説明

積層吸音材

【課題】1kHz以下の周波数帯域の騒音を効果的に吸収することができて、かつ、低コストで、作業性の良い吸音材を提供すること。
【解決手段】多孔質体からなる高通気層と、該高通気層と隣接し、通気量が2ml/cm/s以下であるポリウレタンフォームからなる低通気層とを備えた吸音材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層吸音材に関する。特に、主として自動車用の積層吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車内では多様な騒音が発生している。例えば、数Hz〜数百Hzのエンジン音、タイヤが発生源となる約100Hz〜1kHzのロードノイズ、さらに10KHzに達する風騒音など、騒音は低周波数から比較的高周波数にわたっている。このように広い周波数帯域の騒音を吸収する自動車の吸音材としては、ポリウレタンフォームが知られている。ポリウレタンフォームによって1kHz〜5kHzの騒音を効果的に吸収することができる。また、広い周波数帯域全般にわたって、車内を静粛化することを目的として種々の提案がされている。例えば、1kHz以下の低周波数の騒音を吸収する目的で、ポリウレタンフォームからなる板と、接合された繊維或いは柔軟な発泡性の材料からなるクロス繊維との複合構成の吸音材が提案されている(特許文献1)。また、連続気泡構造を有し、平均セル径が0.5〜10mmであり、かつ、消泡剤成分を含有する吸音材は、1.5kHzの音域に垂直入射吸音率の最大値を有し、1〜2kHzの騒音を効果的に吸音することが開示されている(特許文献2、3)。さらに、軟質ウレタンフォーム上にフィルムを重ね合わせ、フィルム表面から10mm厚の部分の通気性を5〜80ml/cm・sにした吸音材は、1kHz前後に残響室法吸音率ピークを示し、低・中周波数域で騒音を吸収できることが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3333052号公報
【特許文献2】特開2005−60414号公報
【特許文献3】特開2006−17983号公報
【特許文献4】特開平10−119220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、製造コストや車両への取り付けコストと吸音性能を共に満足すると言う観点から、さらに良好な吸音材が求められていた。また、近年、地球環境の観点から、CO排出量がガソリン車に比べて少ないディーゼルエンジンが見直されている。このディーゼルエンジンは、1kHz付近で間欠的な騒音の発生があり、しかも1kHz付近での騒音レベルが高いことに加えて、1kHz付近は人間の耳が最も敏感な周波数域でもあるため、特に耳障りであるとされている。さらに、ディーゼルエンジンでは、500Hz付近の騒音レベルも高い。そのため、1kHz以下の、比較的周波数が低い帯域の騒音を効果的に吸収することができて、かつ、低コストで、作業性の良い吸音材が求められていた。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、1kHz未満の周波数帯域の騒音を効果的に吸収することができて、かつ、低コストで、車両への取り付け作業性の良い吸音材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、基材上に、通気性の高い層を介して、通気性が低いポリウレタンフォームを配置することで、1kHz未満の周波数帯域で吸音ピークが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)通気量が5ml/cm/s以上の多孔質体からなる高通気層と、高通気層と隣接し、通気量が0.05ml/cm/sよりも大きく、2ml/cm/s以下であるポリウレタンフォームからなる低通気層とを備えた積層吸音材。
(2)高通気層の通気量が100ml/cm/s以上の樹脂フォームである上記(1)記載の積層吸音材。
(3)吸音材の総厚が10mm以上、25mm以下であり、総厚に占める低通気層の厚さ比率が、30%〜70%である上記(1)または(2)に記載の積層吸音材。
(4)低通気層が、連続気泡硬質ポリウレタンフォームである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の積層吸音材。
(5)低通気層が、少なくともポリエステルポリオールをポリオール成分として用いることにより得られる連続気泡硬質ポリウレタンフォームであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の積層吸音材。
(6)低通気層が、少なくともジフェニルメタンジイソシアネートまたはポリメチレンポリフェニルジイソシアネートをイソシアネート成分して用いることにより得られる連続気泡硬質ポリウレタンフォームであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の積層吸音材。
