説明

積層体、その製造方法、それを用いた配線基板及び表示装置

【課題】基板表面上の無機化合物膜との密着性に優れ、良好な導電性を有する導電層を容易に形成しうるグラフトポリマー層を有する積層体、さらに導電層を有する積層体及びその製造方法、並びにそれを用いた配線基板、表示装置を提供する。
【解決手段】基板上に、最表面に無機化合物膜を有する中間層と、該無機化合物膜にに直接結合するグラフトポリマー層とを有する積層体。グラフトポリマー層上に導電性材料を付与し、導電層を形成してなる積層体とすることもでき、該導電層は各種配線に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板或いは有機フイルム基板上に、無機化合物膜とグラフトポリマー層とを有する積層体、それを用いた導電性積層体、その製造方法、並びに該導電性積層体を用いた配線基板、該配線基板を備える表示装置に関し、より詳細には、固体表面に高密度で、耐久性に優れた導電層を有する基板の製造に有用な積層体、生産性に優れた該積層体の製造方法、優れた導電性を有する導電層を備えた積層体を応用した配線基板及びそれを配線として用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の導電性基板が配線基板の形成などに使用されている。これらの代表的なものは、絶縁体上に真空蒸着などの公知の方法により形成された薄膜の導電性材料を設けてなる導電性基板である。これらの中でも、ガラスを基板として用い、該ガラス基板上に銅やITOなどの導電性物質を積層した導電性ガラス基板はフラットパネル表示素子などの電気配線用基板として有用である。
これらの導電性ガラス基板を素材として配線基板を形成する方法としては、導電層上にレジストを塗布し、パターン露光により予め作成したレジストの一部を除去し、その後、エッチング処理を行って所望の導電性パターンを形成する方法が一般的なものとして挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。
このようにして作製されたガラス基板上の配線は種々の用途に有用であり、アクティブマトリクス表示装置に利用可能な薄層トランジスタ(例えば、特許文献2参照)や、表示装置の配線、例えば、PDP表示素子においてはバス電極、アドレス電極などに使用されている。また液晶表示素子や有機EL素子においては透明電極や、表示電極などとドライバをつなぐ引き回し配線、液晶表示素子が形成されたガラス基板上にCOG(チップオングラス)方式によって駆動ICを実装する配線などに使用されている。
【0003】
これらの導電性ガラス基板のうち、ITO層をガラス基板上に蒸着で設けてなる導電性基板は導電性が良好であり、さらに、他の効果として、透明性が高く、エッチングなどの加工適性が良いため透明電極として広く使用されている。しかし、ITO層を蒸着により形成するため膜厚を大きくすることが困難であり、薄い膜厚では電気抵抗が高くなって大量の電流を流すことができず、用途が制限されるという問題点があった。
また、ITO以外の金属による導電層を形成しようとする場合、導電性材料として使用される金、白金、銅などの金属は、得られる金属膜のガラス基板との密着性が低いため、いったんガラス基板の上にクロム蒸着膜を形成し、このクロム蒸着膜上に前記金属薄膜を形成する方法がとられていた。この方法では、所望の金属膜を作製する場合、クロムの蒸着操作が必要となり、工程的にも、コスト的にも好ましくなかった。従って、クロム蒸着膜を形成することなく、ガラス基板表面に高い密着性で金、白金、銅などの金属膜を形成してなる導電性ガラス基板が求められていた。
【0004】
また、表示装置に使用されるガラス基板は、ガラス中に含まれる微量のアルカリ分などの複成分が表示素子表面へ染み出すだけでなく、ガラス基板上に形成された金属配線に起因する金属成分が、電界の影響によりガラス上を移動し、ガラス基板の絶縁性が低下する、といった問題があり、これらの問題を防ぐためガラス基板表面をバリア膜でコーティングする必要があった。そのバリア膜上に金属による導電層を形成する場合においても密着性の低さに問題があり、密着性を高めるため、導電層の上にさらにITO層などでコートする必要があった。
いずれの場合においても、導電層は蒸着で形成されるために得られる膜厚に制限があり、所望の導電性を得難い。特にバリア膜を有するガラス基板に高密着性で任意の導電性を有する導電層を形成することは、表示装置の配線へ応用ができるため、その方法が熱望されている。
【0005】
他方、近年、液晶表示素子やEL素子等の分野においては、重くて割れやすく大面積化が困難なガラス基板に代わって、透明プラスチック等のフイルム基材が採用され始めている。また、透明プラスチック等のフイルム基材は上記要求に応えるだけでなく、ロール トゥ ロール(Roll to Roll)方式に適用することも可能であることから、ガラスよりも生産性がよくコストダウンの点でも有利である。しかし、透明プラスチック等のフイルム基材はガラスと比較してガスバリア性に劣るという問題がある。ガスバリア性が劣る基材を用いると、水蒸気や空気が浸透するため、例えば液晶表示素子に用いた場合には、液晶セル内の液晶を劣化させ、劣化部位が表示欠陥となって表示品位を劣化させてしまう。
このような問題を解決するために、フイルム基材上にガスバリア膜として金属酸化物薄膜を形成し、ガスバリア性を付与したフイルムを透明基材として用いることが知られている。(例えば、特許文献3、参照。)
このように、電子ペーパーやフレキシブル有機ELディスプレイに代表される表示装置中の種々の配線(表示素子とドライバをつなぐ引き回し配線など)はガスバリア膜を有する基材フイルム上に形成されることが好ましい態様であるものの、これらの金属配線はガスバリア膜との密着性の低さに問題があり、密着性を高めるため、ガラス基板を用いた場合と同様に、導電層の上にさらにITO層などでコートする必要があり、構成や製造方法が複雑で生産性に問題があった。
このように、ガラス基板、有機フイルム基板のいずれを用いた場合においても、基板の特性向上に欠かせない無機化合物膜を有する中間層との密着性に優れたパターンを形成しうる部材が求められているのが現状である。
【特許文献1】特開2004−31588号公報
【特許文献2】特開2006−108622号公報
【特許文献3】特開2006−88615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、ガラス基板、有機フイルム基板のいずれを用いた場合においても、表面上の無機化合物膜との密着性に優れ、良好な導電性を有する導電層を容易に形成しうるグラフトポリマー層を有する積層体、さらには、該グラフトポリマー層を介して形成された、無機化合物膜との密着性に優れた導電層を有する積層体及びその生産性に優れた製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、無機化合物膜との密着性に優れ、任意の導電性を有する導電層を備えた積層体を配線として有し、ガラス基板、有機フイルム基板のいずれを用いた場合であっても、導電層間の絶縁性に優れた配線基板、及び、該配線基板を備えた、基板と配線との密着性及び配線間の絶縁性に優れた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、検討の結果、基板上に最表面に無機化合物膜を有する中間層を設け、該無機化合物膜に直接結合したグラフトポリマー層を形成することで上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、具体的には以下に示すものである。
<1> 基板上に、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物に、ラジカル重合可能な不飽和化合物を接触させてエネルギーを付与することによって該化合物の重合開始部位と直接結合したグラフトポリマー層とを有する積層体であって、該基板上に、最表面に無機化合物膜を有する中間層を有し、且つ、該中間層の最表面の無機化合物膜と該重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物の基材結合部位とが、シランカップリング剤を介して結合していることを特徴とする積層体。
<2> 基板が、ガラスである<1>に記載の積層体。
<3> 前記基板が有機フイルムである<1>に記載の積層体。
<4> 無機化合物膜が、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、及び、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:DLC)からなる群より選択される1種以上の化合物により構成されることを特徴とする<1>乃至<3>のいずれか1項に記載の積層体。
<5> 無機化合物膜が、SiO膜、SiON膜、SiN膜、Al膜又はAl−Si混合酸化物膜であることを特徴とする<1>乃至<3>のいずれか1項に記載の積層体。
【0008】
<6> 中間層が無機化合物膜を少なくとも2層含む積層構造を有することを特徴とする<1>乃至<3>のいずれか1項に記載の積層体。
<7> 中間層がガスバリア性を有する<3>に記載の積層体。
<8> ガスバリア性を有する中間層の水蒸気透過率が1.0g/m2・24hr以下であり、且つ、、酸素透過率が1.0ml/m2・24hr以下である<7>に記載の積層体。
<9> シランカップリング剤が、アミノ基、メルカプト基、又は、イソシアネート基を有する化合物であることを特徴とする<1>乃至<8>のいずれか1項に記載の積層体。
【0009】
<10> グラフトポリマー層がパターン状に形成されていることを特徴とする<1>乃至<9>のいずれか1項に記載の積層体。
<11> パターン解像度が1μm〜20μmである<10>に記載の積層体。
<12> グラフトポリマー層を構成する高分子化合物の質量平均分子量が500〜50万の範囲である<1>乃至<11>のいずれか1項に記載の積層体。
<13> グラフトポリマー層の膜厚が、10nm〜2.0μmの範囲である<1>乃至<12>のいずれか1項に記載の積層体。
<14> グラフトポリマー層上に導電層を有することを特徴とする<1>乃至<13>のいずれか1項に記載の積層体。
<15> 導電層が、1Ω/□以下の抵抗値を有することを特徴とする<14>に記載の積層体。
【0010】
<16> 基板上に最表面に無機化合物膜を有する中間層を形成する工程と、該無機化合物膜にシランカップリンク剤処理を施す工程と、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物を、シランカップリンク剤を介して無機化合物膜に結合させる工程と、該化合物とラジカル重合可能な不飽和化合物とを接触させてエネルギーを付与することによりグラフトポリマー層を形成する工程と、を有する積層体の製造方法。
<17> 無機化合物膜と光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物とを結合させる工程が、無機化合物膜表面のシランカップリング剤による処理工程を含むことを特徴とする<16>に記載の積層体の製造方法。
<18> <14>又は<15>に記載の積層体を含む配線基板。
<19> <18>に記載の配線基板を含む表示装置。
【0011】
本発明において「最表面に無機化合物膜を有する中間層」とは、無機化合物の単一層からなる膜、複数種の無機化合物膜が積層した構造を有する膜、若しくは、無機化合物層と有機化合物層との積層体であって、最表面、即ち、基板から最も遠く、後述するグラフトポリマーを形成する面が無機化合物膜である層(積層膜、或いは単層膜)を指す。
このような無機化合物膜を最表面に有する中間層は、ガラスに含まれる微量なアルカリ分などの副成分の、グラフトポリマーや導電層、表示素子への染み出しに起因するガラス基板の絶縁性の低下や、ガラス基板上に形成された金属配線由来の金属成分のガラス上の移動に伴うガラス基板の絶縁性の低下を防止する働きがある。また、有機フイルム基板においては、上記の効果だけではなく、ガスバリア膜として機能することで、水蒸気や空気などの有機フイルム透過を抑制し、形成された導電層の水分や酸素による品位の劣化を防止する。
このような機能を有する「最表面に無機化合物膜を有する中間層」は、好ましくは、基板上に形成された無機化合物膜、あるいは、有機化合物層と無機化合物層との交互積層体からなる。
このような最表面が無機化合物膜である中間層を基板上に形成する方法としては、中間層最表面における無機化合物膜を、化学的気相成長法(CVD)、物理的気相成長法(PVD)又は液相成長法などにより形成する方法が挙げられる。
【0012】
本発明におけるグラフトポリマー層を有する積層体は、例えば、基板上に前記の如くして設けられた最表面に無機化合物膜が位置する中間層の無機化合物膜に、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物を、基材結合部位を介して直接結合させる工程と、その表面にラジカル重合可能な不飽和化合物を接触させて、エネルギーを付与し、該光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物からラジカルを発生させ、それを開始種としてグラフトポリマー層を無機化合物膜上に、重合開始部位を起点として生成させるが、グラフトポリマーの片末端は、その開始点により無機化合物膜に直接結合されている。
