説明

積層体

【課題】優れた耐熱性を示す熱可塑性エラストマーの積層体を提供する。
【解決手段】塩素化ポリオレフィンに下記一般式(1)で示されるマレイミド化合物をグラフト重合してなる変性塩素化ポリオレフィンを含む熱可塑性エラストマーで、その組成が塩素化ポリオレフィン30〜90重量%である熱可塑性エラストマーと、その他のポリマーから構成されていることを特徴とする積層体。


(式中、Rは芳香族基、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基、炭素数3〜12の分岐状アルキル基、又は炭素数3〜12の環状アルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強固に接着した熱可塑性エラストマーの積層体に関する。本発明の積層体は、シート、ホース等に使用される。特に耐熱性、及び耐油性が要求される部材に関して適しており、産業機械用、及び自動車用ホースに好適である。
【背景技術】
【0002】
近年の産業機械や自動車関連の分野では小型化、及びエンジンの高出力化に伴い、構成部品に対しても高度の耐熱性が要求されている。特に燃料油、潤滑油やそれらを含むミストが接触する部品に対しても高度の耐熱性が要求されている。柔軟性及び弾力性に優れる熱可塑性エラストマーを積層体として用いた部材は、その特徴を他のポリマーに付与することができることが知られている。このような積層体は、ホース、コネクタ、シート、チューブ、コード、ケーブル等の様々な形態で使用されており、自動車のエンジン周りの部品などの自動車用途、産業機械用途、電気・電子機器用途などが挙げられる。
【0003】
そこで、従来はポリオレフィン系エラストマー(TPO)による積層体が提案されている(特許文献1、及び特許文献2)。
【0004】
しかしながら、上記積層体は耐熱性が十分でなく、長期間高温にさらされた場合物性が低下するという問題を有していた。
【0005】
一方、ポリオレフィンを塩素化して製造される塩素化ポリオレフィンは、一般的に、加硫物や熱可塑性エラストマーとして利用され、耐油性、耐候性、難燃性、耐薬品性などに優れる。そのため、加硫物としては、例えば、電線被覆材、ホース、パッキン等の工業部品に使用されている。また、未加硫物として、例えば塩化ビニル等の樹脂改質剤、ルーフィングシート、ポンドライナー等の工業部品に使用されている。塩素化ポリエチレンの加硫物は、通常、未加硫物を成形加硫することにより製造される。一般的に、加硫物は熱硬化タイプであり、熱可塑性を示さない。したがって、熱等により容易に加工できないので、再利用しにくい。塩素化ポリエチレンの未加硫物は熱可塑性を示す。しかし、低い熱溶融温度のため、高温雰囲気化で利用することが出来ず、耐熱性の求められていない用途に限定されている。
【0006】
塩素化ポリオレフィンに不飽和モノマーをグラフト化することによりグラフト化塩素化ポリエチレンを合成し、種々の特性を付与する検討が行われている(特許文献3、及び特許文献4)。
【0007】
しかしながら、これらのグラフト化塩素化ポリエチレンの欠点は、弾性が温度の上昇と共に低下し、高温雰囲気化では実用に供しない。積層体として用いた場合、熱溶融温度が低く、耐熱性に劣るため、高温での使用に難が有る点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平07−66907号公報
【特許文献2】国際公開WO00/40884号公報
【特許文献3】米国特許第3496251号公報
【特許文献4】特許第2722408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、優れた密着性を示す、耐熱性に優れた熱可塑性エラストマーの積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題を解決するために検討を行った結果、特定の組成を持つ熱可塑性エラストマーを用いると、高い耐熱性を維持しつつ、優れた密着性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、塩素化ポリオレフィンに特定の一般式で示されるマレイミド化合物をグラフト重合してなる変性塩素化ポリオレフィンを含む熱可塑性エラストマーで、その組成が塩素化ポリオレフィン30〜90重量%である熱可塑性エラストマーと、その他のポリマーから構成されていることを特徴とする積層体である。
【0011】
以下本発明についてさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明の積層体は、所定の熱可塑性エラストマーと、その他のポリマーから構成されている。
【0013】
本発明の積層体を構成している熱可塑性エラストマーは、塩素化ポリオレフィンに下記一般式(1)で示されるマレイミド化合物をグラフト重合してなる変性塩素化ポリオレフィンを含むものである。
【0014】
【化1】

(式中、Rは芳香族基、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基、炭素数3〜12の分岐状アルキル基、又は炭素数3〜12の環状アルキル基を表す。)
本発明における塩素化ポリオレフィンは、ポリオレフィンを塩素化して得られる塩素化ポリオレフィンであれば特に限定するものではなく、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化エチレン−α−オレフィン共重合体、塩素化α−オレフィン重合体、塩素化α−オレフィン共重合体、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等が挙げられる。これらの塩素化ポリオレフィンは単独、または2種類以上のブレンド体であっても問題なく使用可能である。ここに、塩素化としては、例えば、1,1,2−トリクロロエタン、クロロホルム、塩化ベンゼン、フッ化ベンゼン、四塩化炭素、水等の塩素化反応に不活性な溶剤に溶解又は懸濁させたポリオレフィンを、ラジカル発生剤または紫外線の存在下で、塩素ガスや塩化スルフリル等の塩素化剤で塩素化すること等が挙げられる。
【0015】
塩素化ポリオレフィン中に含まれる塩素含有量は特に制限するものではないが、塩素を含有させる製造上の容易性等のため、1〜75重量%が好ましい。塩素化ポリオレフィンの溶媒への溶解性及び生産性を考えた場合、3〜60重量%がさらに好ましく、5〜50重量%が特に好ましい。
