説明

積層型圧電セラミックス構造体及びその製造方法

【課題】 基板材料として、安価なステンレス金属材料の使用が可能で、かつ、圧電特性が優れたPZT厚膜を有する、積層型圧電セラミックス構造体及びその製造方法を得る。
【解決手段】 ステンレス金属基板1の上に、中間層を介して積層型圧電セラミックス層が形成された積層型圧電セラミックス構造体であって、前記中間層は、ステンレス金属基板1側に材質がニッケル層2と積層型圧電セラミック側には、材質が銅3との複合体である積層型圧電セラミックス構造体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックス材料の厚膜形成技術に関し、特に圧電アクチュエータとして用いるのに好適な積層型圧電セラミックス構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より圧電セラミックス材料として、ジルコン酸チタン酸鉛が使用されている。ジルコン酸チタン酸鉛(以下、PZTと略記する)は、優れた圧電特性を有するため、従来からアクチュエータ、センサー、フィルタなどに広く利用されている。また、近年、シリコンを初めとする金属、ガラス、あるいはセラミックスの基板を、エッチング法等により微細加工するとともに、PZTの圧電特性を複合してマイクロセンサーやマイクロアクチュエータ等のデバイス(Micro Electro Mechanical Systems:以下、MEMSと略記する)を開発しようとする試みが活発に行われている。
【0003】
PZTをMEMSに応用するためには、金属やセラミックスの基板にPZT膜を成膜する技術が必要になるが、現在、PZT膜の成膜方法としては、スパッタリング法、ゾルゲル法、MOCVD法などが実用化されている。これらの方法でPZT膜を形成する場合には、基板を700℃程度まで加熱する必要があり、高温での基板材料とPZT膜の鉛成分の反応を抑制するために、Pt/Ti/SiO2やPt/Ti/SiO2/Si等の複合層を基板とPZT膜の間に中間層として形成するのが一般的である。
【0004】
一般に、PZT膜をアクチュエータに応用する場合には、アクチュエータの発生力や変位量を大きくするために、PZT膜の厚さは10μm以上が要求される場合が多く、前述のスパッタリング法、ゾルゲル法、MOCVD法では、成膜速度が遅いために数μm程度の膜厚さが実用上の限界であり、数μm程度の膜厚さの物は、主にセンサーやフィルタ用振動子として使用され、アクチュエータデバイスへの応用は限られている。
【0005】
常温で緻密な膜を形成し、膜と基板が強固に接合する技術として、エアロゾルデポジション法(以下、AD法と略記)がある。ここで、AD法とは、亜音速まで加速された超微粒子あるいは微粒子を基板に衝突させて薄膜を形成する方法である。AD法によれば、粒子径、噴射速度などを制御し基板と膜の界面にアンカーを形成させ、常温で強固な接合強度を持つ膜が得られる(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。また、AD法によれば、10μm以上のPZT厚膜を、高速かつ常温で形成することが可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2002−235181号公報
【非特許文献1】ULVAC TECHNICAL JOURNAL No.57,p6,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1には、Pt/Ti/SiO2/Si基板はもちろん、安価なステンレス基板上にも10μm以上の厚膜が成膜可能なことが示されている。しかしながら、AD法による膜形成は、亜音速まで加速された超微粒子あるいは微粒子が基板に衝突することで、運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、この熱エネルギーにより粒子が一体化するという原理に基づいている。そのため、成膜時に発生する内部応力や各種損傷が原因で、(AD法による)成膜後のPZT厚膜の圧電特性は、通常の焼結法による圧電セラミックスに比べて非常に劣るという問題点がある。
【0008】
この問題点を解決するためには、AD法によりPZT厚膜を成膜した後に熱処理を加えることが有効であり、前記非特許文献1には、Pt/Al23基板に厚さ30μmのPZT厚膜を形成後、空気中で500℃以上の熱処理を加えることで、圧電特性は著しく向上し、850℃の熱処理で焼結セラミックスと同等の圧電特性が得られることが報告されている。この方法によれば、圧電特性の優れたPZT厚膜を形成することが可能である。
