説明

積層体

【課題】柔軟でありながら透明性、防湿性に優れたポリプロピレン系積層体を提供する。
【解決手段】少なくとも3層構造を有する積層体であって、両表面層に下記(A−i)及び(A−ii)を満たすプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を用い、中間層にポリプロピレン成分(B)40〜95wt%と、下記(C−i)を満たす脂環式炭化水素樹脂成分(C)60〜5wt%との組成物を用いることを特徴とする積層体。
(A−i)メタロセン系触媒を用い、第1工程でエチレン含量0.3〜7wt%のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)を30〜95wt%、第2工程で成分(A1)よりも3〜20wt%多くのエチレンを含有するプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を70〜5wt%逐次重合することで得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体にある。
(A−ii)メルトフローレート(MFR:2.16kg、230℃)が0.1〜30g/10分の範囲にある。
(C−i)軟化点温度が110℃以上160℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関し、詳しくは、柔軟でありながら透明性、防湿性に優れたポリプロピレン系積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、環境保全等の観点より、ポリ塩化ビニール系樹脂(以下「PVC」と略す。)シートのポリオレフィン化が進められているが、PVCシート用途の代表例として、医薬錠剤の包装に用いられるプレススルーパック(以下「PTP」と略す。)シート包材が挙げられる。
PTPは、熱可塑性樹脂シートを熱成形して作成したポケット部に錠剤等の薬剤を収容し、上部を接着層付のアルミ箔で熱シールする。また、PTPシート包材は、内容物の保護のため防湿性に優れることが求められ、従来はPVCシートにポリ塩化ビニリデンをコートしたものが用いられて来たが、例えば、特許文献1にあるようなポリプロピレンに石油樹脂を配合したシートを用いて、防湿性を高めることにより、ポリオレフィン化が実現されて来た。
【0003】
近年、PTPシート包材に求められる新たな要求として、特に高齢者(認知症者を含む)向けに対して、軟質化を望む要求がある。PTPシート包材から薬剤を取り出すには、指で押さえつけて取り出す必要があるが、高齢者の場合、シートの剛性が高いと指の力が不足して取り出し難くなる。また、PTPシート包材から取り出せずにシート包材とともに飲み込んでしまい、口内や喉を傷つけるといったトラブルも発生している。
一方、このような軟質化の要求にこたえるためにPVCにおいて、可塑剤を添加した軟質PVCを用いると、防湿性が低下してしまうという問題が生じる。ポリプロピレンにおいても、結晶化度を低下させたりプロピレンとα−オレフィンとの共重合によって軟質化を図ると防湿性が低下するという問題が生じる。
このため、防湿性を確保しながら軟質性を併せ持つシートの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−41072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記したような問題点を解決し、柔軟でありながら透明性、防湿性に優れた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点の解決のために多様な検討、解析を実施し、表面層にメタロセン系触媒を使用した多段重合による、特定の成分組成および物性を有するプロピレン−エチレンブロック共重合体を配し、中間層には特定の軟化点温度を有するポリプロピレン成分と特定の脂環式炭化水素樹脂成分を特定量配合することにより、透明性、柔軟性に優れたポリプロピレン系の積層体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、少なくとも3層構造を有する積層体であって、両表面層に下記(A−i)及び(A−ii)を満たすプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を用い、中間層にポリプロピレン成分(B)40〜95重量%と、下記(C−i)を満たす脂環式炭化水素樹脂成分(C)60〜5重量%との組成物を用いることを特徴とする積層体が提供される。
(A−i)メタロセン系触媒を用いて、第1工程でエチレン含量0.3〜7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)を30〜95重量%、第2工程で成分(A1)よりも3〜20重量%多くのエチレンを含有するプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を70〜5重量%逐次重合することで得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体である。
(A−ii)メルトフローレート(MFR:2.16kg、230℃)が0.1〜30g/10分の範囲にある。
(C−i)軟化点温度が110℃以上160℃以下である。
【0008】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)が、更に下記(A−iii)を満たすことを特徴とする積層体が提供される。
(A−iii)固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδ曲線が0℃以下に単一のピークを有する。
【0009】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、前記プロピレン成分(B)が、メタロセン触媒で重合されたエチレン含量0.1〜5重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体であることを特徴とする積層体が提供される。
【0010】
また、本発明の第4の発明によれば、第1から3のいずかの発明において、前記脂環式炭化水素樹脂成分(C)が、石油樹脂、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、クロマンインデン樹脂及びそれらの水素添加誘導体から選ばれる一種類以上である積層体が提供される。
【0011】
また、本発明の第5の発明によれば、第1から4のいずれかの発明において、積層体の全体の厚みが100〜1000μmで、かつ両表面層の厚みの合計が全体の5〜60%であることを特徴とする積層体が提供される。
【0012】
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1から5の発明のいずれかの積層体からなるポリプロピレン系防湿シートが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シートとしたときの防湿性、柔軟性に優れた積層体が提供され、本発明の好ましい態様にあっては、更にシートとしたときの透明性に優れた積層体が提供される。本発明の積層体は防湿シートとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例において使用したPP−1の溶出量曲線と溶出量積算を示すグラフ図である。
【図2】本発明の実施例において使用したPP−1の固体粘弾性測定を示すグラフ図である。
【図3】本発明の実施例において使用したPP−3の固体粘弾性測定を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の積層体は、少なくとも3層構造を有する積層体であって、両表面層に以下に詳記するプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を用い、中間層に、以下に詳記する、ポリプロピレン成分(B)と脂環式炭化水素樹脂成分(C)との組成物を用いることを特徴とする。
以下、本発明の積層体の各層構成成分等について、詳細に説明する。なお、本明細書において、「〜」によって数値又は物性値を挟んだ場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いることとする。
【0016】
[表面層]
(1)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)
本発明の積層体の両表面層には、以下の(A−i)及び(A−ii)の条件を満たすプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を用いる。
(A−i)メタロセン系触媒を用いて、第1工程でエチレン含量0.3〜7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)(以下、本明細書において、「成分(A1)」と称することがある。)を30〜95重量%、第2工程で成分(A1)よりも3〜20重量%多くのエチレンを含有するプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)(以下、本明細書において、「成分(A2)」と称することがある。)を70〜5重量%逐次重合することで得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体である。
(A−ii)メルトフローレート(MFR:2.16kg、230℃)が0.1〜30g/10分の範囲にある。
【0017】
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は、メタロセン系触媒を用いて、第1工程でエチレン含量0.3〜7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)を30〜95重量%、第2工程で第1工程よりも3〜20重量%多くのエチレンを含むプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を70〜5重量%、逐次重合することで得られる。
なお、このようなプロピレン−エチレンブロック共重合体は、当業界において、「ブロック共重合体」と一般的に通称されているものであるが、成分(A1)と成分(A2)のブレンド状態にあり、必ずしも双方が重合で結合しているものではない。
【0018】
(2)成分(A1)について
・成分(A1)中のエチレン含量E(A1)
第1工程で製造される成分(A1)は、ベタツキを抑制し、耐熱性を発現するために、エチレン含量E(A1)が0.3〜7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体であらねばならない。融点が比較的高く、結晶性が高いエチレン含量E(A1)が0.3重量%を下回ると柔軟性が不足し、エチレン含量E(A1)が7重量%を超えると融点が低くなりすぎて耐熱性が低下するため、エチレン含量E(A1)は0.3〜7重量%であり、好ましくは0.5〜6重量%である。