【0016】
本発明における熱可塑性エラストマーの塩素化ポリオレフィンの含量は30〜90重量%である。30重量%未満では、熱可塑性が低くなり、成型不良となりやすく、90重量%を超えると耐熱性、及び室温での物性(特にモジュラス)が低下する。熱可塑性と物性のバランスの点で、35〜90重量%が好ましい。
【0017】
本発明における一般式(1)で示されるマレイミド化合物としては、例えば、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(3−メチルフェニル)マレイミド、N−(3−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−(3−メトキシフェニル)マレイミド、N−(4−メトキシフェニル)マレイミド等が挙げられる。これらのうち、熱可塑性エラストマーの耐熱性の点からN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドが好ましい。
【0018】
本発明のポイントは、基本原料として塩素化ポリオレフィンと、モノマーとして一般式(1)で示されるマレイミド化合物を用いることである。即ち、一般式(1)で示されるマレイミド化合物をモノマーとして使用することによって、塩素化ポリオレフィンの強度が向上するだけでなく、耐熱性、及び接着性が向上することを見出した。理由は定かではないが、マレイミド化合物により塩素化ポリオレフィンがグラフト化したことが原因と考えられる。
【0019】
本発明における熱可塑性エラストマーは、必要に応じて、以下に説明する、分子量調節剤、酸化防止剤、その他の単量体残基等を含有していてもよい。
【0020】
本発明における熱可塑性エラストマーは、塩素化ポリオレフィンの存在下、ラジカル発生剤と、下記一般式(1)で示されるマレイミド化合物をグラフト重合することにより得ることができる。
【0021】
【化2】

(式中、Rは芳香族基、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基、炭素数3〜12の分岐状アルキル基、又は炭素数3〜12の環状アルキル基を表す。)
グラフト重合の方法としては、特に限定するものではないが、例えば、ラジカルグラフト重合として、塩素化ポリオレフィンを溶媒に溶解、又は押出し機などを用いて攪拌しながら、一括又は連続で、マレイミド化合物、及び必要に応じてその他の単量体を添加して、ラジカル発生剤により重合し、所定の重合転化率に到達したところで、酸化防止剤を添加し、必要により溶剤又は未反応モノマーを、洗浄、減圧除去し、乾燥すること等によって、本発明における熱可塑性エラストマーを得ることができる。ラジカル発生剤、及びその他の単量体は、必要に応じて、一括又は連続で添加することができる。
【0022】
上記ラジカル発生剤としては、例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1、−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などのパーオキサイド類、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4‘−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2.2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジハオドロクロライド、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート等のアゾ化合物、場合によっては、硫酸第一鉄等の第一鉄円、タイドロサルファイトナトリウム、アスコルビン酸、エリソルビン酸、アニリン、三級アミン等の還元剤を添加して重合を行うことができる。
【0023】
また、分子量を調整するため、及び分子鎖間架橋を抑制するため、重合反応時に分子量調節剤を添加しても良い。分子量調節剤としては、例えば、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド、2,2’−ジチオジプロピオン酸、3,3’−ジチオジプロピオン酸、4,4’−ジチオジブラン酸、2,2’−ジチオビス安息香酸のどのジスルフィド類、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、3−メルカプト安息香酸、4−メルカプト安息香酸、チオマロン酸、ジチオカハク酸、チオマレイン酸、チオマレイン酸無水物、ジチオマレイン酸、チオグルタール酸、システイン、ホモシステイン、6−メルカプトテトラゾール酢酸、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸などのメルカプタン類、ジフェニルエチレン、p−クロロジフェニルエチレン、p−シアノジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマー、ベンジルジチオベンゾエート、有機テルル化合物、イオウ等を用いることができる。
【0024】
反応温度は特に限定するものではないが、重合速度、グラフト効率、及び分解等の副反応の抑制を考慮すると、0〜200℃が好ましく、5〜180℃がさらに好ましい。
【0025】