【0013】
ここで、前記無機化合物膜に光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物が、シランカップリング剤を介して結合している、とは、該化合物を結合させる前の無機化合物膜にシランカップリング剤による処理を施した後、該化合物を接触させることで、無機化合物膜と該化合物の基材結合部位とが結合することを言い、シランカップリング剤により、無機化合物膜と該化合物との結合がより強固となる。シランカップリング剤による処理はシランカップリング剤の希薄水溶液に、最表面に無機化合物膜有する中間層を形成した基板を浸漬する方法が用いられる。
ここで用いられる光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物における重合開始部位は、C−C結合、C−N結合、C−O結合、C−Cl結合、N−O結合、及びS−N結合からなる群より選択されるいずれかを含むことが好ましい態様である。
【0014】
ここで、グラフトポリマー層を生成させるためのエネルギー付与の方法としては、マスクパターンを用いたパターン露光や、レーザ走査露光によるパターン露光が挙げられる。パターン露光を行うことで、露光領域のみにグラフトポリマーが生成されることから、本発明の<10>に係る如きグラフトポリマーのパターンを形成することができる。ここで、パターンとは基板上任意の位置にエネルギーを付与することにより形成された模様のことである。例としては、特開2001−349949号公報図6の12や、特開2004−207275号公報図5の11が挙げられる。
【0015】
本発明の<14>に係る導電層は前記のグラフトポリマー上に形成されることを特徴とする。導電層の形成にあたっては、導電性等の電気的特性の観点からは、グラフトポリマー生成領域に無電解メッキ触媒もしくはその前駆体を付与し、無電解メッキを行うことが好ましく、その際の無電解メッキは、トリアルカノールアミン、特に、トリエタノールアミンを含有する無電解メッキ浴を用いて行うことが好ましい態様である。このようにして形成された導電層の導電率は1Ω/□以下であることが好ましく、より好ましくは0.7Ω/□以下、さらに好ましくは0.5Ω/□以下である。
本発明の<19>にかかる配線基板は、前記した本発明のパターン状導電層を有する積層体からなることを特徴とする。
本発明の<19>に係る表示装置は、前記配線基板を備えたことを特徴とする。
より具体的な例として、本発明のパターン状導電層は、液晶素子、PDP又は電子ペーパーの配線、有機EL素子の画素内配線、表示電極などとドライバをつなぐ引き回し配線などに用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基板表面上の無機化合物膜との密着性に優れ、良好な導電性を有する導電層を容易に形成しうるグラフトポリマー層を有する積層体、さらには、該グラフトポリマー層を介して形成された、無機化合物膜との密着性に優れた導電層を有する積層体及びその生産性に優れた製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、無機化合物膜との密着性に優れ、任意の導電性を有する導電層を備えた積層体を配線として有し、ガラス基板を用いた場合であっても、導電層間の絶縁性に優れた配線基板、及び、該配線基板を備えた、ガラス基板を用いた場合でも、有機フイルム基板を用いた場合でも、基板と配線との密着性及び配線間の絶縁性に優れた表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の積層体は、基板上に、最表面に無機化合物膜を有する中間層と、該無機化合物膜にに直接結合するグラフトポリマー層とを有していることを特徴とする。
このような中間層の少なくとも最表面に存在する無機化合物膜は、基板の絶縁性の低下を抑制する機能を有し、また、有機フイルム基板の場合はの水蒸気や酸素透過を抑制する機能をも有する。
本発明の、グラフトポリマーを有する積層体はガラス基板、有機フイルム基板などの固体表面上にコーティングされた無機化合物膜にグラフトポリマーを直接結合させることを特徴とし、ガラス基板などの固体表面上に、最表面に無機化合物膜を有する中間層を形成させる工程(以下、適宜、「無機化合物膜生成工程」と称する。)と、グラフトポリマーを直接結合させる工程(以下、適宜、「グラフトポリマー生成工程」と称する。)の2つのプロセスを経ることで得られる。
また、本発明の、グラフトポリマー上に形成した導電層を有する積層体は、グラフトポリマーに導電性材料を付着させる工程(以下、適宜、「導電性材料付着工程」と称する。)のプロセスを経ることで得られる。
以下、本発明におけるこの3つの工程について順次説明する。
【0018】
<中間層生成工程>
まず、本発明における基板について説明する。基板としては、ガラス基板、有機フイルム基板のいずれも、目的に応じて用いることができる。
(1.ガラス基板)
本発明において基板として用いられるガラス基板としては、例えば、ケイ素ガラス基板、石英ガラス基板等が挙げられる。このようなガラス基板の厚みは、使用目的に応じて選択され、特に限定はないが、一般的には、10μm〜10cm程度である。
【0019】
(2.有機フイルム)
本発明において基材として用いられる有機フイルムは、後述する中間層を保持できるフイルムであれば特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性カーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0020】
有機フイルムを構成する樹脂としては、そのガラス転移温度(Tg)が120℃以上の樹脂が好ましく、具体的な例としては、以下の樹脂が挙げられる。なお、樹脂名に併記される括弧内の英文字は該樹脂の略称を、数字は外樹脂の「ガラス転移温度(Tg)」をそれぞれ示している。
【0021】
Tg120℃以上の樹脂としては、ポリエステル樹脂で特にポリエチルナフタレート樹脂(PEN:121℃)、ポリアリレート樹脂(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES:220℃)、フルオレン環変性カーボネート樹脂(BCF−PC:特開2000−227603号公報の実施例4の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート樹脂(IP−PC:特開2000−227603号公報の実施例5の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の実施例−1の化合物:300℃以上)等の化合物が挙げられ、本発明における基材としては、これらの樹脂から選択される1種以上で形成される有機フイルムであることが好ましい。
このような有機フイルムの厚みは、使用目的に応じて選択され、特に限定はないが、一般的には、10μm〜1mm程度である。
【0022】
(3.中間層)
本発明で使用する最表面に無機化合物膜を有する中間層は、無機化合物膜の単一層であってもよく、また、複数種の無機化合物膜が積層した構造を有していてもよく、また、基板と無機化合物膜との間に有機化合物膜を有するものであってもよいが、なかでも、無機化合物膜、複数種の無機化合物膜が積層した膜からなるものであることが好ましい。中間層は、上記いずれの態様を取る場合であっても、本願発明においては、最表面、即ち、グラフトポリマー層の形成面は、無機化合物膜であることを要する。また、本発明に係る中間層としては、最表面に無機化合物膜を有するものであれば、中間層における基板と最表面の無機化合物膜の間には如何なる膜を設けてもよい。
【0023】
無機化合物膜の形成に用いられる無機化合物は、好ましくは金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、及びDLC(Diamond like Carbon)からなる群より選択されるものであることが好ましく、なかでも、さらに好ましくはSiO、SiON、SiN、Al、Al−Si混合酸化物である。これらのなかから1種を用いて無機化合物膜を形成することもでき、若しくは複数種選択し、混合物からなる膜を形成することもでき、複数種選択し、順次製膜して積層構造の膜を形成することもできる。
これらの無機化合物を用いて基板上に無機化合物膜を形成する方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などが適しており、具体的には特許登録第3400324号段落番号[0013]、特開2002−322561号公報[0005]〜[0009]、特開2002−361774号公報段落番号[0050]〜[0057]記載の形成方法を採用することができる。
また、中間層は最表面に無機化合物膜を有するものであれば、無機化合物膜と基板との間に、如何なる膜を有するものであってもよく、具体的には、例えば、US6413645lane4、6行目〜lane6、46行目に記載の化合物を用い、そこに記載の方法により形成された如き、無機化合物膜と有機化合物膜との交互積層体なども中間層の態様として挙げることができる。
この交互積層体に使用しうる有機化合物膜を構成する有機化合物としては、イソシアヌル酸アクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートを主成分とする高分子化合物などが挙げられ、有機化合物膜の形成は、塗布法、真空成膜法などの手段により行われることが好ましい。
【0024】
上記の方法で生成した無機化合物膜の厚さは20〜500nmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、50nm〜200nmであり、最も好ましくは80〜150nmである。この厚さの範囲において、無機化合物膜の機能が十分に発現し、有機フイルムを基板として使用する場合は、膜の柔軟性に優れるものとなる。
なお、有機フイルムを基板として使用する場合は、後述するような高いガスバリア性を有することが好ましく、そのような観点からは、中間層は、無機化合物膜と有機化合物膜が交互に積層している態様が好ましい。その場合、無機化合物膜が2層以上あることが好ましく、特に好ましくは3層以上、更に好ましくは4層以上である。
本発明に係る中間層が、最表面に無機化合物膜を有する、無機/有機交互積層体の構造をとる場合、この態様における有機化合物膜の厚さは10〜1000nmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、20nm〜2000nmであり、最も好ましくは50〜500nmであり、積層体の厚さの合計は1000nmを越えないことが望ましい。
さらに、前記いずれの方法で形成された無機化合物膜においても、その表面粗さ(Ra)は5μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μmである。
これらの膜厚は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができる。
このような無機化合物膜を最表面に有する中間層を基板表面に形成することで、無機化合物膜の機能によりガラス中に含まれる微量のアルカリ分などの複成分が表面へ染み出す現象が抑制でき、また、ガラス基板上に形成された金属配線に起因する金属成分が電界の影響によりガラス上を移動するといった事態も抑制しうるために、ガラス基板特有の問題である絶縁性の経時的な低下を効果的に抑制しうるという利点をも有するものである。
【0025】
また、このような中間層を有機フイルム表面上に設けることで、水蒸気や酸素の透過を抑制することができる。有機フイルム基板に使用する場合の中間層のガスバリア性の目安としては、酸素透過率が1.0ml/m2・24hr以下であることが好ましい。ここで、酸素透過率は、MOCON社製酸素透過度測定装置(OX−TRAN100TWIN型)を用いて、25℃、相対湿度90%の条件下で測定を行った値を採用している。
また、水蒸気透過率としては、JIS Z 0208の防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)によって、40℃、相対湿度90%の条件下で測定を行った値が、1.0g/m2・24hr以下であることが好ましい。
前記の如く、このような中間層を設けた基材を用いて、その表面に配線を形成した場合、配線間の絶縁性に優れ、湿度や酸素の影響を受けがたく、電気的信頼性の高い配線基板が得られる。
【0026】
<グラフトポリマー生成工程>
本工程においては、無機化合物膜上にパターン状にグラフトポリマーを生成させることができれば、如何なる方法を用いてもよい。
グラフトポリマーは、一般に、エネルギー付与によりラジカルを発生しうる固体表面上に、ラジカル重合可能な不飽和化合物を接触させてパターン状にエネルギーを付与することで得られ、この具体的態様としては、以下に述べる種々の態様が挙げられる。
【0027】
