説明

積層体、およびその積層体の分離方法

【課題】対象物を強固に接着して支持しつつ、支持体を対象物から分離可能な積層体およびその積層体の分離方法を提供すること。
【解決手段】本発明の積層体は、光透過性の支持体と被支持基板と接着層と支持体および被支持基板との間に設けられ、光吸収性を有している構造をその繰返し単位に含んでいる重合体を含有している分離層とを備えており、重合体は支持体を介して照射される光を吸収することによって変質する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離層を介して製造中の製品に支持体を仮止めした積層体、およびその積層体の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルAV機器およびICカ−ドなどの高機能化にともない、搭載される半導体シリコンチップ(以下、チップ)の小型化および薄型化によって、パッケ−ジ内にシリコンを高集積化する要求が高まっている。例えば、CSP(chip size package)またはMCP(multi−chip package)に代表されるような複数のチップをワンパッケ−ジ化する集積回路において、薄型化が求められている。パッケ−ジ内のチップの高集積化を実現するためには、チップの厚さを25〜150μmの範囲にまで薄くする必要がある。
【0003】
しかし、チップのベ−スになる半導体ウエハ(以下、ウエハ)は、研削することにより肉薄になるため、その強度が低下して、ウエハにクラックまたは反りが生じ易くなる。また、薄板化によって強度が低下したウエハを自動搬送することが困難なため、人手によって搬送しなければならず、その取り扱いが煩雑であった。
【0004】
そのため、サポ−トプレ−トと呼ばれるガラスまたは硬質プラスチックなどからなるプレ−トを、研削するウエハに貼り合わせてウエハの強度を補い、クラックの発生およびウエハの反りを防止するウエハハンドリングシステムが開発されている。ウエハハンドリングシステムによってウエハの強度が補われるので、薄板化したウエハの搬送を自動化することができる。
【0005】
ウエハハンドリングシステムにおいて、ウエハとサポ−トプレ−トとは種々の熱可塑性樹脂または接着剤などを用いて貼り合わせられる。そして、サポ−トプレ−トが貼り付けられたウエハを薄板化した後、ウエハをダイシングする前にサポ−トプレ−トをウエハから剥離する。例えば、150μm以下にウエハを薄板化するためには、ウエハとサポ−トプレ−トとを強固に接着することが非常に好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−640040号公報(2004年2月26日公開)
【特許文献2】特開平10−228113号公報(1998年8月25日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ウエハとサポ−トプレ−トとを強固に接着した場合、接着材料によっては、ウエハを破損させることなく、サポ−トプレ−トをウエハから剥離することが難しい。強固な接着力は、ウエハの薄板化には有効であるものの、サポ−トプレ−トの剥離時には強度の低下したウエハの破損を招くからである。
【0008】
このように、ウエハハンドリングシステムの自動化には、サポ−トプレ−トに対するウエハの強固な仮止めを実現しつつ、ウエハを破損させることなく剥離することができるという非常に困難な仮止め技術の開発が求められている。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、対象物を強固に接着して支持しつつ、支持体を対象物から容易に分離することができる積層体およびその積層体の分離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る積層体は、光透過性の支持体と、上記支持体によって支持される被支持基板と、上記被支持基板における支持体によって支持される側の面に設けられている接着層と、上記支持体と被支持基板との間に設けられ、光吸収性を有している構造をその繰返し単位に含んでいる重合体を含有している分離層とを備えており、上記重合体は、上記支持体を介して照射される光を吸収することによって変質するようになっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以上のような構成によって、対象物を強固に接着して支持しつつ、支持体を対象物から容易に分離することができる積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る積層体の製造方法、および支持体の分離方法を示す図である。
【図2】支持体の分離処理の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔積層体〕
本発明に係る積層体の一実施形態について以下に説明する。
【0014】
本発明に係る積層体は、光透過性の支持体と、
上記支持体によって支持される被支持基板と、
上記被支持基板における支持体によって支持される側の面に設けられている接着層と、
上記支持体と被支持基板との間に設けられ、光吸収性を有している構造をその繰返し単位に含んでいる重合体を含有している分離層とを備えており、
