説明

積層体の製造方法及び積層体

【課題】1回の塗布プロセスにより積層し、ゲル化剤を大量に添加する必要が無い、ハードコート性や透明性等の各種機能を付与し得る積層体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(1)層形成用成分を含有させた複数の溶液A,Bを積層する工程、(2)前記工程(1)で積層した溶液を基材4上に転移させる工程、及び(3)基材上に転移された積層した溶液を乾燥する工程を有する積層体の製造方法であって、前記工程(1)にて相接する2つの溶液が含有する溶剤同士を、同一の溶剤又は相溶性を有する溶剤とし、前記2つの溶液のうちの一方の溶液に、水酸化カルシウム以外の金属水酸化物を含有させて水素イオン指数を12未満の塩基性溶液にし、他方の溶液については水素イオン指数を12以上にすることにより、該2つの溶液を積層する際に、該2つの溶液から形成される2層の界面領域に前記金属水酸化物を不溶化した状態で存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法及び積層体に関する。さらに詳しくは、層形成用成分を含有させた複数の溶液を積層し、積層した溶液を基材上に転移させ、その後に乾燥させることにより、層間の密着性や剥離性を制御しながら、積層体を簡便かつ生産性良く製造する方法、及び該製造方法によって製造し得る積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
積層体の形成には、層形成用成分を有機溶剤と混合した有機溶剤系溶液を用いる方法と、層形成用成分を水系溶剤と混合した水系溶液(以下、層形成用水系溶液と称することがある。)を用いる方法が知られている。
これらの溶液を用いた積層体の形成方法としては、層形成用成分を含有させた溶液の塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗布方式が広く知られている。該タンデム塗布方式では、下層用溶液が上層用溶液によって流されることのないよう、上層用溶液を塗布する前に下層用溶液を定着させておく必要がある。特に、層形成用水系溶液を用いた積層体の製造では、1つの乾燥工程に非常に多くの時間及びエネルギーを要するため、塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗布方式は極めて多くの時間及びエネルギーが必要となり、適さない。また、そもそもタンデム塗布方式では、塗布と乾燥処理を繰り返すために、層間に必然的に空気が入り込むため、層間の密着性が不十分となる傾向にある。さらには、層数を増やすほど異物混入の確立が高まるため、このことが歩留まりの低下につながる。
一方、上記問題を解決する方法として、1回の塗布プロセスにより積層体を形成する塗布方式(乾燥処理を挟まずに一度に積層体を形成する塗布方式のこと。)が知られており、該多層塗布方式は、写真フィルム等の塗布プロセスに広く利用されている。多層塗布方式は、例えば図1に示すように、塗布ヘッド1における複数の狭いスリットから上層用溶液A及び下層用溶液Bを押し出し、傾斜したスライド面2上を重力の作用により自然流下させ、重なりあった上層用溶液A及び下層用溶液Bをロール3によって、走行する基材4上に転移させて積層体を形成するものである。
このような多層塗布方式を採用した方法としては、ゼラチンをバインダーとするハロゲン化乳化剤(ゾル液)をゲル化させながら同時多層塗布する方法(特許文献1参照)が知られている。この方法は、ゼラチンのゾル−ゲル変換特性を利用して多層膜をゲル化させて超高粘状態にし、層間の混合を起こり難くした上で熱風乾燥等を行うことにより積層体を形成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−199074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法では、積層構造を保持するために、ゼラチンに代表されるゲル化剤を多量に用いる。そのため、例えばハードコート性や透明性等の各種機能を付与することができず、さらにゲル化剤と相溶しない又は反応してしまう成分を用いることができない等の理由により、得られる積層体の用途が限定されてしまうという問題がある。
なお、積層化を実現するために通常用いられているゲル化剤や増粘剤は、その効果を得るためには多量の添加を要することが多く、積層後に、層中、層間を移動して、界面領域や表面に多く析出して、機械的強度や層間の密着性を低下させ得る等の懸念点がある。また、ゲル化剤や増粘剤としては、様々の種類の材料が提案されているものの、前述の通り、多量に添加する必要があるものが殆どであり、効果的な材料があまり提案されていないのが実状である。
本発明は、このような状況下になされたものであり、タンデム塗布方式ではなく、1回の塗布プロセスにより積層体を形成する塗布方式であり、ゼラチン等のゲル化剤を大量に添加する必要が無く、例えばハードコート性や透明性等の各種機能を付与し得る積層体の製造方法であって、層間の密着性や剥離性を制御しながら、積層体を簡便かつ生産性良く製造する方法、及び該製造方法によって製造し得る積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、1回の塗布プロセスにより積層体を形成する塗布方式において、相接する2つの溶液が含有する溶剤同士を同一の溶剤又は相溶性を有する溶剤とし、前記2つの溶液のうちの一方の溶液に、水酸化カルシウム以外の金属水酸化物を含有させて水素イオン指数を12未満の塩基性溶液にし、他方の溶液については水素イオン指数を12以上にすることにより、該2つの溶液が接した際に、前記相接する2つの溶液から形成される2層の界面領域に前記金属水酸化物を不溶化した状態で存在させることができ、このために、密着性や剥離性を制御しながら、相接する2つの溶液の積層構造を良好に保持できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[6]に関する。
