説明

積層体およびその製造方法

【課題】プラスチック基材を劣化させることなく、光触媒粒子の脱落を防止し、かつ各層の密着性に優れた光触媒能を有する積層体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】プラスチック基材11と、前記プラスチック基材11上に形成された、酸化物系セラミックスを蒸着してなる蒸着層12と、前記蒸着層12上に形成された、ケイ酸アルカリ金属塩を含むアンカーコート層13と、前記アンカーコート層13上に形成された、二酸化チタンおよびケイ酸アルカリ金属塩を含む光触媒層14とを備えたことを特徴とする積層体10、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒能を有する積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陶器、ガラス等のセラミックスや、金属などの無機系耐熱素材からなる無機系基材に光触媒能を付与する方法として、二酸化チタンからなる光触媒層で無機系基材の表面を被覆する方法が知られている。また、光触媒能を持続させるためには、光触媒層と無機系基材との密着性を良好に維持することが重要である。
無機系基材の表面に光触媒層を形成させる方法として、例えば非特許文献1には、400℃以上、場合によっては800℃以上の高温で二酸化チタンを無機系基材に焼付ける方法が開示されている。
【0003】
一方、プラスチックなどの有機系素材からなる有機系基材は、無機系基材に比べて耐熱性に劣るため、高温で二酸化チタンを焼付けることで有機系基材の表面に光触媒層を形成させるのは困難であった。
そこで、有機系基材の場合は、通常、二酸化チタンが溶媒に分散した溶液を有機系基材の表面に塗布し、乾燥させて光触媒層を形成させる。
しかし、光触媒能を示す二酸化チタンは有機物分解能を有するので、有機系基材上に光触媒層を直接形成すると有機系基材が劣化しやすい。そのため、有機系基材と光触媒層との間に中間層を設け、有機系基材の劣化を防ぐ場合が多い。
【0004】
例えば特許文献1には、光触媒粒子の脱落防止や、脱落防止のために基材上で光触媒粒子を高温で焼結して定着させることによる基材の破損防止を目的として、光触媒粒子に水ガラスなどの難分解性結着剤を混合して光触媒層を形成したり、基材と光触媒層との間に水ガラスなどの難分解性結着剤からなる中間層を設けたりする方法が開示されている。
また、特許文献2には、物理蒸着法や化学蒸着法、またはシリコーン樹脂を混合したシリカゾルをコーティングする方法などにより、シリカ膜を中間層として高分子シート上に形成し、該中間層上に光触媒層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−171408号公報
【特許文献2】特開平10−309773号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】藤嶋昭、他著「入門ビジュアルサイエンス 光触媒のしくみ」、日本実業出版社、2000年発行、p142
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のように、光触媒粒子に難分解性結着剤を混合して光触媒層を形成する方法は、光触媒粒子が脱落することなく、プラスチック基材などの耐熱性が低い有機系基材上へ光触媒層を形成する方法として広く用いられている。しかしながら、有機系基材上に直接光触媒層を形成するため、光触媒層による有機系基材の劣化の問題は解決できない。
また、特許文献1には、有機系基材の劣化を防止するために、基材と光触媒層との間に難分解性結着剤からなる中間層を設ける方法も記載されているが、基材と中間層との密着性が充分ではなく、剥離することがあった。
【0008】
特許文献2に記載のように物理蒸着法や化学蒸着法により中間層を形成する場合、基材と中間層との密着性は良好であるが、中間層と光触媒層との密着性が不充分であった。一方、シリカゾルをコーティングする方法により中間層を形成する場合、中間層と光触媒層との密着性は改善されるものの、基材と中間層との密着性が不充分であった。
このように、有機系である基材と、主成分が無機系である光触媒層との両方に対して優れた密着性を有する中間層を設けることは困難であった。
