説明

積層体の製造方法、積層体及びインナーライナー

【課題】架橋工程を経てもシワの発生が抑制されている積層体の製造方法を提供する。また、この製造方法により得られる積層体、及びこの積層体から得られるインナーライナーも提供する。
【解決手段】シート状の基材2とこの基材2の表面に積層されるフィルム3とを備える前駆体積層体1に対し、電子線、放射線、紫外線及び可視光線の照射並びに加熱からなる群より選択される少なくとも1種の処理を行い、フィルム3中の樹脂を架橋させる架橋工程を有し、上記基材2が複数の貫通孔4を有する積層体の製造方法。上記基材2の通気度が1.5cc/(cm・sec)以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法、この製造方法により得られる積層体及びインナーライナーに関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、複数の樹脂層を有する多層フィルムが、その高いガスバリア性、延伸性、熱成形性等を利用し、食品用及び医療用包装材料やタイヤ用インナーライナー等の用途に使用されている。このような多層フィルムにおいては、各樹脂層の層間強度の向上等を目的として、電子線の照射等による樹脂の架橋を行う場合がある(特開2009−132379号公報参照)。
【0003】
上記架橋処理を行う際、多層フィルムへの電子線照射等を容易にすることなどを目的に、図4(A)に示すように、シート状の基材32の表面に多層フィルム33を積層して積層体とし、この積層体の多層フィルム33表面に電子線照射等を行う場合がある。このように基材32を用いることで、多層フィルム33への照射等の作業性を高めることができる。しかし、このような方法をとると、多層フィルム33を形成する樹脂の架橋反応の際に発生するガスにより、図4(B)に示すように、多層フィルム33が延伸し、膨らむことがある。その後、例えば、冷却又はガイドロールの押圧により、図4(C)に示すように、この多層フィルム33の膨らんだ部分が潰されてシワ34が発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−132379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、架橋工程を経てもシワの発生が抑制されている積層体の製造方法を提供することを目的とする。また、この製造方法により得られる積層体、及びこの積層体から得られるインナーライナーを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた発明は、
シート状の基材とこの基材の表面に積層されるフィルムとを備える前駆体積層体に対し、電子線、放射線、紫外線及び可視光線の照射並びに加熱からなる群より選択される少なくとも1種の処理を行い、フィルム中の樹脂を架橋させる架橋工程を有し、
上記基材が複数の貫通孔を有する積層体の製造方法である。
【0007】
当該製造方法は、架橋工程を有し、複数の貫通孔を有する基材の表面に積層されるフィルムに対して架橋のための処理を行う。この際、架橋反応に伴って発生するガスは、上記貫通孔を通じて基材側からも放出される。従って、当該製造方法によれば、架橋工程を有しても、基材とフィルムとの間にガスが溜まることなく、その後の冷却やガイドロールによる押圧などの際にもシワの発生が抑制された積層体を得ることができる。なお、この積層体から、上記基材を剥離することで、シワの発生が抑制された架橋フィルム(架橋されたフィルム)を得ることができる。
【0008】
上記基材の通気度が1.5cc/(cm・sec)以上であることが好ましい。上記基材の通気度を上記範囲とすることで、架橋工程におけるガス溜まりを効果的に抑制し、フィルムへのシワの発生を効果的に抑制することができる。
【0009】
上記フィルムが熱可塑性樹脂を含む樹脂層Aを有するとよい。このようにすることで、熱可塑性等に優れる架橋フィルムを備える積層体を得ることができる。
【0010】
上記熱可塑性樹脂がエチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレン及びポリエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種であるとよい。このような樹脂を用いることで、得られる架橋フィルムの熱可塑性等を更に高めることができる。
【0011】
上記フィルムがエラストマーを含む樹脂層Bを有するとよい。このようにすることで、柔軟性等に優れる架橋フィルムを備える積層体を得ることができる。
【0012】
