説明

積層多孔質酸化チタン及びその製造方法並びにこれを用いた触媒

無機酸化物を核とし、その表面に酸化チタンが担持された積層多孔質酸化チタンであって、X線光電子分光法(XPS)で測定された無機酸化物の構成金属(M)及びチタン(Ti)の合計に対するチタン(Ti)の存在比{B=TiXPS/(TiXPS+MXPS)}と無機酸化物の構成金属(M)及びチタン(Ti)の合計に対するチタン(Ti)のバルク混合モル比{A=Ti/(Ti+M)}との比で表されるチタン偏在指数(B/A)が1.6以上であり、前記酸化チタンが無機酸化物の表面にこの無機酸化物と化学的及び/又は微視的に一体となって担持されている積層多孔質酸化チタン、及びその製造方法、並びにこれを用いた触媒であり、制御された細孔構造を有すると共に高比表面積で機械的強度に優れており、触媒として、あるいは、触媒担体として有用なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、触媒自体として、あるいは、触媒担体として有用な多孔質酸化チタン及びその製造方法並びにこれを用いた触媒に係り、より詳しくは、無機酸化物を核として製造され、無機酸化物の表面に酸化チタンが担持された積層多孔質酸化チタン及びその製造方法並びにこれを用いた触媒に関する。
【背景技術】
酸化チタン(チタニア)は、水素化能、耐食性及び光酸化能等においてアルミナより優れた特性を有することから、石油類の水素化精製や排煙脱硝の分野だけでなく、最近では光触媒の分野においても、高機能性触媒材料として注目されている。しかしながら、従来の合成法から得られる酸化チタンにおいては、その比表面積が比較的低く、また、反応物質に適した細孔構造を付与することが難しく、更には、機械的強度もアルミナより低いという問題がある。
すなわち、多孔質酸化チタンの細孔構造、比表面積及び機械的強度は、酸化チタンの1次及び2次粒子の集合体によって決定され、通常これら集合体の成形体を触媒又は触媒担体として用いている。そして、反応物質に適した細孔構造については、pHスイング法により制御することができ、また、比表面積については、粒子成長防止剤の添加によって、アルミナ及びシリカ程ではないものの、高比表面積とすることができる(特開2003−40,689号公報参照)。
しかしながら、機械的強度については、酸化チタンが球状粒子であることから、一般に針状粒子及び/又は柱状粒子であるアルミナに比べて低いという問題がある。そこで、微小粒子を一部混在させて酸化チタンの機械的強度を向上させようとする試みも行われている(特開2003−201,120号公報)が、この技術によっても、一般的な工業触媒として適した機械的強度を得ることが困難であり、また、得られた酸化チタンの比表面積も十分とはいえない。
また、比表面積を向上させるための試みとして、多孔質アルミナ成形体の表面に、CVD法(化学蒸着法)により、酸化チタン等を蒸着する方法が提案されている(特開平3−275,143号公報、特開平6−106,061号公報、及び日本工業新聞社発行「PPM」1992年9月号参照)。しかしながら、この技術においては、固定されたアルミナの細孔内に酸化チタンが蒸着されることから、蒸着により担持された酸化チタンが13%を超えると、X線回折によりアナタースが確認され、酸化チタンの凝集が引き起こされて細孔径分布がブロードになり、目的反応物に最適な有効細孔が減少するという問題が生じる。また、酸化チタンの蒸着によりアルミナの細孔が閉塞され、その後に触媒金属を担持させる際に所望の触媒金属を担持させることが困難になる場合がある。更に、工業規模で製造することを考慮すると、四塩化チタン(TiCl)と水(HO)との反応により塩化水素(HCl)の発生が避けられず、この塩化水素の環境汚染に対する対策も必要になる。
更に、上述した酸化チタンの問題点を解決するための技術として、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ等をバインダーとして酸化チタンを成形する方法や、共沈法により得られるこれら化合物とチタンとの複合化合物を担体として用いる方法も開示されている(特開平5−96,161号公報、特開平5−192,575号公報、特開2000−135,440号公報、特開2001−9,279号公報、及び特開平10−118,495号公報参照)。また、ゲル同士を混合し混練して得られる複合酸化物を担体として用いる方法が開示されている(特開平3−131,340号公報、及び特開平5−184,921号公報参照)。更に、ゾルゲル法による方法も開示されている(Materials Letters 43(2000),p286−290、及び J.MATER.CHEM.(1994)4(4),p585−589参照)。
しかしながら、これらの技術では、酸化チタンの純度が低下し、酸化チタンとそれ以外の物質との単なる中間的な性能を示すだけのものとなったり、更には、酸化チタン以外の物質による複合効果により副反応が助長され、反応物質の選択性が低下したり、触媒劣化が早まる等の虞もある。
更にまた、アルミナヒドロゲルにチタニア水溶液を担持させて焼成した担体を用いる方法も開示されている(特開昭54−19,491号公報、特開2002−85,975号公報、及びSymposium on Better Ceramics Through Chemistry(6th)1994,p445−450参照)。しかしながら、この技術においては、単にアルミナヒドロゲルにチタニウム鉱酸塩水溶液を担持させているだけなので、担持された酸化チタンは、X線回折においてアナターゼ構造となり、アルミナと化学的に及び微視的に一体とならず、部分的に酸化チタンの凝集体又は集合体が形成され、アルミナヒドロゲル表面全体に酸化チタンを担持させることは困難である。
そこで、本発明者らは、制御された細孔構造を付与することができ、高比表面積で、しかも、優れた機械的強度を有する多孔質酸化チタンの開発について鋭意検討した結果、制御された細孔構造を有して核となる無機酸化物の表面に担持させ、かつ、その際に酸化チタンを所定のチタン偏在指数で無機酸化物の表面に偏在させることにより、無機酸化物が有する細孔構造を維持しつつこの無機酸化物の表面を酸化チタンで被覆し、これによって制御された細孔構造を有すると共に、高比表面積で優れた機械的強度を有する積層多孔質酸化チタンを得ることができることを見い出し、本発明を完成した。
従って、本発明は、制御された細孔構造を有すると共に、高比表面積で、しかも、優れた機械的強度を有し、触媒自体として、あるいは、触媒担体として有用な積層多孔質酸化チタンを提供するものである。
また、本発明は、制御された細孔構造を有すると共に、高比表面積で、しかも、優れた機械的強度を有し、触媒自体として、あるいは、触媒担体として有用な積層多孔質酸化チタンの製造方法を提供するものである。
更に、本発明は、制御された細孔構造を有すると共に、高比表面積で、しかも、優れた機械的強度を有する積層多孔質酸化チタンを用いた水素化精製触媒、CO水素化触媒、排煙脱硝触媒、光触媒等の触媒を提供するものである。
【発明の開示】
すなわち、本発明は、無機酸化物を核とし、その表面に酸化チタンが担持された積層多孔質酸化チタンであって、X線光電子分光法(XPS)で測定された無機酸化物の構成金属(M)及びチタン(Ti)の合計に対するチタン(Ti)の存在比{B=TiXPS/(TiXPS+MXPS)}と無機酸化物の構成金属(M)及びチタン(Ti)の合計に対するチタン(Ti)のバルク混合モル比{A=Ti/(Ti+M)}との比で表されるチタン偏在指数(B/A)が1.6以上であり、前記酸化チタンが無機酸化物の表面にこの無機酸化物と化学的及び/又は微視的に一体となって担持されている積層多孔質酸化チタンである。
また、本発明は、無機酸化物を核とし、その表面に酸化チタンが担持された積層多孔質酸化チタンの製造方法であり、前記無機酸化物の存在下、原料チタン溶液とpH調整剤とを供給し、酸化チタンの等電点と前記無機酸化物の等電点との間のpH領域において前記無機酸化物の表面に酸化チタンを積層させる積層工程を含む積層多孔質酸化チタンの製造方法である。
更に、本発明は、上記積層工程の後に焼成処理された、若しくは焼成処理されていない積層多孔質酸化チタンからなる、光触媒等の触媒であり、また、上記積層工程の後に焼成処理された、若しくは焼成処理されていない積層多孔質酸化チタンを担持体とし、この担持体に触媒金属を担持させてなる、水素化精製触媒、CO水素化触媒、排煙脱硝触媒等の触媒である。
