説明

積層体

【課題】極薄銅層、剥離層及びキャリア層がこの順に重ねられてなる導体層が絶縁基材上に設けられ、キャリア層の剥離強度が低く、その剥離による反りの発生を抑制できる積層体の提供。
【解決手段】一枚の絶縁基材若しくは複数枚重ねられた絶縁基材からなる絶縁層11の一方の面に第一の導体層12が設けられ、他方の面に第二の導体層13が設けられ、ただしこれらの一方は設けられていなくてもよく、前記絶縁基材は、液晶ポリエステルが含浸された繊維シートであり、第一の導体層12及び第二の導体層13は、厚さが9μm未満の銅層と、剥離層と、キャリア層とが、この順に絶縁層11側から重ねられてなり、第一の導体層12における第一のキャリア層123及び第二の導体層13における第二のキャリア層133の剥離時における剥離強度が0.6N/cm以下である積層体1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基材上に、極薄の銅層を含む導体層が設けられた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、優れた高周波特性、低吸湿性を示すことから、エレクトロニクス基板材料として注目されている。特に、液晶ポリエステルを含有する液状組成物をガラス繊維からなるシートに含浸させ、溶媒を除去して得られた液晶ポリエステル含浸基材は、耐熱性、誘電特性、低吸湿性、寸法安定性に優れることが開示されており(例えば、特許文献1参照)、さらに剛性が高いので、絶縁基材として有用である。このような絶縁基材は、さらにその表面に導体層が設けられ、回路基板材料の製造に利用される。
【0003】
一方、近年は、各種電子部品の高集積化に対応して、回路基板の配線パターンの高密度化が要求され、微細な線幅や線間ピッチの配線からなる配線パターン、いわゆるファインパターンの回路基板が要求されるようになってきている。
これに対応して、ファインパターン用途の回路基板を製造するために、極薄銅層、剥離層及びキャリア層がこの順に重ねられてなる導体層を、加熱プレスなどにより絶縁基材と張り合わせて積層体とした後、キャリア層を剥離させて銅張積層板を製造する手法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。銅張積層板は、その極薄銅層を回路パターンにパターニングすることで、回路基板が得られる。なお、前記キャリア層は、積層体製造時に極薄銅層の取り扱い性を向上させるために、支持体として用いるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−528149号公報
【特許文献2】特開2005−161840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ファインパターン用途の回路基板を製造するために、上記の液晶ポリエステル含浸基材を絶縁基材として用いた場合には、上記の積層体を得るために、この絶縁基材と導体層とを、300℃以上の高温で加熱プレスする必要がある。すると、キャリア層を剥離させる時の剥離強度が高くなり、剥離時に応力が生じて、得られる銅張積層板に反りが生じてしまうという問題点があった。銅張積層板に反りが生じると、回路基板の加工性が悪くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、極薄銅層、剥離層及びキャリア層がこの順に重ねられてなる導体層が絶縁基材上に設けられ、キャリア層の剥離強度が低く、その剥離による反りの発生を抑制できる積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、一枚の絶縁基材若しくは複数枚重ねられた絶縁基材からなる絶縁層の、片面又は両面に、導体層が設けられた積層体であって、前記絶縁基材は、液晶ポリエステルが含浸された繊維シートであり、前記導体層は、厚さが9μm未満の銅層と、剥離層と、キャリア層とが、この順に前記絶縁層側から重ねられてなり、前記キャリア層の剥離時における剥離強度が0.6N/cm以下であることを特徴とする積層体を提供する。
本発明の積層体においては、前記繊維シートを構成する繊維がガラス繊維であることが好ましい。
本発明の積層体においては、前記液晶ポリエステルが、下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を有し、前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、下記一般式(1)で表される繰返し単位を30〜60モル%、下記一般式(2)で表される繰返し単位を20〜35モル%、下記一般式(3)で表される繰返し単位を20〜35モル%有することが好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
本発明の積層体においては、前記一般式(3)において、X及び/又はYがイミノ基であることが好ましい。
