説明

積層体

【課題】耐薬品性に優れ、変形および歪み量が少なく、樹脂の白化の発生が小さい積層体を提供する。
【解決手段】植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂の層(第1層)およびその上に積層された他の熱可塑性樹脂の層(第2層)を含む積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス資源であるデンプンなどの糖質から誘導することができる構成単位を含有するポリカーボネート樹脂をベースフィルムとした積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形物に加飾を施し、さらに耐摩耗性、高表面硬度などのハードコート性を付与する方法として、ベースフィルム上に加飾層が積層され、最表層としてハードコート層が積層されてなる射出成形用加飾シートを樹脂成形物の成形時に貼り付ける方法が知られている。ベースフィルムとしては種々の樹脂からなるフィルムが挙げられるが、物性、価格等の面から二軸延伸芳香族ポリエステルフィルムおよび共重合ポリエステルフィルムが用いられている(特許文献1参照)。
しかしながらベースフィルムに二軸延伸芳香族ポリエステルフィルムを用いた射出成形用加飾シートは、耐薬品性、耐白化性に優れるものの、複雑な形状へ成形するために必要な深絞り性、形状追従性等の成形性が不十分であり、さらにベースフィルムを延伸することで生じた残留応力によって、成形後に変形や歪みが生じる問題があった。また、共重合ポリエステルフィルムをベースフィルムとして用いた射出成形用加飾シートは、成形性、耐変形性、耐歪み性に優れるものの、加飾層や接着層、ハードコート層を形成する際に用いる溶剤等によってフィルム表面の平面性が悪化および/または白化するなど耐溶剤性が不十分であり、さらに成形時や樹脂成形物に貼り合わせる際の熱により結晶化して、白化するなどの問題があった。
【0003】
ところで、芳香族ポリエステル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂などは一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたプラスチック成形品の提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたプラスチックからのプラスチック成形品資材部品の開発が求められており、特に大型成形品の分野においてはその要求は強い。
【0004】
従来、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、カーボネート重合体を得ることが提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、得られたカーボネート重合体は、褐色であり、機械的強度も成形材料として満足できるものではない。また、イソソルビドと他のジヒドロキシ化合物とのカーボネート共重合体として、ビスフェノールAを共重合したポリカーボネートが提案されている(特許文献3参照)。更に、イソソルビドと脂肪族ジオールとを共重合することにより、イソソルビドからなるホモポリカーボネートの剛直性を改善する試みもなされている(特許文献4参照)。これらのポリカーボネート素材は機械的強度、耐薬品性が、成形品用途に適用するには不十分であった。
このようにイソソルビドを用いたカーボネート重合体の提案はなされているが、まだ、成形品用途に適用するには耐熱性、機械的強度、耐薬品性、流動性などの総合的バランスの取れた樹脂とはいえない状況である。また、これらの文献にて開示されているのは、ガラス転移温度、さらには基本的な機械的特性のみで、成形品用途向けに重要な耐薬品性などの特性について充分開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−82565号公報
【特許文献2】英国特許出願公開第1079686号明細書
【特許文献3】特開昭56−55425号公報
【特許文献4】国際公開第2004/111106号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、植物由来のモノマーであるイソソルビドからなるポリカーボネート樹脂をベースフィルムとして用いることで、耐薬品性、耐変形性、高表面硬度が改良された積層体が提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、次に挙げる手段を採用することにより達成することができる。すなわち、本発明によれば、
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂の層(第1層)およびその上に積層された他の熱可塑性樹脂の層(第2層)を含む積層体が提供される。
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂は、好ましくは、下記式(1)で表される植物由来のエーテルジオール残基を、全ジオール残基を基準にして、15〜100モル%で含有する。
【0008】
【化1】

【0009】
また、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂は、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する脂肪族ジオール残基をさらに含むことができる。
この脂肪族ジヒドロキシ化合物は直鎖脂肪族ジオールであるか、あるいは脂環式ジオールであるのが好ましい。
【0010】
さらに、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する芳香族ジオール残基をさらに含むことができる。
また、本発明の積層体は、さらに、他方の最表層として接着層が積層されてなることもできる。
上記ベースフィルムの全厚みは10μm〜600μmの範囲であることが好ましく、ベースフィルムは未延伸フィルムからなることが好ましい。
ベースフィルムが植物由来のエーテルジオール残基を含んでいるポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物を含む層(A層)並びにアクリル系樹脂を含む層(B層)を有し、A層の少なくとも一方の面にB層が積層された多層フィルムであることができる。
また、ベースフィルムが植物由来のエーテルジオール残基を含んでいるポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物を含む層(A層)並びに、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を含む層(B層)を有し、B層の少なくとも一方の面にA層が積層された多層フィルムであることができる。
ベースフィルムのヘイズは10%以下であることが好ましく、さらに、ベースフィルムの全光線透過率は85%以上であることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、耐薬品性に優れ、変形および歪み量が少なく、樹脂の白化の発生が小さい、積層体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の積層体について、実施の形態を説明する。
本発明の積層体は、ベースフィルム(第1層)の上に他の熱可塑性樹脂の層(第2層)が積層されている。
【0013】
<ベースフィルム(第1層)について>
本発明で用いられる第1層は、植物由来のエーテルジオール残基を含み、好ましくは下記式(1)で表される植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂である。
【0014】
【化2】

【0015】
かかるポリカーボネート樹脂は、上記式(1)で表わされる植物由来のエーテルジオール残基を、下記式(1’)で表わされるカーボネート構成単位として含有する。
【0016】
【化3】

【0017】
上記ポリカーボネート樹脂は、下記式(a)で表されるエーテルジオールおよび炭酸ジエステルとから溶融重合法により製造することができる。
【0018】
【化4】

【0019】
エーテルジオールとしては、具体的には下記式(b)、(c)および(d)で表されるイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドなどが挙げられる。