上記エラストマーが、ポリウレタン系エラストマー、ポリジエン系エラストマー、アクリル樹脂系エラストマー及びシリコーン樹脂系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種であるとよい。このようなエラストマーを用いることで、得られる架橋フィルムの柔軟性等を更に高めることができる。
【0013】
上記フィルムが隣接する樹脂層Aと樹脂層Bとを有するとよい。上記フィルムがこのような層構造を有することで、これらの層の界面で架橋反応が生じ、得られる架橋フィルムの層間強度やガスバリア性を高めることができる。
【0014】
上記架橋工程後の基材とフィルム(架橋フィルム)との剥離強度が0.1N/m以上100N/m以下であるとよい。このようにすることで、基材と架橋フィルムとの剥離を容易にし、単体の架橋フィルムを容易に得ることができる。
【0015】
本発明の積層体は、当該積層体の製造方法により得られるものである。当該積層体は、シワの発生が抑制されているため、シワの発生の抑制された架橋フィルムを容易に得ることができる。
【0016】
本発明のタイヤ用インナーライナーは、当該積層体から得られるものであり、シワの発生が抑制され、品質を向上させることができる。
【0017】
ここで、通気度は、JIS−L1096 A法(フラジール形法)に準拠して測定した値である。剥離強度は、実施例に記載の方法で測定した値である。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の積層体の製造方法によれば、シワの発生が抑制された積層体を得ることができる。また、本発明の積層体によれば、シワの発生が抑制された架橋フィルムを得ることができる。従って、本発明の積層体の製造方法及び積層体は、例えば包装材料やタイヤ用インナーライナー等の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法に用いられる前駆体積層体を示す模式的断面図
【図2】図1の前駆体積層体から得られる積層体を示す模式的断面図
【図3】本発明の一実施形態に係るインナーライナーを備えるタイヤを示す模式的部分断面図
【図4】従来の多層フィルムの製造工程を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照にしつつ、本発明の積層体の製造方法、積層体、及びタイヤ用インナーライナーの実施の形態を詳説する。
【0021】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法は、前駆体積層体に対し、電子線照射、放射線照射、紫外線照射、可視光線照射及び加熱からなる群より選択される少なくとも1種の処理を行う架橋工程を有する。
【0022】
(前駆体積層体)
図1の前駆体積層体1は、シート状の基材2と、この基材2の表面に積層されるフィルム3とを備えている。なお、上記フィルム3が、架橋工程を経て、架橋されたフィルム(架橋フィルム)となる。
【0023】
上記前駆体積層体1は、ロール状であっても、枚葉状であってもよい。
【0024】
基材2は、表面から裏面に貫通する複数の貫通孔4を有する。貫通孔4の形状としては、特に限定されず、円柱形状、角柱形状等を挙げることができる。複数の貫通孔4は、略均一に分散されて形成されていることが好ましい。また、複数の貫通孔4は、ランダムに形成されていても、規則性をもって形成されていてもよい。貫通孔4の大きさも特に限定されないが、円柱形状である場合、直径が1μm以上10mm以下が好ましい。
【0025】
基材2表面における単位面積当たりの貫通孔4の数密度は、0.01個/cm以上1,000個/cm以下が好ましく、1個/cm以上100個/cm以下がより好ましく、5個/cm以上80個/cm以下が好ましく、25個/cm以上60個/cm以下がより好ましい。貫通孔4の数密度が上記下限未満の場合は、ガス抜き機能が十分に発揮されず、また、場所により通気性にムラが出るため、架橋工程の際にフィルム3にシワ等が発生しやすくなる。逆に、貫通孔4の数密度が上記上限を超える場合は、基材2の強度や寸法安定性が低下する場合などがある。
【0026】
基材2の通気度の下限としては、1.5cc/(cm・sec)が好ましく、5cc/(cm・sec)がより好ましく、10cc/(cm・sec)がさらに好ましい。基材2の通気度の下限を上記値とすることで、架橋工程の際に発生するガスを基材2から十分に逃がし、フィルム3のシワや変形を抑制することができる。なお、基材2の通気度の上限としては、特に限定されないが、例えば、20cc/(cm・sec)が好ましい。通気度が高すぎる場合、基材2の強度や寸法安定性が低下する場合などがある。
【0027】
