説明

積層体の製造方法、積層体並びに積層体の製造装置

【課題】
ヘアラインやマット調等の略断面視で凹凸形状を有する表面が、その製造中に外部要因により損傷することなく、凹凸形状を美麗な状態を保ったまま製品とすることの出来る、表面にヘアライン形状等の凹凸形状を設けた積層体の製造方法、積層体、及びその製造装置を提供する。
【解決手段】
基材となるプラスチックフィルムの少なくとも片面に、光硬化性樹脂を主成分とする塗料を塗布して光硬化性層を積層する積層工程と、前記積層工程後に、前記光硬化性層を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程後に、予めその表面に略凹凸加工が施されてなるスタンパーフィルムの凹凸加工面側を前記光硬化性層表面に貼着して積層体を得る貼着工程と、前記貼着工程後に、前記積層体全体に光を照射してなる照射工程と、よりなる積層体の製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体の製造方法及びその製造方法により得られる積層体、並びにその製造方法を実行できる製造装置に関する発明であって、具体的には、例えばハードコート処理が施されている面の形状がヘアライン調やマット調等の微細凹凸形状であるハードコートフィルム及び該ハードコートフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、家庭用電気製品やオーディオ関連商品に係る市場の状況が成熟・飽和してきたのに伴い、各製品毎の明確な差別化が強く求められるようになってきている。この差別化とは、例えば製品の高級感であったり、また特定の機能や性質に優れている、秀でている、といったことである。
【0003】
製品の高級感という観点から述べると、いわゆる白物家電と呼ばれる家庭用電気製品(以下、単に「家電」とも言う。)であれば、通常であると製品の周囲は単調なプラスチック製の合板を用いるが、これに非常に細かな無数の細線、いわゆるヘアライン形状(以下、単に「ヘアライン」とも言う。)を設けた外観とすることで製品に高級感を醸し出すことが行われている。またこのヘアラインは家電に限らず、家庭用音響機器や携帯用音楽再生機器等のオーディオ機器、携帯電話やノートパソコン等のいわゆるモバイル機器、等の外装にも多用されている。
【0004】
また特定の機能や性質に秀でているケースとして、例えば携帯電話やノートパソコンの液晶ディスプレイの視認性を向上させるために、その表面をマット調と呼ばれる艶消し加工を施すことが行われている。これは、通常の液晶ディスプレイであるとその画像表示面において外光が反射することにより視認性が低下するが、この現象を低減させるために、液晶ディスプレイの表面を粗くする艶消し加工(「マット加工」とも言う。)を施すことで、いわゆるマット調とすることが行われている。
【0005】
このようにヘアラインを設けたり、マット調とするために、従来は素材そのものに対して直接加工を施すことで対処していた。例えば家電表面にヘアラインを設ける場合、家電の筺体を形成する化粧板の表面をヘアライン形状に削ることによりヘアラインを設け、またマット調とするには、例えばサンドブラストなどでマット調とした箇所を直接粗くする、という方法によっていた。
【0006】
しかしこのようにすると、製造過程で表面を削り損ねる、粗くしすぎる、等の加工ミスにより商品として使えないものが出来てしまう場合があり、いわゆる製品の歩留まりが悪くなってしまうため、別な手法でヘアラインを設けたりマット調と出来るようにすることが望まれるようになってきた。
【0007】
そこで、予めヘアラインを設けたフィルムや表面がマット調に処理されたフィルムを用意しておき、それを例えば家電の筺体の原材料として用いる化粧板の表面に予め貼着し、それを用いて家電の筺体とすることで表面にヘアラインが設けられた家電とする、という手法が提案されるようになり、そのためのフィルムの製造方法が種々提案されるようになった。
【0008】
例えば特許文献1に記載の製造方法であれば、透明基材シート上に電離放射線硬化性樹脂を塗布し、該電離放射線硬化性樹脂の塗膜上に表面が凹凸模様の賦形シートを積層し、電離放射線を照射して該電離放射線硬化性樹脂を硬化し、該賦形シートを除去して表面が凹凸模様の化粧シートを得ることができる。
【0009】
【特許文献1】特開平4−314540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この特許文献1に記載の化粧シートの製造方法において、凹凸模様をヘアライン状とすれば、確かにヘアラインシートを容易に得ることが出来るかのように思われる。
【0011】
しかしこの特許文献1に開示された発明であると、以下に示す問題が生じ、またそれを解消できない。即ち、この発明においては、基材シートが透明であるので、該基材シートを積層した後に電離放射線を照射すると、表現上は電離放射線は基材シートが透明であるために、これに遮られることなく電離放射線硬化性樹脂に到達すると同時にこれを硬化させることが可能であるかのように思われる。しかし本願発明に係る発明者が実際にこの記載に従って製造を試みても、必ずしも、電離放射線硬化性樹脂を必要十分な程度に硬化させられるものではないことがわかった。
【0012】
つまりこの特許文献1に開示されている発明において賦形シートが紙や合成紙などの素材である場合は、電離放射線硬化樹脂を硬化させるためには基材シート側から電離放射線を照射しなければならないが、このような場合必然的に基材シートは電離放射線を透過させるシートでなければならず、また好適なシートを選択しなければ電離放射線硬化樹脂が十分に硬化しないことがありえた。そしてこのような状態が発生することを回避するためには、賦形シートと基材シートとの組み合わせを慎重に選択しなければならず、煩わしいものであると言える。
【0013】
この点から考察すればこの特許文献1に開示された発明においては、基本的に基材シートは常に透明である必要が生じてしまい、その結果意匠性の観点から多様性に欠けると言わざるを得ない。
【0014】
さらに特許文献1に開示された発明において、精密な凹凸模様やサンドマット形状、ヘアライン形状をその表面に有する積層体を得ようとするならば、単純にかつ闇雲に、透明な基材シートと電離放射線硬化性樹脂と電離放射線とをその場に応じて適当に組み合わせても効果が得られないおそれが非常に高いと言わざるを得ないのである。
