説明

積層体の製造方法、バリア性フィルム基板、デバイスおよび光学部材

【課題】有機層、無機層の組が1組でも水蒸気透過率が十分に低い有機無機積層型の積層体を提供する。
【解決手段】有機層の上に無機層を積層した構造を含む積層体の製造方法であって、下記一般式(1)のmが2であるモノマーと、下記一般式(1)のmが3以上であるモノマーとを含む混合物を重合させることにより前記有機層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。


[一般式(1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、Lはm価の連結基を表
す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機無機積層型の積層体に関し、詳しくは特定の有機層を形成することによって水蒸気透過性を低くした有機無機積層型の積層体に関する。さらに、この積層体を含むバリア性フィルム基板、および、前記バリア性フィルム基板を用いたデバイスおよび光学部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックフィルムの表面に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物薄膜を形成したバリア性フィルムは、水蒸気や酸素など各種ガスの遮断を必要とする物品の包装や、食品、工業用品および医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。
【0003】
近年、液晶表示素子や有機EL素子(有機電界発光素子)等の分野においては、重くて割れやすいガラス基板に代わって、プラスチックフィルム基板が採用され始めている。プラスチックフィルム基板はロールトゥロール(Roll to Roll)方式に適用可能であることから、コストの点でも有利である。しかし、プラスチックフィルム基板はガラス基板と比較して水蒸気バリア性に劣るという問題がある。このため、プラスチックフィルム基板を液晶表示素子に用いると、水蒸気が液晶セル内に侵入し、表示欠陥が発生する。
【0004】
この問題を解決するために、プラスチックフィルム上に有機無機積層型の積層体を形成したバリア性フィルム基板を用いることが知られている。特許文献1には、6官能のアクリレ−トもしくはメタクリレ−トのモノマーもしくはオリゴマーを含む組成物を硬化させた有機層と、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物、インジウムとスズの複合酸化物、インジウムとセリウムの複合酸化物等の中から選ばれた酸化物からなる無機層を積層したバリア性フィルム基板が開示されている。しかしながら、特許文献1には、硬化用組成物中の6官能のアクリレ−トモノマー等の含有量を30質量%以上の範囲内でなるべく多くした方がバリア性が高まると記載されているが、含有量が100質量%であるものであっても水蒸気透過率は0.08g/m2/dayに留まっている。
【0005】
一方、有機EL素子に用いるための基板にはさらに高いバリア性が要求される。水蒸気透過率はMOCON法の測定限界である0.005g/m2/day未満であることが好ましい。かかる要求に応えるための手段として、特許文献2には有機層と無機層の複数層の交互積層体をバリア層とすることにより、水蒸気透過率として0.005g/m2/day未満を実現する技術が開示されている。該明細書によれば有機層と無機層がそれぞれ1層ずつしか積層されていない場合は、水蒸気透過率が0.011g/m2/dayであり、多層積層することの技術的価値が明確に示されている。
【特許文献1】特開2002−264274号公報
【特許文献2】米国特許第6,413,645号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、産業上の利用性を考慮すると、特許文献2に記載されるように有機層と無機層を多層積層することは生産性を低下させることになるため、バリア性フィルム基板を大量に供給する上で大きな問題となる。バリア性フィルム基板を低コストで大量に製造するには、できるだけ少ない積層数であっても高いバリア性を発現することが求められる。これらの背景から、有機層、無機層の組が1組で0.005g/m2/day以下、特に0.001g/m2/day未満の水蒸気透過率を達成できる有機無機積層型の積層体、前記積層体を有するバリア性フィルム基板、および前記バリア性フィルム基板を用いた有機EL素子の開発が望まれる。
本発明の第1の目的は、有機層、無機層の組が1組でも水蒸気透過率が十分に低い有機無機積層型の積層体を提供することである。本発明の第2の目的は前記積層体を含むバリア性フィルム基板、および、耐久性の高いデバイスや光学部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の材料を含む有機層を形成し、その上に無機層を形成することにより優れた積層体を製造でき、該積層体を有するバリア性フィルム基板を製造しうることを見出し、以下に記載される本発明を提供するに至った。
【0008】
(1)有機層の上に無機層を積層した構造を含む積層体の製造方法であって、下記一般式(1)のmが2であるモノマーと、下記一般式(1)のmが3以上であるモノマーとを含む混合物を重合させることにより前記有機層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【化1】

[一般式(1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、Lはm価の連結基を表す。]
(2)(1)において、mが2であるモノマーおよび3であるモノマーの合計混合比が75質量%以上であることを特徴とする積層体の製造方法。
(3)有機層の上に無機層を積層した構造を含む積層体の製造方法であって、下記一般式(1)のmが2であるモノマーと、下記一般式(1)のmが3であるモノマーとを含む混合物を重合させることにより前記有機層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【化2】

[一般式(1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、Lはm価の連結基を表す。]
(4)(3)において、mが2であるモノマーの混合比が60〜80質量%であり、mが3であるモノマーの混合比が20〜40質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。
(5)有機層の上に無機層を積層した構造を含む積層体の製造方法であって、下記一般式(1)のmが2であるモノマーと、下記一般式(1)のmが4以上であるモノマーとを含む混合物を重合させることにより前記有機層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【化3】

[一般式(1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、Lはm価の連結基を表す。]
(6)(5)において、mが2であるモノマーの混合比が60〜80質量%であり、mが4以上であるモノマーの混合比が20〜40質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。
(7)有機層の上に無機層を積層した構造を含む積層体の製造方法であって、下記一般式(1)のmが2であるモノマーと、下記一般式(1)のmが3であるモノマーと、下記一般式(1)のmが4以上であるモノマーとを含む混合物を重合させることにより前記有機層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【化4】

