説明

積層体

【課題】 ビスフェノール−Aを主たる構造単位とするポリカーボネート樹脂を用いた場合でも、表面硬度、耐衝撃性、リターン性の全てに優れ、ディスプレイ表面保護パネルや採光建材に好適な積層体の提供。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂のジヒドロキシ化合物構造単位中の、特定のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が占める割合が30モル%以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂からなる樹脂層(A層)と、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを主たる構造単位とするポリカーボネート樹脂からなる樹脂層(B層)とを積層してなることを特徴とする積層体の作製。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート樹脂からなる積層体に関し、特には2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノール−Aとも言う)を主たる構造単位とするポリカーボネート樹脂では達成できない表面硬度と、アクリル樹脂またはアクリル樹脂を表層に配置してなる積層体では達成できない耐衝撃性や打ち抜き加工性とを兼備したディスプレイ表面保護パネル、カーポート、樹脂窓、防音壁などの採光建材に適した積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ表面保護パネルや採光建材の基材として、ガラス板に替わってビスフェノール−Aを主たる構造単位とするポリカーボネート樹脂が広く用いられている(特許文献1〜4参照)。これは耐衝撃性、耐熱性、低比重、廉価などに優れている。紫外〜近紫外波長領域で光吸収が起こることに由来して、屋外用途や長時間光源に曝される用途においては基材が紫外線を吸収し黄変劣化が進行するため、採光建材等屋外で使用する場合は、紫外線吸収剤を配合させ黄変劣化を遅らせる工夫がなされている。
【0003】
一方、メタクリル酸メチルを主たる構造単位とするアクリル樹脂も一部用いられる(特許文献5参照)。これは、表面硬度が高く、芳香族ポリカーボネート樹脂の様な光吸収が無いため光線透過性と耐候性に非常に優れている。
【0004】
さらに、近年は前記ポリカーボネート樹脂と前記アクリル樹脂とを積層体とし、表面硬度と耐衝撃性を兼備させる検討がなされている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−321993号公報
【特許文献2】特開2001−134196号公報
【特許文献3】特開2002−232542号公報
【特許文献4】特開2004−130540号公報
【特許文献5】特開2004−143365号公報
【特許文献6】特開2007−237700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記のビスフェノール−Aを主たる構造単位とするポリカーボネート樹脂は、表面硬度が低いため、頻繁に手が触れるため耐擦傷性が求められる、携帯機器用ディスプレイやタッチパネルディスプレイの表面保護パネルに用いることが困難であった。
【0007】
また、前記のメタクリル酸メチルを主たる構造単位とするアクリル樹脂は、耐衝撃性が非常に低く、打ち抜き加工時の歩留まりが低くなる傾向があった。また耐熱性が低いため根本的に日射などで高温雰囲気下に曝される用途では使用できなかった。
【0008】
さらに、特に最近は電気電子機器の筐体などで要求される様にディスプレイ基材の薄肉化が進んでおり、前記アクリル樹脂を基材、または積層体の表層に用いたディスプレイ表面保護パネルは、薄肉化が進むにつれアクリルの脆さが顕著になり耐衝撃性と打ち抜き加工性の要求特性を満足できなくなってきた。
【0009】
また、前記ポリカーボネート樹脂と前記アクリル樹脂とは、溶融混練しても非相溶性であり透明の溶融混合物を得ることが出来ない。即ち、透明積層体を共押出しにより製膜する場合、一般に厚さ精度のある中心付近を製品として切り出して、積層体の両端を溶融工程に戻してバージン材に混ぜて透明積層体を得ることにより、工程ロスを下げること(以下、リターンとも言う)が行われるのに対し、上記のように非相溶な組み合わせの共押出しを行う際にはリターンが行えず、工程ロスが大幅に増加してしまう。
【0010】
