説明

積層塗膜形成方法

【課題】積層塗膜の形成において、良好な塗膜仕上がり性を得ながら、ベース塗料の溶剤使用量の増大を抑えつつ、省エネを図る。
【解決手段】被塗物1の電着塗膜2の上に、ポリオール樹脂及び硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布してベース塗膜3及びクリヤ塗膜4を形成し、ベース塗膜3及びクリヤ塗膜4を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法において、溶剤型ベース塗料の塗布を複数ステージに分けて行ない、且つ2液ウレタンクリヤ塗料の塗布直前のステージでは、他のステージよりも、ポリオール樹脂の分子量が大きい塗料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体塗装では、従来より、下塗り塗装(電着塗装)、中塗り塗装、上塗り塗装(ベース塗装及びクリヤ塗装)の順で行なわれ、その中塗り塗装及びベース塗装には溶剤型塗料が採用されてきた。ベース塗装及びクリヤ塗装はウェットオンウエットで行なわれているが、電着、中塗り及び上塗りの各工程毎に塗膜の焼付け硬化を行なう必要がある。これに対して、特許文献1には、中塗り塗装、ベース塗装及びクリヤ塗装を順次ウェットオンウエットで行なうこと、つまり、中塗り後の焼付けを省略することにより、省エネを図ることが記載されている。
【0003】
また、上記ベース塗装に関しては、近年、環境への負荷軽減(有機溶剤の使用量削減)の観点から、溶剤型ベース塗料から水性ベース塗料への転換も行なわれている。例えば、特許文献2には、ベース塗装に水性塗料を採用すること、また、その水性ベース塗装を第1層及び第2層の二層とし、第1層の紫外線透過率を下げることにより、中塗り塗装を省略することが記載されている。しかし、水性ベース塗料の場合、ウェットオンウェットでのクリヤ塗装のために、ベース塗装後に水分を除去する予備乾燥工程や、ベース塗膜の乾燥状態を制御する空調設備が必要になる。そのため、中塗りを省略したとしても、省エネの観点からはそれほど効果的ではない。
【0004】
また、特許文献3には、自動車の上塗り塗装(ベース及びクリヤのウェットオンウェット塗装)に関し、クリヤ塗料に低分子量のポリオールを使用すると、ベース塗膜層とクリヤ塗膜層の混層により、仕上がり外観が不十分になること、その解決のために、特定の水酸基価及び数平均分子量のポリオールとポリイソシアネートとを含有するクリヤ塗料を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−75791号公報
【特許文献2】特表2008−529766号公報
【特許文献3】特開2009−149825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の積層塗膜の形成において、省エネの観点からは、中塗り塗装を省略できるようにすること、そして、ベース塗料を溶剤型として上記予備乾燥工程や空調設備を不要にすることが有効である。しかし、中塗り塗膜は外力に対する衝撃緩和の役割を有し、これを省くと、耐チッピング性(飛び石に対する塗膜の耐剥離性)が低下する。
【0007】
その対策として、本発明では、クリヤ塗装に衝撃吸収性が高い2液ウレタンクリヤ塗料を採用するようにした。その場合に問題になったのが、ウェットオンウェットで塗装されたクリヤ塗膜からベース塗膜へのイソシアネート(硬化剤)の移行である。すなわち、クリヤ塗膜からイソシアネートの一部がベース塗膜に移行してきた場合、加熱焼付け時に、ベース塗膜の硬化速度にバラツキを生じてしまう。つまり、ベース塗膜では、クリヤ塗膜から移行してくるイソシアネートによりベース塗膜表面側が内部よりも先に低い温度から硬化し始める。続いて内部の硬化が始まり、ポリオールと硬化剤(メラミン樹脂及びブロックイソシアネート樹脂の少なくとも一方)との反応で生じるアルコール及びブロック剤の少なくとも一方の脱離によってベース塗膜が収縮するため、ベース塗膜表面に微小な凹凸が生じて仕上がり性(特に塗膜表面の艶)が低下するという問題である。
【0008】
そこで、本発明は、良好な塗膜仕上がり性を得ながら、ベース塗料の溶剤使用量の増大を抑えつつ、省エネを図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者の研究によれば、上記クリヤ塗膜のイソシアネートのベース塗膜への移行は、クリヤ塗料の有機溶剤がベース塗膜のポリオール樹脂を部分的に溶かすことによって進行していく現象であることがわかった。そして、ベース塗膜のポリオール樹脂の分子量を大きくすると、上記イソシアネートの移行が抑制され、仕上がり性の低下が避けられることがわかった。しかし、ポリオール樹脂の分子量を大きくすると、それだけベース塗料の粘度が増大するため、良好な塗装性を確保するためには溶剤量を多くする必要がある。それは環境への負荷の増大に繋がる。そこで、本発明は、溶剤使用量の増大を抑えつつ、上記イソシアネートの移行を防止するようにした。
