説明

積層布帛及びこれを用いてなる医療用品

【課題】洗濯耐久性、耐湿熱性及び耐アルカリ性などに優れる積層布帛と、それを用いた各種医療用品とを提供する。
【解決手段】繊維布帛、硬化型接着剤及びポリアミド系エラストマー膜がこの順に積層されてなる布帛であって、JIS L0217 103法に基づく洗濯を10回繰り返した後60℃で30分間タンブル乾燥し135℃で80分間オートクレーブ処理しさらに60℃で30分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとしてこれを10サイクル繰り返した後のJIS L1092 6.1B法(高水圧法)に基づく耐水圧が、100〜500kPaであり、同じくJIS L1099 7.2.1B−1法(酢酸カリウム法)に基づく透湿度が、6000〜20000g/m・24hrsである積層布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品・薬品製造分野、医療分野などに好適な透湿防水性を有する積層布帛、並びにそれを用いた医療用品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透湿性と防水性とを併せ持つ透湿防水性布帛は、身体からの発汗による水蒸気を衣服外へ放出する機能と、雨が衣服内に侵入するのを防ぐ機能とを有しており、防寒衣料やスポーツ衣料などに好適である。
【0003】
特に高度な防水性能を要する用途分野においては、樹脂層を積層した透湿防水性布帛が好適であり、代表的なものとして、ポリウレタンもしくはポリエステルなどからなる透湿防水性能を有する樹脂層を、繊維布帛の片面にコーティング又はラミネートしたものが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−78984号公報
【特許文献2】特開2003−20574号公報
【特許文献3】特開2007−296797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透湿防水性布帛は、優れた機能を有するため、近年、防寒衣料やスポーツ衣料以外の分野にこれを適用しようとする試みがある。
【0006】
例えば、食品・薬品製造分野などに用いられるユニフォームは、使用後、通常の洗濯に加え、滅菌を目的としてオートクレーブ処理されるのが一般的である。オートクレーブ処理とは、高圧蒸気滅菌器を用いた湿熱処理をいい、ユニフォームの用途、形状、汚れ具合などに応じて多少違いがあるものの、通常、121℃(2気圧)下で20分間、135℃下8分間などの条件が採用される。
【0007】
他方、白衣、手術衣、ガウン、ドレープなどの医療用品も、使用後はオートクレーブ処理されるのが一般的である。ただ、医療用品には、血液、体液、薬品など通常より除去し難い汚れが付着するため、オートクレーブ処理に先立つ洗濯として、温度60〜80℃のアルカリ浴を使用する工業洗濯が採用されるのが一般的である。
【0008】
ただ、食品・薬品製造並びに医療の現場では、菌・ウイルスの付着、拡散を防ぐ観点から、作業中はユニフォームを脱衣しないのが通常である。このため、これらのユニフォームを一旦着用してしまうと、身体の動きや発汗に伴って発生する熱や蒸れ感を脱衣により外へ逃がすことができず、結果、作業中は衣服内環境を改善し難いという問題があった。
そこで、所望の着衣快適性を得るために、透湿防水性布帛を適用する試みがあるのである。
【0009】
透湿防水性布帛は、透湿性に優れているため、衣服内に溜まった熱気や蒸れを効率よく排出でき、さらに防水性に優れているため、汚染物資の浸入を効率よく防ぐことができる。
【0010】
しかしながら、従来の透湿防水性布帛の場合、樹脂層が耐熱性や耐加水分解性などに劣るため、洗濯やオートクレーブ処理を繰り返すと次第に繊維布帛から樹脂層が劣化してくるという問題がある。つまり、同布帛には、使用頻度が増えるのに伴って、洗濯耐久性、耐湿熱性、耐アルカリ性などが低減し、透湿防水性を維持できないという問題がある。特に、医療分野に用いられる布帛の場合には、使用後に条件の厳しい工業洗濯を行うことから、この傾向が顕著となる。
【0011】
