説明

積層体およびその製造方法

【課題】接着剤を使用せず、異物や残留溶剤等が滲出することにない、ガスバリア性、遮光性および強度に優れる積層体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層、および前記薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなるバリア性フィルムと、ポリアミド不織布とが、前記バリア性フィルムのガスバリア性保護層と前記ポリアミド不織布とが対向するように、積層した積層体であって、前記ガスバリア性保護層が、少なくとも水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液を塗布して得られる被膜からなり、前記ガスバリア性保護層と前記ポリアミド不織布との界面の少なくとも一部で、前記ガスバリア性保護層中の原子と、前記ポリアミド不織布中の原子との間に結合が形成されて接着された積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関し、さらに詳細には、熱可塑性樹脂フィルム上に、薄膜層およびガスバリア性保護層を設けたバリア性フィルムと、ポリアミド不織布とを、バリア性フィルムのガスバリア性保護層がポリアミド不織布に対向するように、接着剤を介さずに接着した積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の種々の高分子材料を繊維化したものウェッブ状に形成した不織布が広く使用されている。これら不織布は、使用する高分子材料の特性や繊維の特性に応じてさまざまな機能を発現し、その機能が発揮できるような用途に使用される。
【0003】
また、各種不織布はそのまま単独で使用されることもあるが、異なる高分子材料からなる不織布どうしを重ね合わせて不織布の積層体としたり、不織布とフィルムとを貼り合わせて、より高機能を発現できるような形態に加工することも行われている。このような積層体を形成する場合、接着剤(ラミネート樹脂)を用いて、二種の不織布を重ね合わせたり、不織布とフィルムとを重ね合わせて接着することが行われている。また、不織布やフィルムの材料によっては、ヒートシール加工、すなわち、熱を加えて、一方または両方の繊維ないしフィルムを軟化、溶融させて、互いの材料を接着することが行われている。
【0004】
また、機能性フィルムとして、ポリエステル樹脂フィルム上に金属蒸着膜を形成したり、ガスバリア性保護層を設けたバリア性の積層フィルムが知られている。バリア性積層フィルムは、飲食品や医薬品、電子部材等のパッケージ材料として使用されているが、上記したような不織布と積層することも行われている。
【0005】
しかしながら、異種材料からなる不織布ないしフィルムをラミネート樹脂を介して接着して積層体とした場合、ラミネート樹脂が不織布の開口部分を塞いでしまい、不織布本来の性能が低下してしまうことがあった。また、ラミネート樹脂成分が徐々に積層体から外部に溶出または揮発する場合があり、特に、安全性やクリーン性が重視される医療用分野においては、使用するラミネート樹脂によっては、不織布積層体に包装された内容物等を汚染してしまうことがあった。さらに、不織布積層体の使用分野によっては、長期使用によりラミネート樹脂自体が劣化することもあり、特に屋外等で使用される外装用途においては、ラミネート加工した積層体の耐候性が問題となることもあった。一方、不織布どうし、または不織布とフィルムとを貼り合わせてヒートシールして積層体を形成する場合には、ラミネート樹脂を使用しないため、上記のような問題は生じないものの、使用する材料によってはヒートシールできなかったり、接着強度が弱く実用に耐えないといった場合があった。
【0006】
ところで、放射線や電子線を用いて材料の表面改質を行うことが従来から行われている。例えば、特開2003−119293号公報(特許文献1)には、フッ素系樹脂に放射線を照射することにより架橋複合フッ素系樹脂が得られることが提案されている。また、Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127(非特許文献1)には、ポリテトラフルオロエチレンフィルムとポリイミドフィルムとを積層させて高温下で電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、互いを接着することが提案されている。また、Material Transactions Vol.50, No.7 (2009), pp1859-1863(非特許文献2)には、ポリカーボネート樹脂の表面をナイロンフィルムで覆い、その上から電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、ポリカーボネート樹脂表面にナイロンフィルムを接着する技術が提案されている。さらに、日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531(非特許文献3)には、シリコーンゴム上に置いたナイロンフィルムの上からEBを照射することにより、互いを接着できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−119293号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127
【非特許文献2】Material Transactions Vol.50, No. 7(2009), pp1859-1863