なお、プロピレン単独重合体でも改良された柔軟性や透明性及び耐熱性を示すが、成分(A1)がプロピレン単独重合体の場合には透明性を維持しながら充分な柔軟性を発揮させるために後述する成分(A2)の割合を極端に増加させる必要が生じ、これにより耐熱性及びベタツキやブロッキングなどの顕著な悪化を招くことが懸念される。
一方、本発明において成分(A1)として、プロピレン−エチレンランダム共重合体を使用すると、成分(A1)自体の融点は低下することで耐熱性は悪化するように見えるが、充分な柔軟性を発揮するために必要な成分(A2)の量を抑制できることで、ブロック共重合体全体としての耐熱性はむしろ向上し、かつ、ベタツキやブロッキングの悪化が小さいため好ましい。さらに、融点を低下させられることで、シート成形時の成形温度を低下させても充分な成形安定性が得られることで加熱による臭気の発生などが極めて少ない優れたシートを得ることができる。
これらの観点から、成分(A1)中のエチレン含量E(A1)は、好ましくは0.5重量%以上であり、一方好ましくは6重量%以下である。
【0019】
・ブロック共重合体(A)中に占める成分(A1)の割合
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)中に占める成分(A1)の割合が多過ぎるとプロピレン−エチレンブロック共重合体の柔軟性や透明性の改良効果を充分に発揮することができなくなる。そこで成分(A1)の割合は95重量%以下、好ましくは85重量%以下、より好ましくは70重量%以下とされる。
一方、成分(A1)の割合が少なくなり過ぎるとベタツキが増加するといった問題が生じるため、成分(A1)の割合は30重量%以上、好ましくは40重量%以上である。
【0020】
(3)成分(A2)について
・成分(A2)中のエチレン含量E(A2)
第2工程で製造されるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)は、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の柔軟性と透明性を向上させるのに必要な成分であり、成分(A2)は上記効果を充分発揮するために特定範囲のエチレン含量であることが必要である。
すなわち、ブロック共重合体(A)において、成分(A1)に対し成分(A2)の結晶性は低い方が、柔軟性改良効果が大きく、結晶性はプロピレン−エチレンランダム共重合体(A1)中のエチレン含量E(A1)で制御されるため、成分(A2)中のエチレン含量E(A2)は、成分(A1)中のエチレン含量E(A1)よりも3重量%以上多くないとその効果を発揮できず、好ましくは6重量%以上、より好ましくは8重量%以上、成分(A1)よりも多くのエチレンを含む。
ここで、成分(A1)と成分(A2)のエチレン含量の差をE(gap)(=E(A2)−E(A1))と定義すると、E(gap)は3重量%以上、好ましくは6重量%以上、より好ましくは8重量%以上である。
【0021】
一方、成分(A2)の結晶性を下げるためにエチレン含量を増加させ過ぎると、成分(A1)と成分(A2)のエチレン含量の差E(gap)が大きくなり、マトリクスとドメインに分かれた相分離構造を取り、透明性が低下する。これは元来、ポリプロピレンはポリエチレンとの相溶性が低く、プロピレン−エチレンランダム共重合体においても、エチレン含量が異なるものの相溶性は、エチレン含量の違いが大きくなると低下するためである。E(gap)の上限については、後述する固体粘弾性測定によりtanδのピークが単一になる範囲にあると好ましいが、そのためにはE(gap)は20重量%以下、好ましくは、18重量%以下、より好ましくは16重量%以下の範囲とされる。
【0022】
・ブロック共重合体中に占める成分(A2)の割合
成分(A2)の割合が多過ぎるとベタツキが増加しブロッキングに悪化が生じるため、成分(A2)の割合は70重量%以下に抑えることが必要である。一方、成分(A2)の割合が少なくなり過ぎると柔軟性の改良効果が得られないため、成分(A2)の割合は5重量%以上であることが必要であり、好ましくは15重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。
【0023】
(4)ブロック共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のMFRは0.1〜30g/10分の範囲を取ることが必要である。本発明において、MFRが低すぎると表面にシャークスキンやメルトフラクチャと呼ばれる表面あれが発生して透明性や外観を著しく損なう。一方で、MFRが高すぎるとシートの成形安定性が損なわれ、耐衝撃性が低下してしまうおそれがある。故に、本発明において成分(A)のMFRは0.1〜30g/10分の範囲を取らなくてはならず、0.5〜10g/10分の範囲が成形安定性や積層体の外観、物性のバランスの観点から好適である。
なお、本発明におけるメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210 A法 条件M に従い、試験温度:230℃ 公称荷重:2.16kg ダイ形状:直径2.095mm 長さ8.00mmの条件で測定されたものである。
【0024】
(5)成分(A)の固体粘弾性による特定
・tanδ曲線のピークによる規定
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は、以下の(A−iii)の条件を満たすことが好ましい。
(A−iii)固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδ曲線が0℃以下に単一のピークを有する。
【0025】
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)が相分離構造を取る場合には、成分(A1)に含まれる非晶部のガラス転移温度と成分(A2)に含まれる非晶部のガラス転移温度が各々異なるため、ピークは複数となる。この場合には、透明性が悪化するという問題が生じる場合がある。
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)が相分離構造を取っているかどうかは、固体粘弾性測定におけるtanδ曲線において判別可能であり、積層体の透明性を向上させる目的で相分離構造の回避が達成されているか否かは、tanδ曲線が0℃以下に単一のピークを有することにより確認可能である。このため、本発明においては、より向上した透明性を発揮するために、固体粘弾性測定におけるtanδ曲線が0℃以下に単一のピークを持つことが好ましい。
なお、tanδ曲線のピークの実例、及び比較のための単一のピークを有しない場合のtanδ曲線の実例が、各々後述の実施例における重合製造例A−1及びA−3における実例として、図2及び図3に示されている。
【0026】
・固体粘弾性の測定法
固体粘弾性測定は、具体的には、短冊状の試料片に特定周波数の正弦歪みを与え、発生する応力を検知することで行う。ここでは周波数は1Hzを用い測定温度は−60℃から段階状に昇温し、サンプルが融解して測定不能になるまで行う。また、歪みの大きさは0.1〜0.5%程度が推奨される。得られた応力から、公知の方法によって貯蔵弾性率と損失弾性率を求め、これの比で定義される損失正接(=損失弾性率G”/貯蔵弾性率G’)を温度に対してプロットすると、tanδ曲線が得られ、本発明においては、成分(A)は好ましくは、0℃以下の温度領域で鋭い単一のピークを示す。
一般に0℃以下でのtanδ曲線のピークは非晶部のガラス転移を観測するものであり、ここでは本ピーク温度をガラス転移温度Tg(℃)として定義する。
【0027】
(6)成分(A1)と成分(A2)のエチレン含量E(A1)とE(A2)、各成分量W(A1)とW(A2)
成分(A1)と成分(A2)の各エチレン含量及び成分量は、逐次重合時の物質収支(マテリアルバランス)によって特定することも可能であるが、より正確にこれらを特定するためには、以下の分析(分別法)を用いることが望ましい。
【0028】
(6−1)温度昇温溶離分別法による各成分量W(A1)とW(A2)の特定
・温度昇温溶離分別法(TREF)
プロピレン−エチレンランダム共重合体の結晶性分布を温度昇温溶離分別法(TREF)により評価する手法は、当業者によく知られているものであり、例えば、次の文献などで詳細な測定法が示されている。
G.Glockner,J.Appl.Polym.Sci.:Appl.Polym.Symp.;45,1−24(1990)
L.Wild,Adv.Polym.Sci.;98,1−47(1990)
J.B.P.Soares,A.E.Hamielec,Polymer;36,8,1639−1654(1995)
【0029】
本発明におけるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は、成分(A1)と成分(A2)の各々の結晶性に大きな違いがあり、また、メタロセン系触媒を用いて製造されることで各々の分子量分布が狭くなっていることから、双方の中間的な成分は極めて少なく、双方をTREFにより精度良く分別することが可能である。
o−ジクロロベンゼン溶媒を用いた−15℃〜140℃の温度範囲での温度昇温溶離分別法(TREF)による温度に対する溶出量(dWt%/dT)のプロットとして得られるTREF溶出曲線において、成分(A1)と成分(A2)は結晶性の違いにより各々の温度T(A1)とT(A2)にその溶出ピークを示し、その差は充分大きいため、中間の温度T(A3)(={T(A1)+T(A2)}/2)においてほぼ分離が可能である。
また、TREF測定温度の下限は、本明細書の実施例での測定に用いた装置では−15℃であるが、成分(A2)の結晶性が非常に低いか、或いは非晶性成分である場合には本測定方法において、測定温度範囲内にピークを示さない場合がある(このとき測定温度下限(すなわち−15℃)において溶媒に溶解した成分(A2)の濃度は検出される。)。この場合には、T(A2)は測定温度下限以下に存在するものと考えられるが、その値を測定することができないため、このような場合にはT(A2)を測定温度下限である−15℃と定義する。
ここで、T(A3)までに溶出する成分の積算量をW(A2)重量%、T(A3)以上で溶出する部分の積算量をW(A1)重量%と定義すると、W(A2)は結晶性が低い或いは非晶性の成分(A2)の量とほぼ対応しており、T(A3)以上で溶出する成分の積算量W(A1)は結晶性が比較的高い成分(A1)の量とほぼ対応している。なお、TREF溶出曲線の実例は、重合製造例A−1で得られたPP−1について、図1に例示されている。
