおいて、パターン位相差フィルムの第一領域を透過するときの、画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図14】図14は、参考形態に係る立体画像表示システムにおいて、左眼用位相差フィルムを透過するときの、左眼用画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図15】図15は、参考形態に係る立体画像表示システムにおいて、左眼用位相差フィルムを透過するときの、右眼用画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図16】図16は、参考形態に係る立体画像表示システムにおいて、右眼用位相差フィルムを透過するときの、右眼用画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図17】図17は、参考形態に係る立体画像表示システムにおいて、右眼用位相差フィルムを透過するときの、左眼用画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【図18】図18は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態及び例示物等を示して本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0016】
以下の説明において「1/2波長板」、「1/4波長板」及び「偏光板」とは、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂フィルムのように可撓性を有する部材も含む。
また、偏光メガネのレンズは、別に断らない限り、必ずしも光を集束又は拡散させうるものでなくてもよい。例えば、平らなフィルムのみからなる光学部材も、ここではレンズと呼ぶ。
【0017】
また、「位相差」とは、別に断らない限り、面内位相差(面内レターデーション)のことを意味する。フィルムの面内位相差は、(nx−ny)×dで表される値である。ここで、nxはフィルムの面内方向であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表し、nyは前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表し、dはフィルムの膜厚を表す。また、フィルムの面内方向とは、厚み方向に垂直な方向を意味する。
また、「遅相軸」とは、別に断らない限り、面内の遅相軸を意味する。
【0018】
また、以下の説明において、偏光板の透過軸、位相差フィルムの遅相軸等のような、光学素子の光学軸の角度は、別に断らない限り、厚み方向から見た角度のことを意味する。さらに、光学軸の角度のプラス及びマイナスの向きは、偏光メガネをかけて光源に向かって画像を見る向きにおいて、反時計回りの角度をプラスの角度、時計回りの角度をマイナスの角度として表記する。
【0019】
また、構成要素の方向が「平行」、「垂直」又は「直交」とは、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
さらに、以下の実施形態の説明に用いる図面では、粘着層及び接着層は図示していない。
【0020】
〔1.第一実施形態〕
〔1−1.概要〕
図1は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。また、図2は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【0021】
図1及び図2に示すように、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システム10は、液晶表示装置であるディスプレイ装置100と、偏光メガネ200とを備える。この立体画像表示システム10では、ディスプレイ装置100が左眼用画像及び右眼用画像を表示することによって立体画像を表示しうるようになっている。そして、観察者は偏光メガネ200を装着してディスプレイ装置100を見ることにより、表示された立体画像を視認できるようになっている。
【0022】
ディスプレイ装置100は、光源110と、画像表示パネル120と、積層位相差フィルム130と、第二の位相差フィルムとしてのパターン位相差フィルム140とを、この順に備える。画像表示パネル120は、光源110に近い順に、光源側偏光板121と、液晶セル122と、第一の偏光板としての視認側偏光板123とを備える。また、積層位相差フィルム130は、画像表示パネル120に近い順に、1/2波長板131と1/4波長板132とを備える。
【0023】
偏光メガネ200は、左眼用部材である左眼用レンズ210と、右眼用部材である右眼用レンズ220とを備える。左眼用レンズ210は、ディスプレイ装置100に近い順に、左眼用位相差フィルム211及び左眼用偏光板212を備える。また、右眼用レンズ220は、ディスプレイ装置100に近い順に、右眼用位相差フィルム221及び右眼用偏光板222を備える。
【0024】
以下に説明する実施形態において、ディスプレイ装置100は、その画面が水平方向に垂直となるように設置されている。したがって、本実施形態では、光源側偏光板121、液晶セル122、視認側偏光板123、1/2波長板131、1/4波長板132及びパターン位相差フィルム140の主面は、いずれも水平方向に垂直となっている。また、偏光メガネ200は、左眼用位相差フィルム211、左眼用偏光板212、右眼用位相差フィルム221及び右眼用偏光板222の主面がいずれも水平方向に垂直となっている。
【0025】
また、ディスプレイ装置100の光源側偏光板121、液晶セル122、視認側偏光板123、1/2波長板131、1/4波長板132及びパターン位相差フィルム140、並びに、偏光メガネ200の左眼用位相差フィルム211、左眼用偏光板212、右眼用位相差フィルム221及び右眼用偏光板222の厚み方向は、一致している。そこで、以下、別に断らない限り、「厚み方向」とはこれらの厚み方向のことを意味するものとする。
【0026】
〔1−2.ディスプレイ装置100〕
(光源110)
光源110は、画像表示に使用される光を発する装置である。本実施形態では、面発光可能な光源装置を光源110として用いている。このような光源110は、例えば、冷陰極管又はLED等の発光素子と導光板とを組み合わせることにより構成してもよい。
【0027】
(画像表示パネル120)
画像表示パネル120は、直線偏光板である光源側偏光板121と、液晶セル122と、直線偏光板である視認側偏光板123とを備える。光源側偏光板121の透過軸と視認側偏光板123の透過軸とは垂直となるように設定されている。具体的には、光源側偏光板121の透過軸(図示せず。)は水平方向に平行となっていて、視認側偏光板123の透過軸A123は水平方向に垂直(即ち、鉛直方向に平行)となっている(図2参照)。また、液晶セル122には液晶材料が封入されていて、画像表示パネル120を透過する光の制御を行えるようになっている。本実施形態では、光源110から発せられ、光源側偏光板121、液晶セル122及び視認側偏光板123を透過した光によって、左眼用画像及び右眼用画像が表示されうるようになっている。よって、視認側偏光板123を透過した直後の時点では、画像を表示する光は直線偏光となっている。
【0028】
画像表示パネル120には、厚み方向から見てそれぞれ異なる位置に、左眼用画像を表示する領域120Lと右眼用画像を表示する領域120Rとが設定されている。したがって、この画像表示パネル120では、領域120Lを透過した光によって左眼用画像が表示されうるようになっており、また、領域120Rを透過した光によって右眼用画像が表示されうるようになっている。本実施形態では、これらの領域120L及び領域120Rはいずれも水平方向に延在する帯状の領域となっている。また、領域120L及び領域120Rは幅が一定の領域となっていて、それらの配置は、領域120Lと領域120Rとが鉛直方向において交互となるように並んだストライプ状の配置となっている。
【0029】
(積層位相差フィルム130)
積層位相差フィルム130は、1/2波長板131と1/4波長板132とを備える。
【0030】
1/2波長板131は、透過光の略1/2波長の位相差を有するフィルムである。具体的には、1/2波長板131の位相差Reは、通常240nm以上、好ましくは245nm以上、より好ましくは250nm以上であり、通常280nm以下、好ましくは275nm以下、より好ましくは270nm以下である。ここで、位相差Reの測定波長は546nmとする。この546nmとの波長は、画像表示に用いられる光である可視光の波長範囲の中心値である。また、位相差Reは、例えば、2次元複屈折評価システム「フォトニックラティス社製;WPA−micro」などで測定することができる。
【0031】
1/2波長板131の遅相軸A131は、下記式2)の要件を満たす。
式2) 100°≦θa≦105°
前記の式2)をより詳細に説明すると、角度θaは、通常100°以上、好ましくは100.5°以上、より好ましくは101.5°以上であり、通常105°以下、好ましくは104.5°以下、より好ましくは103.5°以下である。ここで、θaは、基準方向A0に対して1/2波長板131の遅相軸A131がなす角度を表す。また、基準方向A0とは、面内方向であって、且つ、画像表示パネル120の視認側偏光板123の透過軸A123に垂直な方向を表す。本実施形態では、透過軸A123は水平方向に垂直であるので、面内方向であって且つ水平方向に平行な方向が、基準方向A0となる。このような構成により、視認側偏光板123を透過した直線偏光の電場の振動方向(以下、適宜「直線偏光の方向」という。)は、1/2波長板131を透過することで変化させられるようになっている。
【0032】
1/2波長板131は、通常、その表示領域においては面内で一様な位相差Reを有する。ここで表示領域とは、画像を表示する光が透過しうる領域のことを意味する。一般に、ディスプレイ装置の画面は外周をフレームに囲まれている。このフレームに囲まれた画面を厚み方向において1/2波長板131に投影した領域が、通常は1/2波長板131の表示領域である。また、1/2波長板131において、少なくとも画像を表示する光が透過する領域で前記の式2)が満たされていれば、その他の領域の遅相軸については任意である。本実施形態では、1/2波長板131の全体が一様な位相差Reを有している。したがって、画像表示パネル120の領域120Rを透過した光及び領域120Lを透過した光のいずれも、1/2波長板131を透過すれば一様な位相差Reが与えられるようになっている。
【0033】
位相差Reが一様であるとは、画質を低下させない程度に位相差Reのバラツキが小さいことを意味する。位相差Reのバラツキは、面内方向において位相差Reを測定したときの、その測定値の最大値と最小値との差である。具体的には、測定波長550nmにおける位相差Reのバラツキが、通常10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内であれば、位相差Reが一様である。
【0034】
1/4波長板132は、透過光の略1/4波長の位相差を有するフィルムである。具体的には、1/4波長板132の位相差Reは、通常120nm以上、好ましくは122nm以上、より好ましくは123nm以上であり、通常140nm以下、好ましくは138nm以下、より好ましくは137nm以下である。ここで、位相差Reの測定波長は546nmとする。
【0035】
1/4波長板132の遅相軸A132は、下記式1)の要件を満たす。
式1) 2θa−140°≦θb≦2θa−130°
ここで、θbは、基準方向A0に対して1/4波長板132の遅相軸A132がなす角度を表す。前記式2)をより詳細に説明すると、角度θbは、通常2θa−140°以上、好ましくは2θa−138°以上であり、通常2θa−130°以下、好ましくは2θa−132°以下である。中でも、2θa−135°=θbとなることが特に好ましい。本実施形態でも2θa−135°=θbが成立しているものとして説明する。
【0036】
このような構成により、1/2波長板131を透過した直線偏光は、1/4波長板132を透過することにより円偏光に変換されるようになっている。また、ディスプレイ装置100に積層位相差フィルム130を設けた場合に、角度θa及び角度θbが式1)及び式2)の関係を満たすことにより、立体画像表示システム10においてクロストーク及び色味ずれを抑制することができるようになっている。
【0037】
