説明

積層構造を有する高分子基材、及びそれを用いた医療器具

【課題】 血中のHCV除去を目的としたHCV吸着能に優れた積層構造を有する高分子基材、及びそれを用いた医療器具を提供すること。
【解決手段】 高分子支持体(A)、重合性化合物とのグラフト重合反応により高分子支持体(A)の表面が処理されることにより得られる層(B)及び層(B)と結合し得る積層構造体(C)からなる積層高分子基材であって、
積層構造体(C)が、以下の各層を一組としてn回積層されて構成されることを特徴とする積層高分子基材の提供。
第1層:層(B)と結合し得るイオン性或いはイオン化が可能な官能基を有する化合物(D)が、層(B)と結合することにより得られる層
第2層:第1層と結合し得る硫酸化多糖(E)が、第1層と結合することにより得られる層(但し、nは1〜10の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子支持体の表面を処理することにより得られる積層構造を有する高分子基材に関する。また、当該本高分子基材はウイルスを吸着する機能を有することから、当該高分子基材を用いたウイルスを除去する医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)の慢性的感染が原因であり、薬剤による治療法としてペグインターフェロン、リバビリンの併用療法が一般的である。ジェノタイプ1bかつ血液中のウイルス量の多い患者では、治療成績は50%程度であり、肝硬変、肝がんへの移行割合が高いことからより有効な治療法、薬剤の開発が望まれている(非特許文献1)。
一般的に薬剤による治療では血中のウイルス量が低い場合、治療成績が高いことが知られている。そこで、血中のHCVを多孔性のフィルターで除去し、薬剤との併用療法を行うと、治療成績が向上するとの報告がある(非特許文献2)。これは、体内のウイルス量を下げることで、治療成績が向上したものと推定される。
【0003】
しかし、この方法ではウイルスと同程度の大きさを持つ重要な血中成分、例えばフィルリノーゲンなどは除去されることから、これらの除去されない方法が患者にとって望ましい。
また、一旦血球と血漿を分離した後、血漿成分からウイルスを除去することから、回路構成は複雑で、より簡便に血中からウイルスを除去する方法が望ましい。
【0004】
以上のような背景から、HCVを選択的に吸着する方法の開発が待望されている。
HCVを吸着する物質の一つにヘパリンが挙げられ(非特許文献2)、ヘパリンを吸着リガンドとするHCV吸着除去モジュールは上記血液からウイルスを血中成分から選択的に吸着除去するために適していると考えられる。
【0005】
ヘパリン固定化基材の形態にはビーズや多孔質中空糸が挙げられる。内部循環型の体外循環モジュールは粒子状ヘパリン固定化基材の充填された体外循環モジュールと比較して血液の滞留部分が少ないことから血栓の形成が構成上少ない利点がある。多孔質中空糸にヘパリンを固定化する際、表面官能基の種類や固定化密度は基材材質によって異なり、各材料によって最適な方法を見出す必要がある。
【0006】
一方、G.Decherらはポリアニオンとポリカチオンの溶液に基材を交互に浸漬することで、機能性薄膜が作製できることを報告しており(特許文献1、2、非特許文献4、5)、交互積層体の手法を用いることで、材料や形態によらずヘパリンを表面に任意の厚さで形成できると考えられる。
その他、ヘパリンを用いた交互積層体の報告はされているが、HCV除去に好ましい積層体の報告はこれまでされていない(非特許文献6、7、8、9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2966795号
【特許文献2】特許3293641号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ウイルス性肝炎−基礎・臨床研究の進歩−日本臨床62巻増刊号7(2004)
【非特許文献2】A.K.Fujiwara et al.Hepatol.Res.,37,701(2007)
【非特許文献3】Zahn,J.P.Allain,J.Gen.Virol.,86,677(2005)
【非特許文献4】G.Decher,Science,277,1232(1997)
【非特許文献5】Thin Solid Films,210−211,831(1992)
【非特許文献6】Z.Mao,Bioconjugate Chem.,16,1316 (2005)
【非特許文献7】L.Liu,J.Biomed.Mater.Res.PartB Appl.Biomater.,87B,244(2008)