[一般式(1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、Lはm価の連結基を表す。]
(8)(7)においてmが2であるモノマーとmが3であるモノマーの合計の混合比が75〜95質量%であり、mが4以上であるモノマーの混合比が5〜25質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。
(9)前記一般式(1)において、Lが含酸素官能基を含まない連結基であることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
(10) 前記有機層をフラッシュ蒸着により製膜し、かつ、前記モノマー混合物を100Pa以下の真空中で重合することを特徴とする(1)〜(9)のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
(11)常に100Pa以下の真空中で有機層と無機層を積層することにより前記バリア層を形成することを特徴とする(1)〜(10)のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
(12)支持体上に配置された前記モノマー混合物を100Pa以下の真空中で2J/cm2以上のエネルギーを照射する紫外線重合により重合する工程を含むことを特徴とする(1)〜(11)のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
(13)有機層をクリーンルーム内で形成することを特徴とする、(1)〜(12)のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
(14)(1)〜(13)のいずれか一項に記載の製造方法により製造された積層体からなるバリア性積層体。
(15)有機層の上に無機層を積層した構造を含むバリア性積層体であって、前記バリア性積層体を構成する無機層1層あたりの40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率が1×10-3g/m2・day以下であることを特徴とするバリア性積層体。
(16)バリア性積層体の表面における1μm以上の長さを有する欠陥の数が1平方センチメートルあたり30個以下であることを特徴とする(14)または(15)に記載のバリア性積層体。
(17)前記有機層が鉛筆硬度として2H以上の硬さを有することを特徴とする(14)〜(16)のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
(18)前記有機層が微小硬度として150N/mm以上の硬さを有することを特徴とする(14)〜(17)のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
(19)前記無機層の平滑性が10μm角の平均粗さとして1nm以下であることを特徴とする(14)〜(18)のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
(20)前記無機層の層厚が20〜60nmであることを特徴とする(14)〜(19)のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
(21)プラスチックフィルム上に(14)〜(20)のいずれか一項に記載の積層体を有するバリア性フィルム基板。
(22)プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に有機層の上に無機層を積層した構造を含むバリア層を有するバリア性フィルム基板であって、前記有機層が下記一般式(2)で表される構造単位であって、nが2である構成単位と、nが3以上である構成単位とを有するポリマーを主成分とすることを特徴とするバリア性フィルム基板。
一般式(2)
(Z−COO)n−L
[一般式(2)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、該構造中のR2およびR3は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(2)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはn価の連結基を表す。n個のZは互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。]
【化5】

(23)(22)に記載のバリア性フィルム基板において、前記ポリマーが、nが2である構造単位および3である構造単位を合計で75質量%以上含むことを特徴とするバリア性フィルム基板。
(24)プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に有機層の上に無機層を積層した構造を含むバリア層を有するバリア性フィルム基板であって、前記有機層が下記一般式(2)で表される構造単位であって、nが2である構成単位と、nが3である構成単位とを有するポリマーを主成分とすることを特徴とするバリア性フィルム基板。
一般式(2)
(Z−COO)n−L
[一般式(2)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、該構造中のR2およびR3は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(2)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはn価の連結基を表す。n個のZは互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。]
【化6】

(25)(24)に記載のバリア性フィルム基板において、前記ポリマーが、nが2である構造単位を60〜80質量%、nが3である構造単位を20〜40質量%含むことを特徴とするバリア性フィルム基板。
(26)プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に有機層の上に無機層を積層した構造を含むバリア層を有するバリア性フィルム基板であって、前記有機層が下記一般式(2)で表される構造単位であって、nが2である構成単位と、nが4以上である構成単位とを有するポリマーを主成分とすることを特徴とするバリア性フィルム基板。
一般式(2)
(Z−COO)n−L
[一般式(2)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、該構造中のR2およびR3は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(2)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはn価の連結基を表す。n個のZは互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。]
【化7】

(27)(26)に記載のバリア性フィルム基板において、前記ポリマーが、nが2である構造単位を60〜80質量%、nが4以上である構造単位を20〜40質量%含むことを特徴とするバリア性フィルム基板。
(28)プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に有機層の上に無機層を積層した構造を含むバリア層を有するバリア性フィルム基板であって、前記有機層が下記一般式(2)で表される構造単位であって、nが2である構成単位と、nが3である構成単位と、nが4以上である構成単位とを有するポリマーを主成分とすることを特徴とするバリア性フィルム基板。
一般式(2)
(Z−COO)n−L
[一般式(2)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、該構造中のR2およびR3は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(2)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはn価の連結基を表す。n個のZは互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。]
【化8】

(29)(28)に記載のバリア性フィルム基板において、前記ポリマーが、nが2である構造単位および/またはnが3である構成単位を合計で75〜95質量%、nが4以上である構造単位を5〜25質量%含むことを特徴とするバリア性フィルム基板。
(30)前記一般式(2)において、Lが含酸素官能基を含まない連結基であることを特徴とする、(22)〜(29)のいずれか一項に記載のバリア性フィルム基板。
(31) (1)〜(13)のいずれか一項に記載の製造方法により製造された積層体を用いたデバイス。
(32) (1)〜(13)のいずれか一項に記載の製造により製造された積層体を封止フィルムとして用いたデバイス。
(33) 前記デバイスが有機EL素子である(31)または(32)に記載のデバイス。
(34) (1)〜(13)のいずれか一項に記載の製造により製造された積層体を封止フィルムとして用いた光学部材。
(35) (1)〜(13)のいずれか一項に記載の製造方法により、基板上に積層体を設ける工程を含むデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、有機層、無機層の組が1組でも水蒸気透過率が低い積層体が提供可能になった。また、本発明の製造方法によれば、当該積層体を有するバリア性フィルム基板を容易に製造することができる。さらに、本発明のデバイスおよび光学部材は、耐久性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の積層体とその製造方法、バリア性フィルム基板、デバイスおよび光学部材について詳細に説明する。以下に記載する説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
<積層体とその製造方法>
本発明の積層体は少なくとも1層の有機領域もしくは有機層と、少なくとも1層の無機領域もしくは無機層の積層体である。以降、簡略化のため、有機層と有機領域は「有機層」として、無機層と無機領域は「無機層」として記述する。有機層もしくは無機層が複数の場合、通常、有機層と無機層が交互に積層した構成であることが好ましい。
有機領域と無機領域より構成される場合、各領域が膜厚方向に連続的に変化するいわゆる傾斜材料層であってもよい。前記傾斜材料の例としては、キムらによる論文「Journal of Vacuum Science and Technology A Vol. 23 p971−977(2005 American Vacuum Society) ジャーナル オブ バキューム サイエンス アンド テクノロジー A 第23巻 971頁〜977ページ(20005年刊、アメリカ真空学会)」に記載の材料や、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように有機層と無機層が界面を持たない連続的な層等が挙げられる。
本発明の積層体は、有機層と無機層のほかに機能層を有していても良い。機能層の例としては、後述のプラスチックフィルムの項で述べるものと同様の層が好ましく用いられる。本発明の特徴は、有機層が一般式(2)で表される構造単位を有するポリマーを含む層であることにある。本発明の積層体は、他の機能性層を有しても良い。
【0012】
(有機層)
有機層は、一般式(2)で表される構造単位を有するポリマーであって、nが2である構成単位と、nが3以上である構成単位とを有するポリマー(a)を主成分とする層である。特に、nが2である構成単位と、nが3である構成単位とを有するポリマー(b)、nが2である構成単位と、nが4以上である構成単位とを有するポリマー(c)、または、nが2である構成単位と、nが3である構成単位と、nが4以上である構成単位とを有するポリマー(d)を主成分とする層であることが好ましい。
一般式(2)
(Z−COO)n−L
一般式(2)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、該構造中のR2およびR3は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(2)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはn価の連結基を表す。n個のZは互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。前記ポリマー(a)〜(d)は、それぞれ、nが2および/または3である構造単位を75質量%以上含むことが好ましい。
【化9】