1/4波長板132は、通常、1/2波長板131と同様に、その表示領域においては面内で一様な位相差Reを有する。1/4波長板132の表示領域とは、1/2波長板131の表示領域と同様に定義される領域であり、通常、ディスプレイ装置100のフレームに囲まれた画面を厚み方向において1/4波長板132に投影した領域が該当する。また、1/4波長板132において、少なくとも画像を表示する光が透過する領域で前記の式1)が満たされていれば、その他の領域の遅相軸については任意である。本実施形態では、1/4波長板132の全体が一様な位相差Reを有している。したがって、画像表示パネル120の領域120Rを透過した光及び領域120Lを透過した光のいずれも、1/4波長板132を透過すれば一様な位相差Reが与えられるようになっている。
【0038】
(パターン位相差フィルム140)
パターン位相差フィルム140は、その表示領域に、第一領域(異方性領域)140Aと第二領域(等方性領域)140Bとを有する。第一領域140Aは、位相差Reを有し、左眼用画像及び右眼用画像の一方を表示する光を透過させうる領域である。また、第二領域140Bは、位相差Reを有さず、左眼用画像及び右眼用画像の他方を表示する光を透過させうる領域である。本実施形態では、第一領域140Aは左眼用画像を表示する光を透過させうる領域となっており、第二領域140Bは右眼用画像を表示する光を透過させうる領域となっている。ここで、パターン位相差フィルム140の表示領域とは、1/2波長板131の表示領域と同様に定義される領域であり、通常、ディスプレイ装置のフレームに囲まれた画面を厚み方向においてパターン位相差フィルム140に投影した領域が該当する。
【0039】
パターン位相差フィルム140の第一領域140Aが有する位相差Reの大きさは、透過光の略1/2波長である。すなわち、第一領域140Aは、1/2波長板として機能しうる領域となっている。具体的には、第一領域140Aの位相差Reは、通常240nm以上、好ましくは245nm以上、より好ましくは250nm以上であり、通常280nm以下、好ましくは275nm以下、より好ましくは270nm以下である。ここで、位相差Reの測定波長は546nmとする。
【0040】
また、第一領域140Aの遅相軸A140Aは、通常は基準方向A0である水平方向に平行であり、したがって視認側偏光板123の透過軸A123と垂直になる。このような構成においては、第一領域140Aに厚み方向から入射する円偏光は、第一領域140Aを透過する際に円偏光の向きが実質的に逆向きに変換されるようになっている。
【0041】
他方、パターン位相差フィルム140の第二領域140Bは位相差Reを有さない。ここで位相差Reを有さないとは、位相差がゼロである場合だけでなく、実質的に画質を低下させない程度に小さい位相差Reを有することも含む。具体的な位相差Reの範囲を挙げると、測定波長546nmにおいて、位相差Reが、通常0〜65nm、好ましくは0〜30nm、より好ましくは0〜10nmの範囲である場合に、第二領域140Bは位相差Reを有さない。
【0042】
このような構成においては、第二領域140Bに厚み方向から入射する円偏光は、第二領域140Bを透過する際に円偏光の向きを実質的に維持しうるようになっている。ここで円偏光の向きを実質的に維持する、とは、クロストーク及び色味ずれを抑制できる範囲で円偏光の向きが変化しないことを意味する。
【0043】
パターン位相差フィルム140の第一領域140A及び第二領域140Bは、パターン位相差フィルム140の、厚み方向から見てそれぞれ異なる位置に設けられている。これらの第一領域140A及び第二領域140Bは、いずれも帯状の領域となっていて、画像表示パネル120の領域120R及び領域120Lに合わせてパターン化されている。ここでパターン化とは、ある一定の周期で繰り返される態様を意味する。
【0044】
本実施形態では、第一領域140A及び第二領域140Bは、それぞれ水平方向に延在する幅が一定の領域であり、それらの配置は、第一領域140Aと第二領域140Bとが鉛直方向において交互となるように並んだストライプ状の配置となっている。また、厚み方向から見ると、第一領域140Aは画像表示パネル120の領域120Lに重なり、第二領域140Bは画像表示パネル120の領域120Rに重なる位置に設けられていて、液晶表示パネル120の領域120L及び領域120Rが、それぞれパターン位相差フィルム140の第一領域140A及び第二領域140Bに対応している。
【0045】
したがって、ディスプレイ装置100においては、光源110から発せられ、画像表示パネル120の領域120L、積層位相差フィルム130、及び、パターン位相差フィルム140の第一領域140Aを透過した光によって、左眼用画像を表示しうるようになっている。また、光源110から発せられ、画像表示パネル120の領域120R、積層位相差フィルム130、及び、パターン位相差フィルム140の第二領域140Bを透過した光によって、右眼用画像を表示しうるようになっている。さらに、左眼用画像を表示する光及び右眼用画像を表示する光は、ディスプレイ装置100から出ると、いずれも円偏光となっている点では同様であるが、その円偏光の向きは逆向きとなっている。円偏光なので、偏光メガネをかけている観察者が頭を傾けた場合や、画面中心よりずれた方向から見た場合にも、良好な立体映像を見ることができる。
【0046】
〔1−3.偏光メガネ200〕
(左眼用レンズ210)
左眼用レンズ210は、左眼用画像を表示する光を透過させうる部材であり、また、右眼用画像を表示する光を遮断しうる部材である。この左眼用レンズ210は、左眼用位相差フィルム211と、直線偏光板である左眼用偏光板212を備える。
【0047】
左眼用レンズ210の左眼用位相差フィルム211が有する位相差Reの大きさは、透過光の略1/4波長である。すなわち、左眼用位相差フィルム211は、1/4波長板として機能しうるようになっている。具体的には、左眼用位相差フィルム211の位相差Reは、通常120nm以上、好ましくは122nm以上、より好ましくは123nm以上であり、通常140nm以下、好ましくは138nm以下、より好ましくは137nm以下である。ここで、位相差Reの測定波長は546nmとする。
【0048】
また、通常、左眼用位相差フィルム211の遅相軸A211は、基準方向A0に対して略135°の角度θ211をなす。ここで略135°とは、通常は135°±5°のことを意味する。このような構成により、ディスプレイ装置100から発せられた画像を表示する光の偏光状態は、左眼用位相差フィルム211を透過することにより、円偏光から直線偏光へと変換されうるようになっている。
【0049】
左眼用レンズ210の左眼用偏光板212の透過軸A212は、通常、左眼用位相差フィルム211の遅相軸A211と、略45°の角度をなす。また、使用時においては、左眼用偏光板212の透過軸A212は、通常、ディスプレイ装置100の視認側偏光板123の透過軸A123と垂直である。本実施形態では、左眼用位相差フィルム211の遅相軸A211は水平方向に対して+135°の角度をなし、また、左眼用偏光板212の透過軸A212は水平方向に平行である。このような構成により、左眼用画像を表示する光が左眼用位相差フィルム211を透過することによって変換される直線偏光の方向と、左眼用偏光板212の透過軸A212の方向とが平行となって、左眼用画像が観察者の左眼に到達するようになっている。
【0050】
(右眼用レンズ220)
右眼用レンズ220は、右眼用画像を表示する光を透過させうるレンズであり、また、左眼用画像を表示する光を遮断しうるレンズである。この右眼用レンズ220は、右眼用位相差フィルム221と、直線偏光板である右眼用偏光板222を備える。
【0051】
右眼用レンズ220の右眼用位相差フィルム221が有する位相差Reの大きさは、透過光の略1/4波長である。すなわち、右眼用位相差フィルム221は、1/4波長板として機能しうるようになっている。具体的には、右眼用位相差フィルム221の位相差Reは、通常120nm以上、好ましくは122nm以上、より好ましくは123nm以上であり、通常140nm以下、好ましくは138nm以下、より好ましくは137nm以下である。ここで、位相差Reの測定波長は546nmとする。また、左眼用位相差フィルム211と右眼用位相差フィルム221の位相差Reは、同じになっていることが好ましい。
【0052】
また、通常、右眼用位相差フィルム221の遅相軸A221は、基準方向A0に対して略45°の角度θ221をなす。ここで略45°とは、通常は45°±5°のことを意味する。このような構成により、ディスプレイ装置100から発せられた画像を表示する光の偏光状態は、右眼用位相差フィルム221を透過することにより、円偏光から直線偏光へと変換されうるようになっている。さらに、このような構成では、左眼用位相差フィルム211の遅相軸A211と右眼用位相差フィルム221の遅相軸A221とは垂直となる。このため、ある円偏光が左眼用位相差フィルム211を透過した場合と右眼用位相差フィルム221を透過した場合とでは、透過後の直線偏光の方向が略90°異なるようになっている。
【0053】
右眼用レンズ220の右眼用偏光板222の透過軸A222は、通常、左眼用偏光板212の透過軸A212と平行である。したがって、右眼用偏光板222の透過軸A222は、右眼用位相差フィルム221の遅相軸A221と略135°の角度をなす。また、使用時においては、右眼用偏光板222の透過軸A222は、通常、ディスプレイ装置100の視認側偏光板123の透過軸A123と垂直である。本実施形態では、右眼用位相差フィルム221の遅相軸A221は水平方向に対して+45°の角度をなし、また、右眼用偏光板222の透過軸A222は水平方向に平行である。このような構成により、右眼用画像を表示する光が右眼用位相差フィルム221を透過することによって変換される直線偏光の方向と、右眼用偏光板222の透過軸A222の方向とが平行となって、右眼用画像が観察者の右眼に到達するようになっている。
【0054】
〔1−4.使用方法〕
本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システム10は上述したように構成されているので、使用時には、ディスプレイ装置100の光源110を発光させ、画像表示パネル120に画像を表示させる。本実施形態では、液晶セル122による制御に応じて、画像表示パネル120の領域120Lを透過した光によって左眼用画像が表示され、領域120Rを透過した光によって右眼用画像が表示される。
【0055】
図3は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システム10を分解した様子を模式的に示す図である。図3に示すように、光源110が発した光Ll及び光Lrは画像表示パネル120を透過する際に、直線偏光板である視認側偏光板123を透過する。このため、左眼用画像を表示する光Ll及び右眼用画像を表示する光Lrは、直線偏光となって積層位相差フィルム130に入射する。
【0056】
積層位相差フィルム130に入射した光Ll及び光Lrは、1/2波長板131及び1/4波長板132をこの順に透過する。光Ll及び光Lrは、1/2波長板131を透過する際に直線偏光の方向が変化し、1/4波長板132を透過する際に円偏光に変換される。その後、光Ll及び光Lrは、パターン位相差フィルム140へ入射する。
【0057】
パターン位相差フィルム140においては、左眼用画像を表示する光Llは第一領域140Aを透過し、右眼用画像を表示する光Lrは第二領域140Bを透過する。第一領域140Aを透過する際、光Llは円偏光の向きが反転する。他方、第二領域140Bを透過する際、光Lrは円偏光の向きを維持する。したがって、ディスプレイ装置100においては、右眼用画像と左眼用画像とは、互いに向きが逆の円偏光によって表示される。
【0058】
このようにして表示された画像を、観察者は偏光メガネ200を装着して視る。
左眼用画像を表示する光Ll及び右眼用画像を表示する光Lrは、偏光メガネ200の左眼用レンズ210に入射すると、左眼用位相差フィルム211を透過する。左眼用位相差フィルム211を透過することにより、光Ll及び光Lrは、偏光状態が円偏光から直線偏光に変化する。ただし、光Llと光Lrとは、左眼用位相差フィルム211に入射する以前の円偏光の向きが逆であるので、左眼用位相差フィルム211を透過した後の直線偏光の方向は略90°異なる。
【0059】
こうして直線偏光に変化した光Ll及び光Lrは、左眼用偏光板212に入射する。本実施形態の構成においては、左眼用偏光板212の透過軸A212の方向は、左眼用画像を表示する光Llが左眼用位相差フィルム211を透過することによって変換される直線偏光の方向と平行である。このため、左眼用画像を表示する光Llは左眼用偏光板212を透過して観察者の左眼で視認されるが、右眼用画像を表示する光Lrは左眼用偏光板212で遮断されるので観察者の左眼では視認されない。