本発明の積層多孔質酸化チタンによれば、触媒活性の高い酸化チタンがX線回折により酸化チタンの結晶構造を示さない、すなわち、無機酸化物と化学的及び/又は微視的に一体となって前記無機酸化物の表面に担持されているため、酸化チタン自身の高い触媒活性をスポイルすることなく引き出すことが可能となる。
ここで、「化学的及び/又は微視的に一体」とは、前記無機酸化物の表面に担持された酸化チタンが、例えば凝集や混合のように単に物理的に無機酸化物の表面と接触しているのではなく、強固に化学的に結合しているか、あるいは、極めて微細な結晶として前記無機酸化物の表面を覆うように結合し、前記無機酸化物と酸化チタンとが一体化している状態を指す。この状態の積層多孔質酸化チタンは、核となる前記無機酸化物の化学的特性に左右されずに酸化チタン自身の高い触媒活性を示すものとなる。勿論、本発明の積層多孔質酸化チタンには、核となる無機酸化物と化学的及び/又は微視的に一体となっていない酸化チタンが一部含まれていてもよい。
すなわち、本発明の積層多孔質酸化チタンにおいては、無機酸化物と酸化チタンとの単なる中間的な性能を示すだけのものとなったり、無機酸化物による複合効果により副反応が助長されて反応物質の選択性が低下したり、触媒劣化が進むという不具合を示すことがない。従来の異種の無機酸化物と酸化チタンとの複合酸化物(異種の無機酸化物をバインダーとするものや、異種の無機酸化物との共沈法によるもの等)においては、複合酸化物表面に異種の無機酸化物が部分的に露出し、その性質に由来する特性も発現する。これに対して、本発明の積層多孔質酸化チタンにおいて上述した効果が生じるのは、担持された酸化チタンが無機酸化物の表面に一体となって存在し、また、固定された細孔内への蒸着等による複合化と異なり、前記無機酸化物の一次粒子等の微粒子表面に酸化チタンが担持されるため、圧倒的に酸化チタンの担持量を多くすることが可能であり、実質的に全ての露出面が酸化チタンとなり、この酸化チタンに由来する性質のみが発揮されるためであると推定される。
更に、本発明の積層多孔質酸化チタンによれば、前記無機酸化物由来の物理的特性が反映される。すなわち、上述したように、従来の合成法で得られた酸化チタンについては、通常その比表面積が低く、細孔容積や細孔分布等について制御された細孔構造を得ることが難しく、また、機械的強度においても比較的低いという問題があるが、例えば核として用いる無機酸化物として、高比表面積で細孔容積が大きく、反応物質に適した細孔分布を有し、機械的強度の高いアルミナを用いることにより、本発明の積層多孔質酸化チタンは、その表面が酸化チタンとしての化学的特性を示すにもかかわらず、物理的特性については、高比表面積で制御された細孔構造を有し、しかも、機械的強度にも優れているという核として用いたアルミナの物理的特性が反映され、触媒として、あるいは、触媒担体として、極めて優れた特性を示すものとなる。
ここで、「化学的及び/又は微視的に一体」となっている状態の一例としては、前記無機酸化物の表面における酸化チタンの結晶格子面の繰り返し長さが50Å以下、好ましくは40Å以下、より好ましくは20Å以下となっていることが挙げられる。一般的には、このように結晶格子面の繰り返しが微細な物質は、X線回折装置で測定すると、他の回折線との重なり等が生じてしまい、測定限界となる。
従って、一般のX線回折装置により本発明の積層多孔質酸化チタン表面を測定しようとしても、酸化チタン(アナタース)のメインピーク2θ=26.5°が検出されない場合がある。逆に言うと、無機酸化物の表面に確実に酸化チタンが存在しているにもかかわらず、一般のX線回折装置により酸化チタンのメインピーク2θ=26.5°が検出されない場合には、本発明の積層多孔質酸化チタンであるということができる。勿論、本発明の積層多孔質酸化チタンの全てについて、X線回折装置により酸化チタンのメインピーク2θ=26.5°が検出されないわけではない。
また、「化学的及び/又は微視的に一体」となっている状態の他の一例として、透過型電子顕微鏡(TEM)による高倍率(例えば、200万倍)像(以下、単に「TEM像」という)において、無機酸化物と酸化チタンの粒子とが明確に区別できない状態が挙げられる。無機酸化物と酸化チタンとが、化学的にも微視的にも別個のものとなっていれば、TEM像で結晶格子面間隔から別個に認識できるはずであるが、化学的に一体となっていたり、極微細な結晶として無機酸化物に担持されていると、両者を区別して確認することはできない。
従って、無機酸化物の表面に、確実に酸化チタンが存在しているにもかかわらず、一般のTEM装置によるTEM像で、無機酸化物と酸化チタンの粒子とが結晶格子面間隔から明確に区別できない場合には、本発明の積層多孔質酸化チタンであるということができる。勿論、本発明の積層多孔質酸化チタンの全てについて、TEM像で無機酸化物と酸化チタンの粒子とが明確に区別できないわけではない。
以下、本発明の積層多孔質酸化チタン及びその製造方法並びにこれを用いた触媒について、項目に分けて詳細に説明する。
〔無機酸化物〕
本発明において、核となる無機酸化物は、その表面に酸化チタンを担持することができるものであれば特に制限はなく、ヒドロゾル、ヒドロゲル、及びキセロゲルを始めとして、水酸化物あるいは含水酸化物と一般に称される化合物等の水酸基が多量に存在する状態のものでもよい。具体的には、アルミナ、シリカ、マグネシア、シリカアルミナ、シリカチタニア、アルミナジルコニア、シリカジルコニア、シリカマグネシアからなる群より選ばれる少なくとも1つからなるものが好ましく、特にアルミナ、シリカ、シリカアルミナ等が好ましい。これらアルミナやシリカは、それ自身、制御された細孔構造を有すると共に、比較的高比表面積で優れた機械的強度のものを得易く、最終的に優れた性能を有する積層多孔質酸化チタンを得ることができる。
前記の無機酸化物の形状については、特に制限はなく、どのような形状のものであっても使用することができるが、広範な細孔構造の制御が可能であって、比較的に高比表面積で機械的強度が高いものを得る上で、好ましくは針状又は柱状であることが好ましい。ここで針状と柱状との間を明確に区別する意義はなく、無機酸化物の形状をアスペクト比(長径/短径)で表せば、好ましくは5以上、より好ましくは10以上の針状又は柱状であるのがよい。
また、この無機酸化物としては、pHスイング法で合成されたものであることが好ましい。pHスイング法で合成することにより、多孔質で均質な粒子形状(例えば、アルミナであれば針状)を有する無機酸化物を得ることができ、また、このpHスイングの条件を制御することにより、容易に制御された細孔構造の無機酸化物を得ることができ、所望の物理的特性を有する無機酸化物を得ることができる。
なお、本発明において「pHスイング法」とは、無機酸化物合成液のpHを酸性側とアルカリ性側との間で変化させることにより、無機酸化物を溶解領域と沈殿領域との間でスイングさせ、これによって目的の粒子径まで均一成長させる合成方法のことを言う。このpHスイング法では、スイング回数、合成温度、酸側及びアルカリ側のpH及び保持時間、原料濃度、粒子成長調整剤等の添加物の有無など、各種条件を適宜制御することにより、所望の細孔構造、比表面積の無機酸化物の粒子とすることができる。従って、本発明において、pHスイング法による前記無機酸化物の合成時の各種条件に制限はなく、その目的に応じて適宜選択すればよい。
このpHスイング法による無機酸化物の合成法については、例えばアルミナについては、特公平1−16,773号公報、特公平2−56,283号公報、「セラミックス」1998年No.4等の文献のほか、特願2002−97,010号公報にも詳細に記載されている。その他の無機酸化物に関しては、特開昭56−120,508号公報(マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、シリカマグネシア)、特開昭56−115,638号公報(アルミナ、シリカ、チタニア、ボリア、ジルコニア、シリカアルミナ、シリカマグネシア等)等に記載されている。
〔酸化チタン〕
本発明において、前記の無機酸化物の表面に担持される酸化チタンは、表面状態が後述のものである他、特に制限はない。一般に酸化チタンは、略球形をしており、本発明においてもそのままの形状であっても構わないが、前記無機酸化物と化学的及び/又は微視的に一体となった状態として、他の形状や形状が確認できない状態となっていても構わない。