本発明の積層体においては、前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、Arが1,4−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基である前記一般式(1)で表される繰返し単位を合計で30〜60モル%有し、Arが1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基である前記一般式(2)で表される繰返し単位を合計で20〜35モル%有し、Arが1,4−フェニレン基であり、且つX及びYの一方が酸素原子であり、他方がイミノ基である前記一般式(3)で表される繰返し単位を20〜35モル%有することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、極薄銅層、剥離層及びキャリア層がこの順に重ねられてなる導体層が絶縁基材上に設けられ、キャリア層の剥離強度が低く、その剥離による反りの発生を抑制できる積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る積層体の一実施形態を例示する概略断面図である。
【図2】本発明に係る積層体から得られた銅張積層板の一実施形態を例示する概略断面図である。
【図3】本発明に係る積層体を用いて得られた回路基板の一実施形態を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<積層体>
本発明に係る積層体は、一枚の絶縁基材若しくは複数枚重ねられた絶縁基材からなる絶縁層の、片面又は両面に、導体層が設けられた積層体であって、前記絶縁基材は、液晶ポリエステルが含浸された繊維シートであり、前記導体層は、厚さが9μm未満の銅層と、剥離層と、キャリア層とが、この順に前記絶縁層側から重ねられてなり、前記キャリア層の剥離時における剥離強度が0.6N/cm以下であることを特徴とする。かかる積層体は、キャリア層を剥離させることで、回路基板の製造に使用する銅張積層板とすることができ、上記のような構成の導体層において、キャリア層の前記剥離強度が0.6N/cm以下であることで、剥離時の応力が低減され、得られる銅張積層板は、反りの発生が抑制される。
【0011】
前記絶縁基材は、液晶ポリエステルが含浸された繊維シート(以下、「液晶ポリエステル含浸基材」という。)であり、例えば、液晶ポリエステル及び溶媒を含む液状組成物(以下、「液晶ポリエステル液状組成物」又は「液状組成物」という。)を繊維シートに含浸させ、溶媒を除去することで製造できる。
【0012】
前記液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。
液晶ポリエステルは、剛直な分子単位であるメソゲンが直鎖状に化学結合を有し、分子全体が剛直なため、寸法安定性に優れている。特に、芳香族液晶ポリエステルは寸法安定性に優れているため、寸法安定性の向上の点から、液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0013】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0014】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0015】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0016】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0017】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0018】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0019】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが1,3−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0021】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0022】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは30〜60モル%、特に好ましくは30〜40モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは30〜35モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは30〜35モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、液晶ポリエステルは耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0023】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0024】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に二種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0025】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基(−NH−)であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、液晶ポリエステルは溶媒に対する溶解性がより優れたものとなる。
