説明

積層多孔質フィルムの製造方法

【課題】基材多孔質フィルムおよび耐熱層を有する積層多孔質フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】
溶媒とバインダー樹脂とフィラーを含む塗工スラリーを基材多孔質フィルムの表面に塗工した後に、溶媒を除去することにより、前記基材多孔質フィルムの表面にフィラーを主成分とする耐熱層を形成することを含み、ここで、前記塗工スラリーは、未処理の基材多孔質フィルムに対する接触角が75°以上となるように調製され、さらに、前記基材多孔質フィルムの表面に前記塗工スラリーを塗工する前に、基材多孔質フィルムに対する該塗工スラリーの接触角が65°以下となるように基材多孔質フィルムの表面処理を行うことを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池セパレータとして好適な積層多孔質フィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウム二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用されている。
【0003】
これらのリチウム二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高く、電池の破損あるいは電池を用いている機器の破損等により内部短絡または外部短絡が生じた場合には、大電流が流れて発熱することがある。そのため、非水電解液二次電池には一定以上の発熱を防止し、高い安全性を確保することが求められている。
安全性の確保手段として、異常発熱の際に、セパレータにより、正−負極間のイオンの通過を遮断して、さらなる発熱を防止するシャットダウン機能を持たせる方法が一般的である。すなわち、該セパレータを用いた電池は、異常発熱時にセパレータが溶融および無孔化することにより、イオンの通過を遮断し、さらなる発熱を抑制することができる。
【0004】
このようなシャットダウン機能を有するセパレータとしては例えば、ポリオレフィン製の多孔質フィルム(以下、「多孔質ポリオレフィンフィルム」と称す場合がある。)が用いられる。該多孔質ポリオレフィンフィルムからなるセパレータは、電池の異常発熱時には、約80〜180℃で溶融および無孔化することでイオンの通過を遮断(シャットダウン)することにより、さらなる発熱を抑制する。しかしながら、場合によっては、多孔質ポリオレフィンフィルムからなるセパレータは、収縮や破膜等により、正極と負極が直接接触して、短絡を起こすおそれがある。多孔質ポリオレフィンフィルムからなるセパレータは、形状安定性が不十分であり、短絡による異常発熱を抑制できない場合がある。
【0005】
一方で、多孔質ポリオレフィンフィルムに耐熱性のある材質からなる多孔膜(以下、「耐熱層」と称することがある)を積層することにより、セパレータに高温での形状安定性を付与する方法が検討されている。このような耐熱性の高いセパレータとして、例えば、再生セルロース膜を有機溶媒に浸漬させて多孔化した後、基材としての多孔質フィルム(以下、「基材多孔質フィルム」と称す場合がある。)に積層したセパレータや、微粒子フィラーと水溶性ポリマーと水とを含む塗工スラリーを基材多孔質フィルム表面に塗工し、乾燥した積層多孔質フィルムが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
このような積層多孔質フィルムは、無機フィラーとバインダー樹脂とを含む塗工スラリーを、基材多孔質フィルム表面に均一に塗工して製造しているが、この塗工工程において塗工スラリーが基材多孔質フィルムに浸透してしまうと、塗工スラリーの成分であるバインダー樹脂が基材多孔質フィルム内部に入り込むため、基材多孔質フィルムのイオン透過性やシャットダウン性が低下するなど、基材多孔質フィルムの本来の性質が維持できなくなるという問題がある。
また、積層多孔質フィルム用の基材多孔質フィルムは、セパレータとして用いたときにより高いイオン透過性を得るために、高い空隙率(例えば、50%以上)を有することが好適であるが、基材多孔質フィルムでは、上述の塗工工程において、塗工スラリーの基材多孔質フィルム内部への浸透が生じた場合、浸透した塗工スラリー中の溶媒成分が気化するに際して生じる収縮応力によって、基材多孔質フィルムに収縮が生じ、高い空隙率を保持できなくなるために、得られる積層多孔質フィルムの特性は、基材多孔質フィルムの本来の特性から予想されるものよりも低くなるといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−3898号公報
【特許文献2】特開2004−227972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、基材多孔質フィルムに耐熱層を形成するために塗工スラリーを基材多孔質フィルムに塗工しても、基材多孔質フィルムの特性を維持することが可能な積層多孔質フィルムを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、次を提供する。
<1> 基材多孔質フィルムおよび耐熱層を有する積層多孔質フィルムの製造方法であって、前記方法は、溶媒とバインダー樹脂とフィラーを含む塗工スラリーを基材多孔質フィルムの表面に塗工した後に、溶媒を除去することにより、前記基材多孔質フィルムの表面にフィラーを主成分とする耐熱層を形成することを含み、ここで、前記塗工スラリーは、未処理の基材多孔質フィルムに対する接触角が75°以上となるように調製され、さらに、前記基材多孔質フィルムの表面に前記塗工スラリーを塗工する前に、基材多孔質フィルムに対する該塗工スラリーの接触角が65°以下となるように基材多孔質フィルムの表面処理を行うことを含む方法。
