説明

積層合板

【課題】0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョンを硬化性物質と組み合わせ、合板表面に直接、間接に塗布・乾燥することにより、各種SL材の(1)ワレの発生を防止し、(2)優れた合板との密着性を発揮する積層合板を提供すること。
【解決手段】水硬性物質及び気硬性物質から選ばれる1種以上の硬化性物質(1)とガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)とからなる配合物を、合板の少なくとも一方の表面に積層されてなることを特徴とする積層合板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合板表面に例えばセメント系セルフレベリング(以下SLと略)材、石膏系SL材等を塗布・乾燥させた時に、セメント硬化物または石膏硬化物の耐ワレ、密着性が良好な合板に関するものである。さらに詳しくは合板表面に水硬性物質及び気硬性物質から選ばれる1種以上の硬化性物質(1)とガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)とからなる配合物を、積層された合板に関する。
【背景技術】
【0002】
合板表面に各種SL材を塗布・乾燥させたものは、建築部材の床、壁などに使われている。従来、合板と各種SL材耐ワレ性及びSL材との密着性性を向上させるために、樹脂エマルジョン等を塗布することがあった。
しかしながら、近年床、壁の使用条件の多様化によるSL材のワレの発生が起き易くなっている。また合板からのホルムアルデヒド放散を防止するために合板作製時にパラフィン等の成分を配合する等の処理を施していることがあり、パラフィンの表面への移行等が問題となる場合がある。その結果、従来の樹脂エマルジョンと合板の間に一層増えることになり、結果として合板とSL材の密着性が不良となることが起きている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョンを硬化性物質と組み合わせ、合板表面に塗布・乾燥することにより、各種SL材の(1)ワレの発生を防止し、(2)優れた合板との密着性を発揮する積層合板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、前記(1)〜(2)の課題を同時に解決するために、特定のガラス転移温度を持つ樹脂エマルジョンと硬化性物質を組み合わせ合板表面に塗布・硬化させた積層合板を見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、
[1]水硬性物質及び気硬性物質から選ばれる1種以上の硬化性物質(1)とガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)とからなる配合物を、合板の少なくとも一方の表面に積層されてなることを特徴とする積層合板、
[2]水硬性物質及び気硬性物質から選ばれる1種以上の硬化性物質(1)とガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)との比率は、(1)が100質量部に対し、(2)が5〜50質量部(固形分)であることを特徴とする上記[1]に記載の積層合板、
[3]上記[1]1または[2]記載のガラス転移温度が0℃以下の樹脂含む樹脂エマルジョンが、芳香族ビニル系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体を含む単量体組成物を乳化重合して得られることを特徴とする積層合板、
である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の積層合板は、各種SL材を塗布・硬化させた時、ワレの発生もなく、またSL材と合板との優れた密着性を発現する効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明に用いられる合板は、JASで規定される各種の合板を指し、特にその種類は限定されない。
本発明に用いられる水硬性物質は、空気中あるいは水中において水和反応により硬化する物質を指し、例えばセメント挙げられる。セメントは例えば、JIS R5210(ポルトランドセメント)、R5211(高炉セメント)、R5212(シリカセメント)、R5213(フライアッシュセメント)に規定されている、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントが使用でき、また社団法人セメント協会が、セメントの常識(1994年3月発行)に記載している、特殊セメント、白色ポルトランドセメント、セメント系固化材、アルミナセメント、超速硬セメント、コロイドセメント、湯井セメント、地熱井セメント、膨張セメント、その他特殊セメント等種々のセメントを使用できる。
【0007】
本発明に用いられる気硬性物質は、空気中の炭酸ガスと反応し硬化する物質であり、また石膏のように水分が蒸発して始めて硬化する物質などを指す。空気中の炭酸ガスと反応し硬化する物質としては石灰系プラスターが挙げられ、例えばJIS A6902に規定する左官用消石灰、JIS A6903に規定するドロマイトプラスターなどが挙げられる。
本発明に用いられるガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョンは、その種類に特に制限はない。例えばアクリル系、アクリル−スチレン系、スチレン−ブタジエン系、アクリロニトリル−ブタジエン系、酢酸ビニル系、エチレン−酢酸ビニル系、ウレタン系、クロロプレン系等が挙げられる。
【0008】
本発明において水硬性物質及び気硬性物質から選ばれる1種以上の硬化性物質(1)とガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)との比率は、(1)が100質量部に対し、(2)が5〜50質量部(固形分)である。(1)が100質量部に対し、(2)が5質量部(固形分)以上で耐ワレ性、密着性が良好であり、(2)が50質量部(固形分)以下で耐ワレ性、密着性が良好である。さらに好ましくは、(1)が100質量部に対し、(2)が10〜40質量部(固形分)である。
