積層体及びその成形方法
【課題】
コンポスト中で早期に分解する生分解性を有し、また加工適性に優れており、更に成形体として十分な耐熱性を有しているポリ乳酸の延伸フィルムとデンプン発泡層からなる積層体及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】
デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムからなる積層体に関する。
また、デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが、当該ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの融点より低い温度で溶融可能な生分解性プラスチックを介して積層一体化されていることを特徴とする積層体に関する。
コンポスト中で早期に分解する生分解性を有し、また加工適性に優れており、更に成形体として十分な耐熱性を有しているポリ乳酸の延伸フィルムとデンプン発泡層からなる積層体及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】
デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムからなる積層体に関する。
また、デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが、当該ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの融点より低い温度で溶融可能な生分解性プラスチックを介して積層一体化されていることを特徴とする積層体に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプンを主原料とし、生分解性を有する発泡成形品に関する。さらに本発明は生分解性の食器、成形緩衝材、使い捨ての各種容器などに利用される生分解性の積層体であって、耐熱性の優れた表皮層を有するに積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
デンプンからなる発泡層とその表面の生分解性の被覆フィルムからなる積層体からなる容器は既に公知であり、使用後には廃棄される食器、成形緩衝材、包装材などの用途が知られている(特許文献1)。
このよう積層体の表面に用いられる被覆フィルムは、食器などの用途にあっては、非通水性、非吸収性の役割を果たすものであり、従来から生分解性のフィルムが用いられている。
例えば、上記の特許文献1には、被覆フィルムは発泡成形品の表面に貼り付けた後に耐水性、好ましくはガスバリア性などを発揮できる材料であれば特に限定されないとの開示があり、具体的には、3−ヒドロキシ酪酸−3−ヒドロキシ吉草酸共重合体、ポリ−p−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PLC)、酢酸セルロース系(PH)重合体、ポリエチレンサクシネート(PESu)、ポリエステルアミド、変性ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、マタービー(登録商標、イタリア・ノバモント社:デンプンを主成分とし、生分解性を有するポリビニルアルコール系樹脂や脂肪族ポリエステル系樹脂などを副成分としている)、セルロース・キトサン複合物などが開示されている。
しかし、これらのポリマーは、融点が低く、成形性が悪い上に、成形品として熱湯及び電子レンジに対応した耐熱性が得られない。
また芳香族・脂肪族ポリエステル(登録商標 Dupont社 バイオマックス)では耐熱性は改善するものの、コンポスト雰囲気下での生分解性速度が遅いため、本来の目的である成形品の堆肥循環に時間がかかり不適である。
これらに開示されている生分解性のポリマーは、水蒸気発泡成形する際の加熱処理の温度まで加熱されると、その剛性を維持することができず、変形したり凹凸を生じてしまい、商品価値の高い成形品を得ることは困難であった。
【特許文献1】WO2002/022353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、コンポスト中で早期に分解する生分解性を有し、また加工適性に優れており、更に成形体として十分な耐熱性を有しているポリ乳酸の延伸フィルムとデンプン発泡層からなる積層体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明は、デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムからなる積層体に関する。
また、本発明は、デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが、当該ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの融点より低い温度で溶融可能な生分解性プラスチックを介して積層一体化されていることを特徴とする積層体に関する。
さらに、このような積層体の製造方法の発明として、予め、デンプンまたはその誘導体からなる発泡層を成形した後、その表面にステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを積層することからなる積層体の製造方法がある。
また、他の製造方法の発明として、デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの表面に接するように積層し、積層されたスラリー状またはドウ状の成形用原料を発泡させることからなる積層体の製造方法がある。
この製造方法においては、デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を水蒸気発泡成形して所定形状の発泡層を成形すると共に、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを加熱軟化させ、上記の発泡層に圧着させることが好適である。
さらに、この製造方法においては、成形型の中で、水蒸気発泡成形して、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが成形型の型締めにより上記のフィルムを発泡層に圧着一体化させることが好適である。
本発明の製造方法の他の好適な態様には、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが、さらに内部に成形用原料を収容可能とするように袋状に加工されていることを特徴とする積層体の製造方法がある。
【発明の効果】
【0005】
本発明の積層体は、その表面にステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルム、特に延伸フィルムが用いられており、積層体全体が生分解性であると共に、耐熱性にも優れているので、熱湯や電子レンジに対応する種々の食器、包装容器としての使用が可能である。
さらに、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムは、ポリ−L−乳酸のフィルムの成形に比べ、その融点が高いため高温下で高速成形が可能である。
また、従来のポリ乳酸二軸延伸フィルムの使用可能温度が140℃までであるのに対し、本発明で用いられるステレオコンプレックス構造からなるポリ乳酸のフィルム、好ましくは延伸フィルムは180℃まで使用可能である。さらに、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルム、好適には延伸フィルムは、植物由来原料からなるので、生分解性であり、しかもポリブチレンサクシネート、ポリブチルテレフタレートのような石油系の生分解性樹脂に比べて50〜60℃のコンポスト雰囲気下での生分解性速度が非常に速いという長所もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の積層体は、デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムからなる。
発泡層
デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層は、デンプンまたはその誘導体に水等を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を調製し、これを水蒸気発泡させることにより成形されことが一般的である。発泡層の厚さは、3mmから10cm程度が一般的である。
本発明で用いられるデンプンとしては、特に限定されるものではない。たとえば、馬鈴薯、トウモロコシ(コーン)、タピオカ等から容易に得られるデンプンを用いることができる。これらデンプンは、一種でも二種以上をを併用してもよい。
また、デンプンの誘導体には、生分解性を阻害しない範囲でデンプンを修飾したものを指し、たとえばα化デンプン、架橋デンプン、変性デンプンなどが挙げられ、2種類以上を併用したり、デンプンと併用してもよい。
このような成形用原料には、デンプンまたはその誘導体以外に、各種添加剤、例えば、デンプンより安価である増量剤をはじめ、強度調整剤、可塑剤、乳化剤、安定剤、離型剤、均質性調整剤、保湿剤、ハンドリング調整剤、膨化剤、着色剤などを配合することが行われる。
そして、デンプンおよび及びその誘導体に対して増量剤は、等重量未満の範囲内で配合することが行われる。それ以外の添加剤はデンプンと増量剤との合計を100重量部として、30重量部以下とすることが一般的である。