上記酸化防止剤とは、特に限定するものではなく、ポリマーの酸化防止剤として一般に利用されているもので、例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2−ビス〔{[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]オキシ}メチル〕プロパン−1,3−ジオール1,3−ビス[3−(tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4′−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(ノルマルオクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、2,4−ビス〔(オクチルチオ)メチル〕−オルト−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、3,9−ビス[2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5・5〕ウンデカンなどのフェノール系酸化防止剤、2,2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル−ベンゾトリアゾール、4,4’−ビス−(2,2−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、ビス(1,2,2,6、6−ペンタメチル−4−ピペリジルデカンジオナートなどのアミン系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾールなどのイオウ系酸化防止剤、トリスノニルフェニルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどのリン系酸化防止剤、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルなどの安定ラジカル系酸化防止剤等が挙げられる。
【0026】
必要に応じて添加するその他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、メタアクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸n−オクタデシル、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸1−シアノエチル、(メタ)アクリル酸2−シアノエチル、(メタ)アクリル酸1−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸3−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸4−シアノブチル、(メタ)アクリル酸6−シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチル−6−シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸8−シアノオクチル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、メタアクリル酸n−プロポキシプロピル、メタアクリル酸n−ブトキシプロピル等を例示することができる。
【0027】
さらに、(メタ)アクリル酸1,1−ジヒドロペルフルオロエチル、(メタ)アクリル酸1,1−ジヒドロペルフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸1,1,5−トリヒドペルフルオロヘキシル、(メタ)アクリル酸1,1,2,2−テトラヒドロペルフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸1,1,7−トリヒドロペルフルオロヘプチル、(メタ)アクリル酸1,1−ジヒドロペルフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸1,1−ジヒドロペルフルオロデシル、(メタ)アクリル酸1−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジブチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エステル類以外の成分としてはメチルビニルケトン等のアルキルビニルケトン化合物、ビニルエチルエーテル等のアルキルビニルエーテル化合物、アリルメチルエーテル等のアリルエーテル化合物、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンなどのビニル芳香族化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル化合物、アクリルアミド、プロピレン、ブダジエン、イソプレン、ペンタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、プロピオン酸ビニル、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸等を例示することができる。好ましくは、スチレン類、アクリロニトリル類、および(メタ)アクリル酸エステル類を挙げることができ、総モノマー中50重量%以下の割合で加えることができる。
【0028】
ラジカルグラフト重合を溶媒中で行い、本発明における熱可塑性エラストマーを製造する場合、溶媒としては1,1,2−トリクロロエタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロフロオロベンゼン、トリメチルベンゼン、クロロナフタレン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、テトラヒドロフラン、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アセチルクエン酸トリブチル、エチルベンゼン、ジオキサン、ターシャリーブタノール等を用いることができる。重合終了後、メタノール等の不溶性溶剤による析出、ドラムドライヤー、及びベント付き押出し機等を用いた濃縮、乾燥により目的とする熱可塑性エラストマーが得られる。
【0029】
本発明の積層体を構成しているその他のポリマーとしては、上記した本発明における熱可塑性エラストマー以外のポリマーであれば特に限定するものではないが、例えば、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、又はこれらから選ばれる1種以上のポリマーを含む組成物等を挙げることができる。
【0030】
本発明の積層体の製造方法は特に限定されず、本発明における熱可塑性エラストマーまたはその他のポリマーのどちらか一方を加熱溶融して成形した後、その表面にもう一方を加熱溶融して接着する方法(オーバーモールディング)や、本発明における熱可塑性エラストマーとその他のポリマーを加熱溶融して同時に一体成形する方法(コモールディング)などが挙げられる。また熱可塑性ラストマーとその他のポリマーを別々に加熱溶融して2つの成形品を作成し、得られた成形品の接触面付近を加熱して融着させる方法などが挙げられる。これらの中でも、作業性の点から、オーバーモールディングやコモールディングが好ましい。