【0010】
以下、具体的に説明すると、本発明の好ましい態様は、電着塗膜が形成された被塗物の該電着塗膜の上に、ポリオール樹脂及び該ポリオール樹脂の水酸基と反応する硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布することによりベース塗膜及びクリヤ塗膜を形成し、該ベース塗膜及びクリヤ塗膜を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法であり、上記溶剤型ベース塗料の塗布を複数ステージに分けて行ない、且つ上記2液ウレタンクリヤ塗料の塗布直前のステージでは、他のステージよりも、ポリオール樹脂の分子量が大きい塗料を用いることを特徴とする。
【0011】
この方法によれば、ベース塗膜表面のポリオール樹脂の分子量が大きいから、クリヤ塗料の硬化剤であるイソシアネートのベース塗膜への移行が抑えられる。従って、ベース塗膜の硬化速度(タイミング)にバラツキを生ずることに起因する仕上がり性の低下が避けられる。ベース塗料の溶剤量に関しては、クリヤ塗料の塗布直前のステージでは、ポリオール樹脂の分子量が大きいから、塗料粘度調整のための溶剤量が多くなるものの、他のステージでは、ポリオール樹脂の分子量が相対的に小さいから、溶剤使用量を少なくすることができる。すなわち、全体としては、溶剤使用量が増大することを抑えことができ、環境への負荷が増大することを避けることができる。また、2液ウレタンクリヤ塗料の採用により、中塗り塗装を省略することが可能になり(中塗りのための溶剤も不要になり)、さらに、ベース塗料を溶剤型としたから、水性ベース塗料とは違って、予備乾燥工程や空調設備は不要であり、省エネの点から有利になる。
【0012】
上記溶剤型ベース塗料の硬化剤としては、種々のものを採用することができるが、メラミン樹脂及びブロックイソシアネート樹脂の少なくとも一方を用いることが好ましい。
【0013】
上記溶剤型ベース塗料の塗布は、ポリオール樹脂の分子量が相対的に小さい塗料を用いる第1ステージと、ポリオール樹脂の分子量が相対的に大きい塗料を用いる第2ステージの2ステージで行なうことができる。すなわち、ベース塗装は通常2ステージで実施されているから、当該方法によれば、作業工数の実質的な増大を招くことがない。
【0014】
上記溶剤型ベース塗料の塗布を3ステージ以上で実施する場合は、2液ウレタンクリヤ塗料の塗布直前のステージのみポリオール樹脂の分子量が大きい塗料を使用し、他の各ステージはポリオール樹脂の分子量が相対的に小さい塗料を使用すればよい。
【0015】
上記溶剤型ベース塗料のポリオール樹脂の質量平均分子量を、上記2液ウレタンクリヤ塗料の塗布直前のステージでは50000以上200000以下とし、他のステージでは5000以上30000以下とすることが好ましい。これにより、クリヤ塗料のイソシアネートのベース塗膜への移行抑制を確実なものにする上で有利になり、また、全体として溶剤使用量が増大することを抑制する上でも有利になる。
【0016】
上記被塗物としては、例えば自動車の車体があり、その他の被塗物にも本発明は適用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被塗物の電着塗膜の上に、ポリオール樹脂及び該ポリオール樹脂の水酸基と反応する硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布することによりベース塗膜及びクリヤ塗膜を形成し、該ベース塗膜及びクリヤ塗膜を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法において、上記溶剤型ベース塗料の塗布を複数ステージに分けて行ない、且つ上記2液ウレタンクリヤ塗料の塗布直前のステージでは、他のステージよりも、ポリオール樹脂の分子量が大きい塗料を用いるようにしたから、ベース塗料の溶剤使用量の増大を抑えつつ、クリヤ塗膜からベース塗膜へのイソシアネートの移行を抑制することができ、良好な塗膜仕上がり性を得ながら、省エネを図る上で有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る塗膜構成を示す断面図である。
【図2】クリヤ塗膜からベース塗膜へのイソシアネートの移行が抑制される状態を示す本発明例の説明図である。