【0009】
しかし、ステンレスなどの安価な金属材料を基板とした場合、熱処理中に基板が酸化し、基板材料と鉛とが反応するなどして圧電特性が低下する。そのため、基板材料が、Pt/Ti/SiO2/Si基板やセラミックス基板に限定されるという問題点があった。
【0010】
また、前記特許文献1には、Si基板上に中間層を挿入し、基板を加熱しつつAD法により、PZT厚膜を形成する方法が開示されている。しかし、この方法によれば、基板上に中間層として酸化物あるいは白金と白金族からなる合金膜を形成し、SiとPbの反応を阻止する必要があるため、やはり、基板材料がセラミックスやSiに限定されるという問題点がある。さらに、この方法によれば、ある程度圧電特性の優れたPZT厚膜を形成することが可能にはなるが、成膜後の熱処理なしでは十分な圧電特性が得られにくいという問題点もある。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、具体的には、基板材料として、安価なステンレス金属材料の使用が可能で、かつ、圧電特性が優れたPZT厚膜を有する、積層型圧電セラミックス構造体及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ステンレス金属基板と、圧電セラミックス層との間にニッケル金属層、銅金属層からなる金属層の組み合わせ、またはニッケル、銅の合金層を中間層として積層した構造を特徴とする積層型圧電セラミックス構造体が得られる。
【0013】
即ち、本発明は、ステンレス金属基板の上に、中間層を介して積層型圧電セラミックス層が形成された積層型圧電セラミックス構造体において、前記中間層は、ステンレス金属基板側に材質がニッケルの金属層と、積層型圧電セラミック側には、材質が銅の金属層との複合体である積層型圧電セラミックス構造体である。
【0014】
また、本発明は、前記ニッケルの金属層、あるいは銅の金属層は、ニッケルあるいは銅の各々の金属粉末が、溶剤と樹脂とによって分散された金属ペーストを用いてスクリーン印刷法により形成し、熱処理を経て形成された積層型圧電セラミックス構造体である。
【0015】
また、本発明は、前記ニッケルの金属層、あるいは銅の金属層は、スパッタ法、ゾルゲル法、CVD法、メッキ法、エアロゾルデポジション法のいずれか1つにより形成された積層型圧電セラミックス構造体である。
【0016】
また、本発明は、ステンレス金属基板の上に、中間層を介して積層型圧電セラミックス層が形成された積層型圧電セラミックス構造体において、前記中間層は、ニッケルと銅の合金層である積層型圧電セラミックス構造体である。
【0017】
また、本発明は、前記ニッケルと銅の合金層は、ニッケルと銅の合金の金属粉末が、溶剤と樹脂とによって分散された金属ペーストを用いてスクリーン印刷法により形成し、熱処理を経て形成された積層型圧電セラミックス構造体である。
【0018】
また、本発明は、前記ニッケルと銅の合金層は、スパッタ法、ゾルゲル法、CVD法、メッキ法、エアロゾルデポジション法のいずれか1つにより形成された積層型圧電セラミックス構造体である。
【0019】
また、本発明は、前記圧電セラミックスは、耐還元性を有している積層型圧電セラミックス構造体である。
【0020】
また、本発明は、前記耐還元性を有する圧電セラミックス層は、MnO、Mn23、Mn34、BaO、CaO、SrOのうち、少なくとも一種を含有する積層型圧電セラミックス構造体である。
【0021】
また、本発明は、前記積層型圧電セラミックス層は、鉛を含む材質である積層型圧電セラミックス構造体である。
【0022】
また、本発明は、前記積層型圧電セラミックス層は、その材質を、ジルコン酸チタン酸鉛とする積層型圧電セラミックス構造体である。
【0023】
また、本発明は、ステンレス金属基板と、積層型圧電セラミックス層との中間層として、基板側にニッケルの金属層と、セラミック側には、銅の金属層を構成する積層型圧電セラミックス構造体の製造方法において、前記ニッケルの金属層と、銅の金属層は、各々の金属粉末が、溶剤と樹脂とによって分散された金属ペーストをスクリーン印刷法により、前記ステンレス金属基板に形成して熱処理を行う工程と、前記積層型圧電セラミックス層を、エアロゾルデポジション法により形成する工程と、前記積層型圧電セラミックス構造体を窒素またはアルゴンなどの中性雰囲気中、または、還元性雰囲気中で熱処理を行う工程を有する積層型圧電セラミックス構造体の製造方法である。