上記重合体は、上記支持体を介して照射される光を吸収することによって変質するようになっている。
【0015】
本発明の積層体は、被支持基板を支持体に仮止めした積層体として用いるのであれば、具体的な用途は特に限定されない。本実施形態では、ウエハサポ−トシステムにおいて利用される、半導体ウエハ(被支持基板)をサポ−トプレ−ト(支持体)に対して仮止めした積層体を例に挙げて説明する。
【0016】
(分離層)
上述のように、本発明に係る積層体は、分離層を備えている。また、分離層は、光吸収性を有している構造をその繰返し単位に含んでいる重合体を含有している。当該重合体は、光の照射を受けて変質する。当該重合体の変質は、上記構造が照射された光を吸収することによって生じる。分離層は、重合体の変質の結果として、光の照射を受ける前の強度または接着性を失っている。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体を持ち上げるなど)ことによって、分離層が破壊されて、支持体と被支持基板とを容易に分離することができる。
【0017】
光吸収性を有している上記構造は、光を吸収して、繰返し単位として当該構造を含んでいる重合体を変質させる化学構造である。当該構造は、例えば、置換もしくは非置換のベンゼン環、縮合環または複素環からなる共役π電子系を含んでいる原子団である。より詳細には、当該構造は、カルド構造、または上記重合体の側鎖に存在するベンゾフェノン構造、ジフェニルスルフォキシド構造、ジフェニルスルホン構造(ビスフェニルスルホン構造)、ジフェニル構造、ジフェニルアミン構造もしくはフェニルベンゾトリアゾール構造であり得る。
【0018】
上記構造が上記重合体の側鎖に存在する場合、当該構造は以下の式(1)〜(5)によって表され得る。
【0019】
【化1】

【0020】
Rはそれぞれ独立して、アルキル基、アリ−ル基、ハロゲン、水酸基、ケトン基、スルホキシド基、スルホン基または−N(R)(R)であり(ここで、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基である)、Zは、存在しないか、または−CO−、−SO−、−SO−もしくは−NH−であり、nは0または1〜5の整数である。nが2以上である場合、Rそれぞれは同じであるか、または異なる。
【0021】
また、上記重合体は、例えば、以下の式のうち、(a)〜(d)のいずれかによって表される繰返し単位を含んでいるか、(e)によって表されるか、または(f)の構造をその主鎖に含んでいる。
【0022】
【化2】

【0023】
式中、lは1以上の整数であり、mは0または1〜2の整数であり、Xは、(a)〜(e)において上記の“化1”に示した式(1)〜(5)のいずれかであるか、または炭素数1〜5のアルキレン部分、エステル結合、エーテル結合もしくはこれらの組合せからなる連結部分を介して、上記の“化1”に示した式(1)〜(5)のいずれかと結合しており、(f)において上記の“化1”に示した式(1)〜(5)のいずれかであるか、または存在せず、YおよびYはそれぞれ独立して、−CO−または−SO−である。lは好ましくは10以下の整数である。
【0024】
上記の“化1”の式(1)〜(4)によって示されるベンゼン環、縮合環および複素環の例としては、フェニル、置換フェニル、ベンジル、置換ベンジル、ナフタレン、置換ナフタレン、アントラセン、置換アントラセン、アントラキノン、置換アントラキノン、アクリジン、置換アクリジン、アゾベンゼン、置換アゾベンゼン、フルオリム、置換フルオリム、フルオリモン、置換フルオリモン、カルバゾ−ル、置換カルバゾ−ル、N−アルキルカルバゾ−ル、ジベンゾフラン、置換ジベンゾフラン、フェナンスレン、置換フェナンスレン、ピレンおよび置換ピレンが挙げられる。例示した置換基が置換を有している場合、その置換基は、例えば、アルキル、アリ−ル、ハロゲン原子、アルコキシ、ニトロ、アルデヒド、シアノ、アミド、ジアルキルアミノ、スルホンアミド、イミド、カルボン酸、カルボン酸エステル、スルホン酸、スルホン酸エステル、アルキルアミノおよびアリ−ルアミノから選択される。
【0025】
上記の“化1”に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している式(5)の置換基であって、Zが−SO−である場合の例としては、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,6−ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)スルホン、およびビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどが挙げられる。
【0026】