【0020】
【化5】

【0021】
これら糖質由来のエーテルジオールは、自然界のバイオマスからも得られる物質で、再生可能資源と呼ばれるものの1つである。イソソルビドは、でんぷんから得られるDーグルコースに水添した後、脱水を施すことにより得られる。その他のエーテルジオールについても、出発物質を除いて同様の反応により得られる。
特に、上記式(1’)で表わされるカーボネート構成単位がイソソルビド(1,4;3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)由来のカーボネート構成単位を含んでなるポリカーボネート樹脂が好ましい。イソソルビドはでんぷんなどから簡単に作ることができるエーテルジオールであり資源として豊富に入手することができる上、イソマンニドやイソイディッドと比べても製造の容易さ、性質、用途の幅広さの全てにおいて優れている。
【0022】
全ジオール残基を基準にして、式(1)で表されるジオール残基が好ましくは15〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは40〜100モル%、特に好ましくは50〜100モル%を占めるポリカーボネートが好適である。
一方、本発明において、植物由来のエーテルジオールと共に用いることができる他のジオール化合物としては、直鎖脂肪族ジオール化合物、脂環式ジオール化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができる。これらは単独であるいは組合せて使用することができる。
【0023】
直鎖脂肪族ジオール化合物として、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール,水素化ジオレイルグリコールなどを挙げることができる。これらのうち、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオールが好ましい。これらの直鎖脂肪族ジオール類は単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0024】
また、脂環式ジオールとしては、例えば1,2-シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオールなどのシクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロヘキサンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノールなどのノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、1,3−アダマンタンジオール、2,2−アダマンタンジオール、デカリンジメタノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどが挙げられる。これらのうち、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。これらの脂環式ジオール類は単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラフルオロ−4,4’−ビフェノール、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン(通常“ビスフェノールM”と称される)、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通常“ビスフェノールA”と称される)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(通常“ビスフェノールC”と称される)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(2,3−ジメチルー4−ヒドロキシフェニル)デカン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(通常“ビスフェノールAF”と称される)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、および2,2−ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモー4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロー4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチルー4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンが挙げられる。
【0026】
上記の中でも、ビスフェノールM、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールAF、および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカンが好ましい。これらの芳香族ジオール類は単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
上記の他のジオール化合物に由来するジオール残基は、全ジオール残基を基準にして、好ましくは0〜85モル%、より好ましくは0〜70モル%、さらに好ましくは0〜60モル%、特に好ましくは0〜50モル%で、ポリカーボネート樹脂に含有される。
【0027】
反応温度は、エーテルジオールの分解を抑え、着色が少なく高粘度の樹脂を得るために、できるだけ低温の条件を用いることが好ましい。それでも、重合反応を適切に進める為には重合温度は180℃〜280℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは180℃〜260℃の範囲である。
また、反応初期にはエーテルジオールと炭酸ジエステルとを常圧で加熱し、予備反応させた後、徐々に減圧にして反応後期には反応系を1.3×10−3〜1.3×10−5MPa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる方法が好ましい。反応時間は、好ましくは0.5〜4時間である。
【0028】
炭酸ジエステルとしては、例えば置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基もしくはアラルキル基、または炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられる。なかでも反応性、コスト面からジフェニルカーボネートが好ましい。
炭酸ジエステルはエーテルジオールに対してモル比で1.02〜0.98となるように混合して用いることが好ましい。同モル比は、より好ましくは1.01〜0.98であり、さらに好ましくは1.01〜0.99である。炭酸ジエステルのモル比が1.02より多くなると、炭酸エステル残基が末端封止として働いてしまい充分な重合度が得られなくなってしまうため好ましくない。また炭酸ジエステルのモル比が0.98より少ない場合でも、充分な重合度が得られず好ましくない。
【0029】
重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩またはセシウム塩等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。なかでも、含窒素塩基性化合物とアルカリ金属化合物とを併用して使用することが好ましい。これらの触媒を用いて重合したものは、5%重量減少温度が十分高く保たれるため好ましい。
【0030】
これらの重合触媒の使用量は、それぞれ炭酸ジエステル成分1モルに対し、好ましくは1×10−9〜1×10−3当量、より好ましくは1×10−8〜5×10−4当量の範囲で選ばれる。また反応系は窒素などの原料、反応混合物、反応生成物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。更に、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を加えてもよい。
