説明

積層体およびその製造方法

【課題】ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを接着剤を使用せずに接着した積層体であって、異物や残留溶剤等が滲出することがなく、優れた強度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性、ヒートシール性を有する積層体を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが積層した積層体であって、前記ポリイミド樹脂フィルムおよび前記ポリオレフィン樹脂フィルムの少なくとも一部で、前記ポリイミド樹脂フィルム中の原子と、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の原子との間に結合が形成されており、前記ポリイミド樹脂フィルムおよび前記ポリオレフィン樹脂フィルムとが接着剤を介さずに接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関し、さらに詳細には、ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを、接着剤を介さずに接着した積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、耐熱性、電気絶縁性や耐薬品性に優れ、機械特性に優れることから電気・電子用途に使用されている。例えば、半導体デバイス上への絶縁フィルムや保護コーティング剤、フレキシブル回路基板や集積回路等の表面保護材料や基材樹脂、さらには、微細な回路の層間絶縁膜や保護膜を形成させる場合に用いられる。これらの用途では、ポリイミド樹脂フィルムを単独で用いる場合の他、ポリイミド樹脂フィルムと他の樹脂フィルムとを貼り合わせた積層体が使用される場合もある。
【0003】
ポリイミド樹脂フィルムと他の樹脂フィルムとの積層体として、例えば、ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを接着剤を介して積層することが試みられている。ポリオレフィン樹脂フィルム等のヒートシール性を有する樹脂フィルムをポリイミド樹脂フィルムに貼り合わせて積層体とすることにより、この積層体を他の部材に貼り合わせる際に、樹脂フィルム側をヒートシールすることにより、ポリイミド樹脂フィルムからなる積層体を他の部材に容易に貼り合わせることができる。しかしながら、ラミネート接着して積層体としたものは、積層体の使用環境によっては、接着剤成分が徐々に積層体から溶出または揮発する場合があり、接着剤成分による汚染の問題がある。また、長期使用により接着剤自体が劣化することもあり、特に紫外線や熱に曝される用途においては、積層体の耐候性が問題となることもある。また、接着剤を用いたラミネート技術においては、一般的に溶剤に希釈した樹脂成分を塗布することが行われるため、積層体を組み込んで最終製品とした後に、溶剤が残留してしまうことがある。
【0004】
また、ポリイミド樹脂フィルムに、ヒートシールにより直接ポリオレフィン樹脂フィルムを貼り合わせることも考えられるが、ポリイミド樹脂は、耐熱性に優れる樹脂であるため、溶融したポリオレフィン樹脂フィルムがポリイミド樹脂フィルムに融着せず、両フィルムが強固に密着した積層体とすることができない。
【0005】
ところで、放射線や電子線を用いて材料の表面改質を行うことが従来から行われている。例えば、特開2003−119293号公報(特許文献1)には、フッ素系樹脂に放射線を照射することにより架橋複合フッ素系樹脂が得られることが提案されている。また、Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127(非特許文献1)には、ポリテトラフルオロエチレンフィルムとポリイミドフィルムとを積層させて高温下で電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、互いを接着することが提案されている。また、Material Transactions Vol.50, No.7 (2009), pp1859-1863(非特許文献2)には、ポリカーボネート樹脂の表面をナイロンフィルムで覆い、その上から電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、ポリカーボネート樹脂表面にナイロンフィルムを接着する技術が提案されている。さらに、日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531(非特許文献3)には、シリコーンゴム上に置いたナイロンフィルムの上からEBを照射することにより、互いを接着できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−119293号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127
【非特許文献2】Material Transactions Vol.50, No. 7(2009), pp1859-1863
【非特許文献3】日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、今般、異種材料どうしを接着する場合であっても、フィルムに電子線を照射することにより、ラミネート樹脂等を用いることなく、互いを強固に接着できることを見いだした。そして、ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとの積層体のように、従来、接着剤により互いを接着していた積層体であっても、電子線照射によれば、接着剤を使用しなくても、ポリイミド樹脂フィルム側の原子とポリオレフィン樹脂フィルム側の原子との間に結合が形成されるか、または酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合が形成されて、互いが強固に接着できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを接着剤を使用せずに接着した積層体であって、優れた強度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性、ヒートシール性を有する積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による積層体は、ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが積層した積層体であって、