<2> 基材多孔質フィルムおよび耐熱層を有する積層多孔質フィルムの製造方法であって、前記方法は、溶媒とバインダー樹脂とフィラーを含む塗工スラリーを基材多孔質フィルムの表面に塗工した後に、溶媒を除去することにより、前記基材多孔質フィルムの表面にフィラーを主成分とする耐熱層を形成することを含み、ここで、前記塗工スラリーは、未処理の基材多孔質フィルムに対する接触角が75°以上となるように調製され、前記塗工スラリーの粘度は、300cP以上10000cP以下の範囲である方法。
<3> 前記基材多孔質フィルムが、ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムである<1>または<2>の積層多孔質フィルムの製造方法。
<4> 前記基材多孔質フィルムの空隙率が55体積%以上である<1>から<3>のいずれかの積層多孔質フィルムの製造方法。
<5> 溶媒が、水と有機極性溶媒との混合溶媒である<1>から<4>のいずれかの積層多孔質フィルムの製造方法。
<6> 前記有機極性溶媒が、アルコールである<5>の積層多孔質フィルムの製造方法。
<7> 前記バインダー樹脂が、前記塗工スラリーに溶解できる樹脂である<1>から<6>のいずれかの積層多孔質フィルムの製造方法。
<8> 前記バインダー樹脂が、水溶性のセルロースエーテルである<1>から<7>のいずれかの積層多孔質フィルムの製造方法。
<9> 前記フィラーが、無機フィラーである<1>から<8>のいずれかの積層多孔質フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗工プロセス時に、基材多孔質フィルムが受ける負荷が極めて小さくなるため、高い空隙率を有する基材多孔質フィルムを用いても、塗工工程での物性変化を抑制でき、加熱時の形状維持性の高い耐熱層を有し、イオン透過性に優れた非水電解液二次電池用セパレータとして好適な積層多孔質フィルムが提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<積層多孔質フィルムの製造方法>
本発明は、基材多孔質フィルムおよび耐熱層を有する積層多孔質フィルムの製造方法を提供する。前記方法は、溶媒とバインダー樹脂とフィラーを含む塗工スラリーを基材多孔質フィルムの表面に塗工した後に、溶媒を除去することにより、前記基材多孔質フィルムの表面にフィラーを主成分とする耐熱層を形成することを含み、ここで、前記塗工スラリーは、未処理の基材多孔質フィルムに対する接触角が75°以上となるように調製される。さらに、前記基材多孔質フィルムの表面に前記塗工スラリーを塗工する前に、基材多孔質フィルムに対する該塗工スラリーの接触角が65°以下となるように基材多孔質フィルムの表面処理を行う。
【0012】
基材多孔質フィルム(以下、「A層」と称す場合がある)は、その内部に連結した細孔を有する構造を持ち、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能である。
耐熱層(以下、「B層」と称す場合がある)は、高温における耐熱性を有しており、積層多孔質フィルムに形状維持性の機能を付与する。B層は溶媒とバインダー樹脂とフィラーを含む塗工スラリーをA層に塗工し、溶媒を除去して製造することができる。
【0013】
以下、基材多孔質フィルム(A層)、塗工スラリー、耐熱層(B層)、並びに積層多孔質フィルムについて、これらの物性およびこれらを製造する方法について詳細に説明する。
【0014】
<基材多孔質フィルム(A層)>
A層は、その内部に連結した細孔を有する構造を持ち、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能である。
【0015】
基材多孔質フィルムは多孔質であり、その材料としては、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、セルロースなどが挙げられ、基材多孔質フィルムは不織布であってもよい。一般的に、電池の異常発熱により溶融して無孔化(シャットダウン機能)するという点で、特にポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルム(以下、「多孔質ポリオレフィンフィルム」と称す場合がある。)であることが好ましい。
A層が多孔質ポリオレフィンフィルムである場合におけるポリオレフィン成分の割合は、A層全体の50体積%以上であることを必須とし、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましい。
【0016】
多孔質ポリオレフィンフィルムのポリオレフィン成分には、重量平均分子量が5×105〜15×106の高分子量成分が含まれていることが好ましい。A層が多孔質ポリオレフィンフィルムである場合において、ポリオレフィン成分として重量平均分子量100万以上のポリオレフィン成分が含まれると、A層、さらにはA層を含む積層多孔質フィルム全体の強度が高くなるため好ましい。
【0017】
ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどのオレフィンを重合した単独重合体又は共重合体が挙げられる。これらの中でもエチレンを単独重合したポリエチレンが好ましく、重量平均分子量100万以上の高分子量ポリエチレンがより好ましい。また、プロピレンを単独重合したポリプロピレンもポリオレフィンとして好ましい。
【0018】
A層は、その空隙率が55体積%以上であることが好ましい。空隙率が55体積%以上であると、イオン透過性に優れ、非水電解液二次電池用セパレータとして用いた際に、優れた特性を示す。本発明の方法は、フィルム構造が脆弱になりやすい、55体積%以上という高い空隙率の基材多孔質フィルムに対しても適用できる。
また、本発明の方法が適用できるA層の空隙率の上限は、A層の材料や加工方法にも大きく依存するが、80体積%以下程度である。
【0019】
A層の孔径は、イオン透過性および電池のセパレータとした際の正極や負極への粒子が入り込みを防止できる点で、3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0020】
A層の透気度は、通常、ガーレ値で30〜500秒/100ccの範囲であり、好ましくは、50〜300秒/100ccの範囲である。
A層が、上記範囲の透気度を有すると、セパレータとして用いた際に、十分なイオン透過性を得ることができる。
【0021】
A層の膜厚は、積層多孔質フィルムの耐熱層の膜厚を勘案して適宜決定される。
特にA層を基材として用い、A層の片面あるいは両面に塗工スラリーを塗工してB層を形成する場合においては、A層の膜厚は、4〜40μmが好ましく、7〜30μmがより好ましい。
【0022】
A層の目付としては、積層多孔質フィルムの強度、膜厚、ハンドリング性及び重量、さらには、電池のセパレータとして用いた場合の電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる点で、通常、4〜15g/m2であり、5〜12g/m2が好ましい。
【0023】
A層の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば特開平7−29563号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法や、特開平7−304110号公報に記載されたように、公知の方法により製造した熱可塑性樹脂からなるフィルムを用い、該フィルムの構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する方法が挙げられる。例えば、A層が、超高分子量ポリエチレンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成される場合には、製造コストの観点から、以下に示すような方法により製造することが好ましい。
すなわち、(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程
(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程
(3)工程(2)で得られたシート中から無機充填材を除去する工程
(4)工程(3)で得られたシートを延伸してA層を得る工程
を含む方法により得ることができる。なお(4)の工程で、延伸速度や延伸温度、熱固定温度などを変更することで、A層の空隙率を制御することができる。
また、A層は、市販品であってもよく、上記の特性を有することが好ましい。
【0024】
<塗工スラリー>
塗工スラリーは、溶媒とバインダー樹脂とフィラーを含み、未処理のA層に対する接触角が75°以上(好ましくは80°以上)となるように調製されたものである。
【0025】
塗工スラリーの未処理のA層に対する接触角を上述の値以上に調製することにより、塗工スラリーがA層内部に浸透することを抑制することができ、塗工スラリーがA層内部に浸透することに由来するA層の劣化を抑制することができ、A層の高いイオン透過性を損なうことなく、A層上にバインダー樹脂とフィラーを有するB層を積層し、積層多孔質フィルムを得ることができる。
一方で、未処理のA層に対する接触角が75°未満の場合には、塗工スラリーがA層内部に浸透するため、A層の本来の物性が維持できない。
塗工スラリーの粘度や塗工するA層の表面状態にも大きく依存するが、90°以下であると、均一性の高い塗工が可能となり、より好ましい。
【0026】
塗工スラリーの調製は、該塗工スラリーが含有するバインダー樹脂、フィラー、溶媒の種類や配合割合を調製することによって行われる。A層の性質を損なうことなく、簡便に調製できるという点で、溶媒の選択、濃度調製で、上記未処理のA層に対する接触角を調製することが好ましい。
【0027】
塗工スラリーに含まれるバインダー樹脂としては、フィラー同士、フィラーと基材多孔質フィルムを結着させる性能を持ち、電池の電解液に対して不溶であり、またその電池の使用範囲で電気化学的に安定である樹脂が好ましい。
例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニルなどのゴム類、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステルなどの融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマーが挙げられる。水溶性ポリマーは、水溶性ポリマーの塩であってもよい。水溶性ポリマーの塩としては、例えば、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等のアルカリ金属塩、アミン塩等が挙げられる。
