説明

積層型二次電池

【課題】 異常温度上昇時における安全性の高い積層型二次電池を提供すること。
【解決手段】 複数の電極板を,その正極活物質層と負極活物質層との間にセパレータを挟み込みつつ単電池層をなすように平積みしてなる電極体を有する,いわゆるバイポーラ型もしくはモノポーラ型の積層型二次電池が本発明の適用対象である。そして,本発明の積層型二次電池はさらに,積層方向の中央に位置する単電池層を含み両端の単電池層を含まない中央寄り単電池層群のシャットダウン温度が,それ以外の単電池層のシャットダウン温度より低いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,正極活物質層または負極活物質層が表面に形成された複数枚の金属箔を,それらの間にセパレータを挟み込みつつ平積みしてなる電極体を有する積層型二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は,充電することにより,繰り返し放電電力を得ることができるため,多岐にわたる分野で使用されている。例えば,携帯電話やノート型パソコンなどの電子機器用の電力源や,ハイブリッド自動車や電気自動車などの車両用の電力源である。これらの二次電池は一般的に,正極活物質層または負極活物質層が表面に形成された複数枚の金属箔を,それらの間にセパレータを挟み込みつつ重ね合わせた電極体を有している。
【0003】
ところで,二次電池には,その温度上昇時における安全性を確保することが重要である。いわゆる熱暴走状態となるおそれがあるからである。この安全性を確保する従来技術として,特許文献1が挙げられる。特許文献1には,正極活物質層およびセパレータとして,いずれも耐熱性が高いものを用いる技術が開示されている。さらに,温度が上昇しやすい二次電池の中央付近ほど,耐熱性の高い正極活物質層およびセパレータを配置することが好適であるとされている。これにより,二次電池を,その温度上昇時における耐久性の高いものとすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−335294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで,二次電池においては,例えば制御系の故障などにより,その満充電容量を超えて充電される過充電が生じることがある。通常,過充電は,これを物理的に停止させる,いわゆるセパレータによるシャットダウン機能により防止されている。すなわち,多孔性フィルムであるセパレータは,過充電に伴う温度上昇により,その軟化点付近の温度で軟化する。そしてこの時,軟化するとともにその細孔が閉じられたセパレータは,正負の電極の間の抵抗を過度に上昇させる。これにより,制御系が故障している状態であっても,二次電池の充放電反応を物理的に停止させることができるのである。
【0006】
しかしながら,前記した従来技術に用いられる耐熱性の高いセパレータの軟化点は,高い。そして,軟化点の高いセパレータを,過充電時に最も温度の上昇しやすい二次電池の中央付近に用いている。このためシャットダウンがなかなか起こらず,二次電池の過充電を,好適に防止することができないという問題があった。
【0007】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点の解決を目的としてなされたものである。すなわちその課題とするところは,異常温度上昇時における安全性の高い積層型二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の積層型二次電池は,集電箔の少なくとも片面に正極活物質層もしくは負極活物質層を形成した2枚の両端電極板と,集電箔の両面のいずれにも正極活物質層もしくは負極活物質層を形成した2枚以上の中間電極板と,セパレータとを,2枚の両端電極板が積み重ねの両端に位置し,2枚の両端電極板の間に2枚以上の中間電極板が位置し,電極板同士の間に必ずセパレータが挟み込まれ,かつ,各セパレータを挟んで正極活物質層と負極活物質層とが対向してそれぞれ単電池層をなすように平積みしてなる電極体を有する積層型二次電池であって,積層方向の中央に位置する単電池層を含み両端の単電池層を含まない中央寄り単電池層群の,充放電が停止する温度であるシャットダウン温度が,それ以外の単電池層のシャットダウン温度より低いことを特徴とする積層型二次電池である。
【0009】
上記の積層型二次電池の有する電極体の一態様は,集電箔の片面に正極活物質層を形成した正端電極板と,集電箔の片面に負極活物質層を形成した負端電極板と,集電箔の一面に正極活物質層を形成し他面に負極活物質層を形成した2枚以上の中間電極板と,セパレータとを,正端電極板および負端電極板が積み重ねの両端に位置し,正端電極板および負端電極板の間に2枚以上の中間電極板が位置し,電極板同士の間に必ずセパレータが挟み込まれ,かつ,各セパレータを挟んで正極活物質層と負極活物質層とが対向してそれぞれ単電池層をなすように平積みしてなる電極体である。