(7)高通気層が、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリスチレン樹脂およびメラミン樹脂のいずれか一つの樹脂からなる連続気泡フォームである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の積層吸音材。
(8)高通気層が脱膜された軟質ポリウレタンフォームである上記(1)〜(7)のいずれかに記載の積層吸音材。
(9)低通気層を音入射側に配置し、JIS A 1405−1に準じて測定した、吸音材の垂直入射吸音率が、500Hz以上で、1000Hz未満の周波数帯で極大ピークを有することを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の積層吸音材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層吸音材は、1kHz未満の帯域に吸音ピークを有するため、低・中周波数帯域の騒音を効果的に吸収することができ、また、低通気性のポリウレタンフォームからなるシートと、高通気性の層とを隣接して有する積層構成であるため、低コストで生産でき、かつ、車両への取り付け作業性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は垂直入射吸音率を測定する装置を説明する概略図である。
【図2】図2は吸音率の周波数依存性を対比した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の積層吸音材は、高通気層と低通気層の2層が積層された構成を有することを特徴とする。
このうち高通気層は、5ml/cm/s以上の通気量が好ましく、より好ましい通気量は100ml/cm/s以上である。高通気層の通気量の上限は空気層(すなわち空間)と同等であってもよく、空気が自由に通過できる層であることが好ましい。5ml未満では1kHz以下の中・低周波数の音の吸音が困難である。一方、低通気層は、通気量が0.05ml/cm/sより大きく、2ml/cm/s以下であることが好ましく、特に好ましくは0.05ml/cm/s〜1ml/cm/sである。上記範囲内であれば、吸音材として1kHz以下の中・低周波数の音を効果的に吸音することができる。
【0011】
高通気層と低通気層からなる積層吸音材の総厚は、5mm〜30mm程度、特に10mm〜25mmであることが好ましい。総厚をこの範囲にすることにより、低・中周波数の音を効果的に吸音でき、かつ、コスト、取り付け性の面でも好適である。また、吸音率のピークを低周波数化するために、積層吸音材中の低通気層の厚み比率は、25%〜75%が好ましく、30%〜70%であることが特に好ましい。
【0012】
上記の通気性能を有する高通気層と低通気層とを積層することで、本発明の積層吸音材は、吸音率の周波数特性において、500Hz以上、1kHz未満の帯域に吸音率のピーク周波数を有することできる。より好ましくは、500Hz以上、800Hz以下の周波数帯域に吸音率のピークを有する吸音材である。
【0013】
高通気量の高通気層としては、空隙、ハニカム、メッシュ、繊維および多孔質体など挙げられるが、生産性と、取り扱い作業性や取り付け時の容易性の面から、連続気泡を有する多孔質体が好ましい。多孔質体には、金属多孔質体、セラミックス多孔質体、有機高分子多孔質体が上げられるが、有機高分子多孔質体が好ましい。さらに、有機高分子多孔質体として、多孔質シリコーンゴム、ポリイソシアヌレートフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ポリウレタンフォーム、フェノール樹脂発泡体、ポリスチレンフォームおよびメラミン樹脂フォームなどが挙げられる。その中で、ポリウレタンフォーム、フェノール樹脂発泡体、ポリスチレンフォームおよびメラミン樹脂フォームのいずれかが好ましく、特に軟質ポリウレタンフォームが、通気量の制御が容易なこと、コスト、生産性、作業性に加えて、耐熱性を確保できる点で最も好ましい。軟質ポリウレタンフォームについては、市販されている発泡体を加工して使用することができる。例えば、クララフォーム(商品名 倉敷紡績(株)製)360N、38M4、44M4U、67M8U、330NC、440C、45M5C、301、352HR、400CT−20などを用いることができるが、これらのうちでも通気性の高い360N、38M4、44M4U、67M8U、301、352HR、400CT−20が特に好ましい。
【0014】
軟質ポリウレタンフォームは、少なくともポリオール成分、ポリイソシアネート成分及び発泡剤、必要により整泡剤、触媒、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤等の添加剤を含有するウレタンフォーム原料組成物を、ワンショット法、モールド法などの公知の製造方法によって反応および発泡させて得ることができる。例えば、ワンショット法では、各成分をミキシングチャンバーに同時に加えると同時に強力な撹拌によって混合し、ポリウレタンフォームを製造する。得られたポリウレタンフォームは、切削加工等により、シート状等の所望の基材形状に加工する。モールド法では、吸音材の形状に応じた金型を用いることにより、発泡・硬化と同時に種々の基材形状に成形することができる。