【0015】
そこで本発明はこのような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、確実に表面にヘアラインやサンドマットと呼ばれるほどに細密な凹凸模様を簡単にかつ確実に製造でき、さらにヘアラインやマット調等の略断面視で凹凸形状を有する表面が、その製造中に外部要因により損傷することなく、凹凸形状を美麗な状態を保ったまま製品とすることの出来る、表面にヘアライン形状等の凹凸形状を設けた積層体の製造方法、積層体、及びその製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の積層体の製造方法に関する発明は、基材となるプラスチックフィルムの少なくとも片面に、光硬化性樹脂を主成分とする塗料を塗布して光硬化性層を積層する積層工程と、前記積層工程後に、前記光硬化性層を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程後に、予めその表面に略凹凸加工が施されてなるスタンパーフィルムの凹凸加工面側を前記光硬化性層表面に貼着して積層体を得る貼着工程と、前記貼着工程後に、前記積層体全体に対し前記スタンパーフィルム側から光を照射してなる照射工程と、をこの順に実行してなる、積層体の製造方法であって、前記光硬化性樹脂が、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、又はポリエステルアクリレートの何れか若しくは複数であり、前記積層体全体に照射する光の波長が200nm以上500nm以下であり、かつピーク波長が360nm以上であり、なおかつ照射した光のピーク照度が200mW/cm以上であり、なおかつ積算光量が200mJ/cmであり、前記スタンパーフィルムが、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタアクリレートフィルム、ピリビニルカーボネートフィルム、又はPSフィルムの何れか若しくは複数を原材料とする、前記光の波長を透過させることができるプラスチックフィルムであって、かつその厚みが25μm以上100μm以下であること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項2に記載の積層体の製造方法は、請求項1に記載の積層体の製造方法であって、前記略凹凸加工が、ヘアライン加工、マット加工、エンボス加工、又は規則的あるいは不規則的な凹凸形状加工、の何れか若しくはこれらを組み合わせてなること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項3に記載の積層体の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の積層体の製造方法であって、前記照射工程後において、前記積層体から前記スタンパーフィルムを剥離してなる剥離工程と、前記剥離工程に、剥離された前記スタンパーフィルムを回収するスタンパーフィルム回収工程と、を更に備えてなること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項4に記載の積層体の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の積層体の製造方法であって、前記光硬化性層が、ハードコート性、防汚性、防指紋性、防眩性、又は帯電防止性、の何れか若しくは複数の機能を備えてなること、を特徴とする。
【0020】
本願発明の請求項5に記載の積層体の製造方法は、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の積層体の製造方法であって、前記プラスチックフィルムの片面若しくは両側の表面に、接着性を備えた接着層、金属光沢を呈する金属層、又は印刷が施された印刷層、の何れか若しくは複数の層が積層されてなること、を特徴とする。
【0021】
本願発明の請求項6に記載の積層体は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の積層体の製造方法によって得られてなること、を特徴とする。
【0022】
本願発明の請求項7に記載の積層体の製造装置は、請求項6に記載の積層体を製造するための製造装置であって、基材となるプラスチックフィルムを搬出する基材フィルム巻出部と、前記基材フィルム巻出部より搬出されたプラスチックフィルムの表面に光硬化性樹脂を主成分とする塗料を塗布して光硬化性樹脂層を積層してなる塗布積層部と、前記塗布積層部を経たプラスチックフィルム表面に積層されてなる光硬化性樹脂層を乾燥させる乾燥部と、予めその表面に略凹凸加工が施されてなるスタンパーフィルムを搬出するスタンパーフィルム巻出部と、前記スタンパーフィルム巻出部から搬出されたスタンパーフィルムの前記凹凸加工面側を、前記光硬化性樹脂層が積層されたプラスチックフィルム表面に貼着して積層体を得る貼着部と、前記貼着部を経た前記積層体全体に対し前記スタンパーフィルム側から光を照射してなる照射部と、を備えてなること、を特徴とする。
【0023】
本願発明の請求項8に記載の積層体の製造装置は、請求項7に記載の積層体の製造装置であって、前記照射部を経た積層体から前記スタンパーフィルムを剥離してなる剥離部と、前記剥離部にて剥離された前記スタンパーフィルムを巻き取るスタンパーフィルム巻取部と、前記剥離部を経て前記スタンパーフィルムが剥離された状態のフィルムを巻き取るフィルム巻取部と、を更に備えてなること、を特徴とする。
【0024】
本願発明の請求項9に記載の積層体の製造装置は、請求項7又は請求項8に記載の積層体の製造装置であって、前記略凹凸加工が、ヘアライン加工、マット加工、エンボス加工、又は規則的あるいは不規則的な凹凸形状加工、の何れか若しくはこれらを組み合わせてなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本願発明に係る積層体の製造方法は、基材プラスチックフィルム/光硬化性樹脂層/スタンパーフィルム、という構成を有し、かつスタンパーフィルムの表面が略断面視凹凸形状となるよう凹凸加工が施されたものである、という積層体を製造し、次いでこの積層体全体を紫外線等で照射することで光硬化性樹脂層を硬化させる、という手順よりなるものであるが、光硬化性樹脂層を硬化する際にスタンパーフィルムが貼着されたままであるため、従来であれば硬化作業中に頻繁に生じていた酸素阻害を排除することが可能となり、また光硬化性樹脂層の凹凸部における凹部の底まで充分に硬化させることが出来るので、従来の光硬化性樹脂層塗工後に紫外線等を照射する単純な加工方法に比較すると硬度の面で非常に優れたものとすることが出来る。