【0010】
また,上記の積層型二次電池の有する電極体の他の態様は,集電箔の少なくとも片面に正極活物質層もしくは負極活物質層を形成した2枚の両端電極板と,集電箔の両面のいずれにも正極活物質層を形成した1枚以上の中間正電極板と,集電箔の両面のいずれにも負極活物質層を形成した1枚以上の中間負電極板と,セパレータとを,2枚の両端電極板が積み重ねの両端に位置し,2枚の両端電極板の間に中間正電極板および中間負電極板が位置し,電極板同士の間に必ずセパレータが挟み込まれ,かつ,各セパレータを挟んで正極活物質層と負極活物質層とが対向してそれぞれ単電池層をなすように平積みしてなる電極体である。
【0011】
そして,上記のような電極体を有する積層型二次電池に過充電が生じた場合には,積層方向の中央に位置する単電池層ほど,温度が上昇しやすい。このため,本発明の積層型二次電池においては,積層方向の少なくとも中央に位置する単電池層に,最も低い温度でシャットダウンが生じる構成となっている。これにより,過充電が生じた場合にこれを好適に停止させ,熱暴走状態となることを回避することができるのである。
【0012】
また,上記に記載の積層型二次電池であって,中央寄り単電池層群に含まれるセパレータは,それ以外の単電池層に含まれるセパレータより低軟化点であることが好ましい。これにより,その積層型二次電池を,積層方向の少なくとも中央に位置する単電池層に,最も低い温度でシャットダウンが生じる構成とすることができるからである。
【0013】
また,上記に記載の積層型二次電池であって,積層方向の両端に位置する単電池層を含み中央の単電池層を含まない両端寄り単電池層群に含まれるセパレータは,それ以外の単電池層に含まれるセパレータより高軟化点であることが好ましい。
【0014】
二次電池の使用環境によっては,その外部温度が過度に上昇する場合がある。この場合には,単電池層のうち,その積層方向の両端に位置する単電池層の温度が最も上昇しやすい。二次電池の外部に最も近いため,その温度の影響を受けやすいからである。このため,積層方向の両端に位置する単電池層のセパレータには耐熱性が必要となる。セパレータが完全に溶融して穴が空いた場合には,その部分の正極活物質層と負極活物質層とが接触して短絡するおそれがあるからである。従って,外部温度が過度に上昇した場合には,積層方向の両端に位置する単電池層のセパレータの軟化点が高いことが好ましいのである。そしてこれにより,二次電池の外部からの加熱に対する耐熱性を,高くすることができるのである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,異常温度上昇時における安全性の高い積層型二次電池が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の形態に係る二次電池の断面図である。
【図2】第1の形態に係る二次電池の電極体の断面図である。
【図3】実験に用いた二次電池のそれぞれのセパレータの配置を示した図である。
【図4】実験の結果を示す図である。
【図5】単電池層にシャットダウンを生じさせることのできるバリア層を説明するための図である。
【図6】第2の形態に係る二次電池の断面図である。
【図7】第2の形態に係る二次電池の電極体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池に本発明を適用したものである。
【0018】
[第1の形態]
図1は,本形態における二次電池100の断面図である。二次電池100は,図1に示すように,集電体121の下面に正極活物質層Pを,またその反対の上面に負極活物質層Nを形成してなる電極板111を複数有している。すなわち,二次電池100は,いわゆるバイポーラ型のリチウムイオン二次電池である。なお,図1中最も上側に位置する電極板110においては,その集電体120の下面にのみ正極活物質層Pが形成されている。一方,図1中最も下側に位置する電極板112においては,集電体122の上面にのみ負極活物質層Nが形成されている。
【0019】
また,本形態の二次電池100は,複数の電極板111に加え,最も上側に位置する電極板110および最も下側に位置する電極板112を含めて,全部で16枚の電極板を有している。そして,二次電池100の電極体140は,これら16枚の電極板を,セパレータSを間に挟み込みつつ平積みすることにより構成されている。さらに,二次電池100は,電極体140をラミネートシート150に収容することにより構成されている。
【0020】
