説明

積層体、及び該積層体を用いた合わせガラス並びに板ガラス

【課題】
長期間にわたり安定した性能を発揮することを可能とした積層体及び該積層体を用いた合わせガラス並びに板ガラスを提供する。
【解決手段】
基材フィルムである透明樹脂フィルムの片面若しくは両面に、金属酸化物により形成される金属酸化物層と、銀合金により形成される銀合金層と、をこの順に交互に積層してなり、かつ、最表面に前記金属酸化物層が位置するように積層してなる積層体とした。尚、各層の積層は透明樹脂フィルムの片面にされてなるものであっても、両面に同様に積層されてあっても構わない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体及び該積層体を用いた合わせガラス並びに板ガラスに関するものであって、具体的には外部からの熱線を反射する機能を有する積層体及び該積層体を用いることにより熱線を反射する性質を備えた合わせガラス並びに板ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今急激に地球温暖化に関する知識が広まり、また地球温暖化に対する関心が高まっている。その中でも、特に電力消費に関する事項に関心が集まる傾向が伺えるのであるが、消費電力に関する事項の中でも、特に日本においては室温調節への関心が高まっている。これは、日本のような四季の明確な気候では、冬場はまだしも夏場の高温多湿に人体が対処するのは大変困難であるが故に、高出力の空調機器が広く普及するに至っている。特に地上建築物や乗用車などの車両における密閉された室内では直射日光を浴び続けることにより容易に高温となってしまうので、密閉された状態を保ちつつ快適な室内状況を生み出すため、高出力、高性能の空調機器が用いられる。
【0003】
しかしかような高出力の空調機器を用いると、それだけ電力消費量が増加し、ひいては排出二酸化炭素量の増大を招き、結果として地球温暖化を生み出すことが判っている。だが消費電力量を減少させるべく様々な努力がなされているのであるが、上述のような機器を用いるだけでは十分な対策とするに至らない。
【0004】
そこで、密閉された室内に侵入する直射日光、具体的には密閉された室内への赤外線侵入量そのものを減少させる、という考え方が提示されている。そしてそのために、例えばガラス板に何らかの処理を施して赤外線遮蔽機能を付与し、これを窓ガラスに用いることで、室内が密閉されていたとしても窓から室内に侵入する赤外線を遮蔽することで室温が上昇することを抑え、その結果空調機器を激しく用いる必要がなくなり、ひいては消費電力量を抑えることが可能となるのである。
【0005】
しかし、赤外線を遮蔽する機能をガラス板に付与するためには、ガラス板を加工するにさいして特定の金属微粒子(又は金属フィラーとも呼ばれる。)をガラス板製造時に原料に混入させたり、ガラス板の表面に赤外線を遮蔽する性質を有した機能性層を直接積層することを行う必要があるが、原料に不純物を混入させることによりガラス板の製造自体が困難になったり、ガラス板の表面に直接機能性層を積層する場合もガラス板自身が破損することにより生じる損害が無視できないレベルに至ることがある、といった問題が生じていた。
【0006】
そこで、ガラス板はガラス板として製造し、得られたガラス板の表面に赤外線を遮蔽する、という性質を有した機能性層を積層した機能性フィルムを、ガラス板の表面に貼着することが提案されている。このような方法を用いれば、ガラス板は従来の通りに製造できるし、機能性フィルムを後から貼着するだけで所望の機能を得られることより、窓の形状によらず自在に対応することも可能となり、また例えばガラス板に直接加工を施す場合、加工を施すことを失敗したりガラス板自身が破損した場合のコスト的損失が生じる可能性があるが、機能性フィルムを貼着するという方法であれば、かような損失は発生しないので、大変好ましい手法であると言える。
【0007】
このような機能を有した機能性フィルムとしては、例えば特許文献1に記載されたようなものがある。この積層材料は熱線遮断性に優れた窓貼り用のものであるが、具体的には透明なベースフィルムの表面に半透明の金属薄膜層を積層し、さらにその表面にトップコート層、粘着層を順次積層形成した構成を有している。
【0008】
