説明

積層体、架橋物及び成形部材

【課題】層間接着性に優れた積層体、架橋物及び成形部材を提供する。
【解決手段】エポキシ基を有するアクリル系エラストマーを主成分とし、該アクリル系エラストマー100質量部に対して、オニウム塩を1〜5質量部及びポリオール化合物を1〜8質量部含有するアクリル系エラストマー組成物によりアクリル系エラストマー層11を形成すると共に、ポリオール架橋剤を含有するフッ素系エラストマー組成物によりフッ素系エラストマー層12を形成する。そして、このアクリル系エラストマー層11とフッ素系エラストマー層12とを積層して積層体1とする。また、積層体1を架橋して架橋物又は成形部材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマーを使用した積層体、架橋物及び成形部材に関する。より詳しくは、アクリル系エラストマーとフッ素系エラストマーとの積層体、架橋物及び成形部材に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系エラストマーやその架橋物は、耐熱老化性、耐油性、機械的特性及び圧縮永久歪み特性などの物性が優れているため、自動車のエンジンルーム内のホース部材や、シール部材、防振ゴム部材などの材料として広く使用されている。また、近年、これらの自動車用部材では、排ガス対策やエンジンの高出力化などの影響を受け、より耐熱老化性に優れた材料が求められている。
【0003】
耐熱老化性を向上し、ゴム部品の信頼性を高める方法としては、例えばアクリル系エラストマーよりも耐久性の高いフッ素系エラストマーを採用することが考えられる。しかしながら、フッ素系エラストマーは、アクリル系エラストマーに比べて、耐寒性が劣りかつ高価であることから、コストと信頼性が同時に要求される自動車部品用材料に適用するには、これらの問題点を解決する必要がある。
【0004】
そこで、従来、フッ素系エラストマーを他のエラストマーと組み合わせて使用する方法が提案されている。例えば、耐久性が特に問題になる部分のみフッ素系エラストマーで構成し、その他の部分は従来から使用されている材料で構成することにより、材料コストの増加を最小限に抑えて、実質的な耐久性を高めることができる。
【0005】
一方、複数の材料を用いて積層体を構成する場合、重要な要求特性として、異なる材料からなる層同士の接着性が挙げられる。層間接着強度が低い場合、積層体としての信頼性が損なわれるためである。特に、フッ素系エラストマーは、他の材料と接着しにくいため、フッ素系エラストマーとアクリル系エラストマーとで、耐久性に優れた安価な積層体を得るためには、両者の接着強度を向上することが極めて重要である。
【0006】
ここで、フッ素系エラストマーの接着性を向上させる技術としては、フッ素系エラストマー層の表面を、金属ナトリウム溶液により処理する方法(例えば、特許文献1参照。)、放電処理する方法(例えば、特許文献2参照。)、プラズマ処理する方法(例えば、特許文献3参照。)などがある。また、従来、フッ素ゴムに特定構造のフッ素樹脂を混合することにより、耐低温脆化性などの物性を向上させると共に、非フッ素ゴム層との接着性向上を図った積層体も提案されている(特許文献4,5参照)。
【0007】
この特許文献4には、フッ素ゴムの架橋にポリオール系架橋剤を使用したり、フッ素系ゴムにオニウム塩やアミン化合物を添加したりすることで、非フッ素系ゴムとの接着性が改善されることが開示されている。更に、非フッ素ゴム層に特定構造の接着用配合剤を添加することにより、フッ素ポリマー層と非フッ素ゴム層との接着性向上を図った積層体もある(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−67637号公報
【特許文献2】特開2002−59486号公報
【特許文献3】特開2009−234216号公報
【特許文献4】特開2010−42669号公報
【特許文献5】国際公開第2009/020182号
【特許文献6】特開2011−116004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。即ち、特許文献1〜3に記載されているような表面処理は、製造工程を煩雑にし、ホース製品などの積層体の製造コストの上昇を招く。また、表面処理を行うと、エラストマー層が劣化して、積層体のシール性が低下する虞がある。
【0010】
更に、特許文献4〜6に記載の方法では、積層体とする前に、予め、高温下でフッ素ゴムやフッ素樹脂を溶融する工程が必要であり、製造工程が煩雑になるという問題点がある。更にまた、特許文献6に記載の方法では、非フッ素ゴム層に接着用配合剤を添加しているが、その効果を高めるためには、更に、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリドやエポキシ樹脂などを添加する必要があり、添加すべき薬品の種類及び量が多くなるという問題点もある。
【0011】
そこで、本発明は、層間接着性に優れた積層体、架橋物及び成形部材を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る積層体は、エポキシ基を有するアクリル系エラストマーを主成分とし、該アクリル系エラストマー100質量部に対して、オニウム塩を1〜5質量部及びポリオール化合物を1〜8質量部含有するアクリル系エラストマー組成物により形成されたアクリル系エラストマー層と、ポリオール架橋剤を含有するフッ素系エラストマー組成物により形成されたフッ素系エラストマー層とを少なくとも備えるものである。
この積層体は、前記オニウム塩が、有機アンモニウム塩及び/又は有機ホスホニウム塩であってもよい。
また、前記ポリオール化合物として、ポリヒドロキシ芳香族化合物を使用することもできる。
【0013】
本発明に係る架橋物は、前述した積層体を架橋して得たものである。