【非特許文献3】日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、今般、ガスバリア性フィルムとして知られる熱可塑性樹脂フィルム上に、薄膜層およびガスバリア性保護層を設けたバリア性フィルムと、ポリアミド不織布とを積層した積層体の製造において、ガスバリア性フィルムおよび/またはポリアミド不織布に電子線を照射することにより、ラミネート樹脂等を用いることなく、バリア性フィルムとポリアミド不織布とを強固に接着できることを見いだした。そして、ガスバリア性保護層を含むバリア性フィルムとポリアミド不織布とを重ね合わせた積層体のように、従来、接着剤により互いを接着していた積層体であっても、電子線照射によれば、接着剤を使用しなくても、バリア性フィルム側の原子とポリアミド不織布側の原子との間に結合が形成されて、互いが強固に接着できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、ガスバリア性フィルムとポリアミド不織布とを接着剤を使用せずに接着した積層体であって、積層体を使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがなく、かつ、不織布の本来の性能を低下させることなく、バリア性フィルムと不織布とが強固に接着した積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による積層体は、熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層、および前記薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなるバリア性フィルムと、ポリアミド不織布とが、前記バリア性フィルムのガスバリア性保護層と前記ポリアミド不織布とが対向するように、積層した積層体であって、
前記ガスバリア性保護層が、少なくとも水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液を塗布して得られる被膜からなり、
前記ガスバリア性保護層と前記ポリアミド不織布との界面の少なくとも一部で、前記ガスバリア性保護層中の原子と、前記ポリアミド不織布中の原子との間に結合が形成されており、前記ガスバリア性保護層および前記ポリアミド不織布とが接着剤を介さずに接着されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の態様として、前記ガスバリア性保護層と前記ポリアミド不織布との界面の少なくとも一部で、前記ガスバリア性保護層中の原子と、前記ポリアミド不織布中の原子との間で、酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合が形成されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の態様として、前記アルコキシシランが下記一般式:
1nSi(OR
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1〜8の有機基を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表すが、n+mはSiの原子価を表す。)
で表されるものであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の態様として、前記水酸基を有する水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、およびエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる群から選択される1種、または2種以上の混合物であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様として、前記ポリアミド不織布が、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体からなる繊維、または、これら樹脂を鞘とする複合繊維からなることが好ましい。
【0016】
また、本発明の別の態様としての製造方法は、バリア性フィルムとポリアミド不織布とを積層した積層体を製造する方法であって、
熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層、および前記薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなるバリア性フィルムのガスバリア性保護層面、および/または前記ポリアミド不織布の少なくとも一方の面、に電子線を照射し、
前記電子線が照射された前記ガスバリア性保護層面および/またはポリアミド不織布面を重ね合わせて接着する、ことを含んでなることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の態様として、前記バリア性フィルムとポリアミド不織布とを重ね合わせる前および/または重ね合わせた後に電子線照射を行うことが好ましい。
【0018】
また、本発明の別の態様として、前記接着を加圧して行うことが好ましく、また、前記接着を加熱して行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層、および前記薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなるバリア性フィルムと、ポリアミド不織布とが、前記バリア性フィルムのガスバリア性保護層と前記ポリアミド不織布とが対向するように、積層した積層体において、前記ガスバリア性保護層と前記ポリアミド不織布との界面の少なくとも一部で、前記ガスバリア性保護層中の原子と、前記ポリアミド不織布中の原子との間に結合が形成されているため、接着剤を介して接着していなくても、バリア性フィルムとポリアミド不織布とが強固に接着した積層体が得られる。その結果、積層体を使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがなく、かつ、不織布の本来の性能を低下させることなく、バリア性フィルムと不織布とが強固に接着した積層体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の積層体の一実施形態を示した概略断面図である。
【図2】積層体の界面(接着面)を拡大した模式断面図である。
【図3】本発明による積層体の製造方法の一実施形態を示した概略模式図である。
【図4】製造工程の一部を拡大した概略模式図である。
【図5】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図6】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図7】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による積層体を、図面を参照しながら説明する。本発明による積層体は、図1に示すように、バリア性フィルム1とポリアミド不織布2とが、接着剤を介さずに積層された構造を有するものである。バリア性フィルム1は、熱可塑性不織布11、熱可塑性樹脂フィルム11の少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層12、および薄膜層12上に設けたガスバリア性保護層13からなり、本発明の積層体は、バリア性フィルム1のガスバリア性保護層13とポリアミド不織布2とが対向するように重ね合わせて積層したものである。