【特許文献1】特開平1−114434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この特許文献1に記載された積層材料では、金属薄膜層には、銀はアルミニウム、ニッケルなどの金属、又はニッケル−クロム合金のような合金を用いていることより、この層によって熱線反射性能を発揮するのであるが、実際にこのような物質を用いると、空気中の酸素に触れることで金属薄膜層が容易に腐食してしまい、長期間にわたり安定して性能を発揮することが困難であった。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、長期間にわたり安定した性能を発揮することを可能とした積層体及び該積層体を用いた合わせガラス並びに板ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の発明は、基材フィルムである透明樹脂フィルムの片面若しくは両面に、金属酸化物により形成される金属酸化物層と、銀合金により形成される銀合金層と、をこの順に交互に積層してなり、かつ、最表面に前記金属酸化物層が位置するように積層してなること、を特徴とする。
【0012】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の積層体であって、前記銀合金が銀とビスマスとよりなる銀合金であり、かつ前記ビスマスの銀合金全体に対する含有量が0.001重量%以上10重量%以下であること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の積層体であって、前記透明樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメタクリル酸メチルフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、若しくはナイロンフィルムの何れかであること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の積層体であって、前記金属酸化物層の、波長550nmにおける屈折率が1.6以上であること、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の積層体であって、前記金属酸化物層が酸化インジウムスズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アルミニウム、若しくはチタネートの何れかによる層であること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の積層体であって、前記金属酸化物層と前記銀合金層との合計層数が3以上9以下であること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の積層体であって、前記金属酸化物層はスパッタリング法、蒸着法、若しくはコーティング法の何れかの手法により積層されてなり、かつ前記銀合金層はスパッタリング法若しくは蒸着法により積層されてなること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の積層体であって、JIS規格(JIS A5759)に準拠して測定した前記積層体の、可視光透過率が40%以上90%以下であり、JIS規格(JIS A5759)に準拠して測定した前記積層体の、光線波長が1000nmにおける光線透過率が10%以上60%以下であり、JIS規格(JIS A5759)に準拠して測定した前記積層体の、光線波長が1600nmにおける光線透過率が5%以上50%以下であること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項9に記載の発明は、請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載の積層体の何れか若しくは両方の最表面のさらに表面に、反射防止機能を有した反射防止層、又はハードコート機能を有したハードコート層、の何れか若しくは両方を積層してなること、を特徴とする。
【0020】
本願発明の請求項10に記載の発明は、請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載の積層体を挟み込んでなる合わせガラスであること、を特徴とする。
【0021】
本願発明の請求項11に記載の発明は、請求項1ないし請求項9の何れか1項に記載の積層体を表面に貼着してなる板ガラスであること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本願発明に係る積層体では、最終的には銀合金層を金属酸化物層で挟み込む層構成を採用しているために銀合金層が直接空気中の酸素と触れることがなく、また銀単体による層ではなく銀合金層としていることより銀の持つ性質が劣化することが防止され、即ちこの銀合金層を備えることにより発揮される熱線防止に関する機能が劣化することが防止されるのである。そして特に銀合金として銀にビスマスを混合させることにより、より一層銀合金の劣化が防止されると共にその性質が長く維持されるようになるので好ましい。また、ビスマスを選定することにより、得られる積層体の可視光線透過率及び耐性に関し好ましい状態を両立することができる。そして基材に透明樹脂フィルムを用い、また金属酸化物として例えば酸化インジウムスズを用いることで、熱線防止の性能を備えつつ全体としての可視光線透過率も適度に確保できるので、この積層体によっては視感が著しく損なわれることがない。そしてこの積層体をガラスに挟み込んだり、ガラス表面に貼着することで、得られたガラスを例えば密閉された部屋の窓ガラスに用いれば、室内に赤外線が侵入することにより室温が急激に上昇する、という現象を防ぐことが可能となり、好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0024】