上記の“化1”に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している式(5)の置換基であって、Zが−SO−である場合の例としては、ビス(2,3−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5−クロロ−2,3−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4−ジヒドロキシ−6−メチルフェニル)スルホキシド、ビス(5−クロロ−2,4−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,5−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,5−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,3,4−トリヒドロキシ−6−メチルフェニル)−スルホキシド、ビス(5−クロロ−2,3,4−トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5−クロロ−2,4,6−トリヒドロキシフェニル)スルホキシドなどが挙げられる。
【0027】
上記の“化1”に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している式(5)の置換基であって、Zが−C(=O)−である場合の例としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,5,6’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,6−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4−アミノ−2’−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ−2’−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ジエチルアミノ−2’−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ−4’−メトキシ−2’−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ−2’,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、および4−ジメチルアミノ−3’,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0028】
上記の“化2”における(b)によって示される繰返し単位であって、Xが上記の“化1”における式(1)の置換基であり、Rの1つがベンゾトリアゾールである場合の例としては、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学製、商品名:RUVA−93)、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メタクリロイルオキシ〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、以下の式によって表される化合物などのベンゾトリアゾール誘導体が挙げられる。
【0029】
【化3】

【0030】
上記構造が上記重合体の側鎖に存在している場合、上記構造を含んでいる繰返し単位の、上記重合体に占める割合は、上記分離層の光の透過率が0.001〜10%になる範囲にある。当該割合がこのような範囲に収まるように重合体が調製されていれば、分離層が十分に光を吸収して、確実かつ迅速に変質し得る。すなわち、積層体からの支持体の除去が容易であり、当該除去に必要な光の照射時間を短縮させることができる。
【0031】
上記構造は、その種類の選択によって、所望の範囲の波長を有している光を吸収することができる。例えば、上記構造が吸収可能な光の波長は、100〜2000nmであり得る。この範囲のうち、上記構造が吸収可能な光の波長は、より短波長側であり得、例えば、100〜500nmである。例えば、上記構造は、好ましくは約300〜370nmの波長を有している紫外光を吸収することによって、当該構造を含んでいる重合体を変質させ得る。
【0032】
上記構造が吸収可能な光は、例えば、高圧水銀ランプ(波長:254nm〜436nm)、KrFエキシマレ−ザ(波長:248nm)、ArFエキシマレ−ザ(波長:193nm)、Fエキシマレ−ザ(波長:157nm)、XeClレ−ザ(308nm)、XeFレ−ザ(波長:351nm)もしくは固体UVレ−ザ(波長:355nm)から発せられる光、またはg線(波長:436nm)、h線(波長:405nm)もしくはi線(波長:365nm)などである。
【0033】
本明細書において重合体が“変質する”とは、当該重合体によって構成されている分離層を、わずかな外力を受けて破壊され得る状態、または分離層と接する構成との接着力が低下した状態にさせる現象を意味する。また、重合体の変質は、吸収した光のエネルギ−による(発熱性または非発熱性の)分解、架橋、立体配置の変化または官能基の解離(そして、これらにともなう分離層の硬化、脱ガス、収縮または膨張)などであり得る。重合体の変質は、上述のように、上記構造による光の吸収の結果として生じる。よって、重合体の変質の種類は、選択された上記構造の種類に応じて変化し得る。
【0034】
