説明

積層体の評価方法

【課題】少なくともポリプロピレン系フィルムから構成される積層体であって、該ポリプロピレン系フィルムにあらかじめ添加された滑剤などが長期の時間経過や熱履歴を経た後も、積層体の印刷や製袋工程などの二次加工を安定して行う為の、添加剤の挙動を計測する評価方法を提供する。
【解決手段】滑剤などの添加剤を含むオレフィン系フィルムと接着剤と基材フィルムからなる積層体において、断面垂直方向での該添加剤の濃度分布を測定することで添加剤の挙動を予測して、事前に適性な加工条件を導き出すことを特徴とする積層体の評価方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装材料として用いられる積層体の性能を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、衣類、電子部品等の包装に広く利用される袋は、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、ヒートシール性、包装適性などにすぐれる数種類の層を積層し、その積層体を袋状にすることで得られる。各層にはさらに、機能性を付与させるための添加剤を加える事が多く、添加剤としては、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤などが挙げられる。
【0003】
積層体の最内面層は、製袋工程で熱圧着(ヒートシール)して開口部を設けることで袋状に加工される。シーラント層として多く使用されるポリプロピレン系フィルムは、熱履歴によりフィルムの滑り性が悪くなることが知られている。フィルムの滑り性はフィルムにとって重要な性質であり、滑り性が悪くなると、成型、印刷、製袋、ラミネート加工などの二次加工や包装工程などにおいてトラブル発生の原因となっている。
【0004】
そのため、ポリプロピレン系フィルムの滑り性を改善する方法として、脂肪酸アミドを滑剤として加える事が多い。ポリプロピレン系フィルムに添加された滑剤の一部はブリード現象によりシーラント層表層に析出することによりフィルムに滑り性を持たせている。
【0005】
フィルムの滑り性が不適切だと、積層体を袋状に加工する製袋工程でのシール幅のすれや印刷柄のずれといった問題を起こす。また、電子部品用の外装材などでは製袋工程まえに、内容物を収める空間を作るために冷間成型を行うが、このときのクラックの原因に繋がるなどの問題が起こる。
【0006】
また、積層体の構成によっては、ドライラミネート(接着剤を用いて常温付近でラミネートする)により複合化することで積層体を形成する場合もあり、このときシーラント層表面にブリードアウトしていた滑剤がシーラント層を移動して、接着剤層側にまで透過する可能性がある(特許文献1)。
【0007】
したがって、本来滑剤をシーラント層表層にブリードアウトさせたい適量が決まっているにもかかわらず、加熱処理条件や積層構造により、接着剤層に保持されてしまうことで、必要量以上の滑剤添加量を余儀なくされる事も考えられる。
【0008】
フィルム等に添加されている添加剤の量を測定する方法としては、従来からガスクロマトグラフ法が知られている。上記の方法では、溶媒による抽出により目的物質を全量抽出し定量的に評価する方法がとられている。
【0009】
しかし、前記ガスクロマトグラフ法ではシーラント層中および接着剤中及びその他の層中での深さ方向における滑剤の挙動を評価する事は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−334004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、積層体を構成するポリプロピレン系フィルムの添加剤(滑剤など)を適性に
ブリードアウトさせることにより、積層体の滑り性を確保して、印刷や製袋工程などの二次加工を安定して行える為の、添加剤の挙動を計測する評価方法を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、本発明の請求項1に係る発明は、少なくとも添加剤を含有するオレフィン系フィルムと基材フィルムとが、接着剤を介して貼り合わされてなる積層体の評価方法であって、該積層体の断面垂直方向での該添加剤の濃度分布を測定することを特徴とする積層体の評価方法である。
【0013】
本発明の請求項2に係る発明は、前記基材フィルムが延伸フィルムであり、その片面に金属薄膜または酸化物薄膜が施されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体の評価方法である。
【0014】
本発明の請求項3に係る発明は、前記積層体の測定用試料作製として、前記積層体を樹脂に埋包させ、その後、ウルトラミクロトームにより断面試料を作製することを特徴とする請求項1または2に記載の積層体の評価方法である。
【0015】
本発明の請求項4に係る発明は、前記積層体の測定手段として、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体の評価方法である。
【0016】
本発明の請求項5に係る発明は、前記添加剤が脂肪酸アミドの滑剤であって、正イオンマススペクトル内のプリカーサーイオンのピークを評価対象とすることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の積層体の評価方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、積層体のもっとも最適な機能性添加剤の添加条件を選定するための評価が可能となる。例えば、積層体の保存条件によっては、樹脂及び高分子フィルム中に練りこまれている添加剤が樹脂中またはフィルム中を移動し偏在する事が考えられる。このような場合、本発明の評価方法を用いることにより、例えばフィルム中とフィルム表裏の滑剤量を比較する事で、ブリード現象が顕著に現れているなどの現象を把握する事が出来る。またさらには、シーラント層に隣接した層として接着剤層を設けている場合には、シーラント中の滑剤が接着剤中に多く移行している場合の評価ができるだけでなく、改善のために層構成を変更した場合には、変更後の構成で上記のような移行の問題が解消できているかどうかの判断も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、前記課題に取り組み検討した結果、光硬化性及び熱硬化性樹脂や、簡易的な接着剤中に対象となる積層体を包埋させたのちブロック体を作製、その後ウルトラミクロトームなどで断面だしを実施、断面だしした面について、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析装置)を用いて添加剤の存在を最も顕著に特徴付けるプリカーサーイオンに着目し測定することにより、該積層体の断面垂直方向での該添加剤の挙動を視覚的に、且つ、該添加剤の濃度分布を半定量的に捉えることの出来る評価方法を見いだした。
