説明

積層体

【課題】 耐擦傷性、耐摩耗性に優れた高硬度の硬質表面を有するとともに、透明性、可撓性および耐熱性に優れた積層体を提供する。
【解決手段】 一方の面にハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムと、この第1プラスチックフィルムの他方の面に粘着剤層を介して積層した第2プラスチックフィルムとを備えた積層体であって、前記第1プラスチックフィルムはアクリル系樹脂フィルムであり、前記ハードコート層は有機無機ハイブリッドタイプ樹脂にフッ素系化合物の添加剤を含有させたことを特徴とする積層体であり、これにより高硬度の硬質表面を有し、耐擦傷性、耐摩耗性に優れた積層体となるとともに、透明性、可撓性および耐熱性に優れた積層体とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば画像表示装置等の保護フィルムとして用いられるハードコート層を備えた光学用の積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の画像表示装置における画像表示面は、使用時に傷がつかないように、耐擦傷性を付与することが要求される。そのため、基材フィルム表面にハードコート層を積層したハードコートフィルムを用いることにより、画像表示装置の画像表示面の耐擦傷性を向上させている。
【0003】
基材フィルムにハードコート層を積層する方法として、基材フィルム上に、熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂等の光重合性樹脂を用いて、より硬い樹脂層を形成する方法など、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1に開示されているように、基材フィルム上に、ポリシラザンを積層することでセラミックス化した酸化珪素による表面層を形成する方法や、特許文献2に開示されているように、紫外線硬化性樹脂等の樹脂にコロイダルシリカ等の微粒子をフィラーとして含有させて、より硬いハードコート層を形成する方法が、提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−112879号公報
【特許文献2】特開2002−67238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された発明であると、セラミックス化した酸化珪素層そのものは十分な硬度を有するが、その酸化珪素層の厚みが薄いと、十分な鉛筆硬度が得られないという問題点がある。これに対し硬度を向上させる方法として酸化珪素層の厚みを単純に増加させることが考えられる。しかし、酸化珪素層の厚みを増加させると硬度は向上するものの、酸化珪素層のクラックや剥離が生じやすくなるという問題が生じる。また、得られるフィルム全体の可撓性が損なわれてしまい、フィルムを撓ませた時に酸化珪素層にクラックが生じたり層間剥離が生じる、という問題があった。
また、特許文献2に開示されているような、樹脂中にコロイダルシリカ等の微粒子をフィラーとして含有させて、より硬いハードコート層を形成するという方法は、含有するフィラーによりハードコート層の透明性が低下し、その結果光学用途のハードコートフィルムとして透明性が損なわれるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、鉛筆硬度が5H以上の高硬度表面を有し、耐擦傷性、耐摩耗性に優れるとともに、熱の影響による変形およびカールの発生が少なく、可撓性および透明性に優れた積層体であり、特に光学用途に適したハードコート層を備えた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の積層体は、一方の面にハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムと、前記第1プラスチックフィルムの他方の面に粘着剤層を介して積層した第2プラスチックフィルムとを備えた積層体であって、前記第1プラスチックフィルムはアクリル系樹脂フィルムであり、前記ハードコート層は有機無機ハイブリッドタイプ樹脂による層であり、かつ前記有機無機ハイブリッド樹脂にフッ素系化合物の添加剤を含むこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層体によれば、一方の面にハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムをアクリル系樹脂フィルムとし、ハードコート層を有機無機ハイブリッドタイプ樹脂による層であるものとすれば、基材フィルムとハードコート層との密着性が良く界面での剥離やクラックが生じにくく、可撓性に優れたものとなるとともに、透明性に優れ、高硬度表面を有し、耐擦傷性、耐摩耗性に優れた積層体となる。
【0009】
そして、有機無機ハイブリッドタイプ樹脂にフッ素系化合物の添加剤を含有したものを用いてハードコート層を形成しているので、本発明による積層体を撓ませた時でもハードコート層にクラックが生じにくく、可撓性に優れたものとなる。さらに、ハードコート層の表面の平滑性が向上することで、表面が滑りやすくなり、また傷が入りにくくなるため、耐擦傷性、耐摩耗性に優れた積層体となる。また、第1プラスチックフィルムの他方の面に粘着剤層を介した第2プラスチックフィルムを備えているので、熱の影響による積層体の変形およびカールの発生を抑制することができ、画像表示装置等の保護膜として実用性に優れた積層体となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の積層体について、以下に詳細に説明する。