【0060】
他方、左眼用画像を表示する光Ll及び右眼用画像を表示する光Lrが、偏光メガネ200の右眼用レンズ220に入射すると、右眼用位相差フィルム221を透過する。右眼用位相差フィルム221を透過することにより、光Ll及び光Lrは、偏光状態が円偏光から直線偏光に変化する。光Llと光Lrとは、右眼用位相差フィルム221を透過した後の直線偏光の方向が略90°異なる点では、左眼用レンズ210と同様である。ただし、光Ll及び光Lrはそれぞれ、右眼用位相差フィルム221を透過した後の直線偏光の方向と、左眼用位相差フィルム211を透過した後の直線偏光の方向とが、略90°異なる。
【0061】
こうして直線偏光に変化した光Ll及び光Lrは、右眼用偏光板222に入射する。本実施形態の構成においては、右眼用偏光板222の透過軸A222の方向は、右眼用画像を表示する光Lrが右眼用位相差フィルム221を透過することによって変換される直線偏光の方向と平行である。このため、右眼用画像を表示する光Lrは右眼用偏光板222を透過して観察者の右眼で視認されるが、左眼用画像を表示する光Llは右眼用偏光板222で遮断されるので観察者の右眼では視認されない。
【0062】
このようにして、左眼用画像を表示する光Llが左眼のみで視認され、右眼用画像を表示する光Lrが右眼のみで視認される。観察者は、こうして視認された左眼用画像及び右眼用画像を脳内で合成し、立体画像を認識する。
【0063】
さらに、本実施形態の立体画像表示システム10によれば、クロストーク及び色味ずれを抑制することが可能である。以下、その仕組みについて、ポアンカレ球を示して説明する。
図4〜図10は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システム10において、画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。図4〜図10に示すようなポアンカレ球においては、北極に相当する位置が円偏光を表し、南極に相当する位置がその逆回りの円偏光を表し、赤道に相当する位置が直線偏光を表し、これら以外の位置が楕円偏光を表す。
【0064】
光源110が発した光Ll及び光Lrが画像表示パネル120を透過すると、その光Ll及び光Lrは図4の点P123で示すように直線偏光となる。視認側偏光板123が水平方向に垂直な透過軸A123を有するので、この直線偏光の方向も水平方向に垂直である。
【0065】
この光Ll及び光Lrは、次に1/2波長板131を透過する。1/2波長板131を透過する際、光Ll及び光Lrの偏光状態は、図4に示す軌跡を描くように変換される。即ち、ポアンカレ球の赤道面(S1−S2面)内で経度(軸S1に対する角度)2θaの軸Xaを回転軸として、(Re/λ)×360°の回転角度で偏光状態が変換される。ここで、Reは光学素子(ここでは、1/2波長板131)の位相差を表し、λは光の波長を表す。これにより、設計波長(例えば、546nm)においては、経度2θa+(2θa−180°)の赤道上に偏光状態が移る。このため、光Ll及び光Lrの直線偏光の方向が変化し、視認側偏光板123の透過軸A123に対して傾斜した方向となる。
【0066】
ただし、1/2波長板131は通常は波長分散性を有するので、設計波長以外の波長においては、1/2波長板131を透過した光Ll及び光Lrの偏光状態が設計どおりの直線偏光とならない場合がありえる。例として、設計波長の光として緑色光、設計波長よりも長波長の光として赤色光、設計波長よりも短波長の光として青色光を挙げて説明する。緑色光は、設計どおりに変換されて、点P131Gで示すように直線偏光となる。しかし、赤色光及び青色光は、1/2波長板131が波長分散性を有するために、偏光状態において波長分散性が発現し、点P131R及び点P131Bで示すような直線偏光に近い楕円偏光となる。
【0067】
1/2波長板131を透過した光Ll及び光Lrは、次に1/4波長板132を透過する。1/4波長板132を透過する際、光Ll及び光Lrの偏光状態は、図5に示す軌跡を描くように変換される。即ち、ポアンカレ球の赤道面内で経度2θbの軸Xbを回転軸として、(Re/λ)×360°の回転角度で偏光状態が変換される。本実施形態では、2θa+(2θa−180°)=2θb+90°を成立させるために、上述したように角度θaと角度θbとの間に2θa−135°=θbが成立するようにしている(図4及び図5参照)。このため、設計波長においては、北極に相当する位置に偏光状態が移る。したがって、光Ll及び光Lrに含まれる波長成分のうち、緑色光は点P132Gで示すように円偏光へと変換される。また、赤色光及び青色光は、それぞれ点P132R及び点P132Bで示すように円偏光に近い楕円偏光へと変換される。
【0068】
1/4波長板132を透過した光Ll及び光Lrは、次にパターン位相差フィルム140を透過する。
このとき、左眼用画像を表示する光Llは、パターン位相差フィルム140の第一領域140Aを透過する。第一領域140Aは基準方向A0と平行な遅相軸A140Aを有し、略1/2波長の位相差を有するので、光Llの偏光状態は、図6に示す軌跡を描くように変換される。これにより、光Llに含まれる波長成分のうち、緑色光は点P140Gで示すように逆回りの円偏光へと変換される。また、赤色光及び青色光は、それぞれ点P140R及び点P140Bで示すように逆回りの円偏光に近い楕円偏光へと変換される。
他方、右眼用画像を表示する光Lrは、パターン位相差フィルム140の第二領域140Bを透過する。第二領域140Bは位相差を有さないので、光Lrの偏光状態は、点P132G、点P132R及び点P132Bで示した状態から変化しない。
【0069】
パターン位相差フィルム140を透過した光Ll及び光Lrは、偏光メガネ200へ入射する。
光Llは、偏光メガネ200の左眼用レンズ210へ入射すると、左眼用位相差フィルム211を透過する。ここで、左眼用位相差フィルム211は基準方向A0に対して略+135°の角度をなす遅相軸A211を有し、且つ、略1/4波長の位相差を有する。このため、光Llの偏光状態は、図7に示す軌跡を描くように変換される。これにより、光Llに含まれる波長成分のうち、緑色光は点Pl211Gで示すように、直線偏光へと変換される。また、赤色光及び青色光は、それぞれ点Pl211R及び点Pl211Bで示すように楕円偏光へと変換される。点Pl211G、点Pl211R及び点Pl211Bで表される光Llの各成分は、直線偏光の方向又は楕円偏光の長軸方向が左眼用偏光板212の透過軸A212と平行である。したがって、光Llは左眼用偏光板212を透過し、視認される。
【0070】
他方、光Lrは、偏光メガネ200の左眼用レンズ210へ入射すると、左眼用位相差フィルム211を透過する。ここで、左眼用位相差フィルム211は基準方向A0に対して略+135°の角度をなす遅相軸A211を有し、且つ、略1/4波長の位相差を有する。このため、光Lrの偏光状態は、図8に示す軌跡を描くように変換される。これにより、光Lrに含まれる波長成分のうち、緑色光は点Pr211Gで示すように、直線偏光へと変換される。また、赤色光及び青色光は、それぞれ点Pr211R及び点Pr211Bで示すように直線偏光または直線偏光に近い楕円偏光へと変換される。点Pr211G、点Pr211R及び点Pr211Bで表される光Lrの各成分は、直線偏光の方向又は楕円偏光の長軸方向は左眼用偏光板212の透過軸A212と垂直である。したがって、光Lrは左眼用偏光板212で吸収されるので、光Lrは左眼用レンズ210で遮断される。
【0071】
同様に、光Lrは、偏光メガネ200の右眼用レンズ220へ入射すると、右眼用位相差フィルム221を透過する。ここで、右眼用位相差フィルム221は基準方向A0に対して略+45°の角度をなす遅相軸A221を有し、且つ、略1/4波長の位相差を有する。このため、光Lrの偏光状態は、図9に示す軌跡を描くように変換される。これにより、光Lrに含まれる波長成分のうち、緑色光は点Pr221Gで示すように、直線偏光へと変換される。また、赤色光及び青色光は、それぞれ点Pr221R及び点Pr221Bで示すように楕円偏光へと変換される。点Pr221G、点Pr221R及び点Pr221Bで表される光Lrの各成分は、直線偏光の方向又は楕円偏光の長軸方向が右眼用偏光板222の透過軸A222と平行である。したがって、光Lrは右眼用偏光板222を透過し、視認される。
【0072】
他方、光Llは、偏光メガネ200の右眼用レンズ220へ入射すると、右眼用位相差フィルム221を透過する。ここで、右眼用位相差フィルム221は基準方向A0に対して略+45°の角度をなす遅相軸A221を有し、且つ、略1/4波長の位相差を有する。このため、光Llの偏光状態は、図10に示す軌跡を描くように変換される。これにより、光Llに含まれる波長成分のうち、緑色光は点Pl221Gで示すように、直線偏光へと変換される。また、赤色光及び青色光は、それぞれ点Pl221R及び点Pl221Bで示すように直線偏光または直線偏光に近い楕円偏光へと変換される。点Pl221G、点Pl221R及び点Pl221Bで表される光Llの各成分は、直線偏光の方向又は楕円偏光の長軸方向は右眼用偏光板222の透過軸A222と垂直である。したがって、光Llは右眼用偏光板222で吸収されるので、光Llは右眼用レンズ220で遮断される。
【0073】
本実施形態では、左眼で視認される光Llは、点Pl211G、点Pl211R及び点Pl211Bで示すように、波長に応じて偏光状態が分散している(図7参照)。また、右眼で視認される光Lrも、点Pr221G、点Pr221R及び点Pr221Bで示すように、波長に応じて偏光状態が分散している(図9参照)。しかし、左眼で視認される光Llの赤色光及び青色光の分散の程度と、右眼で視認される光Lrの赤色光及び青色光の分散の程度は、比較的大きいものの、左右の眼では同程度でありバランスがとれている。したがって、クロストーク及び色味ずれを認識し難くして、クロストーク及び色味ずれを小さくすることができる。さらに、左眼用偏光板212で吸収される光Lrの分散の程度と、右眼用偏光板222で吸収される光Llの分散の程度とは、同程度でいずれも小さい(図8及び図10参照)。したがって、左眼用偏光板212及び右眼用偏光板222の一方において、左眼用偏光板212及び右眼用偏光板222の他方で吸収される画像の光漏れを防止できるので、クロストーク及び色味ずれが認識されることを抑制することができる。
【0074】
次に、上述した第一実施形態との対比のため、参考形態を説明する。図11は、参考形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
図11に示すように、参考形態に係る立体画像表示システム20は、ディスプレイ装置300と偏光メガネ200とを備える。偏光メガネ200は、上述した第一実施形態と同様である。
【0075】
ディスプレイ装置300は、積層位相差フィルム130の代わりに1/4波長板330を備えること以外は、上述した第一実施形態に係るディスプレイ装置100と同様である。
1/4波長板330は、透過光の略1/4波長の位相差を有する。また、1/4波長板330の遅相軸A330は、基準方向A0に対して+45°の角度θcをなしている。
【0076】
参考形態に係る立体画像表示システム20は上述したように構成されているので、使用時には、上述した第一実施形態と同様にディスプレイ装置300の光源110を発光させ、画像表示パネル120に画像を表示させる。光源110が発した光は画像表示パネル120を透過し、直線偏光となって1/4波長板330に入射する。1/4波長板330に入射した光は、1/4波長板330を透過する際に円偏光に変換される。1/4波長板330を透過した光は、その後、上述した第一実施形態と同様の要領で、パターン位相差フィルム140を透過する。これにより、ディスプレイ装置300においても、右眼用画像と左眼用画像とは、互いに向きが逆の円偏光によって表示される。このようにして表示された画像を、上述した第一実施形態と同様にして偏光メガネ200で見ることにより、観察者は、立体画像を認識する。
【0077】
この参考形態に係る立体画像表示システム20では、画像を表示する光の偏光状態は、以下のように変化していく。
図12〜図17は、参考形態に係る立体画像表示システム20において、画像を表示する光の偏光状態の変化を説明する図である。
【0078】