[1](1)層形成用成分を含有させた複数の溶液を積層する工程、
(2)前記工程(1)で積層した溶液を基材上に転移させる工程、及び
(3)基材上に転移された積層した溶液を乾燥する工程
を有する積層体の製造方法であって、
前記工程(1)にて相接する2つの溶液が含有する溶剤同士を、同一の溶剤又は相溶性を有する溶剤とし、
前記工程(1)において、前記2つの溶液のうちの一方の溶液に、水酸化カルシウム以外の金属水酸化物を含有させて水素イオン指数を12未満の塩基性溶液にし、他方の溶液については水素イオン指数を12以上にすることにより、該2つの溶液を積層する際に、該2つの溶液から形成される2層の界面領域に前記金属水酸化物を不溶化した状態で存在させることを特徴とする、積層体の製造方法。
[2]前記金属水酸化物が、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムから選択される少なくとも1種上記[1]に記載の積層体の製造方法。
[3]前記水酸化カルシウム以外の金属水酸化物を含有させた溶液の水素イオン指数を11.5以下とする、上記[1]又は[2]に記載の積層体の製造方法。
[4]前記金属水酸化物を含有する溶液において、金属水酸化物の含有割合が3〜40質量%である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[5]積層体中の少なくとも1対の相接する層が有する界面領域に金属水酸化物を含有する積層体。
[6]前記金属水酸化物が、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムから選択される少なくとも1種上記[5]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、1回の塗布プロセスにより積層体を形成する塗布方式において、層形成用成分を含有させた複数の溶液を用いた積層体の製造方法であって、相接することになる2つの溶液に含有される溶剤が同じであるか又は相溶性を有しているにも関らず、積層しようとする2つの溶液の混合を抑制することができ、その混合抑制の程度によって層間の密着性や剥離性を制御しながら、積層体を簡便かつ生産性良く製造することができる。本発明の製造方法であれば、積層体にハードコート性や透明性等の各種機能を付与することも可能である。さらに本発明によれば、製造コストを低減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】1回の塗布プロセスにより積層体を形成する装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体の製造方法は、
(1)層形成用成分を含有させた複数の溶液を積層する工程、
(2)前記工程(1)で積層した溶液を基材上に転移させる工程、及び
(3)基材上に転移された積層した溶液を乾燥する工程
を有する積層体の製造方法であって、
前記工程(1)にて相接する2つの溶液が含有する溶剤同士を、同一の溶剤又は相溶性を有する溶剤とし、
前記工程(1)において、前記2つの溶液のうちの一方の溶液に、水酸化カルシウム以外の金属水酸化物を含有させて水素イオン指数を12未満の塩基性溶液にし、他方の溶液については水素イオン指数を12以上にすることにより、該2つの溶液を積層する際に、該2つの溶液から形成される2層の界面領域に前記金属水酸化物を不溶化した状態で存在させることを特徴とするものである。
ここで、金属水酸化物が2層の界面領域に不溶化した状態で存在する形態としては、相接する2つの溶液の混合が抑制され、積層構造が保持される限りは特に制限は無く、例えば、金属水酸化物が連なって膜状となっていてもよいし、島状に点在していてもよいし、これらの中間状態であってもよい。ここで、本明細書における「界面領域」とは、少なくとも前記相接する2つの溶液がまさに接触している面(接触面)を含み、さらに、2つの溶液が接触した後に2つの溶液の若干の混合がある場合には、該接触面付近において2つの溶液が混合している領域までをも指す。
後述するように、本発明で用いる金属水酸化物の溶液中における含有割合は、溶液の全固形分濃度に対して小さくすることもでき、積層体全体の機能に大きな影響を与えず、且つ層間の密着性を高くすることが可能である。一方、金属水酸化物の溶液中における含有割合を増加させることにより、層間の剥離性を高めることもできる。また、不溶化した金属水酸化物は、前述のとおり、2層の界面領域に存在しているため、その観点からも、積層体全体の機能には大きな影響を与え難いと言える。
なお、本発明の積層体の製造方法について、便宜上、2層積層体の製造方法を例として説明することがあるが、本発明は2層に限定されるものではなく、3層以上の積層体の製造にも適用が可能である。積層する溶液のうち、上層用を「上層用溶液A」、下層用を「下層用溶液B」と称することがある。
以下、前記工程(1)〜(3)について、順に説明する。
【0010】
(工程(1))