本発明の積層体は、一方の面にハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムと、この第1プラスチックフィルムの他方の面に粘着剤層を介して積層した第2プラスチックフィルムとを備えた積層体であって、前記第1プラスチックフィルムはアクリル系樹脂フィルムであり、前記ハードコート層は有機無機ハイブリッドタイプ樹脂による層であり、かつ有機無機ハイブリッドタイプ樹脂にフッ素系化合物の添加剤を含む構成としたものである。
【0011】
本発明で用いられる第1プラスチックフィルムは、表面硬度に優れ、透明性と柔軟性とを兼ね備えている、等の材質が求められるという観点から、アクリル系樹脂フィルム、特に、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を主成分とするフィルムが好ましい。
【0012】
アクリル系樹脂フィルムとしては、上記ポリメタクリル酸メチル(PMMA)フィルム以外に、1)ポリアクリル酸アルキルエステル樹脂のみからなるフィルムや、2)硬質な樹脂であるポリメタクリル酸アルキルエステルに、軟質な樹脂である共重合体ゴム成分、共役ジエン系重合体ゴム、アルキル酸エステル等を含有させることで、メタクリル酸アルキルエステル樹脂に柔軟性、靭性を加えた、ポリメタクリル酸アルキルエステルを主とした樹脂からなるフィルムや、3)ゴム成分を含まないポリアクリル酸アルキルエステル樹脂と他の高分子樹脂とをアロイ化した樹脂によるフィルム等、が挙げられる。尚、第1プラスチックフィルムの厚さは、50〜250μmが好ましい。
【0013】
次に、本発明の積層体におけるハードコート層の形成に用いられる樹脂である、有機無機ハイブリッドタイプ樹脂にフッ素系化合物を添加した樹脂について、具体的に説明する。
【0014】
本発明に係る有機無機ハイブリッドタイプ樹脂組成物としては、例えば、表面に光重合反応性官能基が導入された二酸化珪素(シリカ)超微粒子が紫外線硬化性樹脂中に均一に分散された有機無機ハイブリッドタイプ樹脂であることが好ましい。
【0015】
光重合反応性官能基としては、(メタ)アクリロイルオキシ基に代表される重合性不飽和基などを挙げることができる。
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリル系樹脂、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0016】
二酸化珪素(シリカ)超微粒子の平均粒子径としては、0.001〜0.5μmの平均粒子径であることが好ましい。平均粒子径をこのような範囲にすることにより、透明性等の光学特性とハードコート性とを兼ね備えたハードコート層が形成できる。なお、この効果をより得やすくする観点からは、平均粒子径として0.001〜0.01μmのものを用いることがより好ましい。
【0017】
透明性等の光学特性とハードコート性との観点から、二酸化珪素(シリカ)超微粒子の含有量は、ハードコート層を形成する樹脂全体に対して20重量%以上80重量%以下とすることが好ましい。何故ならば、二酸化珪素(シリカ)超微粒子の含有量が20重量%未満では、十分な高硬度な表面が得られず、含有量が80重量%を超えると、透明かつ平滑な層表面が得られないため、だからである。
【0018】
次に、有機無機ハイブリッドタイプ樹脂に添加するフッ素系化合物について、具体的に説明する。
本発明に係るフッ素系化合物とは、具体的には、例えば、炭素−炭素二重結合を有するパーフルオロポリエーテル含有化合物である。
【0019】
本発明に係るフッ素系化合物を上記の有機無機ハイブリッドタイプ樹脂に添加して、ハードコート層形成用の樹脂とすることで、形成されたハードコート層の表面は、防汚性、特に指紋付着防止性に優れ、撥水撥油性で低摩擦表面が得られるものとなる。また、ハードコート層は、柔軟性が増し可撓性に優れたものとなる。
【0020】
フッ素系化合物の添加量は、有機無機ハイブリッドタイプ樹脂とフッ素系化合物との合計重量に対して、溶剤を除いた有効成分比率で0.1〜5.0重量%が好ましい。何故ならば、添加量が0.1重量%未満ではハードコート層の靭性が得られず、添加量が5.0重量%を超えると十分な高硬度を得られないためである。
【0021】
そして、本発明の積層体におけるハードコート層は、上記の有機無機ハイブリッドタイプ樹脂にフッ素系化合物を添加した樹脂を基材となるプラスチックフィルム表面に積層し、紫外線照射等によりそれを硬化して得られる層である。このハードコート層は、紫外線照射によって、紫外線硬化性樹脂成分と二酸化珪素(シリカ)超微粒子の光重合反応性官能とが重合反応を起こし、その結果二酸化珪素(シリカ)超微粒子が、化学結合を介して有機マトリックス中に均一に分散した網目状の架橋膜となることで得られるものである。そして、ハードコート層の表面には、この架橋膜に強固に結合したフッ素系化合物の膜が形成されることとなる。
【0022】
ハードコート層の膜厚としては、平均膜厚1μm以上50μm以下が好ましい。膜厚が1μm未満では十分な高硬度な表面が得られず、膜厚が50μmを超えると可撓性が低下するからである。この膜厚を得るために、樹脂の積層量は、ウェット膜厚としておおよそ2〜100μmが適当である。
【0023】
樹脂のフィルムへの積層方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などを用いることができる。
【0024】
