説明

積層光学フィルム、積層偏光板および液晶表示装置

【課題】本発明の目的は、位相差フィルムの位相差の角度依存性を改良し、かつ、位相差の均一性を改良する積層光学フィルムを提供することにある。
【解決手段】分子分極率異方性が正である非晶性高分子からなり、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層と、分子分極率異方性が負である熱可塑性高分子からなり、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムとが積層されてなることを特徴とする積層光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は視野角特性に優れた積層光学フィルム、それを用いた積層偏光板、および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムの一つである位相差フィルムは液晶表示装置の性能向上に欠くべからざるものであり、色補償や視野角補償等の役割を担っている。位相差フィルムは、一般に、入射角によって位相差値が変化するが、この現象をここでは位相差フィルムの視野角問題と呼ぶ。この位相差フィルムの視野角問題を解決するいくつかの方法の提案がすでになされている。
【0003】
例えば、位相差フィルムの面内に平行または直交し、互いに直交する3つの方向の主屈折率を制御し、具体的には、厚さ方向の主屈折率を、面内の2つの主屈折率のいずれか一方よりも大きく、かつ残りの一方よりも小さくすることで位相差フィルムの位相差の視野角依存性を小さくする技術が、下記特許文献1〜4に開示されている。また、面内に光学軸を有する正の1軸性光学フィルムと、面内に光学軸を有する負の1軸性光学フィルムを積層し、位相差フィルムの視野角依存性を改良する技術に関する提案が下記特許文献5に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特許第2612196号公報
【特許文献2】特許第2994013号公報
【特許文献3】特許第2818983号公報
【特許文献4】特許第3168850号公報
【特許文献5】特許第2809712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1〜4は、位相差フィルムを1枚のみ用いて、三次元屈折率を制御して位相差フィルムの視野角依存性を改善するものである。この改善する方法は、厚さ方向の屈折率を制御するために、一般に厚さ方向への応力付与が必要であり、前記した特許文献1〜4に記載されているような特殊な製造方法を必要とし、大面積で均一な位相差フィルムを量産性よく得ることが困難である。
【0006】
一方、特許文献5では面内に位相差を有する位相差フィルムを2枚使用し、かつそれらの遅相軸を平行に貼り合わせるために、フィルム2枚をそれぞれ別の工程で作製し、粘着剤を介して貼り合わせ積層させる必要がある。2つの面内遅相軸と2つの面内位相差値が存在するため、それぞれの位相差フィルムのばらつきは、積層した位相差フィルムのばらつきを増大させ、その結果、高性能な液晶表示装置において必要となる光学素子の均一性を確保することが容易でない。
【0007】
本発明の目的は、位相差フィルムの位相差の角度依存性を改良し、かつ、位相差の均一性を改良する光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来の方法の問題点を検討した結果、位相差フィルムの構成、材料、製法等に問題があることがわかった。位相差フィルムを1枚のみ用いて、三次元屈折率を制御して位相差フィルムの視野角依存性を改善する前記の方法は、その製造方法、特に延伸方法が特殊であるために、量産性よく均一な位相差フィルムを得ることが困難である。一方、面内に位相差を有する位相差フィルムを2枚積層させる方法は、その位相差フィルムの構成が必ずしも適当とは言えないために、前述したように本質的に光学特性の均一性を得られ難い。これらの諸問題点を鑑み、解決方法について鋭意検討したところ、位相差フィルムの位相差の角度依存性を改良し、かつ、位相差の均一性を改良することが可能であることを見出した。すなわち本発明は以下の通りのものである。
【0009】
〔1〕分子分極率異方性が正である非晶性高分子からなり、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層と、分子分極率異方性が負である熱可塑性高分子からなり、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムとが積層されてなることを特徴とする積層光学フィルム。
〔2〕厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層の厚さ方向の位相差値をRthNEC(λ)、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの面内位相差値をΓNEA(λ)とすると、下記式(1)の関係を満足することを特徴とする上記の積層光学フィルム。
−100<ΓNEA(λ)/2+RthNEC(λ)<100nm (1)
(ただし、λ=550nmとする。)
〔3〕分子分極率異方性が負である熱可塑性高分子が、フルオレン骨格を有するポリカーボネートであることを特徴とする上記の積層光学フィルム。
〔4〕分子分極率異方性が正である非晶性高分子が、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群から選択される少なくとも一種のポリマーを含む上記の積層光学フィルム。
〔5〕厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層の厚みが10μm以下であることを特徴とする上記の積層光学フィルム。
上記の位相差フィルム。
〔6〕分子分極率異方性が正である非晶性高分子が、フッ素原子を含有するポリイミドである上記記載の積層光学フィルム。
〔7〕フッ素原子を含有するポリイミドが、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3、−ヘキサフルオロプロパン2無水物と2,2’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノ−ビフェニルとを重合して得られたものであることを特徴とする上記の積層光学フィルム。