そこで、樹脂層の耐熱性や耐加水分解性などを向上させるべく、幾つかの試みがあるが、満足できる結果は未だ得られていない。
【0012】
このように、食品・薬品製造や医療の分野に適用するものとして、十分な洗濯耐久性、耐湿熱性及び耐アルカリ性などを発揮し、結果として透湿防水性を維持し続けることのできるものは、未だ得られていないのが実情である。
【0013】
本発明は、上記の欠点を解消するものであり、洗濯耐久性、耐湿熱性及び耐アルカリ性などに優れる積層布帛と、それを用いた各種医療用品とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するもので、次の構成よりなる。
【0015】
(1)繊維布帛、硬化型接着剤及びポリアミド系エラストマー膜がこの順に積層されてなる布帛であって、JIS L0217 103法に基づく洗濯を10回繰り返した後60℃で30分間タンブル乾燥し135℃で80分間オートクレーブ処理しさらに60℃で30分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとしてこれを10サイクル繰り返した後のJIS L1092 6.1B法(高水圧法)に基づく耐水圧が、100〜500kPaであり、同じくJIS L1099 7.2.1B−1法(酢酸カリウム法)に基づく透湿度が、6000〜20000g/m・24hrsであることを特徴とする積層布帛。
(2)(1)記載の積層布帛を用いてなる医療用品。
(3)(1)記載の積層布帛のポリアミド系エラストマー膜の上に、さらに硬化型接着剤及び裏地がこの順に積層されてなる布帛であって、工業洗濯した後135℃で80分間オートクレーブ処理しさらに60℃で30分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとしてこれを10サイクル繰り返した後のJIS L1092 6.1B法(高水圧法)に基づく耐水圧が、100〜500kPaであり、同じくJIS L1099 7.2.1B−1法(酢酸カリウム法)に基づく透湿度が、4000〜15000g/m・24hrsであることを特徴とする積層布帛。
(4)ポリアミド系エラストマー膜が、ナイロン12を主成分とするハードセグメントと、ポリアルキレングリコールを主成分とするソフトセグメントとを備えるポリエーテルブロックアミド共重合体から構成されることを特徴とする(1)又は(3)記載の積層布帛。
(5)(3)又は(4)記載の積層布帛を用いてなる医療用品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の積層布帛は、洗濯やオートクレーブ処理を繰り返しても、膜が劣化もしくは繊維布帛から剥離し難く、種々の耐久性に優れている。このため、本発明の積層布帛は、使用頻度が増えても良好な透湿防水性を維持できる。これにより、例えば、食品・薬品製造や医療の現場などで用いられるユニフォームに適用すれば、優れた着衣快適性が得られる。特に、医療用品の場合には、使用後、工業洗濯で汚れを落とすため、通常の洗濯と比べ大きな負荷がかかるが、本発明の積層布帛は、工業洗濯に十分耐えることができるため、医療用品に好ましく適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の積層布帛は、繊維布帛、硬化型接着剤及びポリアミド系エラストマー膜がこの順に積層されてなるものである。
【0019】
本発明において、基布として使用される繊維布帛には、従来公知の織物、編物又は不織布などが適用できる。この場合、繊維としては、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリビニルアルコール系合成繊維の他、トリアセテートなどの半合成繊維、ナイロン6/綿、ポリエチレンテレフタレート/綿などの混合繊維が使用できる。本発明では、中でも耐湿熱性や製造コストなどの観点からポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系合成繊維を主体に用いるのがよい。
【0020】
