説明

積層板用シアネート樹脂組成物、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線板及び半導体装置

【課題】耐熱性および低熱膨張性に優れる積層板用シアネート樹脂組成物、当該積層板用シアネート樹脂組成物を用いて作製したプリプレグ、金属張積層板、プリント配線板、及び半導体装置を提供する。
【解決手段】少なくとも、シアネート樹脂、無機充填剤及び溶剤を含有する積層板用シアネート樹脂組成物であって、調製直後の180℃におけるゲルタイムを100%としたとき、18〜28℃、湿度50〜70%で7日間保存後のゲルタイムが90%以上である積層板用シアネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層板用シアネート樹脂組成物(以下、単に「シアネート樹脂組成物」又は「樹脂組成物」と称する場合がある。)、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線板及び半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化等の要求に伴い、電子部品の高密度集積化、高密度実装化等が進んでいる。主要な電子部品の一つであるプリント配線板は、通常、絶縁層にプリプレグを用い、当該プリプレグは、樹脂組成物を溶剤に溶解しワニスとしたものを基材に含浸又は塗布し、加熱乾燥することで得られる。高密度実装対応のプリント配線板は、高密度化による発熱量の増加に対応するために、耐熱性および低熱膨張性に優れるものが求められている。
また、プリント配線板の半田付けには、従来、鉛−錫を用いた共晶半田が多く使用されていたが、鉛の人体及び環境への影響を考慮し、近年、鉛フリー半田の使用が進んでいる。通常、鉛フリー半田の溶融温度は、従来の鉛−錫系よりも高いため、鉛フリー半田の使用に対応するためにも、耐熱性および低熱膨張性に優れるプリント配線板が求められている。
【0003】
特許文献1には、シリコーン系難燃剤としてシリコーンレジンパウダーを使用し、無機充填剤と組み合わせてシアン酸エステル系の樹脂組成物に含有させることで、当該樹脂組成物を用いて得られる銅張積層板は、ハロゲンフリーで優れた難燃性を示し、銅箔ピール強度の低下が少なく、積層板からのブリード現象のない旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−348187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物は、耐熱性に関しては、シアン酸エステル系であるために耐熱性に優れるとしているのみで、低熱膨張性に関する記載は一切ない。また、樹脂組成物のゲルタイムの保持率については何も言及されていない。
【0006】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、耐熱性および低熱膨張性に優れる積層板用シアネート樹脂組成物、並びに当該積層板用シアネート樹脂組成物を用いて作製したプリプレグ、金属張積層板、プリント配線板、及び半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、ある特定のゲルタイム条件を満たすシアネート樹脂組成物が、耐熱性および低熱膨張性に優れることを見出した。
上記目的は、下記発明(1)〜(13)により達成される。
(1)少なくとも、シアネート樹脂、無機充填剤及び溶剤を含有する積層板用シアネート樹脂組成物であって、調製直後の180℃におけるゲルタイムを100%としたとき、18〜28℃、湿度50〜70%で7日間保存後のゲルタイムが90%以上である積層板用シアネート樹脂組成物。
(2)前記積層板用シアネート樹脂組成物が、30〜70重量%の無機充填剤をさらに含有することを特徴とする、上記(1)に記載の積層板用シアネート樹脂組成物。
(3)前記積層板用シアネート樹脂組成物を調製直後200℃で2時間硬化させたときの、硬化物の弾性率が50℃で5〜20GPaである上記(1)又は(2)に記載の積層板用シアネート樹脂組成物。
(4)前記積層板用シアネート樹脂組成物を調製後7日後に200℃で2時間硬化させたときの、硬化物の弾性率が50℃で5〜20GPaである上記(1)乃至(3)のいずれか一に記載の積層板用シアネート樹脂組成物。
(5)上記(1)乃至(4)のいずれか一に記載の積層板用シアネート樹脂組成物を基材に含浸してなることを特徴とするプリプレグ。
(6)前記プリプレグの硬化後弾性率が、50℃で10〜40GPaであることを特徴とする、上記(5)に記載のプリプレグ。
(7)前記プリプレグの厚み方向の硬化後線膨張係数が10〜40ppm/℃であることを特徴とする、上記(5)又は(6)に記載のプリプレグ。
(8)基材中に上記(1)乃至(4)のいずれか一に記載の積層板用シアネート樹脂組成物を含浸してなる樹脂含浸基材層の少なくとも片面に金属箔を有することを特徴とする金属張積層板。
(9)上記(5)乃至(7)のいずれか一に記載のプリプレグ又は当該プリプレグを2枚以上重ね合わせた積層体の少なくとも片面に金属箔を重ね、加熱加圧することにより得られる上記(8)に記載の金属張積層板。
(10)上記(8)又は(9)記載の金属張積層板を内層回路基板に用いてなることを特徴とするプリント配線板。
(11)内層回路上に、上記(5)乃至(7)のいずれか一に記載のプリプレグを絶縁層に用いてなるプリント配線板。
(12)内層回路上に、上記(1)乃至(4)のいずれか一に記載の積層板用シアネート樹脂組成物を絶縁層に用いてなるプリント配線板。
(13)上記(10)乃至(12)のいずれか一に記載のプリント配線板に半導体素子を搭載してなることを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0008】
上記ゲルタイム条件を満たす積層板用シアネート樹脂組成物は耐熱性および低熱膨張性に優れ、当該積層板用シアネート樹脂組成物を用いることにより、耐熱性および低熱膨張性に優れるプリプレグ、金属張積層板、プリント配線板及び半導体装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(積層板用シアネート樹脂組成物)
まず、積層板用シアネート樹脂組成物について説明する。
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物は、少なくとも、シアネート樹脂、無機充填剤及び溶剤を有する積層板用シアネート樹脂組成物であって、調製直後の180℃におけるゲルタイムを100%としたとき、18〜28℃、湿度50〜70%で7日間保存後のゲルタイムが90%以上であることを特徴とする。本発明者等は、上記のゲルタイムの条件を満たすシアネート樹脂組成物が、半田耐熱性および低熱膨張性に優れることを見出した。
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物は、シアネート樹脂を必須成分とする熱硬化性樹脂組成物であって、好ましくは、当該樹脂組成物中の樹脂成分の量をベースとしたときの、シアネート樹脂が30重量%以上である。なお、熱硬化性樹脂組成物の固形分とは、溶剤以外の全成分を意味する。