すなわち、従来の技術においては、ビスフェノール−Aを主たる構造単位とするポリカーボネート樹脂を用いた場合でも、表面硬度、耐衝撃性、リターン性の全てに優れ、ディスプレイ表面保護パネルや採光建材に好適な積層体を提供することは困難であった。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ビスフェノール−Aを主たる構造単位とするポリカーボネート樹脂を用いた場合でも、表面硬度、耐衝撃性、リターン性の全てに優れ、ディスプレイ表面保護パネルや採光建材に好適な積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定の構造単位を有するポリカーボネート樹脂と、ビスフェノール−Aを主たる構造単位とするポリカーボネート樹脂とを積層してなる積層体が、高い表面硬度を有し、総厚さが薄肉化しても耐衝撃性に優れ、打ち抜き加工も歩留まり良く可能で、且つリターン性にも優れる事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
なお、本発明において「主たる」あるいは「主成分とする」とは、当該部位における対象成分の比率が75モル%以上、好ましくは80モル%以上であることをいう。
【0014】
第1の発明によれば、ポリカーボネート樹脂のジヒドロキシ化合物構造単位中の、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が占める割合が30モル%以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂からなる樹脂層(A層)と、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを主たる構造単位とするポリカーボネート樹脂からなる樹脂層(B層)とを積層してなることを特徴とする積層体が提供される。
【0015】
【化1】

【0016】
(前記一般式(1)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、炭素数が1〜3個のアルキル基から選択され、各々のベンゼン環の水素原子と0〜2個置換している。また、Xは下記一般式(2)で表されるシクロアルキル基であり、nは4〜20の整数である。)
【0017】
【化2】

【0018】
第2の発明によれば、第1の発明において、前記Xが、1,1−シクロヘキシル基であることを特徴とする。
【0019】
第3の発明によれば、第2の発明において、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物が、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサンであることを特徴とする。
【0020】
第4の発明によれば、第1から第3のいずれかの発明において、前記B層の両面に前記A層を積層してなることを特徴とする。
【0021】
第5の発明によれば、第1から第4のいずれかの発明において、積層体の両表面のうち、少なくとも一方にハードコート層、反射防止層、防汚層から選ばれる機能付与層を1層以上設けてなることを特徴とする。
【0022】
第6の発明によれば、第1から第5のいずれかの発明において、さらに印刷層を有することを特徴とする。
【0023】
第7の発明によれば、第1から第6のいずれかの発明において、前記A層の厚さが30μm以上、100μm以下であることを特徴とする。
【0024】
第8の発明によれば、第1から第7のいずれかの発明において、前記積層体の総厚さが0.15mm以上、3mm以下であることを特徴とする。
【0025】
第9の発明によれば、第1から第8のいずれかの発明にかかる積層体を打ち抜き加工してなるディスプレイ表面保護パネルが提供される。
【0026】
第10の発明によれば、第1から第8のいずれかの発明にかかる積層体を加工してなる採光建材が提供される。
【0027】
第11の発明によれば、第1から第8のいずれかの発明にかかる積層体を熱成形してなる熱成形体が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明の積層体は、表面硬度と耐衝撃性に優れ、打ち抜き加工時の不具合が極めて少なく、リターン可能であって工程ロスを大幅に増大させるおそれが無い。このため携帯用ディスプレイやタッチパネルディスプレイ等の、耐擦傷性が取り分け求められるディスプレイの表面保護パネルとしても好適に用いることができ、採光建材用途においても、従来困難であった樹脂窓など頻繁に手が触れる用途へも使用範囲を拡大させることができる。更には熱成形時の絞り性や転写性も良好なため、熱成形してなる各種製品にも好適である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<A層を構成するポリカーボネート樹脂>
本発明におけるA層のポリカーボネート樹脂は、ホモポリマーまたはコポリマーの何れであってもよい。また直鎖構造または分岐構造を一部含んだ構造の何れであってもよい。
【0030】