本発明では、繊維布帛として撥水処理されたものを用いることが好ましい。撥水処理に用いる撥水剤としては、パラフィン系撥水剤、ポリシロキサン系撥水剤、フッ素系撥水剤など公知のものが使用できる。撥水処理の方法もスプレー法、パディング法、コーティング法など公知の方法が採用できる。特に良好な撥水性を所望する場合には、フッ素系撥水剤を2〜10質量%含有する水分散液に繊維布帛をピックアップ率30〜100%でパディングし、これを80〜130℃で乾燥した後、150〜180℃で20秒〜2分間熱処理すればよい。
【0021】
また、本発明におけるポリアミド系エラストマー膜としては、ポリアミド系組成物からなりかつ膜としてエラストマーの挙動を示すものであれば、どのようなものでも使用できる。具体的には、ナイロン6フィルム、ナイロン66フィルム、ナイロン610フィルム、ナイロン11フィルム、ナイロン12フィルム、ナイロン6Tフィルムなど公知のものが使用でき、特に、ハードセグメントとソフトセグメントとを備えるポリアミド系組成物から構成されるフィルムが、エラストマーとしての挙動を示しやすいため、好適である。
【0022】
ハードセグメントとソフトセグメントとを備えるポリアミド系組成物としては、ポリエーテルブロックアミド共重合体が好適である。同共重合体は、ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを有し、前者がハードセグメント、後者がソフトセグメントにそれぞれ相当する。
【0023】
同共重合体において、ポリアミドブロックとしては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,12、ナイロン11,12などが好適であり、これらは、ブタジエン、カプロラクタム、アミノウンデカン酸、ラウリルラクタムなどから形成される。
一方、ポリエーテルブロックは、エチレングルコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールなどから形成される、ポリアルキレングリコールを主成分とするものが好適である。
【0024】
本発明では、特にナイロン12を主成分としてポリアミドブロックを構成するのが好ましく、これにより、膜の耐湿熱性及び低温時耐衝撃性を向上させることができる。また、このようなポリアミドブロックは、ポリエーテルブロックを導入しやすいため、膜製造のコストを抑える点でも有利である。ナイロン12は、一般にブタジエンを主原料として形成される。
【0025】
この他、ナイロン6を主成分としてポリアミドブロックを構成すると、膜の柔軟性や耐衝撃性を向上させることができ、同じくナイロン11を主成分とすると、植物由来の原料が使用できるため、環境面で有利である。
【0026】
ポリエーテルブロックアミド共重合体を用いる場合、ソフトセグメントの含有量としては、10〜60質量%が好ましく、15〜45質量%がより好ましい。ソフトセグメントの含有量が10質量%未満になると、膜の透湿性が低下する傾向にあり、一方、60質量%を超えると、膜の耐湿熱性と共に耐水膨潤性が低下する傾向にあり、いずれも好ましくない。なお、膜の耐水膨潤性が低下すると、洗濯したときや着用時の発汗などにより積層布帛が形状変化しやすくなる。
【0027】
ポリアミド系エラストマー膜には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ポリアミド系組成物以外の第三成分が含まれていてもよい。この場合、第三成分としては、ポリアミド系組成物に対し親和性を有し、かつ膜の可撓性向上に寄与するものが好ましい。例えば、グラフト基を有するポリエステル樹脂、所定の官能基を有するポリオレフィン系樹脂の他、ブチルベンゼンスルホアミドなどの可塑剤が好適である。第三成分の含有量としては、20質量%以下が好ましい。
【0028】
この他、必要に応じて、膜中には、二酸化ケイ素などの滑剤、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤などを適宜配合してもよい。
【0029】
ポリアミド系エラストマー膜を得るには、公知の製法に準ずればよい。一例をあげると、膜の原料たる各種ポリアミド系組成物を単軸スクリュー押出機又は二軸押出機において溶融混合した後、Tダイなどを用いてシート状に押出し、さらに、逐次二軸延伸法や同時二軸延伸法などに準じて所定の厚みになるまで延伸すれば、目的とする膜を得ることができる。