また、本発明において積層板用シアネート樹脂組成物は、溶剤を必須成分とし、一般的に「ワニス」と称する液状又は流動性の高い樹脂組成物を指しており、積層板を形成するためのプリプレグに含ませるものである。
また、本発明において「ゲルタイム」とは、所定量の積層板用シアネート樹脂組成物が、所定温度で、流動性を失うまでの時間を意味する。
【0010】
本発明のシアネート樹脂組成物が、調製直後の180℃におけるゲルタイムを100%としたとき、18〜28℃、湿度50〜70%で7日間保存後のゲルタイムが90%以上であるとは、調整直後のゲルタイムをT0、7日間保存後のゲルタイムをT7としたとき、(T7/T0)×100>90であることを意味する。尚、ゲルタイムは、JIS C6521の方法に準拠して測定することができる。具体的には、固形質量が0.15gとなる量の前記シアネート樹脂組成物を170℃に加熱したキュアプレート上に載せ、ストップウォッチで計時を開始する。棒の先端にて試料を均一に攪拌し、糸状に試料が切れてプレートに残るようになった時、ストップウォッチを止める。この試料が切れてプレートに残るようになるまでの時間をゲルタイムとする。
【0011】
一般にプリント配線板に用いられる熱硬化性樹脂は分子内に極性基を有する。例えば、エポキシ樹脂は分子内に水酸基を有し、シアネート樹脂はシアネート基を有する。この極性基は容易に空気中の水分を吸収する。水分子は、例えば、エポキシ樹脂の開環反応、シアネート基の環化反応の触媒、あるいは硬化剤として反応する等、熱硬化性樹脂組成物中の極性基と反応し、樹脂組成物の硬化物特性を、設計段階で期待したものと異なるものにする。例えば、一部のエポキシ基が水分子と反応しアルコールとなると、エポキシ樹脂のエポキシ基がそれだけ少なくなり、十分な架橋密度が得られず、耐熱硬化物が得られない。また例えば、一部のシアネート基が水分子と反応し、イミンとなると、シアネート樹脂の環化がそれだけ起こらないため、十分な架橋密度が得られず、耐熱硬化物が得られない。熱硬化性樹脂組成物のゲルタイムが、調製直後のゲルタイムと比べて大きく短縮する場合には、当該樹脂組成物中の極性基が水分との反応で消費されやすいことを意味し、硬化後の耐熱性および低熱膨張性が劣化しやすい。これに対し、熱硬化性樹脂組成物のゲルタイムの変化率が小さい場合には、当該樹脂組成物が硬化後の耐熱性および低熱膨張性に優れている。
【0012】
これらの空気中の水分で樹脂が変性してしまうことを避ける為に、硬化促進剤およびカップリング剤を調整することで、ワニス樹脂のゲルタイムの変化率を少なくすることができる。
【0013】
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物は、難燃性を向上させるために、シアネート樹脂を含む。前記シアネート樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化シアン化合物とフェノール類やナフトール類とを反応させ、必要に応じて加熱等の方法でプレポリマー化することにより得ることができる。また、このようにして調製された市販品を用いることもできる。
【0014】
前記シアネート樹脂の種類としては、特に限定されないが、例えば、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等のビスフェノール型シアネート樹脂、及びナフトールアラルキル型シアネート樹脂等を挙げることができる。
【0015】
前記シアネート樹脂は、分子内に2個以上のシアネート基(−O−CN)を有することが好ましい。例えば、2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)イソプロピリデン、1,1’−ビス(4−シアナトフェニル)エタン、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,3−ビス(4−シアナトフェニル−1−(1−メチルエチリデン))ベンゼン、ジシクロペンタジエン型シアネートエステル、フェノールノボラック型シアネートエステル、ビス(4−シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、1,1,1−トリス(4−シアナトフェニル)エタン、トリス(4−シアナトフェニル)ホスファイト、ビス(4−シアナトフェニル)スルホン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、1,3−、1,4−、1,6−、1,8−、2,6−又は2,7−ジシアナトナフタレン、1,3,6−トリシアナトナフタレン、4,4−ジシアナトビフェニル、及びフェノールノボラック型、クレゾールノボラック型の多価フェノール類と、ハロゲン化シアンとの反応で得られるシアネート樹脂、ナフトールアラルキル型の多価ナフトール類と、ハロゲン化シアンとの反応で得られるシアネート樹脂等が挙げられる。
これらの中で、フェノールノボラック型シアネート樹脂が難燃性、及び低熱膨張性に優れ、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)イソプロピリデン、及びジシクロペンタジエン型シアネートエステルが架橋密度の制御、及び耐湿信頼性に優れている。特に、フェノールノボラック型シアネート樹脂が低熱膨張性の点から好ましい。
【0016】
前記シアネート樹脂は、単独で用いてもよく、重量平均分子量の異なるシアネート樹脂を2種類以上併用したり、前記シアネート樹脂とそのプレポリマーとを併用したりすることもできる。
前記プレポリマーは、通常、上記シアネート樹脂を加熱反応等により、例えば3量化することで得られるものであり、シアネート樹脂組成物の成形性、流動性を調整するために好ましく使用されるものである。前記プレポリマーは、特に限定されないが、例えば、3量化率が20〜50重量%のプレポリマーを用いた場合、良好な成形性、流動性を発現できる。
【0017】
前記シアネート樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物の全固形分中の5〜60重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50重量%であり、特に好ましくは10〜40重量%である。含有量が前記範囲内であると、シアネート樹脂は、効果的に耐熱性、及び難燃性を発現させることができる。シアネート樹脂の含有量が前記下限未満であると熱膨張性が大きくなり、耐熱性が低下する場合があり、前記上限値を超えると前記シアネート樹脂組成物を用いて作製したプリプレグの強度が低下する場合がある。
【0018】