上述のように分離層は、繰り返し単位として上記構造を含んでいる重合体を含有している。したがって、上記重合体は、公知の単量体からなる繰り返し単位を必要に応じて含んでいる共重合体であり得る。公知の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、および炭素数1〜14のアルキル基を有しているアクリル系アルキルエステルが挙げられる。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル、脂肪族環を有している(メタ)アクリル酸エステル、および芳香族環を有している(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数15〜20のアルキル基を有しているアクリル系長鎖アルキルエステル、および炭素数1〜14のアルキル基を有しているアクリル系アルキルエステルなどが挙げられる。アクリル系長鎖アルキルエステルとしては、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基などをアルキル基として含んでいる(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なお、当該アルキル基は、分岐状であり得る。
【0036】
脂肪族環を有している(メタ)アクリル酸エステルとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート、およびジシクロペンタニル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、イソボルニルメタアクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0037】
炭素数1〜14のアルキル基を有しているアクリル系アルキルエステルとしては、既存のアクリル系接着剤に用いられている公知のアクリル系アルキルエステルが挙げられる。例えば、アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、ドデシル基、ラウリル基、トリデシル基などからなる(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。
【0038】
また、分離層を形成する際、必要に応じて有機溶剤を用いて上記重合体を希釈した溶液を用い得る。
【0039】
上記有機溶剤としては、γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、または2−ヘプタノンなどのケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類;多価アルコール類の誘導体(例えばエーテル結合を有している化合物);ジオキサンなどの環式エーテル類、またはエステル類(例えば、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなど);芳香族系有機溶剤(例えば、アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレンなど)、またはジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。上記エーテル結合を有している化合物は、例えば、エステル結合を有している化合物(例えば、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、もしくはジプロピレングリコールモノアセテートなど)、上記多価アルコール類またはエステル結合を有している上記化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、またはモノブチルエーテルなどの、モノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテルなどである。これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい。これらの有機溶剤は、単独にか、または2種以上の混合物として使用され得る。
【0040】
上記分離層は、上記支持体と上記接着層との間に設けられていることが好ましい。つまり、分離層と被支持基板との間には、接着層が設けられている構成が好ましいということである。このような構成であれば、支持体を介して分離層に照射された光が被支持基板に到達することを防ぐことができる。被支持基板における接着層と接する面に、例えば、保護すべき微細構造などが形成されている場合に、このような微細構造が光の照射によって悪影響を受けることを防ぐことができる。
【0041】
上記分離層の厚さは、0.1〜10μmであり得る。上記分離層の厚さは、0.4〜5μmの厚さであることが好ましい。分離層の厚さが当該範囲に収まっていれば、短時間の光の照射および低エネルギ−の光の照射によって、分離層を所望のように変質させることができる。
【0042】
上述のように、分離層は、支持体と被支持基板との間に形成されている。そして、分離層は、支持体を介して光の照射を受けて変質するように構成されている。なお、本発明に係る積層体において、分離層と支持体との間に他の層がさらに形成され得る。この場合、他の層は光を透過する材料から構成されている。これによって、分離層への光の入射を妨げることなく、積層体に好ましい性質などを付与する層を、適宜追加することができる。分離層を構成している重合体の種類によって、重合体を変質させ得る光の波長が異なる。よって、他の層を構成する材料は、すべての光を透過させる必要はなく、重合体を変質させ得る波長の光を透過させることができる材料から適宜選択し得る。