前記ポリイミド樹脂フィルムおよび前記ポリオレフィン樹脂フィルムの少なくとも一部で、前記ポリイミド樹脂フィルム中の原子と、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の原子との間に結合が形成されており、前記ポリイミド樹脂フィルムおよび前記ポリオレフィン樹脂フィルムとが接着剤を介さずに接着されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の態様として、前記ポリイミド樹脂フィルムと前記ポリオレフィン樹脂フィルムとの界面の少なくとも一部で、前記ポリイミド樹脂フィルム中の原子と、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の原子との間で、酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合が形成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の態様として、前記ポリイミド樹脂フィルムが、ピロメリット酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとから得られる芳香族ポリイミド樹脂フィルムであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の態様として、前記ポリオレフィン樹脂フィルムが、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはポリメチルペンテンからなる樹脂フィルムであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の別の態様としての製造方法は、ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが積層した積層体を製造する方法であって、
ポリイミド樹脂フィルムおよび/またはポリオレフィン樹脂フィルムの少なくとも一方の面、に電子線を照射し、
前記電子線が照射された前記ポリイミド樹脂フィルム面および/またはポリオレフィン樹脂フィルム面を重ね合わせて接着する、ことを含んでなることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の態様として、前記ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを重ね合わせる前および/または重ね合わせた後に電子線照射を行うことが好ましい。
【0016】
また、本発明の別の態様として、前記ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとの接着を加圧して行うことが好ましく、また、前記ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとの接着を加熱して行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが積層した積層体において、ポリイミド樹脂フィルム中の原子と、ポリオレフィン樹脂フィルム中の原子との間に結合が形成されているか、または酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合が形成されているため、接着剤を介して接着していなくても、ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが強固に接着した積層体が得られる。その結果、強度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性、ヒートシール性に優れた積層体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の積層体の一実施形態を示した概略断面図である。
【図2】積層体の界面(接着面)を拡大した模式断面図である。
【図3】本発明による積層体の製造方法の一実施形態を示した概略模式図である。
【図4】製造工程の一部を拡大した概略模式図である。
【図5】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図6】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図7】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による積層体を、図面を参照しながら説明する。本発明による積層体は、図1に示すように、ポリイミド樹脂フィルム2とポリオレフィン樹脂フィルム1とが、接着剤を介さずに積層した構造を有する。
【0020】
ポリオレフィン樹脂フィルム1およびポリイミド樹脂フィルム2の接着面の少なくとも一部で、ポリオレフィン樹脂フィルム1の原子とポリイミド樹脂フィルム2の原子との間に結合が形成されることにより、ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2とが強固に接着されている。通常、ポリオレフィン樹脂フィルムの表面にポリイミド樹脂フィルムを積層しても、両者の間に水素結合や共有結合が形成されないため接着剤を使用しなければ両者を接着することはできない。また、ヒートシールでは、上記したように両フィルムが強固に密着した積層体とすることができない。本発明においては、後記するように、ポリオレフィン樹脂フィルム1および/またはポリイミド樹脂フィルム2の表面に電子線を照射してラジカルを発生させて、図2に示すように、ポリオレフィン樹脂フィルム1表面の原子とポリイミド樹脂フィルム2表面の原子との間に結合を形成する、ないしはポリオレフィン樹脂フィルム1表面の原子と、ポリイミド樹脂フィルム2表面の原子との間に、酸素原子および/または窒素原子を介して結合を形成することにより、接着剤を介することなくポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2とを強固に接着したものである。また、電子線照射により発生したラジカルと空気中の酸素とが結合して、ポリオレフィン樹脂フィルム1および/またはポリイミド樹脂フィルム2の表面にはOH基が存在することがあり、その場合、ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2との間で水素結合が形成される場合もある。なお、電子線照射によりラジカルの発生は、電子スピン共鳴装置(以下、ESRともいう。)を用いて、電子線照射後のフィルムに存在するフリーラジカル種を同定することにより、その発生を確認することができる。