【0031】
本発明の積層体は、ブレーキホース、水ホース等の各種ホース、チューブ類、ハイテンションコード等のケーブル被覆材料、コネクター等のシール部品、ブーツ類、Oリング、パッキン、ガスケット等のシール類、自動車内装部品、外装部品、エンジン周りの部品の材料として高い耐熱性が求められる用途に使用することができる。また、電線ケーブル、光ケーブル、ワイヤー、コード等の被覆材料、一般用途として、ハンドル、ソフトグリップ等の工具用材料に使用することができる。本発明の積層体をホース、コネクタ、シート等に適用する場合に、内層と外層は特に限定されない。
【発明の効果】
【0032】
本発明の積層体は、優れた耐熱性を示すため、エアーダクト、油圧ホース、パッキン等の高い耐熱性が要求される各種広範囲な用途での使用が期待される。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに制限されるものではない。
【0034】
なお、以下の実施例等で用いた値は以下の測定法で行ったものである。
【0035】
<グラフト重合におけるモノマーの重合率>
モノマーの重合率は、反応終了時の溶液を少量採取し、重合していないモノマー量を、ガスクロマトグラフィー(G−17A、島津製作所製)を用いて、ガスクロマトグラフィー分析を行うことにより、求めた。
【0036】
昇温プログラム(スチレン)=70℃×0分ホールド後、3℃/分で300℃まで昇温
内部標準=デカン
<塩素量>
塩素量の測定は、最初に、吸収液として1.7重量%硫酸ヒドラジニウム水溶液15mlを入れた燃焼フラスコ内で得られた熱可塑性エラストマー30mgを酸素燃焼法に従い燃焼させ、30分静置した。次に、この吸収液を純水100mlで洗い出し、濃度0.05Nの硝酸銀水溶液で電位差滴定法により塩素イオンを定量することにより求めた。
【0037】
<ジメチルホルムアミド抽出量>
N−フェニルマレイミドポリマーはジメチルホルムアミドに可溶であり、塩素化ポリオレフィンはジメチルホルムアミドに不溶であることから、熱可塑性エラストマーをジメチルホルムアミドにより抽出処理を行った。熱可塑性エラストマーをジメチルホルムアミドにて抽出した。ジメチルホルムアミド抽出量は、得られた熱可塑性エラストマーをジメチルホルムアミドによるソックスレー抽出法により、ジメチルアミド溶解した成分の重量から求めた。
【0038】
<積層体の調製、及びその接着強度の測定>
以下に示す被着体の縦16cm×横16cm×厚さ2mmのシートを被着体として用い、230℃×10MPaにて接着し、1インチ幅に切り出した試験片を測定に用いた。接着強度の測定はテンシロン型引張試験機を用いて23℃の雰囲気下にて、50mm/minの引張速度で180°方向の引張にて行った。測定は接着してから24hr後に実施した。
【0039】
被着体の材質:
ポリエステル系エラストマー(TPEE)…ハイトレル4275BK316(東レデュポン社製)
ポリカーボネート…パンライトL−1225(帝人化成社製)
<引張強さ、伸び>
引張強さ、伸びはJIS K6251に準拠して、ダンベル状3号形試験片にて500±50mm/minの引張速度にて測定した。
【0040】
<硬さ>
硬さは、JIS K6253に準拠して、デュロメーター硬さ試験タイプDにて測定した。
【0041】
<耐熱性>
耐熱性はJIS K6394に準拠し、粘弾性アナライザー((株)上島製作所製:VR−7210)にて、−10℃〜200℃、周波数10Hzの測定条件で測定を行い、試験片が切断することにより弾性が発現しなくなった時の温度にて評価を行った。
【0042】
<圧縮永久歪み>
圧縮永久歪みはJIS K6262に準拠し、100℃で22時間後の圧縮永久歪み率を測定することにより評価した。
【0043】
<試験片の作製>
プレス成型(230℃×10MPa)にて、試験片を作製した。
【0044】
<透過型電子顕微鏡(TEM)観察>
上記プレス成型により、厚さ0.3mmの熱可塑性エラストマーのシートを作製し、熱硬化性エポキシ樹脂で包理し、切削ブロックを調製した。これをRuO4蒸気中で一昼夜染色した後、ウルトラミクロトームで超薄切片を調製した。このサンプルの相分離構造を、透過型電子顕微鏡(日本電子製、JEM−2000FX(加速電圧160KV))を用いて観察した。
【0045】
製造例1
窒素雰囲気下1Lのガラスフラスコに塩素化ポリエチレン(昭和電工(株)製、エラスレン402NA、塩素含有量40重量%)を10.0g(100重量部)、ドデシルメルカプタン0.02g、N−フェニルマレイミド6.0g(60重量部)、1,1,2−トリクロロエタン184gを仕込み、内部を窒素で置換し、116℃に加熱した。その後、ラジカル開始剤0.25g(日油(株)、パーブチル−O、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)を1,1,2−トリクロロエタン87gに溶かした溶液を、8時間かけて滴下して反応を実施した。反応開始より9時間後のN−フェニルマレイミドの重合率は100%であった。得られた反応液を、濃縮、乾燥し、粗ポリマーを取得した。さらに、得られたポリマーをアセトンで2回洗浄した後、乾燥し、熱可塑性エラストマーを合成した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は25.0重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは62.5重量%であった。
【0046】
得られた熱可塑性エラストマーをプレス成型により試験片を調製し、評価を行った。分析結果及び評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

実施例1
製造例1で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は6.0N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は5.1N/mmであった。
【0048】
製造例2