まず、(1)露光によりラジカルを発生しうる固体を用い、その表面に、重合性不飽和二重結合を有する化合物を接触させ、パターン状に露光を行い、露光により基材表面に発生したラジカルを起点として、該化合物をグラフト重合して、画像様にグラフトポリマーを生成させる方法が挙げられる。ここで、露光によりラジカルを発生しうる固体としては、(a)ラジカル発生剤を含有する無機化合物膜、(b)ラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有する無機化合物膜、及び(c)架橋剤とラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体表面に塗布、乾燥し、架橋構造を形成させた被膜を表面に有する無機化合物膜が挙げられる。
【0028】
本発明においては、無機化合物膜に重合開始能を有する化合物を結合させた後、所望のパターン状にエネルギーを付与して、かかる化合物が有する重合開始部位をパターン状に活性化させて、そこを起点としてグラフトポリマーを生成させる態様が好ましく用いられる。
以下、この態様について述べる。
【0029】
この態様に適用しうる重合開始能を有する化合物としては、例えば、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(Y)と基材結合部位(Q)とを有する化合物(以下、適宜「光開裂化合物(Q−Y)」と称する。)等が挙げられる。
ここで、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(以下、単に「重合開始部位(Y)」と称する。)は、光により開裂しうる単結合を含む構造である。
この光により開裂する単結合としては、カルボニルのα開裂、β開裂反応、光フリー転位反応、フェナシルエステルの開裂反応、スルホンイミド開裂反応、スルホニルエステル開裂反応、N−ヒドロキシスルホニルエステル開裂反応、ベンジルイミド開裂反応、活性ハロゲン化合物の開裂反応、などを利用して開裂が可能な単結合が挙げられる。これらの反応により、光により開裂しうる単結合が切断される。この開裂しうる単結合としては、C−C結合、C−N結合、C−O結合、C−Cl結合、N−O結合、及びS−N結合等が挙げられる。
【0030】
また、これらの光により開裂しうる単結合を含む重合開始部位(Y)は、グラフトポリマー生成工程におけるグラフト重合の起点となることから、光により開裂しうる単結合が開裂すると、その開裂反応によりラジカルを発生させる機能を有する。このように、光により開裂しうる単結合を有し、かつ、ラジカルを発生可能な重合開始部位(Y)の構造としては、以下に挙げる基を含む構造が挙げられる。
即ち、芳香族ケトン基、フェナシルエステル基、スルホンイミド基、スルホニルエステル基、N−ヒドロキシスルホニルエステル基、ベンジルイミド基、トリクロロメチル基、ベンジルクロライド基などである。
【0031】
このような重合開始部位(Y)は、露光により開裂して、ラジカルが発生すると、そのラジカル周辺に重合性化合物が存在する場合には、このラジカルがグラフト重合反応の起点として機能し、グラフトポリマーを生成することができる。
このため、表面に光開裂化合物(Q−Y)が導入された基材を用いてグラフトポリマーを生成させる場合には、エネルギー付与手段として、重合開始部位(Y)を開裂させうる波長での露光を用いることが必要である。
【0032】
また、基材結合部位(Q)としては、ガラスに代表される絶縁基板表面に存在する官能基(Z)と反応して結合しうる反応性基で構成され、その反応性基としては、具体的には、以下に示すような基が挙げられる。
【0033】
【化1】

【0034】
重合開始部位(Y)と、基材結合部位(Q)とは直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。この連結基としては、炭素、窒素、酸素、及び硫黄からなる群より選択される原子を含む連結基が挙げられ、具体的には、例えば、飽和炭素基、芳香族基、エステル基、アミド基、ウレイド基、エーテル基、アミノ基、スルホンアミド基、等が挙げられる。また、この連結基は更に置換基を有していてもよく、その導入可能な置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、等が挙げられる。
【0035】
基材結合部位(Q)と、重合開始部位(Y)と、を有する化合物(Q−Y)の具体例〔例示化合物1〜例示化合物16〕を、開裂部と共に以下に示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
本発明では、中間層の最表面に無機化合物膜が存在するが、該無機化合物膜は、その材質に起因して、例えば、水酸基等の官能基(Z)が、もともと存在している。そのため、無機化合物膜を有する基板表面に光開裂化合物(Q−Y)を接触させ、無機化合物膜表面に存在する官能基(Z)と、基材結合部位(Q)と、を接触させることで容易に直接結合し、無機化合物膜表面に光開裂化合物(Q−Y)が導入される。
なお、本発明においては、無機化合物膜表面をシランカップリング剤によって処理しているため、光開列化合物(Q−Y)と無機化合物膜とが、無機化合物膜表面に存在するシランカップリンク剤を介して結合し、両者の密着性が極めて高くなり、後述するグラフトポリマー層やさらに所望により形成される金属膜との密着性向上に寄与することになる。本発明に使用されるシランカップリング剤は、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物である。
【0040】
【化5】

【0041】
一般式(I)中、Xは、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、イソシアネート基、アジド基、などの、有機系樹脂と反応可能な置換基であり、アミノ基がより好ましい。Rは水素原子、アルキル基などを表す。nは1から3の整数を示す。一般式(I)に由来するSi−OR基によって、ガスバリア膜表面の水酸基等の官能基の数が増え、その結果、光開列化合物の結合量が増加する。
これらの一般式(I)の構造を有する化合物として、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましく、より好ましいのは、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
本工程における、シランカップリング剤による処理はシランカップリング剤の希薄水溶液に無機化合物膜を表面に有する基板を浸漬する方法が用いられる。希薄水溶液の濃度は0.1%〜2.0%であることが好ましく、浸漬時間は1分〜30分であることが好ましい。
【0042】
光開裂化合物(Q−Y)をシランカップリンク剤で処理された無機化合物膜表面に存在する官能基(Z)に結合させる具体的な方法としては、光開裂化合物(Q−Y)を、トルエン、ヘキサン、アセトンなどの適切な溶媒に溶解又は分散し、その溶液又は分散液を無機化合物膜表面に塗布する方法、又は、溶液又は分散液中に最表面に無機化合物膜を有する基板を浸漬する方法などを適用すればよい。これらの方法により、光開裂化合物(Q−Y)が導入された基材表面が得られる。
このとき、溶液中又は分散液の光開裂化合物(Q−Y)の濃度としては、0.01質量%〜30質量%が好ましく、特に0.1質量%〜15質量%であることが好ましい。接触させる場合の液温としては、0℃〜100℃が好ましい。接触時間としては、1秒〜50時間が好ましく、10秒〜10時間がより好ましい。
【0043】
以上のようにして得られた、表面に光開裂化合物(Q−Y)が導入された無機化合物膜にグラフトポリマーを生成させる場合には、その表面に重合性化合物を接触させ、パターン露光することで、露光部の重合開始部位(Y)を開裂させ、そこを起点としてグラフトポリマーを生成させる方法が用いられる。
また、以下の方法にてパターン状にグラフトポリマーを生成させることもできる。
まず、光開裂化合物(Q−Y)が導入された無機化合物膜表面に、予め、グラフトポリマーを生成させたくない領域に沿ってパターン露光を行い、無機化合物膜表面に結合している化合物(Q−Y)を光開裂させて重合開始能を失活させることで、無機化合物膜表面に、重合開始可能領域と重合開始能失活領域とを形成する。そして、重合開始可能領域と重合開始能失活領域とが形成された無機化合物膜面に、重合性化合物を接触させた後、露光することで、重合開始可能領域にのみにグラフトポリマーが生成し、結果的に、パターン状にグラフトポリマーが生成される。
【0044】
上述のようにしてグラフトポリマーを生成させるには、本発明においては、重合性化合物を単体で、又は、溶媒に分散或いは溶解させた状態で光開裂化合物(Q−Y)が導入された基材表面に接触させることが必要である。この接触方法としては、無機化合物膜を、重合性化合物含有の液状組成物中に浸漬することで行ってもよいが、取り扱い性や製造効率の観点からは、無機化合物膜表面に、該重合性化合物をそのまま接触させるか、重合性化合物含有の液状組成物を塗布して塗膜を形成する方法、更には、その塗膜を乾燥して、基材表面に重合性化合物を含有する層(グラフトポリマー前駆体層)を形成することにより行うことが好ましい。
【0045】
また、本発明において、無機化合物膜表面に結合したグラフトポリマー層を生成する方法は、前記方法に限定されず、以下に述べる他の態様も挙げることができる。
すなわち、1)露光によりラジカルを発生しうる固体を用い、その表面に、重合性不飽和二重結合を有する化合物を接触させ、パターン状に露光を行い、露光により基材表面に発生したラジカルを起点として、該化合物をグラフト重合して、画像様にグラフトポリマーを生成させる方法の他にも、例えば、2)固体表面に水素引き抜き型のラジカル発生剤を接触させ、画像様に露光することで、活性点を発生する態様も挙げられ、この場合、重合性化合物を接触させると、活性点の発生とグラフトポリマーの生成が同時に進行する。
さらに、3)光開裂によりラジカル重合を開始しうる光重合開始部位を共有結合により固体表面にパターン状に設け、それを基点としてグラフトポリマーを生成させる方法も好ましく挙げられ、このような固体表面を得るためには、光開裂によりラジカル重合を開始しうる光重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物を基材に結合させ、その後、パターン露光を行い、露光領域の該光重合開始部位を失活させる方法や、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物を固体表面にパターン状に結合させる方法などが挙げられる。
【0046】
また、態様1)で用いる露光によりラジカルを発生しうる基材あるいは絶縁層についても、例えば、(a)ラジカル発生剤を含有する基材、(b)側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有する基材、(c)架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させてなる基材、などを用いることができる。
【0047】
この代表的な(a)基材に含有させる「露光によりラジカルを発生しうる化合物(以下、適宜、ラジカル発生剤と称する)」は低分子化合物でも、高分子化合物でもよく、一般に公知のものが使用される。
低分子のラジカル発生剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのケトン、ベンゾイルベンゾエート、ベンゾイン類、α−アシロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、トリクロロメチルトリアジンおよびチオキサントン等の公知のラジカル発生剤を使用できる。また通常、光酸発生剤として用いられるスルホニウム塩やヨードニウム塩なども光照射によりラジカル発生剤として作用するため、本発明ではこれらを用いてもよい。
高分子ラジカル発生剤としては特開平9−77891号公報段落番号[0012]〜[0030]や、特開平10−45927号公報段落番号[0020]〜[0073]に記載の活性カルボニル基を側鎖に有する高分子化合物などを使用することができる。このような高分子ラジカル発生剤のうち、側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有するものが、前記(b)基材に相当する。
ラジカル発生剤の含有量は、基材の種類、所望のグラフトポリマーの生成量などを考慮して適宜、選択できるが、一般的には、低分子ラジカル発生剤の場合、0.1〜40質量%の範囲であり、高分子ラジカル発生剤の場合、1.0〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0048】
このような基材中には、感度を高める目的で、ラジカル発生剤に加えて増感剤を含有させることもできる。このような増感剤としては、例えば、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、およびチオキサントン誘導体等が含まれる。
増感剤は、ラジカル発生剤に対して、50〜200質量%程度の量で含有させることが好ましい。
【0049】
(c)架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させてなる基材
前記2つの対応では、基材自体にラジカル発生剤を含有させることが必要であったが、ラジカル発生能を有する層を、任意の支持体表面に形成することにより、「露光によりラジカルを発生しうる基材」を形成することも可能であり、このような方法として、(c)架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させてなる基材を用いる方法が挙げられる。