光源110が発した光Ll及び光Lrが画像表示パネル120を透過すると、その光Ll及び光Lrは、上述した第一実施形態と同様に、図12の点P123で示すように直線偏光となる。
この光Ll及び光Lrは、次に1/4波長板330を透過する。1/4波長板330を透過する際、光Ll及び光Lrの偏光状態は、図12に示す軌跡を描くように変換される。これにより、設計波長においては、北極に相当する位置に偏光状態が移る。このため、1/4波長板330を透過した光Ll及び光Lrは、円偏光となる。
【0079】
ただし、1/4波長板330は波長分散性を有するので、設計波長以外の波長においては、1/4波長板330を透過した光Ll及び光Lrの偏光状態は設計どおりにならない。上述した第一実施形態と同様に緑色光、赤色光及び青色光を例に挙げて説明する。緑色光は、設計どおりに変換されて、点P330Gで示すように円偏光となる。しかし、赤色光及び青色光は、1/4波長板330が波長分散性を有するために、点P330R及び点P330Bで示すような円偏光に近い楕円偏光となる。
【0080】
1/4波長板330を透過した光Ll及び光Lrは、次にパターン位相差フィルム140を透過する。
このとき、左眼用画像を表示する光Llは、パターン位相差フィルム140の第一領域140Aを透過する。第一領域140Aは基準方向A0と平行な遅相軸A140Aを有し、略1/2波長の位相差を有するので、光Llの偏光状態は、図13に示す軌跡を描くように変換される。これにより、光Llに含まれる波長成分のうち、緑色光は点P340Gで示すように逆回りの円偏光へと変換される。また、赤色光及び青色光は、それぞれ点P340R及び点P340Bで示すように逆回りの円偏光に近い楕円偏光へと変換される。
他方、右眼用画像を表示する光Lrは、パターン位相差フィルム140の第二領域140Bを透過する。第二領域140Bは位相差を有さないので、光Lrの偏光状態は、点P330G、点P330R及び点P330Bで示した状態から変化しない。
【0081】
パターン位相差フィルム140を透過した光Ll及び光Lrは、偏光メガネ200へ入射する。
光Llは、偏光メガネ200の左眼用レンズ210へ入射すると、左眼用位相差フィルム211を透過する。ここで、左眼用位相差フィルム211は基準方向A0に対して略+135°の角度をなす遅相軸A211を有し、且つ、略1/4波長の位相差を有する。このため、光Llの偏光状態は、図14に示す軌跡を描くように変換される。これにより、光Llに含まれる波長成分のうち、緑色光は点Pl411Gで示すように、直線偏光へと変換される。また、赤色光及び青色光は、それぞれ点Pl411R及び点Pl411Bで示すように楕円偏光へと変換される。点Pl411G、点Pl411R及び点Pl411Bで表される光Llの各成分は、直線偏光の方向又は楕円偏光の長軸方向は左眼用偏光板212の透過軸A212と平行である。したがって、光Llは左眼用偏光板212を透過し、視認される。
【0082】
他方、光Lrは、偏光メガネ200の左眼用レンズ210へ入射すると、左眼用位相差フィルム211を透過する。ここで、左眼用位相差フィルム211は基準方向A0に対して略+135°の角度をなす遅相軸A211を有し、且つ、略1/4波長の位相差を有する。このため、光Lrの偏光状態は、図15に示す軌跡を描くように変換される。これにより、光Lrに含まれる波長成分は、いずれも点Pr411で示すように、直線偏光へと変換される。この直線偏光の方向は左眼用偏光板212の透過軸A212と垂直である。したがって、光Lrは左眼用偏光板212で吸収されるので、光Lrは左眼用レンズ210で遮断される。
【0083】
同様に、光Lrは、偏光メガネ200の右眼用レンズ220へ入射すると、右眼用位相差フィルム221を透過する。ここで、右眼用位相差フィルム221は基準方向A0に対して略+45°の角度をなす遅相軸A221を有し、且つ、略1/4波長の位相差を有する。このため、光Lrの偏光状態は、図16に示す軌跡を描くように変換される。これにより、光Lrに含まれる波長成分のうち、緑色光は点Pr421Gで示すように、直線偏光へと変換される。また、赤色光及び青色光は、それぞれ点Pr421R及び点Pr421Bで示すように楕円偏光へと変換される。点Pr421G、点Pr421R及び点Pr421Bで表される光Lrの各成分は、直線偏光の方向又は楕円偏光の長軸方向が右眼用偏光板222の透過軸A222と平行である。したがって、光Lrは右眼用偏光板222を透過し、視認される。
【0084】
他方、光Llは、偏光メガネ200の右眼用レンズ220へ入射すると、右眼用位相差フィルム221を透過する。ここで、右眼用位相差フィルム221は基準方向A0に対して略+45°の角度をなす遅相軸A221を有し、且つ、略1/4波長の位相差を有する。このため、光Llの偏光状態は、図17に示す軌跡を描くように変換される。これにより、光Llに含まれる波長成分のうち、緑色光は点Pl421Gで示すように、直線偏光へと変換される。また、赤色光及び青色光は、それぞれ点Pl421R及び点Pl421Bで示すように直線偏光または直線偏光に近い楕円偏光へと変換される。点Pl421G、点Pl421R及び点Pl421Bで表される光Llの各成分は、直線偏光の方向又は楕円偏光の長軸方向は右眼用偏光板222の透過軸A222と垂直である。したがって、光Llは右眼用偏光板222で吸収されるので、光Llは右眼用レンズ220で遮断される。
【0085】
ここで、本発明の第一実施形態に係る光Ll及び光Lrが左眼用偏光板212又は右眼用偏光板222に入射する時の偏光状態の分散の程度と、参考形態に係る光Ll及び光Lrがそれぞれ左眼用偏光板212又は右眼用偏光板222に入射する時の偏光状態の分散の程度とを比べる。
【0086】
(I)透過するべき光Ll及び光Lrの偏光状態の分散について:
まず、光Ll及び光Lrが、透過するべき左眼用偏光板212又は右眼用偏光板222にそれぞれ入射するときの偏光状態の分散について検討する。すなわち、光Llが左眼用偏光板212に入射するとき、並びに、光Lrが右眼用偏光板222に入射するときの偏光状態の分散について検討する。
本発明の第一実施形態に係る光Ll及び光Lrの偏光状態の分散の程度は、図7に示す点Pl211Rと点Pl211Bとの距離及び図9に示す点Pr221Rと点Pr221Bとの距離により表される。また、参考形態に係る光Ll及び光Lrの視認される時の偏光状態の分散の程度は、図14に示す点Pl411Rと点Pl411Bとの距離及び図16に示す点Pr421Rと点Pr421Bとの距離により表される。
図7、図9、図14、及び図16から分かるように、参考形態に係る光Ll及び光Lrがそれぞれ左眼用偏光板212及び右眼用偏光板222に入射する時には、本発明の第一実施形態に係る光Ll及び光Lrに比べて、偏光状態の分散の程度が大きくなっており、さらに左右の光Ll及び光Lrの分散状態もアンバランスである。したがって、参考形態では、左眼用偏光板212及び右眼用偏光板222において透過するべき光Ll及び光Lrが一部の波長で減衰され、左眼あるいは右眼で視認される光の一部の波長の光が弱く視認されて色味ずれが生じる傾向がある。ところが、本発明の第一実施形態においては、左右の光Ll及び光Lrの偏光状態の分散のバランスが良好であり、また分散の程度も大きすぎないので、色味ずれを小さくできる。
【0087】
(II)遮断されるべき光Ll及び光Lrの偏光状態の分散について:
次に、光Ll及び光Lrが、遮断されるべき右眼用偏光板222又は左眼用偏光板212にそれぞれ入射するときの偏光状態の分散について検討する。すなわち、光Llが右眼用偏光板222に入射するとき、並びに、光Lrが左眼用偏光板212に入射するときの偏光状態の分散について検討する。
本発明の第一実施形態に係る光Ll及び光Lrの偏光状態の分散の程度は、図10に示す点Pl221Rと点Pl221Bとの距離及び図8に示す点Pr211Rと点Pr211Bとの距離により表される。図8及び図10から分かるように、光Ll及び光Lrがそれぞれ右眼用偏光板222及び左眼用偏光板212に入射する時の偏光状態の分散の程度は同程度である。
他方、参考形態に係る光Ll及び光Lrの偏光状態の分散の程度は、図17に示す点Pl421Rと点Pl421Bとの距離及び図15に示す点Pr411により表される。図15から分かるように、参考形態に係る光Lrが左眼用偏光板212に入射するとき、その偏光状態の分散は無いか非常に小さい。これに対して、図17から分かるように、参考形態に係る光Llが右眼用偏光板222に入射するとき、その偏光状態の分散の程度は大幅に大きい。
したがって、図8、図10、図15、及び図17から分かるように、参考形態に係る光Ll及び光Lrが右眼用偏光板222又は左眼用偏光板212に入射する時には、本発明の第一実施形態に係る光Ll及び光Lrに比べて、一方の光Llの偏光状態の分散の程度が大きくなっており、さらに左右の光Ll及び光Lrの分散状態もアンバランスである。したがって、参考状態では、左眼用偏光板212あるいは右眼用偏光板222で遮断されるはずの映像が一方の眼で視認されてクロストークが生じたり、左眼用偏光板212あるいは右眼用偏光板222で遮断される光の一部の波長の光が視認されて色味ずれが生じたりする傾向がある。ところが、本発明の第一実施形態においては、左右の光Ll及び光Lrの偏光状態の分散のバランスが良好であり、また分散の程度も大きすぎないので、クロストーク及び色味ずれを抑制できる。
【0088】
ここで、前記の式1)及び式2)の意義について説明する。
式1)は、1/4波長板132において直線偏光を円偏光に変換するために満たすべき要件を規定した式である。設計波長において、直線偏光が1/4波長板132を透過することにより円偏光に変換されるためには、角度θa及び角度θbが2θa+(2θa−180°)=2θb+90°を満たすことが求められる(図4及び図5参照)。この式を整理すると、2θa−135°=θbになる。すなわち、2θa−135°=θbが成立している場合に、1/4波長板132は直線偏光を円偏光に変換できる。この際、現実の製品を製造する上では、前記の角度θa及び角度θbにはある程度の誤差が許容される。この誤差の範囲を含めて、クロストーク及び色味ずれを抑制する観点から角度θa及び角度θbの関係を規定したものが、式1)である。
【0089】
また、式2)は、1/2波長板131を透過することによる直線偏光の方向の変化を規定した式である。1/2波長板131を透過した直線偏光の方向は、視認又は遮断されるべき光Ll及び光Lrの偏光状態の分散の大きさ(図7〜図10を参照)に影響する。そこで、前記の偏光状態の分散の大きさを小さくするべく、1/2波長板131を透過した直線偏光の方向を適切な範囲に設定できる条件を規定したものが、式2)である。
【0090】
〔2.第二実施形態〕
本発明に係るディスプレイ装置及び偏光メガネは、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した以外の構成要素を備えていてもよい。例えば、ディスプレイ装置のパターン位相差フィルムの積層位相差フィルムとは反対側、偏光メガネの左眼用位相差フィルムの左眼用偏光板とは反対側、又は、右眼用位相差フィルムの右眼用偏光板とは反対側に、光学部材を設けてもよい。これらの光学部材は、他の層を介さず直接に設けてもよく、接着層等の他の層を介して間接的に設けてもよい。このような光学部材としては好ましい例を挙げると、ハードコートフィルム、反射防止フィルムなどが挙げられる。以下、図面を用いてその立体画像表示システムの例を示す。
【0091】
図18は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。図18に示すように、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システム30は、液晶表示装置であるディスプレイ装置400と、偏光メガネ500とを備える。
【0092】
ディスプレイ装置400は、パターン位相差フィルム140の積層位相差フィルム130とは反対側に光学部材として光学フィルム450を備えること以外は、第一実施形態に係るディスプレイ装置100と同様である。
また、偏光メガネ500は、左眼用レンズ510の左眼用位相差フィルム211の左眼用偏光板212とは反対側に光学部材として光学フィルム513を備えること、及び、右眼用レンズ520の右眼用位相差フィルム221の右眼用偏光板222とは反対側に光学部材として光学フィルム523を備えること以外は、第一実施形態に係る偏光メガネ200と同様である。
【0093】
光学フィルム450、513及び523としてハードコートフィルムを用いた場合、パターン位相差フィルム140、左眼用レンズ510及び右眼用レンズ520の傷付きを防止することができる。