【0024】
また、本発明は、ステンレス金属基板と、積層型圧電セラミックス層との中間層として、ニッケルと銅の合金層を構成した積層型圧電セラミックス構造体の製造方法において、前記ニッケルと銅の合金層は、ニッケルと銅の合金の金属粉末が、溶剤と樹脂とによって分散された金属ペーストをスクリーン印刷法により、前記ステンレス金属基板に形成して熱処理を行う工程と、前記積層型圧電セラミックス層をエアロゾルデポジション法により形成する工程と、前記積層型圧電セラミックス構造体を窒素またはアルゴンなどの中性雰囲気中、または、還元性雰囲気中で熱処理を行う工程を有する積層型圧電セラミックス構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
従来のPZT厚膜を形成する方法においては、PZT厚膜の圧電特性を向上させるために基板材質として、セラミックス基板、あるいはSi基板などに限定されていたが、本発明では、基板材質として特にステンレス金属といった安価な材質を用いて圧電特性が優れたPZT厚膜を得ることができる。また、中間層として、従来技術においてはPtなどの貴金属を使用し、さらにTiなどと組み合わせた複数層としていたが、本発明では卑金属であるニッケルと銅だけを中間層とすることができるため、製造コストの低減という効果を奏する。
【0026】
本発明の積層型圧電セラミックス構造体は、原料となる圧電PZT粉末の製造、AD法による厚膜形成、ならびに、雰囲気中での熱処理という簡便な方法で製造されるため、工業的なメリットは大きく、圧電アクチュエータとして、特性の優れる積層型圧電セラミックス構造体が容易に得られるため、インクジェットプリンタヘッドや原子間力顕微鏡のマイクロプローブなどをはじめとする、モノモルフ型マイクロアクチュエータ、バイモルフ型マイクロアクチュエータ等への応用が可能である。
【0027】
本発明によれば、基板材料として、安価なステンレス金属材料の使用が可能で、かつ、圧電特性が優れたPZT厚膜を有する積層型圧電セラミックス構造体及び製造方法の提供ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の実施の形態による積層型圧電セラミックス構造体及びその製造方法について、図面に基づいて説明する。
【0029】
本発明の積層型圧電セラミックス構造体は、ステンレス金属基板の上に、中間層を介して積層型圧電セラミックス層が形成された構成であって、前記中間層について、前記ステンレス金属基板側にニッケルの金属層を形成し、積層型圧電セラミック側には、銅の金属層を形成した構成である。
【0030】
また、本発明の積層型圧電セラミックス構造体は、ステンレス金属基板の上に、中間層を介して積層型圧電セラミックス層が形成された構成であって、前記中間層について、ニッケルと銅の合金層を形成した構成である。
【0031】
前記ニッケルの金属層と銅の金属層は、あるいは前記ニッケルと銅の合金層は、各々の金属粉末が溶剤と樹脂とによって分散された金属ペーストを用いてスクリーン印刷法により形成し、熱処理を経て形成されている。
【0032】
前記ニッケルの金属層と銅の金属層、あるいはニッケルと銅の合金層は、スパッタ法、ゾルゲル法、CVD法、メッキ法、エアロゾルデポジション法のいずれかを用いて形成することができる。
【0033】
前記積層型圧電セラミックス構造体の積層型圧電セラミックス層は、耐還元性を有しており、具体的には、MnO,Mn23,Mn34,BaO,CaO,SrOのうち、少なくとも一種を含有している。また、前記積層型圧電セラミックス層は、その材質を、鉛を含む材質を用いることができる。材質の1例として、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)をあげることができる。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、本発明による実施の形態1の積層型圧電セラミックス構造体を説明するための断面の概念図である。図1において、4はPZT厚膜、3は銅、2はニッケルであって、前記銅3とニッケル2とで中間層が形成され、1はステンレス金属基板であり、基板の材質はステンレス金属材料を使用する。また、図1おいて、5はPZT厚膜4に電圧を印加するための電極であり、例えばPtなどの導電材料を用いてスパッタリングなどにより形成する。
【0035】