本発明に用いられる発泡層は、これらデンプンまたはその誘導体に添加剤を混合し、さらに水を混合してスラリー状またはドウ状になったものを、加熱して水蒸気発泡させて得ることができる。
なお、スラリ−状とは、デンプンに水を加えた状態で十分な流動性を有している状態であり、デンプンは水に溶解している必要はなく、懸濁液に近い状態となっていればよい。ドウ状とは、上記スラリー状よりも流動性が低い状態で、半固形に近い状態とをいう。
一般にこのような状態とするため、デンプンまたは添加剤、添加剤および混合した水を含めた成形用原料を100重量部とした場合に、水の割合を20ないし70重郎部とすることが一般的である。
発泡層の形状は、用途に応じて水蒸気成形の際に、種々の形状に成形される。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルム
本発明の積層体に用いられるステレオコンプレックス構造のポリ乳酸は、一般的にその融点が210℃から220℃のポリマーである。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムは、必ずしもステレオコンプレックス構造のポリ乳酸のみから構成される必要はなく、以下に説明する測定方法により規定される範囲でステレオコンプレックス構造を有していれば、従来のポリ乳酸(ポリ-L-乳酸)等との組成物であってもよい。
このようなステレオコンプレックス構造のポリ乳酸あるいはステレオコンプレックス構造のポリ乳酸と従来のポリ乳酸(ポリ-L-乳酸)との組成物は、ポリ−L−乳酸(PLLA)とポリ−D−乳酸(PDLA)を種々の方法で混合して製造することができる。中でも、PLLAとPDLAを溶融混合する方法、特に強混練する方法が効率がよく、大量生産に適している。
以下に、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸の製造に用いるPLLA、PDLAについて説明する。
ポリ−L−乳酸
本発明のステレオコンプレックスのポリ乳酸の製造に用いられるポリ−L−乳酸(PLLA)は、L−乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。L−乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、後述のポリ−D−乳酸(PDLA)と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物を延伸して得られる延伸フィルムの耐熱性が劣る虞がある。
PLLAの分子量は後述のポリ−D−乳酸と混合したポリ乳酸系組成物がフィルムなどの層として形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6千ないし300万、好ましくは6千ないし200万の範囲にあるポリ−L乳酸が好適である。重量平均分子量が6千未満のものは得られる延伸フィルムの強度が劣る虞がある。一方、300万を越えるものは溶融粘度が大きくフィルム加工性が劣る虞がある。
ポリ−D−乳酸
本発明のステレオコンプレックスのポリ乳酸の製造に用いられるポリ−D−乳酸(PDLA)は、D−乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。D−乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、前述のポリ−L−乳酸と溶融混練して得られるポリ乳酸の組成物を延伸して得られる延伸フィルムの耐熱性が劣る虞がある。
PDLAの分子量は前述のPLLAと混合したポリ乳酸の組成物がフィルムなどの層として形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6千ないし300万、好ましくは6千ないし200万の範囲にあるポリ−D乳酸が好適である。重量平均分子量が6千未満のものは得られる延伸フィルムの強度が劣る虞がある。一方、300万を越えるものは溶融粘度が大きくフィルム加工性が劣る虞がある。
本発明においてPLLA及びPDLAには、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の他の共重合成分、例えば、多価カルボン酸若しくはそのエステル、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類等を共重合させておいてもよい。
また、本発明に係わるPLLA及びPDLAには、それぞれD−乳酸若しくはL−乳酸を前記範囲以下であれば少量含まれていてもよい。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸
本発明に用いられるステレオコンプレックス構造のポリ乳酸は、前記PLLAと前記PDLAから調製され、一般には前記PLLAを25〜75重量部、好ましくは35〜65重量部、より好ましくは45〜55重量部、特に好ましくは47〜53重量部及びPDLAを75〜25重量部、好ましくは65〜35重量部、より好ましくは55〜45重量部、特に好ましくは53〜47重量部(PLLA+PDLA=100重量部)を混合することに調製することができる。
このような混合の際に、溶融混合を行い、引き続きフィルム成形、中でも延伸延伸フィルム成形を行うことにより、α晶の結晶体の量が少なく、または含まなくなるので、ステレオコンプレックス構造の割合が高くなり、耐熱性にも優れたものとなる。また、前記PLLAと前記PDLAの量を47〜53重量部及び53〜47重量部とほぼ等量とすることにより、形成されるステレオコンプレックス構造の量が増すので、耐熱性に優れる。
溶融混合は、230〜260℃で二軸押出機、二軸混練機、バンバリーミキサー、プラストミル等を用いて行われる。溶融混合時間は、用いる溶融混練機にもよるが、通常、10分間以上であればよい。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムまたはシートの成形は上記で得られるステレオコンプレックス構造のポリ乳酸から直接フィルム、シート成形を行ってもよく、また、予め、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるペレット等を調製した後、これを溶融押出してフィルム、シートに成形してもよい。
本発明では、ステレオコンプレックスのポリ乳酸のフィルムは、延伸フィルムであることが好適である。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムの製造方法
延伸フィルムは、前記ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸の組成物を用いて、押出成形して得られるフィルムあるいはシートを、好ましくは一方向に2倍以上、より好ましくは2〜12倍、さらに好ましくは3〜6倍延伸することにより、耐熱性、透明性に優れる延伸フィルム(一軸延伸フィルム)が得られる。延伸倍率の上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、12倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。
また、押出成形して得られるフィルムあるいはシートを、逐次二軸延伸、同時二軸延伸する方法がある。延伸は、好ましくは縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上、より好ましくは縦方向に2〜7倍及び横方向に2〜7倍、さらに好ましくは縦方向に2.5〜5倍及び横方向に2.5〜5倍延伸することにより、耐熱性、透明性に優れる延伸フィルム(二軸延伸フィルム)が得られる。延伸倍率の上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、7倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。
また良好に延伸できる範囲では延伸倍率が高いほど、強く配向するため得られるフィルムの剛性及び耐熱性が上がる傾向にある。
更に2軸延伸はMD→TD→MDと2段階に行うことで特にMD方向の配向度を上げ、MD方向の剛性、耐熱性を高めても良い。当然その逆にTD方向に2段階に延伸しても良い。
このようにして得られたステレオコンプレックス構造からなるフィルムは、DSC測定において、当該フィルムを250℃で10分融解させた後に降温した際(第1回降温時)の発熱量(ΔHc)が好ましくは20J/g以上である熱特性を有することが望ましい。
さらに、本発明に用いられるフィルムは、そのDSCの第2回昇温時の測定(250℃で10分経た後に10℃/分で降温を行い、0℃から再度10℃/分で昇温)において得られたDSC曲線の150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク10)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク20)のピーク比(ピーク10/ピーク20)が好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下であるという熱特性を有することが望ましい。これは、このフィルムがステレオコンプレックス構造を選択的に形成しているためと考えられる。