【0026】
また、常にスタンパーフィルム側から照射を行うことにしているので、基材フィルムは透明である必要はなく、即ち予め金属蒸着が施されたフィルムを基材としたり、任意の意匠が印刷されたフィルムを基材とすることも可能であるので、意匠性という点で非常に幅広い積層体を得ることが容易に可能となる。更に積層体全体からスタンパーフィルムを剥離する、という手順を付加することで、従来の加工方法に比べ作業工程が非常に単純化されるので製造効率が向上する。
【0027】
更に光硬化性樹脂層を積層してなる積層体全体に光を照射することで光硬化性樹脂層がそれ自身だけであたかも凝固したかのように独自に固化するので、その結果スタンパーフィルムの側、若しくは光硬化性樹脂層の側に特段離型層を積層したり離型性塗液を塗布する、等の離型手段を別途設けることなく、光硬化性樹脂層が硬化した後は容易にスタンパーフィルムを剥離することが可能となり、更にはスタンパーフィルムの剥離後もスタンパーフィルムの表面加工形状は光硬化性樹脂層を形成していた樹脂が付着する等の被害を被ることがないので、スタンパーフィルムを何度でも再利用することが可能となる。そしてスタンパーフィルムに設けてなる略凹凸加工の形状を調整すれば、例えば得られるフィルムがヘアライン加工フィルムとすることも非常に容易であり、その他、マット加工、エンボス加工とすることも大変容易である。さらには、規則的な凹凸形状に、又は不規則な凹凸形状に加工することも容易なものと出来る。そして光硬化性樹脂を選択することにより、又は調整することにより、ハードコート性、防汚性、防指紋性、防眩性、帯電防止性、といった性質を備えた積層体とすることも出来るので、この結果、例えばハードコート性を備えたヘアラインフィルム、防汚性を備えたエンボス加工フィルム、等の積層体を非常に容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0029】
(実施の形態1)
本願発明に係る積層体の製造方法及びこの積層体を製造するための装置について第1の実施の形態として説明する。
【0030】
本実施の形態に係る積層体の製造方法は、基材となるプラスチックフィルムの少なくとも片面に、光硬化性樹脂を主成分とする塗料を塗布して光硬化性層を積層する積層工程と、前記積層工程後に、前記光硬化性層を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程後に、予めその表面に略凹凸加工が施されてなるスタンパーフィルムの凹凸加工面側を前記光硬化性層表面に貼着して積層体を得る貼着工程と、前記貼着工程後に、前記積層体全体に対し前記スタンパーフィルム側から光を照射してなる照射工程と、をこの順に実行してなるものである。
以下、順次説明をするが、その中において光硬化性層がハードコート性を備えているものとして説明をすることを予め断っておく。
【0031】
最初に基材となるプラスチックフィルムにつき説明する。このプラスチックフィルムに関しては特段限定すべきものではないが、具体的には、ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、又はポリスチレン(PS)フィルム、等のプラスチックフィルムであることが好ましく、本実施の形態ではPCフィルムであるものとする。またその厚みについては、25μm以上500μm以下であることが好ましいが、これは25μm以下の厚みであると、その表面に積層を行う、等の種々の工程を経る間にプラスチックフィルムが破損してしまう、若しくは最終的に得られた積層体を運搬時や使用する時に破損しやすくなってしまう、という可能性が非常に高いからであり、また500μm以上であるとすると、本実施の形態に係る製造方法により得られた積層体全体の厚みを所望の厚みまで薄くしようとした場合でも薄くすることに限界が生じてしまい、最終的に所望の薄さにすることが出来なくなるからである。
【0032】
また、本実施の形態に係るる積層体の製造方法により得られる積層体が、例えば冷蔵庫などの家電の筺体をなす化粧板の本来有する色感を保ちつつ高級感を更に演出するために用いられるのであれば、この基材となるプラスチックフィルムは透明であることが好ましい。これは、透明なプラスチックフィルムの表面が例えばヘアライン加工やマット加工されているものを化粧板の表面に貼着することによって化粧板に高級感を付与する、といった使用をするのであれば本実施の形態に係る積層体自体が透明であることが好ましいからであり、そのためには積層体の基材となるプラスチックフィルムも透明であることが望ましい。
【0033】
しかし、透明でないものを基材プラスチックフィルムとして選んだとしても、決して利用価値が減ずるものではなく、例えばメタリックな高級感を付与するのであれば基材となるプラスチックフィルムには最初から何らかの金属光沢を呈する薄膜をその表面に積層しておくことも考えられるし、また予め何らかの印刷を施して意匠性を高める、ということも考えられる、ということも併せて述べておく。
【0034】
そして本実施の形態に係る製造装置では、このプラスチックフィルムを順次製造装置へと搬出し送り出していく巻出部が備えられている。
【0035】
次にこのプラスチックフィルムの表面に設けられるハードコート層につき説明する。
このハードコート層は光硬化性樹脂を塗布することにより設けられるが、この光硬化性樹脂とは、例えば紫外線を照射することにより硬化する、いわゆる紫外線硬化型樹脂であり、例えばウレタンアクリレート、エポキシアクリレート又はポリエステルアクリレート等である。そして本実施の形態ではウレタンアクリレートであるものとするが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、また紫外線硬化型樹脂以外の光硬化性樹脂であって構わない。
【0036】