得られるポリカーボネート樹脂は、その末端構造はヒドロキシ基または、炭酸ジエステル残基となるが、本発明のベースフィルムにポリマー基材として用いられるポリカーボネート樹脂は、その特性を損なわない範囲で別途末端基を導入したものでもよい。かかる末端基は、モノヒドロキシ化合物を重合時に添加することにより導入することができる。モノヒドロキシ化合物としては下記式(2)または(3)で表されるヒドロキシ化合物が好ましく用いられる。
【0031】
【化6】

【0032】
上記式(2),(3)中、Rは炭素原子数4〜30のアルキル基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数4〜30のパーフルオロアルキル基、または下記式(4)
【0033】
【化7】

【0034】
で表わされる有機シロキシ基であり、好ましくは炭素原子数4〜20のアルキル基、炭素原子数4〜20のパーフルオロアルキル基または上記式(4)であり、特に炭素原子数8〜20のアルキル基または上記式(4)が好ましく、Xは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合であり、好ましくは単結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合であり、なかでも単結合、エステル結合が好ましく、aは1〜5の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1である。
【0035】
また、上記式(4)中、R,R,R,R及びRは、夫々独立して炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基及び炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、好ましくは夫々独立して炭素原子数1〜10のアルキル基及び炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、特に夫々独立してメチル基及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基が好ましい。bは0〜3の整数であり、1〜3の整数が好ましく、2〜3の整数が特に好ましい。cは4〜100の整数であり、4〜50の整数が好ましく、8〜50の整数が特に好ましい。
【0036】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、上記式(a)で表される再生可能資源の植物由来のエーテルジオールから得られるカーボネート構成単位を主鎖構造に持つことから、これらのモノヒドロキシ化合物もまた植物などの再生可能資源から得られる原料であることが好ましい。植物から得られるモノヒドロキシ化合物としては、例えば植物油から得られる炭素数14以上の長鎖アルキルアルコール類例えばセタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどが挙げられる。
【0037】
ベースフィルム(第1層)に用いられるポリカーボネート樹脂は、ASTM D6866 05に準拠して測定された生物起源物質含有率が25%〜100%であることが好ましく、30%〜100%であることがより好ましい。
上記ベースフィルム(第1層)に用いられるポリカーボネート樹脂は、250℃におけるキャピロラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート600sec−1で0.05×10〜4.0×10Pa・sの範囲にあるものが好ましく、0.1×10〜3.0×10Pa・sの範囲にあるものがより好ましく、0.1×10〜2.0×10Pa・sの範囲にあるものが特に好ましい。溶融粘度がこの範囲であると、ポリマーの分解が抑制される良好な条件にて成形でき、各種特性に優れた成形品を与えることができる。溶融粘度が下限より小さいと成形可能であっても機械特性が不良であり、上限を超えると溶融流動性に劣り、成形加工温度を上げるとポリマーの分解が促進されてしまう。
【0038】
ベースフィルム(第1層)に用いられるポリカーボネート樹脂は、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14〜0.50のものとして用いることができる。比粘度の下限値は0.20が好ましく、0.22がより好ましい。また上限値は0.45が好ましく、0.37がより好ましく、0.35が特に好ましい。比粘度が0.14より低くなると、得られたベースフィルムに充分な機械強度を持たせることが困難となり、また比粘度が0.50より高くなると溶融流動性が高くなりすぎて、成形に必要な流動性を有する溶融温度が分解温度より高くなってしまう。
一つの層に複数のポリカーボネートを混合したり、ベースフィルムを積層体とすることができ、このような場合にも、使用する全てのポリカーボネートが上記範囲であることが好ましい。
【0039】
ベースフィルム(第1層)に用いられるポリカーボネート樹脂は、そのガラス転移温度(Tg)の下限が80℃であることが好ましく、より好ましくは90℃以上であり、また上限は165℃であることが好ましい。Tgが80℃未満だと耐熱性に劣り、165℃を超えると、成形する際の溶融流動性に劣り、ポリマー分解が少ない温度範囲で射出成形ができなくなる。TgはTA Instruments社製 DSC (型式 DSC2910)により測定される。
また、ベースフィルム(第1層)に用いられるポリカーボネート樹脂は、その5%重量減少の温度の下限が330℃であることが好ましく、340℃であることがより好ましく、350℃であることがさらに好ましい。5%重量減少の温度が上記範囲内であると、成形する際の樹脂の分解がほとんど無く好ましい。5%重量減少の温度を上昇させるためには、前述の通り溶融重合触媒として好ましい化合物を選択することが有効である。5%重量減少の温度はTA Instruments社製 TGA (型式 TGA2950)により測定される。
【0040】
ベースフィルム(第1層)を構成するポリカーボネート樹脂は、さらに良好な色相かつ安定した流動性を得るため、熱安定剤を含有することが好ましい。熱安定剤としては、リン系安定剤を含有することが好ましく、殊にリン系安定剤として、下記式(5)に示すペンタエリスリトール型ホスファイト化合物が好ましい。
【0041】
【化8】

【0042】
ここで、R21、R22は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基もしくはアルキルアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、炭素数4〜20のシクロアルキル基、炭素数15〜25の2−(4−オキシフェニル)プロピル置換アリール基を示す。なお、シクロアルキル基およびアリール基は、アルキル基で置換されていてもよい。
【0043】
前記ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物としては、例えば、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトおよびジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。中でも、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物以外の他のリン系安定剤としては、前記以外の各種ホスファイト化合物、ホスフェート化合物、ホスホナイ化合物およびホスホネイト化合物が挙げられる。
【0044】
ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトおよびトリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。
【0045】
さらに他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0046】
ホスフェート化合物としては、例えばトリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェートおよびジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができる。これらのうち、トリフェニルホスフェートおよびトリメチルホスフェートが好ましい。
【0047】