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物は、さらに無機充填剤を含む。無機充填剤を用いることにより、低熱膨張性、及び機械強度を付与することができるからである。前記無機充填剤としては、特に限定されないが、例えば、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、及びガラス等のケイ酸塩;酸化チタン、アルミナ、シリカ、及び溶融シリカ等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及びハイドロタルサイト等の炭酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化カルシウム等の金属水酸化物;硫酸バリウム、硫酸カルシウム、及び亜硫酸カルシウム等の硫酸塩又は亜硫酸塩;ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、及びホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩;窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、及び窒化炭素等の窒化物;チタン酸ストロンチウム、及びチタン酸バリウム等のチタン酸塩等を挙げることができる。これらの中でも、低熱膨張性及び絶縁信頼性の点で特にシリカが好ましく、更に好ましくは、球状の溶融シリカである。また、耐燃性の点で、水酸化アルミニウムが好ましい。
前記無機充填剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
前記無機充填剤の平均粒子径は、特に限定されないが、0.01〜5.0μmが好ましく、特に0.1〜2.0μmが好ましい。無機充填剤の粒形が前記下限未満であると、前記積層板用シアネート樹脂組成物の粘度が高くなるため、基材への含浸性が低下する場合がある。また、前記上限値を超えると、前記積層板用シアネート樹脂組成物中での無機充填剤の沈降等の現象が起こる場合がある。尚、平均粒子径は、例えば粒度分布計(HORIBA製、LA−500)により、粒子の粒度分布を体積基準で測定し、そのメディアン径(D50)を平均粒子径とする。
【0020】
前記無機充填剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物の全固形分中の30〜70重量%であることが好ましい。前記範囲内であると、基材や絶縁樹脂層を、特に低熱膨張、低吸水とすることができる。
【0021】
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含有していてもよい。前記エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂(4,4’−シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールP型エポキシ樹脂(4,4’−(1,4−フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールM型エポキシ樹脂(4,4’−(1,3−フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタンノボラック型エポキシ樹脂、1,1,2,2−(テトラフェノール)エタンのグリシジルエーテル類、3官能、又は4官能のグリシジルアミン類、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性エポキシ樹脂、メトキシナフタレン変性クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、メトキシナフタレンジメチレン型エポキシ樹脂等のナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、上記エポキシ樹脂をハロゲン化した難燃化エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂の中でも特に、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性エポキシ樹脂、及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これにより、耐熱性及び難燃性を向上させる。
前記エポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、重量平均分子量の異なるエポキシ樹脂を2種類以上併用したり、前記エポキシ樹脂とそのプレポリマーとを併用したりすることもできる。
【0022】
前記エポキシ樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物の全固形分中の5〜30重量%とすることが好ましい。含有量が前記下限値未満であると、エポキシ樹脂の硬化性が低下したり、当該樹脂組成物より得られるプリプレグ、又はプリント配線板の耐湿性が低下したりする場合がある。また、前記上限値を超えると、プリプレグ又はプリント配線板の線熱膨張率が大きくなったり、耐熱性が低下したりする場合がある。
【0023】
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物は、必要に応じて、ポリフェノール系硬化剤を含有していてもよい。前記ポリフェノールとしては、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、p−t−ブチルフェノールノボラック、ヒドロキシナフタレンノボラック、ビスフェノールAノボラック、ビスフェノールFノボラック、テルペン変性ノボラック、ジシクロペンタジエン変性ノボラック、パラキシレン変性ノボラック、及びポリブタジエン変性フェノール等が挙げられる。
【0024】
前記ポリフェノール系硬化剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物の全固形分中の0〜25重量%であることが好ましく、特に0〜15重量%であることが好ましい。
【0025】
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物は、さらにカップリング剤を含有していてもよい。カップリング剤を用いることで、前記シアネート樹脂及び前記エポキシ樹脂と、前記無機充填剤との界面の濡れ性を向上させることができ、基材に対して絶縁樹脂等及び無機充填剤を均一に定着させ、基材や絶縁樹脂等の耐熱性、特に吸湿後の半田耐熱性を改良することができる。
前記カップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、シラン系、チタネート系、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。シラン系カップリング剤としては、例えば、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシラン、3−アニリノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン化合物;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及び2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン化合物;その他として、3−メルカトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカトプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、及び3−メタクロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