【0009】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、プラスチック基材を劣化させることなく、光触媒粒子の脱落を防止し、かつ各層の密着性に優れた光触媒能を有する積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意検討した結果、光触媒層を形成する際に、光触媒粒子に水ガラスなどのバインダーを混合することで光触媒粒子の脱落を防止できること、プラスチック基材上に蒸着法により蒸着層を設けることで基材と蒸着層との密着性を良好に維持しつつ、光触媒による基材の劣化を防止できることに着目した。そこで、光触媒層と基材上に設けた蒸着層との間に、これら両方の層に対して優れた密着性を示すアンカーコート層をさらに設けることで、光触媒層と蒸着層とが強固に密着し、その結果、基材を劣化させることなく、光触媒粒子の脱落を防止し、しかも各層の密着性を充分に維持できることを見出した。具体的には、蒸着層を酸化物系セラミックスからなる層とし、かつアンカーコート層に、光触媒層に含まれるバインダーと同じ種類のバインダーを含有させることで、アンカーコート層が蒸着層と光触媒層の両方に対して優れた密着性を示すようになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の積層体は、プラスチック基材と、前記プラスチック基材上に形成された、酸化物系セラミックスを蒸着してなる蒸着層と、前記蒸着層上に形成された、ケイ酸アルカリ金属塩を含むアンカーコート層と、前記アンカーコート層上に形成された、二酸化チタンおよびケイ酸アルカリ金属塩を含む光触媒層とを備えたことを特徴とする。
また、前記酸化物系セラミックスが、二酸化ケイ素を含むことが好ましい。
さらに、前記アンカーコート層に含まれるケイ酸アルカリ金属塩が、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムであることが好ましい。
また、前記光触媒層に含まれるケイ酸アルカリ金属塩が、ケイ酸ナトリウムであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の積層体の製造方法は、プラスチック基材上に蒸着された酸化物系セラミックスからなる蒸着層上に、ケイ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を塗布してアンカーコート層を形成する工程と、前記アンカーコート層上に、二酸化チタンおよびケイ酸アルカリ金属塩を含む水性分散体を塗布して光触媒層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プラスチック基材を劣化させることなく、光触媒粒子の脱落を防止し、かつ各層の密着性に優れた光触媒能を有する積層体およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の積層体の一例を示す断面図である。
【図2】光触媒層の表面状態を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の積層体の一例について、図1を参照しながら説明する。
この例の積層体10は、プラスチック基材11と、該プラスチック基材上11に形成された蒸着層12と、該蒸着層12上に形成されたアンカーコート層13と、該アンカーコート層13上に形成された光触媒層14とを備えて構成されている。
なお、図1においては、説明の便宜上、寸法比は実際のものと異なったものである。
【0016】
<プラスチック基材>
プラスチック基材11の材質としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミドなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性および寸法安定性に優れる点からポリエステルが好ましい。
【0017】
プラスチック基材11の形状としては特に制限されず、フィルムやシートなどの薄膜形状でもよく、製袋後の袋状や金型などにより成型された立体形状でもよい。
プラスチック基材11の形状がフィルム状である場合、その厚さは5〜2000μmであることが好ましく、10〜1000μmであることがより好ましい。プラスチック基材11の厚さが5μm以上であれば、プラスチック基材が柔らかくなりすぎず皺などが発生しにくくなるので、プラスチック基材11上に形成される蒸着層12に斑が生じにくい。一方、プラスチック基材11の厚さが2000μm以下であれば、充分な柔軟性を有する積層体10が得られやすくなるため、積層体10を様々な用途に適用しやすくなる。
【0018】
<蒸着層>
蒸着層12は、プラスチック基材11上に酸化物系セラミックスを蒸着してなる層である。酸化物系セラミックスを用いることで、プラスチック基材11上に極めて均一に、かつ安定して蒸着することができる。さらに、透明な蒸着層が容易に得られるので、透明性が求められる用途に積層体10を用いる場合に好適である。