〔8〕上記記載の積層光学フィルムと偏光板が一体となった積層偏光板。
〔9〕偏光板、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムが、少なくともこの順番で積層されてなり、かつ、偏光板の吸収軸と面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの光学軸が互いに略直交することを特徴とする上記の積層偏光板。
〔10〕上記記載の積層光学フィルムおよび/または積層偏光板を用いた液晶表示装置。
【0010】
本発明は実質位相差フィルム(以下光学フィルムという)を2層使用した積層光学フィルムである。具体的には厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層と、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムを積層して用いてなる。前者の厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層は、面内の位相差値が実質的に0であるため、面内の遅相軸や位相差値の制御は、後者の光学フィルムである面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムだけでよく、本質的に、位相差フィルムとして機能する積層光学フィルムのばらつきを最小化することが可能な構成である。さらに、これら負の略1軸性光学フィルムは、後述するようにその製造工程において生産に関する特段の困難さは無く、その結果、量産性良く均一性に優れた積層光学フィルムを得ることが可能である。
【0011】
本発明では屈折率の異方性を有する光学的異方性フィルムのことを、光学フィルムまたは位相差フィルムと称している。1軸性光学フィルム、2軸性光学フィルムはその3次元屈折率によりそれぞれ分類されるが、これらは位相差フィルムの範疇である。位相差フィルムは屈折率楕円体で表現されるものとし、3つの主屈折率の方位はフィルム面内に平行か垂直である場合のみをここでは考えている。ここでは図3のように座標軸がフィルムの表面に平行または直交である直交座標系を考え、その座標の方位に対応した3つの屈折率をn、n、nと定義する。面内における遅相軸方位をx軸と設定すると、y軸は面内にz軸は厚さ方向と設定される。したがって、本発明における面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムとは、3つの屈折率を用いて、n≒n>nとなり、nがフィルム面内における遅相軸となる。また、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム(または光学フィルム層)とは、n<n≒nと定義される。2軸性光学フィルムは3つとも屈折率が異なる状態と定義される。一方、面内に光学軸を有する正の1軸性光学フィルムとは、この定義ではn>n=nとなる。また、厚さ方向に光学軸を有する正の1軸性光学フィルムは、この定義ではn>n=nとなる。
【0012】
また、本発明における光学フィルムの面内の位相差値Γは、下記式(2)または(3)で定義されるものとする。
≧nの光学フィルムの場合には
Γ(λ)=(n−n)×d (2)
<nの光学フィルムの場合には
Γ(λ)=(n−n)×d (3)
ここでdはフィルムの厚さ(nm)である。
【0013】
本発明における面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムは、厳密にはn=n>nの関係を満足するものが好ましいが、n≒n>nであれば現実的には問題なく使用できる。また、実際の光学フィルムには屈折率のばらつきもあるので、この3つの屈折率を用いた下記式(4)を用いて負の略1軸性という用語の範囲を定義する。
Nz=(n−n)/(n−n) (4)
【0014】
本発明における面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムとは
−0.7<Nz<0.1 (5)
であると定義され、好ましくは、
−0.4<Nz<0.1 (5’)
であり、より好ましくは
−0.4<Nz<0.05 (6)
であり、さらに好ましくは
−0.30<Nz<0.03 (7)
であり、さらにより好ましくは、
−0.10<Nz<0.02 (8)
である。また、Rth(λ)は下記のように定義される。
Rth(λ)={(n+n)/2−n}×d (9)
上記式(9)でd(nm)は光学フィルムの厚さである。本発明で位相差値Γ(λ)やRth(λ),Nz値等は特に断りがない限り、550nmの波長で測定したものとする。
【0015】
また、本発明における厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの面内位相差値は0であることが好ましいが、20nm以下であることが必要であり、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、さらに好ましくは3nm以下であるとする。面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの遅相軸と厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの遅相軸とのなす角は、略0°または略90°であることが好ましい。この遅相軸の合わせ角度は、前記した角度であることが好ましいが、許容範囲は、上記設定角度を中心として、±3°以内であり、好ましくは±2°以内、より好ましくは±1°以内、さらに好ましくは±0.5°以内である。厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの面内位相差値が5nm以下の場合には、上記遅相軸の角度は不問となるため、先述したように位相差均一性に優れた積層光学フィルムを得ることが可能となる。
【0016】