これらの中でも耐マイグレーション性に優れることから、エポキシシラン化合物が特に好ましい。
前記カップリング剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
前記カップリング剤の含有量は、特に限定されないが、前記無機充填剤100重量部に対して0.05〜5.00重量部であることが好ましく、0.01〜2.50重量部がより好ましい。カップリング剤の含有量が前記下限値未満であると、無機充填剤を被覆して耐熱性を向上させる効果が充分でないことがある。一方、前記上限値を超えると、絶縁樹脂層の曲げ強度が低下することがある。カップリング剤の含有量を前記範囲内とすることにより、これらの特性のバランスに優れたものとすることができる。
【0027】
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物は、さらに硬化促進剤を含有していてもよい。前記硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン誘導体、及びホスホニウムボレート;トリエチルアミン、トリブチルアミン、及びジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等の3級アミン類;フェノール、ビスフェノールA、ノニルヘノール等のフェノール化合物;アルミニウム錯体、コバルト錯体、亜鉛錯体などの金属錯体、オクチル酸金属塩、ナフテン酸金属塩、ドデシル酸金属塩等のカルボン酸金属塩等が挙げられる。また、前記硬化促進剤の誘導体を用いることもできる。
前記硬化促進剤はその誘導体も含め、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
前記硬化促進剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物の全固形分中の0.01〜2.0重量%であることが好ましい。前記範囲内において、硬化性が良くなり、生産性が改善されるからである。
【0029】
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物は、以上に説明した成分のほか、必要に応じて、コアシェル型ゴム粒子、アクリル系ゴム粒子等の有機粒子、シリコーン系、フッ素系、高分子系の消泡剤及び/又はレベリング剤、酸化チタン、カーボンブラック等の着色剤といった添加剤を含有することができる。また、樹脂の相溶性、安定性、作業性等の各種特性向上のため、各種添加剤、例えば、イオン捕捉剤、非反応性希釈剤、反応性希釈剤、揺変性付与剤、増粘剤等を適宜添加してもよい。
【0030】
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物は、少なくとも前記シアネート樹脂及び前記無機充填剤を含有する組成物を、溶剤中で超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、及び自転公転式分散方式等の各種混合機を用いて溶解、混合、撹拌することにより調製する。
【0031】
前記溶剤としては、少なくとも前記シアネート樹脂及び前記無機充填剤を含有する組成物に対して良好な溶解性を示すことが望ましいが、悪影響を及ぼさない範囲で貧溶媒を使用してもよい。具体的には、アルコール類、エーテル類、アセタール類、ケトン類、エステル類、アルコールエステル類、ケトンアルコール類、エーテルアルコール類、ケトンエーテル類、ケトンエステル類、及びエステルエーテル類等の有機溶剤を用いることができる。良好な溶解性を示す溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0032】
本発明の積層板用シアネート樹脂組成物の固形分含有量は、80重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30〜80重量%であり、さらに好ましくは40〜70重量%である。前記範囲内では、前記積層板用エポキシ樹脂組成物の粘度を好適な水準とすることができ、基材への含浸性を更に向上させることができる。
【0033】
(プリプレグ)
次に、本発明のプリプレグについて説明する。
本発明のプリプレグは、前記積層板用シアネート樹脂組成物を基材に含浸し、加熱乾燥してなるものである。本発明では、前記シアネート樹脂組成物が、調製直後の180℃におけるゲルタイムを100%としたとき、18〜28℃、湿度50〜70%で7日間保存後のゲルタイムが90%以上であり、当該シアネート樹脂組成物を用いて作製したプリプレグは、半田耐熱性および低熱膨張性に優れることが判明した。
また、本発明のプリプレグは、50℃での硬化後弾性率が10〜40GPaであることが好ましい。
また、本発明のプリプレグは、厚み方向の硬化後線膨張係数が10〜40ppm/℃であることが好ましい。
【0034】
前記基材としては、例えばガラス織布、ガラス不織布、ガラスペーパー等のガラス繊維基材、紙、アラミド、ポリエステル、芳香族ポリエステル、フッ素樹脂等の合成繊維等からなる織布や不織布、金属繊維、カーボン繊維、鉱物繊維等からなる織布、不織布、マット類等が挙げられる。これらの基材は単独又は混合して使用してもよい。これらの中でもガラス繊維基材が好ましい。これにより、プリプレグの剛性、寸法安定性を向上することができる。
【0035】
前記シアネート樹脂組成物を前記基材に含浸させる方法は、例えば基材をシアネート樹脂組成物のワニスに浸漬する方法、各種コーターによる塗布する方法、スプレーによる吹き付ける方法等が挙げられる。これらの中でも、基材をシアネート樹脂組成物のワニスに浸漬する方法が好ましい。これにより、基材に対するシアネート樹脂組成物の含浸性を向上することができる。尚、基材をシアネート樹脂組成物のワニスに浸漬する場合、通常の含浸塗布設備を使用することができる。前記基材に前記シアネート樹脂組成物を含浸させ、所定温度、例えば90〜180℃で乾燥させることによりプリプレグを得ることができる。
【0036】
また、本発明のプリプレグは、硬化後弾性率が10〜40GPaである。これは、DMA等の装置により測定することができる。
【0037】
また、本発明のプリプレグは、硬化後線膨張係数が10〜40ppm/℃である。これは、TMA等の装置により測定することができる。
【0038】
(金属張積層板)
次に、金属張積層板について説明する。
本発明の金属張積層板は、基材に上記のシアネート樹脂組成物を含浸してなる樹脂含浸基材層の少なくとも片面に金属箔を有するものである。
本発明の金属張積層板は、例えば、上記のプリプレグ又は当該プリプレグを2枚以上重ね合わせた積層体の少なくとも片面に金属箔を張り付けることで製造できる。
プリプレグ1枚のときは、その上下両面もしくは片面に金属箔を重ねる。また、プリプレグを2枚以上積層することもできる。プリプレグ2枚以上積層するときは、積層したプリプレグの最も外側の上下両面もしくは片面に金属箔あるいはフィルムを重ねる。次に、プリプレグと金属箔とを重ねたものを加熱加圧成形することで金属張積層板を得ることができる。