ピーク比(ピーク10/ピーク20)が0.5より大きいと、結晶化後にPLLA、PDLA単体結晶の形成量が大きく、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とが十分に混練されていない虞がある。
ピーク比(ピーク10/ピーク20)が0.5より大きいフィルムは結晶化後のα晶(PLLAあるいはPDLAの単独結晶)の形成量が大きいため、延伸しても耐熱性に劣る虞がある。
また、本発明に用いられるフィルムは、DSCの第2回昇温時における205〜240℃の吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)が35J/g以上であることが好ましい。
本発明に用いられるフィルムは、DSC(示差走査熱量計)として、ティー・エイ・インスツルメント社製 Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K 7121及びJIS K 7122に準拠して求めた。なお、フィルムの熱融解特性は、降温時と第2回昇温時における特性を求めた。
本発明に用いられるフィルムは、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸の重量平均分子量が、いずれも6千から300万の範囲内であり、かつ、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸のいずれか一方の重量平均分子量が3万から200万であることが一般的である。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムの厚さは、通常、5〜500μm、好ましくは20〜200μmの範囲にある。
本発明におけるポリ乳酸からなる延伸フィルムは、必要に応じて、他の層あるいは印刷層との密着性を向上させるために、プライマーコート、コロナ処理、プラズマ処理や火炎処理などを施しても良い。
ポリ乳酸からなる延伸フィルムは、用途に応じて、他の基材を積層させてもよい。他の基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン及びポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネート等のポリエステル、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル等の生分解性ポリエステル等の熱可塑性樹脂からなるフィルム、シート、カップ、トレー状物、あるいはその発泡体、若しくはガラス、金属、アルミニウム箔、紙等が挙げられる。熱可塑性樹脂からなるフィルムは無延伸であっても一軸あるいは二軸延伸フィルムであっても良い。勿論、基材は1層でも2層以上としても良い。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムは、延伸した後、好ましくは140〜220℃、より好ましくは150〜200℃で、好ましくは1秒以上、より好ましくは3〜60秒熱処理しておくと、更に耐熱性が改良される。
そして、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムは、完全に熱処理して結晶化させずないことで、その延展性を残すことができ、成形性に優れ、かつ電子レンジ対応できる十分な耐熱性を有した積層体を得ることができる。
積層体の製造方法
本発明の積層体の製造方法として、予め、デンプンまたはその誘導体からなる発泡層を成形した後、その表面にステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを積層することからなる積層体の製造方法がある。
フィルムを積層するにはステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムを加熱して加熱軟化させた後に、発泡層に圧着する方法がある。
また、他の製造方法として、デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの表面に接するように積層し、積層されたスラリー状またはドウ状の成形用原料を発泡させることからなる積層体の製造方法がある。
また、水蒸気発泡成形と同時に、フィルムを加熱して発泡層に圧着させる方法がある。
また、水蒸気発泡成形を成形型の中で行い、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが成形型の型締めにより発泡層に圧着一体化させることにより積層体を製造する方法ある。
さらに、発泡層とフィルムの間に熱融着性フィルムを介在させて、両者の密着をよりいっそう確実なものとする方法がある。
そのような熱融着性フィルムは、当該ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの融点より低い温度で溶融可能な生分解性プラスチックとすることが望ましい。
また、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを、内部に成形用原料を収容できるように袋状に加工し、上記の成形原料を収納して、水蒸気発泡と積層体の成形を同時に行う方法がある。
【実施例】
【0007】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
実施例、比較例及び参考例で使用したポリ乳酸は次の通りである。
(イ)ポリ−L−乳酸(PLLA―1):
D体量:1.9% Mw:22.2万(g/モル)、Tm:163℃。
(ロ)ポリ−L−乳酸(PURAC社製:PLLA―2):
D体量:0.0% Mw:39.5万(g/モル)、Tm:184℃。
Inherent viscosity(クロロホルム、25℃、0.1g/dl):3.10(dl/g)
本発明における測定方法は以下のとおりである。
(1)重量平均分子量(Mw)
試料20mgに、GPC溶離液10mlを加え、一晩静置後、手で緩やかに攪拌した。この溶液を、両親媒性0.45μm―PTFEフィルター(ADVANTEC DISMIC―25HP045AN)でろ過し、GPC試料溶液とした。
測定装置;Shodex GPC SYSTEM−21
解析装置;データ解析プログラム:SIC480データステーションII
検出器;示差屈折検出器(RI)
カラム;Shodex GPC K−G + K−806L + K−806L
カラム温度;40℃
溶離液;クロロホルム
流速;1.0ml/分
注入量;200μL
分子量校正;単分散ポリスチレン
(2)DSC測定
前記記載の方法で測定した。
(3)透明性
日本電色工業社製 ヘイズメーター300Aを用いてフィルムのヘイズ(HZ)及び平行光光線透過率(PT)を測定した。
(4)表面粗さ
株式会社小坂研究所製三次元表面粗さ測定器SE−30Kを用いてフィルム表面の中心面平均粗さ(SRa)を測定した。
(5)引張り試験
フィルムからMD方向及びTD方向に、夫々短冊状の試験片(長さ:50mm、幅:15mm)を採取して、引張り試験機(オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTC-1225)を使用し、チャック間距離:20mmあるいは100mm、クロスヘッドスピード:300mm/分(但し、ヤング率の測定は5mm/分で測定)で、引張り試験を行い、引張強さ(MPa)、伸び(%)及びヤング率(MPa)を求めた。
(6)耐熱性
熱分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製 熱・応用・歪測定装置 TMA/SS120)を用いてフィルムから幅4mmの試験片を切り出し、チャック間5mmで試験片に荷重0.25MPaを掛け、100℃(開始温度)から5℃/分で昇温し、各温度における試験片の変形(伸びまたは収縮)を測定した。
(7)広角X線測定
測定装置:X線回折装置(株式会社リガク製 自動X線回折装置RINT−2200)
X線ターゲット;Cu K―α
出力;40kV×40mA
回転角;4.0度/分
ステップ;0.02度
走査範囲;10〜30度
(8)透湿度(水蒸気透過度)
JIS Z0208 に準拠して求めた。フィルムを採取して、表面積が約100cm2の袋を作り、塩化カルシウムを適量入れた後、密封した。これを40℃、90%RH(相対湿度)の雰囲気中に3日間放置し、重量増加から透湿度(水蒸気透過度)を求めた。
(9)酸素透過度
JIS K7126に基づいて20℃湿度0%RH(相対湿度)の条件で、酸素透過測定器(MOCON社製、OXTRAN2/21 ML)を使用して測定した。
(10)フィルムの面配向度
アッベ屈折計 DR−M2型 (株)アタゴ社製 を用いて23℃で測定した
(11)発泡成形性
同時貼り付け法にて生分解性成形物を製造した場合において、得られた生分解性成形物における容器本体の発泡成形の状態を目視にて観察した。十分に水蒸気発泡成形されており、成形型に対応する所望の形状に成形されている状態を○、ある程度水蒸気発泡成形されているものの、その形状の一部が、成形型に対応する所望の形状に成形されていない状態を△、水蒸気発泡成形が十分されていない状態を×として評価した。
(12)成形後の被覆フィルムの状態
同時貼り付け法にて生分解性成形物を製造した場合において、成形直後の生分解性成形物における被覆フィルムの状態および金型の状態について目視で観察した。被覆フィルムが金型に付着せず、生分解性成形物の表面に十分に被覆されている状態を○、被覆フィルムは金型に付着していないが、生分解性成形物の表面の一部に被覆されておらず、隙間やホールなどが生じている状態を△、被覆フィルムが金型に付着しているか、被覆フィルムが金型に付着していなくても生分解性成形物の表面に被覆フィルムが十分に被覆されていない状態を×として評価した。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムの成形