【0022】
本発明による積層体を構成するバリア性フィルム1は、ガスバリア性保護層13は、少なくとも水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液を塗布して得られる被膜からなる。本発明においては、ガスバリア性保護層13とポリアミド不織布2との接着面の少なくとも一部で、ガスバリア性保護層13中の原子と、ポリアミド不織布2中の原子との間に結合が形成されることにより、バリア性フィルム1とポリアミド不織布2とが強固に接着されている。ポリビニルアルコール等のような水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液を塗布して得られるガスバリア性保護層は、自己粘着性やヒートシール性を有していないため、通常、バリア性フィルム1のガスバリア性保護層13表面にポリアミド不織布2を積層しても、両者の間に水素結合や共有結合が形成されないため接着剤を使用しなければ両者を接着することはできない。本発明においては、後記するように、バリア性フィルム1のガスバリア性保護層13および/またはポリアミド不織布2の表面に電子線を照射してラジカルを発生させて、図2に示すように、ガスバリア性保護層13中の原子とポリアミド不織布2表面の原子との間に結合が形成する、あるいは、ガスバリア性保護層13中の原子と、ポリアミド不織布2表面の原子との間に、酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合を形成することにより、接着剤を介することなくバリア性フィルム1とポリアミド不織布2とを強固に接着したものである。また、電子線照射により発生したラジカルと空気中の酸素とが結合して、バリア性フィルム1のガスバリア性保護層13および/またはポリアミド不織布2の表面にはOH基が存在することがあり、その場合、ガスバリア性保護層13とポリアミド不織布2との間に水素結合が形成される場合もある。なお、電子線照射によるラジカルの発生は、電子スピン共鳴装置(以下、ESRともいう。)を用いて、電子線照射後のフィルムに存在するフリーラジカル種を同定することにより、その発生を確認することができる。
【0023】
また、電子線照射によりバリア性フィルム1とポリアミド不織布2とを貼り合わせて接着した積層体は、図2に示すように、バリア性フィルムのガスバリア性保護層の原子とポリアミド不織布2表面の原子との間で結合が形成されているため、接着剤を全く使用しなくても、剥離を生じない積層体とすることができる。水素結合の存在の確認は、積層体を水またはアルコール溶液中に浸積して剥離の有無を確認することにより行うことができる。水素結合のみによってバリア性フィルムとポリアミド不織布とが接着している場合、積層体を水またはアルコール溶液中に浸積すると、両者の間に形成されていた水素結合が破壊されて水またはアルコールの水素原子または酸素原子と水素結合が再形成されるため、接着力がなくなり両者が剥離する。よって、接着が、図2に示したような結合によるものなのか、水素結合のみによるものなのかを、確認することができる。
【0024】
以下、本発明による積層体を構成するバリア性フィルムおよびポリアミド不織布について、説明する。
【0025】
<バリア性フィルム>
バリア性フィルム1は、図1に示すように、熱可塑性樹脂フィルム11、熱可塑性樹脂フィルム11の少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層12、および薄膜層12上に設けたガスバリア性保護層13を含む。バリア性フィルム10は、図示しないが、薄膜層12およびガスバリア性保護層13を、熱可塑性樹脂フィルム11の一方の面のみならずその両方の面に設けたものでもよい。
【0026】
本発明による積層体に用いられるバリア性フィルム1は、薄膜層12とガスバリア性保護膜13とが、例えば、加水分解・共縮合反応による化学結合、水素結合、あるいは、配位結合などを形成し、薄膜層12とガスバリア性保護層13との密着性が向上し、その2層の相乗効果により、より良好なガスバリア性の効果を発揮し得るものである。
【0027】
熱可塑性樹脂フィルムとしては、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層を支持し得るプラスチックのフィルムであればいずれのものでも使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、アセタール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、その他等の各種の樹脂のフィルムを使用することができる。これらのなかでも、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、透明であるものがより好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂フィルムは、一軸ないし二軸方向に延伸されているものでもよく、また、その厚さとしては、10〜200μm程度、特に、10〜100μm程度が好ましい。また、必要に応じて、その表面にアンカーコート剤等をコーティングして表面平滑化処理等を施してもよい。
【0029】
薄膜層は、一般式:AlO(式中、xは、0.5〜1.5の数を表す。)で表される酸化アルミニウムの薄膜、または、一般式:SiO(式中、xは、0〜2の数を表す)で表される酸化ケイ素の薄膜を、熱可塑性樹脂フィルムの表面に形成したものである。上記一般式で表される酸化アルミニウムの薄膜として、膜表面から内面に向かう深さ方向に向かってxの値が増加している酸化アルミニウムの薄膜を使用することもできる。上記において、xの値としては、基本的には、x=0.5以上のものを使用することができるが、x=1.0未満になると、着色し易く、かつ、透明性、電子レンジ適性に劣ることから、x=1.0以上のものを使用することが好ましい。上限としては、アルミニウムと酸素とが完全に酸化した状態のものであるx=1.5までのものを使用することができる。