【0028】
これらのバインダー樹脂は、1種または必要に応じ2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
塗工スラリーにおいて、これらのバインダー樹脂が、塗工スラリー中に分散したものを使用することもできるが、塗工スラリーの均一性を高め、より少量でフィラーを結合できる点で、前記塗工スラリーに溶解することができるバインダー樹脂が好ましい。
そのようなバインダー樹脂の選択は、塗工スラリーにおける溶媒に依存するが、特に上記バインダー樹脂の中でも、セルロースエーテル、アルギン酸、ポリアクリル酸等の水溶性ポリマーは、溶媒として水を主体とした溶媒を用いることができ、プロセスや環境負荷の点で好ましい。水溶性ポリマーの中でもセルロースエーテルが好ましく用いられる。
セルロースエーテルとして具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シアンエチルセルロース、オキシエチルセルロース等が挙げられ、化学的な安定性に優れたCMC、HECが特に好ましく、特にCMCが好ましい。なお、カルボキシメチルセルロース(CMC)は、カルボキシメチルセルロースナトリウムを含む。
【0030】
フィラーとしては、無機または有機のフィラーを用いることができる。有機フィラーとして具体的には、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリメタクリレート等の有機物からなるフィラーが挙げられ、無機フィラーとして具体的には炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、ガラス等の無機物からなるフィラーが挙げられる。なお、これらのフィラーは、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
フィラーとしては、これらの中でも耐熱性および化学的安定性の観点から、無機フィラーが好ましく、無機酸化物フィラーがより好ましく、アルミナフィラーが特に好ましい。
アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等の多くの結晶形が存在するが、いずれも好適に使用することができる。この中でも、α−アルミナが熱的・化学的安定性が特に高いため、最も好ましい。
無機フィラーの形状は、対象となる無機物の製造方法や塗工スラリー作製の際の分散条件によって、球形、長円形、短形、瓢箪形等の形状や、特定の形状を有さない不定形など、様々なものが存在するがいずれも用いることができる。
【0031】
フィラーの平均粒径は、3μm以下が好ましく、1μmがより好ましい。フィラーの形状としては、球状、瓢箪状が挙げられる。なお、フィラーの平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、25個ずつ粒子を任意に抽出して、それぞれにつき粒径(直径)を測定して、10個の粒径の平均値として算出する方法や、BET比表面積を測定し球状近似することで平均粒径を算出する方法がある。SEMによる平均粒径算出時は、フィラーの形状が、球形以外の場合は、粒子における最大長を示す方向の長さをその粒径とする。
また、粒径、および/または比表面積が異なる2種類以上のフィラーを同時に含ませてもよい。
【0032】
フィラーの含有量は、耐熱層とした際に、フィラー同士の接触により形成される空隙が、バインダー樹脂など他の構成物質により閉塞されることが少なくなり、イオン透過性を良好に保つうえで、塗工スラリー中の全固形分(フィラーおよびバインダー樹脂)を100体積%とした時に、60体積%以上であることが好ましく、70体積%以上であることがより好ましい。
【0033】
溶媒は、フィラーおよびバインダー樹脂を溶解あるいは分散することができ、分散媒としての性質も持つ。溶媒は単独溶媒であっても混合溶媒であってもよい。また、塗工する基材多孔質フィルムに対する溶媒の接触角が上記範囲であることが好ましい。
例えば非水電解液二次電池用セパレータとして一般的に用いられるポリオレフィン多孔質フィルムを用いた場合は、溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、これらを単独、または相溶する範囲で複数混合して溶媒として用いることができる。
溶媒は、水のみであってもよいが、乾燥除去速度が速くなり、上述の水溶性ポリマーの十分な溶解性を有する点で、水と有機極性溶媒との混合溶媒であることが好ましい。なお、有機溶媒のみの場合には、乾燥速度が速くなりすぎてレベリングが不足したり、バインダー樹脂に上述の水溶性ポリマーを使用した場合には溶解性が不足したりするおそれがある。
混合溶媒に用いられる有機極性溶媒としては、水と任意の割合で相溶し、適度な極性を有するアルコールが好適であり、その中でもメタノール、エタノール、イソプロパノールが用いられる。水と極性溶媒の割合は、上記接触角範囲が達成される範囲で、レベリング性や使用するバインダー樹脂の種類を考慮して選択され、通常、水を50重量%以上含む。
【0034】
また、該塗工スラリーには、必要に応じてフィラーとバインダー樹脂以外の成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。そのような成分として、例えば、分散剤、可塑剤、pH調製剤などが挙げられる。