本発明の積層多孔質酸化チタンにおいて、無機酸化物の表面に担持される酸化チタンは、X線光電子分光法(XPS)で測定された無機酸化物の構成金属(M)及びチタン(Ti)の合計に対するチタン(Ti)の存在比{B=TiXPS/(TiXPS+MXPS)}と、無機酸化物の構成金属(M)及びチタン(Ti)の合計に対するチタン(Ti)のバルク混合モル比{A=Ti/(Ti+M)}との比で表されるチタン偏在指数(B/A)が1.6以上、好ましくは2.0以上であることが必要である。ここで、XPSで測定されたチタンの存在比Bは積層多孔質酸化チタンの表面近傍での酸化チタンの存在割合を示しており、また、バルク混合モル比Aが積層多孔質酸化チタン全体での酸化チタンの存在割合を示しているので、上記のチタン偏在指数(B/A)は、積層多孔質酸化チタンにおいて、核となる無機酸化物の表面に積層された酸化チタンがその表面近くに偏在する程度を示し、その値が大きくなるほど酸化チタンが無機酸化物の表面近くにより多く存在していることを示す。このチタン偏在指数(B/A)が1.6より低くなると、チタンの含有量が低い場合には、無機酸化物の表面が完全には覆われず、部分的に無機酸化物の表面が露出し、この部分で無機酸化物の性質が現れ、酸化チタンのみの表面活性が発現し難くなり、酸化チタンの化学的特性が低下し、また、チタンの含有量が多い場合には、酸化チタン同士の結合あるいは結晶化が起こり、結果的に積層酸化チタンの比表面積が低下する。更に、積層酸化チタンの機械的強度も低下する。
ここで、前記の存在比BをXPSで測定する際の測定条件については、下記の通りである。
X線源:MgKα(励起エネルギー:1253.6eV)
印加電圧:10kV
エミッション電流:20mA
Pass Energy:50eV
光電子取り出し角:90°
スパッタリング:無
また、積層多孔質酸化チタン全体に対する酸化チタンの担持量(含有量)については、通常13質量%以上60質量%以下、好ましくは15質量%以上50質量%以下、より好ましくは20質量%以上45質量%以下であるのがよい。この酸化チタンの担持量が13質量%より低いと、無機酸化物の表面が完全には覆われず、部分的に無機酸化物の表面が露出し、この部分で無機酸化物の性質が現れ、酸化チタンのみの表面活性が発現し難くなり、反対に、60質量%より高くなると、酸化チタン同士の結合が起こり、結果的に積層酸化チタンの比表面積が低下し、かつ機械的強度も低下する。
〔表面状態〕
本発明の積層多孔質酸化チタンにおいて、その多孔質構造を形成しているものは、核となる無機酸化物が有する細孔構造に由来するものと、この無機酸化物の表面に積層された酸化チタンの結晶相互の空隙に由来するものであると考えられるが、酸化チタンの結晶が極微細であることから、積層多孔質酸化チタンの細孔構造は主として無機酸化物の細孔構造により決定される。このため、核となる無機酸化物について比較的大きな比表面積で、制御された細孔構造を得れば、その表面状態を積層多孔質酸化チタンに反映させることができる。すなわち、均一な球状の粒子である酸化チタンは、それのみでは粒子サイズで比表面積が決まってしまうが、本発明においては、無機酸化物の表面状態が略そのまま反映される。
本発明の積層多孔質酸化チタンは、細孔シャープネス度が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であるのがよく、また、細孔容積が0.3mL/g以上、好ましくは0.4mL/g以上であるのがよく、更に、比表面積が100m/g以上、好ましくは130m/g以上、より好ましくは150m/g以上であるのがよい。細孔シャープネス度が50%より低いと、反応に有効な細孔の割合が低下して触媒活性が低下し、また、細孔容積が0.3mL/gより低いと、担持触媒金属により細孔が占有され、多くの触媒金属を担持できなくなり、更に、比表面積が100m/gより低いと、単位表面積当たりの活性は高くても、触媒性能は反応場に供される触媒の総表面積で決まるために、実際の活性レベルが低下する。
ここで「細孔シャープネス度」とは、最適細孔径範囲を規定している。すなわち、全細孔容積の50%における細孔径(メディアン直径)を求め、次にメディアン直径の対数値の±5%の細孔径範囲内に有する細孔容積(PVM)を求め、その細孔容積(PVM)と全細孔容積(PVT)から、以下の式により細孔径分布の細孔シャープネス度を求めるものである。
細孔シャープネス度(%)=(PVM/PVT)×100
この細孔シャープネス度の値が100%に近づくほど細孔の径が揃っていることを意味する。当該細孔シャープネス度は、例えば、水銀圧入法により測定された累積細孔分布曲線から上式により計算することができる。
また、「細孔容積」とは、測定対象となる積層多孔質酸化チタンにおける細孔個々の容積(S)の合計(ΣS)を、その積層多孔質酸化チタンの質量(m)で除して得られる値(ΣS/m)である。この細孔容積は、例えば、水銀圧入法や窒素吸着法等により測定することができる。
更に、比表面積は、例えば、水銀圧入法や窒素吸着法等により測定することができる。
〔製造方法〕
以上のような本発明の積層多孔質酸化チタンは、前記無機酸化物の存在下、原料チタン溶液とpH調整剤とを供給し、酸化チタンの等電点と前記無機酸化物の等電点との間のpH領域において、前記無機酸化物の表面に酸化チタンを沈殿積層させる前記沈殿積層工程を含む、本発明の積層多孔質酸化チタンの製造方法(以下、単に「本発明方法」という場合がある。)により得ることができる。本発明方法においては、前記沈殿積層工程に先立ち、pHスイング法により前記無機酸化物を含む分散液を調製するpHスイング工程を含んでもよいし、前記沈殿積層工程に引き続き、90〜900℃の範囲内の温度で焼成処理を行う焼成工程を含んでもよい。
本発明の積層多孔質酸化チタンの製造方法によれば、無機酸化物の表面に触媒活性の高い酸化チタンが化学的及び/又は微視的に一体となって担持された積層多孔質酸化チタンを、簡易かつ低コストで安定的に製造することができる。
〔pHスイング工程〕
ここで、pHスイング工程は、原料の1つである前記無機酸化物をpHスイング法により製造する工程であり、既に「無機酸化物」の項の中で述べた通りである。pHスイング工程により無機酸化物を含む分散液が調製されるが、本発明方法においては、それに引き続き、得られた前記分散液をそのまま沈殿積層工程の操作に供することができる。
〔沈殿積層工程〕
本発明方法において必須の工程である沈殿積層工程は、前記無機酸化物の存在下、原料チタン溶液とpH調整剤とを供給し、酸化チタンの等電点と前記無機酸化物の等電点との間のpH領域において、前記無機酸化物の表面に酸化チタンを沈殿積層させる工程である。
ここで、無機酸化物や酸化チタンの等電点は、物質固有の値であり、その値のpHを境に、液中に浮遊する粒子表面の帯電性が正又は負に切り替わる。より具体的には、液中に浮遊する粒子の表面は、等電点を境にして、アルカリ側では負に帯電し、また、酸側では正に帯電することになる。既述のpHスイング法では、この等電点を跨いでpHを変化させることにより、結晶の成長及び一部溶解を繰り返し、結果として均質な結晶を成長させている。
本発明の積層多孔質酸化チタンの製造方法においては、原料チタン溶液とpH調整剤とを供給し、酸化チタンの等電点と前記無機酸化物の等電点との間のpH領域において、前記無機酸化物の表面に酸化チタンを沈殿積層させる。このようにpH領域を調整することで、前記無機酸化物と酸化チタンの表面電荷が正負逆極性となり、前記無機酸化物の表面に酸化チタンが良好に引き寄せられ、化学的及び/又は微視的に一体化するものと推定される。
酸化チタン及び無機酸化物の等電点は、下記表の通りである。なお、シリカチタニア、アルミナジルコニア等の混合物は、それぞれその単品の等電点の間であって、混合割合に応じた値をとる。

ここで、無機酸化物としてアルミナを用いた場合を例に挙げると、酸化チタンの等電点が6.0であってアルミナの等電点が9.0なので、原料チタン溶液とpH調整剤とを供給し、反応液のpHを6.0〜9.0の間に調整する。すると、アルミナの表面は等電点よりもpHが低いために正になり、反対に、酸化チタンの表面は等電点よりもpHが高いため負になり、アルミナの表面に酸化チタンが良好に担持される。