またハードコート層を塗布する方法としては、従来公知の手法でよく、例えばダイコート法、コンマコート法、グラビアコート法、又はキスリバースコート法等が用いられる。そして本実施の形態ではキスリバースコート法であるものとするが、必ずしもこの手法に限定されるものではない。そしてプラスチックフィルムの表面に積層されるハードコート層の厚みは、1μm以上15μm以下であることが望ましい。これは、1μm以下であると、そもそもハードコート層としての機能を発揮することが出来ず、また後述するように、このハードコート層表面にヘアライン加工やマット加工等を施す際に充分な厚み、即ちヘアライン加工等の処理を施すのに必要な厚みよりも薄ければハードコート層自体がヘアライン加工等の表面加工を施すことにより存在しなくなってしまう、という箇所が生じるからであり、また15μm以上であるとすると、先述同様、得られる積層体全体の厚みを薄くするのに限界が生じてしまい、即ち全体を厚みの薄い積層体とすることが出来なくなるからである。本実施の形態に係る製造方法では、このようにして積層工程がなされる。
【0037】
そして本実施の形態に係る製造装置では、前述の巻出部から搬出されてきたプラスチックフィルムの表面に、上述した光硬化性樹脂を塗布する塗布積層部が備えられている。この塗布積層部では、公知のコーティング方法、例えばダイコート法、コンマコート法、グラビアコート法、又はキスリバースコート法等が実行出来るように部材が構成されていればよく、本実施の形態ではキスリバースコート法による塗布を行うことが出来るような構成となっているが、この塗布積層部の構造は公知のものでよく、ここでのこれ以上の説明はこれを省略する。
【0038】
そしてプラスチックフィルムの表面に積層されたハードコート層を乾燥することによりハードコート層を形成する樹脂を含有していた溶剤を蒸発させる。この点を更に説明すると、ハードコート層を形成する光硬化性樹脂は、例えばメチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等の溶剤中に含有された状態で存在しており、プラスチックフィルム表面に光硬化性樹脂を塗布することによりハードコート層を形成すると、プラスチックフィルム表面には光硬化性樹脂と、それを含有していた溶剤とが存在した状態となっているのである。しかしここで溶剤は、光硬化性樹脂をプラスチックフィルム表面に塗布するためには必要であったが、いったんこれが積層されてしまうと後は不要な存在となってしまう。そこでハードコート層全体を乾燥させることにより、樹脂を含有していた溶剤は一定の温度に達することで蒸発し、その結果消滅するのである。尚、本実施の形態では、光硬化性樹脂として前述の通り紫外線硬化型樹脂であるウレタンアクリレートを用いており、これを含有する溶剤としてはメチルエチルケトンを用いているが、必ずしもこれに限定されるものではないことを断っておく。
【0039】
ただし上記のようにしてハードコート層を乾燥はさせるものの、この時点でハードコート層を完全に硬化させてしまわないように注意することは重要である。
【0040】
これは、この時点で乾燥させるのはあくまでも溶剤の存在を無くすためであり(即ち溶剤を「飛ばす」だけの行為であり)、ハードコート層を硬化させることが目的ではないからである。
【0041】
つまり、後述のように、この乾燥工程を終えた後にスタンパーフィルムを貼着していよいよ凹凸加工を実行するのであるが、その際にハードコート層がこの時点で硬化を完了してしまったならば、その状態のハードコート層にスタンパーフィルムを貼着しても所望の表面形状を形成することが非常に困難となるからである。
【0042】
尚、スタンパーフィルムを貼着した後に、スタンパーフィルムを貼着したままでハードコート層の硬化のみならず、上述したような乾燥を実行して溶剤の存在を無くそうとしても、スタンパーフィルムが表面に貼着したままではハードコート層から溶剤を乾燥によって消滅させることは大変困難であり、また不要なまでに時間を浪費してしまうため好ましい形態とは言えない。よって、本実施の形態では、まず最初にハードコート層を積層し、ついでこの積層されたハードコート層から溶剤を消滅させ、ついでハードコート層に光を照射してこれを硬化させる、という手順を踏んでいるのである。
【0043】
また乾燥の条件についてであるが、これは上記状況を実現できる条件であれば良く、即ち溶媒を蒸発させるだけであって、ハードコート層を硬化させる乾燥ではない、ということが実現できる条件であればよく、ここで特段の制限を課するものではないことを断っておく。
【0044】
そして本実施の形態に係る製造方法ではこのようにして乾燥工程がなされ、また本実施の形態に係る製造装置では、この乾燥工程を実行するための乾燥部が備えられているが、その構造は従来公知なものであってよく、要すれば塗布積層部における工程を経てプラスチックフィルム表面に積層されたハードコート層を乾燥出来ればよいので、その詳細な構造についてはここでの説明を省略する。
【0045】
プラスチックフィルム表面にハードコート層を積層し、これを乾燥させると、次にハードコート層の更に表面にスタンパーフィルムを貼着することにより、本実施の形態における貼着工程がなされる。
【0046】
このスタンパーフィルムとは、本実施の形態においては透明であって、かつ、PCフィルム、PETフィルム、PMMAフィルム、PVCフィルム、又はPSフィルムの何れか若しくは複数を原材料とするプラスチックフィルムの表面に何らかの、断面視略凹凸加工がなされているものであり、例えばヘアライン加工やマット加工、エンボス加工、その他にも規則的な凹凸形状加工、又は不規則な凹凸形状加工の何れか、若しくは複数を組み合わせて施されているものであるが、以下の説明においてはPCフィルムの片面にヘアライン加工が施されているものとする。また、このスタンパーフィルムの幅は、前述の基材となるプラスチックフィルムと略同一の大きさであり、その長さに関しては後述する。そしてその厚みに関しては特段規定するものではないが、後述する用い方に適した厚みがあればよく、例えば25μm以上100μm以下程度であると、スタンパーフィルム自体の破損、破断等が生じない程度の撓み性、柔軟性、そして適度な硬度を保つことが出来るので、好ましいと言える。
【0047】
また、やはり後述する用い方に適したものとするため、このスタンパーフィルムは、前述のハードコート層を形成する光硬化性樹脂が硬化する光を透過させることが出来る物質により形成されていることが重要であり、必要である。
【0048】
