説明

積層体

【課題】微細凹凸構造の破損及び破損に伴う発塵汚染を抑制でき、しかも保護層の剥離前後で光学性能の低下を抑制できる積層体を実現すること。
【解決手段】本発明の積層体(1)は、表面に凹凸構造(12a)が形成された微細構造層(12)と、微細構造層(12)上に設けられ凹凸構造(12a)を被覆する保護層(13)と、を具備し、保護層(13)は、基材(13a)及び当該基材(13a)と凹凸構造(12a)との間に設けられた粘着層(13b)を有し、粘着層(13b)の弾性率が、0.05〜0.15GPaであり、加熱剥離後の反射率の上昇が0.1%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に微細な凹凸構造が形成された微細構造層を有する積層体に関し、特に、微細構造層を保護する保護層を備えた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの表面保護や、太陽電池の発電効率の向上のため、反射防止フィルムが用いられている。反射防止フィルムは、表面に微細な凹凸構造が形成された微細構造層を有しており、この微細構造層により光の反射を抑制する。このような微細構造層は、比較的外部応力に弱く、施工時や輸送時の衝撃により凹凸構造が破損することがある。このため、反射防止フィルムにおいては、繰り返し剥離可能な微粘着層を形成した粘着シートなどにより、反射防止フィルムの製造後、使用直前まで微細構造層の凹凸構造を保護して用いられている。
【0003】
しかしながら、粘着シートは、粘着力及び粘着成分の経時的な安定性に欠けるため、剥離した微粘着層の糊残りによる微細構造層の汚染や、微細構造層から粘着シートが剥離不能になりやすい場合がある。特に、高さ1μm以下の微細な凹凸構造が形成された微細構造層を粘着シートで保護する場合においては、糊残りによる汚染や、粘着シートが剥離不能となるケースが顕著であり、微粘着層の糊残りの低減及び微細構造層の長期間に亘る安定的な保護とを両立することは極めて難しい。
【0004】
微細構造層を長期間に亘って安定的に保護するため、水溶性樹脂を凹凸構造上に塗布して設けた保護フィルムを有する微細構造フィルム積層体(例えば、特許文献1参照)や、基材フィルムの凹凸構造形成領域外に粘着層を設け、この粘着層に凹凸構造を覆うように保護フィルムを貼着することにより、凹凸構造を非接触で保護する保護フィルム付き成形体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−17922号公報
【特許文献2】特開2010−120348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の微細構造フィルム積層体においては、被保護面から保護フィルムを剥離するためには溶剤を用いて保護層を除去する必要がある。このため、モスアイ構造のような微細な凹凸構造上に保護フィルムを設けた場合、保護フィルムの残留物を完全に取り除くことは難しく、かつディスプレイや太陽電池などのシステムに組み込んだ後では、溶剤を用いて保護層を除去することそのものが実施不可能となる問題が生じる。
【0007】
さらに、特許文献2に記載の保護フィルム付き成形体においては、凹凸構造形成領域以外に設けた粘着層に保護フィルムを貼着するため、凹凸構造が保護フィルムと擦れることにより、凹凸構造の破損や発塵汚染などが生じ、保護フィルムとしての機能が必ずしも十分に得られない問題がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、微細構造層の凹凸構造の破損及び破損に伴う発塵汚染を抑制でき、しかも保護層の剥離前後で光学性能の低下を抑制できる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、鋭意検討した結果、剥離前後の反射率変化が所定値以下となる積層体により、保護層の剥離前後で光学性能の低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の積層体は、表面に凹凸構造が形成された微細構造層と、前記微細構造層上に設けられ前記凹凸構造を被覆する保護層と、を具備し、前記保護層は、基材及び当該基材と凹凸構造との間に設けられた粘着層を有し、前記粘着層の弾性率が、0.05〜0.15GPaであり、加熱剥離後の反射率の上昇が0.1%以下であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、微細構造層の凹凸構造の破損及び破損に伴う発塵汚染を抑制でき、保護層の剥離前後における反射防止率の変化が小さいので、保護層の剥離前後の光学特性の低下を抑制できる。
【0012】
本発明の積層体においては、前記粘着層が、アクリル系の粘着剤を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の積層体においては、前記基材が、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0014】