(c)の態様においては、任意の支持体上に、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層を形成することで、「露光によりラジカルを発生しうる基材」とする。
これらのなかでも、最も好ましいのは、先に詳述した「エネルギー付与によりラジカルを発生しうる固体として、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物を表面に結合させてなる固体」を用いる態様である。
【0050】
(重合性化合物)
次に、本発明において用いられる重合性化合物について説明する。
本発明においてグラフトポリマーの生成に用いられる重合性化合物としては、モノマー、マクロモノマー、或いは重合性基を有する高分子化合物のいずれも用いることができる。これらの重合性化合物は公知のものを任意に使用することができる。
これらのうち、本発明において特に有用な重合性化合物としては、後述する導電性材料付着工程において使用される態様により、適宜、選択される。つまり、生成したグラフトポリマーに対し導電性素材を効率よく、容易に、高密度で、保持させるために、導電性素材と直接相互作用を形成しうる官能基、又は、導電性素材を効率よく保持するために用いる材料と相互作用を形成しうる官能基を有する重合性化合物を用いることが好ましい。
以下、導電性素材と直接相互作用を形成しうる官能基、及び、導電性素材を効率よく保持するために用いる材料と相互作用を形成しうる官能基を、総じて相互作用性基として説明する。
【0051】
この相互作用性基としては、例えば、極性基が挙げられる。この極性基の中でも、親水性基が好ましく、より具体的には、アンモニウム、ホスホニウムなどの正の荷電を有する官能基、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスソン酸基などの負の荷電を有する官能基、その他にも、例えば、水酸基、アミド基、スルホンアミド基、アルコキシ基、シアノ基などの非イオン性基が挙げられる。
以下、グラフトポリマー生成工程において好適に用いられる相互作用性基を有する重合性化合物について具体的に説明する。
【0052】
本発明に用いうる相互作用性基を有する重合性化合物としてのモノマーは、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、スチレンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、N−ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニルチオフェン、スチレン、エチル(メタ)アクリル酸エステル、n−ブチル(メタ)アクリル酸エステルなど炭素数1〜24までのアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0053】
本発明に用いうる相互作用性基を有する重合性化合物としてのマクロモノマーは、前記モノマーを用いて公知の方法にて作製することができる。本態様に用いられるマクロモノマーの製造方法は、例えば、平成1年9月20日にアイピーシー出版局発行の「マクロモノマーの化学と工業」(編集者 山下雄也)の第2章「マクロモノマーの合成」に各種の製法が提案されている。
このようなマクロモノマーの有用な質量平均分子量は、500〜50万の範囲であり、特に好ましい範囲は1000〜5万である。
【0054】
本発明に用いうる相互作用性基を有する重合性化合物としての高分子化合物とは、相互作用性基と、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのエチレン付加重合性不飽和基(重合性基)とを導入したポリマーを指す。このポリマーは、少なくとも末端又は側鎖にエチレン付加重合性不飽和基を有するものであり、側鎖にエチレン付加重合性不飽和基を有するものがより好ましく、末端及び側鎖にエチレン付加重合性不飽和基を有するものが更に好ましい。
このような高分子化合物の有用な質量平均分子量は、500〜50万の範囲で、特に好ましい範囲は1000〜5万である。
【0055】
相互作用性基と重合性基とを有する高分子化合物の合成方法としては、i)相互作用性基を有するモノマーと重合性基を有するモノマーとを共重合する方法、ii)相互作用性基を有するモノマーと重合性基前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)相互作用性基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法が挙げられる。
好ましい合成方法は、合成適性の観点から、ii)相互作用性基を有するモノマーと重合性基前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により重合性基を導入する方法、iii)相互作用性基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法である。
【0056】
上記i)及びii)の合成方法に用いられる相互作用性基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、より具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン(下記構造)、スチレンスルホン酸ナトリウム、ビニル安息香酸等が挙げられ、一般的には、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、アミド基、ホスフィン基、イミダゾール基、ピリジン基、若しくはそれらの塩、及びエーテル基などの官能基を有するモノマーが使用できる。
【0057】
【化6】

【0058】
上記相互作用性基を有するモノマーと共重合する重合性基を有するモノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートが挙げられる。
また、上記ii)の合成方法に用いられる重合性基前駆体を有するモノマーとしては、2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレー卜や、特開2003−335814号公報に記載の化合物(i−1〜i−60)が使用することができ、これらの中でも、特に下記化合物(i−1)が好ましい。
【0059】
【化7】

【0060】
更に、上記iii)の合成方法に用いられる相互作用性基を有するポリマー中の、カルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、及びエポキシ基などの官能基との反応を利用して、重合性基を導入するために用いられる重合性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどがある。
【0061】
上記ii)の合成方法における、相互作用性基を有するモノマーと重合性基前駆体を有するモノマーとを共重合させた後の、塩基などの処理により重合性基を導入する方法については、例えば、特開2003−335814号公報に記載の手法を用いることができる。
【0062】
これらの重合性化合物を含有する液状組成物を構成する溶剤は、主成分である重合性化合物を溶解或いは分散することが可能であれば特に制限はないが、水、水溶性溶剤などの水性溶剤が好ましく、これらの混合物や、溶剤に更に界面活性剤を添加してもよい。
使用できる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールモノメチルエーテルの如きアルコール系溶剤、酢酸の如き酸、アセトン、シクロヘキサノンの如きケトン系溶剤、ホルムアミド、ジメチルアセトアミドの如きアミド系溶剤、などが挙げられる。
【0063】
また、この液状組成物に対し、必要に応じて添加することのできる界面活性剤は、溶剤に溶解するものであればよく、そのような界面活性剤としては、例えば、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの如きアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの如きカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品としては、例えば、エマルゲン190、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの如き非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0064】
無機化合物膜表面に重合性化合物含有の液状組成物を塗布して塗膜を形成する方法を用いた場合には、その塗布量としては、充分な塗布膜を得る観点からは、固形分換算で0.1〜10g/mが好ましく、特に0.5〜5g/mが好ましい。
また、得られるグラフトポリマー層からなる膜(グラフトポリマー層膜)は、膜厚が10nm〜2.0μmの範囲にあることが好ましく、100〜2000nmが更に好ましく、最も好ましくは、400〜1000nmの範囲である。
この膜厚は、AFM(たとえばセイコーインスツルメンツ Nanopics 1000)、もしくは、エリプソメーター(たとえば溝尻光学社,DHAXA)などの手段により測定することができる。
【0065】
(露光)
本工程において、グラフトポリマーを生成させるためのパターン露光、重合開始能を失活させるために行うパターン露光、更には、グラフトポリマーを生成させるために行う全面露光、マスクパターンを介した全面露光は、いずれも、前記重合開始能を生起させるか、あるいは、重合開始部位(Y)において開裂を生じさせることのできる露光であれば特に制限はなく、紫外線による露光でも、可視光による露光でもよい。更に、露光には波長分布を有する光源を利用してもよく、特定の波長の光源を用いてもよい。
【0066】
上記光源としては、例えば、陰極線(CRT)を用いた走査露光を挙げることができる。画像露光に用いる陰極線管には、必要に応じてスペクトル領域に発光を示す各種発光体が用いられる。例えば、赤色発光体、緑色発光体、青色発光体のいずれか1種または2種以上が混合されて用いられる。スペクトル領域は、上記の赤色、緑色及び青色に限定されず、黄色、橙色、紫色或いは赤外領域に発光する蛍光体も用いられる。また、紫外線ランプも好ましく、水銀ランプのi線等も利用される。
【0067】
また、本工程においては、パターン露光は種々のレーザビームを用いて行うことができる。例えば、パターン露光としては、ガスレーザ、発光ダイオード、半導体レーザなどのレーザ、半導体レーザ又は半導体レーザを励起光源に用いた固体レーザと非線形光学結晶を組み合わせた第二高調波発光光源(SHG)、等の単色高密度光を用いた走査露光方式を好ましく用いることができる。さらに、KrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザ、F2レーザ等も用いることができる。
【0068】
パターン露光は、フォトマスクなどのマスクパターンを利用した全面露光を行う方法をとってもよく、さらに、前記の如きレーザビームによる走査露光で行ってもよい。この際の光照射方式は任意であり、例えば、レンズを用いた屈折式露光でも反射鏡を用いた反射式露光でもよく、コンタクト露光、プロキシミティー露光、縮小投影露光、反射投影露光などの露光方式を用いることができる。
【0069】
本発明により形成されるパターン解像度は露光条件に左右される。つまり、グラフトポリマーを生成させるためのパターン露光、又は、重合開始能を失活させるために行うパターン露光において、高精細のパターン露光を施すことにより、露光に応じた高精細パターンが形成される。高精細パターン形成のための露光方法としては、光学系を用いた光ビーム走査露光、マスクを用いた露光などが挙げられ、所望のパターンの解像度に応じた露光方法をとればよい。このような露光条件を制御することにより、好ましくは1μm〜20μm、より好ましくは、3μm〜15μmのパターンの解像度とすることが好ましい。
高精細パターン露光としては、具体的には、i線ステッパー、g線ステッパー、KrFステッパー、ArFステッパーのようなステッパー露光などが挙げられる。
【0070】
以上のようにしてグラフトポリマーの生成が行われた基板は、溶剤浸漬や溶剤洗浄などの処理が行われ、残存するホモポリマーを除去して、精製する。具体的には、水やアセトンによる洗浄、乾燥などが挙げられる。ホモポリマーの除去性の観点からは、超音波などの手段をとってもよい。精製後の基材は、その表面に残存するホモポリマーが完全に除去され、基材と強固に結合したパターン状のグラフトポリマーのみが存在することになる。
【0071】
以上のようにして、無機化合物膜を有するガラス基材上にグラフトポリマー層が露光条件に応じて全面、或いは、パターン状に直接結合されて形成され、本発明の積層体を得ることができる。
なお、ここで、全面とは、基板表面においてグラフトポリマー層の生成を必要とする全領域を示し、ハンドリング性向上などの目的で基板周縁部においてグラフトポリマー層を生成させない領域を設ける場合も、必要とされる全領域にわたり均一なグラフトポリマー層が生成されていれば、これを「全面」と称することがある。