また、光学フィルム450、513及び523として反射防止フィルムを用いた場合、当該光学フィルム450、513及び523が設けられた面において外光の反射を防止することができる。
また、光学フィルムは紫外線吸収剤を含んでいてもよいし、紫外線吸収シートを組み合わせた多層フィルムでもよい。
さらに、立体画像表示システム30においては、第一実施形態と同様の利点が得られる。
【0094】
〔3.変形例〕
本発明は上述した実施形態に限定されず、更に変更して実施してもよい。
例えば、上述した実施形態において、右眼用レンズと左眼用レンズとを入れ替えて用いてもよい。
例えば、第一実施形態とは逆に、第一領域140Aを透過した光が右眼用画像を表示し、第二領域140Bを透過した光が左眼用画像を表示するようにしてもよい。このように、第一領域140Aが位相差Reを有し右眼用画像及び左眼用画像の一方を表示する光を透過させうる領域となり、また、第二領域140Bが位相差Reを有さず右眼用画像及び左眼用画像の他方を表示する光を透過させうる領域であれば、第一実施形態と同様に効果を得ることができる。ただし、この際には、偏光メガネの右眼用レンズと左眼用レンズを入れ替えて用いる。
【0095】
また、例えば、右眼用偏光板及び左眼用偏光板として、一枚の共通した位相差フィルムを用いるようにしてもよい。
また、上述した実施形態においては各光学素子が別々に設けられた様子を示したが、これらの光学素子は、必要に応じて例えば接着層又は粘着層を用いて、貼り合せるようにしてもよい。
【0096】
〔4.各構成要素の説明〕
本発明において用いられる各構成要素の例について、以下に説明する。
【0097】
〔4−1.偏光板〕
光源側偏光板、視認側偏光板、左眼用偏光板及び右眼用偏光板等の偏光板は、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素若しくは二色性染料を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸することによって製造してもよい。また、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素もしくは二色性染料を吸着させ延伸し、さらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって製造してもよい。さらに、偏光板として、例えば、グリッド偏光板、多層偏光板、コレステリック液晶偏光板などの、偏光を反射光と透過光とに分離する機能を有する偏光板を用いてもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコールを含んでなる偏光板が好ましい。
【0098】
偏光板の偏光度は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
また、偏光板の厚さ(平均厚さ)は、好ましくは5μm〜80μmである。
【0099】
〔4−2.積層位相差フィルム〕
本発明の積層位相差フィルムは、1/2波長板と1/4波長板とを備える。これらの1/2波長板及び1/4波長板は、例えば、樹脂により形成された延伸フィルムを用いてもよい。
【0100】
通常、樹脂はポリマー(重合体)を含む。これらの樹脂が含むポリマーの例を挙げると、鎖状オレフィンポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、鎖状オレフィンポリマー及びシクロオレフィンポリマーが好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、シクロオレフィンポリマーが特に好ましい。
【0101】
なお、樹脂は、1種類のポリマーを単独で含むものを用いてもよく、2種類以上のポリマーを任意の比率で組み合わせて含むものを用いてもよい。また、樹脂には、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の配合剤を含ませてもよい。好適な樹脂の具体例を挙げると、日本ゼオン社製「ゼオノア1420」を挙げることができる。
【0102】
さらに、1/2波長板及び1/4波長板としては、単層構造のフィルムを用いてもよく、複層構造のフィルムを用いてもよい。
【0103】
ここで、積層位相差フィルムの1/2波長板と1/4波長板とは、同じ材質からなるものを用いることが好ましい。これにより、1/2波長板及び1/4波長板を透過する際に透過光に発現する位相差の波長分散性を適切に制御して、クロストーク及び色味ずれを効果的に抑制することができる。
【0104】
好適な位相差フィルムの例を挙げると、市販の長尺の斜め延伸フィルム、長尺の横延伸フィルム、例えば、日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」や「横延伸ゼオノアフィルム」などを挙げることができる。ここで「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有するものをいい、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0105】
また、積層位相差フィルムは、本発明の効果を著しく損なわない限り、1/2波長板及び1/4波長板以外に任意の層を備えていてもよい。
【0106】
〔4−3.位相差フィルム〕
偏光メガネの左眼用位相差フィルム及び右眼用位相差フィルム等の位相差フィルムは、例えば、前記の1/2波長板及び1/4波長板と同様に、樹脂により形成された延伸フィルムを用いてもよい。
【0107】
ただし、偏光メガネの左眼用位相差フィルム及び右眼用位相差フィルムは、同じ材質からなるものを用いることが好ましい。これにより、左眼用位相差フィルム及び右眼用位相差フィルムを透過する際に透過光に発現する位相差の波長分散性を同じにして、クロストーク及び色味ずれを効果的に抑制することができる。また、クロストーク及び色味ずれを更に効果的に抑制する観点からは、積層位相差フィルムの1/2波長板、1/4波長板、並びに偏光メガネの左眼用位相差フィルム及び右眼用位相差フィルムとして、同じ材質からなるものを用いることが好ましい。
【0108】
〔4−4.第二の位相差フィルム〕
第二の位相差フィルムは、例えば、液晶相を呈することができ且つ紫外線(UV)等のエネルギー線の照射を受けて硬化しうる材料を用いて基材上に製造したものを用いてもよい。かかる材料を、以下において「液晶層形成用組成物」ということがある。また、かかる材料の、未硬化状態の層又は硬化後の層を、以下において「液晶樹脂層」ということがある。
【0109】
第二の位相差フィルムは、例えば、液晶層形成用組成物を基材に塗布して未硬化状態の液晶樹脂層を得て、その液晶樹脂層の一部をある配向状態で硬化させ、他の一部を等方相の配向状態(すなわち、配向していない状態)で硬化させることにより製造してもよい。このような製造方法は、基材として長尺の基材フィルムを用いて行うことが可能であり、基材フィルムを搬送方向にラビングすることで、そのラビング方向と平行(遅相軸が搬送方向と平行)に液晶層形成用組成物が配向し、そのため第二の位相差フィルムを長尺のフィルムとして製造できるので、生産効率の点で優れている。
【0110】
具体的には、
i.基材フィルムの一方の表面に、エネルギー線を遮光する遮光部と前記エネルギー線を透光する透光部とを有するマスク層を作製する工程と、
ii.前記基材フィルムの前記マスク層とは反対側の表面に、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程と、
iii.前記基材フィルムの前記マスク層側から、前記遮光部で遮光されるが前記透光部を透光する波長のエネルギー線を照射して、前記液晶樹脂層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程と、
iv.前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程と、
v.前記基材フィルムの前記マスク層とは反対側からエネルギー線を照射して前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域を硬化させる第二の硬化工程と
を有する製造方法により製造してもよい。
【0111】
これらのようにして製造された第二の位相差フィルムは、通常は基材フィルム及びマスク層を剥がした後で使用される。ただし、適宜、基材フィルム及びマスク層は、剥がさずに使用してもよい。
【0112】
上記の第二の位相差フィルムの製造方法において、基材フィルムの材料としては、未硬化状態の液晶樹脂層を硬化させる工程において液晶樹脂層が硬化できる程度に紫外線等のエネルギー線を透過させられる材料を用いうる。通常は、1mm厚で全光線透過率(JIS K7361−1997に準拠して、濁度計(日本電色工業社製、NDH−300A)を用いて測定)が80%以上である材料が好適である。
【0113】
基材フィルムの材料の例を挙げると、1/2波長板及び1/4波長板の材料として挙げた樹脂などが挙げられる。これらの材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0114】
基材フィルムの厚みは、製造時のハンドリング性、材料のコスト、薄型化及び軽量化の観点から、好ましくは30μm以上、より好ましくは60μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0115】
基材フィルムは、延伸されていない未延伸フィルムであってもよく、延伸された延伸フィルムであってもよい。また、等方なフィルムであっても、異方性を有するフィルムであってもよい。
【0116】
基材フィルムは、一層のみからなる単層構造のフィルムであってもよく、二層以上の層からなる複層構造のフィルムであってもよい。通常は、生産性及びコストの観点から、単層構造のフィルムを用いる。
【0117】
基材フィルムは、その片面又は両面に表面処理が施されたものであってもよい。表面処理を施すことにより、基材フィルムの表面に直接形成される他の層との密着性を向上させることができる。表面処理としては、例えば、エネルギー線照射処理や薬品処理などが挙げられる。また、基材フィルムの液晶層形成用組成物を塗布する面に配向膜を有していてもよい。
【0118】
マスク層の材料としては、エネルギー線、特に紫外線を遮光することができ、且つパターンの形成が容易なマスク用組成物を適宜選択して用いてもよい。
【0119】
通常、マスク用組成物としては、樹脂を用いる。前記の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロースエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ウレタンアクリレート硬化樹脂、エポキシアクリレート硬化樹脂およびポリエステルアクリレート硬化樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種類の樹脂が好ましい。これらの樹脂を含むことにより、紫外線を遮光する材料を高温環境下においても保持し、安定した遮光部を作製することができる。前記の樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0120】
マスク用組成物に含まれる樹脂のガラス転移温度は、通常80℃以上、好ましくは100℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは350℃以下である。ガラス転移温度を80℃以上にすることによりマスク層の耐熱性を高めることができ、例えば液晶樹脂層の加熱時にマスク層が変形することを防止できる。また、ガラス転移温度を400℃以下にすることにより、樹脂の溶解性を高めてマスク用組成物の印刷を簡単にできる。印刷前の状態とマスク層を形成した後の状態とで樹脂のガラス転移温度が変化する場合には、マスク層を形成した後の状態においてガラス転移温度が前記の範囲に収まることが好ましい。
【0121】
マスク用組成物は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。これによりマスク層の遮光部が紫外線吸収剤を含むことになり、遮光部において紫外線を安定して遮光することができるようになる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群より選ばれる少なくとも1種類の紫外線吸収剤を用いることが好ましい。紫外線吸収剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。紫外線吸収剤の使用量は、マスク層中のモノマー、オリゴマー及びポリマー100重量部に対して、通常5重量部以上、好ましくは8重量部以上、より好ましくは10重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは18重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。