本発明の積層体においては、前記凹凸構造が、モスアイ構造であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、微細構造層の凹凸構造の破損及び破損に伴う発塵汚染を抑制でき、しかも保護層の剥離前後で光学性能の低下を抑制できる積層体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係る積層体の一例を示す断面模式図である。
【図2】実施例1に係る積層体の断面SEM写真である。
【図3】比較例1に係る積層体の断面SEM写真である。
【図4】実施例及び比較例に係る保護フィルム貼合前の微細構造層の断面SEM写真である。
【図5】実施例1に係る積層体の微細構造層の断面SEM写真である。
【図6】比較例1に係る積層体の微細構造層の断面SEM写真である。
【図7】実施例1及び比較例1に係る積層体の微細構造層のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが可能である。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る積層体の断面模式図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る積層体1は、基材11と、この基材11上に設けられ表面に凹凸構造12aが形成された微細構造層12と、この微細構造層12上に設けられ微細構造層12を被覆する保護層13とを具備する。この積層体1においては、基材11上に微細構造層12を設けた後、保護膜13によって微細構造層12の凹凸構造12aを保護する。そして、光学素子などとして使用する場合には、積層体1から保護層13を剥離した状態(基材11及び微細構造層12が積層された状態)で用いられる。
【0019】
基材11は、対向する一対の主面を有し、一方の主面上に微細構造層12が設けられる。微細構造層12の凹凸構造12aは、微細構造層12の表面内(図1の左右方向及び奥行方向)に延在する連続した複数の凹部及び凸部を含み、隣接する凸部間のピッチPが、可視光の波長以下となるように設けられる。
【0020】
保護層13は、基材13a及び基材13aと微細構造層12の凹凸構造12aとの間に設けられた粘着層13bを有する。保護層は、粘着層13bを介して微細構造層12上に固定される。また、保護層13は、微細構造層12の凹凸構造12aを覆うように設けられ、凹凸構造12aの破損及び破損に伴う発塵汚染を抑制する。
【0021】
本実施の形態に係る積層体1においては、粘着層13bに特定の粘着剤を含む保護層13を用いることにより、保護層13の剥離後における微細構造層12への糊残りなどの汚染を抑制できる。これにより、保護層13の剥離前後における反射率変化が所定値以下となるので、積層体1の光学性能の低下の抑制を実現できる。特に、微細構造層12の凹凸構造12aをモスアイ構造のような微細凹凸構造とした場合、微細構造層12と保護層13との間の接触面積が大幅に増大した場合であっても、剥離後における糊残りを低減することができる。
【0022】
本実施の形態に係る積層体1は、保護層13の加熱剥離前後における反射率変化が0.1%以下である。このように、反射率変化が0.1%以下であることにより、保護層13を剥離して光学素子として使用する場合の光学性能の低下を抑制することができる。反射率変化としては、光学性能の低下を抑制する観点から、0.04以下であることが好ましく、0.02以下であることがより好ましい。
【0023】
本形態に係る積層体1においては、粘着層13bの弾性率が、0.05GPa〜0.15GPaの範囲内であることが好ましい。ここで、弾性率とは、後述する測定法により測定した表面弾性率をいう。粘着層13bの弾性率が0.05GPa以上であれば、粘着層13bの粘性が適正な範囲となるので、保護層13を微細構造層12に貼合せた際に、凹凸構造12aの谷部への粘着層13bの入り込みを抑制でき、微細構造層12への糊残りを低減できる。また、弾性率が0.15GPa以下であれば、粘着層13bの流動性が適正な範囲となるので、粘着層13bと凹凸構造12aとの接触面積を十分に確保でき、微細構造層12と保護層13との接着性が向上する。粘着層13の弾性率としては、0.07GPa〜0.14GPaの範囲内であることがより好ましく、0.08GPa〜0.12GPaの範囲内であることがより好ましい。
【0024】
粘着層13bの弾性率が、上記範囲より大幅に大きい場合、粘着層13bと凹凸構造12aとの接触面積が小さくなるため粘着力の低下を伴う。これを補うため粘着付与剤を添加する方法も一般的には取られるが、粘着付与剤は、通常分子量が数百から数千程度のオリゴマーであり、ブリードアウトを引き起こし易く、被着体(微細構造層12)を汚染(糊残り)し易くなる。
【0025】