(実施の形態1)
本願発明に係る積層体について第1の実施の形態として説明する。
本実施の形態に係る積層体は、基材フィルムである透明樹脂フィルムの片面に、金属酸化物により形成される金属酸化物層と、銀合金により形成される銀合金層と、をこの順に交互に積層してなり、かつ、最表面に前記金属酸化物層が位置するように積層してなる構成を有している。尚、以下の説明では各層の積層は透明樹脂フィルムの片面にされてなるものとするが、両面に同様に積層されてあっても構わない。但し両面に積層される場合でも以下に説明する片面に積層する場合と同様であるので、その説明は省略する。
【0025】
そして、本実施の形態に係る積層体の可視光線透過率、及び光線波長が1000nmにおける光線透過率、に関しては、後述する積層体の利用方法を鑑みれば、JIS規格(JIS A5759)に準拠して測定した前記積層体の、可視光透過率が40%以上90%以下であり、またJIS規格(JIS A5759)に準拠して測定した前記積層体の、光線波長が1000nmにおける光線透過率が10%以上60%以下であり、JIS規格(JIS A5759)に準拠して測定した前記積層体の、光線波長が1600nmにおける光線透過率が5%以上50%以下であること、が望ましいため、本実施の形態に係る積層体ではこの条件を満たすものであることとする。
【0026】
以下、順次説明をしていく。
まず最初に本実施の形態に用いる基材フィルムである透明樹脂フィルムであるが、これは後述するようにほん実施の形態に係る積層体が窓ガラス等に用いられることを考えると光線透過率が優れていることが望ましいことより、基材となるフィルムはいわゆる透明樹脂フィルムであることが好ましく、また入手しやすいものであることが望ましい。そのために、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ナイロンフィルム等であれば、積層体の基材としても広く用いられているものであり、その扱いも容易であるので好適な透明樹脂フィルムであると言える。
【0027】
そしてこれらの透明樹脂フィルムの厚みとしては、5μm以上50μm以下であることが好ましいが、これは5μm未満の厚みであると後述の各種積層工程を実施するに際して生じる種々の処理に耐えられない可能性が高く、また50μmよりも厚くすると今度は最終的に得られるフィルム全体の厚みが増えてしまうからである。なお、本実施の形態における透明樹脂フィルムとしては、厚みが12μmのPETフィルムであるものとする。
【0028】
次にこの基材フィルムたる透明樹脂フィルムの表面に積層する金属酸化物による金属酸化物層につき説明する。
【0029】
この金属酸化物層は、波長550nmにおける屈折率が1.6以上である高屈折率を有することが好ましいが、これは高屈折率を有する層を積層体に含めることでより良い光学干渉を得るためであり、より良い光学干渉を得ることで安定した性能、即ち熱線反射をより効率よく行うことが出来るのである。つまり、高屈折率を有する金属酸化物層を設けることで、本実施の形態に係る積層体に入射した外光は、高屈折率を有する金属酸化物層に至るとこの部分で大きく入射角が屈折され、次いでこの層に隣接する銀合金層に至り、そして反射されるのであるが、高屈折率を有する層を設けておくことで、入射角が浅い外光であっても確実に銀合金層に到達させることが可能となり、ひいては熱線反射という性質を発揮しやすくなるのである。
【0030】
そして本発明者が研究した結果、得られた効果的な屈折率は1.6以上であり、またこの値を実現するために好適な物質としては、例えば酸化インジウムスズ、酸化インジウム
【0031】
、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アルミニウム、若しくはチタネートの何れかによる層であること、が好適であるが、本実施の形態では酸化インジウム(ITO)を用いることとする。
【0032】