本発明においてガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)は、芳香族ビニル系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体を含む単量体組成物を乳化重合して得られるアクリル系エマルジョン、スチレン−アクリル系エマルジョンが好ましい。
【0009】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン等が挙げられる。好ましくはスチレンである。
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられる。好ましくは、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレートである。
【0010】
様々な品質・物性を改良するために、上記以外の単量体成分を使用することができる。上記以外の単量体として、例えば(イ)アミド基含有ビニル単量体、(ロ)シアノ基含有ビニル単量体、(ハ)架橋性単量体、(ニ)ヒドロキシル基含有ビニル系単量体、(ホ)不飽和カルボン酸単量体、(ヘ)その他のエチレン性不飽和単量体等を挙げることができる。
乳化重合の方法に関しては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、水性媒体中で単量体組成物、ラジカル重合開始剤、非反応性界面活性剤、反応性界面活性剤、および必要に応じて用いられる連鎖移動剤等の他の添加剤成分などを基本組成成分とする分散系において、単量体組成物を重合する方法である。そして、重合に際しては、供給する単量体組成物の組成を全重合過程で一定にする方法や重合過程で逐次、あるいは連続的に変化させることによって生成するラテックス粒子の形態的な組成変化を与える方法など所望に応じてさまざまな方法が利用できる。
【0011】
本発明において樹脂のガラス転移温度は0℃以下が好ましい。ガラス転移温度が0℃以下で耐ワレ性、合板への密着性が良好である。さらに好ましくは、ガラス転移温度が−10℃〜−60℃である。
本発明で言う重合体のガラス転移温度は、単量体のホモ重合体のガラス転移温度と単量体の共重合比率より次式によって定義することが可能である。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・
Tg:単量体1、2・・・よりなる重合体のガラス転移温度(゜K)
W1、W2・・:単量体1、単量体2、・・の質量分率
ここでW1+W2+・・=1
Tg1、Tg2・・:単量体1、単量体2、・・のホモ重合体のガラス転移温度(゜K)
【0012】
計算に使用する単量体のホモ重合体のTg(゜K)は、例えばポリマーハンドブック(Jhon Willey & Sons)に記載されている。本願において用いた数値を例示する。カッコ内の値がホモ重合体のTgを示す。ポリスチレン(373゜K)、ポリメチルメタクリレート(378゜K)、ポリブチルアクリレート(219゜K)、ポリ2−エチルヘキシルアクリレート(205゜K)、ポリアクリル酸(379゜K)、ポリメタクリル酸(403゜K)、ポリアクリロニトリル(373゜K)、ポリ2−ヒドロキシエチルアクリレート(258゜K)、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレート(328゜K)である。
【0013】
本発明の樹脂エマルジョンには性能を向上させるために、以下の材料を配合してもよい。例えば、水溶性樹脂、溶剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、分散剤、カップリング剤、着色剤、耐水化剤、潤滑剤、pH調整剤、防腐剤、無機顔料、有機顔料、界面活性剤、架橋剤、例えばエポキシ系化合物、多価金属化合物、イソシアネート系化合物などが挙げられる。また、減水剤及び流動化剤(ポリカルボン酸系、メラミンスルホン酸系、ナフタリンスルホン酸系、リグニンスルホン酸系など)、収縮低減剤(グリコールエーテル系、ポリエーテル系等)、耐寒剤(塩化カルシウム、珪酸塩等)、防水剤(ステアリン酸、シリコン系等)、防錆剤(リン酸塩、亜硝酸塩等)、粘度調整剤(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等)、凝結調整剤(リン酸塩等)等を配合してもよい。
【0014】
本発明の水硬性物質及び気硬性物質から選ばれる1種以上の硬化性物質(1)とガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)とからなる配合物には、様々な品質・物性を改良するために、充填材、先に挙げた減水剤及び流動化剤(ポリカルボン酸系、メラミンスルホン酸系、ナフタリンスルホン酸系、リグニンスルホン酸系など)、収縮低減剤(グリコールエーテル系、ポリエーテル系等)、耐寒剤(塩化カルシウム、珪酸塩等)、防水剤(ステアリン酸、シリコン系等)、防錆剤(リン酸塩、亜硝酸塩等)、粘度調整剤(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等)、凝結調整剤(リン酸塩等)、さらに膨張剤(エトリンガイト系、石灰系等)、着色剤(酸化鉄、酸化クロム等)、消泡剤(シリコン系、鉱油系等)、補強材(鋼繊維、ガラス繊維、合成繊維等)、界面活性剤(アニオン、ノニオン、カチオン系等)、増粘剤、レベリング剤、成膜助剤、溶剤、可塑剤、分散剤、耐水化剤、潤滑剤等が挙げられる。
【0015】
充填材としては一般的にセメントモルタルに用いられる砂、珪砂、寒水砂、天然及び人工軽量骨材等が使用でき、また無機または有機の顔料等も用いることができ例えば、無機顔料ではマグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、チタン、アルミニウム、アンチモン、鉛などの各種金属酸化物、水酸化物、硫化物、炭酸塩、硫酸塩または珪酸化合物などが挙げられる。具体的には例えば、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ、石膏、バライト粉、アルミナホワイト、サチンホワイトなどである。有機顔料ではポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの固体高分子微粉末などが挙げられる。