そして本実施の形態に係る製造装置では、このスタンパーフィルムを搬出するためのスタンパーフィルム巻出部と、スタンパーフィルム巻出部から搬出されたスタンパーフィルムのヘアライン加工面が前述の基材となるプラスチックフィルムの表面に積層されたハードコート層の表面と接するようにこれを貼着してなる貼着部と、が備えられている。これらの装置に関しては特段ここでは詳述しないが、スタンパーフィルム巻出部におけるスタンパーフィルムの搬出に関する構造は特別なものではなく公知の構造を有するものであってよく、この際にスタンパーフィルム表面のヘアライン加工が何らかの損傷を受けないようにすることが重要である。また貼着部において、基材となるプラスチックフィルムの表面に積層されたハードコート層の表面にスタンパーフィルムのヘアライン加工面が接するようにスタンパーフィルムが貼着されるのであるが、この際、単にハードコート層の表面にスタンパーフィルムが設置されるだけでなく結果としてこれらがラミネート状態となる程度の圧力をかける押圧工程を実行出来る押圧手段を貼着部が備えていることが必要であり、また貼着部での処理を経ることでラミネート状態となっている必要がある。尚、本実施の形態に係る製造装置では押圧手段が独立して存在していてもよいが、ここでは貼着部に含まれているものとする。
【0049】
そしてこの押圧手段によりハードコート層とスタンパーフィルムとが貼着されラミネートされた状態となるのであるが、その際、これらの貼着面に空気等の異物が存在しないことは重要である。そのために押圧手段によりスタンパーフィルムを押圧する際には、一度にかつ均一に押圧面に対して等しく圧力をかけるのではなく、スタンパーフィルムの端部から順次一定方向に向かって漸次圧力をかけていけば、ハードコート層とスタンパーフィルムとの間にある気泡等の異物も貼着面から押し出されることとなり、その結果好適な状態でこれらが貼着されるので、好適なものとすることが出来る。例えば一度にかつ均一に押圧面に対して圧力をかけてしまうと、ハードコート層表面とスタンパーフィルムとの間に気泡が閉じこめられてしまう可能性があるが、もしもこの気泡が存在したままで放置すると、気泡が存在するが故に酸素阻害が生じる等の品質劣化状態となってしまう、ヘアライン形状が損なわれてしまう、といった事態が生じてしまうこととなるが、端部から順次一定方向に向かって圧力をかけることにより、仮に最初に貼着した段階で気泡が存在していたとしても、順次圧力をかけられることにより気泡が外部に押し出されることとなり、その結果、ハードコート層表面とスタンパーフィルムとの間に気泡などの異物が存在しないこととなるのである。
【0050】
ここで前述したスタンパーフィルムの幅に関し重ねて説明すると、その幅は基材となるプラスチックフィルムと略同一の大きさであればよいのであるが、これは基材となるプラスチックフィルムの表面にハードコート層が積層され、更にその表面にスタンパーフィルムが貼着される、という工程をみればわかるように、そもそもハードコート層の幅はプラスチックフィルムの幅と必然的に同一となり、そしてハードコート層表面全体にわたってスタンパーフィルムを貼着させなければならないことより、少なくともプラスチックフィルムの幅とスタンパーフィルムの幅とは同一である必要がある。そして更に、スタンパーフィルムの幅の方がプラスチックフィルムの幅より若干広くなっていても構わないが、両者の幅が同一若しくはスタンパーフィルムの幅の方が若干広いことにより、確実にハードコート層表面全体にわたりスタンパーフィルムが貼着された状態とすることが出来るので、スタンパーフィルムの幅についてはプラスチックフィルムの幅と略同一であることが好適と言えるのである。
【0051】
更に、このように貼着して用いるため、貼着した後の処理においてスタンパーフィルム自体の破損、破断等が生じないことが必要であり、またスタンパーフィルム由来の積層体破損が生じてはならないので、スタンパーフィルム自体の撓み性、柔軟性、そして適度な硬度を有することが必要であり、またこれらの性質を確保出来るだけのスタンパーフィルム自体の厚みを有する必要がある。そしてこれらの性質を確保出来る厚みとして、本実施の形態では25μm以上100μm以下としているのである。
【0052】
このようにして、スタンパーフィルムが、スタンパーフィルム巻出部から搬出され貼着部を経て、一方基材となるプラスチックフィルムの表面に積層され、乾燥処理が施されたハードコート層にヘアライン加工面が貼着された状態となると、その状態のままで光が照射される。本実施の形態ではこのようにして光を照射する工程が照射工程となり、また本実施の形態に係る製造装置ではこのようにして光を照射する工程を実行する照射部が備えられている。
【0053】
ここで照射される光の波長は、本実施の形態で用いるハードコート層を形成する光硬化性樹脂の特性に応じることが必要である。即ち、光硬化性樹脂が硬化する光の波長を照射しなければハードコート層が完全に硬化しないためであり、本実施の形態のように光硬化性樹脂として紫外線硬化型樹脂を用いるのであれば、積層体全体に照射する光の波長が200nm以上500nm以下であり、かつピーク波長が360nm以上であり、なおかつ照射した光のピーク照度が200mW/cm以上であり、なおかつ積算光量が200mJ/cmであること、が必要なのである。またこのような光線を安定して供給するためには、照射部に高圧水銀ランプや、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が用いられ、本実施の形態に係る製造装置では高圧水銀ランプが用いられているものとする。
【0054】
尚、ピーク照度と積算光量の関係について簡単に付言しておくと、要すれば必要最低限以上の強さ(ピーク照度)を備えた光を必要最小限以上の光量(積算光量)だけ照射しなければ光硬化性樹脂が硬化せず、換言すれば、強い光であっても瞬間にしか照射しなければ、または長時間照射してもその光が弱い光であれば、光硬化性樹脂が必要なだけ硬化しない、という現象が生じるのであって、かような現象の発生が起こらない条件が上記ピーク照度及び積算光量なのである。
【0055】
そしてこの条件を満たすと同時に、その組み合わせとして、前述した材料をスタンパーフィルムとして用いれば、上記条件を満たす光線を積層体のスタンパーフィルム側から照射してもスタンパーフィルムが光線を吸収することなく、即ち光硬化性樹脂の硬化阻害要因となることがないのである。
【0056】