一般にポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物として、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノール−Aとも言う)が広く用いられているが、ポリカーボネート樹脂の各種性能を高めるために、ジヒドロキシ化合物構造単位の一部を様々なジヒドロキシ化合物に置換してコポリマーとする検討がなされている。
例えば、ヒドロキノンまたはジヒドロキシビフェニル、これらのアルキル化誘導体やハロゲン化誘導体、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン等の、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル等の化合物、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン等の、アルキル化ビスフェノール誘導体、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の、ハロゲン化ビスフェノール誘導体等を挙げることができる。
【0031】
中でも1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類、およびこのアルキル化誘導体から選択されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、ポリカーボネート樹脂のジヒドロキシ化合物構造単位中の30モル%以上を占めると、効率的に硬度を上げることができ、且つ耐熱性が低下したり、着色したり、耐候性が低下したりする不具合が起こりにくいことを見出したことから、A層のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物構造単位中の、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が占める割合が30モル%以上であることが必須である。
【0032】
【化3】

【0033】
ここで、Xは下記一般式(2)で表されるシクロアルカン基である。
【0034】
【化4】

【0035】
前記シクロアルカン基は環構造が大きすぎると耐熱性が徐々に低下するため好ましくない。このため前記一般式(2)におけるnは4以上20以下であることが好ましく、重合安定性や原料価格等を考慮して4以上5以下であることがより好ましく、特にはn=5の1,1−シクロヘキシル基であることが好ましい。
【0036】
前記一般式(1)におけるR1およびR2は、Xと結合している炭素原子を基準にメタ位に結合したアルキル基であると、得られるポリカーボネート樹脂の硬度が最も効率的に上がる。しかし過剰に長いアルキル基であると、耐熱性が徐々に低下するため好ましくない。このため前記R1およびR2はそれぞれ独立に、炭素数が1〜3個のアルキル基から選択され、各々のベンゼン環の水素原子と0〜2個置換していることが好ましく、前記Xと結合している炭素原子を基準にメタ位に結合していることが好ましい。
【0037】
A層のポリカーボネート樹脂を構成する他のジヒドロキシ化合物には特段の制限は無いが、耐熱性を過度に低下させないこと、安定して前記必須成分と共重合できること、重合中または溶融加工中に着色しにくいこと、比較的安価であること等を考慮して、ビスフェノール−Aを用いることが好ましい。
【0038】
特段の付加的な要求性能を持たせる場合、例えば付加的に、電子線耐性を持たせるために構造の一部をハロゲン化させたジヒドロキシ化合物を使用したり、耐熱性を大幅に上げるためにビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド等の硫黄原子を導入したジヒドロキシ化合物を使用したりすることを妨げない。
【0039】
A層のポリカーボネート樹脂は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、ホスゲン法、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法の何れでも良い。例えばエステル交換法は、前記必須ジヒドロキシ化合物、前記他のジヒドロキシ化合物、炭酸ジエステル、塩基性触媒、塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、エステル交換反応を行う製造方法である。
【0040】
炭酸ジエステルの代表例は、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0041】
本発明の積層体を主に屋外で使用する場合、継続して白色光に曝される用途で使用する場合等は、商品寿命を加味して必要最低限の紫外線吸収剤を配合することができる。A層に配合する紫外線吸収剤は特に制限はないが、ビスフェノール−Aを主成分に用いた従来のポリカーボネート樹脂に通常用いられるものを好適に用いることができ、例えばチバ・ジャパン社の「チヌビン1577FF」などを挙げることができる。
