説明

積層型高密度培養人工組織の製造方法及び積層型高密度培養人工組織

【課題】2種以上の組織を積層した人工組織を製造する方法を提供する。
【解決手段】1種類または複数の動物細胞、コラーゲン結合型細胞成長因子及び細胞外マトリックス成分を含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材とを、メッシュ部材が液流に対して前記液流制御部材の裏面に位置するように接触または近接させて配設し、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させ高密度培養組織を形成する工程を含む人工組織の製造方法、及びその方法により得られる人工組織。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度培養人工組織の製造方法及び高密度培養人工組織に関する。さらに詳しくは、人工皮膚、人工臓器等の再生医療用または各種実験用の2種以上の組織で構成される生体により近い人工組織を短時間で再構成する高密度培養人工組織の製造方法及びこの方法により得られる積層型高密度培養人工組織に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な細胞が生体外で培養できるようになってきているが、これらの細胞を有機的に立体配置する技術は肝臓などの比較的均一な構成の組織に限られている。従来、三次元培養法として提唱されている技術は、接着基質(足場材料)を予め作成し、これに細胞を播種して培養液中で培養するか(例えば、特開平06−277050号公報(特許文献1)、特開平10−52261号公報(特許文献2)、特開2001−120255号公報(特許文献3)、特開2003−265169号公報(特許文献4)、WO2004/078954号パンフレット(特許文献5)、特開2004−65087号公報(特許文献6)等)、ディッシュ(ペトリ皿)上で接着基質と細胞とを混合して培養する方法しかなかった。
【0003】
しかし、前者の場合は細胞を接着基質内に遊走させる必要があり長期間培養を続けなければならない。後者の場合には接着基質は非常に希薄な組織であり、播種した細胞が基質を収縮させて高密度になるまで長期間培養を続けなければならない。いずれの方法を採用するにしても2週間程度の培養期間が必要であり、その間に細胞から接着基質を分解する酵素が分泌されるため、一度形成された高密度組織が分解されてしまう場合があった。このように、三次元的に高密度化された培養組織は、移植医療、生命科学の実験や新薬の治験等での有用性が期待されているが、作成期間が長く利用期間が短いという理由から充分に普及していないのが現状である。
【0004】
そこで本発明者らは、先に、細胞外マトリックス成分と動物細胞を含む細胞培養液を循環培養する経路内にメッシュ部材と液流制御部材とを、液流制御部材が液流に対して前記メッシュ部材の裏面に配設し、前記メッシュ部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させる高密度培養組織の製造方法を提案した(特許文献7)。この方法によれば、高密度培養組織を製造した後に得られた高密度培養組織を取り出し、または引き続いて、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む同一または異なる細胞培養液を用いて前記組織上に異なる高密度培養組織を形成する操作を少なくとも1回行って2種以上の組織を積層した積層型高密度培養組織を形成することができる。しかしながら、2種以上の組織を積層した人工組織を形成する具体的な方法は明らかではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−277050号公報
【特許文献2】特開平10−52261号公報
【特許文献3】特開2001−120255号公報
【特許文献4】特開2003−265169号公報
【特許文献5】WO2004/078954号パンフレット
【特許文献6】特開2004−65087号公報
【特許文献7】WO2006/088029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、2種以上の組織を積層した人工組織を短時間で再構成する高密度培養人工組織の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
血管や消化管などの管状臓器は、結合組織、平滑筋、結合組織、内皮細胞あるいは上皮細胞などが同心円状に積層した層構造をしている。
同じ結合組織でも、外側のそれと内側のそれとでは、
(1)細胞外マトリックスの構成成分が異なっており、
(2)同じ線維芽細胞であっても、存在する場所によって分泌する細胞成長因子や細胞外マトリックスの組成が異なっている。
これらの違いは、細胞外マトリックスの分子種やその量、あるいは細胞成長因子の種類と量が異なることによって引き起こされている。
本発明者らは、これらの違いを有する組織を人工的に再構築するには、
(1)埋め込む細胞を変えること、
(2)細胞外マトリックスの組成を変えること、
(3)細胞成長因子が拡散して均一化してしまわないようにするためには、細胞成長因子をコラーゲン結合型(CBD結合型)にすることが必要であることを確認して本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の人工組織の製造方法及びその方法により得られる人工組織に関する。
1.1種類または複数の動物細胞をコラーゲン結合型細胞成長因子及び細胞外マトリックス成分を含む細胞培養液中で培養することを特徴とする人工組織の製造方法。
2.前記1種類または複数の動物細胞を埋め込んだ細胞外マトリックスを積層させるに当たり、1種類または複数の動物細胞と細胞外マトリックス成分とを含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材(ポリ乳酸シートなど)とメッシュ部材とを、メッシュ部材が液流に対して前記液流制御部材の裏面に位置するように接触または近接させて配設し、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させ高密度培養組織を製造する工程の後、引き続いて、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む異なる細胞培養液を用いて前記組織上に異なる高密度培養組織を形成する操作を少なくとも1回行う工程を実施して積層型高密度培養組織を形成する積層型高密度培養人工組織の製造方法において、初回及びその後の高密度培養組織製造工程のうち少なくとも1回の高密度培養組織製造工程における循環培養液中にコラーゲン結合型細胞成長因子を含有させる前記1記載の人工組織の製造方法。
3.コラーゲン結合型細胞成長因子の細胞成長因子が、上皮成長因子(EGF)、線繊芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、肝細胞成長因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経栄養因子(NGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)及びインシュリン様成長因子(IGF)からなる群から選ばれる1または2以上である前記1または2に記載の人工組織の製造方法。
4.コラーゲン結合型細胞成長因子としてコラーゲン結合型上皮成長因子(EGF−CBD)を表皮細胞と共に用いて人工皮膚を再構築する前記1〜3のいずれかに記載の人工組織の製造方法。
