説明

積層板の製造方法、積層板および回路基板

【課題】寸法安定性に優れた積層板およびその製造方法、並びに該積層板を用いた回路基板の提供。
【解決手段】本発明の積層板の製造方法は、液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を繊維シートに含浸させ、前記繊維シートに含まれる前記溶媒を除去して樹脂含浸シートを形成する第1工程と、前記樹脂含浸シートを複数枚重ね合わせて絶縁基材を形成し、この絶縁基材を加熱加圧処理して積層基材を形成する第2工程と、前記積層基材を、該積層基材のTg(ガラス転移温度(℃))〜Tg+150℃の温度範囲で熱処理する第3工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路基板などに用いられる積層板およびその製造方法、並びに回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子回路基板に用いられる積層板としては、ガラス織布にエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化樹脂を含浸した含浸基材を必要な枚数を重ね、さらに必要に応じてその上面またはおよび下面に金属箔を重ねて加熱プレス成形した積層板が使用されてきた。
近年、電子回路の小型化に伴い、電子回路基板にはより高い寸法安定性が必要とされてきており、この要望に応えるべく、ガラス織布の検討や成形後のエージング処理が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−64350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、熱可塑性高分子は上記したエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化樹脂に比べ、ガラス転移温度を越える温度でも軟化しにくい。これは、ガラス織布にエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化樹脂を含浸した含浸基材を用いた積層板では、熱硬化樹脂は硬化により3次元の網目状に架橋するため、ガラス転移温度を越えた温度においても分子運動が抑制されるためである。そのため、これらの熱硬化樹脂を含浸した含浸基材を複数枚重ねたものを、硬化後にガラス転移温度以上の温度でエージング処理しても寸法安定化の効果は十分ではなかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、寸法安定性に優れた積層板およびその製造方法、並びに該積層板を用いた回路基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の積層板の製造方法は、液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を繊維シートに含浸させ、前記繊維シートに含まれる前記溶媒を除去して樹脂含浸シートを形成する第1工程と、前記樹脂含浸シートを複数枚重ね合わせて絶縁基材を形成し、この絶縁基材を加熱加圧処理して積層基材を形成する第2工程と、前記積層基材を、該積層基材のTg(ガラス転移温度(℃))〜Tg+150℃の温度範囲で熱処理する第3工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の積層板の製造方法において、前記液晶ポリエステルが、下記一般式(1)で表される繰返し単位と、下記一般式(2)で表される繰返し単位と、下記一般式(3)で表される繰返し単位とを有することが好ましい。
−O−Ar−CO− (1)
−CO−Ar−CO− (2)
−X−Ar−Y− (3)
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニレン基を表し;Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表し;X及びYは、それぞれ独立に、O又はNHを表し;Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
−Ar−Z−Ar− (4)
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し;Zは、O、CO又はSOを表す。)
【0008】
本発明の積層板の製造方法において、前記液晶ポリエステルが、該液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記一般式(1)で表される繰返し単位を30〜60モル%、前記一般式(2)で表される繰返し単位を20〜35モル%、及び前記一般式(3)で表される繰返し単位を20〜35モル%有することが好ましい。
【0009】
本発明の積層板の製造方法において、前記繊維シートを構成する繊維が、ガラス繊維であることが好ましい。
本発明の積層板の製造方法において、前記第3工程の後に、熱処理後の前記積層基材の少なくとも一方の面に金属層を形成することも好ましい。
また、本発明の積層板の製造方法において、前記第2工程において、前記加熱加圧処理の後または前記加熱加圧処理と同時に、前記積層基材の少なくとも一方の面に金属層を形成することも好ましい。
【0010】
本発明の積層板は、液晶ポリエステルを繊維シートに含浸してなる樹脂含浸シートを複数枚重ねて構成された積層板であって、室温から200度まで1時間かけて昇温した後1時間保持し、その後室温から200℃まで4時間かけて冷却する条件で行う加熱処理の前後における寸法変化率が±0.001%以下であることを特徴とする。
本発明の積層板は、上記本発明の積層板の製造方法により得られることを特徴とする。