【非特許文献8】M.Liu,Langmuir,23,9379(2007)
【非特許文献9】K.C.Wood,PNAS,103,10207(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記背景技術を鑑み、本発明の課題は、血中のHCV除去を目的としたHCV吸着能に優れた積層構造を有する高分子基材、及びそれを用いた医療器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、高分子支持体(A)、重合性化合物とのグラフト重合反応により高分子支持体(A)の表面が処理されることにより得られる層(B)及び層(B)と結合し得る積層構造体(C)からなる積層高分子基材であって、
積層構造体(C)が、以下の各層を一組としてn回積層されて構成されることを特徴とする積層高分子基材を提供することにより、上記課題を解決する。
第1層:層(B)と結合し得るイオン性或いはイオン化が可能な官能基を有する化合物(D)が、層(B)と結合することにより得られる層
第2層:第1層と結合し得る硫酸化多糖(E)が、第1層と結合することにより得られる層(但し、nは1〜10の整数を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、HCV吸着能に優れた積層構造を有する高分子基材を提供することができ、本基材により、HCV除去が可能な医療器具及びそれを用いたHCV除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の積層高分子基材を備えてなる医療器具を示す概略断面図である。
【図2】ヘパリン固定化量を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
即ち、本発明は、
1.高分子支持体(A)、重合性化合物とのグラフト重合反応により高分子支持体(A)の表面が処理されることにより得られる層(B)及び層(B)と結合し得る積層構造体(C)からなる積層高分子基材であって、
積層構造体(C)が、以下の各層を一組としてn回積層されて構成されることを特徴とする積層高分子基材、
第1層:層(B)と結合し得るイオン性或いはイオン化が可能な官能基を有する化合物(D)が、層(B)と結合することにより得られる層
第2層:第1層と結合し得る硫酸化多糖(E)が、第1層と結合することにより得られる層
(但し、nは1〜10の整数を表す。)
2.高分子支持体(A)が、ポリオレフィンを基質とする高分子支持体である1.に記載の積層高分子基材(C)、
3.ポリオレフィンを基質とする高分子支持体が、中空糸膜である2.に記載の積層高分子基材(C)、
4.ポリオレフィンが、ポリ−4−メチルペンテンである3.に記載の積層高分子基材(C)、
5.重合性化合物が(メタ)アクリル酸であり、化合物(D)が高分子アミン化合物である1.〜4.の何れかに記載の積層高分子基材(C)、
6.高分子アミン化合物がポリアリルアミンである5.に記載の積層高分子基材(C)、
7.重合性化合物がグリシジル(メタ)アクリレートであり、化合物(D)が、アンモニア又は多価アミン化合物である1.〜4.の何れかに記載の積層高分子基材(C)、
8.多価アミン化合物が、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリアリルアミンである7.に記載の積層高分子基材(C)、
9.重合性化合物が、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートであり、化合物(D)が多価アミン化合物である1.〜4.の何れかに記載の積層高分子基材(C)、
10.多価アミン化合物が、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリアリルアミンである9.に記載の積層高分子基材(C)、
11.硫酸化多糖(E)が、ヘパリンである1.〜10.の何れかに記載の積層高分子基材(C)、
12.硫酸化多糖と第1層との結合方法が、硫酸化多糖をカルボジイミドと反応させたカルボジイミド活性化体と化合物(D)との反応によるものである1.〜11.の何れかに記載の積層高分子基材(C)、
13.1.〜12.の何れかに記載の高分子基材を備えたウイルス除去器具、
14.前記ウイルスがB型又はC型肝炎ウイルスである13.に記載のウイルス除去器具、
15.13.又は14.に記載のウイルス除去器具を用いたウイルスの除去方法、
に関する。
【0014】
本発明の重合性化合物とのグラフト重合反応により高分子支持体(A)の表面が処理されることにより得られる層(B)は、高分子支持体に重合性化合物をグラフト重合させることにより得られる層である。