【0122】
マスク用組成物は、さらに、着色剤、金属粒子、溶媒、光重合開始剤、架橋剤、その他の成分を含んでいてもよい。
【0123】
マスク用組成物を用いてマスク層を形成する方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、ロータリースクリーン印刷法、グラビアオフセット印刷法、インクジェット印刷法、又はこれらの組み合わせである印刷法を好ましく挙げることができる。透光部と遮光部は、例えば、マスク層の厚さが薄い層と厚い層とを形成することにより設けてもよい。
【0124】
液晶層形成用組成物としては、液晶化合物を含む組成物を用いうる。前記の液晶化合物としては、例えば、重合性基を有する液晶化合物、側鎖型液晶ポリマー化合物などが挙げられる。重合性基を有する液晶化合物としては、例えば、特開2002−030042号公報、特開2004−204190号公報、特開2005−263789号公報、特開2007−119415号公報、特開2007−186430号公報などに記載された重合性基を有する棒状液晶化合物などが挙げられる。また、側鎖型液晶ポリマー化合物としては、例えば、特開2003−177242号公報などに記載の側鎖型液晶ポリマー化合物などが挙げられる。また、好ましい液晶化合物の例を製品名で挙げると、BASF社製「LC242」等が挙げられる。液晶化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0125】
液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性Δnは、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上であり、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.25以下である。屈折率異方性Δnが0.05未満では所望の光学的機能を得るために液晶樹脂層の厚さが厚くなって配向均一性が低下する可能性があり、また経済コスト的にも不利である。屈折率異方性Δnが0.30より大きいと所望の光学的機能を得るために液晶樹脂層の厚さが薄くなり、厚さ精度に対して不利である。また、Δnが0.30より大きい場合、液晶樹脂層の紫外線吸収スペクトルの長波長側の吸収端が可視域に及ぶ場合がありえるが、該スペクトルの吸収端が可視域に及んでも所望する光学的性能に悪影響を及ぼさない限り、使用可能である。液晶層形成用組成物が液晶化合物を1種類だけ含む場合には、当該液晶化合物の屈折率異方性を、そのまま液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性とする。また、液晶層形成用組成物が液晶化合物を2種類以上含む場合には、各液晶化合物それぞれの屈折率異方性Δnの値と各液晶化合物の含有比率とから求めた屈折率異方性Δnの値を、液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性とする。屈折率異方性Δnの値は、セナルモン法により測定しうる。
【0126】
さらに、液晶層形成用組成物は、製造方法や最終的な性能に対して適正な物性を付与するために、液晶化合物以外にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例を挙げると、有機溶媒、界面活性剤、キラル剤、重合開始剤、紫外線吸収剤、架橋剤、酸化防止剤などが挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0127】
有機溶媒のうち好適な例を挙げると、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、およびエーテル類等が挙げられる。これらの中でも、環状ケトン類、環状エーテル類が、液晶化合物を溶解させやすいために好ましい。環状ケトン溶媒としては、例えば、シクロプロパノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられ、中でもシクロペンタノンが好ましい。環状エーテル溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等が挙げられ、中でも1,3−ジオキソランが好ましい。溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよく、液晶層形成用組成物としての相溶性や粘性、表面張力の観点などから最適化されることが好ましい。
有機溶媒の含有割合は、有機溶媒以外の固形分全量に対する割合として、通常は30重量%以上95重量%以下である。
【0128】
界面活性剤としては、配向を阻害しないものを適宜選択して使用することが好ましい。好ましい界面活性剤の例を挙げると、疎水基部分にシロキサン及びフッ化アルキル基等を含有するノニオン系界面活性剤などが挙げられる。中でも、1分子中に2個以上の疎水基部分を持つオリゴマーが特に好適である。これらの界面活性剤の例を製品名で挙げると、OMNOVA社PolyFoxのPF−151N、PF−636、PF−6320、PF−656、PF−6520、PF−3320、PF−651、PF−652;ネオス社フタージェントのFTX−209F、FTX−208G、FTX−204D;セイミケミカル社サーフロンのKH−40等が挙げられる。界面活性剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0129】
界面活性剤の配合割合は、液晶層形成用組成物を硬化して得られる液晶樹脂層中における界面活性剤の濃度が0.05重量%以上3重量%以下となるようにすることが好ましい。界面活性剤の配合割合が0.05重量%より少ないと空気界面における配向規制力が低下して配向欠陥が生じる可能性がある。逆に3重量%より多い場合には、過剰の界面活性剤が液晶性化合物分子間に入り込み、配向均一性を低下させる可能性がある。
【0130】
キラル剤は、重合性化合物であってもよく、非重合性化合物であってもよい。キラル剤としては、通常、分子内にキラルな炭素原子を有し、液晶化合物の配向を乱さない化合物を使用する。キラル剤の例を挙げると、重合性のキラル剤としてはBASF社製「LC756」等が挙げられる。また、例えば、特開平11−193287号公報、特開2003−137887号公報などに記載されているものも挙げられる。キラル剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。キラル剤は、通常、ツイステッドネマチック相を有する領域を形成する場合に、重合性を有する液晶化合物と併用して用いられる。
【0131】
重合開始剤は、例えば熱重合開始剤を用いてもよいが、通常は光重合開始剤を用いる。光重合開始剤としては、例えば、紫外線又は可視光線によってラジカル又は酸を発生させる化合物を使用しうる。光重合開始剤の例を挙げると、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾフェノン、ビアセチル、アセトフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンジルイソブチルエーテル、テトラメチルチウラムモノ(ジ)スルフィド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、メチルベンゾイルフォーメート、2,2−ジエトキシアセトフェノン、β−アイオノン、β−ブロモスチレン、ジアゾアミノベンゼン、α−アミルシンナックアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、2−クロロベンゾフェノン、pp′−ジクロロベンゾフェノン、pp′−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−プロピルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ジフェニルスルフィド、ビス(2,6−メトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、アントラセンベンゾフェノン、α−クロロアントラキノン、ジフェニルジスルフィド、ヘキサクロルブタジエン、ペンタクロルブタジエン、オクタクロロブテン、1−クロルメチルナフタリン、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(o−ベンゾイルオキシム)]や1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]エタノン1−(o−アセチルオキシム)などのカルバゾールオキシム化合物、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、3−メチル−2−ブチニルテトラメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−(p−フェニルチオフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。重合開始剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。さらに、必要に応じて液晶層形成用組成物に、例えば三級アミン化合物等の光増感剤又は重合促進剤を含ませて、液晶層形成用組成物の硬化性を調整してもよい。光重合効率を向上させるためには、液晶化合物及び光重合開始剤などの平均モル吸光係数を適切に選定することが好ましい。
【0132】
紫外線吸収剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、4−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)−1−(2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのヒンダードアミン系紫外線吸収剤;2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート系紫外線吸収剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系;などが挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、所望する耐光性を付与するために、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0133】
紫外線吸収剤の配合割合は、液晶化合物100重量部に対して、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上であり、通常5重量部以下、好ましくは1重量部以下である。紫外線吸収剤の配合割合が、0.001重量部未満の場合には紫外線吸収能が不十分となり所望する耐光性を得られない可能性があり、5重量部より多い場合には液晶層形成用組成物を紫外線等の活性エネルギー線で硬化させる際に硬化が不十分となり、液晶樹脂層の機械的強度が低くなったり耐熱性が低くなったりする可能性がある。
【0134】
液晶層形成用組成物には、所望する機械的強度に応じて架橋剤を含ませてもよい。架橋剤の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルアクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、4,4−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート型イソシアネート、ビウレット型イソシアネート、アダクト型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ビニルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン等のアルコキシシラン化合物;などが挙げられる。架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、液晶層形成用組成物には架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を含ませ、膜強度や耐久性向上に加えて生産性を向上させるようにしてもよい。