ホスホナイト化合物としては、例えばテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられる。これらのうち、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物と併用可能であり好ましい。
【0048】
ホスホネイト化合物としては、例えばベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチルおよびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
上記のリン系安定剤は、単独でまたは2種以上を併用して使用することができ、少なくともペンタエリスリトール型ホスファイト化合物を有効量配合することが好ましい。リン系安定剤はポリカーボネート樹脂100重量部当たり、好ましくは0.001〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.01〜0.3重量部配合される。
【0049】
ベースフィルム(第1層)に用いられるポリカーボネート樹脂には各種帯電防止剤を添加、共重合することが好ましい。かかる帯電防止剤としては、アニオン系、カチオン系、非イオン系、両性の各種公知のものを用いることが可能である。中でも特に耐熱性などの点からはアニオン系帯電防止剤のアルキルスルホン酸Na、アルキルベンゼンスルホン酸Naを用いることが好まい。
またこれらの帯電防止剤を重合時に添加する際には、併せて酸化防止剤を添加することが、取り扱い性などの点から好ましい。かかる酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などの各種公知のものを用いることができ、さらにこれらの化合物の混合物なども用いることが可能である。
【0050】
ベースフィルム(第1層)は、特に成形性の点から、面配向係数が0以上0.05以下であるフィルムとして用いることが肝要である。面配向係数は、より好ましくは0〜0.03の範囲である。面配向係数が0.05を超えると、成形絞り比の大きい成形物は成形し難い場合があり、成形性が劣ることがあるために好ましくない。ここで面配向係数とは、下記式(6)で表されるfnのことであり、フィルムの配向度を表したものである。
面配向係数:fn=(Nx+Ny)/2−Nz・・・(6)
この式(6)において、Nx、Ny、Nzはそれぞれベースフィルムの製膜方向の屈折率、幅方向の屈折率、厚み方向の屈折率を表し、アッベ屈折率計などを用いて測定することのできる値である。また面配向係数を測定する際に、本発明のベースフィルムが射出成形用加飾シートの積層体として存在する場合は、目の細かい紙やすりなどを用いて、表層を削り取り、ベースフィルムを露出させることによってベースフィルムの屈折率を測定することができる。同様にベースフィルム自体が積層体である場合も、表層を削り取り、屈折率を測定したい層を露出させることによって、各層の屈折率を測定することができる。
またベースフィルムの製膜方向を知らないために、その屈折率の測定方向が分からない場合は、日本分光(株)製エリプソメータ、王子計測機器(株)製KOBRAなどの位相差測定装置を用いて遅相軸方向を確認することで、遅相軸方向とそれに直行する方向を決定する。そして得られた遅相軸方向を製膜方向、遅相軸方向に直行する方向を幅方向と仮定して、上述の方法で屈折率の測定を行うことによって、面配向係数を求めることができる。
【0051】
ベースフィルム(第1層)中には、目的や用途に応じて各種の粒子を添加することができる。添加する粒子は、本発明のポリカーボネート樹脂に不活性なものであれば特に限定されない。例えば、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。これらの粒子は、単独であるいは2種以上添加することができる。かかる粒子の添加量は、ベースフィルムの全重量に対して0.01〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.05〜3重量%である。
特にベースフィルム(第1層)に易滑性を付与して取扱性を向上させる点からは、添加する粒子の平均粒子径は好ましくは0.001〜20μmであり、さらに好ましくは0.01〜10μmである。平均粒子径が20μmを超えると、フィルムに欠陥が生じやすくなり、成形性の悪化などを引き起こすことがあり好ましくなく、また0.001μm未満の場合、十分な易滑性が発現しないことがあり好ましくない。
【0052】
無機粒子の種類としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの各種硫酸塩、カオリン、タルクなどの各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどの各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの各種酸化物、フッ化リチウムなどの各種塩を挙げることができる。
有機粒子としては、例えばシュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などが使用される。
架橋高分子粒子としては、例えばジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸の如きビニル系モノマーの単独重合体または共重合体が挙げられる。その他にも、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子も好ましく使用される。
【0053】
ベースフィルム(第1層)には、必要に応じて公知の添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤またはポリシロキサン等の消泡剤、顔料または染料等の着色剤を適量配合することができる。
ベースフィルム(第1層)の表面には、加飾層やハードコート層、接着層を形成した場合に各層との密着性を向上させる目的で、あらかじめコロナ放電処理、UV処理あるいはアンカーコート剤を塗布するなどの方法によって、前処理を施すことができる。アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリシロキサンおよびエポキシ樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましく用いられる。
本発明の積層体においては、ベースフィルム(第1層)の少なくとも片面に加飾層を積層してもよい。本発明に用いられる加飾層は、各種形態を取り得る。例えばベースフィルムに直接的に施される印刷層や蒸着層およびベースフィルムに積層される着色した樹脂層や印刷や蒸着などの加飾を施したフィルム層などが加飾層として挙げられる。これらは特に限定されるものではない。
【0054】
加飾層の一種である印刷層のバインダー樹脂素材としては、例えばポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂等が好ましい。これらの樹脂のうち、特に柔軟な被膜を作製することができる樹脂が好ましい。またバインダー樹脂中には、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを配合することが好ましい。
印刷層の積層方法としては、例えばオフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの方法を用いることが好ましい。特に多色刷りや階調色彩を必要とする場合には、オフセット印刷法やグラビア印刷法が好ましい。また単色の場合は、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。図柄に応じて、フィルムに全面的に印刷層を積層する印刷法でも、部分的に印刷層を積層する印刷法でもよい。
【0055】
加飾層の一種である蒸着層を構成する材質としては、例えばアルミニウム、珪素、亜鉛、マグネシウム、銅、クロム、ニッケルクロムなどの金属が好ましい。意匠性とコストの面からアルミニウム金属がより好ましいが、2種以上の金属成分からなる合金であってもよい。蒸着によりこれら金属薄膜層を積層する方法としては、通常の真空蒸着法を用いることができる。その他にも、イオンプレーティングやスパッタリング、プラズマで蒸発物を活性化する方法なども用いることができる。また化学気相蒸着法(いわゆるCVD法)も、広い意味での蒸着法として用いることができる。これらのための蒸発源としては、例えば抵抗加熱方式のボード形式や、輻射または高周波加熱によるルツボ形式や、電子ビーム加熱による方式などがある。