5.1種類または複数の動物細胞と細胞外マトリックス成分を含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材とを、メッシュ部材が液流に対して前記液流制御部材の裏面に位置するように接触または近接させて配設し、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させ高密度培養組織を製造する閉鎖循環式高密度組織培養工程によって高密度真皮様組織を作成し、次いでコラーゲン結合型上皮成長因子(EGF−CBD)を表皮細胞と共に用いて人工皮膚を再構築する前記4に記載の人工組織の製造方法。
6.人工血管を再構築する前記1〜3のいずれかに記載の人工組織の製造方法。
7.細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材とを、メッシュ部材が液流に対して前記液流制御部材の裏面に位置するように接触または近接させて配設し、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させ高密度培養組織を製造する工程の後、引き続いて、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む異なる細胞培養液を用いて前記組織上に異なる高密度培養組織を形成する操作を少なくとも1回行う工程を実施して積層型高密度培養人工組織を形成する方法であって、順に
(1)肝臓の被膜に相当する結合組織を作成し、これに
(2)肝細胞に見立てた腫瘍性肝細胞層を重ね、次いで
(3)肝臓内にある結合組織に見立てた層を作成し人工肝臓を再構築することを特徴とする人工組織の製造方法。
8.液流制御部材が生分解性シートである前記2、5または7記載の人工組織の製造方法。
9.前記1〜8のいずれかに記載の方法により製造される人工組織。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、2種以上の組織から構成される生体により近い人工組織を短時間で再構築することができる。
本発明で得られる人工組織は、移植医療や新薬開発、薬効判定試験、感染実験などの分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るリアクターの1例を示した解説図。
【図2】本発明により実現可能な高強度・複合人工組織の模式図。
【図3】本発明に係る人工皮膚の空気暴露培養法の解説図。
【図4】本発明に係る融合タンパク質を用いないで得られた人工皮膚模式図。
【図5】本発明により作成した人工皮膚の光学顕微鏡像。
【図6】本発明により作成した人工皮膚模式図。
【図7】生体の肝組織光学顕微鏡像とその模式図。
【図8】本発明により作成した人工肝組織模式図。
【図9】本発明に係る還流液中のI型コラーゲン濃度の経時変化を示したグラフ。
【図10】本発明に係る表皮細胞の播種法を示す解説図。
【図11】本発明により作成した人工皮膚の電子顕微鏡像。
【図12】本発明により作成した人工肝臓の光学顕微鏡像。
【図13】本発明に係る培養液中のアルブミン濃度の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、コラーゲン結合型細胞成長因子、1種類または複数の動物細胞、及び細胞外マトリックス成分を含む細胞培養液中で培養することを特徴とする人工組織の製造方法に関する。すなわち、本発明は、組織再生の基本3要素である細胞、細胞外基質、細胞成長因子の選択と使用方法を明確にして完成したものである。
【0012】
生体の組織は、多様な細胞が、コラーゲン細線維などの細胞外マトリックスが高密度に充填された環境において様々な機能を発現している。その機能発現は、細胞外マトリックスの構成成分の違いと、様々な細胞が局所で産生する種々の細胞成長因子を介した相互作用により制御されている。しかしながら、培養細胞はこれら組織内における相互作用のネットワークが機能しない環境(プラスチック培養皿上)にある。これまでに、細胞外マトリックス環境の再構成はできているが(特許文献7:WO2006/088029号公報)、組織内における細胞成長因子群による細胞間相互作用までは再現できていなかった。
【0013】
生体組織においては、同じ組織であっても細胞成長因子群による細胞間相互作用ネットワークは異なっている。多くの細胞成長因子は可溶性タンパク質であり、人工組織にそのまま投与しても、拡散して成長因子の生理作用は失われてしまう。組織内では、細胞が必要時に産生し、細胞外空間に分泌するか、細胞外の構造体に結合して存在している。後者の例として、活性のない状態の細胞成長因子として、 Latent TGF−βは、生体組織において、細胞外にあるフィブリリン細線維に結合し、線繊芽細胞成長因子(FGF)は、細胞外構造体である基底膜に結合している。本発明の方法は、上記のような生体構造を、コラーゲン結合ドメイン(CBD)と様々な細胞成長因子の融合タンパク質を用いることにより、細胞外マトリックス環境だけでなく、細胞成長因子群による細胞間相互作用をも同時に再構成するものである。
【0014】
例えば、ダクロン繊維製の人工血管を大動脈に移植すると、線維芽細胞、平滑筋細胞、血管内皮細胞などが移植材料上に移動し、増殖することにより外膜、中膜、内膜と三層からなる血管壁を再構成(再構築)する。しかしながら、このような人工血管では、細胞が移植血管表面を覆い、組織を再構成するまでには長い時間が必要である。そのため不完全な血管表面に血栓ができること、長い人工血管の移植ができないことなどの問題がある。本発明の人工組織は、患者本人の細胞から作成することにより免疫拒絶反応を回避することができるため移植材料として好適に用いることができる。本発明の方法により、予め患者組織の基本構造を再構成しておくことによって移植組織の生着率が格段に向上することが期待できる。
【0015】
本発明によれば、がん組織も再構成することができる。これにより、患者自身のがん細胞から再構成したがん組織に対して、抗がん剤の感受性をより正確に検索することができる。
新薬開発や感染実験は、プラスチック製培養皿上に播種した細胞を用いて行われているが、培養細胞と生体内における細胞では、同じ細胞種であっても機能発現が異なっている。本発明により簡便にかつ短時間で三次元培養組織を供給できるので新薬開発や感染実験への利用が期待できる。
【0016】
多くの感染実験は、ラットやマウスなどの実験動物を用いて行われている。これらの動物では、その内在する免疫機構が働き、感染したバクテリアやウイルスなどの微生物を排除する。この生体反応は、白血球や侵入した異物の抗原を提示する樹状細胞などが担っている。多くの場合、感染を受けた細胞は免疫機構によって組織から排除されてしまうが、人工組織では、これらの細胞群が存在しないため、微生物の感染した細胞の反応が、より詳しく解析できることが期待される。さらに、樹状細胞や白血球の一部またはすべてを組織再構成時に組み込むことによって、免疫反応を解析することも可能である。
【0017】
[コラーゲン結合型細胞成長因子]
先の出願(特許文献7:WO2006/088029号公報)により、細胞を分子状コラーゲン溶液に分散して還流し、コラーゲンの重合を制御しつつ積層することにより皮膚真皮または肝臓被膜に相当する均一な人工組織を得ることができる。本発明は、その人工組織の内、特定の層(例、上層、中層、下層)に細胞成長因子を固相化して固有の機能を持たせ、前記層のコラーゲンと密に接触する細胞の分化・増殖を特定の方向に誘導したものである。また特定の層に、例えば炎症抑制などの特定の機能を付与することを可能とするものである。これは細胞成長因子と不溶性コラーゲンへの結合性を示すタンパク質またはその一部であるコラーゲン結合ドメインとが融合したタンパク質を用いることによって、細胞成長因子を重合した不溶性コラーゲンへ固相化することにより実現される。すなわち、細胞成長因子をコラーゲンないしコラーゲン細線維に特異的に接着するタンパクの一部、すなわち、コラーゲン・バインディング・ドメイン(CBD)と融合することによって、組織の機能が再現できるようになった。
以下に、このような目的で使用可能なコラーゲン結合型細胞成長因子の一例であるコラーゲン結合型上皮成長因子(EGF−CBD)の調製法について説明する。