【0135】
前記架橋剤の配合割合は、硬化後の液晶樹脂層中における架橋剤の濃度が0.1重量%以上20重量%以下となるようにすることが好ましい。架橋剤の配合割合が0.1重量%より少ないと架橋密度向上の効果が得られない可能性があり、逆に20重量%より多いと硬化後の液晶樹脂層の安定性を低下させる可能性がある。
【0136】
酸化防止剤としては、例えば、テトラキス(メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン等のフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。酸化防止剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤の配合量は、粘着層の透明性や粘着力が低下しない範囲としうる。
【0137】
未硬化状態の液晶樹脂層を設ける場合、通常は、塗布法を用いる。液晶層形成用組成物の塗布方法としては、例えば、リバースグラビアコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法等の方法が挙げられる。液晶層形成用組成物を基材フィルムの表面に塗布することにより、未硬化状態の液晶樹脂層が形成される。
【0138】
液晶層形成用組成物は、基材フィルムの表面に直接に塗布してもよいが、基材フィルムの表面に例えば配向膜等を介して間接的に塗布してもよい。配向膜を用いれば、液晶樹脂層において液晶化合物を容易に配向させることができる。
【0139】
配向膜は、例えば、セルロース、シランカップリング剤、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エポキシアクリレート、シラノールオリゴマー、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリオキサゾール、環化ポリイソプレンなどを用いて形成してもよい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0140】
配向膜の厚みは、所望する液晶樹脂層の配向均一性が得られる厚みであればよく、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.01μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。さらに、例えば、特開平6−289374号公報、特表2002−507782号公報、特許4022985号公報、特許4267080号公報、特許4647782号公報、米国特許5389698号明細書などに示されるような光配向膜と偏光UVを用いる方法によって、液晶化合物を配向させるようにしてもよい。
【0141】
また、上述した配向膜以外の手段によって、液晶化合物を配向させるようにしてもよい。例えば、配向膜を使用せずに基材フィルムの表面を直接ラビングするような配向処理を施してもよい。通常、基材フィルムの搬送方向とラビング方向は平行になる。
前記の配向膜の形成、基材フィルムの表面のラビング等の処理工程は、マスク層形成工程の工程前、工程中及び工程後のいずれの時点で行ってもよいが、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程の前に行うことが好ましい。
【0142】
第二の位相差フィルムの製造方法においては、第一の硬化工程に先立ち、必要に応じて、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程を行った後で、液晶樹脂層の液晶化合物を配向させる配向工程を行ってもよい。配向工程における具体的な操作としては、例えば、オーブン内で未硬化状態の液晶樹脂層を所定の温度に加熱する操作を挙げることができる。
【0143】
配向工程において液晶樹脂層を加熱する温度は、通常40℃以上、好ましくは50℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは140℃以下である。また、加熱処理における処理時間は、通常1秒以上、好ましくは5秒以上であり、通常3分以下、好ましくは120秒以下である。これにより、液晶樹脂層中の液晶化合物が配向しうる。また、液晶層形成用組成物に溶媒が含まれていた場合、前記の加熱によって通常は溶媒が乾燥するので、液晶樹脂層から溶媒が除去される。したがって、配向工程を行うと、通常は液晶樹脂層を乾燥させる乾燥工程も同時に進行する。通常、液晶樹脂層の配向軸はラビング方向と平行となり、配向軸が遅相軸となる。
【0144】
必要に応じて配向工程を行った後で、液晶樹脂層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程を行う。第一の硬化工程は、通常、紫外線の照射により行う。紫外線の照射時間、照射量、及びその他の条件は、液晶層形成用組成物の組成及び液晶樹脂層の厚みなどに応じて適切に設定しうる。照射時間は通常0.01秒から3分の範囲であり、照射量は通常0.01mJ/cmから50mJ/cmの範囲である。また、紫外線の照射は、例えば窒素及びアルゴン等の不活性ガス中において行ってもよく、空気中で行ってもよい。
【0145】
第一の硬化工程の後で、液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程を行う。この工程において、配向状態を変化させる方法としては、例えば、ヒーターにより、液晶樹脂層を、液晶層形成用組成物の透明点(NI点)以上に加熱してもよい。これにより、液晶化合物分子の配向はランダムになるので、液晶樹脂層の未硬化状態の領域は等方相となる。
【0146】
液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させた後で、第二の硬化工程を行う。第二の硬化工程は、紫外線の照射により行ってもよい。紫外線の照射時間、照射量などは、液晶層形成用組成物の組成及び液晶樹脂層の厚みなどに応じて適切に設定しうるが、照射量は通常50mJ/cmから10,000mJ/cmの範囲である。また、紫外線の照射は、例えば窒素及びアルゴン等の不活性ガス中において行ってもよく、空気中で行ってもよい。照射に際して、必要に応じてヒーターによる加熱を継続して、未硬化状態の液晶樹脂層の等方相を維持した状態で照射を行ってもよい。
【0147】
さらに、別の製造方法として、第二の位相差フィルムは、
i.基材フィルムの一方の表面に、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程と、
ii.前記基材フィルムの液晶樹脂層を設けた面と反対側の表面に、ストライプパターンの透光部および遮光部をガラス上に設けたガラスマスクを介して、エネルギー線を照射して、前記液晶樹脂層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程と、
iii.前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程と、
iv.前記基材フィルムの液晶樹脂層を設けた面にエネルギー線を照射して前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域を硬化させる第2の硬化工程と
を有する製造方法により製造してよい。この製造方法においては、先に説明した製造方法と同様の操作は、先に説明した製造方法と同様の条件で行ってもよい。
【0148】
また、第一の硬化工程としては、特開平4−299332号公報に示した方法を使用してもよい。また、ガラスマスクは、例えば、ガラス表面にクロムスパッタを施し、さらにフォトレジストを塗布し、ストライプ状に露光してフォトレジストを感光させて、洗浄し、クロムをエッチングしたものを用いてもよい。あるいは、例えば感光性乳剤を塗布したPETフィルムをストライプ状にレーザー描画し、洗浄し、該PETフィルムをガラス上に接着層を介して貼り合わせたものを用いてもよい。
さらに、上述した各製造方法では、第二の位相差フィルムが得られる限り、各工程の順番は任意である。
【0149】
上述した製造方法によれば、いずれも、遮光部及び透光部により形成されるマスク層又はガラスマスクのマスクパターンを精度よく写し取ったパターンを有する第二の位相差フィルムが製造できる。さらに、当該方法により得られた第二の位相差フィルムにおいては、位相差Reを有する第一領域と位相差Reを有さない第二領域との間には、物質的な連続性がある。したがって、領域間の空隙による反射及び散乱等を生じない点で光学的に有利であり、また、領域間の空隙を起点とした破損等を生じない点で機械的強度の点でも有利である。
【0150】
第二の位相差フィルムとしての液晶樹脂層の厚みは、液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性Δnの値に応じて、第一領域及び第二領域それぞれで所望の位相差Reが得られるように適切な厚みに設定しうる。通常は、液晶樹脂層の厚みは、0.5μm以上50μm以下の範囲である。
【0151】
〔4−5.液晶セル〕
液晶セルとしては、任意の表示モードの液晶セルを用いてもよい。例えばVAモード、TNモード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、マルチドメインバーティカルアラインメント(MVA)モード、インプレーンスイッチング(IPS)モード、オプティカリーコンペンセイテッドバイリフジエンス(OCB)モードなどの表示モードによるものとしてもよい。中でも、IPSモード、VAモード及びMVAモードのように、通常の使用形態において視認側偏光板の透過軸が水平方向に対して垂直となるものに用いることが好ましい。
【実施例】
【0152】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。また、以下の説明において、位相差の測定波長は別に断らない限り546nmとした。
【0153】
[実施例1〜18及び比較例1〜12]
〔シミュレーションの説明〕
市販のシミュレーター(シンテック社製「LCDマスター」)を用いて、第一実施形態と同様の立体画像表示システムのモデルについてシミュレーションを行った。このモデルにおいては、図1に示すように、ディスプレイ装置100と偏光メガネ200とを備える立体画像表示システムを想定した。
【0154】
このモデルにおいて、ディスプレイ装置100は、面状光源110、画像表示パネル120、積層位相差フィルム130及び第二の位相差フィルムとしてのパターン位相差フィルム140を備えるようにした。また、これらの画像表示パネル120、積層位相差フィルム130及びパターン位相差フィルム140は、間に空気層を介することなく、互いに接触した状態であるとした。
【0155】
画像表示パネル120の液晶セル122としては、インプレーンスイッチングモードのセルを設定した。
また、図2に示すように、画像表示パネル120の光源側偏光板121の透過軸は水平方向に平行とし、視認側偏光板123の透過軸A123は水平方向に垂直とした。したがって、想定したモデルにおいては基準方向A0は水平方向に平行となる。
【0156】
積層位相差フィルム130の1/2波長板131としては、日本ゼオン社製の樹脂「ゼオノア」により形成した延伸フィルムを想定した。このゼオノアは、シクロオレフィンポリマーを含む樹脂である。1/2波長板131の位相差、並びに遅相軸A131が基準方向A0に対してなす角度θaは、表1〜表7の通りにした。
【0157】
積層位相差フィルム130の1/4波長板132としても、日本ゼオン社製の樹脂「ゼオノア」により形成した延伸フィルムを想定した。1/4波長板132の位相差、並びに遅相軸A132が基準方向A0に対してなす角度θbは、表1〜表7の通りにした。
【0158】
さらに、パターン位相差フィルム140としては、液晶化合物としてBASF社製「LC242」を用いて形成したフィルムを想定した。このパターン位相差フィルム140では、第一領域140A及び第二領域140Bはいずれも水平方向に平行に延在する帯状の領域であり、その幅(鉛直方向の寸法)はそれぞれ311.1μmとした。また、第一領域140Aの位相差は表1〜表7の通りにした。さらに、遅相軸A140Aが水平方向に対してなす角度θ140A(図示せず)は0とし、遅相軸A140Aを水平方向に平行とした。
【0159】
偏光メガネ200は、左眼用レンズ210及び右眼用レンズ220を備えるようにした。
左眼用レンズ210の左眼用位相差フィルム211としては、膜厚79.72μmのポリカーボネート製の延伸フィルムを想定した。左眼用位相差フィルム211の位相差は125nm、遅相軸A211が基準方向A0に対してなす角度θ211は135°にした。