また、本発明に係る成形部材は、前述した積層体又は架橋物で形成されているものであり、例えばホース、シール部品又は防振ゴム部品として用いられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フッ素系エラストマーとアクリル系エラストマーとが共架橋しているため、層間接着性に優れた積層体、架橋物及び成形部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る積層体の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る積層体について説明する。図1は本実施形態の積層体の構成例を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の積層体1は、アクリル系エラストマー層11とフッ素系エラストマー層12とが、積層された構成となっている。
【0018】
なお、図1では、アクリル系エラストマー層11とフッ素系エラストマー層12とが、1層ずつ積層された構造の積層体を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、1又は2以上のアクリル系エラストマー層11と、1又は2以上のフッ素系エラストマー層12を積層して積層体1を構成してもよい。その場合、アクリル系エラストマー層11とフッ素系エラストマー層12とが、交互に積層される。
【0019】
また、本実施形態の積層体1は、アクリル系エラストマー層11及びフッ素系エラストマー層12以外の層を備えていてもよい。例えば、補強繊維を重ね合わせた構造とすることも可能あり、その場合、補強繊維は、アクリル系エラストマー層11とフッ素系エラストマー層12のいずれか一方又は両方に密着させる。
【0020】
[アクリル系エラストマー層11]
アクリル系エラストマー層11は、エポキシ基を有するアクリル系エラストマー、オニウム塩及びポリオール化合物を少なくとも含有するアクリル系エラストマー組成物を、層状又はフィルム状に成形することにより得られる。ここで、「アクリル系エラストマー組成物」とは、配合されているエラストマーの50質量%以上がアクリル系エラストマーであるものをいう。なお、アクリル系エラストマーと共に配合されるエラストマーとしては、例えばヒドリンゴム、ニトリルゴム、水素添加ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、シリコーンゴム、クロルスルホン化ポリエチレンゴムなどが挙げられる。
【0021】
<アクリル系エラストマー>
アクリル系エラストマー層11を形成するアクリル系エラストマー組成物の主成分であるエポキシ基を有するアクリル系エラストマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとエポキシ基を含有する架橋席モノマーとの共重合体である。ここで、「架橋席モノマー」とは、架橋席(架橋点)を構成する官能基を有するモノマー(モノマー)をいう。また、エポキシ基を有するアクリル系エラストマーには、必要に応じて、酢酸ビニル、エポキシ基以外の架橋席モノマー又はエチレンなどが共重合されていてもよい。
【0022】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリル系エラストマーの骨格となるものであり、その種類を選択することにより、得られるアクリル系エラストマー組成物の常態物性や耐寒性、耐油性などの基本特性を調整することができる。ここでいう「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」は、(メタ)アクリレートと同義語であって、メタクリル酸アルキルエステル(メタクリレート)とアクリル酸アルキルエステル(アクリレート)の両方を含む。
【0023】
具体的には、メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−メチルペンチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0024】
また、アクリル酸アルキルエステルとしては、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−(n−プロポキシ)エチルアクリレート、2−(n−ブトキシ)エチルアクリレート、3−メトキシプロピルアクリレート、3−エトキシプロピルアクリレート、2−(n−プロポキシ)プロピルアクリレート、2−(n−ブトキシ)プロピルアクリレートなどが挙げられる。
【0025】
なお、エポキシ基を有するアクリル系エラストマーを構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、前述したメタクリル酸アルキルエステルやアクリル酸アルコキシアルキルエステルに限定されるものではない。また、これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で使用してもよいが、2種類以上を併用することもできる。
【0026】
そして、共重合する際にこれらの不飽和モノマーの配合量を調整することで、得られるアクリル系エラストマー組成物やその架橋物の耐寒性や耐油性を調整することができる。例えば、エチルアクリレートとn−ブチルアクリレートとを使用してアクリル系エラストマーを構成する場合、n−ブチルアクリレートの共重合比率を多くすると耐寒性を向上させることができ、エチルアクリレートの共重合比率を多くすると耐油性を向上させることができる。
【0027】
一方、架橋席モノマーは、分子間架橋を進めて、得られるアクリル系エラストマーの硬度や伸び特性を調整するために、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合されている。本実施形態においては、エポキシ基を含有する架橋席モノマーを必須とし、必要に応じて、他の架橋席モノマー、例えば、活性塩素基、カルボキシル基などを有するものを併用して用いることができる。
【0028】
エポキシ基を含有する架橋席モノマーとしては、例えばグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのエポキシ基を含有する架橋席モノマーを共重合して、アクリル系エラストマーにエポキシ基を導入することにより、フッ素系エラストマーとアクリル系エラストマーとを架橋することが可能となる。