分子分極率異方性が正である非晶性高分子を用いた場合には、延伸工程は利用せずに溶液キャストしただけで、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層を作製することが可能であり、面内の位相差値を小さく、目的の厚さ方向の位相差値を得ることが、材料の設計にもよるが比較的容易に可能となる。本構成が位相差均一性に優れる1つの理由は、分子分極率異方性が正である非晶性高分子からなる厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層を用いて、位相差フィルムである積層光学フィルムの視野角依存性を改良できる構成を見出した点にある。
【0017】
分子分極率異方性が正である非晶性高分子とは、ガラス転移点近傍において幅自由1軸延伸することにより、面内の屈折率の最大方位が延伸方向に現れるものを言う。一方、分子分極率異方性が負である非晶性高分子とは、ガラス転移点近傍において幅自由1軸延伸することにより、面内の屈折率の最大方位が延伸方向に垂直方位に現れるものを言う。
【0018】
分子分極率異方性が正である非晶性高分子を2軸方向に延伸することにより、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層を得ることができる。また、先述したようにこの高分子を溶媒に溶解させて、ステンレス等にキャストすることにより、流動配向や蒸発時の収縮応力による延伸効果等により、特に延伸工程を経ずとも厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層を得ることができる。延伸工程を用いずにこのようなコーテイング(キャスト)だけで光学層を得ることも可能であり、複屈折発現性の大きい高分子を選択すれば、延伸しなくても十分実用的な大きな厚さ方向の位相差値を有し、かつ薄膜である光学層を得ることが可能である。このような厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層は、面内に光学軸を有する負の1軸性光学フィルム上にコーテイングにより形成させることも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、位相差の角度依存性を改良し、かつ、位相差の均一性が改良される位相差フィルムとしての積層光学フィルムを提供できる。さらに視野角の依存性改良といった位相差フィルムの高機能化と薄膜化を両立させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
前記発明の効果を得るためには、分子分極率異方性が正である非晶性高分子からなり、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層と、分子分極率異方性が負である熱可塑性高分子からなり、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムが積層されてなる積層光学フィルムであり、
かつ、
厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層の厚さ方向の位相差値をRthNEC(λ)、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの面内位相差値をΓNEA(λ)とすると、下記式(1)の関係を満足する位相差フィルムであることが好ましい。
−100<ΓNEA(λ)/2+RthNEC(λ)<100nm (1)
(ただし、λ=550nmとする。)
【0021】
ΓNEA(λ)/2+RthNEC(λ)の最適な値は、検討した結果、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層と、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの屈折率が同じであれば、0nmの時に最も角度依存性が小さくなることを見出したが、実際に用いる材料は必ずしも同じ屈折率でないことと、他の光学素子と組み合わせる場合も考慮すると、好ましい範囲は上記式(1)を満足することである。より好ましくは、下記式(10)
−80<ΓNEA(λ)/2+RthNEC(λ)<80nm (10)
を満足するものであり、さらに好ましくは下記式(11)
−60<ΓNEA(λ)/2+RthNEC(λ)<60nm (11)
を満足するものであり、最も好ましくは、
−40<ΓNEA(λ)/2+RthNEC(λ)<40nm (12)
を満足するものである。
【0022】
上記略1軸性光学層およびフィルムは、それぞれ、必要な特性を有していれば、フィルム1枚としての層の単独または2枚以上のフィルムを積層させて構成されていてもよいが、それぞれ1枚からなるものの方が位相差フィルム全体の厚さが薄くでき、フィルム同士の積層工程も不要であり生産性の点からも好ましい。
【0023】
面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの面内位相差値は、用途にもよるが、30〜800nmであることが好ましく、より好ましくは50〜700nmである。一方、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層の厚さ方向の位相差値は、用途に応じて、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの面内位相差値と上記式(1)の範囲で制御されることが好ましい。
【0024】
面内に光学軸を有する負の1軸性光学フィルムを与える分子分極率異方性が負である熱可塑性高分子としては、例えばポリカーボネート、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、アモルファスポリオレフィン、ノルボルネン骨格を有するポリマー、有機酸置換セルロース系、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエステル、オレフィンマレイミド、フェニル基を有する共重合オレフィンマレイミド等が挙げられる。これらの材料は、例えばフィルム化した後、例えば1軸延伸することにより面内に光学軸を有する負の1軸性光学フィルムとすることができる。