【0015】
本発明に用いられる重合性化合物は、高分子支持体(A)にグラフト重合させることにより、層(B)を形成しえるエチレン性不飽和基を有するものであれば制限なく使用することが可能であるが、層(C)との積層構造を形成しやすい点から、(メタ)アクリル系化合物が好ましい。特に(メタ)アクリル系化合物としては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート等が好ましい。
【0016】
本発明に用いる高分子支持体(A)は、電離放射線照射によってラジカルを生成することから主鎖にメチレン基を有するような高分子化合物であれば良い。このような高分子化合物としては血液適合性の高いものであれば種々のものを用いることができるが、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スルホン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂またはセルロースアセテートが挙げられ、より具体的にはポリエチレンテレフタレート、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリ−4−メチルペンテン等を例示できる。
【0017】
高分子支持体(A)の形状には特に限定はなく、中空糸、ビーズ、不織布など種々の形態のものとして用いることができる。体外循環への適用時には血液が滞留する構造を持つビーズや不織布として用いることも可能であるが、ビーズや不織布は滞留部において血栓の発生が多くなることから、このような用途を目的とする場合は中空糸を使用することが望ましい。また、中空糸をろ過膜として使用しないのであれば、多孔質である必要もないため用途に応じて中空糸の形態は選択することができる。
【0018】
本発明では、前記高分子支持体(A)に電離放射線を照射して発生させたラジカルにより、前記重合性化合物が有するエチレン性不飽和基を高分子支持体にグラフト重合させる。グラフト重合に際して用いる電離放射線源としては、公知慣用のα線、β線、γ線、加速電子線、X線等があげられ、実用的にはγ線、加速電子線が望ましい。
【0019】
グラフト重合法は前記高分子支持体(A)と重合性化合物とを接触させて電離放射線を照射する同時照射グラフト重合法と高分子支持体を予め照射した後、重合性化合物と接触させる前照射グラフト重合法のいずれでも可能であり、目的に合わせて選択できる。
【0020】
本発明に用いる電離放射線を用いたグラフト重合法において、照射線量や加速電圧は高分子支持体(A)によって異なるため一概には範囲を決めることができず、高分子支持体(A)の素材、形態、厚みなどを考慮し適宜調整することが必要である。例えば、照射量が多い場合には帯電による絶縁破壊が発生し、照射量が少ない場合には重合反応が進行しない。このため、高分子支持体(A)の材質や形態などを考慮し、帯電による絶縁破壊が発生せず、かつ重合反応が充分に進む照射量を適宜調整すればよい。また、加速電圧は透過性に関係し、高分子支持体の厚みによって異なる。フィルムなどの薄い形態の場合、加速電圧は一般には小さくて済み、高分子支持体の形態によって選択すればよい。
【0021】
例えば、高分子支持体(A)が4−メチル−1−ペンテンからなる厚さ0.1(μm)〜10(μm)の中空糸の場合においては、10(kGy)以上、300(kGy)以下であり、さらに望ましくは90(kGy)以下である。また、加速電圧は0.1(kV)以上、10(kV)以下、好ましくは5(kV)以下である。
【0022】
前記接触工程と前記電離放射線照射工程の順に特に限定はない。例えば、前記高分子支持体(A)に重合性化合物または該重合性化合物を含む重合性組成物を接触させる工程(1)の後、この状態で電離放射線を照射する工程(2)を行っても良いし、逆に、前記高分子支持体に電離放射線を先に照射する工程(3)後、該高分子支持体に重合性化合物または該重合性化合物を含む重合性組成物を接触させる工程(4)を行ってもよい。
【0023】
前記照射グラフト重合において、照射後の基材中のラジカルは温度の上昇、酸素との接触によって速やかに不活化される。従って、照射後は十分に酸素を除いた状態で低温にて貯蔵し、速やかに固定化を行うことが好ましい。また前記の理由から、固定化においては脱酸素下、または不活性ガス下で実施することが望ましい。
重合後の高分子支持体は、水洗など種々の方法で未反応の重合性化合物を除去すればよい。
【0024】