図1中最も上側に位置する電極板110の集電体120は,その他の集電体121,122よりも左向きに長い。さらに集電体120の左端は,ラミネートシート150の縁部より左向きに突出することにより,正極タブ160を構成している。また,図1中最も下側に位置する電極板112の集電体122は,その他の集電体120,121よりも右向きに長い。さらに集電体122の右端は,ラミネートシート150の縁部より右向きに突出することにより,負極タブ170を構成している。
【0021】
集電体120,121,122はいずれも,同じ材質のものである。集電体120,121,122としては,例えば,ステンレス鋼(SUS),銅,ニッケル,チタンなどからなる金属箔が好ましい。
【0022】
正極活物質層Pには,リチウムイオンを吸蔵および放出することができる正極活物質が含まれている。この正極活物質としては,コバルト酸リチウム(LiCoO),マンガン酸リチウム(LiMnO),ニッケル酸リチウム(LiNiO),三元系のLiNi1/3Co1/3Mn1/3などが例示される。またこの他にも,従来よりリチウムイオン二次電池に用いられているものを好ましく用いることができる。
【0023】
また,負極活物質層Nには,リチウムイオンを吸蔵および放出することができる負極活物質が含まれている。この負極活物質としては,炭素系材料,リチウム遷移金属複合酸化物,リチウム遷移金属複合窒化物などが例示される。またこの他にも,従来よりリチウムイオン二次電池に用いられているものを好ましく用いることができる。
【0024】
セパレータSは,例えば,ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などにより構成された多孔性フィルムである。セパレータSとして,多孔性フィルムをそれぞれ単体で用いることができる。また,異なる多孔性フィルムを交互に積層してなる多層構造として用いることもできる。さらに,セパレータSには,有機溶剤にリチウム塩を溶解させてなる電解液が含まれている。
【0025】
正極活物質層Pおよび負極活物質層Nは,これらの間のセパレータSに含まれる電解液を介して充放電を行うことができる。つまり,セパレータSと,これと隣接している正極活物質層Pおよび負極活物質層Nとは1組で,1つの単電池層を構成している。すなわち,二次電池100は,複数の単電池層を,互いに電気的に直列に接続してなる電極体140を備えている。
【0026】
図2は,図1に示す二次電池100の断面と同じ断面における,電極体140の断面図である。ただし,電極体140の説明のため,図1と図2とでは一部,それぞれに異なる符号を付与している。前述したように,セパレータSと,これと隣接している正極活物質層Pおよび負極活物質層Nとは1組で,1つの単電池層を構成している。このため,図2においては,各単電池層ごとに,これらの積層方向(図2において上下方向)の上から下に向かって,単電池層X1〜X15の符号を付与している。なお以下,単電池層X1〜X15について,特に区別のない説明においては番号を省略し,単電池層Xとして説明している。
【0027】
また,図2においては,正極活物質層P,セパレータS,負極活物質層Nにも,これらが配置されている単電池層Xの番号と同じ1〜15の番号を付与している。ただし,本形態における正極活物質層Pおよび負極活物質層Nは,付与された番号に関係なく,単電池層X1〜X15のすべてにおいて同じものである。しかし,セパレータSにおいては,その配置されている単電池層Xの位置によって異なる。この点については後に詳述する。また以下,正極活物質層P,セパレータS,負極活物質層Nについても,特に区別のない説明においては番号を省略している。
【0028】
また,単電池層Xの周囲には,封止部材130が備えられている。封止部材130は,単電池層Xの周囲を隙間なく囲っている。これにより,封止部材130は,電解液がセパレータSから漏れ出すことを防止している。すなわち,単電池層X内に電解液が不足することによる,内部抵抗の増加を抑制している。さらに,電解液がセパレータSから漏れ出すことにより,異なる単電池層X同士が短絡する,いわゆる液絡を防止している。
【0029】
ここで,二次電池100においては,単電池層X1〜X15のうち,その積層方向の少なくとも中央に位置する単電池層X8に,最も低い温度でシャットダウンが生じることが好ましい。シャットダウンとは,段落[0005]において前述したように,抵抗が上昇することにより,物理的に充放電を停止させる機能のことである。本形態においては,少なくとも単電池層X8に最も低い温度でシャットダウンを生じさせるため,セパレータS1〜S15のうち,少なくともセパレータS8に,他のセパレータSと比較して軟化点が低いものを用いている。
【0030】