また、本実施の形態に係る積層体1においては、粘着層13bの表面硬度が0.008GPa超え〜0.030GPa以下であることが好ましい。ここで、表面硬度とは、後述する測定法によって測定した表面硬度をいう。粘着層13bの表面硬度が0.008GPa超えであれば、粘着層13bの粘性が適正な範囲となるので、保護層13を微細構造層12に貼合せた際に、凹凸構造12aの谷部への粘着層13bの入り込みを抑制でき、微細構造層12への糊残りを低減できる。また、表面硬度が0.030GPa以下であれば、粘着層13bの流動性が適正な範囲となるので、粘着層13bと凹凸構造12aとの接触面積を十分に確保でき、微細構造層12と保護層13との接着性が向上する。粘着層13の表面硬度としては、0.009GPa超え〜0.020GPaの範囲内であることがより好ましい。
【0026】
本実施の形態に係る保護層13の粘着層13bにおける表面弾性率、表面硬度及び押込み深さは、ナノインデンター装置(MTS社製)を使って測定され、NanoIndenter付属ソフトAnalyst(MTS社製)を使って解析されたModulusを表面弾性率とし、Hardnessを表面硬度とする。表面弾性率、表面硬度及び押込み深さは、0.1gfの荷重で圧子を押込んだ時に測定される値であり、少なくとも10点測定し、その平均値を算出した値として定義する。
【0027】
保護層13としては、アクリル系の粘着剤を含有する粘着層13bを有するものを用いることが好ましい。アクリル系の粘着剤を用いることにより、微細構造層12の凹凸構造12aをモスアイ構造とした場合においても、微細凹凸構造への糊残りを低減することが可能となる。これにより、保護層13の剥離前後における光学性能の低下を更に抑制することができる。
【0028】
保護層13の厚みとしては、微細構造層12を外部応力や汚染から保護するために、適度な柔軟性、微細構造面との接着性、衝撃吸収性、外部応力分散性などの保護機能が得られる範囲であれば、特に制限はない。保護層13の厚みとしては、5μmから200μmの範囲であることが好ましい。保護層13の厚みが5μm以上であれば、十分な保護機能が得られる。また、保護層13の厚みが200μm以下であれば、保護層13の厚みが増すことに伴う体積、重量、コストの増加を抑制することができる。保護層13の厚みとしては、10μmから100μmの範囲であることがより好ましく、20μmから75μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0029】
積層体1は、保護層13剥離することにより、光学素子などとして用いられる。保護層13の剥離力としては、0.01N/25mm以上、2.0N/25mm以下であることが好ましい。保護層13の剥離力が0.01N/25mm以上であれば、微細構造層12に接着することが可能となる。また、保護層13の剥離力が2.0N/25mm以下であれば、微細構造層12からの保護層13の剥離が容易となる。以下、積層体1の各構成要素について詳細に説明する。
【0030】
<基材>
基材11の材料としては、例えば、ガラス、セラミック、金属などの無機材料や、トリアセチルセルロース(以下、TAC)樹脂などの熱可塑性樹脂や、アクリル系樹脂などの紫外線硬化性樹脂や、熱硬化性樹脂などの有機材料を用いることができる。基材11の材料は、使用目的や用途に応じて任意に選択することが可能である。積層体1の用途によっては、光透過性が要求される場合と非透過性が要求される場合とがあり、必要に応じて基材11の種類を選択する。
【0031】
積層体1を光学用途で用いる場合においては、基材11には透明性が求められる。この場合、基材11としては、(a)使用目的に応じた波長領域で透明であり、(b)微細構造層12との接着性が良く、(c)微細構造層12との屈折率差が小さく、(d)ヘイズが小さいことが必要となる。また、基材11としては、(e)機械物性に優れ、(f)安価であることが好ましい。以上の観点から基材11としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂、PC樹脂、COP樹脂、PET樹脂、PEN樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、TAC樹脂が好ましい。これらの樹脂は、樹脂フィルムとして用いることにより、フレキシブル性、加工性、生産性、耐衝撃性が向上する。
【0032】
基材11として樹脂を用いる場合、使用目的や用途に応じた性能を損なわない範囲で、必要に応じて公知の添加物を添加した樹脂を用いてもよい。添加剤としては、例えば、有機及び無機の粒子、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、易接着層、染料などが挙げられる。これらの添加剤は、樹脂に直接配合して用いてもよく、これらを含む層を基材11上に積層してもよい。
【0033】
<微細構造層>