【0013】
Lの炭素数は、好ましくは3〜18、より好ましくは4〜17、さらに好ましくは5〜16、特に好ましくは6〜15である。
nが2の場合、Lは2価の連結基を表すが、そのような2価の連結基の例として、アルキレン基(例えば1,3−プロピレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロピレン基、1,6−ヘキシレン基、1,9−ノニレン基、1,12−ドデシレン基、1,16−ヘキサデシレン基等)、エーテル基、イミノ基、カルボニル基、およびこれらの2価基が複数個直列に結合した2価残基(例えばポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、プロピオニルオキシエチレン基、ブチロイルオキシプロピレン基、カプロイルオキシエチレン基、カプロイルオキシブチレン基等)を挙げることができる。これらの中ではアルキレン基が好ましい。
【0014】
Lは置換基を有してもよく、Lを置換することのできる置換基の例としては、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、ブチル基等)、アリール基(例えばフェニル基等)、アミノ基(例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、2−エチルヘキシロキシ基等)、アシル基(例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基などが挙げられる。置換基として好ましくは、含酸素官能基を持たない基が後述の理由から好ましく、特にアルキル基である。
すなわち、nが2の場合、Lは含酸素官能基を持たないアルキレン基が最も好ましい。このような基を採用することにより、水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
【0015】
nが3の場合、Lは3価の連結基を表すが、そのような3価の連結基の例として、前述の2価の連結基から任意の水素原子を1個除いて得られる3価残基、または、前述の2価の連結基から任意の水素原子を1個除き、ここにアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、およびこれらを直列に結合した2価基を置換した3価残基を挙げることができる。このうち、アルキレン基から任意の水素原子を1個除いて得られる、含酸素官能基を含まない3価残基が好ましい。このような基を採用することにより、水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
nが4以上の場合、Lは4価以上の連結基を表すが、そのような4価以上の連結基の例も、同様に挙げられる。好ましい例も同様に挙げられる。特に、アルキレン基から任意の水素原子を2個除いて得られる、含酸素官能基を含まない4価残基が好ましい。このような基を採用することにより、水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
【0016】
nが2である構成単位と、nが3以上である構成単位とを有するポリマー(a)
一般式(2)においてnが2の構造単位とnが3以上の構造単位を含むポリマーの場合、nが2および/または3の構造単位は75〜95質量%であることが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
nが2である構成単位と、nが3である構成単位とを有するポリマー(b)
一般式(2)においてnが2の構造単位とnが3の構造単位を含む場合、nが2の構造単位は60〜80質量%であることが好ましく、65〜75質量%であることがより好ましい。nが3の構造単位は10〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、膜硬度と重合率の両立がより効果的に発揮され好ましい。
【0018】
nが2である構成単位と、nが4以上である構成単位とを有するポリマー(c)
一般式(2)において、nが2である構成単位と、nが4以上である構成単位とを有するポリマーの場合、nが4以上の構造単位は、10〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。また、nは4が好ましい。
【0019】
nが2である構成単位と、nが3である構成単位と、nが4以上である構成単位とを有するポリマー(d)
一般式(2)において、nが2の構造単位と、nが3の構造単位と、nが4以上の構造単位とを含むポリマーの場合、nが2の構造単位と、nが3の構造単位の合計で75〜95質量%含むことが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。nが4以上の構造単位は 5〜25質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましく、15〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
また、前記ポリマー(a)〜(d)は一般式(2)で表されない構造単位を有していても構わない。例えば、アクリレートモノマーやメタクリレートモノマーを共重合したときに形成される構造単位を有していてもよい。前記ポリマーにおいて、一般式(2)で表されない構造単位は20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
有機層は、一般式(2)で表される構造単位を有するポリマーを主成分とする層であるが、ここでいう「主成分」とは、一般式(2)で表される構造単位を有するポリマーが有機層全体の重量の80質量%以上であることを意味する。前記ポリマーは90質量%以上であることが好ましい。有機層に含有させることができる一般式(2)で表される構造単位を有さないポリマーとして、例えばポリエステル、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル等が挙げられる。
【0021】
本発明のバリア性フィルム基板の有機層を構成するポリマーは、下記一般式(1)のmが2であるモノマーとmが3以上であるモノマーとを含有するモノマー混合物を重合させること、特に、mが2であるモノマーとmが3であるモノマーとを含有するモノマー混合物を重合させること、mが2であるモノマーとmが4以上であるモノマーとを含有するモノマー混合物を重合させること、またはmが2であるモノマーとmが3であるモノマーとmが4以上であるモノマーとを含有するモノマー混合物を重合させること、により得ることができる。
【化10】

一般式(1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、Lはm価の連結基を表す。mが2以上の場合、それぞれのR1は同一であってもよいし、異なっていてもよい。Lの具体例と好ましい範囲は、上記の一般式(2)におけるLの具体例および好ましい範囲と同じである。また、モノマー混合物中における、mが2であるモノマーと、mが3以上であるモノマー(mが3であるモノマー、mが4以上であるモノマー)との含有量の好ましい範囲は、上記の一般式(2)においてnが2の構造単位とnが3以上の構造単位(nが3の構造単位とnが4以上の構造単位)の含有量の好ましい範囲と同じである。
【0022】
以下において、一般式(1)のmが2または3であるモノマーの具体例を示すが、本発明で用いることができるmが2または3のモノマーはこれらに限定されるものではない。
【0023】
【化11】

【0024】
【化12】

【0025】
一般式(1)のmが4以上であるモノマーとしては、mが4〜6であるモノマーを用いることができ、mが4であるモノマーが好ましい。具体的にはペンタエリスリトール骨格、ジペンタエリスリトール骨格を有するモノマーを挙げることができる。
以下において、一般式(1)のmが4以上であるモノマーの具体例を示すが、本発明で用いることができる4以上のモノマーはこれらに限定されるものではない。
【0026】
【化13】