加飾層の一種として、ベースフィルム(第1層)上に着色した樹脂層を積層または形成する方法を用いる場合、着色剤としては染料、有機顔料および無機顔料により着色した樹脂を、例えばコーティング法や押出ラミネート法により積層する方式があげられる。
加飾層として印刷層を形成した場合、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01〜100μmが好ましい。
加飾層として蒸着層を形成した場合は、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01〜100μmが好ましい。
加飾層として樹脂層を形成した場合、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01〜100μmが好ましい。
また印刷層や蒸着層、樹脂層以外を加飾層として用いた場合でも、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01〜100μmであることが好ましい。
【0056】
本発明の積層体においては、最表層としてハードコート層が積層されることが望ましい。このハードコート層は、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、有機シリケート化合物、シリコーン系樹脂または金属酸化物などで構成することができる。特に、硬度と耐久性などの点で、シリコーン系樹脂とアクリル系樹脂が好ましく、更に、硬化性、可撓性および生産性の点で、アクリル系樹脂、とりわけ、活性線硬化型のアクリル系樹脂または熱硬化型のアクリル系樹脂が好ましい。
【0057】
本発明に用いられるハードコート層中には、本発明の効果が損なわれない範囲で、さらに各種の添加剤を必要に応じて配合することができる。例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、界面活性剤、レベリング剤および帯電防止剤などを用いることができる。
ハードコート層を積層するプロセスとしては、オフラインコーティングと、インラインコーティングの2つの方法を用いることができる。
オフラインコーティングでは、ベースフィルムに、熱硬化型樹脂または活性線硬化型樹脂を主成分とするコーティング層の塗材が塗布される。一方、インラインコーティングでは、ベースフィルムの製膜工程においてハードコート層の塗材が塗布される。
ハードコート層を積層するための組成物を含有する塗材の塗布手段としては、各種の塗布方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法またはスプレーコート法などを用いることができる。
【0058】
活性線硬化型樹脂の硬化に用いられる活性線としては、例えば紫外線(UV)、電子線および放射線(α線、β線、γ線など)などアクリル系のビニル基を重合させる電磁波が挙げられる。実用的には、UVが簡便であり好ましい。UV線源としては、例えば紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノン灯または炭素アーク灯などを用いることができる。また、活性線を照射するときに、低酸素濃度下で照射を行なうと、効率よく硬化させることができる。更に、電子線方式は、装置が高価で不活性気体下での操作が必要ではあるが、塗布層中に光重合開始剤や光増感剤などを含有させなくてもよい点で有利である。
熱硬化型樹脂の熱硬化に必要な熱は、スチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターあるいは遠赤外線ヒーターなどのヒーターを用いて、少なくとも140℃以上に加温された空気や不活性ガスを準備し、これをスリットノズルを用いて基材、塗膜に吹きあてることにより得ることができる。また200℃以上に加温された空気が好ましく、更には200℃以上に加温された窒素は、硬化速度が早くなることからより好ましい。
ハードコート層の厚さは、用途に応じて決定すればよいが、0.1〜30μmが好ましく、より好ましくは1〜15μmである。ハードコート層の厚さが0.1μm未満の場合には十分硬化していても薄すぎるために表面硬度が十分でなく傷が付きやすくなる傾向にあり、一方、厚さが30μmを超える場合には、折り曲げなどの応力により硬化膜にクラックが入りやすくなる傾向にある。
【0059】
成形する樹脂と第1層との接着性を付与する目的で、本発明の積層体には、接着層を形成することが可能である。ハードコート層を形成する場合は、ハードコート層形成面と反対の最表面に、接着層を形成する。接着層の素材としては、感熱タイプあるいは感圧タイプが好ましい。成形する第2層の樹脂がアクリル系樹脂の場合、接着層にはアクリル系樹脂などが好ましく用いられる。また成形する第2層の樹脂がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系樹脂などの場合、接着層にはこれらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などが好ましく用いられる。第2層の樹脂がポリプロピレン系樹脂の場合、接着層としては塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、環化ゴム、クマロンインデン系樹脂などが好ましく用いられる。
接着層の形成方法は公知の方法を用いることができ、例えばロールコート法、グラビアコート法、コンマコート法などのコート法、また、例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷などの印刷法が挙げられる。
【0060】
本発明に用いるベースフィルム(第1層)の全厚みは、好ましくは10〜600μmの範囲であり、より好ましくは20〜400μm、特に好ましくは40〜300μmである。ベースフィルムの全厚みが10μm未満の場合、フィルムの剛性、製膜安定性および平面性が悪化し、さらには成形時にしわなどが入りやすくなり好ましくない。また600μmを超えると、取り扱い性が悪く、場合によっては成形性の悪化を引き起こすことがあるために好ましくない。
【0061】
ベースフィルム(第1層)は、ヘイズが0〜10%であることが好ましく、0〜5%であることがより好ましく、0〜3%がさらに好ましく、0〜2%であるのが特に好ましい。ベースフィルムのヘイズが10%より大きい場合に、ベースフィルムを射出成形用加飾シートの一部として用いた場合、視認性が悪くなることがあり好ましくない。特に加飾層を、ベースフィルムを中心として接着層側(ハードコート層とは反対側)に形成した場合、視認性が悪くなることがあり好ましくない。またヘイズは小さければ小さい程良いが、現実的には0.1%未満にすることは困難である。
【0062】
またベースフィルム(第1層)は、全光線透過率が85〜100%であることが好ましく、より好ましくは90〜100%、特に好ましくは92〜100%である。全光線透過率が85%より小さい場合、ベースフィルムを射出成形用加飾シートとして用いた際に、視認性が悪くなることがある。特に加飾層を、ベースフィルムを中心として接着層側(ハードコート層とは反対側)に形成した場合、視認性が悪くなることがあり好ましくない。
【0063】
次に、本発明の積層体の製造方法である、射出成形方法について説明する。射出成形方法は、特公昭50−19132号公報などに記載されるように、射出成形用シートを一対の型の間に配置して両型を型締めし、両型で形成されるキャビティ内に流動状態の樹脂を充填して固化させて、樹脂成形物の成形と同時にその表面に射出成形用シートを積層することにより、積層体を得る方法である。この際に、射出成形用シートのハードコート層側が型と接するように設置して、接着層側に樹脂を流す。
射出成形方法としては、各種形態を取り得る。例えば、射出成形用シートの予備成形を行う形態でも、予備成形を行わない形態でもよい。また射出成形用シートの予熱を行う形態でも、予熱を行わない形態でもよい。予備成形する場合は通常、射出成形用シートは予熱される。
【0064】
