説明

積層塗膜及びその形成方法

【課題】散乱光による赤みがかった発色感または青みがかった発色感などによって、従来にはない暖かみやクール感が得られる白色系塗膜外観を示す積層塗膜及びその形成方法を得る。
【解決手段】被塗装物の上に形成されるカラーベース塗膜と、干渉性を有する鱗片状の光輝性顔料を含有し、かつカラーベース塗膜上に形成される光輝性顔料含有ベース塗膜と、光輝性顔料含有ベース塗膜上に形成されるクリヤ塗膜とを備え、カラーベース塗膜のL値が60〜100の範囲内であり、光輝性顔料含有ベース塗膜が、光輝性顔料を顔料濃度(PWC)で0.1〜20質量%の範囲内となるように含有しており、クリヤ塗膜が二酸化チタンを顔料濃度(PWC)で0.15〜2.0質量%の範囲内となるように含有しており、二酸化チタンが、5〜300nmの範囲の粒径を有する二酸化チタンを二酸化チタンの全量に対して60質量%以上含む粒径分布を有していることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来にはない暖かみやクール感が得られる白色系塗膜外観を示す積層塗膜及びその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車車体や部品の表面には、一般に、防食性や耐候性を有する下塗り塗膜及び中塗り塗膜を形成した後、その上に表面保護及び美粧性を付与するため、上塗り塗膜が形成されている。
【0003】
上塗り塗膜は、一般に、ベース塗膜と、その上に形成されるクリヤ塗膜から形成されている。ベース塗膜としては、濃淡やキラキラ感のないソリッドカラーベース塗膜と、金属光沢などのような光輝性感を有するメタリックカラーベース塗膜に分類される。
【0004】
メタリックカラーベース塗膜には、高い光輝感を付与するために、ソリッドカラー塗膜に使用されている着色顔料や体質顔料に加え、鱗片状アルミニウム顔料やマイカ顔料等の光輝性顔料が配合されている。これらの光輝性顔料は、面状に配向し易く、キラキラした光沢を塗膜に付与することができる。
【0005】
しかしながら、最近においては、自動車車体などの塗膜に求められる色調が多様化しており、従来のソリッドカラー塗膜や、メタリックカラーベース塗膜とは異なる色調の塗膜が求められるようになってきている。
【0006】
特許文献1においては、特定のアルミニウム系光輝性顔料と、チタン系白色顔料を光輝性顔料として含有するメタリックベース塗料を塗装した後、その上に白濁色のクリヤ塗料をウエットオンウエット方式で塗装することにより、めのうや翡翠のような質感と、深み感のあるソリッド調の塗色を有する新規な意匠性塗膜の形成方法が提案されている。
【0007】
特許文献2においては、被塗物に下地隠蔽性メタリック塗料、透明性メタリック塗料、及びクリヤ塗料を順次塗装することにより、ハイライト部分及びシェード部分の両方において光輝性に優れたメタリック塗膜を形成する方法が提案されている。
【0008】
本発明においては、二酸化チタン微粒子を用いている。二酸化チタン微粒子を用いた塗膜形成方法として、特許文献3には、従来の二酸化チタンを含むベースコート層を基板上に形成し、その上に二酸化チタン微粒子を含むトップコート層を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−254025号公報
【特許文献2】特開2002−301426号公報
【特許文献3】特開平2−273579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、散乱光による赤みがかった発色感または青みがかった発色感などによって、従来にはない暖かみやクール感が得られる白色系塗膜外観を示す積層塗膜及びその形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の積層塗膜は、被塗装物の上に形成されるカラーベース塗膜と、干渉性を有する鱗片状の光輝性顔料を含有し、かつカラーベース塗膜上に形成される光輝性顔料含有ベース塗膜と、光輝性顔料含有ベース塗膜上に形成されるクリヤ塗膜とを備え、カラーベース塗膜のL値が60〜100の範囲内であり、光輝性顔料含有ベース塗膜が、光輝性顔料を顔料濃度(PWC)で0.1〜20質量%の範囲内となるように含有しており、クリヤ塗膜が二酸化チタンを顔料濃度(PWC)で0.15〜2.0質量%の範囲内となるように含有しており、二酸化チタンが、5〜300nmの範囲の粒径を有する二酸化チタンを二酸化チタンの全量に対して60質量%以上含む粒径分布を有していることを特徴としている。
【0012】
本発明によれば、散乱光によって、赤みがかった発色感または青みがかった発色感などを得ることができ、このため、従来にはない暖かみやクール感が得られる白色系塗膜外観を示す積層塗膜とすることができる。
【0013】
本発明の積層塗膜において、散乱光による赤みがかった発色感や青みがかった発色感などが得られる理由の詳細は明らかではないが、干渉性を有する光輝性顔料を含有した光輝性顔料含有ベース塗膜の上に、5〜300nmの範囲の粒径を有する二酸化チタン微粒子を含有するクリヤ塗膜を配置することにより、レイリー散乱などの散乱が生じ、夕日が赤く見えたり、空が青く見えたりするのと同様に、散乱光による発色感が得られるものと考えられる。
【0014】
本発明におけるカラーベース塗膜のL値は、60〜100の範囲内である。L値60は、グレー系統の色であるので、本発明における白色系塗膜外観には、グレー系統の色まで含まれる。本発明におけるカラーベース塗膜のL値は、さらに好ましくは70〜95の範囲内である。
【0015】
本発明における光輝性顔料含有ベース塗膜には、光輝性顔料が顔料濃度(PWC)で0.1〜20質量%の範囲内で含有される。
【0016】
本発明におけるクリヤ塗膜は、二酸化チタンを顔料濃度(PWC)で0.15〜2.0質量%の範囲内となるように含有している。クリヤ塗膜における顔料濃度(PWC)は、さらに好ましくは、0.2〜1.5質量%の範囲内である。
