説明

積層型圧電薄膜フィルタの製造方法

【課題】精密な周波数調整が可能な、積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、基板7上に、下部圧電薄膜共振子20を形成する工程と、下部圧電薄膜共振子20の周波数を参照して周波数を調整する工程と、周波数を調整した下部圧電薄膜共振子20上に音響結合層30を形成する工程と、音響結合層30上に上部圧電薄膜共振子40を形成して積層型圧電薄膜フィルタ1を形成する工程と、上部圧電薄膜共振子40の周波数を参照して周波数を調整する工程と、を備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2以上の圧電薄膜共振子を備える積層型圧電薄膜フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線通信機器の回路部においては、段間フィルタやデュプレクサが必須である。それらには従来から弾性表面波(SAW)フィルタや誘電体フィルタが用いられている。近年、耐電力性、低損失及び小型化の要求から、圧電薄膜フィルタが段間フィルタやデュプレクサに用いられてきている。そして、市場の要求により、不平衡信号を平衡信号へと変換する平衡−不平衡変換機能を持つ圧電薄膜フィルタの開発が進められている。圧電薄膜フィルタにおいて平衡−不平衡変換機能を実現するためには、2つの共振子を厚み方向に積層し、共振子の機械振動を結合させる手法が有力である。このような、いわゆる縦結合型の圧電薄膜フィルタの構造としては、例えば特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
特許文献1の積層型圧電薄膜フィルタは、図13のように、圧電薄膜共振子121、122、123、124を備えている。圧電薄膜共振子121と122とは音響結合層113により音響的に結合されている。また、圧電薄膜共振子122と123とは電気的に接続されている。そして、圧電薄膜共振子123と124とは音響結合層113により音響的に結合されている。圧電薄膜共振子121に入力された信号は、圧電薄膜共振子122、123を経由して圧電薄膜共振子124に出力される。圧電薄膜共振子122、123は基板111上に形成された音響反射層112上に形成されている。
【0004】
特許文献1の積層型圧電薄膜フィルタの周波数調整方法としては、一般に特許文献2に記載の方法が知られている。特許文献2では、上部電極の上に新たな層を付加したり、エッチング等により電極の膜厚を薄くすることにより、共振周波数を調整する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US6720844号公報
【特許文献2】特開2007−166148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献2に記載の方法を特許文献1に開示の積層型圧電薄膜フィルタに適用させた場合には、圧電薄膜共振子121、124の周波数は調整が可能であるが、圧電薄膜共振子122、123の周波数が調整できないため、圧電薄膜共振子121、124と圧電薄膜共振子122、123の周波数がずれてしまうことにより周波数特性が劣化するという問題が生じていた。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであり、縦結合型の積層型圧電薄膜フィルタにおいて、周波数特性の劣化がなく、精密な周波数調整が可能な積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、下部圧電薄膜共振子と、前記下部圧電薄膜共振子上に形成される音響結合層と、前記音響結合層上に形成される上部圧電薄膜共振子と、を備える積層型圧電薄膜フィルタの製造方法であって、基板上に、下部圧電薄膜共振子を形成する工程と、前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程と、前記周波数を調整した下部圧電薄膜共振子上に音響結合層を形成する工程と、前記音響結合層上に上部圧電薄膜共振子を形成して積層型圧電薄膜フィルタを形成する工程と、前記上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程と、を備えることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記上部圧電薄膜共振子の周波数を測定し、その後に周波数を調整することが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記上部圧電薄膜共振子の周波数を測定しながら周波数を調整することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記上部圧電薄膜共振子の電極の膜厚を増減させて周波数を調整することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、下部圧電薄膜共振子と、前記下部圧電薄膜共振子上に形成される音響結合層と、前記音響結合層上に形成される上部圧電薄膜共振子と、を備える積層型圧電薄膜フィルタの製造方法であって、基板上に、下部圧電薄膜共振子を形成する工程と、前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程と、前記周波数を調