【0027】
【化14】

【0028】
一般式(1)のmが2であるモノマーと、mが3以上であるモノマー(mが3であるモノマーと、mが4以上であるモノマーは)、それぞれモノマー混合物中に一種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。
【0029】
本発明者らの研究によれば、重合により形成される有機層の硬度が高いことが、バリア性を高める上で重要であることがわかっている。有機層の硬度を高めるには下記の方策がある。
(1)モノマーの重合率を高める
(2)多官能モノマーを用いる
(3)モノマーの連結基として柔軟性の高い含酸素官能基を用いない。
重合率と官能基数はトレードオフの関係にあり、官能基数が増えるほど重合度が低くなるという関係にある。本発明者らはモノマーの官能基数を上げ、かつ、重合度を上げるための処方を検討した結果、前述のようなモノマー混合比率が好ましいということを突き止めた。ここで、重合率は、90%以上が好ましい。
有機層の膜硬度は鉛筆硬度として表すことができ、本発明では鉛筆硬度としてH以上の硬さを有することが好ましく、2H以上の硬さを有することがより好ましい。有機層の硬度はナノインデンテーション法に基づく微小硬度としても表すことができる。有機層の微小硬度は150N/mm以上であることが好ましく、180N/mm以上であることがより好ましく、200N/mm以上であることが特に好ましい。
有機膜の硬度が高いとバリア性が高くなる理由は必ずしも明確で無いが、本発明者らの推測によれば、有機層の硬度が高く、平滑性を有する方が無機層が平滑に積層するためであると考えられる。すなわち、スパッタ法やPECVD法による無機層成膜では、飛来する無機クラスターは運動エネルギーを有しており、これが有機層表面に付着する際に有機層に力学的な衝撃を与えるため、有機層の硬度が高いほうがこの衝撃に耐えて平滑な無機膜を形成することができる。この推測の根拠となるデータについては、後の実施例にて、明らかとなる。
すなわち、鉛筆硬度がH以上の硬さを有する有機層を形成することにより、より低い水蒸気透過率を達成することが可能である。また、好ましい平滑性と硬さを有する有機層を形成することは、モノマー混合物中の一般式(1)で表されるモノマー種間の混合比を以下の特定の範囲にすることにより達成できる。
モノマー混合物中に、モノマー成分として、一般式(1)で表されるモノマーとしてmが2であるモノマーと、mが3であるモノマーのみを用いる場合、mが2であるモノマーの混合比は60〜80質量%であることが好ましく、65〜75質量%であることがより好ましい。mが3であるモノマーは20〜40質量%であることが好ましく、25〜35質量%であることがより好ましい。
モノマー混合物中に、モノマー成分として、一般式(1)で表されるモノマーとしてmが2であるモノマーと、mが4以上であるモノマーのみを用いる場合は、mが2であるモノマーの混合比は75〜95質量%であることが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。mが4以上であるモノマーの混合比は5〜25質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましく、15〜25質量%であることがさらに好ましい。
モノマー混合物中に、モノマー成分として、一般式(1)で表されるモノマーとしてmが2であるモノマーと、mが3であるモノマーと、mが4以上であるモノマーのみを含む混合物を用いる場合は、mが2または3であるモノマーの混合比の合計で75〜95質量%含むことが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。mが4以上であるモノマーの混合比は、5〜25質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましく、15〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明で用いるモノマー混合物中には、一般式(1)で表されないモノマーが含まれていてもよい。そのようなモノマーは、本発明のポイントである有機層の硬度を高めることに対して障害となるので、モノマー混合物中に20質量%以下の量で含まれていることが好ましい。一般式(1)で表されないモノマーは、例えば単官能モノマーであり、このましくは単官能のアクリレートモノマーや単官能のメタクリレートモノマーである。単官能のアクリレートモノマーや単官能のメタクリレートモノマーの分子量は特に制限されないが、通常は150〜600であるものを用いる。これらのモノマーは、モノマー混合物中に一種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。単官能モノマーは重合率を高める作用があるが、含有量が多すぎると形成される有機層の硬さを損なうため、前述の通り、含有率を20質量%以下にすることが好ましい。より好ましい範囲は、上記の一般式(2)で表されない構造単位の好ましい含有量の範囲と同じである。
【0031】
以下に単官能モノマーの好ましい具体例を示すが、本発明で用いることができる単官能モノマーはこれらに限定されるものではない。
【0032】
【化15】

【0033】
本発明に用いるモノマー混合物は、密着性改良のために、リン酸系の(メタ)アクリレートモノマーやシランカップリング基を含有する(メタ)アクリレートモノマーを含んでいてもよい。これらのモノマーの添加量は、その官能基数により、前述の添加量の範囲に合致するように添加される。
以下にリン酸系モノマーもしくはシランカップリング基含有モノマーの好ましい具体例を示すが、本発明で用いることができるものはこれらに限定されるものではない。
【0034】
【化16】