【0017】
本発明において、クリヤ塗膜に含有させる二酸化チタンは、5〜300nmの範囲の粒径を有する二酸化チタンを二酸化チタンの全量に対して60質量%以上含む粒径分布を有している。従って、非常に細かい粒径を有する二酸化チタンがクリヤ塗膜中に含まれている。5〜300nmの範囲の粒径が60質量%以上含まれることにより、散乱光による発色感を得ることができる。5〜300nmの範囲の粒径は、さらに好ましくは80質量%以上含まれる。80質量%以上含まれることにより、ハイライトの角度からの観察のみならず、シェードの角度から観察しても、散乱光による発色感を得ることができる。
【0018】
二酸化チタンの粒径分布における5〜300nmの範囲の粒径の含有量の上限値は、特に限定されるものではないが、一般的には、95質量%である。
【0019】
本発明の光輝性顔料としては、例えば、マイカフレーク、シリカフレーク、アルミナフレーク及びガラスフレークからなる群から選ばれた1種以上を挙げることができる。これらの光輝性顔料は、例えば、金属酸化物層などで表面を被覆することにより、干渉性が付与された光輝性顔料である。
【0020】
本発明の積層塗膜の形成方法は、上記本発明の積層塗膜を形成することができる方法であり、被塗装物上にカラーベース塗料を塗装してカラーベース塗膜を形成する工程と、光輝性顔料を含む光輝性顔料含有ベース塗料を、カラーベース塗膜の上に塗装して光輝性顔料含有ベース塗膜を形成する工程と、二酸化チタンを含有するクリヤ塗料を、光輝性顔料含有ベース塗膜の上に塗装してクリヤ塗膜を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0021】
本発明の形成方法によれば、散乱光による赤みがかった発色感または青みがかった発色感などによって、従来にはない暖かみやクール感が得られる白色系塗膜外観を示す積層塗膜を形成することができる。
【0022】
本発明の物品は、上記本発明の積層塗膜が、被塗装物上に形成されていることを特徴としている。本発明の物品によれば、散乱光による赤みがかった発色感または青みがかった発色感などによって、従来にはない暖かみやクール感が得られる物品とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、散乱光による赤みがかった発色感または青みがかった発色感などによって、従来にはない暖かみやクール感が得られる白色系塗膜外観を示す積層塗膜とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0025】
<光輝性顔料含有ベース塗膜>
本発明における光輝性顔料含有ベース塗膜は、光輝性顔料含有ベース塗料を塗布することにより形成される。
【0026】
本発明に用いられる光輝性顔料含有ベース塗料は、溶剤型塗料であっても、水性塗料であってもよいが、好ましくは水性塗料であって、α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を乳化重合して得られるエマルション樹脂、硬化剤および干渉性を有する光輝性顔料を含むものが使用される。但し、本発明の光輝性顔料含有ベース塗料で用いる光輝性顔料は、干渉光を奏でる透明性の鱗片状光輝性顔料であることが好ましく、その含有濃度(PWC)は、0.1〜20質量%であることが更に好ましい。
【0027】
上記鱗片状光輝性顔料としては、透明性の高い基材を用いたものであることが好ましく、マイカ(雲母)、シリカ、アルミナあるいはガラス等の透明性の基材に対して、光の干渉作用が発現するよう、TiO、SnO、ZrO、Fe、ZnO、Cr、V等およびそれらの含水物等の金属酸化物による、被覆層が設けられた鱗片状(フレーク状)の光輝性顔料からなる群から選ばれた1種以上の顔料を好適なものとして挙げることができる。
【0028】
上記光輝性顔料は、平均粒径(D50)が3〜50μm、好ましくは3〜25μmである。なお、本発明でのD50は、長径の粒子径分布において、相対累積粒子径分布曲線における累積量が50%のときの粒子径を意味する。D50が3μm未満では、光輝感が低下する恐れがあり、100μmを超えると塗膜外観不良を生じる恐れがある。尚、D50はレーザー回折法により測定することができる。
【0029】
上記光輝性顔料の厚みは、0.2〜2μmが好ましく、0.2〜1μmがさらに好ましい。厚みが0.2μm未満では、塗料サーキュレーション時に、過大のシェアがかかり、上記顔料に変形・破壊が発生し経時的に塗料が変色する不具合が生じ、2μmを超えると塗膜の透明感が低下する恐れがある。
【0030】
本発明の光輝性顔料含有ベース塗料における光輝性顔料の含有量(塗料固形分100質量部に対する顔料の固形分質量割合:PWC)は、塗料固形分に対する固形分質量割合で、0.1〜20質量%、好ましくは0.2〜18質量%、より好ましくは0.3〜15質量%である。0.1質量%未満では本発明の特異な塗膜外観が得られなくなり、20質量%を超えると塗膜外観が低下する恐れがある。
【0031】
本発明の光輝性顔料含有ベース塗料には、上記光輝性顔料以外に、光輝感を低下させない程度に、必要に応じてその他の光輝性顔料、着色顔料、体質顔料を含んでも良い。その他の光輝性顔料としては、着色アルミニウムフレーク顔料、グラファイト顔料、着色マイカ顔料、金属チタンフレーク顔料、ステンレスフレーク顔料、板状酸化鉄顔料、ホログラム顔料およびコレステリック液晶ポリマーからなるフレーク状顔料からなる群より選ばれた少なくとも一種の顔料が好ましい。
【0032】
着色顔料および体質顔料としては、有機系としてはアゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料等が挙げることができる。また、無機系としては黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等が挙げられる。また、上記体質顔料としてはタルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカ等も挙げられる。