また、本発明は、上記本発明の積層板を用いてなることを特徴とする回路基板を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、寸法安定性に優れた積層板およびその製造方法、並びに該積層板を用いた回路基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る積層板の一実施形態を示す概略断面図である
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の積層板の製造方法は、
液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を繊維シートに含浸させ、前記繊維シートに含まれる前記溶媒を除去して樹脂含浸シートを形成する第1工程と、
前記樹脂含浸シートを複数枚重ね合わせて絶縁基材を形成し、この絶縁基材を加熱加圧処理して積層基材を形成する第2工程と、
前記積層基材を、該積層基材のTg(ガラス転移温度(℃))〜Tg+150℃の温度範囲で熱処理する第3工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
[第1工程]
まず、本発明の製造方法の第1工程で用いる液状組成物および繊維シートについて説明する。
【0015】
「液状組成物」
本発明の積層板の製造方法に用いる液状組成物は、液晶ポリエステルと溶媒とを含んでなる。
【0016】
(液晶ポリエステル)
本発明の製造方法で用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。
液晶ポリエステルは、剛直な分子単位であるメソゲンが直鎖状に化学結合を有し分子全体が剛直なため寸法安定性に優れている。特に、芳香族液晶ポリエステルは、特に寸法安定性に優れているため、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが得られる積層板の寸法安定性の向上に好ましい。
【0017】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの、
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0018】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0019】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0020】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
【0021】
(式中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し;Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基を表し;X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表し;Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0022】
(4)−Ar−Z−Ar
【0023】
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0024】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、2個以下であることが好ましく、1個以下であることがより好ましい。
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0025】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0026】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0027】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0028】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは30〜60モル%、特に好ましくは30〜40モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは30〜35モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは30〜35モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0029】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0030】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0031】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、溶媒に対する溶解性が優れた液晶ポリエステルとなる。
【0032】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0033】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃〜350℃、さらに好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、流動開始温度があまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
【0034】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0035】