【0015】
軟質ポリウレタンフォームに用いるポリオール成分としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリアミン、ポリエステルポリアミン、単量体のポリオール、ポリアミン、アルキレンポリオール、ポリマーポリオール、ウレア分散ポリオール、メラミン変性ポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、フェノール変性ポリオールまたはこれらの混合ポリオール等が例示される。
【0016】
ポリイソシアネート成分としては、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、カルボジイミド/ウレタンイミン変性MDI、水添TDI、水添MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)およびこれらの混合物が例示される。また、これらの反応により生成する末端NCOまたは末端OHのプレポリマーも使用できる。
【0017】
発泡剤としては、水、メチレンクロライド、液化炭酸ガス等の発泡剤などが例示される。触媒としては、アミン触媒、金属触媒等、従来公知のイソシアヌレート化触媒を含むポリウレタン製造用触媒を使用できる。さらに、シリコーン整泡剤、難燃剤、界面活性剤、防菌剤、防ばい剤、導電剤等の従来公知の添加剤を加えることも差し支えない。なお、ポリウレタンフォームの製造方法については公知の種々の方法を用いることができる。
【0018】
本発明の軟質ポリウレタンフォームは脱膜処理されてもよい。特に、本発明の積層吸音材の高通気層に用いられる場合は、通気性を高める目的で、脱膜処理されることが好ましい。脱膜処理とはセル膜を除去して、少なくとも表面に存在するセルを開口するための処理である。脱膜処理法としては、特に制限されるものではなく、従来公知のアルカリ処理法、熱処理法等が用いられる。アルカリ処理法とは、ポリウレタンフォームを一定条件下、例えば水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬させ、膜を溶解して化学的に除去する方法である。熱処理法とは、圧力容器中にウレタンフォームを充填し、水素及び酸素を混合した爆発性ガスに点火することによって瞬間的に膜を物理的に除去する方法である。本発明の軟質ポリウレタンフォームは、特に熱処理法により脱膜されたものがより効果的である。すなわち、従来であれば、熱処理法により変色し、良好な白色度が維持された脱膜ポリウレタンフォームは製造できなかったが、本発明では熱処理法を採用しても白色の脱膜軟質ポリウレタンフォームが簡便に得られるためである。また熱処理法を採用すると、アルカリ処理法を採用した場合にセル膜だけでなく、骨格も溶解するために起こる機械的強度の低下を有効に防止できる。
【0019】
本発明の低通気量の低通気層は、通気量が0.05ml/cm/sより大きく、2ml/cm/s以下であることが好ましい。
そのような低通気性の材料としては、硬質ポリウレタンフォームが好ましく、なかでも連続気泡(ASTM D2856−94に基づき測定した連続気泡率が80%以上)からなる硬質ポリウレタンフォームが特に好ましい。
【0020】
本発明において用いる硬質ポリウレタンフォームは、軟質ポリウレタンフォームと同様に、少なくともポリオール成分、ポリイソシアネート成分及び発泡剤、必要により整泡剤、触媒、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤等の添加剤を含有するウレタンフォーム原料組成物を、ワンショット法、モールド法などの公知の製造方法によって反応および発泡させて得ることができる。なお、本発明の硬質ポリウレタンフォームには、いわゆるイソシアヌレートフォームも含まれる。
【0021】
硬質ポリウレタンフォームについて、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、触媒・発泡剤・整泡剤等その他の成分等について、製造原料的に特に限定するものではない。原料としては、例えば以下を挙げることができる。
【0022】
ポリオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、シュークローズ等の多官能性水酸基含有化合物又はトリエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミノ基及び水酸基を含有する化合物或いはエチレンジアミン、トリレンジアミン、ジアミノトルエンなどの多官能性アミノ基含有化合物に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加した2〜8個の水酸基を含有し、平均水酸基価が20〜4000程度のポリエーテルポリオール或いはこれらのポリエーテルポリオールにビニル基含有化合物を重合したポリマーポリオール、および上述のポリエステルポリオール等を例示することができる。車両等で使用することから、これらの中で、機械的強度や耐熱性の良好なポリエステルポリオールが好ましい。