また、無機酸化物としてシリカを用いた場合を例に挙げると、シリカの等電点が2.0なので、原料チタン溶液とpH調整剤とを供給し、反応液のpHを2.0〜6.0の間に調整する。すると、酸化チタンの表面は等電点よりもpHが低いため正になり、反対に、シリカの表面は等電点よりもpHが高いため負になり、シリカの表面に酸化チタンが良好に担持される。
ここで、沈殿積層工程の操作について、具体的に説明する。
先ず、水に無機酸化物を分散して分散液を調製する。既述のpHスイング工程を経た場合には、調製された分散液をそのまま用いてもよい。このとき無機酸化物の濃度としては、通常5〜200g/L程度の範囲から選択され、好ましくは10〜100g/L程度の範囲から選択される。
調製された分散液に、原料チタン溶液とpH調整剤とを供給し、目標のpH領域内にて沈殿積層させてもよいし、分散液のpHを目標の領域内に、pH調整剤により予め調整してもよい。酸側に調整するpH調整剤としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、炭酸、ギ酸、酢酸等が挙げられ、中でも塩酸、硝酸が好ましい。また、アルカリ側に調整するpH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、中でも、水酸化ナトリウム、アンモニア水が好ましい。
前記の分散液中には、好ましくはケイ素、燐、マグネシウム、カルシウム、バリウム、マンガン、アルミニウム及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む粒子成長調整剤を添加し存在させておくのがよい。これら粒子成長調整剤を添加しておくことにより、酸化チタンの熱安定性が向上し、高温の焼成温度においても微細で、かつ凝集することなく、無機酸化物と化学的及び/又は微視的な結合が維持される。
本発明で用いるのに好適な粒子成長調整剤の具体例としては、四塩化ケイ素、二酸化ケイ素、コロイダルシリカ、ケイ酸、ケイ酸塩、燐酸、燐酸水素アンモニウム塩、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸バリウム、硫酸バリウム、硝酸ジルコニル、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸マンガン、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。前記粒子成長調整剤の添加量としては、その種類、目的、無機酸化物の種類等の条件によって適宜調整すればよいが、通常、使用する酸化チタンに対して概ね0.1〜3質量%程度の範囲であるのがよい。
次に、分散液を適度に攪拌させた状態で、原料チタン溶液とpH調整剤とを供給する。原料チタン溶液としては、一般に塩化チタンの溶液が用いられるが、硫酸チタン、硫酸チタニル等の溶液を用いても構わない。原料チタン溶液の濃度としては、特に制限はないが、大略1〜50質量%程度の範囲から選択される。
一方、pH調整剤としては、前記分散液のpH調整に使用可能な既述のpH調整剤のうち、アルカリ側に調整するものの中から適宜選択することができ、好ましいものも同様である。前記分散液のpH調整に使用したものと必ずしも同一のものを選択しなくても構わないが、前記分散液のpH調整にアルカリ側に調整するpH調整剤を使用した場合には、同一のものを選択することが好ましい。
この沈殿積層工程における反応液の温度としては、通常は常温〜100℃程度の範囲から選択され、好ましくは40〜90℃の範囲内であり、より好ましくは50〜70℃の範囲内である。沈殿積層工程における反応時間については、濃度、温度、無機酸化物及び原料チタン溶液の種類等にもよるが、通常1分〜1時間程度の範囲から選択され、好ましくは3〜30分の範囲である。
以上のようにして、沈殿積層工程の操作が完了し、無機酸化物の表面に酸化チタンが担持された積層多孔質酸化チタンが製造される。製造後の積層多孔質酸化チタンは、溶液から分離され、水洗浄、成型後、適宜乾燥を行い、所望の目的に供される。
〔焼成工程〕
得られた積層多孔質酸化チタンに対しては、好ましくは更に焼成処理が行われる。この焼成処理は、通常のオーブンや回転式のキルン等により施すことができる。また、焼成処理の条件は、焼成温度が90℃以上900℃以下、好ましくは120℃以上700℃以下の温度で、焼成時間が30分以上5時間以下の範囲、好ましくは1時間以上3時間以下の範囲である。この焼成処理を行うことにより、結晶水を除去し、不純物等を酸化分解させることができ、これによって触媒金属の担持を促進させ、かつ、機械的強度を工業的使用に適する程度にまで向上させることができる。
〔用途〕
以上のようにして得られた本発明の積層多孔質酸化チタンは、制御された細孔構造を有し、高比表面積であって、しかも、機械的強度にも優れていることから、これを触媒担体として用い、適当な触媒金属を担持させた触媒として多くの用途に好適に用いることができ、具体的には、その構成に応じて、例えば、水素化精製触媒、排煙脱硝触媒、CO水素化触媒等を例示することができる。
ここで、本発明の積層多孔質酸化チタンを触媒担体として担持させることができる触媒金属としては、例えば、タングステン、モリブデン、コバルト、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金、燐、ホウ素、バナジウム等を挙げることができ、更にこれらを適宜組み合わせて用いることもでき、また、その際に触媒金属を担持させる方法については、特に制限はなく、一般的な公知の方法を採用することができ、例えば、含浸法、イオン交換法、混練法等を挙げることができるほか、焼成行程にかける前の積層多孔質酸化チタンにイオン交換的に触媒金属を担持させ、その後に焼成行程を経て触媒化することもできる。
また、本発明の積層多孔質酸化チタンは、制御された細孔構造を有し、高比表面積であって、しかも、機械的強度にも優れていることから、例えば酸化チタン自体が有する光酸化分解及び超親水性作用等の光触媒性能を利用し、脱臭、水処理、抗菌、汚れ防止等の各分野においては、それ自体を触媒活性の高い優れた光触媒として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1の積層多孔質酸化チタンのX線回折測定結果を示すチャートである。
図2は、実施例2の積層多孔質酸化チタンのX線回折測定結果を示すチャートである。
図3は、実施例3の積層多孔質酸化チタンのX線回折測定結果を示すチャートである。
図4は、実施例4の積層多孔質酸化チタンのX線回折測定結果を示すチャートである。
図5は、比較例1のアルミナ/酸化チタン成型体のX線回折測定結果を示すチャートである。
図6は、比較例2のアルミナ/酸化チタン成型体のX線回折測定結果を示すチャートである。
図7は、比較例3のアルミナ/酸化チタン成型体のX線回折測定結果を示すチャートである。
図8は、比較例4の酸化チタン/アルミナ混合物のX線回折測定結果を示すチャートである。
図9は、比較例5の酸化チタン成型体のX線回折測定結果を示すチャートである。
図10は、比較例6のアルミナ成型体のX線回折測定結果を示すチャートである。
図11は、軽油(Gas Oil)の水素化脱硫(Hydrodesulfurization)試験による触媒活性結果を示すグラフである。
図12は、比較例13と実施例5の積層多孔質酸化チタンについて、ラマン分光分析の結果を比較して示すチャートである。
図13は、比較例16と実施例5の積層多孔質酸化チタンについて、X線回折測定結果を比較して示すチャートである。
図14は、実施例5〜10及び比較例7〜11のアルミナ/酸化チタン成型体のチタニア含有量と機械的強度(SCS)との関係を示すグラフである。
図15は、VGO(Vacuum Gas Oil)の水素化脱硫試験による触媒活性結果を示すグラフである。
図16は、軽油の水素化脱硫試験による触媒活性結果を示すグラフである。
図17は、実施例5〜10及び比較例7〜11のアルミナ/酸化チタン成型体のチタニア含有量とチタニア被覆指数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例、比較例及び試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」あるいは「%」と記載されているのは特に断りのない限り質量基準であり、また、「L」はリットルを意味する。
〔実施例1〜4及び比較例1〜6〕
【実施例1】
[pHスイング工程1]