(溶媒)
液状組成物は、液晶ポリエステルと溶媒とを含み、液晶ポリエステルが溶媒に溶解された溶液であることが好ましい。溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒])で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0036】
本発明の製造方法で用いる溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;トリエチルアミン等のアミン系溶媒;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物系溶媒;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;テトラメチル尿素等の尿素化合物系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物系溶媒が挙げられ、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。
また、前記非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒を用いることが好ましい。
【0038】
また、溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましい。溶媒全体に占める双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。本発明においては特に、前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5である化合物を用いることが好ましい。
【0039】
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましい。溶媒全体に占める1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0040】
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び溶媒の合計量に対して、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは15〜45質量%であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、適宜調整される。
【0041】
液状組成物は、液晶ポリエステルおよび溶媒に加えて、さらに充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分を1種以上含んでもよい。
【0042】
液状組成物が含んでいてもよい充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機充填材;及び硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機充填材が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部である。
【0043】
液状組成物が含んでいてもよい添加剤の例としては、レべリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤及び着色剤が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜5質量部である。
【0044】
液状組成物が含んでいてもよい液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜20質量部である。
【0045】
液状組成物は、液晶ポリエステル、溶媒及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することにより調製することができる。他の成分として充填材を用いる場合は、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させて、液晶ポリエステル溶液を得、この液晶ポリエステル溶液に充填材を分散させることにより液状組成物を調製することが好ましい。
【0046】
「繊維シート」
本発明の製造方法で用いる繊維シートを構成する繊維の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維等の無機繊維;及び液晶ポリエステル繊維その他のポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維等の有機繊維が挙げられ、これらの2種以上を併用してもよい。中でも、繊維シートを構成する繊維としては、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維の例としては、含アルカリガラス繊維、無アルカリガラス繊維及び低誘電ガラス繊維が挙げられる。
【0047】
繊維シートは、織物(織布)であってもよいし、編物であってもよいし、不織布であってもよいが、樹脂含浸シートおよび積層板の寸法安定性が向上し易いことから、織物であることが好ましい。
織物の織り方の例としては、平織り、朱子織り、綾織及びななこ織りが挙げられる。織物の織り密度は、10〜100本/25mmであることが好ましい。
【0048】
繊維シートの厚さは、好ましくは10〜200μm、より好ましくは10〜180μmである。
繊維シートの単位面積あたりの質量は、10〜300g/mであることが好ましい。
また、繊維シートは、樹脂との密着性が向上するように、シランカップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。