以下に、具体的な製造方法を詳細に説明する。まず、N2あるいはArなどの中性雰囲気、または、微量のH2を含むN2などの還元性雰囲気において、1000℃程度まで加熱しても還元されない組成のPZT圧電粉末を、PZT厚膜4の原料として準備する。
【0036】

一般に、PZT圧電粉末の製造は、所定量のPbO,ZrO2,TiO2原料酸化物粉末を、湿式ボールミルなどで混合し、この混合粉末を800〜900℃程度で予焼し、次に、この予焼粉末を湿式ボールミルなどで再粉砕する、という工程で製造される。
【0037】
この時、原料酸化物粉末にMnOまたはMn23またはMn34を0.01〜2モル%程度加えることで、PZT粉末に耐還元性を付加できる。また、BaO,SrO,CaOのアルカリ土類金属酸化物を0.1〜3モル%程度加えることでも、耐還元性を有するPZT粉末を得ることができる。MnO,Mn23,Mn34,アルカリ土類金属酸化物の選択と、添加量については、所望のPZTの圧電特性により決定する。
【0038】
ステンレス金属基板1に、銅3とニッケル2を材質とする中間層を形成する方法としては、メッキ法、スパッタリング法,CVD法、AD法、あるいはスクリーン印刷し、その後に焼き付けるなどの方法を用いることができる。なお、銅の代わりに白金族金属ペーストを用いても良い。
【0039】
次に、中間層の上に、前記耐還元性を有するPZT粉末を用いて、AD法により成膜して、PZT厚膜4を得る。その後、N2あるいはArなどの中性雰囲気、または、微量のH2を含むN2などの還元性雰囲気において、600℃から900℃程度の温度で熱処理を加える。この熱処理における雰囲気がN2あるいはArなどの中性雰囲気、または、微量のH2を含むN2などの還元性雰囲気であることから、ステンレスなどの金属基板は酸化することがない。また、PZT厚膜が、MnO、Mn23、Mn34,BaO,CaO,SrOのうち、少なくとも1種を含有していることから、中性雰囲気あるいは還元性雰囲気においても、PZTが還元されることがない。
【0040】
さらに、銅はPZT厚膜に対して安定であるため、PZT厚膜の鉛と銅とが反応することはない。また、銅を材質とする中間層を形成していることで、PZTの鉛と金属基板とが反応することもない。ここで、銅あるいは白金族金属以外の材料、例えば、NiやFeのみを中間層とする場合は、前記中間層とPZT厚膜が反応してPZT厚膜の圧電特性が損なわれてしまう。
【0041】
以上のような方法により製造される積層型圧電セラミックス構造体は、基板材料としてステンレスが使用可能で、PZT厚膜の厚さを10μm以上の厚膜とすることができ、焼結セラミックスに匹敵する圧電特性を有するものである。
【0042】
(実施の形態2)
図2は、本発明による実施の形態2の積層型圧電セラミックス構造体を説明するための断面の概念図である。図2において、4はPZT厚膜、6は銅とニッケルの合金による中間層であり、1はステンレス金属基板であり、基板の材質はステンレス金属材料を使用する。また、5はPZT厚膜4に電圧を印加するための表面電極であり、例えばPtなどの導電材料を用いスパッタリングなどにより形成する。
【0043】
PZT厚膜4の原料粉末を作製する方法は、先の述べた実施の形態1の場合と同様なので、省略する。なお、原料酸化物粉末にMnOまたはMn23OまたはMn34を0.01〜2モル%程度加えることで、PZT粉末に耐還元性を付加できる。
【0044】
また、BaO,SrO,CaOのアルカリ土類金属酸化物を0.1〜3モル%程度加えることでも、耐還元性を有するPZT粉末を得ることができる。MnO、Mn2O、Mn34、アルカリ土類金属酸化物の選択と、添加量については、所望のPZTの圧電特性により決定する。
【0045】
ステンレス金属基板1に、ニッケルと銅の合金層6を形成する方法としては、メッキ法、スパッタリング法、CVD法、AD法、あるいはスクリーン印刷し、その後に焼き付けるなどの方法を用いることができる。なお、銅の代わりに白金族金属ペーストを用いても良い。
【0046】
次に、中間層の上に、前記耐還元性を有するPZT粉末を用いて、AD法により成膜して、PZT厚膜4を得る。その後、N2あるいはArなどの中性雰囲気、または、微量のH2を含むN2などの還元性雰囲気において、600℃から900℃程度の温度で熱処理を加える。この熱処理における雰囲気がN2あるいはArなどの中性雰囲気、または、微量のH2を含むN2などの還元性雰囲気であることから、ステンレスなどの金属基板は酸化することがない。また、PZT厚膜がMnO、Mn23、Mn34、BaO、CaO、SrOのうち、少なくとも1種を含有していることから、中性雰囲気あるいは還元性雰囲気においても、PZTが還元されることがない。