微細構造層12の材料としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゾルゲル反応物などを用いることができる。光硬化性樹脂としては、ラジカル重合系の光硬化性樹脂又はカチオン重合系の光硬化性樹脂が好ましく、反応速度が速く、連続生産が可能であることから、ラジカル重合系の光硬化性樹脂が好ましい。また、微細凹凸パタン深部における反応性を高めるために、反応寿命の長いカチオン重合系の光重合性樹脂をラジカル重合系の光重合性樹脂に混合した光硬化性樹脂を用いることもできる。カチオン重合系の光硬化性樹脂としては、重合性官能基としてのエポキシ基、ビニルオキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基などを有するモノマーを用いた光硬化性樹脂が挙げられる。
【0034】
以下、ラジカル重合系の光硬化性樹脂について詳細に説明する。ラジカル重合系の光硬化性樹脂とは、1分子中に2つ以上のアクリル基及び/又はメタクリル基を含有する1種以上の単量体(以下、「2官能以上のアクリレート及び/又はメタクリレート」と称す)を含有するものである。単量体としては、例えば、諸物性のバランスが良く、光反応後のモールドからの離型性に優れるトリメチロールプロパントリアクリレートが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0035】
光硬化性樹脂としては、2官能以上のアクリレート及び/又はメタクリレートを20質量%以上とすることで、比較的強度な成型体が得られる上、高架橋密度となり、成型体からブリードアウトしてしまうような低重合度オリゴマーの副生及びブリードアウトを最低限に抑えることができる。
【0036】
光硬化性樹脂としては、単量体として、必要に応じて粘性の調整及び硬化物の諸物性を調整するため、1,9−ノナンジオールジメタクリレートや、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニル化合物を用いてもよい。N−ビニル化合物を配合することにより、成型体の基材への付着性を向上できる一方で、光反応後のモールドからの離型性が良好となる。
【0037】
さらに、光硬化性樹脂としては、アクリル基及び/又はメタクリル基を含むシリコーン化合物を含むものが好ましい。このようなシリコーン化合物としては、例えば、ポリジメチルシロキサン骨格にアクリル基を結合させた、BYK−UV3500、BYK−UV3570(ビックケミー・ジャパン社製)、ebecryl350(ダイセル・サイテック社製)などのシリコーンアクリレート化合物が挙げられる。これらのシリコーン化合物を配合することにより、光反応後の成型体のモールドからの離型性をさらに向上できる上、これらのシリコーン化合物は成型体からのブリードアウトも少ないので、精密な微細構造を成型するため好ましい。
【0038】
光硬化性樹脂としては、光重合開始剤を含むものを用いることもできる。光重合開始剤としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(Ciba Specialty Chemicals社製、商品名DAROCUR TPO(登録商標))などが挙げられるがこれに限定されず、公知の光重合開始剤を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。このほか公知の光重合促進剤及び増感剤などと組み合わせて適用することもできる。
【0039】
光硬化性樹脂を用いる場合には、異物(パーティクル)をろ過などによって除去することが好ましい。ろ過の場合、捕捉出来る最小粒子径が1μm以下のフィルターを使用することが好ましく、0.5μm以下のものがさらに好ましい。いずれの最小粒子径でも、フィルターの捕捉効率は99.9%以上であることが好ましい。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂やポリジメチルシロキサン(PDMS)樹脂、フッ素含有樹脂などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。また、凹凸構造12a転写後の金型からの剥離性をよくするためには、樹脂の表面エネルギーが小さいことが有効であることから、シリコーン系のポリジメチルシロキサン樹脂が好ましく、より表面エネルギーに低いフッ素含有樹脂がより好ましい。また、熱可塑性樹脂としては、転写性の観点からアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂等が好ましい。
【0041】
ゾルゲル反応物としては、アルコキシシラン化合物、アルキルシリケート化合物などを用いて得られたものを用いることができる。
【0042】
微細構造層12の微細凹凸パタン(凹凸構造12a)は、金型を使ったナノインプリント法で成型され、その具体的な方法としては、光ナノインプリント法や熱ナノインプリント法、室温ナノインプリント法、キャスト法などが挙げられる。これらの中でも、微細凹凸パタンの連続転写が容易であるため、光硬化性樹脂を使った光ナノインプリント法が好ましい。
【0043】