整した下部圧電薄膜共振子上に音響結合層を形成する工程と、前記音響結合層上に上部圧電薄膜共振子を形成して積層型圧電薄膜フィルタを形成する工程と、前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して周波数を調整する工程と、を備えることを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を測定し、その後に周波数を調整することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を測定しながら周波数を調整することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記上部圧電薄膜共振子の電極の膜厚を増減させて周波数を調整することが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記下部圧電薄膜共振子の周波数を測定し、その後に周波数を調整することが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記下部圧電薄膜共振子の周波数を測定しながら周波数を調整することが好ましい。
【0018】
本発明では、あらかじめ下部圧電薄膜共振子の周波数を調整することで、積層型圧電薄膜フィルタの周波数を精密に調整することが可能である。
【0019】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記下部圧電薄膜共振子の電極の膜厚を増減させて周波数を調整することが好ましい。
【0020】
この場合、新たな層を付加することなく、電極の膜厚を増減させて周波数を調整することが可能である。
【0021】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記下部圧電薄膜共振子上に調整層を設けて、前記調整層の膜厚を増減させて周波数を調整することが好ましい。
【0022】
この場合、調整層を設けることにより、周波数の精密な調整が可能である。
【0023】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記音響結合層を形成する工程において、前記音響結合層の膜厚を増減させて前記下部圧電薄膜共振子の周波数を調整することが好ましい。
【0024】
この場合、新たな層を付加することなく、音響結合層の膜厚を増減させて周波数を調整することが可能である。
【0025】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、下部圧電薄膜共振子と、前記下部圧電薄膜共振子上に形成される音響結合層と、前記音響結合層上に形成される上部圧電薄膜共振子と、を備える積層型圧電薄膜フィルタの製造方法であって、基板上に、下部圧電薄膜共振子と検査用下部圧電薄膜共振子を形成する工程と、前記検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して、前記下部圧電薄膜共振子と前記検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を調整する工程と、前記周波数を調整した下部圧電薄膜共振子上と検査用下部圧電薄膜共振子上にそれぞれ音響結合層と検査用音響結合層を形成する工程と、前記音響結合層上と前記検査用音響結合層上にそれぞれ上部圧電薄膜共振子と検査用上部圧電薄膜共振子を形成して、積層型圧電薄膜フィルタと検査用積層型圧電薄膜フィルタを形成する工程と、前記検査用上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して、前記上部圧電薄膜共振子と前記検査用上部圧電薄膜共振子の周波数を調整する工程と、を備えることを特徴としている。
【0026】
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、下部圧電薄膜共振子と、前記下部圧電薄膜共振子上に形成される音響結合層と、前記音響結合層上に形成される上部圧電薄膜共振子と、を備える積層型圧電薄膜フィルタの製造方法であって、基板上に、下部圧電薄膜共振子と検査用下部圧電薄膜共振子を形成する工程と、前記検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して、前記下部圧電薄膜共振子と前記検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を調整する工程と、前記周波数を調整した下部圧電薄膜共振子上と検査用下部圧電薄膜共振子上にそれぞれ音響結合層と検査用音響結合層を形成する工程と、前記音響結合層上と前記検査用音響結合層上にそれぞれ上部圧電薄膜共振子と検査用上部圧電薄膜共振子を形成して、積層型圧電薄膜フィルタと検査用積層型圧電薄膜フィルタを形成する工程と、前記検査用積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して、前記積層型圧電薄膜フィルタと前記検査用積層型圧電薄膜フィルタの周波数を調整する工程と、を備えることを特徴としている。
また、本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法は、前記検査用下部圧電薄膜共振子または前記検査用上部圧電薄膜共振子の膜厚を測定して、前記膜厚を参照して前記下部圧電薄膜共振子、前記上部圧電薄膜共振子、または前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を調整することが好ましい。