【0016】
本発明において充填材の使用量は、(1)100質量部に対して充填材が5〜500質量部であることが好ましい。充填材5質量部以上で、耐ワレ性、密着性が良好である。一方、500質量部以下で耐ワレ性が良好である。好ましくは50〜400質量部の範囲である。
本発明の積層合板の製造方法に関しては特に制限はなく、従来公知の方法で製造することができる。すなわち、水硬性物質及び気硬性物質から選ばれる1種以上の硬化性物質(1)とガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)とからなる配合物を作製し、次いで合板の表面に塗布し、積層する。塗布方法は特に制限はなく、例えば現場では刷毛塗り、コテ塗り、スプレー塗布、ローラー塗布、ブラシ塗布、へら塗り、定規塗り、トンボ塗り等が挙げれ、またラインではロール塗布、カーテン塗布、スプレー塗布等が挙げられる。塗布後、乾燥を行うが、乾燥方法、乾燥条件等も特に制限はなく、室温乾燥、強制乾燥等が挙げられる。
【0017】
本発明の水硬性物質及び気硬性物質から選ばれる1種以上の硬化性物質(1)ガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)とからなる配合物を、合板の表面に直接積層されてもよく、必要に応じて多層構成でもよい。例えば、配合物の下に塗料等の層があってもよい。
【実施例】
【0018】
本発明を実施例に基づいて説明する。本発明の実施態様は、これらによって限定されるものではない。なお、例中の部数はすべて有り姿での部数(即ち、樹脂エマルジョンは水を含有したそのものの部数である)を示した。また、「部」は特に断らない限り「質量部」を示すものである。
[物性の測定]
各特性は次のようにして求めた。
(1)ワレ性:
硬化性物質と樹脂エマルジョンとの配合物を積層した合板を、 JIS A6909(建築用仕上塗材)7.11温冷繰り返し試験条件に樹脂セメントモルタル硬化物を放置し、温冷繰り返し20サイクルを実施した。その後、目視によりワレの判定を行った。
(2)密着性:
a.常態密着 硬化性物質と樹脂エマルジョンとの配合物を積層した合板を、JIS A1171−2000(ポリマーセメントモルタルの試験方法)の7.2接着強さ試験に準拠して、合板と硬化配合物との密着性の測定を行った。
b.温冷サイクル後:硬化性物質と樹脂エマルジョンとの配合物を積層した合板を、 JIS A6909(建築用仕上塗材)7.11温冷繰り返し試験条件に樹脂セメントモルタル硬化物を放置し、温冷繰り返し10サイクルを実施した後、a.と同様に密着性の測定を行った。
【0019】
[実施例1〜2]
表1に示す配合を用いて、積層合板を作製した。作製は以下のとおり。市販の合板に、配合物を1.5kg/mとなるよう塗布する。室温で1日乾燥させ、次いで市販セメント系SL材を20kg/mとなるよう塗り継ぎ、養生を2週間行った。
その後、(1)ワレ性、(2)密着性の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0020】
[実施例3〜4]
合板表面にパラフィン5%トルエン溶液を、1g/mとなるよう塗布し、パラフィン含有合板のモデル合板を作製した。
このモデル合板を用い、実施例1と同様に表1に示す配合を作製して、積層合板を作製した。また、実施例1と同様に、(1)ワレ性、(2)密着性の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0021】
[比較例1〜3]
実施例3で用いたモデル合板を用い、表2に示す配合を作製して、積層合板を作製した。実施例1と同様に(1)ワレ性、(2)密着性の試験を行った。その結果を表2に示す。
尚、比較例1は樹脂エマルジョンを用いない例であり、比較例2は樹脂エマルジョンのみを用いた例である。比較例3はガラス転移温度10℃の樹脂を含む樹脂エマルジョンを用いた例である。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の積層合板は、各種SL材を表面に塗布・硬化させることで、床、壁の建築部材の分野で好適に利用できる。それ以外では例えばセメントモルタル、またはポリマーセメントモルタル、セメントペースト、石灰系プラスター、等を表面に塗布・硬化させることもでき、建築用意匠材料として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性物質及び気硬性物質から選ばれる1種以上の硬化性物質(1)とガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)とからなる配合物を、合板の少なくとも一方の表面に積層されてなることを特徴とする積層合板。
【請求項2】
水硬性物質及び気硬性物質から選ばれる1種以上の硬化性物質(1)とガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョン(2)との比率は、(1)が100質量部に対し、(2)が5〜50質量部(固形分)であることを特徴とする請求項1記載の積層合板。
【請求項3】
請求項1または2記載のガラス転移温度が0℃以下の樹脂を含む樹脂エマルジョンが、芳香族ビニル系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体を含む単量体組成物を乳化重合して得られることを特徴とする積層合板。

【公開番号】特開2006−15613(P2006−15613A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195920(P2004−195920)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】