【0030】
また、上記一般式で表される酸化ケイ素の薄膜として、xの値は1.3〜1.9が好ましい。また、酸化ケイ素薄膜は、酸化珪素を主体とし、さらに、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または2種類以上の元素からなる化合物の少なくとも1種類を化学結合等により含有してもよい。例えば、C−H結合を有する化合物、Si−H結合を有する化合物、または、炭素単位がグラファイト状、ダイヤモンド状、フラーレン状等になっている場合、更に、原料の有機珪素化合物やそれらの誘導体を化学結合等によって含有する場合があるものである。例えば、CH3部位を持つハイドロカーボン、SiHシリル、SiHシリレン等のハイドロシリカ、SiHOHシラノール等の水酸基誘導体等を挙げることができる。上記の化合物が酸化珪素の蒸着膜中に含有する含有量としては、0.1〜50質量%、好ましくは5〜20質量%である。また、酸化ケイ素薄膜が上記化合物を含有する場合、化合物の含有量が酸化珪素の蒸着膜の表面から深さ方向に向かって減少していることが好ましい。これにより、酸化珪素の蒸着膜の表面では上記化合物等により耐衝撃性等が高められ、他方、基材フィルムとの界面では、上記化合物の含有量が少ないために基材フィルムと酸化珪素の蒸着膜との密接着性が強固なものとなる。
【0031】
薄膜層の膜厚としては、例えば、10〜3000Å程度、特に、60〜1000Å程度の範囲内で任意に選択して形成することが好ましい。薄膜層は、結晶質のものでも非結晶質のものでもよい。
【0032】
本発明においては、バリア性フィルムを構成する熱可塑性樹脂フィルムの全光線透過率を100%としたとき、蒸着後の全光線透過率が90%未満になるように酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を蒸着したものが望ましく、ベースフィルムの全光線透過率を100%としたとき、蒸着後の全光線透過率が85%以上で90%未満になるように酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を蒸着したものは、特に好ましい。蒸着後の全光線透過率が蒸着後の全光線透過率が90%以上の場合には、透明度は十分であるものの、ガスバリア性、特に水蒸気に対するガスバリア性が十分に高くない場合がある。また、蒸着後の全光線透過率が85%未満の場合は、ガスバリア性には優れるものの最終的な透明度が熱可塑性樹脂フィルムの全光線透過率にまで達しない場合がある。
【0033】
次に、熱可塑性樹脂フィルム上に薄膜層を形成する方法について説明する。薄膜層を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を挙げることができる。なお、包装用材料に用いられる透明積層体からなるフィルムを製造する場合には、主に、真空蒸着法を用い、一部、プラズマ化学気相成長法も用いられる。
【0034】
また、例えば、物理気相成長法と化学気相成長法の両者を併用して異種の無機酸化物の蒸着膜の2層以上からなる複合膜を形成して使用することもできる。酸化アルミニウム薄膜が、その膜表面から内面に向かう深さ方向に向かってxの値が増加している酸化アルミニウムの薄膜を形成する場合は、本出願人による特開平10−226011号公報に開示された方法により製造することができる。蒸着チャンバーの真空度としては、酸素導入前においては、10−2〜10−8mbar程度、特に、10−3〜10−7mbar程度が好ましく、酸素導入後においては、10−1〜10−6mbar程度、特に10−2〜10−5mbar程度が好ましい。なお、酸素導入量等は、蒸着機の大きさ等によって異なる。導入する酸素には、キャリヤーガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスを支障のない範囲で使用してもよい。基材となる熱可塑性樹脂フィルムの搬送速度としては、10〜800m/分程度、特に50〜600m/分程度が好ましい。また、上記したような、化合物の含有量が酸化珪素の蒸着膜の表面から深さ方向に向かって減少している酸化ケイ素薄膜層は、出願人による特開2008−143097号公報に記載されたような方法により、形成することができる。
【0035】
また、本発明においては、上記のようにして形成した薄膜層の表面に酸素プラズマ処理を施してもよい。酸素プラズマ処理のために導入する酸素の量は、蒸着機の大きさ等によって異なるが、通常50sccm〜2000sccm程度であり、300sccm〜800sccm程度が特に好ましい。ここで、sccmは標準状態(STP:0℃、1atm)での1分当りの酸素の平均導入量(cc)を意味する。導入する酸素には、キャリヤーガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスを支障のない範囲で使用してもよい。以上、熱可塑性樹脂フィルム上に酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜を形成する方法、および、所望により酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜の表面を酸素プラズマ処理する方法を説明したが、これらは一例であって、本発明がこれらの方法により得られたものに限定されるものではない。
【0036】
次に、上記のようにして形成された薄膜層上に設けられるガスバリア性保護層について説明する。ガスバリア性保護層は、少なくとも水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液でコーティングすることにより形成できる。少なくとも水酸基を有する水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、又はエチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられ、特に、エチレン−ビニルアルコール共重合体やポリビニルアルコールが好ましい。これら樹脂は市販のものを使用してもよく、例えばエチレン・ビニルアルコール共重合体として、株式会社クラレ製、エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)、日本合成化学工業株式会社製、ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)等を使用することができる。また、ポリビニルアルコールとして、株式会社クラレ製のRSポリマーであるRS−110(ケン化度=99%、重合度=1,000)、同社製のクラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2,000)、日本合成化学工業株式会社製のゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1,400)等を使用することができる。