なお、高分子支持体(A)の形状が中空糸であり、該中空糸へ前記重合性化合物または重合性組成物を固定化する場合には、実施形態に応じて糸の内面、外面のどちらか、または両方に固定化することができる。例えば中空糸内部に血液を還流させる時は中空糸内部に、前記重合性化合物または重合性組成物を中空糸内部に接触させ糖鎖を固定化すれば良く、逆に、外部還流時には中空糸外部に前記重合性化合物ないし重合性組成物を接触させ糖鎖を固定化すれば良い。
【0025】
次に、上記により得られる層(B)と結合し得る官能基を有する化合物により得られる層との積層構造(C)を有する高分子基材について説明する。
【0026】
本発明の積層構造(C)は、上記により得られる層(B)と結合し得る官能基を有する化合物により得られる層との積層により得ることができる。
【0027】
層(B)と結合し得る官能基を有する化合物は、層(A)を構成する化合物の有する官能基と結合し得る基を有すれば特に制限はないが、重合性化合物として(メタ)アクリル酸を用いた場合には、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基と結合し得るイオン性或いはイオン化が可能な官能基であるアミノ基を有する高分子化合物、特にポリアリルアミン等の化合物が好ましい。また、重合性化合物として、グリシジル(メタ)アクリレートを用いた場合には、グリシジル基と反応性を有する多価アミン誘導体が好ましい。より具体的には、2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリアリルアミン等の多価アミン誘導体を挙げることができる。
【0028】
また、重合性化合物として、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートを用いた場合には、イソシアネート基と反応性を有する水酸基、アミノ基を有する化合物が好ましく、特に化合物が好適である。より具体的には、2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリアリルアミン等の多価アミン誘導体を挙げることができる。
【0029】
積層構造(C)を作製するためには、例えば重合性化合物として(メタ)アクリル酸を用いた場合には、(メタ)アクリル酸を高分子支持体にグラフト重合させた後に、当該高分子支持体を、アミノ基を有する高分子化合物溶液に浸漬させることにより作製することができる。この際には加温してもよい。
また、重合性化合物として、グリシジル(メタ)アクリレートを用いた場合には、グリシジル(メタ)アクリレートを高分子支持体にグラフト重合させた後に、当該高分子支持体を、多価アミン誘導体溶液に浸漬させることにより作製することができる。この際には加温してもよい。加温の程度は、多価アミン誘導体の有するアミノ基とグリシジル基が反応する程度であれば、特に制限はない。
(メタ)アクリレートを高分子支持体にグラフト重合させた後に、当該高分子支持体を、多価アミン誘導体溶液に浸漬させることにより作製することができる。この際には加温してもよい。加温の程度は、多価アミン誘導体の有するアミノ基とグリシジル基又はイソシアネート基が反応する程度であれば、特に制限はない。
【0030】
積層構造(C)における第2層は、第1層である化合物(D)と結合し得る硫酸化多糖(E)と結合を行うことにより作製することができる。ここで、硫酸化多糖は、ウイルスと接触することより該硫酸化多糖に吸着しえるものであれば制限はないが、ヘパリンを好ましく用いることができる。結合の方法に特に制限はないが、好ましい方法として、化合物(D)と共有結合を介して結合する方法が挙げられる。
【0031】
一例として、以下にアミド化反応による具体的な方法を示すが、本発明で行われる結合様式はこれに限らない。
【0032】
アミド化反応の方法は、例えば、活性エステルによるアミド化、縮合剤によるアミド化、これらの併用、混合酸無水物法、アジド法、酸化還元法、DPPA法、ウッドワード法など、ペプチド合成などで用いられている公知慣用のアミド化反応を行えばよい。
【0033】
活性エステルによるアミド化としては、例えば、NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)、ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、HOBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOAT(ヒドロキシアザベンゾトリアゾール)、HOSu(ヒドロキシスクシンイミド)などを用いて、脱離能の高い基をカルボキシ基と一旦縮合させた活性エステルを形成させておき、これにアミノ基を反応させる方法が挙げられる。縮合剤によるアミド化は、それ単独で用いても良いが、上記活性エステルと併用することができる。