【0026】
前記液晶ポリエステルは、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、Arが1,4−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)を合計で30〜60モル%有するものが好ましい。
また、前記液晶ポリエステルは、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、Arが1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)を合計で20〜35モル%有するものが好ましい。
また、前記液晶ポリエステルは、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、Arが1,4−フェニレン基であり、且つX及びYの一方が酸素原子であり、他方がイミノ基である繰返し単位(3)を20〜35モル%有するものが好ましい。
そして、前記液晶ポリエステルは、これら繰返し単位(1)、(2)及び(3)の含有量をすべて満たすものが特に好ましい。
【0027】
液晶ポリエステルは、これを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0028】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃〜350℃、さらに好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、高過ぎると、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、後述する液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
【0029】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、液晶ポリエステルの分子量の目安となる温度である(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。液晶ポリエステルの流動開始温度は、毛細管レオメーターを用いて、液晶ポリエステルを9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度である。
【0030】
前記溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒]×100)で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0031】
前記溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン(N−メチル−2−ピロリドン)等のアミド系化合物(アミド結合を有する化合物);テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられ、これらの二種以上を用いてもよい。
【0032】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。
また、前記非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系化合物を用いることが好ましい。
【0033】
また、溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める、双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5である化合物を用いることが好ましい。
【0034】
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める、1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0035】
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び溶媒の合計量に対して、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは15〜45質量%であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、適宜調整される。
【0036】
液状組成物は、充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分を一種以上含んでもよい。
【0037】
前記充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機充填材;硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機充填材が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部である。
【0038】
前記添加剤の例としては、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤及び着色剤が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜5質量部である。