【0037】
アルコキシシランとしては、一般式:
1nSi(OR
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1〜8の有機基を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表すが、n+mはSiの原子価を表す。)で表されるものが好適に使用できる。上記式において、Rで表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、その他等のアルキル基を挙げることができる。アルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン:Si(OCH 、テトラエトキシシラン:Si(OC 、テトラプロポキシシラン:Si(OC 、テトラブトキシシラン:Si(OC等を使用することができる。
【0038】
上記した水溶性高分子とアルコキシシランとを混合し、さらに所望によりゾル−ゲル法触媒、水、および、有機溶剤を添加した溶液を、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜の表面に塗布し、重縮合することにより、ガスバリア性保護層を形成することができる。また、本発明においては、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜の上に、上記の塗布膜を2層以上重層した複合ポリマー層を形成することもできる。
【0039】
また、本発明においては、上記のガスバリア性保護層形成用塗布液に、シランカップリング剤を添加することができ、これにより得られるガスバリア性保護層は特に好ましいものである。上記のシランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを用いることができるが、特に、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適であり、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、あるいは、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。上記のようなシランカップリング剤は、1種ないし2種以上を混合して用いてもよい。本発明において、上記のようなシランカップリング剤の使用量は、上記のアルコキシシラン100質量部に対して1〜20質量部程度の範囲内で使用することができる。
【0040】
ガスバリア性保護層形成用塗布液の塗布方法としては、通常用いられる、グラビアロールコーターなどのロールコート、スプレーコート、スピンコート、デイツピング、刷毛、バーコード、アプリケータ等の従来公知の手段が用いられる。塗布膜の厚さは塗布液の種類によって異なるが、乾燥後の厚さが約0.01〜100μmの範囲であればよいが、50μm以上では、膜にクラックが生じやすくなるため、0.01〜50μmとすることが好ましい。
【0041】
塗布液と重縮合させる際のゾル−ゲル法触媒としては、水に実質的に不溶であり、かつ有機溶媒に可溶な第三アミンが用いられる。具体的には、例えば、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等を使用することができる。特に、N,N−ジメチルべンジルアミンが好適であり、アルコキシシラン、およびシランカップリング剤の合計量100質量部当り、0.01〜1.0質量部、特に約0.03質量部程度を使用することが好ましい。
【0042】
また、ゾル−ゲル法の触媒として、酸を使用することもでき、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸、ならびに、酢酸、酒石酸な等の有機酸、その他を使用することができる。酸の使用量としては、アルコキシシランおよびシランカップリング剤のアルコキシシラン分(例えばシリケート部分)の総モル量に対し0.001〜0.05モル程度、特に約0.01モル程度が好ましい。
【0043】
塗布液に含まれる水は、溶液アルコキシドの合計モル量1モルに対して0.1〜100モル、好ましくは0.8〜2モルの割合で添加される。また、ガスバリア性保護層形成用塗布液に含まれるポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体は、上記のアルコキシシランやシランカップリング剤などを含む塗布液中で溶解した状態であることが好ましく、そのために有機溶媒を適宜選択して添加してもよい。例えば、有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等を用いることができる。
【0044】
<ポリアミド不織布>
本発明の積層体を構成するポリアミド不織布は、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体等の樹脂からなる繊維を不織布とすることにより得られる。
【0045】
また、本発明において用いられるポリアミド不織布としては、芯鞘構造を有する複合繊維からなる不織布であってもよく、例えば、芯がポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂等からなり、鞘が上記したポリアミド樹脂からなる複合繊維なども好適に使用することができる。
【0046】
ポリアミド不織布には、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、滑剤等、従来公知の各種添加剤を適宜添加することができる。光安定剤、紫外線吸収剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、フェノール系、リン系、ヒンダードアミン系の光吸収剤や、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系の紫外線吸収剤が使用できる。