紫外線硬化性樹脂を光重合させる紫外線の光源としては、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。
【0025】
本発明の積層体における第2プラスチックフィルムは、ハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムの熱の影響による変形及びカールを抑制するためのものである。
本発明で用いられる第2プラスチックフィルムの材質として、安価でかつ強度に優れ、透明性と柔軟性とを兼ね備えている等が求められるという観点から、ポリエステルフィルムであるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムまたはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムが好ましく、より高品質が求められる用途には、耐熱性ほか諸特性により優れているポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムが好ましい。また、熱の影響による変形およびカールを抑制する効果を顕著に得るためには、第2プラスチックフィルムの厚さは、第1プラスチックフィルムの厚さと同等以上であることが好ましい。そして、具体的な厚さは、50〜500μmが好ましい。
【0026】
本発明の積層体における粘着剤層は、第1プラスチックフィルムと第2プラスチックフィルムとを貼り合わせるための層である。粘着剤層を構成する粘着剤としては、透明性、耐候性、耐久性、コスト等の観点から、光学用途の透明粘着剤であるアクリル系の粘着剤が特に好ましい。また、粘着剤層の厚さは、10〜250μmが好ましい。厚みが10μm未満であると、十分な接着強度が得られない場合があり、250μmを超えると、光線透過率等の光学特性に悪影響を及ぼす場合があるからである。
【0027】
なお、本発明の積層体においては、第2プラスチックフィルムの最表面、即ち接着剤層を介して第1プラスチックフィルムが貼着する側とは反対の面には、目的に応じて、ハードコート層、透明導電層、印刷加飾層などの各種の機能性層を設けることも考えられる。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の積層体について、実施例に基づき詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
〈実施例1〉
まず、実施例1の積層体におけるハードコート層の形成に用いる実施例1の樹脂を準備した。この実施例1の樹脂は、以下のような配合組成とした。
即ち、光重合反応性官能基が導入された二酸化珪素(シリカ)超微粒子をアクリル系樹脂に配合した有機無機ハイブリッドタイプ樹脂(JSR株式会社製、オプスターKZ6445、固形分50重量%含有溶液)10.0重量部、添加剤としてフッ素系化合物(ダイキン工業株式会社製、オプツールDAC−HP、フッ素系化合物成分20重量%含有溶液)0.8重量部、希釈溶剤としてメチルエチルケトン6.4重量部を配合した組成とした。
【0030】
この実施例1の樹脂を用い、第1プラスチックフィルムとして準備した厚さ125μmのポリメタクリル酸メチル(PMMA)フィルム(住友化学株式会社製、テクノロイS001G)の一方の面に、バーコータ法より硬化後の膜厚が15μmとなるように実施例1の樹脂を積層し、溶剤乾燥後、窒素パージ下で、高圧水銀灯により440mJ/cmの紫外線を照射し、層を硬化して、本発明の実施例1にかかる積層体におけるハードコート層を一方の面に設けた第1プラスチックフィルムを作製した。
【0031】
このハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムのハードコート層を形成していない面に、アクリル系の光学用透明粘着剤を積層し25μmの粘着剤層を形成した。そして、この粘着剤層を介して、第2プラスチックフィルムとして準備した厚さ125μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)を貼り合わせて、本発明の実施例1の積層体を作製した。
【0032】
〈実施例2〉
実施例2の積層体が実施例1の積層体と異なる点は、用いた第2プラスチックフィルムの厚さである。すなわち、実施例1で作製したハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムを用い、このハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムのハードコート層を形成していない面に、実施例1と同様に、25μmの粘着剤層を形成した。そして、この粘着剤層を介して、第2プラスチックフィルムとして準備した厚さ188μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)を貼り合わせて、本発明の実施例2の積層体を作製した。
【0033】
〈実施例3〉
実施例3の積層体が実施例1の積層体と異なる点は、形成した粘着剤層の厚さである。すなわち、実施例1で作製したハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムを用い、このハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムのハードコート層を形成していない面に、アクリル系の光学用透明粘着剤を積層し50μmの粘着剤層を形成した。そして、この粘着剤層を介して、実施例1と同様に、第2プラスチックフィルムとして準備した厚さ125μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り合わせて、本発明の実施例3の積層体を作製した。