【0039】
前記液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜20質量部である。
【0040】
液状組成物は、液晶ポリエステル、溶媒、及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することにより調製することができる。他の成分として充填材を用いる場合は、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させて、液晶ポリエステル溶液を得、この液晶ポリエステル溶液に充填材を分散させることにより調製することが好ましい。
【0041】
前記繊維シートを構成する繊維の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維等の無機繊維;液晶ポリエステル繊維、その他のポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維等の有機繊維が挙げられ、これらの線維を一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0042】
繊維シートを構成する繊維は、ガラス繊維であることが好ましい。
前記ガラス繊維の例としては、含アルカリガラス繊維、無アルカリガラス繊維及び低誘電ガラス繊維が挙げられる。
【0043】
繊維シートは、織物(織布)、編物及び不織布のいずれでもよい。なかでも、後述する液晶ポリエステル含浸基材(絶縁基材)の寸法安定性が向上し易いことから、繊維シートは織物であることが好ましい。
【0044】
織物の織り方としては、平織り、朱子織り、綾織り、ななこ織り等が利用できる。織物の織り密度は、10〜100本/25mmであることが好ましい。
【0045】
繊維シートの厚さは、好ましくは10〜200μm、より好ましくは10〜180μmである。
繊維シートの単位面積当たりの質量は、好ましくは10〜300g/mである。
【0046】
繊維シートは、液晶ポリエステルとの密着性が向上するように、シランカップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。
【0047】
液状組成物を繊維シートに含浸させる方法としては、浸漬槽中の前記液状組成物に繊維シートを浸漬する方法が例示できる。この方法においては、液状組成物の液晶ポリエステルの含有量、浸漬時間、浸漬した繊維シートの液状組成物からの引き上げ速度を適宜調節することで、繊維シートへの液晶ポリエステルの付着量を容易に制御できる。
【0048】
液状組成物を含浸させた繊維シートから溶媒を除去する方法は、特に限定されないが、操作が簡便である点で、溶媒を蒸発させる方法が好ましく、加熱、減圧及び通風のいずれかを単独で、又は二つ以上を組み合わせて蒸発させる方法が例示できる。
【0049】
液状組成物が充填材を含有する場合、溶媒を除去して得られた液晶ポリエステル含浸基材における、液晶ポリエステル及び充填材の合計含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、35〜70質量%であることがより好ましい。
【0050】
液晶ポリエステル含浸基材(絶縁基材)は、溶媒除去後にさらに加熱処理することが好ましい。これにより、含浸されている液晶ポリエステルをより高分子量化でき、耐熱性をより向上させることができる。
【0051】
加熱処理は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。そして、加熱温度は、好ましくは240〜330℃、より好ましくは250〜330℃、さらに好ましくは260〜320℃である。下限値以上とすることで、液晶ポリエステル含浸基材の耐熱性がより向上する。加熱時間は、好ましくは1〜30時間、より好ましくは1〜10時間である。下限値以上とすることで、液晶ポリエステル含浸基材の耐熱性がより向上し、上限値以下とすることで、液晶ポリエステル含浸基材の生産性がより向上する。
【0052】
前記絶縁層は、一枚の絶縁基材からなるものでもよいし、複数枚重ねられた絶縁基材からなるものでもよい。
絶縁層が複数枚重ねられた絶縁基材からなる場合、これら複数枚の絶縁基材は、すべて同じでもよいし、一部のみ同じでもよく、すべて異なっていてもよい。また、その枚数は2枚以上であれば特に限定されない。複数枚重ねられた絶縁基材からなる絶縁層は、例えば、複数枚の絶縁基材を、その厚さ方向に重ね合わせ、加熱プレスして互いに融着させ、一体化させることで作製できる。
【0053】
絶縁層の厚さは、20μm〜3mmであることが好ましい。
【0054】
前記導体層は、絶縁層の表面に設けられ、絶縁層の一面のみ、すなわち片面に設けられていてもよいし、一面と、これとは反対側の面との両面に設けられていてもよい。
前記導体層は、銅層、剥離層及びキャリア層が、この順に前記絶縁層側から重ねられてなるものである。キャリア層は、積層体製造時に極薄の銅層の取り扱い性を向上させるために、支持体として用いるものであり、剥離層は、キャリア層を銅層に接着するものである。
【0055】
前記銅層は、厚さが9μm未満であり、ファインパターン用途の回路基板を製造するためには、5μm以下であることが好ましい。