核としてのアルミナヒドロゲル(無機酸化物)を以下のようにして調製した。
硝酸アルミニウム925gに水2075gを加えA液を調製した。次にアルミン酸ナトリウム560gに水を2440gを加えB液を調製した。
15Lのホーロー容器に水を2.5L加え、攪拌しながら60℃に加熱した。当該ホーロー容器にA液を180g加え5分間保持した。この時、合成溶液のpHは2.5であった。
次に、前記ホーロー容器にB液を200g加え、合成溶液のpHを9.0とし5分間保持した。
その後、A液を180g加えpHを2.5とし5分間保持し、再びB液を180g加えpHを9とし5分間保持する操作を3回繰り返した。
以上のようにして、Al基準で37g/Lのアルミナヒドロゲルの分散液を調製した。得られたアルミナヒドロゲル中のアルミナは、TEM像から針状を示し、アスペクト比(長径/短径)が約10、長径が40nmであった。
[沈殿積層工程]
得られたアルミナヒドロゲル分散液2000部を60℃に保ち、コロイダルシリカ(SiOとして8%含有、粒子成長調整剤)1.8部を添加し、塩酸(pH調整剤)を添加して、本発明において特徴的な構成であるアルミナと酸化チタンを化学的及び/又は微視的に一体とするため、酸化チタンの等電点とアルミナの等電点との間となるように、pHを7.5として、これに37.9%−四塩化チタン溶液97.7部及び14%−アンモニア水(pH調整剤)を同時に添加して、pHを7.5に、温度を60℃に保ちつつ、5分間反応させ、積層多孔質酸化チタンのヒドロゲルを得た。
得られた積層多孔質酸化チタンのヒドロゲルを水洗浄し、濾取し、成型後、120℃で3時間乾燥させた。
[焼成工程]
沈殿積層工程で得られた積層多孔質酸化チタンをオーブンに入れ、500℃で3時間焼成処理して、実施例1の積層多孔質酸化チタンを得た。この積層多孔質酸化チタンの特性を下記表2にまとめて示す。
【実施例2】
実施例1において、コロイダルシリカの添加量を3.6部とし、37.9%−四塩化チタン溶液を146.6部としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の積層多孔質酸化チタンを得た。この積層多孔質酸化チタンの特性を下記表2にまとめて示す。
【実施例3】
実施例1において、コロイダルシリカの添加量を5.4部とし、37.9%−四塩化チタン溶液を195.4部としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の積層多孔質酸化チタンを得た。この積層多孔質酸化チタンの特性を下記表2にまとめて示す。
【実施例4】
実施例1において、無機酸化物をアルミナヒドロゲルから、下記[pHスイング工程2]による製法で得られたシリカヒドロゲルに代え、シリカヒドロゲル分散液の量を2500部とし、粒子成長調整剤及びpH調整剤を添加せず、シリカの等電点と酸化チタンの等電点との間のpH4において、37.9%−四塩化チタン溶液を146.6部とアンモニア水とを加えたこと以外は、実施例1と同様にして実施例4の積層多孔質酸化チタンを得た。この積層多孔質酸化チタンの特性を下記表2にまとめて示す。
[pHスイング工程2]
20Lのホーロー容器にケイ酸ソーダ(JIS 3号)100g/L溶液5Lを加え、攪拌しながら50℃に加温した後、20%−硫酸溶液を添加してpHを4とし、5分間保持しシリカヒドロゲルスラリーを得た。次に、このスラリーにケイ酸ソーダ250g/L溶液400mLを加え、pHを11として10分間保持し、更に20%−硫酸溶液を添加してpHを4とし、10分間保持した。この操作を7回繰り返した。
以上のようにして、シリカヒドロゲルの28.9g/L分散液を調製した。得られたシリカヒドロゲル中のシリカは、球状を示し、粒径が約10nmであった。
比較例1
実施例1と同様の[pHスイング工程]の操作を行い、アルミナヒドロゲル分散液を得た。このアルミナヒドロゲル分散液2000部を60℃に保ち、実施例1と同じコロイダルシリカ(粒子成長調整剤)3.6部を添加し、塩酸によりpHを7.5に調整した。
これを用いて、本発明に規定する範囲外の条件であるアルミナの等電点と酸化チタンの等電点との間を外れたpHで、アルミナに酸化チタンを担持させた。すなわち、37.9%−四塩化チタン溶液48.9部を添加してpHを1.0とし、次いで14%−アンモニア水(pH調整剤)を添加してpHを7.5とした(pHスイング1回)。以上のpHスイング操作は、60℃の温度条件で行い、添加量を微調整してpH値を合わせつつ、合計3回繰り返し(pHスイング3回)、沈殿物を得た。
得られた沈殿物を水洗浄し、濾取し、成型後120℃で3時間乾燥させた。更に得られた成型体を実施例1と同様にして焼成処理し、比較例1のアルミナ/酸化チタン成型体を得た。このアルミナ/酸化チタン成型体の特性を下記表2にまとめて示す。
比較例2
比較例1と同様のコロイダルシリカ(粒子成長調整剤)と塩酸とを添加したアルミナヒドロゲル分散液を用い、これに37.9%−四塩化チタン溶液195.3部を添加したところ、pHは0.5になった。更に14%−アンモニア水(pH調整剤)を添加したところ、pHは7.5になった。以上のpHスイング操作は、60℃の温度条件で行い、沈殿物を得た。
得られた沈殿物を水洗浄し、濾取し、成型後、120℃で3時間乾燥させた。更に得られた成型体を実施例1と同様にして焼成処理し、比較例2のアルミナ/酸化チタン成型体を得た。このアルミナ/酸化チタン成型体の特性を下記表2にまとめて示す。
比較例3
比較例1と同様のコロイダルシリカ(粒子成長調整剤)と塩酸とを添加したアルミナヒドロゲル分散液を用い、これに14%−アンモニア水を添加しpHを9.5とし、更に37.9%−四塩化チタン溶液65.1部を添加し、pHを7.5にした(pHスイング1回)。以上のpHスイング操作は、60℃の温度条件で行い、合計3回繰り返し沈殿物を得た(pHスイング3回)。
得られた沈殿物を水洗浄し、濾過し、成型後、120℃で3時間乾燥させた。更に得られた成形体を実施例1と同様にして焼成処理し、比較例3のアルミナ/酸化チタン成型体を得た。このアルミナ/酸化チタン成型体の特性を下記表2にまとめて示す。
比較例4
実施例1のアルミナヒドロゲルを水洗浄し、濾過し、成型後、120℃で3時間乾燥し、その後500℃で焼成し、アルミナ凝集体を調製した。また、後述の比較例5と同様にして、酸化チタン凝集体を調製した。
次に、前記アルミナ凝集体71.5部と前記酸化チタン凝集体28.5部とをメノウ乳鉢で粉砕混合することにより、酸化チタン28.5%、アルミナ71.5%の比較例4の酸化チタン/アルミナ混合物を得た。この酸化チタン/アルミナ混合物の特性を下記表2にまとめて示す。なお、得られた酸化チタン/アルミナ混合物中のアルミナは、TEM像から針状を示し、アスペクト比(長径/短径)が約10で、長径が40nmであった。一方、酸化チタンは、球形を示し、粒径が約7nmであった。
比較例5
水1100部を60℃に保ち、実施例1と同じコロイダルシリカ(粒子成長調整剤)12.5部を添加したところ、pHは7.5であった。
これに37.9%−四塩化チタン溶液330部を添加してpHを1.5とし、更に14%−アンモニア水(pH調整剤)を添加してpHを7.5とした(pHスイング1回)。このpHスイング操作を、添加量を微調整してpH値を合わせつつ、合計3回繰り返した(pHスイング3回)。すると、酸化チタンの球形粒子(TEM像による粒径約7nm)が得られた。
得られた酸化チタンの球形粒子を水洗浄し、濾取し、成型後、120℃で3時間乾燥させた。更に濾取後の酸化チタンの球形粒子を実施例1と同様にして焼成処理し、比較例5の酸化チタン凝集体を得た。この酸化チタン凝集体の特性を下記表2にまとめて示す。
比較例6
硝酸アルミニウム925gに水2075gを加えA液を調製した。次にアルミン酸ナトリウム560gに水を2440g加えB液を調製した。
15Lのホーロー容器に水を2.5L加え、攪拌しながら60℃に加熱した。当該ホーロー容器にA液を180g加え5分間保持した。この時、合成溶液のpHは2.5であった。
次に、前記ホーロー容器にB液を200g加え、合成溶液のpHを9.0とし5分間保持した。
その後、A液を180g加えpHを2.5とし5分間保持し、再びB液を180g加えpHを9とし5分間保持する操作を3回繰り返した。
得られたアルミナを水洗浄し、濾過し、成型後、120℃で3時間乾燥させた。更に得られた成型体を、実施例1と同様にして焼成処理し、比較例6のアルミナ成型体を得た。このアルミナ成型体の特性を下記表2にまとめて示す。