【0021】
また、電子線照射によりポリイミド樹脂フィルム2とポリオレフィン樹脂フィルム1とを接着した積層体は、図2に示すように、ポリイミド樹脂フィルム中の原子とポリオレフィン樹脂フィルム中の原子との間で結合が形成されているため、接着剤を全く使用しなくても、剥離を生じない積層体とすることができる。水素結合の存在の確認は、積層体を水またはアルコール溶液中に浸積して剥離の有無を確認することにより行うことができる。水素結合のみによってポリイミド樹脂フィルム2とポリオレフィン樹脂フィルム1とが接着している場合、積層体を水またはアルコール溶液中に浸積すると、両者の間に形成されていた水素結合が破壊されて水またはアルコールの水素原子または酸素原子と水素結合が再形成されるため、接着力がなくなり両フィルムが剥離する。よって、接着が、共有結合および水素結合によるものなのか、水素結合のみによるものなのかを、確認することができる。
【0022】
以下、本発明による積層体を構成するポリイミド樹脂フィルムおよびポリオレフィン樹脂フィルムについて、説明する。
【0023】
<ポリイミド樹脂フィルム>
本発明において使用されるポリイミド樹脂フィルムは、芳香族テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンとを縮重合してポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)を生成し、得られたポリアミド酸を加熱または触媒を用いてイミド化した重合体を製膜化したものである。
【0024】
芳香族テトラカルボン酸無水物はカルボン酸無水物を含むものであり、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物の二無水物が挙げられる。
【0025】
また、芳香族ジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(3−アミノフェニル)スルフィド、(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(3−アミノフェニル)スルホキシド、ビス(4−アミノフェニル)スルホキシド、(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)スルホキシド、ビス(3−アミノフェニル)スルホン、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)スルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホキシド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホキシド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、1,4−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル〕ベンゼン、1,3−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル〕ベンゼン、4,4’−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル〕ジフェニルエーテル、4,4’−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル〕ジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、ビス(トリフルオロメチル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン等が挙げられる。
【0026】
上記した芳香族テトラカルボン酸無水物および芳香族ジアミンの組み合わせのなかでも、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとから得られる芳香族ポリイミド樹脂を好適に使用することができる。
【0027】
ポリイミド樹脂には、性能を損なわない範囲で必要に応じて、熱安定剤、難燃剤等の各種添加剤を製造工程中あるいはその後の加工工程において添加することができる。
【0028】
上記したポリイミド樹脂からフィルムを製造する方法は、特に制限はなく公知の方法を採用でき、例えば、重縮合して得られたポリアミド酸溶液を、基材上にキャスティング、スピンコーティング、ロールコーティングなどの方法により適当な厚さに塗工した後、100〜300℃の温度で加熱して、溶媒の除去とイミド化を行い、フィルム状のポリイミド樹脂を得ることができる。
【0029】
ポリイミド樹脂フィルムは、市販のものを使用してもよく、例えば、カプトン(東レ・デュポン社製)やアピカル(鐘淵化学工業社製)等を好適に使用できる。
【0030】
<ポリオレフィン樹脂フィルム>
本発明の積層体を構成するポリオレフィン樹脂フィルムとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等の単体、または、ポリプロピレンと低密度ポリエチレンとの混合物や、ポリプロピレンと高密度ポリエチレンとの混合物からなるフィルムを用いることができる。また、ポリメチルペンテンは、ガス透過性、耐薬品性、耐油性などに優れた性能を有するものである。このような樹脂フィルムとしては、市販のものを使用してもよく、例えばTPXフィルム(三井化学株式会社製)等を好適に使用することができる。フィルムの厚みは、使用用途に応じて適宜決定できるが、概ね20〜300μm程度である。