従って、蒸着層12は、プラスチック基材11との密着性に優れる。また、蒸着層12は、後述する光触媒層14の光触媒の有機物分解能がプラスチック基材11に作用するのを防止する遮断性を有するので、プラスチック基材11が光触媒層14によって劣化するのを防止できる。
【0019】
蒸着膜の均一性、安定性、および透明性に優れる点から、蒸着層12の酸化物系セラミックスとしては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムが好ましい。さらに、後述するアンカーコート層13との密着性に優れる点からも、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムが好ましいが、中でもアンカーコート層13に含まれるケイ酸アルカリ金属塩と同じケイ酸化合物系の二酸化ケイ素が特に好ましい。また、二酸化ケイ素のみの一元蒸着のみでなく、二酸化ケイ素を含むものであれば、例えば酸化アルミニウム等の他の酸化物系セラミックスとの二元またはそれ以上の多元蒸着であっても、同様にアンカーコート層との密着性に優れる点から好ましい。
【0020】
蒸着層12の厚さは10〜200nmであることが好ましく、20〜100nmであることがより好ましい。蒸着層12の厚さが10nm以上であれば、充分な遮断性を発揮できるので、光触媒能によりプラスチック基材11が劣化するのを防止できる。一方、蒸着層12の厚さが200nm以下であれば、蒸着層12にクラックが発生しにくい。
【0021】
<アンカーコート層>
アンカーコート層13は、ケイ酸アルカリ金属塩を含む層である。このケイ酸アルカリ金属塩は、後述する光触媒層14にもバインダーとして含まれるので、アンカーコート層13は光触媒層14との密着性に優れる。また、上述したように、ケイ酸アルカリ金属塩は、蒸着層12を構成する酸化物系セラミックスが二酸化ケイ素である場合、または二酸化ケイ素を含む場合、同じケイ酸化合物系に分類されるので、蒸着層12との密着性にも優れる。
【0022】
アンカーコート層13に含まれるケイ酸アルカリ金属塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどが挙げられる。なお、アンカーコート層13に含まれるケイ酸アルカリ金属塩は、後述する光触媒層14に含まれるケイ酸アルカリ金属塩と同じ化合物であってもよいし、異なる化合物であってもよいが、アンカーコート層13と光触媒層14との密着性が特に優れる点で、同じ化合物であることが好ましい。
【0023】
アンカーコート層13の厚さは0.01〜2.00μmであることが好ましく、0.05〜1.00μmであることがより好ましい。アンカーコート層13の厚さが0.01μm以上であれば、蒸着層12および光触媒層14に対して充分な密着性を発現できるので、蒸着層12と光触媒層14とがより強固に密着する。一方、アンカーコート層13の厚さが2.00μmを越えても密着性の効果は頭打ちになる。製造コストや、積層体10全体の厚さを薄くする観点で、アンカーコート層13の厚さの上限は2.00μm以下であれば充分である。
【0024】
<光触媒層>
光触媒層14は、二酸化チタンおよびケイ酸アルカリ金属塩を含む層である。光触媒層14がバインダーであるケイ酸アルカリ金属塩を含むことで、二酸化チタン粒子の脱落を防止でき、得られる積層体10に優れた光触媒能を付与できる。加えて、上述したアンカーコート層13との密着性にも優れる。
【0025】
二酸化チタンとしては、光触媒能を有するものであれば特に制限されないが、平均粒子径が0.005〜2.000μmのものを用いるのが好ましい。なお、二酸化チタンにはアナターゼ型とメチル型の結晶系があるが、アナターゼ型の二酸化チタンは特に光触媒活性に優れるため好適である。また、可視光で光触媒能が得られるような二酸化チタンも好適である。
さらに、アンカーコート層13上に光触媒層14をより形成させやすくする点で、二酸化チタンが水に分散した水性分散体を用いるのが好ましい。二酸化チタンの水性分散体としては、例えば石原産業株式会社製の「MPT−422」などが好適である。
【0026】
光触媒層14に含まれるケイ酸アルカリ金属塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどが挙げられる。アンカーコート層13上に光触媒層14をより形成させやすくする点で、アンカーコート層13に含まれるケイ酸アルカリ金属塩と同様に、ケイ酸アルカリ金属塩であるケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムが水に溶解した水溶液を用いるのが好ましい。
