説明

積層体の製造方法

【課題】
本発明は、複数のインキの液層を同時に押し出して積み重ね、インキ液層間の混合を妨げながら乾燥して、積層体を得る製造方法に関するものである。
【解決手段】
本発明は、複数のインキ液層が積み重ねられた時、隣り合うインキ液層の両方あるいは片方のインキ液層が増粘して、隣り合うインキ液層間の混合が妨げられ、インキ液層が積み重なった構造を維持したまま基体に塗布された後、乾燥し固定する積層体の製造方法、により上記の課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数のインキを逐次に塗布して積層体を得ることは、産業上いろいろなところで実施されている。例えば、赤外線カットフィルムや、反射防止フィルムなども、高屈折率インキや低屈折率インキを基材フィルム上に塗布、乾燥の工程を複数回繰り返すことで製造されている。
【0003】
ところが、これまで、複数のインキを同時に多層塗布する方法は産業上ほとんどみられなかった。わずかに、カラー写真フィルムや、カラー写真印画紙の製造に同時多層塗布の塗布技術が利用されている。これは、高温の水溶性インキを複数のスリットノズルから高速で押出して、傾斜しているステージ上にインキ液層を積み重ね、写真のフィルムベースや印画紙のベース紙上にインキ液層を塗布した後、インキ液層が混合する前に冷却することにより、ゼラチンをバインダーとするインキ液層をゲルに変化させ、インキ液層の流動性をなくした状態で乾燥させることにより、一度の塗布工程で多層構造の薄膜を得る方法である。
【0004】
最近の新しい試みとして、隣り合う2層のいずれか一方に混合防止成分をいれ、2つのインキ液層が接触した時に2層の液相の界面に混合防止成分を析出、偏在化させ、2層の混合を防止する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
隣り合う2層の有機溶剤のインキ液層間で錯体反応を生じさせて、2層の液層の界面に皮膜を形成して、2層の混合を防止する方法も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−110752号公報
【特許文献2】特開2011−72880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ゼラチンをバインダーとする同時多層塗布の方法では、積層されたインキ液層はそのままでは混合してしまうため、混合する前に急速に冷却してゼラチンをゲル化する必要がある。そのためには塗布速度を速くする必要があり、インキ液層を塗布した直後に特別な冷却装置が必要となる。
【0008】
また、安定的に製造するためには条件を厳密に調整する必要があり、製造条件の設定に時間がかかるため、塗布速度が速いことは大ロットの商品の製造には適するが、小ロットの製品の製造には向かない方法である。
【0009】
また、ゼラチンなどの低温でゲル化する天然高分子化合物しか使えないため、有機高分子化合物はバインダーや主成分として利用できない。
【0010】
特許文献1や特許文献2の製造方法は、混合防止成分や皮膜形成によってインキ液層間の混合は妨げることはできても、塗布や乾燥中のインキ液層が流動して不均一になることは妨げられない。また、積み重ねられるインキ液層が多くなれば多くなるほど、各層の厚みを均一に保つことが難しくなる。
【0011】
本発明は、同時多層塗布の方法にて、インキ液層の積層構造を速やかに形成することができ、かつ形成されたインキ液層の積層構造を塗布や乾燥の過程で安定的に保持することができる積層体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一の発明は、複数のインキを同時に押出して複数のインキ液層を積み重ね、その後、積み重ねられたインキ液層の積層構造を保持したまま基体に塗布した後、インキ液層を乾燥し固定することにより、基体上にインキの中の成分が層状に積層している積層体の製造方法であって、インキ液層が積み重ねられた時に、隣り合うインキ液層のいずれか一方または両方のインキ液層が増粘して、インキ液層の積層構造を形成することを特徴とする積層体の製造方法である。
【0013】
第二の発明は、インキ液層の増粘が、架橋反応、錯体形成反応、塩析反応、中和反応、不溶化反応のいずれの反応で生じることを特徴とする、第一の発明に記載の積層体の製造方法である。
【0014】
第三の発明は、製造される積層体が、赤外線反射フィルム、昇華転写記録受像シート、反射防止フィルム、放熱シートのいずれかであることを特徴とする、第一の発明から第二の発明のいずれかに記載の積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インキ液層の積層構造を速やかに形成することができ、かつインキ液層の積層構造を塗布や乾燥の過程で安定的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の同時多層塗布方法の一実施例を示す、模式断面図である。
【図2】ダイコーティングユニットの模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、複数のインキを同時に押出して複数のインキ液層を積み重ね、インキ液層が積み重ねられた時に、隣り合うインキ液層のいずれか一方または両方のインキ液層が増粘することにより、インキ液層が積み重ねられた積層構造が形成され、その後、積み重ねられたインキ液層の積層構造を保持したまま基体に転写した後、インキ液層を乾燥し固定することにより、基体上に各インキ成分が層状に積層している積層体を製造する方法に関するものである。
【0018】
本発明における「増粘」とは、粘度が増加することであって、いわゆる「ゲル化」も増粘のひとつの現象である。本発明では、ゲル化のような固体状態にならなくても、隣り合うインキ液層間の混合が妨げられてインキ液層の積層構造が形成され、かつインキ液層の流動が妨げられてインキ液層の積層構造が塗布や乾燥の過程で保持され得る程度にインキ液層が増粘していればよい。
本発明は、基体を除いた層の数は2以上であればいくつでもよく、増粘するインキ液層の数は1以上であれば幾つでもよい。さらに、インキ液層が積み重ねられた時に、隣り合うインキ液層のうち少なくとも1つのインキ液層が増粘すればよく、インキ液層が積み重ねられた後にも、粘度の増加が進行し続けてもよい。
なお、本発明において「インキ」とは特に着色顔料を含むものに限定されるものではなく、透明なインキもインキとして含まれる。また、「インキ液層」には、液体成分を包含していればゲルのように固体状態の層も含まれる。
【0019】
<<第1の実施態様>>
以下、本発明の第1の実施態様について、図面を参照しながら説明する。
第1の実施態様は、少なくとも1対の隣り合うインキ液層が積み重ねられて接触した時に、一方のインキ液層中に含まれる反応成分と、他方のインキ液層中に含まれる反応成分とが反応して、隣り合うインキ液層のいずれか一方または両方のインキ液層全体が増粘する場合の実施態様である。
【0020】
<同時多層塗布>
図1は、本発明の同時多層塗布方法の1実施例を示す、模式断面図である。
11はダイコーティングユニットで、インキを押し出すスリット1,2,3を有している。もちろんスリットの数は3に限定されることなく任意の数が可能である。図2はダイコーティングユニットの一例の斜視模式図である。
【0021】
複数のインキを層状に積み重ねる方法としては、例えば、図1のスライド斜面上に設けた複数のスリットを持つダイコーティングユニットのスリットからインキを押出し、インキが傾斜に沿って落ちる際にインキ液層が下のインキ液層に乗り上げることにより、次々に積み重ねることができる。本発明のスライド斜面とは、必ずしも斜面が平面状に限定される必要はなく、インキ液層が重力で落ちるような構造であればよく、真横からみたスライド面が曲線状であってもよい。