【0035】
上記フィラーやバインダー樹脂を分散させて塗工スラリーを得る方法としては、均質な塗工スラリーを得るに必要な方法であれば、特に限定されない。
例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法などを挙げることができる。
混合順序も、沈殿物が発生するなど特段の問題がない限り、フィラーやバインダー樹脂やその他の成分を一度に溶媒に添加して混合してもよいし、それぞれを溶媒に分散した後に混合するなど任意である。
【0036】
また、塗工スラリーの粘度は、好ましくは300cP以上10000cP以下の範囲であり、より好ましくは500cP以上5000cP以下の範囲、さらにより好ましくは800cP以上3000cP以下の範囲、特に好ましくは800cP以上1000cP以下の範囲である。なお、cPはセンチポイズを表す。
また、前記基材多孔質フィルムの表面に前記塗工スラリーを塗工する前に、基材多孔質フィルムに対する該塗工スラリーの接触角が65°以下となるように基材多孔質フィルムの表面処理を行う場合には、塗工スラリーの粘度は、10cP以上10000cP以下の範囲であってもよく、好ましくは50cP以上5000cP以下の範囲、より好ましくは50cP以上3000cP以下の範囲、さらにより好ましくは50cP以上1000cP以下の範囲である。
【0037】
<塗工スラリーの塗工方法>
塗工スラリーをA層に塗工する方法については、均質な積層多孔質フィルムが得ることができれば特に限定されず、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗工法等が挙げられる。
【0038】
塗工面は、積層多孔質フィルムの用途によって限定されることがあるが、積層多孔質フィルムの性能を損なわなければ、A層の片面であっても両面であってもよく、両面塗工時は、逐次両面塗工であっても同時両面塗工であってもよい。
【0039】
塗工スラリーを撥液などの塗工不良を起こさずに、A層上に均一に薄く塗工するためには、A層の表面に前記塗工スラリーを塗工する前に、該塗工スラリーとの接触角が65°以下となるようにA層の表面処理を行う。特には塗工スラリーとの接触角が60°以下となるようにA層の表面処理を行うことが好ましい。
塗工スラリーとの接触角を上記値以下になるように、A層を表面処理することにより、塗工スラリーとA層との親和性が高まり、塗工スラリーをより均一にA層に塗工することができる。
ここで、「A層の表面処理」とは、上記接触角の条件を満たすように、A層の表面を物理的、化学的に改質する処理をいい、具体的には表面粗さを高めたり、A層の表面を塗工スラリーの成分(特に溶媒)に対して親和性を有するように処理することをいう。
A層を表面処理することにより、より塗工性が向上し、より均質な耐熱層(B層)を得ることができる。なお、表面処理は、塗工を行う前であればいつでもよいが、経時変化の影響を少なくすることができるという点で、塗工直前に実施することが好ましい。
【0040】
表面処理の方法は、上記接触角の条件を満たせばいかなる方法でもよく、具体的には酸やアルカリ等による薬剤処理、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
ここで、コロナ放電処理法では、比較的短時間でA層を改質できることに加え、コロナ放電による改質が、A層の表面近傍のみに限られ、塗工スラリーの浸透が表面近傍のみに留まるため、A層本来の特性がほぼ維持される。そのため、塗工工程において、該塗工スラリーのB膜の細孔(空隙)内への過剰な入り込みが抑制でき、溶媒の残留やバインダー樹脂の析出によってA層のシャットダウン性を損なれることを回避できる。
【0041】
<塗工スラリーにおける溶媒の除去方法>
A層に塗工された塗工スラリー層から溶媒の除去を除去することで、A層上に耐熱層(B層)が形成される。
溶媒の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥などいかなる方法でもよい。また、塗工スラリーの溶媒を他の溶媒(溶媒X)に置換してから乾燥を行ってもよい。
なお、塗工スラリーが塗工されたA層から、塗工スラリーの溶媒あるいは溶媒Xを除去する際に加熱を行う場合には、A層の細孔が収縮して透気度が低下することを回避するために、A層の透気度が低下しない温度で行うことが好ましい。
【0042】
<耐熱層(B層)>
B層の膜厚は(両面の場合は合計値)は、A層の膜厚にも依存するが、通常0.1〜20μmであり、好ましくは2〜15μmである。B層の膜厚が大きすぎると、本発明の方法で得られた積層多孔質フィルムを、セパレータとして用いた時に、非水電解液二次電池の負荷特性が低下するおそれがあり、小さすぎると、該電池の発熱が生じたときに基材多孔質フィルムの熱収縮に抗しきれずセパレータが収縮するなど、十分な安全性を付与することが困難な場合がある。
【0043】
B層の空隙率は、20〜85体積%が好ましく、さらに好ましくは40〜75体積%である。このような範囲であると、電解液の保持量、積層多孔質フィルムの膜厚、さらにはセパレータとして電池に用いた場合の体積エネルギー密度を高くすることができる。また、B層は、フィラーを主成分とし、フィラーとバインダー樹脂の合計重量に対するフィラーの重量割合が50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらにより好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。前記重量割合の上限は、好ましくは99重量%以下であり、より好ましくは98重量%以下である。