これらの中でも、後述するように二酸化チタンが光触媒能を充分に発揮できる点でケイ酸ナトリウム、特にケイ酸ナトリウムが水に溶解した水溶液、いわゆる水ガラスが特に好ましい。
ケイ酸ナトリウムが好ましい理由は以下の通りである。
【0027】
二酸化チタン粒子は、光触媒層14中で均一に分散しているが、図2(a)に示すように、ケイ酸アルカリ金属塩としてケイ酸ナトリウム14bを用いた場合、光触媒層14の表面に存在する二酸化チタン粒子14aは、光触媒層14の表面から露出した状態となりやすい。その結果、光触媒能が充分に発揮されやすくなる。一方、図2(b)に示すように、ケイ酸アルカリ金属塩としてケイ酸カリウム14cを用いた場合、光触媒層14の表面に存在する二酸化チタン粒子14aは、光触媒層14の表面から露出しにくい傾向にある。従って、ケイ酸ナトリウムを用いた場合に比べて光触媒能が充分には発揮されにくくなることがある。
【0028】
二酸化チタンとケイ酸アルカリ金属塩の質量比は、二酸化チタン:ケイ酸アルカリ金属塩=1.5:1.0〜10.0:1.0が好ましく、1.8:1.0〜6.0:1.0がより好ましい。ケイ酸アルカリ金属塩の割合が多すぎると、光触媒能が充分に発揮されにくくなる。一方、ケイ酸アルカリ金属塩の割合が少なすぎると、光触媒層14とアンカーコート層13との密着性が低下しやすくなる。
【0029】
光触媒層14は、二酸化チタンおよびケイ酸アルカリ金属塩のみから構成されていてもよいし、本発明の効果を損なわない範囲内で他の成分を含んでいてもよい。具体的には、弱い光でも光触媒能を充分に発現させるために、白金やパラジウム等を配合してもよいし、銀や銅を配合してもよい。また、可視光下で光触媒能を発現させるために、ルテニウムやクロムを微量配合してもよいし、窒素をドープしてもよい。
【0030】
光触媒層14の厚さは1〜10μmであることが好ましく、2〜5μmであることがより好ましい。光触媒層14の厚さが1μm以上であれば、ケイ酸アルカリ金属塩によるバインダー効果が充分に発揮され、アンカーコート層13との密着性を良好に維持できる。一方、光触媒層14の厚さが10μm以下であれば、乾燥不足や乾燥ムラが起こりにくく、二酸化チタン粒子の脱落をより防止できる。
【0031】
<その他>
本発明の積層体10は、プラスチック基材11と、蒸着層12と、アンカーコート層13と、光触媒層14のみから構成されていてもよいし、必要に応じてプラスチック基材の蒸着層12が形成された側とは反対側の表面に、他の層を設けてもよい。ただし、光触媒層14上に他の層を設けると、積層体10が充分な光触媒能を発揮しにくくなるので、光触媒層14上には他の層を設けないのがよい。
なお、プラスチック基材11と蒸着層12との間には、プラスチック基材11と蒸着層12との密着性を向上させる目的などで中間層が設けられていてもよい。また、蒸着層12とアンカーコート層13との間には、蒸着層12を保護する目的などで保護層が設けられていてもよい。本発明においては、これら中間層や保護層を蒸着層12に含むものとする。
【0032】
<積層体の製造方法>
以下、積層体10の製造方法について説明する。
まず、プラスチック基材11上に蒸着された酸化物系セラミックスからなる蒸着層12上に、アンカーコート層13を形成する。
酸化物系セラミックスが蒸着した蒸着層12が形成されたプラスチック基材11は、市販品として入手できる。具体的には、酸化物系セラミックスが蒸着したポリエチレンテレフタレートとして、ポリエチレンテレフタレートに二酸化ケイ素が蒸着したフィルム(三菱樹脂株式会社製の「テックバリアVX」)、ポリエチレンテレフタレートに酸化アルミニウムが蒸着したフィルム(東セロ株式会社製の「TL−PET−H#12」)、ポリエチレンテレフタレートに二酸化ケイ素および酸化アルミニウムが二元蒸着したフィルム(東洋紡績株式会社製の「エコシアールVE500」などが好適である。また、ポリエチレンテレフタレートの代わりに、酸化物系セラミックスが蒸着したナイロン6のフィルム、酸化物系セラミックスが蒸着したナイロン66のフィルムなども好適に使用できる。
また、プラスチック基材11上に、物理蒸着法や化学蒸着法などによって酸化物系セラミックスを蒸着し、蒸着層12を形成してもよい。
【0033】
アンカーコート層13は、上述したケイ酸アルカリ金属塩を水で希釈してアンカーコート層用の水溶液を調製し、該水溶液を蒸着層12上に塗布し、乾燥することで形成できる。また、ケイ酸アルカリ金属塩として、ケイ酸ナトリウムが水に溶解した水ガラスを用いる場合、水ガラスそのものをアンカーコート層用の水溶液として蒸着層12上に塗布してもよいが、所望の厚さのアンカーコート層13を容易に形成するためには、水ガラスを水でさらに希釈して、これをアンカーコート層用の水溶液として用いるのが好ましい。