[評価試験]
上記実施例1〜4及び比較例1〜6で得られた各試料について、以下の評価試験を行った。
(X線回折)
各試料を粉末X線回折装置(装置名:Philips社製、XPERT SYSTEM/APD−1700)によりX線回折測定した。その結果を図1〜図10に示す。なお、このときの粉末X線回折装置の測定条件は、以下の通りである。
=粉末X線回折装置測定条件=
1.セッティング
サンプルステージモード:回転式
回転回数:1
2.測定パラメーター
開始角度:5°
終了角度:80°
ステップサイズ:0.02°
ステップ時間:0.4秒
スキャンスピード:0.05°/秒
ステップ数:3750
トータル時間:25分
酸化チタン単独の比較例5の結果である図9は勿論、比較例の結果である図5〜図8においても、酸化チタン(アナタース)のメインピーク2θ=26.5°が検出されているが、実施例1〜4の結果である図1〜図4では、これが明確に検出されていないことがわかる。これは、各実施例1〜4では、酸化チタンが、前記無機酸化物と化学的及び/又は微視的に一体となっていることを示すものである。
(TEM観察)
透過型電子顕微鏡(TEM、装置名:(株)トプコン/ノーランインスツルメント製、EM−002B、VOYAGERM3055)を用いて、各試料の200万倍のTEM像を確認した。
比較例のものは、いずれも酸化チタンの結晶と推定される、結晶格子面間隔が0.38nmの球形の一次粒子が確認され、特に比較例4においては、明確に球形の一次粒子と、アルミナの結晶と推定される針状の物体との混在状態が確認された。しかし、実施例1及び2においては、球形の一次粒子がほとんど確認できず、実施例3に至っては全く確認することができなかった。これは、実施例では、酸化チタンが、前記無機酸化物と化学的及び/又は微視的に一体となっていることを示すものである。
(機械的強度)
各試料について、以下の方法により機械的強度を測定した。
機械的強度の測定は、円筒状脱硫触媒に関するSIDE CRUSHING STRENGTH(SCS)の測定方法に準拠し、木屋式装置を用いて測定した。直径の略等しい長さ3.0〜4.5mmのサンプルを100本、予め乾燥しておき、1本ずつ定速にて荷重を加え、破壊時の荷重をサンプルの長さで除して求めた。機械的強度の結果を下記表2に示す。
(触媒特性)
実施例3、比較例2、5及び6の各試料に対して、以下の方法によりMo、Co及びP(触媒金属)を担持させて、石油留分の水素化脱硫触媒を得た。
実施例3で調製したヒドロゲルを水洗浄し、濾過し、固形分として20〜30%程度となるまで脱水した。次にパラモリブデン酸アンモニウム、硝酸コバルト及びリン酸を添加した水溶液(Mo、Co及びP水溶液)中に、前記ヒドロゲルを投入し、攪拌を1時間行い、濾過後、金属担持ヒドロゲルを成型し、120℃で3時間乾燥し、500℃で3時間焼成して、MoCoP担持触媒(A)を調製した。
また、実施例3で調製した焼成後の積層多孔質酸化チタンを用い、前記同様のMo、Co及びP水溶液を用いて含浸法により、MoCoP担持触媒(B)を調製した。
更に、比較例2、5及び6で調製した各ヒドロゲルを用い、実施例3による前記MoCoP担持触媒(A)と同様の調製法により、比較例のMoCoP担持触媒を調製した。
以上のように調製した、実施例3、比較例2、5及び6の各試料を担体とする各触媒を用いて、以下の方法により触媒活性を測定した。
(軽油の水素化脱硫試験)
軽油の水素化脱硫処理は、高圧流通式反応装置を用い、反応圧力:5MPa、反応温度:350℃、液空間速度2.0h−1、及び水素/原料比:250Nl/lの条件で実施した。なお、試験に供した触媒は、全てジメチルジスルフィドを添加し、硫黄濃度を2.5%に調整した軽油を用いて、予め硫化処理を施したものを用いた。軽油の水素化脱硫試験による触媒活性結果を、図11にグラフで示す。
この結果から本発明で調製した触媒は比較例5の酸化チタン単独の脱硫活性と同等の活性を有しており、酸化チタンに由来する性質が十分発揮されていることがわかる。
〔実施例5〜11及び比較例7〜16〕
[pHスイング工程1]
核としてのアルミナヒドロゲル(無機酸化物)を以下のようにして調製した。
硝酸アルミニウム740gに水1660gを加えA液を調製した。次にアルミン酸ナトリウム448gに水を1952gを加えB液を調製した。
12Lのホーロー容器に水を2.0L加え、攪拌しながら60℃に加熱した。当該ホーロー容器にA液を144g加え5分間保持した。この時、合成溶液のpHは2.5であった。
次に、上記ホーロー容器にB液を160g加え、合成溶液のpHを9.0とし5分間保持した。
その後、A液を144g加えpHを2.5とし5分間保持し、再びB液を144g加えpHを9とし5分間保持する操作を3回繰り返した。
以上のようにして、Al基準で37g/Lのアルミナヒドロゲルの分散液を調製した。得られたアルミナヒドロゲル中のアルミナは、TEM像から針状を示し、アスペクト比(長径/短径)が約10、長径が40nmであった。
比較例7
[沈殿積層工程]
得られたアルミナヒドロゲル分散液1000部を60℃に保ち、コロイダルシリカ(SiOとして8%含有、粒子成長調整剤)0.9部を添加し、塩酸(pH調整剤)を添加して、酸化チタンの等電点とアルミナの等電点との間となるように、pHを7.5として、これに37.9%−四塩化チタン溶液52.0部及び14%−アンモニア水(pH調整剤)を同時に添加して、pHを7.5に、温度を60℃に保ちつつ、5分間反応させた。
得られた積層多孔質酸化チタンを水洗浄し、濾取し、成型後、120℃で3時間乾燥させた。
[焼成工程]
沈殿積層工程で得られた積層多孔質酸化チタンをオーブンに入れ、500℃で3時間焼成処理して、比較例7の積層多孔質酸化チタンを得た。この積層多孔質酸化チタンの特性を表3にまとめて示す。
【実施例5】
実施例5において、コロイダルシリカの添加量を1.8部とし、37.9%−四塩化チタン溶液を65.0部としたこと以外は、比較例7と同様にして実施例5の積層多孔質酸化チタンを得た。この積層多孔質酸化チタンの特性を表3にまとめて示す。
【実施例6〜10】
実施例5において、コロイダルシリカの添加量を2.7部とし、37.9%−四塩化チタン溶液をそれぞれ77.0、101.0、126.0、155.0、189.0部としたこと以外は、実施例5と同様にして実施例6〜10の積層多孔質酸化チタンを得た。この積層多孔質酸化チタンの特性を表3にまとめて示す。
比較例8〜10
実施例5において、コロイダルシリカの添加量を2.7部とし、37.9%−四塩化チタン溶液をそれぞれ235.0、310.0、465.0部としたこと以外は、実施例5と同様にして比較例8〜10の積層多孔質酸化チタンを得た。この積層多孔質酸化チタンの特性を表3にまとめて示す。
図13に示すように、比較例7や実施例5〜10は、担体の機械的強度(SCS)が、0.5kg/mm以上であるのに対し、比較例8〜10は、機械的強度(SCS)が弱く、0.5kg/mm以下となっており、触媒として実用に耐えないことが分かる。
【実施例11】
実施例5において、無機酸化物をアルミナヒドロゲルから、下記のpHスイング工程2による製法で得られたシリカヒドロゲルに代え、シリカヒドロゲル分散液の量を1250部とし、粒子成長調整剤及びpH調整剤を添加せず、シリカの等電点と酸化チタンの等電点との間のpH4において、37.9%−四塩化チタン溶液を73.3部とアンモニア水とを加えたこと以外は、実施例5と同様にして実施例11の積層多孔質酸化チタンを得た。この積層多孔質酸化チタンの特性を表3にまとめて示す。
比較例7や実施例5と同様のラマン分光分析を実施したが、実施例5と同様に、チタニアのピークのみが観察され、比較例7のようなアルミナのピークは観察されなかった。実施例10においても、完全にアルミナを被覆していることが分かる。
[pHスイング工程2]
16Lのホーロー容器にケイ酸ソーダ(JIS 3号)100g/L溶液4Lを加え、攪拌しながら50℃に加温した後、20%−硫酸溶液を添加してpHを4とし、5分間保持しシリカヒドロゲルスラリーを得た。次に、このスラリーにケイ酸ソーダ250g/L溶液320mLを加え、pHを11として10分間保持し、更に20%−硫酸溶液を添加してpHを4とし、10分間保持した。この操作を7回繰り返した。