また金属酸化物層の厚みは20nm以上100nm以下であることが望ましいが、これは20nm以下であると可視光線の領域における光線透過率が低下してしまい、また100nm以上であると赤外線の領域における透過率が上昇してしまうからである。尚、このような可視光線の領域における光線透過率の低下、及び赤外線の領域における透過率の上昇、をより確実に防止するためには、25nm以上75nm以下とするとより好適なものとすることが出来る。
【0033】
金属酸化物層の積層方法は従来公知の手法であって構わず、即ち、例えばスパッタリング用、蒸着法、又はコーティング法等の手法を用いればよく、またその際の条件も周知のものであってよいが、本実施の形態ではスパッタリング法であるものとする。
【0034】
次に、銀合金層につき説明をする。
この銀合金層とは文字通り銀の合金であればよいが、本実施の形態では銀にビスマスを含有させてなる銀合金を用いるものとする。
【0035】
本実施の形態で銀合金を用いる理由は次の通りである。即ち、従来であれば赤外線を遮蔽する性質を有する積層体を得るためには銀を単体で用いていたが、銀は耐腐食性が好ましいものではなかった。つまり銀単体で積層体を構成すると透明な積層体であって、かつ赤外線を遮蔽する性質を有する積層体を得ることが出来ていたが、銀に酸素が接触することにより銀が容易に腐食してしまい、積層されていた銀が黒ずんでしまい透明性が低下し、また銀が酸化することにより赤外線を遮蔽する効果が低下してしまっていたのであるが、かような問題の発生を防止するために、単体の銀に代えて銀に何らかの物質を混合させた銀合金を用いるようになったのである。
【0036】
そのために用いられる合金として、金や銅、チタン等を用いることが多いが、これらの物質を混合させて銀合金とした場合、どうしても銀本来の持つ効果、本実施の形態においては赤外線を遮蔽するという効果が低下することは避けられない。
【0037】
そこで本実施の形態においては、従来以上に銀の特性を極力損ねない上に銀に耐性を付与する物質としてビスマスを選定し、これを銀に含有させることにより、銀−ビスマス合金を銀合金として用いることとした。
【0038】
ビスマスを選定することにより、即ち銀−ビスマス合金とすることにより、他の金属を含有させた銀合金(例えば銅を含有させた場合)に比べて耐性面において優位性が見られ、例えば酸素と接触しても銀の酸化による黒ずみの発生や銀の持つ赤外線を遮蔽するという効果が低下する割合が大変微少なものとなる。そしてビスマスを用いた場合、純粋に銀のみを積層した場合の積層体全体の可視光線透過率と同程度の可視光線透過率を確保することが可能である。即ち、ビスマスを用いることにより、得られる積層体の可視光線透過率及び耐性に関し好ましい状態を両立することができるのみならず、その状態を長期間にわたり維持することが可能となるのである。
【0039】
このように、銀単体で利用した場合に比しても可視光線透過率も好ましい値を確保しつつ、耐腐食性も維持できるレベルを保てるビスマスの銀合金全体に対する含有量は0.001重量%以上10重量%以下であることが好ましい。0.001重量%以下であるとビスマスを含有させることにより得られるはずの効果が得られなくなり、また10重量%以上とすると、今度は銀単体による層の場合と比して可視光線透過率及び耐腐食性を同レベルに維持することが出来なくなるからである。
【0040】
また銀−ビスマス合金の積層方法としては、周知のスパッタリング法若しくは蒸着法を用いればよいが、本実施の形態ではスパッタリング法によるものとする。
【0041】
以上説明した金属酸化物層と銀合金層とを交互に透明樹脂フィルムの表面に積層していくことにより、即ち透明樹脂フィルム/ITO層/銀−ビスマス合金層/ITO層・・・というように積層していくことにより本実施の形態に係る積層体を得ることができるのであるが、その際金属酸化物層と銀合金層との合計層数が3以上9以下となるように積層することが望ましい。
【0042】
これは、必要最小限の効果を得るためには合計3層以上は必要であり、また3層構成とすれば必要最小限の厚みに収めることが可能だからであり、9層構成とすれば熱線反射という効果を最大限に得ることができるものの、これ以上積層すれば可視光線透過率が必然的に低下すると同時に、全体の厚みを所望の薄さにすることが困難となるからである。
【0043】
また金属酸化物層/銀合金層/金属酸化物層という構成とすることで効率的に熱線反射を行えるという効果を得られるのであるが、これは前述したとおり、光学干渉により得られる効果により、高屈折率を有する金属酸化物層を設けることで、積層体全体の可視光線透過率が効率的なものになるのと同時に熱線反射率も効率的になるのである。
【0044】
以上のようにして得られる本実施の形態に係る積層体の可視光線透過率、光線波長が1000nmにおける光線透過率、及び光線波長が1600nmにおける光線透過率は、それぞれJIS規格(JIS A5759)に準拠して測定した測定値が、可視光透過率が40%以上90%以となり、光線波長が1000nmにおける光線透過率が10%以上60%以下となり、光線波長が1600nmにおける光線透過率が5%以上50%以下となること、が望ましい。