【0039】
前記加熱する温度は、特に限定されないが、120〜220℃が好ましく、特に150〜200℃が好ましい。前記加圧する圧力は、特に限定されないが、0.5〜5MPaが好ましく、特に1〜3MPaが好ましい。また、必要に応じて高温槽等で150〜300℃の温度で後硬化を行ってもかまわない。
【0040】
本発明の金属張積層板の別の製造方法として、特開平8−150683に記載されているような長尺状の基材と長尺状の金属箔を用いる方法を適用することもできる(特開平8−150683の段落0005、0006、図1)。この方法による場合は、長尺状の基材をロール形態に巻き取ったもの、および、長尺状の金属箔をロール形態に巻き取ったものを2つ用意する。そして、2枚の金属箔を別々にロールから送り出し、各々に本発明の樹脂組成物を塗布し、絶縁樹脂層を形成する。樹脂組成物を溶剤で希釈して用いる場合には、塗布後、乾燥される。引き続き、2枚の金属箔の絶縁樹脂層側を対向させ、その対抗し合う面の間に基材を1枚または2枚以上ロールから送り出し、プレスローラーで積層接着する。次いで、連続的に加熱加圧して絶縁樹脂層を半硬化状態とし、冷却後、所定の長さに切断する。この方法によれば、長尺状の基材及び金属箔をライン上に移送しながら、連続的に積層が行われるので、製造途中において、長尺状の半硬化積層体が得られる。切断した半硬化状態の積層板をプレス機により加熱加圧することにより、金属張積層板が得られる。
【0041】
(プリント配線板)
次に、本発明のプリント配線板について説明する。
本発明のプリント配線板は、上記の金属張積層板を内層回路基板に用いてなる。
また、本発明のプリント配線板は、内層回路上に、上記のプリプレグを絶縁層に用いてなる。
また、本発明のプリント配線板は、内層回路上に、上記のシアネート樹脂組成物を絶縁層に用いてなる。
【0042】
本発明においてプリント配線板とは、絶縁層の上に金属箔等の導電体で回路を形成したものであり、片面プリント配線板(一層板)、両面プリント配線板(二層板)、及び多層プリント配線板(多層板)のいずれであってもよい。多層プリント配線板とは、メッキスルーホール法やビルドアップ法等により3層以上に重ねたプリント配線板であり、内層回路基板に絶縁層を重ね合わせて加熱加圧成形することによって得ることができる。
前記内層回路基板は、例えば、本発明の金属張積層板の金属層に、エッチング等により所定の導体回路を形成し、導体回路部分を黒化処理したものを好適に用いることができる。
前記絶縁層としては、本発明のプリプレグ、又は本発明のシアネート樹脂組成物からなる樹脂フィルムを用いることができる。尚、前記絶縁層として、前記プリプレグ又は前記シアネート樹脂組成物からなる樹脂フィルムを用いる場合は、前記内層回路基板は本発明の金属張積層板からなるものでなくてもよい。
【0043】
以下、本発明のプリント配線板の代表例として、本発明の金属張積層板を内層回路基板として用い、本発明のプリプレグを絶縁層として用いる場合の多層プリント配線板について説明する。
前記金属張積層板の片面又は両面に回路形成し、内層回路基板を作製する。場合によっては、ドリル加工、レーザー加工によりスルーホールを形成し、メッキ等で両面の電気的接続をとることもできる。この内層回路基板に前記プリプレグを重ね合わせて加熱加圧形成することで絶縁層を形成する。同様にして、エッチング等で形成した導体回路層と絶縁層とを交互に繰り返し形成することにより、多層プリント配線板を得ることができる。
【0044】
具体的には、前記プリプレグと前記内層回路基板とを合わせて、真空加圧式ラミネーター装置などを用いて真空加熱加圧成形させ、その後、熱風乾燥装置等で絶縁層を加熱硬化させる。ここで加熱加圧成形する条件としては、特に限定されないが、一例を挙げると、温度60〜160℃、圧力0.2〜3MPaで実施することができる。また、加熱硬化させる条件としては、特に限定されないが、一例を挙げると、温度140〜240℃、時間30〜120分間で実施することができる。
【0045】
尚、次工程においてレーザーを照射し、絶縁層に開口部を形成するが、その前に基材を剥離する必要がある。基材の剥離は、絶縁層を形成後、加熱硬化の前、又は加熱硬化後のいずれに行っても特に問題はない。
【0046】
次に、絶縁層にレーザーを照射して、開孔部を形成する。前記レーザーは、エキシマレーザー、UVレーザー及び炭酸ガスレーザー等が使用できる。
【0047】
レーザー照射後の樹脂残渣等(スミア)は過マンガン酸塩、重クロム酸塩等の酸化剤等により除去する処理、すなわちデスミア処理を行うことが好ましい。デスミア処理が不十分で、デスミア耐性が十分に確保されていないと、開孔部に金属メッキ処理を行っても、スミアが原因で上層金属配線と下層金属配線との通電性が十分に確保されなくなるおそれがある。また、平滑な絶縁層の表面を同時に粗化することができ、続く金属メッキにより形成する導電配線回路の密着性を上げることができる。
【0048】
次に、外層回路を形成する。外層回路の形成方法は、金属メッキにより絶縁樹脂層間の接続を図り、エッチングにより外層回路パターン形成を行う。
【0049】
さらに絶縁層を積層し、前記同様回路形成を行っても良いが、多層プリント配線板では、回路形成後、最外層にソルダーレジストを形成する。ソルダーレジストの形成方法は、特に限定されないが、例えば、ドライフィルムタイプのソルダーレジストを積層(ラミネート)し、露光、及び現像により形成する方法、又は液状レジストを印刷したものを露光、及び現像により形成する方法によりなされる。尚、得られた多層プリント配線板を半導体装置に用いる場合、半導体素子を実装するため接続用電極部を設ける。接続用電極部は、金メッキ、ニッケルメッキ及び半田メッキ等の金属皮膜で適宜被覆することができる。
【0050】
(半導体装置)
次に、本発明の半導体装置について説明する。
前記で得られたプリント配線板に半田バンプを有する半導体素子を実装し、半田バンブを介して、前記プリント配線板との接続を図る。そして、プリント配線板と半導体素子との間には液状封止樹脂を充填し、半導体装置を形成する。半田バンプは、錫、鉛、銀、銅、ビスマス等からなる合金で構成されることが好ましい。
【0051】
半導体素子とプリント配線板との接続方法は、フリップチップボンダー等を用いて、基板上の接続用電極部と半導体素子の半田バンプとの位置合わせを行ったあと、IRリフロー装置、熱板、その他加熱装置を用いて半田バンプを融点以上に加熱し、プリント配線板と半田バンプとを溶融接合することにより接続する。尚、接続信頼性を良くするため、予めプリント配線板上の接続用電極部に半田ペースト等、比較的融点の低い金属の層を形成しておいてもよい。この接合工程に先んじて、半田バンプ及び/又はプリント配線板上の接続用電極部の表層にフラックスを塗布することで接続信頼性を向上させることもできる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
(1)積層板用シアネート樹脂組成物の調製