以上のようにして、シリカヒドロゲルの28.9g/L分散液を調製した。得られたシリカヒドロゲル中のシリカは、球状を示し、粒径が約10nmであった。
比較例11
水1000部を60℃に保ち、比較例7と同じコロイダルシリカ(粒子成長調整剤)11.0部を添加したところ、pHは7.5であった。
これに37.9%−四塩化チタン溶液300部を添加したところ、pHは1.5になった。更に14%−アンモニア水(pH調整剤)を添加したところ、pHは7.5になった(pHスイング1回)。このpHスイング操作を、添加量を微調整してpH値を合わせながら、合計3回繰り返した(pHスイング3回)。すると、酸化チタンの球形粒子(TEM像による粒径約7nm)が得られた。
得られた酸化チタンの球形粒子を水洗浄し、濾取し、成型後、120℃で3時間乾燥させた。更に濾取後の酸化チタンの球形粒子を比較例7と同様にして焼成処理し、比較例11の酸化チタン凝集体を得た。この酸化チタン凝集体の特性を表3にまとめて示す。
比較例12
比較例7と同様のpHスイング工程の操作を行い、アルミナヒドロゲル分散液を得た。このアルミナヒドロゲル分散液1000部を60℃に保ち、実施例5と同じコロイダルシリカ(粒子成長調整剤)1.8部を添加し、塩酸によりpHを7.5に調整した。
これを用いて、本発明に規定する範囲外の条件であるアルミナの等電点と酸化チタンの等電点との間を外れたpHで、アルミナに酸化チタンを担持させた。すなわち、37.9%−四塩化チタン溶液26.0部を添加したところ、pHは1.0になった。更に14%−アンモニア水(pH調整剤)を添加したところ、pHは7.5になった(pHスイング1回)。以上のpHスイング操作は、60℃の温度条件で行い、添加量を微調整してpH値を合わせつつ、合計3回繰り返し(pHスイング3回)、沈殿物を得た。
得られた沈殿物を水洗浄し、濾取し、成型後120℃で3時間乾燥させた。更に得られた成型体を比較例7と同様にして焼成処理し、比較例12のアルミナ/酸化チタン成型体を得た。このアルミナ/酸化チタン成型体の特性を下記表3にまとめて示す。
比較例13
比較例7と同様のコロイダルシリカ(粒子成長調整剤)と塩酸とを添加したアルミナヒドロゲル分散液を用い、これに37.9%−四塩化チタン溶液77.0部を添加したところ、pHは0.5になった。更に14%−アンモニア水(pH調整剤)を添加したところ、pHは7.5になった。以上の操作は、60℃の温度条件で行い、沈殿物を得た。
得られた沈殿物を水洗浄し、濾取し、成型後、120℃で3時間乾燥させた。更に得られた成型体を比較例7と同様にして焼成処理し、比較例13のアルミナ/酸化チタン成型体を得た。このアルミナ/酸化チタン成型体の特性を表3にまとめて示す。
図12に比較例13と実施例5のラマン分光分析結果を比較して示す。比較例13の例のように等電点間外で酸化チタンを被覆させた場合は、アナタースの代表的な結晶ピークが観察されたが、実施例5のように、同じ酸化チタン量でも等電点間内で被覆させた場合には、アナタースの結晶ピークが全く観察されなかった。実施例6〜11の場合も実施例5と同様に、アナタースの結晶ピークが観察されなかった。
比較例14
比較例7と同様のコロイダルシリカ(粒子成長調整剤)と塩酸とを添加したアルミナヒドロゲル分散液を用い、これに14%−アンモニア水を添加してpHを9.5とし、更に37.9%−四塩化チタン溶液26.0部を添加したところ、pHは7.5になった(pHスイング1回)。以上のpHスイング操作は、60℃の温度条件で行い、合計3回繰り返し沈殿物を得た(pHスイング3回)。
得られた沈殿物を水洗浄し、濾過し、成型後、120℃で3時間乾燥させた。更に得られた成形体を実施例5と同様にして焼成処理し、比較例14のアルミナ/酸化チタン成型体を得た。このアルミナ/酸化チタン成型体の特性を表3にまとめて示す。
比較例15
比較例7のアルミナヒドロゲルを水洗浄し、濾過し、成型後、120℃で3時間乾燥し、その後500℃で焼成し、アルミナ凝集体を調製した。
次に、前記アルミナ凝集体80.0部と比較例12の酸化チタン凝集体20.0部とをメノウ乳鉢で粉砕混合することにより、酸化チタン20.0%、アルミナ80.0%の比較例11の酸化チタン/アルミナ混合物を得た。この酸化チタン/アルミナ混合物の特性を表1にまとめて示す。なお、得られた酸化チタン/アルミナ混合物中のアルミナは、TEM像から針状を示し、アスペクト比(長径/短径)が約10で、長径が40nmであった。一方、酸化チタンは、球形を示し、粒径が約7nmであった。
比較例16
硝酸アルミニウム925gに水2075gを加えA液を調製した。次にアルミン酸ナトリウム560gに水を2440g加えB液を調製した。
15Lのホーロー容器に水を2.5L加え、攪拌しながら60℃に加熱した。当該ホーロー容器にA液を180g加え5分間保持した。この時、合成溶液のpHは2.5であった。
次に、上記ホーロー容器にB液を200g加え、合成溶液のpHを9.0とし5分間保持した。
その後、A液を180g加えpHを2.5とし5分間保持し、再びB液を180g加えpHを9とし5分間保持する操作を3回繰り返した。
得られたアルミナを水洗浄し、濾過し、成型後、120℃で3時間乾燥させた。更に得られた成型体を、比較例7と同様にして焼成処理し、比較例16のアルミナ成型体を得た。このアルミナ成型体の特性を表3にまとめて示す。
比較例16のX線回折測定では、酸化チタン(アナタース)のメインピーク2θ=26.5°とアルミナの46.0と67.0°が検出されているが、実施例5では、これが明確に検出されていないことがわかる。これは、実施例5では、表層の酸化チタンが、X線で検出出来ないほど結晶が小さいか、あるいは不定形であることを示すものである。図13に比較例16と実施例5のX線回折測定結果の比較を示す。また、比較例7、及び実施例6〜11の場合にも、実施例5と同様に、酸化チタンのピークが観察されなかった。
[評価試験]
上記実施例5〜11及び比較例7〜16で得られた各試料について、以下の評価試験を行った。
(チタン被覆指数の定義)
X線光電子分光計(XPS:日本電子製 JPS−9010)を用い、下記の条件でアルミニウム(M)とチタン(Ti)の量をそれぞれ測定し、これらアルミニウム(M)及びチタン(Ti)の合計に対するチタン(Ti)の存在比{B=TiXPS/(TiXPS+MXPS)}を求めた。
=XPS測定条件=
X線源:MgKα(励起エネルギー:1253.6eV)
印加電圧:10kV
エミッション電流:20mA
Pass Energy:50eV
光電子取り出し角:90°
スパッタリング:無
また、アルミニウム(M)及びチタン(Ti)に対するチタン(Ti)のバルク混合モル比{A=Ti/(Ti+M)}を算出し、このバルク混合モル比(A)と上記チタン(Ti)の存在比(B)とからチタン偏在指数(B/A)を求めた。
求められたチタン偏在指数(B/A)を表3に示す。
(X線回折)
上記の実施例1〜4及び比較例1〜6の場合と同様にして測定した。このX線回折の結果を表3に示す。
(ラマン分光測定)
各試料をレーザーラマン分光光度計(装置名:日本分光製、NRS−1000型)によりラマン分光測定した。なお、このときの測定条件は、以下の通りである。
=レーザーラマン分光測定条件=
励起波長:532.22nmグリーンレーザー
(光源部:昭和オプトニクス製JUNO 100S)
レーザー出力:14mW
分光器:シングル
グレーティング:1800l/mm
露光時間:20.0sce
積算回数:3回
試料形状:円柱状の押出成形品をそのまま測定
このラマン分光測定の結果を表3に示す。
(機械的強度)
上記の実施例1〜4及び比較例1〜6の場合と同様にして測定した。この機械的強度の結果を表3に示す。
(触媒特性)
実施例5、6及び9並びに比較例7、11及び12の各試料を用い、前記の実施例3及び比較例2、5及び6の場合と同様にして、焼成処理前の担体にMo、Co及びP(触媒金属)を担持させ、焼成行程を経てMoCoP担持触媒(A)を調製した。
また、比較例15、16で調製した焼成後の触媒担体を用い、前記と同様のMo、Co及びP水溶液を用いて含浸法により、MoCoP担持触媒(B)を調製した。
以上のようにして実施例5、6及び9並びに比較例7、11及び12の各試料を用いて調製した各触媒と、比較例15及び16の各試料を用いて調製した各触媒とについて、以下の方法により触媒活性を測定した。
(VGOの水素化脱硫試験)