【0033】
上記光輝性顔料含有ベース塗料中の全顔料濃度(PWC)としては、5〜60質量%であることが好ましい。さらに好ましくは、7〜50質量%であり、特に好ましくは、10〜40質量%である。上限を越えると塗膜外観が低下する。
【0034】
上記光輝性顔料含有ベース塗料が含む硬化剤としては、塗料一般に用いられているものを使用することができる。このようなものとして、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、金属イオン等が挙げられる。得られた塗膜の諸性能、コストの点からアミノ樹脂および/またはブロックイソシアネート樹脂が一般的に用いられる。
【0035】
これらの硬化剤が含まれる場合、その含有量は光輝性顔料含有ベース塗料中の樹脂固形分100質量%に対し、20〜100質量%であることが好ましい。上記範囲外では、硬化性が不足する。
【0036】
上記光輝性顔料含有ベース塗料は、必要によりその他の塗膜形成性樹脂を含んでいてもよい。その他の塗膜形成性樹脂としては、特に限定されるものではなく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の塗膜形成性樹脂が利用できる。
【0037】
上記光輝性顔料含有ベース塗料における上記エマルション樹脂とその他の塗膜形成性樹脂との配合割合は、その樹脂固形分総量を基準にして、エマルション樹脂が5〜95質量%、好ましくは10〜85質量%、さらに好ましくは20〜70質量%であり、その他の塗膜形成性樹脂が95〜5質量%、好ましくは90〜15質量%、さらに好ましくは80〜30質量%である。エマルション樹脂の割合が5質量%を下回ると作業性が低下し、95質量%より多いと造膜性が悪くなる恐れがある。
【0038】
<カラーベース塗膜>
本発明におけるカラーベース塗膜は、カラーベース塗料を塗布することにより形成される。
【0039】
本発明では、上記光輝性顔料含有ベース塗料は、基材上に形成されたカラーベース塗膜上に塗布する。本発明で用いるカラーベース塗膜のL値は、60〜100の範囲内である。L値が60未満であると、クリヤ塗膜および光輝性顔料含有ベース塗膜の色相と、カラーベース塗膜の明度差が大き過ぎて、積層塗膜として塗り重ねた場合には、ムラ感が全面に現れ、意図する干渉光による発色が表現できなくなる。さらに好ましくは、70〜95の範囲である。カラーベース塗膜を形成するカラーベース塗料は、メラミン硬化系塗料であることが好ましい。上記カラーベース塗料は、数平均分子量が1000〜4500であり、水酸基価が70〜220(固形分)であり、酸価が5〜20mgKOH/g(固形分)であるポリエステル樹脂、メチル/ブチル混合アルキルエーテル化メラミン及びブチルエーテル化メラミン樹脂のうちの少なくとも1種からなる硬化剤、並びに、顔料を含有するものであることが特に好ましい。尚、数平均分子量は、ゲルパーミィエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することが可能であり、スチレン標準を用いて換算して求めることができる。
【0040】
上記ポリエステル樹脂は、数平均分子量が1000未満であると充分な硬化が得られず、4500を超えるものは平滑性が不充分となり良好な外観が得られなくなると同時に、塗着時の粘度が高くなりすぎる。
【0041】
水酸基価が70未満であると硬化性が不良となり、220を超えると弾性が低下して耐チッピング性が不良となる。同様に、酸価が5より低くなると硬化性が不良となり、20を超えると耐水性が後退する。上記ポリエステル樹脂は、必須成分として多価カルボン酸及び/又は酸無水物と多価アルコールを重縮合することによって製造することができる。上記必須成分以外の他の反応成分として、モノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等を含んでいてもよい。また、乾性油、半乾性油及びそれらの脂肪酸を含有していてもよい。
【0042】
上記ポリエステル樹脂は、固形分中20〜70質量%の比率で配合する。配合比率が20質量%未満であると分散が悪くなって光沢性が低下し、70質量%を超えると下地の隠蔽性が不充分になる。より好ましい配合量は、30〜50質量%である。
【0043】
上記硬化剤としては、メチル/ブチル混合アルキルエーテル化メラミンが効果的に使用される。その理由は、該硬化剤成分が低縮合度であり、反応開始速度が遅いため加熱時のフロー度合が大きくなり表面平滑性を高めると同時に、反応開始速度が遅いにもかかわらず自己縮合率が低く塗膜性能的に優れていること等による。
【0044】
上記硬化剤の固形分に対する配合比率は10〜40質量%であり、好ましくは15〜35質量%である。この比率が10質量%を下まわると硬化性が不充分となり、40質量%を超えると形成される塗膜が硬く脆くなる。
【0045】
上記顔料としては、二酸化チタン、カーボンブラック等の着色顔料の他に硫酸バリウム、酸化クロム、酸化鉄、フタロシアニン、ベンズイミダゾロン、キナクリドン等の着色顔料等が挙げられる。このほかにタルク、焼成カオリン、炭酸カルシウム、珪酸マグネシウム等の体質顔料やアルミニウム箔、マイカ、スズ箔、金箔、金属チタン箔、ニッケル箔等の光輝顔料等を配合することができる。
【0046】
上記顔料は、固形分中の25〜65質量%である。25質量%未満であると下地隠蔽性が充分に確保されず、65質量%を超えると分散性が低下して光沢が後退する。より好ましくは、固形成分中30〜55質量%である。
【0047】