【0022】
インキをスリットから押し出して積み重ねる方法は、スライド斜面上方にスリットノズルを複数個ならべ、上からカーテン状に溶液を流してスライド斜面上で積み重ねる方法もあり、図1の塗布方法だけに限定されない。
【0023】
2以上の層を有する積層体を製造するにあたり、まず積層体にて隣り合う2層の形成に使用される2つのインキを、2つのインキ液層が接触すると、片方のインキ液層中に含まれる第1の反応成分と、他方のインキ液層中に含まれる第2の反応成分が反応して、少なくともどちらか一方のインキ液層全体が増粘するように調製する。この時、一方を第1のインキ、他方を第2のインキと便宜上呼ぶことにする。
【0024】
第1のインキを図1のタンク1tとタンク3tに貯蔵し、第2のインキをタンク3tに貯蔵する。図示していないがタンクや加圧ポンプ、スリット等は3つに限定されず、任意の数だけ設定できる。
【0025】
第1のインキと第2のインキは、加圧ポンプ1p、加圧ポンプ2p、加圧ポンプ3pにより押し出されて各スリット1、2、3からから流れ出ると、コーティングダイユニット11の斜面を流れ落ちる。この時スリット1から流れ出た第1のインキは、コーティングダイユニットの上で広がってインキ液層1sを形成する。
【0026】
スリット2から流れ出た第2のインキも同様にインキ液層2sを形成して流れ落ちる。そして、インキ液層1sの上に乗り上げる形でインキ液層2sが接触すると、第1のインキ液層中に含まれる第1の反応成分と、第2のインキ液層中に含まれる第2の反応成分が反応して、少なくともどちらか一方のインキ液層が増粘してインキ液層間の混合が妨げられる。ここで、インキ液層間の混合が妨げられるとは、インキ液層とインキ液層とが積み重ねられたインキ液層の積層構造が形成されることを意味しており、インキ液層に含まれる成分がインキ液層間の境界付近で混合しないことは意味していない。
便宜上第2のインキ液層の第2の反応成分が、隣のインキ液層中に浸透して第1のインキ液層が増粘するとして本発明の原理を説明する。
【0027】
第2のインキ液中の第2の反応成分が第1のインキ液中の第1の反応成分と反応して、第1のインキ液層全体が増粘するためには、第2の反応成分と第1の反応成分との反応は第1のインキ液層と第2のインキ液層の接触面だけでなく、第1のインキ液層全体で起きなければならない。そのためには第2の反応成分は第2のインキ液層から第1のインキ液層中に速やかに拡散できなければならない。
【0028】
このような条件を満たすために、第2の反応成分は低分子化合物であることが好ましい。なぜなら第2のインキ液層と第1のインキ液層が接触して、第1のインキ液層の接触領域で第1のインキの粘度が増加しても、第2の反応成分は粘度が増加した部分を通過してさらに第1のインキ層中に拡散しなければならないからである。一方、嵩だかな物質では粘度の増加がゲル化まで進行した部分ではブロックされてしまう恐れがある。
【0029】
単に粘度が増加する場合やゲル化密度が低い場合は第2の反応成分の低分子化合物は隣のインキ液層に拡散できるが、ゲル化密度が高い場合は、いかに低分子化合物でもブロックされてしまう。
そのような時は、第1のインキ液層中に第2の反応成分によっても増粘しない高分子化合物Iを含ませることによって解決される。第2の反応成分と第1の反応成分が反応してゲル化まで進行しても、高分子化合物Iは増粘しないので第2の反応成分は高分子化合物Iが存在する領域を通り道として第1の液層全体に拡散することができる。
【0030】
第2の反応成分が大きくても、増粘しない高分子化合物Iとの親和性が高く、高分子化合物Iの存在する領域を通りながら浸透していけるものであれば、第2の反応成分は低分子物質でなくてもある程度の嵩があっても本発明に利用できる。高分子化合物Iはインキ液層中に溶解していてもエマルジョンとして分散していてもよい。
【0031】
第1のインキ液層1sが増粘すると、第2のインキ液層の第2の反応成分以外の成分は第1の第1のインキ液層1sのなかに混ざりこむことができず、インキ液層1sの上に乗り上げてインキ液層2sを形成して、インキ液層1sとインキ液層2sが積み重ねられる。同様にスリット3から押し出される第1のインキは、第2のインキのインキ層2sの上に積み重ねられ第1のインキからなるインキ液層3sを形成する。第1のインキと第2のインキを交互にスリットから押し出すことにより、4以上のスリットからインキが押し出されても同様にインキ液層が積み重ねられる。(図示せず)
【0032】
回転するコーティングロール4に抱かせられた基体6は、ダイコーティングユニットの端から流れ落ちようとする積み重ねられたインキ液層1s、2s、3s、・・・をすくい取り、2以上の積み重ねられたインキ液層が、積み重なった層構造を保持したまま基体に塗布される。
【0033】
積み重なった層構造を保持したまま塗布された、2以上の積み重ねられたインキ液層は、隣り合う2層の液層の少なくとも一方のインキ液層が増粘しているため、積み重なったインキ液層構造を保持したまま、乾燥ゾーン5で乾燥されることになり、隣り合う層のインキ成分が混じり合うことなく、塗布膜厚も均一な積層体を得ることができる。
【0034】
増粘したインキ液層は流動性が少ないため、送風の影響やガイドロールとの接触などによる外部からの不規則な力に影響されにくく、均一な多層塗膜を得ることができる。また、インキ液層が厚くてもインキ液が移動することなく均一な層の積層体を得ることができる。
【0035】
化学反応によりインキ液層全体が増粘するため、積み重ねられた液層間の混合の度合いは少なく、有機合成高分子を含むインキでも天然高分子を含むインキでも同時多層塗布ができる。 また、水系のインキだけでなく、有機溶剤系のインキでも、水系のインキと有機溶剤系のインキであっても、同時多層塗布が本発明の製造方法によって可能となる。
【0036】
積層体の各インキ液層の塗布量は、ダイコーティングユニットのスリットから押し出されるインキの液量と、基体6の搬送速度によってコントロールされる。基体6の搬送速度を増加させることにより、インキの押出し量が同じでも、より薄膜の塗布が可能となる。本発明の積層体の製造方法では、複数の層間のインキの混合の度合いが少なく、大面積で均一な多層積層体を1回の塗布で得ることができる。
【0037】
積層体が形成されていることを確認する方法は、まず積層体の横断面を薄膜にスライスして、光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察して積層構造を確認すればよい。
また、その積層構造が本発明の製造方法によるものかを確認する方法は、グロー放電発光分光分析法で確認できる。
【0038】
グロー放電発光分光分析法とは、薄膜材料を表面からスパッタして元素分析を行うもので、表面から内部にかけての元素分析が可能な分析方法である。表面からのいろいろな深度における元素の量が、炭素、水素、窒素、酸素、硫黄、チタン、シリカ、アルミなどの量が深度方向に具体的に分析できる方法である。
【0039】
本製造方法による積層体は、隣り合う2つのインキ液層が接触して、第2のインキ液層中の第2の反応成分が第1のインキ液層中の第1の反応成分と反応して、第1のインキ液層が増粘するため、第1のインキから形成される層中に、第2のインキ中の第2の反応成分が検出されることにより、本発明の製造方法で製造されたものと確認できる。
【0040】
<インキ液層の増粘に利用される化学反応とその反応成分>
隣り合う2つのインキ液層が接触して、片方のインキ液層中に含まれる成分と、他方のインキ液層中に含まれる成分が反応して、インキ液層を増粘させる反応にはいろいろな反応が利用できる。いずれも反応に係る低分子が速やかに、接触するインキ液層中に浸透できることが好ましい。