VGOの水素化脱硫処理は、高圧流通式反応装置を用い、反応圧力:8MPa、反応温度:370℃、液空間速度2.0hr−1、及び水素/原料比:400Nl/lの条件で実施した。VGOの水素化脱硫試験による触媒活性結果を、比較例11の活性を100として図15にグラフで示す。
この結果から本発明で調製した触媒(実施例)は比較例11の酸化チタン単独の脱硫活性と同等の活性を有しており、酸化チタンに由来する性質が十分発揮されていることがわかる。ただし、比較例7は、核となるアルミナを十分被覆するのに酸化チタンが十分ではないため、脱硫活性がアルミナ単独と余り変わらない。
(軽油の水素化脱硫試験)
軽油の水素化脱硫処理は、高圧流通式反応装置を用い、反応圧力:5MPa、反応温度:360℃、液空間速度2.0h−1、及び水素/原料比:250Nl/lの条件で実施した。なお、試験に供した触媒は、全てジメチルジスルフィドを添加し、硫黄濃度を2.5%に調整した軽油を用いて、予め硫化処理を施したものを用いた。VGOの水素化脱硫試験による触媒活性結果を、比較例11の活性を100として図16にグラフで示す。
この結果から本発明で調製した触媒(実施例)は比較例11の酸化チタン単独の脱硫活性と同等の活性を有しており、酸化チタンに由来する性質が十分発揮されていることがわかる。ただし、比較例7は、核となるアルミナを十分被覆するのに酸化チタンが十分ではないため、脱硫活性がアルミナ単独と余り変わらない。
本発明で定義されるチタン偏在指数が1.6以上である意味(図17)は、10%以下は表層をチタニアで覆いきれず、かつ、60%以上ではアルミナの割合が少なくなり図15のように機械的強度が落ちてしまい実用上の強度0.5kg/mm以下となり実用的でない。更に、60%以上では、チタニアが多くなるため会合しやすくなり、結晶質となり、うまくアルミナを被覆できていない可能性がある。

【産業上の利用可能性】
本発明の積層多孔質酸化チタンは、制御された細孔構造を有すると共に、高比表面積で、しかも、優れた機械的強度を有するので、触媒自体として、あるいは、触媒担体として極めて優れた性能を有し、例えば、水素化精製触媒、CO水素化触媒、排煙脱硝触媒、光触媒等の種々の触媒あるいは触媒担体として工業的に有用なものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物を核とし、その表面に酸化チタンが担持された積層多孔質酸化チタンであって、X線光電子分光法(XPS)で測定された無機酸化物の構成金属(M)及びチタン(Ti)の合計に対するチタン(Ti)の存在比{B=TiXPS/(TiXPS+MXPS)}と無機酸化物の構成金属(M)及びチタン(Ti)の合計に対するチタン(Ti)のバルク混合モル比{A=Ti/(Ti+M)}との比で表されるチタン偏在指数(B/A)が1.6以上であり、前記酸化チタンが無機酸化物の表面にこの無機酸化物と化学的及び/又は微視的に一体となって担持されていることを特徴とする積層多孔質酸化チタン。
【請求項2】
酸化チタンの担持量が13〜60質量%である請求項1に記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項3】
無機酸化物の表面における酸化チタンの結晶格子面の繰り返し長さが50Å以下である請求項1又は2に記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項4】
細孔シャープネス度が50%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項5】
細孔容積が0.3mL/g以上である請求項1〜4のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項6】
比表面積が100m/g以上である請求項1〜5のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項7】
酸化チタンは、無機酸化物がヒドロゾル、ヒドロゲル、キセロゲル、又は水酸化物あるいは含水酸化物であるときにこの無機酸化物に担持される請求項1〜6のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項8】
無機酸化物がpHスイング法で合成されたものである請求項1〜7のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項9】
無機酸化物が、アルミナ、シリカ、マグネシア、シリカアルミナ、シリカチタニア、アルミナジルコニア、シリカジルコニア及びシリカマグネシアからなる群より選ばれた少なくとも1つである請求項1〜8のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項10】
無機酸化物はその形状が針状又は柱状である請求項1〜9のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項11】
積層多孔質酸化チタンは、無機酸化物の存在下、原料チタン溶液とpH調整剤とを供給し、酸化チタンの等電点と前記無機酸化物の等電点との間のpH領域において前記無機酸化物の表面に酸化チタンを積層させる積層工程を経て得られたものである請求項1〜10のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項12】
積層多孔質酸化チタンは、積層工程に引き続いて90〜900℃の温度範囲内で焼成処理して得られたものである請求項11に記載の積層多孔質酸化チタン。
【請求項13】
無機酸化物を核とし、その表面に酸化チタンが担持された積層多孔質酸化チタンの製造方法であり、
前記無機酸化物の存在下、原料チタン溶液とpH調整剤とを供給し、酸化チタンの等電点と前記無機酸化物の等電点との間のpH領域において前記無機酸化物の表面に酸化チタンを積層させる積層工程を含むことを特徴とする積層多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項14】
無機酸化物の表面に酸化チタンを積層させる積層工程に先駆けて、pHスイング工程でpHスイング法により前記無機酸化物を含む分散液を調製し、次いで得られた分散液を引き続きそのまま前記積層工程の操作に供する請求項13に記載の積層多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項15】
積層工程に引き続いて90〜900℃の温度範囲内で焼成処理を行う焼成工程を含む請求項13又は14に記載の積層多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項16】
無機酸化物の表面に酸化チタンを積層させる積層工程において、その積層反応系内にケイ素、燐、マグネシウム、カルシウム、バリウム、マンガン、アルミニウム及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む粒子成長調整剤を存在させる請求項13〜15のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタンからなることを特徴とする触媒。
【請求項18】
請求項1〜11のいずれかに記載の積層多孔質酸化チタンを担持体とし、この担持体に触媒金属を担持させてなることを特徴とする触媒。
【請求項19】
請求項12に記載の積層多孔質酸化チタンを担持体とし、この担持体に触媒金属を担持させてなることを特徴とする触媒。

【国際公開番号】WO2005/063618
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512794(P2005−512794)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016746
【国際出願日】平成15年12月25日(2003.12.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成11年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、ベンチャーシーズ発掘型国際共同研究事業「21世紀の環境保全を目指した高機能性触媒材料の超精密制御製造技術の開発とその応用」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】