二次電池100に過充電が生じた場合,その中央ほど温度が上昇しやすい。二次電池100の中央ほど,その外側に比べて放熱がされにくく,熱がこもりやすいからである。そして,二次電池100において,単電池層X1〜X15のうち,その積層方向の最も中央に位置するのは単電池層X8である。
【0031】
よって,本形態の二次電池100においては,積層方向の少なくとも中央に位置するセパレータS8に,他のセパレータSと比較して軟化点が低いものを用いているのである。これにより,少なくとも単電池層X8に,最も低い温度でシャットダウンを生じさせることができる。よって,二次電池100においては,過充電が生じた場合にこれを停止させ,熱暴走状態となることを回避することができる。
【0032】
また,二次電池100において,セパレータS1〜S15のうち,少なくともセパレータS1およびS15の軟化点は,他のセパレータSと比較して高いことが好ましい。セパレータS1およびS15はそれぞれ,単電池層X1およびX15を構成している。そして,単電池層X1およびX15は,単電池層X1〜X15のうち,積層方向の最も外側に位置している。このため,単電池層X1およびX15は,二次電池100の外部温度の影響を最も受けやすい。すなわち,二次電池100の外部温度が高温となった場合には,これに伴い最も温度が上昇しやすいのである。
【0033】
ここにおいて,二次電池100の外部温度の上昇は,シャットダウンにより停止させることができない。二次電池100の充放電に起因する温度上昇ではないからである。そして,セパレータSは,その温度が軟化点を超えて高くなった場合,完全に溶融して穴が空く。この完全に溶融してできる穴は,多孔性フィルムであるセパレータSの通常時の細孔よりもはるかに大きいものである。つまり,完全に溶融して穴が空いたセパレータSの箇所では,正極活物質層Pと負極活物質層Nとが接触し,短絡するおそれがある。すなわち,二次電池100の外部温度が高温となった場合には,最も外側寄りの単電池層X1およびX15に,最も短絡のおそれがあるのである。
【0034】
よって,本形態の二次電池100においては,セパレータS1〜S15のうち,少なくとも最も外側に位置するセパレータS1およびS15に,他のセパレータSと比較して軟化点が高いものを用いているのである。これにより,二次電池100においては,その外部からの加熱に対する耐熱性の高い構成となっている。
【0035】
上記のように,本形態の二次電池100においては,セパレータS1〜S15として,その配置により,それぞれに軟化点の異なるものを用いることが好ましい。そして,積層方向の少なくとも最も中央に位置するセパレータS8の軟化点が,最も低いことが好ましいのである。さらに,積層方向の少なくとも最も外側に位置するセパレータS1およびS15の軟化点が,最も高いことが好ましいのである。
【0036】
ところで,セパレータSの軟化点は,例えば異なる材質を用いることにより差をつけることができる。具体的には,軟化点の低い低軟化点セパレータとして,軟化点が約130℃のPEを単体で用いることができる。また,軟化点の高い高軟化点セパレータとして,軟化点が約160℃のPPを単体で用いることができる。
【0037】
また例えば,同じ材質であっても,分子量の異なるものを用いることにより,軟化点に差をつけることができる。具体的には,例えば同じPEでも,低軟化点セパレータとして,高軟化点セパレータに用いるものよりも,分子量の低いものを用いることが考えられる。
【0038】
また,セパレータSとして,材質の異なる複数の多孔性フィルムを交互に積層してなる多層構造のセパレータを用いる場合もある。具体的には,PP/PE/PP構造のセパレータを用いる場合などである。この場合には,例えば,低軟化点セパレータとして,高軟化点セパレータよりも,中間のPE層の分子量が低いものを用いることなどが考えられる。
【0039】
[効果の確認]
本発明者らは,この発明の効果を確認するため,実施例1,2および比較例1〜4の二次電池を作製し,以下の2つの実験を行った。
1.過充電実験
2.加熱実験
【0040】
実施例1,2および比較例1〜4の二次電池はいずれも,二次電池100と同じ構造である。ただし,これらの二次電池においては,セパレータS1〜S15に用いた材質のみが,それぞれに異なる。なお,本実験においては,低軟化点セパレータとして軟化点が約130℃のPEを単体で用い,高軟化点セパレータとして軟化点が約160℃のPPを単体で用いている。すなわち,実施例1,2および比較例1〜4の二次電池はそれぞれ,セパレータSとして,PEとPPとを使い分けることにより作製されたものである。
【0041】
図3に,実施例1,2および比較例1〜4のそれぞれに用いたセパレータS1〜S15の材質を示す。図3に示すように,実施例1,2の二次電池は,前述した本形態の条件を満たす二次電池である。すなわち,少なくともセパレータS8として,PE(低軟化点セパレータ)を用いている。また,少なくともセパレータS1およびS15として,PP(高軟化点セパレータ)を用いている。