【0042】
A層のポリカーボネート樹脂には任意の添加成分として、透明着色剤、ブルーイング剤、酸化防止剤、熱安定剤などを、本発明の本質を損なわない範囲で添加しても良い。
【0043】
A層の厚さは30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。A層の厚さが30μm以上であることにより、積層体の表面硬度を向上することが可能であるほか、A層に紫外線吸収剤を配合した場合に、基材側のB層に紫外線が容易に透過することを抑止できる。
また、A層の厚さの上限値は、特段の制限はないが、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。A層の厚さが100μm以下であることにより、表面硬度を維持しながら打ち抜き加工性や耐衝撃性を十分確保することができ、また積層体の薄肉軽量化を図ることもできる。
【0044】
A層は単層で製造した後に、後述するポリカーボネート樹脂層(B層)と積層しても良いが、工程の簡略化、歩留まり向上などの観点から、前記B層と共押出しして積層製膜する方法で製造することが好ましい。更に本発明のA層を構成するポリカーボネート樹脂とB層を構成するポリカーボネート樹脂とは、後述するように相溶性に優れるため、積層体の両端部を切断して中央部を製品とし、両端部をB層にリターンさせることで工程ロスを低減させることができる。なお前記A層を単層で製造する場合の製造方法は特に制限されるものではなく、Tダイキャスト法、カレンダー法などの公知の方法を用いることができる。
【0045】
A層のポリカーボネート樹脂は単層で製品にすると耐衝撃性が必ずしも十分ではないため、後述のB層と積層体構造とすることで、A層による硬度を発現させつつ、B層による耐衝撃性を兼備させることが本発明の本質と言える。よってA層とB層の積層体構造とすることは本発明の必須項目である。
【0046】
<B層を構成するポリカーボネート樹脂>
本発明におけるB層のポリカーボネート樹脂は、ホモポリマーまたはコポリマーの何れであってもよい。また直鎖構造または分岐構造を一部含んだ構造の何れであってもよい。
【0047】
B層のポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物は、ビスフェノール−Aを主成分としていればよく、前記例示した種々のジヒドロキシ化合物を付加的に用いてもよい。
【0048】
B層のポリカーボネート樹脂は、A層同様に種々の重合方法で製造することができる。粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常8,000以上30,000以下、好ましくは10,000以上25,000以下の範囲である。また還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.60g/dlに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃で測定され、通常、0.23dl/g以上0.72dl/g以下で、好ましくは0.27dl/g以上0.61dl/g以下の範囲内である。
【0049】
B層のポリカーボネート樹脂の溶融粘度を下げたり加工温度を下げたりして、製膜や延伸の加工性を改良したい場合は、前記B層のポリカーボネート樹脂と相溶性があり、即ち可視光透過性を維持するようなガラス転移温度が低い樹脂を前記ポリカーボネート樹脂に混合してもよい。例えばSK・ケミカル社の「スカイグリーンJ2303」や、イーストマン・ケミカル社の「イースター・コポリマー6763」などを挙げることができる。通常これら成分はB層を構成する樹脂全体のうち、0重量%以上30重量%以下の範囲で配合することが好ましい。なお、ここで言う可視光透過性とは、該層が無色透明と目視観察されることである。
【0050】
B層のポリカーボネート樹脂には、一般に用いられる各種の添加剤を発明の本質を損なわない範囲で添加しても良く、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、難燃剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、染顔料などが挙げられる。
【0051】
<本発明の積層体の製造方法>
A層とB層とを積層してなる本発明の積層体の製造方法は特に制限されるものではないが、より好適な方法は前述の通り両者を共押出しして製膜する方法である。具体的に説明すると、B層を構成する樹脂を供給する主押出機と、A層を構成する樹脂を供給する副押出機とを備え、設定温度を通常220℃以上300℃以下、好ましくは240℃以上290℃以下として溶融混練する。