【0023】
ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸成分と1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物とを重縮合させることによって得られるものである。ポリカルボン酸成分は1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、具体例として、例えばアジピン酸、マレイン酸、コハク酸、マロン酸、フタル酸等が挙げられる。1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物の具体例として、例えば、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。ポリカルボン酸成分及び1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物は、それぞれ一種以上を用いてよい。
特に、得られる軟質ポリウレタンフォームを吸音材用途において使用する場合において、フォーム自身に圧着性能を要求されることがあるので、ポリエステルポリオールはアジピン酸とプロピレングリコールとを重縮合させたものが好ましく使用される。
【0024】
なお、セルの安定性を損なわない範囲で、グリセリン等を開始剤として、これにアルキレンオキサイドを付加重合させたようなポリエーテルポリオールや、ポリエーテルポリオールに無水フタル酸等のジカルボン酸無水物を反応させて生じる半エステルを脱水縮合したものや、かかる半エステルに塩基性触媒等の存在下に、エポキシドを付加して得られるようなポリエステルエーテルポリオールをポリオール成分に添加しても良い。さらに、従来公知の架橋剤も使用することができる。架橋剤は、主に硬度調整剤として使用されており、例えばグリセリン、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類等を挙げることができる。架橋剤の添加量は、ポリオール成分100重量部に対して0.5〜10重量部程度である。
【0025】
ポリエステルポリオールの水酸基価(OHV)は20〜350KOHmg/g、特に40〜120KOHmg/gであることが好ましい。
水酸基価はJIS K 1557に記載の方法に従って測定された値を用いているが、そのような方法によって測定されなければならないというわけではなく、上記方法と同様の原理、原則に従う方法であればいかなる方法によって測定されてもよい。
【0026】
ポリエステルポリオールの分子量は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、75℃での粘度が200〜2000mPa・s、特に500〜1500mPa・sとなるような分子量であることが好ましい。
【0027】
ポリイソシアネートは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である限り特に制限するものではないが、脂肪族系、芳香族系等のポリイソシアネートが単独または2種以上混合して用いられる。脂肪族系ポリイソシアネートの具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイシソシアネート等が挙げられる。
芳香族系ポリイソシアネートの具体例としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート等が挙げられる。通常好ましく用いられるのは、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物(TDI−80、TDI−65)、またはジフェニルメタンジイソシアネートである。中でも、低通気量に制御することが容易となるジフェニルメタンジイソシアネート(ピュア−MDI)、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート(クルードMDI)が特に好ましい。
【0028】
発泡剤としては、ポリウレタンフォームの分野で従来から発泡剤として使用されているものが使用可能であり、環境的には水のみを用いるのが好ましい。水はポリイソシアネートと反応して炭酸ガスを発生することにより化学発泡剤として使用される。通常使用される発泡剤(水)の量は、ポリオール成分100重量部に対して、1〜7重量部が好ましく、1.5〜5重量部がより好ましい。また、発泡剤として適宜物理発泡剤を使用することができる。物理発泡剤として、メチレンクロライドやクロロフルオロカーボン類や、ヒドロキシクロロフルオロカーボン類(HCFC−134a等)、炭化水素類(シクロペンタン等)、炭酸ガス、液化炭酸ガス、その他の発泡剤が発泡助剤として、水と併用して使用される。物理発泡剤の使用量は、ポリオール成分100重量部に対して、20重量部以下であるのが発泡の安定上好ましい。
【0029】
