説明

積層板およびその製造方法

【課題】熱伝導率の高い積層板およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】積層板の製造方法は、熱伝導率が10W/m℃よりも大きな熱伝導性充填物、ポリアミド酸および溶剤を含むポリアミド酸溶液を生成する工程110と、金属箔上にポリアミド酸溶液を塗布する工程120と、金属箔上のポリアミド酸溶液を加熱して反応を起こし、ポリイミドを形成する工程130と、を含む。熱伝導性充填物の添加量は、ポリアミド酸溶液の固形分濃度10〜90質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路基板およびその製造方法に関し、特に積層板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル基板は、可撓性を有する長所から、各種電子製品中のコネクタまたはプリント回路基板へ広く利用されている。現在市販されているフレキシブル基板のうち、主力製品は銅張積層板である。
【0003】
一般の銅張積層板の構造には、プラスチック基材と、プラスチック基材上に配置された銅箔とが含まれ、その銅箔上には各種回路素子に接続された導線がエッチングされている。銅張積層板上の導線または回路素子に電流が通されると、大量の熱の流れ(heat flow)が発生することがよくあった。これら熱の流れが有効に送り出されない場合、銅張積層板の温度が大幅に上昇し、銅張積層板上の導線や銅張積層板上に接続された回路素子の動作に異常が発生することもあった。そのため、かかる状況が発生しないように、熱の流れを導いて放熱部材まで伝達し、温度を下げなければならなかった。したがって、熱伝導率の高い銅張積層板が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、熱伝導率の高い積層板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)熱伝導率が10W/m℃よりも大きな熱伝導性充填物、ポリアミド酸および溶剤を含むポリアミド酸溶液を生成する工程と、金属箔上に前記ポリアミド酸溶液を塗布する工程と、前記金属箔上の前記ポリアミド酸溶液を加熱して反応を起こし、ポリイミドを形成する工程と、を含み、前記熱伝導性充填物の添加量が前記ポリアミド酸溶液の固形分濃度10〜90質量%である積層板の製造方法を提供する。
(2)前記熱伝導性充填物は、金属酸化物、金属窒化物およびセラミック粉末からなる群から選ばれる一種以上を含む(1)に記載の積層板の製造方法を提供する。
(3)前記金属箔は、銅、アルミニウム、鉄または合金である(1)に記載の積層板の製造方法を提供する。
(4)金属箔と、前記金属箔の表面上に配置されたポリイミド基材と、を備え、前記ポリイミド基材と前記金属箔の間には接着層が配置されておらず、前記ポリイミド基材中に、熱伝導率が10W/m℃よりも大きく、含有量が10〜90質量%である熱伝導性充填物が分布されている積層板を提供する。
(5)前記熱伝導性充填物は、金属酸化物、金属窒化物およびセラミック粉末からなる群から選ばれる一種以上を含む(4)に記載の積層板を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の積層板およびその製造方法は、熱伝導性充填物の添加により積層板のポリイミド層の熱伝導性を向上させ、積層板の熱伝導性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、これによって本発明が限定されるものではない。
【0008】
本発明の一実施形態では、銅張積層板中のポリイミド層の熱伝導性が良好で、接着層を有さないポリイミド銅張積層板の製造方法を提供する。ポリイミド層の熱伝導性を向上することにより、熱すぎる熱の流れを熱対流に優れた材料または放熱部材まで導き、銅張積層板の温度が高くなりすぎないようにする。当然、上述の銅箔は、アルミニウム、鉄またはその他合金などの金属箔に換えて、その他の構造を有する積層板を製造してもよい。
【0009】
図1を参照する。図1は、本発明の一実施形態による銅張積層板の製造方法を示す流れ図である。図2を参照する。図2は、図1の製造方法で使用する生産装置を示す模式図である。図1および図2に示すように、まず、工程110において、生産装置200中の反応容器210中でポリアミド酸溶液220を生成する。このポリアミド酸溶液220は、熱伝導性充填物222、ポリアミド酸224および溶剤226を含む。
【0010】
上述のポリアミド酸溶液220の生成はいかなる方法で行ってもよい。例えば、まず、溶剤226中にポリアミド酸224のジアミンモノマーを溶解してから、熱伝導性充填物222およびテトラカルボン酸二無水物モノマーを加える。そして、溶剤226中でジアミンモノマーとテトラカルボン酸二無水物モノマーとを反応させ、ポリアミド酸224を生成する。熱伝導性充填物222は、ポリアミド酸224および溶剤226中に分布されてもよい。
【0011】
上述のジアミンモノマーは、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、4,4’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、4,4’−メチレンジアニリン、N,N’−ジフェニルエチレンジアミン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ナフタレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラフェニルジシロキサンおよび1,3ビス(アミノプロピル)−ジメチルジフェニルジシロキサンからなる群から選ばれる一種以上を含む芳香族ジアミンモノマーでもよい。