基材2のMD方向又はTD方向における150℃、30分条件下の寸法安定率としては、2%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましい。このような寸法安定性の高い基材2を用いることで、得られる架橋フィルムのシワや変形の発生をさらに低減することができる。また、基材2において、MD方向及びTD方向の両方向における上記条件下の寸法安定率が上記範囲であることがより好ましい。なお、この寸法安定率の下限としては、特に限定されないが、例えば、0.01%である。また、この寸法安定率は、実施例に記載の方法で測定された値をいう。
【0028】
基材2の(平均)厚みとしては、特に限定されないが、例えば、5μm以上1,000μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましい。基材2の厚みを上記範囲とすることで、架橋工程において基材2の形状が安定し、得られる架橋フィルムのシワや変形の発生をより抑えることができる。基材2の厚みが、上記下限未満の場合は、寸法安定性等が低下したり、処理の際に変形が生じる場合などがある。逆に、基材2の厚みが、上記上限を超える場合は、取扱性等が低下するおそれがある。
【0029】
基材2の材質としては、特に限定されず、紙、不織布、セラミックス、金属、合成樹脂等を挙げることができるが、取扱性、寸法安定性、貫通孔の形成性等を考慮すると、柔軟性のある材質(合成樹脂、紙、不織布等)が好ましく、合成樹脂がより好ましい。
【0030】
上記合成樹脂としては、例えば、ポリエステルテレフタレート、ポリエステルナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリイミドなどを挙げることができる。これらの中でも、寸法安定性、耐薬品性、フィルム3との密着性・剥離性等を考慮すると、ポリエステルが好ましく、ポリエステルテレフタレートがより好ましい。
【0031】
フィルム3は主として樹脂からなり、架橋工程において、この樹脂の少なくとも一部が架橋される。
【0032】
上記フィルム3は、熱可塑性樹脂を含む樹脂層Aを有することが好ましい。上記熱可塑性樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレン及びポリエチレンが好ましく、エチレン−ビニルアルコール共重合体がより好ましい。このような熱可塑性樹脂を用いることで、得られる架橋フィルムの熱可塑性等を高めることができる。
【0033】
上記フィルム3は、エラストマーを含む樹脂層Bを有することも好ましい。上記エラストマーとしては、ポリウレタン系エラストマー、ポリジエン系エラストマー、アクリル樹脂系エラストマー及びシリコーン樹脂系エラストマーが好ましく、ポリウレタン系エラストマーがより好ましい。このようなエラストマーを用いることで、得られる架橋フィルムの柔軟性等を高めることができる。
【0034】
上記フィルム3には、上記各樹脂以外に他の成分が含有されていてもよい。この他の成分としては、架橋剤、界面活性剤、フィラー等を挙げることができる。
【0035】
上記架橋剤としては、特に限定されず、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオフェニレングリコールジアクリレート等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレートなどを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
フィルム3は、単層構造(例えば、上記樹脂層A又は樹脂層Bからなる構造)であっても、多層構造であってもよいが、得られる架橋フィルムのガスバリア性等の点から、多層構造であることが好ましい。また、ガスバリア性等の観点から、フィルム3の層数としては、3層以上が好ましく、5層以上がより好ましい。フィルム3の層数の上限としては特に制限はないが、例えば50層である。
【0037】
フィルム3が多層構造である場合、フィルム3は、隣接する樹脂層Aと樹脂層Bとを有するとよい。このような層構造を有することで、これらの層の界面で架橋反応が生じ、得られる架橋フィルムの層間強度やガスバリア性を高めることができる。
【0038】
樹脂層A(A)及び樹脂層B(B)を備える場合のフィルム3の層構造としては、例えば、
(1)A,B,A,B・・・A,B(つまり、(AB)
(2)A,B,A,B・・・・・A(つまり、(AB)A)
(3)B,A,B,A・・・・・B(つまり、(BA)B)
(4)A,A,B,B・・・B,B(つまり、(AABB)
等の積層順を採用することができる。また、その他の樹脂層C(C)を有する場合、例えば、