【0025】
上記分子分極率異方性が負である非晶性高分子として好ましいのはフルオレン骨格を有するポリカーボネートである。フルオレン骨格は延伸操作等により高分子主鎖に対して垂直に配向するため、大きな負の分子分極率異方性を取りうる。
【0026】
フルオレン骨格を有するポリカーボネートの好ましい化学構造は下記式(I)で表される繰返し単位を含有するポリマーまたはポリマー混合物からなる。
【化1】

ここで、R〜Rは、互いに独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の炭化水素基および炭素数1〜6の炭化水素−O−基よりなる群から選ばれる基であり、そしてXは下記式(1)−1
【化2】

で表わされる基であり、R30およびR31は、互いに独立に、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、そしてnおよびmは互いに独立に、0〜4の整数である。
【0027】
ここで該ポリマーおよびポリマー混合物は上記式(I)で表される繰返し単位をそれぞれポリマーまたはポリマー混合物の全繰返し単位の50〜95モル%含有するものが好ましく、より好ましくは60〜95モル%、さらに好ましくは70〜90モル%である。
【0028】
これらのフルオレン骨格を有するポリカーボネート材料は高いガラス転移点温度、ハンドリングや延伸成形性等の点で、本発明における光学フィルムとして優れた物性を有する。
【0029】
より好ましいポリカーボネート材料としては、上記式(I)で示される繰返し単位および下記式(II)
【化3】

で示される繰返し単位からなり、かつ上記式(I)および(II)の合計に基づき上記式(I)で表される繰返し単位は50〜95モル%含有するものが好ましく、より好ましくは60〜95モル%、さらに好ましくは70〜90モル%である共重合体または混合物である。
【0030】
上記式(II)において、R〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子および炭素数1〜22の炭化水素基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、Yは下記式群のそれぞれで表わされる基:
【化4】

よりなる群から選ばれる少なくとも一種の基である。ここで、Y中のR17〜R19、R21およびR22は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基、アリール基の如き炭素数1〜22の炭化水素基であり、R20およびR23はアルキル基、アリール基の如き炭素数1〜20の炭化水素基であり、また、Ar〜Arは、それぞれ独立に、フェニル基の如き炭素数6〜10のアリール基である。
【0031】
上記したポリカーボネートはジヒドロキシ化合物とホスゲンとの重縮合による方法、溶融重縮合法、固相重合法等により好適に製造される。ブレンドの場合は、相溶性ブレンドが好ましいが、完全に相溶しなくても成分間の屈折率を合わせれば成分間の光散乱を抑え、透明性を向上させることが可能である。
【0032】
分子分極率異方性が正である非晶性高分子からなり、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムを与える高分子としては、例えばポリカーボネート、有機酸置換セルロース、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群から選択される少なくとも一種の高分子であることが好ましい。
【0033】
これらのポリマーは、例えば、耐熱性、耐薬品性、透明性に優れ、剛性にも優れることからも好ましい。これらのポリマーは、いずれか一種類を単独で使用してもよいし、例えば、ポリアリールエーテルケトンとポリアミドとの混合物のように、異なる官能基を持つ2種以上の混合物として使用してもよい。このようなポリマーの中でも、高い複屈折性が得られることから、ポリイミド等が好ましい。このように高い複屈折性を示すと、大きい複屈折値が得られるため、例えば、同程度の補償効果を、他のポリマーと比較して薄層で達成できるからである。
【0034】
前記ポリイミドとしては、例えば、面内配向性が高く、有機溶剤に可溶なポリイミドが好ましい。
さらに、前記ポリイミドとしては、酸二無水物やジアミンを、適宜共重合させたコポリマーがあげられる。
【0035】
前記酸二無水物としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物があげられる。前記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリト酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、複素環式芳香族テトラカルボン酸二無水物、2,2′−置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等があげられる。前記ピロメリト酸二無水物としては、例えば、ピロメリト酸二無水物、3,6−ジフェニルピロメリト酸二無水物、3,6−ビス(トリフルオロメチル)ピロメリト酸二無水物、3,6−ジブロモピロメリト酸二無水物、3,6−ジクロロピロメリト酸二無水物等があげられる。前記ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等があげられる。前記ナフタレンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,3,6,7−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロ−ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物等があげられる。前記複素環式芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等があげられる。前記2,2′−置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,2′−ジブロモ−4,4′,5,5′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′−ジクロロ−4,4′,5,5′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′,5,5′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等があげられる。
