説明

積層型無端ベルト、ベルト搬送装置、画像形成装置および積層型無端ベルトの製造方法

【課題】表層側から内側に凸となるように屈曲させた場合でも、表層と内層(中間層)の界面などで剥離や皺が発生しない積層型無端ベルト、ベルト搬送装置、画像形成装置および積層型無端ベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】転写ベルト12は表層31と中間層32と基層33を有した積層型無端ベルトであり、中間層32が表層31より低硬度で、表層31が引張応力の掛かった状態で成形されている。基層33は厚みが100μm、ヤング率が5×102〜5×103MPaのPVDFフィルムなどを用いた。中間層32は厚みが200μm、ヤング率が0.1〜1×102MPaのエラストマー(弾性体)であり、ポリウレタンゴム、CRゴム、EPDMゴムなどを用いた。表層31は厚みが5μm、ヤング率が1×102〜5×103MPaのフッ素樹脂系またはフッ素ゴム系または離型性の高い樹脂材料などを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写ベルトなどに用いられる積層型無端ベルト、その積層型無端ベルトを備えたベルト搬送装置、画像形成装置、および積層型無端ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真プロセスを利用した画像形成装置では、近年、省スペース化を目的に中間転写ベルトを表層側から屈曲させてコンパクトに設計したものが提案されている(例えば特許文献1参照)。また、中間転写ベルトとしては、一般的に色ズレが少ないという観点から樹脂単層ベルトを用いられるが、近年、高画質化のために中間転写ベルトの一部に弾性層(中間層)を用いた積層型転写ベルトも見られるようになった(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−343773号公報
【特許文献2】特開2004−334029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、積層型転写ベルトは表側や裏側へ向かって屈曲させられる際に、中立面(伸縮しない面)は色ズレを考慮して、駆動ローラの接触する基層内またはその近傍に位置するように設定されるので、表層の伸縮が最も大きい。このため、特に表層側から応力を掛けて内側へ屈曲させる場合は表層が圧縮され、表層と内層(弾性層)の界面などで剥離や皺が発生しやすい。
【0005】
それゆえに、本発明の主たる目的は、表層側から内側に凸となるように屈曲させた場合でも、表層と内層(中間層)の界面などで剥離や皺が発生しない積層型無端ベルト、ベルト搬送装置、画像形成装置および積層型無端ベルトの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、少なくとも表層と内層を有し、内層が表層より低硬度で、表層が引張応力の掛かった状態で成形されていることを特徴とする、積層型無端ベルトである。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、表層と中間層と基層からなり、中間層が表層より低硬度で、表層が引張応力の掛かった状態で成形されていることを特徴とする、積層型無端ベルトである。
【0008】
請求項1あるいは請求項2の発明では、表層が引張応力の掛かった状態で成形されているため、表層側から内側に凸となるように屈曲させた場合でも、表層の張力が緩和されるだけであるため、表層と内層(中間層)の界面などで剥離や皺が発生しない。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、複数のローラと、前記複数のローラに掛け回され、循環搬送される請求項1または請求項2のいずれかに記載の積層型無端ベルトとを備えていることを特徴とする、ベルト搬送装置である。
【0010】
請求項3の発明では、表層と内層(中間層)の界面などで剥離や皺が発生しない積層型無端ベルトを備えているため、ベルト搬送装置の寿命が長くなる。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明に従属する発明であって、テンションローラによって積層型無端ベルトの表層側から屈曲させられ、積層型無端ベルトの一部が内側に凸となるように表層側から応力が掛けられていることを特徴とする、ベルト搬送装置である。
【0012】
請求項4の発明では、積層型無端ベルトの一部が内側に凸となっているため、省スペースでかつ長寿命のベルト搬送装置が得られる。
【0013】
さらに、請求項5に係る発明は、請求項3または請求項4のいずれかに記載のベルト搬送装置を備えたことを特徴とする、画像形成装置である。
【0014】
請求項5の発明では、長寿命で高画質の画像形成装置が得られる。
【0015】
さらに、請求項6に係る発明は、請求項1または請求項2のいずれかに記載の積層型無端ベルトの製造方法であって、積層型無端ベルトの表層を引張応力の掛かった状態で成形することを特徴とする、積層型無端ベルトの製造方法である。
【0016】
請求項6の発明では、表層を引張応力の掛かった状態で成形するので、製造された積層型無端ベルトの表層側からの応力によってベルト表面が屈曲しても、表層の張力が緩和されるだけで、表層に圧縮応力が働かないので界面での剥離や皺を防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、積層型無端ベルトの表層が引張応力の掛かった状態で成形されているので、表面側から押し込み応力を加えても収縮応力による界面剥離や皺の発生を回避できる。
【0018】