【0049】
これらの繊維からなる繊維シートを製造する方法としては、繊維シートを形成する繊維を水中に分散し、必要に応じてアクリル樹脂等の糊剤を添加して、抄紙機にて抄造後、乾燥させることで不織布を得る方法や、公知の織成機を用いる方法を挙げることができる。
【0050】
また、市場から容易に入手できる繊維シートとして、ガラスクロスを用いることも可能である。ガラスクロスとしては、電子部品の絶縁含浸基材として種々のものが市販されており、旭シュエーベル株式会社、日東紡績株式会社、株式会社有沢製作所等から入手することができる。なお、市販のガラスクロスにおいて、好適な厚みのものとしては、IPC呼称で1035、1078、2116、7628等が挙げられる。
【0051】
第1工程では、上記した液状組成物を繊維シートに含浸した後、繊維シートに含浸された液状組成物から溶媒を除去することにより、樹脂含浸シートを形成する。
【0052】
液状組成物の繊維シートへの含浸は、典型的には、液状組成物を仕込んだ浸漬槽に、繊維シートを浸漬することにより行われる。ここで、液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量に応じて、繊維シートを浸漬する時間や、液状組成物が含浸された繊維シートを浸漬槽から引き上げる速度を、適宜調整することにより、繊維シートへの液晶ポリエステルの付着量を調整することができる。この液晶ポリエステルの付着量は、得られる樹脂含浸シートの全質量に対して、通常30〜80質量%、好ましくは40〜70質量%である。
【0053】
次いで、液状組成物が含浸された繊維シートから、液状組成物中の溶媒を除去することにより、樹脂含浸シートを得ることができる。溶媒の除去は、溶媒の蒸発により行うことが、操作が簡便で好ましく、その方法としては、例えば、加熱、減圧及び通風が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
【0054】
樹脂含浸シートは、溶媒除去後且つ第2工程の前に、さらに加熱処理することが好ましい。これにより、含浸されている液晶ポリエステルをより高分子量化でき、樹脂含浸シートおよび得られる積層板の耐熱性をより向上させることができる。
加熱処理は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。そして、加熱温度は、好ましくは240〜330℃、より好ましくは250〜330℃、さらに好ましくは260〜320℃である。下限値以上とすることで、樹脂含浸シートおよび得られる積層板の耐熱性がより向上する。加熱時間は、好ましくは1〜30時間、より好ましくは1〜10時間である。下限値以上とすることで、樹脂含浸シートおよび得られる積層板の耐熱性がより向上し、上限値以下とすることで、積層板の生産性がより向上する。
【0055】
[第2工程]
第2工程では、第1工程で作製した樹脂含浸シートを複数枚重ね合わせて絶縁基材を形成した後、この絶縁基材を加熱加圧処理して積層基材を形成する。
【0056】
本工程で複数枚重ね合わせる樹脂含浸シートは、含浸された液状組成物の組成がすべて同じでもよいし、一部のみ同じでもよく、すべて異なっていてもよい。
また、重ね合わせる樹脂含浸シートの枚数は2枚以上であれば特に限定されない。
複数枚の樹脂含浸シートをその厚さ方向に重ね合わせた絶縁基材を、加熱プレス(加熱加圧)して互いに融着させ、一体化させることで積層基材を作製できる。
【0057】
樹脂含浸シートを複数枚重ねた絶縁基材を加熱プレス(加熱加圧)する時の温度は、好ましくは300℃以上360℃以下、より好ましくは320℃以上340℃以下である。また、プレス(加圧)の圧力は、好ましくは1MPa以上20MPa以下、より好ましくは3MPa以上10MPa以下である。さらに、プレス(加圧)の時間は、好ましくは5分間以上60分間以下、より好ましくは10分間以上50分間以下である。プレスを行う際は、プレスを行う環境を5kPa以下に減圧して行うことが好ましい。
【0058】
[第3工程]
第3工程では、第2工程で作製した積層基材を、この積層基材のTg(ガラス転移温度(℃))以上(積層基材のTg+150℃)以下の温度範囲で熱処理する。
このような温度範囲で積層基材を熱処理することにより、第2工程における高温・高圧の加熱加圧処理により積層基材中に残存した歪みを除去することができ、寸法安定性に優れた積層板を製造できる。
【0059】
なお、本発明における「積層基材のTg」とは、積層基材に含まれる樹脂のTg(ガラス転移温度)を示し、具体的には、動的粘弾性分析装置(TAインスツルメント社製「DMA Q800」)を用いて、昇温速度5℃/分、周波数10Hz、振幅50μmで測定した積層基材のガラス転移温度である。
【0060】
第3工程の熱処理温度が積層基材のTg未満の場合、得られる積層板の寸法安定化の効果が乏しくなる。また、熱処理温度が(積層基材のTg+150℃)より大きいと積層基材を構成する樹脂に劣化を生じる場合がある。
第3工程の熱処理は、積層基材のTg以上の温度で処理する時間の合計が、30分以上3時間以下にすることが好ましく、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0061】
以上の工程により本発明に係る積層板を製造できる。
【0062】
また、本発明の積層板の製造方法は、上記実施形態に限定されず、複数の樹脂含浸シートが積層された積層基材の少なくとも一方の面に金属薄膜などの導電層(金属層)を形成することもできる。
【0063】
前記金属層を形成する場合、該金属層は積層基材の表面に形成され、積層基材の一面のみ、すなわち片面に設けられていてもよいし、一面と、これとは反対側の面との両面に設けられていてもよい。