このようにして得られた本発明の積層体は、基板上の無機化合物膜に結合したグラフトポリマー層を有する。このような積層体の、無機化合物膜表面に形成されたグラフトポリマー層に種々の機能性材料を付着させることで、基板上に形成された無機化合物膜との密着性に優れ、付着した機能性材料に応じた機能を発現しうる機能性層を有する積層体を得ることができるため、その応用範囲は広い。
【0072】
本発明の積層体における好ましい態様として、このグラフトポリマー層に導電性材料を付着させることで形成された導電層を有する積層体を挙げることができる。
導電層はグラフトポリマー層の生成領域に応じて形成され、グラフトポリマー層がパターン状に存在する場合、そのパターンに従った導電性パターンを有する積層体となり、グラフトポリマー層が基板表面に設けられたバリア層上の全面にわたり形成されるときは、導電層は基板の全表面に形成される。
以下、このような導電層を有する積層体の製造に必要な工程についてさらに説明する。このような導電層を有する積層体は、前記グラフトポリマー層形成工程後に、後述する導電性材料付着工程を実施することで得ることができる。
【0073】
<導電性材料付着工程>
本工程においては、生成されたグラフトポリマーに導電性材料を付着させて、導電層を形成する。具体的な方法としては、以下の4つの態様がある。
第1の態様としては、グラフトポリマーの相互作用性基(イオン性基)に対し導電性粒子を吸着させて導電性粒子吸着層を形成する方法である。
第2の態様としては、グラフトポリマーの相互作用性基に対し無電解メッキ触媒又はその前駆体を吸着させた後、無電解メッキを行いメッキ膜を形成する方法である。
第3の態様としては、グラフトポリマーの相互作用性基に対し金属イオン又は金属塩を吸着させた後、該金属イオン又は金属塩中の金属イオンを還元させて金属微粒子分散膜を形成する方法である。
第4の態様としては、グラフトポリマーの相互作用性基に対し導電性モノマーを吸着させた後、重合反応を生起させて導電性ポリマー層を形成する方法である。
以下、上記第1〜第4の態様について説明する。
【0074】
(第1の態様:導電性粒子吸着層の形成)
導電性材料付着工程の第1の態様は、以下に説明する導電性粒子を、上記グラフトポリマーが有する相互作用性基、特に好ましくはイオン性基に対し、その極性に応じて、イオン的に吸着させて導電性粒子吸着層を形成する方法である。この方法により、導電性粒子吸着層からなる導電層が形成される。
ここで吸着させた導電性粒子はグラフトポリマーの相互作用性基と相互作用を形成して単分子膜状態や多層状態で固定されることで導電性粒子吸着層を形成するため、基板と導電性粒子吸着層との密着性に優れると共に、充分な導電性を発現できるという利点を有する。
【0075】
この第1の態様に適用し得る導電性粒子としては、導電性を有するものであれば特に制限はなく、公知の導電性材料からなる微粒子を任意に選択して用いることができる。例えば、Au、Ag、Pt、Cu、Rh、Pd、Al、Crなどの金属微粒子、In、SnO、ZnO、CdO、TiO、CdIn、CdSnO、ZnSnO、In−ZnOなどの酸化物半導体微粒子、及びこれらに適合する不純物をドーパントさせた材料を用いた微粒子、MgInO、CaGaOなどのスピネル形化合物微粒子、TiN、ZrN、HfNなどの導電性窒化物微粒子、LaBなどの導電性ホウ化物微粒子、また、有機材料としては導電性高分子微粒子などが好適なものとして挙げられる。
これらの導電性粒子は1種のみならず、必要に応じて複数種を併用することができる。また、所望の導電性を得るため、予め複数の材料を混合して用いることもできる。
【0076】
−グラフトポリマーのイオン性基(相互作用性基)の極性と導電性粒子との関係−
本発明において得られるグラフトポリマーが、カルボキシル基、スルホン酸基、若しくはホスホン酸基などの如きアニオン性を有する相互作用性基を有する場合は、グラフトポリマーの相互作用性基は選択的に負の電荷を有するようになり、ここに正の電荷を有する(カチオン性の)導電性粒子を吸着させることができる。
【0077】
このようなカチオン性の導電性粒子としては、正電荷を有する金属(酸化物)微粒子などが挙げられる。表面に高密度で正荷電を有する微粒子は、例えば、米澤徹らの方法、即ち、T.Yonezawa,Chemistry Letters.,1999 page 1061, T. Yonezawa, Langmuir 2000, vol 16, 5218 及び米澤徹, Polymer preprints, Japan vol. 49. 2911(2000)に記載された方法にて作製することができる。米澤らは、金属−硫黄結合を利用し、正荷電を有する官能基で高密度に化学修飾された金属粒子表面が形成できることを示している。
【0078】
一方、得られるグラフトポリマーが特開平10−296895号公報に記載のアンモニウム基などの如きカチオン性基の相互作用性基を有する場合は、グラフトポリマーの相互作用性基は選択的に正の電荷を有するようになり、ここに負の電荷を有する導電性粒子を吸着させることができる。
負に帯電した導電性粒子としては、クエン酸還元で得られた金若しくは銀粒子を挙げることができる。
【0079】
本発明に用いられる導電性粒子の粒径は、相互作用性基に対する吸着性と、導電性発現の観点から、0.1nmから1000nmの範囲であることが好ましく、1nmから100nmの範囲であることが更に好ましい。
【0080】
導電性粒子をグラフトポリマーの相互作用性基に吸着させる方法としては、表面上に荷電を有する導電性粒子を溶解又は分散させた液を、グラフトポリマーの生成領域に塗布する方法、及び、これらの溶液又は分散液中に、グラフトポリマーが生成された基板を浸漬する方法などが挙げられる。
塗布、浸漬のいずれの場合にも、過剰量の導電性粒子を供給し、相互作用性基(イオン性基)との間に十分なイオン結合による導入がなされるために、溶液又は分散液とグラフトポリマー生成面との接触時間は、10秒から24時間程度であることが好ましく、1分から180分程度であることが更に好ましい。
また、これらの導電性粒子は、耐久性の点や導電性確保の観点から、グラフトポリマーの相互作用性基に吸着し得る最大量結合されることが好ましく、その場合、分散液の分散濃度は、0.001〜20質量%程度が好ましい。
【0081】
また、導電性材料付着工程の第1の態様では、このように、グラフトポリマーに導電性粒子が吸着した後、その基板ごと加熱することが好ましい。この加熱を行うことで、付着した導電性粒子間にて融着が起こり、導電性粒子間の密着性を向上させると共に、導電性をも上昇させることができる。
ここで、加熱工程における温度としては、50℃〜500℃が好ましく、更に好ましくは100℃〜300℃、特に好ましくは、150℃〜300℃である。
【0082】
(第2の態様:メッキ膜の形成)
導電性材料付着工程の第2の態様は、上記グラフトポリマーが有する相互作用性基に対し、グラフトポリマーの相互作用性基に対し無電解メッキ触媒又はその前駆体を吸着させた後、無電解メッキを行いメッキ膜を形成する方法である。この方法により、メッキ膜からなる導電性発現層が形成される。
このように、メッキ膜は、グラフトポリマーの相互作用性基に吸着している触媒や前駆体に対し無電解メッキされて形成されることから、メッキ膜とグラフトポリマーとが強固に結合しており、その結果、基板とメッキ膜との密着性に優れると共に、メッキ条件により導電性を調整することができるという利点を有する。
【0083】
まず、この第2の態様における無電解メッキ触媒又はその前駆体の付与方法について説明する。
本態様において用いられる無電解メッキ触媒とは、主に0価金属であり、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられる。本発明においては、特に、Pd、Agがその取り扱い性の良さ、触媒能の高さから好ましい。0価金属を相互作用性領域に固定する手法としては、例えば、グラフトポリマーの相互作用性基と相互作用するように荷電を調節した金属コロイドを、グラフトポリマー表面に供する手法が用いられる。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができ、このように荷電を調節した金属コロイドを、グラフトポリマーが有する相互作用性基と相互作用させることで、グラフトポリマーに金属コロイド(無電解メッキ触媒)を付着させることができる。
【0084】
本態様において用いられる無電解メッキ触媒前駆体とは、化学反応により無電解メッキ触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主には上記無電解メッキ触媒で用いた0価金属の金属イオンが用いられる。無電解メッキ触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解メッキ触媒である0価金属になる。無電解メッキ触媒前駆体である金属イオンはグラフトポリマーの生成領域に付与した後、無電解メッキ浴への浸漬前に、別途還元反応により0価金属に変化させて無電解メッキ触媒としてもよいし、無電解メッキ触媒前駆体のまま無電解メッキ浴に浸漬し、無電解メッキ浴中の還元剤により金属(無電解メッキ触媒)に変化させてもよい。
【0085】
実際には、無電解メッキ前駆体である金属イオンは、金属塩の状態でグラフトポリマーに付与する。使用される金属塩としては、適切な溶媒に溶解して金属イオンと塩基(陰イオン)とに解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO、MCl、M2/n(SO)、M3/n(PO)(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Agイオン、Cuイオン、Alイオン、Niイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオンが挙げられ、Agイオン、Pdイオンが触媒能の点で好ましい。
【0086】
無電解メッキ触媒である金属コロイド、或いは、無電解メッキ前駆体である金属塩をグラフトポリマーに付与する方法としては、金属コロイドを適当な分散媒に分散、或いは、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その溶液をグラフトポリマーの生成領域に塗布するか、或いは、その溶液中にグラフトポリマーが生成した基板を浸漬すればよい。金属イオンを含有する溶液を接触させることで、グラフトポリマーが有する相互作用性基に、イオン−イオン相互作用、又は、双極子−イオン相互作用を利用して金属イオンを付着させること、或いは、相互作用性領域に金属イオンを含浸させることができる。このような付着又は含浸を充分に行わせるという観点からは、接触させる溶液中の金属イオン濃度、或いは金属塩濃度は0.01〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、1分〜24時間程度であることが好ましく、5分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0087】
次に、この第2の態様における無電解メッキ方法について説明する。
無電解メッキ触媒又はその前駆体が付与された基板に対して、無電解メッキを行うことで、無電解メッキ膜が形成される。
無電解メッキとは、メッキとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解メッキは、例えば、無電解メッキ触媒が付与された基板を、水洗して余分な無電解メッキ触媒(金属)を除去した後、無電解メッキ浴に浸漬して行う。使用される無電解メッキ浴としては、一般的に知られている無電解メッキ浴を使用することができる。
また、無電解メッキ触媒前駆体が付与された基板を、無電解メッキ触媒前駆体がグラフトポリマーに付着又は含浸した状態で無電解メッキ浴に浸漬する場合には、基板を水洗して余分な前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解メッキ浴中へ浸漬される。この場合には、無電解メッキ浴中において、前駆体の還元とこれに引き続き無電解メッキが行われる。ここ使用される無電解メッキ浴としても、上記同様、一般的に知られている無電解メッキ浴を使用することができる。
【0088】
一般的な無電解メッキ浴の組成としては、1.メッキ用の金属イオン、2.還元剤、3.金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)が主に含まれている。このメッキ浴には、これらに加えて、メッキ浴の安定剤など公知の添加物が含まれていてもよい。
【0089】
無電解メッキ浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、パラジウム、ロジウムが知られており、中でも、導電性の観点からは、銅、金が特に好ましい。
また、上記金属に合わせて最適な還元剤、添加物がある。
例えば、銅の無電解メッキの浴は、銅塩としては、銅イオンを提供しうるものであれば特に限定されず使用することができる。例えば、硫酸銅(CuSO)、塩化銅(CuCl)、硝酸銅(Cu(NO)、水酸化銅(Cu(OH))、酸化銅(CuO)、塩化第1銅(CuCl)等がある。浴中に存在する銅イオンの量は一般に0.005M〜0.1M、好ましくは0.01M〜0.07Mである。還元剤としては、銅イオンを金属銅に還元できるものならば、特に限定されないが、ホルムアルデヒド及びその誘導体、並びにパラホルムアルデヒドのような重合体、あるいはその誘導体や前駆体が好適である。還元剤の量は、ホルムアルデヒドに換算して0.05M以上、好ましくは0.05M〜0.3Mの範囲内である。