上記カラーベース塗料中には、ポリエステル樹脂、硬化剤および顔料のほか、増粘剤として架橋樹脂粒子、有機ベントナイト、脂肪酸ポリアマイド、ポリエチレンワックス等、有機溶媒として芳香族炭化水素系、脂肪族炭化水素系、エステル系、アルコール系溶媒等、添加剤として酸触媒、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、レベリング剤、顔料分散剤、可塑剤、消泡剤等を使用してもよい。
【0048】
<クリヤ塗膜>
本発明におけるクリヤ塗膜は、クリヤ塗料を塗布することにより形成される。
【0049】
本発明におけるクリヤ塗料は、ポリエポキシドとポリカルボン酸とを含有する酸エポキシ硬化系クリヤ塗料組成物、または、水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とを含むウレタンクリヤ塗料組成物のいずれかであることが好ましい。また、本発明におけるクリヤ塗料は、さらに特定粒径の二酸化チタンを含有することを特徴とする。
【0050】
上記二酸化チタンは、塗料固形分に対して、顔料濃度(PWC)が0.15〜2.0質量%で含有することが好ましい。クリヤ塗膜中における二酸化チタンの顔料濃度(PWC)が低過ぎると、下層となる光輝性顔料含有ベース塗膜に含まれる光輝性顔料の光輝感が発現し、本発明の効果である散乱光による発色感が得られない。また、クリヤ塗膜中における二酸化チタンの顔料濃度(PWC)が高過ぎると、クリヤ塗膜の透明性が失われる。より好ましくは0.20〜1.5質量%の範囲である。
【0051】
上記二酸化チタンは、5〜300nmの範囲の粒径を有する二酸化チタンを二酸化チタンの全量に対して60質量%以上含む粒径分布を有している。5〜300nmの範囲の粒径を有する二酸化チタンが60質量%未満であると、散乱光による発色感が得られず、本発明に特有の塗膜外観を発揮することができない。5〜300nmの範囲の粒径を有する二酸化チタンは、二酸化チタンの全量に対して80質量%以上であることがさらに好ましい。5〜300nmの範囲の粒径が80質量%以上である粒径分布を有することにより、ハイライトの角度のみならず、シェードの角度でも散乱光による発色感を得ることができる。なお、上記二酸化チタンの粒径は、顔料分散を行って得られた、分散後の粒径である。
【0052】
粒径分布における5〜300nmの範囲の粒径が占める割合の上限値は特に限定されるものではないが、一般には、95質量%である。二酸化チタンの粒径分布はレーザー散乱法により測定することができる。
【0053】
本発明のクリヤ塗膜に含有する二酸化チタンは、従来、塗膜等の分野で広く使用されている一般の二酸化チタン顔料に比べ、その粒子径が小さい。従って、このような微粒子二酸化チタンを塗膜に添加した場合、高い透明性を有するクリヤ塗膜を形成することができる。また、クリヤ塗膜中に微粒子状の二酸化チタンが含有されているので、下地層である光輝性顔料含有ベース塗膜との相互的な作用によって、レイリー散乱などによる散乱光が生じ、この散乱光による独特の発色感を得ることができる。
【0054】
また、上記二酸化チタンは、耐光性や耐候性等の特性を付与する為に、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の酸化物又は水酸化物で表面処理されたものでもよく、或いはポリジメチルシロキサンに代表される様な有機硅素化合物或いはステアリン酸に代表される様な高級脂肪酸或いはイソプロピルトリイソステアロイルチタネートに代表される様な有機チタン化合物で表面処理されたものでもよい。
【0055】
以上のような微粒子二酸化チタン顔料は、例えば、マイクロチタン及びオパール等の名称で石原産業株式会社等から入手して本発明で使用することが出来る。
【0056】
上記クリヤ塗料のバインダーとしては、上述のように、酸エポキシ硬化系クリヤ塗料組成物が好ましく用いられる。特に、酸エポキシ硬化系クリヤ塗料組成物は、酸無水物基含有アクリル樹脂(a)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)を用いることが好ましく、上記酸無水物基含有アクリル樹脂(a)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)を含有することにより、耐酸性に優れた塗膜を形成する高固形分のクリヤ塗料が得られる。なお、酸無水物基含有アクリル樹脂(a)は、貯蔵安定性の観点から、樹脂(a)内の酸無水物基が低分子量のアルコールなどによってハーフエステル化されていることが好ましい。また、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)は、水酸基を併有するものである。
【0057】
酸無水物基含有アクリル樹脂(a)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)の配合は、当業者に周知の方法で行いうる。
【0058】
上記酸無水物基含有アクリル樹脂(a)及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)に含有されるカルボキシル基と、水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)に含有されるエポキシ基とのモル比が1/1.4〜1/0.6、好ましくは1/1.2〜1/0.8となり、かつ酸無水物基含有アクリル樹脂(a)に含有されるカルボキシル基(酸無水物基に起因する)とカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)に含有される水酸基とのモル比が1/2.0〜1/0.5、より好ましくは1/1.5〜1/0.7となるような量で配合を行うことが好ましい。
【0059】