【0030】
また、膜の厚みとしては、5〜30μmが好ましく、7〜20μmがより好ましい。厚みが5μm未満になると、膜の防水性が低下して汚染物資が透過しやすいものとなり、製造現場や医療現場における作業効率を損ねることがあるため、好ましくない。一方、30μmを超えると、積層布帛の防水性は大きく向上するものの、透湿性の大幅な低下を招きやすく、しかも積層布帛の風合いも低下する傾向にあるため、好ましくない。
【0031】
さらに、ポリアミド系エラストマー膜の物性について述べると、100%モジュラスとして3〜30MPaが好ましく、5〜20MPaがより好ましい。また、破断強度として10〜100MPaが好ましく、20〜80MPaがより好ましい。さらに、破断伸度として300〜1000%が好ましく、400〜700%がより好ましい。膜がこれらの物性を満足することで、積層布帛に対し後述する135℃下のオートクレーブ処理を繰り返し行っても、それに十分に耐えることのできる布帛が提供できる。
【0032】
本発明の積層布帛では、上記の繊維布帛とエラストマー膜とが硬化型接着剤により貼合されている。
【0033】
硬化型接着剤としては、例えば、水酸基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基などの反応基を具備する、所謂架橋性を有するポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン酢酸ビニル系樹脂などが、自己架橋するか、又はイソシアネート系、エポキシ系などの架橋剤と架橋し、硬化型となるものを使用する。中でもポリウレタン系樹脂が柔軟性に富むため好ましい。このとき、かかるポリウレタン系樹脂が非膨潤型のものであると、積層布帛の洗濯耐久性がより高まり、ポリウレタン系樹脂がポリカーボネート型のものであると、積層布帛の耐湿熱性がより高まる。
【0034】
硬化型接着剤の形状としては、特に限定されるものでないが、実用上の観点から、溶液型又はホットメルト型であることが好ましい。溶液型の接着剤を使用するときは、好ましくは25℃下の粘度が500〜5000mPa・sのものを選び、例えば、グラビアロールやコンマコータなどを使用して、エラストマー膜もしくは繊維布帛上に接着剤を塗布する。その後は、例えば、ラミネート機などを用いて、繊維布帛とエラストマー膜とを圧着する。
【0035】
一方、ホットメルト型の接着剤を使用するときは、まず、接着剤の融点や溶融時の粘性などを考慮しつつこれを溶融させる。この場合、80〜200℃程度の温度域で接着剤を溶融させるのが、実用上好ましい。そして、エラストマー膜もしくは繊維布帛上に溶融した接着剤を塗布し、その後は、必要に応じて冷却しつつ、例えば、ラミネート機などを用いて、繊維布帛とエラストマー膜とを圧着する。
【0036】
なお、本発明において、接着剤は、エラストマー膜もしくは繊維布帛に対し必ずしも全面状に塗布される必要はなく、積層布帛の透湿性、風合い及び耐久性などを考慮して部分的に塗布されていてもよい。この場合、点状、線状、市松模様、亀甲模様などの模様を描くがごとくに塗布すれば、膜又は繊維布帛の表面全体に接着剤を均一に配置できるので好ましい。
【0037】
接着剤を部分的に塗布する場合には、接着剤の占有面積は、膜又は繊維布帛の表面(塗布面)の全面積に対し20〜90%程度が好ましく、40〜80%がより好ましい。占有面積が20%未満では、接着剤の膜厚を厚くしても耐久性ある積層布帛が得られ難く、特に洗濯耐久性を低下させる傾向が強いため、好ましくない。一方、90%を超えると、接着力が増す結果、積層布帛の耐久性が高まるが、透湿性や風合いが低下する傾向にあり、好ましくない。
【0038】
接着剤の厚みとしては、塗布の形態が全面状、部分的のいずれでも、10〜150μm程度が好ましく、20〜120μmがより好ましい。厚みが10μm未満では、接着剤の占有面積を大きくしても、耐久性ある積層布帛が得られ難く、一方、150μmを超えると、それ以上の接着力向上が期待できない傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0039】