【0029】
また、他の架橋席モノマーとしては、例えば2−クロルエチルビニルエーテル、2−クロルエチルアクリレート、ビニルベンジルクロライド、ビニルクロルアセテート、アリルクロルアセテートなどの活性塩素基を有するもの、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、マレイン酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキシル、桂皮酸などのカルボキシル基を含有するものがある。
【0030】
アクリル系エラストマーは、熱や紫外線などの影響により、その主鎖が切断して引張強さや破断伸びといった機械的特性が急激に低下しやすい。一方、酢酸ビニルは架橋反応を起こしやすく、その配合量を調整することにより、得られるアクリル系エラストマーの分子間架橋を調整することが可能である。そこで、他の架橋席モノマーとして、酢酸ビニルをアクリル系エラストマーの主鎖に共重合すると、アクリル系エラストマーが熱老化して主鎖が切断した場合でも、酢酸ビニルが架橋席となって切断した分子間を再度架橋させることができるため、アクリル系エラストマーの伸びなどの機械的特性を維持させることができる。
【0031】
本実施形態の積層体1で使用するアクリル系エラストマーは、前述したモノマーを乳化重合、懸濁重合、溶液重合又は塊状重合などの公知の方法によって共重合することにより得られる。その際、架橋席モノマーの配合量は、アクリル系エラストマーを構成する全モノマー量の0.5〜10質量%とすることが好ましく、より好ましくは1〜5質量%、特に好ましくは1〜4質量%である。ここでいう「架橋席モノマーの配合量」は、配合される架橋席モノマーの総量であり、例えばエポキシ基を含有する架橋席モノマーのみを用いる場合はその配合量を示し、エポキシ基を含有するものと、他の架橋席モノマーを併用する場合は、それらの合計量を示す。
【0032】
なお、架橋席モノマーの配合量が、アクリル系エラストマーを構成する全モノマー量の0.5質量%未満の場合、積層体を架橋した際に、十分な架橋効果が得られず、架橋物の強度が不足することがある。また、架橋席モノマーの配合量が全モノマー量の10質量%を超えると、架橋物の硬度が高くなり、ゴム弾性が失われることがある。
【0033】
また、酢酸ビニルを共重合する場合には、その配合量は、アクリル系エラストマーを構成する全モノマー量の20質量%以下とすることが好ましい。酢酸ビニルの共重合量がこの範囲であれば、アクリル系エラストマーの耐熱老化性を維持しつつ、その機械特性の低下を抑制することができる。
【0034】
本実施形態の積層体1で使用するアクリル系エラストマーには、本発明の目的を損なわない範囲で、前述した各モノマーと共重合可能な他のモノマーが共重合されていてもよい。アクリル系エラストマーに共重合可能な他のモノマーは、特に限定されるものではないが、例えばメチルビニルケトンのようなアルキルビニルケトン、ビニルエチルエーテル、アリルメチルエーテルなどのビニル及びアリルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンなどのビニル芳香族化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルニトリル、アクリルアミド、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、エチレン、プロピオン酸ビニルなどのエチレン性不飽和化合物が挙げられる。
【0035】
これらのモノマーの中でも、特に、エチレンを共重合すると、アクリル系エラストマーの強度を著しく向上させることができる。ただし、ゴム弾性を低下させずに、良好な低温特性を得るためには、エチレンの配合量は、アクリル系エラストマーを構成する全モノマー量の50質量%以下とすることが望ましい。
【0036】
<オニウム塩>
アクリル系エラストマー層11を形成するアクリル系エラストマー組成物は、主成分であるアクリル系エラストマー100質量部に対して、オニウム塩を1〜5質量部含有している。このように、アクリル系エラストマー組成物にオニウム塩を添加することにより、フッ素系エラストマーとアクリル系エラストマーとの共架橋が可能となる。
【0037】
ただし、オニウム塩の含有量が、アクリル系エラストマー100質量部あたり1質量部未満の場合、アクリル系エラストマー層11の接着性が低下し、フッ素系エラストマー層12と間で剥離が生じる。また、オニウム塩の含有量が、アクリル系エラストマー100質量部あたり5質量部を超えると、アクリル系エラストマー層11の加工性が低下する。なお、アクリル系エラストマー組成物におけるオニウム塩含有量は、アクリル系エラストマー100質量部あたり2〜5質量部が好ましく、これにより、アクリル系エラストマー層11の接着力及び加工性を更に向上させることができる。
【0038】
アクリル系エラストマー組成物に添加されるオニウム塩は、特に限定されるものではないが、例えば有機アンモニウム塩や有機ホスホニウム塩などが挙げられる。それらの具体例としては、有機アンモニウム塩としては、例えばテトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド、トリメチルフェニルアンモニムクロリド、トリメチルステアリルアンモニムクロリド、トリメチルラウリルアンモニウムクロリド、トリメチルセチルアンモニウムクロリド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロリド、トリブチルベンジルアンモニウムクロリド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド、メチルトリフェニルアンモニウムブロミド、エチルトリフェニルアンモニウムブロミド、トリメチルフェニルアンモニウムブロミド、トリメチルベンジルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムチオシアナートなどが挙げられる。
【0039】