酸無水物基含有アクリル樹脂(a)及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)に含有されるカルボキシル基と、水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)に含有されるエポキシ基との割合が1/0.6を上回ると得られる塗料組成物の硬化性が低下するおそれがあり、1/1.4を下回ると、塗膜が黄変するおそれがある。酸無水物基含有アクリル樹脂(a)に含有されるカルボキシル基(酸無水物基に起因する)と、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)及び水酸基とエポキシ基とを含有するアクリル樹脂(c)に含有される水酸基とのモル比が1/0.5を上回ると、得られる塗料組成物の硬化性が低下するおそれがあり、1/2.0を下回ると水酸基が過剰となるので耐水性が低下するおそれがある。この配合量はそれぞれのポリマーの水酸基価、酸価およびエポキシ当量から当業者に周知の計算法により計算することができる。
【0060】
このようにして得られる本発明のクリヤ塗料の硬化機構は、まず、加熱により酸無水物基含有アクリル樹脂(a)中の酸無水物基がカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを含有するアクリル樹脂(c)中に含有される水酸基と反応することにより架橋点を形成し、再度カルボキシル基を形成する。このカルボキシル基およびカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)に存在するカルボキシル基は、水酸基とエポキシ基とを含有するアクリル樹脂(c)中に存在するエポキシ基と反応することにより架橋点を形成する。このように、3種類のポリマーが相互に反応することにより硬化が進行して高い架橋密度を提供することができる。
【0061】
また、クリヤ塗料のバインダーとして、上述のように、ウレタンクリヤ塗料組成物を用いることができる。ウレタンクリヤ塗料組成物としては、水酸基含有樹脂とイソシアネート化合物硬化剤を含有するクリヤ塗料を挙げることができる。上記硬化剤としてのイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネート等の脂肪族環式イソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチル等の脂環族イソシアネート、これらのビューレット体、ヌレート体等の多量体及び混合物等を挙げることができる。
【0062】
上記水酸基含有樹脂の水酸基価としては、20〜200の範囲内であることが好ましい。上限を越えると塗膜の耐水性が低下し、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下する。上記下限は、30がより好ましく、上記上限は、180がより好ましい。
【0063】
更に、上記水酸基含有樹脂の数平均分子量は、1000〜20000の範囲内であることが好ましい。上記数平均分子量が1000より小さいと作業性及び硬化性が十分でなく、20000を越えると塗装時の不揮発分が低くなりすぎ、かえって作業性が悪くなる。上記下限は、2000がより好ましく、上記上限は、15000がより好ましい。なお、本明細書では、分子量はスチレンポリマーを標準とするGPC法により決定されるものである。
【0064】
上記水酸基含有樹脂は、更に、2〜30mgKOH/gの範囲内の酸価を有することが好ましい。上記上限を越えると塗膜の耐水性が低下し、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下する。上記下限は、3mgKOH/gがより好ましく、上記上限は、25mgKOH/gがより好ましい。
【0065】
水酸基含有樹脂に対するイソシアネート化合物の配合比は、目的により種々選択できるが、本発明で用いるクリヤ塗料においてはイソシアネート基(NCO)と水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が、0.5〜1.7の範囲内となるように構成するのが好ましい。上記含有量が下限を下回ると硬化性が不十分となり、上限を上回ると硬化膜が堅くなりすぎ脆くなる。上記下限は、0.7がより好ましく、上記上限は、1.5がより好ましい。上記クリヤ塗料の形態としては、溶剤型及び水性型どちらでもよい。
【0066】
上記水酸基含有樹脂としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂等を挙げることができ、これらのうち1種又は2種以上を併用して用いることができる。なかでも、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂を用いることが耐候性、耐水性等の塗膜性能面から好ましい。
【0067】
クリヤ塗料組成物には塗膜の耐候性向上のために、紫外線吸収剤およびヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤等を加えてもよい。更にレオロジーコントロール剤として架橋樹脂粒子や、外観の調整の為表面調整剤を添加しても良い。また、必要に応じて、硬化触媒を含ませることが好ましい。
【0068】
架橋樹脂粒子を用いる場合は、クリヤ塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部の量で添加される。架橋樹脂粒子の添加量が10質量部を上回ると外観が悪化するおそれがあり、0.01質量部を下回るとレオロジーコントロール効果が得られないおそれがある。
【0069】
また、本発明で用いる樹脂が酸基を官能基として有する場合、これをアミンで中和する
ことにより、水を媒体とする水性塗料組成物とすることも可能である。
【0070】