アンカーコート層用の水溶液の濃度は特に制限されないが、所望の厚さのアンカーコート層13を容易に形成するには、水溶液100質量%中のケイ酸アルカリ金属塩の含有量が3〜10質量%になるように調製するのが好ましい。
【0034】
アンカーコート層用の水溶液の塗布方式としては、蒸着層12上に均一、均質に塗布できる方式であればよく、グラビアコート方式が最も一般的な塗布方式であるが、本発明はこれに限定されない。例えばマイクログラビアコート方式、コンマコート方式、ロールコート方式、リバースロールコート方式、バーコート方式、キスコート方式、フローコート方式、ギャップコート方式など、必要に応じて適用すればよい。
また、乾燥方法としては特に制限されないが、通常、熱風乾燥などの加熱法により、50〜100℃で加熱するのが好ましい。加熱時間は2分以内が好ましい。
【0035】
ついで、アンカーコート層13上に光触媒層14を形成する。光触媒層14は、上述した二酸化チタンおよびケイ酸アルカリ金属塩と、必要に応じて他の成分とを混合し、これを水に分散させて光触媒層用の水性分散体を調製し、該水性分散体をアンカーコート層13上に塗布し、乾燥することで形成できる。
アンカーコート層13上への塗布のしやすさの観点から、粉末状の二酸化チタンを用いる場合は二酸化チタンを水に分散させて用いるのが好ましい。また、市販品として入手できる、二酸化チタンが水に分散した水性分散体を用いてもよい。一方、ケイ酸アルカリ金属塩は水に溶解して用いるのが好ましく、特にケイ酸ナトリウムが水に溶解した水ガラスを用いるのが好ましい。二酸化チタンの水性分散体やケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を用いる場合は、これらを混合した混合物を光触媒層用の水性分散体としてアンカーコート層13上に塗布してもよいが、水性分散体の粘度を低下させることでより塗布しやすくなる観点から混合物を水でさらに希釈して、これを光触媒層用の水性分散体として用いるのが好ましい。
【0036】
光触媒層用の水性分散体の濃度は特に制限されないが、所望の厚さの光触媒層14を容易に形成するには、水性分散体100質量%中の二酸化チタンの含有量が2〜30質量%、ケイ酸アルカリ金属塩の含有量が10〜50質量%になるように調製するのが好ましい。
【0037】
なお、光触媒層用の水性分散体を調製する際は、微粒子を媒体中に効果的に分散できる分散機を用いて、二酸化チタンとケイ酸アルカリ金属塩が均一になるように攪拌・混合する。分散機としては、例えば超音波分散機、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、ホモジナイザーなどの分散機などが挙げられる。
水性分散体中での二酸化チタン粒子の分散が不充分である場合には、二酸化チタンの粒子が凝集して沈降しやすくなる。その結果、光触媒用の水性分散体をアンカーコート層13上に塗布しても、均一で均質な光触媒層が形成されず、充分な光触媒能が発揮されないことがある。また、形成された光触媒層中でも二酸化チタン粒子が沈降し、充分な光触媒能が発揮されないことがある。
二酸化チタン粒子の沈降を抑制するには、光触媒層用の水性分散体を調製直後に塗布するのが好ましい。また、二酸化チタン粒子が充分に分散されていても、時間経過と共に凝集して沈降することがある。これを防止するためには、水性分散体の粘度を増加させたり、電気的な安定状態を作るように光触媒層用の水性分散体を調製したりするのも有効である。
【0038】
光触媒層用の水性分散体の塗布方式としては、アンカーコート層13上に均一、均質に塗布できる方式であればよく、アンカーコート層用の水溶液の塗布方式の説明において先に例示した各種塗布方式を適用できる。
また、乾燥方法としては特に制限されないが、通常、熱風乾燥などの加熱法により、50〜100℃で加熱するのが好ましい。加熱時間は2分以内が好ましい。
【0039】
このようにして得られる積層体10は、優れた光触媒能を有する。
ところで、光触媒能には、酸化作用、抗菌作用、親水化作用、防汚作用など、様々な作用があるが、例えば酸化作用を指標として光触媒能を評価することができる。具体的には、イソプロパノールの酸化作用によりアセトンが生成する反応をモニターすることで、光触媒能の一つである酸化作用の起こりやすさを評価することができ、アセトンの生成速度の値が大きくなるほど酸化作用に優れていることを意味する。この評価方法により、イソプロパノールの酸化反応開始から30分後におけるアセトンの生成速度が0.1ppm/分以上であれば、光触媒能として充分な酸化作用を有していると判断でき、本発明の積層体10はこれを満たしている。