【0027】
この場合、周波数の調整の精度が向上する。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、あらかじめ下部圧電薄膜共振子の周波数を調整することで、積層型圧電薄膜フィルタの周波数を精密に調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】積層型圧電薄膜フィルタの断面図である。
【図2】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を示す断面図である。(実施形態1)
【図3】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を示す断面図である。(実施形態1)
【図4】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を示す断面図である。(実施形態1)
【図5】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を示す断面図である。(実施形態2)
【図6】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を示す断面図である。(実施形態3)
【図7】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を示す断面図である。(実施形態4)
【図8】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を示す断面図である。(実施形態5)
【図9】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を示す断面図である。(実施形態5)
【図10】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を示す断面図である。(実施形態5)
【図11】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタの製造方法を示す断面図である。(実施形態6)
【図12】本発明に係る積層型圧電薄膜フィルタが用いられる電気回路図の例である。
【図13】従来の積層型圧電薄膜フィルタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
(実施形態1)
図1に、本発明に係る製造方法で作製された積層型圧電薄膜フィルタの断面図を示す。
【0031】
積層型圧電薄膜フィルタは、下部圧電薄膜共振子20と、音響結合層30と、上部圧電薄膜共振子40と、を備えている。積層型圧電薄膜フィルタは基板7上に形成されている。図1(A)は、基板7上に音響反射層10が形成されている構造である。図1(B)は、音響反射層10の代わりに、下部圧電薄膜共振子20の下に空隙を設けた構造である。
【0032】
音響結合層30は、下部圧電薄膜共振子20上に形成されている。そして、上部圧電薄膜共振子40は、音響結合層30上に形成されている。積層型圧電薄膜フィルタの薄膜は、例えばスパッタリング等で形成される。
【0033】
上部圧電薄膜共振子40と下部圧電薄膜共振子20とは、音響結合層30により音響的に結合されている。上部圧電薄膜共振子40に入力された信号は、音響結合層30を経由して、下部圧電薄膜共振子20に出力される。
【0034】
図1(A)の積層型圧電薄膜フィルタの場合には、例えば図2〜図4の工程で製造することができる。
【0035】
まず、図2(A)のように基板7を用意する。基板7の材質としては、例えばSiが挙げられる。
【0036】
次に、図2(B)のように、基板7上に音響反射層10を形成する。音響反射層10は、通常積層構造であり、積層型圧電薄膜フィルタと基板7とを音響的に分離するという役割を果たす。
【0037】
そして、図2(C)のように、音響反射層10上、すなわち基板7上に下部圧電薄膜共振子20を形成する。下部圧電薄膜共振子20は、電極21、23と下部圧電層22とを備える。下部圧電層22は、電極21と電極23とで挟まれる構成となっている。
【0038】
次に、図3(D)のように、下部圧電薄膜共振子20の周波数を参照して周波数を調整する。より詳細には、例えば下部圧電薄膜共振子20の電極の膜厚を増減させて周波数を調整する。図3(D)は、下部圧電薄膜共振子20の上側の電極23の膜厚を増減させる例である。この場合、新たな膜を形成せずに、周波数を調整することができる。一般的に、膜厚を増加させた場合には、周波数は減少傾向になる。そして、膜厚を減少させた場合には、周波数は増加傾向になる。膜厚の増加方法は、例えば膜の形成方法と同じ方法を用いることができる。また、膜厚の減少方法は、例えばイオンビームエッチングや反応性イオンエッチング等を用いることができる。
【0039】