【0035】
有機層の形成方法としては、通常の溶液塗布法や真空製膜法等を挙げることができる。溶液塗布法としては、例えばディップコ−ト法、エアーナイフコ−ト法、カーテンコ−ト法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2,681,294号明細書に記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法により塗布することができる。真空製膜法としては、特に制限はないが、本発明において、米国特許4842893号、4954371号、5032461号各明細書に記載のフラッシュ蒸着法が好ましい。フラッシュ蒸着法はモノマー中の溶存酸素を低下させる効果を有し、重合率を高めることができるため特に有用である。
【0036】
モノマー重合法としては特に限定は無いが、加熱重合、光(紫外線、可視光線)重合、電子ビーム重合、プラズマ重合、あるいはこれらの組み合わせが好ましく用いられる。これらのうち、光重合が特に好ましい。光重合を行う場合は、光重合開始剤を併用する。光重合開始剤の例としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えばイルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えばダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Esacure)シリーズ(例えばエザキュアTZM、エザキュアTZT)、同じくオリゴマー型のエザキュアKIPシリーズ等が挙げられる。
【0037】
照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.5J/cm2以上が好ましく、2J/cm2以上がより好ましい。アクリレート、メタクリレートは、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。このような方法としては不活性ガス置換法(窒素置換法、アルゴン置換法など)、減圧法が挙げられる。このうち、減圧硬化法はモノマー中の溶存酸素濃度を低下させる効果を有するため、より好ましい。
窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で2J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。フラッシュ蒸着法で形成したモノマー皮膜を、減圧条件下、2J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが最も好ましい。このような方法を取ることで、重合率を高めることができ、硬度の高い有機層を得ることができる。減圧下で重合することにより重合率が向上することは、後の実施例で明らかとなる。モノマーの重合は、モノマー混合物を塗布または蒸着等により目的の場所に配置した後に行うことが好ましい。
【0038】
モノマーの重合率は85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、92%以上であることが特に好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。重合率は赤外線吸収法によって定量することができる。方法の詳細については実施例で述べる。
【0039】
有機層の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難になるし、厚すぎると外力によりクラックを発生してバリア性が低下する。かかる観点から、有機層の厚みは50nm〜2000nmが好ましく、200nm〜1500nmがより好ましい。
また、有機層は先に記載したとおり平滑であることが好ましい。有機層の平滑性は10μm角の平均粗さ(Ra値)として2nm以下が好ましく、1nm以下であることがより好ましい。有機層の表面にはパーティクル等の異物、突起が無いことが要求される。このため、有機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
有機層は2層以上積層してもよい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上積層する場合は、各々の有機層が上記の好ましい範囲内にあるように設計することが望ましい。また、上述したとおり、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように無機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層であってもよい。
【0040】
(無機層)
無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)、種々の化学的気相成長法(CVD)、めっきやゾルゲル法等の液相成長法がある。この中では、無機層形成時の基材フィルムへの熱の影響を回避することができ、生産速度が速く、均一な薄膜層を得やすい点で、物理的気相成長法(PVD)や化学的気相成長法(CVD)を用いることが好ましい。無機層に含まれる成分は、上記性能を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTa等から選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物などを用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましく、特にSiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
【0041】
本発明では、上記の平滑で硬い有機層の上に無機層を形成するため、平滑性の高い無機層を形成することができる。これによって無機層の膜厚が薄くても高いバリア性が得られ、また、有機層の上に無機層を1層形成するだけで高いバリア性が得られる。このような効果は、有機層が平滑で硬いという2つの条件を兼ね備えていることによるものである。例えば、スパッタ等の無機製膜法を採用する場合、有機層上に着膜する無機物は運動エネルギーを有している。このため、平滑であるが軟らかい有機層の上に無機層を形成しようとすると、無機物が着膜する際の衝撃によって有機層が粗面化し、生成する無機層の平滑性が悪くなる。本発明では有機層の平滑性を維持しながら硬度を高くしているため、前記衝撃に耐えることができ、生成する無機層が平滑で、薄くても高いバリア性を実現することができる。
本発明により形成される無機層の平滑性は、10μm角の平均粗さ(Ra値)として2nm未満であることが好ましく、1nm以下がより好ましい。このため、無機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
【0042】
無機層の厚みに関しては特に限定されないが、1層に付き、通常、5〜500nmの範囲内である。本発明の積層体とバリア性フィルム基板は無機層が薄くても高いバリア性を示すものであることから、生産性を上げてコストを下げるために無機層はできるだけ薄くすることが好ましい。無機層の厚みは、好ましくは20〜200nmであり、より好ましくは30〜90nmである。
本発明では有機層と無機層が1組であっても高いバリア性を示すため、無機層の数は1層であることが製造効率やコストの面で好ましい。もっとも、無機層は2層以上積層してもよい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上積層する場合は、各々の無機層が上記の好ましい範囲内にあるように設計することが望ましい。また、上述したとおり、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように有機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層であっても良い。
【0043】
(有機層と無機層の積層)
有機層と無機層の積層は、所望の層構成に応じて有機層と無機層を順次繰り返し製膜することにより行うことができる。無機層を、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などの真空製膜法で形成する場合、有機層も前記フラッシュ蒸着法のような真空製膜法で形成することが好ましい。バリア層を製膜する間、途中で大気圧に戻すことなく、常に1000Pa以下の真空中で有機層と無機層を積層することが特に好ましい。圧力は100Pa以下であることがより好ましく、50Pa以下であることがさらに好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。
【0044】
(機能層)
本発明のデバイスにおいては、バリア性積層体上、もしくはその他の位置に、機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0045】
(バリア性積層体の用途)
本発明のバリア性積層体は、通常、支持体の上に設けるが、この支持体を選択することによって、様々な用途に用いることができる。支持体としては、基材フィルムのほか、各種のデバイス、光学部材等が含まれる。具体的には、本発明のバリア性積層体はバリア性フィルム基板のバリア層として用いることができる。また、本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は、ガスバリア性を要求するデバイスの封止に用いることができる。本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は、光学部材にも適用することができる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0046】
<バリア性フィルム基板>
バリア性フィルム基板は、基材フィルムと、該基材フィルム上に形成されたバリア性積層体とを有する。バリア性フィルム基板において、本発明のバリア性積層体は、基材フィルムの片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。本発明のバリア性積層体は、基材フィルム側から無機層、有機層の順に積層していてもよいし、有機層、無機層の順に積層していてもよい。本発明の積層体の最上層は無機層でも有機層でもよい。
また、本発明におけるバリア性フィルム基板は大気中の酸素、水分、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等を遮断する機能を有するバリア層を有するフィルム基板である。
バリア性フィルム基板を構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。