【0018】
[コラーゲン結合型上皮成長因子(EGF−CBD)の調製法]
本融合タンパクの調製は次の3つの工程より行われる。
(1)細菌性コラゲナーゼのコラーゲン結合ドメイン(CBD)をコードする遺伝子断片を挿入した発現ベクターの構築工程、
(2)上皮成長因子(EGF)をコードする遺伝子断片の(1)の発現ベクターへの挿入によるEGF−CBDをコードする発現プラスミドの構築工程、
(3)(2)の発現プラスミドの宿主細胞への形質転換、融合タンパク質の生産と精製工程。
【0019】
以下、これらの工程について詳述する。
(1)細菌性コラゲナーゼのコラーゲン結合ドメイン(CBD)をコードする遺伝子断片を挿入した発現ベクターの構築工程
公知の細菌性コラゲナーゼの構造遺伝子を鋳型とし、PCR法などによってコラーゲン結合ドメインをコードするDNA断片を得た後、常法に従って任意の発現ベクター(例えば、グルタチオンS転移酵素(GST)との融合タンパク質として目的のタンパク質を生産するpGEX−4Tベクター)に挿入する方法によって得ることができる。
【0020】
コラゲナーゼの構造遺伝子の例としては、Clostridium histolyticum colH (GenBankアクセス番号D29981)のDNA(配列番号1)が挙げられる。このDNAがコードするコラゲナーゼのアミノ酸配列は、配列番号2に記載されている。この内、コラーゲン結合ドメインをコードするDNAは、配列番号1中塩基番号3010〜3366の塩基配列からなるDNA(配列番号3)が該当する。ただし、常套的に許される程度の変異や欠失を有していてもよく、また、この領域を含んでいれば、他の領域を常套的に許される程度含んでいてもよい。
【0021】
(2)上皮成長因子(EGF)をコードする遺伝子断片の(1)の発現ベクターへの挿入によるEGF−CBDをコードする発現プラスミドの構築工程
EGFを発現している細胞から常法に従って得られる全RNAから調製したcDNAライブラリーを鋳型とし、PCR法などによって上皮成長因子をコードするDNA断片を得た後、常法に従って(1)の発現ベクターへ挿入する方法によって得ることができる。この細胞は、ほ乳類由来の細胞であることが好ましく、特にヒト由来であることが最も好ましい。
【0022】
上皮成長因子の構造遺伝子として、Rattus norvegicus のpreproEGF(GenBankアクセス番号U04842)のcDNA(配列番号4)が挙げられる。このDNAがコードするpreproEGFのアミノ酸配列は、配列番号5に記載されている。
【0023】
(3)(2)の発現プラスミドの宿主細胞への導入、融合タンパク質の生産と精製工程
使用した発現ベクターに対応する宿主細胞であれば、何れの宿主細胞であっても使用可能である。例えば、原核細胞用ベクターであれば原核細胞、昆虫用ベクターであれば昆虫細胞が挙げられる。また導入は常法にしたがって行うことができ、例えば、エレクトロポレーション法やカルシウム法が挙げられる。
【0024】
細胞の培養と融合タンパク質の生産は、形質転換細胞と発現ベクターに適合した方法で実施する。培養物からのEGF−CBDの単離、精製は、発現ベクターとして、例えばEGF−CBDをグルタチオンS転移酵素(GST)あるいはHisタグとの融合タンパク質と発現するベクターを用いた場合は、それらに適した公知のアフィニティー精製法を用いて容易に単離、精製することが可能である。なお、これらの融合タンパク質からEGF−CBDのみを切り出すこと、さらにタグを除去することも、公知の方法により可能である。
【0025】
なお、EGF−CBDは物質としては文献公知である(Nishi N, Matsushita O, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 95:7018-7023. 1998)が、文献では、動物実験でEGF−CBDが期待された効果を示さなかった旨記載されている。
【0026】
上記と同様にして、他のコラーゲン結合型細胞成長因子を融合タンパク質として調製することができる。
【0027】
コラーゲン結合型細胞成長因子は、特に限定はされないが、例えば、コラーゲン結合型上皮成長因子(EGF−CBD)、コラーゲン結合型線維芽細胞成長因子(FGF−CBD)、コラーゲン結合型血小板由来成長因子(PDGF−CBD)、コラーゲン結合型肝細胞成長因子(HGF−CBD)、コラーゲン結合型トランスフォーミング成長因子(TGF−CBD)、コラーゲン結合型神経栄養因子(NGF−CBD)、コラーゲン結合型血管内皮細胞成長因子(VEGF−CBD)及びコラーゲン結合型インシュリン様成長因子(IGF−CBD)等を挙げることができる。
【0028】
[閉鎖循環式高密度組織作成装置(リアクター)]
本発明では、1種類または複数の動物細胞を埋め込んだ細胞外マトリックスを積層させるに当たり、1種類または複数の動物細胞と細胞外マトリックス成分とを含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材とを、メッシュ部材が液流に対して前記液流制御部材の裏面に位置するように接触または近接させて配設し、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させ高密度培養組織を製造する工程の後、引き続いて、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む異なる細胞培養液を用いて前記組織上に異なる高密度培養組織を形成する操作を少なくとも1回行う工程を実施して積層型高密度培養組織を形成する積層型高密度培養人工組織の製造方法において、初回及びその後の高密度培養組織製造工程のうち少なくとも1回の高密度培養組織製造工程における循環培養液中に、コラーゲン結合型細胞成長因子を含有させることにより人工組織を製造することができる。
【0029】
前記1種類または複数の動物細胞種と前記細胞外マトリックス成分の組み合わせを変えることによって、人工組織を再構成することができる。例えば、ポリ乳酸などからできた生分解性シートを、前記細胞培養液を循環培養する積層型高密度培養組織製造装置(「閉鎖循環式高密度組織培養装置」または、単に「リアクター」と言うことがある。)内部に装着し(図1)、そのシート上にコラーゲンタンパク質と線維芽細胞からなる懸濁培養液をリアクターにて循環し、還流中に形成されたコラーゲン細線維と線維芽細胞をリアクター内に装着した生分解性シート上に沈着させて人工結合組織を作成する。次いで、第二の細胞と第二の細胞外マトリックス成分を含んだ懸濁培養液を循環することにより、前記結合組織上に第二の組織を積層させて、組織を再構築することができる。同様にして、所望の数の組織を積層させて人工組織として再構築することができる。
【0030】
本発明では、ポリ乳酸シート(PLAシート)などからできた生分解性シートを液流制御部材として用いることにより、局所還流制御と、その透過性により表面にコラーゲン細線維を再構築することが可能である。これにより、リアクターの構成を簡素化し、同時に局所還流制御材料としてろ紙を用いた場合の目詰まりによる同装置の還流障害を回避できる。その結果、還流培養液の細胞外マトリックス組成、懸濁する細胞種、および細胞成長因子とコラーゲン結合ドメインより構成される融合たんぱく質の三者を、目的とする組織に応じて様々に組み合わせることにより、数層の複合組織を作成することができる。さらに、上皮細胞や平滑筋細胞などの機能性細胞の層間に結合組織を挟むことにより、人工組織の栄養血管進入路を提供することができる。
【0031】
[人工組織]
組織は、一般的に
(1)異なった機能を持った組織が層状に配列し、
(2)各組織はコラーゲン細線維をはじめとする高密度の細胞外物質(細胞外マトリックス)中に複数の細胞が配置している。