周波数を参照して周波数を調整するとは、あらかじめ下部圧電薄膜共振子20の周波数を測定しておき、その後に周波数を調整する場合と、下部圧電薄膜共振子20の周波数を測定しながら周波数を調整する場合を含む。前者の場合には、例えば電極の膜厚を増減させた際の周波数との相関関係をあらかじめ把握しておく。そして、下部圧電薄膜共振子20の周波数の測定後に、現在の周波数と狙い周波数とのずれを補うように電極の膜厚を増減させる。この場合には、一度周波数を測定すれば、その後に周波数を測定せずとも、電極の膜厚を増減させるだけで狙い周波数に合わせこむことが可能である。後者の場合には、周波数をみながら狙い周波数に近づくように電極の膜厚を増減させる。そして電極の膜厚を増減させた後の周波数を逐一測定する。この過程を繰り返して、下部圧電薄膜共振子20の周波数を狙い周波数に合わせこむ。
【0040】
そして、図3(E)のように、周波数を調整した下部圧電薄膜共振子20上に音響結合層30を形成する。音響結合層30は、通常、例えばSiO2、SiNx、ZnO、AlN、Al23、ポリイミド樹脂等の絶縁膜を用いる。そして、積層型圧電薄膜フィルタの共振モードのモード間隔を最適化するため、音響インピーダンスの異なる複数層の積層構造とすることが好ましい。
【0041】
そして、図3(F)のように、音響結合層30上に上部圧電薄膜共振子40を形成して、下部圧電薄膜共振子20と、音響結合層30と、上部圧電薄膜共振子40と、を備える積層型圧電薄膜フィルタ1を形成する。上部圧電薄膜共振子40は、電極41、43と上部圧電層42とを備える。上部圧電層42は、電極41と電極43とで挟まれる構成となっている。上部圧電層42と下部圧電層22の材質は、例えばAlN、ZnO、LiNbO3、LiTaO3、水晶、チタン酸ジルコン酸鉛等が挙げられる。電極の材質は、例えばAl、Cu、Ag、Au、Mo、Ru、Ir、Ti、Ni、Cr等が挙げられる。これらの材料を積層したもの、もしくは合金化したものであっても良い。
【0042】
そして、図4(G)のように、上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する。例えば上部圧電薄膜共振子40の電極の膜厚を増減させて周波数を調整する。図4(G)は、上部圧電薄膜共振子40の上側の電極43の膜厚を増減させる例である。
【0043】
周波数を参照して周波数を調整するとは、下部圧電薄膜共振子20と同様に、あらかじめ上部圧電薄膜共振子40や積層型圧電薄膜フィルタの周波数を測定しておき、その後に周波数を調整する場合と、上部圧電薄膜共振子40や積層型圧電薄膜フィルタの周波数を測定しながら周波数を調整する場合を含む。
(実施形態2)
実施形態2は、実施形態1のように上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する代わりに、積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して周波数を調整する例である。
【0044】
まず、図2(A)〜図3(F)のようにして、下部圧電薄膜共振子20と、音響結合層30と、上部圧電薄膜共振子40と、を備える積層型圧電薄膜フィルタ1を形成する。
【0045】
そして、図5のように、積層型圧電薄膜フィルタ1の周波数を参照して周波数を調整する。この場合には、積層型圧電薄膜フィルタ1の周波数を直接調整できるため、あらかじめ上部圧電薄膜共振子40の周波数と積層型圧電薄膜圧電フィルタ1の周波数の相関関係を把握しておく必要がない。
(実施形態3)
図6は、下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、下部圧電薄膜共振子20上に調整層37を設けて、調整層37の膜厚を増減させて周波数を調整する例である。新たに調整層を設けた場合には周波数の精密な調整が可能である。
【0046】
(実施形態4)
図7は、音響結合層を形成する工程において、音響結合層の膜厚を増減させて下部圧電薄膜共振子20の周波数を調整する例である。図のように、音響結合層の一部を形成した後に、音響結合層31の膜厚を増減させて下部圧電薄膜共振子20の周波数を調整することもできる。この場合、周波数を調整するための新たな膜を形成する必要がない。なお、音響結合層の全体を形成した後に、音響結合層の膜厚を増減させても良い。
【0047】
(実施形態5)
実施形態5は、検査用積層型圧電薄膜フィルタを作製し、検査用下部圧電薄膜共振子と検査用上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して、下部圧電薄膜共振子と上部圧電薄膜共振子の周波数を調整する例である。
【0048】
まず、図8(A)のように基板7を用意する。
【0049】
次に、図8(B)のように、基板7上に音響反射層10と検査用音響反射層15を形成する。検査用音響反射層15は、音響反射層10と材質が同一であり、膜厚も同一である。音響反射層10と検査用音響反射層15は、同時に形成されていることが好ましい。
【0050】
次に、図8(C)のように、基板7上の音響反射層10上と検査用音響反射層15上に、それぞれ下部圧電薄膜共振子20と検査用下部圧電薄膜共振子25を形成する。検査用下部圧電薄膜共振子25は、下部圧電薄膜共振子20と材質が同一であり、膜厚も同一である。下部圧電薄膜共振子20と検査用圧電薄膜共振子25は、同時に形成されていることが好ましい。
【0051】
次に、図9(D)のように、検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して、下部圧電薄膜共振子20と検査用下部圧電薄膜共振子25の周波数を調整する。この場合、あらかじめ検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を測定しておき、その後に周波数を調整する場合と、検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を測定しながら周波数を調整する場合を含む。