工程(1)は、層形成用成分を含有させた複数の溶液を積層する工程である。溶液としては、主に水系溶剤を用いて調製される水系溶液と、主に有機溶剤を用いて調製される有機溶剤系溶液がある。層形成用成分は、溶液中に溶解した状態で含有されていてもよいし、溶液中に分散した状態で含有されていてもよい。本発明では、いずれの種類の溶液を用いてもよいが、相接する2つの溶液中の溶剤を同一の溶剤にするか又は相溶性のある溶剤にする。ここで、「相溶性のある溶剤」とは、一方の溶剤に他方の溶剤を加えると、積層構造を保持できない程度に混合し合う溶剤を言う。工程(1)で相接する2つの溶液中の溶剤をこのような組み合わせにすることで本発明の効果が発現するが、逆に相溶性の無い溶剤を選択した場合には、溶液同士が弾き合って密着性が極めて小さい積層体になり、密着性や剥離性の制御はできない。
本発明においては、本工程(1)において前記2つの溶液が接する際に金属水酸化物を効率良く析出させる観点から、溶液として水系溶液を用いることが好ましい。
なお、溶液中の層形成用成分の濃度は、積層体の形成容易性及び生産性等のバランスの観点から、通常、いずれも好ましくは10〜60質量%、より好ましくは20〜50質量%、さらに好ましくは20〜45質量%である。
【0011】
(水系溶剤)
水系溶剤としては、水を主成分とするものであり、該水として、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。水系溶剤としては、水以外の水溶性の有機溶剤、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系有機溶剤;メタノール等のアルコール系有機溶剤等を含有していてもよい。
水系溶剤中の水の割合は、層形成用成分の溶解性又は分散性の観点から、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは実質100質量%である。
【0012】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族系有機溶剤;トルエン、キシレン、ブロモベンゼン等の芳香族系有機溶剤;塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤;エチルセロソルブ等のセロソルブ系有機溶剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水溶性の有機溶剤の場合には、少量の水が含有されていてもよい。その場合、溶液中の有機溶剤の含有量は、層形成用成分の溶解性又は分散性の観点から、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは実質100質量%である。
【0013】
(水系溶剤用の層形成用成分)
水系溶剤用の層形成用成分としては、前記水系溶剤に溶解又は分散し、且つ、いわゆる皮膜を形成し得る成分であれば特に制限はない。例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、けん化度50モル%以上(好ましくは70モル%以上)のポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体、スルホン化度50モル%以上(好ましくは70モル%以上)のポリスチレンスルホン酸、けん化度50モル%以上(好ましくは70モル%以上)のエチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸及びその塩、水性アクリル樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、アルギン酸塩類、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性エポキシ樹脂、水性ポリオレフィン樹脂、水性フェノール樹脂、ポリパラビニルフェノール等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、成膜性、膜厚均一性の観点から、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、ポリパラビニルフェノールが好ましい。
なお、「水性」とは、水溶性であることを示す。層形成用成分の製造方法に特に制限はなく、また、市販品を用いることもできる。
【0014】
前記水性アクリル樹脂としては、アクリル酸と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又はその他の重合性モノマーとの共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。その他の重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、ビニルアルコール、エチレン等が挙げられる。なお、水性アクリル樹脂としては、例えばDIC株式会社製の「ウォーターゾール(登録商標)」シリーズ等の市販品を用いることもできる。
【0015】
前記水性ポリエステル樹脂は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコールと、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の多塩基酸とを脱水縮合させた後、アンモニアや有機アミン等で中和し、水分散化させることにより得ることができる。また、例えば東洋紡績株式会社製の「バイロナール(登録商標)」シリーズ等の市販品を用いることもできる。
なお、水性ポリエステル樹脂の水酸基価は、好ましくは5〜30KOHmg/g、より好ましくは10〜25KOHmg/g、さらに好ましくは10〜20KOHmg/gである。また、水性ポリエステル樹脂の酸価は、好ましくは3KOHmg/g以下である。水性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは50〜90℃、より好ましくは60〜85℃、さらに好ましくは70〜85℃である。