例えば下記の反応が利用できるが、特に限定されるものではない。(A)架橋性の高分子と架橋剤の反応、(B)金属イオンと配位子を持つ高分子または配位子を持つ低分子との錯形成反応、(C)水和して溶解している高分子から水和水を取り去る塩析反応、(D)塩基性高分子と酸性高分子の中和反応、(E)塩基性高分子と酸の中和反応、(F)酸性高分子と塩基の中和反応、(G)酸と塩基の中和反応、(H)良溶媒に溶解している高分子化合物や低分子化合物に貧溶媒を添加する不溶化反応、などの反応が利用できるが、いずれも反応速度は速いことが好ましい。
【0041】
以下、具体的な利用できる化学反応とその反応成分について説明する。
(A)架橋反応:
例えば、一方のインキへ含有させる成分(β)として架橋性の高分子化合物を用い、他方のインキへ含有させる成分(α)として架橋剤を用いることにより、2つのインキ液層があい接する領域で、架橋反応が起こる。該架橋反応の生成物である架橋体は、インキ液層を増粘させるため、隣り合う2つのインキ液層間の混合を抑制することができる。
【0042】
反応成分(β)の架橋性の高分子化合物としては、特に制限されるものではないが、水酸基やカルボキシル基等を有する高分子化合物、例えば、ポリビニルアルコール、ポリフェノール、ポリカルボン酸等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。架橋性の高分子化合物は、溶剤への溶解性の観点から、重量平均分子量が5千〜30万のものが好ましく、3万〜20万のものがより好ましく、5万〜15万のものがさらに好ましい。
【0043】
また、反応成分(α)の架橋剤としては、例えば、ホウ酸、水酸化チタン、有機チタンキレート化合物等の架橋性チタン化合物、架橋性ジルコニウム化合物、尿素樹脂、メラニン樹脂等のアミノ樹脂、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のポリイソシアネート化合物、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチルプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、2,2−ビス−(4’−グリシジルオキシフェニル)プロパン、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物、カルボジイミド化合物、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−[2−(ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
なお、本架橋反応を利用する場合、前記架橋剤を含有するインキ中の層形成用成分としては、該架橋剤とは反応しない、非架橋性のもの(非架橋性層形成用成分)を用いるのが好ましく、そのようなものとしては、反応性の基を持たない各種有機合成高分子化合物、高分子エマルジョン、セルロース誘導体などが好ましい。
【0045】
(B)錯体形成反応:
例えば、反応成分(γ)として配位子を用い、反応成分(δ)としてイオン性物質を用いることにより、2つのインキ液層があい接する領域から、錯体形成反応が起こる。錯体形成反応の生成物である高分子錯体はインキ液層を増粘させるため、隣り合う2つのインキ液層間の混合を妨げることができる。
【0046】
反応成分(γ)の配位子としては、例えば亜リン酸、リン酸、ポリリン酸等のリン含有配位子、酢酸等のカルボン酸含有配位子等のほか、水酸基、チオール基、アミノ基、アミド基、ピリジン基等を含有する配位子等が挙げられる。またそれらの配位子を持つ有機合成高分子、ポリビニルアルコール樹脂、ウレタンアクリレート樹脂などを利用することができる。 また、反応成分(δ)のイオン性物質としては、例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、銅イオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ホウ素イオン、アルミニウムイオン等のイオン源となる物質であれば特に制限はなく、例えば硫酸アルミニウム、硫酸コバルト、酢酸コバルト、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0047】
なお、錯体形成反応を利用する場合、前記配位子を含有するインキ中の層形成用成分としては、前記イオン性物質とは錯体形成反応をしない、配位子を持たない有機合成高分子化合物、高分子エマルジョン、またはセルロース誘導体などが使用できる。
【0048】
(C)塩析による凝集反応:
例えば、反応成分(ε)として高分子化合物を用い、反応成分(ζ)として電解質を用いることにより、凝集性の高分子化合物周辺の溶剤を電解質が奪う塩析が起こり、ひいては、2つのインキ液層があい接する領域から電解質が浸透して前記高分子化合物の凝集反応が進行する。塩濃度が低い場合は、前記高分子は一部可溶、一部不溶でありインキ液層を増粘させる。そのため、隣り合う2つのインキ液層の混合を妨げることができる。
【0049】
反応成分(ε)の高分子化合物としては、水酸基やカルボキシル基等を有する親水性の高分子化合物、例えば、ポリビニルアルコール、ポリフェノール、ポリカルボン酸等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
反応成分(ζ)の電解質としては、公知のものを使用することができ、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の二元電解質、塩化バリウム等の三元電解質、水酸化アルミニウム等の酸性及びアルカリ性を有する両性電解質、たんぱく質、ポリメタクリル酸等の高分子電解質等が挙げられる。
【0050】
なお、本凝集反応を利用する場合、前記電解質を含有するインキ中の層形成用成分としては、塩析が起こらない高分子化合物を用いる必要があり、そのようなものとしては、セルロース誘導体、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂等が使用できる。
【0051】
(D)酸と塩基の中和反応:
例えば、反応成分(η)として酸を用い、反応成分(θ)として塩基を用いることにより、隣り合う2つのインキ液層が接触する領域から、酸と塩基の中和反応が起こる。該中和反応の生成物である塩は、中和度が低い場合は一部溶解、一部不溶となり、インキ液層を増粘させる。そのため、隣り合う2つのインキ液層の混合を妨げることができる。
【0052】
反応成分(η)の酸としては、例えば酢酸、ギ酸、炭酸等の弱酸や、塩酸、ポリカルボン酸、ポリスルホン酸、カチオン性ポリビニルアルコールなどの有機合成高分子化合物などが挙げられる。 反応成分(θ)の塩基としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、ベンジジン、アニリン、キノリン等の、有機アミンや含窒素複素環式芳香族化合物に代表される弱塩基や、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物などの有機合成高分子、あるいはケイ酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0053】
なお、本中和反応を利用する場合に、前記酸を含有するインキ中の層形成用成分としては、中和反応が起こらない高分子化合物を用いる必要があり、そのようなものとしては、セルロース誘導体、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂等、及びエマルジョンが使用できる。
【0054】
(E)不溶化反応:
高分子化合物あるいは低分子化合物が良溶媒中に溶解しているときに、貧溶媒を添加すると完全に析出するか、一部溶解、一部析出のような状態となる。本発明においては完全に析出させるのではなく、一部溶解、一部析出のような状態にすることでインキ液層を増粘する。この状態を本発明における不溶化と定義する。高分子化合物や低分子化合物が析出してしまうと、インキ液層のなかの構成成分の分布が不均一となり好ましくない。
【0055】
反応成分(κ)として高分子化合物を選択し、良溶媒(λ)、反応成分である貧溶媒(μ)とすると、κ、λ、μの組み合わせは無数にあって記述しきれない。例えばポリビニルアルコールにしてもケン化度の違いによって溶解性が異なる。ケン化度の高いポリビニルアルコールは水に溶け、メタノールなどのアルコール類を添加すると不溶化する。しかしながらケン化度の低いポリビニルアルコールは水には溶けず有機溶剤に溶解する。
不溶化反応を利用する場合はケースバイケースでκ、λ、μの組み合わせを考えればよい。
【0056】
<インキ>
本実施態様で利用できるインキには通常、上記の反応成分、溶剤、および層形成成分が少なくとも含まれる。もっとも、同じ物質を反応成分と層形成成分の両方に用いることができる場合には、インキには、上記の反応成分および溶剤が少なくとも含まれていればよい。本実施態様では、水系溶剤を用いた水系インキ、有機溶剤を用いた有機溶剤系インキのいずれも、積層体の用途に応じて適宜選択された層形成成分の種類に適したものを選択して適宜用いることができる。
溶剤:
溶剤は水系溶剤、有機溶剤いずれも層形成成分の種類に応じて選択することができる。
(水系溶剤)
水系インキは、溶媒ないし分散媒として水および/または水溶性溶剤の水系溶剤を利用するものである。水には、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。水溶性溶剤には、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ピロリドンなどのケトン類、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、等を用いることができる。
本発明を工業的に実施する場合における環境保全の観点から水を主成分とすることが好ましく、その場合の水系溶剤中の水の割合は、本発明を工業的に実施する場合における環境保全の観点及び有機合成高分子や反応成分の溶解性や分散性の観点から、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは実質100質量%である。
【0057】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族系有機溶剤、トルエン、キシレン、ブロモベンゼン等の芳香族系有機溶剤、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤、エチルセロソルブ等のセロソルブ系有機溶剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水溶性の有機溶剤の場合には、少量の水が含有されていてもよい。その場合、溶液中の有機溶剤の含有量は、層形成用成分の溶解性の観点から、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは実質100質量%である。
【0058】
層形成成分:
水系インキ、有機溶剤系インキの層形成成分としては、各種高分子化合物を層の主成分として、あるいは体質顔料のバインダーとして利用できる。本実施形態では、ゼラチンなどの低温でゲル化する天然高分子化合物以外にも、有機合成高分子化合物をバインダーや主成分として利用できので、同時多層塗布の産業上の利用可能性を広げることができる。層形成成分はインキ液層の増粘に利用される化学反応の反応成分として用いてもよい。また、反応成分とは反応せずに、反応成分をインキ液層内に拡散させる機能を有する成分(上述の高分子化合物γに相当する成分)として用いてもよい。
【0059】
(水系インキの層形成成分)
水系インキに利用される層形成成分の高分子化合物は、前記水系溶剤に溶解し、且つ乾燥時に皮膜を形成し得る成分であれば特に制限はない。あるいは高分子化合物を水に分散したエマルジョンも層形成成分として使用できる。
水に溶解するものとしては、例えばゼラチン、寒天、カラギナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアガム、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、けん化度50モル%以上(好ましくは70モル%以上)のポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体、スルホン化度50モル%以上(好ましくは70モル%以上)のポリスチレンスルホン酸、けん化度50モル%以上(好ましくは70モル%以上)のエチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸及びその塩、水性アクリル樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、アルギン酸塩類や、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性エポキシ樹脂、水性ポリオレフィン樹脂、水性フェノール樹脂、ポリパラビニルフェノール等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、成膜性、膜厚均一性の観点から、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、ポリパラビニルフェノールが好ましい。
なお、「水性」とは、水溶性であることを示し、その製造方法に特に制限はないが、いずれも市販品を用いるのが簡便である。
【0060】
前記水性アクリル樹脂としては、アクリル酸と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルやその他の重合性モノマーとの共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。その他の重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、ビニルアルコール、エチレン等が挙げられる。また、例えばDIC株式会社製の「ウォーターゾール(登録商標)」シリーズ等の市販品を用いることもできる。
【0061】
前記水性ポリエステル樹脂は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコールと、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の多塩基酸とを脱水縮合させた後、アンモニアや有機アミン等で中和し、水分散化させることにより得ることができる。また、例えば東洋紡績株式会社製の「バイロナール(登録商標)」シリーズ等の市販品を用いることもできる。
【0062】
なお、水性ポリエステル樹脂の水酸基価は、好ましくは5〜30KOHmg/g、より好ましくは10〜25KOHmg/g、さらに好ましくは10〜20KOHmg/gである。また、水性ポリエステル樹脂の酸価は、好ましくは3KOHmg/g以下である。水性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは50〜90℃、より好ましくは60〜85℃、さらに好ましくは70〜85℃である。
【0063】
前記ポリパラビニルフェノールは、パラビニルフェノールのホモポリマーであり、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば丸善石油化学株式会社製の「マルカリンカー(登録商標)」シリーズ等が挙げられる。
【0064】