イソプロパノールの酸化作用を指標とした光触媒能の評価方法は、以下の通りである。
【0040】
まず、積層体から縦と横の大きさが2×2cmの試料を切り出し、容量300mLの光触媒能測定セルに入れ、密閉する。
ついで、200Wの水銀−キセノンランプをセル内に照射して、セル内および試料表面を浄化する。
ついで、液体用マイクロシリンジを用いてイソプロパノール0.1μLをセル内に投入し、イソプロパノールが吸着平衡になるまで暗所で放置する。
その後、エネルギー0.5mW/cmの紫外光をセル内に照射し、一定間隔でセル内のガスを採取する。ガスクロマトグラフィーを用いて採取したガスを分析し、下記反応式(1)で示される光触媒によるイソプロパノールの酸化反応によって減少するイソプロパノールの量、および酸化反応により生成するアセトンの生成量を測定する。
(CH)CHOH+(1/2)O→(CH)CO(CH)+HO ・・・(1)
【0041】
そして、紫外光照射直後から30分後におけるアセトンの生成量を測定し、下記式(2)よりアセトンの生成速度を求める。
アセトンの生成速度(ppm/分)=アセトンの生成量(ppm)/30(分) ・・・(2)
【0042】
以上説明した本発明の積層体は、上述したプラスチック基材と、蒸着層と、アンカーコート層と、光触媒層とを備える。
プラスチック基材には、蒸着法により蒸着層が形成されているので、プラスチック基材と蒸着層との密着性は良好である。加えて、蒸着層はプラスチック基材と光触媒層との間に介在しているため、光触媒の有機物分解能によるプラスチック基材の劣化を防止できる。
光触媒層は、バインダーとしてケイ酸アルカリ金属塩を含むので、二酸化チタンの脱落を防止できる。従って、本発明の積層体は優れた光触媒能を有する。
【0043】
アンカーコート層は、蒸着層を構成する酸化物系セラミックスを二酸化ケイ素とした場合、同じケイ酸化合物系のケイ酸アルカリ金属塩を含むことになるので、蒸着層に対して密着性に優れる。
また、アンカーコート層は、光触媒層中のバインダーと同じケイ酸アルカリ金属塩を含むので、光触媒層に対しても密着性に優れる。
このように、蒸着層と光触媒層の間に、これら両方の層に対して優れた密着性を示すアンカーコート層を設けることで、蒸着層と光触媒層とが強固に密着する。従って、本発明の積層体は各層の密着性に優れ、層間剥離しにくい。
【0044】
本発明の積層体は、包装袋、壁紙などとして好適に使用できる。また、粘着剤などを介して窓ガラスや壁材等に貼着して使用してもよい。さらに、所望の形状に加工したプラスチック基材を用い、該プラスチック基材表面に上述した各層を形成して得られる積層体を各種物品として使用することもできる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によって限定されない。
ここで、各実施例および比較例で実施した評価方法を以下に示す。
【0046】
(1)密着性の評価
積層体の光触媒層側の表面に、セロハンテープ(ニチバン株式会社製)を貼着し、ついで剥がす操作を実施して、各層の密着性を評価した。
【0047】
(2)光触媒能の測定
積層体から縦と横の大きさが2×2cmの試料を切り出し、容量300mLの光触媒能測定セルに入れ、密閉した。
ついで、200Wの水銀−キセノンランプをセル内に照射して、セル内および試料表面を浄化した。
ついで、液体用マイクロシリンジを用いてイソプロパノール0.1μLをセル内に投入し、イソプロパノールが吸着平衡になるまで暗所で放置した。
その後、エネルギー0.5mW/cmの紫外光をセル内に照射し、紫外光照射直後から30分後におけるセル内のガスを採取した。ガスクロマトグラフィーを用いて採取したガスを分析し、イソプロパノールの酸化反応により生成するアセトンの生成量を測定し、下記式(2)よりアセトンの生成速度を求め、これを光触媒能の指標とした。
アセトンの生成速度(ppm/分)=アセトンの生成量(ppm)/30(分) ・・・(2)
【0048】
[実施例1]
ケイ酸ナトリウム溶液(関東化学株式会社製、試薬1級、SiOの含有量35〜38質量%、NaOの含有量17〜19質量%)を水で9倍に希釈し、アンカーコート層用の水溶液を調製した。
別途、二酸化チタンの水性分散体(石原産業株式会社製の「MPT−422」、TiOの含有量18.3質量%)90gと、ケイ酸ナトリウム溶液10gと、水80gとをホモジナイザー(エム・テクニック株式会社製の「クレアミックス」)にて5分間攪拌し、二酸化チタンが均一に分散した光触媒層用の水性分散体を調製した。
【0049】