シアネート樹脂としてノボラック型シアネート樹脂(ロンザ社製、PT−30S)31.0重量部、エポキシ樹脂としてビフェニルアラルキレン型エポキシ樹脂(日本化薬社製、NC−3000H)14.0重量部、硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウム(東京化成社製)0.11重量部、シランカップリング剤として3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製 KBM−403)0.5重量部、無機充填剤として溶融シリカ(アドマテックス社製、SO−25R、平均粒子径 0.5μm)55.0重量部を添加して、高速撹拌装置を用いて60分間撹拌して、固形分60%のシアネート樹脂組成物を調製した。
【0054】
(2)プリプレグの作製
前記積層板用シアネート樹脂組成物をガラス織布(厚さ94μm、日東紡績製Eガラス織布、WEA−2116)に含浸し、180℃の加熱炉で2分間乾燥して、プリプレグ中のシアネート樹脂組成物が固形分基準で約49重量%のプリプレグを得た。
【0055】
(3)金属張積層板の作製
前記プリプレグを4枚重ね、その両面に12μmの銅箔(三井金属鉱業社製、3EC−VLP箔)を重ねて、圧力3MPa、温度220℃で2時間加熱加圧成形し、厚さ0.124mmの両面に銅箔を有する金属張積層板を得た。
【0056】
(4)プリント配線板の作製
両面に銅箔を有する前記金属張積層板を、ドリル機で開孔後、無電解メッキで上下銅箔間の導通を図り、両面の銅箔をエッチングすることにより内層回路を両面に形成した(L(導体回路幅(μm))/S(導体回路間幅(μm))=50/50)。
次に、内層回路に過酸化水素水と硫酸を主成分とする薬液(旭電化工業(株)製、テックSO−G)をスプレー吹き付けすることにより、粗化処理による凹凸形成を行った。
【0057】
次に前記プリプレグを内層回路上に真空積層装置を用いて積層し、温度170℃、時間60分間加熱硬化し、積層体を得た。
その後、得られた積層体が有するプリプレグに、炭酸レーザー装置を用いてφ60μmの開孔部(ブラインド・ビアホール)を形成し、70℃の膨潤液(アトテックジャパン社製、スウェリングディップ セキュリガント P)に5分間浸漬し、さらに80℃の過マンガン酸カリウム水溶液(アトテックジャパン社製、コンセントレートコンパクト CP)に15分浸漬後、中和して粗化処理を行った。
次に、脱脂、触媒付与、活性化の工程を経た後、無電解銅メッキ皮膜による約0.5μmの給電層を形成した。この給電層表面に、厚さ25μmの紫外線感光性ドライフィルム(旭化成社製、AQ−2558)をホットロールラミネーターにより貼り合わせ、最小線幅/線間が20/20μmのパターンが描画されたクロム蒸着マスク(トウワプロセス社製)を使用して、位置を合わせ、露光装置(ウシオ電機社製UX−1100SM−AJN01)にて露光、炭酸ソーダ水溶液にて現像し、めっきレジストを形成した。
【0058】
次に、給電層を電極として電解銅めっき(奥野製薬社製81−HL)を3A/dm、30分間行って、厚さ約25μmの銅配線を形成した。ここで2段階剥離機を用いて、前記めっきレジストを剥離した。各薬液は、1段階目のアルカリ水溶液層にはモノエタノールアミン溶液(三菱ガス化学社製R−100)、2段階目の酸化性樹脂エッチング剤には過マンガン酸カリウムと水酸化ナトリウムを主成分とする水溶液(日本マクダーミッド社製、マキュダイザー9275、9276)、中和には酸性アミン水溶液(日本マクダーミッド社製マキュダイザー9279)をそれぞれ用いた。
【0059】
そして、給電層を過硫酸アンモニウム水溶液(メルテックス(株)製、AD−485)に浸漬処理することで、エッチング除去し、配線間の絶縁を確保した。次に、絶縁層を温度200℃、時間60分で最終硬化させ、最後に回路表面にソルダーレジスト(太陽インキ社製、PSR4000/AUS308)を形成し、プリント配線板を得た。
【0060】
(5)半導体装置の作製
得られたプリント配線板を50mm×50mmの大きさに切断し使用した。半導体素子(TEGチップ、サイズ15mm×15mm、厚み0.8mm)は、Sn/Pb組成の共晶で形成された半田バンプを有し、半導体素子の回路保護膜はポジ型感光性樹脂(住友ベークライト社製、CRC-8300)で形成されたものを使用した。半導体装置の組み立ては、まず、半田バンプにフラックス材を転写法により均一に塗布し、次にフリップチップボンダー装置を用い、プリント配線板上に加熱圧着により搭載した。次に、IRリフロー炉で半田バンプを溶融接合した後、液状封止樹脂(住友ベークライト社製、CRP−4152S)を充填し、液状封止樹脂を硬化させることで半導体装置を得た。尚、液状封止樹脂の効果条件は、温度150℃、120分の条件であった。
【0061】
(実施例2)
トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムの含有量を0.15重量部とした以外は、実施例1と同様にした。
【0062】
(実施例3)
トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムの含有量を0.06重量部とした以外は、実施例1と同様にした。
【0063】
(実施例4)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム(東京化成社製)0.14重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0064】
(実施例5)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、アセチルアセトナートビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム(東京化成社製)0.13重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0065】
(実施例6)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(東京化成社製)0.16重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0066】
(実施例7)
シアネート樹脂としてノボラック型シアネート樹脂を用いずに、2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)イソプロピリデン(ハンツマン社製 B−40S、三量化率40%)31.0重量%用いたこと以外は、実施例3と同様にした。
【0067】
(実施例8)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、1,2−ジメチルベンズイミダゾール(東京化成社製)0.15重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0068】
(実施例9)
1,2−ジメチルベンズイミダゾール(東京化成社製)の含有量を0.20重量部とした以外は、実施例8と同様にした。
【0069】
(実施例10)
1,2−ジメチルベンズイミダゾール(東京化成社製)の含有量を0.10重量部とした以外は、実施例8と同様にした。
【0070】