【0047】
上記した樹脂からなる繊維を不織布とするには、通常用いられているローラーカード、フラットカード等のカード機を用いて、定法によりウェッブを作製する。ウェッブからの不織布の製造は、目的とする不織布の用途等に応じて熱融着法、スパンボンド法、メルトブロー法、溶剤系によるフラッシュ紡糸法などの従来公知の方法を適宜選択して行えばよい。また、交絡させた繊維どうしを熱融着させて不織布としてもよい。ポリアミド不織布として、市販のものを使用してもよく、例えば、エルタスシリーズ(旭化成せんい株式会社製)やナイエース(ユニチカ株式会社製)等を好適に使用することができる。
【0048】
本発明において用いられるポリアミド不織布の厚みは、概ね20〜800μm程度である。
【0049】
<積層体の製造方法>
次に、上記したような積層体を製造する方法を、図面を参照しながら説明する。先ず、上記したバリア性フィルム1とポリアミド不織布2とを準備し(図3(1))、両者のいずれか一方または両方の、接着しようとする部分に電子線を照射する(図3(2))。その結果、図3(3)に示すように、電子線が照射された部分のみ、バリア性フィルム1とポリアミド不織布2とが接着される。
【0050】
本発明においては、フィルム1および不織布2の両方または何れか一方に電子線を照射した直後に、図4に示すようにローラー6等を用いて、重ね合わせたフィルム1およびお不織布2を押圧することが好ましい。フィルム1および不織布2の表面は、図4に示すようにミクロレベルで凹凸があるため、互いのフィルムを重ね合わせても完全に密着しておらず、両フィルムの接触界面での接触面積が小さい。本発明においては、電子線を照射した直後にローラー6等でフィルム1および不織布2を押圧することにより、両者の接着面での接触面積が増加するため、密着性が向上する。
【0051】
バリア性フィルム1とポリアミド不織布2とを重ね合わせた後、両者1,2を押圧する際には、加熱しながら両者1,2を押圧することが好ましい。加熱しながら押圧することにより、バリア性フィルム1およびポリアミド不織布2の柔軟性が向上し、バリア性フィルム1とポリアミド不織布2との界面(接着面)での接触面積をより増加させることができるため、密着性がより向上する。加熱する温度は、使用するフィルムおよび不織布の繊維の種類にもよるが、フィルムないし繊維が熱変形できる温度であればよく、例えば、フィルムないし繊維を構成する樹脂のガラス転移温度以上に加熱することができる。例えば、ポリアミド不織布としてナイロン6繊維からなる不織布を用いる場合には、加熱温度は80〜180℃、好ましくは100〜160℃である。加熱温度を高くしすぎると、発生したラジカルが失活してしまい、強固な結合を実現できなくなる。なお、押圧の力(接圧)を高くしてもよく、接圧を高くすることにより、加熱温度を低くすることができる。
【0052】
バリア性フィルム1とポリアミド不織布2とを重ね合わせて押圧するには、上記したようにヒートローラ6等を好適に使用できる。また、図4に示すように、重ね合わせたフィルムがヒートローラ6と支持ローラー7との間で圧接可能となるように、ヒートローラ6と対向する位置に支持ローラー7を載置してもよい。このようにヒートローラ6と対向する位置に支持ローラー7を載置することにより、積層体(フィルム1と不織布2の積層物)とヒートローラ6との接触を線接触に近づけて、ヒートローラ6からの熱により積層体に発生する変形を最小限に抑えることができる。
【0053】
図5は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。バリア性フィルム1とポリアミド不織布2とを重ね合わせて接着する工程において、両者1,2をそれぞれガイドローラにより電子線照射位置3まで導き、電子線4を両者1,2に照射した後にヒートローラ6により両者1,2を押圧する工程を連続的に行うものである。それぞれのフィルム1および不織布2はロール状形態として供給されてもよい。
【0054】
電子線照射装置3からそれぞれのフィルム1および不織布2に電子線4を照射する場合、厚みがより小さい方の部材側から電子線4を照射することが好ましい。電子線は加速電圧が増加するほどその透過力も増大する性質を有しているため、フィルムまたは不織布の何れか一方側から電子線を照射した場合に、フィルムまたは不織布の厚さによっては、他方の不織布またはフィルムまで電子線が届かないことがある。その場合には、電子線の加速電圧を増加させることにより、他方の部材の深部まで電子線を到達させることができるが、電子線エネルギーが高くなるにしたがって、フィルムまたは不織布自体に不必要な照射が行われ劣化させてしまう。そのため、薄肉のフィルムと厚肉の不織布とを重ね合わせて接着する際には、電子線エネルギーをそれほど増大させることなく、薄肉のフィルム側から電子線を照射するのが好ましい。例えば、バリア性フィルムの厚みが25μm以下であり、ポリアミド不織布の厚みが50μm以上である場合は、バリア性フィルム1側から電子線を照射する。このような電子線照射方法を採用することにより、フィルムおよび不織布の劣化を最小限に留めることができる。
【0055】
重ね合わせるフィルム1および不織布2が両方とも厚肉である場合には、図5に示すように両部材の接着面側から電子線が照射できるように、電子線照射装置3と対向する位置に、別の電子線照射装置3’を設けてもよい。この態様によれば、フィルムおよび不織布の厚みに応じて電子線の照射エネルギーを調整することができるため、フィルムおよび不織布を劣化させることなく両者を接着することができる。
【0056】
図6は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。この実施態様においては、電子線の照射が、バリア性フィルム1とポリアミド不織布2とを重ね合わせる前に行われる。先ず、供給されてきたバリア性フィルム1およびポリアミド不織布2は、両者1,2が重ね合わされる前に、電子線照射装置3(3’)により、フィルム1および不織布2へ電子線4(4’)が照射される。図5に示した実施形態では、フィルム1および不織布2の電子線照射側と反対側の面どうしが対向するように両者1,2を重ね合わせたのに対し、図6に示す実施態様では、両者1,2の電子線照射側の面どうしが対向するように両者1,2を重ね合わせる点が相違している。このように、フィルム1へ電子線を照射した側の面に不織布2を重ね合わせることにより、フィルムや不織布の厚みによらず、電子線の照射エネルギーをより小さくすることができ、その結果、フィルムおよび不織布の電子線照射による劣化をより低減することができる。