この基本構造は、様々な細胞を埋め込んだ密度の高い細胞外物質を重ね合わせることにより再現できる。これを可能にする技術が「閉鎖循環式高密度組織培養装置」(リアクター)を用いる本発明の方法である。再構築する組織が目的とする特異的機能を示すためには、機能を持った細胞とその機能発現を促す細胞成長因子が必要である。多くの細胞成長因子は組織内で産生され機能を発現している。そのため特定の機能タンパク質をコードする遺伝子を遺伝子工学的な手法によって細胞に組み込む方法などが試みられてきた。しかしながら導入された遺伝子から産生されるたんぱく量の制御が困難で、腫瘍化する可能性などからその適応は限られている。
【0032】
[人工組織の作成]
人工組織の作成方法を、消化管や血管をモデルに図2を参照しつつ説明する。
(1)コラーゲン、1種類または複数の動物細胞およびコラーゲン結合型細胞成長因子を含む培養液を循環培養して第1の組織(結合組織)を再構成する。
すなわち、適当な濃度の各型コラーゲン、ヒト線維芽細胞あるいは多能性幹細胞および適当な濃度の線維芽細胞成長因子(FGF)とコラーゲン結合ドメイン(CBD)を組み合わせた融合たんぱく質を含むDMEM(培養液)適量を閉鎖循環式高密度組織作成装置にて4〜6時間還流する。これにより血管や神経の通路ともなるため血管内皮細胞成長因子(VEGF)や神経成長因子(NGF)をCBDと結合したたんぱく質が組み込まれ、例えば消化管では外膜などの結合組織が形成される。
【0033】
(2)1種類または複数の動物細胞と膜成分を含む異なる培養液を循環培養して第2の組織(平滑筋組織)を再構成する。
すなわち、適量のDMEMを1時間程度還流した後、平滑筋細胞あるいは多能性幹細胞と適当な濃度に調整した基底膜成分を含むDMEMを還流液中に必要量追加し、2時間程度還流する。この操作により消化管や血管では中膜と呼ばれる組織が形成される。
【0034】
(3)コラーゲン、1種類または複数の動物細胞およびコラーゲン結合型細胞成長因子を含む異なる培養液を循環培養して第3の組織(結合組織)を再構成する。
すなわち、適当な濃度のIII 型、V型コラーゲン、ヒト線維芽細胞あるいは多能性幹細胞および適当な濃度のFGF−CBDを含むDMEM(培養液)適量を閉鎖循環式高密度組織作成装置にて2時間程度還流する。この操作により消化管や血管では内膜と呼ばれる組織が形成される。
【0035】
(4)1種類または複数の動物細胞を含む異なる培養液を循環培養して第4の組織(上皮組織)を再構成する。
すなわち、血管であれば内皮細胞を、消化管であれば上皮細胞を単独であるいは多能性幹細胞とともに懸濁した培養液に交換して2時間程度還流する。また、軟骨などの比較的均一な組織では、適当な濃度のII型コラーゲンとヒト軟骨細胞あるいは多能性幹細胞を含むDMEM(培養液)適量を閉鎖循環式高密度組織培養装置にて4〜6時間還流することにより軟骨組織が形成される。
【0036】
[人工皮膚]
これまで、人工皮膚を作成するには、まず線維芽細胞とコラーゲンの混合液を中性pH、37℃に保つことによって低密度真皮様組織を作成する。この低密度コラーゲンゲルに表皮細胞を播種すると細胞はゲル内に沈み込んでしまうため、ゲルを培養液中で3〜7日間培養することにより封じ込んだ線維芽細胞の作用よってゲルが元の1/10のサイズになるまで収縮し高密度真皮様組織(以下、収縮ゲルという。)を作成する必要がある。しかし、本発明では、リアクターによって約6時間で高密度真皮様組織を得ることができ、ただちに表皮細胞を播種することができる。収縮ゲルでは3〜7日間の培養中に線維芽細胞から基底膜成分の一部や細胞成長因子が分泌され、表皮細胞の増殖に適した環境が整えられている。しかしながら収縮ゲル内の線維芽細胞は同時にコラーゲン細線維を分解するマトリックス・メタロプロテアーゼも分泌するため、出来上がった人工皮膚の自己融解も早い。そのため人工皮膚として利用できる期間が短いという欠点がある。
【0037】
本発明は、この問題を解決するため、
(1)リアクターを用いて短時間で高密度真皮様組織を作成し、次いで
(2)細胞成長因子とコラーゲン結合ドメイン(CBD)を組み合わせた融合タンパク質を表皮細胞と共に用いることにより表皮層を再構成する方法を提供したものである。
すなわち、本発明では、
(1)1種類または複数の動物細胞と細胞外マトリックス成分を含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材とを、メッシュ部材が液流に対して前記液流制御部材の裏面に位置するように接触または近接させて配設し、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させ高密度培養組織を製造する閉鎖循環式高密度組織培養工程によって高密度真皮様組織を作成し、次いで、
(2)コラーゲン結合型細胞成長因子を表皮細胞と共に用いて人工皮膚を再構築する。
【0038】
[人工皮膚の作成]
人工皮膚は、例えば以下の(1)〜(4)に従って作成することができる。
(1)0.5mg/mLアテロコラーゲン(I−AC高研Co.Ltd.)、ヒト線維芽細胞(HFO;2×107個)を含むDMEM(培養液)200mLを閉鎖循環式高密度組織作成装置にて6時間還流する。
(2)装置より人工真皮組織を取り出し、アスコルビン酸2グルコピラノース(AA2G:84.3mg/mL)を添加した2mLのDMEMで1週間培養し、次いで同濃度のアスコルビン酸2グルコピラノースと合成マトリックス・メタロプロテアーゼ阻害剤(CGS10mM)を添加したDMEMでさらに1週間培養した。
(3)内径10.5mm高さ5mmのガラス製円筒を人工真皮組織上に置き、EGF−CBD(0.95μg/mL)と培養表皮細胞(4×105個)を懸濁したDMEMとヒト型表皮成長因子(hEGF)無添加 Epi-life(1:1)の混合培養液(0.4mL)を同円筒内に注ぐ。円筒からの漏れがないことを確認し、一晩培養する。
(4)円筒をはずして人工皮膚全体を持ち上げ、その上部を空気に曝しながら(2)で用いた培養液を2日毎に交換して培養する(図3)。
【0039】
前記融合タンパク質を用いない場合には、表皮細胞の増殖が不十分で重層化した表皮組織を得ることができない(図4)。本発明によれば、前記融合タンパク質を表皮細胞とともに播種することにより5〜6層からなる表皮層を再構成することができる。
【0040】
しかし、典型的には、上皮細胞成長因子(EGF)とバクテリアの産生するコラーゲン分解酵素のコラーゲン結合ドメイン(CBD)を組み合わせた融合タンパク質(以下、EGF−CBDという。)(0.95μg/mL)を表皮細胞懸濁液に添加することにより、図5に光学顕微鏡像を示した皮膚組織を再構成することができる。図6はその模式図であるが、EGF−CBDは、リアクターを用いて作成した高密度真皮様組織の上部にあるコラーゲン細線維と結合して、播種した培養表皮細胞の増殖を長時間促進していると考えられる。コラーゲン結合ドメインを持たない上皮細胞成長因子は、培養液中に拡散して、表皮細胞に増殖を促す濃度以下になってしまうと考えられる。表皮細胞としては、すでに成熟分化した体細胞性表皮細胞を播種することができるが、幹細胞やiPS細胞などの容易に増殖する多能性幹細胞を混合して播種することも可能である。一般に体細胞性表皮細胞は増殖速度が遅く、十分な数の表皮細胞を得るためには日数が必要である。EGF−CBDを作用させることにより、体細胞と混合した幹細胞の分化を促す可能性がある。
【0041】
[人工肝臓]
肝臓は被膜と呼ばれる結合組織に覆われている(図7の光学顕微鏡像参照)。そこでまず被膜に相当する結合組織をリアクター内に作成し、次いで肝細胞に見立てた腫瘍性肝細胞(HepG2)層を重ね、最後に肝臓内にある結合組織に見立てた層を作成する(図8)。