【0052】
共押出しする方法としては、マルチマニホールド方式やフィードブロック方式など公知の方法を用いることができ、ダイ温度を通常220℃以上300℃以下、好ましくは240℃以上290℃以下とし、キャスト温度を通常100℃以上190℃以下、好ましくは100℃以上150℃以下として製膜する。ロール配置は縦型でも横型でもよい。
【0053】
本発明の積層体は、A層とB層を各々少なくとも一層積層してあれば、その構成は特に制限されるものではない。例えば、B層の両面にA層を積層し、A/B/A型2種3層の積層体としてもよい。この場合も両者を共押出しして製膜する方法で製造することが好ましい。該積層体は両面のA層厚さを揃えて中心対称構造にすると、環境反りや捻れのおそれを低減させることができるので好適である。
【0054】
本発明におけるA層を構成するポリカーボネート樹脂と、B層を構成するポリカーボネート樹脂とは、相溶性に優れていることを特徴としている。相溶性に優れているとは、前記A層を構成するポリカーボネート樹脂と、前記B層を構成するポリカーボネート樹脂とを溶融混練した樹脂組成物のガラス転移温度が単一であることとも言うことができる。前記2種類のポリカーボネート樹脂が相溶性に優れていることにより、前述のとおり本発明の積層体を、製造時におけるリターン性に優れた積層体とすることができる。
【0055】
樹脂組成物のガラス転移が単一であるとは、当該樹脂組成物について歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定(JIS K7198A法の動的粘弾性測定)により測定される損失正接(tanδ)の主分散のピークが1つ存在する、言い換えれば損失正接(tanδ)の極大値が1つ存在するという意味である。当該樹脂組成物のガラス転移温度が単一であることにより、得られる成形体が優れた透明性を実現できる。
【0056】
また、樹脂組成物のガラス転移温度が単一であることは、当該樹脂組成物について上記動的粘弾性測定において測定される損失弾性率(E”)の主分散のピークが1つ存在する、言い換えれば損失弾性率(E”)の極大値が1つ存在するものであるということもできる。
さらに、上記動的粘弾性測定のほか、示差走査熱量測定などによってもガラス転移温度が単一であることを確認することができる。具体的には、JIS K7121に準じて、加熱速度10℃/分で示差走査熱量計(DSC)を用いてガラス転移温度を測定した際に、ガラス転移温度を示す変曲点が1つだけ現れるものであるということもできる。
【0057】
一方定性的には、B層を構成するポリカーボネート樹脂にA層を構成するポリカーボネート樹脂を少量混合して溶融混練し、例えば射出成形によって作製した成形体が、白濁しているか否かを目視によって確認し、白濁が見られなければ、相溶性、すなわちリターン性に優れているものと評価することができる。この場合、作製した成形体のJIS K7105に基づき測定した全光線透過率は80%以上、ヘーズは5%以下であることが好ましい。
【0058】
<ハードコート処理とその方法>
本発明の積層体は、前記A層が従来のポリカーボネート樹脂より硬度が高いため、電気電子機器の小型表示窓やカーポート等の採光建材など、特段の表面硬度が要求されない用途の場合はそのまま各種用途に用いることができるが、携帯機器用ディスプレイやタッチパネルディスプレイの表面保護パネルや一般家屋用窓等の採光建材など、頻繁に手が触れるため特段の耐擦傷性が求められる用途の場合は、積層体におけるA層の表面にハードコート処理を施すことができる。
ハードコート処理の方法は一般に熱硬化又は紫外線硬化があり、熱硬化の場合はポリオルガノシロキサンや架橋型アクリルなどが好適に用いられる。紫外線硬化の場合は1官能又は多官能アクリレートモノマー又はオリゴマーなどを複数組み合わせ、これに光重合開始剤を硬化触媒として添加したものが好適に用いられる。このようなハードコート剤はアクリル樹脂用やポリカーボネート樹脂用として市販されているものがあり、硬度や取扱性などを考慮して適宜選択する。さらに必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、帯電防止剤、防曇剤などを適宜添加しても良い。
【0059】
積層体が非対称積層構造だったり前面側のみハードコート処理を施したりした結果、積層体が反ったり捻れたりして平板状に製品内に組み込むことが困難になる場合、背面側にもハードコート処理をしてこれを抑制することができる。こうすることで、積層体を取扱う際に背面側に意図せず傷を付けるおそれが少なくなる利点も有る。背面側ハードコート処理は、前面側のものと同様に行うことが好ましい。
【0060】