また、有機ホスホニウム塩としては、例えばテトラ−n−ブチルホスホニウムクロリド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ヘキシルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、4−ブトキシベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、アリルトリブチルホスホニウムクロリド、2−プロピニルトリフェニルホスホニウムブロミド、メトキシプロピルトリブチルホスホニウムクロリドなどが挙げられる。なお、これらの有機アンモニウム塩及び有機ホスホニウム塩などのオニウム塩は、単独で使用してもよいが、2種類以上を併用することもできる。
【0040】
なお、前述した特許文献4に記載の方法では、フッ素系エラストマーにオニウム塩を添加しているが、その場合、予め、高温下でフッ素樹脂やフッ素ゴムを混練した後、冷却しながらオニウム塩を添加する必要がある。これに対して、本実施形態の積層体1では、アクリル系エラストマーにオニウム塩を添加しているため、高温下での事前混練は不要である。その結果、本実施形態の積層体1では、特許文献4に記載の従来の方法に比べて、製造工程を簡素化することができる。
【0041】
<ポリオール化合物>
更に、アクリル系エラストマー層11を形成するアクリル系エラストマー組成物には、アクリル系エラストマー100質量部に対して、1〜8質量部のポリオール化合物が配合されている。この範囲でポリオール化合物を含有させることにより、アクリル系エラストマー層11の加工安定性を向上させることができる。
【0042】
ただし、ポリオール化合物の含有量が、アクリル系エラストマー100質量部あたり1質量部未満の場合、アクリル系エラストマー組成物のムーニースコーチ安定性を向上させる効果が不十分となる。また、ポリオール化合物の含有量が、アクリル系エラストマー100質量部あたり8質量部を超えると、積層体1としたときアクリル系エラストマー層11の接着性が低下する。なお、アクリル系エラストマー組成物におけるポリオール化合物含有量は、アクリル系エラストマー100質量部あたり2〜8質量部が好ましく、これにより、アクリル系エラストマー層11の接着力及び加工性を更に向上させることができる。
【0043】
アクリル系エラストマー組成物に添加されるポリオール化合物は、特に限定されるものではないが、例えばレゾルシノール、ヒドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’―ジヒドロキシジフェニル、4,4’―ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどのポリヒドロキシ芳香族化合物が挙げられる。なお、これらのポリオール化合物は、単独で使用することもできるが、2種類以上を併用することも可能である。
【0044】
<その他の成分>
アクリル系エラストマー層11を形成するアクリル系エラストマー組成物には、前述した各成分に加えて、架橋剤や架橋促進剤が添加されていてもよい。更に、実用に供するに際してその目的に応じ、充填剤、補強剤、可塑剤、滑剤、老化防止剤、安定剤、シランカップリング剤などを添加することもできる。
【0045】
架橋剤は、特に限定されるものではなく、アクリルゴム組成物の架橋に通常用いられるものを添加することができるが、特にイミダゾール化合物が好適である。また、架橋剤の添加量も、特に限定されるものではないが、アクリル系エラストマー100質量部に対して、0.1〜10質量部とすることが望ましく、これにより、必要十分な架橋処理を行うことができる。
【0046】
架橋剤として使用されるイミダゾール化合物としては、例えば1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチル−5−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール・トリメリット酸塩、1−アミノエチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−エチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシル−イミダゾールトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1)’〕エチル−s−トリアジン・イソシアヌール酸付加物、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ−(シアノエトキシメチル)イミダゾール、N−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、N,N’−ビス−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−アジボイルジアミド、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−ドデカンジオイルジアミド、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−エイコサンジオイルジアミド、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1)’〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−ウンデシルイミダゾリル−(1)’〕−エチル−s−トリアジン、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクロライドなどが挙げられる。
【0047】
架橋促進剤は、架橋速度を調整するものであり、本発明の効果を減退しない範囲で添加することができ、例えばアクリル系エラストマー100質量部あたり0.1〜5質量部添加することにより、十分な添加効果が得られる。このような架橋促進剤としては、例えば熱分解アンモニウム塩、有機酸、酸無水物、アミン類、硫黄及び硫黄化合物などのエポキシ樹脂の硬化剤を用いることができる。
【0048】