【0016】
前記ポリパラビニルフェノールは、パラビニルフェノールのホモポリマーであり、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば丸善石油化学株式会社製の「マルカリンカー(登録商標)」シリーズ等が挙げられる。
また、前記ポリビニルアルコールの誘導体の具体例としては、カルボキシル化ポリビニルアルコール、スルホン化ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、及びこれらの混合物等が挙げられる。
なお、層形成用成分の重量平均分子量は、好ましくは5千〜100万、より好ましくは1万〜10万、さらに好ましくは1万〜5万である。なお、本明細書において、重量平均分子量は、いずれもゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0017】
(有機溶剤系溶液用の層形成用成分)
有機溶剤系溶液用の層形成用成分としては、前記有機溶剤に溶解又は分散し、且つ、いわゆる皮膜を形成し得る成分であれば特に制限はなく、熱可塑性樹脂や活性エネルギー線硬化型化合物を用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、ポリカーボネート、けん化度50モル%未満(好ましくは20モル%以下)のポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体、スルホン化度50モル%未満(好ましくは20モル%以下)のポリスチレンスルホン酸、けん化度50モル%未満(好ましくは20モル%以下)のエチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これら熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、皮膜の形成容易性及び有機溶剤系溶液に対する溶解性又は分散性の観点から、好ましくは数万〜数百万であり、より好ましくは3万〜50万である。
また、前記活性エネルギー線硬化型化合物は、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線等の活性エネルギー線を照射することにより、架橋、硬化する化合物である。この活性エネルギー線硬化型化合物としては、以下の活性エネルギー線硬化型オリゴマー及び/又は活性エネルギー線硬化型モノマーを用いることができる。
【0018】
活性エネルギー線硬化型オリゴマーとしては、例えば、ポリエステルアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリエーテルアクリレート系オリゴマー、ポリブタジエンアクリレート系オリゴマー、シリコーンアクリレート系オリゴマー等が挙げられる。
上記活性エネルギー線硬化型オリゴマーの重量平均分子量は、皮膜の形成容易性及び有機溶剤系溶液に対する溶解性又は分散性の観点から、好ましくは500〜100,000、より好ましくは1,000〜70,000、さらに好ましくは3,000〜40,000の範囲である。
該活性エネルギー線硬化型オリゴマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
活性エネルギー線硬化型モノマーとしては、例えば、ジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールアジペートエステル、ジ(メタ)アクリル酸ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ジ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジシクロペンテニル、ジ(メタ)アクリル酸エチレンオキシド変性リン酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸アリル化シクロヘキシル、ジ(メタ)アクリル酸イソシアヌレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパンエステル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸プロピオンオキシド変性トリメチロールプロパンエステル、イソシアヌル酸トリス(アクリロキシエチル)、ペンタ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールエステル等が挙げられる。これらのモノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
また、前記活性エネルギー線硬化型化合物と共に、光重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミン安息香酸エステル、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−プロペニル)フェニル]プロパノン)等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
光重合開始剤を使用する場合、その使用量は、用いる活性エネルギー線硬化型化合物の種類に応じて適宜選定すればよいが、通常、活性エネルギー線硬化型化合物100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲で使用するのが好ましい。
【0021】
(金属水酸化物)