【0047】
さらに、銅はPZT厚膜に対して安定であるため、PZT厚膜の鉛と銅とが反応することはない。また、銅を材質とする中間層を形成していることで、PZTの鉛と金属基板とが反応することもない。ここで、銅あるいは白金族金属以外の材料、例えば、NiやFeのみを中間層とする場合は、前記中間層とPZT厚膜が反応してPZT厚膜の圧電特性が損なわれてしまう。
【0048】
以上のような方法により製造される積層型圧電セラミックス構造体は、基板材料としてステンレスが使用可能で、PZT厚膜の厚さを10μm以上の厚膜とすることができ、焼結セラミックスに匹敵する圧電特性を有するものである。
【0049】
(実施の形態3)
図3は、本発明による実施の形態3の積層セラミックス構造体を説明するための概念図である。ステンレスを材料とするステンレス金属基板7の両面にスパッタ法を用いてニッケル層8を形成し、前記両面のニッケル層上に同じくスパッタリング法にて銅層9を形成し、前記両面の銅層上へAD法にてPZT厚膜10を形成し、その後、N2あるいはArなどの中性雰囲気、または、微量のH2を含むN2などの還元性雰囲気において、600℃から900℃程度の温度で熱処理を加える。
【0050】
次いで、スパッタリング、焼付けなどにより電極11を形成することでバイモルフ型アクチュエータを製造することができる。さらに、この応用として、金属粉末を原料としたAD法で金属膜を形成することも可能であり、PZT膜と銅を材質とする膜を複数積層することで、いわゆる積層型アクチュエータも製造可能である。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
PbO,ZrO2,TiO2粉末を出発原料として、ZrとTiの比率が53:47になるように秤量し、また、反応後の化学組成Pb(Zr0.53Ti0.47)O3に対して、0.1モル%のMnOを加え、湿式ボールミル中で純水を媒体として30時間混合した。混合物を濾過、乾燥し、850℃、2時間の条件で予焼した。この予焼粉末を湿式ボールミル中で純水を媒体として30時間、再粉砕し、濾過、乾燥することで、耐還元性を有するPZT粉末を作製した。
【0052】
次に、ステンレス(SUS304)を材質とする基板に、スパッタ法により厚さ約1μmのニッケルの金属層を作製した。さらに、この上にスパッタ法により厚さ約2μmの銅の金属層を作製した。ニッケルと銅の金属層を形成したこの基板に、前述の耐還元性を有するPZT粉末を用いて、AD法により厚さ約30μmのPZT厚膜を形成し、この積層構造体を、0.001%のH2を含むN2中で700℃、1時間、熱処理し、本発明の積層型圧電セラミックス構造体を得た。
【0053】
(実施例2)
PbO,ZrO2,TiO2粉末を出発原料として、ZrとTiの比率が53:47になるように秤量し、また、反応後の化学組成Pb(Zr0.53Ti0.47)O3に対して3モル%のBaOを加え、湿式ボールミル中で純水を媒体として30時間、混合した。混合粉末を濾過、乾燥後、900℃、2時間の条件で予焼した。この予焼粉末を湿式ボールミル中で純水を媒体として再粉砕し、濾過、乾燥することで、耐還元性を有するPZT粉末を作製した。
【0054】
次に、ステンレス(SUS304)基板に、スパッタリング法により厚さ約1μmのニッケルの金属層を作製した。さらに、この上にスパッタリング法により厚さ約2μmの銅の金属層を作製した。ニッケルと銅の金属層を形成したこの基板上に、前述の耐還元性を有するPZT粉末を用いて、AD法により厚さ約30μmのPZT厚膜に形成し、この積層構造体を、0.001%のH2を含むN2中で700℃、1時間、熱処理し、本発明の積層型圧電セラミックス構造体を得た。
【0055】
(実施例3)
PbO,ZrO2,TiO2粉末を出発原料として、ZrとTiの比率が53:47になるように秤量し、また、反応後の化学組成Pb(Zr0.53Ti0.47)O3に対して1mol%のSrOを加え、湿式ボールミル中で純水を媒体として30時間、混合した。混合粉末を濾過、乾燥後、850℃、2時間の条件で予焼した。この予焼粉末を湿式ボールミル中で純水を媒体として30時間、再粉砕し、濾過、乾燥することで、耐還元性を有するPZT粉末を作製した。
【0056】