すなわち、本発明では、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材とを、メッシュ部材が液流に対して前記液流制御部材の裏面に位置するように接触または近接させて配設し、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させ高密度培養組織を製造する工程の後、引き続いて、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む異なる細胞培養液を用いて前記組織上に異なる高密度培養組織を形成する操作を少なくとも1回行う工程を実施して積層型高密度培養人工組織を形成する方法であって、順に、(1)肝臓の被膜に相当する結合組織を作成し、これに(2)肝細胞に見立てた腫瘍性肝細胞層を重ね、次いで(3)肝臓内にある結合組織に見立てた層を作成することにより人工肝臓を製造することができる。
【0042】
肝臓の再生では、これまで肝細胞をいかに立体的に配置するかという点に焦点があてられており、本発明のように被膜やグリッソン鞘などの結合組織性の構造によって肝臓の形態が保たれている点に注目した取り組みはなされていない。ヒトの肝臓は約1.4kgあり、1.5×1012個の細胞からできている。これほど多数の細胞を機能的に立体配置するには結合組織による支持が必要であり、本発明による人工肝臓はこのような生体内にある肝臓の構造を模倣して作成したものであり、この方法より大型の人工肝臓を作成することが可能である。
【0043】
[人工肝臓の作成]
人工肝臓は、例えば、下記の(1)〜(5)に従って作成することができる。
(1)0.5mg/mL I型アテロコラーゲン(I−AC高研Co.Ltd.)、ヒト線維芽細胞(HFO;1〜2 × 107個)を含むDMEM(培養液)100mLを閉鎖循環式高密度組織作成装置にて6時間還流する。
(2)50mL DMEMに付け替え、還流開始直後にHepG2細胞(2〜4 × 107個)懸濁液2mLをリアクターの上流より5〜10分間の間に全量を投入する。
(3)DMEM(50mL)を2時間還流する。
(4)0.5mg/mLアテロコラーゲン(I−AC高研Co.Ltd.)を含むDMEM(培養液)50mLにて3時間還流する。
(5)完成した積層型人工肝組織を循環培養装置に移し、10%牛胎児血清を含むDMEM中にて3日間循環培養する。
【0044】
本発明では、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材を接触または近接させて配設する。この際、培養液の流れから見て上流側に液流制御部材を配置させ、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させるのが好ましい。
【0045】
上記培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材を接触または近接させて配設することにより、培養液の流速を局所的に低減させ、細胞培養液に懸濁している細胞外マトリックス成分と動物細胞の濃度を局所的に高めることができ、この結果、液流制御部材上に細胞外マトリックス分子と動物細胞が高密度に集積される。
【0046】
細胞外マトリックス分子と動物細胞の高密度な集積を均一に行なうためには、液流制御部材とメッシュ部材に対し、培養液流を概ね均一に流すものとする。実施の態様としては、液流制御部材とメッシュ部材を平面状の部材とし、これらを平行に配置して、液流制御部材表面に対して概ね直角に培養液を流すことにより実現できる。他の態様として、液流制御部材とメッシュ部材を筒状の部材とし、これらを液流制御部材が内側になるように同軸状に配置して、液流制御部材の内部から外側に向けて培養液を流すことによっても実現できる。その他の態様も可能である(特許文献7:WO2006/088029号公報)。
【0047】
特に、平行に設けた平面状の液流制御部材とメッシュ部材に対し培養液流を液流制御部材の側から流す形態が好ましい。このような形態は、例えば、図1に示すように、下部に複数のスリット(17)を有するステンレス製円筒(16)を流路内に設置することにより実現される。
本例では、ステンレス製円筒(16)内にPLAシート(13)、その下側にステンレスメッシュ(14)を配設する。好ましくは、ステンレス製円筒(16)は、その内周にツバ(18)を備えており、必要に応じて漏出防止用部材(例えば、シリコンゴムリング)を1つはPLAシート(13)の上に重ね(12)、もう1つはステンレスメッシュ(14)の下に重ねる(15)。さらに、液の漏出防止用部材として例えばスペーサー(11)を重ねる。図1ではこれらの部材を取り出して示してあるが、使用時にはこれらの部材を、ステンレス製円筒(16)内のツバ(18)で固定されるように装着し、流路内に設置する。
【0048】
装置全体の構成としては、例えば、リアクター本体、培地溜め、循環ポンプ、フローセルを管路で接続しインキュベーター内に設置した閉鎖循環式培養装置が、構成例として挙げられる。好ましくは、DO(溶存酸素)センサー等のセンサーとその計測値の表示装置、さらに培地溜め内の培地を撹拌するためのスターラーを設置する。スターラーは、例えば、培地溜め内に入れた磁気撹拌子を回転させる磁気回転装置である。
【0049】
なお、上記で例として挙げた装置全体の構成は、特許文献7(WO2006/088029号公報)に記載されているものを用いることができる。
【0050】
液流制御部材は、液流を透過させつつもその流れを減速させる部材であれば特に限定されないが、通常は、液流透過性多孔性材料、特に液流透過性の多孔性膜である。このような膜の例としては、ろ紙、織布、不織布、絹フィブロイン膜、生分解性シートが挙げられるが、ポリ乳酸シート(PLAシート)等の生分解性シートが好ましい。
【0051】
メッシュ部材は、通常、液流を大きく妨げない程度の網目を有する部材である。具体的には、100μm〜1mm程度、より好ましくは100μm〜0.5mm程度の孔を有する。例えば、直径0.08〜0.1mm程度の針金を織って形成した100μm〜300μm程度のメッシュが利用できる。メッシュ部材の材料は金属(例えば、ステンレス)、合成樹脂(例えば、ポリエステル)、セラミック、人工材料等のいずれでもよい。通常は滅菌や洗浄操作の容易な金属製メッシュが好ましい。
【0052】
本装置(リアクター)では、液流制御部材とメッシュ部材を接触または近接させて配設する。ここで、近接と言う場合、液流制御部材による溶液の停滞がメッシュ部材近傍で生じるものであればよく、通常は数mm程度以下、好ましくは約1mm以下である。液流制御部材とメッシュ部材はいずれを(液流から見て)上流側に配置してもよいが、液流制御部材を上流側に配置した場合には、細胞外マトリックス成分と動物細胞からなる高密度細胞培養組織と液流制御部材との複合部材を得ることができる。また、液流制御部材とメッシュ部材とは一体化されていてもよい。
【0053】
液流制御部材とメッシュ部材の上記以外の寸法条件(面積、ラジアルフロー型リアクターにおいては直径)は成長させようとする細胞の種類や組織の大きさにもよるが、細胞培養液の循環速度が液流制御部材またはメッシュ部材近傍において、例えば、4〜10μL/cm2/秒程度、好ましくは6〜8μL/cm2/秒程度となる程度のものであればよい。
【0054】
本装置において、細胞培養液中に含まれる細胞外マトリックス成分は細胞接着の基材として37℃、中性pH領域において重合ないし相互接着可能な分子であればよいが、典型的には結合組織中に見られる物質である。このような物質の例としては、例えば、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、フィブリリン、フィブロネクチン、ラミニン、キチン、キトサン等が挙げられる。これらの細胞外マトリックス成分は単独で用いてもよいし、2種以上の組み合わせとして用いてもよい。また、上記各成分は種々の化学的修飾を受けたものでもよい。修飾は生体内で通常見られる修飾でもよいし、種々の活性や特性を賦与するための人工的な修飾でもよい。さらに、上記各成分の構成成分(例えば、プロテオグリカンについて、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸などのグリコサミノグリカン等)も含まれ得る。