本発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための最良の形態の説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1の実施形態)
図1は本発明に係る中間転写タンデム方式のカラー画像形成装置1を示す概略構成図である。無端状の転写ベルト12は従動ローラ13,15、駆動ローラ16およびテンションローラ17によって回転可能に支持されている。転写ベルト12、従動ローラ13,15、駆動ローラ16およびテンションローラ17はベルト搬送装置を構成している。
【0020】
転写ベルト12の上方には、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラック各色の感光体ドラム18が順に配設されている。感光体ドラム18は駆動手段によって図示矢印の時計方向に所定速度で駆動される。感光体ドラム18のそれぞれの外周近傍には、現像装置20、感光体ドラム18に残ったトナーを除去するための摺擦部材21が設けられている。レーザースキャニングユニット24から放射されたレーザ光Lは、感光体ドラム18上に照射され、静電潜像が形成される。
【0021】
レーザースキャニングユニット24の下流側には、現像装置20が配置されている。現像装置20は、それぞれマゼンタ、シアン、イエロー、ブラック各色のトナーを感光体ドラム18に付与するためのものである。
【0022】
感光体ドラム18のそれぞれの静電潜像は現像器20によって現像され、マゼンタトナー像、シアントナー像、イエロートナー像、ブラックトナー像として顕像化される。顕像化された各感光体ドラム18上のトナー像は転写ベルト12上に転写される。
【0023】
一方、ピックアップローラ3はブラックトナー像と同期して転写紙カセット2から被記録材としての転写紙Pを給紙する。転写紙Pには転写ベルト12上に重畳形成された、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックの合成カラートナー像が転写され、定着装置8に搬入される。合成カラートナー画像を転写された転写材Pは、定着装置8で定着され、カラー印刷物として機外に排出されて排紙トレイ(図示せず)上に積載される。
【0024】
次に、転写ベルト12について詳説する。転写ベルト12は、定着装置8のスペースを確保しつつ小型化を図るために、テンションローラ17によって表層側(像担持面側)から内側へ屈曲させられ、転写ベルト12の一部が内側に凸となるように表層側から応力が掛けられている。
【0025】
図2に示すように、転写ベルト12は表層31と中間層32と基層33を有した積層型無端ベルトであり、中間層32が表層31より低硬度で、表層31が引張応力の掛かった状態で成形されている。基層33は厚みが100μm、ヤング率が5×102〜5×103MPaのPVDFフィルムなどを用いた。中間層32は厚みが200μm、ヤング率が0.1〜1×102MPaのエラストマー(弾性体)であり、ポリウレタンゴム、CRゴム、EPDMゴムなどを用いた。表層31は厚みが5μm、ヤング率が1×102〜5×103MPaのフッ素樹脂系またはフッ素ゴム系または離型性の高い樹脂材料などを用いた。転写ベルト12の中立面は、表層31と中間層32との界面より内側にある。
【0026】
転写ベルト12は例えば以下の方法により製造される。すなわち、環状にした基層(PVDFフィルム)33の外周面に、中間層32の材料である液状のエラストマーを薄く塗布した後、加熱して加硫成型する。さらに、中間層32の上に表層31の材料である樹脂材を薄く塗布し、焼成又はUV硬化処理にて製膜する。次に、内周側から押し広げて内周長を例えば2〜3%伸ばした状態で、内周面から加熱し、基層33を一旦溶融した後、冷却固化させる。
【0027】
このようにして成形した転写ベルト12は、表層31に引張応力が働いた状態で成形されているため、テンションローラ17によって表層31側から内側へ屈曲させても、表層31の引張り応力が緩和されるだけであるため、表層31と中間層32との界面には剥離や皺が発生せず、長期にわたって機械的劣化を防止できる。特に表層31に樹脂材ベルトを用いた場合には、転写ベルト12の中立面は基層33内部か中間層32内部にある。この場合、表層31の膨張や圧縮が大きくなるが、表層31に引張応力が掛かっているため圧縮状態になりにくい。このため、表層31と中間層32との界面での剥離や皺を回避できる。
【0028】
一方、比較のために、基層33にポリイミドを用いた他は材料、厚み、基層33以外のヤング率は同じ構成にした転写ベルトを作成した。但し、基層33がポリイミドであるため、内周長を伸ばす後処理は行わないで(表層31における引張応力が働いていない状態で)成形したものである。この転写ベルトを用いて表層31側から内側に凸となるように屈曲させて耐久性を確認したところ、表層31と中間層32との界面に皺が発生し、画像欠陥となった。
【0029】
(第2の実施形態)
図3は1ドラム中間転写方式のカラー画像形成装置1Aを示す概略構成図である。なお、図3において、図1と同一の部分については同じ符号を付している。感光体ドラム18は駆動手段によって図示矢印の反時計方向に所定速度で駆動される。感光体ドラム18の外周近傍には、帯電器19、現像装置20、転写ベルト12、摺擦部材21、クリーニング部材22が設けられている。感光体ドラム18は帯電器19にて表面が帯電される。感光体ドラム18の回転方向における帯電器19の下流側には、レーザースキャニングユニット24が配置されている。レーザースキャニングユニット24から放射されたレーザ光Lは、感光体ドラム18上に照射され、静電潜像が形成される。
【0030】
レーザースキャニングユニット24の下流側には、ロータリー現像装置20が配置されている。現像装置20は、回転支持体に支持された現像器25M,25C,25Y,25BKを備えている。現像器25M,25C,25Y,25BKは、それぞれマゼンタ、シアン、イエロー、ブラック各色のトナーを感光体ドラム18に付与するためのものである。