銅層は、材料の取扱いが容易で、簡便に形成でき、経済性にも優れる点から、銅箔からなるものが好ましい。
銅層は、後述するキャリア層の剥離が容易で、微細な回路の形成が容易になる点から、表面粗さ(Rz)が3.5μm未満であることが好ましい。
【0056】
前記剥離層及びキャリア層は、公知のものと同様でよい。
例えば、キャリア層は、支持体として使用できる限り、その材質及び厚さは特に限定されないが、製造工程の簡略化が可能で、製造コストを抑制でき、機械特性及び化学特性に優れる点から、厚さが8〜35μmの銅箔が好ましい。なお、本明細書においては、特に断りのない限り、「銅層」とは、後述するようにパターニングによって回路を形成するための極薄銅層を意味するものとする。
キャリア層の厚さは、好ましくは25μm以下、より好ましくは18μm以下である。
剥離層の質量は、好ましくは0.03〜50mg/dmである。
【0057】
キャリア層の表面粗さ(Rz)は、0.1〜3μmであることが好ましい。表面粗さが0.1μm以上であれば、積層体を容易に量産できる。一方、キャリア層の表面が粗いと、積層体の製造時にこの粗さを反映して銅層の表面も粗くなる(粗さが転写される)ことがあるが、キャリア層の表面粗さが3μm以下であれば、銅層の表面粗さも小さくなり、ファインパターン用途の回路基板の製造にさらに適したものとなる。
【0058】
導体層を絶縁層の両面に設ける場合、これら導体層の種類は、互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0059】
導体層は、例えば、キャリア層上にめっきによって剥離層及び銅層を順次形成することで得られる。
【0060】
剥離層を形成する場合には、キャリア層の表面を通常の酸洗処理、アルカリ脱脂、電解洗浄等の適切な前処理によって洗浄してから、めっきすることが好ましい。
剥離層は、例えば、モリブデン化合物及びニッケル化合物を含む電解液を用いて、電気めっきを行うことで形成できる。前記モリブデン化合物の例としては、モリブデン酸ナトリウム等の金属塩が挙げられ、前記ニッケル化合物の例としては、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル等の各種金属塩が挙げられる。
【0061】
前記電気めっきにおいては、金属イオンの溶解性や析出状態を安定化させる目的で、電解液にクエン酸等の多価カルボン酸のように、配位結合により錯体を形成する配位子となる化合物を添加してもよいし、抵抗値調整の目的で、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。
【0062】
前記電解液におけるモリブデン化合物の濃度は、金属換算で好ましくは0.1〜10g/l、より好ましくは0.5〜2g/lである。また、前記電解液におけるニッケル化合物の濃度は、金属換算で好ましくは0.6〜60g/l、より好ましくは3〜12g/lである。
前記電解液における配位子となる化合物の濃度は、ナトリウムイオンを除く金属種に対して、モル換算で好ましくは0.2〜5倍、より好ましくは0.5〜2倍である。
【0063】
電解液の温度は、好ましくは5〜70℃、より好ましくは10〜50℃である。
ニッケル、モリブデン及び酸素からなる層を電気分解により析出させるときの電流密度は、好ましくは0.2〜10A/dm、より好ましくは0.5〜5A/dmであり、主としてモリブデン及び酸素からなる層を電気分解により析出させるときの電流密度は、好ましくは0.2〜0.5A/dmである。
電解液のpHは、好ましくは2〜8、より好ましくは4〜7である。
【0064】
このような条件で電気めっきを行うと、まず、主としてニッケル及びモリブデンが金属として析出し、電気めっきの進行とともに酸化物が主として析出する。これは、ニッケル金属イオンが消費される一方で、その供給が拡散律則により制限されるために、ニッケル濃度が低下することによる。ニッケル濃度が十分に低下した段階で、低電流密度で電気分解を継続することにより、主としてモリブデン及び酸素からなる層が析出する。一方、この間にニッケル濃度が拡散により回復し、再度、電流密度を増加させることにより、主としてニッケル及びモリブデンが金属として析出する。
以上の過程により、モリブデン、ニッケル及び酸素の濃度は連続的に変化して、明確な界面を形成せず、界面における熱膨張係数などの差異に起因する剥離が発生しにくくなる。さらに、析出物に対して100〜300℃で加熱処理を行ってもよい。加熱処理によって、界面がより不明確になるとともに、微量の水酸化物等、加熱時にガス化してフクレの原因となる不純物が拡散して、フクレの発生を防止できる。
【0065】
一方、銅層を形成する場合には、例えば、ピロ燐酸銅及び/又は硫酸銅を主成分とする電解液を用いて、電気めっきを行うことで形成できる。ピロ燐酸銅を用いた場合には、銅層中でのピンホールの発生抑制効果が高くなり、硫酸銅を用いた場合には、高速めっきが可能となり、銅層を効率よく形成できる。そして、ピロ燐酸銅及び硫酸銅を併用した場合には、所望の厚さでピンホールの発生が抑制された銅層を、効率よく形成できる。
【0066】
導体層としては、市販品を用いてもよく、その例としては、日本電解社製の「YSNAP」が挙げられる。
【0067】