【図3】クリヤ塗膜からベース塗膜へイソシアネートが移行する様子を示す従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
図1は本発明に係る積層塗膜構成を示す。同図において、1は鋼製の被塗物であり、その上に電着塗膜2が形成され、その上にベース塗膜3が形成され、その上にクリヤ塗膜4が形成されている。ベース塗膜3は、ベース塗料を2ステージで塗布して形成されており、第1ステージのベース塗料による下側の第1ベース塗膜層3aと、第2ステージのベース塗料による上側の第2ベース塗膜層3bとよりなる。なお、ベース塗膜3が第1ベース塗膜層3aと第2ベース塗膜層3bの二層に明りょうに分かれて構成されているわけではない。説明の便宜上、第1ステージのベース塗料による部分を第1ベース塗膜層3aとし、第2ステージのベース塗料による部分を第2ベース塗膜層3bとしているに過ぎない。
【0021】
ベース塗膜3の第1ベース塗膜層3a及び第2ベース塗膜層3bはいずれも、ポリオール樹脂及び該ポリオール樹脂の水酸基と反応する硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料の塗布によって形成されている。但し、第1ベース塗膜層3aと第2ベース塗膜層3bとは、同じく溶剤型ベース塗料によって形成されているが、各々に使用されたベース塗料のポリオール樹脂の分子量が相違する。すなわち、第1ベース塗膜層3aは、分子量が相対的に小さなポリオール樹脂を含有するベース塗料にて形成され、第2ベース塗膜層3bは、分子量が相対的に大きなポリオール樹脂を含有するベース塗料にて形成されている。
【0022】
クリヤ塗膜4は、ポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料の塗布によって形成されている。
【0023】
ベース塗膜3及びクリヤ塗膜4は、ベース塗膜3の上にクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布し、同時に焼付け硬化させて形成されている。
【0024】
<積層塗膜形成方法>
本発明の積層塗膜形成方法では、まず、リン酸亜鉛処理した自動車車体などの被塗物1に電着塗装を行ない、焼付け乾燥処理を施して電着塗膜2を形成する。この電着塗膜2の上に溶剤型ベース塗料を複数ステージで塗装してベース塗膜3を形成する。次いで、ベース塗膜3の上にウェットオンウェットにて2液ウレタンクリヤ塗料を塗装してクリヤ塗膜4を形成する。そして、ベース塗膜3及びクリヤ塗膜4を同時に焼付け硬化させる。
【0025】
−電着塗装について−
被塗物1をカチオン電着塗料に浸漬し、被塗物1を陰極、電着槽内の極板を陽極として、この間に直流電流を流すことで被塗物1に電着塗膜2を析出形成することができる。カチオン電着塗料は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤及び顔料や添加剤を含んでいる。
【0026】
カチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。エポキシ樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、及びアルキルフェノールのような樹脂で変性したもの、また、エポキシ樹脂の鎖長を延長したものを用いることができる。
【0027】
硬化剤としては、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られたブロックポリイソシアネートを用いることができる。ポリイソシアネートとしては、脂肪族系、脂環式系、芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0028】
硬化剤の量は、一般にカチオン性エポキシ樹脂の硬化剤に対する固形分重量比で表して一般に80/20〜50/50の範囲が好ましく、カチオン性エポキシ樹脂と硬化剤の量は、一般に、電着塗料組成物の全固形分の30〜80重量%の範囲が好ましい。
【0029】
電着塗料は着色剤として一般に顔料を含有する。着色顔料の例としては、酸化チタン、カーボンブラック及び酸化鉄、体質顔料の例としては、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ及びクレー、防錆顔料の例としては、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、及びモリブデン酸カルシウム等が挙げられる。顔料の量は、電着塗料組成物の全固形分の10〜30重量%の範囲とすることができる。