【0031】
現像装置20の下流側には、転写ベルト12が配置されている。無端状の転写ベルト12は従動ローラ13,15、駆動ローラ16およびテンションローラ17によって回転可能に支持されている。転写ベルト12、従動ローラ13,15、駆動ローラ16およびテンションローラ17はベルト搬送装置を構成している。さらに、転写ベルト12の下流側には、感光体ドラム18に残ったトナーを除去するための摺擦部材21およびクリーニング部材22が配置されている。
【0032】
該静電潜像はまずマゼンタの現像器25Mが感光体ドラム18と対向するように配備され、現像されマゼンタトナー像として顕像化される。顕像化された感光体ドラム18上のマゼンタトナー像は転写ベルト12上に転写される。転写ベルト12上に1ページ分のマゼンタ画像を転写すると現像装置20が回転し、以上の工程をシアン、イエロー、ブラック各色について逐次行い、転写ベルト12上に複数色のトナー像を形成する。
【0033】
一方、ピックアップローラ3はブラックトナー像と同期して転写紙カセット2から被記録材としての転写紙Pを給紙する。転写紙Pには転写ベルト12上に重畳形成された、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックの合成カラートナー像が転写され、定着装置8に搬入される。合成カラートナー画像を転写された転写材Pは、定着装置8で定着され、カラー印刷物として機外に排出されて排紙トレイ4上に積載される。
【0034】
次に、転写ベルト12について詳説する。転写ベルト12は、定着装置8のスペースを確保しつつ小型化を図るために、テンションローラ17によって表層側(像担持面側)から内側へ屈曲させられ、転写ベルト12の一部が内側に凸となるように表層側から応力が掛けられている。
【0035】
図3に示すように、転写ベルト12は表層41と内層42を有した積層型無端ベルトであり、内層42が表層41より低硬度で、表層41が引張応力の掛かった状態で成形されている。内層42は厚みが500μm、ヤング率が1×102MPaのエラストマー(弾性体)であり、ポリウレタンゴム、CRゴム、EPDMゴムなどを用いた。表層41は厚みが10μm、ヤング率が5×102MPaのフッ素樹脂系シートを用いた。転写ベルト12の中立面は、表層41と内層42との界面より内側にある。
【0036】
転写ベルト12は例えば以下の方法により製造される。すなわち、環状にした表層(フッ素樹脂系シート)41の内周面に、内層42の材料である液状のエラストマーを薄く塗布した後、内周側から押し広げて内周長を例えば2〜3%伸ばした状態で、加熱して加硫成型する。このようにして成形した転写ベルト12は、表層41に引張応力が働いた状態で成形されているため、テンションローラ17によって表層41側から内側へ屈曲させても表層41と内層42との界面には剥離や皺が発生せず、長期にわたって機械的劣化を防止できる。
【0037】
一方、比較のために、内層42のエラストマーを成型した後、表層41をディッピング法にて形成した転写ベルトを作成した。すなわち、表層41を引張応力が働いていない状態で成形したものである。この転写ベルトを用いて表層41側から内側に凸となるように屈曲させて耐久性を確認したところ、表層41にクラックが発生し、表層41と内層42との界面に剥離が発生した。
【0038】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】積層型無端ベルトの一例を示す一部概略構成図である。
【図3】本発明に係る画像形成装置の別の例を示す概略構成図である。
【図4】積層型無端ベルトの別の例を示す一部概略構成図である。
【符号の説明】
【0040】
1,1A 画像形成装置
12 転写ベルト
13,15,16 ローラ
17 テンションローラ
31 表層
32 中間層
33 基層
41 表層
42 内層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層と内層を有し、前記内層が前記表層より低硬度で、前記表層が引張応力の掛かった状態で成形されていることを特徴とする、積層型無端ベルト。
【請求項2】
表層と中間層と基層からなり、前記中間層が前記表層より低硬度で、前記表層が引張応力の掛かった状態で成形されていることを特徴とする、積層型無端ベルト。
【請求項3】
複数のローラと、前記複数のローラに掛け回され、循環搬送される請求項1または請求項2のいずれかに記載の積層型無端ベルトとを備えていることを特徴とする、ベルト搬送装置。
【請求項4】
テンションローラによって前記積層型無端ベルトの表層側から屈曲させられ、前記積層型無端ベルトの一部が内側に凸となるように表層側から応力が掛けられていることを特徴とする、請求項3に記載のベルト搬送装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4のいずれかに記載のベルト搬送装置を備えたことを特徴とする、画像形成装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の積層型無端ベルトの製造方法であって、
前記積層型無端ベルトの表層を引張応力の掛かった状態で成形することを特徴とする、積層型無端ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−69455(P2009−69455A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237531(P2007−237531)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】