【0030】
本発明において、TREFは具体的には次のように測定を行う。
試料を140℃でo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlBHT入り)に溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後に8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、60分間保持する。その後、溶媒である−15℃のo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlBHT入り)を1ml/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のo−ジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。
【0031】
(6−2)成分(A1)と成分(A2)のエチレン含量E(A1)とE(A2)の特定
・成分(A1)と成分(A2)の分離
先のTREF測定により求めたT(A3)を基に、分取型分別装置を用い昇温カラム分別法により、T(A3)における可溶成分の成分(A2)と、T(A3)における不溶成分の成分(A1)とに分別し、NMRにより各成分のエチレン含量を求める。
昇温カラム分別法とは、例えば、Macromolecukes 21 314−319(1988)に開示されたような測定方法をいう。具体的には、本発明において以下の方法を用いた。
【0032】
・昇温カラム分別
直径50mmで高さ500mmの円筒状カラムにガラスビーズ担体(80〜100メッシュ)を充填し、140℃に保持する。次に、140℃で溶解したサンプルのo−ジクロロベンゼン溶液(10mg/ml)200mlを前記カラムに導入する。その後、該カラムの温度を0℃まで10℃/時間の降温速度で冷却する。0℃で1時間保持後、10℃/時間の昇温速度でカラム温度をT(A3)まで加熱し、1時間保持する。なお、一連の操作を通じてのカラムの温度制御精度は±1℃とする。
次いで、カラム温度をT(A3)に保持したまま、T(A3)のo−ジクロロベンゼンを20ml/分の流速で800ml流すことにより、カラム内に存在するT(A3)で可溶な成分を溶出させ回収する。
次に、10℃/分の昇温速度で当該カラム温度を140℃まで上げ、140℃で1時間静置後、140℃の溶媒のo−ジクロロベンゼンを20ml/分の流速で800ml流すことにより、T(A3)で不溶な成分を溶出させ回収する。
分別によって得られたポリマーを含む溶液は、エバポレーターを用いて20mlまで濃縮された後、5倍量のメタノール中に析出される。析出ポリマーを濾過して回収後、真空乾燥器により一晩乾燥する。
【0033】
13C−NMRによるエチレン含量の測定
上記分別により得られた成分(A1)と成分(A2)それぞれについてのエチレン含有量は、プロトン完全デカップリング法により以下の条件に従って測定した、13C−NMRスペクトルを解析することにより求める。なお、使用する機器は炭素核共鳴周波数100MHz以上の機器で、以下に記載の機器と同等のものを用いてもよい。
機種:日本電子(株)製 GSX−400又は同等の装置
溶媒:o−ジクロロベンゼン/重ベンゼン=4/1(体積比)
濃度:100mg/ml
温度:130℃
パルス角:90°
パルス間隔:15秒
積算回数:5,000回以上
【0034】
スペクトルの帰属は、例えばMacromolecules 17 1950 (1984)などを参考に行えばよい。上記条件により測定されたスペクトルの帰属は表1の通りである。表中Sααなどの記号はCarmanら(Macromolecules 10 536 (1977))の表記法に従い、Pはメチル炭素、Sはメチレン炭素、Tはメチン炭素をそれぞれ表わす。
【0035】
【表1】

【0036】
以下、「P」を共重合体連鎖中のプロピレン単位、「E」をエチレン単位とすると、連鎖中にはPPP、PPE、EPE、PEP、PEE、及びEEEの6種類のトリアッドが存在し得る。Macromolecules 15 1150 (1982)などに記されているように、これらトリアッドの濃度とスペクトルのピーク強度とは、以下の(1)〜(6)の関係式で結び付けられる。
[PPP]=k×I(Tββ)・・・(1)
[PPE]=k×I(Tβδ)・・・(2)
[EPE]=k×I(Tδδ)・・・(3)
[PEP]=k×I(Sββ)・・・(4)
[PEE]=k×I(Sβδ)・・・(5)
[EEE]=k×{I(Sδδ)/2+I(Sγδ)/4} (6)
ここで[ ]はトリアッドの分率を示し、例えば[PPP]は全トリアッド中のPPPトリアッドの分率である。従って、
[PPP]+[PPE]+[EPE]+[PEP]+[PEE]+[EEE]=1・・・(7)
である。また、kは定数であり、Iはスペクトル強度を示し、例えばI(Tββ)はTββに帰属される28.7ppmのピークの強度を意味する。
上記(1)〜(7)の関係式を用いることにより、各トリアッドの分率が求まり、さらに下式によりエチレン含有量が求まる。
エチレン含有量(モル%)=([PEP]+[PEE]+[EEE])×100
【0037】
なお、本発明に使用されるプロピレン−エチレンランダム共重合体には少量のプロピレン異種結合(2,1−結合及び/又は1,3−結合)が含まれ、それにより、表−2に示す微小なピークを生じる。
【表2】

【0038】
正確なエチレン含有量を求めるにはこれら異種結合に由来するピークも考慮して計算に含める必要があるが、異種結合由来のピークの完全な分離・同定が困難であり、また異種結合量が少量であることから、エチレン含有量は実質的に異種結合を含まないチーグラー・ナッタ系触媒で製造された共重合体の解析と同じく(1)〜(7)の関係式を用いて求めることとする。
エチレン含有量のモル%から重量%への換算は以下の式を用いて行う。
エチレン含有量(重量%)=
(28×X/100)/{28×X/100+42×(1−X/100)}×100
ここでXはモル%表示でのエチレン含有量である。
また、ブロック共重合体(A)全体のエチレン含量E(W)は、上記より測定された成分(A1)と(A2)それぞれのエチレン含量E(A1)とE(A2)及びTREFより算出される各成分の重量比率W(A1)とW(A2)重量%から以下の式により算出される。
E(W)={E(A1)×W(A1)+E(A2)×W(A2)}/100 (重量%)
【0039】
(7)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の製造方法
本発明に使用されるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を製造する方法は、メタロセン系触媒の使用を必須とするものである。
プロピレン−エチレンブロック共重合体において分子量及び結晶性分布が広いとベタツキやブリードアウトが悪化することは当業者に広く知られるところであるが、本発明に用いられるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)においても、ベタツキ及びブリードアウトを抑制するため、かつ、シート成形において充分な透明性を発揮するために、分子量及び結晶性分布を狭くできるメタロセン系触媒を用いて重合されることが必要であり、チーグラー・ナッタ系触媒では本発明の優れたプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)が得られないのは、後記の実施例と比較例との対比からも明らかである。
【0040】
・メタロセン系触媒
メタロセン系触媒の種類は、本発明の性能を有するブロック共重合体(A)を生成できる限りは、特に限定はされるものではないが、本発明の要件を満たすために、例えば、下記に示すような成分(a)と成分(b)及び必要に応じて使用する成分(c)からなるメタロセン系触媒を用いることが好ましい。
成分(a):下記一般式(1)で表される遷移金属化合物から選ばれる少なくとも1種のメタロセン遷移金属化合物
成分(b):下記(b−1)〜(b−4)から選ばれる少なくとも1種の固体成分
(b−1)有機アルミオキシ化合物が担持された微粒子状担体
(b−2)成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸が担持された微粒子状担体
(b−3)固体酸微粒子
(b−4)イオン交換性層状珪酸塩
成分(c):有機アルミニウム化合物。
【0041】
・・成分(a)
成分(a)としては、下記一般式(1)で表される遷移金属化合物から選ばれる少なくとも1種のメタロセン遷移金属化合物を使用することができる。
Q(C4−a)(C4−b)MeXY・・・(1)
[ここで、Qは、2つの共役五員環配位子を架橋する2価の結合性基を示し、Meは、チタン、ジルコニウム、ハフニウムから選ばれる金属原子を示し、X及びYは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アミノ基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基又はケイ素含有炭化水素基を示し、X及びYは、それぞれ独立に、すなわち同一でも異なっていてもよい。R、Rは、水素、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ホウ素含有炭化水素基又はリン含有炭化水素基を示す。a及びbは置換基の数である。]
【0042】
詳しくは、Qは2つの共役五員環配位子を架橋する2価の結合性基を表し、例えば、2価の炭化水素基、シリレン基ないしはオリゴシリレン基、炭化水素基を置換基として有するシリレン基或いはオリゴシリレン基、又は炭化水素基を置換基として有するゲルミレン基などが例示される。この中でも好ましいものは2価の炭化水素基と炭化水素基を置換基として有するシリレン基である。
X及びYは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アミノ基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基又はケイ素含有炭化水素基を示し、このうちで好ましいものとしては、水素、塩素、メチル、イソブチル、フェニル、ジメチルアミド、ジエチルアミド基などを例示することができる。X及びYは、それぞれ独立に、すなわち同一でも異なっていてもよい。
【0043】