【0036】
また、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物のその他の例としては、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,5,6−トリフルオロ−3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4′−(3,4−ジカルボキシフェニル)−2,2−ジフェニルプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、4,4′−オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、(3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物)、4,4′−[4,4′−イソプロピリデン−ジ(p−フェニレンオキシ)]ビス(フタル酸無水物)、N,N−(3,4−ジカルボキシフェニル)−N−メチルアミン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジエチルシラン二無水物等があげられる。
【0037】
前記ジアミンとしては、例えば、芳香族ジアミンがあげられ、具体例としては、ベンゼンジアミン、ジアミノベンゾフェノン、ナフタレンジアミン、複素環式芳香族ジアミン、およびその他の芳香族ジアミンがあげられる。
【0038】
前記ベンゼンジアミンとしては、例えば、o−、m−およびp−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノ−2−メトキシベンゼン、1,4−ジアミノ−2−フェニルベンゼンおよび1,3−ジアミノ−4−クロロベンゼンのようなベンゼンジアミンから成る群から選択されるジアミン等があげられる。前記ジアミノベンゾフェノンの例としては、2,2′−ジアミノベンゾフェノン、および3,3′−ジアミノベンゾフェノン等があげられる。前記ナフタレンジアミンとしては、例えば、1,8−ジアミノナフタレン、および1,5−ジアミノナフタレン等があげられる。前記複素環式芳香族ジアミンの例としては、2,6−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリジン、および2,4−ジアミノ−S−トリアジン等があげられる。
【0039】
また、前記芳香族ジアミンとしては、これらの他に、4,4′−ジアミノビフェニル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−(9−フルオレニリデン)−ジアニリン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン等があげられる。
【0040】
これらポリイミドからなる厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層は、例えば、ある基板上に、前記ポリイミドを塗工して塗工膜を形成し、前記塗工膜における前記ポリイミドを固化させることによって、前記基板上に形成できる。あるいは前記したように、分子分極率異方性が負である熱可塑性高分子からなり、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの上に前記ポリイミドを直接塗工して塗工膜を形成し、前記塗工膜における前記ポリイミドを固化させることによって形成することもできる。ポリイミドは、その性質上、延伸工程を使用しなくても、自発的に塗工時に配向し、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム(層)となる。
【0041】
本発明の積層光学フィルムは、前記厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムを前記基板から剥離したのち、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの上に貼りあわせてもよいし、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム上に直接塗布し形成した状態で使用してもよい。
【0042】
前記ポリイミドは、フッ素を含有するポリイミドであることが好ましく、より好ましくは、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3、−ヘキサフルオロプロパン2無水物と2,2‘−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノ−ビフェニルから重合されたものである。このポリイミドを用いて塗工により形成された光学層は、大きな厚さ方向の位相差を有するために10μm以下の光学層を作製することが可能である。
【0043】
本発明における光学フィルム(厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層と、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの両方をいう)中にはさらに、フェニルサリチル酸、2−ヒドロキシベンゾフェノン、トリフェニルフォスフェート等の紫外線吸収剤や、色味を変えるためのブルーイング剤、酸化防止剤等の低分子の添加物を含有してもよい。
【0044】
本発明における厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層の厚みとしては、0.1〜20μmであることが好ましく、より好ましくは、1〜10μmである。
本発明における面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの厚さとしては、10μmから150μmであることが好ましく、より好ましくは20μmから100μmである。