導体層は、銅層の表面を、クロメート処理等の公知の方法により防錆処理してもよい。また、必要に応じて、絶縁層との接着強度を向上させる目的で、銅層の表面をシランカップリング剤等で接着強化処理してもよい。
【0068】
絶縁層上に導体層を設ける方法としては、導体層中の銅層を絶縁層の表面に加熱プレス等で融着させる方法、導体層中の銅層を絶縁層の表面に接着剤で接着させる方法が例示できる。
【0069】
加熱プレスは、真空条件下、例えば、0.5kPa以下等の減圧下で行うことが好ましい。
加熱プレス時の加熱温度の上限値は、用いた液晶ポリエステルの分解温度を下回るように設定すればよいが、前記分解温度よりも30℃以上低い温度であることが好ましい。液晶ポリエステルの分解温度は、例えば、熱重量減少分析等の公知の手法で測定できる。
また、加熱プレス時の圧力は、1〜30MPaであることが好ましく、時間は10〜60分であることが好ましい。
【0070】
絶縁層が、複数枚重ねられた絶縁基材からなり、上記のように、銅層を絶縁層の表面に融着させて、導体層を設ける場合には、絶縁層を構成する複数枚の絶縁基材と、導体層とを、それぞれこれらの厚さ方向に重ねて同時に加熱プレスしてもよい。このように、絶縁基材の加熱プレス時に、重ねたときに最も外側に位置する絶縁基材の表面に、さらに導体層を重ねて、これら導体層及び複数の絶縁基材を加熱プレスすることで、絶縁層形成時に導体層を同時に設けることができる。
【0071】
図1は、ここまでに説明した本発明に係る積層体の一実施形態を例示する概略断面図である。ここに示す積層体1は、絶縁層11の一方の面に第一の導体層12が設けられ、反対側の他方の面に第二の導体層13が設けられたものである。
第一の導体層12は、第一の銅層121、第一の剥離層122及び第一のキャリア層123が、この順に絶縁層11側から重ねられてなるものである。同様に、第二の導体層13は、第二の銅層131、第二の剥離層132及び第二のキャリア層133が、この順に絶縁層11側から重ねられてなるものである。
絶縁層11は、一枚の絶縁基材若しくは複数枚重ねられた絶縁基材からなる。
ここでは、絶縁層11の両面に導体層が設けられた例を示しているが、導体層は片面のみに設けられていてもよく、第一の導体層12及び第二の導体層13のいずれか一方が設けられていなくてもよい。
【0072】
本発明に係る積層体は、キャリア層を剥離させることで、回路基板の製造に使用する銅張積層板とすることができる。このとき、キャリア層は、典型的には剥離層と共に銅層から剥離され、銅張積層板としては、絶縁層上に銅層が露出されたものが得られる。
【0073】
図2は、本発明に係る積層体から得られた銅張積層板の一実施形態を例示する概略断面図である。ここに示す銅張積層板10は、図1に示す積層体1から得られたものであり、積層体1から第一の剥離層122及び第一のキャリア層123、並びに第二の剥離層132及び第二のキャリア層133が剥離されてなるものである。
【0074】
本発明に係る積層体は、キャリア層の剥離時における剥離強度が0.6N/cm以下である。このような範囲であることで、剥離時の応力が低減され、得られる銅張積層板は、反りの発生が抑制される。また、前記剥離強度の下限値は、キャリア層を安定して銅層に接着させる点から、0.1N/cmであることが好ましい。
前記剥離強度は、例えば、剥離層の種類を調節することで、容易に調節できる。
また、剥離強度は、「JIS C6511」に規定する方法に準拠して測定できる。
【0075】
<回路基板>
本発明に係る積層体は、回路基板の製造に適用される。かかる回路基板は、前記積層体からキャリア層を剥離して得られた銅張積層板において、銅層を所定の配線パターンにパターニングして、回路を形成することで製造できる。銅層のパターニングは、エッチング等、公知の方法で行えばよい。
【0076】
回路基板は、絶縁層のTg(ガラス転移温度)以上、Tg+150℃以下の温度範囲で熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度がTg以上であることで、絶縁層は寸法安定化効果により優れ、Tg+150℃以下であることで、絶縁層の劣化抑制効果が高くなる。熱処理は、Tg以上の温度で処理する時間の合計が30分〜3時間であることが好ましく、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0077】
図3は、本発明に係る積層体を用いて得られた回路基板の一実施形態を例示する概略断面図である。ここに示す回路基板100は、図1に示す積層体1から得られたものであり、積層体1を銅張積層板10とした後、第一の銅層121及び第二の銅層131をパターニングして、それぞれ第一の回路120及び第二の回路130を形成したものである。
【0078】
前記回路基板は、銅張積層板と同様に反りの発生が抑制されており、加工性に優れる。そして、微細な線幅や線間ピッチの配線からなるファインパターン用として好適である。
【実施例】
【0079】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
なお、液晶ポリエステルの流動開始温度、液状組成物の粘度、積層体のキャリア箔(キャリア層)の剥離強度、銅張積層板の反り量は、それぞれ以下の方法で測定した。
【0080】
(液晶ポリエステルの流動開始温度の測定)