(5)A,B,C・・・A,B,C(つまり、(ABC)
等の積層順を採用することができる(なお、nは、自然数である。)。
【0039】
特に、樹脂層A及び樹脂層Bの積層順としては、上記(1)、(2)又は(3)のように、樹脂層Aと樹脂層Bとが交互に積層されていることが好ましい。このように樹脂層Aと樹脂層Bとが交互に積層されたフィルム3に、架橋工程を施すことにより、積層される各層間の結合性が向上し高い接着性を発現することができる。
【0040】
フィルム3の(平均)厚みとしては、特に限定されないが、例えば、10μm以上1,000μm以下であり、20μm以上300μm以下が好ましい。
【0041】
上記前駆体積層体1は、例えば、基材2とフィルム3とを熱ラミネートにより貼り合わせること等によって得ることができる。前駆体積層体1の(平均)厚みとしては、特に限定されず、例えば、10μm以上20,000μm以下である。
【0042】
(架橋のための処理)
上記架橋工程においては、上記前駆体積層体1に対し、電子線照射、放射線照射、紫外線照射、可視光線照射及び加熱からなる群より選択される少なくとも1種の処理を行うことで、フィルム3中の樹脂を架橋させる。
【0043】
当該製造方法においては、このように複数の貫通孔4を有する基材2の表面に積層されたフィルム3に対して架橋のための処理を行う。この際、架橋反応に伴って発生するガスは、上記貫通孔4を通じて基材2側からも放出される。従って、当該製造方法によれば、架橋工程において基材2とフィルム3との間にガスが溜まることなく、その後の冷却やガイドロールによる押圧などの際にもシワの発生が抑制された積層体11を得ることができる(図2参照)。なお、この積層体11から、上記基材2を剥離することで、シワの発生が抑制された架橋フィルム3’を得ることができる。
【0044】
上記架橋工程において発生するガスとしては、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリウレタンとの架橋反応において発生する水素ガス等を挙げることができる。
【0045】
上記処理の中でも、得られる架橋フィルムの架橋性(層間接着性等)や、反応制御性などの点から、電子線照射が好ましい。電子線照射を行う場合、電子線源として、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。この際、通常、加速電圧100〜500kVで、照射線量5〜600kGyの範囲で照射するのがよい。
【0046】
上記架橋工程後の基材2とフィルム3(架橋フィルム3’)との剥離強度としては、0.1N/m以上100N/m以下が好ましく、0.5N/m以上50N/m以下がより好ましく、2N/m以上40N/m以下がさらに好ましい。架橋工程後の基材とフィルムとの剥離強度を上記範囲とすることで、架橋フィルム3の基材2からの剥離を容易にしつつ、架橋フィルム3のシワの発生を低減することができる。この剥離強度が、上記下限未満の場合は、製造工程中で基材2とフィルム3とが剥がれて、変形やシワが発生する場合などがある。逆に、この剥離強度が、上記上限を超える場合は、基材2と架橋フィルム3’との剥離が困難になる場合がある。なお、上記架橋工程を経て、基材2と架橋フィルム3’とが接着されてもよい。
【0047】
(後工程)
当該積層体の製造方法においては、上記架橋工程の後に、
上記架橋フィルム3’表面へ接着剤などの塗工剤を塗布し、乾燥することにより、他のフィルムを積層する工程(1)、
上記他のフィルムの表面にさらに保護フィルムを積層する工程(2)、及び/又は
上記基材を剥離する工程(3)
をさらに有することができる。
【0048】
上記工程(1)を経ることで、架橋フィルムに他の機能を付与することができる。なお、当該製造方法においては、この工程(1)の際、塗工剤中の溶媒がフィルム3’に染み込んだ場合も、基材2側からこの溶媒が揮発することができる。従って、当該製造方法によれば、この溶媒によるフィルム3’へのシワの発生をも低減することができる。
【0049】
上記塗工剤としては、溶媒とこの溶媒に溶解されている固形分を含むものであれば特に限定されない。上記塗工剤の具体例としては、例えば、ハードコート剤、防汚剤、接着剤、帯電防止剤、離型処理剤、インク、塗料等を挙げることができる。上記接着剤としては、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などを接着性成分とする酢酸ビニル系接着剤、ウレタンを接着性成分とするウレタン系接着剤、ゴムを接着性成分とするゴム系接着剤等を挙げることができる。上記溶媒としては、例えば、トルエンやメチルエチルケトン等の有機溶媒を挙げることができる。