参考例1
PLLA―1:PDLA―2を50:50(重量部)の比で計量し、二軸混練押出機を用い、溶融温度;250℃、混練時間;1分で、溶融混練してポリ乳酸の組成物を得た後、T−ダイシート成形機で、厚さ約300μmのポリ乳酸の組成物からなるシートを得た。かかるポリ乳酸の組成物の熱融解特性を前記記載の方法で測定した。
次に、当該シートをブルックナー社製二軸延伸機で、縦方向に延伸温度;65℃で3倍に、横方向に延伸温度;70℃で3倍に延伸し、テンター内で180℃で約40秒間のヒートセットを行い、ポリ乳酸からなる延伸フィルムを得た。得られたポリ乳酸からなる延伸フィルムの物性を前記記載の方法で測定した。測定結果を表1に、熱融解特性を図1及び図2に示す。
参考例2
参考例1で用いたPLLA―1及びPDLA―1に代えて、PLLA―1を単独で用い、二軸延伸フィルムのヒートセットを150℃で約40秒間行う以外は参考例1と同様に行い、PLLA―1のシート及び二軸延伸フィルムを得た。測定結果を表1に、熱融解特性を図3及び図4に示す。
【表1】
【0008】
表1から明らかなように、参考例1で得られたポリ乳酸の組成物からなる二軸延伸フィルムは、熱融解特性において、150〜200℃の範囲の吸熱ピーク(吸熱量)は僅かで、205〜240℃の範囲の吸熱ピークは大きく、吸熱量(ΔHm)も66.1J/gと多く、降温した際の発熱量(ΔHc)も49.7J/gある。また、二軸延伸フィルムの素材となるポリ乳酸の組成物(シート)の熱融解特性は、第1回降温時の発熱量(ΔHc)が20.3J/g、第2回昇温時には、150〜200℃の範囲には吸熱ピークはみられず、205〜240℃の範囲の吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)は51.0J/gである。さらに、参考例1で得られたポリ乳酸の組成物からなる二軸延伸フィルムは、透明性、耐熱性に優れ、透湿度及び酸素透過度も低く、バリア性能を有し、広角X線測定における回折ピークは2θが12、21、24度近辺にのみ有し、2θが17、19度近辺には回折ピークは現れなかった。また17、19度近辺のピーク面積(SPL)が全体の面積に対して0%と5%未満であり、2θが12、21、24度近辺のピーク面積(SSC)が全体の面積に対して51%と20%以上であった。
それに対し、参考例2で得られたPLLA―1からなる二軸延伸フィルムは、150〜200℃の範囲の吸熱ピークのみで、205〜240℃の範囲の吸熱ピークはなく、降温した際の発熱量(ΔHc)は0.4J/gと実施例1で得られたポリ乳酸の組成物からなる二軸延伸フィルムに比べ少ない。また、二軸延伸フィルムの素材となるPLLA―1(シート)の熱融解特性は、第1回降温時の発熱量(ΔHc)は0であり、第2回昇温時には、205〜240℃の範囲には吸熱ピークはみられず、150〜200℃の範囲のピークのみであり、その吸熱量(ΔHm)は32.1J/gである。さらに、比較例1で得られたPLLA―1からなる二軸延伸フィルムは、透明性は優れるものの、耐熱性、バリア性能に劣るとともに、広角X線測定における回折ピークは2θが17、19度近辺にのみ有し、2θが12、21、24度近辺には回折ピークは現れなかった。また17、19度近辺のピーク面積(SPL)が全体の面積に対して57%と5%を越えており、2θが12、21、24度近辺のピーク面積(SSC)が全体の面積に対して0%と20%未満であった。
成形用原料の調製
主原料である各種デンプン:=50:50(重量%)をミキサーで均一に混合し、スラリー状の成形用原料を調製した。
実施例1
成形原料を参考例1の延伸フィルムで挟み、容器形状の金型に入れて、高周波加熱(周波数13.6MHz)による内部加熱を用い、金型の温度が150℃となるように押し込み成形した。
得られた成形体は発泡成形性、成形後の被覆フィルムの状態ともに良好○であった。
また成形体内面にサラダ油を塗って電子レンジに入れて加温したが、容器の形状、フィルムの状況に変化はなかった。
そのため電子レンジ対応可能な耐熱性が確認できた。
比較例1
参考例1の延伸フィルムの代わりに参考例2の延伸フィルムを用いること以外は実施例1と同様に行った。
しかし延伸フィルムが軟質化して金型に貼り付いてしまい、成形体の評価には至らなかった。
以上のことから、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸の組成物からなり、DSC測定における150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下であることを特徴とするポリ乳酸の延伸フィルムの間に、デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を挟み、熱により水蒸気発泡させることによって成形することで植物由来原料からなる生分解性耐熱容器が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明の積層体はステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムとデンプンからなるため、植物由来であり、かつ十分な成形性、耐熱性を有している。
本発明の積層体は、たとえば、カップめん・カップうどん・カップ焼きそばなどインスタント食品の容器、外食サービスに用いられる1ウェイ方式の皿またはトレイ、あるいはスープやジュースなどの容器などといった食品用容器として好適に用いることができる。
また電離レンジに入れることが出来る耐熱性を有するので冷凍食品容器にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、参考例1の延伸フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図2】図2は、参考例1の延伸フィルムの第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図3】図3は、参考例1の延伸フィルムの第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図4】図4は、参考例2の延伸フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図5】図5は、参考例2の延伸フィルムの第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図6】図6は、参考例2の延伸フィルムの第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図7】図7は、参考例1のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図8】図8は、参考例1のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図9】図9は、参考例2のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図10】図10は、参考例2のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図11】図11は、参考例1の延伸フィルムの広角X線回折測定結果を示す図である。
【図12】図12は、参考例2の延伸フィルムの広角X線回折測定結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプンを主原料とし、生分解性を有する発泡成形品に関する。さらに本発明は生分解性の食器、成形緩衝材、使い捨ての各種容器などに利用される生分解性の積層体であって、耐熱性の優れた表皮層を有するに積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
デンプンからなる発泡層とその表面の生分解性の被覆フィルムからなる積層体からなる容器は既に公知であり、使用後には廃棄される食器、成形緩衝材、包装材などの用途が知られている(特許文献1)。
このよう積層体の表面に用いられる被覆フィルムは、食器などの用途にあっては、非通水性、非吸収性の役割を果たすものであり、従来から生分解性のフィルムが用いられている。
例えば、上記の特許文献1には、被覆フィルムは発泡成形品の表面に貼り付けた後に耐水性、好ましくはガスバリア性などを発揮できる材料であれば特に限定されないとの開示があり、具体的には、3−ヒドロキシ酪酸−3−ヒドロキシ吉草酸共重合体、ポリ−p−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PLC)、酢酸セルロース系(PH)重合体、ポリエチレンサクシネート(PESu)、ポリエステルアミド、変性ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、マタービー(登録商標、イタリア・ノバモント社:デンプンを主成分とし、生分解性を有するポリビニルアルコール系樹脂や脂肪族ポリエステル系樹脂などを副成分としている)、セルロース・キトサン複合物などが開示されている。
しかし、これらのポリマーは、融点が低く、成形性が悪い上に、成形品として熱湯及び電子レンジに対応した耐熱性が得られない。