【0090】
pH調整剤は、pHを変化させうるものなら特に限定されず使用することができ、目的に応じて、pHを上昇させる化合物、下降させる化合物を適宜選択して用いる。pH調整剤としては、具体的には、例えば、NaOH、KOH、HCl、HSO、HF等が挙げられる。
無電解メッキ浴のpHは一般に12.0〜13.4(25℃)、望ましくは12.4〜13.0(25℃)の範囲内である。添加剤として、銅イオンの安定剤であるEDTA、ロッシェル塩、トリアルカノールアミンなどが含まれているが、基板とメッキ膜の密着性の点からトリアルカノールアミンが好ましい。これら安定剤の添加量は、銅イオンの1.2倍〜30倍、好ましくは1.5倍〜20倍である。また、浴中に存在する安定剤の絶対量は、0.006〜2.4M、特に0.012〜1.6Mの範囲内であることが望ましい。
【0091】
安定化剤として用いられるトリアルカノールアミンとしては、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等が挙げられるが、基板とメッキ膜の密着性の点からトリエタノールアミンが特に好ましい。
また、浴の安定化やめっき皮膜の平滑性を向上させるための添加剤としてポリエチレングリコール、フェロシアン化カリウム、ビピリジン等が挙げられる。浴中に存在するこれら添加剤の濃度は0.001〜1M、特に0.01〜0.3Mの範囲内であることが好ましい。
【0092】
CoNiPの無電解メッキに使用されるメッキ浴には、その金属塩として硫酸コバルト、硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてマロン酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、こはく酸ナトリウムが含まれている。また、パラジウムの無電解メッキ浴は、金属イオンとして(Pd(NH)Cl、還元剤としてNH、HNNH、安定化剤としてEDTAが含まれている。これらのメッキ浴には、上記成分以外の成分が入っていてもよい。
【0093】
このようにして形成される無電解メッキ膜の膜厚は、メッキ浴の金属塩又は金属イオン濃度、メッキ浴への浸漬時間、或いは、メッキ浴の温度などにより制御することができるが、導電性の観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。また、メッキ浴への浸漬時間としては、1分〜3時間程度であることが好ましく、1分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0094】
以上のようにして得られる無電解メッキ膜は、SEMによる断面観察により、グラフトポリマー膜中に無電解メッキ触媒やメッキ金属の微粒子がぎっしりと分散しており、更にその上に比較的大きな粒子が析出していることが確認された。界面はグラフトポリマーと微粒子とのハイブリッド(混成)状態であるため、基板表面の平均粗さ(Rz)が3μm以下であっても、基板(有機成分)と無機物(無電解メッキ触媒又はメッキ金属)との密着性が良好であった。
【0095】
また、導電性材料付着工程の第2の態様では、無電解メッキ終了後、電気メッキを行うこともできる。即ち、電気メッキは、前述の無電解メッキにより得られた無電解メッキ膜を電極として行う。これにより基板との密着性に優れた無電解メッキ膜をベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつメッキ膜を容易に形成することができる。この工程を付加することにより、導電層を目的に応じた厚みに形成することができる。
本態様における電気メッキの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。なお、電気メッキに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0096】
電気メッキにより得られるメッキ膜の膜厚については、用途に応じて異なるものであり、メッキ浴中に含まれる金属濃度、浸漬時間、或いは、電流密度などを調整することでコントロールすることができる。なお、本発明により得られる表面導電性材料を、プリント配線板を作製する際に用いる場合には、メッキ膜の膜厚は、導電性の観点から、0.3μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
【0097】
(第3の態様:金属微粒子分散膜の形成)
導電性材料付着工程の第3の態様は、以下に説明する金属イオン又は金属塩を、上記グラフトポリマーが有する相互作用性基、特に好ましくはイオン性基に対し、その極性に応じて、イオン的に吸着させた後、該金属イオン又は金属塩中の金属イオンを還元させて金属単体を析出させて金属微粒子分散膜を形成する方法である。なお、金属単体の析出態様によって、金属微粒子分散膜は金属薄膜になる場合もある。この方法により、金属微粒子分散膜からなる導電性発現層が形成される。
ここで、金属微粒子分散膜を形成する、析出された金属微粒子は、グラフトポリマーの相互作用性基と相互作用を形成し、吸着しているため、基板と金属微粒子分散膜との密着性に優れると共に、充分な導電性を発現できるという利点を有する。
【0098】
(金属イオン及び金属塩)
まず、本態様において用いられる金属イオン及び金属塩について説明する。
本発明において、金属塩としては、グラフトポリマーの生成領域に付与するために、適切な溶媒に溶解して、金属イオンと塩基(陰イオン)に解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO、MCl、M2/n(SO)、M3/n(PO)(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Ag、Cu、Al、Ni、Co、Fe、Pdが挙げられ、中でも、Ag、Cuが好ましい。
金属塩や金属イオンは1種のみならず、必要に応じて複数種を併用することができる。また、所望の導電性を得るため、予め複数の材料を混合して用いることもできる。
【0099】
(金属イオン及び金属塩の付与方法)
金属イオン又は金属塩をグラフトポリマーに付与する際、(1)グラフトポリマーがイオン性基を有する場合には、そのイオン性基に金属イオンを吸着させる方法を用いる。この場合、上記の金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含むその溶液を、グラフトポリマーの生成領域に塗布するか、或いは、その溶液中にグラフトポリマーが生成した基材を浸漬すればよい。金属イオンを含有する溶液を接触させることで、前記イオン性基には、金属イオンがイオン的に吸着することができる。これら吸着を充分に行なわせるという観点からは、接触させる溶液の金属イオン濃度は1〜50質量%の範囲であることが好ましく、10〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、10秒から24時間程度であることが好ましく、1分から180分程度であることが更に好ましい。
【0100】
金属イオン又は金属塩をグラフトポリマーに付与する際、(2)グラフトポリマーがポリビニルピロリドンなどのように金属塩に対し親和性の高い場合は、上記の金属塩を微粒子状にして直接付着させる、又は、金属塩が分散し得る適切な溶媒を用いて分散液を調製し、その分散液を、グラフトポリマーの生成領域に塗布するか、或いは、その溶液中にグラフトポリマーが生成した基材を浸漬すればよい。
グラフトポリマーが相互作用性基として親水性基を有する場合には、グラフトポリマー膜は高い保水性を有するため、その高い保水性を利用して、金属塩が分散した分散液をグラフトポリマー膜中に含浸させることが好ましい。分散液の含浸を充分に行なわせるという観点からは、接触させる分散液の金属塩濃度は1〜50質量%の範囲であることが好ましく、10〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、10秒から24時間程度であることが好ましく、1分から180分程度であることが更に好ましい。
【0101】
金属イオン又は金属塩をグラフトポリマーに付与する際、(3)グラフトポリマーが親水性基を有する場合、金属塩が分散している分散液、又は、金属塩が溶解した溶液をグラフトポリマーの生成領域に塗布するか、或いは、その分散液や溶液中にグラフトポリマーが生成した基材を浸漬すればよい。
かかる方法においても、上述と同様に、グラフトポリマー膜が有する高い保水性を利用して、分散液又は溶液をそのグラフトポリマー膜中に含浸させることができる。分散液又は溶液の含浸を充分に行わせるという観点からは、接触させる分散液の金属イオン濃度、或いは金属塩濃度は1〜50質量%の範囲であることが好ましく、10〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、10秒から24時間程度であることが好ましく、1分から180分程度であることが更に好ましい。
特に、この(3)の方法によれば、グラフトポリマーの有する相互作用性基の特性に関わらず、所望の金属イオン又は金属塩を付与させることができる。
【0102】
(還元剤)
続いて、グラフトポリマー(膜)に吸着又は含浸して存在する金属塩、或いは、金属イオンを還元しるために用いられる還元剤について説明する。
本発明において用いられる還元剤は、金属イオンを還元し、金属単体を析出させる物性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、次亜リン酸塩、テトラヒドロホウ素酸塩、ヒドラジンなどが挙げられる。
これらの還元剤は、用いる金属塩、金属イオンとの関係で適宜選択することができるが、例えば、金属イオン、金属塩を供給する金属塩水溶液として、硝酸銀水溶液などを用いた場合にはテトラヒドロホウ素酸ナトリウムが、二塩化パラジウム水溶液を用いた場合には、ヒドラジンが、好適なものとして挙げられる。
【0103】
上記還元剤の添加方法としては、例えば、グラフトポリマーが生成した基材表面に金属イオンや金属塩を付与させた後、水洗して余分な金属塩、金属イオンを除去した後、該表面を備えた基材をイオン交換水などの水中に浸漬し、そこに還元剤を添加する方法や、該基材表面上に所定の濃度の還元剤水溶液を直接塗布或いは滴下する方法等が挙げられる。また、還元剤の添加量としては、金属イオンに対して、等量以上の過剰量用いるのが好ましく、10倍当量以上であることが更に好ましい。
【0104】
ここで、第3の態様におけるグラフトポリマーの相互作用性基と金属イオン又は金属塩との関係について説明する。
グラフトポリマーの相互作用性基が、負の電荷を有する極性基や、カルボキシル基、スルホン酸基、若しくはホスホン酸基などの如きアニオン性のイオン性基である場合は、グラフトポリマー膜が選択的に負の電荷を有するようになることから、ここに正の電荷を有する金属イオンを吸着させ、その吸着した金属イオンを還元させることで金属単体を析出される。
また、グラフトポリマーの相互作用性基が、特開平10−296895号公報に記載のアンモニウム基などの如きカチオン性基のイオン性基である場合は、グラフトポリマー膜が選択的に正の電荷を有するようになり、金属イオンはそのままの形状では吸着しない。そのため、相互作用性基のイオン性基に起因する親水性を利用して、グラフトポリマー膜に、金属塩が分散した分散液、又は、金属塩が溶解した溶液を含浸させ、その含浸させた溶液の中の金属イオン又は金属塩中の金属イオンを還元させることで金属単体を析出させる。
以上のように、金属単体が析出することで、金属微粒子分散膜が形成される。
【0105】
金属微粒子分散膜中の析出された金属単体(金属微粒子)の存在は、表面の金属光沢により目視でも確認することができるが、透過型電子顕微鏡、或いは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて表面を観察することで、その構造(形態)を確認することができる。また、金属パターンの膜厚は、常法、例えば、切断面を電子顕微鏡で観察するなどの方法により、容易に行うことができる。
このように、金属単体が析出した状態を上記の顕微鏡で観察すると、グラフトポリマー膜中にぎっしりと金属微粒子が分散していること確認される。この時、析出された金属微粒子の大きさとしては、粒径1μm〜1nm程度である。
【0106】
金属微粒子分散膜において、金属微粒子が密に分散していて外見上金属薄膜を形成しているような場合には、そのまま用いてもよいが、効率のよい導電性の確保という観点からは、金属微粒子分散膜を更に加熱処理することが好ましい。
加熱処理工程における加熱温度としては、100℃以上が好ましく、更には150℃以上が好ましく、特に好ましくは200℃程度である。加熱温度は、処理効率や基材の寸法安定性などを考慮すれば400℃以下であることが好ましい。また、加熱時間に関しては、10分以上が好ましく、更には30分〜60分間程度が好ましい。
加熱処理による作用機構は明確ではないが、一部の近接する金属微粒子同士が互いに融着することで導電性が向上するものと考えている。
【0107】
(第4の態様:導電性ポリマー層の形成)