プラスチック基材としてのポリエチレンテレフタレート上に、二酸化ケイ素が物理蒸着した蒸着層が形成されたフィルム(三菱樹脂株式会社製の「テックバリアVX」、厚さ12μm)を用いた。このフィルムの蒸着層上に、先に調製したアンカーコート層用の水溶液を、乾燥後の厚さが0.3μmになるようにメイヤーバーNo.4を用いて塗布し、80℃で30秒間乾燥させ、アンカーコート層を形成した。
ついで、アンカーコート層上に、先に調製した光触媒層用の水性分散体を、乾燥後の厚さが3μmになるようにメイヤーバーNo.24を用いて塗布し、80℃で30秒間乾燥させ、光触媒層を形成し、積層体を得た。蒸着層、アンカーコート層、および光触媒層を構成する成分を表1に示す。
得られた積層体について、密着性の評価および光触媒能の測定を行った。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例2]
ポリエチレンテレフタレート上に、酸化アルミニウムが物理蒸着した蒸着層が形成されたフィルム(東セロ株式会社製の「TL−PET−H#12」、厚さ12μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
得られた積層体について、密着性の評価および光触媒能の測定を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例3]
ケイ酸ナトリウム溶液の代わりに、ケイ酸カリウム溶液(和光純薬工業株式会社製、KSiOの含有量27〜29質量%)を、水酸化ナトリウム水溶液と同等のpHにするため、水酸化カリウムでpH=12.5に調製したものを用いた以外は、実施例1と同様にして水で希釈してアンカーコート層用の水溶液を調製した。得られたアンカーコート層用の水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
得られた積層体について、密着性の評価および光触媒能の測定を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例4]
ケイ酸ナトリウム溶液10gの代わりに、ケイ酸カリウム溶液10gを用いた以外は、実施例1と同様にして光触媒層用の水性分散体を調製した。得られた光触媒層用の水性分散体を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
得られた積層体について、密着性の評価および光触媒能の測定を行った。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
蒸着層上にアンカーコート層を形成させなかった以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
得られた積層体について密着性の評価を行ったところ、密着性が悪く、セロハンテープに積層体の一部が付着しており、層間剥離が起こった。評価後の積層体の厚さを測定した結果、フィルムの厚さと同じ12μmであったことから、層間剥離は蒸着層と光触媒層との間で発生したと思われる。
また、得られた積層体について、光触媒能の測定を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例2]
酸化物系セラミックスが蒸着されておらず、代わりに表面にはコロナ処理が施されただけのポリエチレンテレフタレート製のフィルム(東洋紡績株式会社製の「エスペット T400」、厚さ12μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
得られた積層体について密着性の評価を行ったところ、密着性が悪く、セロハンテープに積層体の一部が付着しており、層間剥離が起こった。別途、比較例2で用いたフィルム上にアンカーコート層のみを形成させて作製した試験片について密着性の評価を行ったところ、同様に層間剥離が起こった。これらの結果より、比較例2で得られた積層体は、フィルムのコロナ処理面とアンカーコート層との間で発生したと思われる。
また、得られた積層体について、光触媒能の測定を行った。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例3]
ケイ酸ナトリウム溶液10gの代わりに、コロイダルシリカ水分散液(日産化学工業株式会社製の「スノーテックス 30」、SiOの含有量18.3質量%)90gを用い、かつ水を配合させなかった以外は、実施例1と同様にして光触媒層用の水性分散体を調製した。得られた光触媒層用の水性分散体を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
得られた積層体について密着性の評価を行ったところ、密着性が悪く、セロハンテープに積層体の一部が付着しており、層間剥離が起こった。別途、比較例3で用いたフィルムの蒸着層上にアンカーコート層のみを形成させて作製した試験片について密着性の評価を行ったところ、層間剥離は起こらなかった。これらの結果より、比較例3で得られた積層体は、アンカーコート層と光触媒層との間で発生したと思われる。