本発明の積層布帛は、このように繊維布帛、硬化型接着剤及びポリアミド系エラストマー膜がこの順に積層されており、この構成により、洗濯やオートクレーブ処理を繰り返しても膜が劣化し難くなるか又は膜が繊維布帛から剥離し難くなるため、良好な洗濯耐久性、耐湿熱性を発揮され、透湿防水性が維持される。つまり、本発明では、積層布帛を構成する各部材の固有の特性に由来して、所定の効果が奏されるのである。
【0040】
本発明では、かかる特性の指標として、洗濯、オートクレーブ処理を所定回数繰り返した後の透湿防水性が、所定範囲を満足する必要がある。具体的に、本発明の積層布帛は、JIS L0217 103法に基づく洗濯を10回繰り返した後(なお、脱水、すすぎはL0217付表1に準ずる)、60℃で30分間タンブル乾燥し、135℃で80分間オートクレーブ処理し、さらに60℃で30分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとして、これを10サイクル繰り返した後、JIS L1092 6.1B法(高水圧法)に基づく耐水圧が100〜500kPaの範囲を満足し、同じくJIS L1099 7.2.1B−1法(酢酸カリウム法)に基づく透湿度が6000〜20000g/m・24hrsの範囲を満足する。
【0041】
本発明の積層布帛は、かかる特性を満足する結果、従来の透湿防水布帛では適用が困難とされてきた分野に好ましく適用できる。本発明の積層布帛は、例えば、食品・薬品製造や医療の分野など相応の耐久性が求められる分野に好適であり、具体的には、当該分野で用いるユニフォーム、各種資材に好ましく用いられる。中でも、高い耐久性が求められる医療用品に好適であり、かかる医療用品として、白衣、手術衣、患者衣、検診衣、手術用シート、ガウン、ドレープ、サポーター、滅菌袋などがあげられる。
【0042】
本発明の積層布帛は、上記の構成に加え、ポリアミド系エラストマー膜の上にさらに裏地を積層すると、膜が裏地により保護される結果、繰り返しの工業洗濯にも十分耐えうるだけの高い耐久性が達成される。これにより、医療用品により一層好ましく適用できるようになる。
【0043】
具体的には、工業洗濯した後、135℃で80分間オートクレーブ処理し、さらに60℃で30分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとして、これを10サイクル繰り返した後、JIS L1092 6.1B法(高水圧法)に基づく耐水圧が、100〜500kPaの範囲を満足し、同じくJIS L1099 7.2.1B−1法(酢酸カリウム法)に基づく透湿度が4000〜15000g/m・24hrsの範囲を満足することが、それぞれ好ましい。
【0044】
工業洗濯とは、高温アルカリ浴を使用する洗濯手段である。具体的には、工業洗濯機(スガ試験機(株)製「LM-W型」)を用いて、(株)不動化学製「ピュア−石鹸」を1g/L、苛性ソーダを0.8g/L含むPH10の洗濯液で洗濯する。浴比は1:40であり、まず73℃で200分間湯洗し、次に40℃で30分間すすぎし、30分間脱水した後、60℃で30分間タンブル乾燥する。本発明では、この一連の工業洗濯に、所定条件のオートクレーブ処理及びタンブル乾燥を組み合わせた工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返した後の透湿防水性が所定範囲を満足することが好ましい。
【0045】
本発明における裏地には、上記繊維布帛と同様のものを用いてもよい。特にコスト、耐湿熱性、防水性、軽量性及びシームテープ接着性などの観点から、好ましくはトータル繊度15〜78dtex、より好ましくは15〜44dtexの合成繊維糸条を用いて構成されたものを用いるとよい。なお、シームテープとは、縫製品の縫い目に防水目的で貼合する接着テープのことである。
【0046】
なお、膜上に裏地を積層するには、前記した硬化型接着剤を介して積層すればよい。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例及び比較例における処理、物性は、下記手段に準じて実施、測定した。
【0048】
1.オートクレーブ処理
(株)平山製作所製、高圧蒸気滅菌器「HV50型」を用いて行った。条件は135℃下80分間であり、当該オートクレーブ処理の前に所定条件の洗濯を、後にタンブル乾燥を組み合わせた工程を1サイクルとした。