触媒としては、従来から知られているアミン系、錫系、鉛系、カリウム塩系等の触媒を用いることができる。アミン系触媒としては、例えばトリメチルアミンエチルピペラジン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N−メチルモルフォリン、N−エチルモルフォリン、トリエチレンジアミン、テトラメチルヘキサメチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル等の3級アミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエトキシエタノール、ジメチルエタノールアミンなどのアルカノールアミン等を挙げることができる。錫系触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクテート等を挙げることができる。鉛系触媒としては、オクチル酸鉛等を挙げることができる。カリウム塩系触媒としては、酢酸カリウム、オクチル酸カリウム等
を挙げることができる。触媒の使用量は、ポリオール成分100重量部に対して、通常0.01〜8重量部程度である。
【0030】
整泡剤としては、ポリウレタンフォーム製造の分野で一般に軟質スラブ、軟質モールド用として用いられる、オルガノポリシロキサン、オルガノポリシロキサン・ポリアルキレン共重合体、ポリアルキレン側鎖を有するポリアルケニルシロキサン等のシリコーン系界面活性剤を使用するのが好ましい。整泡剤の使用量は、ポリオール成分100重量部に対して、通常0.2〜6重量部程度である。
【0031】
さらに必要に応じて、難燃剤、減粘剤、酸化防止剤、着色剤等の助剤を用いることができる。
【0032】
上記の低通気層と高通気層とを、それぞれ自在に組み合わせて本発明の積層吸音材を製造することができる。中でも、通気量の制御が容易なこと、コスト、生産性、作業性、および耐熱性の点で、高通気層として軟質ポリウレタンフォームを用い、低通気層として、硬質ポリウレタンフォームを用いることが好ましい。高通気性の軟質ポリウレタンフォームは、通気性を高めるために、上記の脱膜処理を施しても良い。また、低通気性の硬質ポリウレタンフォームには、独立気泡率が低い連続気泡構造硬質ウレタンフォームが適している。さらには、上記低通気層及び高通気層に用いるポリウレタンフォームとして、熱圧縮により所定の通気量とされたポリウレタンフォームを用いることができ、また、低通気層及び高通気層を積層した後に、熱プレスにより熱圧縮し、所定の通気量としたものを用いることもできる。
【0033】
本発明の積層吸音材の加工方法としては、種々の方法を用いることが出来る。例えば、エンジンルームや車両の天井などを構成する基体上に、あらかじめ低通気性のウレタンフォーム(低通気層)と高通気性のウレタンフォーム(高通気層)とを接着剤等により積層固着したシート状物を積層する構成としてもよく、また、予め、所定の厚さの高通気性のウレタンフォームおよび低通気性のウレタンフォームのシートまたはボードをそれぞれ作製しておき、それらを単に重ねて合わせて用いてもよい。なお、接着剤を用いる場合は、本発明の吸音効果を妨げないように塗布する。
【0034】
本発明の積層吸音材を効果的に用いるためには、低通気性のウレタンフォーム(低通気層)を音源側に配置することが必要である。すなわち、低通気性の低通気層の表面が、音源側に露出しているか、露出しているのと同然であることが必要である。つまり、音源による空気の振動が低通気層の表面に到達し、その低通気層を通過した空気が、引き続き、低通気性の高通気層を通過することで効果的な吸音性能を確保することができる。
なお、用途によっては、上記低通気層の前面に、高通気性の高通気層をさらに一層付加することもできる。このように低通気性の低通気層の両面を高通気性の高通気層で覆う(サンドイッチする)構成にすることで、本発明の積層吸音材のどちらの面に音源が存在していても、吸音性能を発揮させることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例等における吸音率の評価は下記のようにして行った。また、本発明で「吸音率」と称するときは、特に指定しない限り、垂直入射吸音率を指す。
【0036】
<通気性の測定>
通気性の測定は、JIS K 6400−7;2004 B法の試験方法に準拠して行った。同試験方法では、規定の試験片(幅220mm、長さ220mm)を作製して試験装置に装着し、規定の面積、圧力差及び時間の条件下で、試験片を垂直に透過する空気量(ml/cm/s)を測定する。ただし、試験片の厚みについては、使用厚みのまま用いることとした。
【0037】
<吸音率の測定>
本明細書において吸音率は、JIS A 1405−1(定在波比法)による垂直入射吸音率のことである。垂直入射吸音率は、垂直入射の平面波の入射音響パワーと、そのうち試験体の表面から入って戻らない音響パワーとの比であり、吸音率が高い試験体ほど音響パワーが多く吸収される。