【0042】
これに対し,比較例1〜4の二次電池は,本形態の条件を少なくとも1つは満たさない二次電池である。すなわち,比較例1および比較例2の二次電池においては,セパレータS1〜S15として,軟化点がすべて同じセパレータを用いている。なお,比較例1の二次電池においては,セパレータS1〜S15として,いずれもPP(高軟化点セパレータ)を用いている。比較例2の二次電池においては,セパレータS1〜S15として,いずれもPE(低軟化点セパレータ)を用いている。また,比較例3および比較例4の二次電池においては,セパレータS8として,PP(高軟化点セパレータ)を用いている。さらに,セパレータS1およびS15として,PE(低軟化点セパレータ)を用いている。
【0043】
次に,これら実験用の二次電池を用いて行った「1.過充電実験」について説明する。この実験においては,実施例1,2および比較例1〜4の二次電池をそれぞれ,温度を測定しつつ,セパレータS1〜S15のうち少なくとも1つがシャットダウンするまで過充電させた。過充電実験中の各二次電池の温度は,その外形のうち,図1中上部中央に当たる部分に温度センサを取付けることにより測定した。なお,過充電実験の開始時における各二次電池のSOC(State of Charge)はすべて,100%の状態(満充電状態)とした。また,過充電実験の開始時の温度を25℃とした。さらに,満充電容量(Ah)に対する電流値(A)の比で表わされるCレートが10Cの電流で過充電させた。そして,過充電中の二次電池の電圧が150V(10V×単電池層数)以上となった時を,その二次電池にシャットダウンが起こったことの判定条件とした。
【0044】
「2.加熱実験」においては,実施例1,2および比較例1〜4の二次電池をそれぞれ,温度を測定しつつ,単電池層X1〜X15のうち少なくとも1つが短絡するまで,その外部より加熱した。加熱実験中の各二次電池の温度は,上記の「1.過充電実験」と同じ位置に温度センサを取付けることにより測定した。なお,加熱実験の開始時における各二次電池のSOCはすべて,90%の状態とした。また,加熱実験の開始時の温度を25℃とした。さらに,各二次電池を,その外部温度を10℃/minで上昇させることにより加熱した。そして,加熱中の二次電池の電圧が3V以下となった時を,その二次電池に短絡が起こったことの判定条件とした。
【0045】
過充電実験および加熱実験の結果を,図4に示す。図4において,横軸は,過充電実験におけるシャットダウン時の温度である。縦軸は,加熱実験における短絡時の温度である。また,実施例1,2の二次電池の結果を,「○」で示している。比較例1〜4の二次電池の結果を,「×」で示している。
【0046】
図4の横軸に見るように,実施例1,2および比較例2の二次電池のシャットダウン時の温度は,比較例1,3,4の二次電池のシャットダウン時の温度よりも低い。すなわち,少なくともセパレータS8に低軟化点セパレータを用いた二次電池においては,過充電実験の開始後,発熱の少ないうちにシャットダウンが生じているのである。一方,セパレータS8に高軟化点セパレータを用いた二次電池においては,シャットダウンが生じる頃には非常に高い温度になっている。よって,少なくともセパレータS8に低軟化点セパレータを用いた二次電池では,過充電が生じた場合において,安全傾向になることが確認された。
【0047】
また,図4の縦軸に見るように,実施例1,2および比較例1の二次電池の短絡時の温度は,比較例2〜4の二次電池の短絡時の温度よりも高い。すなわち,少なくともセパレータS1およびS15に高軟化点セパレータを用いた二次電池においては,外部からの加熱に対する耐熱性が高いのである。一方,セパレータS1およびS15に低軟化点セパレータを用いた二次電池においては,外部からの加熱に対する耐熱性が低いのである。よって,少なくともセパレータS1およびS15に高軟化点セパレータを用いた二次電池では,その外部から加熱された場合において,安全傾向になることが確認された。
【0048】
また図4に示すように,比較例1〜4の二次電池においては,過充電が生じた場合および外部から加熱された場合の少なくとも一方が不安全傾向であった。一方,実施例1,2の二次電池においては,過充電が生じた場合および外部から加熱された場合のいずれにおいても安全傾向であった。
【0049】