【0043】
上述のように分離層は、繰り返し単位として上記構造を含んでいる重合体を含有している。そして、分離層は上記重合体以外の成分を含み得る。当該成分としては、フィラ−、可塑剤、および支持体の剥離性を向上し得る成分などが挙げられる。これらの成分は、上記構造による光の吸収、および重合体の変質を妨げないか、または促進する、従来公知の物質または材料から適宜選択される。
【0044】
(支持体)
上述のように、支持体は光透過性を有している。これは、積層体の外側から光を照射したときに、当該光が支持体を通過して上記分離層に到達することを目的としている。したがって、支持体は、必ずしもすべての光を透過させる必要はなく、分離層に吸収されるべき(所望の波長を有している)光を透過させることができればよい。
【0045】
また、支持体は、被支持基板を支持するための構成である。よって、支持体は、被支持基板を加工および搬送するなどの場合に、被支持基板の破損または変形などを防ぐために必要な強度を有していればよい。
【0046】
以上のような観点から、支持体としてはガラス板およびアクリル板などが挙げられるが、上述の目的を果たし得る構成であれば、支持体として採用し得る。
【0047】
(接着層)
接着層は、被支持基板を支持体に接着固定すると同時に、被支持基板の表面を覆って保護する構成である。よって、接着層は、被支持基板の加工または搬送の際に、支持体に対する被支持基板の固定、および被支持基板の保護すべき面の被覆を維持する接着性および強度を有している必要がある。一方で、支持体に対する被支持基板の固定が不要になったときに、被支持基板から容易に剥離または除去され得る必要がある。
【0048】
したがって、接着層は、通常は強固な接着性を有しており、何らかの処理によって接着性が低下するか、または特定の溶剤に対する可溶性を有する接着剤によって構成される。当該分野において公知の種々の接着剤が、本発明に係る接着層を構成する接着剤として使用可能である。
【0049】
なお、光硬化性樹脂(例えば、UV硬化性樹脂)以外の樹脂を用いて接着層を形成することが好ましい。これは、光硬化性樹脂が、接着層の剥離または除去の後に、被支持基板の微小な凹凸の周辺に残渣として残ってしまう場合があり得るからである。特に、特定の溶剤に溶解する接着剤が接着層を構成する材料として好ましい。これは、被支持基板に物理的な力を加えることなく、接着層を溶剤に溶解させることによって除去可能なためである。接着層の除去に際して、強度が低下した被支持基板からでさえ、被支持基板を破損させたり、変形させたりせずに、容易に接着層を除去することができる。
【0050】
〔積層体の製造方法〕
本発明に係る積層体の製造方法について、図1を参照して以下に説明する。図1は、積層体の製造方法、および積層体からの半導体ウエハの分離処理を示す図である。
【0051】
図1に示すように、まず、所望の素子が形成されている半導体ウエハ(被支持基板)のうち、素子の形成面に対して接着剤をスピン塗布する(図1の(1))。接着剤は、例えば、溶剤に溶解させた状態で半導体ウエハに塗布される。そして、温度を上昇させつつ段階的にベ−クすることによって接着剤が固化されて接着層が形成される。
【0052】
つぎに、ベアガラス(支持体)の一方の面に、溶剤に溶解させた上記重合体をスピン塗布する(図1の(2))。そして、溶剤を蒸発させることによって、固化されて分離層が形成される。
【0053】
そして、半導体ウエハの一方の面に形成された接着層に対して、ベアガラスの一方の面に形成された分離層が貼り付けられる(図1の(3))。ここでは、接着層に分離層を接触させて、200℃の真空中において加圧することによって、接着層と分離層との貼り付けが行われる。
【0054】
以上のようにして、本発明に係る積層体を製造することができる。なお、被支持基板の状態(表面の凹凸、強度など)、接着層の材料、分離層の材料、および支持体の材料などにしたがって、接着層および分離層の形成手法、接着層と分離層との貼り付け手法は、従来公知の種々の手法から、好適なものが適宜選択される。
【0055】
当該積層体は、半導体ウエハの加工を経た後に、光の照射、ベアガラスの剥離、および接着層の除去によって、半導体ウエハのみの状態になり得る。半導体ウエハの加工の後から、半導体ウエハの取り外しまでに関して以下に説明する。
【0056】
〔積層体の分離方法〕
図1に示すように、半導体ウエハの加工が終わった後に、支持体側の面から積層体にレ−ザが照射される(図1の(4))。レ−ザの照射を受けると(図2の(1))、分離層は変質を起こす(図2の(2))。ここでは、変質は、分離層に含まれている重合体の分解であるとして説明する。
【0057】
つぎに半導体ウエハからベアガラスを剥離する(図1の(5))。変質した分離層は、その強度が著しく低下している。したがって、例えば、わずかな外力を加えてベアガラスを引き上げることによって、分離層が容易に破壊されて、ベアガラスが積層体から剥離される(図2の(3))。
【0058】
残りの接着層に溶剤を噴霧して、接着層を除去する(図1の(6))。ここで、ベアガラスの剥離後に接着層に分離層の残りが付着している場合がある。少量の分離層が付着しているだけであれば、上述のように接着層を溶解させる溶剤を噴霧すればよい。しかし、その前に分離層の材料を溶解させる溶剤を噴霧してもよい。