【0052】
次に、図9(E)のように、周波数を調整した下部圧電薄膜共振子20上と検査用下部圧電薄膜共振子25上にそれぞれ音響結合層30と検査用音響結合層35を形成する。検査用音響結合層35は、音響結合層30と材質が同一であり、膜厚も同一である。音響結合層30と検査用音響結合層35は、同時に形成されていることが好ましい。
【0053】
次に、図9(F)のように、音響結合層30上と検査用音響結合層35上にそれぞれ上部圧電薄膜共振子40と検査用上部圧電薄膜共振子45を形成して、積層型圧電薄膜フィルタ1と検査用積層型圧電薄膜フィルタ5を形成する。積層型圧電薄膜フィルタ1は、下部圧電薄膜共振子20と、音響結合層30と、上部圧電薄膜共振子40と、を備える。また、検査用積層型圧電薄膜フィルタ5は、検査用下部圧電薄膜共振子25と、検査用音響結合層35と、検査用上部圧電薄膜共振子45と、を備える。検査用上部圧電薄膜共振子45は、上部圧電薄膜共振子40と材質が同一であり、膜厚も同一である。上部圧電薄膜共振子40と検査用圧電薄膜共振子45は、同時に形成されていることが好ましい。
【0054】
次に、図10(G)のように、検査用上部圧電薄膜共振子45の周波数を参照して、上部圧電薄膜共振子40と検査用上部圧電薄膜共振子45の周波数を調整する。
【0055】
本実施形態では、検査用積層型圧電薄膜フィルタ5を積層型圧電薄膜フィルタ1と同一基板上に形成している。そのため、積層型圧電薄膜フィルタを同一基板に複数形成する場合において、検査用下部圧電薄膜共振子や検査用上部圧電薄膜共振子の周波数を参照することで、同時に複数の積層型圧電薄膜フィルタを形成することが可能である。
【0056】
(実施形態6)
実施形態6は、実施形態5のように検査用上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する代わりに、検査用積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して、積層型圧電薄膜フィルタと検査用積層型圧電薄膜フィルタの周波数を調整する例である。
【0057】
まず、図8(A)〜図9(F)のようにして、積層型圧電薄膜フィルタ1と検査用積層型圧電薄膜フィルタ5を形成する。
【0058】
そして、図11のように、検査用積層型圧電薄膜フィルタ5の周波数を参照して、積層型圧電薄膜フィルタ1と検査用積層型圧電薄膜フィルタ5の周波数を調整する。
【0059】
なお、検査用下部圧電薄膜共振子または検査用上部圧電薄膜共振子の膜厚を測定して、膜厚を参照して下部圧電薄膜共振子、上部圧電薄膜共振子、または積層型圧電薄膜フィルタの周波数を調整することもできる。その場合には、検査用下部圧電薄膜共振子または検査用上部圧電薄膜共振子の膜厚と、下部圧電薄膜共振子、上部圧電薄膜共振子、または積層型圧電薄膜フィルタの周波数との相関関係をあらかじめ把握しておく。そして、周波数と膜厚の両方を参照して、下部圧電薄膜共振子、上部圧電薄膜共振子、または積層型圧電薄膜フィルタの周波数を調整する。この方法により、周波数の調整の精度を向上させることができる。
【0060】
また、実施形態1〜6では、積層型圧電薄膜フィルタは、圧電層が電極で挟まれる圧電薄膜共振子を2つ備えている。圧電薄膜共振子を3以上備えても良い。この場合、各圧電薄膜共振子の周波数を調整することが可能である。
また、実施形態1〜6は音響反射層10が設けられている例である。図1(B)のように、下部圧電薄膜共振子20の下が空隙になっている場合においても、本発明を適用することができる。
【0061】
図12に、実施形態1〜6の製造方法で製造された積層型圧電薄膜フィルタが用いられる電気回路図の例を示す。
【0062】
図12(A)は、積層型圧電薄膜フィルタがバランスデュプレクサ52に用いられる例である。アンテナ51で受信された不平衡信号は、バランスデュプレクサ52を通って、平衡信号に変換されて受信用アンプ53に至る。その際、バランスデュプレクサ52では不要な信号を除去する。また、バランスデュプレクサ52は、不平衡信号を平衡信号へと変換する平衡−不平衡変換機能を有する。そして受信用アンプ53で増幅された信号は、受信用ミキサ54へ出力される。一方、送信用ミキサ57の信号は、送信用フィルタ56、送信用アンプ55を通ってバランスデュプレクサ52に至る。そして、アンテナ51へと出力される。
【0063】
図12(B)は、積層型圧電薄膜フィルタが受信用バランスフィルタ59に用いられる例である。アンテナ51で受信された信号は、デュプレクサ58を経て受信用バランスフィルタ59に至る。そして、受信用バランスフィルタ59においては、不要な信号を除去しながら、不平衡信号を平衡信号へと変換して受信用アンプ53へ出力する。
【0064】
(実験例)
下記の積層型圧電薄膜フィルタを作製した。
【0065】
まず、厚さ300μmのSiからなる基板を用意した。
【0066】
次に、基板上に、音響反射層を形成した。音響反射層は、7層構造として、SiO2層を4層と、ZnO層を3層、交互に積層した。SiO2層の膜厚は0.82μmとした。ZnO層の膜厚は0.92μmとした。
【0067】