また、左眼用偏光板212の透過軸A212が視認側偏光板123の透過軸A123と垂直になるように、透過軸A212は水平方向に平行とした。
【0160】
他方、右眼用レンズ220の右眼用位相差フィルム221は、遅相軸A221の方向以外は左眼用位相差フィルム211と同様とした。遅相軸A221が基準方向A0に対してなす角度θ221は45°とした。
また、右眼用偏光板222の透過軸A222が視認側偏光板123の透過軸A123と垂直になるように、透過軸A222は水平方向に平行とした。
【0161】
このようなモデルにおいて、実施例及び比較例ごとに表1〜表7に示すように条件を変更して、以下に説明する方法でクロストーク及び色味ずれを評価した。
【0162】
〔クロストークの評価方法〕
前記のシミュレーションにより、偏光メガネ200の左右のレンズ210及び220を透過する光のスペクトルが計算される。ここで、透過光スペクトルと比視感度曲線の積算により輝度が計算される。具体的には、
(a)左眼用レンズ210を透過する、左眼用画像を表示する光Ll、
(b)左眼用レンズ210を透過する、右眼用画像を表示する光Lr、
(c)右眼用レンズ220を透過する、右眼用画像を表示する光Lr、
(d)右眼用レンズ220を透過する、左眼用画像を表示する光Ll
の輝度が計算される。前記の(a)及び(c)の光は、立体画像を適切に視認する観点からレンズ210及び220を積極的に透過させたい光である。また、前記の(b)及び(d)の光は、漏れ光と呼ばれ、クロストークを抑制する観点から遮断したい光である。
【0163】
算出した輝度を用いて、下記の式(A)及び式(B)により、左眼用レンズのクロストーク率CL、並びに、右眼用レンズのクロストーク率CRを求める。そして、これらのクロストーク率CL及びCRを用いて、式(C)により、平均クロストーク率を求める。
式(A): CL=RWL輝度/LWL輝度 [%]
式(B): CR=LWR輝度/RWR輝度 [%]
式(C): 平均クロストーク率=(CL+CR)/2
ここで、LWL輝度とは、左眼用画像を白表示した時の左眼用レンズを透過する光の輝度を表す。また、RWL輝度とは、右眼用画像を白表示した時の左眼用レンズを透過する光の輝度を表す。また、LWR輝度とは、左眼用画像を白表示した時の右眼用レンズを透過する光の輝度を表す。さらに、RWR輝度とは、右眼用画像を白表示した時の右眼用レンズを透過する光の輝度を表す。
【0164】
〔色味ずれの評価方法〕
前記のシミュレーションにより、偏光メガネ200の左右のレンズ210及び220を透過する光の色度を求め、左右の色度差ΔEを算出する。
ここで、色度は、以下のようにして求める。すなわち、シミュレーションにより計算された透過光スペクトルに、人間の目に対応する分光感度(等色関数)を乗じて三刺激値X、Y及びZを求める。求めた三刺激値X、Y及びZの割合から、色度座標の座標値x、yを算出する。
【0165】
[比較例13]
シミュレーションにおいて設定したモデルにおいて、1/2波長板131を設けなかったこと、並びに、角度θbを+45°にしたこと以外は実施例1と同様にして、クロストーク及び色味ずれを評価した。
【0166】
[実施例及び比較例の結果]
実施例及び比較例の結果を、下記の表1〜表7に示す。
【0167】
【表1】

【0168】
【表2】

【0169】
【表3】

【0170】
【表4】

【0171】
【表5】

【0172】
【表6】

【0173】
【表7】

【0174】
[検討]
比較例13では、左眼及び右眼の一方でクロストーク率が高く、また、色味ずれを表す色度差ΔEが大きい。このことから、1/2波長板と1/4波長板とを組み合わせた積層位相差フィルムを用いない場合には、立体画像の視認性が大きく損なわれることが分かる。
【0175】
また、比較例1〜4、6及び9では、左眼及び右眼の一方でクロストーク率が高い。さらに、比較例1、2及び4〜12では、色度差ΔEが大きい。このことから、1/2波長板と1/4波長板とを組み合わせた積層位相差フィルムを用いた場合でも、クロストーク及び色味ずれを抑制することは容易でないことが分かる。
【0176】
これに対し、実施例1〜18では、いずれも、左眼及び右眼の両方でクロストーク率が小さく、このため左眼と右眼とでクロストーク率の差が小さい。さらに、実施例1〜18では、いずれも、ΔEが小さい。このことから、本発明の構成により、クロストークと色味ずれの両方をバランスよく抑制できることが確認された。
【0177】
〔実装評価〕
シミュレーションであった実施例2及び比較例13について、以下の要領で実装評価を行った。
【0178】
[実施例19=実施例2の実装評価]
画像表示パネル120の液晶セル122としては、VAモードのディスプレイ装置(BenQ社製V2420H、パネルはAUO社製M240HW02、24”Full HD、画素276.8μmピッチ)を用意し、図2に示すように、画像表示パネル120の光源側偏光板121の透過軸は水平方向に平行とし、視認側偏光板123の透過軸A123は水平方向に垂直とした。
【0179】
[積層位相差フィルム]
積層位相差フィルム130の1/2波長板131としては、日本ゼオン社製の延伸フィルム「ゼオノア」を用いた。この1/2波長板131の位相差は250nmであった。また、遅相軸A131が基準方向A0に対してなす角度θaを、+102.5°にした。
積層位相差フィルム130の1/4波長板132としても、日本ゼオン社製の斜め延伸フィルム「ゼオノア」を用いた。この1/4波長板132の位相差は125nmであった。また、遅相軸A132が基準方向A0に対してなす角度θbを、+70°にした。
【0180】
[パターン位相差フィルム]
さらに、パターン位相差フィルム140としては、液晶化合物としてBASF社製「LC242」を用いてパターンを形成した。このパターン位相差フィルム140では、第一領域140A及び第二領域140Bはいずれも水平方向に平行に延在する帯状の領域であり、その幅(鉛直方向の寸法)はそれぞれ276.6μmで、また、第一領域140Aの位相差は250nm、第二領域140Bの位相差は0nmであった。さらに、遅相軸A140Aが水平方向に対してなす角度を0°とし、遅相軸A140Aを水平方向に平行とした。
【0181】
[偏光メガネ]
偏光メガネ200は、市販のReal.D社製の偏光メガネを使用した。
左眼用レンズ210の左眼用位相差フィルム211および右眼用レンズ220の右眼用位相差フィルム221はポリカーボネート製で、それぞれの位相差は125nmであった。また、左眼用位相差フィルムの遅相軸A211が基準方向A0に対してなす角度θ211は+135°、右眼用位相差フィルムの遅相軸A221が基準方向A0に対してなす角度θ221は+45°であった。さらに、左眼用偏光板212の透過軸A212および右眼用偏光板222の透過軸A222が、視認側偏光板123の透過軸A123と垂直になるように、透過軸A212及びA222を水平方向に平行とした。
【0182】
[比較例14=比較例13の実装評価]
積層位相差フィルムの代わりに、1/4波長板330として日本ゼオン社製の斜め延伸フィルム「ゼオノア」を用いた。この1/4波長板330の位相差は125nmであった。また、遅相軸A330が基準方向A0に対してなす角度θcを+45°にした(図11参照)。これらの事項以外は、実施例19の実装評価と同様に配置した。
【0183】
[評価結果]
偏光メガネを通して目視評価したところ、実施例19は、左右の色味ずれが少なく、クロストークが少ない立体画像が観察されたのに対して、比較例14の場合は、左右の色味ずれが大きく、立体画像もぼんやり観察された。
【符号の説明】
【0184】
10、20及び30 立体画像表示システム
100 ディスプレイ装置
110 光源
120 画像表示パネル
121 光源側偏光板
122 液晶セル
123 視認側偏光板
130 積層位相差フィルム
131 1/2波長板
132 1/4波長板
140 パターン位相差フィルム
140A 第一領域
140B 第二領域
200 偏光メガネ
210 左眼用レンズ
211 左眼用位相差フィルム
212 左眼用偏光板
220 右眼用レンズ
221 右眼用位相差フィルム
222 右眼用偏光板
300 ディスプレイ装置
330 1/4波長板
400 ディスプレイ装置
450 光学フィルム
500 偏光メガネ
510 左眼用レンズ
513 光学フィルム
520 右眼用レンズ
523 光学フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の偏光板を備えて前記第一の偏光板を透過した光により画像を表示しうるディスプレイ装置に設けられる積層位相差フィルムであって、
前記積層位相差フィルムが1/2波長板と1/4波長板とを備え、
前記ディスプレイ装置に前記積層位相差フィルムを設けた場合に、面内方向であって前記第一の偏光板の透過軸に垂直な基準方向に対して前記1/2波長板の遅相軸がなす角度θa、並びに、前記基準方向に対して前記1/4波長板の遅相軸がなす角度θbが、式1)及び式2)の関係を満たす、積層位相差フィルム。
式1) 2θa−140°≦θb≦2θa−130°
式2) 100°≦θa≦105°
【請求項2】
前記1/2波長板及び前記1/4波長板が延伸フィルムである、請求項1記載の積層位相差フィルム。
【請求項3】
前記積層位相差フィルムの1/2波長板および1/4波長板が同じ材質からなる、請求項1又は請求項2記載の積層位相差フィルム。
【請求項4】
前記1/2波長板及び前記1/4波長板がシクロオレフィンポリマーを含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層位相差フィルム。
【請求項5】
ディスプレイ装置と、偏光メガネとを備える立体画像表示システムであって、
前記ディスプレイ装置は、第一の偏光板を備えて前記第一の偏光板を透過した光により左眼用画像及び右眼用画像を表示しうる画像表示パネルと、請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層位相差フィルムと、第二の位相差フィルムとをこの順に備え、
前記第二の位相差フィルムは、位相差を有し前記左眼用画像及び右眼用画像の一方を表示する光を透過させうる第一領域と、位相差を有さず前記左眼用画像及び右眼用画像の他方を表示する光を透過させうる第二領域とを有し、
前記偏光メガネは、前記左眼用画像を表示する光を透過させ前記右眼用画像を表示する光を遮断しうる左眼用部材と、前記左眼用画像を表示する光を遮断し前記右眼用画像を表示する光を透過させうる右眼用部材とを備え、
前記左眼用部材は、左眼用位相差フィルムと左眼用偏光板とを備え、
前記右眼用部材は、右眼用位相差フィルムと右眼用偏光板とを備える、立体画像表示システム。
【請求項6】
前記第一領域が、略1/2波長の位相差を有する、請求項5記載の立体画像表示システム。
【請求項7】
前記積層位相差フィルムの1/2波長板及び第二の位相差フィルムの第一領域の位相差が240nm〜280nmであり、
前記積層位相差フィルムの1/4波長板、前記左眼用部材の左眼用位相差フィルム、及び、前記右眼用部材の右眼用位相差フィルムの位相差が120nm〜140nmである、請求項5又は請求項6記載の立体画像表示システム。
【請求項8】
前記第二の位相差フィルムの第一領域の遅相軸が前記基準方向と平行である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項9】
前記第一の偏光板の透過軸と、前記左眼用偏光板の透過軸及び右眼用偏光板の透過軸とが垂直である、請求項5〜8のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項10】
前記第二の位相差フィルムの前記積層位相差フィルムとは反対側、前記左眼用位相差フィルムの前記左眼用偏光板とは反対側、及び、前記右眼用位相差フィルムの前記右眼用偏光板とは反対側に、光学部材を備える、請求項5〜9のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項11】
前記左眼用位相差フィルムの遅相軸と前記右眼用位相差フィルムの遅相軸とが垂直である、請求項5〜10のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−64833(P2013−64833A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202970(P2011−202970)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】