【0059】
以上のように、本発明に係る積層体は、上述のような分離層を備えているので、光の照射によって、被支持基板から支持体を容易に剥離することができる。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明に係る積層体の実施例を示す。なお、以下に示す実施例は、本発明の理解を助ける例示であって、何ら本発明を限定するものではない。
【0061】
〔積層体の作製〕
実施例1の積層体を以下のように作製した。カルド構造を繰返し単位に有している樹脂1を、溶解後の含有量が20重量%になるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解させた。この溶液を、ガラス支持体(製品名「TENPAX」、SCHOTT社製)上に、5μmの厚さにスピン塗布した。そして、160℃において6分間にわたって加熱することによって溶剤を蒸発させて、10000Åの厚さの分離層が形成されたガラス支持体を得た。
【0062】
シクロオレフィン系ポリマ−のTOPAS8007X10(ポリプラスティック社製)を、溶解後の含有量が25重量%になるようにp−メンタンに溶解させ、さらに酸化防止剤であるIRGANOX1010(BASF社製)を5質量部加えた。半導体ウエハ基板上に、ベ−ク後に50μmの厚さになる量のこの溶液をスピン塗布した。そして、100℃、160℃および220℃のそれぞれにおいて、段階的にベ−クして半導体ウエハ基板上に接着層を形成した。上記分離層および接着層を、互いに向かい合わせにして張り合わせることによって、積層体を作製した。
【0063】
実施例2および3ならびに比較例1および2の積層体は、分離層を構成する樹脂の種類および分離層の厚さを除いて、実施例1の積層体と同様にして作製した。分離層の樹脂の種類および厚さは、実施例2および3において樹脂2(ベンゾフェノン構造を繰返し単位に有している)、厚さ4000Åであり、比較例1および2において樹脂4、厚さ10000Åである。
【0064】
実施例4の積層体を以下のように作製した。樹脂3を、溶解後の含有量が10重量%になるようにトルエン/メチルエチルケトンに溶解させた。この溶液を、ガラス支持体(製品名「EAGLE2000」、コーニング社製)上にスピン塗布した。そして、160℃において6分間にわたって加熱することによって溶剤を蒸発させて、10000Åの厚さの分離層が形成されたガラス支持体を得た。なお、各実施例および比較例の積層体は、いずれも複数個を作製した。
【0065】
実施例1の樹脂1(Mw=4000、Mw/Mn=3.3)は以下の式(6)によって表され、実施例2および3の樹脂2(Mw=520、Mw/Mn=2.46、o:p=60:40(モル比))は以下の式(7)によって表され、実施例4の樹脂3(Mw=50000、Mw/Mn=7.41、q:r=55:45(モル比))は以下の式(8)によって表され、比較例1および2の樹脂4(Mw=40000、Mw/Mn=7.0、a:b:c:d:e=13:10:15:52(モル比))は以下の式(9)によって表される。
【0066】
【化4】

【0067】
【化5】

【0068】
【化6】

【0069】
【化7】

【0070】
〔分離層の評価〕
(光の透過率の測定)
以下のように樹脂1〜4のいずれかからなる各分離層の光の透過率を測定した。
【0071】
樹脂1〜4のいずれかをPGMEAに溶解させた、10重量%の固形分濃度を有する樹脂溶液を樹脂ごとに4種類、調製した。4種類の樹脂溶液のいずれかをガラス基板(EAGLE2000、コ−ニング社製)上にスピンコ−トし、加熱によって溶剤を蒸発させた。この操作を各樹脂溶液ごとに行って、実施例1〜4および比較例1、2の各分離層に対応する4000Åまたは10000Åの膜厚の分離層をそれぞれ作製した。分光光度計(UV3100PK、島津製作所製)を用いて、各分離層における光(308nmまたは355nm)の透過率を測定した。
【0072】
(剥離性の評価)
各実施例および比較例の積層体を、以下のような処理をした上で、ガラス支持体が半導体ウエハ基板から剥離されるか否かについて評価した。
【0073】
上述のようにして得られた各積層体のそれぞれにおける半導体基板を薄化した。その後に、308nmまたは355nmの波長を有するレ−ザを、積層体のガラス支持体側から分離層に向けて照射した。すなわち、308nmのレ−ザを、12.5〜50Hzの範囲での繰返し周波数の中から選択した何点かと、180、160、140および120mJ/cmのエネルギ−密度とをそれぞれ組み合わせることにより、積層体に照射した。また、355nmのレ−ザを、10〜200kHzの繰返し周波数および平均出力0.3Wの条件において、積層体に照射した。レ−ザの照射時間はいずれも1分間未満であった。
【0074】
各分離層の光の透過率、およびレ−ザ照射後の剥離性についての評価を以下の表にまとめた。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例1〜4の積層体における分離層は、レ−ザ照射を受けて変質しており、ガラス支持体を単に持ち上げるだけで、ガラス支持体は半導体ウエハ基板から容易に剥離した。一方で、比較例1および2の積層体における分離層は、レ−ザ照射を受けても変質しておらず、ガラス支持体は半導体ウエハ基板から剥離しなかった。なお、各実施例に対応する分離層におけるレ−ザの透過率は、いずれも10%未満であり、各比較例に対応する分離層におけるレ−ザの透過率は、いずれも80%以上であった。