フローテスター(島津製作所社製「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0081】
(液状組成物の粘度の測定)
B型粘度計(東機産業社製「TVL−20型」)を用いて、No.21のローターにより、回転速度5rpmで測定した。
【0082】
(積層体のキャリア箔の剥離強度の測定)
積層体から測定用試料を切り出し、「JIS C6511」に規定する方法に準拠して、測定試料幅を10mmとして積層体からキャリア箔を引き剥がし、90°ピール強度(N/cm)を測定する操作を3回繰り返して、その平均値を測定値とした。
【0083】
(銅張積層板の反り量の測定)
250mm×250mmの積層体の両面からキャリア箔を剥離させて、銅張積層板とし、これを定盤上に固定した。このとき、銅張積層板は、反りが生じている場合の凸状面が定盤表面に接触するように(凹状面が上方向を向くように)して、四つの隅のうち三つの隅を定盤表面に押さえつけて、残りの一つの隅について、定盤表面からの持ち上がり量(mm)を測定し、四つの隅すべてについて持ち上がり量を測定して、そのうちの最大値を反りの量とした。
【0084】
<液晶ポリエステル液状組成物の製造>
[製造例1]
(液晶ポリエステルの製造)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(1976g、10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド(1474g、9.75モル)、イソフタル酸(1620g、9.75モル)及び無水酢酸(2374g、23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で攪拌しながら、15分間かけて室温から150℃まで昇温し、この温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
次いで、留出する副生成物の酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて150℃から300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出した。この内容物を室温まで冷却し、得られた固形物を粉砕機で粉砕し、粉末状の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。このプレポリマーの流動開始温度は235℃であった。このプレポリマーを窒素ガス雰囲気下において、6時間かけて室温から223℃まで昇温し、223℃で3時間保持して加熱処理することにより、固相重合を行い、次いで冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は270℃であった。
【0085】
(液状組成物の製造)
得られた液晶ポリエステル(2200g)をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)(7800g)に加え、100℃で2時間加熱して、液晶ポリエステル溶液を得た。この液晶ポリエステル溶液に球状シリカ(龍森社製)を分散させて、液状組成物を得た。このとき球状シリカは、液晶ポリエステル及び球状シリカの合計体積に対して、23℃において20体積%を占めるように分散させた。この液状組成物について、測定温度23℃で粘度を測定したところ、0.2Pa・s(200cP)であった。
【0086】
<積層体及び銅張積層板の製造>
[実施例1]
(積層体の製造)
ガラスクロス(日東紡績社製、厚さ45μm、IPC名称1078)を、製造例1で得られた液状組成物に浸漬した後、熱風式乾燥機を用いて、160℃で溶媒を蒸発させることで、液晶ポリエステル含浸基材を得た。この液晶ポリエステル含浸基材の球状シリカと液晶ポリエステルとの合計含有量は56質量%であった。
次いで、熱風式乾燥機を用いて、この液晶ポリエステル含浸基材を窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間加熱処理し、絶縁基材を得た。この絶縁基材の厚さは、平均で64μmであった。
次いで、この絶縁基材を5枚重ね、最も外側に位置する1枚目及び5枚目の絶縁基材のそれぞれの表面(5枚重ねられた絶縁基材からなる絶縁層の両面)上に、導体層として、キャリア箔、剥離層及び極薄銅層がこの順に重ねられてなるキャリア箔付き極薄銅箔(日本電解社製「YSNAP−2T」、キャリア箔の厚さ:18μm、極薄銅層の厚さ:2μm)を、その極薄銅層が前記絶縁基材(絶縁層)に対向するように配置し、この状態で高温真空プレス機(北川精機社製「KVHC−PRESS」、縦300mm、横300mm)を用いて、両面側から340℃で30分、10MPaで加熱プレスし、250mm角の積層体を得た。導体層を除いた積層体(すなわち絶縁層)の厚さは、平均で272μmであった。
【0087】
(銅張積層板の製造)
得られた積層体の両面から、以下の手順でキャリア箔を剥離させて、銅張積層板とした。すなわち、まず積層体の一方の面において、この積層体の一方の隅からその対角線上にある他方の隅へ向けてキャリア箔を剥離層と共に極薄銅層から剥離させた。次いで、積層体の他方の面(反対側の面)において、この積層体の一方の隅からその対角線上にある他方の隅へ向けて、キャリア箔を剥離層と共に極薄銅層から剥離させた。このとき剥離の開始点となる隅は、一方の面における剥離の終点の隅と一致させ、剥離の終点となる隅は、一方の面における剥離の開始点の隅と一致させることで、両面の剥離方向が、互いに反対となるようにした。