測定は(株)ソーテック製「自動垂直入射吸音率測定器」を用い、JIS A 1405−1に準拠して行った。垂直入射吸音率の測定系の概略図を図1に示す。吸音試験片14は、円形金属管10の底面11に接して配置される。円形金属管10の他方の端部に設けられたスピーカ12を音源とする音は、吸音試験片14の前面の所定位置に配置されたプローブマイクロフォン13で集音され、垂直入射吸音率が算出される。スピーカ12から発生する音の周波数を100、125、160、200、250、315、400、500、630、1000、1250、1600、2000Hzと変動させ、各周波数での垂直入射吸音率を測定し、吸音率が極大になるピーク周波数を求めた。
本発明の吸音試験片14の測定に当たっては、底面11に接する第1通気層15(厚さL1)と、スピーカ12側に配置される第2通気層16(厚さL2)との積層構造として測定した。なお、空気層を第1通気層15とする場合には、第2通気層16を底面11に対して間隙L1を設けて配置する。また、低周波数側の吸音率を測定するため、円形金属管10として、50Hz〜1.6kHzの周波数範囲の測定に用いるA管(長さ835mm、内径100mmφ)を用い、吸音試験片14の直径は100mmとした。
【0038】
<低通気性硬質ポリウレタンフォームの作製>
実施例および比較例で用いる低通気性硬質ポリウレタンフォーム(ウレタンフォームF)については、下記に示す成分を表1に示す質量部割合で配合し、ワンショット法により製造し、所定の形状にカットし、種々の厚みの低通気性硬質ポリウレタンフォームの円板(直径100mm)を作製した。
ポリオールA:EP330N(三井化学ポリウレタン(株)製)
ポリオールB:T−300(三井化学ポリウレタン(株)製)
架橋剤 :グリセリン
発泡剤 :水
発泡剤 :メチレンクロライド
アミン触媒A:カオーライザー No.12(花王(株)製)
アミン触媒B:ジメチルエタノールアミン(DMEA)
整泡剤A :L−638(モメンティブ社製)
整泡剤B :オルテゴール75(デグサ社製)
難燃剤 :CR−504L(大八化学工業(株)製)
顔料 :黒色顔料(DIC(株)製)
ポリイソシアネート:クルードMDI MR−200(日本ポリウレタン工業(株)製)
【0039】
【表1】

【0040】
<試験1.ウレタンフォームFを通気層とする吸音材の評価>
(1)測定および結果
表2に示すように、第1通気層15と第2通気層16の厚を各10mm(総厚20mm)とし、第1通気層15と第2通気層16の種類および組み合わせを変えて吸音率のピーク周波数を算出した。測定結果を表2および図2に示す。実施例1〜4、参考例1、比較例1および2では、音源側の第2通気層として上記のウレタンフォームFを用いた。なお、比較例1は、ウレタンフォームFの20mm厚の円板である。参考例1は、板厚10mmの円板を、底面11に対して10mmの間隔を空けて設置している。352HR、400CR−20、301、330NCはいずれも倉敷紡績(株)製のポリウレタンフォーム(商品名 クララフォーム)、であり、スーパーシールWGは日本発条(株)製ポリウレタンである。
【0041】
【表2】

【0042】
(2)評価
表2および図2が示すように、実施例1〜4のように、音源側の第2通気層として低通気層を配し、音源と反対側の第1通気層として高通気層を配することにより、吸音率のピーク周波数は630Hzとなった。このピーク周波数は、高通気層に代えて空気層を配した参考例1と略同等であった。630Hzにおける吸音率の対比によると、本発明に係る実施例1〜4はいずれも70%以上の高い吸音率を示した。さらに低周波数である500Hzの吸音率についても、実施例1〜4は26%以上の吸音率を示した。これらのデータにより、本発明の一実施形態の積層構造吸音材は、1kHz以下の低周波数帯域の音を極めて効果的に吸収できることが示された。
これに対し、高通気層を有していない比較例1、比較例2、および、高通気層を音源側にのみ有し、低通気層と底面との間には高通気層を有していない比較例3は、いずれも吸音率のピーク周波数が2kHz以上であり、1kHz以下の低周波数帯域の音を吸収する性能が十分ではなかった。
【0043】
<試験2.高通気層の厚さによる影響の評価>
(1)測定および結果
試験1で、高通気層の代わりに空気層を用いた参考例1でも、本発明と略同等の効果が得られることが分かったので、高通気層に代えて空気層を用い、空気層の厚さ(図1のL1に相当)、およびウレタンフォームF(通気量0.2ml/cm/s)の厚さ(同L2)を変えた場合の吸音特性の評価を、試験1と同様にして行った。試料の内容および結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
(2)評価
表3に示されるように、試料4は、総厚が20mmであっても、音源側の第2通気層としてのウレタンフォームFが厚さ5mmの場合には、ピーク周波数が1kHzまで高くなることを示した。したがって、総厚20mmでピーク周波数を1kHzより低くするためには、第2通気層は総厚の25%を超える厚さが必要である。
一方、試料1が示すように、第2通気層としてのウレタンフォームFが10mmあれば、総厚が15mmでもピーク周波数を800Hzまで下げることができた。また、第2通気層としてのウレタンフォームFを10mmに維持した場合、第1通気層の厚さを厚くするほど、言い換えれば総厚を厚くするほど、ピーク周波数は低くなった。
【0046】
<試験3.第2通気層の通気量の影響の評価>