バリア性フィルム基板はバリア性積層体、基材フィルム以外の構成成分(例えば、易接着層等の機能性層)を有しても良い。機能性層はバリア性積層体の上、バリア性積層体と基材フィルムの間、基材フィルム上のバリア性積層体が設置されていない側(裏面)のいずれに設置してもよい。
【0047】
(プラスチックフィルム)
本発明におけるバリア性フィルム基板は、通常、基材フィルムとして、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、有機層、無機層等の積層体を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、金属支持体(アルミニウム、銅、ステンレス等)ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0048】
本発明のバリア性フィルム基板を後述する有機EL素子等のデバイスの基板として使用する場合は、プラスチックフィルムは耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。
【0049】
本発明のバリア性フィルム基板は有機EL素子等のデバイスとして利用されることから、プラスチックフィルムは透明であること、すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
本発明のバリア性フィルム基板をディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、プラスチックフィルムとして不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えばポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
本発明のバリア性フィルム基板に用いられるプラスチックフィルムの厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらのプラスチックフィルムは、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0050】
<デバイス>
本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等)等の電子デバイスを挙げることができ有機EL素子に好ましく用いられる。
【0051】
本発明のバリア性積層体は、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のバリア性積層体を設ける方法である。バリア性積層体を設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
【0052】
本発明のバリア性フィルム基板は、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、バリア性フィルム基板を重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
【0053】
(有機EL素子)
バリア性フィルム基板用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0054】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるバリア性フィルム基板は、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明の基板は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型、VA(Vertically Alignment)型、ECB(Electrically Controlled Birefringence)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、CPA(Continuous Pinwheel Alignment)型、IPS(In-Plane Switching)型であることが好ましい。
【0055】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー、特願平7−160334号公報に記載の太陽電池等が挙げられる。
【0056】
<光学部材>
本発明のバリア性積層体を用いる光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるバリア性フィルム基板を基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。また、有機層、無機層の形成は特に断りがない限り、いずれもクラス1000のクリーンルーム内で行った。
【0058】
1.常圧下での重合による有機層の形成、およびバリア性フィルム基板の作成
ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、帝人デュポン社製、商品名:テオネックスQ65FA)を20cm角に裁断し、その平滑面側に以下の手順でバリア層を形成して評価した。
【0059】
(1−1)第1層(有機層)の形成
PENフィルム上に、表1に示す組成を有するモノマー混合物(20g)、紫外線重合開始剤(Lamberti社製、商品名:ESACURE KTO−46)1.5g、2−ブタノン190gの混合溶液を液厚が5μmとなるようにワイヤーバーを用いて塗布した。乾燥後、窒素置換法により酸素濃度が0.1%となったチャンバー内にて高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量約2J/cm2)して有機層を硬化させ、膜厚が1000nm±50nmの有機層を形成した。得られた有機層の特性値(重合率、鉛筆硬度、微小硬度、平滑性(Ra))を以下の方法で測定し、結果を表1に示した。なお、試料1〜10の有機層はクラス1000のクリーンルーム内で、試料11の有機層は、通常の実験室(クラス30000相当)で作成した。
【0060】
<重合率の測定>
硬化した膜とモノマー混合物のそれぞれについて、赤外吸収スペクトルにおける1720cm-1付近のカルボニル基に基づく吸収強度と810cm-1付近の炭素−炭素二重結合に基づく吸収強度を測定し、以下の計算式にしたがって重合率を算出した。
重合率(%)={(a×d−b×c)/a×d}×100
a:硬化膜の1720cm-1付近のピーク強度
b:硬化膜の810cm-1付近のピーク強度
c:モノマー混合物の1720cm-1付近のピーク強度
d:モノマー混合物の810cm-1付近のピーク強度
<鉛筆硬度の測定>
有機層の鉛筆硬度(膜硬度)を鉛筆引掻き試験機(東洋精機(株)製)を用いてJISK5400に従い測定した。
<微小硬度の測定>
フィッシャー社製、ピコデンターHM500型を用いて、押し込み深さ50nmの条件で微小硬度を測定した。
<平滑性の測定>
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、表面の平滑性を測定した。このとき、平滑性は10μm角の測定範囲に対する平均粗さRa(単位nm)で表した。
【0061】
表1の結果から明らかなように、m=2のモノマーのみに由来する試料1は、重合率は高いものの、鉛筆硬度が2Bと低い。m=3のモノマーを含むモノマー混合物に由来する試料2〜5は試料1に比べて鉛筆硬度が高い。m=4以上のモノマーを10〜40質量%含む本発明の試料6〜10は、膜硬度がH〜3Hと硬い。中でも、重合率が90%以上であって、m=2、m=3、m=4のモノマー混合物に由来する試料8が最も硬度が高い。
【0062】
(1−2)第2層(無機層)の形成
スパッタリング装置を用いて、前記有機層の上に無機層(酸化アルミニウム層)を形成した。ターゲットとしてアルミニウムを、放電ガスとしてアルゴンを、反応ガスとして酸素を用いた。製膜圧力は0.1Pa、到達膜厚は60nmであった。このようにして有機層の上に無機層を積層したバリア性フィルム基板の試料1〜10を作成した。得られたバリア性フィルム基板の特性値(Ra、水蒸気透過率)を表1に示した。Raの測定法は上記(1−1)と同じであり、水蒸気透過率は下記の2種類の方法で測定した。
【0063】
<MOCON法による水蒸気透過率の測定>
水蒸気透過率測定器(MOCON社製、PERMATRAN−W3/31)を用いて、40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率を試料1〜10についてそれぞれ測定した。この測定の検出限界値は0.005g/m2/dayである。
<Ca法による水蒸気透過率の測定>
G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-8頁に記載の方法(カルシウムを用いた測定法)を用いて、40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率を試料1〜10についてそれぞれ測定した。
<欠陥数のカウント>
上記で作製した各バリア性フィルム基板をHITACHI S−4100型走査型電子顕微鏡を用いて加速電圧5KV、拡大倍率500倍にて1mm角の領域を無作為に100箇所抽出した。選んだ領域内の欠陥数をカウントし、平均値を求めた。このときカウントできた欠陥は、最大長が1μm以上の長さを有する欠陥である。前記平均値を1cm2あたりに換算し、欠陥数とした。
【0064】
表1の結果から明らかなように、有機層の硬さが鉛筆硬度Bよりも軟らかい試料1は無機層を積層した際の表面Raが粗く、水蒸気透過率が高い。一方、有機層の硬さが鉛筆硬度Bまたは鉛筆硬度Bよりも硬い試料2〜10は、水蒸気透過率が0.005g/m2/day以下であり、高いバリア性を示す。なかでも、有機層の硬さが鉛筆硬度Fまたは鉛筆硬度Fよりも硬い試料3〜10は、無機層を積層した際の表面Raが2nm以下となっており、その結果として水蒸気透過率が0.001g/m2/day以下の高いレベルとなっている。特に、有機層の硬さが鉛筆硬度Hまたは鉛筆硬度Hよりも硬い試料4〜10は、水蒸気透過率が0.001g/m2/day未満の極めて高いレベルとなっている。
以上より、本発明のバリア性フィルム基板は有機EL素子等のデバイスの基板として好適であることが示唆される。
【0065】
試料4〜10のうち、有機層の硬さが鉛筆硬度Hである試料4〜6は無機層を積層した際の表面Raが2nm未満、微小硬度が150〜155N/mmで、水蒸気透過率が0.0008〜0.0009g/m2/dayである。一方、有機層の硬さが鉛筆硬度2H以上に硬い試料7〜10は、無機層を積層した際の表面Raが1nm以下、微小硬度が160N/mm以上となっており、その結果として、水蒸気透過率が0.0007以下となっている。以上のことから、有機層の鉛筆硬度が2H以上に硬いか、もしくは、バリア性フィルム基板のRaが1nm以下であるか、微小硬度が160N/mm以上であることが、より好ましいことがわかる。
【0066】
【表1】