【0055】
好ましくは、コラーゲンもしくはエラスチンまたはこれらと上記成分の1種以上の組み合わせであり、特に好ましくはコラーゲンまたはコラーゲンと上記成分の1種以上の組み合わせである。どの成分が好ましいかは目的とする培養組織のタイプにより決定される。
【0056】
コラーゲンとしては、従来公知のいずれのコラーゲンも用い得る。例えば、I型、II型、III 型、IV型、V型等のコラーゲンを用いることができる。
こうしたコラーゲンは、得ようとするコラーゲンを含む生体組織を原料として、酸、酵素、アルカリ等により可溶化して用いることができる。また、アレルギー反応や拒否反応を解消ないし抑制するため、酵素処理によって分子末端のテロペプチドを全部または一部を除去することが好ましい。このようなコラーゲン材料としては、例えば、豚皮由来I型コラーゲン、豚腱由来I型コラーゲン、牛鼻軟骨由来II型コラーゲン、魚から抽出したI型コラーゲン、遺伝子組換え型のコラーゲンあるいはこれらの混合物等が挙げられる。但し、これらは例示であり、目的に応じ他の種類も利用可能である。例えば、基底膜に相当する組織を形成する場合にはIV型を用いる。
【0057】
細胞培養液中に含まれる動物細胞は、目的に応じて適宜選択され特に限定されないが、体細胞、腫瘍細胞、胚性幹細胞等が挙げられる。体細胞としては、例えば、線維芽細胞、肝細胞、血管内皮細胞、表皮細胞、上皮細胞、軟骨細胞、神経膠細胞および平滑筋細胞等が挙げられる。これらは単独でもよいし、2種類以上の混合物でもよい。
【0058】
細胞培養液の基本組成は、培養対象とする動物細胞の種類にもよるが、慣用の天然培地または合成培地を用い得る。動物由来物質からの細菌やウイルスなどの感染、供給の時期や場所による組成のばらつき等の点を考慮すれば、合成培地がより好ましい。合成培地としては、特に限定はされないが、例えば、α−MEM(MinimumEssentialMedium)、EagleMEM、DulbeccoMEM(DMEM)、RPMI1640培地、CMRC培地、HAM培地、DME/F12培地、199培地、MCDB培地等を挙げることができる。適宜、慣用される血清等を添加してもよい。天然培地としては、通常公知の天然培地を挙げることができ、特に限定はされない。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0059】
細胞培養液中細胞外マトリックス成分の含有量は、培養開始時において0.1〜0.5mg/mL、好ましくは0.2〜0.3mg/mL程度である。
【0060】
なお、細胞培養液は、上記細胞外マトリックス成分とともに、細胞付着を促進する他の物質、例えば、ポリリジン、ヒストン、グルテン、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン等のペプチドやタンパク質;RGD、RGDS,GRGDS,YIGSR,IKVAV等の細胞接着性オリゴペプチドまたは遺伝子工学的にこれらの配列を組み込んだ合成タンパク質;アルギン酸、デンプン、デキストラン等の多糖およびこれらの誘導体;乳酸、グリコール酸、カプロラクトンおよびヒドロキシブチレートの重合体またはこれらの共重合体並びにこれらの重合体または共重合体とポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコールとのブロックコポリマー等の生体分解性高分子を含んでもよい。
【0061】
また、培養液は、上記以外の生理活性物質を含んでもよい。このような生理活性物質の例としては、細胞成長因子、ホルモン及び/または薬理作用を有する天然もしくは合成化学物質が挙げられる。このような物質を添加することにより、機能を付与したり変化させることができる。また、還流条件を変えることによって自然界には存在しない合成化合物を含有させた細胞組み込み型の組織を作成できる。
【0062】
細胞成長因子は、特に限定はされないが、例えば、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、肝細胞成長因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経栄養因子(NGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)及びインシュリン様成長因子(IGF)等を挙げることができる。培養しようとする細胞の種類に応じて他の細胞成長因子を用いることも可能である。
【0063】
ホルモンは、特に限定はされないが、例えば、インシュリン、トランスフェリン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、チロキシン、3,3’,5−トリヨードチロニン、1−メチル−3−ブチルキサンチン、プロゲステロンなどを挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0064】
その他の生理活性物質は、例えば、アスコルビン酸(特に、L−アスコルビン酸)、ビオチン、パントテン酸カルシウム、アスコルビン酸二リン酸、ビタミンD等のビタミン類、血清アルブミン、トランスフェリン等のタンパク質、脂質、脂質酸源、リノール酸、コレステロール、ピルビン酸、DNAおよびRNA合成用ヌクレオシド、グルココルチコイド、レチノイン酸、β−グリセロホスフェート、モノチオグリセロール、各種の抗生物質等を挙げることができる。なお、これらは例示であって、目的に応じてこれ以外の成分を用いることもできる。上記成分は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0065】
培養は通常の条件により、所望の大きさ(厚さ)の高密度培養組織が生成するまで行なえばよい。典型的には、培養温度は35〜40℃であり、培養時間は6時間〜9日である。上述のように、従来の高密度培養組織の製造方法では2週間以上の期間を要している。本装置によれば、必要な培養時間が大幅に短縮される。
【0066】
また、本装置によれば、上記のいずれかに記載の方法により高密度培養組織を製造した後、得られた高密度培養組織を取り出し、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む同一または異なる処方の非循環培養液中で培養を継続する高密度培養組織の製造方法が提供される。ここで、非循環培養条件とは、例えば、ディッシュ上での培養である。このような方法を採ることにより、新たに積層した細胞が生体に近い状態で増殖分化することが期待される。
【0067】
また、本装置によれば、上記のいずれかに記載の方法により高密度培養組織を製造した後、得られた高密度培養組織を取り出し、または引き続いて、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む同一または異なる培養液を用いて前記組織上に異なる高密度培養組織を形成する操作を少なくとも1回行って積層型の高密度培養組織を形成することができる。
【0068】
また、本装置によれば、例えば、細胞外マトリックス成分の種類や濃度、栄養成分の種類や濃度、または添加する成分の種類や濃度、あるいは温度やpH等の培養条件を連続してまたは断続的に変化させて培養することも可能であり、より生体に近い細胞外マトリックス環境を培養装置内で作成可能である。また、細胞接着基材だけでなく複数の細胞種(例えば、平滑筋細胞と血管内皮細胞など)を同時にあるいは時間差を持って閉鎖循環式培養装置内に投入することにより腸や尿管など一定の傾斜構造を持つ組織を再生することも可能である。
【0069】
さらに、この方法で製造した積層型高密度培養組織を取り出し、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む同一または異なる処方の非循環培養液中で培養を継続することもできる。
【0070】