また、前記ポリビニルアルコールの誘導体の具体例としては、カルボキシル化ポリビニルアルコール、スルホン化ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0065】
水性樹脂エマルジョンは各種市販のエマルジョン溶液が利用でき、アクリル樹脂エマルジョン、酢ビ・アクリルエマルジョン、塩ビエマルジョン、塩酢ビエマルジョン、シリコーンエマルジョン、シリコーン・アクリルエマルジョンなどが利用できる。
【0066】
水溶性のセルロース誘導体も、アセチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの置換基の導入によって、水に溶解するグレードの製品が利用できる。
【0067】
(有機溶剤系インキの層形成成分)
有機溶剤系インキの層形成用成分の高分子化合物としては、前記有機溶剤に溶解し、且つ、いわゆる皮膜を形成し得る成分であれば特に制限はなく、熱可塑性樹脂を用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、変性アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩酢ビ樹脂、ポリエーテル樹脂、EVA樹脂、アセタール樹脂、ブチラール樹脂、アイオノマー樹脂、酢酸セルロース樹脂、アセチルセルロース樹脂、けん化度50モル%未満(好ましくは20モル%以下)のポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体、スルホン化度50モル%未満(好ましくは20モル%以下)のポリスチレンスルホン酸、けん化度50モル%未満(好ましくは20モル%以下)のエチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これら熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、皮膜の形成容易性及び有機溶剤系溶液に対する溶解性の観点から、好ましくは数万〜数百万であり、より好ましくは3万〜50万である。
【0068】
なお、層形成成分の重量平均分子量は、好ましくは5千〜100万、より好ましくは1万〜10万、さらに好ましくは1万〜5万である。なお、本明細書において、重量平均分子量は、いずれもゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の値である。
【0069】
<基体>
基体は、塗布されるインキ液層の積層構造を支持することができるものであれば、特に限定されない。例えば、ガラス、金属、高分子化合物のフィルムを好適に用いることができる。
【0070】
<体質顔料>
また、インキ中には、任意の成分として体質顔料を添加することができる。体質顔料は、白色または透明な無機の粒子であり、艶消しや他の着色顔料の希釈に用いられるものであり、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化ケイ素、タルク、硫酸カルシウム、ベントナイト、チタンバリウム、酸化亜鉛などが利用される。
【0071】
顔料を微細な粒子に調製してバインダー中に分散したものは、光学フィルムの屈折率の調整に使用される。赤外線反射フィルムや反射防止フィルムに使用される高屈折率の材料は、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、酸化鉛、酸化鉄、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタルなどがあるが、このうち微細粒子として調製できるものが利用できる。特に酸化チタンや酸化スズなどが好ましい。
低屈折率の材料としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、弗化ナトリウム、弗化マグネシウム、弗化リチウム、弗化カルシウムなどがあり、特に酸化珪素や酸化アルミニウムが好ましい。
【0072】
また、インキ中には、さらに必要に応じて、各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤、充填剤等を含有させることができる。
【0073】
<<第2の実施態様>>
上記の第1の実施態様では、少なくとも1対の隣り合うインキ液層が積み重ねられて接触した時に、一方のインキ液層中に含まれる反応成分と、他方のインキ液層中に含まれる反応成分とが反応して、隣り合うインキ液層のいずれか一方または両方のインキ液層が増粘する場合について説明したが、本発明は、これに限定されず、いずれか一方のインキ液層中に含まれる反応成分のみによって、隣り合うインキ液層のいずれか一方または両方のインキ液層が増粘する場合であってもよい。
【0074】
<<本発明の製造方法が利用できる用途>>
本発明の積層体の製造方法を利用することにより、製造工程が大幅に改善される用途の例として、たとえば、赤外線反射フィルム、反射防止フィルム、昇華転写記録受像シート、放熱シートの製造がある。以下、各積層体の製造について実施例をもとに説明するが、この例に限定されることはなくこれ以外の用途にも利用できる。
【実施例】
【0075】
<赤外線反射フィルム>
本発明による赤外線反射フィルムは、光透過性基材上に、屈折率が異なる層が交互に2層以上積層した赤外線反射フィルムであって、隣接する層の屈折率差はいずれも0.1〜0.4の範囲であり、3層以上積層した赤外線反射フィルムの場合、隣り合った層の屈折率の差が前記範囲内であればよく、隣接する全ての層における屈折率の差が同じである必要はない。
【0076】
本発明の製造方法では、基体の搬送速度を上げることにより薄膜の積層体を得ることができるので、多層であっても薄膜化できるため、可視光の透過率が高く、かつ赤外線反射性能の高い積層体フィルムを得ることができる。
【0077】
3層以上積層した赤外線反射フィルムの場合、赤外線反射性、透明性及び耐久性の観点からは、前記反応基を有する高分子化合物は、いずれの隣り合った2層をみても、必ず1層には含有されていることが液層間の混合を防ぐために必要である。また、赤外線反射性の観点から、屈折率が異なる層が交互に奇数層積層し、光透過性基材から1層目の屈折率が2層目の屈折率より高く、且つ最表面の層の屈折率が、隣り合った層(つまり、1つ内側の層)の屈折率よりも高いことが必要である。
【0078】
屈折率調整成分としては、例えば高屈折率の材料としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウムなどがあり、低屈折率の材料としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等が挙げられる。該屈折率調整成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、屈折率調整成分の形状に特に制限は無いが、粒径は、赤外線反射性及び透明性の観点から、0.5μm〜10μmであることが好ましく、1μm〜5μmであることがより好ましい。
このような屈折率調整成分は合成してもよいが、市販のゾル状の分散液として販売されているものを利用するのが便利である。酸化チタン、酸化ケイ素、酸化スズなどの分散液が知られている。
【0079】
以下いくつかの実施例に沿って本発明の製造方法について説明する。
実施例1、赤外線反射フィルムの製造方法:
カチオン性ポリビニルアルコールとケイ酸ナトリウムが溶解している液に、塩酸が浸透することによりケイ酸ナトリウムとの中和反応にてケイ酸ゲルを生成して、さらにカチオン性ポリビニルアルコールが不溶化して粘度が上昇する反応を利用する製造方法である。
【0080】
(高屈折率層形成用インキ組成物)
下記の組成の成分を配合して高屈折率層形成用インキ組成物を調製した。

水性ポリエステル樹脂「バイロナール(登録商標)MD−1500」 :110重量部