導電性材料付着工程の第4の態様は、以下に説明する導電性モノマーを、上記グラフトポリマーが有する相互作用性基、特に好ましくはイオン性基に対し、イオン的に吸着させた後、そのまま重合反応を生起させて導電性ポリマー層を形成する方法である。この方法により、導電性ポリマー層からなる導電性発現層が形成される。
ここで、導電性ポリマー層は、グラフトポリマーの相互作用性基とイオン的に吸着した導電性モノマーを重合させてなるため、基板との密着性や耐久性に優れると共に、モノマーの供給速度などの重合反応条件を調整することで、膜厚や導電性の制御を行うことができるという利点を有する。
【0108】
このような導電性ポリマー層を形成する方法には特に制限はないが、均一な薄膜を形成し得るという観点からは、以下に述べるような方法を用いることがで好ましい。
まず、グラフトポリマーが生成された基板を、過硫酸カリウムや、硫酸鉄(III)などの重合触媒や重合開始能を有する化合物を含有する溶液に浸漬し、この液を撹拌しながら導電性ポリマーを形成し得るモノマー、例えば、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどを徐々に滴下する。このようにすると、該重合触媒や重合開始能を付与されたグラフトポリマー中の相互作用性基(イオン性基)と導電性ポリマーを形成し得るモノマーとが相互作用により強固に吸着すると共に、モノマー同士の重合反応が進行し、基材上のグラフトポリマーの生成領域に導電性ポリマーの極めて薄い膜が形成される。これにより、均一で、かつ、薄い導電性ポリマー層が得られる。
【0109】
この方法に適用し得る導電性ポリマーとしては、10−6s・cm−1以上、好ましくは、10−1s・cm−1以上の導電性を有する高分子化合物であれば、いずれのものも使用することができるが、具体的には、例えば、置換及び非置換の導電性ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェン、ポリイソチアナフテン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセチレン、ポリピリジルビニレン、ポリアジン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、また、目的に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、所望の導電性を達成できる範囲であれば、導電性を有しない他のポリマーとの混合物として用いることもできるし、これらのモノマーと導電性を有しない他のモノマーとのコポリマーなども用いることができる。
【0110】
本発明においては、導電性モノマー自体がグラフトポリマーの相互作用性基と静電気的に、或いは、極性的に相互作用を形成することで強固に吸着するため、それらが重合して形成された導電性ポリマー層は、グラフトポリマーの生成領域との間に強固な相互作用を形成しているため、薄膜であっても、擦りや引っ掻きに対しても充分な強度を有するものとなる。
更に、導電性ポリマーとグラフトポリマーの相互作用性基とが、陽イオンと陰イオンの関係で吸着するような素材を選択することで、相互作用性基が導電性ポリマーのカウンターアニオンとして吸着することになり、一種のドープ剤として機能するため、導電性ポリマー層(導電性発現層)の導電性を一層向上させることができるという効果を得ることもできる。具体的には、例えば、相互作用性基を有する重合性化合物としてスチレンスルホン酸を、導電性ポリマーの素材としてチオフェンを、それぞれ選択すると、両者の相互作用により、グラフトポリマーの生成領域と導電性ポリマー層との界面にはカウンターアニオンとしてスルホン酸基(スルホ基)を有するポリチオフェンが存在し、これが導電性ポリマーのドープ剤として機能することになる。
【0111】
グラフトポリマーの生成領域表面に形成された導電性ポリマー層の膜厚には特に制限はないが、0.01μm〜10μmの範囲であることが好ましく、0.1μm〜5μmの範囲であることがより好ましい。導電性ポリマー層の膜厚がこの範囲内であれば、充分な導電性と透明性とを達成することができる。0.01μm以下であると導電性が不充分となる懸念があるため好ましくない。
【0112】
以上のように、本発明によって形成されたグラフトポリマー層を有する積層体においては、グラフトポリマー層と無機化合物膜との密着性に優れ、さらに、該グラフトポリマー層を用いて形成された導電層を有する積層体においては、形成された導電層が無機化合物膜との密着性に優れているだけでなく、該導電層の構造から導電性にも優れている。
また、本発明の積層体における導電層は簡便な方法で任意のパターン状に形成することができるため、エネルギー付与手段に応じた微細な導電性パターン、即ち、電気配線を形成することができる。即ち、基板上に任意の形状の配線を有する配線基板として使用しうるものである。
このような電気配線の用途としては、液晶表示装置(LCD)、フィールドエミッション表示装置(FED)、電気泳動表示装置(EPD)、プラズマ表示装置(PDP)、エレクトロクロミック表示装置(ECD)、エレクトロルミネッセント表示装置(ELD)などの種々のアクティブ型、及びパッシブ型表示装置や調光デバイス、太陽電池、タッチパネル内における電極とドライバとをつなぐ引き回し配線、及び画素内配線が挙げられる(例えば図1、図2)。このような装置類は高機能化、軽量化などの改良に伴い、より微細で強固な配線を要する為、本発明により得られる導電層を有する積層体からなる電気配線は、これらの装置の高性能化に寄与しうるといえる。
【0113】
図1及び図2は、本発明の積層体を配線として用いた表示装置の一態様における配線構造を模式的に示す概略図である。
図1に示す表示装置は、本発明の積層体を用いて構成されたパッシブ型表示装置の一例である。
図1に示す本実施形態の液晶表示装置は、基板100表面に、複数の発光用電源配線(第一電極)102と、第一電極102に対して交差する方向に延びる複数の第二電極104とが、それぞれ配線されており、第一電極102と第二電極104の間に表示部114が設けられている。各電極102、104をそれぞれ駆動ドライバ(図示せず)に接続するために、第一電極の引き回し配線110及び第二電極の引き回し配線112が設けられ、第一電極の配線部材106及び第二電極の配線部材108がそれら引き回し配線の周りを覆うことにより束ねられている。
これらの電極102、104、引き回し配線110、112の形成に本発明の積層体を用いるものである。
【0114】
また、図2は、本発明の積層体を用いて構成されたアクティブ型表示装置(画素内図)の一例である。図2に示す本実施形態の液晶表示装置は、第一電極である116と、第一電極116に対して交差する方向に延びる第二電極118とが、それぞれ配線されており、第一電極116と第二電極118の交点付近に、表示部124が設けられている。各電極116、118には、駆動ドライバである薄層トランジスタ120が接続されており、画素内配線122によって接続されている。
これらの電極116、118、画素内配線122の形成に本発明の積層体を用いるものである。
本発明の積層体によれば、高精細の配線が容易に形成しうるため、このような表示素子の配線形成に有用である。
【実施例】
【0115】
なお、以下に、本発明のグラフトポリマー層、及び、さらに導電層を有する積層体をその製造方法とともに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜5)
〔積層体の作製〕
(無機化合物膜を有する中間層の作製)
ガラス基板(日本板硝子)上にスパッタリング法にて膜厚350nmのAl膜を形成した。表面粗さ(Ra)は0.3μmであった。この無機化合物膜のみからなる膜を中間層Aとする。
ガラス基板上にスパッタリング法にて膜厚100nmの窒化珪素(SiON)を形成した。表面粗さ(Ra)は0.5μmであった。この無機化合物膜のみからなる膜を中間層Bとする。
(シランカップリング剤による処理)
シランカップリンク剤であるアミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン,商品名KBM903)の1質量%水溶液に上記の無機化合物膜A、もしくはBを60秒浸漬し,取りだし,10秒間水でリンスし、120℃で10分間乾燥させることで、シランカップリング剤による処理を施した。
【0116】
(光開裂化合物結合工程)
光開列化合物としてはシラン型化合物((P001)又は(P002))の場合には1質量%トルエン溶液としそれを上記のシランカップリング剤処理した基板にスピナーを用いて塗布し(回転数500rpm、10秒)、100℃、1分乾燥した。
ポリマー型化合物((P003)又は(P004))を使用するばあいは5質量%のメチルエチルケトン(MEK)溶液とし、それをシランカップリング剤による処理した基板にスピナーを用いて塗布し(回転数500rpm、20秒)、120℃、1分乾燥した。
(ポリマー前駆体層の形成)
ポリマー前駆体(G001)、もしくは(G002)のアセトニトリル/水=1/1(質量%)の溶液20質量%として,それを開始剤が塗布された基板にスピナーを用いて塗布し(回転数500rpm、20秒)、100℃、1分乾燥した。
以上により、表1に示す5種類のポリマー含有層(グラフトポリマー前駆体層)を有する基板を、無機化合物膜上に形成した。この基板をそれぞれ(P−1)〜(P−5)とする。
【0117】
実施例で用いた重合開始剤(P001)〜(P004)及び重合性基を有するポリマー(グラフトポリマー前駆体)(G001)、(G002)の構造を以下に示す。
【0118】
【化8】

【0119】
【化9】

【0120】
(露光)
前記の如くして、重合性基を有するポリマー含有層(グラフトポリマー前駆体層)を塗布した無機化合物膜表面に、ゲート電極形成領域に適合するように作製されたパターンマスクを密着させるようにクリップで留め、露光機(UVX−02516S1LP01、ウシオ電機社製)で1分間露光した。露光後マスクを取り外し、純水で充分洗浄した。
以上のようにして、露光領域のみにパターン状にグラフトポリマー層が形成された本発明の積層体を得た。
【0121】
(導電層を有する積層体の形成)
(無電解メッキ)
前記の無機化合物膜上にグラフトポリマー層がパターン状に形成されたグラフトポリマー層を有する積層体(P−1)〜(P−5)を、硝酸パラジウム(和光純薬製)0.1質量%の水溶液に1時間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。その後、下記組成の無電解メッキ浴にて30分間無電解メッキし、表面に金属膜(導電層)を形成し、導電層をパターン状に有する積層体を得た。形成された導電層の膜厚は2μmであった。
【0122】
(無電解メッキ浴の組成)
・OPCカッパー H T1(奥野製薬(株)製) 6mL
・OPCカッパー H T2(奥野製薬(株)製) 1.2mL
・OPCカッパー H T3(奥野製薬(株)製) 10mL
・水 83mL
【0123】
(比較例1、2)
シランカップリング剤による処理を行わない以外は実施例1及び実施例3と同様の操作によりグラフトポリマーを形成後、導電層を有する比較例1及び比較例2の積層体を形成した。
【0124】
(積層体のパターン解像度評価〕
露光後に形成されたグラフトポリマー層のパターン形状について、ライン/スペースの幅をAFM(ナノピクス1000、セイコーインスツルメンツ社製)により測定した。結果を表1に示す。
【0125】
(導電性の評価)
上記により得られた導電層が形成された部分の表面導電性をロレスタ−FP(LORESTA−FP:三菱化学(株)製)を用いて四探針法により測定した。
(導電膜密着性の評価)
導電性ガラス基板である実施例1〜5及び比較例1,2の導電膜について、JIS 5400に順じて碁盤目テープ法により膜密着性を評価した。カットした碁盤目に対するテープの引き剥がしテストを行った。表1中の数値は100個の碁盤目のうち、基板側に残った碁盤の数を示す。
これらの評価結果を下記表1に示す。
【0126】
【表1】

【0127】
前記表1より明らかなように、本発明の導電層を有する積層体は、いずれも、形成された導電層が基板との密着性が良好であり、優れた導電性を示すことがわかる。この導電性の評価により、ガラス基板上の無機化合物膜にシランカップリンク剤処理を施し、シランカップリング剤を介して無機化合物膜と開始剤とを結合させて形成されたグラフトポリマー層を用いることで密着性よく形成された導電膜は、導電性に優れ、表示装置の配線として有用であることがわかる。他方、無機化合物膜にシランカップリンク剤処理を行わなかった比較例1及び2の積層体では、高精細の配線が形成されるものの、実施例に比べ、密着性が劣るものであった。
【0128】
(配線間絶縁性評価)
(実施例1、3の絶縁性評価)
前記実施例のうち、実施例1及び実施例3と同様の方法で、30μm間隔で、図3に示す如き、くし型をしたマスクパターンを使用してグラフトパターンを作製し、無電解めっき、電気めっきにより30μm幅のくし型の銅配線パターンを作製した。
(比較例3、4)
また、実施例1において、ガラス基板(日本板硝子)上にAl膜を形成(無機化合物膜A)形成しなかった他は、実施例1と同様の方法で上記と同型のくし型の銅配線パターンを作製し、比較例3とした。また、実施例3においてガラス基板上に窒化珪素(SiON)膜(無機化合物膜B)を形成しなかった他は、実施例3と同様の方法で上記と同型のくし型の銅配線パターンを作製し、比較例4とした。