微細構造層12としては、凹凸構造12aの凸部間のピッチPが300nm以下でることが好ましい。この場合には、光学用途に優れ、特に反射防止フィルムとして好適である。この反射防止フィルムは、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイなどの映像表示装置、レンズ、ショーウインドウ、眼鏡レンズ、観覧用水槽などの空気層と接する対象物の表面に貼り付けて使用できる。また、反射防止フィルム以外に用いることもでき、その用途としては、光導波シート、ホログラム、集光レンズ、プリズムシート、偏光分離素子、超撥水性フィルム、超親水性フィルム、細胞培養シートなどが挙げられる。
【0044】
<保護層>
保護層13としては、基材13aと、この基材13a上に設けられ特定の粘着剤を含む粘着層13bとを有するものを用いる。基材13aとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂が挙げられるが、微細構造層12の凹凸構造12aを保護できるものであれば、特に制限されない。基材13aとしては、保管環境、特に湿度や雨などの影響を受けることなく保存安定性に優れることから、非水溶性の樹脂を用いることが好ましい。
【0045】
粘着層13bとしては、保護層13の剥離前後における光学性能の低下を抑制する観点から、微細構造層12の凹凸構造12aへの糊残りの少ない粘着剤を含むものを用いる。このような粘着剤としては、例えば、アクリル系の粘着剤が挙げられる。
【0046】
保護層13としては、市販の保護フィルムを用いることができる。市販の保護フィルムとしては、例えば、サンエー化研社製の保護フィルム(サニテクトSAT HC1038T−J)、藤森工業社製の保護フィルム(マスタックPC−801)、リンテック社製の保護フィルム(SRL−0753C(AS))などを用いることができる。
【0047】
保護層13には、帯電を防止する帯電防止剤、視認性向上のため顔料、染料や製膜性の安定化させるレベリング剤、保護層の耐久性向上の為に酸化防止剤、紫外線吸収剤や強度調整の為の無機フィラーなどの添加剤を添加してもよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を明確にするために行った実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。まず、実施例中の測定値の測定方法について説明する。
【0049】
<保護層(保護フィルム)の厚みの測定>
接触式厚み計(ミツトヨ社製、デジマチックインジケータID−C112CX)にて測定した。
【0050】
<保護層(保護フィルム)の剥離力の測定>
保護フィルムの剥離力は、JIS Z1528に準拠した粘着テープ90度剥離試験治具を用いて、引っ張り試験機にて測定した。剥離力は、23℃、50%RHの室内で剥離速度300mm/分の条件で測定した。測定試料としては、微細構造層上に保護層を貼合せた後、幅25mm、長さ100mmの短冊状に裁断したものを用いた。
【0051】
<反射率の測定>
反射率は、紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV−2450)にマルチパーパス大形試料室ユニット(MPC−2200)、絶対反射測定装置(ASR3105)及び試料台積分球セット(BIS−3100)を取り付けた装置を用いて測定した。反射率としては、入射角5°、スリット幅5nm、波長範囲300nmから800nm、サンプリングピッチ0.5nmの条件で、絶対値での鏡面反射率を測定した。測定試料としては、保護フィルム貼合、加熱処理及び保護フィルムの剥離を経たものを用いた。なお、反射率の測定に際しては、フィルム裏面からの反射を抑制するため、予め保護フィルム裏面(微細構造層の反対面)に黒色ビニールテープ(ヤマト社製、NO200−38−21)を気泡が入らないように貼り合わせて測定試料とした。また、保護フィルムを貼り合せる前の微細構造転写フィルム(未貼合品)についても、同様の測定を行った。
【0052】
<反射率変化>
反射率の変化は、保護フィルム未貼合の測定試料と保護フィルム貼合、加熱処理及び保護フィルム剥離を経た測定試料とを用い、波長400nmから700nmにおける0.5nm毎の反射率を測定し、各波長における反射率差の平均値により算出した。
【0053】
<粘着層の弾性率、表面硬度、押込深さ測定>
ナノインデンター装置(MTS社製、Nano Indenter SA2/ソフトウェア:TestWorks4)により各保護フィルム粘着層の表面弾性率、表面硬度及び押込み深さを計測した。詳細な条件設定は以下の通りである。Allowable Drift Rate:0.5[nm/s]、Load Rate Multiple For Unload Rate:1、Maximum Load:0.1[gf]、Number of Times to Load:1、Peak Hold Time:10[s]、Percent To Unload:90[%]、Time To Load:15[s]。測定後、ソフトウェア上にて計測開始深さをゼロ補正し、10回測定を平均した表面弾性率、表面硬度、押込み深さを求めた。
【0054】
<微細構造層の組成>
次に、実施例に使用した微細構造層の光硬化性樹脂の組成について説明する。本実施例では、微細構造層として以下の光硬化性樹脂の組成を用いた。