【0057】
また、図6に示した実施態様においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図5に示した実施態様と同様に、バリア性フィルム1およびポリアミド不織布2のそれぞれへ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、よりフィルムおよび不織布の劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0058】
図7は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。この実施形態においては、バリア性フィルム1およびポリアミド不織布2を重ね合わせてヒートローラ6により押圧した後に電子線照射を行うものである。先ず、供給されてきた一対のフィルム1および不織布2は、ガイドローラに導かれて重ね合わされる。続いて、ヒートローラ6と支持ローラー7とにより両者1,2が押圧されるとともに、ヒートローラ6により加熱が行われる。その後、電子線照射装置3によりバリア性フィルム1およびポリアミド不織布2の表面に電子線4が照射されて両者1,2の接着が連続的に行われる。また、図7に示した実施形態においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図5及び6に示した実施態様と同様に両方の部材1,2へそれぞれ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、よりフィルムおよび不織布の劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0059】
電子線の照射エネルギーは、上記したようにフィルム厚み等に応じて適宜調整する必要がある。本発明においては、20〜750kV、好ましくは25〜400kV、より好ましくは30〜300kV程度の照射エネルギー範囲で電子線を照射するが、より低い照射エネルギーとすることが好ましく、40〜200kVとすることができる。このように低い照射エネルギーとすることにより、フィルムの劣化を抑制できるだけでなく、フィルム表面のラジカル発生がより効率的におこるため、より強固な結合を実現することができる。また、電子線の吸収線量は、5〜800kGy、好ましくは25〜600kGyの範囲で行う。
【0060】
このような電子線照射装置としては、従来公知のものを使用でき、例えばカーテン型電子照射装置(LB1023、株式会社アイ・エレクトロンビーム社製)やライン照射型低エネルギー電子線照射装置(EB−ENGINE、浜松ホトニクス株式会社製)等を好適に使用することができる。
【0061】
電子線を照射する際には、酸素濃度を100ppm以下とすることが好ましい。酸素存在下で電子線を照射するとオゾンが発生するため環境に悪影響を及ぼす場合があるからである。酸素濃度を100ppm以下とするには、真空下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下において、フィルムに電子線を照射すればよく、例えば、電子線照射装置内を窒素充填することにより、酸素濃度100ppm以下を達成することができる。
【0062】
上記した接着方法によって得られた、バリア性フィルムとポリアミド不織布とを積層した積層体は、従来のラミネート樹脂を用いて接着した場合と同等またはそれ以上の接着強度を実現できる。また、ラミネート樹脂等を全く用いていないため、積層体を使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがなく、かつ、不織布の本来の性能を低下させることなく、バリア性フィルムと不織布とが強固に接着した積層体を実現することができる。
【実施例】
【0063】
<バリア性フィルムの準備>
厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、蒸着装置を用いて、下記の条件にて、そのフィルムの一方の面に、膜厚20nmとなるように酸化アルミニウム薄膜を形成した。
蒸着条件:
蒸着チャンバー内の真空度(酸素導入後):2×10−4mbar
巻き取りチャンバー内の真空度:5×10−3mbar
電子ビーム電力:25kW
【0064】
次いで、下記の組成Iからなるポリビニルアルコール溶液とイソプロピルアルコールとイオン交換水とを含む混合液に、下記組成IIからなる加水分解液を加えて充分に攪拌し、ガスバリア性保護層形成用塗工液と調製した。
組成I:
ポリビニルアルコール 2.33(質量%)
イソプロピルアルコール 2.70(質量%)
水 51.75(質量%)
【0065】
組成II(加水分解液):
エチルシリケート 16.60(質量%)
シランカップリング剤 1.66(質量%)
イソプロピルアルコール 3.90(質量%)
0.5N塩酸水溶液 0.53(質量%)
水 20.53(質量%)
合計 100.00(質量%)
【0066】
上記の塗工液を、酸化アルミニウム薄膜上にグラビアロールコート法によりコーティングして、次いで、180℃で60秒間加熱処理を行い、厚み0.2μm(乾操状態)のガスバリア性保護層を形成することにより、バリア性フィルムを得た。
【0067】
<ポリアミド不織布の準備>
ポリアミド不織布として、厚さ160μmのポリアミド不織布(ナイエース N0303WTO(ユニチカ株式会社製)を準備した。
【0068】
実施例1
<積層体の作製>
準備したバリア性フィルムおよびポリアミド不織布を、それぞれ150mm×75mmの大きさに切り出した試料を準備し、電子線照射装置(ライン照射型低エネルギー電子線照射装置EES−L−DP01、浜松ホトニクス株式会社製)のサンプル台に並置した。この際、電子線が試料に照射されない部分を設けるために、両試料の一方の端部5〜10mm程度にマスキングしておいた。
【0069】
次いで、電子照射線装置のチャンバー内の酸素濃度が100ppm以下となるように窒素ガスでパージした後、下記の電子線照射条件により、試料の表面に電子線を照射した。なお、バリア性フィルムについては、ガスバリア性保護層形成面に電子線を照射した。
電圧:40kV