【0044】
<積層多孔質フィルム>
上述の本発明の方法では、塗工時に、A層が受ける負荷が極めて小さくなるため、A層の特性を損なうことなく、耐熱性の高いB層を積層することができる。
そのため、本発明の方法は、フィルム構造が脆弱で、塗工が困難な高い空隙率の基材多孔質フィルムに特に効果が大きく、得られる耐熱層との積層多孔質フィルムは、基材多孔質フィルムの高いイオン透過性と耐熱層の高い安全性を同時に達成することが可能となる。
【0045】
積層多孔質フィルム全体(A層+B層)の厚みは、通常、5〜80μmであり、好ましくは、5〜50μmであり、特に好ましくは6〜35μmである。積層多孔質フィルム全体の厚みが5μm未満では破膜しやすくなる。また、厚みが厚すぎると、非水電解液二次電池のセパレータとして用いたときに電池の電気容量が小さくなる傾向にある。
【0046】
また、積層多孔質フィルム全体の空隙率は、通常、30〜85体積%であり、好ましくは35〜80体積%である。
また、積層多孔質フィルムの透気度は、ガーレ値で50〜2000秒/100ccが好ましく、50〜1000秒/100ccがより好ましい。
このような範囲の透気度であると、積層多孔質フィルムをセパレータとして用いて非水電解液二次電池を製造した場合、十分なイオン透過性を示し、電池として高い負荷特性が得られる。
【0047】
シャットダウンが生じる高温における、積層多孔質フィルムの加熱形状維持率としてはMD方向又はTD方向のうちの小さい方の値が、好ましくは95%以上であり、より好ましくは97%以上である。ここで、MD方向とは、シート成形時の長尺方向、TD方向とはシート成形時の幅方向のことをいう。なお、シャットダウンが生じる高温とは80〜180℃の温度であり、通常は130〜150℃程度である。
【0048】
なお、積層多孔質フィルムは、基材多孔質フィルム(A層)と耐熱層(B層)以外の、例えば、接着膜、保護膜等の多孔膜を本発明の目的を損なわない範囲で含んでもよい。
【0049】
本発明の方法にて得られる積層多孔質フィルムは、電池、特にはリチウム二次電池などの非水電解液二次電池のセパレータとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
実施例及び比較例において積層多孔質フィルムの物性等は以下の方法(1)〜(9)で測定した。
(1)厚み測定(単位:μm)
フィルムの厚みは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。
(2)目付(単位:g/m2
積層多孔質フィルムのサンプルを一辺の長さ10cmの正方形に切り、重量W(g)を測定した。目付(g/m2)=W/(0.1×0.1)で算出した。耐熱層(B層)の目付は、積層多孔質フィルムの目付から基材多孔質フィルム(A層)の目付を差し引いた上で算出した。
(3)空隙率(単位:体積%)
フィルムを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量:W(g)と厚み:D(cm)を測定した。サンプル中の材質の重量を計算で割りだし、それぞれの材質の重量:Wi(g)を真比重で割り、それぞれの材質の体積を算出して、次式より空隙率(体積%)を求めた。
空隙率(体積%)=100−[{(W1/真比重1)+(W2/真比重2)+・・+(Wn/真比重n)}/(10×10×D)]×100
【0052】
(4)透気度(単位:sec/100cc)
積層多孔質フィルムの透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社東洋精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレ式デンソメータで測定した。
(5)接触角測定
塗工スラリー1滴(2μL)を試料に滴下し、滴下後10〜30秒の間に接触角を測定した。この接触角の測定を5回行い、これらの平均値を、試料の接触角とした。なお、接触角の測定には、接触角計(CA−X型、協和界面化学株式会社製)を用いた。
(6)塗工による基材多孔質フィルム(A層)の膜厚変化測定
積層多孔質フィルムを水に浸漬し、すべての耐熱層(B層)を水洗除去した後に、乾燥させずにそのまま(1)厚み測定と同様の方法で基材多孔質フィルム(A層)の膜厚を測定し、次式により塗工前後のA層の膜厚変化を評価した。
A層の膜厚変化(μm)=(B層除去後のA層膜厚)−(B層塗工前のA層膜厚)
(7)耐熱層(B層)の膜厚
次式により、B層の膜厚を算出した。
B層の膜厚(μm)=(積層多孔質フィルム全体膜厚)−(B層除去後のA層膜厚)
(8)シャットダウン(SD)性能評価
17.5mmφの積層多孔質フィルムに電解液を含浸させた後、2枚のSUS製電極に挟み、クリップで固定し、シャットダウン測定用セルを作製した。電解液には、エチレンカーボネート50体積%:ジエチルカーボネート50体積%の混合溶媒に、1mol/LのLiBF4を溶解させたものを用いた。組み立てたセルの両極に、インピーダンスアナライザの端子を接続し、オーブンの中で15℃/分の速度で昇温しながら、1kHzでの抵抗値を測定し、145℃での抵抗値を積層多孔質フィルムのシャットダウン性能とした。
(9)塗工スラリー粘度
B型粘度計を用いて測定した、23℃、100rpmでの測定値を塗工スラリーの粘度とした。