縮合剤としては、EDC(1−(3−ジメチルアミノプロピル−3−エチル−カルボジイミドヒドロクロライド)、HONB(エンド−N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキサミド)、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、HBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、TBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOOBt(3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン)、ジ−p−トリオイルカルボジイミド、DIC(ジイソプロピルカルボジイミド)、BDP(1−ベンゾトリアゾールジエチルホスフェート−1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニルエチル)カルボジイミド)、フッ化シアヌル、塩化シアヌル、TFFH(テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスホスフェート)、DPPA(ジフェニルホスホラジデート)、TSTU(O−(N−スクシニミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HATU(N−[(ジメチルアミノ)−1−H−1,2,3−トリアゾロ[4,5,6]−ピリジン−1−イルメチレン]−N−メチルメタンアミニウム・ヘキサフルオロホスフェート・N−オキシド)、BOP−Cl(ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィンクロライド)、PyBOP((1−H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)−トリス(ピロリジノ)ホスホニウム・テトラフルオロホスフェート)、BrOP(ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、DEPBT(3−(ジエトキシホスホリルオキシ)−1,2,3−ベンゾトリアジン−4(3H)−オン)、PyBrOP(ブロモトリス(ピロリジノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)などが挙げられる。
【0034】
このうち、カルボキシ基を一旦、NHS化した後に、化合物(D)のアミノ基と反応させアミド化する方法が好ましく、さらに、NHSにEDCを加えてアミド化する方法がより好ましい。
【0035】
これらのアミド化方法において利用できる溶媒としては、水及びペプチド合成に用いられる有機溶媒を使用することができ、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等、更にはこれらの混合溶媒やこれらを含む水溶液が挙げられる。
【0036】
カルボキシ基への活性化エステル残基導入割合は、用いる活性化剤の種類や、試薬の使用量に依存する。一般的に、溶液中での反応と比較し、重合性化合物から得られる重合体が結合されていることで、反応性が落ちる為、導入量を上げる為には反応試薬をかなり過剰量用いる必要があると考えられる。従って、カルボキシ基固定化量に対する活性化剤と縮合剤反応試薬の量比は一概には規定できないが、概ねモル比で、1から100程度用いることが望ましい。ラクトースの量は活性エステル残基に対してモル比で1から100倍程度過剰量用いることができるが、高価なラクトースをあまり過剰量用いることは好ましくない。
【0037】
未反応の活性エステル残基はアンモニア水溶液との反応でアミドに変換し、取り除くことができる。アンモニア以外の反応後除去の容易な1級アミンを用いてアミド化することで、取り除くこともできる。いずれにせよ、器材に残存しないよう除去しておくのが望ましい。
本発明の積層高分子基材の製造方法は高分子素材の材質や形態に関して広範囲に適用できることから、目的や用途に応じて種々の積層高分子基材を得ることが可能である。
【0038】
本発明の積層高分子基材を備えてなる医療器具の形態としては、前記用途に適用可能な形状であれば特に限定されるものではないが、例えば中空糸モジュールや濾過カラム、フィルターなどが挙げられる。中空糸モジュールや濾過カラムにおいて、容器の形状及び材質は特に限定されないが、体液(血液)の体外循環に適用する場合、内部容量が10〜400mLで外径が2〜10cm程度の筒状容器とすることが好ましく、内部容量が20〜200mLで外径が2.5〜4cm程度の筒状容器とすることがより好ましい。