ハードコート処理を行う方法は、ディッピング、かけ流し、スプレー、ロールコータ、フローコータなどの他、押出製膜後にインラインでハードコート剤を基材上に連続で塗工して硬化させる方法でも良い。好ましくはインラインコート法であり、さらに好ましくは無溶媒系の紫外線硬化性ハードコート剤を用いたインラインコート法である。このように選択することで、工程の簡略化、溶媒を使用しないことによる環境負荷低減、溶媒揮発のためのエネルギーコスト低減、などの効果が見込まれる。
【0061】
ハードコート層の厚さは、下限としては硬化後で1μm以上、好ましくは2μm以上とするのが良い。このような下限値とすることで積層体の表面硬度を十分高めることができる。一方上限としては20μm以下、好ましくは15μm以下とするのが良い。このような上限値とすることで耐衝撃性や打ち抜き加工性などを低下させずに表面硬度を高めることができる。
【0062】
<反射防止層、防汚層>
また、本発明の積層体のA層の表面には、本発明の本質を損なわない範囲で反射防止層や防汚層を設けることもできる。これらの層を設けることで、特に屋外で使用する用途に本発明の積層体を用いた場合に、画像の視認性をより一層向上させることができる。
反射防止層、または防汚層は、各々の機能を持つ層をそれぞれ積層することによって設けてもよく、両方の機能を併せ持つ層を積層することによって設けても構わない。
【0063】
前記反射防止層は、反射防止機能を高める層であると同時に、耐磨耗性、帯電防止機能、撥水性の機能を高める層であって、従来公知の材料、例えば、無機物質(光学用フィラー)、バインダー樹脂、添加剤、溶剤などを配合させた液をコーティングして設けることができる。
【0064】
前記防汚層は防汚性を高める層であり、従来公知の材料、例えば、フッ素系シランカップリング剤などを用いることができる。
【0065】
前記反射防止層、または前記防汚層の積層方法は、前記ハードコート層と同様の方法でコーティングによって設けることができるが、これに限定されるものではなく、あらかじめフィルム、シートなどの形状のものを、必要であれば公知の接着剤を用いて積層して設けてもよく、さらに熱可塑性樹脂であればA層、B層とともに共押出しして設けることもできる。
【0066】
<印刷層>
本発明の積層体には、さらに印刷層を設けることができる。印刷層は、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷他公知の印刷の方法で設けられる。印刷層の絵柄は石目調、木目調、又は幾何学模様、抽象模様等任意である。部分印刷でも全面ベタ印刷でも良く、部分印刷層とベタ印刷層の両方が設けられていても良い。
【0067】
また、印刷層は本発明の積層体におけるA層、B層のいずれの表面に印刷して設けても良く、最表面に前記のハードコート層や反射防止層、防汚層を設ける場合は、それらの層を設ける前の工程において印刷層を印刷して設けることが好ましい。さらに印刷層は、前記の反射防止層、防汚層として設けることもできる。
【0068】
印刷層に用いられる印刷用インクに含有される顔料や溶剤は特に限定されること無く、一般的に利用されるものを適用することができる。特に、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂を含むものは、印刷層を設けた場合においても、本発明の積層体を層間剥離等の支障なく作製することが可能となることから好適である。
【0069】
本発明の積層体の総厚さは、好ましくは0.15mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上であり、また好ましくは3mm以下、さらに好ましくは2mm以下であればよい。
【0070】
本発明の積層体は表面硬度に優れた積層体であって、その指標である鉛筆硬度は、F以上であることが好ましく、H以上であることがさらに好ましい。鉛筆硬度がかかる範囲にあることで、耐擦傷性に優れ、ディスプレイ表面保護パネルや採光建材などの用途に好適な積層体を提供することができる。前記A層の厚さ、前記機能付与層の厚さ、前記積層体の総厚さを、本明細書に記載の好ましい範囲で調整することによって、鉛筆硬度をかかる範囲とすることができる。
【0071】
本発明の積層体は耐衝撃性に優れた積層体であって、その指標である破壊エネルギー(kgf・mm)は、200kgf・mm以上であることが好ましく、500kgf・mm以上であることがより好ましく、800kgf・mm以上であることがさらに好ましい。破壊エネルギーがかかる範囲にあることによって、ディスプレイ表面保護パネルなどの製造時における打ち抜き加工性に優れた積層体を提供することができる。
打ち抜き加工性は、後述するように打ち抜き試験片の加工断面が荒れたり、クラックが入ったりしていないかなどの点を目視により定性的に評価することができる。前記A層の厚さ、前記機能付与層の厚さ、前記積層体の総厚さを、本明細書に記載の好ましい範囲で調整することによって、破壊エネルギーをかかる範囲とすることができる。