【0031】
ポリオレフィン樹脂フィルムには、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、滑剤等、従来公知の各種添加剤を適宜添加することができる。光安定剤、紫外線吸収剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、フェノール系、リン系、ヒンダードアミン系の光吸収剤や、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系の紫外線吸収剤が使用できる。
【0032】
上記したようなポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを重ね合わせて接着した積層体は、積層体を使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがなく、また強度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性、ヒートシール性にも優れている。
【0033】
<積層体の製造方法>
次に、上記したような積層体を製造する方法を、図面を参照しながら説明する。先ず、上記したポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2とを準備し(図3(1))、両者のいずれか一方または両方の、接着しようとする部分に電子線を照射する(図3(2))。その結果、図3(3)に示すように、電子線が照射された部分のみ、互いのフィルムが接着される。
【0034】
本発明においては、フィルムに電子線を照射した直後に、図4に示すようにローラー6等を用いて、重ね合わせたポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2とを押圧することが好ましい。両フィルム1,2の表面は、図4に示すようにミクロレベルで凹凸があるため、互いのフィルムを重ね合わせても完全に密着しておらず、両フィルムの接触界面での接触面積が小さい。本発明においては、電子線を照射した直後にローラー6等でポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2を押圧することにより、両フィルムの接着面での接触面積が増加するため、密着性が向上する。
【0035】
ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2とを重ね合わせた後、両フィルム1,2を押圧する際には、加熱しながら両フィルム1,2を押圧することが好ましい。加熱しながら押圧することにより、ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2の柔軟性が向上し、両フィルム1,2の界面(接着面)での接触面積をより増加させることができるため、密着性がより向上する。加熱する温度は、使用する材料の種類にもよるが、フィルムが熱変形できる温度であればよく、例えば、フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度以上に加熱することができる。例えば、ポリオレフィン樹脂フィルムとポリイミド樹脂フィルムとを重ね合わせる場合には、加熱温度は80〜180℃、好ましくは100〜160℃である。加熱温度を高くしすぎると、発生したラジカルが失活してしまい、強固な結合を実現できなくなる。なお、押圧の力(接圧)を高くしてもよく、接圧を高くすることにより、加熱温度を低くすることができる。
【0036】
ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2とを重ね合わせて押圧するには、上記したようにヒートローラ6等を好適に使用できる。また、図4に示すように、重ね合わせた積層物がヒートローラ6と支持ローラー7との間で圧接可能となるように、ヒートローラ6と対向する位置に支持ローラー7を載置してもよい。このようにヒートローラ6と対向する位置に支持ローラー7を載置することにより、積層体(フィルム1とフィルム2の積層物)とヒートローラ6との接触を線接触に近づけて、ヒートローラ6からの熱により積層体に発生する変形を最小限に抑えることができる。
【0037】
図5は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2とを重ね合わせて接着する工程において、ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2とを、それぞれガイドローラにより電子線照射位置3まで導き、電子線4を両フィルム1,2に照射した後にヒートローラ6により互いの両フィルム1,2を押圧する工程を連続的に行うものである。ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2のそれぞれはロール状形態として供給されてもよい。
【0038】
電子線照射装置3から、ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2のそれぞれに電子線4を照射する場合、厚みがより小さい方の材料側から電子線4を照射することが好ましい。電子線は加速電圧が増加するほどその透過力も増大する性質を有しているため、何れか一方の材料側から電子線を照射した場合に、材料の厚さによっては、他方のフィルムまたはフィルムまで電子線が届かないことがある。その場合には、電子線の加速電圧を増加させることにより、他方の材料の深部まで電子線を到達させることができるが、電子線エネルギーが高くなるにしたがって、樹脂からなる材料(フィルム)自体に不必要な照射が行われ劣化させてしまう。そのため、厚肉のフィルムと薄肉のフィルムとを重ね合わせて接着する際には、電子線エネルギーをそれほど増大させることなく、薄肉のフィルム側から電子線を照射するのが好ましい。例えば、ポリオレフィン樹脂フィルムの厚みが25μm以下であり、ポリイミド樹脂フィルムの厚みが50μm以上である場合は、ポリオレフィン樹脂フィルム側から電子線を照射する。このような電子線照射方法を採用することにより、フィルムの劣化を最小限に留めることができる。