【0049】
2.膜の破断強伸度
(株)島津製作所製「オートグラフAGS−5kNG型」を用い、引張速度200mm/分で測定した。
【0050】
3.積層布帛の耐水圧(防水性試験)
繊維布帛、硬化型接着剤及びポリアミド系エラストマー膜を順次積層したものについては、繊維布帛を上側(エラストマー膜を下側)に向けて測定した。これは、膜を下側に向けると、繊維布帛とエラストマー膜との間に水が浸入しやすくなり、結果、膜破裂しやすくなるからである。裏地をさらに備えたものについては、裏地を下側に向け測定した。
【0051】
4.剥離強度
JIS L1089 6.10に基づいて経方向の剥離強度を測定した。
【0052】
(実施例1)
経糸、緯糸の双方に、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸83dtex72fを用いて、経糸密度110本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの平組織織物を製織した。
【0053】
製織後、精練剤(日華化学(株)製「サンモールFL」)を1g/L用いて、織物を80℃で20分間精練し、分散染料(ダイスタージャパン(株)社製「Dianix Blue UN-SE」)を0.5%omf含む染浴で織物を130℃で30分間染色した。続いて、170℃で1分間ファイナルセットした後、市販のフッ素系撥水剤エマルジョン(旭硝子(株)製「アサヒガードAG−E061」、固形分20質量%)を用いて有効成分5質量%の水分散液を調製し、パディング法に準じて織物に水分散液をピックアップ率40%の割合で付与した。付与後、120℃下2分間の乾燥に続き、170℃で40秒間熱処理して、繊維布帛を得た。
【0054】
次に、ポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ(株)製「Pevax MV3000」及び「Pevax MV1041」)と、耐候性向上剤(アルケマ(株)製「MM33SU01」)とを用意した。なお、かかる2種のポリエーテルブロックアミド共重合体は、ナイロン12を主体に構成されるポリアミドブロックと、ポリエチレングリコールを主体に構成されるポリエーテルブロックとを備え、ポリアミドブロックがハードセグメントを、ポリエーテルブロックがソフトセグメントをそれぞれ構成する。
【0055】
ポリエーテルブロックアミド共重合体と耐候性向上剤とを、「Pevax MV3000」/「Pevax MV1041」/「MM33SU01」=70/30/5の割合でドライブレンドし、Tダイ押出成形機(口径30mm、C/R:2.75、L/D:38)を用いて温度210℃で溶融押出した後、冷却しながら経方向に延伸することで、厚み約15μmのポリアミド系エラストマー膜を得た。なお、当該エラストマー膜の物性を測定したところ、100%モジュラスは経8.2MPa、緯7.5MPaであり、破断強度は経29MPa、緯25MPa、破断伸度は経620%、緯580%であり、さらに、透湿性は27500g/m・24hrsであった。
【0056】
さらに、硬化型接着剤として反応性ホットメルト型ポリウレタン系接着剤(DIC(株)製「タイフォースNH−320」)を用意し、これを120℃で溶融した後(溶融粘度2500mPa・s)、42メッシュのドット状グラビアロール(ドット径0.5mm、ドット間隔0.1mm、接着面積63%、深度0.1mm)を用いて、前記エラストマー膜の表面に、接着剤の占有面積が膜表面(塗布面)の全面積に対し約60%となるよう接着剤を部分的に約50g/m塗布した。
【0057】
そして、接着剤を自然冷却した後、接着剤を塗布した面の上から前記繊維布帛を重ね、圧力300kPaで熱圧着し、常温で3日間エージングすることで、本発明の積層布帛を得た。
【0058】
(実施例2)
「Pebax MV1041」と、「Pevax MV3000」と、耐候性向上剤(アルケマ(株)製「MM33SU01」)とを30/70/3の割合でドライブレンドしたものを、温度220℃で溶融押出してポリアミド系エラストマー膜を得る以外は、実施例1と同様に行い、積層布帛を得た。
【0059】