【0050】
この工程(1)における塗工剤の塗布方法は、特に限定されず、スリットコーターを用いる方法など、公知の方法を用いることができる。塗工剤の乾燥方法としても、特に限定されず、乾燥炉を用いる方法など、公知の方法を用いることができる。なお、自然乾燥であってもよい。また、乾燥(加熱)時間も、塗工剤の塗布量等に応じて、適宜設定することができる。
【0051】
上記工程(2)を経ることで、上記架橋フィルム又は他のフィルムの表面を保護フィルムで保護した積層体を得ることができる。上記工程(2)における保護フィルムの積層方法としては、特に限定されず、例えば、公知のラミネーター等を用いることができる。
【0052】
上記保護フィルムの材質としては、特に限定されず、例えば基材2として例示したものを挙げることができる。これらの中でも、ポリエステルが好ましく、ポリエステルテレフタレートが特に好ましい。
【0053】
上記工程(3)を経ることで、表面に架橋フィルム3’を備えるシート(積層体)を得ることができる。また、この基材剥離工程により剥離された基材は、繰り返し使用することができる。
【0054】
<積層体>
本発明の積層体は、当該積層体の製造方法により得られるもの(図2の積層体11)である。また、本発明の積層体は、積層体11における架橋フィルム3’表面に接着性フィルムが積層されたもの、接着性フィルム及び保護フィルムがこの順に積層されたもの、基材2が剥離されたもの等も含む。
【0055】
当該積層体11は、シワの発生の抑制された架橋フィルム3’を備えているため、当該積層体11から、基材2を剥離することで、シワの発生の抑制された架橋フィルム3’を容易に得ることができる。このようにして得られた架橋フィルム3’は、包装材料やタイヤ用インナーライナー等として好適に用いることができる。
【0056】
<タイヤ用インナーライナー>
本発明のタイヤ用インナーライナーは、当該積層体から得られるもの(架橋フィルム)であり、シワの発生が抑制されている。従って、当該インナーライナーは、高いガスバリア性や熱成形性を有する。そのため、当該インナーライナーは、各種車等の空気入りタイヤ用のインナーライナーとして好適に使用される。
【0057】
以下に、図3に示す本発明のインナーライナーを備える空気入りタイヤ21について説明する。空気入りタイヤ21は、一対のビード部22と、一対のサイドウォール部23と、両サイドウォール部23に連なるトレッド部24とを有し、上記一対のビード部22間にトロイド状に延在して、これらのビード部22、サイドウォール部23及びトレッド部24を補強するカーカス25と、このカーカス25のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置された2枚のベルト層からなるベルト26とを備え、更に、このカーカス25の内面には本発明のインナーライナー27が配置されている。
【0058】
空気入りタイヤ21において、カーカス25は、上記ビード部22内にそれぞれ埋設した一対のビードコア28間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア28の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなるが、カーカス25のプライ数及び構造は、これに限られるものではない。
【0059】
また、空気入りタイヤ21において、ベルト26は、2枚のベルト層からなるが、ベルト26を構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。ここで、ベルト層は、通常タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層からなり、2枚のベルト層は、このベルト層を構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト26を構成する。さらに、空気入りタイヤ21は、上記ベルト26のタイヤ半径方向外側でベルト26の全体を覆うように配置されたベルト補強層29を備えるが、ベルト補強層29を有していなくてもよいし、他の構造のベルト補強層を備えることもできる。ここで、ベルト補強層29は、通常、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなる。
【0060】
空気入りタイヤ21におけるインナーライナー27は、上述のとおり高いガスバリア性等の特性を有している。従って、本発明のインナーライナー27を備える空気入りタイヤ21は、内圧保持性等に優れる。
【0061】