N−フェニルマレイミド9.0g(90重量部)を用いた以外は、製造例1と同様に反応を行い、熱可塑性エラストマーを取得した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。N−フェニルマレイミドの重合率は100%であった。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は21.1重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは52.7重量%であった。分析結果及び評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例2
製造例2で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は5.2N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は5.4N/mmであった。
【0050】
製造例3
N−フェニルマレイミド2.0g(20重量部)を用いた以外は、製造例1と同様に反応を行い、熱可塑性エラストマーを取得した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。N−フェニルマレイミドの重合率は100%であった。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は33.3重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは83.3重量%であった。分析結果及び評価結果を表1に示す。
【0051】
実施例3
製造例3で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は5.8N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は4.9N/mmであった。
【0052】
製造例4
塩素化ポリエチレンにエラスレン351AE(昭和電工(株)製、塩素含有量35重量%)を用いた以外は、製造例1と同様に反応を行い、熱可塑性エラストマーを取得した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。N−フェニルマレイミドの重合率は100%であった。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は21.9重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは62.5重量%であった。分析結果及び評価結果を表1に示す。
【0053】
実施例4
製造例4で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は4.8N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は3.6N/mmであった。
【0054】
製造例5
塩素化ポリエチレンにエラスレン351AE(昭和電工(株)製、塩素含有量35重量%)を用いた以外は、製造例2と同様に反応を行い、熱可塑性エラストマーを取得した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。N−フェニルマレイミドの重合率は100%であった。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は18.4重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは52.6重量%であった。分析結果及び評価結果を表1に示す。
【0055】
実施例5
製造例5で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は4.6N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は4.7N/mmであった。
【0056】
製造例6
窒素雰囲気下1Lのガラスフラスコに塩素化ポリエチレン(昭和電工(株)製、エラスレン402NA、塩素含有量40重量%)を10g(100重量部)、ドデシルメルカプタン0.02g、N−フェニルマレイミド6.0g(60重量部)、スチレン6.0g(60重量部)、1,1,2−トリクロロエタン184gを仕込み、内部を窒素で置換し、110℃に加熱した。その後、ラジカル開始剤0.25g(日油(株)、パーブチル−O)を1,1,2−トリクロロエタン87gに溶かした溶液を、8時間かけて滴下して反応を実施した。8時間後のN−フェニルマレイミドの重合率は100%であり、スチレンの転化率は89%であった。得られた反応液を、製造例1と同様に処理して、熱可塑性エラストマーを取得した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。得られた熱可塑性エラストマーをプレス成型により試験片を調製し、評価を行った。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は18.7重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは46.8重量%であった。分析結果及び評価結果を表1に示す。
【0057】
実施例6
製造例6で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は4.9N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は4.2N/mmであった。
【0058】
製造例7
スチレン3.0g(30重量部)を用いた以外は、製造例6と同様に反応を行い、熱可塑性エラストマーを取得した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。N−フェニルマレイミドの重合率は100%であり、スチレンの転化率は83%であった。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は18.9重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは54.0重量%であった。分析結果及び評価結果を表1に示す。
【0059】
実施例7