【0039】
本発明の医療器具の使用方法としては、ウイルスを含む液(例えば、ウイルスを含む水溶液や血液、血漿、血清等の体液)と接触させて該液中のウイルスを吸着除去、分離することができればいずれの方法でもよい。このような方法として例えば以下の方法を挙げることができる。
(1)本発明の積層高分子基材としての中空糸を有するモジュールを用意し、該モジュールにウイルスを含む液を通過させる方法
(2)流出口に液は通過できるが本発明の高分子基材は通過できないフィルターを装着し、内部に該器材を充填したカラム様容器を用意し、これにウイルスを含む液を通過させる方法
(3)貯留バッグ等の容器を用意し、これにウイルスを含む液と本発明の高分子基材を加えて混合した後、上澄み液を回収する方法
(1)や(2)の方法は操作が簡便である点で好ましく、体外循環回路に組み込むことにより患者の体液から効率よくインラインでウイルスを除去することが可能である。このうち、さらに好ましい方法として(1)の方法が挙げられる。(2)や(3)の方法では、例えば血液を扱う場合、その凝固を防止するため血液を血球と血漿に分離した上で血漿のみを処理する必要があるが、(1)の方法ではこのような工程を必要とせず、操作が最も簡便でかつ患者への負担が少なくて済む。
【0040】
本発明で対象とする肝炎ウイルスは、B型又はC型肝炎ウイルスであることに特徴を有する。本発明では、ヘパリン誘導体の肝炎ウイルス吸着能を評価するため、HCV E2蛋白質(His−tag)に対する吸着能を評価した。E2蛋白質は脂質膜と共に、ウイルス粒子の外被(エンベロープ)を構成し、ウイルスのエントリーに重要な役割を果たす蛋白質であって、E2蛋白質への吸着能を評価することにより、HCVへの吸着能の評価が可能となる蛋白質である。
以下の実施例に示すように、本発明の高分子基材では、HCV E2蛋白質の吸着能が確認された。
【実施例】
【0041】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0042】
(実施例1)
ポリ−4−メチルペンテン製中空糸束(中空糸表面積200cm、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓で密閉し、試験管内部を窒素置換してからRDI社製の電子線照射装置「ダイナミトロン5MeV−150kW」にて4.8MeVの加速電圧で90kGy電子線を照射した。続いて23℃でメタクリル酸(東京化成)メタノール溶液40mg/mLの脱酸素済み溶液を試験管に加えた。4時間後、試験管から中空糸束を取り出し、数回水洗して乾燥後、重量を測定し、重量増加からメタクリル酸の固定化を確認した。ポリアリルアミン(東洋紡製、PAA−L、分子量15000)3mg/mL水溶液に1時間、メタクリル酸固定化中空糸を浸漬し、数回水洗後、ヘパリン3mg/mL、EDC1.5mg/mL、NHS 1.2mg/mLを含む水溶液に1時間浸漬、水洗した。交互に上記溶液に浸漬、水洗を繰り返し、所定回数交互積層した中空糸を得た。中空糸をAcO/0.2M AcONa溶液(1/2vol)溶液に浸漬し、1時間攪拌して剰余アミノ基をアセチル化した。乾燥後に中空糸の断面を透過型電子顕微鏡で観測したところ、ヘパリン由来の硫黄原子を含有する膜が厚さ約100nmで観測された。
【0043】
<ヘパリン固定化中空糸のHCV E2吸着率の評価>
ヘパリンを固定化した中空糸を5cmに切り取り、マイクロチューブに入れて、ブロッキング液として1%BSA/PBS溶液を加え、4℃、一晩放置した。ブロッキング液を除去し、2〜4μg/mL濃度のE2溶液(Abcam社製)を500μL加え、室温で2時間ローテートして吸着前後のE2量をELISA法にて測定したところ、E2吸着率は65%であった。
【0044】
(実施例2)
ポリ−4−メチルペンテン製中空糸束(中空糸表面積200cm、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓で密閉し、試験管内部を窒素置換してからRDI社製の電子線照射装置「ダイナミトロン5MeV−150kW」にて4.8MeVの加速電圧で90kGy電子線を照射した。続いて23℃でアクリル酸(東京化成)水溶液40mg/mLの脱酸素済み溶液を試験管に加えた。4時間後、試験管から中空糸束を取り出し、数回水洗して乾燥後、重量を測定し、重量増加からアクリル酸の固定化を確認した。ポリアリルアミン(東洋紡製、PAA−L、分子量15000)3mg/mL水溶液に1時間、アクリル酸固定化中空糸を浸漬し、数回水洗後、ヘパリン3mg/mL、EDC 1.5mg/mL、NHS 1.2mg/mLを含む水溶液に1時間浸漬、水洗した。交互に上記溶液に浸漬、水洗を繰り返し、所定回数交互積層した中空糸を得た。中空糸をAcO/0.2M AcONa溶液(1/2vol)溶液に浸漬し、1時間攪拌して剰余アミノ基をアセチル化した。ヘパリン固定化量はトルイジンブルーを用いた色素溶液の吸着を用いた定量法を用いて測定した。