具体的には、ポリエポキシドとポリカルボン酸とを含有する酸エポキシ硬化系クリヤ塗料組成物としては、耐酸性の観点から、日本ペイント社から発売されている「マックフロー O−570クリヤー」、「マックフロー O−1820クリヤー」、「マックフロー O−1800クリヤー」(いずれも、商品名)が好適に使用することができる。また、水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とを含むウレタンクリヤ塗料組成物である場合は、日本ビー・ケミカル社から販売されている「R290Sクリヤー」(商品名)を好適に使用することができる。
【0071】
クリヤ塗料の製造方法は、特に限定されず、当業者の周知の任意の方法を用いることができる。例えば、市販の酸エポキシ硬化系クリヤ塗料組成物またはウレタンクリヤ塗料組成物に上記着色顔料を従来公知の方法で配合することによって、クリヤ塗料を調製することができる。
【0072】
クリヤ塗料は、エアスプレー、静電塗装などにより、膜厚が硬化塗膜で20〜200μmとなるように塗装することが好ましい。
【0073】
焼き付け硬化温度は、100〜180℃、好ましくは120〜160℃、より好ましくは130〜150℃であり、焼きつけ硬化時間は、10〜60分間、好ましくは15〜50分間、より好ましくは20〜40分間である。
【0074】
<被塗装物>
本発明における被塗装物としては、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の車両の車体及び部品などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
被塗装物の材質としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、錫、亜鉛等及びこれらの金属を含む合金などの金属、ガラス、プラスチック、発泡体及び鋳造物などが挙げられる。
【0076】
被塗装物が金属基材である場合、予めリン酸塩、クロム酸塩等で化成処理されていることが好ましく、その上に必要により、電着塗料などが塗装されていてもよい。電着塗料としては、カチオン型またはアニオン型を使用できるが、防食性の点からは、カチオン型電着塗料が好ましく用いられる。
【0077】
<塗装方法>
本発明におけるカラーベース塗料、光輝性顔料含有ベース塗料、及びクリヤ塗料は、エアスプレー、静電塗装などの従来より一般的な塗装方法で塗装することができる。
【0078】
本発明においては、カラーベース塗料、光輝性顔料含有ベース塗料、及びクリヤ塗料を、ウエット・オン・ウエット方式で塗装した後、加熱するとことにより、これらの塗膜を硬化させ形成することが好ましい。しかしながら、必ずしもウエット・オン・ウエット方式で塗装する方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
<酸エポキシ硬化型クリヤ塗料に用いる樹脂の合成>
(i)カルボキシル基含有アクリル樹脂の合成
温度計、撹拌機、冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた3Lの反応槽にキシレン700質量部、ソルベッソ100(エッソ社製芳香族炭化水素系溶剤)350質量部を仕込み、130℃に昇温して保持した。
【0081】
一方、スチレンモノマー300質量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル109質量部、アクリル酸イソブチル325質量部、アクリル酸26質量部、無水マレイン酸240質量部、プロピレングリコールモノメチエーテルアセテート300質量部、およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエイト150質量部及びキシレン150質量部からなる溶液を調製し、滴下ロートから上記反応槽内に3時間かけて滴下した。
【0082】
滴下終了後30分間にわたり130℃で保持した後、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエイト20質量部及びキシレン20質量部からなる溶液を30分間で滴下した。この滴下終了後、さらに1時間130℃にて反応を継続させ、その後溶剤を1100質量部脱溶剤して、数平均分子量2000のアクリル系ポリ酸無水物を含む不揮発分70質量%のワニスを調製した。
【0083】
得られたワニス1590質量部に、メタノール125質量部を加え、70℃で23時間反応させ、酸価158mgKOH/g(固形分)のカルボキシル基含有アクリル樹脂を得た。
【0084】
尚、このカルボキシル基含有アクリル樹脂について赤外線吸収スペクトルを測定し、酸無水物基の吸収(1785cm−1)が消失していることを確認した。
【0085】
(ii)エポキシ基含有アクリル樹脂の合成
温度計、撹拌機、冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた2Lの反応槽にキシレン250質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200質量部を仕込み、130℃に昇温して保持した。
【0086】
一方、メタクリル酸グリシジル450質量部、メタクリル酸イソボルニル236質量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル64質量部、t−ブチルスチレン250質量部、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエイト110質量部及びキシレン150質量部からなる溶液を調製し、滴下ロートから上記反応槽内に3時間かけて滴下した。溶液温度は130℃に保持した。
【0087】
滴下終了後30分間にわたり130℃で保持した後、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエイト10質量部及びキシレン50質量部からなる溶液を30分間で滴下した。この滴下終了後、さらに1時間130℃にて反応を継続させ、その後溶剤を270質量部脱溶剤して、数平均分子量2200、エポキシ当量316及び水酸基価25mgKOH/g(固形分)のアクリル系エポキシ基含有アクリル樹脂を含む不揮発分72質量%のワニスを得た。