(実施例11)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、1−メチルー2−ホルミルベンズイミダゾール(四国化成社製 1M2FZ)0.20重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0071】
(実施例12)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ−[1,2−a]ベンズイミダゾール(四国化成社製 TBZ)0.12重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0072】
(実施例13)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、2−エチル−4−メチル イミダゾリウム テトラフェニルボレート(アルドリッチ社製)0.15重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0073】
(実施例14)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、2−フェニル−4−ヒドロキシメチル−5−メチルイミダゾール(四国化成社製 2P4MHZ)0.15重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0074】
(実施例15)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン(四国化成社製 2MZA)0.18重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0075】
(実施例16)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物(四国化成社製 2PZOK)0.16重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0076】
(実施例17)
シアネート樹脂としてノボラック型シアネート樹脂(ロンザ社製、PT−30S)31.0重量部、エポキシ樹脂としてビフェニルアラルキレン型エポキシ樹脂(日本化薬社製、NC−3000H)11.0重量部、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(DIC社製、TD−2010)3.0重量部、無機充填剤として溶融シリカ(アドマテックス社製、SO−25R、平均粒子径 0.5μm)55.0重量部とした以外は、実施例1と同様にした。
【0077】
(実施例18)
無機充填剤として溶融シリカ(アドマテックス社製、SO−25R、平均粒子径 0.5μm)50.0重量部、水酸化アルミニウム(昭和電工製 H−42 平均粒子径 1.0μm)5.0重量部を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0078】
(実施例19)
シランカップリング剤として、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランの代わりに3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0079】
(実施例20)
エポキシ樹脂を用いず、シアネート樹脂としてノボラック型シアネート樹脂(ロンザ社製、PT−30S)45.0重量部、硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウム(東京化成社製)0.08重量部、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製 KBM−403)0.5重量部、無機充填剤として溶融シリカ(アドマテックス社製、SO−25R、平均粒子径 0.5μm)55.0重量部とした以外は、実施例1と同様にした。
【0080】
(比較例1)
硬化促進剤としてトリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを用いずに、ナフテン酸コバルト(東栄化工社製)0.12重量部とし、溶融シリカの含有量を60.0重量部とした以外は、実施例1と同様にした。
【0081】
(比較例2)
硬化促進剤としてナフテン酸コバルトを用いずに、オクチル酸亜鉛(東栄化工社製)0.12重量部を用いた以外は、比較例1と同様にした。
【0082】
(比較例3)
硬化促進剤としてナフテン酸コバルトを用いずに、塩化アルミニウム(大明化学社製)0.12重量部を用いた以外は、比較例1と同様にした。
【0083】
(比較例4)
硬化促進剤としてナフテン酸コバルトを用いずに、2−フェニルイミダゾール(四国化成社製 2PZ)0.13重量部を用いた以外は、比較例1と同様にした。
【0084】
(比較例5)
硬化促進剤としてナフテン酸コバルトを用いずに、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成社製 2E4MZ)0.14重量部を用いた以外は、比較例1と同様にした。
【0085】
実施例及び比較例で得られた積層板用シアネート樹脂組成物、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線板、及び半導体装置等について以下の評価を行った。評価項目を内容と共に示す。得られた結果を表1〜3に示す。尚、実施例1〜10の結果を表1に示し、実施例11〜20の結果を表2に示し、比較例1〜5の結果を表3に示す。
【0086】
(1)7日後ゲルタイム保持率
積層板用シアネート樹脂組成物が調製直後の180℃におけるゲルタイム(T0)を100%とし、23℃、湿度60%で7日間保存後のゲルタイム(T7)を測定したときの(T7/T0)×100を7日後ゲルタイム保持率とした。ゲルタイムは、JIS C6521の方法に準拠して測定し、固形質量が0.15gとなる量のシアネート樹脂組成物を170℃に加熱したキュアプレート上に載せ、ストップウォッチで計時を開始し、棒の先端にて試料を均一に攪拌し、糸状に試料が切れてプレートに残るようになるまでの時間をゲルタイムとした。
【0087】
(2)硬化物弾性率
得られた積層板用シアネート樹脂組成物の調製直後の硬化物弾性率および調製後7日間23℃、湿度60%で保存後の硬化物弾性率を測定した。樹脂の貯蔵弾性率は、樹脂組成物を銅箔に塗工し、加熱しプレスした後に銅箔を全面エッチングし、得られた硬化物を、DMA装置(TAインスツルメント社製 DMA983)を用いて、5℃/分で昇温して、周波数1Hzで動的粘弾性測定を行い、50℃での貯蔵弾性率をそれぞれ測定した。
【0088】
(3)ガラス転移温度(Tg)
得られた金属張積層板の銅箔をエッチング除去後、所定の大きさに切断し、DMA装置(TAインスツルメント社製 DMA983)を用いて、昇温速度5℃/分の条件で測定し、tanδのピークをガラス転移温度Tg(℃)として測定した。
【0089】
(4)半田耐熱性
得られた金属張積層板から50mm角にサンプルを切り出し、3/4エッチングし、プレッシャークッカーを用いて121℃下、2時間処理後、260℃の半田に30秒浸漬させ、膨れの有無を観察した。各符号は以下のとおりである。
【0090】