また射出成形用シートの絞りが大きい場合は、予備成形を行うことが好ましい。一方、射出成形用シートの絞りが小さい場合は、射出される流動状態の樹脂圧で射出成形用シートを成形してもよい。この際絞りが小さければ、予備成形無しで樹脂射出と同時に型内に充填される流動状態の樹脂の樹脂圧によって射出成形用シートを成形してもよい。また樹脂圧で射出成形用シートを成形する場合、射出成形用シートは予熱せずに充填される射出樹脂の熱を利用してもよい。また射出成形用シートの予備成形は、射出成形型を真空成形型と兼用して予備成形する方法や、射出成形型間に射出成形用シートを供給する前に、別の真空成形型を用いて射出成形用シートを真空成形する方法(オフライン予備成形)が挙げられる。好ましくは、効率的かつ精度良く予備成形できることから、射出成形型を真空成形型と兼用して行う方法が用いられる。また本発明において、真空成型とは真空圧空成型も包含する。
【0065】
射出成形方法において、射出成形する第2層を形成する樹脂としては、公知の樹脂を使用することができ、特に限定されない。射出成形する樹脂は、目的とする樹脂製品の要求物性やコストなどに応じて選定される。また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、2種類以上の樹脂を混合してもよい。射出成形する樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などが挙げられるがこれに限定されない。
射出成形樹脂には、必要に応じて適宜、添加剤、例えば、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤および核剤などを配合してもよい。
樹脂成形物に本発明の射出成形用シートが積層した成形品は、耐摩耗性、高表面硬度などのハードコート性に優れ、また加飾層の視認性も良好な成形品となる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお参考例、実施例および比較例中の物性測定は以下のようにして行ったものである。
【0067】
(1)比粘度
ペレットを塩化メチレンに溶解、濃度を約0.7g/dLとして、温度20℃にて、オストワルド粘度計(装置名:RIGO AUTO VISCOSIMETER TYPE VMR−0525・PC)を使用して測定した。なお、比粘度ηspは下記式から求められる。
ηsp=t/to−1
t :試料溶液のフロータイム
to :溶媒のみのフロータイム
【0068】
(2)ガラス転移温度(Tg)
TA Instruments社製 DSC (型式 DSC2910)により測定した。
【0069】
(3)厚みおよび層厚み
フィルム全体の厚みを測定する際は、ダイヤルゲージを用いて、フィルムから切り出した各々の試料の任意の場所5ヶ所の厚みを測定し、平均値として求めた。
【0070】
(4)面配向係数(fn)
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、ヨウ化メチレンを中間液として、偏光接眼レンズを装着した(株)アタゴ製DR−M2のアッベ屈折計を用いて、ベースフィルムの表面の製膜方向屈折率(Nx),幅方向屈折率(Ny),厚み方向屈折率(Nz)を測定し、式(6)から面配向係数(fn)を算出した。
面配向係数 fn=(Nx+Ny)/2−Nz ・・・(6)
【0071】
(5)全光線透過率およびヘイズ
日本電色工業(株)製 NDH−2000(D65光源)を用いて測定した。なお測定は5回行い、その平均値を測定値として採用した。
【0072】
(6)ベースフィルムの耐溶剤性
ベースフィルムのヘイズ測定部分上の別箇所にメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびトルエンを各々3ml滴下させて6時間放置した後、溶剤をきれいに拭き取って、溶剤滴下前後における変化を目視で判定した。
○:すべての溶剤に対して変化なし、△:○および×ではない場合、×:いずれの溶剤に対しても白化、溶解がみられた。
【0073】
(7)射出成形用加飾シートの熱成形性
カップ型真空成形機を用いて100〜200℃の温度条件で、射出成形用加飾シートの熱成形性を評価した。成形は、直径50mm、深さ50mmの深さ方向に直径が一定の円筒のカップ凹金型を用いて、コーナー部などの転写性、厚み均一性や白化の有無を評価した。
○:転写性、厚み均一性、白化いずれも良好、×:いずれかがNG
【0074】
(8)射出成形用加飾シートの靭性
真空成形機による熱成形性評価において、金型形状にフィルムが延伸される際および金型からフィルムを離型する際にフィルムにヒビや割れが生じないかどうか以下の基準で判断した。
良好:離型する際にフィルムにヒビや割れが生じない
割れあり:離型する際にフィルムにヒビや割れが生じた。
【0075】
(9)射出成形用加飾シートの耐変形性、耐歪み性
上述したカップ型真空成形機を用いて成形後の射出成形用加飾シートについて、変形性、歪み性を目視で評価した。
【0076】
(10)射出成形用加飾シートの耐摩耗性
スチールウール#0000を用いて、射出成形用加飾シート中のハードコート層表面を1,000g/cmの荷重下、10往復摩擦し、目視で判断した。
【0077】
(11)射出成形用加飾シートの鉛筆硬度
JIS K−5400に従って測定した。測定は5回行い、平均値を求めて測定結果とした。HB以上を合格とした。
【0078】
(12)射出成形用加飾シートと樹脂成形物との接着性
加飾樹脂成形物に積層された加飾シートの表面を、碁盤目上に樹脂成形物に達する深さの刻みを入れた。次いで刻みの上に、ニチバン(株)製“セロテープ(登録商標)”のセロハン粘着テープ(24mm巾、産業用)を粘着させ、手で剥離するテストを行い、剥離の有無を目視で観察し判定した。
【0079】
参考例1
イソソルビド1,608重量部(11モル)とジフェニルカーボネート2,356重量部(11モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および水酸化ナトリウムを1.1×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10−6モル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で180℃に加熱し溶融反応させた。
撹拌下、反応槽内を30分かけて徐々に減圧し、生成するフェノールを留去しながら13.3×10−3MPaまで減圧した。この状態で20分反応させた後に200℃に昇温した後、20分かけて徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10−3MPaで20分間反応させ、さらに、220℃に昇温して30分間、250℃に昇温して30分間反応させた。
次いで、徐々に減圧し、2.67×10−3MPaで10分間、1.33×10−3MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10−5MPaに到達したら、徐々に260℃まで昇温し、最終的に260℃、6.66×10−5MPaで1時間反応せしめた。反応後のポリマーをペレット化した。得られたポリマーの比粘度は0.26、ガラス転移温度は163℃であった。
得られたポリカーボネート樹脂を乾燥後、単軸φ40mm押出製膜機を用いて溶融製膜フィルムを得た。押出し機シリンダー温度は220℃〜260℃の範囲内に保持し、スリット状のダイからシート状に押出されたシートの両端部に針状エッジピニング装置を用いて静電印加を行い、キャスティングドラム(表面温度を150℃に調整)に密着させて溶融状態から冷却固化し、厚み100μmの本発明のベースフィルムを得た。該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、鉛筆硬度を評価し、その結果を表1に示した。
【0080】
参考例2
イソソルビド66.42重量部(0.45モル)と1,3−プロパンジオール(PD)11.52重量部(0.15モル)とジフェニルカーボネート129.81重量部(0.61モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および水酸化ナトリウムを1.1×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10−6モル)とを用いた以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート樹脂の溶融重合を行った。得られたポリマーの比粘度は0.25、ガラス転移温度は116℃であった。