【0053】
実施例1
(1)塗工スラリーの調製
スラリーを次の手順で作製した。まず、媒体としての20重量%エタノール水溶液にカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、第一工業製薬株式会社製セロゲン3H)を溶解させてCMC溶液を得た(CMC濃度:0.70重量%対CMC溶液)。
次いで、CMC換算で100重量部のCMC溶液に対して、アルミナ(AKP3000、住友化学株式会社製)を3500重量部、添加、混合して、ゴーリンホモジナイザーを用いた高圧分散条件(60MPa)にて3回処理することにより、塗工スラリー1を調製した。塗工スラリー1の粘度は、80cPであった。塗工スラリー1の組成、粘度について表1にまとめて示す。
(2)基材多孔質フィルムの作製
超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学社製)を70重量%および重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)30重量%と、該超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスとの合計量100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.1重量部、ステアリン酸ナトリウムを1.3重量部を加え、更に全体積に対して38体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いてTDに延伸し以下の性状を持つ基材多孔質フィルムA1を得た。
<基材多孔質フィルムA1の性状>
膜厚:18.2μm
目付け:7.2g/m2
透気度:89秒/100ml
(3)接触角評価
(2)にて得られた基材多孔質フィルムA1(未処理)と塗工スラリー1との接触角は80°であった。
次いで、基材多孔質フィルムA1の表面を出力70W/(m2/分)でコロナ放電処理することにより、表面処理を行った。表面処理後の基材多孔質フィルムA1の塗工スラリー1との接触角は40°であった。
(4)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、基材としての表面処理後の多孔質フィルムA1の両面に上記塗工スラリー1を塗工し、乾燥し、積層多孔質フィルムを作製した。
(5)耐熱性評価
得られた積層多孔質フィルムを、8cm×8cmに切り出し、その中に6cm×6cmの四角を書き入れた積層多孔質フィルムを紙に挟んで、150℃のオーブンに1時間入れて加熱した。加熱後のフィルムの線間隔を測定することで、MD(シート成形時の長尺方向)、TD(シート成形時の幅方)の加熱形状維持率を算出したころ、MD、TDともに99%であり、積層多孔質フィルムの耐熱性が高いことがわかった。
【0054】
実施例2
(1)塗工スラリーの調製
実施例2の塗工スラリーを以下の手順で作製した。
まず、媒体として、20重量%エタノール水溶液にカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、第一工業製薬株式会社製セロゲン3H)を溶解させてCMC溶液を得た(CMC濃度:0.70重量%対CMC溶液)。
次いで、CMC換算で100重量部のCMC溶液に対して、アルミナ(AKP3000、住友化学株式会社製)を3500重量部、添加、混合して、ゴーリンホモジナイザーを用いた高圧分散条件(10MPa)にて3回処理することにより、塗工スラリー2を調製した。塗工スラリー2の粘度は、980cPであった。塗工スラリー2の組成、粘度について表1にまとめて示す。
(2)基材多孔質フィルムの作製
上記実施例1の(2)基材多孔質フィルムの作製操作に準じ、以下の性状を持つ基材多孔質フィルムA2を得た。
<基材多孔質フィルムA2の性状>
膜厚:18.1μm
目付け:7.9g/m2
透気度:110秒/100ml
(3)接触角評価
得られた基材多孔質フィルムA2(未処理)と塗工スラリー2との接触角は80°であった。
(4)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、基材多孔質フィルムA2の片面に上記塗工スラリー2を塗工し、乾燥し、積層多孔質フィルムを作製した。
【0055】
実施例3
(1)基材多孔質フィルムA3の作製
上記実施例1の(2)基材多孔質フィルムの調製に準じ、以下の性状を持つ基材多孔質フィルムA3を得た。
<基材多孔質フィルムA3の性状>
膜厚:14.9μm
目付け:7.1g/m2
透気度:128秒/100ml
(2)接触角評価
基材多孔質フィルムA3(未処理)と塗工スラリー1との接触角は80°であった。次いで上記実施例1の(3)積層多孔質フィルムの調製に準じ、基材多孔質フィルムA3の表面をコロナ放電処理することにより、表面処理を行った。表面処理後の基材多孔質フィルムA3と塗工スラリー1との接触角は40°であった。
(3)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、表面処理後の基材多孔質フィルムA3の両面に上記塗工スラリー1を塗工し、乾燥し、積層多孔質フィルムを作製した。
【0056】
比較例1
上記実施例1の(4)積層多孔質フィルムの作製において、コロナ放電処理を行わず、基材多孔質フィルムA1の両面に上記塗工スラリー1を塗工し、乾燥した以外は、同様の操作を行うことにより、積層多孔質フィルムの作製を試みたが、基材多孔質フィルム表面上で塗工スラリーがはじいてしまい、均一な積層多孔質フィルムを得ることができなかった。