なお、空気入りタイヤ21において、タイヤ内に充填する気体としては、通常の、あるいは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガス等を用いることができる。
【0062】
空気入りタイヤとしては、上記構成の本発明のインナーライナーを備えていればその他の構造については特に限定されず、種々の態様をとることができる。また、この空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、大型タイヤ、オフザロード用タイヤ、二輪車用タイヤ、航空機タイヤ、農業用タイヤなどに好適に適用できる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
なお、各測定は、以下の方法により行った。
【0065】
(厚み)
ダイヤルゲージを用い、5点の平均厚みを測定した。
【0066】
(貫通孔の数密度)
マイクロスコープにて、1cm枠内に完全に収まっている貫通孔の数を測定した。5箇所で測定し、その平均を数密度とした。
【0067】
(通気度)
JIS−L1096 A法(フラジール形法)に準拠して、測定した。
【0068】
(剥離強度)
10cm×10cmの試験片を引張速度200mm/min.でT型剥離し、この剥離の間の試験力(単位長さあたりの引張力)の平均値を算出した。
【0069】
(寸法安定率)
150℃の環境に30分静置させた後の、試験片の長さを測定し、加熱前の長さとの差(絶対値)として算出した。
【0070】
[実施例1]
厚み38μmのポリエチレンテレフタレート製フィルム(東洋紡績社製 E5000(寸法安定率 MD方向1%、TD方向0.2%))に、熱針温度250℃、ライン速度30m/min.の加工条件で貫通孔を形成し、シート状の基材を得た。この基材に形成された貫通孔の数密度は50個/cmであり、通気度は10.0cc/(cm・sec)であった。この基材を、厚み120μmのフィルムに、80℃の条件で熱ラミネートし、前駆体積層体を得た。上記フィルムは、エチレン−ビニルアルコール共重合体製の樹脂層A及びウレタン系エラストマー製の樹脂層Bが交互に積層された5層構造のものを用いた。得られた前駆体積層体の基材とフィルムとの間の剥離強度は、0.1N/cmであった。
【0071】
架橋工程として、上記前駆体積層体に対し電子線照射した。この電子照射による架橋反応で発生したガス(水素ガス)は、発生と同時又は前駆体積層体がガイドロールを通過する際に、基材の貫通孔から脱気され、シワのない積層体Aが得られた。得られた積層体Aの基材と架橋フィルムとの剥離強度は、0.3N/cmであった。
【0072】
次いで、積層体Aの架橋フィルムの表面にトルエンを溶媒とするゴム接着剤を280g/m塗布し、100℃に設定された乾燥炉を2分間かけて通過させて、トルエンを揮発させ、接着性のフィルム層を積層させた。この乾燥後の接着性フィルムは、40g/mであった。この後、接着性フィルムの表面にPET製の保護フィルムをラミネートし、積層体Bを得た。上記溶媒乾燥時に基材と架橋フィルムとが剥がれて膨れることなく、また、保護フィルムをラミネートする際にシワが発生することもなかった。なお、上記積層体Bから基材を剥離することで、積層体Cを得た。
【0073】
[実施例2]
貫通孔の数密度が6個/cm、通気度が1.6cc/(cm・sec)である基材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体A〜Cを得た。基材と架橋フィルムとが剥がれて膨れることなく、シワの発生もほとんど見られなかった。(実質的に問題のない微小なシワが、わずかに見られた。)
【0074】
[実施例3]
貫通孔の数密度が3個/cm、通気度が0.6cc/(cm・sec)である基材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体A〜Cを得た。実施例2と比べて数は増えたが、実質的に問題のない程度のシワが発生した。
【0075】
[実施例4]
基材の厚みを100μm(寸法安定率 MD方向1.1%、TD方向0.4%)とし、フィルムの厚みを20μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層体A〜Cを得た。基材とフィルムとが剥がれて膨れることはなく、シワの発生も見られなかった。
【0076】
[実施例5]
基材の厚みを12μm(寸法安定率 MD方向1.3%、TD方向0.1%)、フィルムの厚みを130μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層体A〜Cを得た。基材とフィルムが剥がれて膨れることはなく、シワも発生しなかったが、積層体のカールが発生した。