また、得られた積層体について、光触媒能の測定を行った。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から明らかなように、各実施例で得られた積層体は、層間剥離が見られず、各層の密着性が良好であった。また、各実施例で得られた積層体は、優れた光触媒能を有していた。特に実施例1、3で得られた積層体は光触媒能が非常に優れていた。
なお、実施例2で得られた積層体の光触媒能は、実施例1で得られた積層体に比べて若干低かった。
また、実施例4で得られた積層体の光触媒能は、問題ない程度ではあったが、実施例1〜3で得られた積層体に比べると低かった。これは以下のように考えられる。
すなわち、実施例4では、光触媒層に含まれるケイ酸アルカリ金属塩としてケイ酸カリウムを用いたため、ケイ酸ナトリウムを用いた実施例1〜3に比べて、光触媒層の表面に存在する二酸化チタンが露出しにくい。その結果、光触媒能が実施例1〜3に比べて充分に発揮されず、低下したものと考えられる。
【0058】
一方、比較例1で得られた積層体は、蒸着層と光触媒層との間にアンカーコート層が設けられていないので、蒸着層と光触媒層の密着性が悪いと思われ、層間剥離が起こりやすかった。加えて、光触媒層の形成後、光触媒能の測定に供するまでの間に、層間剥離により二酸化チタン粒子の脱落が起こり、結果として光触媒層中の二酸化チタン粒子量が減少したため、光触媒能が低下したと思われる。
比較例2で得られた積層体は、プラスチック基材とアンカーコート層の間に蒸着層が設けられていないので、プラスチック基材とアンカーコート層の密着性が悪いと思われ、層間剥離が起こりやすかった。加えて、光触媒層の形成後、光触媒能の測定に供するまでの間に、層間剥離により二酸化チタン粒子の脱落が起こり、結果として光触媒層中の二酸化チタン粒子量が減少したため、光触媒能が低下したと思われる。
比較例3で得られた積層体は、光触媒層に含まれるバインダーがコロイダルシリカであったため、アンカーコート層と光触媒層との密着性が悪いと思われ、層間剥離が起こりやすかった。加えて、コロイダルシリカはケイ酸アルカリ金属塩に比べてバインダー性能に劣るため、二酸化チタン粒子が脱落しやすく、その結果、光触媒能が低下した。
【符号の説明】
【0059】
10:積層体、11:プラスチック基材、12:蒸着層、13:アンカーコート層、14:光触媒層、14a:二酸化チタン粒子、14b:ケイ酸ナトリウム、14c:ケイ酸カリウム。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材と、
前記プラスチック基材上に形成された、酸化物系セラミックスを蒸着してなる蒸着層と、
前記蒸着層上に形成された、ケイ酸アルカリ金属塩を含むアンカーコート層と、
前記アンカーコート層上に形成された、二酸化チタンおよびケイ酸アルカリ金属塩を含む光触媒層とを備えたことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記酸化物系セラミックスが、二酸化ケイ素を含むことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記アンカーコート層に含まれるケイ酸アルカリ金属塩が、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記光触媒層に含まれるケイ酸アルカリ金属塩が、ケイ酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
プラスチック基材上に蒸着された酸化物系セラミックスからなる蒸着層上に、ケイ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を塗布してアンカーコート層を形成する工程と、
前記アンカーコート層上に、二酸化チタンおよびケイ酸アルカリ金属塩を含む水性分散体を塗布して光触媒層を形成する工程とを有することを特徴とする積層体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−116038(P2011−116038A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275710(P2009−275710)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000143880)株式会社細川洋行 (130)
【Fターム(参考)】