得られたポリカーボネート樹脂を、実施例1と同様の方法でベースフィルムを得た。該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、鉛筆硬度を評価し、その結果を表1に示した。
【0081】
参考例3
イソソルビド731重量部(5.0モル)、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)720重量部(5.0モル)およびジフェニルカーボネート2,142重量部(10モル)を反応槽に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および水酸化ナトリウム1.1×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10−6モル)とを用いた以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート樹脂の溶融重合を行った。得られたポリマーの比粘度は0.35、ガラス転移温度は104℃であった。
得られたポリカーボネート樹脂を、実施例1と同様の方法でベースフィルムを得た。該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、鉛筆硬度を評価し、その結果を表1に示した。
【0082】
参考例4
イソソルビド1,169重量部(8.0モル)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン(以下、DEDと略することもある)653重量部(2.0モル)およびジフェニルカーボネート2,142重量部(10モル)を反応槽に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および水酸化ナトリウム1.1×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10−6モル)とを用いた以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート樹脂の溶融重合を行った。得られたポリマーの比粘度は0.25、ガラス転移温度は110℃であった。得られたポリカーボネート樹脂を、実施例1と同様の方法でベースフィルムを得た。該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、鉛筆硬度を評価し、その結果を表1に示した。
【0083】
参考例5
イソソルビド1,023重量部(7.0モル)、1,4−シクロヘキサンジメタノール432重量部(3.0モル)とジフェニルカーボネート2,142重量部(10モル)、ステアリルアルコール54重量部(0.20モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および水酸化ナトリウムを1.1×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10−6モル)とを用いた以外は実施例1と同様にしてポリカーボネートの溶融重合を行った。得られたポリマーの比粘度は0.30、ガラス転移温度は114℃であった。
得られたポリカーボネート樹脂を、実施例1と同様の方法でベースフィルムを得た。該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、鉛筆硬度を評価し、その結果を表1に示した。
【0084】
参考例6
イソソルビド1,169重量部(8モル)とジフェニルカーボネート2,142重量部(10モル)、ヘキサンジオール(HD)236重量部(2モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および水酸化ナトリウムを1.1×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10−6モル)とを用いた以外は実施例1と同様にしてポリカーボネートの溶融重合を行った。得られたポリマーの比粘度は0.27、ガラス転移温度は111℃、5%重量減少の温度は348℃であった。
得られたポリカーボネート樹脂を、実施例1と同様の方法でベースフィルムを得た。該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、鉛筆硬度を評価し、その結果を表1に示した。
【0085】
実施例7
(成形材料A)
参考例6で得られたポリカーボネート樹脂を用意した。
(成形材料B)
B層用の成形材料Bとしてアクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製アクリペットVH001;標準グレード)を用意した。
(共押出)
成形材料Aおよび成形材料Bを、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度230〜250℃(成形材料A)、240〜270℃(成形材料B)の条件で、フィードブロック方式にて300mm幅のTダイから押出し、冷却ロールに溶融樹脂の一方の面をタッチさせて冷却した後、B層/A層/B層の3層構造を有するフィルム幅200mmの多層フィルムを作成した。該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、鉛筆硬度、熱成形性、靭性を評価し、その結果を表2に示した。
【0086】
実施例8
(成形材料A)
参考例6で得られたポリカーボネート樹脂を用意した。
(成形材料B)
調製例1(ポリエステル系熱可塑性エラストマーの製造)
イソフタル酸ジメチル175重量部、セバシン酸ジメチル23重量部、ヘキサメチレングリコール140重量部をジブチル錫ジアセテート触媒でエステル交換反応後、減圧下に重縮合して、固有粘度が1.06であり、DSC法による測定で結晶の融解に起因する吸熱ピークを示さない非晶性のポリエステル(ソフトセグメント)を得た。
このポリエステルに別途重縮合して得た固有粘度0.98のポリブチレンテレフタレートのペレット(ハードセグメント)を乾燥して107部添加し、240℃で45分反応させたのち、フェニルホスホン酸を0.1部添加して反応を停止させた。得られた重合体の融点は190℃、固有粘度は0.93であった。
ポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成(株)製パンライトL−1250、粘度平均分子量23,700)および上記にて製造したポリエステル系熱可塑性エラストマーをそれぞれ事前に予備乾燥し、ポリカーボネート樹脂/ポリエステル系熱可塑性エラストマー=90/10(100/11.1)(重量部)となるようにV型ブレンダーで混合した後、2軸押出機を用いてシリンダー温度260℃で押出してペレット化し、B層用の成形材料Bを得た。成形材料Bのガラス転移温度は111℃であった。
(共押出)
成形材料Aおよび成形材料Bを、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度230〜250℃(成形材料A)、240〜270℃(成形材料B)の条件で、フィードブロック方式にて300mm幅のTダイから押出し、冷却ロールに溶融樹脂の一方の面をタッチさせて冷却した後、A層/B層/A層の3層構造を有するフィルム幅200mmの多層フィルムを作成した。該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、鉛筆硬度、熱成形性、靭性を評価し、その結果を表2に示した。
【0087】
[加飾層]
大日精化工業(株)製“NT−ハイラミック”(登録商標)701R白を酢酸エチル/メチルエチルケトン/イソプロピルアルコールの2:2:1混合溶液で印刷粘度15秒(ザーンカップ#3)に調製し、グラビア印刷法によりベースフィルムにパターン印刷を施し、70℃のオーブン中で10秒間乾燥し、35μmの加飾層を設けた。
[ハードコート層]
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート67重量%、N−ビニルピロリドン29重量%、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン4重量%の割合で調製した活性線硬化型樹脂をトルエン/酢酸エチルの1:1混合溶液で50重量%に希釈し、ダイコート法によりベースフィルムもしくは加飾層に塗布し、70℃のオーブン中で2分間乾燥した後、塗布面より9cmの高さにセットした照射強度80W/cmの高圧水銀灯により紫外線を15秒間照射することで活性線硬化型樹脂を硬化させ、厚さ5μmのハードコート層を設けた。