金属層の材質は、銅、アルミニウム、銀又はこれらから選択される一種以上の金属を含む合金が好ましい。なかでも、より優れた導電性を有し、低コストである点から、銅又は銅合金が好ましい。
金属層は、材料の取扱いが容易で、簡便に形成でき、経済性にも優れる点から、金属箔からなるものが好ましく、銅箔からなるものがより好ましい。
金属層を積層基材の両面に設ける場合、これら金属層の材質は、同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0064】
金属層の厚さは、好ましくは1〜70μmであり、より好ましくは3〜35μmであり、さらに好ましくは5〜18μmである。
金属層を設ける方法としては、金属箔を積層基材の表面に加熱プレス等で融着させる方法、金属箔を積層基材の表面に接着剤で接着させる方法、積層基材の表面をめっき法、スクリーン印刷法又はスパッタリング法により、金属粉又は金属粒子で被覆する方法が例示できる。
【0065】
積層基材の少なくとも一方の面に金属箔を積層して加熱プレスにより金属層を形成する場合の加熱プレスは、真空条件下、例えば、0.5kPa以下等の減圧下で行うことが好ましい。
この加熱プレス時の加熱温度の上限値は、用いた液晶ポリエステルの分解温度を下回るように設定すればよいが、前記分解温度よりも30℃以上低い温度であることが好ましい。液晶ポリエステルの分解温度は、例えば、熱重量減少分析等の公知の手法で測定できる。
また、金属層を形成する際の加熱プレス時の圧力は、1〜30MPaであることが好ましく、時間は10〜60分であることが好ましい。
【0066】
加熱プレスにより金属箔を積層基材の表面に融着させて金属層を設ける場合には、前記した第2工程において、積層基材(絶縁基材)を構成する複数枚の樹脂含浸シートと、金属箔とを、それぞれこれらの厚さ方向に重ねて同時に加熱プレスしてもよい。このように、絶縁基材の加熱プレス時に、重ねたときに最も外側に位置する樹脂含浸シートの表面に、さらに金属箔を重ねて、これら金属箔及び複数の樹脂含浸シートを加熱プレスすることで、第2工程で金属層を同時に設けることができる。
【0067】
積層基材の表面を金属粉又は金属粒子で被覆して、金属層を設ける場合には、めっき法を適用することが好ましく、無電解めっき法又は電解めっき法を適用することがより好ましい。また、金属層の特性をさらに向上させるために、めっき法で形成した金属層を加熱処理することが好ましく、このときの加熱処理の条件は、前記した金属層を加熱プレスで形成する場合の条件と同様でよい。
【0068】
積層基材の少なくとも一方の面への金属層の形成は、前記した第2工程と第3工程の間に行ってもよいし、第3工程の後に行ってもよい。
第3工程前に積層基材の表面に金属層を形成した場合には、金属層付の積層基材をそのまま第3工程で熱処理してもよいし、金属層をエッチャント等で除去した後に第3工程で熱処理してもよい。
【0069】
図1は、以上で説明した本発明に係る積層板の一実施形態を示す概略断面図である。図1に示す積層板10は、積層基材11の一方の面に金属層12が、積層基材11の他方の面に金属層13が設けられたものである。上記のように積層基材11、複数枚の樹脂含浸シートが重ねられた絶縁基材からなり、金属層12および金属層13は必須ではなく、いずれか一方が設けられていなくてもよく、両方とも設けられていなくてもよい。
【0070】
本発明に係る積層板は、金属層に所定のパターンを形成し、これをそのまま、又は必要に応じて二枚以上を積層することにより、プリント配線板などの回路基板として好適に用いることができる。
【0071】
以上説明した、本発明に係る積層板の製造方法により製造される積層板は、寸法安定性に優れている。
本発明の製造方法により製造される積層板は、室温から200度まで1時間かけて昇温した後1時間保持し、その後室温から200℃まで4時間かけて冷却する条件で行う加熱処理を行った場合、この加熱処理前後における寸法変化率が±0.001%以下となるような優れた寸法安定性を示すことができる。そのため、本発明に係る積層板は、配線加工の2次工程時などの加熱処理を経ても寸法がほとんど変化しないため、配線の歪みが発生することがなく、プリント配線などの回路基板として好適である。
【0072】
ここで、本発明における「寸法変化率」は、以下の方法により算出される。
(a)まず、上記した製造方法の第2工程までを行い、少なくとも一方の面に金属層(銅箔)が形成された積層基材を作製した。
(b)作製した縦250mm×横250mmの積層基材の中心から等距離の位置に、直径100μmの銅箔製マークが4点形成されるように、4点のマーク以外の部分の金属層(銅箔)をフォトエッチング法により全て除去した。4点のマークは、隣り合う点(マーク)間の距離が140mmになり、隣り合う点同士を結ぶと正方形になる位置に形成した。すなわち、この4点を頂点として形成される正方形の一辺の長さが140mmとなるような位置にマークを形成した。
(c)次に、表面に4点のマークが形成された積層基材に対して、上記した製造方法の第3工程の熱処理を行い、積層板を作製した。
(d)次いで、形状測定装置(ミツトヨ社製「Quick Vision Hybrid Type2」)を用いて隣り合うマーク間の距離を測定した。
(e)さらに、マーク付きの積層板を200℃で加熱処理(加熱処理条件:200℃まで1時間で昇温した後1時間保持し、室温まで約4時間かけて冷却)を行った。
(f)その後、上記(b)と同様に隣り合うマーク間の距離を測定し、それぞれの平均値の差(寸法変化率)を次の式(A)により求めた。
寸法変化率(%)=〔(加熱処理後のマーク間距離の平均値)−(加熱処理前のマーク間距離の平均値)〕/〔加熱処理前のマーク間距離の平均値〕×100・・・式(A)
【実施例】