【0045】
本発明の積層光学フィルムの厚さとしては、1μmから400μmであることが好ましい。なお、本発明における積層光学フィルムは「シート」、「板」といわれるいずれのものも含む意味で用いられている。フィルムのハンドリングを含めて考えると、厚さは20〜130μmが好ましく、より好ましくは30〜100μm、さらに好ましくは40〜70μmである。
【0046】
本発明によれば、前記積層光学フィルムと偏光板を一体化させることにより積層偏光板を得ることができる。
偏光板は偏光層のみからなる場合もあるが、一般には、偏光層を保護するためのフィルム(以下偏光層用保護フィルムということがある)としてセルロースアセテート等からなる一対のフィルムの間に、偏光層を挟持した構成のものが好適に用いられている。偏光板の偏光層としては、所定の偏光状態の光を得ることができる適宜なものを用いうる。就中、直線偏光状態の透過光を得ることのできるものが好ましい。偏光層の例としては、ポリビニルアルコール系フィルムや部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムの如き親水性高分子フィルムにヨウ素および/または二色性染料を吸着させて延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物の如きポリエン配向フィルム等からなる偏光層などがあげられる。
【0047】
偏光板に偏光層用保護フィルムが存在する場合には、その光学異方性はできるだけ小さいことが好ましく、具体的には面内位相差で10nm以下、より好ましくは7nm以下であり、最も好ましくは5nm以下である。また、Rth(λ)は70nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、最も好ましくは40nm以下である。さらに、偏光層用保護フィルムのフィルム面内における遅相軸は偏光板の吸収軸と直交または平行であることが好ましく、平行であることが偏光板の連続生産を行う上でより好ましい。偏光層用保護フィルムとしは、例えばポリカーボネート系、ポリスチレン系、シンジオタクチックポリスチレン、アモルファスポリオレフィン系、ノルボルネン骨格を有するポリマー、有機酸置換セルロース系、ポリエーテルスルホン系、ポリアリレート系、ポリエステル系、オレフィンマレイミド系、フェニル基を有する共重合オレフィンマレイミド系有機酸置換セルロース等が用いられるが、好ましくはセルロースアセテートである。
【0048】
かかる本発明の積層偏光板においては、偏光層用保護フィルムを省き、本発明の積層光学フィルムが偏光層用保護フィルムを兼ねてもよい。このようにすることでより光学設計が容易になるといった利点も有する。
【0049】
また、積層偏光板の積層順番や光学軸の相互の関係を鋭意検討したところ、偏光板、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムが、少なくともこの順番で積層されてなり、かつ、偏光板の吸収軸と面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの光学軸が互いに略直交することが最も好ましいことがわかった。すわなち、この積層構成を液晶表示装置特に、インプレインスイッチングモードにおいて用いた場合、他の構成に比べて視野角特性、特に見る角度が変わっても色変化のより少ない表示装置が得られるといった利点があることがわかった。また、本構成は偏光板と積層光学フィルムをロールツロールで貼り合わせることができるため、生産性向上のみならず貼り合わせ時の光学軸のずれ防止に効果があり、コントラスト向上効果も期待される。なお、本構成の積層偏光板をロールツウロールで貼り合わせるためには、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムは縦1軸延伸で作製することが好ましい。このように作製することで本略1軸性光学フィルムは分子分極率異方性が負であるために、延伸方向(長尺方向)とは略直交した方向に光学軸が存在し、一方、ヨウ素を用いた偏光板は一般に縦1軸延伸によって作製されるため略長尺方向に吸収軸が存在するため、それらの貼合がロールツウロールで可能となるのである。一方、分子分極率異方性が正である非晶性高分子からなり厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層は、先述したように偏光板上かあるいは面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム上に、例えば塗布により形成することができる。一例として、本積層偏光板をインプレインスイッチングモードの液晶表示装置に適用した例を図8に記す。なお、図8で光源は上下の偏光板のどちらか一方側にあればよい。
【0050】
面内に光学軸を有する負の1軸性光学フィルムの製造方法としては、分子分極率異方性が負の材料を1軸延伸により製造することが好ましい。縦1軸延伸するか横1軸延伸するかによって、遅相軸の方位を制御することできる。
【0051】
偏光板と積層光学フィルムの積層に際しては、必要に応じて接着剤等を介して固定することができる。軸関係のズレ防止等の点からは接着固定することが好ましい。接着には、例えばポリビニルアルコール系、変性ポリビニルアルコール系、有機シラノール系、アクリル系やシリコーン系、ポリエステル系やポリウレタン系、ポリエーテル系やゴム系等の透明な接着剤を用いることができ、その種類については特に限定はない。光学特性の変化を防止する点などからは、硬化や乾燥の際に高温のプロセスを要しないものが好ましく、長時間の硬化処理や乾燥処理を要しないものが望ましい。また、加熱や加湿条件下に剥離等を生じないものが好ましい。
【0052】
偏光層用保護フィルムとしてトリアセチルセルロース(TAC)を用いた場合、TACと位相差フィルムの接着剤としては、(メタ)アクリル酸ブチルや(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルや(メタ)アクリル酸の如きモノマーを成分とする質量平均分子量が10万以上で、ガラス転移温度が0℃以下のアクリル系ポリマーからなるアクリル系感圧接着剤が特に好ましく用いうる。またアクリル系感圧接着剤は、透明性や耐候性や耐熱性などに優れる点からも好ましい。