製造例7で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は5.1N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は4.7N/mmであった。
【0060】
製造例8
製造例1と同じ操作で得られた熱可塑性エラストマーをジメチルホルムアミドで洗浄し、ジメチルホルムアミドに不溶の熱可塑性エラストマーを、乾燥し、物性評価した。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は32.1重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは80.3重量%であった。分析結果及び評価結果を表1に示す。
【0061】
実施例8
製造例8で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は6.1N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は6.2N/mmであった。
【0062】
製造例9
製造例4と同じ操作で得られた熱可塑性エラストマーをジメチルホルムアミドで洗浄し、ジメチルホルムアミドに不溶の熱可塑性エラストマーを、乾燥し、物性評価した。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は28.6重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは81.7重量%であった。分析結果及び評価結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

実施例9
製造例8で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調整し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は5.6N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は4.8N/mmであった。
【0064】
製造例10
製造例6と同じ操作で得られた熱可塑性エラストマーをジメチルホルムアミドで洗浄し、ジメチルホルムアミドに不溶の熱可塑性エラストマーを、乾燥し、物性評価した。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は27.4重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは68.5重量%であった。分析結果及び評価結果を表2に示す。
【0065】
実施例10
製造例10で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は5.2N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は4.8N/mmであった。
【0066】
製造例11
30リッターのグラスレイニング製オートクレーブに1,1,2−トリクロロエタンを28kgと、メルトインデックス3.8g/10分、密度0.963g/ccの高密度ポリエチレンを1.96kg仕込んだ。
【0067】
反応機のジャケットに蒸気を通し、120℃で2時間保持することによってポリエチレンを均一に溶解した。またこの間、反応器に15リッター/分の流速で窒素ガスを導入した。
【0068】
ラジカル活性剤として、α,α−アゾイソブチロニトリルを2.65g用い、これを1,1,2−トリクロロエタン2.9kgに溶解し、連続的に反応器へ添加し、同時に塩素ガスを6リッター/分の流速で180分、115℃で反応した。
【0069】
反応終了後、安定剤として43gの2,2‘−ビス(4−グリシジルオキシフェニルプロパン)を加え、反応液をドラムドライヤーに送り、溶剤と塩素化ポリエチレンを分離した。得られた塩素化ポリエチレンは塩素含有量40重量%であった。
【0070】
得られた塩素化ポリエチレンを用い、N−フェニルマレイミド4.0g(40重量部)を用いた以外は、製造例1と同様に反応を行い、熱可塑性エラストマーを取得した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。N−フェニルマレイミドの重合率は100%であった。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は28.6重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは71.5重量%であった。分析結果及び評価結果を表2に示す。
【0071】
実施例11
製造例11で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は4.5N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は4.6N/mmであった。
【0072】
比較製造例1
窒素雰囲気下1Lのガラスフラスコに、N−フェニルマレイミド24.1g、1,1,2−トリクロロエタン184gを仕込み、内部を窒素で置換し、110℃に加熱した。その後、ラジカル開始剤0.17g(日油(株)、パーブチル−O)を1,1,2−トリクロロエタン87gに溶かした溶液を、8時間かけて滴下して反応を実施した。反応の進行に伴い反応液の粘度は増大し、8時間後のN−フェニルマレイミドの重合率は100%であった。得られた反応液を、濃縮、乾燥し、ポリマー(1)を取得した。
【0073】
窒素雰囲気下1Lのガラスフラスコに塩素化ポリエチレン(昭和電工(株)製、エラスレン402NA、塩素含有量40重量%)を10g(100重量部)、ポリマー(1)を6.0g(60重量部)、1,1,2−トリクロロエタン184gを仕込み、内部を窒素で置換し、110℃に加熱、溶解し混合した。その後、得られたポリマー溶液を、濃縮、乾燥し、熱可塑性エラストマーを取得した。熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造は見られず、より大きなマクロ相分離がみられた。得られた熱可塑性エラストマーを乾燥し、プレス成型により評価を行った。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は25.0重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは62.5重量%であった。分析結果及び評価結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