また、充填剤及び補強剤としては、通常のゴム用途に使用されているものを用いることができ、例えばカーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどが挙げられる。これら充填剤及び補強剤の添加量は、アクリル系エラストマーの補強効果の観点から、アクリル系エラストマー100質量部に対して、合計で20〜100質量部とすることが望ましい。
【0049】
更に、可塑剤としては、通常のゴム用途に使用されている可塑剤を用いることができ、例えばエステル系可塑剤、ポリオキシエチレンエーテル系可塑剤、トリメリテート系可塑剤などが挙げられる。なお、必要十分な可塑化効果を得るためには、可塑剤の添加量は、アクリル系エラストマー100質量部に対して、50質量部以下とすることが望ましい。
【0050】
<アクリル系エラストマー組成物の調整方法>
このアクリル系エラストマー組成物は、前述したエポキシ基を有するアクリル系エラストマー、オニウム塩及びポリオール化合物を所定量配合し、更に、必要に応じて、架橋促進剤、充填剤などのその他の成分を添加して、架橋温度以下の温度で混練することで得られる。
【0051】
なお、オニウム塩及びポリオール化合物の配合時期は、アクリル系エラストマーに各種配合剤を添加し混練する際に限定されるものではなく、アクリル系エラストマー層11とフッ素系エラストマー層12とを架橋接着する前に配合すればよい。これにより、特別な表面処理を施すことなく、アクリル系エラストマー層11とフッ素系エラストマー層12とを強固に架橋接着することができる。
【0052】
また、アクリル系エラストマー組成物を調整する際に使用されるゴム混練り装置は、アクリルゴム組成物を混練、成型、架橋する装置は、通常ゴム工業で用いるものを使用することができる。具体的には、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押し出し機などを用いることができる。そして、得られたアクリル系エラストマー組成物は、所望する各種の形状に成形され、後述するフッ素系エラストマー層12と積層される。
【0053】
[フッ素系エラストマー層12]
フッ素系エラストマー層12は、フッ素系エラストマーと、ポリオール架橋剤とを少なくとも含有するフッ素系エラストマー組成物を層状又はフィルム状に成形することにより得られる。ここで、「フッ素系エラストマー組成物」とは、配合されているエラストマーの50質量%以上がフッ素系エラストマーであるものをいう。なお、フッ素系エラストマーと共に配合されるエラストマーとしては、例えばヒドリンゴム、ニトリルゴム、水素添加ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、シリコーンゴム、クロルスルホン化ポリエチレンゴムなどが挙げられる。
【0054】
<フッ素系エラストマー>
フッ素系エラストマーは、フッ素系エラストマー層12を形成するフッ素系エラストマー組成物の主成分である。そして、このフッ素系エラストマーは、フッ素原子を有し、かつポリオール架橋が可能なものであればよい。その具体例としては、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフロライド、ポリビニルフロライド、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフロライド−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフロライド−プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。
【0055】
<ポリオール架橋剤>
フッ素系エラストマー層12を形成するフッ素系エラストマー組成物は、ポリオール架橋剤を含有している。ポリオール架橋剤は、フッ素系エラストマーの同一又は異なるポリマー鎖同士を架橋するものであり、このように架橋することにより、フッ素系エラストマー層の引張強さを向上させることができると共に、その弾性を良好にすることができる。また、ポリオール系架橋剤により架橋して得られる架橋フッ素系エラストマーは、架橋点に炭素−酸素結合を有するため、圧縮永久歪みが小さく、成形性に優れている。
【0056】
その際、ポリオール架橋剤の配合量は、主成分であるフッ素系エラストマー100質量部に対して、0.2〜10質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜3質量部、更に好ましくは1〜2.5質量部である。ポリオール架橋剤の配合量が、フッ素系エラストマー100質量部あたり0.2質量部未満の場合、組成物を架橋させる効果が少なくなり、架橋物の強度が不足することがある。また、ポリオール架橋剤の配合量が、フッ素系エラストマー100質量部あたり10質量部を超えると、架橋物の硬度が高くなり、ゴム弾性が失われることがある。
【0057】
フッ素系エラストマー組成物に配合されるポリオール架橋剤は、一般的にフッ素系エラストマー用として知られているポリオール系化合物を使用することができる。そして、各種ポリオール系化合物の中でも、ポリヒドロキシ化合物が好ましく、耐熱性に優れるポリヒドロキシ芳香族化合物が特に好ましい。
【0058】
ポリヒドロキシ芳香族化合物を使用する場合、その種類は、特に限定されるものではなく、例えばレゾルシノール、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’―ジヒドロキシジフェニル、4,4’―ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどを用いることが可能である。
【0059】
これらの中でも、架橋したフッ素系エラストマーの圧縮永久歪みが小さく、成形性に優れているという点でポリヒドロキシ化合物が好ましく、また、耐熱性が優れるという点でポリヒドロキシ芳香族化合物が好ましく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパンがさらに好ましい。なお、前述したポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いてフッ素系エラストマーの共重合体を凝析する場合は、ポリヒドロキシ芳香族化合物の金属塩は用いないことが好ましい。