また本実施の形態では、単純に波長が上記条件を満たしていれば良しとするものではなく、本実施の形態による構成において十分に光硬化性樹脂を硬化させるためには、一定のピーク照度及び積算光量を満足させる必要がある。即ち、単に波長が上記条件を満たすだけであれば光硬化性樹脂が十分に硬化しないことが考えられるのであり、逆に言えば光硬化性樹脂を十分に硬化させるためにはそれなりの光量を照射し続ける必要があるが、この光硬化性樹脂が十分に硬化するための光量は、本実施の形態においてはスタンパーフィルムの存在を介したものであることを十分に検討、考慮した上で研究、開発されなければならないものであり、本実施の形態においては、ピーク照度は200mW/cm以上であること、なおかつ積算光量は200mJ/cmであること、とする。これら2つの条件を満足し、なおかつ用いられる照明の波長が上記条件を満たすものであって、はじめて本実施の形態において光硬化性樹脂が十分に硬化することを見いだしたものだからである。
【0057】
またここで光が照射される方向は、スタンパーフィルムの側からでなければならない。これは、本実施の形態において最終的に得られる積層体の意匠性を多様なものとするために基材フィルムが透明であることを必須としておらず、即ち金属光沢が付与された金属蒸着フィルムや、特定の意匠やキャラクターが予め印刷されたフィルム等を基材フィルムとした場合、基材フィルムの側から光を照射しても、照射された光は光硬化性樹脂層に十分到達できず、その結果光硬化性樹脂が硬化しなくなり、その結果、本実施の形態に係る積層体を得られなくなるからである。
【0058】
要するに、意匠性の多様さを実現するために、本実施の形態においては光照射方向は常にスタンパーフィルム側からでなければならず、それ故に前述したようにスタンパーフィルムは光硬化性樹脂を硬化させられる波長の光を透過させられなければならない、としたのである。
【0059】
そして最終的に照射部において光を照射することにより、前述した通りハードコート層を形成する光硬化性樹脂が硬化する。すると、光硬化性樹脂は光により硬化することによりそれ自身で凝固、固化するので、前記貼着部においてラミネート状態とされていたハードコート層とスタンパーフィルムとの貼着状態が自然と緩いものとなる。
【0060】
ここで、スタンパーフィルムが前述のハードコート層を形成する光硬化性樹脂が硬化する光を透過させることが出来る物質により形成されていることが必要である理由について説明すると、スタンパーフィルムがハードコート層を形成する光硬化性樹脂が硬化する光を透過させることが出来るという条件を満たさなければ、基材プラスチックフィルム/(光硬化性樹脂による)ハードコート層/スタンパーフィルム、という構成を有する積層体に対して光硬化性樹脂が硬化する波長を有する光をいくら照射しても、スタンパーフィルムがその光を透過させられないことになり、結局スタンパーフィルムが遮蔽物となってしまいハードコート層がいつまでも硬化しないからである。故に最も好ましいのはスタンパーフィルムが透明であることであるが、必ずしもこれが透明である必要はなく、むしろ照射される光を透過するか否かが重要な点となる。
【0061】
また、先述した通り、ハードコート層とスタンパーフィルムとの間に気泡などの異物が存在したままの状態で全体を光の照射に曝すと、気泡等の異物を抱え込んだままハードコート層が硬化することとなり、そのような異物が存在した状態のハードコート層では、当初の目的を達することが出来なくなるので、異物が存在しないように貼着することが重要となるのである。
【0062】
以上説明した通り、積層工程において基材となるプラスチックフィルムの表面に光硬化性樹脂を塗布してハードコート層を積層し、次いで乾燥工程において積層されたハードコート層を乾燥することにより光硬化性樹脂を塗布する際に用いた溶媒を蒸発させることにより不要な物質を除去し、更に貼着工程において、乾燥したハードコート層の表面に、表面がヘアライン加工されたスタンパーフィルムをヘアライン加工面が接するようにして貼着することでラミネート状態とし、そして照射工程により全体に対して特定波長を有する光を照射する、という本実施の形態に係る製造方法の各工程を行うことにより、基材プラスチックフィルム/ハードコート層/スタンパーフィルム、という構成を有し、かつハードコート層とスタンパーフィルムとが貼着している面はいわゆるヘアライン形状となっていると同時にこの部分での剥離が容易に出来る状態を保った積層体を得られるのである。そしてハードコート層とスタンパーフィルムとが貼着した状態を保ったままにしておくと、スタンパーフィルムが基材プラスチックフィルム/ハードコート層という構成を有する部分のハードコート層面を保護する保護フィルムとしての効果も発揮するので、必要な時までスタンパーフィルムを貼着したままにしておけば、ハードコート層表面を不用意にかつ不必要に痛めてしまう心配がなくなるので好適であると言える。
【0063】
またこのような製造方法を具現するために、本実施の形態に係る製造装置のように、基材となるプラスチックフィルムを搬出する基材フィルム巻出部と、前記基材フィルム巻出部より搬出されたプラスチックフィルムの表面に光硬化性樹脂を塗布してハードコート層を積層してなる塗布積層部と、前記塗布積層部を経たプラスチックフィルム表面に積層されてなるハードコート層を乾燥させる乾燥部と、予めその表面にヘアライン加工若しくはマット加工が施されてなるスタンパーフィルムを搬出するスタンパーフィルム巻出部と、前記スタンパーフィルム巻出部から搬出されたスタンパーフィルムのヘアライン又はマット加工面側を、前記ハードコート層が積層されたプラスチックフィルム表面に貼着する貼着部と、前記貼着部を経た積層体全体に対して光を照射してなる照射部と、を備えてなる構成としておけば、これらを工程順に配置することで連続的な製造をすることが可能となり、しかも効率よく製造することが可能となる。
【0064】
尚、以上の説明においては光硬化性層がハードコート性を備えたもの、という前提としたが、これ以外にも、例えば防汚性、防指紋性、防眩性、又は帯電防止性、の何れか若しくは複数の機能を付与し、備えてなるものとすることも考えられるが、何れの場合にせよ上述した場合と同様に対処可能であるので、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0065】
(実施の形態2)
本願発明に係る積層体の製造方法及びこの積層体を製造するための装置について、第1の実施の形態にて説明した製造方法及び製造装置に対して更に製造工程及び装置部材を備えた製造方法及び製造装置に関し、第2の実施の形態として説明する。尚、光硬化性樹脂層に関しては先の実施の形態と同様であり、スタンパーフィルムに関してもやはり左記の実施の形態と同様であることを予め断っておく。