【0088】
(iii)カルボキシル基含有ポリエステル樹脂の合成
温度計、撹拌機、冷却管、窒素導入管を備えた3Lの反応槽に3−エトキシプロピオン酸エチル278質量部、トリメチロールプロパン268質量部、ε−カプロラクトン228質量部、酸化ジブチルスズ0.1質量部を仕込み、150℃に昇温して保持した。
【0089】
2時間にわたり150℃で保持した後、加温して溶解したヘキサヒドロ無水フタル酸616質量部を加え、150℃で1時間保持して、数平均分子量800、質量平均分子量/数平均分子量=1.18、酸価202mgKOH/g(固形分)及び水酸基価101mgKOH/g(固形分)のカルボキシル基含有ポリエステル樹脂を含む不揮発分80質量%のワニスを得た。
【0090】
<酸エポキシ硬化型クリヤ塗料の調製>
二酸化チタン顔料を所定の顔料濃度(PWC)となるように、先の合成例のエポキシ基含有アクリル樹脂ワニスを用いて、ジルコンビーズを分散媒体とするダイノーミルを用いて所定の粒度分布になるように分散した後、更に先の合成例で得られたカルボキシル基含有アクリル樹脂ワニスと、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂ワニス、及びエポキシ基含有アクリル樹脂ワニスが、それぞれ不揮発分質量比で24:25:51となるように配合し、テトラブチルアンモニウムブロミド硬化触媒0.5質量部、ジブチルスズビス(ブチルマレート)触媒0.5質量部、紫外線吸収剤「チヌビン900」(チバガイギー社製)2質量部、光安定剤「サノールLS−440」(三共社製)1質量部及びアクリル系表面調整剤を1.0質量部、ディスパー撹拌しながら混合した。得られた塗料を3−エトキシプロピオン酸エチル/S−150(エッソ社製)=1/1からなるシンナーにて、塗装粘度(フォードカップNO.4、20℃で30秒)に希釈し、酸エポキシ硬化型クリヤ塗料を製造した。
【0091】
二酸化チタン顔料としては、表1に示すように、従来より一般的に用いられている粒径が大きい二酸化チタンと、粒径が小さい微粒子二酸化チタンとを、表1に示す混合比(質量比)で混合して用いた。従来の二酸化チタンとしては、商品名「タイペークCR−97」(石原産業株式会社製)を用いた。また、微粒子二酸化チタンとしては、商品名「MT−700」(テイカ株式会社製)を用いた。
【0092】
<光輝性顔料含有ベース塗料の調製>
光輝性顔料含有ベース塗料としては、水性マイカベース塗料を以下のようにして調製した。
【0093】
日本ペイント社製アクリルエマルション(平均粒子径150nm、不揮発分20%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/g)を271.5質量部、ジメチルエタノールアミン10質量%水溶液を10質量部、日本ペイント社製水溶性アクリル樹脂(不揮発分は30.0質量%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g)を27.4質量部、プライムポールPX−1000(三洋化成工業社製ポリエーテルポリオール、不揮発分100%)を7.2質量部、サイメル204(三井サイテック社製混合アルキル化型メラミン樹脂、不揮発分100%)を28.2質量部、そして、ラウリルアシッドフォスフェート0.2質量部、干渉性アルミナフレーク顔料「シラリックT60−23」(メルク社製)4.0質量部、干渉性アルミナフレーク顔料「シラリックT60−10」(メルク社製)2.0質量部を加えて均一分散することにより水性マイカベース塗料組成物を得た。なお、ここで用いた干渉性アルミナフレーク顔料は、合成マイカと呼ばれている。
【0094】
<カラーベース塗料の調製>
熱硬化性ポリエステル樹脂(日本ペイント社製、水酸基価80、酸価8mgKOH/g、数平均分子量1800、固形分70質量%)51.0質量部と二酸化チタン顔料「CR−97」(石原産業株式会社社製)49質量部を加えて均一分散し、更に、メラミン樹脂「ユーバン128」(三井サイテック社製、固形分60質量%)25.5質量部を加えて均一分散することによりカラーベース塗料を得た(L値=85)。
【0095】
(実施例1〜4及び比較例1〜2)
30cm×40cm、厚み0.8mmのダル鋼板をリン酸亜鉛処理した後、カチオン電着塗料「パワートップV−6」(日本ペイント社)を用いて電着塗装をした。次に、上記のようにして調製したカラーベース塗料を、乾燥膜厚30μmとなるようにスプレー塗装した。次に、上記のようにして調製した水性マイカベース塗料を乾燥膜厚15μmとなるように、外部印可型の「メタベル」を用い、印加電圧−60kV、回転数25000rpm、シェービングエア圧1.5kg/cm、吐出量230ml/分で1ステージ塗装した。その後80℃で4分間プレヒートを行った。
【0096】
次に、上記のようにして調製した酸エポキシ硬化型クリヤ塗料を、乾燥膜厚35μmとなるように「マイクロベル」を用いて、印加電圧−90kV、回転数20000rpm、シェービングエア圧1.5kg/cm、吐出量320ml/分で、1ステージ塗装し、7分間セッティングした。次いで、得られた塗装板について140℃で20分間焼き付けを行った。
【0097】
得られた塗装板の塗膜外観について、ハイライトとシェードで、以下の基準で評価した。
【0098】
ハイライトの評価基準
5:青緑色の発色感
4:黄緑色の発色感
3:オレンジ色の発色感
2:赤色の発色感
1:白っぽい色であり、散乱による発色感は得られない
0:変化なし
【0099】
シェードの評価基準
5:青い発色感
4:青白さの強い発色感
3:青白さの弱い発色感
2:白っぽい発色感
1:白っぽいが散乱による発色感は得られない