工程(1)では、相接することになる2つの溶液のうちの一方の溶液に、水酸化カルシウム以外の金属水酸化物を含有させ、水素イオン指数(pH)を12未満の塩基性溶液を調製する。該pH12未満の塩基性溶液は、上層用溶液として用いられてもよいし、下層用溶液として用いられてもよい。
該金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、塩基性条件下にて不溶化し易い(析出し易い)という観点から、水酸化マグネシウム、水酸化マンガンが好ましい。また、少量の使用にて層間の密着性を高める観点からは、電離度が高い金属水酸化物がより好ましく、具体的には水酸化マンガンがより好ましい。層間の密着性や剥離性を制御し易いという観点からは、水酸化マグネシウムがより好ましい。
水酸化カルシウム以外の金属水酸化物を含有する溶液のpHは、工程(1)にて2つの溶液が接する前から金属水酸化物が析出するのを抑制する観点から、好ましくは11.5以下、より好ましくは11.2以下、さらに好ましくは11以下である。なお、溶液の水素イオン指数は、市販のpH計を用いて測定することができる。
【0022】
さらに本発明では、相接することになる2つの溶液のうちの他方の溶液の水素イオン指数(pH)を12以上にする必要がある。こうすることにより、前記金属水酸化物を不溶化させることができ、該不溶化した金属水酸化物が、相接する2つの溶液から形成される2層の界面領域に存在することとなり、これによって2つの溶液の混合が抑制され、積層構造が保持されるものと推測される。該溶液のpHをより高くすると、本発明の積層体の層間の密着性は低下し、剥離性が高まる傾向となるため、積層体の用途に応じ、pH12以上という条件内で適宜調整すればよい。層間の剥離性を高める観点からは、pHを12.5以上にすることが好ましく、12.8以上にすることがより好ましく、13以上にすることがさらに好ましい。
pH12以上の溶液を調製するためには、pH12以上で析出しない金属水酸化物や有機塩基を用いることが好ましい。該金属水酸化物としては前記条件を満たすものであれば特に制限はなく、例えば水酸化カルシウムが好ましく挙げられる。有機塩基としては、公知のアミン化合物や含窒素複素環式芳香族化合物などを用いることができる。
【0023】
pH12未満とする塩基性溶液中の金属水酸化物の含有割合は、上層用溶液Aと下層用溶液Bとの積層構造を効率良く保持する観点及び各層の機能への影響の低減の観点から、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは3〜30質量%、さらに好ましくは5〜25質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。溶液中の金属水酸化物の含有割合を少なくすることにより、層間の密着性を向上させることができ、一方で、該割合を多くすることにより、層間の剥離性を高めることができるため、積層体の用途に合わせて適宜調整すればよい。層間の密着性を高める観点からは、該含有割合は、好ましくは3〜10質量%である。一方、層間の剥離性を高める観点からは、該含有割合は、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%、さらに好ましくは10〜20質量%である。
また、前記水酸化カルシウム以外の金属水酸化物を含有させた溶液の水素イオン指数は、11.5以下に調整することが好ましく、11以下に調整することがより好ましい。さらに、層間の密着性を高める観点からは、好ましくは9.5未満、より好ましくは9以下であり、層間の剥離性を高める観点からは、好ましくは9.5以上(但し12未満)、より好ましくは10以上(但し12未満)である。但し、前述の通り、層間の密着性や剥離性については、用いる金属水酸化物の種類による影響もあるため、かかるpHのみによって密着性や剥離性を制御するというものではない。なお、溶液のpHを調整するために、前記金属水酸化物と共に、乳酸、シュウ酸等の有機カルボン酸化合物;フェノール、クレゾール等のフェノール性水酸基を有する化合物等の各種酸性物質を用いてもよい。酸性物質を用いる場合、溶液中の酸性物質の割合は、各層の機能への影響の低減の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
なお、相接する2つの溶液の一方に前記金属水酸化物を含有させない場合や、該金属水酸化物を含有する溶液のpHを12以上にした場合、さらにpH12以上とすべき溶液のpHを12未満にした場合、工程(1)において、相接する2つの溶液は混合してしまい、積層構造を保持することができない。
【0024】
(その他の成分)
層形成用成分を含有させた溶液には、さらに必要に応じて、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤、充填剤、潤滑剤、滑剤等を含有させることもできる。
なお、こうして得られる溶液の固形分濃度及び粘度としては、基本的には塗布することが可能な濃度及び粘度であればよく、状況に応じて適宜選定することができる。
【0025】
複数の溶液を積層する際の溶液の温度としては、いずれも、好ましくは5〜50℃、より好ましくは10〜40℃、さらに好ましくは10〜30℃であり、操作容易性の観点から、通常は常温とする。
複数の溶液を積層する方法に特に制限は無いが、例えば(I)傾斜したスライド面上にて積層させる方法、(II)水平な平面状にて積層させる方法、(III)円形シリンダー上にて積層させる方法、(IV)傾斜した放物面上にて積層させる方法等が挙げられる。これらの中でも、装置の入手容易性の観点及び操作の簡便性の観点から、通常、方法(I)が好ましく利用される。
前記方法(I)を利用する場合、層形成用成分を含有させた溶液を流動させるための、傾斜したスライド面を有するものとしては、例えば図1に示すようなスライドコーターが好ましく挙げられる。