[接着層]
東洋インキ化学工業(株)製商品名“オリバイン”(登録商標)BPS−1109のアクリル系粘着剤98重量%、東洋インキ化学工業(株)製商品名“オリバイン”(登録商標)BHS−8515のイソシアネート系硬化剤2重量%の割合で調製した樹脂を酢酸エチルで50重量%に希釈し、グラビアコート法によりベースフィルムもしくは加飾層に塗布し、70℃のオーブン中で10秒間乾燥し、30μmの接着層を設けた。
【0088】
実施例9
参考例2で作成したベースフィルムのキャストドラムと接していた面に加飾層を形成し、加飾層上に接着層を形成した。さらにベースフィルムのキャストドラムと接していなかった面にハ−ドコート層を形成して、射出成形用加飾シートを得た。なお、加飾層、接着層、ハードコート層の形成方法は上述したとおりである。
次に、得られた射出成形用加飾シートを温度80℃に加熱して、直径50mm、深さ50mm、深さ方向に直径が一定の円筒のカップ凹金型、真空成形機を用い、温度85℃でカップ型成形体を作製し、成形樹脂として、250℃に加熱したメタクリル樹脂(住友化学工業(株)製ABS樹脂“スミペックス”(登録商標)LG35)をカップ型成形体に注入した。メタクリル樹脂が冷却固化後、カップ型成形物を金型から取り出し、本発明の射出成形用加飾シートが樹脂成形物に積層された加飾成形品を得た。該加飾シートは、成形性(転写性、厚み均一性)が良好で、成形後の耐変形性、耐歪み性は問題なく、白化も認められなかった。また、スチールウールテストによるハードコート層表面硬度は、傷がつかず良好であり、接着性も剥離がなく問題無い結果であった。
【0089】
実施例10
参考例5で作成したベースフィルムを実施例9と同様な方法で射出成形用加飾シートを得た。該加飾シートは、成形性(転写性、厚み均一性)が良好で、成形後の耐変形性、耐歪み性は問題なく、白化も認められなかった。また、スチールウールテストによるハードコート層表面硬度は、傷がつかず良好であり、接着性も剥離がなく問題無い結果であった。
次に、得られた射出成形用加飾シートを用いて実施例9と同様な方法でカップ型成型品を作成し、本発明の射出成形用加飾シートが樹脂成形物に積層された加飾成形品を得た。
【0090】
実施例11
参考例6で作成したベースフィルムを実施例9と同様な方法で射出成形用加飾シートを得た。該加飾シートは、成形性(転写性、厚み均一性)が良好で、成形後の耐変形性、耐歪み性は問題なく、白化も認められなかった。また、スチールウールテストによるハードコート層表面硬度は、傷がつかず良好であり、接着性も剥離がなく問題無い結果であった。
次に、得られた射出成形用加飾シートを用いて実施例9と同様な方法でカップ型成型品を作成し、本発明の射出成形用加飾シートが樹脂成形物に積層された加飾成形品を得た。
【0091】
比較例1
ポリエチレンテレフタレートポリマー(PET)を用いて、参考例1と同様の手法で製膜を実施し、温度95℃にて長手方向に3.0倍ロール延伸、延伸温度115℃にて幅方向に3.1倍テンター延伸した後、200℃にて弛緩5%、5秒間熱処理して、厚みを9μmに調整したベースフィルムを作成した。該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、鉛筆硬度を評価し、その結果を表1に示した。
このベースフィルムを用いて実施例9と同様の方法によって、本発明の射出成形用加飾シートを得た。該加飾シートは、白化は認められないが、厚みが不均一であり、歪変形が見られた。また、スチールウールテストによるハードコート層表面硬度は、傷がつかず良好であった。また、接着性剥離がなく問題無い結果であった。
次に、得られた射出成形用加飾シートを用いて実施例9と同様の方法によって、本発明の射出成形用加飾シートが樹脂成形物に積層された加飾成形品を得た。
【0092】
比較例2
ポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成(株)製パンライトL−1250、粘度平均分子量23,700)を用いて参考例1と同様の方法で製膜し、ベースフィルムを作成した。
該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、鉛筆硬度、熱成形性、靭性を評価し、その結果を表1及び2に示した。
次に、得られた射出成形用加飾シートを用いて実施例9と同様の方法によって、本発明の射出成形用加飾シートが樹脂成形物に積層された加飾成形品を得た。
該加飾シートは、白化は認められなく良好であったが、スチールウールテストによるハードコート層表面硬度は、傷がつきやすい結果であった。また、接着性剥離がなく問題無い結果であった。
【0093】
比較例3
アクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製アクリペットVH001;標準グレード)を用いて参考例1と同様の方法で製膜し、ベースフィルムを作成した。
該フィルムの面配向係数、全光線透過率、Haze、耐溶剤性、熱成形性、靭性を評価し、その結果を表2に示した。
次に、得られた射出成形用加飾シートを用いて実施例9と同様の方法によって、本発明の射出成形用加飾シートが樹脂成形物に積層された加飾成形品を得た。
該加飾シートは、白化は認められなく、スチールウールテストによるハードコート層表面硬度は、傷がつかず良好であったが、金型からの割れやすい。また、接着性剥離がなく問題無い結果であった。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
以上のとおり、本発明は、バイオマス資源であるデンプンなどの糖質から誘導することができる構成単位を含有するポリカーボネート樹脂をベースフィルム基材とした、耐磨耗性、高表面硬度、成形性、耐薬品性、耐変形性、耐歪み性、耐白化性に優れた射出成形用シートを提供することができる。
本発明の射出成形用シートを用いて得られる成形品は、電気・電子部品、情報通信部品、車両用部品等として使用され有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂の層(第1層)およびその上に積層された他の熱可塑性樹脂の層(第2層)を含む積層体。
【請求項2】
他の熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表される植物由来のエーテルジオール残基を、全ジオール残基を基準にして15〜100モル%で含有する請求項1に記載の積層体。
【化1】

【請求項4】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する脂肪族ジオール残基をさらに含む請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
脂肪族ジヒドロキシ化合物が直鎖脂肪族ジオールである請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
脂肪族ジヒドロキシ化合物が脂環式ジオールである請求項4に記載の積層体。
【請求項7】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する芳香族ジオール残基をさらに含む請求項4に記載の積層体。
【請求項8】
さらに加飾層(第3層)を含む請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
さらにハードコート層(第4層)を含む請求項1に記載の積層体。
【請求項10】
第1層の厚みが10μm〜600μmの範囲にある請求項1に記載の積層体。
【請求項11】
第1層のヘイズが0〜10%である請求項1に記載の積層体。
【請求項12】
第1層の全光線透過率が85〜100%である請求項1に記載の積層体。


【公開番号】特開2013−63666(P2013−63666A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−266352(P2012−266352)
【出願日】平成24年12月5日(2012.12.5)
【分割の表示】特願2011−527727(P2011−527727)の分割
【原出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】