次に、音響反射層上に、下部圧電薄膜共振子を形成した。具体的には、電極として、膜厚0.01μmのTi層と膜厚0.11μmのPt層を形成した。その上に、下部圧電層として、0.75μmのZnO層を形成した。その上に、電極として、膜厚0.01μmのTi層と膜厚0.17μmのPt層を形成した。
【0068】
そして、下部圧電薄膜共振子上に、音響結合層を形成した。具体的には、SiO2層を2層と、ZnO層を1層、交互に積層した。SiO2層の膜厚は0.99μm、ZnO層の膜厚は0.82μmとした。
【0069】
そして、音響結合層上に、上部圧電薄膜共振子を形成した。具体的には、電極として、膜厚0.01μmのTi層と膜厚0.17μmのPt層を形成した。その上に、上部圧電層として、0.75μmのZnO層を形成した。その上に、電極として、膜厚0.01μmのTi層と0.11μmのPt層を形成した。
【0070】
かかる構成の積層型圧電薄膜フィルタにおいて、下部圧電薄膜共振子の形成後に、あらかじめ下部圧電薄膜共振子の共振周波数又は反共振周波数を調整しておく。そして、上部圧電薄膜共振子の形成後に、上部圧電薄膜共振子の周波数、または、積層型圧電薄膜フィルタの中心周波数を調整する。このような調整方法により、積層型圧電薄膜フィルタの中心周波数を精密に調整することが可能になる。
【符号の説明】
【0071】
1 積層型圧電薄膜フィルタ
5 検査用積層型圧電薄膜フィルタ
7 基板
10 音響反射層
15 検査用音響反射層
20 下部圧電薄膜共振子
21 電極
22 下部圧電層
23 電極
25 検査用下部圧電薄膜共振子
30、31 音響結合層
35 検査用音響結合層
37 調整層
40 上部圧電薄膜共振子
41 電極
42 上部圧電層
43 電極
45 検査用上部圧電薄膜共振子
51 アンテナ
52 バランスデュプレクサ
53 受信用アンプ
54 受信用ミキサ
55 送信用アンプ
56 送信用フィルタ
57 送信用ミキサ
58 デュプレクサ
59 受信用バランスフィルタ
101、102、103、104、105、106 電極
107、108 圧電層
111 基板
112 音響反射層
113 音響結合層
121、122、123、124 圧電薄膜共振子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部圧電薄膜共振子と、前記下部圧電薄膜共振子上に形成される音響結合層と、前記音響結合層上に形成される上部圧電薄膜共振子と、を備える積層型圧電薄膜フィルタの製造方法であって、
基板上に、下部圧電薄膜共振子を形成する工程と、
前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程と、
前記周波数を調整した下部圧電薄膜共振子上に音響結合層を形成する工程と、
前記音響結合層上に上部圧電薄膜共振子を形成して積層型圧電薄膜フィルタを形成する工程と、
前記上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程と、
を備える、積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項2】
前記上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記上部圧電薄膜共振子の周波数を測定し、その後に周波数を調整する、請求項1に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項3】
前記上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記上部圧電薄膜共振子の周波数を測定しながら周波数を調整する、請求項1に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項4】
前記上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記上部圧電薄膜共振子の電極の膜厚を増減させて周波数を調整する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項5】
下部圧電薄膜共振子と、前記下部圧電薄膜共振子上に形成される音響結合層と、前記音響結合層上に形成される上部圧電薄膜共振子と、を備える積層型圧電薄膜フィルタの製造方法であって、
基板上に、下部圧電薄膜共振子を形成する工程と、
前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程と、
前記周波数を調整した下部圧電薄膜共振子上に音響結合層を形成する工程と、
前記音響結合層上に上部圧電薄膜共振子を形成して積層型圧電薄膜フィルタを形成する工程と、
前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して周波数を調整する工程と、
を備える、積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項6】
前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を測定し、その後に周波数を調整する、請求項5に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項7】