また芳香族・脂肪族ポリエステル(登録商標 Dupont社 バイオマックス)では耐熱性は改善するものの、コンポスト雰囲気下での生分解性速度が遅いため、本来の目的である成形品の堆肥循環に時間がかかり不適である。
これらに開示されている生分解性のポリマーは、水蒸気発泡成形する際の加熱処理の温度まで加熱されると、その剛性を維持することができず、変形したり凹凸を生じてしまい、商品価値の高い成形品を得ることは困難であった。
【特許文献1】WO2002/022353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、コンポスト中で早期に分解する生分解性を有し、また加工適性に優れており、更に成形体として十分な耐熱性を有しているポリ乳酸の延伸フィルムとデンプン発泡層からなる積層体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明は、デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムからなる積層体に関する。
また、本発明は、デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが、当該ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの融点より低い温度で溶融可能な生分解性プラスチックを介して積層一体化されていることを特徴とする積層体に関する。
さらに、このような積層体の製造方法の発明として、予め、デンプンまたはその誘導体からなる発泡層を成形した後、その表面にステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを積層することからなる積層体の製造方法がある。
また、他の製造方法の発明として、デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの表面に接するように積層し、積層されたスラリー状またはドウ状の成形用原料を発泡させることからなる積層体の製造方法がある。
この製造方法においては、デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を水蒸気発泡成形して所定形状の発泡層を成形すると共に、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを加熱軟化させ、上記の発泡層に圧着させることが好適である。
さらに、この製造方法においては、成形型の中で、水蒸気発泡成形して、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが成形型の型締めにより上記のフィルムを発泡層に圧着一体化させることが好適である。
本発明の製造方法の他の好適な態様には、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが、さらに内部に成形用原料を収容可能とするように袋状に加工されていることを特徴とする積層体の製造方法がある。
【発明の効果】
【0005】
本発明の積層体は、その表面にステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルム、特に延伸フィルムが用いられており、積層体全体が生分解性であると共に、耐熱性にも優れているので、熱湯や電子レンジに対応する種々の食器、包装容器としての使用が可能である。
さらに、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムは、ポリ−L−乳酸のフィルムの成形に比べ、その融点が高いため高温下で高速成形が可能である。
また、従来のポリ乳酸二軸延伸フィルムの使用可能温度が140℃までであるのに対し、本発明で用いられるステレオコンプレックス構造からなるポリ乳酸のフィルム、好ましくは延伸フィルムは180℃まで使用可能である。さらに、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルム、好適には延伸フィルムは、植物由来原料からなるので、生分解性であり、しかもポリブチレンサクシネート、ポリブチルテレフタレートのような石油系の生分解性樹脂に比べて50〜60℃のコンポスト雰囲気下での生分解性速度が非常に速いという長所もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の積層体は、デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムからなる。
発泡層
デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層は、デンプンまたはその誘導体に水等を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を調製し、これを水蒸気発泡させることにより成形されことが一般的である。発泡層の厚さは、3mmから10cm程度が一般的である。
本発明で用いられるデンプンとしては、特に限定されるものではない。たとえば、馬鈴薯、トウモロコシ(コーン)、タピオカ等から容易に得られるデンプンを用いることができる。これらデンプンは、一種でも二種以上をを併用してもよい。
また、デンプンの誘導体には、生分解性を阻害しない範囲でデンプンを修飾したものを指し、たとえばα化デンプン、架橋デンプン、変性デンプンなどが挙げられ、2種類以上を併用したり、デンプンと併用してもよい。
このような成形用原料には、デンプンまたはその誘導体以外に、各種添加剤、例えば、デンプンより安価である増量剤をはじめ、強度調整剤、可塑剤、乳化剤、安定剤、離型剤、均質性調整剤、保湿剤、ハンドリング調整剤、膨化剤、着色剤などを配合することが行われる。
そして、デンプンおよび及びその誘導体に対して増量剤は、等重量未満の範囲内で配合することが行われる。それ以外の添加剤はデンプンと増量剤との合計を100重量部として、30重量部以下とすることが一般的である。
本発明に用いられる発泡層は、これらデンプンまたはその誘導体に添加剤を混合し、さらに水を混合してスラリー状またはドウ状になったものを、加熱して水蒸気発泡させて得ることができる。
なお、スラリ−状とは、デンプンに水を加えた状態で十分な流動性を有している状態であり、デンプンは水に溶解している必要はなく、懸濁液に近い状態となっていればよい。ドウ状とは、上記スラリー状よりも流動性が低い状態で、半固形に近い状態とをいう。
一般にこのような状態とするため、デンプンまたは添加剤、添加剤および混合した水を含めた成形用原料を100重量部とした場合に、水の割合を20ないし70重郎部とすることが一般的である。
発泡層の形状は、用途に応じて水蒸気成形の際に、種々の形状に成形される。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルム
本発明の積層体に用いられるステレオコンプレックス構造のポリ乳酸は、一般的にその融点が210℃から220℃のポリマーである。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムは、必ずしもステレオコンプレックス構造のポリ乳酸のみから構成される必要はなく、以下に説明する測定方法により規定される範囲でステレオコンプレックス構造を有していれば、従来のポリ乳酸(ポリ-L-乳酸)等との組成物であってもよい。
このようなステレオコンプレックス構造のポリ乳酸あるいはステレオコンプレックス構造のポリ乳酸と従来のポリ乳酸(ポリ-L-乳酸)との組成物は、ポリ−L−乳酸(PLLA)とポリ−D−乳酸(PDLA)を種々の方法で混合して製造することができる。中でも、PLLAとPDLAを溶融混合する方法、特に強混練する方法が効率がよく、大量生産に適している。
以下に、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸の製造に用いるPLLA、PDLAについて説明する。
ポリ−L−乳酸
本発明のステレオコンプレックスのポリ乳酸の製造に用いられるポリ−L−乳酸(PLLA)は、L−乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。L−乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、後述のポリ−D−乳酸(PDLA)と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物を延伸して得られる延伸フィルムの耐熱性が劣る虞がある。
PLLAの分子量は後述のポリ−D−乳酸と混合したポリ乳酸系組成物がフィルムなどの層として形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6千ないし300万、好ましくは6千ないし200万の範囲にあるポリ−L乳酸が好適である。重量平均分子量が6千未満のものは得られる延伸フィルムの強度が劣る虞がある。一方、300万を越えるものは溶融粘度が大きくフィルム加工性が劣る虞がある。
ポリ−D−乳酸
本発明のステレオコンプレックスのポリ乳酸の製造に用いられるポリ−D−乳酸(PDLA)は、D−乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。D−乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、前述のポリ−L−乳酸と溶融混練して得られるポリ乳酸の組成物を延伸して得られる延伸フィルムの耐熱性が劣る虞がある。