【0039】
重ね合わせるフィルム1,2が両方とも厚肉である場合には、図5に示すように両方から電子線が照射できるように、電子線照射装置3と対向する位置に、別の電子線照射装置3’を設けてもよい。この態様によれば、フィルムの厚みに応じて電子線の照射エネルギーを調整することができるため、フィルムを劣化させることなく互いを接着することができる。
【0040】
図6は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。この実施態様においては、電子線の照射が、ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2とを重ね合わせる前に行われる。先ず、供給されてきた一対のフィルム(ポリオレフィン樹脂フィルム1およびポリイミド樹脂2)は、両フィルム1,2が重ね合わされる前に、電子線照射装置3(3’)により、フィルム1(2)へ電子線4(4’)が照射される。図5に示した実施形態では、ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2の電子線照射側と反対側の面どうしが対向するように両フィルム1,2を重ね合わせたのに対し、図6に示す実施態様では、両フィルム1,2の電子線照射側の面どうしが対向するように両フィルム1,2を重ね合わせる点が相違している。このように、フィルム1へ電子線を照射した側の面に他方のフィルム2を重ね合わせることにより、フィルムの厚みによらず、電子線の照射エネルギーをより小さくすることができ、その結果、フィルムの電子線照射による劣化をより低減することができる。
【0041】
また、図6に示した実施態様においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図5に示した実施態様と同様に、ポリオレフィン樹脂フィルム1およびポリイミド樹脂フィルム2のそれぞれへ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、よりフィルムの劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0042】
図7は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。この実施形態においては、ポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2とを重ね合わせてヒートローラ6により押圧した後に電子線照射を行うものである。先ず、供給されてきた一対のフィルム1,2は、ガイドローラに導かれて重ね合わされる。続いて、ヒートローラ6と支持ローラー7とにより両フィルム1,2が押圧されるとともに、ヒートローラ6により加熱が行われる。その後、電子線照射装置3によりポリオレフィン樹脂フィルム1とポリイミド樹脂フィルム2の表面に電子線4が照射されて両フィルム1,2の接着が連続的に行われる。また、図7に示した実施形態においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図5及び6に示した実施態様と同様に両フィルム1,2へそれぞれ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、よりフィルム劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0043】
電子線の照射エネルギーは、上記したようにフィルム厚み等に応じて適宜調整する必要がある。本発明においては、20〜750kV、好ましくは30〜400kV、より好ましくは40〜200kV程度の照射エネルギー範囲で電子線を照射するが、より低い照射エネルギーとすることが好ましい。このように低い照射エネルギーとすることにより、フィルムの劣化を抑制できるだけでなく、フィルム表面のラジカル発生がより効率的におこるため、より強固な結合を実現することができる。また、電子線の吸収線量は、5〜2000kGy、好ましくは20〜1000kGyの範囲で行う。
【0044】
このような電子線照射装置としては、従来公知のものを使用でき、例えばカーテン型電子照射装置(LB1023、株式会社アイ・エレクトロンビーム社製)やライン照射型低エネルギー電子線照射装置(EB−ENGINE、浜松ホトニクス株式会社製)等を好適に使用することができる。
【0045】
電子線を照射する際には、酸素濃度を100ppm以下とすることが好ましい。酸素存在下で電子線を照射するとオゾンが発生するため環境に悪影響を及ぼす場合があるからである。酸素濃度を100ppm以下とするには、真空下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下において、フィルムに電子線を照射すればよく、例えば、電子線照射装置内を窒素充填することにより、酸素濃度100ppm以下を達成することができる。
【0046】
上記した接着方法によって得られた、ポリオレフィン樹脂フィルムとポリイミド樹脂フィルムと積層した積層体は、従来のラミネート樹脂を用いて接着した場合と同等またはそれ以上の接着強度を実現できる。また、ラミネート樹脂等を全く用いていないため、積層体を使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがなく、また強度、耐熱性、誘電特性、電気絶縁性にも優れている。
【実施例】
【0047】
<フィルムの準備>
ポリイミド樹脂フィルムとして、厚み50μmのポリイミド樹脂フィルム(カプトンH、東レ・デュポン社製)を準備した。また、ポリオレフィン樹脂フィルムとして、下記の下2種類のフィルムを準備した。
A:直鎖状低密度ポリエチレン(エボリューSP2020、プライムポリマー社製)を厚み70μmに製膜したフィルム
B:低密度ポリエチレン(ノバテックLD LF547C、日本ポリエチレン社製)を厚み70μmに製膜したフィルム
【0048】
実施例1
<積層体の作製>
上記したフィルムを、それぞれ150mm×75mmの大きさに切り出した試料を準備し、電子線照射装置(ライン照射型低エネルギー電子線照射装置EES−L−DP01、浜松ホトニクス株式会社製)のサンプル台に並置した。この際、電子線が試料に照射されない部分を設けるために、両試料の一方の端部5〜10mm程度にマスキングしておいた。