【0077】
[比較例1]
基材として、貫通孔加工を施していないポリエチレンテレフタレート製フィルム(東洋紡績社製 E5000)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、前駆体積層体を得た。基材とフィルムとの熱ラミネート後の剥離強度は、0.16N/mであった。この前駆体積層体に対して電子線照射を行い、積層体Aを得た。この電子照射の際、発生したガスが、基材とフィルムとの界面に溜まって膨らみ、基材とフィルムとの剥離がおきた。さらに、フィルムが大きく伸ばされ、ガイドロール通過時にフィルムにシワが発生した。電子線照射後の基材と架橋フィルムとの剥離強度は0.5N/cmであった。
【0078】
ついで、積層体Aの表面に、実施例1と同様の方法で接着性フィルム及び保護フィルムを積層させ、積層体Bを得た。ゴム接着剤の溶媒乾燥時に、基材と架橋フィルムとの界面に溶媒と思われる揮発ガスが溜まり、基材と架橋フィルムとの剥離がおき、架橋フィルムが大きく膨らんで伸ばされた。また、乾燥炉通過後の冷却により、揮発ガスの体積収縮及び架橋フィルムへの吸収がおき、伸ばされた架橋フィルムが折りたたまれ、シワが発生した。さらに、積層体Bでシワが発生した箇所は、コート抜けとなっており、この積層体からは欠点のない積層体Cを得ることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明の積層体の製造方法によれば、シワの発生の抑制された架橋フィルムを備える積層体を得ることができる。この架橋フィルムは、各種フィルム、シート、容器、包装材料、タイヤ用インナーライナー等として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 前駆体積層体
2 基材
3 フィルム
3’架橋フィルム
4 貫通孔
11 積層体
21 空気入りタイヤ
22 ビード部
23 サイドウォール部
24 トレッド部
25 カーカス
26 ベルト
27 インナーライナー
28 ビードコア
29 ベルト補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材とこの基材の表面に積層されるフィルムとを備える前駆体積層体に対し、電子線照射、放射線照射、紫外線照射、可視光線照射及び加熱からなる群より選択される少なくとも1種の処理を行い、フィルム中の樹脂を架橋させる架橋工程を有し、
上記基材が複数の貫通孔を有する積層体の製造方法。
【請求項2】
上記基材の通気度が1.5cc/(cm・sec)以上である請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
上記フィルムが熱可塑性樹脂を含む樹脂層Aを有する請求項1又は請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
上記熱可塑性樹脂がエチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレン及びポリエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
上記フィルムがエラストマーを含む樹脂層Bを有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
上記エラストマーが、ポリウレタン系エラストマー、ポリジエン系エラストマー、アクリル樹脂系エラストマー及びシリコーン樹脂系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
上記フィルムが隣接する樹脂層Aと樹脂層Bとを有する請求項5又は請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
上記架橋工程後の基材とフィルムとの剥離強度が0.1N/m以上100N/m以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の積層体の製造方法により得られる積層体。
【請求項10】
請求項9に記載の積層体から得られるタイヤ用インナーライナー。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−82161(P2013−82161A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224725(P2011−224725)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000104906)クラレプラスチックス株式会社 (52)
【Fターム(参考)】