説明

積層構造体の製造方法

【課題】粉末噴射コーティング法又は蒸着法が用いられる積層構造体の製造方法において、誘電体層の誘電特性を向上させる。
【解決手段】本発明に係る製造方法は、積層構造体を製造する方法であって、工程(a)、工程(b)、及び工程(c)を有している。製造される積層構造体は、金属製の基材1と、該基材1の表面上に形成された誘電体層とを備えている。工程(a)では、粉末噴射コーティング法又は蒸着法を用いて、基材1の表面上に、誘電体層となる成膜層6を形成する。工程(b)では、成膜層6の表面に焼結助剤を付着させる。工程(c)は、工程(b)の後に実行される。工程(c)では、成膜層6に対して熱処理を施すことにより、誘電体層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサ回路を有した回路基板や薄膜キャパシタ等の積層構造体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の積層構造体は、電極箔と、該電極箔上に形成された誘電体層と、該誘電体層上に形成された電極層とを有している。従来、誘電体層の形成には、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の成膜法が用いられていた。近年においては、PJD(Powder Jet Deposition)法やAD(Aerosol Deposition)法等の粉末噴射コーティング法を用いて誘電体層を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−235235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粉末噴射コーティング法を含む従来の成膜法では、形成される誘電体層の特性が低かった。これに対し、誘電体層の特性を高めるべく、次の様な技術が提案されている。即ち、誘電体材料と焼結助剤との混合材料を用いて、AD法によって誘電体層となる成膜層を形成し、その後、該成膜層に対して熱処理を施す(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、成膜法としてAD法を用いる場合、誘電体材料と焼結助剤との混合材料を成膜材料として用いることは困難である。誘電体材料と焼結助剤とを混合した場合、焼結助剤の影響を受けて誘電体材料の質(例えば、硬さや比重等の物性)が変化する。このため、AD法を用いて成膜層を形成すること自体が困難となり、又、成膜層を形成することが出来たとしても、該成膜層において所望の膜質(焼結助剤が均一に分散したもの)を得ることが出来ない。PJD法等の他の粉末噴射コーティング法、及び蒸着法についても同様、誘電体材料と焼結助剤との混合材料を成膜材料として用いることが困難である。
【0006】
そこで本発明の目的は、粉末噴射コーティング法又は蒸着法が用いられる積層構造体の製造方法において、誘電体層の誘電特性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る製造方法は、積層構造体を製造する方法であって、工程(a)、工程(b)、及び工程(c)を有している。製造される積層構造体は、金属製の基材と、該基材の表面上に形成された誘電体層とを備えている。工程(a)では、粉末噴射コーティング法又は蒸着法を用いて、前記基材の表面上に、前記誘電体層となる成膜層を形成する。工程(b)では、前記成膜層の表面に焼結助剤を付着させる。工程(c)は、工程(b)の後に実行される。工程(c)では、前記成膜層に対して熱処理を施すことにより、前記誘電体層を形成する。
【0008】
上記製造方法の具体的態様において、前記工程(b)では、前記成膜層の表面に、焼結助剤を主成分として含む助剤膜を形成する。
【0009】
上記製造方法の他の具体的態様において、前記工程(c)では、熱処理温度を、前記基材を構成している金属材料の融点及び前記成膜層を構成している誘電体材料の融点の何れの融点よりも低い温度であって、且つ前記焼結助剤の融点よりも高い温度に設定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る積層構造体の製造方法によれば、誘電体層の誘電特性を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造方法によって作製される薄膜キャパシタを示した断面図である。
【図2】上記製造方法にて実行される成膜工程の説明に用いられる断面図である。
【図3】上記製造方法にて実行される助剤膜形成工程の説明に用いられる断面図である。
【図4】上記製造方法にて実行される熱処理工程の説明に用いられる断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態として、積層構造体である薄膜キャパシタの製造方法について、図面に沿って具体的に説明する。
図1は、本実施形態の製造方法によって作製される薄膜キャパシタを示した断面図である。図1に示す様に、薄膜キャパシタは、金属製の基材である電極箔1と、該電極箔1上に形成された誘電体層2と、該誘電体層2上に形成された電極層3とを備えている。