とRは、水素、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ホウ素含有炭化水素基又はリン含有炭化水素基を表す。炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ナフチル基、ブテニル基、ブタジエニル基などの炭素数1〜20の炭化水素基が例示される。また、ハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ホウ素含有炭化水素基又はリン含有炭化水素基としては、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、トリメチルシリル基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピラゾリル基、インドリル基、ジメチルフォスフィノ基、ジフェニルフォスフィノ基、ジフェニルホウ素基、ジメトキシホウ素基などを典型的な例として例示できる。これらの中で、炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜4の炭化水素基であることが特に好ましい。ところで、隣接したRとRは、結合して環を形成してもよく、この環上に炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ホウ素含有炭化水素基又はリン含有炭化水素基からなる置換基を有していてもよい。
【0044】
Meは、チタン、ジルコニウム、ハフニウムの中から選ばれる金属原子であり、好ましくはジルコニウム、ハフニウムである。
【0045】
以上において記載した成分(a)の中で、本発明のプロピレン系重合体の製造に好ましいものは、炭化水素置換基を有するシリレン基、ゲルミレン基或いはアルキレン基で架橋された置換シクロペンタジエニル基、置換インデニル基、置換フルオレニル基、置換アズレニル基を有する配位子からなる遷移金属化合物であり、特に好ましくは、炭化水素置換基を有するシリレン基、或いはゲルミレン基で架橋された2,4−位置換インデニル基、2,4−位置換アズレニル基を有する配位子からなる遷移金属化合物である。
【0046】
非限定的な具体例としては、ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−メチルベンゾインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス{2−イソプロピル−4−(3,5−ジイソプロピルフェニル)インデニル}ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−プロピル−4−フェナントリルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルアズレニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)アズレニル}ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−エチル−4−フェニルアズレニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−イソプロピル−4−フェニルアズレニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロビフェニル)アズレニル}ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−t−ブチル−3−クロロフェニル)アズレニル}ジルコニウムジクロリドなどがあげられる。
これら具体例の化合物のシリレン基をゲルミレン基に、あるいはジルコニウムをハフニウムに置き換えた化合物も好適な化合物として例示される。
なお、触媒成分は本発明の重要要素ではないので、煩雑な列記を避け、代表的な例示に留めているが、これにより本発明の有効範囲が制限されることがないのは当然のことである。
【0047】
・・成分(b)
成分(b)としては、上述した成分(b−1)〜成分(b−4)から選ばれる少なくとも1種の固体成分を使用する。これらの各成分は公知のものであり、公知技術の中から適宜選択して使用することができる。その具体的な例示や製造方法については、特開2002−284808号公報、特開2002−53609号公報、特開2002−69116号公報、特開2003−105015号公報などに詳細な例示がある。
ここで、成分(b−1)、成分(b−2)に用いられる微粒子状担体としては、シリカ、アルミナ、マグネシア、シリカアルミナ、シリカマグネシアなどの無機酸化物、塩化マグネシウム、オキシ塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ランタンなどの無機ハロゲン化物、さらには、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、スチレンジビニルベンセン共重合体、アクリル酸系共重合体などの多孔質の有機担体を挙げることができる。
【0048】
また、成分(b)の非限定的な具体例としては、成分(b−1)として、メチルアルモキサン、イソブチルアルモキサン、メチルイソブチルアルモキサン、ブチルボロン酸アルミニウムテトライソブチルなどが担持された微粒子状担体を、成分(b−2)として、トリフェニルボラン、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが担持された微粒子状担体を、成分(b−3)として、アルミナ、シリカアルミナ、塩化マグネシウムなどを、成分(b−4)として、モンモリロナイト、ザコウナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライトなどのスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族などが挙げられる。これらは、混合相を形成しているものでもよい。
上記成分(b)の中で特に好ましいものは、成分(b−4)のイオン交換性層状珪酸塩であり、さらに好ましい物は、酸処理、アルカリ処理、塩処理、有機物処理などの化学処理が施されたイオン交換性層状珪酸塩である。
【0049】
・・成分(c)
必要に応じて成分(c)として用いられる有機アルミニウム化合物の例は、下記一般式
AlR3−a (式中、Rは、炭素数1から20の炭化水素基、Xは、水素、ハロゲン、アルコキシ基、aは0<a≦3の数)で示されるトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム又はジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムモノメトキシドなどのハロゲンもしくはアルコキシ含有アルキルアルミニウムである。またこの他に、メチルアルミノキサンなどのアルミノキサン類なども使用できる。これらのうち、特にトリアルキルアルミニウムが好ましい。
【0050】
・・触媒の形成
成分(a)と成分(b)及び必要に応じて成分(c)を接触させて触媒とする。その接触方法は特に限定されないが、以下のような順序で接触させることができる。また、この接触は、触媒調製時だけでなく、オレフィンによる予備重合時又はオレフィンの重合時に行ってもよい。
1)成分(a)と成分(b)を接触させる
2)成分(a)と成分(b)を接触させた後に成分(c)を添加する
3)成分(a)と成分(c)を接触させた後に成分(b)を添加する
4)成分(b)と成分(c)を接触させた後に成分(a)を添加する
5)三成分を同時に接触させる
【0051】
・・各触媒成分の量
使用する成分(a)、(b)及び(c)の使用量は任意である。例えば、成分(b)に対する成分(a)の使用量は、成分(b)1gに対して、好ましくは0.1μmol〜1,000μmol、特に好ましくは0.5μmol〜500μmolの範囲である。成分(b)に対する成分(c)の使用量は、成分(b)1gに対し、好ましくは遷移金属の量が0.001〜100μmol、特に好ましくは0.005〜50μmolの範囲である。したがって、成分(a)に対する成分(c)の量は、遷移金属のモル比で、好ましくは10−5〜50、特に好ましくは10−4〜5の範囲内である。
【0052】
・・予備重合
触媒は、予めオレフィンを接触させて少量重合されることからなる予備重合処理に付すことが好ましい。使用するオレフィンは、特に限定はないが、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレンなどを使用することが可能であり、特にプロピレンを使用することが好ましい。オレフィンの供給方法は、オレフィンを反応槽に定速的に或いは定圧状態になるように維持する供給方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせるなど、任意の方法が可能である。予備重合温度と時間は、特に限定されないが、各々−20℃〜100℃、5分〜24時間の範囲であることが好ましい。また、予備重合量は、予備重合ポリマー量が成分(b)に対し、好ましくは0.01〜100、さらに好ましくは0.1〜50である。予備重合を終了した後に、触媒の使用形態に応じ、そのまま使用することが可能であるが、必要ならば乾燥を行ってもよい。
さらに、上記各成分の接触の際、もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの重合体やシリカ、チタニアなどの無機酸化物固体を共存させることも可能である。
【0053】
・プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の製造方法
・・逐次重合
本発明に使用されるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を製造実施するに際しては、結晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)と低結晶性或いは非晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を逐次重合することが必要である。
逐次重合を行う際には、バッチ法と連続法のいずれを用いることも可能であるが、一般的には生産性の観点から連続法を用いることが望ましい。
バッチ法の場合には時間と共に重合条件を変化させることにより単一の反応器を用いて成分(A1)と成分(A2)を個別に重合することが可能である。本発明の効果を阻害しない限り、複数の反応器を並列に接続して用いてもよい。
連続法の場合には成分(A1)と成分(A2)を個別に重合する必要から2個以上の反応器を直列に接続した製造設備を用いる必要があるが、本発明の効果を阻害しない限り成分(A1)、成分(A2)のそれぞれについて複数の反応器を直列及び/又は並列に接続して用いてもよい。
【0054】
・・重合プロセス
重合プロセス(重合方法)は、スラリー法、バルク法、気相法など任意の重合方法を用いることができる。バルク法と気相法の中間的な条件として超臨界条件を用いることも可能であるが、実質的には気相法と同等であるため、特に区別することなく気相法に含める。
プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)は低結晶性或いは非晶性なので、炭化水素などの有機溶媒や液化プロピレンに溶け易い。そのため、成分(A2)の製造に際しては気相法を用いることが望ましい。
プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)は結晶性が高いので、その製造に対してはどのプロセスを用いても特に問題はないが、比較的結晶性の低い成分(A1)を製造する場合には、付着などの問題を避けるために気相法を用いることが望ましい。
したがって、連続法を用いて、まず結晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)をバルク法もしくは気相法にて重合し、引き続き低結晶性或いは非晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を気相法にて重合することが最も望ましい。
【0055】
・・その他の重合条件
重合温度は、通常用いられている温度範囲であれば特に問題なく用いることができる。具体的には、0℃〜200℃、より好ましくは40℃〜100℃の範囲を用いることができる。重合圧力は、選択するプロセスによって差異が生じるが、通常用いられている圧力範囲であれば特に問題なく用いることができる。具体的には、大気圧に対する相対圧力で0MPaより大きく200MPaまで、より好ましくは0.1MPa〜50MPaの範囲を用いることができる。この際、窒素などの不活性ガスを共存させることもできる。
第一工程で成分(A1)、第二工程で成分(A2)の逐次重合を行う際には、第二工程にて系中に重合抑制剤を添加することが望ましい。プロピレン−エチレンブロック共重合体を製造する際に、第二工程のエチレン−プロピレンランダム共重合を行う反応器に重合抑制剤を添加すると、得られるパウダーの粒子性状(流動性など)やゲルなどの製品品質を改良することができる。この手法については各種技術検討がなされており、一例として特公昭63−54296号、特開平7−25960号、特開2003−2939号などの各公報を例示することができる。本発明にも当該手法を適用することが望ましい。
【0056】
(8)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の構成要素の制御方法
本発明の積層体に用いられるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の各要素は以下のように制御され、本発明に使用されるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)に必要とされる構成要件を満たすよう製造することができる。
【0057】
・成分(A1)について
結晶性が高い、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)については、エチレン含量E(A1)とTREF測定による溶出温度T(A1)を制御することが好ましい。
E(A1)を所定の範囲に制御するためには、第1工程における重合槽に供給するプロピレンとエチレンの量比を、適宜調整すればよい。供給比率と得られるプロピレン−エチレンランダム共重合体中のエチレン含量の関係は、用いるメタロセン触媒の種類によって異なるが、供給比率の調整により必要とするエチレン含量E(A1)を有する成分(A1)を製造することができる。例えば、E(A1)を0〜7重量%に制御する場合には、プロピレンに対するエチレンの供給重量比を0〜0.3の範囲、好ましくは0〜0.2の範囲とすればよい。このとき、成分(A1)は結晶性分布が狭く、T(A1)はE(A1)の増加に伴い低下する。
【0058】
・成分(A2)について
低結晶性或いは非晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)については、エチレン含量E(A2)とTREF測定による温度T(A2)を制御することが好ましい。
E(A2)を所定の範囲に制御するためには、E(A1)と同様に、第二工程におけるプロピレンに対するエチレンの供給量比を制御すればよい。例えば、E(A2)を3〜20重量%に制御する場合には、プロピレンに対するエチレンの供給重量比を0.01〜5の範囲、好ましくは0.05〜2の範囲とすればよい。このとき、成分(A2)もエチレン含量の増加に伴い若干結晶性分布の増加が見られるものの、成分(A1)と同様に、T(A2)はE(A2)の増加に伴い低下する。
【0059】
・W(A1)とW(A2)について
成分(A1)の量W(A1)と成分(A2)の量W(A2)は、成分(A1)を製造する第一工程の製造量と成分(A2)の製造量の比を変化させることにより制御することができる。例えば、W(A1)を増やしてW(A2)を減らすためには、第一工程の製造量を維持したまま第二工程の製造量を減らせばよく、それは、第二工程の滞留時間を短くしたり、重合温度を下げたり、重合抑制剤の量を増やしたりすることにより容易に制御することができる。その逆も又同様である。
実際に条件を設定する際には、活性減衰を考慮する必要がある。すなわち、本発明にて実施するエチレン含有量E(A1)及びE(A2)の範囲においては、一般にエチレン含有量を高くするためにプロピレンに対するエチレン供給量比を高くすると重合活性が高くなり、同時に活性減衰が大きくなる傾向にある。したがって、第二工程の活性を維持するために第一工程の重合活性を抑制する必要があり、具体的には、第一工程にて生産量W(A1)を下げ、必要に応じて、重合温度を下げる及び/又は重合時間(滞留時間)を短くする、或いは第二工程にてエチレン含有量E(A2)を上げ、生産量W(A2)を上げ、必要に応じて、重合温度を上げる及び/又は重合時間(滞留時間)を長くするような方法で条件を設定すればよい。
【0060】
・ガラス転移温度Tgについて
本発明に用いられるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)では、前述したように、ガラス転移温度Tgは、0℃以下に単一のピークを持つことが透明性を向上させることができるために好ましい。Tgが単一のピークを持つためには、成分(A1)中のエチレン含有量E(A1)と成分(A2)中のエチレン含有量E(A2)の差の[E]gap、すなわちE(A2)−E(A1)を20重量%以下、好ましくは18重量%、より好ましくは16重量%以下にし、実際の測定においてTgが単一のピークとなる範囲までE(gap)を小さくすればよい。
結晶性が高い、共重合体成分(A1)のエチレン含有量E(A1)に応じて、低結晶性或いは非晶性の共重合体成分(A2)のエチレン含量E(A2)を適正範囲に入るよう、成分(A2)の重合時のプロピレンに対するエチレンの供給重量比を設定することで、所定の[E]gapを有する重合体を得ることが可能である。
【0061】
また、本発明において好ましい相分離構造を取らないブロック共重合体(A)のTgは、成分(A1)中のエチレン含有量E(A1)と成分(A2)中のエチレン含有量E(A2)、及び両成分の量比の影響を受ける。本発明においては、成分(A2)の量は5〜70重量%であるが、この範囲においてTgは成分(A2)中のエチレン含有量E(A2)の影響をより強く受ける。
すなわち、Tgは非晶部のガラス転移を反映するものであるが、ブロック共重合体成分(A)において成分(A1)は結晶性を持ち比較的非晶部が少ないのに対し、成分(A2)は低結晶性或いは非晶性であり、そのほとんどが非晶部であるためである。
したがって、Tgの値は、ほぼE(A2)によって制御され、E(A2)の制御法は前述したとおりである。
【0062】
・メルトフローレート(MFR)について
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)では、透明性を維持するために結晶性が高い共重合体成分(A1)と低結晶性或いは非晶性の共重合体成分(A2)が相溶性していることが好ましいため、成分(A1)の粘度([η]A1)、成分(A2)の粘度([η]A2)、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)全体の粘度([η]W)の間には、見かけ上の粘度の混合則が概ね成立する。すなわち、
Log[η]W=
{W(A1)×Log[η]A1+W(A2)×Log[η]A2}/100
が概ね成立する。一般にMFRと[η]の間には一定の相関があるから、最初に柔軟性や耐熱性などの観点から、[η]A2、W(A1)、W(A2)を設定しておけば、上記の式に従って[η]A1を変化させることによって、MFRを自在に制御することができる。
【0063】
[中間層]
本発明の積層体は、中間層にポリプロピレン成分(B)40〜95重量%と脂環式炭化水素樹脂成分(C)60〜5重量%の組成物を用い、成分(C)が下記(C−i)の条件を満たすことを特徴とする。
(C−i)軟化点温度が110℃以上160℃以下である。
【0064】
(1)ポリプロピレン成分(B)
ポリプロピレン成分(B)は、プロピレン単独重合体、或いはプロピレンとエチレン及び/またはブテンとのランダム或いはブロック共重合体が使用できるが、特にメタロセン系触媒で重合された、エチレン含量0.1〜5重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体が好ましい。
メタロセン系触媒で重合されたプロピレン−エチレンランダム共重合体は、チーグラー系触媒で重合されたものに比べて、分子量分布が狭く、高分子量成分が少ないことから透明性に優れる。
ポリプロピレン成分(B)のエチレン含量は0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜4重量%、さらに好ましくは0.3〜3重量%である。エチレン含量が上記範囲を下回ると透明性が低下し、上記範囲を上回ると防湿性が低下する。
【0065】
ポリプロピレン成分(B)のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1〜20g/10分、より好ましくは0.3〜10g/10分、さらに好ましくは0.5〜7g/10分である。
MFRが上記範囲を下回るとシートの押し出し外観が損なわれやすく、上記範囲を上回ると溶融張力が不足してシートの二次成形性が損なわれやすい。
ポリプロピレン成分(B)は、市販品としては、日本ポリプロ株式会社製のメタロセン系触媒で重合されたプロピレン−エチレンランダム共重合体、商品名「ウインテック(登録商標)(WINTEC)」が好ましく使用できる。
なお、成分(B)としては前述した成分(A)をも使用することができる。ただし、本発明の積層体においては、表面層と中間層とのそれぞれについて本発明の構成を満たした上で異なる材料を使用したり、異なる配合量としたりすることにより、異なる層として明確に区別することが可能である。
【0066】
(2)脂環式炭化水素樹脂成分(C)
脂環式炭化水素樹脂成分(C)は、下記(C−i)の条件を満たすことを特徴とする。