【0034】
〈実施例4〉
実施例4の積層体が実施例1の積層体と異なる点は、用いた第2プラスチックフィルムの材質である。すなわち、実施例1で作製したハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムを用い、このハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムのハードコート層を形成していない面に、実施例1と同様に、25μmの粘着剤層を形成した。そして、この粘着剤層を介して、第2プラスチックフィルムとして準備した厚さ125μmの2軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)を貼り合わせて、本発明の実施例4の積層体を作製した。
【0035】
〈比較例1〉
比較のために、比較例1の積層体を作製した。比較例1の積層体が実施例1の積層体と異なる点は、比較例1の積層体は粘着剤層および第2プラスチックフィルムを備えていない点である。すなわち、実施例1で作製したハードコート層を一方の面に設けた第1プラスチックフィルムを、比較例1の積層体とした。
【0036】
〈比較例2〉
次いで比較例2の積層体を作製した。比較例2の積層体が実施例1の積層体と異なる点は、用いた第1プラスチックフィルムである。比較例2の積層体では、第1プラスチックフィルムとして、厚さ125μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
【0037】
この厚さ125μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一方の面に、実施例1と同様に、実施例1の樹脂を積層し、溶剤乾燥後、これを硬化して、比較例2の積層体におけるハードコート層を一方の面に設けた第1プラスチックフィルムを作製した。そして、このハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムのハードコート層を形成していない面に、実施例1と同様に、粘着剤層を形成し、第2プラスチックフィルムとして厚さ125μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り合わせて、比較例2の積層体を作製した。
【0038】
〈比較例3〉
さらに比較例3の積層体を作製した。比較例3の積層体が実施例1の積層体と異なる点は、ハードコート層の形成に用いた樹脂である。比較例3の樹脂は、フッ素系化合物を添加していない点で、上記の実施例1の樹脂と異なる。
【0039】
つまり、比較例3の樹脂は、以下のような配合組成とした。光重合反応性官能基が導入された二酸化珪素(シリカ)超微粒子をアクリル系樹脂に配合した有機無機ハイブリッドタイプ樹脂(JSR株式会社製、オプスターKZ6445、固形分50重量%含有溶液)10.0重量部、希釈溶剤としてメチルエチルケトン6.7重量部を配合した組成とした。
【0040】
この比較例3の樹脂を用い、実施例1と同様に、第1プラスチックフィルムとして準備した厚さ125μmのポリメタクリル酸メチル(PMMA)フィルムの一方の面に、上記実施例1と同一の条件で積層、乾燥、硬化して、比較例3の積層体におけるハードコート層を一方の面に設けた第1プラスチックフィルムを作製した。そして、このハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムのハードコート層を形成していない面に、実施例1と同様に、粘着剤層を形成し、第2プラスチックフィルムとして厚さ125μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り合わせて、比較例3の積層体を作製した。
【0041】
以上により得られた実施例1〜実施例4、および比較例1〜比較例3の7種の積層体について、可撓性、鉛筆硬度、耐熱性およびカールを評価した。これらの評価結果を、積層体の試料内容とともに(表1)に示す。なお、(表1)の試料内容におけるプラスチックフィルムについては、ポリメタクリル酸メチルフィルムはPMMA、ポリエチレンテレフタレートフィルムはPET、ポリエチレンナフタレートフィルムはPENと表記した。また、それぞれの評価は、次のようにして行った。
【0042】
可撓性の評価は、積層体を、直径80mmの円筒に巻き付けて評価し、巻き付け後にクラックや剥離の有無を観察し、ハードコート層のクラックや剥離の無いものを○、クラックまたは剥離の発生が観察されたもの×とした。
【0043】
鉛筆硬度の評価は、JIS K5600−5−4に準じて行い、各種硬度の鉛筆を45゜の角度で試料の表面にあて、荷重をかけて引っ掻き試験を行い、傷がつかない最も硬い鉛筆の硬さを鉛筆硬度とした。
【0044】
耐熱性の評価は、積層体を一片が10cmの正方形になるように切り出して試料とし、この試料を150℃に調整した熱風乾燥機中で60分間熱処理して、正方形から形が変化のないものを○とし、形が正方形から変形したものを×とした。
【0045】
カールの評価は、耐熱性評価の結果、変形のないものを試料とし、この試料を水平面に置き、水平面から浮き上がった四隅の高さを測定し、この平均値をカール値とした。
【0046】
【表1】

【0047】
(表1)の評価結果に示したように、本発明の実施例1ないし実施例4の積層体は、いずれも、鉛筆硬度が5Hと極めて硬く、耐擦傷性、耐摩耗性に優れ、フィルムを撓ませた時でもハードコート層のクラックや剥離が無く、可撓性に優れたものであった。また、150℃で60分間熱処理した耐熱性の評価結果でも、変形が無く、カールも小さく、耐熱性に優れたものであった。したがって、画像表示装置等の保護膜として用いられる光学用の積層体としての実用性に優れていることが確認できた。