(東洋紡績株式会社製、重量平均分子量約2万、固形分濃度30質量%)
酸化チタン分散液「AERОDISP(登録商標)W740X」 :336重量部
(日本アエロジル株式会社製、固形分含有量40wt%)
塩酸(1モル濃度) :60重量部
水 :30重量部
【0081】
屈折率の測定のため、上記高屈折率層用水系溶液を光透過性基材上に塗工した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させて塗膜を形成し、該塗膜の屈折率を屈折率計「DVA−36L型」(光源:ナトリウムD線、測定波長:589nm、株式会社溝尻光学工業所製)を用いて測定したところ、屈折率は1.55であった。
【0082】
(低屈折率層形成用インキ組成物)
下記の組成の成分を配合して低屈折率層形成用インキ組成物を調製した。

水性アクリル樹脂「ウォーターゾール(登録商標)PW−1100」 :52重量部
(DIC株式会社製、重量平均分子量=約5万、固形分45重量%の水エマルジョン)
ポリビニルアルコール(製品番号 C506) :5重量部
(株式会社クラレ製、カチオン変性ポリビニルアルコール)
酸化ケイ素分散液「AERОDISP(登録商標)W1836」 :352重量部
(日本アエロジル株式会社製、固形分含有量34重量%)
ケイ酸ナトリウム :3重量部
水 :118重量部
【0083】
屈折率の測定のため、上記低屈折率層用水系溶液を光透過性基材上に塗工した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させて塗膜を形成し、該塗膜の屈折率を屈折率計「DVA−36L型」(光源:ナトリウムD線、測定波長:589nm、株式会社溝尻光学工業所製)を用いて測定したところ、屈折率は1.40であった。
【0084】
(同時多層塗布)
高屈折率層形成用インキを図1の1tのタンクに充填し、低屈折率層形成用インキを2tのタンクに充填し、高屈折率層形成用インキを3tのタンクに充填した。
さらに低屈折率層形成用インキを4tのタンクに充填し、高屈折率層形成用インキを5tのタンクに充填し、低屈折率層形成用インキを6tのタンクに充填し、高屈折率層形成用インキを7tのタンクに充填した。(4t、5t、6t、7tのタンク、他加圧ポンプ等付随する設備は図示せず。)
【0085】
加圧ポンプ1から順番に加圧ポンプ7までタンク内のインキを送り出すと、隣り合う高屈折率層形成用インキ中の塩酸が、低屈折率層形成用インキの上下から浸透して、ケイ酸ゲルが生成する。また、並行してカチオン性ポリビニルアルコールの溶解度が減少して不溶化して、低屈折率層形成用インキの液層と高屈折率層形成用インキの液層中の、屈折率調整成分の混合が妨げられる。
【0086】
80μmの厚のトリアセチルセルロース(ТAC)フィルムを図1の6のように、コーティングロール4に抱かせて搬送しながら、ダイコーティングユニットの斜面に沿って重力で落下してきた、液層が積み重なって混合が妨げられたインキ液層をダイコーティングユニットの端から落下する時にТACフィルム6にすくい取って、その後乾燥ゾーン5で乾燥して赤外線反射フィルムを得た。
【0087】
赤外線反射フィルムは、最外層は高屈折率層である必要がある。実施例1で得られる積層体の各層の構成は、ТACフィルム/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層、という構成となる。各層の厚みは赤外線の波長に近い厚みである必要があり、各加圧ポンプからのインキの供給量をほぼ等しくして、ТACフィルムの搬送速度を上げることにより、薄くて均一な赤外線反射機能の高い赤外線反射フィルムを製造することができた。
【0088】
<反射防止フィルム>
反射防止フィルムの場合は逆に最表面の層の屈折率が、隣り合った層(つまり、1つ内側の層)の屈折率よりも低いことが必要である。更に、赤外線反射フィルムも反射防止フィルムも、中間の積層された層において、屈折率の高低が交互に繰り返されている、つまり各層の相対的な屈折率が「…/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層/…」となる関係にあることが好ましい
【0089】
実施例2、反射防止フィルムの製造方法:
実施例1の低屈折率層形成用インキと高屈折率層形成用インキを使用して、高屈折率層形成用インキを図1の1tのタンクに充填し、低屈折率層形成用インキを2tのタンクに充填し、高屈折率層形成用インキを3tのタンクに充填した。
さらに低屈折率層形成用インキを4tのタンクに充填し、高屈折率層形成用インキを5tのタンクに充填し、低屈折率層形成用インキを6tのタンクに充填した。(4t、5t、6tのタンク、他加圧ポンプ等付随する設備は図示せず。)
後は実施例1と同様にして反射防止フィルムを得た。
【0090】
反射防止フィルムは、最外層は低屈折率層である必要がある。実施例2で得られる積層体の各層の構成は、ТACフィルム/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層、という構成となる。各層の厚みは可視光の波長に近い厚みである必要があり、各加圧ポンプからのインキの供給量をほぼ等しくして、ТACフィルムの搬送速度を上げることにより、薄くて均一な反射防止機能の高い反射防止フィルムを製造することができた。
【0091】
<放熱シート>
LSIの集積度が高まるにつれ、発生する熱を放熱させる放熱シートが注目されている。電気的には絶縁性で、一定方向に効率よく伝熱する材料が望まれている。球状の窒化ホウ素をバインダー中に分散して基体上に塗布するのだが、ある程度の厚みが必要なため1度の塗布で必要な厚みを得ようとすると、通常では、窒化ホウ素は重いため塗布すると基体の上に沈降して表層はバインダーだけが残ってしまい、基体の垂直方向に良好な熱伝導性は得られない。
そこで、本発明の製造方法により、球状窒化ホウ素を基体上に沈降させずに、垂直方向に均一に分布するように製造することができる。
【0092】
実施例3、放熱シートの製造方法1:
ポリビニルアルコールをホウ酸で架橋して、さらにメタノールで不溶化する反応を利用する。
(電気絶縁性−熱伝導性インキ1組成物)
下記の組成の成分を配合して電気絶縁性−熱伝導性インキ組成物1を調製した。
ポリビニルアルコール「株式会社クラレ、製品番号 KL118」 :3.5重量部
酢ビ・アクリルエマルジョン「ビニゾール(登録商標)911」 :18重量部
(大同化成工業株式会社、50%)
窒化ホウ素(グレードPТX15) :80重量部
(MОMENТIVE社、球状窒化ホウ素、15μm)
水 :60重量部
【0093】
(電気絶縁性−熱伝導性インキ2組成物)
下記の組成の成分を配合して電気絶縁性−熱伝導性インキ2組成物を調製した。

酢ビ・アクリルエマルジョン「ビニゾール(登録商標)911」 :24重量部
(大同化成工業株式会社、50%)
窒化ホウ素(グレードPТX15) :80重量部
(MОMENТIVE社、球状窒化ホウ素、15μm)
ホウ酸 :2.5重量部
メタノール :10重量部
水 :60重量部
【0094】
(同時多層塗布)
電気絶縁性−熱伝導性インキ1を図1の1tのタンクに充填し、電気絶縁性−熱伝導性インキ2を2tのタンクに充填し、電気絶縁性−熱伝導性インキ1を3tのタンクに充填した。
さらに電気絶縁性−熱伝導性インキ2を4tのタンクに充填し、電気絶縁性−熱伝導性インキ1を5tのタンクに充填した。(4t、5tのタンク、他加圧ポンプ等付随する設備は図示せず。)
【0095】
実施例1と同様に、加圧ポンプ1から順番に加圧ポンプ5までタンク内のインキを送り出すと、電気絶縁性−熱伝導性インキ1の液層中のポリビニルアルコールは、電気絶縁性−熱伝導性インキ2の液層中の成分であるホウ酸と架橋する、また電気絶縁性−熱伝導性インキ2の液層中のメタノールも、電気絶縁性−熱伝導性インキ1の液層中のポリビニルアルコールを不溶化させるため、電気絶縁性−熱伝導性インキ1のインキ液層が増粘して2液層間の混合が妨げられ、球状窒化ホウ素が沈降することを防止できた。