【0045】
(実施例3)
ポリ−4−メチルペンテン製中空糸束(中空糸表面積200cm、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓で密閉し、試験管内部を窒素置換してからRDI社製の電子線照射装置「ダイナミトロン5MeV−150kW」にて4.8MeVの加速電圧で90kGy電子線を照射した。続いて23℃でグリシジルメタクリレート(GMA、東京化成)メタノール溶液40mg/mLの脱酸素済み溶液を試験管に加えた。4時間後、試験管から中空糸束を取り出し、数回水洗して乾燥後、重量を測定し、重量増加からGMAの固定化を確認した。1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタンのメタノール溶液に40℃で4時間浸漬してエポキシ基を開環し、アミノ化した。ヘパリン3mg/mL、EDC1.5mg/mL、NHS、1.2mg/mLを含む水溶液に1時間浸漬、水洗した。ポリアリルアミン(東洋紡製、PAA−L、分子量15000)3mg/mL水溶液に1時間、アクリル酸固定化中空糸を浸漬し、数回水洗後、交互に上記溶液に浸漬、水洗を繰り返し、所定回数交互積層した中空糸を得た。中空糸をAcO/0.2M AcONa溶液(1/2vol)溶液に浸漬し、1時間攪拌して剰余アミノ基をアセチル化した。ヘパリン固定化量はトルイジンブルーを用いた色素溶液の吸着を用いた定量法を用いて測定した。
【0046】
(実施例4)
ポリ−4−メチルペンテン製中空糸束(中空糸表面積200cm、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓で密閉し、試験管内部を窒素置換してからRDI社製の電子線照射装置「ダイナミトロン5MeV−150kW」にて4.8MeVの加速電圧で90kGy電子線を照射した。続いて23℃で2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工製、カレンズMOI)酢酸エチル溶液40mg/mLの脱酸素済み溶液を試験管に加えた。4時間後、試験管から中空糸束を取り出し、数回酢酸エチルで洗浄、乾燥後、重量を測定し、重量増加から2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの固定化を確認した。1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタンの酢酸エチル溶液に23℃で1時間浸漬し、アミノ化した。ヘパリン3mg/mL、EDC1.5mg/mL、NHS、1.2mg/mLを含む水溶液に1時間浸漬、水洗した。ポリアリルアミン(東洋紡製、PAA−L、分子量15000)3mg/mL水溶液に1時間、アクリル酸固定化中空糸を浸漬し、数回水洗後、交互に上記溶液に浸漬、水洗を繰り返し、所定回数交互積層した中空糸を得た。中空糸をAcO/0.2M AcONa溶液(1/2vol)溶液に浸漬し、1時間攪拌して剰余アミノ基をアセチル化した。ヘパリン固定化量はトルイジンブルーを用いた色素溶液の吸着を用いた定量法を用いて測定した。
【0047】
(実施例5)
ポリ−4−メチルペンテン製中空糸束(中空糸表面積200cm、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓で密閉し、試験管内部を窒素置換してからRDI社製の電子線照射装置「ダイナミトロン5MeV−150kW」にて4.8MeVの加速電圧で90kGy電子線を照射した。続いて23℃でグリシジルメタクリレート(GMA、東京化成)メタノール溶液 40 mg/mLの脱酸素済み溶液を試験管に加えた。4時間後、試験管から中空糸束を取り出し、数回水洗して乾燥後、重量を測定し、重量増加からGMAの固定化を確認した。ポリアリルアミン(東洋紡製、PAA−L、分子量15000)のメタノール溶液(10wt%)に40℃で4時間浸漬してエポキシ基を開環し、アミノ化した。ヘパリン3mg/mL、EDC1.5mg/mL、NHS、1.2mg/mLを含む水溶液に1時間浸漬、水洗した。ポリアリルアミン(東洋紡製、PAA−L、分子量15000)3mg/mL水溶液に1時間、アクリル酸固定化中空糸を浸漬し、数回水洗後、交互に上記溶液に浸漬、水洗を繰り返し、所定回数交互積層した中空糸を得た。中空糸をAcO/0.2M AcONa溶液(1/2vol)溶液に浸漬し、1時間攪拌して剰余アミノ基をアセチル化した。ヘパリン固定化量はトルイジンブルーを用いた色素溶液の吸着を用いた定量法を用いて測定した。