【0073】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお実施例および比較例における物性は次の方法で測定した。
【0074】
〔寸法変化率の測定〕
実施例1〜4、比較例1、2で作製した、表面に4点のマークが形成された250mm×250mmの積層板について、形状測定装置(ミツトヨ社製「Quick Vision Hybrid Type2」)を用いて隣り合うマーク間の距離を測定した。さらに、マーク付きの積層板に、200℃まで1時間で昇温した後1時間保持し、室温まで約4時間かけて冷却する加熱処理を行った後、前記と同様に隣り合うマーク間の距離を測定し、それぞれの平均値の差(寸法変化率)を上記式(A)により求めた。
【0075】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
フローテスター(島津製作所社製「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0076】
〔積層基材のTgの測定〕
動的粘弾性分析装置(TAインスツルメント社製「DMA Q800」)を用いて、昇温速度5℃/分、周波数10Hz、振幅50μmで測定した。
【0077】
〔液状組成物の粘度の測定〕
B型粘度計(東機産業社製「TVL−20型」)を用いて、No.21のローターにより、回転数20rpmで測定した。
【0078】
[製造例1]
〔液晶ポリエステルの製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。次いで、留出する副生成物の酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで2時間50分かけて昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、235℃であった。次いで、このプレポリマーを、窒素雰囲気下で室温から223℃まで6時間かけて昇温し、223℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、270℃であった。
【0079】
〔液状組成物の製造〕
上記で製造した液晶ポリエステル2200gを、N,N−ジメチルアセトアミド7800gに加え、100℃で2時間加熱して、液晶ポリエステル溶液を得た。この液晶ポリエステル溶液に、球状シリカ(龍森社製、「MP−8FS」)を、液晶ポリエステルに対して20体積%分散させ、液状組成物を得た。この液状組成物について、測定温度23℃で粘度を測定したところ、0.2Pa・s(200cP)であった。
【0080】
<積層板の製造>
<実施例1>
製造例1で得られた液状組成物をガラスクロス(日東紡績社製、厚さ45μm、IPC名称1078)に浸漬した後、熱風式乾燥機を用いて、160℃で溶媒を蒸発させることで樹脂含浸シートを得た。この樹脂含浸シート中の球状シリカと液晶ポリエステルの合計含有量は56質量%であった。次いで、熱風式乾燥機を用いて、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理し、樹脂含浸シートを得た。また、この樹脂含浸シートの厚さは、平均で64μmであった。
この樹脂含浸シートを5枚重ね、銅箔(三井金属鉱業社製「3EC−VLP」、18μm)を両側に配置し、高温真空プレス機高温真空プレス機(北川精機社製「KVHC−PRESS」、縦300mm、横300mm)を用いて、340℃で30分、10MPaでプレスし、250mm角の金属層付き樹脂含浸シートの積層基材を得た。金属層を除いた積層基材の厚さは、平均で272μmであった。
得られた積層基材について、動的粘弾性分析装置(TAインスツルメント社製「DMA Q800」)を用いて昇温速度5℃/分、周波数10Hz、振幅50μmでTg(ガラス転移温度)を測定したところ、225℃であった。
次に、作製した縦250mm×横250mmの積層基材の中心から等距離の位置に、直径100μmの銅箔製マークが4点形成されるように、4点のマーク以外の部分の金属層(銅箔)をフォトエッチング法により全て除去した。4点のマークは、隣り合う点(マーク)間の距離が140mmになり、隣り合う点同士を結ぶと正方形になる位置に形成した。
次いで、得られた積層基材に対して250℃の熱処理を行った。ここで、250℃の熱処理は、250℃まで5℃/分で昇温した後1時間保持した。
以上の工程により、積層板を作製した。
【0081】
<実施例2>
実施例1と同様にして積層基材を作製した後に、得られた積層基材に対して300℃の熱処理を行うことにより積層板を作製した。ここで、300℃の熱処理は、300℃まで5℃/分で昇温した後1時間保持した。
【0082】
<実施例3>
製造例1で得られた液状組成物をガラスクロス(日東紡績社製、厚さ96μm、IPC名称2116)に浸漬した後、熱風式乾燥機を用いて、160℃で溶媒を蒸発させることで樹脂含浸シートを得た。この樹脂含浸シート中の球状シリカと液晶ポリエステルの合計含有量は47質量%であった。次いで、熱風式乾燥機を用いて、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理し、樹脂含浸シートを得た。また、この樹脂含浸シートの厚さは、平均で114μmであった。
この樹脂含浸シートを3枚重ね、銅箔(三井金属鉱業社製「3EC−VLP」、18μm)を両側に配置し、高温真空プレス機高温真空プレス機(北川精機社製「KVHC−PRESS」、縦300mm、横300mm)を用いて、340℃で30分、10MPaでプレスし、250mm角の金属層付き樹脂含浸シートの積層基材を得た。金属層を除いた積層基材の厚さは、平均で253μmであった。