PDLAの分子量は前述のPLLAと混合したポリ乳酸の組成物がフィルムなどの層として形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6千ないし300万、好ましくは6千ないし200万の範囲にあるポリ−D乳酸が好適である。重量平均分子量が6千未満のものは得られる延伸フィルムの強度が劣る虞がある。一方、300万を越えるものは溶融粘度が大きくフィルム加工性が劣る虞がある。
本発明においてPLLA及びPDLAには、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の他の共重合成分、例えば、多価カルボン酸若しくはそのエステル、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類等を共重合させておいてもよい。
また、本発明に係わるPLLA及びPDLAには、それぞれD−乳酸若しくはL−乳酸を前記範囲以下であれば少量含まれていてもよい。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸
本発明に用いられるステレオコンプレックス構造のポリ乳酸は、前記PLLAと前記PDLAから調製され、一般には前記PLLAを25〜75重量部、好ましくは35〜65重量部、より好ましくは45〜55重量部、特に好ましくは47〜53重量部及びPDLAを75〜25重量部、好ましくは65〜35重量部、より好ましくは55〜45重量部、特に好ましくは53〜47重量部(PLLA+PDLA=100重量部)を混合することに調製することができる。
このような混合の際に、溶融混合を行い、引き続きフィルム成形、中でも延伸延伸フィルム成形を行うことにより、α晶の結晶体の量が少なく、または含まなくなるので、ステレオコンプレックス構造の割合が高くなり、耐熱性にも優れたものとなる。また、前記PLLAと前記PDLAの量を47〜53重量部及び53〜47重量部とほぼ等量とすることにより、形成されるステレオコンプレックス構造の量が増すので、耐熱性に優れる。
溶融混合は、230〜260℃で二軸押出機、二軸混練機、バンバリーミキサー、プラストミル等を用いて行われる。溶融混合時間は、用いる溶融混練機にもよるが、通常、10分間以上であればよい。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムまたはシートの成形は上記で得られるステレオコンプレックス構造のポリ乳酸から直接フィルム、シート成形を行ってもよく、また、予め、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるペレット等を調製した後、これを溶融押出してフィルム、シートに成形してもよい。
本発明では、ステレオコンプレックスのポリ乳酸のフィルムは、延伸フィルムであることが好適である。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムの製造方法
延伸フィルムは、前記ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸の組成物を用いて、押出成形して得られるフィルムあるいはシートを、好ましくは一方向に2倍以上、より好ましくは2〜12倍、さらに好ましくは3〜6倍延伸することにより、耐熱性、透明性に優れる延伸フィルム(一軸延伸フィルム)が得られる。延伸倍率の上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、12倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。
また、押出成形して得られるフィルムあるいはシートを、逐次二軸延伸、同時二軸延伸する方法がある。延伸は、好ましくは縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上、より好ましくは縦方向に2〜7倍及び横方向に2〜7倍、さらに好ましくは縦方向に2.5〜5倍及び横方向に2.5〜5倍延伸することにより、耐熱性、透明性に優れる延伸フィルム(二軸延伸フィルム)が得られる。延伸倍率の上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、7倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。
また良好に延伸できる範囲では延伸倍率が高いほど、強く配向するため得られるフィルムの剛性及び耐熱性が上がる傾向にある。
更に2軸延伸はMD→TD→MDと2段階に行うことで特にMD方向の配向度を上げ、MD方向の剛性、耐熱性を高めても良い。当然その逆にTD方向に2段階に延伸しても良い。
このようにして得られたステレオコンプレックス構造からなるフィルムは、DSC測定において、当該フィルムを250℃で10分融解させた後に降温した際(第1回降温時)の発熱量(ΔHc)が好ましくは20J/g以上である熱特性を有することが望ましい。
さらに、本発明に用いられるフィルムは、そのDSCの第2回昇温時の測定(250℃で10分経た後に10℃/分で降温を行い、0℃から再度10℃/分で昇温)において得られたDSC曲線の150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク10)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク20)のピーク比(ピーク10/ピーク20)が好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下であるという熱特性を有することが望ましい。これは、このフィルムがステレオコンプレックス構造を選択的に形成しているためと考えられる。
ピーク比(ピーク10/ピーク20)が0.5より大きいと、結晶化後にPLLA、PDLA単体結晶の形成量が大きく、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とが十分に混練されていない虞がある。
ピーク比(ピーク10/ピーク20)が0.5より大きいフィルムは結晶化後のα晶(PLLAあるいはPDLAの単独結晶)の形成量が大きいため、延伸しても耐熱性に劣る虞がある。
また、本発明に用いられるフィルムは、DSCの第2回昇温時における205〜240℃の吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)が35J/g以上であることが好ましい。
本発明に用いられるフィルムは、DSC(示差走査熱量計)として、ティー・エイ・インスツルメント社製 Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K 7121及びJIS K 7122に準拠して求めた。なお、フィルムの熱融解特性は、降温時と第2回昇温時における特性を求めた。
本発明に用いられるフィルムは、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸の重量平均分子量が、いずれも6千から300万の範囲内であり、かつ、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸のいずれか一方の重量平均分子量が3万から200万であることが一般的である。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムの厚さは、通常、5〜500μm、好ましくは20〜200μmの範囲にある。
本発明におけるポリ乳酸からなる延伸フィルムは、必要に応じて、他の層あるいは印刷層との密着性を向上させるために、プライマーコート、コロナ処理、プラズマ処理や火炎処理などを施しても良い。
ポリ乳酸からなる延伸フィルムは、用途に応じて、他の基材を積層させてもよい。他の基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン及びポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネート等のポリエステル、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル等の生分解性ポリエステル等の熱可塑性樹脂からなるフィルム、シート、カップ、トレー状物、あるいはその発泡体、若しくはガラス、金属、アルミニウム箔、紙等が挙げられる。熱可塑性樹脂からなるフィルムは無延伸であっても一軸あるいは二軸延伸フィルムであっても良い。勿論、基材は1層でも2層以上としても良い。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムは、延伸した後、好ましくは140〜220℃、より好ましくは150〜200℃で、好ましくは1秒以上、より好ましくは3〜60秒熱処理しておくと、更に耐熱性が改良される。
そして、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムは、完全に熱処理して結晶化させずないことで、その延展性を残すことができ、成形性に優れ、かつ電子レンジ対応できる十分な耐熱性を有した積層体を得ることができる。
積層体の製造方法
本発明の積層体の製造方法として、予め、デンプンまたはその誘導体からなる発泡層を成形した後、その表面にステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを積層することからなる積層体の製造方法がある。