【0013】
電極箔1を構成する金属材料には、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)等、箔を形成することが可能であって、且つ薄膜キャパシタの電極となり得る物質が用いられる。
【0014】
誘電体層2を構成する誘電体材料には、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ホウ酸リチウム(Li2B4O7)、チタン酸ジルコン酸鉛(PbZrTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PbLaZrTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta2O5)等を主成分とする種々の誘電体材料を用いることが出来る。尚、誘電体材料には、誘電体層2の誘電特性、絶縁特性、及び強度等の物性を向上させるべく、種々の添加物が含まれていてもよい。又、誘電体層2には、その少なくとも一部に、後述する焼結助剤が含まれていてもよい。
【0015】
電極層3は、金属膜又は金属箔である。ここで、金属膜は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、スクリーン印刷法等の手法を用いて形成された薄膜である。電極層3を構成する金属材料には、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)等、薄膜又は箔を形成することが可能であって、且つ薄膜キャパシタの電極となり得る物質が用いられる。
【0016】
次に、上記薄膜キャパシタの製造方法について説明する。該製造方法では、成膜工程、助剤膜形成工程、熱処理工程、及び電極層形成工程が、順に実行される。
図2は、成膜工程の説明に用いられる断面図である。図2に示す様に、成膜工程では、粉末噴射コーティング法又は蒸着法を用いて、電極箔1の表面上に、誘電体層2となる成膜層6を形成する。ここで、粉末噴射コーティング法は、気体の流れを利用して、粉末をターゲット(電極箔1)の表面に噴き付け、これにより該ターゲットの表面上に粉末を堆積させて薄膜を形成する方法である。粉末噴射コーティング法には、例えばPJD法やAD法を採用することが出来る。蒸着法には、例えばスパッタリング法や真空蒸着法を採用することが出来る。
【0017】
図3は、助剤膜形成工程の説明に用いられる断面図である。図3に示す様に、助剤膜形成工程では、成膜層6の表面に、焼結助剤を主成分として含む助剤膜7を形成する。ここで、焼結助剤には、成膜層6を構成する誘電体材料よりも融点が低い焼結助剤が用いられる。尚、焼結助剤には、誘電体材料の焼結を促進させる周知の種々の材料を用いることが出来る。例えば、焼結助剤として、酸化ホウ素、酸化ビスマス、酸化銅、ガラス等の材料を用いることが出来る。
【0018】
助剤膜7の一例として、焼結助剤である酸化ホウ素(B2O3)を主成分として含む薄膜を形成する場合について説明する。尚、酸化ホウ素(B2O3)の融点は、約450℃である。先ず、キシレンを溶媒とする酸化ホウ素(B2O3)の溶液を用意する。次に、該溶液を成膜層6の表面に塗布することにより、該表面上に溶液の塗布膜を形成する。塗布膜の形成には、スピンコート法、ディップコート法、印刷法、スプレーコート法等の手法を用いることが出来る。その後、塗布膜を乾燥させる。これにより、成膜層6の表面上に、酸化ホウ素(B2O3)の薄膜が助剤膜7として形成される。尚、塗布膜の乾燥後、該塗布膜に対して熱処理を施してもよい。このとき、熱処理温度は400℃〜700℃の温度に設定される。
【0019】
成膜層6の表面上に助剤膜7を形成することにより、該助剤膜7に含まれる焼結助剤を成膜層6の表面に略均一に付着させることが出来る。
【0020】
図4は、熱処理工程の説明に用いられる断面図である。図4に示す様に、熱処理工程では、成膜層6に対して熱処理を施すことにより、誘電体層2を形成する。このとき、熱処理温度を、電極箔1を構成している金属材料の融点及び成膜層6を構成している誘電体材料の融点の何れの融点よりも低い温度であって、且つ助剤膜7に含まれている焼結助剤の融点よりも高い温度に設定することが好ましい。
【0021】
熱処理工程では、電極箔1も熱に晒されることになる。よって、熱処理温度を、電極箔1を構成している金属材料の融点よりも低い温度に設定することにより、電極箔1の溶解や変形等、電極箔1への熱の影響を防止することが出来る。一例として、金属材料がニッケル(Ni)の場合、熱処理温度は1000℃以下の温度に設定される。
【0022】