効率的に積層体を形成する観点から、スライド面の傾斜角度は、水平方向に対して5〜40度が好ましく、10〜35度がより好ましく、15〜35度がさらに好ましい。また、効率的に積層体を形成する観点から、スライド面上への溶液の吐出口の中心と、隣り合う溶液の吐出口の中心との距離は、8〜30cmが好ましく、10〜28cmがより好ましく、12〜26cmがさらに好ましい。さらに、効率的に積層体を形成する観点から、複数のスライド面上への溶液の吐出口の内、積層した溶液を基材へ転移する部位に最も近い吐出口の中心と、基材との距離は、2〜14cmが好ましく、3〜12cmがより好ましく、4〜11cmがさらに好ましい。特に、このように設計されたスライドコーターを使用した場合に、本発明の効果が顕著に現れる傾向にある。
こうして積層することにより、工程(1)にて調製した前記金属水酸化物を含有する溶液から該金属水酸化物が不溶化(析出)し、これが、2つの溶液から形成される2層の界面に存在することで、該2つの溶液の混合が抑制される。
【0026】
(工程(2))
工程(2)は、以上のようにして積層した溶液を、基材上に転移させる工程である。
(基材)
基材に特に制限はなく、積層体を有する部材の用途によって適宜選択することができる。基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィン系フィルム;セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム等のセルロース系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム等の塩化ビニル系フィルム;ポリビニルアルコールフィルム;エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム等のビニル系共重合体フィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;ポリメチルペンテンフィルム;ポリスルホンフィルム;ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム等のポリエーテル系フィルム;ポリイミドフィルム;フッ素樹脂フィルム;ポリアミドフィルム;アクリル樹脂フィルム;ノルボルネン系樹脂フィルム;シクロオレフィン樹脂フィルム等が挙げられる。
【0027】
基材は、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいし、無着色のものでもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。
基材の厚さに特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、通常、15〜250μm、好ましくは30〜200μmの範囲である。
また、この基材は、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、効果及び操作性等の観点から、一般にはコロナ放電処理法が好ましく用いられる。
【0028】
以下に、図1のスライドコーターを参照して、複数の溶液を積層する方法の一例を詳細に説明する。
複数のスリット状の吐出口を有する塗布ヘッド1における各吐出口から、それぞれ上層用溶液A、下層用溶液Bを押し出し、傾斜したスライド面2上を重力の作用により自然流下させ、上層用溶液Aと下層用溶液Bとを積層する。積層した溶液は、ロール3によって走行する基材4上に転移させ、次の工程(3)へと移行する。
【0029】
(工程(3))
工程(3)は、前記工程(2)で転移した積層状態の複数の溶液を加熱乾燥することにより、積層体を形成する工程である。加熱乾燥温度は、通常、好ましくは50〜130℃、より好ましくは60〜120℃、さらに好ましくは60〜100℃、特に好ましくは60〜90℃である。加熱乾燥時間に特に制限は無いが、通常、1分〜5分間程度必要である。
このようにして得られた積層体の各層の厚さは、通常、好ましくは0.1〜100μm程度、より好ましくは1〜70μmであり、各層の積層構造が保持されている。積層構造が保持されていることは、例えばスラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置を用いて確認する方法や、グロー放電発光分光分析法による深さ方向の元素定量分析、XPS(X線光電子分光分析、別名:ESCA)による深さ方向の定性分析(X線光電子分析とイオンスパッタリングを交互に繰り返してスペクトルの変化を分析する方法。)などによって確認する方法もある。グロー放電発光分光分析法やXPS法では、上層用溶液中の層形成用成分に由来する元素の存在量が減少していく深さと、下層用溶液中の層形成用成分に由来する元素の存在量が増加していく深さ付近、つまり界面領域に金属水酸化物に由来するピークを確認することで、本願発明の積層体に含まれるか否かを判別することが可能である。また、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡によって視認することもできる。
【0030】
本発明の製造方法は、多量の溶液を用いて連続的又は断続的に実施してもよいし、必要最小限の量の溶液を用いてバッチ方式で実施してもよい。
[積層体]
以上の様にして得られる積層体は、積層体中の少なくとも1対の相接する層が界面領域に金属水酸化物を含有する積層体である。該金属水酸化物としては、前記したものと同じものが挙げられ、前記同様の理由から、好ましくは水酸化マグネシウム、水酸化バリウムである。従来のタンデム塗布方式にて製造した積層体の場合、各層の接触面(界面)に金属水酸化物が存在することはなく、またその場合には存在させる意味もない。