フィルムを積層するにはステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムを加熱して加熱軟化させた後に、発泡層に圧着する方法がある。
また、他の製造方法として、デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの表面に接するように積層し、積層されたスラリー状またはドウ状の成形用原料を発泡させることからなる積層体の製造方法がある。
また、水蒸気発泡成形と同時に、フィルムを加熱して発泡層に圧着させる方法がある。
また、水蒸気発泡成形を成形型の中で行い、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが成形型の型締めにより発泡層に圧着一体化させることにより積層体を製造する方法ある。
さらに、発泡層とフィルムの間に熱融着性フィルムを介在させて、両者の密着をよりいっそう確実なものとする方法がある。
そのような熱融着性フィルムは、当該ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの融点より低い温度で溶融可能な生分解性プラスチックとすることが望ましい。
また、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを、内部に成形用原料を収容できるように袋状に加工し、上記の成形原料を収納して、水蒸気発泡と積層体の成形を同時に行う方法がある。
【実施例】
【0007】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
実施例、比較例及び参考例で使用したポリ乳酸は次の通りである。
(イ)ポリ−L−乳酸(PLLA―1):
D体量:1.9% Mw:22.2万(g/モル)、Tm:163℃。
(ロ)ポリ−L−乳酸(PURAC社製:PLLA―2):
D体量:0.0% Mw:39.5万(g/モル)、Tm:184℃。
Inherent viscosity(クロロホルム、25℃、0.1g/dl):3.10(dl/g)
本発明における測定方法は以下のとおりである。
(1)重量平均分子量(Mw)
試料20mgに、GPC溶離液10mlを加え、一晩静置後、手で緩やかに攪拌した。この溶液を、両親媒性0.45μm―PTFEフィルター(ADVANTEC DISMIC―25HP045AN)でろ過し、GPC試料溶液とした。
測定装置;Shodex GPC SYSTEM−21
解析装置;データ解析プログラム:SIC480データステーションII
検出器;示差屈折検出器(RI)
カラム;Shodex GPC K−G + K−806L + K−806L
カラム温度;40℃
溶離液;クロロホルム
流速;1.0ml/分
注入量;200μL
分子量校正;単分散ポリスチレン
(2)DSC測定
前記記載の方法で測定した。
(3)透明性
日本電色工業社製 ヘイズメーター300Aを用いてフィルムのヘイズ(HZ)及び平行光光線透過率(PT)を測定した。
(4)表面粗さ
株式会社小坂研究所製三次元表面粗さ測定器SE−30Kを用いてフィルム表面の中心面平均粗さ(SRa)を測定した。
(5)引張り試験
フィルムからMD方向及びTD方向に、夫々短冊状の試験片(長さ:50mm、幅:15mm)を採取して、引張り試験機(オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTC-1225)を使用し、チャック間距離:20mmあるいは100mm、クロスヘッドスピード:300mm/分(但し、ヤング率の測定は5mm/分で測定)で、引張り試験を行い、引張強さ(MPa)、伸び(%)及びヤング率(MPa)を求めた。
(6)耐熱性
熱分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製 熱・応用・歪測定装置 TMA/SS120)を用いてフィルムから幅4mmの試験片を切り出し、チャック間5mmで試験片に荷重0.25MPaを掛け、100℃(開始温度)から5℃/分で昇温し、各温度における試験片の変形(伸びまたは収縮)を測定した。
(7)広角X線測定
測定装置:X線回折装置(株式会社リガク製 自動X線回折装置RINT−2200)
X線ターゲット;Cu K―α
出力;40kV×40mA
回転角;4.0度/分
ステップ;0.02度
走査範囲;10〜30度
(8)透湿度(水蒸気透過度)
JIS Z0208 に準拠して求めた。フィルムを採取して、表面積が約100cm2の袋を作り、塩化カルシウムを適量入れた後、密封した。これを40℃、90%RH(相対湿度)の雰囲気中に3日間放置し、重量増加から透湿度(水蒸気透過度)を求めた。
(9)酸素透過度
JIS K7126に基づいて20℃湿度0%RH(相対湿度)の条件で、酸素透過測定器(MOCON社製、OXTRAN2/21 ML)を使用して測定した。
(10)フィルムの面配向度
アッベ屈折計 DR−M2型 (株)アタゴ社製 を用いて23℃で測定した
(11)発泡成形性
同時貼り付け法にて生分解性成形物を製造した場合において、得られた生分解性成形物における容器本体の発泡成形の状態を目視にて観察した。十分に水蒸気発泡成形されており、成形型に対応する所望の形状に成形されている状態を○、ある程度水蒸気発泡成形されているものの、その形状の一部が、成形型に対応する所望の形状に成形されていない状態を△、水蒸気発泡成形が十分されていない状態を×として評価した。
(12)成形後の被覆フィルムの状態
同時貼り付け法にて生分解性成形物を製造した場合において、成形直後の生分解性成形物における被覆フィルムの状態および金型の状態について目視で観察した。被覆フィルムが金型に付着せず、生分解性成形物の表面に十分に被覆されている状態を○、被覆フィルムは金型に付着していないが、生分解性成形物の表面の一部に被覆されておらず、隙間やホールなどが生じている状態を△、被覆フィルムが金型に付着しているか、被覆フィルムが金型に付着していなくても生分解性成形物の表面に被覆フィルムが十分に被覆されていない状態を×として評価した。
ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムの成形
参考例1
PLLA―1:PDLA―2を50:50(重量部)の比で計量し、二軸混練押出機を用い、溶融温度;250℃、混練時間;1分で、溶融混練してポリ乳酸の組成物を得た後、T−ダイシート成形機で、厚さ約300μmのポリ乳酸の組成物からなるシートを得た。かかるポリ乳酸の組成物の熱融解特性を前記記載の方法で測定した。
次に、当該シートをブルックナー社製二軸延伸機で、縦方向に延伸温度;65℃で3倍に、横方向に延伸温度;70℃で3倍に延伸し、テンター内で180℃で約40秒間のヒートセットを行い、ポリ乳酸からなる延伸フィルムを得た。得られたポリ乳酸からなる延伸フィルムの物性を前記記載の方法で測定した。測定結果を表1に、熱融解特性を図1及び図2に示す。
参考例2
参考例1で用いたPLLA―1及びPDLA―1に代えて、PLLA―1を単独で用い、二軸延伸フィルムのヒートセットを150℃で約40秒間行う以外は参考例1と同様に行い、PLLA―1のシート及び二軸延伸フィルムを得た。測定結果を表1に、熱融解特性を図3及び図4に示す。
【表1】
【0008】
表1から明らかなように、参考例1で得られたポリ乳酸の組成物からなる二軸延伸フィルムは、熱融解特性において、150〜200℃の範囲の吸熱ピーク(吸熱量)は僅かで、205〜240℃の範囲の吸熱ピークは大きく、吸熱量(ΔHm)も66.1J/gと多く、降温した際の発熱量(ΔHc)も49.7J/gある。また、二軸延伸フィルムの素材となるポリ乳酸の組成物(シート)の熱融解特性は、第1回降温時の発熱量(ΔHc)が20.3J/g、第2回昇温時には、150〜200℃の範囲には吸熱ピークはみられず、205〜240℃の範囲の吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)は51.0J/gである。さらに、参考例1で得られたポリ乳酸の組成物からなる二軸延伸フィルムは、透明性、耐熱性に優れ、透湿度及び酸素透過度も低く、バリア性能を有し、広角X線測定における回折ピークは2θが12、21、24度近辺にのみ有し、2θが17、19度近辺には回折ピークは現れなかった。また17、19度近辺のピーク面積(SPL)が全体の面積に対して0%と5%未満であり、2θが12、21、24度近辺のピーク面積(SSC)が全体の面積に対して51%と20%以上であった。
それに対し、参考例2で得られたPLLA―1からなる二軸延伸フィルムは、150〜200℃の範囲の吸熱ピークのみで、205〜240℃の範囲の吸熱ピークはなく、降温した際の発熱量(ΔHc)は0.4J/gと実施例1で得られたポリ乳酸の組成物からなる二軸延伸フィルムに比べ少ない。また、二軸延伸フィルムの素材となるPLLA―1(シート)の熱融解特性は、第1回降温時の発熱量(ΔHc)は0であり、第2回昇温時には、205〜240℃の範囲には吸熱ピークはみられず、150〜200℃の範囲のピークのみであり、その吸熱量(ΔHm)は32.1J/gである。さらに、比較例1で得られたPLLA―1からなる二軸延伸フィルムは、透明性は優れるものの、耐熱性、バリア性能に劣るとともに、広角X線測定における回折ピークは2θが17、19度近辺にのみ有し、2θが12、21、24度近辺には回折ピークは現れなかった。また17、19度近辺のピーク面積(SPL)が全体の面積に対して57%と5%を越えており、2θが12、21、24度近辺のピーク面積(SSC)が全体の面積に対して0%と20%未満であった。