【0129】
この実施例1、実施例3、比較例3及び比較例4に対し、マイグレーション評価装置(エスペック社製:AMI−025−P)を用いて、くし形銅配線間の絶縁抵抗を測定した。試験評価は温度85℃,湿度85%RHの雰囲気下、バイアス電極はDC45Vの条件で行った。
この絶縁抵抗の評価は、上記条件で電圧を印加したときの抵抗値を測定し、100mΩの抵抗を維持できた時間により行った。この時間が長いほど絶縁抵抗に優れると評価する。
その結果、実施例1及び実施例3では、100mΩの抵抗を100時間以上維持することができ、実用上十分な絶縁抵抗を示すことがわかった。一方、無機化合物膜を設けなかった比較例3では、4.4時間、比較例4では、11時間で抵抗値が100mΩを下回り、層間絶縁性が高温高湿下で経時的に低下することがわかる。
【0130】
その後、これら4種のくし型の銅配線パターンを有する積層体をマイグレーション評価装置内で、前記したのと同じ条件で200時間放置した。これらの経時サンプル表面を顕微鏡にて観察し、配線間部分の変色、および、デンドライト発生の有無を評価した。デンドライトは配線の銅が非配線部分に溶出し、デンドライト状(樹木状)に成長したものを指す。
観察の結果、実施例1及び実施例3では、配線間の変色やデントライトの発生は見いだせず、層間の絶縁性低下の要因は発生していないことがわかった。一方、無機化合物膜を設けなかった比較例3及び比較例4では、配線間にわずかな変色が見られ、デントライトの発生が確認されたことから、ガラス基材を用いた場合に懸念される、金属配線に起因する金属成分が電界の影響によりガラス上を移動し、ガラス基板の絶縁性が低下する現象が生じていることがわかる。
上記結果より、本発明の如く、ガラス基板上に無機化合物膜とグラフトポリマー層を有する積層体を用いて得られた配線は、厳しい条件下においても、配線間の絶縁抵抗の低下がなく、電気信頼性に優れていることが確認された。
【0131】
(実施例6〜10)
(ガスバリア性を有する中間層の作製)
膜厚200μmのPEN(ポリエチレンナフタレート)フイルム上に、500nm厚のアクリル樹脂層を設け、その上にAlの50nmの皮膜を形成した。さらに同じ操作を4回繰り返し、全部でアクリル/Alを交互積層した全5層からなるガスバリア膜(中間層)を形成し、ガスバリア膜付き有機フイルム基材を作製した。これをガスバリア基材Cとする。
膜厚200μmのPENフイルム上に、窒化珪素(SiON)を100nmの厚みでスパッタ法にて形成し、無機化合物膜からなるガスバリア膜を形成し、ガスバリア膜付き基材を得た。これをガスバリア基材Dとする。
【0132】
(シランカップリング剤による処理)
アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコン,商品名KBM903)の1質量%水溶液に上記のガスバリア基材A又はガスバリア基材Bを60秒浸漬し、取り出して、10秒間水でリンスし、120℃で10分間乾燥させることで、シランカップリング剤による処理を施した。
【0133】
(光開裂化合物結合工程)
光開列化合物としてはシラン型化合物((P001)又は(P002))の場合には1質量%トルエン溶液としそれを上記のアミノシラン処理した基板にスピナーを用いて塗布し(回転数500rpm、10秒)、100℃、1分乾燥した。
ポリマー型化合物((P003)又は(P004))を使用するばあいは5質量%のメチルエチルケトン(MEK)溶液とし、それをアミノシラン処理した基板にスピナーを用いて塗布し(回転数500rpm、20秒)、120℃、1分乾燥した。
ここで用いた光開裂化合物は、前記実施例1〜5で用いたものと同様である。
【0134】
(ポリマー前駆体層の形成)
ポリマー前駆体(G001)、もしくは(G002)のアセトニトリル/水=1/1(質量%)の溶液20質量%として,それを開始剤が塗布された基板にスピナーを用いて塗布し(回転数500rpm、20秒)、100℃、1分乾燥した。
以上により、表2に示す5種類のグラフトポリマー層をガスバリア膜上に形成して積層体を得た。この積層体をそれぞれP−6〜P−10とする。
グラフトポリマー層形成に用いたポリマー前駆体は、前記実施例1〜5で用いたものと同様である。
【0135】
(露光)
グラフト前駆体層を塗布したガスバリア膜表面に、ゲート電極形成領域に適合するように作製されたパターンマスクを密着させるようにクリップで留め、露光機(UVX−02516S1LP01、ウシオ電機社製)で1分間露光した。露光後マスクを取り外し、純水で充分洗浄した。
以上のようにして、有機フイルム基板表面にパターン状グラフトポリマー層を有する積層体P−6〜P−10を形成した。
【0136】
(無電解メッキ)
前記のガスバリア膜上にパターン状のグラフトポリマー層を有する積層体P−1〜P−5に対して、実施例1〜5と同様に無電解メッキを施し、表面に金属膜(導電層)を形成し、パターン状の導電層を有する本発明の導電層付き積層体MP−6〜MP−10を得た。導電層の膜厚は2μmであった。
【0137】
(比較例5、6)
シランカップリング剤による処理を行わない以外は実施例6及び実施例8と同様の操作によりグラフトポリマーを形成後、導電層を有する比較例5及び比較例6の積層体を形成した。
(比較例7、8)
実施例6〜10で用いた膜厚200μmのPEN(ポリエチレンナフタレート)フイルム上に、ガスバリア膜を形成しなかった以外は実施例6及び実施例8と同様の操作によりグラフトポリマーを形成後、導電層を有する比較例7及び比較例8の積層体を形成した。
【0138】
(比較例9、10)
シランカップリング剤による処理に代えて、以下のゾルゲル処理を行った以外は実施例6及び実施例8と同様の操作によりグラフトポリマーを形成後、導電層を有する比較例9及び比較例10の積層体を形成した。
(ゾルゲル処理)
以下の成分を均一に混合し、20℃で、2時間撹拌して加水分解を行い、ゾル状の親水性塗布液組成物を得た。
<親水性塗布液組成物>
・テトラメトキシシラン 0.62g
・エタノール 4.7g
・水 4.7g
・硝酸水溶液(1N)〔触媒〕 0.1g
上記親水性塗布液組成物にさらに水11gを加えた液に,ガスバリア基板AもしくはBを60秒間浸漬し、20秒間空気乾燥した後、水でリンスし、その後。120℃、10分間加熱乾燥させてPENフィルム基材上にゾルゲル層を形成した。
【0139】
〔積層体の評価〕
実施例5〜10及び比較例5〜10について、実施例1〜5,比較例1、2と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
なお、ライン/スペースの測定において、比較例5では現像時にグラフトポリマー層が一部剥離し、パターン解像度及び導電膜密着性の評価ができなかった。
【0140】
【表2】

【0141】
以上の結果より、本発明の積層体においては、表面平滑性に優れたガスバリア性を有する中間層上に簡易に導電層を形成することができた。また、得られた導電層は、基材との密着性及び導電性に優れることがわかる。
他方、中間層を有しない比較例5及び比較例6に記載の積層体は、後述するようにガスバリア性に乏しく、比較例5では、グラフトポリマー層の剥離も見られた。また、シランカップリグ剤処理に代えてゾルゲル処理を行った比較例7及び比較例8は、有機フイルム基板との密着性が十分ではないことがわかる。
【0142】
(ガスバリア性の評価)
ここで、実施例5、実施例8、比較例5及び比較例6で得られた積層体のガスバリア性を、酸素透過率は、MOCON社製酸素透過度測定装置(OX−TRAN100TWIN型)を用いて、25℃、相対湿度90%の条件下で測定し、水蒸気透過率は、JIS Z 0208の防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)によって、40℃、相対湿度90%の条件下で測定を行った。
実施例5の積層体の酸素透過率は0.1ml/m2・24hrであり、水蒸気透過率は0.02g/m2・24hrであり、実施例8の積層体の酸素透過率は0.3ml/m2・24hrであり、水蒸気透過率は0.1g/m2・24hrであり、いずれも高いガスバリア性を示した。
一方、ガスバリア性の中間層を有しない比較例5の積層体の酸素透過率は10.0ml/m2・24hrであり、水蒸気透過率は5.0g/m2・24hrであり、比較例6の積層体の酸素透過率は25.4ml/m2・24hrであり、水蒸気透過率は9.8g/m2・24hrであり、いずれも十分なガスバリア性を有しないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明の積層体を用いて構成されたパッシブ型表示装置の一態様を示す概略図である。
【図2】本発明の積層体を用いて構成されたアクティブ型表示装置におえける画素内面の一態様を示す概略図である。
【図3】積層体の層間絶縁性評価に用いた、くし形配線の形状を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物に、ラジカル重合可能な不飽和化合物を接触させてエネルギーを付与することによって該化合物の重合開始部位と直接結合したグラフトポリマー層とを有する積層体であって、
該基板上に、最表面に無機化合物膜を有する中間層を有し、且つ、
該中間層の最表面の無機化合物膜と該重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物の基材結合部位とが、シランカップリング剤を介して結合していることを特徴とする積層体。
【請求項2】
基板が、ガラスである請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記基板が有機フイルムである請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
無機化合物膜が、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、及び、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:DLC)からなる群より選択される1種以上の化合物により構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
無機化合物膜が、SiO膜、SiON膜、SiN膜、Al膜又はAl−Si混合酸化物膜であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
中間層が無機化合物膜を少なくとも2層含む積層構造を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
中間層がガスバリア性を有する請求項3に記載の積層体。
【請求項8】
ガスバリア性を有する中間層の水蒸気透過率が1.0g/m2・24hr以下であり、且つ、、酸素透過率が1.0ml/m2・24hr以下である請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
シランカップリング剤が、アミノ基、メルカプト基、又は、イソシアネート基を有する化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
グラフトポリマー層がパターン状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
パターン解像度が1μm〜20μmである請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
グラフトポリマー層を構成する高分子化合物の質量平均分子量が500〜50万の範囲である請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項13】
グラフトポリマー層の膜厚が、10nm〜2.0μmの範囲である請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項14】
グラフトポリマー層上に導電層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項15】
導電層が、1Ω/□以下の抵抗値を有することを特徴とする請求項14に記載の積層体。
【請求項16】
基板上に最表面に無機化合物膜を有する中間層を形成する工程と、該無機化合物膜にシランカップリンク剤処理を施す工程と、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基材結合部位とを有する化合物を、シランカップリンク剤を介して無機化合物膜に結合させる工程と、該化合物とラジカル重合可能な不飽和化合物とを接触させてエネルギーを付与することによりグラフトポリマー層を形成する工程と、を有する積層体の製造方法。
【請求項17】
請求項14又は請求項15に記載の積層体を含む配線基板。
【請求項18】
請求項17に記載の配線基板を含む表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−207401(P2008−207401A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44692(P2007−44692)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】