なお、前述のとおり、pH12以上の溶液を調製する際に水酸化カルシウムを用いてもよいため、本発明の積層体には、層の界面近くに水酸化カルシウムが含まれ得ることより、本発明の積層体が層の界面領域に含有する金属水酸化物として水酸化カルシウムを否定しない。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例において、得られた積層体の層間の密着性(剥離性)について以下のようにして測定した。
(密着性、剥離性)
旧JIS K5400の基盤目試験方法に準拠し、層間の密着性(剥離性)を測定した。
各例で得られたフィルムアンテナに基盤目の切れ込みを100マス(1マス=1mm×1mm)入れた後、密着試験用テープを基盤目へ貼り付け、そして剥がし、残留したマスの数を確認した。
なお、100マス中、残留したのが95マス以上であれば、層間の密着性に非常に優れており、一方、100マス中、残留したのが50マス以下であれば、層間の剥離性に優れていると言え、20マス以下であれば、層間の剥離性に非常に優れていると言える。
【0032】
製造例A−1;上層用水系溶液
水酸化マグネシウム(関東化学株式会社製)10g、乳酸(関東化学株式会社製)15g、ポリパラビニルフェノール(層形成用成分、丸善石油化学株式会社製、「マルカリンカー(登録商標)M」、重量平均分子量=約2万)70g、純水(関東化学株式会社製)80g、及び識別用着色剤としてインジゴ(関東化学株式会社製)0.5gを室温で混合及び攪拌し、青色の水系インクA−1(水酸化マグネシウムの濃度:約6質量%、pH=9)を得た。
【0033】
製造例A−2;上層用水系溶液
製造例A−1において、水酸化マグネシウムの添加量を23gに変えたこと以外は同様にして、青色の水系インクA−2(水酸化マグネシウムの濃度:約12質量%、pH=10)を得た。
【0034】
製造例A−3;上層用水系溶液
製造例A−1において、水酸化マグネシウム10gを水酸化マンガン8gに変えたこと以外は同様にして、青色の水系インクA−3(水酸化マンガンの濃度:約10質量%、pH=10)を得た。
【0035】
製造例A−4;上層用水系溶液
製造例A−1において、水酸化マグネシウムを、水酸化マグネシウムと水酸化マンガン混合物10g(水酸化マグネシウムと水酸化マンガンの重量比は3:7)に変えたこと以外は同様にして、青色の水系インクA−4(水酸化マグネシウム及び水酸化マンガンの合計濃度:約12質量%、pH=11)を得た。
【0036】
製造例A−5;上層用水系溶液
製造例A−1において、水酸化マグネシウム10gを水酸化マンガン23gに変えたこと以外は同様にして、青色の水系インクA−5(水酸化マンガンの濃度:約12質量%、pH=11.5)を得た。
【0037】
製造例B−1;下層用水系溶液
水酸化カルシウム(関東化学株式会社製)10g、水性ポリエステル樹脂(東洋紡績株式会社製、「バイロナール(登録商標)MD−1500」、ガラス転移温度77℃、重量平均分子量=約2万、数平均分子量=8,000、固形分濃度30質量%)130g及び識別用着色剤としてアントラキノン(関東化学株式会社製)0.5gを室温で混合及び攪拌し、赤色の水系インクB−1(水酸化カルシウムの濃度:約7質量%、pH=12)を得た。
【0038】
製造例B−2;下層用水系溶液
製造例B−1において、水酸化カルシウムの添加量を18gに変えた以外は同様にして、赤色の水系インクB−2(水酸化カルシウムの濃度:約12質量%、pH=13)を得た。
【0039】
実施例1
上層用として製造例A−1で製造した水系溶液A−1を用い、下層用として製造例B−1で製造した水系溶液B−1を用い、図1に示す装置(スライド面の傾斜角度;水平方向に対して25度、隣り合う吐出口の距離;8cm、積層した水系溶液を基材へ転位する部位に最も近い吐出口の中心と基材との距離;10cm)を用いて、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム「コスモシャインA4100」(東洋紡績株式会社製)上に塗布した後、70℃のオーブン中で2分間乾燥し、積層体を得た。
得られた積層体の断面を、目視及び走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、識別用着色剤を加えた上層及び下層の2層において、識別用着色剤の大幅な混合は見られず、積層構造が良好に保持されていることを確認できた。
得られた積層体の層間の密着性の測定結果を表1に示す。
【0040】
実施例2
実施例1において、水系溶液B−1の代わりに、製造例B−2で製造した水系溶液B−2を用いたこと以外は同様にして積層体を製造した。
得られた積層体の断面を、目視及び走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、識別用着色剤を加えた上層及び下層の2層において、識別用着色剤の大幅な混合は見られず、積層構造が良好に保持されていることを確認できた。
得られた積層体の層間の密着性の測定結果を表1に示す。
【0041】
実施例3
実施例1において、水系溶液A−1の代わりに、製造例A−2で製造した水系溶液A−2を用いたこと以外は同様にして積層体を製造した。
得られた積層体の断面を、目視及び走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、識別用着色剤を加えた上層及び下層の2層において、識別用着色剤の大幅な混合は見られず、積層構造が良好に保持されていることを確認できた。