【0019】
以下に本発明を詳しく説明する。
対象となる積層体が、高分子膜および金属薄膜及び酸化物薄膜の積層体である場合、評価対対象となる積層体が、高分子膜および金属薄膜及び酸化物薄膜の積層体である場合、評価対象となる添加剤が添加されている膜がいずれであるかによって、包埋材料の硬度を極力それに近いものとするのが好ましい。
【0020】
積層体を包埋したブロック体は、ミクロトームにより積層方向に対して垂直に削り落とされていくため、フィルムを包埋する際には、斜めになったりよれたりしないよう、水平に包埋するのが好ましい。測定装置TOF−SIMSの能力が非常に高感度であるために、隣接する層を切削しているナイフが通った後で注目している層を切削してしまうと、注目している層の上に汚染物としての影響が残ってしまう可能性がある。
【0021】
包埋樹脂の影響も同様に受ける可能性があるため、切削方向に対して積層体上下に樹脂の領域を極力減らすようにトリミングするのが好ましい。
【0022】
さらに切削用のナイフに関しては、可能であれば最後の面出しの過程でヘキサンなどの低極性溶媒を使用し軽くクリーニングを行いとなお良い。シリコーン系の汚染を防ぐ事が出来る。
【0023】
積層体としては、高分子膜、樹脂膜、金属薄膜及び酸化物薄膜が2層以上積層された多層構造になっており、各膜厚は少なくとも1μm以上の厚みを備えている事が望ましい。TOF−SIMSの空間分解能を実質的に考慮すると、1μm以下のものについては、有効なデータを見込めない。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明の具体的な事例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
<実施例1>
試料として、PPにあらかじめエルカ酸アミド(滑剤)が添加され、且つ、その初期添加量が不明の下記積層体を用いた。なお、カッコ内は各層の膜厚を示す。
積層体:PP(30μm)/接着剤/Al薄膜(40μm)/ONy(30μm)
上記積層体を用いて包装体を形成し、その成型工程において滑り性および成型性ともに良好であった積層体を試料1とし、成形工程においてクラックが発生した積層体を試料2とした。
【0026】
次に、前記資料1および資料2の積層体用いて、その滑剤の挙動について以下の方法にて評価を行った。
【0027】
まず、試料1および2の積層体を2mm×5mmの短冊に切り出し、光硬化樹脂(日本電子データム社製、商品名「D−800」)にて包埋した。但し、滑剤のブリード挙動把握のために最表面も測定する必要から、積層体の表裏(PP面、ONy面)については包埋させずむき出しとした。
【0028】
次に、積層体を包埋させた樹脂ブロック体を、トリミング、断面出しして、TOF−SIMS測定用フォルダに固定した。
【0029】
次に、正イオンマススペクトルを測定し、m/z 338のエルカ酸アミドプリカーサーイオンのピーク強度比を求めた。ピーク強度比は、PP最表面、PP層中、ONy層中、ONy最表面について、(エルカ酸アミドピークカウント数÷総イオンカウント×100)により求めた。算出結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から、エルカ酸アミド(滑剤)の存在比はPP最表面のほうがPP層中よりも高い
ことから、エルカ酸アミド(滑剤)がブリードアウト(表層へ移行)している事が分かった。しかしながら、試料1と2におけるPP最表面でのピーク強度に著しい差がないことから、成型性に影響を及ぼしているのは、PPへの滑剤添加量の問題ではなく、ONy最表面でのエルカ酸アミド(滑剤)の存在比が成型性に大きく影響を及ぼす事がわかった。
【0032】
<実施例2>
接着剤の違いによる滑剤の移行性を評価する目的で、試料として、以下の構成の2種類の積層体を用いた。
積層体:PP(30μm)/接着剤(2μm)/基材
PP(30μm):エルカ酸アミド(滑剤)が添加されているが添加量は不明
【0033】
上記積層体を用いて包装体を形成した。接着剤Aを用いた積層体は、製袋工程において滑り性および成型性ともに良好であった。一方、接着剤Bを用いた積層体は、製袋工程において接着剤層の密着性不良が生じた。
【0034】
次に、接着剤Aを用いた積層体および接着剤Bを用いた積層体を、実施例1と同様にそれぞれの断面出し試料3および4を作製、測定して、PP最表面及び接着剤中におけるエルカ酸アミド(滑剤)のピーク強度比を算出した。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2から、接着剤の種類によりエルカ酸アミド(滑剤)の移行性が大きく影響を受けることがわかった。また、本発明の方法により、包装材料に用いる積層体の断面垂直方向での滑剤の濃度分布を測定することで、該積層体の製袋工程における成形性や品質に関する情報を予測することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも添加剤を含有するオレフィン系フィルムと基材フィルムとが、接着剤を介して貼り合わされてなる積層体の評価方法であって、該積層体の断面垂直方向での該添加剤の濃度分布を測定することを特徴とする積層体の評価方法。
【請求項2】
前記基材フィルムが延伸フィルムであり、その片面に金属薄膜または酸化物薄膜が施されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体の評価方法。
【請求項3】
前記積層体の測定用試料作製として、前記積層体を樹脂に埋包させ、その後、ウルトラミクロトームにより断面試料を作製することを特徴とする請求項1または2に記載の積層体の評価方法。
【請求項4】
前記積層体の測定手段として、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体の評価方法。
【請求項5】
前記添加剤が脂肪酸アミドの滑剤であって、正イオンマススペクトル内のプリカーサーイオンのピークを評価対象とすることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の積層体の評価方法。