(C−i)軟化点温度が110℃以上160℃以下である。
軟化点温度は、好ましくは120℃以上145℃以下である。軟化点温度が上記範囲を下回ると、シート表面へのブリードが発生して透明性を低下させる。軟化点温度が上記範囲を上回ると、透明性が損なわれる。脂環式炭化水素樹脂成分(C)の軟化点は、例えばJIS K 2207に準拠した方法によって測定することが可能である。
脂環式炭化水素樹脂成分(C)の配合量は60〜5重量%、好ましくは50〜7重量%、さらに好ましくは40〜10重量%である。配合量が上記範囲を下回ると、防湿性が低下し、上記範囲を上回ると、透明性が損なわれる。
【0067】
成分(C)は石油樹脂、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、クロマンインデン樹脂、並びにそれらの水素添加誘導体から選ばれる一種類以上が使用できる。
これらの中で、極性基を有さないものや、あるいは、水素を添加して95%以上の水添率とした樹脂が好ましい。さらに好ましい樹脂は、石油樹脂又は石油樹脂の水素添加誘導体であり、このような石油樹脂としては、例えば、荒川化学工業(株)製の商品名「アルコン」またはエクソンモービル(株)製の商品名「オペラ」等の市販品が挙げられる。
【0068】
[層構成]
本発明の積層体は、少なくとも3層構造を有する積層体であり、厚みが好ましくは100〜1000μm、より好ましくは150〜800μmである。
厚みが、上記範囲を下回ると、防湿性が低下しやすく、上記範囲を上回ると、透明性が損なわれやすい。
両表面層の厚みの合計は、積層体全体の5〜60%であることが好ましく、より好ましくは10〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。両表面層の厚みが、上記範囲を下回ると、柔軟性が低下しやすく、上記範囲を上回ると、防湿性が損なわれやすい。
なお、本発明の効果を阻害しない限り、表面層と中間層の間に接着層等の他の層を有していてもよく、また、表面層の更に外側に表面保護層等の他の層を有していてもよい。
【0069】
[付加的成分、添加剤]
本発明の積層体は、いずれの層においても、柔軟性の向上、耐衝撃性の向上を目的に、成分(A1)や成分(A2)以外のエチレン−α−オレフィン共重合体成分、スチレン−ブタジエン共重合体成分等の軟質ポリマーを配合しても良い。配合量の目安はおおよそ0〜30重量%であり、30重量%を超えると透明性が悪化し易くなる。
このようなエチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレンとプロピレン、ブテン、ヘキセン、酢酸ビニール等との共重合体であり、エチレン含有量が95〜60重量%であることが好ましい。エチレン含有量が95重量%を超えると柔軟性、耐衝撃性の向上効果が見られなくなり易く、60重量%を下回ると透明性が悪化しやすい。
スチレン−ブタジエン共重合体としては、水添スチレン系熱可塑性エラストマー等が柔軟性、耐衝撃性の向上効果が良好であり好ましい。
【0070】
本発明の積層体には、いずれの層においても、本発明の効果を損なわない範囲で公知のポリオレフィン樹脂用配合剤として使用される核剤、酸化防止剤、中和剤、光安定剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、滑剤、帯電防止剤、金属不活性剤、過酸化物、充填剤、抗菌防黴剤、蛍光増白剤といった各種添加剤が配合されていてもよい。これら添加剤の配合量は、一般に0.0001〜3重量%、好ましくは0.001〜1重量%である。
特に、透明性を向上させるために、ソルビトール系、リン酸塩系、アミン系等の核剤を添加することが好ましい。核剤としては市販品を使用でき、新日本理化(株)社製商品「マークNA−21」、ミリケン社製商品名「ミラッド3988」、「ミラッドNX8000」等を添加することが好ましい。
なお、本発明の積層体において、中間層において用いる脂環式炭化水素樹脂成分(C)と同様の成分を表面層においても用いることができる。ただし、脂環式炭化水素樹脂成分(C)を表面層に配合する場合、本発明の効果を阻害しない程度の量とすることが必要であり、その配合量は、成分(A)との合計100重量%に対して5重量%未満であることが表面層からの成分(C)のブリードアウトを防ぐ観点から好ましい。
また、積層体の表面に、防曇剤、滑剤等の表面改質剤を塗布することもできる。
【0071】
[積層体の製造方法]
(1)積層体の製造方法
本発明の積層体は、プロピレン系樹脂材料において、一般的に用いられている押出しシート成形、フィルム成形、カレンダー成形、多層ブロー成形等によって得ることができる。この中では押出しシート成形が最も一般的である。
押出しシート成形としては、単軸又は二軸のスクリュー押出機を通してコートハンガーダイからシート状に押出される。押出されたシートは、(内部で冷却水や油が循環している)金属ロール表面にエアーナイフ、エアーチャンバー、硬質ゴムロール、スチールベルト、金属ロールにて押さえつけ冷却固化されてシートに製造される。又、シート両面をスチールベルトで挟んで冷却固化することもできる。
このようなシートの冷却方法の中では、シート両面に金属ロール及び/又はスチールベルトを使用する方法が表面凹凸の少ないシート表面、つまり透明性に優れたシートを得られることから最も好ましい方法である。
本発明の積層体は少なくとも3層構造の多層シートである。多層シートとは、複数の押出機を用い、フィードブロックやマルチマニホールドを用いて、前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)からなる層を最表面層となるように、重ね合わせたものである。
さらに、押出機を追加して、軟質エラストマー層、ガスバリア樹脂層、接着樹脂層、再生樹脂層等を設けた4層以上の多層シートとしても良い。
【0072】
(2)積層体の用途
本発明の積層体は、さらに、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プラグアシスト成形、固相圧空成形、スタンピングモールド成形やこれらを組み合わせた各種二次成形法によって、種々の成形品に加工することができる。
特に本発明の積層体は、柔軟でありながら透明性、防湿性に優れたポリプロピレン系積層体であるので、ポリプロピレン系防湿シートとして、医薬品、食品、日用品、産業資材等の各種包装資材として好適に使用できる。特に、プレススルーパックシート、ブリスターパックシート等に使用するポリプロピレン系防湿シートして好適である。
【実施例】
【0073】
以下において、本発明をより具体的にかつ明確に説明するために、本発明を実施例及び比較例との対照において説明し、本発明の構成の要件の合理性と有意性を実証するが、以下に示す実施例は本発明の実施態様の一例であり、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。また、下記の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
なお、実施例及び比較例で用いた評価方法及び使用樹脂は、以下の通りである。
【0074】
[プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の諸物性の測定方法]
1)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210 A法 条件M に従い、以下の条件で測定した。
試験温度:230℃
公称加重:2.16kg
ダイ形状:直径2.095mm 長さ8.00mm
【0075】
2)TREF
試料を140℃でo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlのBHTを含む)に溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後に8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、60分間保持する。その後、溶媒である−15℃のo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlのBHTを含む)を1ml/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のo−ジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。
【0076】
使用したTREF装置、条件は以下のとおりである。
(TREF部)
TREFカラム:4.3mmφ × 150mmステンレスカラム
カラム充填材:100μm 表面不活性処理ガラスビーズ
加熱方式:アルミヒートブロック
冷却方式:ペルチェ素子(ペルチェ素子の冷却は水冷)
温度分布:±0.5℃
温調器:(株)チノー デジタルプログラム調節計KP1000(バルブオーブン)
加熱方式:空気浴式オーブン
測定時温度:140℃
温度分布:±1℃
バルブ:6方バルブ 4方バルブ
(試料注入部)
注入方式:ループ注入方式
注入量:ループサイズ 0.1ml
注入口加熱方式:アルミヒートブロック
測定時温度:140℃
(検出部)
検出器:波長固定型赤外検出器 FOXBORO社製 MIRAN 1A
検出波長:3.42μm
高温フローセル:LC−IR用ミクロフローセル 光路長1.5mm
窓形状2φ×4mm長丸 合成サファイア窓板
測定時温度:140℃
(ポンプ部)
送液ポンプ:センシュウ科学社製 SSC−3461ポンプ
〔測定条件〕
溶媒:o−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlのBHTを含む)
試料濃度:5mg/ml
試料注入量:0.1ml
溶媒流速 :1ml/分
【0077】
3)固体粘弾性測定
試料は、下記条件により射出成形した厚さ2mmのシートから、10mm幅×18mm長×2mm厚の短冊状に切り出したものを用いた。装置はレオメトリック・サイエンティフィック社製のARESを用いた。周波数は1Hzである。測定温度は−60℃から段階状に昇温し、試料が融解して測定不能になるまで測定を行った。歪みは0.1〜0.5%の範囲で行った。
(試験片の作成)
規格番号:JIS−K7152(ISO294−1)
成形機:東洋機械金属社製TU−15射出成形機
成形機設定温度:ホッパ下から 80、80、160、200、200、200℃
金型温度:40℃
射出速度:200mm/秒(金型キャビティー内の速度)
射出圧力:800kgf/cm
保持圧力:800kgf/cm
保圧時間:40秒
金型形状:平板(厚さ2mm 幅30mm 長さ90mm)
【0078】
4)融解ピーク温度、融解エンタルピー