得られた積層基材について、動的粘弾性分析装置(TAインスツルメント社製「DMA Q800」)を用いて昇温速度5℃/分、周波数10Hz、振幅50μmでTg(ガラス転移温度)を測定したところ、223℃であった。
次に、作製した縦250mm×横250mmの積層基材の中心から等距離の位置に、直径100μmの銅箔製マークが4点形成されるように、4点のマーク以外の部分の金属層(銅箔)をフォトエッチング法により全て除去した。4点のマークは、隣り合う点(マーク)間の距離が140mmになり、隣り合う点同士を結ぶと正方形になる位置に形成した。
次いで、得られた積層基材に対して250℃の熱処理を行うことにより積層板を作製した。ここで、250℃の熱処理は、250℃まで5℃/分で昇温した後1時間保持した。
【0083】
<実施例4>
実施例3と同様にして積層基材を作製した後に、得られた積層基材に対して300℃の熱処理を行うことにより積層板を作製した。ここで、300℃の熱処理は、300℃まで5℃/分で昇温した後1時間保持した。
【0084】
<比較例1>
実施例1と同様に作製した積層基材に熱処理を行わず、これを積層板とした。
【0085】
<比較例2>
実施例3と同様に作製した積層基材に熱処理を行わず、これを積層板とした。
【0086】
実施例1〜4および比較例1、2の各積層板について、寸法変化率を求めた。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
表1の結果より、本発明の製造方法である実施例1〜4で作製された積層板は、比較例1および2の積層板と比較して寸法変化率が小さく、寸法安定性が優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0089】
10…積層板、11…積層基材、12,13…金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を繊維シートに含浸させ、前記繊維シートに含まれる前記溶媒を除去して樹脂含浸シートを形成する第1工程と、
前記樹脂含浸シートを複数枚重ね合わせて絶縁基材を形成し、この絶縁基材を加熱加圧処理して積層基材を形成する第2工程と、
前記積層基材を、該積層基材のTg(ガラス転移温度(℃))〜Tg+150℃の温度範囲で熱処理する第3工程と、
を有することを特徴とする積層板の製造方法。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、下記一般式(1)で表される繰返し単位と、下記一般式(2)で表される繰返し単位と、下記一般式(3)で表される繰返し単位とを有することを特徴とする請求項1に記載の積層板の製造方法。
−O−Ar−CO− (1)
−CO−Ar−CO− (2)
−X−Ar−Y− (3)
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニレン基を表し;Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表し;X及びYは、それぞれ独立に、O又はNHを表し;Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
−Ar−Z−Ar− (4)
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し;Zは、O、CO又はSOを表す。)
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、該液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記一般式(1)で表される繰返し単位を30〜60モル%、前記一般式(2)で表される繰返し単位を20〜35モル%、及び前記一般式(3)で表される繰返し単位を20〜35モル%有することを特徴とする請求項2に記載の積層板の製造方法。
【請求項4】
前記繊維シートを構成する繊維が、ガラス繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層板の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程の後に、熱処理後の前記積層基材の少なくとも一方の面に金属層を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層板の製造方法。
【請求項6】
前記第2工程において、前記加熱加圧処理の後または前記加熱加圧処理と同時に、前記積層基材の少なくとも一方の面に金属層を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層板の製造方法。
【請求項7】
液晶ポリエステルを繊維シートに含浸してなる樹脂含浸シートを複数枚重ねて構成された積層板であって、
室温から200度まで1時間かけて昇温した後1時間保持し、その後室温から200℃まで4時間かけて冷却する条件で行う加熱処理の前後における寸法変化率が±0.001%以下であることを特徴とする積層板。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の積層板の製造方法により得られることを特徴とする請求項7に記載の積層板。
【請求項9】
請求項7または8に記載の積層板を用いてなることを特徴とする回路基板。

【図1】
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【公開番号】特開2013−87264(P2013−87264A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231924(P2011−231924)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】