【0060】
また、フッ素系エラストマー組成物には、ポリオール架橋剤と共に、架橋促進剤が配合されていることが望ましい。架橋促進剤を用いると、フッ素系エラストマー主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の形成を促進して、架橋反応を促進することができる。ポリオール系架橋の架橋促進剤としては、フッ素系エラストマー主鎖に付加しにくい性質を有する化合物が好ましく、一般にオニウム化合物が用いられる。
【0061】
架橋促進剤として配合されるオニウム化合物は、特に限定されるものではなく、例えば第4級アンモニウム塩などのアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩などのホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩などのオニウム塩が好ましい。また、架橋促進剤としてのオニウム塩を使用する場合、その種類は特に限定されるものではなく、例えば前述したアクリル系エラストマー組成物と同じ種類のものを用いることができる。
【0062】
また、架橋促進剤の添加量は、フッ素系エラストマー100質量部に対して、0.1〜2.0質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.5質量部、更に好ましくは0.1〜0.7質量部である。なお、架橋促進剤の添加量が、フッ素系エラストマー100質量部に対して、0.1質量部未満であると目的の架橋速度の促進効果が得られず、2.0質量部をこえると架橋速度が速くなりすぎるため、スコーチ(架橋工程前の初期架橋)や成形不良が発生しやすくなる。
【0063】
<その他の成分>
フッ素系エラストマー組成物には、必要に応じて、カーボンブラック、補強剤、軟化剤、老化防止剤、架橋剤、架橋促進剤、充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、受酸剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することもできる。また、前述したポリオール系架橋剤に加えて、ポリオール系架橋剤以外の架橋剤や架橋促進剤を1種又は2種以上配合してもよい。
【0064】
<フッ素系エラストマー組成物の調整方法>
前述したフッ素系エラストマー組成物は、フッ素系エラストマー、ポリオール架橋剤、必要に応じて、架橋促進剤、充填剤などのその他配合剤を、一般に使用されているゴム混練り装置を用いて混練りすることにより得られる。ゴム混練り装置としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押し出し機などを用いることができる。
【0065】
オニウム塩を添加方法は特に限定されないが、フッ素系エラストマー層とアクリル系エラストマー層とを架橋接着する前、例えばフッ素系エラストマーと各種配合剤などの混練時に添加する方法によって強固な架橋接着性を達成することができる。
【0066】
以上詳述したように、本実施形態の積層体1は、オニウム塩の添加によりアクリル系エラストマーとフッ素系エラストマーとが共架橋可能となるため、アクリル系エラストマー層11と、フッ素系エラストマー層12との接着性を向上させることができる。また、この積層体1を構成するアクリル系エラストマー組成物には、架橋遅延効果があるポリオール化合物が添加されているため、ムーニースコーチ安定性にも優れている。更に、本実施形態の積層体1では、高温下での事前混練などが不要であるため、簡素な工程で製造することが可能である。
【0067】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る架橋物について説明する。本実施形態の架橋物は、前述した第1の実施形態の積層体1を架橋したものである。アクリル系エラストマー層11と、フッ素系エラストマー層12は、界面でエラストマー同士を架橋させて、架橋接着させることが望ましい。そこで、本実施形態においては、これらの層を重ね合わせた状態で架橋し、架橋物としている。これにより、層間接着力が、より強固な積層体を得ることができる。
【0068】
その際の架橋方法は特に限定されず、プレス架橋、スチーム架橋、電子線架橋などの通常の架橋方法を採用することができる。また、架橋温度や架橋時間は、各エラストマー組成物の配合や架橋剤の種類に応じて適宜設定することができるが、通常は100〜200℃、1〜10時間で行われる。
【0069】
なお、積層体1を架橋する前に、アクリル系エラストマー層11及びフッ素系エラストマー層12のいずれか一方又は両方に表面処理を施すこともできるが、前述した積層体1はアクリル系エラストマーとフッ素系エラストマーとが共架橋可能であるため、このような表面処理を施さなくても、強固な架橋接着性を達成することができる。
【0070】
本実施形態の架橋物は、第1の実施形態の積層体を架橋しているため、フッ素系エラストマー層とアクリル系エラストマー層との層間接着性が向上する。特に、前述した第1の実施形態の積層体には、アクリル系エラストマー層に、オニウム塩及びポリオール化合物が添加されているため、層間接着性及び加工安定性に優れている。その結果、製造工程を煩雑化することなく、複数のエラストマー層が一体化し、強固に接着された積層体架橋物を実現することができる。
【0071】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る成形部材について説明する。本実施形態の成形部材は、例えば、ゴムホース、ガスケット及びパッキングなどのシール部品又は防振ゴム部品であり、前述した第1の実施形態の積層体又は第2の実施形態の架橋物により形成されている。
【0072】
ゴムホースとしては、例えば自動車、建設機械、油圧機器などのトランスミッションオイルクーラーホース、エンジンオイルクーラーホース、エアダクトホース、ターボインタークーラーホース、ホットエアーホース、ラジエターホース、パワーステアリングホース、燃料系統用ホース、ドレイン系統用ホースなどがある。これらのゴムホースの構成としては、一般的に行われているように補強糸若しくはワイヤーを、ホースの中間又はゴムホースの最外層に設けたものでもよい。