一方、熱処理温度が、成膜層6を構成している誘電体材料の融点より低い温度であっても、該熱処理温度を、助剤膜7に含まれている焼結助剤の融点よりも高い温度に設定することにより、熱処理時に成膜層6中に焼結助剤が拡散し、その結果、該焼結助剤の作用によって成膜層6の結晶化が進行することになる。ここで、本実施形態においては、焼結助剤が成膜層6の表面に略均一に付着している。このため、成膜層6において、誘電体材料が緻密に堆積している場合でも、成膜層6の内部まで焼結助剤が拡散し易い。従って、成膜層6の全体に亘って結晶化が進行することになる。又、成膜層6の結晶化の進行に伴って、成膜層6中に存在する気孔や空隙が除去される。よって、誘電体層2の全体に亘って高い結晶性が得られ、その結果、誘電体層2において高い誘電特性が得られることになる。
【0023】
電極層形成工程では、図1に示す様に、誘電体層2の表面上に電極層3を形成する。電極層3は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、スクリーン印刷法等の手法を用いて誘電体層2の表面上に形成された金属膜であってもよいし、誘電体層2の表面に貼着された金属箔であってもよい。電極層形成工程の実行により、図1に示す薄膜キャパシタが完成することになる。
【0024】
本願発明者は、本実施形態に係る製造方法により作製した薄膜キャパシタ(実施例)と、従来の製造方法により作製した薄膜キャパシタ(比較例)とについて、誘電体層2の誘電率を測定する実験を行った。ここで、本実施形態の製造方法では、成膜層6の表面上に助剤膜7が形成されるのに対し、従来の製造方法では、助剤膜7が形成されず、又、成膜層6中への焼結助剤の導入もない。
【0025】
そして、本実験では、チタン酸バリウム(BaTiO3)を用いて成膜層6を形成し、成膜層6の厚さ寸法を1μmとした。助剤膜7に含まれる焼結助剤として酸化ホウ素(B2O3)を用い、助剤膜7の厚さ寸法を20nmとした。熱処理条件として、熱処理温度を1000℃、処理時間を1時間、処理雰囲気を窒素雰囲気とした。尚、助剤膜7は、次の様に形成した。先ず、キシレンを溶媒とする酸化ホウ素(B2O3)の溶液(濃度=1.5wt%)を用意した。次に、スピンコート法を用いて、成膜層6の表面に溶液の塗布膜を形成した。その後、塗布膜を乾燥させた。
【0026】
実験の結果、比較例の薄膜キャパシタにおいて誘電率が529F/mであったのに対し、実施例の薄膜キャパシタにおいては誘電率が705F/mであった。この結果から、成膜層6上への助剤膜7の形成により、誘電体層2の誘電特性が向上することが確かめられた。これは、焼結助剤の作用によって成膜層6の結晶化が進行し、これにより誘電体層2の結晶性が向上したからである。
【0027】
本願発明者は、上記実験において、助剤膜7の厚さ寸法を20nmとした。尚、本願発明者によって次のことが確かめられている。助剤膜7の厚さ寸法を10nm以下とした場合、誘電体層2の結晶性が向上し難い。助剤膜7の厚さ寸法を50nm以上とした場合、誘電体層2に対する焼結助剤の割合が大きくなり、薄膜キャパシタの電気特性が低下する。
【0028】
尚、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記製造方法において、助剤膜形成工程での助剤膜7の形成に代えて、焼結助剤を、粉末の状態で成膜層6の表面に付着させてもよい。
【0029】
上記製造方法の各種態様は、薄膜キャパシタに限らず、コンデンサ回路を有した回路基板等、種々の積層構造体に適用することが出来る。又、上記製造方法の各種態様は、電極箔1に限定されない種々の金属製の基材の表面上に誘電体層2を形成する場合にも適用することが出来る。
【符号の説明】
【0030】
1 電極箔
2 誘電体層
3 電極層
6 成膜層
7 助剤膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材と、該基材の表面上に形成された誘電体層とを備えた積層構造体を製造する方法であって、
(a)粉末噴射コーティング法又は蒸着法を用いて、前記基材の表面上に、前記誘電体層となる成膜層を形成する工程と、
(b)前記成膜層の表面に焼結助剤を付着させる工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記成膜層に対して熱処理を施すことにより、前記誘電体層を形成する工程と
を有する、積層構造体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)では、前記成膜層の表面に、焼結助剤を主成分として含む助剤膜を形成する、請求項1に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(c)では、熱処理温度を、前記基材を構成している金属材料の融点及び前記成膜層を構成している誘電体材料の融点の何れの融点よりも低い温度であって、且つ前記焼結助剤の融点よりも高い温度に設定する、請求項1又は請求項2に記載の積層構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−204801(P2012−204801A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70868(P2011−70868)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】