【0057】
比較例2
(1)塗工スラリーの調製
上記実施例1の(1)塗工スラリーの調製操作において、エタノール水溶液の濃度を30重量%とした以外は、塗工スラリー1と同様の操作を行うことにより、塗工スラリー3を調製した。塗工スラリー3の粘度は、75cPであった。
塗工スラリー3の組成、粘度について表1にまとめて示す。
(2)接触角評価
基材多孔質フィルムA1と塗工スラリー3の接触角を評価した結果、基材多孔質フィルムA1と塗工スラリー3の接触角は65°であった。
(3)積層多孔質フィルムの作製
上述の基材多孔質フィルムA1(未処理)の両面に上記塗工スラリー3を塗工し、乾燥し、積層多孔質フィルムを作製した。
【0058】
比較例3
(1)接触角評価
上記実施例3の(1)にて得た基材多孔質フィルムA3(未処理)と、塗工スラリー3との接触角は65°であった。
次いで上記実施例1の(3)積層多孔質フィルムの調製に準じ、基材多孔質フィルムA3の表面をコロナ放電処理することにより、表面処理を行った。表面処理後の基材多孔質フィルムA3と塗工スラリー3との接触角は35°であった。
(2)積層多孔質フィルムの作製
上記比較例3において、塗工スラリーとして塗工スラリー3を用いた以外は、同様の操作で積層多孔質フィルムを得た。
【0059】
塗工スラリーの分散条件、組成、粘度を表1に示す。上述の基材多孔質フィルムの物性を表2に示し、積層多孔質フィルムの物性を表3に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、塗工プロセス時に、基材多孔質フィルムが受ける負荷が極めて小さくなるため、高い空隙率を有する基材多孔質フィルムを用いても、塗工工程での物性変化を抑制でき、加熱時の形状維持性の高い耐熱層を有し、イオン透過性に優れた非水電解液二次電池用セパレータとして好適な積層多孔質フィルムが提供することができる。
本発明によれば、塗工工程での物性変化を抑制でき、加熱時の形状維持性の高い耐熱層を有し、イオン透過性に優れた積層多孔質フィルムが提供される。該積層多孔質フィルムは、非水電解液二次電池用セパレータとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材多孔質フィルムおよび耐熱層を有する積層多孔質フィルムの製造方法であって、
前記方法は、溶媒とバインダー樹脂とフィラーを含む塗工スラリーを基材多孔質フィルムの表面に塗工した後に、溶媒を除去することにより、前記基材多孔質フィルムの表面にフィラーを主成分とする耐熱層を形成することを含み、
ここで、前記塗工スラリーは、未処理の基材多孔質フィルムに対する接触角が75°以上となるように調製され、
さらに、前記基材多孔質フィルムの表面に前記塗工スラリーを塗工する前に、基材多孔質フィルムに対する該塗工スラリーの接触角が65°以下となるように基材多孔質フィルムの表面処理を行うことを含む方法。
【請求項2】
基材多孔質フィルムおよび耐熱層を有する積層多孔質フィルムの製造方法であって、
前記方法は、溶媒とバインダー樹脂とフィラーを含む塗工スラリーを基材多孔質フィルムの表面に塗工した後に、溶媒を除去することにより、前記基材多孔質フィルムの表面にフィラーを主成分とする耐熱層を形成することを含み、
ここで、前記塗工スラリーは、未処理の基材多孔質フィルムに対する接触角が75°以上となるように調製され、前記塗工スラリーの粘度は、300cP以上10000cP以下の範囲である方法。
【請求項3】
前記基材多孔質フィルムが、ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムである請求項1または2記載の積層多孔質フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記基材多孔質フィルムの空隙率が55体積%以上である請求項1から3のいずれかに記載の積層多孔質フィルムの製造方法。
【請求項5】
溶媒が、水と有機極性溶媒との混合溶媒である請求項1から4のいずれかに記載の積層多孔質フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記有機極性溶媒が、アルコールである請求項5記載の積層多孔質フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記バインダー樹脂が、前記塗工スラリーに溶解できる樹脂である請求項1から6のいずれかに記載の積層多孔質フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記バインダー樹脂が、水溶性のセルロースエーテルである請求項1から7のいずれかに記載の積層多孔質フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記フィラーが、無機フィラーである請求項1から8のいずれかに記載の積層多孔質フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2013−46901(P2013−46901A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162908(P2012−162908)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】