次に、ステンレス(SUS304)を材質とする基板に、メッキ法により厚さ約2μmのニッケルの金属層を作製した。さらに、この上にスクリーン印刷法により厚さ約2μmの銅の金属層を作製した。ニッケルと銅の金属層を形成したこの基板に、前述の耐還元性を有するPZT粉末を用いて、AD法により厚さ約30μmのPZT厚膜を形成し、この積層構造体を、0.001%のH2を含むN2中で700℃、1時間、熱処理し、本発明の積層型圧電セラミックス構造体を得た。
【0057】
(実施例4)
PbO,ZrO2,TiO2、NiO粉末を出発原料として、反応後の化学組成が50Pb(Ni1/3Nb)O3−50Pb(ZrTi)O3なるように秤量し、この組成に対し1モル%のMnOを加え、湿式ボールミル中で純水を媒体として30時間、混合した。混合粉末を濾過、乾燥後、850℃、2時間の条件で予焼した。この予焼粉末を湿式ボールミル中で純水を媒体として30時間、再粉砕し、濾過、乾燥することで、耐還元性を有するPZT粉末を作製した。そして、実施例1と同様の製造方法にて本発明の積層型圧電セラミックス構造体を得た。
【0058】
(比較例1)
前述の実施例と比較するため、以下の方法で積層型圧電セラミックス構造体を製造した。まず、PbO,ZrO2,TiO2粉末を出発原料として、ZrとTiの比率が53:47になるように秤量し、湿式ボールミル中で純水を媒体として30時間、混合した。濾過、乾燥後、850℃、・2時間の条件で予焼した。この予焼粉末を湿式ボールミル中で純水を媒体として30時間、再粉砕し、濾過、乾燥することで、耐還元性を有していないPZT粉末を作製した。
【0059】
次に、厚さ50μmのステンレス(SUS304)基板に、スパッタ法により厚さ約1μmのニッケルの金属層を作製した。さらに、この上にスパッタ法により厚さ約2μmの銅の金属層を作製した。ニッケルと銅の金属層を形成した基板に、前記耐還元性を有していないPZT粉末を用いて、AD法により厚さ約30μmのPZT厚膜を形成し、この積層構造体を、0.001%のH2を含むN2中で700℃、1時間、熱処理し、積層型圧電セラミックス構造体を得た。
【0060】
(比較例2)
実施例1の場合と同じ、耐還元性を有するPZT粉末を、厚さ50μmのステンレス基板に直接、AD法により厚さ約30μmのPZT厚膜を形成し、この積層構造体を、0.001%のH2を含むN2中で700℃、1時間、熱処理し、積層型圧電セラミックス構造体を得た。
【0061】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、及び比較例1、比較例2により得られたPZTの積層型圧電セラミックス構造体に、表面電極として厚さ約1μmのPt層をスパッタリングにより形成し、厚さ方向に分極し、圧電特性を測定した。表1に、残留分極Prと抗電界Ec、ならびに圧電定数d31の測定結果を示した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、本発明の積層型圧電セラミックス構造体(実施例1、実施例2、実施例3、実施例4)は、残留分極Pr、抗電界Ec,圧電定数d31ともに良好な値が得られ、圧電特性に優れたPZT厚膜となっていることが確認された。
【0064】
また、比較例1は、PZTが耐還元性を有していないことから、熱処理中にPZTが還元し、圧電特性が失われ、比較例2は、ステンレス基板とPZT厚膜が熱処理中に反応して圧電特性が失われることが確認された。
【0065】
本発明においては、熱処理温度を700℃としたが、銅の融点未満、具体的には約1000℃まで熱処理温度を上昇させることが可能であり、熱処理温度の上昇とともに、焼結セラミックスの特性とほぼ同等しいPZT厚膜の圧電特性は向上する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態1の積層型圧電セラミックス構造体を説明するための断面の概念図。
【図2】本発明の実施の形態2の積層型圧電セラミックス構造体を説明するための断面の概念図。
【図3】本発明の実施の形態3の積層型圧電セラミックス構造体を説明するための断面の概念図。
【符号の説明】
【0067】
1,7 ステンレス金属基板
2,8 ニッケル層
3,9 銅
4,10 PZT厚膜
5,11 電極
6 ニッケルと銅の合金層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス金属基板の上に、中間層を介して積層型圧電セラミックス層が形成された積層型圧電セラミックス構造体において、前記中間層は、ステンレス金属基板側に材質がニッケルの金属層と、積層型圧電セラミック側には、材質が銅の金属層との複合体であることを特徴とする積層型圧電セラミックス構造体。