【0045】
可視光線透過率が40%以上90%以下であれば、ある程度の透明性、即ち不快感を覚える程にはくすまず、必要以上に明るすぎず外光全部を完全に取り入れてしまわないようにすることができ、光線波長が1000nmにおける光線透過率が10%以上60%以下であるものとすることで近赤外線をある程度遮蔽することが可能となり、光線波長が1600nmにおける光線透過率が5%以上50%以下であるものとすることで遠赤外線を近赤外線に比べてより一層遮蔽することができるようになる。
【0046】
そして実際に上述した積層を行うことにより、上述した数値範囲に収まるようにした積層体とすれば、適度に外光を取り入れ、また視認性も確保されつつ、熱線を反射することができる積層体とすることが出来る。
【0047】
そして、本実施の形態による積層体の何れか若しくは両方の最表面のさらに表面に、反射防止機能を有した反射防止層、又はハードコート機能を有したハードコート層、の何れか若しくは両方を積層することにより、さらに特定機能を備えた積層体とすることも可能であるが、そのためには従来より公知の物質を用いて、最表面に特定機能を有する層を積層すればよい。例えば積層体の片側の最表面にさらに反射防止層を積層してもよいし、積層体/反射防止層/ハードコート層、という構成となるように積層しても良い。若しくは、反射防止層/積層体/ハードコート層、のように両方の最表面にそれぞれ積層することも考えられる。また例えば反射防止層を設けるのであれば、シリコン系の物質又はフッ素系の物質を低屈折率層として真空蒸着法やコーティング法、スパッタリング法等の従来公知な手法により積層すれば良く、またハードコート層を設けるのであれば、アクリル系樹脂やシリコーン系樹脂等の公知な素材をコーティング法等の従来公知な手法により積層すればよいが、これ以上の詳細な説明はここでは省略する。
【0048】
また、得られた積層体を2枚の板ガラスに挟み込んで合わせガラスとすれば、この合わせガラスには積層体が備える性質を具えた合わせガラスとすることができ、また得られた積層体を表面に貼着した板ガラスとすれば、その板ガラスはこの積層体が備える性質を具えたものとすることができる。貼着する場合は、前述の最表面にさらに反射防止層又はハードコート層を積層してなる積層体を貼着することも考えられる。即ち、これらのガラスであれば熱線反射機能を有するので、例えば、これらのガラスを建材に用いれば、これらのガラスを例えば窓ガラスに用いた空間では、何の機能も有さない普通のガラスを用いた場合に比べ、室内に熱線が侵入する割合を低下させることができるので、熱線侵入による室温上昇をある程度和らげることが可能となり、ひいては空調機器の利用頻度等を低下させることが出来るので、その結果消費電力量を抑えることができる、という効果が期待できるのである。
【実施例】
【0049】
以下、本発明に係る積層体につき、さらに実施例により説明する。
【0050】
(実施例1)
まず透明樹脂フィルムとして厚みが12μmのPETフィルムを用いる。次いでその表面にITOを30nmの厚みとなるように積層する。そして次にその表面に銀合金層として銀−ビスマス合金を10nmの厚みとなるように積層する。この際、ビスマスの銀合金全体に対する含有量は1重量%であるものとする。そして次にその表面に再びITOを30nmの厚みとなるように積層し、実施例1に係る積層体を得た。
【0051】
(実施例2)
実施例1と同様にして積層体を得たが、ビスマスの含有量を3重量%とした。
【0052】
(実施例3)
実施例1と同様にして積層体を得たが、ビスマスの含有量を8重量%とした。
【0053】
(実施例4)
実施例1と同様にして積層体を得たが、ビスマスの含有量を10重量%とした。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同様にして積層体を得たが、銀合金層の代わりに銀単体による銀層とした。
【0055】
(比較例2)
実施例1と同様にして積層体を得たが、銀合金層として、ビスマスに代わり銅を銀合金全体に対する含有量が1重量%となるように銀に含有させた。
【0056】
(比較例3)
実施例1と同様にして積層体を得たが、ビスマスの含有量を20重量%とした。
【0057】
以上、得られた実施例1〜4及び比較例1〜3に係る積層体に関し、それぞれの銀合金層若しくは銀層の状態につき比較した。具体的には60℃、95%RHの環境下において得られた転写箔を72時間放置し、その後腐食の発生量を比較した。尚、同時にJIS A5759に準じて可視光透過率、光線波長1000nmにおける光線透過率、光線波長1600nmにおける光線透過率、それぞれについても測定をした。