以上詳細に説明したように,本形態の二次電池100は,積層方向の少なくとも最も中央に位置する単電池層X8のセパレータS8に,セパレータS1〜S15のうち,最も軟化点の低いセパレータを用いている。これにより,単電池層X1〜X15のうち,積層方向の少なくとも最も中央に位置する単電池層X8に,最も低い温度でシャットダウンを生じさせることができる。また,二次電池100は,積層方向の少なくとも最も外側に位置する単電池層X1およびX15のセパレータS1およびS15に,セパレータS1〜S15のうち,最も軟化点の高いセパレータを用いている。これにより,二次電池100の外部からの加熱に対する耐熱性を高くすることができる。よって,異常温度上昇時において,安全性の高い二次電池が実現されている。
【0050】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本形態ではリチウムイオン二次電池について本発明を適用したが,その他の二次電池についても本発明を適用することができる。
【0051】
また例えば,本形態においては,二次電池を構成する単電池層が奇数であるため,その積層方向の最も中央に位置するセパレータは1枚である。しかし,二次電池を構成する単電池層が偶数であった場合には,積層方向の最も中央に位置するセパレータが2枚となる。この場合においては,積層方向の最も中央に位置する2枚のセパレータの少なくとも一方を,その二次電池に用いられるセパレータのうち,最も軟化点の低いものとすればよい。
【0052】
また,本形態においては,多孔性フィルムのセパレータに電解液を含ませた構成としているが,これに限るものではない。セパレータとしてメッシュ状の構造をしたものを用い,これに固体電解質を含ませた構成であってもよい。そしてこの構成の場合には,単電池層を密封するための封止部材は必要ない。
【0053】
また,本形態においては,セパレータにより単電池層にシャットダウンを生じさせる構成について述べたが,これに限るものではない。単電池層のシャットダウンは,セパレータ以外によっても生じさせることができる。具体的には,図5に示すように,単電池層Xを構成する正極活物質層Pの集電体121側に,バリア層Bを設けた場合である。
【0054】
バリア層Bは,図5に示すように,導電材1とポリマー2とにより構成されるものである。導電材1としては,アセチレンブラック,ファーネスブラック,ケッチェンブラックなどのカーボン粉末が例示される。ポリマー2としては,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリ塩化ビニリデン(PVDC)などのポリマー材が例示される。
【0055】
バリア層Bにおいては,通常,多数の導電材1同士が接触し合っている。このため,集電体121と正極活物質層Pとの間の導電パスを良好に形成している。しかし,過度に温度が上昇した状態のバリア層Bでは,ポリマー2が熱膨潤することにより,導電材1同士の接触が阻害される。このため,集電体121と正極活物質層Pとの間の抵抗を過度に上昇させ,その単電池層Xの充放電を物理的に停止させる。すなわち,その単電池層Xにシャットダウンを生じさせるのである。
【0056】
また,バリア層Bにシャットダウンが生じる温度は,例えば,ポリマー2の分子量により異なる。すなわち,ポリマー2として分子量の大きなものを用いることにより,そのバリア層Bにおいてはシャットダウンの生じる温度が高くなる。一方,ポリマー2として分子量の小さなものを用いることにより,そのバリア層Bにおいてはシャットダウンの生じる温度が低くなる。
【0057】
そして,このようなシャットダウン機能を有するバリア層Bを,本形態の二次電池100に適用させてもよい。すなわち,積層方向の少なくとも最も中央に位置する単電池層X8に,最も低い温度でシャットダウンが生じるようなバリア層Bを設けるのである。具体的には,単電池層X1〜X15のうち,少なくとも単電池層X8に,すべてのセパレータSよりも低い温度でシャットダウンが生じるようなバリア層Bを設けることが考えられる。また,単電池層X1〜X15の全てにバリア層Bを設け,少なくとも単電池層X8のバリア層Bを,その他のバリア層BおよびすべてのセパレータSよりも低い温度でシャットダウンが生じるように構成することが考えられる。
【0058】
[第2の形態]
第2の形態について説明する。本形態の二次電池は,第1の形態の二次電池と異なる構造をしている。図6は,本形態における二次電池200の断面図である。二次電池200は,図6に示すように,正極集電体220の両面に正極活物質層Pを形成してなる正極板211と,負極集電体290の両面に負極活物質層Nを形成してなる負極板281とを複数有している。すなわち,二次電池200は,いわゆるモノポーラ型のリチウムイオン二次電池である。なお,図6中最も上側に位置する正極板210においては,その正極集電体220の下面にのみ正極活物質層Pが形成されている。一方,図6中最も下側に位置する負極板280においては,負極集電体290の上面にのみ負極活物質層Nが形成されている。
【0059】