0:変化なし
【0100】
評価結果を表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
表1に示す結果から明らかなように、クリヤ塗膜に含有される二酸化チタンの5〜300nmの範囲の粒径の含有割合が60質量%以上になると、ハイライトで散乱光による赤みがかった発色感が得られ始めることがわかる。また、5〜300nmの範囲の粒径の含有割合が多くなるにつれて、散乱光による発色感は、徐々に青色側にシフトしていくことがわかる。さらに、5〜300nmの範囲の粒径の含有割合が80質量%以上になると、シェードにおいても、散乱光による発色感が得られるようになる。
【0103】
(実施例5〜7及び比較例3〜4)
クリヤ塗膜中に含有させる二酸化チタンを、微粒子二酸化チタンである「MT−700」のみとし、クリヤ塗膜中に含有させる二酸化チタンのPWCを表2に示すように変化させた。それ以外は、上記と同様にして塗装板を作製し、塗膜外観を評価した。評価結果を表2に示す。なお、表2には、実施例1の結果も併せて示す。
【0104】
【表2】

【0105】
表2に示す結果から明らかなように、クリヤ塗膜中の二酸化チタンのPWCが0.15〜2.0質量%の範囲にある場合において、散乱光による発色感が得られることがわかる。また、二酸化チタンのPWCが増加するにつれて、ハイライトの発色感が減少し、シェードにおける発色感が増加することがわかる。
【0106】
表2に示す結果から、クリヤ塗膜における二酸化チタンのPWCは、0.2〜1.5質量%の範囲であることがさらに好ましいことがわかる。
【0107】
(実施例1、比較例5及び比較例6)
実施例1においては、水性マイカベース塗料に、干渉性を有する光輝性顔料である、干渉性アルミナフレーク顔料を用いているが、比較例5では、これに代えて、干渉性を有しない光輝性顔料である「メタシャインME2025」(商品名、日本板硝子株式会社製、ガラスフレーク顔料)6.0質量部に代えた以外は、上記と同様にして積層塗膜を形成し、塗膜外観を評価した。また、比較例6では、実施例1で用いたカラーベース塗料に、さらに三菱カーボン社製カーボンブラック顔料「MA−100」2.0質量部を加えて調製した塗膜のL値が50であるカラーベース塗料を用いて積層塗膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして積層塗膜を形成し、同様に塗膜外観を評価した。表3に評価結果を示す。なお、表3には、実施例1の結果を併せて示す。
【0108】
【表3】

【0109】
表3に示す結果から明らかなように、クリヤ塗膜の下地層である光輝性顔料含有ベース塗膜に、干渉性を有しない光輝性顔料を用いた場合には、本発明の効果が得られないことがわかる。さらに、カラーベース塗膜のL値が、60未満であると、積層塗膜として組み合わせた場合に、著しいムラ感が発現し、本発明の発色性とは、著しく異なる色域となってしまうことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物の上に形成されるカラーベース塗膜と、
干渉性を有する鱗片状の光輝性顔料を含有し、かつ前記カラーベース塗膜上に形成される光輝性顔料含有ベース塗膜と、
前記光輝性顔料含有ベース塗膜上に形成されるクリヤ塗膜とを備え、
前記カラーベース塗膜のL値が60〜100の範囲内であり、
前記光輝性顔料含有ベース塗膜が、前記光輝性顔料を顔料濃度(PWC)で0.1〜20質量%の範囲内となるように含有しており、
前記クリヤ塗膜が二酸化チタンを顔料濃度(PWC)で0.15〜2.0質量%の範囲内となるように含有しており、前記二酸化チタンが、5〜300nmの範囲の粒径を有する二酸化チタンを二酸化チタンの全量に対して60質量%以上含む粒径分布を有していることを特徴とする積層塗膜。
【請求項2】
前記カラーベース塗膜のL値が70〜95の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の積層塗膜。
【請求項3】
前記クリヤ塗膜における二酸化チタンの顔料濃度(PWC)が、0.2〜1.5質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層塗膜。
【請求項4】
前記二酸化チタンが、5〜300nmの範囲の粒径を有する二酸化チタンを二酸化チタンの全量に対して80質量%以上含む粒径分布を有していることを特徴とする請求項1〜の3のいずれか1項に記載の積層塗膜。
【請求項5】
前記光輝性顔料が、マイカフレーク、シリカフレーク、アルミナフレーク、及びガラスフレークからなる群から選ばれた1種以上の光輝性顔料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層塗膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層塗膜を形成する方法であって、
被塗装物上にカラーベース塗料を塗装して前記カラーベース塗膜を形成する工程と、
前記光輝性顔料を含む光輝性顔料含有ベース塗料を、前記カラーベース塗膜の上に塗装して前記光輝性顔料含有ベース塗膜を形成する工程と、
前記二酸化チタンを含有するクリヤ塗料を、前記光輝性顔料含有ベース塗膜の上に塗装して前記クリヤ塗膜を形成する工程とを備えることを特徴とする積層塗膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層塗膜が、被塗装物の上に形成されていることを特徴とする物品。



【公開番号】特開2010−194429(P2010−194429A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40474(P2009−40474)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】