得られた積層体の層間の密着性の測定結果を表1に示す。
【0042】
実施例4
実施例1において、水系溶液A−1の代わりに、製造例A−3で製造した水系溶液A−3を用いたこと以外は同様にして積層体を製造した。
得られた積層体の断面を、目視及び走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、識別用着色剤を加えた上層及び下層の2層において、識別用着色剤の大幅な混合は見られず、積層構造が良好に保持されていることを確認できた。
得られた積層体の層間の密着性の測定結果を表1に示す。
【0043】
実施例5
実施例1において、水系溶液A−1の代わりに、製造例A−4で製造した水系溶液A−4を用いたこと以外は同様にして積層体を製造した。
得られた積層体の断面を、目視及び走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、識別用着色剤を加えた上層及び下層の2層において、識別用着色剤の大幅な混合は見られず、積層構造が良好に保持されていることを確認できた。
得られた積層体の層間の密着性の測定結果を表1に示す。
【0044】
実施例6
実施例1において、水系溶液A−1の代わりに、製造例A−5で製造した水系溶液A−5を用いたこと以外は同様にして積層体を製造した。
得られた積層体の断面を、目視及び走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、識別用着色剤を加えた上層及び下層の2層において、識別用着色剤の大幅な混合は見られず、積層構造が良好に保持されていることを確認できた。
得られた積層体の層間の密着性の測定結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
比較例1
実施例1において、水系溶液B−1の代わりに水系溶液A−1を用いたこと以外は同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に積層体を形成した。該積層体の断面を目視及びSEMで観察したところ、識別用着色剤が混合していて、積層構造が保持されていなかった。
【0047】
比較例2
実施例1において、水系溶液B−1の代わりに、水系溶液B−1に乳酸を7g添加した水系溶液B−1’(pH=11)を用いたこと以外は同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に積層体を形成した。該積層体の断面を目視及びSEMで観察したところ、識別用着色剤が混合していて、積層構造が保持されていなかった。
【0048】
以上の実施例及び比較例の結果より、本発明の製造方法によれば、通常では困難な同一溶液同士及び相溶性のある溶液同士の積層が可能であることが分かる。さらに、本発明によれば、金属水酸化物の種類及び濃度やpHを調整することによって、層間の密着性や剥離性を容易に調整することができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により得られる積層体は、例えばハードコート性や透明性等の各種機能を付与し得るため、各種光学フィルム、車用等のフィルムアンテナ、放熱シート、赤外線反射フィルム等、幅広い分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1:塗布ヘッド
2:スライド面
3:ロール
4:基材
A:上層用溶液
B:下層用溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)層形成用成分を含有させた複数の溶液を積層する工程、
(2)前記工程(1)で積層した溶液を基材上に転移させる工程、及び
(3)基材上に転移された積層した溶液を乾燥する工程
を有する積層体の製造方法であって、
前記工程(1)にて相接する2つの溶液が含有する溶剤同士を、同一の溶剤又は相溶性を有する溶剤とし、
前記工程(1)において、前記2つの溶液のうちの一方の溶液に、水酸化カルシウム以外の金属水酸化物を含有させて水素イオン指数を12未満の塩基性溶液にし、他方の溶液については水素イオン指数を12以上にすることにより、該2つの溶液を積層する際に、該2つの溶液から形成される2層の界面領域に前記金属水酸化物を不溶化した状態で存在させることを特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記金属水酸化物が、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記水酸化カルシウム以外の金属水酸化物を含有させた溶液の水素イオン指数を11.5以下とする、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記金属水酸化物を含有する溶液において、金属水酸化物の含有割合が3〜40質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
積層体中の少なくとも1対の相接する層が有する界面領域に金属水酸化物を含有する積層体。
【請求項6】
前記金属水酸化物が、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムから選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−974(P2012−974A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45627(P2011−45627)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】