【0048】
一方、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)フィルムにハードコート層を設けたのみの粘着剤層および第2プラスチックフィルムを備えていない比較例1の積層体は、鉛筆硬度および可撓性に優れたものであったが、熱処理よる変形が大きく、耐熱性に劣っていた。
【0049】
第1プラスチックフィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた比較例2の積層体は、有機無機ハイブリッドタイプの被膜であるハードコート層と第1プラスチックフィルムとの密着性が悪く、フィルムを撓ませた時に界面で剥離やクラックが発生し、可撓性に劣っていた。
【0050】
フッ素系化合物を添加していない樹脂をハードコート層の形成に用いた比較例3の積層体は、実施例に比較して、ハードコート層に柔軟性が無く、フィルムを80mm径で折り曲げ撓ませた時にハードコート層にクラックが発生し、可撓性に劣っていた。
【0051】
比較例2および比較例3の積層体は、いずれも、鉛筆硬度が4Hであり、実施例に比較して鉛筆硬度が柔らかく、光学用の積層体として望ましい十分な鉛筆硬度が得られなかった。
【0052】
以上説明したように、本発明の積層体は、一方の面にハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムと、この第1プラスチックフィルムの他方の面に粘着剤層を介して積層した第2プラスチックフィルムとを備えた積層体であって、前記第1プラスチックフィルムはアクリル系樹脂フィルムであり、前記ハードコート層は有機無機ハイブリッドタイプの被膜でありフッ素系化合物の添加剤を含む構成としたものである。
【0053】
そして、本発明の積層体によれば、一方の面にハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムはアクリル系樹脂フィルムであり、ハードコート層は有機無機ハイブリッドタイプの被膜であるので、基材フィルムとハードコート層との密着性が良く界面での剥離やクラックが生じにくく、可撓性に優れたものとなるとともに、透明性に優れ、高硬度表面を有し、耐擦傷性、耐摩耗性に優れた積層体となる。
【0054】
また、有機無機ハイブリッドタイプの被膜にフッ素系化合物の添加剤を含有しているので、フィルムを撓ませた時でもハードコート層の被膜にクラックが生じにくく、可撓性に優れたものとなるとともに、ハードコート層の表面の平滑性が向上し滑りやすくなり傷が入りにくくなるため、さらに、耐擦傷性、耐摩耗性に優れた積層体となるとともに、第1プラスチックフィルムの他方の面に粘着剤層を介して第2プラスチックフィルムを備えているので、熱の影響による変形およびカールの発生を抑制することができ、画像表示装置等の保護膜として実用性に優れた積層体となる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る積層体は、優れた透明性を有するとともに、可撓性に優れ、十分な鉛筆硬度を有する、耐擦傷性、耐摩耗性に優れた積層体であるとともに、熱の影響による変形およびカールの発生が少なく、耐熱性に優れた積層体であるので、画像表示装置等の保護膜として従来用いられている光学用ガラスの代替えとして使用される光学用の積層体として、特に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面にハードコート層を設けた第1プラスチックフィルムと、
前記第1プラスチックフィルムの他方の面に粘着剤層を介して積層した第2プラスチックフィルムと、
を備えた積層体であって、
前記第1プラスチックフィルムはアクリル系樹脂フィルムであり、
前記ハードコート層は有機無機ハイブリッドタイプ樹脂による層であり、かつフッ素系化合物の添加剤を含む樹脂による層であること、
を特徴とする積層体。
【請求項2】
前記第1プラスチックフィルムは、ポリメタクリル酸メチル樹脂を主成分とするフィルムであること、
を特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ハードコート層を形成する樹脂は、前記ハードコート層を形成する樹脂全体に対して0.1重量%以上5重量%以下のフッ素系化合物を含むこと、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ハードコート層を形成する樹脂は、前記ハードコート層を形成する樹脂全体に対して20重量%以上80重量%以下の二酸化珪素を含むこと、
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記第2プラスチックフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレンナフタレートフィルムの何れかであること、
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の積層体。


【公開番号】特開2013−35210(P2013−35210A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173162(P2011−173162)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】