【0053】
接着剤には、必要に応じて例えば天然物や合成物の樹脂類、ガラス繊維やガラスビーズ、金属粉やその他の無機粉末等からなる充填材や顔料、着色剤や酸化防止剤などの適宜な添加剤を配合することもできる。なお、上記の偏光子、位相差フィルム、偏光板保護フィルム、接着剤層などの各層は、例えばサリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などにより紫外線吸収機能をもたせることもできる。
【0054】
また、本発明の積層光学フィルムや積層偏光板を液晶表示装置に用いることで、液晶表示装置の視野角特性等の表示性能を向上させることができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(評価法)
本明細書中に記載の材料特性値等は以下の評価法によって得られたものである。
【0056】
(1)位相差値Γ(λ)(nm)、Rth(λ)値(nm)、Nzの測定
複屈折Δnとフィルムの厚さdの積である位相差Γ(λ)値、Rth(λ)、Nzは、分光エリプソメータである日本分光(株)製の商品名『M150』により測定した。Γ値は入射光線とフィルム表面が直交する状態で測定した。また、Nz、Rth値は入射光線とフィルム表面の角度を変えることにより、各角度での位相差値を測定し、公知の屈折率楕円体の式でカーブフィッチングすることにより三次元屈折率であるn,n,nを求め、下記式(4)、(9)に代入することにより求めた。
Nz=(n−n)/(n−n) (4)
Rth(λ)={(n+n)/2−n}×d (9)
【0057】
(2)面内に光学軸を有する略1軸性光学フィルムの作製方法
光学フィルムの高分子材料としては、フルオレン骨格を有するポリカーボネート共重合体を用いた。ポリカーボネート共重合体の重合は公知のホスゲンを用いた界面重縮合法によって行われた。攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応槽に水酸化ナトリウム水溶液およびイオン交換水を仕込み、これに上記構造を有するモノマー[A]と[B]
【化5】

を86対14のモル比で溶解させ、少量のハイドロサルファイトを加えた。次にこれに塩化メチレンを加え、20℃でホスゲンを約60分かけて吹き込んだ。さらに、p−tert−ブチルフェノールを加えて乳化させた後、トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間攪拌して反応を終了させた。反応終了後有機相分取し、塩化メチレンを蒸発させてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比は仕込み量比とほぼ同様であった。
【0058】
この共重合体をメチレンクロライドに溶解させ、固形分濃度18重量%のドープ溶液を作製した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムの残留溶媒量は0.9重量%であった。このフィルムを延伸温度225℃とし、表1記載の位相差値が得られるように延伸倍率を設定して1軸延伸することにより厚さ70μmの光学フィルムを得た。
【0059】
(3)厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層の作製方法および面内に光学軸を有する略1軸性光学フィルムとの積層方法
2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3、−ヘキサフルオロプロパン2無水物と、2,2’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノ−ビフェニルから重合された下記構造[C]
【化6】

を有する、重量平均分子量6万のポリイミドの17重量%のシクロヘキサノン溶液を、前記(2)で作製した面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム上に塗布し、乾燥させて本発明の積層光学フィルムを作製した(厚みの異なるように3種類を作製(実施例1〜3に対応))。
【0060】
面内に光学軸を有する負の略1軸性光学層の位相差値をΓNEA(λ)、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの厚さ方向の位相差値をRthNEC(λ)とし、これらの値および積層光学フィルムのΓNEA(λ)/2+RthNEC(λ)の値を表1に示す。また面内の位相差値はいずれも2nm以下であった。さらに、該積層された光学フィルムの位相差のばらつきを確認したが、10cm角の範囲で面内位相差で±1nm程度と非常に均一性に優れることがわかった。
【0061】
[実施例1〜3]
前記(3)で作製した積層光学フィルムの両側に、図1に示すように偏光板を配置し光学素子を作製した。この図1に示した構造を有する光学素子において、まずは斜め入射にも対応したジョーンズ行列計算を行った。以下計算においてはすべて波長550nmにおける計算結果を示してある。実施例1〜3の計算結果をそれぞれ図4〜6に記す。図4〜6では透過率スペクトルの入射角度依存性を計算し、CIE1976のL***空間にける色差ΔE*の入射角度依存性を計算で求めたものである。極角0°の場合と斜め入射の場合の色差をプロットしてある。すわなち、この評価で、斜め入射時の色差が小さいほど、積層光学フィルムの視野角依存性が良好であることを示す。図で色が濃い部分は色差が小さいことを示す。また、黒い実線よりも極角が小さい範囲では色差は3以下であり、色変化が少ない領域であることを示す。後述する比較例と比べて、色変化が少ない領域が格段に拡がっていることがわかる。また、実際に図1の構成を作製し、目視にて色変化を見たが、広い視野角範囲で色変化が少ないことが確認された。
【0062】
[比較例]
厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層を用いず、図2の構成を用いた以外は、実施例1と同様に評価を行った。計算結果の図7から見てわかるように、色差変化が3以下の領域が非常に小さく、視野角特性に優れないことがわかる。また、実際に図7の構成を作製して目視で色変化を確認したが、極角変化により色が大きく変化することがわかった。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の積層光学フィルムは、位相差の視野角特性および位相差の均一性に優れ、これらを液晶表示装置に用いることにより表示装置の高性能化、特に広視野角化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例1〜3における光学素子の配置図である。
【図2】比較例における光学素子の配置図である。
【図3】本発明における位相差フィルムの三次元屈折率の定義のための直交座標を説明した図である。
【図4】実施例1における色差の入射角度依存性を表す図である。
【図5】実施例2における色差の入射角度依存性を表す図である。
【図6】実施例3における色差の入射角度依存性を表す図である。
【図7】比較例における色差の入射角度依存性を表す図である。
【図8】本発明の積層光学フィルムを、インプレインスイッチングモードの液晶表示装置に適用した概念図である。
【符号の説明】
【0066】
1 偏光板
2 厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層
3 面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム
4 偏光板
5 光源から出射されて偏光板に入射される光
6 偏光板の吸収軸
7 積層光学フィルムの面内における遅相軸
21 偏光板
22 面内に光学軸を有する負の略1軸性光学層
23 偏光板
24 光源から出射されて偏光板に入射される光
25 偏光板の吸収軸
26 光学軸(遅相軸)
30 (積層)光学フィルム
31 (積層)光学フィルムの表面
40 偏光板
41 液晶セル
42 面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム
43 厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層
44 偏光板
45 偏光板の吸収軸
46 液晶セルの遅相軸(液晶長軸配向方向)
47 光学軸(遅相軸)
48 偏光板の吸収軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子分極率異方性が正である非晶性高分子からなり、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層と、分子分極率異方性が負である熱可塑性高分子からなり、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムとが積層されてなることを特徴とする積層光学フィルム。
【請求項2】
厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層の厚さ方向の位相差値をRthNEC(λ)、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの面内位相差値をΓNEA(λ)とすると、下記式(1)の関係を満足することを特徴とする請求項1記載の積層光学フィルム。
−100<ΓNEA(λ)/2+RthNEC(λ)<100nm (1)
(ただし、λ=550nmとする。)
【請求項3】
分子分極率異方性が負である熱可塑性高分子が、フルオレン骨格を有するポリカーボネートであることを特徴とする請求項1または2記載の積層光学フィルム。
【請求項4】
分子分極率異方性が正である非晶性高分子が、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群から選択される少なくとも一種のポリマーを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層光学フィルム。
【請求項5】
厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層の厚みが10μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層光学フィルム。
【請求項6】
分子分極率異方性が正である非晶性高分子が、フッ素原子を含有するポリイミドであることを特徴とする請求項4または5記載の積層光学フィルム。
【請求項7】
フッ素原子を含有するポリイミドが、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3、−ヘキサフルオロプロパン2無水物と2,2’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノ−ビフェニルとを重合して得られたものであることを特徴とする請求項6記載の積層光学フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の積層光学フィルムと偏光板が一体となった積層偏光板。
【請求項9】
偏光板、厚さ方向に光学軸を有する負の略1軸性光学層、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムが、少なくともこの順番で積層されてなり、かつ、偏光板の吸収軸と面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの光学軸が互いに略直交することを特徴とする請求項8記載の積層偏光板。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の積層光学フィルムおよび/または請求項8〜9のいずれかに記載の積層偏光板を用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−25649(P2007−25649A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160732(P2006−160732)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】