このように、本装置によれば、均一な高密度培養組織の迅速かつ確実な形成が可能であるとともに、複数の構造を一体化ないし複合化した高密度培養組織の迅速かつ確実な形成が可能である。このような高密度培養組織としては、人体各部の組織が含まれ、例えば、皮膚、軟骨、血管、神経、尿管、心臓、肝臓、骨格筋または各種臓器及び腫瘍組織が挙げられる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されるものではない。
【0072】
[EGF−CBDの調製]
(1)Clostridium histolyticum colH (GenBankアクセス番号D29981)のDNA配列番号1中塩基番号2719〜3391の領域をpGEX−4T−2プラスミドのSmaI部位に常法に従って挿入した。
【0073】
(2)Rattus norvegicus のpreproEGF(GenBankアクセス番号U04842)のcDNA配列番号4中塩基番号3308〜3448の塩基配列からなるDNA(配列番号6)を、5’末端側にBamHI部位、3’末端側に融合タンパク質の読み枠を整合させるための1ヌクレオチド(G残基)とEcoRI部位を持つよう、PCR法により増幅した。この断片を(1)の発現ベクターのBamHI−EcoRI部位に常法に従って挿入した。得られた発現プラスミドは、GST−EGF−CBD融合タンパク質(配列番号8)をコードする読み枠(配列番号7)を有している。
【0074】
(3)原核細胞用の発現ベクターを用いたので、得られた(2)の発現プラスミドを大腸菌( Escherichia coli BL21 Codon Plus RIL)にエレクトロポレーション法により導入した。
【0075】
2リットルのフラスコに2×YT−G培地500mLをとり、50mg/mLアンピシリン水溶液0.5mLを添加した液体培地を調製した。この培地に前培養液(Escherichia coliBL21の形質転換体を同じ培地50mLで一夜培養したもの)10mLを植菌し、培養液の濁度(O.D.600)が約0.7になるまで37℃で振盪培養した。ここで0.1Mイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)水溶液5mLを培養液に添加し、37℃で2時間培養した。その後、0.1Mフェニルメチルスルフォニルフルオライド(PMSF)のイソプロパノール溶液5mLを添加し、培養液を6,000×g、4℃で10分間遠心して形質転換体を集菌した。1mMPMSFを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)7.5mLに菌体を懸濁し、フレンチ・プレスにて細胞破砕処理を行った。懸濁液の1/19容量の20% Triton X−100溶液を添加し、4℃で30分間撹拌した。この溶菌液を15,000×g、4℃で30分間遠心して得た上清を、再度同じ条件で遠心し、その上清を清澄溶菌液とした。グルタチオン−セファロース・ビーズ(2mL)にこの清澄溶菌液を添加し4℃で1時間撹拌してGST−EGF−CBD融合タンパク質をビーズに結合させた。このビーズをPBS12mLで5回洗浄したのち、少量のPBSに懸濁してカラムに充填した。50mM Tris-HCl(pH8.0),10mMグルタチオン溶液で融合タンパク質を溶出した。融合タンパク質1mgあたり5unitのトロンビンを添加して25℃で10時間反応し、GSTタグを切断した。その後PBS300mLに対して4℃で12時間の透析を4回繰り返した。PBSで洗浄した新しいグルタチオン−セファロース・ビーズ(2mL)を充填したカラムに透析を完了した切断産物を添加してそのまま溶出することにより、GSTタグを除去してGSTタグを有しないEGF−CBD(配列番号8;225〜491)を得た。
【0076】
実施例1:人工皮膚の作成
牛皮より抽出したI型アテロコラーゲン(I−AC高研Co.Ltd.)とヒト線維芽細胞(HFO;2×107個)をリアクターにて6時間還流したところ、湿重量約1gの人工結合組織を得ることができた。リアクターの閉鎖循環回路内の還流培養液中に含まれるI型コラーゲン濃度を経時的に測定したところ、培養液中のI型アテロコラーゲン濃度は、還流開始50分には、約1/10まで、急速に減少したことから(図9)、培養液中の溶存I型コラーゲンは、重合してコラーゲン細線維を形成して、リアクター内に蓄積したと考えられる。
なお、本実施例において、リアクターは以下のものを使用した。
【0077】
[リアクター]
リアクターは直径22mm高さ17mmの円筒状をなしている(図1A)。リアクター内部は、上から金属スペーサー(11)、シリコンゴムリング(12)、PLAシート(13)、ステンレスメッシュ(14)、シリコンゴムリング(15)を、スリット(17)を設けたステンレス製円筒(16)内に張り出したリブ(ツバ)(18)上に積み重ねる(図1B)。培養液中の細胞外マトリックスと細胞はPLAシート上に堆積する(図1C)。図1Aおよび図1Cにおいて、矢印は還流液の方向を示している。図1Bはリアクター内部の構造を示す。図1Cに示されるように、高強度人工組織(10)はPLAシート上に堆積している。
【0078】
上記リアクターを用いて作成した結合組織を、組織破壊的に作用するマトリックス・メタロプロテアーゼの阻害剤(CGS10mM/mL)とビタミンC誘導体のアスコルビン酸2グルコピラノース(AA2G;84.3mg/mL)を添加した培養液に移し、内径10.5mm、高さ5mmのガラス製円筒を置いた(図10)。図10は表皮細胞の播種法を示す。リアクターから取り出した人工真皮(101)上にガラス円筒(ガラスリング)(100)を静置し、そのガラスリングの内部に、先に調製したEGF−CBDとヒト表皮細胞(hEK)(4×105/400μL)を加えて懸濁した培養液(0.4mL)(102)を満たし(図10A)、ガラスリングの外側に皮膚モデル用培地(103)を約3mL入れ(図10B)、37℃のCO2 インキュベーターに置き、24時間静置した。24時間後に、ガラスリング内外の培地を吸引除去し(図10C)、ゲル上にhEKの層が残るように、ピンセットでガラスリングを取り外す(図10D)。次いで、皮膚モデル用培地(104)をゲルが浸るくらいまで入れ、気液培養を開始する(図10E)。2週間以内に人工皮膚を得ることができる。
【0079】
作成した人工皮膚を光顕的に検索したところ、線維芽細胞とコラーゲン細線維からなる人工真皮層に表皮層が観察され、その上層部は角化していた(図5)。図5はリアクターを用いて作成した人工皮膚の光学顕微鏡像(ヘマトキシリン・エオジン染色)を示す。上から表皮(E)、真皮(D)および支持体の3層からできている。表皮層は3〜5層の表皮細胞が重なってできており、最上層は角化傾向が見られる。真皮層においてはコラーゲン線維の間隙に多数の突起を持った線維芽細胞が存在している。最下層には支持体の線維が観察される(スケールは100μm)。
【0080】
また有蕀層においてもデスモゾームは正常皮膚に比較して少ないながらも形成されていた(図11)。図11はリアクターを用いて作成した人工皮膚の電子顕微鏡像を示す。表皮細胞内(E)には多数のケラチン線維(K)とミトコンドリアやライソソームが観察される。真皮(D)においては多数のコラーゲン細線維が錯綜し、基底表皮細胞との境界部には基底膜(LD)が断続的に形成されている(スケールは1μm)。
【0081】
実施例2:人工肝臓の作成
肝臓の皮膜は、線維芽細胞とコラーゲン細線維が高密度に集積した結合組織であり、その皮膜内に、肝実質細胞の作る肝細胞索、類洞、グリソン鞘などが立体的に配置された組織複合体である。そこで、結合組織性の皮膜を持った肝組織の再構成を試みた。