また,本形態の二次電池200は,複数の正極板211に加え,最も上側に位置する正極板210を含めて,全部で8枚の正極板を有している。さらに,複数の負極板281に加え,最も下側に位置する負極板280を含めて,全部で8枚の負極板を有している。そして,二次電池200の電極体240は,これら8枚の正極板と8枚の負極板とを,セパレータSを間に挟み込こみつつ交互に平積みすることにより構成されている。加えて,二次電池200は,電極体240をラミネートシート250に収容することにより構成されている。
【0060】
図6に示すように,正極集電体220はいずれも,負極集電体290よりも左向きに長い。そして,正極集電体220の左端は,正極タブ260と接続されている。正極タブ260は,正極集電体220と接続されていない側の端261を,ラミネートシート250の縁部より左向きに突出させている。また,負極集電体290はいずれも,正極集電体220よりも右向きに長い。そして,負極集電体290の右端は,負極タブ270と接続されている。負極タブ270は,負極集電体290と接続されていない側の端271を,ラミネートシート250の縁部より右向きに突出させている。
【0061】
正極集電体220はいずれも,同じ材質のものである。具体的には,正極集電体220に好適な材質として,アルミニウム箔が例示される。また,負極集電体290はいずれも,同じ材質のものである。具体的には,負極集電体290に好適な材質として,銅箔が例示される。なお,正極活物質層Pおよび負極活物質層Nのそれぞれに含まれる活物質としては,第1の形態と同様のものを用いることができる。セパレータSについても,第1の形態と同様のものを用いることができる。
【0062】
また,電解液においても,第1の形態と同様のものを用いることができる。ただし,本形態においては,電解液は,ラミネートシート250の内部の全体を満たしている。これにより,セパレータSには,電解液が含まれている。このため,二次電池200には,第1の形態の二次電池100のような封止部材130は存在しない。
【0063】
そして,正極板210,211と負極板280,281とは,これらの間のセパレータSに含まれる電解液を介して充放電を行うことができる。すなわち,本形態の二次電池200においても,セパレータSと,これと隣接している正極活物質層Pおよび負極活物質層Nとは1組で,1つの単電池層を構成している。よって,二次電池200においては,複数の単電池層を,互いに電気的に並列に接続してなる電極体240を備えているといえる。
【0064】
図7は,図6に示す二次電池200の断面と同じ断面における,電極体240の断面図である。ただし,電極体240の説明のため,図6と図7とでは一部,それぞれに異なる符号を付与している。前述したように,セパレータSと,これと隣接している正極活物質層Pおよび負極活物質層Nとは1組で,1つの単電池層を構成している。このため,図7においては,各単電池層ごとに,これらの積層方向(図7において上下方向)の上から下に向かって,単電池層Y1〜Y15の符号を付与している。なお以下,単電池層Y1〜Y15について,特に区別のない説明においては番号を省略し,単電池層Yとして説明している。
【0065】
また,図7においては,正極活物質層P,セパレータS,負極活物質層Nにも,これらが配置されている単電池層Yの番号と同じ1〜15の番号を付与している。ただし,本形態においても,正極活物質層Pおよび負極活物質層Nは,付与された番号に関係なく,単電池層Y1〜Y15のすべてにおいて同じものである。しかし,本形態においても第1の形態と同様に,セパレータSが,その配置されている単電池層Yの位置によって異なる。なお,正極活物質層P,セパレータS,負極活物質層Nについても,特に区別のない説明においては番号を省略している。
【0066】
そして,本形態の二次電池200においても,単電池層Y1〜Y15のうち,その積層方向の少なくとも中央に位置する単電池層Y8に,最も低い温度でシャットダウンが生じることが好ましい。このため,二次電池200においても,セパレータS1〜S15のうち,少なくともセパレータS8に,他のセパレータSと比較して軟化点が低いものを用いている。
【0067】
二次電池200においても,これに過充電が生じた場合には,単電池層Yの積層方向の中央ほど温度が上昇しやすい。このため,積層方向の中央に位置する単電池層Yほど,低い温度でシャットダウンを生じることが好ましいのである。
【0068】
なお,本形態の二次電池200においては,単電池層Y1〜Y15のうちの1の単電池層Yにシャットダウンが生じても,二次電池200の全体の充放電を停止させることはできない。二次電池200においては,単電池層Y1〜Y15が並列に接続されているからである。しかし,温度が過度に上昇した単電池層Yの充放電は停止させることができる。すなわち,二次電池200においても,これが過充電により熱暴走状態となることを回避することができるのである。