【0048】
(比較例)
実施例1の手順に従い、メタクリル酸固定化中空糸を得た。中空糸を5cmに切り取り、実施例1に記載の<ヘパリン固定化中空糸のHCV E2吸着率の評価>と同様にして測定を行い、E2吸着率は30%であった。
【0049】
実施例及び比較例により行った結果を以下の表1、2及びヘパリン固定化量(μg/cm)を図1に示す。
本結果より、本発明の積層高分子基材は、良好なHCV吸着能を有することが明らかである。また、積層回数が10回の方が、5回よりヘパリン固定化量が多いことが明らかとなった。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の高分子基材は、ウイルス除去器具として利用が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 流出口
2 流入口
3 ラクトース
4 中空糸
5 容器
6 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子支持体(A)、重合性化合物とのグラフト重合反応により高分子支持体(A)の表面が処理されることにより得られる層(B)及び層(B)と結合し得る積層構造体(C)からなる積層高分子基材であって、
積層構造体(C)が、以下の第1層及び第2層を一組としてn回積層されて構成されることを特徴とする積層高分子基材。
第1層:層(B)と結合し得るイオン性或いはイオン化が可能な官能基を有する化合物(D)が、層(B)と結合することにより得られる層
第2層:第1層と結合し得る硫酸化多糖(E)が、第1層と結合することにより得られる層
(但し、nは1〜10の整数を表す。)
【請求項2】
高分子支持体(A)が、ポリオレフィンを基質とする高分子支持体である請求項1に記載の積層高分子基材(C)。
【請求項3】
ポリオレフィンを基質とする高分子支持体が、中空糸膜である請求項2に記載の積層高分子基材(C)。
【請求項4】
ポリオレフィンが、ポリ−4−メチルペンテンである請求項3に記載の積層高分子基材(C)。
【請求項5】
重合性化合物が(メタ)アクリル酸であり、化合物(D)が高分子アミン化合物である請求項1〜4の何れかに記載の積層高分子基材(C)。
【請求項6】
高分子アミン化合物がポリアリルアミンである請求項5に記載の積層高分子基材(C)。
【請求項7】
重合性化合物がグリシジル(メタ)アクリレートであり、化合物(D)が、アンモニア又は多価アミン化合物である請求項1〜4の何れかに記載の積層高分子基材(C)。
【請求項8】
多価アミン化合物が、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリアリルアミンである請求項7に記載の積層高分子基材(C)。
【請求項9】
重合性化合物が、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートであり、化合物(D)が多価アミン化合物である請求項1〜4の何れかに記載の積層高分子基材(C)。
【請求項10】
多価アミン化合物が、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリアリルアミンである請求項9に記載の積層高分子基材(C)。
【請求項11】
硫酸化多糖(E)が、ヘパリンである請求項1〜10の何れかに記載の積層高分子基材(C)。
【請求項12】
硫酸化多糖と第1層との結合方法が、硫酸化多糖をカルボジイミドと反応させたカルボジイミド活性化体と化合物(D)との反応によるものである請求項1〜11の何れかに記載の積層高分子基材(C)。
【請求項13】
請求項1〜12の何れかに記載の高分子基材を備えたウィルス除去器具。
【請求項14】
前記ウィルスがB型又はC型肝炎ウィルスである請求項13に記載のウィルス除去器具。
【請求項15】
請求項13又は14に記載のウィルス除去器具を用いたウィルスの除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−201031(P2011−201031A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67852(P2010−67852)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(591222245)国立感染症研究所長 (48)
【Fターム(参考)】