セイコーインスツルメンツ社製DSC装置RDC220Uを用い、試料5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で融解させたときの融解ピーク温度をTmとした(単位:℃)。昇温時の吸熱曲線の面積から融解エンタルピー(dHm)を求めた。
【0079】
5)エチレン含有量の算出
先に詳述した方法により行なった。
【0080】
〔製造例PP−1〕
[重合製造例A−1]
予備重合触媒の調製
(珪酸塩の化学処理)
10リットルの撹拌翼の付いたガラス製セパラブルフラスコに、蒸留水3.75リットル、続いて濃硫酸(96%)2.5kgをゆっくりと添加した。50℃で、さらにモンモリロナイト(水澤化学社製商品名「ベンクレイSL」、平均粒径:25μm、粒度分布:10〜60μm)を1kg分散させ、90℃に昇温し、6.5時間その温度を維持した。50℃まで冷却後、このスラリーを減圧濾過し、ケーキを回収した。このケーキに蒸留水を7リットル加え再スラリー化後、濾過した。この洗浄操作を、洗浄液(濾液)のpHが、3.5を越えるまで実施した。回収したケーキを窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥した。乾燥後の重量は707gであった。
【0081】
(珪酸塩の乾燥)
先に化学処理した珪酸塩は、キルン乾燥機により乾燥を実施した。仕様、乾燥条件は以下の通りである。
回転筒:円筒状 内径50mm 加温帯550mm(電気炉)
かき上げ翼付き回転数:2rpm 傾斜角:20/520
珪酸塩の供給速度:2.5g/分 ガス流速:窒素 96リットル/時間
向流乾燥温度:200℃(粉体温度)
【0082】
(触媒の調製)
撹拌装置及び温度制御装置を有する内容積16リットルのオートクレーブを窒素で充分置換した。ここに、乾燥珪酸塩200gを導入し、n−ヘプタン1,160ml、さらにトリエチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.60M)840mlを加え、室温で攪拌した。1時間後、試料中の不純物・副生物を除去するためにn−ヘプタンにて洗浄し、珪酸塩スラリーを2,000mlに調製した。次に、先に調製した珪酸塩スラリーにトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71ML)9.6mlを添加し、25℃で1時間反応させた。平行して、(r)−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウム2,180mg(0.3mM)とn−ヘプタン870mlに、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71M)33.1mlを加えて、室温にて1時間反応させた混合物を、前記珪酸塩スラリーに加え、1時間攪拌後、n−ヘプタンを追加して5,000mlに調製した。
【0083】
(予備重合/洗浄)
続いて、槽内温度を40℃に昇温し、温度が安定したところでプロピレンを100g/時間の速度で供給し、温度を維持した。4時間後プロピレンの供給を停止し、さらに2時間維持した。
予備重合終了後、残モノマーをパージし、撹拌を停止させ約10分間静置後、上澄みをデカンテーションにより2,400ml得た。続いてトリイソブチルアルミニウム(0.71ML)のヘプタン溶液9.5ml、さらにn−ヘプタンを5600ml添加し、40℃で30分間撹拌し、10分間静置した後に、上澄みを5600ml除いた。さらにこの操作を3回繰り返した。最後の上澄み液の成分分析を実施したところ有機アルミニウム成分の濃度は、1.23mモル/リットル、Zr濃度は8.6×10−6g/Lであり、仕込み量に対する上澄み液中の存在量は0.016%であった。
続いて、トリイソブチルアルミニウム(0.71ML)のヘプタン溶液を170ml添加した後に、45℃で減圧乾燥を実施した。触媒1g当たりポリプロピレンを2.0g含む予備重合触媒が得られた。
【0084】
(逐次重合 第一工程)
第一工程では、内容積0.4mの攪拌装置付き液相重合槽を用いてプロピレン−エチレンランダム共重合を実施した。液化プロピレンと液化エチレン、トリイソブチルアルミニウムをそれぞれ90kg/時、4.2kg/時、21.2g/時で連続的に供給した。水素供給量は第一工程のMFRが目標の値となるように調節した。さらに、上記の予備重合触媒を、触媒として(予備重合ポリマーの重量は除く)、6.9g/時となるように供給した。また、重合温度が45℃となるように重合槽を冷却した。
第一工程で得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体成分を分析したところ、BD(嵩密度)は0.46g/cc、MFRは2.0g/10分、エチレン含有量は3.7重量%であった。
【0085】
(第二工程)
第二工程では、内容積0.5mの攪拌式気相重合槽を用いてプロピレン−エチレンランダム共重合を実施した。第一工程の液相重合槽より重合体粒子を含んだスラリーを連続的に抜き出し、液化プロピレンをフラッシングした後、窒素で昇圧して気相重合槽へ連続的に供給した。
重合槽は温度が80℃、プロピレンとエチレンと水素の分圧の合計が1.5MPaとなるように制御した。その際にプロピレンとエチレンと水素の合計に占めるプロピレンとエチレン及び水素の濃度は、それぞれ66.97vol%、32.99vol%、420volppmとなるようにプロピレンの分圧、エチレンの分圧及び水素の分圧をそれぞれ制御した。
さらに、活性抑制剤としてエタノールを気相重合槽に供給した。エタノールの供給量は、気相重合槽に供給される重合体粒子に随伴して供給されるトリイソブチルアルミニウム中のアルミニウムに対して、0.3mol/molとなるようにした。
こうして得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体を分析したところ、活性は8.7kg/g−触媒、BDは0.41g/cc、MFRは2.0g/10分、エチレン含有量は8.7重量%であった。
【0086】
(造粒)
上記重合製造例A−1で得られたブロック共重合体パウダーに、ヘンシェルミキサーにより、以下の酸化防止剤、中和剤を以下の量添加し、750rpmで1分間室温で高速混合した。
酸化防止剤:
テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1010」)0.05重量部、
トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガホス168」)0.10重量部
中和剤:
ステアリン酸カルシウム(日本油脂(株)製、商品名「カルシウムステアレートG」)0.05重量部
【0087】
さらに、スクリュー口径30mmの池貝製作所製PCM二軸押出機にて、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hr、押出機温度190℃で溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を、冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを切断することによりプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の原料ペレット(PP−1)を得た。
【0088】
(分析)
得られたPP−1ペレットを用いて、TREF、エチレン含量、DSC、GPC、固体粘弾性の測定を行った。
測定により得られた各データを表−4に示す。
得られた測定結果からPP−1は成分(A)として全ての要件を満たすといえる。
ここで、TREF測定結果について、各パラメータの位置づけを示すために、図1に溶出曲線を例示する。また、固体粘弾性測定結果について、各パラメータの位置づけを示すために、図2に温度に対する貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”と損失正接tanδの変化を例示する。
【0089】
〔製造例PP−2〜3〕
[重合製造例A−2〜3]
重合製造例A−1と同様にして重合条件を変化させプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造した。重合条件及び重合結果を表−3に示す。
得られた重合体パウダーを用いて、製造例PP−1と同様の添加剤配合、混合混錬条件により、PP−2〜3を得た。各種分析結果を表−4に示す。
【0090】
〔製造例PP−4〕
[重合製造例A−4]
重合製造例A−1において、第二工程を行わずに第一工程のみを行った以外は重合製造例A−1と同様にして重合を実施し、プロピレン−エチレンランダム共重合体の製造を行った。重合条件及び重合結果を表−3に示す。
得られた重合体パウダーを用いて、製造例PP−1と同様の添加剤配合、造粒条件により、PP−4を得た。各種分析結果を表−4に示す。
【0091】
〔製造例PP−5〕
[重合製造例A−5]
(固体触媒成分の調製)
本調整では、n−ヘプタンとして、脱水および脱酸素処理を行ったn−ヘプタンを使用した。充分に窒素置換したフラスコに、n−ヘプタン2,000ミリリットルを導入し、次いでMgClを2.6モル、Ti(O−n−Cを5.2モル導入し、95℃で2時間反応させた。反応終了後、40℃に温度を下げ、次いでメチルヒドロポリシロキサン(20センチストークスのもの)を320ミリリットル導入し、3時間反応させた。生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
次いで、充分に窒素置換したフラスコに、上記と同様に精製したn−ヘプタンを4,000ミリリットル導入し、上記で合成した固体成分をMg原子換算で1.46モル導入した。
次いでn−ヘプタン25ミリリットルにSiClを2.62モル混合して30℃において30分間でフラスコへ導入し、70℃で3時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄した。次いでn−ヘプタン25ミリリットルにフタル酸クロライド0.15モルを混合して、70℃において30分間でフラスコへ導入し、90℃で1時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄した。次いでTiClを11.4mol導入して110℃で3時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄して固体成分(a1)を得た。この固体成分のチタン含有量は2.0重量%であった。
次いで、撹拌装置及び温度制御装置を有する内容積16リットルのオートクレーブを窒素で充分置換し、ここへ、上記と同様に精製したn−ヘプタンを5,000ミリリットル導入して上記で合成した固体成分(a1)を100グラム導入し、SiCl0.875molを導入して90℃で2時間反応させた。反応終了後、さらに(CH=CH)Si(CH0.15mol、(t−C)(CH)Si(OCH0.075mol及びAl(C0.4molを順次導入して30℃で2時間接触させた。接触終了後、n−ヘプタンで充分に洗浄し、塩化マグネシウムを主体とする固体触媒成分(a)を得た。このもののチタン含有量は、1.8重量%であった。