【0073】
また、シール部品としては、例えばエンジンヘッドカバーガスケット、オイルパンガスケット、オイルシール、リップシールパッキン、O−リング、トランスミッションシールガスケット、クランクシャフト、カムシャフトシールガスケット、バルブステム、パワーステアリングシールベルトカバーシール、等速ジョイント用ブーツ材及びラックアンドピニオンブーツ材などがある。
【0074】
防振ゴム部品としては、例えばダンパープーリー、センターサポートクッション、サスペンションブッシュなどがある。
【0075】
本実施形態の成形部材は、第1の実施形態の積層体又は第2の実施形態の架橋物で形成されているため、アクリル系エラストマー層により耐寒性の低下を抑制すると共に、フッ素系エラストマー層により耐熱老化性を向上させることができる。その結果、耐熱老化性及び耐寒性に優れた成形部材を、低コストで実現することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、アクリル系エラストマー組成物の組成を変えて、実施例及び比較例の積層体を作製し、架橋後の層間接着性及びアクリル系エラストマー組成物のムーニースコーチ安定性を評価した。
【0077】
具体的には、先ず、以下に示す方法及び条件で、4種類のアクリル系エラストマーA〜Dを作製した。
【0078】
<アクリル系エラストマーAの製造>
内容積40リットルの反応容器に、部分鹸化ポリビニルアルコール4質量%水溶液:17kg、酢酸ナトリウム:22gを投入し、予め攪拌機によりこれらを十分に混合し、均一懸濁液を作製した。槽内上部の空気を窒素で置換した後、攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、注入口よりモノマー成分(エチルアクリレート:5.5kg、n−ブチルアクリレート:5.5kg、グリシジルメタクリレート:0.15kg)と、t−ブチルヒドロペルオキシド0.5質量%水溶液:2kgとを、別々に投入して重合を開始させた。反応中槽内温度は55℃に保ち、6時間で反応を終了させ、重合液を得た。
【0079】
次に、生成した重合液に、硼酸ナトリウム0.3質量%水溶液:20kgを添加して重合体を固化し、脱水及び乾燥を行ってアクリル系エラストマーAを得た。このアクリル系エラストマーAは、グリシジルメタクリレートモノマー単位:1.3質量部と、エチルアクリレートモノマー単位:50質量部と、n−ブチルアクリレートモノマー単位:50質量部の共重合体組成であった。グリシジルメタクリレートモノマーの定量は、共重合体の生ゴム(架橋接着前)をクロロホルムに溶解し、過塩素酸酢酸溶液を用いた滴定により測定した。その他のモノマー単位成分は核磁気共鳴スペクトル法で各成分を定量した。
【0080】
<アクリル系エラストマーBの製造>
アクリル系エラストマーの原料であるモノマー成分の配合を、酢酸ビニル:2.2kg、n−ブチルアクリレート:8.8kg、グリシジルメタクリレート:0.17kgに変えた以外は、前述したアクリル系エラストマーAと同じ方法及び条件でアクリル系エラストマーBを得た。
【0081】
このアクリル系エラストマーBは、酢酸ビニルモノマー単位:20質量部と、n−ブチルアクリレートモノマー単位:80質量部と、グリシジルメタクリレート:1.5質量部の共重合体組成であった。なお、アクリル系エラストマーBと、後述するアクリル系エラストマーC、Dについて、グリシジルメタクリレートモノマーの定量法と、その他のモノマー単位成分の定量は、前述したアクリル系エラストマーAと同じ方法で行った。
【0082】
<アクリル系エラストマーCの製造>
内容積40リットルの反応容器に、部分鹸化ポリビニルアルコール4質量%水溶液:17kg、酢酸ナトリウム:22gを投入し、予め攪拌機でこれらを十分に混合し、均一懸濁液を作製した。槽内上部の空気を窒素で置換した後、エチレンを槽内上部に圧入し、圧力を35MPaに調整した。攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、注入口よりモノマー成分(エチルアクリレート:5.5kg、n−ブチルアクリレート:5.5kg、グリシジルメタクリレート:0.15kg)と、t−ブチルヒドロペルオキシド0.5質量%水溶液:2kgとを、別々に投入して重合を開始させた。反応中槽内温度は55℃に保ち、6時間で反応を終了させ、重合液を得た。
【0083】
次に、生成した重合液に、硼酸ナトリウム0.3質量%水溶液:20kgを添加して重合体を固化し、脱水及び乾燥を行ってアクリル系エラストマーCを得た。このアクリル系エラストマーCは、グリシジルメタクリレートモノマー単位:1.3質量部と、エチルアクリレートモノマー単位:50質量部と、n−ブチルアクリレートモノマー単位:47質量部と、エチレンモノマー単位:3質量部の共重合体組成であった。
【0084】
<アクリル系エラストマーDの製造>
アクリル系エラストマーの原料であるモノマー成分の配合を、エチルアクリレート:5.5kg、n−ブチルアクリレート:5.5kgに変えた以外は、前述したアクリル系エラストマーAと同じ方法及び条件で、アクリル系エラストマーDを得た。このアクリル系エラストマーDは、エチルアクリレートモノマー単位:50質量部と、n−ブチルアクリレートモノマー単位:50質量部の共重合体組成であった。
【0085】
<積層体の作成>
下記表1に示す配合(質量比)で調整したフッ素系エラストマー組成物(未架橋)を、厚さ2.5mmのシート状に成形して、フッ素系エラストマー層を形成した。
【0086】
【表1】

【0087】
また、前述したアクリル系エラストマーA〜Dと他の材料を、下記表2〜5に示す配合(質量比)で8インチオープンロールを用いて混練し、実施例1〜17、比較例1〜18のアクリル系エラストマー組成物を得た。次に、これらのアクリル系エラストマー組成物(未架橋)を、厚さ2.5mmのシート状に成形してアクリル系エラストマー層を形成した。そして、これらのアクリル系エラストマー層と、前述したフッ素系エラストマー層に密着させ、その状態でスチーム加熱式の熱プレスにて160℃×35分間加熱処理して、実施例及び比較例の各積層体の架橋物を得た。