【0012】
上述のテトラカルボン酸二無水物モノマーは、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物および1,3−ビス(4’−無水フタル酸)−テトラメチルジシロキサンからなる群から選ばれる一種以上を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物モノマーでもよい。
【0013】
溶剤は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)からなる群から選ばれる一種以上を含んでもよい。
【0014】
熱伝導性充填物222は、金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素)およびセラミック粉末からなる群から選ばれる一種以上を含む材料からなり、熱伝導率が10W/m℃よりも大きい無機物でもよい。熱伝導率が高い熱伝導性充填物を使用し、ポリアミド酸溶液220により形成されたポリイミド層の熱伝導性を向上できる。熱伝導性充填物222の添加量は、ポリアミド酸溶液220の固形分濃度約10〜90質量%である。
【0015】
ここで、図2の生産装置200は、銅張積層板の生産装置の一例である。前述のポリアミド酸溶液220の生成、および後続の銅張積層板の製造工程は、図2で示す生産装置200中で行うだけに限定されるわけではなく、ポリアミド酸溶液220の生成および後続の塗布を一般の実験室用の小型反応容器および小型塗布装置中で行ってもよい。
【0016】
上述のポリアミド酸溶液220は、生成された後、選択的に貯蔵装置230中に貯蔵し、後続の塗布工程で使用してもよい。図1の工程120は、貯蔵装置230から塗布ヘッド240へ一定量のポリアミド酸溶液220を送るステップと、同時に成膜装置260の入口262から銅箔250を導入するステップと、銅箔250を伝動装置270で移動させながら、塗布ヘッド240によりその上にポリアミド酸溶液220を一層塗布するステップと、を含む。前述の伝動装置270は、伝送用の伝動ハブ272と、支持用のドラム274とを含んでもよい。
【0017】
塗布ヘッド240は、例えば、ブレードコーティング、スロットコーティングまたは押出コーティングのヘッドでもよい。ポリアミド酸溶液220は、重力駆動または圧力駆動(例えば、気体によりポリアミド酸溶液220を押出す)により、銅箔250上へ塗布してもよい。塗布ヘッド240と銅箔250との間の所定距離dは、約60〜1500μmである。この所定距離dを調整することにより、ポリアミド酸溶液220を様々な厚さに塗布できる。つまり、所定距離dまたは気体圧力を適切に制御するだけで、ポリアミド酸溶液220を様々な厚さで塗布し、高速回転で塗布工程を行うことができる。
【0018】
上述のポリアミド酸溶液220の塗布が完了した後、ステップ130において加熱工程を行う。この加熱工程には、伝動装置270を用いることができる。つまり、伝動装置270により銅箔250を移動させながら、銅箔250上にポリアミド酸溶液220を塗布し、加熱装置280により80〜400℃の温度で段階式に加熱する。そして、成膜装置260中に窒素を注入して反応を起こし、ポリイミド290を形成して銅張積層板を製造する。この銅張積層板は、成膜装置260の出口264から出力される。前述の銅張積層板中の熱伝導性充填物222は、ポリイミド290中に分布される。
【0019】
(銅張積層板の製造例)
(製造実施例E1)
まず、252gのN−メチル−2−ピロリドン中に8.94gの1,4−ジアミノ−ベンゼンと、6.62gの4,4’−オキシジアニリンとを溶解させた。そして、上述の溶液中に12gの酸化アルミニウム粉末を加えて1時間攪拌した。続いて、上述の溶液中に3.57gの1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物と、28.88gの3,3’,4,4’ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とをゆっくりと加え、30℃で6時間攪拌し、固形分濃度19.23%のポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を銅箔上に塗布し、このポリアミド酸溶液が塗布された銅箔を窒素ガスの雰囲気中で80〜400℃の温度で段階的に加熱し、厚さが25μmのポリイミド層を有する銅張積層板を形成した。
【0020】
(製造実施例E2)
まず、252gのN−メチル−2−ピロリドン中に8.67gの1,4−ジアミノ−ベンゼンと、6.42gの4,4’−オキシジアニリンとを溶解させた。そして、上述の溶液中に14.4gの酸化アルミニウム粉末を加えて1時間攪拌した。続いて、上述の溶液中に3.83gの4,4’−オキシジフタル酸無水物と、29.07gの3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とをゆっくりと加え、30℃で6時間攪拌し、固形分濃度19.85%のポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を銅箔上に塗布し、このポリアミド酸溶液が塗布された銅箔を窒素ガスの雰囲気中で80〜400℃の温度で段階的に加熱し、厚さが25μmのポリイミド層を有する銅張積層板を形成した。
【0021】
(比較例R1)