【0030】
−ベース塗装について−
上記カチオン電着塗装・焼付け乾燥処理後、その電着塗膜2の上に、溶剤型ベース塗料をエアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装などにより塗装する。塗装の際、静電印加を行ってもよい。
【0031】
ベース塗料は、上記ポリオール樹脂及びこれと反応する硬化剤を含有する。ポリオール樹脂としては、アクリルポリオール樹脂(メタアクリル酸エステル類を重合させた側鎖にヒドロキシ基をもつポリマー)を好ましく採用することができるが、これに限られるものではなく、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなど他のポリオール樹脂を用いることができ、或いは種類の異なるポリオール樹脂を混合して用いることができる。また、ポリオール樹脂と他の塗膜形成樹脂とを混合して用いることができる。硬化剤としては、例えばメラミン樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート系硬化剤などが挙げられる。顔料分散性や作業性の点から、例えば、アクリルポリオール樹脂及び/又はポリエステルポリオール樹脂と、メラミン樹脂および/またはブロックイソシアネート樹脂とを組み合わせることが好ましい。
【0032】
有機溶剤の例としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族石油系溶剤等が挙げられる。
【0033】
ベース塗料には、必要に応じて、顔料類、非水分散樹脂、ポリマー微粒子、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、塗面調整剤、酸化防止剤、流動性調整剤、ワックス等を適宜含有することができる。
【0034】
このベース塗装は複数ステージで行なう。この複数ステージ塗装において、クリヤ塗装直前のステージでは上述の分子量が相対的に大きいポリオール樹脂を含有するベース塗料を用い、他のステージでは上述の分子量が相対的に小さいポリオール樹脂を含有するベース塗料を用いる。
【0035】
クリヤ塗装直前ステージのベース塗料に関し、ポリオール樹脂としては質量平均分子量が50000以上200000以下のものが好ましい。本発明の課題の一つは、クリヤ塗膜4からイソシアネート(硬化剤)がベース塗膜3に移行することを抑制し、塗膜仕上がり性を良くすることにあり、その移行は、クリヤ塗膜4の有機溶剤がベース塗膜3のポリオール樹脂を溶かすことによって生ずる。上記移行を防止するために、当該ポリオール樹脂の分子量を予め大きくしておくものである。上記質量平均分子量が50000未満であれば、上記イソシアネートの移行抑制に不十分であり、該質量平均分子量が200000を超える大きさになると、ベース塗料の粘度調整に多量の溶剤を必要とし、環境への負荷軽減の観点から好ましくない。このベース塗料は、フォードカップ#No.4粘度計において、20℃で15秒前後の粘度となるように調製することが好ましい。
【0036】
これに対して、他のステージのベース塗料の場合、ポリオール樹脂としては質量平均分子量が5000以上30000以下のものが好ましい。本発明は、ベース塗料の有機溶剤使用量の増大を抑えることも課題とする。上述の如く、クリヤ塗装直前ステージのベース塗料では分子量が大きなポリオール樹脂を用いる関係で溶剤使用量が多くなる。そこで、他のステージではポリオール樹脂の分子量を小さくすることにより、少ない量の溶剤でも所期の塗料粘度となるようにし、ベース塗膜3の形成に使用する溶剤量が全体として多くならないようにするものである。但し、上記質量平均分子量が5000未満になると、耐候性など塗膜物性が悪化する懸念がある。また、上記質量平均分子量が30000を超えると、上述の溶剤使用量の増大抑制の点で不利になる。このベース塗料は、フォードカップ#No.4粘度計において、20℃で15秒前後の粘度となるように調製することが好ましい。
【0037】
ベース塗膜3の乾燥膜厚は、例えば10μm以上35μm以下に設定することができ、好ましくは15μm以上25μm以下である。そのうち、クリヤ塗装直前のステージで例えば4μm以上20μm以下、好ましくは5μm以上15μm以下の第2ベース塗膜層3bを形成する。ベース塗膜3の膜厚が厚くなると、鮮映性が低下したり、塗膜にムラまたは流れが生じることがあり、その膜厚が薄くなると、下地隠蔽性が不充分となり、膜切れ(塗膜が不連続な状態)が生じることがあるため、いずれも好ましくない。
【0038】
−クリヤ塗装−
2液ウレタンクリヤ塗料を、ベース塗膜3の上に、エアレススプレー、エアスプレー、回転霧化塗装機などにより塗装する。塗装の際、静電印加を行ってもよい。