【0096】
電気絶縁性−熱伝導性インキ1のインキ液層は増粘により、球状の窒化ホウ素はインキ液層中で沈降することはない。また電気絶縁性−熱伝導性インキ2は、電気絶縁性−熱伝導性インキ1の塗布膜厚より薄く塗布するため、バインダーから球状窒化ホウ素が分離沈降することはない。
【0097】
厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを図1の6のように、コーティングロール4に抱かせて搬送しながら、ダイコーティングユニットの斜面に沿って重力で落下してきた、液層が積み重なって混合が妨げられたインキ液層を、ダイコーティングユニットの端から落下する時にポリエチレンテレフタレートフィルム6にすくい取り、乾燥ゾーン5で乾燥して5層の窒化ホウ素の粒子が分散した絶縁性の放熱シートが製造される。電気絶縁性−熱伝導性インキ液層1の厚みは乾燥状態で70μmになるように調整し、電気絶縁性−熱伝導性インキ液層2の厚みは乾燥状態で20μmとなるように、各インキの押し出し量とポリエチレンテレフタレートフィルムの搬送速度を調節しで、乾燥時の全塗膜の厚みが250μmとなるようにした。
【0098】
実施例3は熱伝導性の優れた窒化ホウ素の粒子が、フィルム面から垂直方向に並んだ垂直方向への熱伝導性の良好な放熱シートを得ることができる。これだけの厚みのシートを1回の塗布で行うと、窒化ホウ素の粒子はフィルム面近くに沈積して、上層にはバインダーしかないという状態になり、垂直方向への熱伝導性は得ることができない。本製造方法では、各液層中に窒化ホウ素の粒子は保持されてフィルム面までは沈降しないので、垂直方向への熱伝導性の良好な放熱シートを得ることができる。
【0099】
実施例4、放熱シートの製造方法2:
ポリビニルアルコールがメタノールで不溶化して増粘する反応を利用する同時多層塗布製造方法である。
(電気絶縁性−熱伝導性インキ1組成物)
下記の組成の成分を配合して、実施例2と同じ電気絶縁性−熱伝導性インキ組成物1を調製した。
ポリビニルアルコール(株式会社クラレ、製品番号 KL118) :3.5重量部
酢ビ・アクリルエマルジョン「ビニゾール(登録商標)911」 :18重量部
(大同化成工業株式会社、50%)
窒化ホウ素(グレードPТX15) :80重量部
(MОMENТIVE社、球状窒化ホウ素、15μm)
水 :60重量部
【0100】
(混合防止インキ4組成物)
下記の組成の成分を配合して混合防止インキ4組成物を調製した。

酢ビ・アクリルエマルジョン「ビニゾール(登録商標)911」 :3重量部
(大同化成工業株式会社、50%)
メタノール :50重量部
水 :50重量部
【0101】
(同時多層塗布)
電気絶縁性−熱伝導性インキ1を図1の1tのタンクに充填し、混合防止インキ4を2tのタンクに充填し、電気絶縁性−熱伝導性インキ1を3tのタンクに充填した。
さらに混合防止インキ4を4tのタンクに充填し、電気絶縁性−熱伝導性インキ1を5tのタンクに充填した。混合防止インキ4を6tのタンクに充填し、電気絶縁性−熱伝導性インキ1を7tのタンクに充填した。(4t、5t、6t、7t、のタンク、他加圧ポンプ等付随する設備は図示せず。)
【0102】
実施例1と同様に、加圧ポンプ1から順番に加圧ポンプ7までタンク内のインキを送り出すと、電気絶縁性−熱伝導性インキ1の液層中のポリビニルアルコールは、混合防止インキ4の液層中のメタノールに接触して不溶化する。さらにメタノールは、電気絶縁性−熱伝導性インキ1のインキ液層中の酢ビ・アクリルエマルジョンを伝って、電気絶縁性−熱伝導性インキ1のインキ液層全域に拡散して増粘させる。
【0103】
厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを図1の6のように、コーティングロール4に抱かせて搬送しながら、ダイコーティングユニットの斜面に沿って重力で落下してきた、液層が積み重なって混合が妨げられたインキ液層を、ダイコーティングユニットの端から落下する時にポリエチレンテレフタレートフィルム6にすくい取り、乾燥ゾーン5で乾燥して4層の窒化ホウ素の粒子が分散した絶縁性の放熱シートが製造できた。電気絶縁性−熱伝導性インキ1の液層の厚みは乾燥状態で1層で70μmになるように調整し、混合防止インキ4の液層は電気絶縁性−熱伝導性インキ1の液層に上下にはさまれており、メタノールが上下の層に拡散することにより上下の層と同一になり、独立した層としては観測されない。
各インキの押し出し量とポリエチレンテレフタレートフィルムの搬送速度を調節して、乾燥時の全塗膜の厚みが280μmとなった。
【0104】
実施例4は熱伝導性の優れた窒化ホウ素の粒子が、フィルム面から垂直方向に並んだ垂直方向への熱伝導性の良好な放熱シートを得ることができる。これだけの厚みのシートを1回の塗布で行うと、窒化ホウ素の粒子はフィルム面近くに沈積して、上層にはバインダーしかないという状態になり、垂直方向への熱伝導性は得ることができない。本製造方法では、各液層中に窒化ホウ素の粒子は保持されてフィルム面までは沈降しないので、垂直方向への熱伝導性の良好な放熱シートを得ることができる。
【0105】
実施例5、放熱シートの製造方法3:
キレート形成のリガンドを持つ高分子と金属イオンの錯体形成を利用する同時多層塗布である。
(電気絶縁性−熱伝導性インキ3組成物)
下記の組成の成分を配合して電気絶縁性−熱伝導性インキ組成物3を調製した。

ウレタンアクリレート樹脂「紫光(登録商標)UV−7605B」 :30重量部
(日本合成化学工業株式会社製、柔軟性のウレタンアクリレート樹脂)
窒化ホウ素(グレードPТX15) :120重量部
(MОMENТIVE社、球状窒化ホウ素、15μm)
アセチルセルロース :10重量部
エチルアルコール :50重量部
メチルイソブチルケトン :20重量部
【0106】
(混合防止インキ5組成物)
下記の組成の成分を配合して混合防止インキ5組成物を調製した。

酢酸コバルト(II) :1重量部
水 :70重量部
エタノール :30重量部
【0107】
(電気絶縁性−熱伝導性インキ4組成物)
下記の組成の成分を配合して電気絶縁性−熱伝導性インキ1組成物を調製した。

ウレタンアクリレート樹脂「紫光(登録商標)UV−7620EA」:30重量部
(日本合成化学工業株式会社製)
柔軟性のウレタンアクリレート樹脂
窒化ホウ素(グレードPТX15) :120重量部
(MОMENТIVE社、球状窒化ホウ素、15μm)
酢酸エチル :55重量部
メチルイソブチルケトン :15重量部
【0108】
(同時多層塗布)
電気絶縁性−熱伝導性インキ3を図1の1tのタンクに充填し、混合防止インキ5を2tのタンクに充填し、電気絶縁性−熱伝導性インキ4を3tのタンクに充填した。
さらに混合防止インキ5を4tのタンクに充填し、電気絶縁性−熱伝導性インキ3を5tのタンクに充填し、混合防止インキ5を6tのタンクに充填し、電気絶縁性−熱伝導性インキ4を7tのタンクに充填した。(4t、5t、6t、7tのタンク及び加圧ポンプ等付随する設備は図示せず。)
【0109】
実施例1と同様に、加圧ポンプ1から順番に加圧ポンプ7までタンク内のインキを送り出すと、あい隣り合う電気絶縁性−熱伝導性インキ3組成物のウレタンアクリレート樹脂とコバルトイオンがキレートを形成し、電気絶縁性−熱伝導性インキ3の液層と電気絶縁性−熱伝導性インキ4の液層が混合するのを妨げ、球状窒化ホウ素が沈降することを防止できた。
【0110】