バイオリアクター(エイブル社製)をリアクターとして用い、PET製のメッシュ・シートを支持体として、線維芽細胞(HFO;1.0 × 107個)を添加した0.5mg/mL I型アテロコラーゲン含有DMEM100mLを6時間還流した。次いでDMEM50mLに還流液を交換し、還流開始直後にHepG2細胞(2〜4 × 107個)を2mLのDMEMに懸濁した液をリアクターの上流より5〜10分間かけて回路内に投入し、その後さらに2時間還流した。引き続き0.5mg/mL I型アテロコラーゲン含有DMEM50mLを3時間還流して積層型人工肝組織を作成した。積層型肝組織を循環培養型リアクターに移し、さらに3日間循環培養した。
計11時間の閉鎖循環培養によりコラーゲン細線維、線維芽細胞、HepG2細胞からなる白いゼリー状の組織塊がPETシート上に堆積していた。光顕観察の結果コラーゲン細線維と線維芽細胞からなる2層の結合組織間にHepG2細胞が集積していた(図12)。図12はリアクターを用いて作成した人工肝臓の光学顕微鏡像(ヘマトキシリン・エオジン染色)を示す。上下二層の人工結合組織(C)間に多数の肝細胞(HepG2;H)が観察される(スケールは50μm)。
【0082】
作成した人工肝臓からはプラスチック皿上で線維芽細胞(HFO)と混合培養したHepG2細胞に比較して数倍のアルブミン合成能が認められた(図13)。図13は培養液中のアルブミン濃度の経時変化を示す。三次元複合肝組織のアルブミン産生能を評価するため、線維芽細胞(HFO)と肝細胞(HepG2)を混合しプラスチック皿上にて培養した結果と比較した。培養液中のアルブミンを定量したところ、三次元複合肝組織は平板培養時に比べて、培養3日目には4〜5倍の高値を示した。
【0083】
[人工肝臓のアルブミン合成能]
アルブミンは、肝臓で合成されて血液中に分泌され、全身の細胞は、血液からこれを取り入れ利用している。ヒトの正常血清濃度は、3.8〜5.3g/dL(38,000〜53,000μg/mL)である。従って、アルブミン合成能を調べることにより、作成した人工肝臓の機能を評価することができる。本実施例では、肝細胞の替わりに、腫瘍化した肝細胞より株化されたHepG2細胞を用いている。そのため、アルブミン合成能はもとより低値である。そこで、ALBUWELL II 測定キット(Exowell 社)を用いて、培養液のアルブミン濃度を競合的ELISA法によって測定した。培養液中に分泌されたアルブミン濃度は、培養3日目において、通常の平板培養では0.5μg/mL程度であったが、本法を用いて3次元複合組織にすることにより、3μg/mL以上の高値を示していた(図13)。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、培養皿上で行う培養法では不可能であり、細胞シートを貼り合わせる方法では困難な三次元立体培養人工組織を容易に作成することができる。細胞培養に関して初歩的な知識と技量があれば本発明の方法に従って高強度・複合人工組織を作成することが可能であり、そのため、移植用組織を必要とする医療現場において、あるいは新薬の治験などの人工組織を必要とする研究機関において目的とする人工組織を容易に作成することができる。
【符号の説明】
【0085】
10 高強度組織
11 スペーサー
12 シリコンゴムリング
13 PLAシート
14 ステンレスメッシュ
15 シリコンゴムリング
16 ステンレス製円筒
17 スリット
18 リブ(ツバ)
100 ガラスリング
101 人工真皮
102 培養液
103,104 皮膚モデル用培地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類または複数の動物細胞をコラーゲン結合型細胞成長因子及び細胞外マトリックス成分を含む細胞培養液中で培養することを特徴とする人工組織の製造方法。
【請求項2】
前記1種類または複数の動物細胞を埋め込んだ細胞外マトリックスを積層させるに当たり、1種類または複数の動物細胞と細胞外マトリックス成分とを含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材とを、メッシュ部材が液流に対して前記液流制御部材の裏面に位置するように接触または近接させて配設し、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させ高密度培養組織を製造する工程の後、引き続いて、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む異なる細胞培養液を用いて前記組織上に異なる高密度培養組織を形成する操作を少なくとも1回行う工程を実施して積層型高密度培養組織を形成する積層型高密度培養人工組織の製造方法において、初回及びその後の高密度培養組織製造工程のうち少なくとも1回の高密度培養組織製造工程における循環培養液中にコラーゲン結合型細胞成長因子を含有させる請求項1記載の人工組織の製造方法。
【請求項3】
コラーゲン結合型細胞成長因子の細胞成長因子が、上皮成長因子(EGF)、線繊芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、肝細胞成長因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経栄養因子(NGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)及びインシュリン様成長因子(IGF)からなる群から選ばれる1または2以上である請求項1または2に記載の人工組織の製造方法。
【請求項4】
コラーゲン結合型細胞成長因子としてコラーゲン結合型上皮成長因子(EGF−CBD)を表皮細胞と共に用いて人工皮膚を再構築する請求項1〜3のいずれかに記載の人工組織の製造方法。
【請求項5】
1種類または複数の動物細胞と細胞外マトリックス成分を含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材とを、メッシュ部材が液流に対して前記液流制御部材の裏面に位置するように接触または近接させて配設し、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させ高密度培養組織を製造する閉鎖循環式高密度組織培養工程によって高密度真皮様組織を作成し、次いでコラーゲン結合型上皮成長因子(EGF−CBD)を表皮細胞と共に用いて人工皮膚を再構築する請求項4に記載の人工組織の製造方法。
【請求項6】
人工血管を再構築する請求項1〜3のいずれかに記載の人工組織の製造方法。
【請求項7】
細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む細胞培養液を循環培養する経路内に、液流制御部材とメッシュ部材とを、メッシュ部材が液流に対して前記液流制御部材の裏面に位置するように接触または近接させて配設し、前記液流制御部材の表面に細胞外マトリックス分子と動物細胞を高密度に集積させ高密度培養組織を製造する工程の後、引き続いて、細胞外マトリックス成分と1種類または複数の動物細胞を含む異なる細胞培養液を用いて前記組織上に異なる高密度培養組織を形成する操作を少なくとも1回行う工程を実施して積層型高密度培養人工組織を形成する方法であって、順に
(1)肝臓の被膜に相当する結合組織を作成し、これに
(2)肝細胞に見立てた腫瘍性肝細胞層を重ね、次いで
(3)肝臓内にある結合組織に見立てた層を作成し人工肝臓を再構築することを特徴とする人工組織の製造方法。
【請求項8】
液流制御部材が生分解性シートである請求項2、5または7記載の人工組織の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法により製造される人工組織。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−172247(P2010−172247A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17475(P2009−17475)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】