【0055】
<光硬化性樹脂の組成>
褐色容器に、トリメチロールプロパントリアクリレート(アロニックスM309、東亞合成社製)165g、1,9−ノナンジオールジアクリレート(ライトアクリレート1.9ND−A、共栄社化学社製)を165g、N−ビニルピロリドンを165g、シリコーンジアクリレート(EBECRYL350、ダイセル・サイテック社製)を2.5g、DAROCUR TPO(Ciba社製)を10gの順に加え、遮光下、約2時間、超音波装置で均一に溶解させた。
【0056】
<基材>
基材としては、(a)使用目的に応じた波長領域で透明であり、(b)光硬化樹脂との接着性が良く、(c)光硬化樹脂との屈折率差が小さく、(d)ヘイズが小さいトリアセチルセルロースフィルム(以下、「TACフィルム」と表記する。富士フイルム社製、フジタック(登録商標))を使用した。
【0057】
<実施例1>
レーザー干渉露光法によりパターニングされたピッチ240nm、高さ300nmの凸凹楕円錘構造を三方格子に配列されたニッケルスタンパA(厚み0.2mm)の平板スタンパを300mm、200mmの長方形に加工した。このニッケルスタンパをロール面へ接合し、凸凹楕円錐構造が形成された微細構造層を有するスタンパロールとした。このスタンパロールには、デュラサーフHD−2101Zダイキン化成販売製の処理により離型処理を実施した。
【0058】
次に、厚み80μm、幅230mmのTACフィルムのロール(フィルム長250m)に連続的に上記光硬化性樹脂をグラビアコーターにより幅200mm、厚み0.8μm塗布した。次に、塗布面をロールスタンパの凸凹楕円錐構造の形成面へ接触させ、TACフィルム側からメタルハライドランプ(ウシオ電機社製、型番UVC−2519−1MNSC7−MS01)で、1J/cmの光量で光硬化させた。次に、光硬化性樹脂に連続的に微細構造が転写されたTACフィルムをロールスタンパから剥離し、ロール状に巻き取った。次に、微細構造層が形成されたTACフィルムを200mm×200mmで切り出し、この微細構造層上に保護フィルム(サンエー化研社製、サニテクト(登録商標)SAT HC1038T−J)をJIS Z0237の規格に準拠した条件で、微細構造面に保護フィルムの粘着層が向き合うように貼合し積層体を作製した。図2に、作製した積層体の断面SEM写真を示す。図2から分かるように、実施例1に係る積層体においては、粘着層の弾性率が所定範囲であるので、保護フィルムを微細構造層に貼り合せた際においても、微細構造層Aと保護フィルムBの粘着層との間に空隙Cができ、凹凸構造の谷部への粘着層の入り込みを抑制できていることが分かる。
【0059】
貼合後、23℃、50%RHの室内で約2時間状態調節したものを、初期測定試料とした。また、貼合後、80℃の乾燥器で7日間の促進処理した後、23℃、50%RHの室内で約2時間状態調節したものを加熱後試料とした。評価結果を下記表1に示す。
【0060】
<実施例2>
保護フィルムとして、藤森工業社製、マスタック(登録商標)PC−801を用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体及び加熱後試料を作製した。評価結果を下記表1に示す。
【0061】
<実施例3>
保護フィルムとして、リンテック社製、SRL−0753C(AS)を用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体及び加熱後試料を作製した。評価結果を下記表1に示す。
【0062】
<比較例1>
保護フィルムとして、サンエー化研社製、サニテクト(登録商標)SAT106T−JSLを用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体及び加熱後試料を作製した。評価結果を下記表1に示す。図3に、作製した比較例1に係る積層体の断面SEM写真を示す。図3から分かるように、比較例1に係る積層体においては、保護フィルムの粘着層の弾性率が低いことから、微細構造層Aの凹凸構造と保護フィルムBの粘着層との間に空隙がなく、密着していることが分かる。
【0063】
<比較例2>
保護フィルムとして、リンテック社製、SRL−050F(SF)を用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体及び加熱後試料を作製した。評価結果を下記表1に示す。
【0064】
<比較例3>
保護フィルムとして、きもと社製、プロセーブ(登録商標)SQD3を用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体及び加熱後試料を作製した。評価結果を下記表1に示す。
【0065】
<比較例4>
保護フィルムとして、ニッパ社製、T−CPF50(75)−SA−Fを用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体及び加熱後試料を作製した。評価結果を下記表1に示す。
【0066】
<比較例5>