【0066】
本実施の形態に係る製造方法では、先に説明した第1の実施の形態に更に加えてスタンパーフィルムを剥離する剥離工程と、剥離されたスタンパーフィルムを回収するスタンパーフィルム回収工程を備えていることが特徴である。
【0067】
まず剥離工程について説明する。先に説明した第1の実施の形態に係る製造方法によって、基材となるプラスチックフィルム/ハードコート層/スタンパーフィルム、という構成を有する積層体を得られるが、この剥離工程においてはスタンパーフィルムを剥離するようになっている。
【0068】
これも先に説明をしたが、第1の実施の形態によって得られる積層体は、すでに照射部における特定波長を有する光の照射によってハードコート層が硬化しており、また硬化することによってハードコート層はそれ自身が凝固、固化した状態となっている。そしてその状態を保ったままであればスタンパーフィルムはハードコート層を保護する効果を発揮するが、これを剥離すると、予めスタンパーフィルム表面に施されていたヘアライン加工の凹凸に対応した凹凸がハードコート層表面に形成された状態となっている。即ち、貼着部においてハードコート層表面にスタンパーフィルム表面のヘアライン加工面が貼着され、またラミネートされることにより、スタンパーフィルム表面に施されたヘアラインの凹凸がハードコート層表面を押圧することにより、ハードコート層の表面はヘアラインの凹凸と同様の凹凸が設けられることになり、即ちこの凹凸がハードコート層表面のヘアラインとなるのである。そしてこの状態を保ったまま全体が照射部において特定波長の光を照射されることにより、ハードコート層表面の凹凸形状、即ちヘアライン形状が保たれたまま、ハードコート層が硬化するのである。そしてハードコート層全体は光線照射により全体がそれ自体のみで凝固、固化した状態となるので、後はスタンパーフィルムを剥離すれば、ハードコート層表面に設けられたヘアライン加工が露出することになり、その結果、表面がハードコート処理されたフィルムが得られることとなるのである。
【0069】
そして次にスタンパーフィルム回収工程について説明すると、ハードコート層が凝固、固化した状態となるが故に、剥離された際にスタンパーフィルム表面のヘアライン加工面にハードコート層を形成する光硬化性樹脂が付着したままの状態であって、それがヘアライン部分を埋めてしまっている、という状況が生じないものになる。即ち、回収されたスタンパーフィルムは、これが最初にハードコート層に貼着する前の状態に戻っているのであり、その結果このスタンパーフィルムは回収して再利用することが可能となるのである。そしてスタンパーフィルム回収工程とは、このようにして剥離されたスタンパーフィルムを再利用すべく回収する工程であり、ここで回収されたスタンパーフィルムは、再度、第1の実施の形態において説明したスタンパーフィルムを貼着する貼着工程に用いることが出来るようになるのである。
【0070】
そして本実施の形態に係る製造装置では、上述した剥離手段を実行出来る剥離部と、スタンパーフィルムを回収出来るスタンパーフィルム回収部と、を備えているのであるが、装置の更に詳細な説明はここではこれを省略する。
【0071】
更に以上説明した製造工程からわかるように、スタンパーフィルムの長さについてはこの製造工程に用いることが可能なだけの長さがあればそれでよく、更にスタンパーフィルムをループ状とすることで、何度でも繰り返し自動的に再利用出来ることが考えられるのである。
【0072】
そして第1の実施の形態及び第2の実施の形態に係る製造方法であれば、従来の、ハードコート層表面に直接ヘアライン状の筋を刻み込んでいた方法や、枚葉でヘアライン加工する、といったようなハードコート層表面へ直接的に処理を施すといった手法に比して、フィルムに塗布し、更に貼着して、全体を硬化し、剥離をする、といった非常に単純な工程であり、特にハードコート層表面を加工するといった細密な作業が省略された状態で全体が構成されているので、作業自体の高速化が実現出来、大変好適なものとすることが出来るのである。
【0073】
更に、第1の実施の形態で得られた積層体であれば、スタンパーフィルム自体を保護フィルムとすることで実際の使用を開始するまでにハードコート層表面のヘアラインが傷つけられることもなく、また第2の実施の形態で得られる積層体であれば、製造によるコスト抑制も押さえられ、高速に大量生産が可能となるばかりでなく、気泡等の異物混入がないため、気泡による酸素阻害の発生がなくなり、品質を高めるという観点からも好適なものとすることが出来る。
【0074】
また以上はヘアライン加工について説明したが、スタンパーフィルムの表面加工形状を例えばマット加工とすれば、得られる積層体のハードコート層表面はマット加工が施されたものとなり、その他、特段の意匠をスタンパーフィルム表面に設けておけば、その形状を単純な手法によってハードコート層表面に設けることが出来るようになる。
【0075】
更にこのようにして得られた、ハードコート層表面にヘアライン加工が施された積層体であれば、ヘアライン面に対して、後加工として印刷を施したり、蒸着を施すことで金属光沢などの光沢を付与したり、また特段の意匠性を高める効果を得ることも容易に可能となる。
【0076】
その他にも、第1の実施の形態及び第2の実施の形態、何れの場合においても、基材となるプラスチックフィルムの何れかの面に、接着性を備えた接着層を設けることで、例えばいわゆる白物家電の外板にこれを貼着しやすくなり、即ちこれら実施の形態に係る積層体を用いやすくなることで独自の意匠性を施しやすくなり、また金属光沢を呈する金属層、印刷が施された印刷層、などを予め施すことにより、これら実施の形態に係る積層体に、ヘアラインなどにより得られる意匠効果に加えて例えば独特の金属光沢が備わったり、何らかの印刷デザイン、キャラクターデザイン、などによる新たな意匠効果も加えられやすくなる、という新たなる効果を得られることが考えられるが、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0077】
以下、本発明に係る積層体につき、さらに実施例により説明する。
前述した第1の実施の形態に準じて、以下のサンプルを作成した。
基材フィルムとして、厚み50μmのPETフィルム(帝人株式会社製:商品名「テトロンHPE」)を用いた。