まず、252gのN−メチル−2−ピロリドン中に8.94gの1,4−ジアミノ−ベンゼンと、6.62gの4,4’−オキシジアニリンとを溶解させた。そして、上述の溶液中に3.57gの1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物と、28.88gの3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とをゆっくりと加え、30℃で6時間攪拌し、固形分濃度16%のポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を銅箔上に塗布し、このポリアミド酸溶液が塗布された銅箔を窒素ガスの雰囲気中で80〜400℃の温度で段階的に加熱し、厚さが25μmのポリイミド層を有する銅張積層板を形成した。
【0022】
(比較例R2)
まず、252gのN−メチル−2−ピロリドン中に8.67gの1,4−ジアミノ−ベンゼンと、6.42gの4,4’−オキシジアニリンとを溶解させた。そして、上述の溶液中に3.83gの4,4’−オキシジフタル酸無水物と、29.07gの3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とをゆっくりと加え、30℃で6時間攪拌し、固形分濃度16%のポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を銅箔上に塗布し、このポリアミド酸溶液が塗布された銅箔を窒素ガスの雰囲気中で80〜400℃の温度で段階的に加熱し、厚さが25μmのポリイミド層を有する銅張積層板を形成した。
【0023】
(性質の分析)
上述の銅張積層板の製造が完了した後、銅張積層板上に形成されたポリイミド層の熱伝導率、吸水率および電気特性の測定結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
E1とR1およびE2とR2を比較すれば分かるように、ポリアミド酸溶液中に酸化アルミニウムなどの熱伝導性充填物を適量添加した場合、形成されるポリイミド層の熱伝導率を大幅に向上できる(0.05W/m−℃→0.5〜0.6W/m−℃)。つまり、酸化アルミニウムを添加すると、ポリイミド層の熱伝導率が向上し、銅張積層板の熱伝導性を向上できる。
【0026】
また、それぞれの吸水率を比較すると分かるように、酸化アルミニウムを添加した場合、ポリイミド層の吸水率が低下して誘電特性が向上し、高周波回路に利用する際の一般の銅張積層板の要求に合致できる。
【0027】
また、それぞれの電気特性を比較すると分かるように、酸化アルミニウムを添加してもポリイミド層の抵抗特性は変化しない。表面抵抗率が1013Ωに維持され、体積抵抗率が1013Ωcmに維持されるため、一般の銅張積層板中のポリイミド層に求められる高い抵抗率を得ることができる。また、破壊電圧は僅かに低下するが、一般に要求される2KV以上に維持できる。
【0028】
本発明では好適な実施形態を前述の通り開示したが、これらは決して本発明を限定するものではなく、当該技術を熟知するものなら誰でも、本発明の技術思想および技術的範囲内で各種の変更や修正を加えることができる。従って本発明の保護の範囲は、特許請求の範囲で規定した内容に基づく。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る銅張積層板の製造方法を示す流れ図である。
【図2】図1の製造方法で使用する生産装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0030】
200 生産装置
210 反応容器
220 ポリアミド酸溶液
222 熱伝導性充填物
224 ポリアミド酸
226 溶剤
230 貯蔵装置
240 塗布ヘッド
250 銅箔
260 成膜装置
262 入口
264 出口
270 伝動装置
272 伝動ハブ
274 ドラム
280 加熱装置
290 ポリイミド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が10W/m℃よりも大きい熱伝導性充填物、ポリアミド酸、および溶剤を含むポリアミド酸溶液を生成する工程と、
前記ポリアミド酸溶液を金属箔上に塗布する工程と、
前記金属箔上のポリアミド酸溶液を加熱して反応を起こし、ポリイミドを形成する工程と、を含み、
前記熱伝導性充填物の添加量が前記ポリアミド酸溶液の固形分濃度10〜90質量%である積層板の製造方法。
【請求項2】
前記熱伝導性充填物は、金属酸化物、金属窒化物およびセラミック粉末からなる群から選ばれる一種以上を含む請求項1に記載の積層板の製造方法。
【請求項3】
前記金属箔は、銅、アルミニウム、鉄または合金である請求項1に記載の積層板の製造方法。
【請求項4】
金属箔と、
前記金属箔の表面上に配置されたポリイミド基材と、を備え、
前記ポリイミド基材および前記金属箔の間には接着層が配置されておらず、前記ポリイミド基材中に、熱伝導率が10W/m℃よりも大きく、含有量が10〜90質量%である熱伝導性充填物が分布されている積層板。
【請求項5】
前記熱伝導性充填物は、金属酸化物、金属窒化物およびセラミック粉末からなる群から選ばれる一種以上を含む請求項4に記載の積層板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−56792(P2009−56792A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6715(P2008−6715)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(508015829)達勝科技股▲ふん▼有限公司 (3)
【Fターム(参考)】