このとき、水、エタノール混合溶媒に溶解した、酢酸コバルトはエチルアルコール、メチルイソブチルケトンに溶解したアセチルセルロースを介して電気絶縁性−熱伝導性インキ3の液層中には浸透して錯体を形成するが、酢酸エチル、メチルイソプチルケトンを溶剤とする電気絶縁性−熱伝導性インキ4の液層中には浸透しない。
【0111】
厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを図1の6のように、コーティングロール4に抱かせて搬送しながら、ダイコーティングユニットの斜面に沿って重力で落下してきた、液層が積み重なって混合が妨げられたたインキ液層をダイコーティングユニットの端から落下する時にポリエチレンテレフタレートフィルム6にすくい取って乾燥ゾーン5で乾燥した後に電子線で硬化させると、4層の窒化ホウ素の粒子が分散した絶縁性の放熱シートが製造される。各層の厚みは乾燥状態で50μmになるように調整し、全厚200μmとなるようにした。
【0112】
実施例5は熱伝導性の優れた窒化ホウ素の粒子が、フィルム面から垂直方向に並んだ垂直方向への熱伝導性の良好な放熱シートを得ることができる。これだけの厚みのシートを1回のコーティングで行うと、窒化ホウ素の粒子はフィルム面近くに沈積して、上層にはバインダーしかないという状態になり、垂直方向への熱伝導性は得ることができない。本製造方法では、各液層中に窒化ホウ素の粒子は保持されてフィルム面までは沈降しないので、垂直方向への熱伝導性の良好な放熱シートを得ることができる。
【0113】
<昇華転写記録受像シート>
昇華転写記録受像シートの製造例であるが、水系インキと水系インキの混合を防止するのに塩析を利用する方法である。
実施例6、昇華転写記録受像シートの製造方法:
(多孔層形成用インキ組成物)

アクリル系中空粒子 「ローぺイク(登録商標)HP−1055」 :100重量部
(ロームアンドハース 社製、)
ポリビニルアルコール(KH−11) :19重量部
「日本合成化学工業(株)製、平均重合度1000、15%溶液」
ヒドロキシエチルセルロース(SP500) :4重量部
(ダイセルファインケミカル社製)
水 :40重量部
【0114】
(混合防止インキ6組成物)

ポリスチレンスルホン酸ナトリウム :1重量部
(東ソー有機化学株式会社製、製品番号PS100)
塩化ナトリウム :5重量部
水 :100重量部
【0115】
(中間層形成用インキの組成物)

ポリエステル系ウレタン :50重量部
「大日本インキ化学工業(株)製、商品番号AP−40」
ポリビニルアルコール15%溶液(鹸化度88%) :33重量部
「日本合成化学工業(株)製、商品番号GL−05」
水 :15重量部
イソプロピルアルコール :15重量部
【0116】
(混合防止インキ7組成物)

酢酸ビニル樹脂「デンカサクノール(登録商標)SN09T」 :3重量部
(電気化学工業株式会社製)
メタノール :40重量部
メチルエチルケトン :40重量部
【0117】
(受像層形成用インキ組成物)

塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 :10重量部
(電気化学工業株式会社製、商品番号 ♯1000A)
アミノ変性シリコーン :0.5重量部
(信越化学工業株式会社製、商品番号X22−3050C)
エポキシ変性シリコーン :0.5重量部
(信越化学工業株式会社製、商品番号X22−3000E)
メチルエチルケトン :20重量部
トルエン :20重量部
【0118】
(同時多層塗布)
多孔層形成用インキを図1の1tのタンクに充填し、混合防止インキ5を2tのタンクに充填し、中間層形成用インキを3tのタンクに充填し、混合防止インキ7を4tのタンクに充填した。さらに受像層形成用インキを5tのタンクに充填した。(4t、5tのタンク、他加圧ポンプ等付随する設備は図示せず。)
【0119】
実施例1と同様に、加圧ポンプ1から順番に加圧ポンプ5までタンク内のインキを送り出すと、隣り合う多孔層形成用インキの液層と、混合防止インキ6の液層の界面では、多孔層形成用インキ液層中のポリビニルアルコールが混合防止インキ6の液層中の塩化ナトリウム溶液と接触して析出し、ヒドロキシエチルセルロースの溶解している領域を通って多孔層形成用インキ層中で析出反応が起きる。
【0120】
混合防止インキ6の液層と中間層形成用インキの液層の界面でも、同様の析出反応が生じるが中間層形成用インキ液層との接触領域に留まり、中間層形成用インキ層全体はゲル化されないが、多孔層形成用インキ液層と中間層形成用インキ液層の混合は妨げられる。
【0121】
混合防止インキ7の液層中の酢酸ビニル樹脂は、中間層形成用インキ液層中の溶媒に接触すると不溶化するため、中間層形成インキ液層と受像層形成インキ液層の混合が妨げられる。
【0122】
厚み100μmコート紙を図1の6のように、コーティングロール4に抱かせて搬送しながら、ダイコーターの斜面に沿って重力で落下してきた、液層が積み重なって混合が防止されたインキ液層をダイコーターの端から落下する時にコート紙6にすくい取って乾燥ゾーン5で乾燥される。
【0123】
実施例6の製造例は、水系インキと水系インキの接触に続いて、塩析の現象を利用してインキ液層全体を増粘することにより、両インキ液層の混合を妨げる方法である。また、水系インキ/水系インキ/水系インキ/有機溶剤インキ/有機溶剤インキの5層を同時にコーティングして、感熱昇華転写用の受像紙を製造する方法である。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の製造方法は、同時多層塗布の技術なので、例えば、基体上に1回の塗布で多層薄膜の積層体を得ることができ、生産工程時間を大幅に短縮し得る。また、複数回の塗布により生じる、ゴミの混入、インキパンの掃除、基体のロスなどを解消し得る。さらにインキ液層が増粘するため、塗布量の多い層も流動することなく塗布し得る。したがって、産業上の色々な製品の製造に利用され、製品のコストダウンや性能向上に広く利用し得る。
【符号の説明】
【0125】
1t:インキタンク
2t:インキタンク
3t:インキタンク
1p:加圧ポンプ
2p:加圧ポンプ
3p:加圧ポンプ
1:スリット
2:スリット
3:スリット
1s:インキ液層
2s:インキ液層
3s:インキ液層
4:コーティングロール
5:乾燥ゾーン
6:基体
11:ダイコーティングユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインキを同時に押出して複数のインキ液層を積み重ね、
その後、積み重ねられたインキ液層の積層構造を保持したまま基体に塗布した後、
インキ液層を乾燥し固定することにより、
基体上にインキの中の成分が層状に積層している積層体の製造方法であって、
インキ液層が積み重ねられた時に、隣り合うインキ液層のいずれか一方または両方のインキ液層が増粘して、インキ液層の積層構造を形成することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
インキ液層の増粘が、架橋反応、錯体形成反応、塩析反応、中和反応、不溶化反応のいずれかの反応で生じることを特徴とする請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
製造される積層体が、赤外線反射フィルム、昇華転写記録受像シート、反射防止フィルム、放熱シートのいずれかであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の積層体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−49022(P2013−49022A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188957(P2011−188957)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】