【0069】
また,本形態の二次電池200においても,セパレータS1〜S15のうち,少なくともセパレータS1およびS15の軟化点は,他のセパレータSと比較して高いことが好ましい。セパレータS1およびS15は,単電池層Y1〜Y15のうち,積層方向の最も外側に位置する単電池層Y1およびY15を構成しているからである。つまり,二次電池200の外部温度が高温となった場合には,これに伴い最も温度が上昇しやすいからである。すなわち,少なくともセパレータS1およびS15に他のセパレータSと比較して軟化点が高いものを用いることにより,二次電池200を,その外部からの加熱に対する耐熱性の高い構成とすることができるのである。
【0070】
上記のように,本形態の二次電池200においても,セパレータS1〜S15として,その配置により,それぞれに異なる軟化点のものを用いることが好ましい。そして,積層方向の少なくとも最も中央に位置するセパレータS8の軟化点が,最も低いことが好ましいのである。さらに,積層方向の少なくとも最も外側に位置するセパレータS1およびS15の軟化点が,最も高いことが好ましいのである。
【0071】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本形態ではリチウムイオン二次電池について本発明を適用したが,その他の二次電池についても本発明を適用することができる。
【0072】
また例えば,本形態においては,二次電池を構成する単電池層が奇数であるため,その積層方向の最も中央に位置するセパレータは1枚である。しかし,二次電池を構成する単電池層が偶数であった場合には,積層方向の最も中央に位置するセパレータが2枚となる。この場合においては,積層方向の最も中央に位置する2枚のセパレータの少なくとも一方を,その二次電池に用いられるセパレータのうち,最も軟化点の低いものとすればよい。
【0073】
また,本形態においては,多孔性フィルムのセパレータに電解液を含ませた構成としているが,これに限るものではない。セパレータとしてメッシュ状のものを用い,これに固体電解質を含ませた構成であってもよい。
【0074】
また,本形態においては,セパレータにより単電池層にシャットダウンを生じさせる構成について述べたが,これに限るものではない。単電池層のシャットダウンは,図5において前述したバリア層Bにより生じるものであってもよい。
【符号の説明】
【0075】
100…二次電池
110,111,112…電極板
120,121,122…集電体
140…電極体
N1〜N15…負極活物質層
P1〜P15…正極活物質層
S1〜S15…セパレータ
X1〜X15…単電池層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電箔の少なくとも片面に正極活物質層もしくは負極活物質層を形成した2枚の両端電極板と,集電箔の両面のいずれにも正極活物質層もしくは負極活物質層を形成した2枚以上の中間電極板と,セパレータとを,
前記2枚の両端電極板が積み重ねの両端に位置し,前記2枚の両端電極板の間に前記2枚以上の中間電極板が位置し,電極板同士の間に必ず前記セパレータが挟み込まれ,かつ,各セパレータを挟んで正極活物質層と負極活物質層とが対向してそれぞれ単電池層をなすように平積みしてなる電極体を有する積層型二次電池において,
積層方向の中央に位置する単電池層を含み両端の単電池層を含まない中央寄り単電池層群の,充放電が停止する温度であるシャットダウン温度が,
それ以外の単電池層のシャットダウン温度より低いことを特徴とする積層型二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の積層型二次電池において,
前記中央寄り単電池層群に含まれるセパレータは,それ以外の単電池層に含まれるセパレータより低軟化点であることを特徴とする積層型二次電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の積層型二次電池において,
積層方向の両端に位置する単電池層を含み中央の単電池層を含まない両端寄り単電池層群に含まれるセパレータは,それ以外の単電池層に含まれるセパレータより高軟化点であることを特徴とする積層型二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−114863(P2013−114863A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259146(P2011−259146)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】