吸収線量:200kGy
装置内酸素濃度:100ppm以下
【0070】
電子線を照射した後、試料を装置内から取り出し、すぐに両試料の電子線照射面側が対向するようにして重ね合わせ、熱ラミネート法により、両試料を接着して積層体を得た。
【0071】
比較例1
電子照射を行わなかった以外は実施例1と同様にして積層体を得た。しかしながら、得られた積層体はバリア性フィルムとポリアミド不織布とは接着していなかった。
【0072】
<積層体の接着強度の評価>
得られた積層体を幅15mmの短冊状になるように切り出し、引張試験機(テンシロン万能材料試験機RTC−1310A、ORIENTEC社製)を用いて、50mm/分の速度で、90度剥離試験を行った。なお、上記したように比較例1の積層体は、バリア性フィルムとポリアミド不織布とが接着しておらず、積層体の接着強度を測定することができなかった。評価結果は、下記の表1に示される通りであった。
【0073】
また、実施例1の積層体の接着が共有結合によるものかどうかと間接的に調べるために、得られた積層体を水中で保管し、その後、上記と同様にして積層体の接着強度を測定した。評価結果は、下記の表1に示される通りであった。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の評価結果からも明らかなように、実施例1の積層体は、水中保管後であっても、接着性を維持している。この結果から、実施例1の積層体は、バリア性フィルムとポリアミド不織布とが水素結合や分子間力のみによって接着しているものではないことがわかる。したがって、間接的にではあるが、バリア性フィルムのガスバリア性保護層中の原子とポリアミド不織布中の原子との間で共有結合が形成されていると推認でき、接着剤によりラミネート加工した従来の積層体と同程度の接着強度を有している。
【符号の説明】
【0076】
1 バリア性フィルム
11 熱可塑性樹脂フィルム
12 薄膜層
13 ガスバリア性保護層
2 ポリアミド不織布
3、3’ 電子線照射装置
4、4’ 電子線
5 フィルム基材接触界面
6 ヒートローラ
7 支持ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層、および前記薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなるバリア性フィルムと、ポリアミド不織布とが、前記バリア性フィルムのガスバリア性保護層と前記ポリアミド不織布とが対向するように、積層した積層体であって、
前記ガスバリア性保護層が、少なくとも水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液を塗布して得られる被膜からなり、
前記ガスバリア性保護層と前記ポリアミド不織布との界面の少なくとも一部で、前記ガスバリア性保護層中の原子と、前記ポリアミド不織布中の原子との間に結合が形成されており、前記ガスバリア性保護層および前記ポリアミド不織布とが接着剤を介さずに接着されていることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記ガスバリア性保護層と前記ポリアミド不織布との界面の少なくとも一部で、前記ガスバリア性保護層中の原子と、前記ポリアミド不織布中の原子との間で、酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合が形成されている、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記アルコキシシランが下記一般式:
1nSi(OR
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1〜8の有機基を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表すが、n+mはSiの原子価を表す。)
で表される、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記水酸基を有する水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、およびエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる群から選択される1種、または2種以上の混合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記ポリアミド不織布が、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体からなる繊維、または、これら樹脂を鞘とする複合繊維からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の、バリア性フィルムとポリアミド不織布とを積層した積層体を製造する方法であって、
熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層、および前記薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなるバリア性フィルムのガスバリア性保護層面、および/または前記ポリアミド不織布の少なくとも一方の面、に電子線を照射し、
前記電子線が照射された前記ガスバリア性保護層面および/またはポリアミド不織布面を重ね合わせて接着する、ことを含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記バリア性フィルムとポリアミド不織布とを重ね合わせる前および/または重ね合わせた後に電子線照射を行う、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記接着を加圧して行う、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記接着を加熱して行う、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−254590(P2012−254590A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129482(P2011−129482)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】