【0072】
<本発明の積層体の用途>
本発明の積層体は、前述の製造方法によってフィルム、シート、プレートなどの形状に成形加工される。加工された積層体は、透明性、表面硬度、耐衝撃性、打ち抜き加工性等に優れる。そのため本発明の積層体の用途は特に制限されるものではないが、例えばディスプレイ表面保護パネルや採光建材等の透明シート、樹脂被覆金属板の表面保護シート、真空圧空成形や熱間プレス成形などの熱成形用シート、着色プレート、透明プレート、シュリンクフィルム、シュリンクラベル、シュリンクチューブ、自動車内装部品用表面フィルム、家電製品部品やその表面フィルムなどに広く使用できる。
【0073】
本発明の積層体は、成形用シートとして用いて種々の二次加工を施すことができ、加熱成形することによって熱成形体とすることもできる。熱成形の方法としては特に限定されず、ブリスター成形、真空成形、圧空成形など公知の成形方法を利用することができる。
【0074】
本発明の積層体は熱成形が容易であるため深絞りが可能であり、例えば深絞り高さが必要とされる形状や特殊な形状の熱成形用途にも好適に使用することができる。
【0075】
前記の熱成形体の用途も特に限定されないが、例えば、自動販売機内で使用される模擬缶(いわゆるダミー缶)やバックライト付き広告表示板、卵パックなどの食品用包装材や、医薬品用のプレススルーパック(PTP)などに好適に使用することができる。
【0076】
また、前記の熱成形体にさらに溶融樹脂を射出成形して裏打ち層を形成することにより、意匠性に優れたインモールド成形体を製造することもできる。この場合、熱成形体の一方の面に印刷層を設け、当該印刷面側に射出成形することによって印刷層を保護することができる。
なお、一旦熱成形によって二次加工した後に溶融樹脂を射出成形する場合だけでなく、熱成形と射出成形を金型内で同時に行ってもよく、シート状の積層体を用いて一段階でインモールド成形体を得ることもできる。当該インモールド成形体の用途としては、自動車内装材や家電製品部材、OA機器部材などに好適に使用することができる。
【実施例】
【0077】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0078】
実施例および比較例で使用した樹脂は以下のとおりである。
(A−1、2)1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサンとビスフェノール−Aとを表1記載の比率で共重合してなるポリカーボネート樹脂。
(B−1)ビスフェノール−Aを重合してなるポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名「ユーピロンS3000」)。
(C−1)メタクリル酸メチルを重合してなるアクリル樹脂(三菱レイヨン社製、商品名「アクリペットVH5」)。
【0079】
【表1】

【0080】
各評価・測定は以下の方法で行った。
1)表面硬度(鉛筆硬度)
JIS K5400に準拠して、雰囲気温度23度の恒温室内で80mm×60mmに切り出した積層体の表面に対して、鉛筆を45度の角度を保ちつつ1kgの荷重をかけた状態で線を引き、表面状態を目視にて評価した。鉛筆硬度がF以上に硬いものを「○」(合格)とした。
【0081】
2)耐衝撃性(破壊エネルギー)
ハイドロショット高速衝撃試験器(島津製作所社製「HTM−1型」)を用いて、縦方向100mm×横方向100mmの大きさに切り出したシートを試料とし、クランプで固定し、温度23℃でシート中央に直径が1/2インチの撃芯を落下速度3m/秒で落として衝撃を与え、試料が破壊するときの破壊エネルギー(kgf・mm)を測定した。破壊エネルギーが200kgf・mm以上のものを合格とした。また破断面の形状を目視観察し、延性的に変形しているものを「○」、やや脆性的に変形しているが著しい破片の飛散はないものを「△」、脆性破壊し破片が多数飛散しているものを「×」として評価した。
【0082】
3)打ち抜き加工性
シートからJIS K6251に準拠してダンベル1号試験片を打ち抜き、試験片の加工断面が荒れたりクラックが入ったりする不具合が10回試行中8回以上あるものを「×」、3回以上7回以下前記不具合のあるものを「△」、2回以下前記不具合があるか又は1回も不具合のなかったものを「○」として評価した。
【0083】
4)リターン性
A層の樹脂ペレット5重量%とB層の樹脂ペレット95重量%とをブレンドし260℃で溶融混練した後、射出成形により得た厚さ3mmのシートについて目視観察し、無色透明であるものを「○」、僅かに白濁しているものを「△」、白濁しているものを「×」として評価した。なお、ハードコート層、反射防止層、防汚層等の機能付与層を積層する場合は一般に工程内でリターンさせることが無いので、この場合はリターン性の評価を行わなかった。