【0092】
(予備重合)
撹拌装置および温度制御装置を有する内容積16リットルのオートクレーブを窒素で十分置換した。ここへ、上記で調製した固体触媒成分(a)のn−ヘプタンスラリーを固体触媒成分(a)として100g導入し、更にn−ヘプタンを導入して液レベルを5000ミリリットルに調整した。次に、槽内温度を15℃に調節し、トリエチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液(10重量%)をAl(Cとして0.1mol添加した。その後、プロピレンを50g/時間の速度で2時間供給して予備重合を行った。予備重合終了後、残モノマーをパージし、固体触媒をn−ヘプタンで充分に洗浄した。洗浄終了後、減圧乾燥を行い、予備重合触媒を得た。この予備重合触媒中には、触媒1g当たり2.0gのポリプロピレンが含まれていた。
こうして得られた予備重合触媒を用い、かつ、トリイソブチルアルミニウムの代わりにトリエチルアルミニウムを10g/時で連続的に供給し、更に、表−3に示す重合条件を用いた以外は重合製造例A−1と同様にしてプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造を行った。重合結果を表−3に示す。
得られた重合体パウダーを用いて、製造例PP−1と同様の添加剤配合、造粒条件により、PP−5を得た。各種分析結果を表−4に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
[実施例1]
得られたPP−1ペレットを表面層用原料とし、中間層用原料として、PP−4ペレット80%と「アルコンP−125」(商品名、荒川化学工業社製水添石油樹脂、軟化温度125℃)20%を、ヘンシェルミキサーで1分間混合し、スクリュー口径30mmの池貝製作所製PCM二軸押出機にて、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hr、押出機温度190℃で溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を、冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを切断することによりPP4−1ペレットとして、以下のシートの製造条件によりポリプロピレン系多層シートを得た。
得られたシートの評価結果を表−5に示す。
【0096】
〔シートの製造〕
シートの製造条件
温度220℃の40Φmm単軸押出機にPP−1ペレットを投入して回転数67rpmで両表面層とし、別の温度220℃の40Φmm単軸押出機にPP4−1ペレットを投入して回転数100rpmで中間層とし、フィードブロックを介してTダイから溶融押出し、15℃の冷却ロールと金属ベルトで挟んで冷却固化させ、厚さ500μmの多層シートを得た。
多層シートの各層の厚みは、表表面層100μm/中間層300μm/裏表面層100μmであった。
【0097】
[シート物性の評価]
1)引張弾性率(単位:MPa):
下記の条件にて、シートの流れ方向(MD)および直交方向(TD)各々について測定し、シート柔軟性の尺度とした。引張弾性率の計算方法は、JIS K7127−1999に準拠した。本発明においては柔軟なシートであることが重要であるため、引張弾性率は値が低いものほど柔軟性に優れたものであると評価される。本発明においてはMDとDTの両方が550Mpa以下であればよいと判断した。
サンプル長さ:150mm
サンプル幅:15mm
チャック間距離:100mm
クロスヘッド速度:1mm/分
【0098】
2)ヘイズ(単位:%):
得られたシートの透明性をヘイズ測定により評価した。測定法はJIS K7136−2000に準拠した。ヘイズの値が小さいほど透明性に優れたものであると評価される。
【0099】
3)透湿度:
得られたシートの透湿度は、JIS Z0208に準拠し、40℃、90%RHの条件で測定した。透湿度が低いほど防湿性に優れたものであると評価される。
【0100】
[実施例2]
実施例1の引き取り速度を調整してシート厚みを30μmに変えた以外は実施例1と同様に操作し、ポリプロピレン系多層シートを得た。得られたシートの評価結果を表−5に示す。本発明に準ずるポリプロピレン系シートは、防湿性、柔軟性及び透明性に優れたものであった。
【0101】
[実施例3]
実施例1のPP−1をPP−2に代えた以外は実施例1と同様に操作し、ポリプロピレン系シートを得た。得られたシートの評価結果を表−5に示す。
【0102】
[実施例4]
実施例1のPP−1をPP−3に代えた以外は実施例1と同様に操作し、ポリプロピレン系シートを得た。得られたシート評価結果を表−5に示す。
【0103】
[比較例1]
実施例1のPP−1をPP−4に代えた以外は実施例1と同様に操作し、ポリプロピレン系シートを得た。得られたシートの評価結果を表−5に示す。
【0104】
[比較例2]
実施例1のPP−1をPP−5に代えた以外は実施例1と同様に操作し、ポリプロピレン系シートを得た。得られたシートの評価結果を表−5に示す。
【0105】
[比較例3]
実施例1のPP4−1をPP−4のみに代えた以外は実施例1と同様に操作し、ポリプロピレン系シートを得た。得られたシートの評価結果を表−5に示す。
【0106】
[比較例4]
実施例1の表面層を用いず、中間層のみに代えた以外は実施例1と同様に操作し、ポリプロピレン系シートを得た。得られたシートの評価結果を表−5に示す。
【0107】
[比較例5]
実施例1の中間層を用いず、表面層のみに代えた以外は実施例1と同様に操作し、ポリプロピレン系シートを得た。得られたシートの評価結果を表−5に示す。
【0108】
【表5】

【0109】
[結果の評価]
実施例1〜3で得られたポリプロピレン系シートは、柔軟性、透明性及び防湿性に優れたものであった。実施例4で得られたポリプロピレン系シートは、tanδのピークが複数有するものを用いたため、実施例1〜3に比べると透明性に劣るものであったが、柔軟性及び防湿性に優れたものであった。
また、比較例1は本発明で用いるプロピレン−エチレンブロック共重合体とは異なるランダム共重合体を用いたため、柔軟性に劣るものとなった。比較例2では本発明で使用するプロピレン−エチレンブロック共重合体を得るために用いるメタロセン触媒とは異なるチーグラー・ナッタ触媒により重合されたものを用いたため、得られたポリプロピレン系シートは透明性が劣るものとなった。比較例3で得られたポリプロピレン系シートは本発明で使用する中間層とは異なる材料を使用したため、防湿性に劣るものとなった。比較例4で得られたポリプロピレン系シートは本発明で使用する表面層が無いため、柔軟性に劣るものとなった。比較例5で得られたポリプロピレン系シートは本発明で使用する中間層が無いため、防湿性に劣るものとなった。
本発明においては引張弾性率と透湿度との両方が低い値を示していることが防湿シートとして用いるために重要である。この観点から、比較例1〜5では引張弾性率と透湿度とのいずれか一方が低い値を示さなかったのに対し、実施例1〜5は全て引張弾性率と透湿度との両方が低い値を示しており、防湿シートとして優れたものであると言える。更に実施例1〜4では透明性にも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の積層体よって得られるポリプロピレン系防湿シートは、柔軟性、防湿性に優れており、また、好ましい態様においては透明性にも優れている。このため、医薬品、食品、日用品、産業資材等の各種包装資材として広く使用でき、特に、プレススルーパックシート、ブリスターパックシート等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3層構造を有する積層体であって、両表面層に下記(A−i)及び(A−ii)を満たすプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を用い、中間層にポリプロピレン成分(B)40〜95重量%と、下記(C−i)を満たす脂環式炭化水素樹脂成分(C)60〜5重量%との組成物を用いることを特徴とする積層体。
(A−i)メタロセン系触媒を用いて、第1工程でエチレン含量0.3〜7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)を30〜95重量%、第2工程で成分(A1)よりも3〜20重量%多くのエチレンを含有するプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を70〜5重量%逐次重合することで得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体である。
(A−ii)メルトフローレート(MFR:2.16kg、230℃)が0.1〜30g/10分の範囲にある。
(C−i)軟化点温度が110℃以上160℃以下である。
【請求項2】
前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)が、更に下記(A−iii)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
(A−iii)固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδ曲線が0℃以下に単一のピークを有する。
【請求項3】
前記プロピレン成分(B)が、メタロセン触媒で重合されたエチレン含量0.1〜5重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記脂環式炭化水素樹脂成分(C)が、石油樹脂、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、クロマンインデン樹脂及びそれらの水素添加誘導体から選ばれる一種類以上である請求項1から3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
積層体の全体の厚みが100〜1000μmで、かつ両表面層の厚みの合計が全体の5〜60%であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の積層体からなるポリプロピレン系防湿シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−245632(P2012−245632A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116840(P2011−116840)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】