【0039】
2液ウレタンクリヤ塗料は、ポリオール樹脂及び硬化剤としてのイソシアネートを含有する。例えば、水酸基含有アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有する。水酸基含有アクリル樹脂の例としては、水酸基含有重合性不飽和モノマー、或いは他の重合性不飽和モノマーが挙げられ、水酸基含有重合性不飽和モノマーの例としては、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物、該多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した化合物等が挙げられ、その他の重合性不飽和モノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー、アミノアルキルアクリレート、アミノアルキルメタアクリレート、アクリルアミド、メタアクリルアミド又はその誘導体、第4級アンモニウム塩基含有モノマー、多ビニル化合物、紫外線吸収性もしくは紫外線安定性重合性不飽和モノマーなどが挙げられる。
【0040】
ポリイソシアネート化合物の例としては、脂肪族ジイソシアネート類、環状脂肪族ジイソシアネート類、芳香族ジイソシアネート類、有機ポリイソシアネートそれ自体、有機ポリイソシアネート同士の環化重合体、イソシアネート・ビウレット体等が挙げられる。
【0041】
有機溶剤の例としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族石油系溶剤等が挙げられる。
【0042】
クリヤ塗料には、必要に応じて、顔料類、非水分散樹脂、ポリマー微粒子、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、塗面調整剤、酸化防止剤、流動性調整剤、ワックス等を適宜含有することができる。
【0043】
上記ベース塗膜3及びクリヤ塗膜の同時焼付け硬化に関し、その焼付け温度は例えば60℃〜140℃、焼付け時間は例えば10分〜40分とすればよい。
【0044】
<実施例及び比較例>
−ベース塗料用アクリル樹脂の調製−
キシロール85部及びn−ブタノール15部を混合した有機溶剤中で、スチレン30部、n−ブチルメタクリレート40部、2−エチルヘキシルアクリレート10部、2−ヒドロキシエチルアクリレート18部及びアクリル酸2部のモノマーを反応させて、質量平均分子量が相異なる6種類の水酸基含有アクリル樹脂A−1,A−2,A−3,B−1,B−2,B−3の各溶液を調製した。各々の分子量は次のとおりであり、いずれの水酸基含有アクリル樹脂溶液もその樹脂固形分は50質量%である。
【0045】
水酸基含有アクリル樹脂A−1;質量平均分子量 5000
水酸基含有アクリル樹脂A−2;質量平均分子量 15000
水酸基含有アクリル樹脂A−3;質量平均分子量 30000
水酸基含有アクリル樹脂B−1;質量平均分子量 50000
水酸基含有アクリル樹脂B−2;質量平均分子量 80000
水酸基含有アクリル樹脂B−3;質量平均分子量200000
【0046】
−ベース塗料の調製−
上記水酸基含有アクリル樹脂A−1,A−2,A−3,B−1,B−2,B−3の各溶液に、ユーバン20SE(三井東圧化学社製ブチル化メラミン系硬化剤:固形分60質量%)、アルミペースト(顔料)を加えて攪拌し、さらにスワゾール1000(コスモ石油社製石油系芳香族溶剤)を加えて、No.4フォードカップで15秒/20℃の粘度になるように希釈調整した表1の各塗料A−1,A−2,A−3,B−1,B−2,B−3を得た。
【0047】
【表1】

【0048】
−試験片の作製−
ダル鋼板にカチオン電着塗料PN−1020(日本ペイント社製)を乾燥膜厚20μmとなるように塗装し、その電着塗膜を160℃で30分間焼付けて硬化させた。次いで表1に示す塗料A−1,A−2,A−3,B−1,B−2,B−3から選択した表2に示す第1ベース塗料及び第2ベース塗料をそれぞれ乾燥膜厚が10μmとなるように、上記電着塗膜上にエアスプレー塗装してベース塗膜を形成した。5分間の室温放置後、KINO#6800(関西ペイント社製2液ウレタンクリヤ塗料)を乾燥膜厚が30μmとなるようにエアスプレー塗装してクリヤ塗膜を形成した(ウェットオンウェット)。10分間の室温放置後、ベース塗膜及びクリヤ塗膜を140℃で30分間焼付けて硬化させた。以上により、表2に示す実施例1〜9及び比較例1〜7の試験片を得た。
【0049】
【表2】

【0050】
−塗膜評価方法−