【0084】
(積層体の製造)
2台の押出機を260℃に設定し、A層の樹脂とB層の樹脂を溶融させ供給し、フィードブロックを使用してダイヘッド温度260℃、キャストロール温度110℃で積層体を共押出しにより製膜した。層構成および層厚さは表2、表3記載のとおりである。
【0085】
(ハードコート層の積層)
積層体のハードコート層を設ける面に、アクリル系ハードコート(大日精化社製、商品名「セイカビームEXF001W」)を硬化後厚さで5μmになるようコートし、紫外線光を照射して硬化させ、ハードコート層(D−1)とした。
【0086】
(反射防止層、防汚層の積層)
積層体の反射防止層及び防汚層を設ける面に、反射防止性及び防汚性の加工がなされたトリアセチルセルロース(TAC)未延伸フィルムの片面にアクリル系接着剤層が設けられてなるフィルム(日本油脂社製、商品名「リアルック#8701UV−S」)を、該接着剤層側がくるよう積層し、反射防止層及び防汚層(D−2)とした。
【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
表2の実施例のとおり、本発明の積層体はディスプレイ表面保護パネルや採光建材などで要求される表面硬度、耐衝撃性、打ち抜き加工性の各種物性をバランスよく達成することができ、しかも薄肉化の要請にも応えることができる。一方、表3の比較例においては、実施例に比べて、表面硬度、耐衝撃性、打ち抜き加工性、リターン性のいずれかが劣っていた。
【0090】
以上より、本発明の積層体は、表面硬度、耐衝撃性、打ち抜き加工性、リターン性に優れた積層体であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂のジヒドロキシ化合物構造単位中の、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が占める割合が30モル%以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂からなる樹脂層(A層)と、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを主たる構造単位とするポリカーボネート樹脂からなる樹脂層(B層)とを積層してなることを特徴とする積層体。
【化1】

(前記一般式(1)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、炭素数が1〜3個のアルキル基から選択され、各々のベンゼン環の水素原子と0〜2個置換している。また、Xは下記一般式(2)で表されるシクロアルカン基であり、nは4〜20の整数である。)
【化2】

【請求項2】
前記Xが、1,1−シクロヘキシル基であることを特徴とする、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物が、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサンであることを特徴とする、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記B層の両面に前記A層を積層してなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
積層体の両表面のうち、少なくとも一方にハードコート層、反射防止層、防汚層から選ばれる機能付与層を1層以上設けてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
さらに印刷層を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記A層の厚さが30μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記積層体の総厚さが0.15mm以上、3mm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の積層体を打ち抜き加工してなるディスプレイ表面保護パネル。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載の積層体を加工してなる採光建材。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか1項に記載の積層体を熱成形してなる熱成形体。

【公開番号】特開2011−218634(P2011−218634A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89096(P2010−89096)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】