【0049】
次いで、電子照射線装置のチャンバー内の酸素濃度が100ppm以下となるように窒素ガスでパージした後、下記の電子線照射条件により、試料の表面に電子線を照射した。
電圧:40kV
吸収線量:200kGy
装置内酸素濃度:100ppm以下
【0050】
電子線を照射した後、試料を装置内から取り出し、すぐに両者の電子線照射面側が対向するようにして重ね合わせ、熱ラミネート法により、両フィルムを接着して積層体を得た。
【0051】
実施例2
実施例1において、電子線の照射条件を表1に示す加速電圧および照射線量に変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0052】
実施例3
実施例1において、使用したポリオレフィン樹脂フィルムをBのフィルムに変更し、かつ電子線の照射条件を表1に示す加速電圧および照射線量に変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0053】
比較例1
電子照射を行わなかった以外は実施例1と同様にして積層体を得た。しかしながら、得られた積層体はポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが接着していなかった。
【0054】
比較例2
実施例1で用いた2種の樹脂フィルムを、2液硬化型芳香族エステル系接着剤(タケラックA−3、三井化学株式会社製)を介して貼り合わせるドライラミネート法により積層体を得た。
【0055】
<積層体の接着強度の評価>
得られた積層体を幅15mmの短冊状になるように切り出し、引張試験機(テンシロン万能材料試験機RTC−1310A、ORIENTEC社製)を用いて、50mm/分の速度で、90度剥離試験を行った。評価結果は、下記の表1に示される通りであった。
【0056】
【表1】

【0057】
表1の評価結果からも明らかなように、電子線照射を行った実施例1〜3の積層体は、接着剤によって貼り合わせた比較例2の積層体と同程度またはそれ以上の接着強度を有していた。また、実施例1〜3の積層体は、水中保管後であっても、接着性を維持している。この結果から、実施例1〜3の積層体は、ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが水素結合や分子間力のみによって接着しているものではないことがわかる。したがって、間接的にではあるが、ポリイミド樹脂フィルムの原子とポリオレフィン樹脂フィルム中の原子との間で共有結合が形成されていると推認できる。
【符号の説明】
【0058】
1 ポリオレフィン樹脂フィルム
2 ポリイミド樹脂フィルム
3、3’ 電子線照射装置
4、4’ 電子線
5 フィルム基材接触界面
6 ヒートローラ
7 支持ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが積層した積層体であって、
前記ポリイミド樹脂フィルムおよび前記ポリオレフィン樹脂フィルムの少なくとも一部で、前記ポリイミド樹脂フィルム中の原子と、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の原子との間に結合が形成されており、前記ポリイミド樹脂フィルムおよび前記ポリオレフィン樹脂フィルムとが接着剤を介さずに接着されていることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂フィルムと前記ポリオレフィン樹脂フィルムとの界面の少なくとも一部で、前記ポリアミド樹脂フィルム中の原子と、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の原子との間で、酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合が形成されている、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ポリイミド樹脂フィルムが、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとから得られる芳香族ポリイミド樹脂フィルムである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂フィルムが、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはポリメチルペンテンからなる樹脂フィルムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の、ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが積層した積層体を製造する方法であって、
ポリイミド樹脂フィルムおよび/またはポリオレフィン樹脂フィルムの少なくとも一方の面、に電子線を照射し、
前記電子線が照射された前記ポリイミド樹脂フィルム面および/またはポリオレフィン樹脂フィルム面を重ね合わせて接着する、ことを含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項6】
前記ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを重ね合わせる前および/または重ね合わせた後に電子線照射を行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとの接着を加圧して行う、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリイミド樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとの接着を加熱して行う、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−18166(P2013−18166A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152240(P2011−152240)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】