その結果につき表に示す。
【0058】
【表1】


















【0059】
この表より分かるように、実施例1〜4に係る積層体における銀合金層には劣化が殆ど見られないが、比較例1〜3の場合は同様の条件で測定した結果、腐食が発生しており、即ち銀合金層が劣化してしまっていることがわかる。尚、比較例3においては比較的劣化の度合いは少ないように見えるが、一方で可視光線透過率が60%に届いておらず、結果としてこれを用いても本願発明に係る所望の積層体とすることが出来ないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムである透明樹脂フィルムの片面若しくは両面に、
金属酸化物により形成される金属酸化物層と、
銀合金により形成される銀合金層と、
をこの順に交互に積層してなり、
かつ、最表面に前記金属酸化物層が位置するように積層してなること、
を特徴とする、積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の積層体であって、
前記銀合金が銀とビスマスとよりなる銀合金であり、
かつ前記ビスマスの銀合金全体に対する含有量が0.001重量%以上10重量%以下であること、
を特徴とする、積層体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の積層体であって、
前記透明樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメタクリル酸メチルフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、若しくはナイロンフィルムの何れかであること、
を特徴とする、積層体。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の積層体であって、
前記金属酸化物層の、波長550nmにおける屈折率が1.6以上であること、
を特徴とする、積層体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の積層体であって、
前記金属酸化物層が酸化インジウムスズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アルミニウム、若しくはチタネートの何れかによる層であること、
を特徴とする、積層体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の積層体であって、
前記金属酸化物層と前記銀合金層との合計層数が3以上9以下であること、
を特徴とする、積層体。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の積層体であって、
前記金属酸化物層はスパッタリング法、蒸着法、若しくはコーティング法の何れかの手法により積層されてなり、
かつ前記銀合金層はスパッタリング法若しくは蒸着法により積層されてなること、
を特徴とする、積層体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の積層体であって、
JIS規格(JIS A5759)に準拠して測定した前記積層体の、可視光透過率が40%以上90%以下であり、
JIS規格(JIS A5759)に準拠して測定した前記積層体の、光線波長が1000nmにおける光線透過率が10%以上60%以下であり、
JIS規格(JIS A5759)に準拠して測定した前記積層体の、光線波長が1600nmにおける光線透過率が5%以上50%以下であること、
を特徴とする、積層体。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載の積層体の何れか若しくは両方の最表面のさらに表面に、反射防止機能を有した反射防止層、又はハードコート機能を有したハードコート層、の何れか若しくは両方を積層してなること、
を特徴とする、積層体。
【請求項10】
請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載の積層体を挟み込んでなること、
を特徴とする、合わせガラス。
【請求項11】
請求項1ないし請求項9の何れか1項に記載の積層体を表面に貼着してなること、
を特徴とする、板ガラス。

【公開番号】特開2008−36864(P2008−36864A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210868(P2006−210868)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】