成形用原料の調製
主原料である各種デンプン:=50:50(重量%)をミキサーで均一に混合し、スラリー状の成形用原料を調製した。
実施例1
成形原料を参考例1の延伸フィルムで挟み、容器形状の金型に入れて、高周波加熱(周波数13.6MHz)による内部加熱を用い、金型の温度が150℃となるように押し込み成形した。
得られた成形体は発泡成形性、成形後の被覆フィルムの状態ともに良好○であった。
また成形体内面にサラダ油を塗って電子レンジに入れて加温したが、容器の形状、フィルムの状況に変化はなかった。
そのため電子レンジ対応可能な耐熱性が確認できた。
比較例1
参考例1の延伸フィルムの代わりに参考例2の延伸フィルムを用いること以外は実施例1と同様に行った。
しかし延伸フィルムが軟質化して金型に貼り付いてしまい、成形体の評価には至らなかった。
以上のことから、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸の組成物からなり、DSC測定における150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下であることを特徴とするポリ乳酸の延伸フィルムの間に、デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を挟み、熱により水蒸気発泡させることによって成形することで植物由来原料からなる生分解性耐熱容器が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明の積層体はステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなる延伸フィルムとデンプンからなるため、植物由来であり、かつ十分な成形性、耐熱性を有している。
本発明の積層体は、たとえば、カップめん・カップうどん・カップ焼きそばなどインスタント食品の容器、外食サービスに用いられる1ウェイ方式の皿またはトレイ、あるいはスープやジュースなどの容器などといった食品用容器として好適に用いることができる。
また電離レンジに入れることが出来る耐熱性を有するので冷凍食品容器にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、参考例1の延伸フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図2】図2は、参考例1の延伸フィルムの第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図3】図3は、参考例1の延伸フィルムの第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図4】図4は、参考例2の延伸フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図5】図5は、参考例2の延伸フィルムの第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図6】図6は、参考例2の延伸フィルムの第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図7】図7は、参考例1のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図8】図8は、参考例1のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図9】図9は、参考例2のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図10】図10は、参考例2のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図11】図11は、参考例1の延伸フィルムの広角X線回折測定結果を示す図である。
【図12】図12は、参考例2の延伸フィルムの広角X線回折測定結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムからなる積層体。
【請求項2】
デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが、当該ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの融点より低い温度で溶融可能な生分解性プラスチックを介して積層一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
予め、デンプンまたはその誘導体からなる発泡層を成形した後、その表面にステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを積層することからなる積層体の製造方法。
【請求項4】
デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの表面に接するように積層し、積層されたスラリー状またはドウ状の成形用原料を発泡させることからなる積層体の製造方法。
【請求項5】
デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を水蒸気発泡成形して所定形状の発泡層を成形すると共に、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを加熱軟化させ、上記の発泡層に圧着させることを特徴とする請求項4に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
成形型の中で、水蒸気発泡成形して、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが成形型の型締めにより上記のフィルムを発泡層に圧着一体化させることを特徴とする積融項4または5に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの間に、当該ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの融点より低い温度で溶融可能な生分解性プラスチックを介して積層一体化させることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項1】
デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムからなる積層体。
【請求項2】
デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが、当該ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの融点より低い温度で溶融可能な生分解性プラスチックを介して積層一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
予め、デンプンまたはその誘導体からなる発泡層を成形した後、その表面にステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを積層することからなる積層体の製造方法。
【請求項4】
デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの表面に接するように積層し、積層されたスラリー状またはドウ状の成形用原料を発泡させることからなる積層体の製造方法。
【請求項5】
デンプンまたはその誘導体を主成分とし、これに水を混合して得られるスラリー状またはドウ状の成形用原料を水蒸気発泡成形して所定形状の発泡層を成形すると共に、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムを加熱軟化させ、上記の発泡層に圧着させることを特徴とする請求項4に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
成形型の中で、水蒸気発泡成形して、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムが成形型の型締めにより上記のフィルムを発泡層に圧着一体化させることを特徴とする積融項4または5に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
デンプンまたはその誘導体を主成分とする発泡層と、その表面に設けられたステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの間に、当該ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸からなるフィルムの融点より低い温度で溶融可能な生分解性プラスチックを介して積層一体化させることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−155397(P2010−155397A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335495(P2008−335495)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】
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