(1)測定および結果
本発明の積層吸音材は、音源側の低通気層と音源とは反対側の高通気層の少なくとも二層積層構成を有することにより1kHz以下の音を効果的に吸収することができる。そこで、総厚20mmとし、高通気層として空気層(厚さ10mm)を用い、低通気層(厚さ10mm)の通気量を変えた場合の吸音特性の評価を、試験1と同様にして行った。試料の内容および結果を表4に示す。なお、低通気層として用いたのは、上記ポリウレタンフォームF、クララフォーム(商品名 倉敷紡績(株))301、330NC、S431F、S435NA、S607N、および、日本発条(株)製スーパーシールWGである。さらに、表1に示す組成で、通気量を少し変化させたポリウレタンフォームG、及び通気量が非常に低いポリウレタンフォームH(倉敷紡績(株)製真空断熱材「クランパック」の芯材として用いられているファインセル連通硬質ウレタンフォーム:密度55kg/m品)を用い、同様の評価を行った。
【0047】
【表4】

【0048】
(2)評価
表4に示すように、ピーク周波数を1kHz未満にするためには、音源側に配置する低通気層は、厚さが10mmのとき、6.8ml/cm/s以上では実現できず、逆に、0.05ml/cm/s以下でも実現できない。したがって、低通気層として好ましい通気量は0.05ml/cm/sを超えて、2ml/cm/s以下である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の積層吸音材の用途として、実施例では主に車両、とくに自動車の車内の静粛化のため、天井、ダッシュボード、エンジン周りの吸音材としての用途を説明した。しかしながら、本発明は自動車用途に限られず、音を発生する装置であればどのようなものにでも適用できる。例えば、モーターやコンプレッサーなどを搭載した機器への適用が可能である。具体例として、冷蔵庫、エアコンプレッサー(室内機および室外機)、掃除機、洗濯機などの家電製品や業務用機器や、パーソナルコンピュータ、ピリンター、コピー機などの事務機器に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 円形金属管
11 底面
12 スピーカ
13 プローブマイクロフォン
14 吸音試験片
15 第1通気層
16 第2通気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気量が5ml/cm/s以上の多孔質体からなる高通気層と、前記高通気層と隣接し、通気量が0.05ml/cm/sよりも大きく、2ml/cm/s以下であるポリウレタンフォームからなる低通気層とを備えた積層吸音材。
【請求項2】
前記高通気層の通気量が100ml/cm/s以上の樹脂フォームである請求項1記載の積層吸音材。
【請求項3】
前記吸音材の総厚が10mm以上、25mm以下であり、前記総厚に占める低通気層の厚さ比率が、30%〜70%である請求項1または2記載の積層吸音材。
【請求項4】
前記低通気層が、連続気泡硬質ポリウレタンフォームである請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【請求項5】
前記低通気層が、少なくともポリエステルポリオールをポリオール成分として用いることにより得られる連続気泡硬質ポリウレタンフォームであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【請求項6】
前記低通気層が、少なくともジフェニルメタンジイソシアネートまたはポリメチレンポリフェニルジイソシアネートをイソシアネート成分して用いることにより得られる連続気泡硬質ポリウレタンフォームであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【請求項7】
前記高通気層が、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリスチレン樹脂およびメラミン樹脂のいずれか一つの樹脂からなる連続気泡フォームである請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【請求項8】
前記高通気層が脱膜された軟質ポリウレタンフォームである請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【請求項9】
前記低通気層を音入射側に配置し、JIS A 1405−1に準じて測定した、前記吸音材の垂直入射吸音率が、500Hz以上で、1000Hz未満の周波数帯で極大ピークを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層吸音材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−184655(P2010−184655A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31281(P2009−31281)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】