前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を測定しながら周波数を調整する、請求項5に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項8】
前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記上部圧電薄膜共振子の電極の膜厚を増減させて周波数を調整する、請求項5〜7のいずれか1項に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項9】
前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記下部圧電薄膜共振子の周波数を測定し、その後に周波数を調整する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項10】
前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記下部圧電薄膜共振子の周波数を測定しながら周波数を調整する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項11】
前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記下部圧電薄膜共振子の電極の膜厚を増減させて周波数を調整する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項12】
前記下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して周波数を調整する工程において、前記下部圧電薄膜共振子上に調整層を設けて、前記調整層の膜厚を増減させて周波数を調整する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項13】
前記音響結合層を形成する工程において、前記音響結合層の膜厚を増減させて前記下部圧電薄膜共振子の周波数を調整する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項14】
下部圧電薄膜共振子と、前記下部圧電薄膜共振子上に形成される音響結合層と、前記音響結合層上に形成される上部圧電薄膜共振子と、を備える積層型圧電薄膜フィルタの製造方法であって、
基板上に、下部圧電薄膜共振子と検査用下部圧電薄膜共振子を形成する工程と、
前記検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して、前記下部圧電薄膜共振子と前記検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を調整する工程と、
前記周波数を調整した下部圧電薄膜共振子上と検査用下部圧電薄膜共振子上にそれぞれ音響結合層と検査用音響結合層を形成する工程と、
前記音響結合層上と前記検査用音響結合層上にそれぞれ上部圧電薄膜共振子と検査用上部圧電薄膜共振子を形成して、積層型圧電薄膜フィルタと検査用積層型圧電薄膜フィルタを形成する工程と、
前記検査用上部圧電薄膜共振子の周波数を参照して、前記上部圧電薄膜共振子と前記検査用上部圧電薄膜共振子の周波数を調整する工程と、
を備える、積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項15】
下部圧電薄膜共振子と、前記下部圧電薄膜共振子上に形成される音響結合層と、前記音響結合層上に形成される上部圧電薄膜共振子と、を備える積層型圧電薄膜フィルタの製造方法であって、
基板上に、下部圧電薄膜共振子と検査用下部圧電薄膜共振子を形成する工程と、
前記検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を参照して、前記下部圧電薄膜共振子と前記検査用下部圧電薄膜共振子の周波数を調整する工程と、
前記周波数を調整した下部圧電薄膜共振子上と検査用下部圧電薄膜共振子上にそれぞれ音響結合層と検査用音響結合層を形成する工程と、
前記音響結合層上と前記検査用音響結合層上にそれぞれ上部圧電薄膜共振子と検査用上部圧電薄膜共振子を形成して、積層型圧電薄膜フィルタと検査用積層型圧電薄膜フィルタを形成する工程と、
前記検査用積層型圧電薄膜フィルタの周波数を参照して、前記積層型圧電薄膜フィルタと前記検査用積層型圧電薄膜フィルタの周波数を調整する工程と、
を備える、積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。
【請求項16】
前記検査用下部圧電薄膜共振子または前記検査用上部圧電薄膜共振子の膜厚を測定して、前記膜厚を参照して前記下部圧電薄膜共振子、前記上部圧電薄膜共振子、または前記積層型圧電薄膜フィルタの周波数を調整する、請求項14または15に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。調整する、請求項14または15に記載の積層型圧電薄膜フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−142613(P2011−142613A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236297(P2010−236297)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】