なお、当該エラストマー膜の物性を測定したところ、100%モジュラスは経13MPa、緯12MPaであり、破断強度は経45MPa、緯38MPa、破断伸度は経510%、緯500%であり、さらに、透湿性は13600g/m・24hrsであった。
【0060】
(実施例3)
ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸28dtex/7fを用いて、28ゲージのトリコット編地を編成し、通常の方法で精練し、裏地とした。
【0061】
次に、上記ポリウレタン系接着剤「タイフォースNH−320」を120℃で溶融した後、56メッシュのドット状グラビアロール(ドット径0.4mm、ドット間隔0.05mm、接着面積71%、深度0.08mm)を用いて、実施例2で得た積層布帛のエラストマー膜表面に、接着剤の占有面積が膜表面(塗布面)の全面積に対し約65%となるよう接着剤を部分的に約35g/m塗布した。
【0062】
そして、接着剤を自然冷却した後、接着剤を塗布した面の上から前記裏地を重ね、以降は実施例1と同様に行い、積層布帛を得た。
【0063】
(実施例4)
Tダイ押出成形機(口径30mm、C/R:2.75、L/D:38)を用いて、ポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ(株)製「Pevax MV1041」)を温度230℃で溶融押出した後、冷却しながら経方向に延伸することで、厚み約12μmのポリアミド系エラストマー膜を得た。エラストマー膜の物性は、100%モジュラスが経17MPa、緯15MPa、破断強度が経85MPa、緯71MPa、破断伸度が経750%、緯670%、透湿性が10060g/m・24hrsであった。
【0064】
そして、硬化型接着剤として下記処方1に示す組成のポリカーボネート型ポリウレタン系接着剤(固形分48質量%、粘度2700mPa・s(25℃))を用意し、実施例1で用いたドット状グラビアロールを用いて、前記エラストマー膜の表面に、接着剤の占有面積が膜表面(塗布面)の全面積に対し約60%となるよう接着剤を部分的に約100g/m塗布した。
【0065】
続いて、120℃で2分間乾燥した後、接着剤を塗布した面の上から実施例1で用いた繊維布帛を重ね、以降は実施例1と同様に行った。
【0066】
<処方1>
ポリカーボネート型ポリウレタン系樹脂溶液 100質量部
(大日精化工業(株)製「レザミンUD8348」、固形分70質量%)
イソシアネート系架橋剤溶液 8質量部
(大日精化工業(株)製「レザミンUD架橋剤」、固形分75質量%)
架橋促進剤溶液 1質量部
(大日精化工業(株)製「HI101」、固形分22質量%)
トルエン 25質量部
メチルエチルケトン 25質量部
【0067】
次に、80メッシュのドット状グラビアロール(ドット径0.25mm、ドット間隔0.05mm、接着面積60%、深度0.07mm)を用いて、前記エラストマー膜のもう一方の表面に、接着剤の占有面積が膜表面(塗布面)の全面積に対し約55%となるよう上記ポリカーボネート型ポリウレタン系接着剤を部分的に約80g/m塗布した。
【0068】
そして、120℃で2分間乾燥した後、接着剤を塗布した面の上から実施例3で用いた裏地を重ね、圧力300kPaで熱圧着し、40℃で3日間エージングすることで、本発明の積層布帛を得た。
【0069】
(比較例1)
コンマコータを用いて、離型紙(リンテック(株)製「EV130TPO」)の離型面に、下記処方2に示す組成のポリウレタン系接着剤(固形分23質量%)を全面状に65g/m塗布し、100℃で3分間乾燥することで、厚み約15μmのポリウレタン系エラストマー膜を得た。当該エラストマー膜の物性は、100%モジュラスが経8.5MPa、緯8.0MPa、破断強度が経62MPa、緯61MPa、破断伸度が経570%、緯560%、透湿度が28600g/m・24hrsであった。
【0070】
<処方2>
エーテル型透湿防水性ポリウレタン系樹脂溶液 100質量部
(三洋化成工業(株)製「サンプレンHMP−17A」、固形分30質量%)
メチルエチルケトン 30質量部
【0071】
次に、ポリアミド系エラストマー膜に代えて上記ポリウレタン系エラストマー膜を用いる以外は、実施例1と同様に行い、積層布帛を得た。