光硬化性樹脂として、ウレタンアクリレートを厚み10μmとなるように基材フィルム表面にキスリバースコート法により積層した。
光照射は高圧水銀ランプ(ウシオ電機株式会社製:高圧UVランプ)を用いた。
各サンプルに対し光照射を行った後、硬化膜物性を鉛筆高度及び耐スチールウール(SW)摩耗を調査した。
各サンプルの構成とそれぞれの結果を次に示す。








【0078】
【表1】

【0079】
以上の結果から分かるように、スタンパーフィルムの素材にかかわらず、適切に所望の光線を透過するものであれば効果的に硬化膜を得ることができ、またその形状も所望のものとすることが出来る(サンプル1〜サンプル12)。また、ピーク照度と積算光量との関係に着目すると、単純に積算光量が十分であれば良いということではなく、ピーク照度が一定量に達していないと効果的な硬化が出来ないことがわかる(サンプル13〜18)。(これらはサンプル19〜21に示した結果を基準として考察された。)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材となるプラスチックフィルムの少なくとも片面に、
光硬化性樹脂を主成分とする塗料を塗布して光硬化性層を積層する積層工程と、
前記積層工程後に、前記光硬化性層を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程後に、予めその表面に略凹凸加工が施されてなるスタンパーフィルムの凹凸加工面側を前記光硬化性層表面に貼着して積層体を得る貼着工程と、
前記貼着工程後に、前記積層体全体に対し前記スタンパーフィルム側から光を照射してなる照射工程と、
をこの順に実行してなる、積層体の製造方法であって、
前記光硬化性樹脂が、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、又はポリエステルアクリレートの何れか若しくは複数であり、
前記積層体全体に照射する光の波長が200nm以上500nm以下であり、かつピーク波長が360nm以上であり、なおかつ照射した光のピーク照度が200mW/cm以上であり、なおかつ積算光量が200mJ/cmであり、
前記スタンパーフィルムが、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタアクリレートィルム、ピリビニルカーボネートフィルム、又はPSフィルムの何れか若しくは複数を原材料とする、前記光の波長を透過させることができるプラスチックフィルムであって、かつその厚みが25μm以上100μm以下であること、
を特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の積層体の製造方法であって、
前記略凹凸加工が、ヘアライン加工、マット加工、エンボス加工、又は規則的あるいは不規則的な凹凸形状加工、の何れか若しくはこれらを組み合わせてなること、
を特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の積層体の製造方法であって、
前記照射工程後において、前記積層体から前記スタンパーフィルムを剥離してなる剥離工程と、
前記剥離工程に、剥離された前記スタンパーフィルムを回収するスタンパーフィルム回収工程と、
を更に備えてなること、
を特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の積層体の製造方法であって、
前記光硬化性層が、ハードコート性、防汚性、防指紋性、防眩性、又は帯電防止性、の何れか若しくは複数の機能を備えてなること、
を特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の積層体の製造方法であって、
前記プラスチックフィルムの片面若しくは両側の表面に、
接着性を備えた接着層、金属光沢を呈する金属層、又は印刷が施された印刷層、
の何れか若しくは複数の層が積層されてなること、
を特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の積層体の製造方法によって得られてなること、
を特徴とする、積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の積層体を製造するための製造装置であって、
基材となるプラスチックフィルムを搬出する基材フィルム巻出部と、
前記基材フィルム巻出部より搬出されたプラスチックフィルムの表面に光硬化性樹脂を主成分とする塗料を塗布して光硬化性樹脂層を積層してなる塗布積層部と、
前記塗布積層部を経たプラスチックフィルム表面に積層されてなる光硬化性樹脂層を乾燥させる乾燥部と、
予めその表面に略凹凸加工が施されてなるスタンパーフィルムを搬出するスタンパーフィルム巻出部と、
前記スタンパーフィルム巻出部から搬出されたスタンパーフィルムの前記凹凸加工面側を、前記光硬化性樹脂層が積層されたプラスチックフィルム表面に貼着して積層体を得る貼着部と、
前記貼着部を経た前記積層体全体に対し前記スタンパーフィルム側から光を照射してなる照射部と、
を備えてなること、
を特徴とする、積層体の製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載の積層体の製造装置であって、
前記照射部を経た積層体から前記スタンパーフィルムを剥離してなる剥離部と、
前記剥離部にて剥離された前記スタンパーフィルムを巻き取るスタンパーフィルム巻取部と、
前記剥離部を経て前記スタンパーフィルムが剥離された状態のフィルムを巻き取るフィルム巻取部と、
を更に備えてなること、
を特徴とする、積層体の製造装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の積層体の製造装置であって、
前記略凹凸加工が、ヘアライン加工、マット加工、エンボス加工、又は規則的あるいは不規則的な凹凸形状加工、の何れか若しくはこれらを組み合わせてなること、
を特徴とする、積層体の製造装置。

【公開番号】特開2007−296843(P2007−296843A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86501(P2007−86501)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】