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
【表5】

【0092】
なお、上記表1〜5に示す各実施例及び比較例で用いた試薬は以下の通りである。
・フッ素系エラストマー:ダイエルG558(ダイキン工業株式会社製,ポリオール架橋剤を製品中に含有する)
・酸化マグネシウム:キョーワマグ150(協和化学工業株式会社製)
・水酸化カルシウム:試薬特級(和光純薬工業株式会社製)
・カーボンSRF:旭#50(旭カーボン株式会社製)
・カーボンHAF:シースト#3(東海カーボン株式会社製)
・老化防止剤:ノクラックCD(大内新興化学工業株式会社製)
・ステアリン酸:ルナックS−90(花王株式会社製)
・ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド:試薬特級(和光純薬工業株式会社製)
・テトラ−n−ブチルアンモニウムチオシアナート:試薬特級(和光純薬工業株式会社製)
・テトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド:試薬特級(和光純薬工業株式会社製)
・テトラ−n−ブチルホスホニウムブロミド:試薬特級(和光純薬工業株式会社製)
・メチルトリフェニルホスホニウムブロミド:試薬特級(和光純薬工業株式会社製)
・エチルトリフェニルホスホニウムブロミド:試薬特級(和光純薬工業株式会社製)
・ヒドロキノン:試薬特級(和光純薬工業株式会社製)
・レゾルシノール:試薬特級(和光純薬工業株式会社製)
【0093】
次に、以下に示す方法で、実施例及び比較例のアクリル系樹脂組成物のムーニースコーチ安定性と、各積層体の架橋物(試験片)の層間接着性(剥離強度)を評価した。
【0094】
(層間接着性)
層間接着性は、引張り試験機を用いて、剥離速度を50mm/分として各試験片の180°剥離試験を行い、それにより得られた剥離強度により評価した。また、併せて、各試験片の剥離モードを観察し、材料破壊が生じたものを○、一部材料破壊が生じたものを△、層の界面で剥離したものを×として、評価した。
【0095】
(ムーニースコーチ安定性)
実施例及び比較例の各アクリル系エラストマー組成物について、JIS K6300に従って、125℃の測定条件下で、ムーニースコーチ時間(t5)を測定した。このムーニースコーチ時間(t5)の値が大きいほど、ムーニースコーチ安定性に優れているといえる。なお、フッ素系エラストマー組成物は、表1に示す配合の場合、ムーニースコーチ時間(t5)が10分程度であり、加工安定性に問題はないため、本実施例においては、オニウム塩添加により加工安定性の低下が懸念されるアクリル系エラストマー組成物のみを評価した。
【0096】
以上の結果を、上記表2〜5にまとめて示す。上記表2〜5から明らかなように、本発明の範囲内で作製した実施例1〜17の積層体は、特別な表面処理をしなくても、フッ素系エラストマー層とアクリル系エラストマー層との層間接着力が高い架橋物が得られた。更に、実施例1〜17のアクリル系エラストマー組成物は、ムーニースコーチ安定性にも優れていた。
【0097】
また、実施例1〜8と実施例9〜12とを比較すれば明らかなように、オニウム塩の種類によらず、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩のいずれのオニウム塩を用いた場合でも、層間接着性が優れた積層体架橋物が得られた。更に、実施例1〜16と比較例1〜10とを比較すれば明らかなように、ポリオール化合物を添加することでムーニースコーチ安定性が向上していることがわかる。
【0098】
一方、比較例1,7,8,9は、ムーニースコーチ安定性は良好であったが、実施例1〜8に比べて接着性が劣っていた。また、比較例2〜6,11〜17は、接着性は良好であったが、ムーニースコーチ安定性が不良であった。このように、ムーニースコーチ安定性が短いと、加工不良が発生する虞があり、積層体の作製が困難となる。
【0099】
これらの結果から、本発明によれば、層間接着性に優れた積層体、架橋物及び成形部材を実現できることが確認された。
【符号の説明】
【0100】
1 積層体
11 アクリル系エラストマー層
12 フッ素系エラストマー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を有するアクリル系エラストマーを主成分とし、該アクリル系エラストマー100質量部に対して、オニウム塩を1〜5質量部及びポリオール化合物を1〜8質量部含有するアクリル系エラストマー組成物により形成されたアクリル系エラストマー層と、
ポリオール架橋剤を含有するフッ素系エラストマー組成物により形成されたフッ素系エラストマー層と、
を少なくとも備える積層体。
【請求項2】
前記オニウム塩が、有機アンモニウム塩及び/又は有機ホスホニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ポリオール化合物が、ポリヒドロキシ芳香族化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体を架橋して得た架橋物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体又は請求項4に記載の架橋物からなる成形部材。
【請求項6】
ホース、シール部品又は防振ゴム部品として用いられることを特徴とする請求項5に記載の成形部材。

【図1】
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【公開番号】特開2013−67149(P2013−67149A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209248(P2011−209248)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】