BYK社製のWaveScan DOIを用い、試験片を垂直にして塗装したときの塗膜表面のうねりの程度を構造スペクトルWa(0.1〜0.3mm)及びWd(3.0〜10.0mm)で測定した。その結果を表2に示す。測定値Waは塗膜の艶感を表している。Wdは塗膜の平滑性を表している。測定値Wa,Wdは共に数値が小さいほど仕上がり性が良好であるということができる。
【0051】
−積層塗膜評価−
表2によれば、実施例1〜9はいずれもWa値及びWd値が小さく、仕上がり性が良好であることがわかる。また、実施例1〜9はベース塗料の平均固形分も比較的高く、溶剤使用量が抑えられていることがわかる。これに対して、比較例1〜4は、ベース塗料の平均固形分は高いものの、Wa値及びWd値が大きくなっており、仕上がり性の点で難がある。また、比較例5〜7は、Wa値及びWd値は小さいものの、ベース塗料の平均固形分が低くなっており、溶剤使用量が多い。
【0052】
図2は実施例の説明図であり、クリヤ塗膜4からベース塗膜3a,3bへのイソシアネート12の移行が抑制される状態を示す。すなわち、実施例の場合、第2ベース塗料による第2ベース塗膜層3bは、そのアクリル樹脂13の分子量が大きいため、クリヤ塗膜4の溶剤によるアクリル樹脂13の溶解があまり進まない。そのため、クリヤ塗膜4のイソシアネート12のベース塗膜側への移行が抑制され、ベース塗膜全体が一様に硬化していき、仕上がり性が良好になっているものと認められる。また、第1ベース塗膜層3aのアクリル樹脂14は分子量が小さいため、溶剤使用量が少ない。
【0053】
図3は例えば比較例2のケースの説明図である。すなわち、比較例2は第1ベース塗料及び第2ベース塗料各々のアクリル樹脂15が共に質量平均分子量30000のものである。この場合は、ベース塗膜3のアクリル樹脂13がクリヤ塗膜4の溶剤によって溶解することに伴って、クリヤ塗膜4からイソシアネート12がベース塗膜3に比較的多量に移行する。そのため、加熱焼付け時にベース塗膜3の硬化タイミングにバラツキを生じ、つまり、ベース塗膜3の表面側が先に硬化していき、仕上がり性が悪化していると認められる。
【0054】
なお、図2及び図3において、符号11はクリヤ塗膜4の樹脂を示す。
【符号の説明】
【0055】
1 被塗物
2 電着塗膜
3 ベース塗膜
3a 第1ベース塗膜層
3b 第2ベース塗膜層
4 クリヤ塗膜
12 クリヤ塗膜のイソシアネート
13 ベース塗膜のアクリル樹脂(ポリオール樹脂)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗膜が形成された被塗物の該電着塗膜の上に、ポリオール樹脂及び該ポリオール樹脂の水酸基と反応する硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布することによりベース塗膜及びクリヤ塗膜を形成し、該ベース塗膜及びクリヤ塗膜を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法において、
上記溶剤型ベース塗料の塗布を複数ステージに分けて行ない、且つ上記2液ウレタンクリヤ塗料の塗布直前のステージでは、他のステージよりも、ポリオール樹脂の分子量が大きい塗料を用いることを特徴とする積層塗膜形成方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記溶剤型ベース塗料の硬化剤として、メラミン樹脂及びブロックイソシアネート樹脂の少なくとも一方を用いることを特徴とする積層塗膜形成方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記溶剤型ベース塗料の塗布を2つのステージに分けて行なうことを特徴とする積層塗膜形成方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記溶剤型ベース塗料のポリオール樹脂の質量平均分子量を、上記2液ウレタンクリヤ塗料の塗布直前のステージでは50000以上200000以下とし、他のステージでは5000以上30000以下とすることを特徴とする積層塗膜形成方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記被塗物は自動車の車体であることを特徴とする積層塗膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−167614(P2011−167614A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32735(P2010−32735)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】