【0077】
なお、式(8)によって表される樹脂3は、q+rを100重量%としたとき、r>40重量%を満たしている場合に、実施例4と同様の良好な結果が得られている。このとき、式(8)によって表される樹脂3は、Mw=30000〜150000を満たしている。
【0078】
各実施例の積層体は、ガラス支持体の剥離に続いて、接着層の除去が試みられた。接着層に変質した分離層の残りが付着していたので、第1の剥離液(PGMEA)を噴霧してこれを除去した。そして、第2の剥離液(p−メンタン)を噴霧して接着層を除去した。これらの操作によって、半導体ウエハ基板は、残渣などが残ることなく、積層体から完全に分離された。なお、接着層に付着していた分離層の残りは少量であったので、第1の剥離液を噴霧しなくとも第2の剥離液のみを噴霧すれば、接着層とともに容易に除去されるものと認められた。
【0079】
上述のように、実施例1〜4の積層体に備えられている分離層は、カルド構造、ベンゾフェノン構造またはフェニルベンゾトリアゾール構造を繰返し単位に含んでいる樹脂によって構成されている。したがって、これらの分離層は、レ−ザ照射によって変質し、非常に容易く積層体から剥離された。そして、残る接着層も容易に除去され、ガラス支持体による支持を必要としなくなった半導体ウエハ基板のみを残して、積層体はすべて除去された。一方で、各比較例の積層体からは、半導体ウエハ基板を取り外すことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、様々な製品の製造時に使用される仮止めした積層体を提供することができる。特に、半導体ウエハまたはチップを種々の支持体に仮止めして加工する工程にとって好適な積層体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の支持体と、
上記支持体によって支持される被支持基板と、
上記被支持基板における支持体によって支持される側の面に設けられている接着層と、
上記支持体と被支持基板との間に設けられ、光吸収性を有している構造をその繰返し単位に含んでいる重合体を含有している分離層とを備えており、
上記重合体は、上記支持体を介して照射される光を吸収することによって変質するようになっていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
上記構造が、置換もしくは非置換のベンゼン環、縮合環または複素環からなる共役π電子系を含んでいる原子団であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
上記構造が、カルド構造、または上記重合体の側鎖に存在するベンゾフェノン構造、ジフェニルスルフォキシド構造、ビスフェニルスルホン構造、ジフェニル構造、ジフェニルアミン構造もしくはフェニルベンゾトリアゾール構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
上記繰返し単位、重合体または構造が、以下の式のいずれかによって表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。
【化1】

(式中、lは1以上の整数であり、mは0または1〜2の整数であり、Xは、(a)〜(e)において以下の式(1)〜(5)のいずれかであるか、または炭素数1〜5のアルキレン部分、エステル結合、エーテル結合もしくはこれらの組合せからなる連結部分を介して、以下の式(1)〜(5)のいずれかと結合しており、(f)において以下の式(1)〜(5)のいずれかであるか、または存在せず、
【化2】

Rはそれぞれ独立して、アルキル基、アリ−ル基、ハロゲン、水酸基、ケトン基、スルホキシド基、スルホン基または−N(R)(R)であり(ここで、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基である)、YおよびYはそれぞれ独立して、−CO−または−SO−であり、Zは、存在しないか、または−CO−、−SO−、−SO−もしくは−NH−であり、nは0または1〜5の整数である。)
【請求項5】
上記構造は、300nm〜370nmの波長の光を吸収するようになっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
上記支持体と上記接着層との間に上記分離層が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層体のうちの上記被支持基板から上記支持体を分離する方法であって、
上記支持体を介して上記分離層に光を照射して、上記重合体を変質させる工程を包含していることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−106486(P2012−106486A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221797(P2011−221797)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】