【請求項2】
前記ニッケルの金属層、あるいは銅の金属層は、ニッケルあるいは銅の各々の金属粉末が、溶剤と樹脂とによって分散された金属ペーストを用いてスクリーン印刷法により形成し、熱処理を経て形成されたことを特徴とする請求項1に記載の積層型圧電セラミックス構造体。
【請求項3】
前記ニッケルの金属層、あるいは銅の金属層は、スパッタ法、ゾルゲル法、CVD法、メッキ法、エアロゾルデポジション法のいずれか1つにより、形成されたことを特徴とする請求項1に記載の積層型圧電セラミックス構造体。
【請求項4】
ステンレス金属基板の上に、中間層を介して積層型圧電セラミックス層が形成された積層型圧電セラミックス構造体において、前記中間層は、ニッケルと銅の合金層であることを特徴とする積層型圧電セラミックス構造体。
【請求項5】
前記ニッケルと銅の合金層は、ニッケルと銅の合金の金属粉末が溶剤と樹脂とによって分散された金属ペーストを用いてスクリーン印刷法により形成し、熱処理を経て形成されたことを特徴とする請求項4に記載の積層型圧電セラミックス構造体。
【請求項6】
前記ニッケルと銅の合金層は、スパッタ法、ゾルゲル法、CVD法、メッキ法、エアロゾルデポジション法のいずれか1つにより形成されたことを特徴とする請求項4に記載の積層型圧電セラミックス構造体。
【請求項7】
前記圧電セラミックスは、耐還元性を有していることを特徴とする請求項1または請求項4のいずれかに記載の積層型圧電セラミックス構造体。
【請求項8】
前記耐還元性を有する圧電セラミックス層は、MnO,Mn23,Mn34,BaO,CaO,SrOのうち、少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項7に記載の積層型圧電セラミックス構造体。
【請求項9】
前記積層型圧電セラミックス層は、鉛を含む材質であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の積層型圧電セラミックス構造体。
【請求項10】
前記積層型圧電セラミックス層は、その材質を、ジルコン酸チタン酸鉛とすることを特徴とする請求項9に記載の積層型圧電セラミックス構造体。
【請求項11】
ステンレス金属基板と、積層型圧電セラミックス層との中間層として、基板側にニッケルの金属層と、セラミック側には、銅の金属層を構成する積層型圧電セラミックス構造体の製造方法において、前記ニッケルの金属層と、銅の金属層は、各々の金属粉末が、溶剤と樹脂とによって分散された金属ペーストをスクリーン印刷法により、前記ステンレス金属基板に形成して熱処理を行う工程と、前記積層型圧電セラミックス層をエアロゾルデポジション法により形成する工程と、前記積層圧電セラミックス構造体を窒素またはアルゴンなどの中性雰囲気中、または、還元性雰囲気中で熱処理を行う工程を有することを特徴とする積層型圧電セラミックス構造体の製造方法。
【請求項12】
ステンレス金属基板と、積層型圧電セラミックス層との中間層として、ニッケルと銅の合金層を構成した積層型圧電セラミックス構造体の製造方法において、前記ニッケルと銅の合金層は、ニッケルと銅の合金の金属粉末が、溶剤と樹脂とによって分散された金属ペーストをスクリーン印刷法により、前記ステンレス金属基板に形成して熱処理を行う工程と、前記積層型圧電セラミックス層をエアロゾルデポジション法により形成する工程と、前記積層圧電セラミックス構造体を窒素またはアルゴンなどの中性雰囲気中、または、還元性雰囲気中で熱処理を行う工程を有することを特徴とする積層型圧電セラミックス構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−114745(P2006−114745A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301453(P2004−301453)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ナノテクノロジープログラム/ナノ加工・計測技術 ナノレベル電子セラミックス材料低温成形・集積化技術」に関する成果。産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願。
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】