【0088】
[実施例2]
キャリア箔付き極薄銅箔として、「YSNAP−2T」に代えて、日本電解社製「YSNAP−3B」(キャリア箔の厚さ:18μm、極薄銅層の厚さ:3μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様に積層体及び銅張積層板を製造した。
【0089】
[比較例1]
キャリア箔付き極薄銅箔として、「YSNAP−2T」に代えて、古河電気工業社製の「F−HP」(キャリア箔の厚さ:18μm、極薄銅層の厚さ:3μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様に積層体及び銅張積層板を製造した。
【0090】
[比較例2]
キャリア箔付き極薄銅箔として、「YSNAP−2T」に代えて、三井金属鉱業株式会社製の「MTSD−H」(キャリア箔の厚さ:18μm、極薄銅層の厚さ:3μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様に積層体及び銅張積層板を製造した。
【0091】
<積層体及び銅張積層板の評価>
上記各実施例及び比較例で製造した積層体について、キャリア箔の剥離強度を測定し、銅張積層板について、反り量を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1から明らかなように、実施例1及び2の積層体では、キャリア箔の剥離強度が低く、銅張積層板の反りが抑制されていた。
これに対して、比較例1の積層体では、キャリア箔の剥離強度が高く、銅張積層板の反りが大きくなっていた。
また、比較例2の積層体では、キャリア箔が融着してしまっており、剥離させることができず、銅張積層板が得られず、反り量も測定できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、ファインパターン用途の回路基板の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0095】
1・・・積層体、10・・・銅張積層板、11・・・絶縁層、12・・・第一の導体層、121・・・第一の銅層、122・・・第一の剥離層、123・・・第一のキャリア層、13・・・第二の導体層、131・・・第二の銅層、132・・・第二の剥離層、133・・・第二のキャリア層、100・・・回路基板、120・・・第一の回路、130・・・第二の回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一枚の絶縁基材若しくは複数枚重ねられた絶縁基材からなる絶縁層の、片面又は両面に、導体層が設けられた積層体であって、
前記絶縁基材は、液晶ポリエステルが含浸された繊維シートであり、
前記導体層は、厚さが9μm未満の銅層と、剥離層と、キャリア層とが、この順に前記絶縁層側から重ねられてなり、
前記キャリア層の剥離時における剥離強度が0.6N/cm以下であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記繊維シートを構成する繊維がガラス繊維であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を有し、前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、下記一般式(1)で表される繰返し単位を30〜60モル%、下記一般式(2)で表される繰返し単位を20〜35モル%、下記一般式(3)で表される繰返し単位を20〜35モル%有することを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【請求項4】
前記一般式(3)において、X及び/又はYがイミノ基であることを特徴とする請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、
Arが1,4−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基である前記一般式(1)で表される繰返し単位を合計で30〜60モル%有し、
Arが1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基である前記一般式(2)で表される繰返し単位を合計で20〜35モル%有し、
Arが1,4−フェニレン基であり、且つX及びYの一方が酸素原子であり、他方がイミノ基である前記一般式(3)で表される繰返し単位を20〜35モル%有することを特徴とする請求項3又は4に記載の積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−107323(P2013−107323A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254959(P2011−254959)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】