保護フィルムとして、サンエー化研社製、サニテクトPAC−4K−50を用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体及び加熱後試料を作製した。評価結果を下記表1に示す。
【0067】
<比較例6>
保護フィルムとして、日立化成社製、ヒタレックス(登録商標)L−7320を用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体及び加熱後試料を作製した。評価結果を下記表1に示す。
【0068】
図4に、実施例1及び比較例1に係る積層体の保護フィルム貼合前の微細構造層の断面SEM写真を示し、図5に、実施例1に係る積層体の保護フィルム剥離後の微細構造層の断面SEM写真を示し、図6に、比較例1に係る積層体の保護フィルム剥離後の微細構造層の断面SEM写真を示す。図4〜図6から分かるように、実施例1に係る積層体においては、保護フィルムの剥離前後における微細構造の凹部及び凸部における糊残りが少なく、保護フィルムの剥離性が良好であることが分かる。また、比較例1に係る積層体においては、保護フィルムの粘着層が凹凸構造の谷部へ入り込んだが、保護フィルムの剥離前後における微細構造の凹部及び凸部における糊残りが目視SEM観察で確認できない程度に少ないことが分かる。
【0069】
図7A〜図7Cに、実施例1及び比較例1に係る積層体の保護フィルム剥離前後の微細構造層のSEM写真を示す。なお、図7Aは、実施例1に係る積層体の保護フィルム剥離後の微細構造層のSEM写真であり、図7Bは、比較例1に係る積層体の保護フィルム剥離後の微細構造層のSEM写真であり、図7Cは、実施例1及び比較例1に係る積層体の保護フィルム貼合前の微細構造層のSEM写真である。図7A〜図7Cから分かるように、実施例1及び比較例1に係る積層体においては、保護フィルム貼合前後において、外観上、大きな差異がないことが分かる。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から分かるように、実施例1から実施例3に係る市販の保護フィルムを用いた場合おいては、保護フィルム剥離前後の反射率変化が極めて小さく、保護層13の剥離前後において光学性能の低下を抑制できる。一方で、比較例1から比較例6に係る市販の保護フィルムを用いた場合においては、保護フィルム剥離後の反射率が増大し、保護層13の剥離前後において光学性能の低下が大きいことが分かる。
【0072】
特に、実施例1と比較例1とを対比すると、保護フィルム剥離前後の断面SEM写真において、大きな差異は見られなかったが、反射率変化において、大きな差があることが分かる。この結果は、SEM観察で分別できない程度の糊残りに由来するものであり、保護フィルムの粘着層の弾性率を適正な範囲とすることにより、凹凸構造の凹部への粘着層の入り込みを抑制できるので、保護フィルム剥離後の反射率の変化を低減でき、光学性能の低下を抑制できたものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、微細構造層の凹凸構造の破損及び破損に伴う発塵汚染を抑制でき、しかも保護層の剥離前後で光学性能の低下を抑制できるという効果を有し、特に、反射防止用のフィルム、シート、光学素子などのレンズ成型体など好適に用いることが可能である。また、積層体の施工時、輸送時、保管時の汚染や損傷、破壊防止を実現できる。
【符号の説明】
【0074】
1 積層体
11 基材
12 微細構造層
12a 凹凸構造
13 保護層
13a 基材
13b 粘着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸構造が形成された微細構造層と、前記微細構造層上に設けられ前記凹凸構造を被覆する保護層と、を具備し、前記保護層は、基材及び当該基材と凹凸構造との間に設けられた粘着層を有し、前記粘着層の弾性率が、0.05〜0.15GPaであり、加熱剥離後の反射率の上昇が0.1%以下であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記粘着層が、アクリル系の粘着剤を含むことを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記基材が、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の積層体。
【請求項4】
前記凹凸構造が、モスアイ構造であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の積層体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107281(P2013−107281A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254056(P2011−254056)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】