(5)吸水率
厚さ0.6mmの金属張積層板を全面エッチングし、得られた積層板から50mm×50mmのテストピースを切り出し、JIS6481に準拠して測定した。
【0091】
(6)ピール強度
得られた金属積層板から100mm×20mmの試験片を作製し、23℃にて、JIS C 6481に準拠してピール強度を測定した。
【0092】
(7)熱膨張率
得られた金属張積層板の銅箔をエッチングにより除去し、評価用試料として2mm×2mmを採取し、TMA装置(TAインスツルメント社製)を用いて、10℃/分の条件で、30〜150℃まで昇温させ、50〜100℃における厚み方向(Z方向)の熱膨張率(ppm)を測定した。
【0093】
(8)積層板弾性率
得られた金属張積層板の銅箔をエッチングにより除去し、評価用試料として2mm×2mmを採取し、DMA装置(TAインスツルメント社製 DMA983)を用いて、5℃/分で昇温して、周波数1Hzで動的粘弾性測定を行い、50℃での貯蔵弾性率をそれぞれ測定した。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
表1〜3に記載されている評価結果より、以下のことがわかる。
比較例1〜5で調製されたシアネート樹脂組成物は、実施例1〜20で調製されたシアネート樹脂組成物と同様に、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、硬化促進剤、カップリング剤、及び無機充填剤等を溶剤で溶解させたものであるが、比較例1〜5で調製されたシアネート樹脂組成物の7日後ゲルタイム保持率は90%未満であり、比較例1〜3は半田耐熱性が実用可能なレベルに達しておらず、比較例4及び5は、熱膨張率が実用可能なレベルに達していなかった。
実施例1〜20で得られたシアネート樹脂組成物は、7日後ゲルタイム保持率が90%以上であり、半田耐熱性および熱膨張率の両方が良好であった。従って、本発明で特定した、少なくとも、シアネート樹脂、無機充填剤及び溶剤を含有し、調製直後の180℃におけるゲルタイムを100%としたとき、18〜28℃、湿度50〜70%で7日間保存後のゲルタイムが90%以上であることを特徴とする積層板用シアネート樹脂組成物を用いることにより、性能の優れたプリプレグ、金属張積層板、プリント配線板及び半導体装置が得られることがわかる。
実施例1〜20と比較例1〜5とでシアネート樹脂組成物の7日後ゲルタイム保持率に相違が生じた原因としては、硬化促進剤の吸水性が影響していると考えられた。
実施例1〜7及び実施例18〜20で用いた硬化促進剤は、金属原子が八面体構造で疎水基で囲まれている構造の錯体であるため、吸水しないと考えられる。実施例8〜12で用いた硬化促進剤は、窒素原子が置換されているため、立体障害で吸水しないと考えられる。実施例14〜16で用いた硬化促進剤は、樹脂に溶解しないため、反応を起こさない。実施例17では硬化促進剤を用いず、硬化剤としてフェノールノボラックを使用しており、極性の高い窒素原子や金属原子を含まないので、吸水しないと考えられる。
一方、比較例1〜3で用いた硬化促進剤は、金属原子が正方形構造で上下が露出した構造の錯体であるため、容易に水が吸着すると考えられる。このように吸湿等により錯体構造が破壊される硬化促進剤は、イオン化するため更に吸水性が高くなり、ゲルタイム保持率が悪化すると考えられる。比較例4及び5で用いた硬化促進剤は、イミダゾールの窒素原子が露出しており、かつ樹脂に溶解して反応するため、ゲルタイム保持率が悪化すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、シアネート樹脂、無機充填剤及び溶剤を含有する積層板用シアネート樹脂組成物であって、
調製直後の180℃におけるゲルタイムを100%としたとき、18〜28℃、湿度50〜70%で7日間保存後のゲルタイムが90%以上である積層板用シアネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記積層板用シアネート樹脂組成物が、30〜70重量%の無機充填剤をさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の積層板用シアネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記積層板用シアネート樹脂組成物を調製直後200℃で2時間硬化させたときの、硬化物の弾性率が50℃で5〜20GPaである請求項1又は2に記載の積層板用シアネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記積層板用シアネート樹脂組成物を調製後7日後に200℃で2時間硬化させたときの、硬化物の弾性率が50℃で5〜20GPaである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の積層板用シアネート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層板用シアネート樹脂組成物を基材に含浸してなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項6】
前記プリプレグの硬化後弾性率が50℃で10〜40GPaであることを特徴とする、請求項5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記プリプレグの厚み方向の硬化後線膨張係数が10〜40ppm/℃であることを特徴とする、請求項5又は6に記載のプリプレグ。
【請求項8】
基材中に請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層板用シアネート樹脂組成物を含浸してなる樹脂含浸基材層の少なくとも片面に金属箔を有することを特徴とする金属張積層板。
【請求項9】
請求項5乃至7のいずれか一項に記載のプリプレグ又は当該プリプレグを2枚以上重ね合わせた積層体の少なくとも片面に金属箔を重ね、加熱加圧することにより得られる請求項8に記載の金属張積層板。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の金属張積層板を内層回路基板に用いてなることを特徴とするプリント配線板。
【請求項11】
内層回路上に、請求項5乃至7のいずれか一項に記載のプリプレグを絶縁層に用いてなるプリント配線板。
【請求項12】
内層回路上に、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層板用シアネート樹脂組成物を絶縁層に用いてなるプリント配線板。
【請求項13】
請求項10乃至12のいずれか一項に記載のプリント配線板に半導体素子を搭載してなることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2011−195644(P2011−195644A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61605(P2010−61605)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】