【0067】
2.有機層の製膜法が異なるバリア性フィルム基板の作成
(2−1)第1層(有機層)の形成
試料11の有機層を以下の手順で形成した。
ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、帝人デュポン社製、商品名:テオネックスQ65FA)を20cm角に裁断し、その平滑面側に有機無機積層製膜装置(ヴァイテックス・システムズ社製、Guardian200)を用いて有機層を成膜した。この装置は、有機層と無機層を真空一貫製膜するものであるため、バリア層が完成するまで大気に開放されることがない。この装置の有機層製膜法は内圧3Paでのフラッシュ蒸着であり、重合のための紫外線の照射エネルギーは2J/cm2である。有機層の原料として、BEPGA(60g)、TMPTA(20g)、PETA(20g)、紫外線重合開始剤(ESACURE−TZT、5g)の混合溶液を用いた。
【0068】
【化17】

【0069】
フラッシュ蒸着の効果を明確にするための比較として、紫外線硬化を内圧3Paの減圧条件下で行う以外は上記試料8と同様にして、試料12の有機層を作製した。
【0070】
減圧硬化の効果を明確にするための比較として、上記試料8と同様にして試料13の有機層を作成した。
試料11〜13の有機層の膜厚はいずれも1000nmであった。有機層の特性値(重合率、微小硬度、鉛筆硬度、Ra)を表2に示した。
【0071】
表2の比較から明らかなように、フラッシュ蒸着により製膜した有機層>常圧塗布から減圧硬化により製膜した有機層>常圧塗布・常圧硬化により製膜した有機層の順に重合率が高く、膜硬度が高くなることがわかる。
【0072】
(2−2)第2層(無機層)の形成
引き続き(2−1)で用いたGuardian200を用いて、試料11〜13のガスバリア性フィルム基板を作成した。試料11は真空から取り出すことなく、有機層、無機層を一貫して製膜したことになる。無機層の成膜方法はアルミニウムをターゲットとする直流パルスによる反応性スパッタ法(反応性ガスは酸素)による酸化アルミニウム製膜により行った。得られた無機層(酸化アルミニウム)の膜厚は60nmであった。得られたバリア性フィルム基板の特性値(Ra、Ca法により測定した水蒸気透過率)を表2に示した。
【0073】
表2の結果から明らかなように、有機層の硬度と呼応して水蒸気透過率が低下(バリア性が向上)することがわかる。以上のことから、有機層製膜にフラッシュ蒸着法を用いた方が、より優れたバリア性フィルム基板を与えることがわかる。また、塗布製膜であっても、減圧硬化をするとバリア性を高めるのに有効であることがわかる。
【0074】
【表2】

【0075】
3.含酸素官能基を連結基に持つモノマーを用いたバリア性フィルム基板の作成
上記(1−1)第1層(有機層)の形成および(1−2)第2層(無機層)の形成において、3官能モノマーTMPTAをTMPA−3EOに変える以外は同様の方法にて、試料14を作成した。表3より、連結基に含酸素官能基を有するTMPA−3EOを用いた試料14の重合率は91%と遜色ないが、膜硬度と水蒸気透過率はTMPTAを用いた試料4の方がより高くて優れていた。
上記(1−1)第1層(有機層)の形成および(1−2)第2層(無機層)の形成において、2官能モノマーBEPGAをTPGDA(トリプロピレングリコールジアクリレート)に変える以外は同様の方法にて、試料15を作成した。表3より、連結基に含酸素官能基を有するTPGDAを用いた試料15の重合率は91%と遜色ないが、膜硬度と水蒸気透過率はBEPGAを用いた試料4の方がより高くて優れていた。
【0076】
【表3】

【0077】
【化18】

【0078】
4.多層積層バリア性フィルム基板の作成
必要に応じて適宜積層すること以外は試料11と同様の方法で表4に示す層構成を有する積層バリアフィルム基板の試料21〜26を作成した。バリア性フィルム基板の水蒸気透過率を測定した結果を表4に示した。
【0079】
表4の結果から明らかなように、本発明のバリア性フィルム基板はいずれも水蒸気透過率が0.001g/m2/day未満であり、バリア性が極めて高い。水蒸気透過率が0.001g/m2/day未満を達成するには少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層が必須である。
【0080】
5.有機EL素子の作成と評価
(5−1)有機EL素子の作成
ITO膜を有する導電性のガラス基板(表面抵抗値10Ω/□)を2−プロパノールで洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の有機化合物層を順次蒸着した。
(第1正孔輸送層)
銅フタロシアニン 膜厚10nm
(第2正孔輸送層)
N,N'−ジフェニル−N,N'−ジナフチルベンジジン 膜厚40nm
(発光層兼電子輸送層)
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム 膜厚60nm
最後にフッ化リチウムを1nm、金属アルミニウムを100nm順次蒸着して陰極とし、その上に厚さ5μm窒化珪素膜を平行平板CVD法によって付け、有機EL素子を作成した。
【0081】
(5−2)有機EL素子上へのガスバリア層の設置
熱硬化型の接着剤(ダイゾーニチモリ(株)製、エポテック310)を用いて、バリア性フィルム基板の試料22〜26とそれぞれ貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子を各20素子ずつ作成した。
【0082】
(5−3)有機EL素子発光面状の評価
作成直後の有機EL素子をKeithley社製SMU2400型ソースメジャーユニットを用いて7Vの電圧を印加して発光させた。顕微鏡を用いて発光面状を観察したところ、いずれの素子もダークスポットの無い均一な発光を与えることが確認された。
次に各素子を60℃・相対湿度90%の暗い室内に500時間静置した後、発光面状を観察した。直径300μmよりも大きいダークスポットが観察された素子の比率を故障率と定義し、各素子の故障率を表4に示した。
【0083】
【表4】

【0084】
表4の結果から明らかなように、本発明のバリア性フィルム基板の試料22〜26を用いて封止した有機EL素子は湿熱耐久性に優れていることがわかる。また、有機層と無機層をともに2層以上含む本発明のバリア性フィルム基板は、有機EL素子に実装したときの故障率が低く、特に好ましいことがわかる。
【0085】
6.本発明の積層体を含む有機EL素子
上記(5−1)有機EL素子の作成と同様にして有機EL素子を作製した。この素子の上に上記(2−1)第1層(有機層)の形成および(2−2)第2層(無機層)の形成と同様にしてGuardian200を用いて有機無機積層体を積層した。但し、有機層は、BEPGA(60g)、TMPTA(20g)、PETA(20g)、紫外線重合開始剤(ESACURE−TZT、5g)の混合物を用い、1000nmの膜厚とした。無機層は、膜厚60nmの酸化アルミニウムとした。
この素子の耐久性を上記(5−3)と同様にして評価したところ、故障率は1%以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の製造方法により製造された積層体は、有機層、無機層の組が1組でも水蒸気透過率が低い。また、本発明により製造された積層体を有するバリア性フィルム基板を容易に製造することができる。さらに、本発明のデバイスや光学部材は、水蒸気透過性も故障率も低いため、産業上の利用可能性が高く、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機層の上に無機層を積層した構造を含む積層体の製造方法であって、下記一般式(1)のmが2であるモノマーと、下記一般式(1)のmが3以上であるモノマーとを含む混合物を重合させることにより前記有機層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【化1】