【0072】
(比較例2)
実施例3における方法を準用して、比較例1で得た積層布帛のエラストマー膜表面に、実施例3で用いた裏地を積層することで、積層布帛を得た。
【0073】
(比較例3)
<処方1>中からイソシアネート系架橋剤溶液を抜いた以外は、実施例4と同様に行い、積層布帛を得た。
【0074】
上記実施例及び比較例で得た積層布帛の物性を下記の表1に示す。
【0075】
なお、表中、「家庭洗濯/湿熱処理」とは、JIS L0217 103法に基づく洗濯を10回繰り返した後、60℃で30分間タンブル乾燥し、135℃で80分間オートクレーブ処理し、さらに60℃で30分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとして、積層布帛に対しこれを10サイクル繰り返すこという。また、「工業洗濯/湿熱処理」とは、上述の条件で工業洗濯した後、135℃で80分間オートクレーブ処理し、さらに60℃で30分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとして、積層布帛に対しこれを10サイクル繰り返すこという。
【0076】
さらに、「初期」とは、上記する一連の洗濯、オートクレーブ処理を実施する前の段階をいう。
【0077】
【表1】

【0078】
本発明の積層布帛は、洗濯耐久性、耐湿熱性及び耐アルカリ性に優れるものである。特に、裏地を備えた実施例3、4にかかる積層布帛は、工業洗濯に十分耐えうるだけの耐久性を有するものであった。
【0079】
これに対し、エラストマー膜としてポリアミド系ではなくポリウレタン系のものを用いた比較例1、2では、膜の損傷が激しく使用に耐えられるものでなかった。また、比較例3では、架橋剤を使用しなかったため、一連の洗濯、オートクレーブ処理の途中、具体的には3サイクル目の途中で繊維布帛から膜が剥離した。このため、透湿防水性を評価できなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛、硬化型接着剤及びポリアミド系エラストマー膜がこの順に積層されてなる布帛であって、JIS L0217 103法に基づく洗濯を10回繰り返した後60℃で30分間タンブル乾燥し135℃で80分間オートクレーブ処理しさらに60℃で30分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとしてこれを10サイクル繰り返した後のJIS L1092 6.1B法(高水圧法)に基づく耐水圧が、100〜500kPaであり、同じくJIS L1099 7.2.1B−1法(酢酸カリウム法)に基づく透湿度が、6000〜20000g/m・24hrsであることを特徴とする積層布帛。
【請求項2】
請求項1記載の積層布帛を用いてなる医療用品。
【請求項3】
請求項1記載の積層布帛のポリアミド系エラストマー膜の上に、さらに硬化型接着剤及び裏地がこの順に積層されてなる布帛であって、工業洗濯した後135℃で80分間オートクレーブ処理しさらに60℃で30分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとしてこれを10サイクル繰り返した後のJIS L1092 6.1B法(高水圧法)に基づく耐水圧が、100〜500kPaであり、同じくJIS L1099 7.2.1B−1法(酢酸カリウム法)に基づく透湿度が、4000〜15000g/m・24hrsであることを特徴とする積層布帛。
【請求項4】
ポリアミド系エラストマー膜が、ナイロン12を主成分とするハードセグメントと、ポリアルキレングリコールを主成分とするソフトセグメントとを備えるポリエーテルブロックアミド共重合体から構成されることを特徴とする請求項1又は3記載の積層布帛。
【請求項5】
請求項3又は4記載の積層布帛を用いてなる医療用品。


【公開番号】特開2013−14089(P2013−14089A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149194(P2011−149194)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】