比較例1
比較製造例1で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は0.1N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は0.1N/mmであった。積層体の接着強度が実施例に対して低かった。
【0075】
比較製造例2
窒素雰囲気下1Lのガラスフラスコに塩素化ポリエチレン(昭和電工(株)製、エラスレン402NA、塩素含有量40重量%)を10g(100重量部)、ポリマー(1)を6.0g(60重量部)、ポリスチレン(アルドリッチ製、分子量3.5万)を6.0g(60重量部)、1,1,2−トリクロロエタン184gを仕込み、比較例1と同様な操作にて熱可塑性エラストマーを取得し、プレス成型により評価を行った。熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造は見られず、より大きなマクロ相分離がみられた。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は18.2重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは45.4重量%であった。分析結果及び評価結果を表3に示す。
【0076】
比較例2
比較製造例2で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は0.1N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は0.1N/mmであった。積層体の接着強度が実施例に対して低かった。
【0077】
比較製造例3
N−フェニルマレイミド1.0g(10重量部)を用いた以外は、製造例1と同様に反応を行い、熱可塑性エラストマーを取得した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。N−フェニルマレイミドの重合率は100%であった。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は36.4重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは90.9重量%であった。分析結果及び評価結果を表3に示す。
【0078】
比較例3
比較製造例3で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は0.7N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は0.5N/mmであった。積層体の接着強度が実施例に対して低かった。
【0079】
比較製造例4
N−フェニルマレイミド35.0g(350重量部)を用いた以外は、製造例1と同様に反応を行い、熱可塑性エラストマーを取得した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。N−フェニルマレイミドの重合率は100%であった。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は8.9重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは22.3重量%であった。分析結果及び評価結果を表3に示す。熱可塑性エラストマーはプレス成型することができなかった。
【0080】
比較例4
比較製造例3で得られた熱可塑性エラストマーでは、評価用の試験片が得られなかった。
【0081】
比較製造例5
N−フェニルマレイミド15.0g(150重量部)、スチレン15.0g(150重量部)を用いた以外は、製造例7と同様に反応を行い、熱可塑性エラストマーを取得した。反応の進行に伴い、反応液の粘度が増大し、ガスクロマトグラフィーにより反応液中のN−フェニルマレイミドが減少し、また熱可塑性エラストマーのTEM観察においてミクロ相分離構造が見られたことから、グラフト重合体が得られたと判断した。N−フェニルマレイミドの重合率は100%、スチレンの重合率は93%であった。得られた熱可塑性エラストマーの塩素含量は9.0重量%であり、塩素含量から求めた熱可塑性エラストマー中の塩素化ポリオレフィンは25.7重量%であった。分析結果及び評価結果を表3に示す。熱可塑性エラストマーはプレス成型することができたものの、脆く、シート中に異物が多く、物性評価できなかった。
【0082】
比較例5
比較製造例5で得られた熱可塑性エラストマーを用い、積層体を調製し、その積層体の接着強度を測定した。その結果、TPEEとの接着強度は0.1N/mm、ポリカーボネートとの接着強度は0.1N/mmであった。積層体の接着強度が実施例に対して低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化ポリオレフィンに下記一般式(1)で示されるマレイミド化合物をグラフト重合してなる変性塩素化ポリオレフィンを含む熱可塑性エラストマーで、その組成が塩素化ポリオレフィン30〜90重量%である熱可塑性エラストマーと、その他のポリマーから構成されていることを特徴とする積層体。
【化1】

(式中、Rは芳香族基、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基、炭素数3〜12の分岐状アルキル基、又は炭素数3〜12の環状アルキル基を表す。)
【請求項2】
グラフト重合がラジカルグラフト重合であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。

【公開番号】特開2013−22950(P2013−22950A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163375(P2011−163375)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】