[一般式(1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、Lはm価の連結基を表す。]
【請求項2】
請求項1において、mが2であるモノマーおよび3であるモノマーの合計混合比が75質量%以上であることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項3】
有機層の上に無機層を積層した構造を含む積層体の製造方法であって、下記一般式(1)のmが2であるモノマーと、下記一般式(1)のmが3であるモノマーとを含む混合物を重合させることにより前記有機層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【化2】

[一般式(1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、Lはm価の連結基を表す。]
【請求項4】
請求項3において、mが2であるモノマーの混合比が60〜80質量%であり、mが3であるモノマーの混合比が20〜40質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項5】
有機層の上に無機層を積層した構造を含む積層体の製造方法であって、下記一般式(1)のmが2であるモノマーと、下記一般式(1)のmが4以上であるモノマーとを含む混合物を重合させることにより前記有機層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【化3】

[一般式(1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、Lはm価の連結基を表す。]
【請求項6】
請求項5において、mが2であるモノマーの混合比が60〜80質量%であり、mが4以上であるモノマーの混合比が20〜40質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項7】
有機層の上に無機層を積層した構造を含む積層体の製造方法であって、下記一般式(1)のmが2であるモノマーと、下記一般式(1)のmが3であるモノマーと、下記一般式(1)のmが4以上であるモノマーとを含む混合物を重合させることにより前記有機層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【化4】

[一般式(1)において、R1は水素原子またはメチル基を表し、Lはm価の連結基を表す。]
【請求項8】
請求項7においてmが2であるモノマーとmが3であるモノマーの合計の混合比が75〜95質量%であり、mが4以上であるモノマーの混合比が5〜25質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項9】
前記一般式(1)において、Lが含酸素官能基を含まない連結基であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記有機層をフラッシュ蒸着により製膜し、かつ、前記モノマー混合物を100Pa以下の真空中で重合することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
常に100Pa以下の真空中で有機層と無機層を積層することにより前記バリア層を形成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
支持体上に配置された前記モノマー混合物を100Pa以下の真空中で2J/cm2以上のエネルギーを照射する紫外線重合により重合する工程を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
有機層をクリーンルーム内で形成することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法により製造された積層体からなるバリア性積層体。
【請求項15】
有機層の上に無機層を積層した構造を含むバリア性積層体であって、前記バリア性積層体を構成する無機層1層あたりの40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率が1×10-3g/m2・day以下であることを特徴とするバリア性積層体。
【請求項16】
バリア性積層体の表面における1μm以上の長さを有する欠陥の数が1平方センチメートルあたり30個以下であることを特徴とする請求項14または15に記載のバリア性積層体。
【請求項17】
前記有機層が鉛筆硬度として2H以上の硬さを有することを特徴とする請求項14〜16のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
【請求項18】
前記有機層が微小硬度として150N/mm以上の硬さを有することを特徴とする請求項14〜17のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
【請求項19】
前記無機層の平滑性が10μm角の平均粗さとして1nm以下であることを特徴とする請求項14〜18のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
【請求項20】
前記無機層の層厚が20〜60nmであることを特徴とする請求項14〜19のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
【請求項21】
プラスチックフィルム上に請求項14〜20のいずれか一項に記載の積層体を有するバリア性フィルム基板。
【請求項22】
プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に有機層の上に無機層を積層した構造を含むバリア層を有するバリア性フィルム基板であって、前記有機層が下記一般式(2)で表される構造単位であって、nが2である構成単位と、nが3以上である構成単位とを有するポリマーを主成分とすることを特徴とするバリア性フィルム基板。
一般式(2)
(Z−COO)n−L
[一般式(2)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、該構造中のR2およびR3は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(2)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはn価の連結基を表す。n個のZは互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。]
【化5】

【請求項23】
請求項22に記載のバリア性フィルム基板において、前記ポリマーが、nが2である構造単位および3である構造単位を合計で75質量%以上含むことを特徴とするバリア性フィルム基板。
【請求項24】
プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に有機層の上に無機層を積層した構造を含むバリア層を有するバリア性フィルム基板であって、前記有機層が下記一般式(2)で表される構造単位であって、nが2である構成単位と、nが3である構成単位とを有するポリマーを主成分とすることを特徴とするバリア性フィルム基板。
一般式(2)
(Z−COO)n−L
[一般式(2)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、該構造中のR2およびR3は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(2)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはn価の連結基を表す。n個のZは互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。]
【化6】

【請求項25】
請求項24に記載のバリア性フィルム基板において、前記ポリマーが、nが2である構造単位を60〜80質量%、nが3である構造単位を20〜40質量%含むことを特徴とするバリア性フィルム基板。
【請求項26】
プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に有機層の上に無機層を積層した構造を含むバリア層を有するバリア性フィルム基板であって、前記有機層が下記一般式(2)で表される構造単位であって、nが2である構成単位と、nが4以上である構成単位とを有するポリマーを主成分とすることを特徴とするバリア性フィルム基板。
一般式(2)
(Z−COO)n−L
[一般式(2)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、該構造中のR2およびR3は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(2)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはn価の連結基を表す。n個のZは互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。]
【化7】

【請求項27】
請求項26に記載のバリア性フィルム基板において、前記ポリマーが、nが2である構造単位を60〜80質量%、nが4以上である構造単位を20〜40質量%含むことを特徴とするバリア性フィルム基板。
【請求項28】
プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に有機層の上に無機層を積層した構造を含むバリア層を有するバリア性フィルム基板であって、前記有機層が下記一般式(2)で表される構造単位であって、nが2である構成単位と、nが3である構成単位と、nが4以上である構成単位とを有するポリマーを主成分とすることを特徴とするバリア性フィルム基板。
一般式(2)
(Z−COO)n−L
[一般式(2)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、該構造中のR2およびR3は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(2)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはn価の連結基を表す。n個のZは互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。]
【化8】

【請求項29】
請求項28に記載のバリア性フィルム基板において、前記ポリマーが、nが2である構造単位および/またはnが3である構成単位を合計で75〜95質量%、nが4以上である構造単位を5〜25質量%含むことを特徴とするバリア性フィルム基板。
【請求項30】
前記一般式(2)において、Lが含酸素官能基を含まない連結基であることを特徴とする、請求項22〜29のいずれか一項に記載のバリア性フィルム基板。
【請求項31】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法により製造された積層体を用いたデバイス。
【請求項32】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法により製造された積層体を封止フィルムとして用いたデバイス。
【請求項33】
前記デバイスが有機EL素子である請求項31または32に記載のデバイス。
【請求項34】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造により製造された積層体を封止フィルムとして用いた光学部材。
【請求項35】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法により、基板上に積層体を設ける工程を含むデバイスの製造方法。

【公開番号】特開2009−172986(P2009−172986A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22398(P2008−22398)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】